(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】インクジェット記録用水系インク
(51)【国際特許分類】
C09D 11/322 20140101AFI20241217BHJP
【FI】
C09D11/322
(21)【出願番号】P 2020216730
(22)【出願日】2020-12-25
【審査請求日】2023-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 薫志
(72)【発明者】
【氏名】江口 哲也
(72)【発明者】
【氏名】水井 佑太郎
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-056022(JP,A)
【文献】特開2017-088846(JP,A)
【文献】特開2018-031022(JP,A)
【文献】特開2016-145313(JP,A)
【文献】特開2017-008294(JP,A)
【文献】特開2020-152783(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0121543(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/322
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機顔料、融点110℃以上のポリエチレンワックス、有機溶剤、及び水を含有するインクジェット記録用水系インクであって、
該有機溶剤が、1,2-プロパンジオール(a)と、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、及びジプロピレングリコールモノメチルエーテルから選ばれる1種以上の溶剤(b)とを含み、
該溶剤(b)の加重平均沸点が160℃以上で、該溶剤(b)のインク中の合計含有量が7質量%以上であり、
該有機溶剤の加重平均沸点が190℃以下で、該有機溶剤のインク中の含有量が30質量%以下であ
り、
インク中の融点110℃以上のポリエチレンワックスの含有量が0.6質量%以上1.5質量%以下である、インクジェット記録用水系インク。
【請求項2】
有機溶剤のインク中の含有量が25質量%以下である、請求項1に記載のインクジェット記録用水系インク。
【請求項3】
ポリエチレンワックスの平均粒径が10nm以上300nm以下である、請求項1又は2に記載のインクジェット記録用水系インク。
【請求項4】
インク中の融点110℃以上のポリエチレンワックスの含有量が
0.6質量%以上1.3質量%以下である、請求項1~3のいずれかに記載のインクジェット記録用水系インク。
【請求項5】
有機顔料が、有機顔料を含有するポリマー粒子の形態である、請求項1~4のいずれかに記載インクジェット記録用水系インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用水系インクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、微細なノズルからインク液滴を直接吐出し、記録媒体に付着させて、文字や画像が記録された記録物を得る記録方式である。この方式は、フルカラー化が容易でかつ安価であり、記録媒体として普通紙が使用可能、記録媒体に対して非接触、という数多くの利点があるため普及が著しい。近年は記録物の耐候性や耐水性の観点から、着色剤として顔料を用いるインクが汎用されている。
しかし顔料は染料と異なり、顔料分子をインクビヒクル中に均一に溶解できないため、顔料の分散状態を維持し、インクジェット記録時の吐出安定性等を改善する必要がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、保存安定性に優れ、インクジェット印刷における間欠吐出安定性を確保しながら、低吸液性の記録媒体を用いても、顔料のローラー写りを抑制できる水性インクとして、顔料、ポリプロピレングリコール、有機溶媒、ワックスエマルション及び水を含有する水性インクであって、ワックスエマルションに含まれるワックスの融点が108℃以上である水性インクが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
インクジェット記録方式でコート紙等の低吸液性記録媒体に記録する場合、インクを早く乾燥させることが重要であることから、一般的に記録後に乾燥操作が行われる。この際、記録ヘッド近傍は強い乾燥条件に晒されるため、インク吐出を一旦休止し吐出ノズル孔周辺のインクが乾燥すると、その周辺で凝集増粘物が生成して、ノズル欠けや吐出ヨレが発生し易くなる。近年、記録速度の向上、インク乾燥機構の簡素化等の観点から、高い乾燥性を有するインクが求められている。
さらに、商業印刷や産業印刷においては、有彩色の有機顔料を用いて、低吸液性記録媒体に製品情報を記録するが、顔料が記録媒体表面に多く残存するため、顔料が剥がれ易く、画像堅牢性が低下する。従来の水系インクは、低吸液性記録媒体に対する画像堅牢性が満足できるものではなく、より高品質の水系インクが望まれていた。
特許文献1の水性インクは、保存安定性、間欠吐出安定性についてはある程度改善されているが、まだ改善の余地があり、画像堅牢性についても改善が望まれていた。
