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特許7605621フェノチアジン誘導体化合物およびその製造法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】フェノチアジン誘導体化合物およびその製造法
(51)【国際特許分類】
   C07D 279/34 20060101AFI20241217BHJP
   C08F 212/14 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
C07D279/34 CSP
C08F212/14
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020202630
(22)【出願日】2020-12-07
(65)【公開番号】P2022090304
(43)【公開日】2022-06-17
【審査請求日】2023-10-10
(73)【特許権者】
【識別番号】502145313
【氏名又は名称】ユニマテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114351
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 和子
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 智
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/159459(WO,A1)
【文献】特開2020-111552(JP,A)
【文献】国際公開第2011/093443(WO,A1)
【文献】特開2015-227402(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
C08F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式
(ここで、R1は炭素数1~20の一価の炭化水素基であり、R2およびR3はそれぞれ独立に炭素数1~5の二価の脂肪族炭化水素基である)で表されるフェノチアジン誘導体化合物。
【請求項2】
一般式
(ここで、R1は炭素数1~20の一価の炭化水素基であり、R2は炭素数1~5の二価の脂肪族炭化水素基である)で表される化合物を、下記一般式
(ここで、Xは塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子であり、R 3 は炭素数1~5の二価の脂肪族炭化水素基である)で表される化合物と反応させることを特徴とする請求項1記載のフェノチアジン誘導体化合物の製造法。
【請求項3】
エラストマー共重合体の重合性不飽和単量体として用いられる請求項1記載のフェノチアジン誘導体化合物。
【請求項4】
エラストマー共重合体がアクリルエラストマー共重合体である請求項3記載のフェノチアジン誘導体化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノチアジン誘導体化合物およびその製造法に関する。さらに詳しくは、重合性不飽和基を有するフェノチアジン誘導体化合物およびその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車エンジンに代表される内燃機関で排出される二酸化炭素およびNOxガスは、その排出量規制が一層厳しくなる傾向にある。その対応策として、自動車エンジンには高出力化、高熱効率化および排出ガスの低減および無害化が要求され、エンジンルーム内の温度は上昇する傾向にある。それに伴い、その周辺で使用されるゴム、プラスチック等の高分子材料には、さらなる耐熱性の向上が求められている。
【0003】
具体例として、エンジンの燃費改善を目的としたターボチャージャーシステムを搭載した車両の普及が進んでいる。このターボチャージャーからインタークーラーやエンジンに導かれる空気は高温高圧であることから、これを輸送するゴム製ホース材料には高い耐熱性が求められている。
【0004】
このように、自動車のエンジンに使用される高分子材料の使用環境の高温化や長寿命化の要求に伴い、適切な老化防止剤をゴム製品部材に添加して耐熱性を向上させることが一般的に行われている。
【0005】
