(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】皮膚外用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/34 20060101AFI20241217BHJP
A61K 8/49 20060101ALI20241217BHJP
A61K 8/37 20060101ALI20241217BHJP
A61K 8/67 20060101ALI20241217BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20241217BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20241217BHJP
A61K 31/07 20060101ALI20241217BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20241217BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20241217BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
A61K8/34
A61K8/49
A61K8/37
A61K8/67
A61Q19/00
A61Q19/08
A61K31/07
A61P17/00
A61K9/06
A61K9/08
(21)【出願番号】P 2020216253
(22)【出願日】2020-12-25
【審査請求日】2023-07-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000106324
【氏名又は名称】サンスター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】森 奈津子
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-039997(JP,A)
【文献】特開2003-073249(JP,A)
【文献】特開2005-139070(JP,A)
【文献】特開2003-226637(JP,A)
【文献】特開2005-298487(JP,A)
【文献】特開昭58-041813(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K 31/07
A61P 17/00
A61K 9/06
A61K 9/08
A61K 8/67
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)
レチノール、
(B)
d-δ-トコフェロールまたはジブチルヒドロキシトルエンの少なくとも一方、
(C1)1,4-ジオキサシクロヘプタデカン-5,17-ジオン、
(C2)サリチル酸ベンジル、および
(C3)16-ヒドロキシ-7-ヘキサデセン酸ラクトン、または(C4)3a,6,6,9a-テトラメチル-ドデカヒドロナフト[2,1-b]フランの少なくとも一方を含有
し、
前記(C1)を0.001~0.09質量%、
前記(C2)を0.0005~0.05質量%、および
前記(C3)、または前記(C4)の少なくとも一方を0.0002~0.002質量%含有する皮膚外用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レチノイドを含有する皮膚外用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
レチノイドの一種であるレチノイン酸やレチノールには、皮膚のシワを改善する効果があり、皮膚外用組成物への配合されてきた。これらの化合物は表皮の角化細胞(ケラチノサイト)に作用してヒアルロン酸合成を促進し角質層水分を増加させることにより、皮膚の弾力性を維持し、シワ改善効果を発揮することが知られている。特にレチノールは、レチノイン酸に比べて効果が穏やであり、レチノイド反応のような強い副作用を示さないため、化粧量への配合に適している。しかし、レチノイドは不安定な化合物であり、熱、光、酸素等の影響により容易に酸化されてしまう。
【0003】
この酸化による劣化を防ぐために、レチノイドを配合した組成物には酸化防止剤が配合される。特に、高い酸化防止効果を奏することから、トコフェロールやジブチルヒドロキシトルエン(BHT)等のフェノール系酸化防止剤が用いられる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらフェノール系酸化防止剤は経時により甘い異臭を発生し、組成物の使用感を低下させるという課題があり、フェノール系酸化防止剤に起因する異臭発生を抑制することができる、保存安定性に優れた皮膚外用組成物が依然として所望されている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題に鑑みて鋭意研究を進めた結果、驚くべきことに、(A)レチノイド、および(B)フェノール系酸化防止剤を含有する皮膚外用組成物に対して、(C1)1,4-ジオキサシクロヘプタデカン-5,17-ジオン、(C2)サリチル酸ベンジル、および(C3)16-ヒドロキシ-7-ヘキサデセン酸ラクトンまたは(C4)3a,6,6,9a-テトラメチル-ドデカヒドロナフト[2,1-b]フランの少なくとも一方を配合することで上記課題が解決されることを見出した。
【0007】
本発明は、例えば以下に記載の発明を包含する。
項1.
(A)レチノイド、
(B)フェノール系酸化防止剤、
(C1)1,4-ジオキサシクロヘプタデカン-5,17-ジオン、
(C2)サリチル酸ベンジル、および
(C3)16-ヒドロキシ-7-ヘキサデセン酸ラクトン、または(C4)3a,6,6,9a-テトラメチル-ドデカヒドロナフト[2,1-b]フランの少なくとも一方を含有する皮膚外用組成物。
項2.
前記(A)が、レチノールである請求項1に記載の皮膚外用組成物。
項3.
前記(B)が、d-δ-トコフェロールまたはジブチルヒドロキシトルエンの少なくとも一方を含む、請求項2に記載の皮膚外用組成物。
項4.