本発明は、吐出安定性、乾燥性に優れ、低吸液性記録媒体へのインクジェット記録においても画像堅牢性に優れた記録物を得ることができる水系インクを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、インク成分として、特定のポリエチレンワックスと、2種類の特定の有機溶剤を特定量で配合することにより、上記の課題を解決しうることを見出した。
すなわち、本発明は、有機顔料、融点110℃以上のポリエチレンワックス、有機溶剤、及び水を含有するインクジェット記録用水系インクであって、
該有機溶剤が、1,2-プロパンジオール(a)と、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、及びジプロピレングリコールモノメチルエーテルから選ばれる1種以上の溶剤(b)とを含み、
該溶剤(b)の加重平均沸点が160℃以上で、該溶剤(b)のインク中の合計含有量が7質量%以上であり、該有機溶剤の加重平均沸点が190℃以下で、該有機溶剤のインク中の含有量が30質量%以下である、インクジェット記録用水系インク(以下、「本発明インク」ともいう)を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、吐出安定性、乾燥性に優れ、低吸液性記録媒体へのインクジェット記録においても画像堅牢性に優れた記録物を得ることができる水系インクを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[インクジェット記録用水系インク]
本発明のインクジェット記録用水系インクは、有機顔料、融点110℃以上のポリエチレンワックス、有機溶剤、及び水を含有するインクジェット記録用水系インクであって、
該有機溶剤が、1,2-プロパンジオール(a)と、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、及びジプロピレングリコールモノメチルエーテルから選ばれる1種以上の溶剤(b)とを含み、
該溶剤(b)の加重平均沸点が160℃以上で、該溶剤(b)のインク中の合計含有量が7質量%以上であり、該有機溶剤の加重平均沸点が190℃以下で、該有機溶剤のインク中の含有量が30質量%以下である。
なお、本明細書において「水系」とは、顔料を分散させる媒体中で、水が質量比で最大割合を占めていることを意味する。
また、「記録」とは、文字や画像を記録する印刷、印字を含む概念であり、「記録物」とは、文字や画像が記録された印刷物、印字物を含む概念である。
「低吸液性」とは、低吸液性、非吸液性を含む概念であり、記録媒体と純水との接触時間100m秒間における該記録媒体の吸水量が0g/m2以上10g/m2以下であることを意味する。
【0009】
本発明インクは、吐出安定性、乾燥性に優れ、低吸液性記録媒体へのインクジェット記録においても画像堅牢性に優れた記録物を得ることができる。その理由は定かではないが、以下のように考えられる。
インクの乾燥性を高める手段としては、インク中に含有される有機溶剤の沸点を低くしたり、記録媒体への浸透性が高いグリコールエーテルを含有させることが提案されている。しかし、疎水性の高い溶剤を用いると、インクの分散安定性が低下し、経時での顔料等の凝集が促進される。特に吐出ノズル近傍は強い乾燥に晒されるため、ノズル近傍の凝集は更に促進され、吐出安定性が低下する。
本発明インクは、インク中に1,2-プロパンジオール(a)(沸点:188℃)と、特定のグリコールエーテル(b)を含有し、かつグリコールエーテル(b)の加重平均沸点を160℃以上とし、該溶剤(b)の合計含有量を7質量%以上にすることにより、吐出ノズル中において、インク中の有機溶剤が保湿能を発揮しつつも、特定のグリコールエーテル(b)が優先的に揮発し、ノズル内には1,2-プロパンジオール(a)が有効かつ優先的に残存することになるため、インク中の凝集を抑制することができ、乾燥性と吐出安定性が両立できると考えられる。
また、水系インク中にポリエチレンワックスを含むと、インク塗膜の摩擦抵抗が低下し、画像堅牢性を改善できるが、近年の高速記録においては、記録後に高温乾燥が行われるため、ポリエチレンワックスが溶融するという問題がある。しかし、本発明インクで用いられるポリエチレンワックスの融点は110℃以上であるため、インクの高温乾燥過程においてもポリエチレンワックスの溶融を避けることができ、画像堅牢性が向上すると考えられる。
【0010】
<有機顔料>
本発明においては有機顔料(以下、単に「顔料」ともいう)が用いられる。
顔料の具体例としては、アゾレーキ顔料、不溶性モノアゾ顔料、不溶性ジスアゾ顔料、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料類;フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料、ジケトピロロピロール顔料、ベンツイミダゾロン顔料、スレン顔料等の多環式顔料類等が挙げられる。
色相は特に限定されず、イエロー、マゼンタ、シアン、ブルー、レッド、オレンジ、グリーン等の有彩色顔料をいずれも用いることができる。
好ましい顔料の具体例としては、C.I.ピグメント・イエロー、C.I.ピグメント・レッド、C.I.ピグメント・オレンジ、C.I.ピグメント・バイオレット、C.I.ピグメント・ブルー、及びC.I.ピグメント・グリーンから選ばれる1種以上の各品番製品が挙げられる。
上記の顔料は単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0011】