老化防止剤としては、フェノール系老化防止剤やアミン系老化防止剤が用いられ、特により高温の使用環境下で用いられるゴム部材では、アミン系老化防止剤が用いられる。
【0006】
例えば、アクリルゴムの場合では、老化防止剤として、4,4′-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミンに代表されるアミン系老化防止剤が用いられている(特許文献1~6)。
【0007】
しかしながら、上記のアミン系老化防止剤をもってしても昨今の耐熱要求を十分に満足することはできない。
【0008】
近年ではゴム材料の老化防止剤としてフェノチアジン系老化防止剤が有効であるとされており、特許文献7には、加硫特性、機械的特性および熱老化特性にすぐれ、防振ゴム用途に特に好適なゴム材料として、(A)ジエン系ゴム、(B)ビスマレイミド化合物および(C)下記フェノチアジン化合物を含有するものが記載されている。
R1、R2:水素原子、芳香族環で置換されてもよい
C1~C8のアルキル基
アルコキシ基、ハロゲン原子、シアノ基
R3:水素原子、C1~C6の鎖状または環状のアルキル基
ビニル基、芳香族基
m、n:0~2
5位の硫黄原子が-SO2-のフェノチアジン化合物も知られており、例えば特許文献8に記載されている。
【0009】
かかる特許文献8には、下記一般式で示される縮合複素環化合物およびそれを含有する有機材料組成物が記載されており、酸化的、熱的あるいは光誘発性崩壊を受け易いポリマー等の有機材料に対し、高い加工安定性、耐熱性、長寿命を付与することが可能であると述べられている。
Y:化学的な単結合、-S(=O)-、-SO2-
Ra、Rb:置換基を有してもよいC1~C30有機基
Za、Zb:化学的な単結合、-SO2-
X1、X2:水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シアノ基、
ニトロ基、-OR1、-O-CO-R1、-CO-OR1、-O-CO-OR1、-NR2R3
-NR2-CO-R1、-CO-NR2R3、-O-CO-NR2R3
n、m:0~2、ただし、いずれか一方は0ではない
【0010】
その対応策として、アミン系老化防止剤の高分子量化および高融点化の検討がなされているが、そこではゴムに対する分散性およびゴム内部での移行性が低下するなどの問題がある。
【0011】
また、老化防止剤の揮散を防止し高温環境下におけるゴム部品の長寿命化を図る目的のために、重合性不飽和基を有する老化防止剤が上市されている。
【0012】
例えば、そのようなものとしてノクラックG-1(大内新興化学工業製品)やAPMA(精工化学製品)が例示される(非特許文献1~2)。
Nocrac G-1 APMA
【0013】
しかしながら、上記老化防止剤ではジフェニルアミノ基のラジカル重合禁止作用により、重合性不飽和単量体とのラジカル共重合は実用的に困難である(特許文献9)。
【0014】
また、エラストマー性重合体の変性反応によりジフェニルアミノ構造を重合体に導入する方法がいくつか開示されている。例えば、オレフィン系不飽和基を有するエラストマーの側鎖をヒドロホルミル化した後ジフェニルアミノ基を導入する方法(特許文献10)、ジエン系共重合体に遊離基発生剤の存在下で無水マレイン酸を付加させた後、ジフェニルアミノ基を導入する方法(特許文献11)などが知られている。しかしながらこれらの方法は、もととなる共重合体を製造した後にジフェニルアミノ基を導入する変性工程がさらに必要となり、製造コストの面から実用的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特開平11-21411号公報
【文献】WO 2007/005458 A1
【文献】特開2010-254579号公報
【文献】WO 2006/001299 A1
【文献】特開2011-032390号公報
【文献】WO 2011/58918 A1
【文献】特開2015-227402公報
【文献】WO 2011/093443 A1
【文献】特開2009-209268号公報
【文献】特開平4-264106号公報
【文献】特開平5-230132号公報
【非特許文献】
【0016】
【文献】Rubber Chem Technol., 46巻, 106頁(1973)