前記(C1)を0.001~0.1質量%、
前記(C2)を0.0005~0.05質量%、および
前記(C3)、または前記(C4)の少なくとも一方を0.0002~0.002質量%含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の皮膚外用組成物。
【発明の効果】
【0008】
フェノール系酸化防止剤に起因する異臭発生が抑制された、保存安定性に優れた皮膚外用組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に包含される各実施形態について、さらに詳細に説明する。なお、本発明は皮膚外用組成物、特に、(C1)1,4-ジオキサシクロヘプタデカン-5,17-ジオン、(C2)サリチル酸ベンジル、および(C3)16-ヒドロキシ-7-ヘキサデセン酸ラクトンまたは(C4)3a,6,6,9a-テトラメチル-ドデカヒドロナフト[2,1-b]フランの少なくとも一方を含む皮膚外用組成物等を好ましく包含するが、これらに限定されるわけではなく、本発明は本明細書に開示され当業者が認識できる全てを包含する。
【0010】
本発明で用いられる(A)レチノイドは、皮膚外用組成物に使用できるものであれば特に限定されないが、例えば、レチノール;酢酸レチノール、プロピオン酸レチノール、酪酸レチノール、オクチル酸レチノール、ラウリル酸レチノール、パルミチン酸レチノール、ステアリン酸レチノール、ミリスチン酸レチノール、オレイン酸レチノール、リノレン酸レチノール、及びリノール酸レチノール等のレチノール脂肪酸エステル;レチナールやレチノイン酸などのレチノール酸化物;レチノイン酸メチル、レチノイン酸エチル、レチノイン酸レチノール、レチノイン酸トコフェロール(ここでトコフェロールは、α、β、γ、δのいずれであってもよい)等のレチノイン酸エステル;並びにこれらの塩等を挙げることができ、特にレチノールが好ましい。また、これらレチノイドは、単独で配合する、又は2種以上を適宜組み合わせて配合することができる。
【0011】
本発明で用いられる(A)レチノイドは、組成物全量に対して0.01~1質量%程度含有させることができる。当該含有量の範囲の上限または下限は、例えば0.02、0.03、0.04、0.05、0.08、0.1、0.15、0.2、0.25、0.3、0.35、0.4、0.45、0.5、0.6、0,7、0,8、又は0.9質量%であってもよい。例えば、当該範囲は、0.02~0.5質量%、0.025~0.25質量%、又は0.03~0.1質量%であることがより好ましい。
【0012】
本発明で用いられる(B)フェノール系酸化防止剤としては、皮膚外用組成物に使用できるものであれば特に限定されないが、例えば、モノフェノール系酸化防止剤、ビスフェノール系酸化防止剤、及び高分子型フェノール系酸化防止剤が挙げられる。具体的には、例えばジブチルヒドロキシトルエン等のモノフェノール系酸化防止剤、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)等のビスフェノール系酸化防止剤、テトラキス-[メチレン-3-(3’-,5’-ジ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、及びトコフェロール等の高分子型フェノール系酸化防止剤が挙げられ、特にd-δ-トコフェロール、およびジブチルヒドロキシトルエンが好ましい。また、これら酸化防止剤は、単独で配合する、又は2種以上を適宜組み合わせて配合することができる。
【0013】
本発明で用いられる(B)フェノール系酸化防止剤は、組成物全量に対して0.01~1質量%程度含有させることができる。当該含有量の範囲の上限または下限は、例えば0.02、0.03、0.04、0.05、0.08、0.1、0.15、0.2、0.25、0.3、0.35、0.4、0.45、0.5、0.6、0,7、0,8、又は0.9質量%であってもよい。例えば、当該範囲は、0.02~0.5質量%、0.025~0.25質量%、又は0.03~0.1質量%であることがより好ましい。
【0014】
本発明で用いられる(C1)は、組成物全量に対して0.001~0.1質量%程度含有させることができる。当該含有量の範囲の上限または下限は、例えば0.002、0.003、0.004、0.005、0.01、0.02、0,03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、又は0.09質量%であってもよい。例えば、当該範囲は、0.005~0.075質量%、又は0.01~0.05質量%であることがより好ましい。
【0015】
本発明で用いられる(C2)は、組成物全量に対して0.0005~0.05質量%程度含有させることができる。当該含有量の範囲の上限または下限は、例えば0.0008、0.001、0.002、0.003、0.004、0.005、0.01、0.02、0.03、又は0.04質量%であってもよい。例えば、当該範囲は、0.0075~0.025質量%、又は0.001~0.01質量%であることがより好ましい。
【0016】
本発明の組成物は(C3)または(C4)の少なくとも一方を含むことが好ましい。(C3)または(C4)は2種合計で組成物全量に対して0.0002~0.002質量%程度含有させることができる。当該含有量の範囲の上限または下限は、例えば0.0004、0.0005、0.0006、0.0008、0.001、0.001、0.0014、0.0016、又は0.0018質量%であってもよい。例えば、当該範囲は、0.0004~0.0016質量%、又は0.0006~0.0012質量%であることがより好ましい。
【0017】