顔料の形態としては、(i)分散剤なしで分散状態を保つことができる顔料、すなわち自己分散型顔料の形態、(ii)顔料を界面活性剤で分散させた顔料粒子の形態、(iii)顔料を含有するポリマー粒子の形態が挙げられる。これらの中では、吐出安定性、画像堅牢性等を向上させる観点から、「顔料を含有するポリマー粒子」の形態が好ましく、「顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子」の形態がより好ましい。
本明細書において、「顔料を含有するポリマー粒子」(以下、「顔料含有ポリマー粒子」ともいう)とは、ポリマーが顔料を包含した形態の粒子、ポリマーと顔料からなる粒子の表面に顔料の一部が露出している形態の粒子、ポリマーが顔料の一部に吸着している形態の粒子、及びこれらの混合物を意味する。これらの中では、ポリマーが顔料を包含した形態の粒子がより好ましい。
【0012】
(顔料を含有するポリマー粒子)
顔料を含有するポリマー粒子を構成するポリマー(以下、「ポリマーa」ともいう)は、水を主成分とする水系媒体に顔料を分散させる顔料分散能を有するポリマーであれば特に制限はない。
ポリマーaは、水不溶性ポリマーが好ましい。
本明細書において「水不溶性ポリマー」とは、105℃で2時間乾燥させ、恒量に達したポリマーを、25℃の水100gに溶解させたときに、その溶解量が10g未満であるポリマーを意味する。ポリマーがアニオン性ポリマーの場合、その溶解量は、ポリマーのアニオン性基を水酸化ナトリウムで100%中和した時の溶解量である。
【0013】
(ポリマーa)
ポリマーaは任意の構造をとることができるが、本発明インクの吐出安定性、画像堅牢性等を向上させる観点から、ビニル化合物、ビニリデン化合物、ビニレン化合物等のビニル単量体の付加重合により得られるビニル系ポリマーが好ましい。
ビニル系ポリマーとしては、(a-1)イオン性モノマーに由来する構成単位を含有するポリマーが好ましく、(a-1)イオン性モノマー由来の構成単位と(a-2)疎水性モノマー由来の構成単位を有する共重合ポリマーがより好ましい。
【0014】
〔(a-1)イオン性モノマー〕
(a-1)イオン性モノマーとしては、顔料の分散安定性を向上させる観点から、アニオン性モノマーが好ましい。
アニオン性モノマーとしては、カルボン酸モノマー、スルホン酸モノマー、リン酸モノマー等が挙げられる。カルボン酸モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸等が挙げられる。
これらの中でも、カルボン酸モノマーがより好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる1種以上が更に好ましい。
【0015】
〔(a-2)疎水性モノマー〕
(a-2)疎水性モノマーは、顔料の分散安定性を向上させる観点から、(a-1)成分に加えて、さらにモノマー成分として用いることが好ましい。
(a-2)成分の具体例としては、特開2018-83938号公報の段落〔0020〕~〔0022〕に記載のものが挙げられる。これらの中では、炭素数1以上22以下のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート、スチレン、α-メチルスチレン、及びベンジル(メタ)アクリレートから選ばれる1種以上が好ましい。
【0016】
〔(a-3)ノニオン性モノマー〕
(a-3)ノニオン性モノマーは、顔料の分散安定性をより向上させる観点から、用いることができる。
(a-3)成分は、水や水溶性有機溶剤との親和性が高いモノマーであり、例えば水酸基やポリアルキレングリコール鎖を含むモノマーである。
(a-3)成分の具体例としては、特開2018-83938号公報の段落〔0018〕に記載のものが挙げられる。これらの中では、メトキシポリエチレングリコール(n=1~30)(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(n=2~30)(メタ)アクリレートから選ばれる1種以上が好ましい。
上記(a-1)~(a-3)成分は、それぞれ、各成分に含まれるモノマー成分を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0017】
(ポリマーa中の各構成単位の含有量)
ポリマーa中における(a-1)~(a-3)成分由来の構成単位の含有量は、顔料の分散安定性を向上させ、本発明インクの吐出安定性、画像堅牢性等を向上させる観点から、次のとおりである。
(a-1)成分の含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下である。
(a-2)成分の含有量は、好ましくは40質量%以上、より好ましくは45質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、そして、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下、更に好ましくは80質量%以下である。
(a-3)成分を含有する場合、その含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下である。
(a-2)成分に対する(a-1)成分の質量比[(a-1)/(a-2)]は、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上、更に好ましくは0.25以上であり、そして、好ましくは1.2以下、より好ましくは1.0以下、更に好ましくは0.8以下である。