【文献】Rubber Chem Technol., 52巻, 883頁(1979)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、重合性不飽和単量体と容易に共重合可能な新規なフェノチアジン誘導体化合物およびその製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
かかる本発明の第1の目的は、一般式
(ここで、R1は炭素数1~20の一価の炭化水素基であり、R2およびR3はそれぞれ独立に炭素数1~5の二価の脂肪族炭化水素基である)で表されるフェノチアジン誘導体化合物によって達成される。
【0019】
また、本発明の第2の目的は、一般式
(ここで、R1は炭素数1~20の一価の炭化水素基であり、R2は炭素数1~5の二価の脂肪族炭化水素基である)で表される化合物を、一般式
(ここで、Xは塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子であり、R3は炭素数1~5の二価の脂肪族炭化水素基である)で表される化合物と反応させるフェノチアジン誘導体化合物の製造法によって達成される。
【発明の効果】
【0020】
従来の重合性アミン系老化防止剤と異なり、本発明に係るフェノチアジン誘導体化合物〔I〕では、10位のアミノ基(NHAr2)がアルキル化されているため、ラジカル重合禁止作用が抑制され、各種重合性不飽和単量体との共重合が容易となる。
【0021】
また、加工段階(一次架橋、二次架橋)または加工後の実使用段階で、10位のアルキル基が分解し、アミノ基(HNAr2)が遊離し、熱老化防止作用を発現すると推測される。
【0022】
本発明のフェノチアジン誘導体化合物が共重合されたエラストマー性高分子材料は、熱による老化防止成分の揮散、または油脂や有機溶剤等の液状媒質による老化防止成分の抽出を防止することができ、結果的に多様な劣化環境下おけるゴム部品の長寿命化を可能とする。
【0023】
また、従来のアミン系老化防止剤と比較して、高温環境下における各種エラストマー性高分子材料の架橋または分子構造の変化に伴う破断時伸びの低下(硬化劣化)を抑制することもできる。破断時伸びに代表されるゴム弾性が失われると、ゴム部品のシール性低下、破壊および表面亀裂などにつながるので、伸びの維持は重要である。
【0024】
このように本発明のフェノチアジン誘導体化合物が共重合されたアクリルゴム、特にエチルアクリレートを主成分とするアクリルゴムは、かかる点をも有効に解決せしめ、熱老化防止性が向上されている。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】アクリルゴム架橋物の100%モジュラス変化率を図式化(実線:実施例3、破線:比較例2、一点鎖線:比較例3)したものである。
図2】アクリルゴム架橋物の破断時強度変化率を図式化(実線:実施例3、破線:比較例2、一点鎖線:比較例3)したものである。
図3】アクリルゴム架橋物の破断時伸び変化率を図式化(実線:実施例3、破線:比較例2、一点鎖線:比較例3)したものである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
一般式〔I〕で表されるフェノチアジン誘導体化合物において、R1は炭素数1~20の一価の炭化水素基である。
【0027】
脂肪族炭化水素基の具体的としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、n-ノニル基、n-ウンデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘプタデシル基等の1級炭化水素基、
イソプロピル基、2-ブチル基、2-ペンチル基、3-ペンチル基、2-ヘキシル基、3-ヘキシル基、2-ヘプチル基、3-ヘプチル基、4-ヘプチル基、2-オクチル基、3-オクチル基、4-オクチル基等の2級炭化水素基、
第3ブチル基、1,1-ジメチル-1-プロピル基、1,1-ジメチル-1-ブチル基、1,1-ジメチル-1-ペンチル基、1,1-ジメチル-1-ヘキシル基、3-メチル-3-ペンチル基、3-エチル-3-ペンチル基、3-メチル-3-ヘキシル基等の3級炭化水素基、
シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、1-メチル-1-シクロペンチル基、1-メチル-1-シクロヘキシル基等の脂環状炭化水素基、
1-アダマンチル基等の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基が挙げられる。