本発明で用いられる(C3)は、組成物全量に対して0.0001~0.001質量%程度含有させることができる。当該含有量の範囲の上限または下限は、例えば0.0002、0.0003、0.0004、0.0005、0.0006、0.0007、0.0008又は0.0009質量%であってもよい。例えば、当該範囲は、0.0002~0.0008質量%、又は0.0003~0.0006質量%であることがより好ましい。
【0018】
本発明で用いられる(C4)は、組成物全量に対して0.0001~0.001質量%程度含有させることができる。当該含有量の範囲の上限または下限は、例えば0.0002、0.0003、0.0004、0.0005、0.0006、0.0007、0.0008又は0.0009質量%であってもよい。例えば、当該範囲は、0.0002~0.0008質量%、又は0.0003~0.0006質量%であることがより好ましい。
【0019】
特に制限されるわけではないが、本発明の皮膚外用組成物の形態としては、軟膏、クリーム、ジェル、ローション、乳液、美容液、化粧水、フェイスパック等が挙げられ、化粧品、医薬部外品、又は医薬品として用いることができる。
【0020】
本発明の皮膚外用組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、一般に皮膚外用組成物に配合し得る公知の任意成分を、単独で又は2種以上組み合わせて、さらに配合してもよい。
【0021】
また、本発明の皮膚外用組成物には、皮膚外用組成物に使用される公知の成分をさらに配合してもよい。このような成分としては、例えば、水、油剤、界面活性剤、保湿剤、高級アルコール、金属イオン封鎖剤、天然及び合成高分子、水溶性及び油溶性高分子、紫外線遮蔽剤、各種抽出液、有機染料等の色剤、防腐剤、色素、増粘剤、pH調整剤、香料、冷感剤、制汗剤、殺菌剤、皮膚賦活剤、各種粉体等の成分が挙げられる。これらの成分の配合量も、公知の皮膚外用組成物への配合量の情報に基づき、適宜設定することができる。特に制限されないが、例えば、1~99.9質量%程度、又は50~99.9質量%程度であり得る。
【0022】
本発明の皮膚外用組成物は、公知の方法又は公知の方法から容易に想到される方法により製造することができる。例えば、(A)レチノイド、および(B)フェノール系酸化防止剤、(C1)1,4-ジオキサシクロヘプタデカン-5,17-ジオン、(C2)サリチル酸ベンジル、および(C3)16-ヒドロキシ-7-ヘキサデセン酸ラクトンまたは(C4)3a,6,6,9a-テトラメチル-ドデカヒドロナフト[2,1-b]フランの少なくとも一方、並びにその他の皮膚外用組成物に使用される公知の成分を適宜混合することにより製造することができる。
【0023】
また、本発明は、(A)レチノイド、および(B)フェノール系酸化防止剤を含有する皮膚外用組成物に対して、(C1)1,4-ジオキサシクロヘプタデカン-5,17-ジオン、(C2)サリチル酸ベンジル、および(C3)16-ヒドロキシ-7-ヘキサデセン酸ラクトンまたは(C4)3a,6,6,9a-テトラメチル-ドデカヒドロナフト[2,1-b]フランの少なくとも一方を配合することにより、40℃の恒温槽にて当該組成物を1週間静置した際の、フェノール系酸化防止剤による異臭発生を抑制する方法をも好ましく包含する。
【0024】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term “comprising” includes “consisting essentially of” and “consisting of.”)。
【実施例】
【0025】
以下に実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。特に記載のない限り、表中の数値は質量%を表す。
【0026】
[皮膚外用組成物の評価]
表1、表2、および表3に示す配合量にて、実施例1~7および比較例1~4の被検体を常法にて調製し、これらを-5℃、および40℃の恒温槽中で1週間静置した。1週間後、4人のモニターが、前記被検体について甘い異臭の抑制、および嗜好性について評価した。
【0027】
[甘い異臭の抑制の評価基準]
この評価項目では、-40℃に静置した被検体における酸化防止剤由来の甘い異臭が、-5℃に静置した被検体(標準品)と比較してどの程度抑制されているかを判定し、下記の通り点数化した。
4:標準品と全く差異が感じられない
3:標準品とほとんど差異が感じられない
2:標準品よりもやや異臭が感じられる
1:標準品よりもはっきりと異臭が感じられる
【0028】
[嗜好性の評価基準]
この評価項目では、被検体を塗布した際に生じる香りが皮膚外用組成物として好ましい嗜好性を備えているかを判定し、下記の通り点数化した。
4:非常に良い、3:良い、2:悪い、1:非常に悪い
【0029】
甘い異臭の抑制および嗜好性について、各被験者の点数の平均値により下記の通り評価した。
1:4点、1:3点以上4点未満、1:2点以上3点未満、×:1点以上2点未満
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
表2の実施例1~6は、甘い異臭の発生が抑制されつつ、嗜好性においても良好な結果を示した。また、実施例1および実施例3について、-5℃および40℃に静置した被検体のレチノール量を測定し、-5℃に静置した被検体に対する40℃に静置した被検体のレチノールの残存率を算出したところ、残存率はそれぞれ100%、99.8%と良好であった。
【0034】
以下に、本発明の皮膚外用組成物の処方例を示す。なお各処方の配合量(%)は特に記載のない限り質量%を示す。
【0035】
【0036】
【0037】