【0028】
芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラニル基等の炭素数6~20の芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0029】
R2およびR3は、それぞれ独立に炭素数1~5の二価の脂肪族炭化水素基である。具体例として、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等が挙げられる。
【0030】
一般式〔I〕で表される化合物の製造方法に特に制限はないが、例えば下記のような方法により安価な原料から容易に製造することができる。
【0031】
〔第1工程〕フェノチアジンのNアルキル化反応:(A)→(B)
フェノチアジンのNアルキル化において、アルキル化剤としてはハロゲン化アルキルを用いることができ、例えば塩化アルキル、臭化アルキル、ヨウ化アルキル等が用いられる。
【0032】
ハロゲン化アルキルの使用量は、フェノチアジン 1モルに対して約1~2モルの範囲である。
【0033】
反応は、フェノチアジンにカリウム第3ブトキシドまたは水素化ナトリウム等の塩基を作用させた後、アルキル化剤を作用させることにより行われる。カリウム第3ブトキシドまたは水素化ナトリウムは、フェノチアジン1モルに対して約1~2モルの範囲で用いられる。
【0034】
反応溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド等を用いることができる。
【0035】
フェノチアジンと塩基の反応は約0~10℃で、Nアルキル化は約0~60℃でそれぞれ行われる。
【0036】
〔第2工程〕 ヒドロキシアルキル基の導入:(B)→(C)
フェノチアジンへのヒドロキシアルキル基の導入方法として特に制限はないが、例えばホルミル化した後還元することにより行われる。
【0037】
ホルミル化剤としては、N-モノアルキルホルムアミド/ホスホリルクロリド、N,N-ジアルキルホルムアミド/ホスホリルクロリド、N-メチルホルムアニリド/ホスホリルクロリド等を用いることができ、N,N-ジメチルホルムアミド/ホスホリルクロリド〔POCl3〕が一般的に用いられる。
【0038】
溶媒としては、メタジクロロベンゼン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン等の含塩素炭化水素溶媒またはN,N-ジメチルホルムアミドが用いられる。反応は約0~100℃で行われる。
【0039】
アルデヒド基の還元反応は、水素化ホウ素ナトリウムを用いて行われる。水素化ホウ素ナトリウムはアルデヒド基含有化合物 1モルに対して約1~10モル、好ましくは約1~5モルの割合で用いられる。
【0040】
溶媒としては、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン等を用いることができる。
【0041】
反応温度は、約0~50℃、好ましくは約0~30℃である。
【0042】
〔第3工程〕 硫黄原子の酸化:(C)→(II)
酸化反応に用いられる酸化剤としては、メタクロロ過安息香酸、過酢酸、酢酸/過酸化水素が用いられる。酸化剤の使用量は、化合物(C) 1モルに対して約2~10モルの割合で用いられる。
【0043】
反応溶媒としては、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素系溶媒、ジクロロメタン、クロロベンゼン等の含塩素系溶媒、酢酸等が用いられる。これらの溶媒は、単独であるいは2種以上組合せて用いることができる。
【0044】
反応は、約0~150℃、好ましくは約20~100℃の範囲で行われる。
【0045】
〔第4工程〕重合性不飽和基の導入:(II)→(I)
化合物(II)に化合物(III)を反応させることにより、目的とするフェノチアジン誘導体化合物(I)を製造することができる。
【0046】
化合物(III)の使用量は、化合物(II)1モルに対して約1~3モル、好ましくは約1~2モルの範囲である。
【0047】
化合物(II)1モルに対して1~2モルの水素化ナトリウムまたはカリウム第3ブトキシド等の塩基性化合物を作用させた後、化合物(II)1モルに対して1~2モルの化合物(III)を反応させる。
【0048】
反応溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド等を用いることができる。
【0049】
第1段階の反応は、約0~20℃、好ましくは0~10℃である。第2段階の反応は約0~100℃好ましくは約20~80℃である。
【0050】
他の重合性不飽和単量体と本発明のフェノチアジン誘導体化合物〔I〕との共重合に際し、上記化合物〔I〕は、重合性不飽和単量体100重量部に対して約0.1~5重量部、好ましくは約0.3~3重量部用いられる。これより少ないと、十分な老化防止効果が見込まれない。一方、これより多く用いても、老化防止効果の向上は見込まれず不経済である。
【0051】
上記フェノチアジン誘導体化合物〔I〕の適用範囲は、ラジカル重合によって製造されるエラストマー性高分子材料であれば特に制限はない。
【0052】
アクリル共重合体の場合、一般的なアクリルゴムの共重合方法によって製造される。共重合反応は、乳化重合法、けん濁重合法、溶液重合法、塊状重合法など任意の方法で行ない得るが、好ましくは乳化重合法またはけん濁重合法が用いられ、約-10~100℃、好ましくは約5~80℃の温度で反応が行われる。
【0053】
反応の重合開始剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、第3ブチルヒドロパーオキサイド、クミルヒドロパーオキサイド、p-メチレンヒドロパーオキサイド等の有機パーオキサイドまたはヒドロパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソブチルアミジン等のジアゾ化合物、過硫酸アンモニウムによって代表されるアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等の過酸化物塩などが単独であるいはレドックス系として用いられる。
【0054】
特に好ましい乳化重合法に用いられる乳化剤としては、アニオン系またはノニオン系の界面活性剤が、必要に応じて酸または塩基によりpH調整され、無機塩で緩衝溶液とした水溶液などとして用いられる。
【0055】
重合反応は、単量体混合物の転化率が90%以上に達する迄継続される。得られた水性ラテックスは、塩-酸凝固法、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム等の塩を用いる方法、ホウ酸、ホウ砂等のホウ素化合物を用いる方法、熱による凝固法、凍結凝固法などによって凝固させ、得られた共重合体は十分に水洗、乾燥される。このアクリルゴムは、約5~100、好ましくは約20~80のムーニー粘度ML1+4(100℃)を有する。
【0056】
その他のエラストマー性共重合体の具体例としては、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリルゴム(ACM)、エチレン-酢酸ビニルゴム(EVA)、ニトリルゴム(NBR)、水添ニトリルゴム(H-NBR)、エチレン-アクリル酸メチルゴム(AEM)、等が挙げられる。
【実施例
【0057】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0058】
実施例1
化合物(f)の製造
化合物(f)は下記の方法により製造した。
〔第1工程〕(a)→(b):
マグネット攪拌子、温度計、滴下ロート、窒素ガス導入管および排出管を備えた容量500mlの四口フラスコに、フェノチアジン40.0g(201ミリモル)、N,N-ジメチルホルムアミド200mlを投入し、窒素雰囲気下の系内の温度を5℃以下に冷却した。系内温度を10℃以下に保ちながら、水素化ナトリウム7.2g(300ミリモル)を加えて1時間反応させた。系内温度を20℃以下に保ちながら、ヨードメタン34.2g(241ミリモル)を滴下し、さらに1時間反応を行った。反応終了後、反応混合物を飽和塩化ナトリウム水溶液に加えた。析出した無色の固体をロ別し、酢酸エチルに溶解させた。これを飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄した後、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、次いで不溶物をロ別した。ロ液から揮発性成分を減圧下で留去し、粗生成物を45.9g(粗収率107%)得た。エタノールを用いて再結晶することにより、10-メチル-10H-フェノチアジン(b)を、無色の針状結晶として40.5g(収率94%)を得た。
1H NMR(400MHz、Acetone-d6、δ ppm):
3.39 (s、3H、N-CH 3)
6.91-6.98 (m、4H、Ar)
7.14 (dd、J=7.6Hz、J=1.6Hz、2H、Ar)
7.21 (td、J=7.6Hz、J=1.6Hz、2H、Ar)
【0059】
〔第2工程〕(b)→(c):
マグネット攪拌子、滴下ロート、温度計、ガス導入口、ガス排出口および還流冷却管を備えた容量500mlの四口フラスコに、N,N-ジメチルホルムアミド210mlを投入した。窒素雰囲気下の系内の内温を10℃以下に保ちながら、ホスホリルクロリド129.4g(844ミリモル)を滴下して加え、さらに30分間反応を行った。次に、上記第1工程で得られたN-メチル-10H-フェノチアジン 30g(141ミリモル)を加え、60℃で24時間反応を行った。反応終了後、内容物を酢酸ナトリウム水溶液中に注ぎ、さらに炭酸水素ナトリウムを加えて中和した。得られた水溶液から酢酸エチルを用いて生成物を抽出し、有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液で1回洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、不溶物をロ別した後、ロ液から揮発性成分を減圧下留去し、赤色の油状物質として粗生成物33.5g(粗収率98%)を得た。酢酸エチルを溶出液とするカラムクロマトグラフィー(担体:ワコーゲルC300)により低Rf成分を除去することで、黄色の固体として粗生成物を33.2g(収率98%)得た。さらに酢酸エチルを用いて再結晶することにより黄色結晶として10-メチル-10H-フェノチアジン-3-カルボアルデヒドを30.1g(収率88%)得た。
1H NMR(400MHz、Acetone d6、δ ppm):
3.49 (s、3H、N-CH 3)
7.00-7.06 (m、2H、Ar)
7.10 (d、J=8.4Hz、1H 、Ar)
7.15-7.19(m、1H、Ar)
7.22-7.28(m、1H、Ar)
7.61(d、J=1.6Hz、1H、Ar)
7.75(dd、J=8.4Hz、J=1.6Hz、1H、Ar)
9.85(s、1H、-CHO)
【0060】
〔第3工程〕(c)→(d):
マグネット攪拌子、温度計、ガス排出口および還流冷却管を備えた容量2000mlの四口フラスコに、上記第2工程で得られた化合物(c)20g(83ミリモル)およびメタノール800mlを投入した。内温を30℃以下に保ちながら、水素化ホウ素ナトリウム3.1g(83ミリモル)をゆっくり加え、さらに1時間反応させた。減圧下でメタノールを留去し、残渣をメチルイソブチルケトンに溶解させた。有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液で1回洗浄し、次いで有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、不溶物をロ別した。ロ液から揮発性成分を減圧下で留去し、淡黄色固体として粗生成物を19.9g(粗収率99%)得た。メタノールを用いて再結晶を行い、淡黄色の固体として3-ヒドロキシメチル-10-メチル-10H-フェノチアジン(d)を18.3g(収率91%)得た。
1H NMR(400MHz、Acetone d6、δ ppm):
3.38 (s、3H、N-CH 3)
4.08 (t、J=6.0Hz、1H、-CH2OH)
4.53 (d、J=6.0Hz、2H、-CH 2OH)
6.87-6.98 (m、3H、Ar)
7.10-7.23 (m、4H、Ar)
【0061】
〔第4工程〕(d)→(e):
マグネット攪拌子、温度計および還流冷却管を備えた容量500mlの四口フラスコに、上記第3工程で得られた化合物(d)17.0g(70ミリモル)、酢酸150mlおよび30%過酸化水素水19.0g(168ミリモル)を投入し、60℃で1時間、80℃で1時間反応させた。反応混合物から減圧下で酢酸を留去し、残留物をメタノールを用いて再結晶を行い、淡黄色の固体として3-ヒドロキシメチル-10-メチル-10H-フェノチアジン-5,5-ジオキシド(e)17.8g(収率92%)得た。
1H NMR(400MHz、Acetone d6、δ ppm):
3.80 (s、3H、-N-CH 3)
4.43 (t、J=6.0Hz、1H、-CH2OH)
4.75 (d、J=6.0Hz、2H、-CH 2OH)
7.35 (t、J=7.6Hz、1H、Ar)
7.56 (t、J=8.4Hz、2H、Ar)
7.68-7.76 (m、2H、Ar)
8.00-8.05 (m、2H、Ar)
【0062】
〔第5工程〕(e)→(f):
マグネット攪拌子、温度計、還流冷却管、ガス導入管、ガス排出管を備えた容量300mlの四口フラスコに、化合物(e)12.0g(52ミリモル)およびN,N-ジメチルホルムアミド120mlを投入し、窒素雰囲気下で内温を10℃以下に冷却した。水素化ナトリウム1.9g(79ミリモル)を加えた後1時間反応させ、次いで4-クロロメチルスチレン9.5g(62ミリモル)を加えた後、60℃で1時間反応させた。得られた反応混合物を飽和塩化ナトリウム水溶液に加え、生成物を酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液で1回洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。不溶物をロ別後、ロ液から減圧下で揮発性成分を留去し、粗生成物を22.1g得た。第1溶出液(n-ヘキサン酢酸)、第2溶出液(酢酸エチル)とするカラムクロマトグラフィー(担体:ワコーゲルC300)を行い、淡黄色の粘稠な液体として化合物(f)を15.6g(収率86%)得た。
1H NMR(400MHz、Acetone d6、δ ppm):
3.59 (s、3H、N-CH 3)
4.54 (d、2H、J=7.6Hz, PTZ-CH2O-CH 2-Ph)
4.60 (d、2H,J=6.0Hz, PTZ-CH 2O-CH2-Ph)
5.16-5.23 (m、1H、CH 2=CH-Ph(フェニル基に対し
てトランス))
5.73-5.82 (m、1H、CH 2=CH-Ph(フェニル基に対し
てシス))
6.66-6.76 (m、1H、CH2=CH-Ph)
7.22-7.46 (m、7H、Ar)
7.55-7.62 (m、2H、Ar)
7.97-8.06 (m、2H、Ar)
【0063】
実施例2
温度計、撹拌機、窒素ガス導入管およびジムロート冷却管を備えたセパラブルフラスコ
内に、
水 187重量部
ラウリル硫酸ナトリウム 2 〃
ポリオキシエチレンラウリルエーテル 2 〃
仕込み単量体混合物
アクリル酸エチル〔EA〕 97.4 〃
フマル酸モノn-ブチル〔MBF〕 1.6 〃
実施例1の化合物(f) l.0 〃
を仕込み、室素ガス置換を行って系内の酸素を十分に除去した後、
ナトリウムホルムアリンデヒドスルホキシレート 0.008重量部
(富士フィルム和光純薬製品ロンガリット)
第3ブチルハイドロパーオキサイド 0.0047 〃
(日油製品パーブチルH-69)
を加えて室温条件下で重合反応を開始させ、重合転化率が90%以上になる迄反応を継続した。得られた水性ラテックスを10重量%硫酸ナトリウム水溶液で凝析させた後、水洗、乾燥してアクリルゴムAを得た。得られたアクリルゴムAのムーニー粘度 PMLl+4(100℃)は、34であった。
【0064】
そのモル分率組成は、lH-NMR(400MHz、Acetone d6、δ ppm)より下式より求め、
化合物(f):0.23モル%、
EA+MBF :99.77モル%
であった。
A:6.7-8.3ppmのシグナルの積分値
B:3.2-5.0ppmのシグナルの積分値
化合物(f)(モル%)=200×A/ (11B-5A)
EA+MBF(モル%)=100-化合物(f)(モル%)
また、近似的な重量分率組成は下式より求め、
化合物(h):0.9重量%、EA+MBF:99.1重量%であった。
化合物(f)(重量%)=(化合物(f)(モル%)×391.5×100)
/〔化合物(f)(モルmol%)×391.5+(EA+MBF(モル%))×100.8)〕
EA+MBF(重量%)=100-化合物(f)(重量%)
【0065】
比較例1
下記仕込み単量体混合物を用いた以外は、実施例2と同様に共重合反応を行い、アクリルゴムBを得た。得られたアクリルゴムBのムーニー粘度 PMLl+4(100℃)は、33であった。
仕込み単量体混合物
アクリル酸エチル〔EA〕 98.4重量部
フマル酸モノn-ブチル〔MBF〕 1.6 〃
【0066】
実施例3
アクリルゴムA 100重量部
FEFカーボンプラック(東海カーボン製品シーストGS0) 60 〃
ステアリン酸(ミヨシ油脂製品TST) l 〃
ポリオキシエチレンステアリルエーテルリン酸 0.5 〃
(東邦化学工業製品フォスファノールRL-210)
架橋促進剤(Safic-Alcan社製品Vulcofac ACT55) 1 〃
ヘキサメチレンジアミンカーバメート 0.6 〃
(ユニマテック製品ケミノックスAC6F)
以上の各成分の内、アクリルゴムA、FEFカーボンブラック、ステアリン酸およびポリオキシエチレンステアリルエーテルリン酸を、バンパリーミキサで混和した。得られた混
和物に、残りの各成分をオープンロールで混和し、アクリルゴム組成物を得た。
【0067】
これを、100トンプレス成形機により、180℃で8分間の一次架橋および175℃で4時間のオーブン架橋(二次架橋)を行い、厚さ約2mmのシート状架橋物および直径約29mm、高さ約12.5mmの円柱状架橋物を得た。
アクリルゴム組成物の架橋特性およびその架橋物の物性を、次のようにして測定した。
ムーニースコーチ試験:JIS K6300準拠(125℃)
東洋精機製作所製ムーニービスコメーターAM-3を用い、最小
ムーニー粘度(ML、min)とスコーチ時間(t5)の値を測定
架橋試験:JIS K6300-2準拠(180℃、12分間)
東洋精機製作所製ロータレス・レオメータRLR-3使を用い、ML、MH、
tc(10)およびtc(90)の値を測定
ML:最小トルク
MH:最大トルク
tc(10):架橋トルクがML+(MH-ML)×0.1に達するまでに要する時間
tc(90):架橋トルクがML+(MH-ML)×0.9に達するまでに要する時間
常態物性:JIS K6251、JIS K6253準拠
空気加熱老化試験:JIS K6257準拠
(175℃:70時間、250時間、500時間、750時間、1000時間)
圧縮永久歪:JIS K6262準拠(175℃:70時間)
【0068】
比較例2
実施例3において、アクリルゴムAの代りにアクリルゴムBが用いられた。
【0069】
比較例3
比較例2において、さらに4,4′-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(大
内新興化学工業製品ノクラックCD)が1重量部添加された。
【0070】
以上の実施例3および比較例2~3で得られた結果は、次の表に示される。


測定結果 実-3 比-2 比-3
ムーニー・スコーチ試験(125℃)
ML min (pts) 71 72 70
t5 (分) 3.2 3.0 3.5
架橋試験(180℃)
tc(10) (分) 0.55 0.51 0.51
tc(90) (分) 5.65 5.31 5.30
ML (N・m) 0.28 0.27 0.27
MH (N・m) 0.96 1.04 1.02
常態物性
硬度 (Duro A) 66 67 66
100%モジュラス (MPa) 5.6 5.6 5.1
破断強度 (MPa) 17.7 16.8 16.0
破断時伸び (%) 240 230 240
熱老化試験(175℃、70時間)
硬度変化 (Duro A) +7 +8 +6
100%モジュラス変化率 (%) +7 -13 -17
破断強度変化率 (%) -10 -13 -14
破断時伸び変化率 (%) -1 +10 +15
熱老化試験(175℃、250時間)
硬度変化 (Duro A) +7 +8 +6
100%モジュラス変化率 (%) -20 -39 -37
破断強度変化率 (%) -38 -43 -37
破断時伸び変化率 (%) +6 +29 +36
熱老化試験(175℃、500時間)
硬度変化 (Duro A) +16 +11 +13
100%モジュラス変化率 (%) -21 -39 -43
破断強度変化率 (%) -60 -67 -61
破断時伸び変化率 (%) +3 +12 +46
熱老化試験(175℃、750時間)
硬度変化 (Duro A) +22 +25 +19
100%モジュラス変化率 (%) +11 +2 -29
破断強度変化率 (%) -62 -64 -70
破断時伸び変化率 (%) -35 -37 +17
熱老化試験(175℃、1000時間)
硬度変化 (Duro A) +31 +29 +24
100%モジュラス変化率 (%) +18
破断強度変化率 (%) -44 -40 -62
破断時伸び変化率 (%) -76 -79 -42
圧縮永久歪
175℃、70時間 (%) 17 16 20
図1
図2
図3