本発明においてポリマーa中における(a-1)~(a-3)成分由来の構成単位の含有量は、測定により求めることができるし、ポリマーaの製造時における(a-1)~(a-3)成分を含む原料モノマーの仕込み比率で代用することもできる。
【0018】
(ポリマーaの製造)
ポリマーaは、(a-1)~(a-3)成分を含むモノマー混合物を公知の重合法により共重合させることによって製造することができる。重合法としては溶液重合法が好ましい。
溶液重合法で用いる溶媒に制限はないが、水、脂肪族アルコール、ケトン類、エーテル類、エステル類等の極性溶媒が好ましく、水、メタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトン等がより好ましい。
重合の際には、重合開始剤や重合連鎖移動剤を用いることができる。重合開始剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩や水溶性アゾ重合開始剤等が挙げられ、重合連鎖移動剤としてはメルカプタン類等が挙げられる。
重合温度は、使用する重合開始剤、モノマー、溶媒の種類等によって異なるが、好ましくは30℃以上、より好ましくは50℃以上であり、そして、好ましくは95℃以下、より好ましくは80℃以下である。
重合雰囲気は、好ましくは窒素ガスや不活性ガス雰囲気である。
ポリマーaは、後述するように中和剤で中和することが好ましい。
【0019】
ポリマーaの数平均分子量は、ポリマーで分散させる顔料の分散安定性を向上させる観点から、好ましくは1万以上、より好ましくは1.5万以上であり、そして、好ましくは10万以下、より好ましくは5万以下である。
ポリマーaの酸価は、上記と同様の観点から、好ましくは80mgKOH/g以上、より好ましくは120mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは300mgKOH/g以下、より好ましくは280mgKOH/g以下である。
ポリマーの数平均分子量及び酸価の測定は、実施例に記載の方法により行うことができる。
【0020】
ポリマーaは、(a-1)成分由来の構成単位と(a-2)成分由来の構成単位を有するものであれば、市販品を使用することもできる。ビニル系ポリマーの市販品例としては、BASF社製のジョンクリルシリーズ等のスチレン-アクリル系樹脂等が挙げられる。
【0021】
〔顔料含有ポリマー粒子の製造〕
顔料含有ポリマー粒子は、効率的に製造する観点から、下記の工程I、更に必要に応じて工程IIを有する方法により、顔料含有ポリマー粒子を水系媒体に分散させた顔料分散体Aとして、製造することが好ましい。
工程I:ポリマーaを溶媒に溶解してポリマーaの溶液を得た後、顔料、及び必要に応じて中和剤、界面活性剤等を加えて混合し、顔料混合物からなる顔料分散体Aを得る工程
顔料を効率的にポリマー粒子に含有させるために、工程Iにおいては溶媒が有機溶剤を含むことが好ましい。溶媒が有機溶剤を含む場合は、工程Iに加えて、更に下記工程IIを有してもよい。
工程II:工程Iで得られた顔料混合物から有機溶剤を除去して、顔料分散体Aを得る工程
また、前記工程I及びIIに加えて、更に下記工程IIIを行うことが好ましい。
工程III:工程I又は工程IIで得られた顔料分散体Aと、架橋剤aとを混合し、架橋処理した顔料含有架橋ポリマー粒子の顔料分散体を得る工程
本明細書において顔料分散体Aは、顔料含有ポリマー粒子が水系媒体に分散された顔料分散体と、顔料含有架橋ポリマー粒子が水系媒体に分散された顔料分散体の両方を意味する。
【0022】
(工程I)
工程Iにおいて、ポリマーaを溶解させる溶媒に制限はないが、顔料への濡れ性、ポリマーaの溶解性、及び顔料への吸着性の観点から、水、炭素数1以上3以下の脂肪族アルコール、ケトン類、エーテル類、エステル類等から選ばれる1種以上が好ましい。ポリマーaを溶液重合法で合成した場合には、重合で用いた溶媒をそのまま用いてもよい。
ポリマーaがアニオン性ポリマーの場合、中和剤を用いて、pHが7以上11以下になるようにアニオン性基を中和することが好ましい。中和剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、各種アミン等の塩基が挙げられる。またポリマーaを予め中和しておいてもよい。
ポリマーaのアニオン性基の中和度は、本発明インクの保存安定性を向上させる観点から、ポリマーaのアニオン性基のモル当量数に対する中和剤のモル当量の比で、好ましくは20モル%以上、より好ましくは25モル%以上、更に好ましくは30モル%以上であり、そして、好ましくは200モル%以下、より好ましくは100モル%以下、更に好ましくは80モル%以下である。
【0023】
工程Iにおいて、得られた顔料混合物に機械力を付与して分散処理することが好ましい。機械力を付与する方法に特に制限はないが、例えば、特開2018-83938号公報の段落〔0032〕に記載の方法が挙げられる。
分散処理は、剪断応力による本分散だけで顔料粒子を所望の粒径となるまで微粒化することもできるが、均一な顔料分散体を得る観点から、顔料混合物を予備分散した後、更に本分散することが好ましい。
予備分散に用いる分散機としては、アンカー翼、ディスパー翼等の一般に用いられている混合撹拌装置を用いることができる。
本分散に用いる分散機としては、ロールミル、ニーダー等の混練機、マイクロフルイダイザー等の高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ビーズミル等のメディア式分散機が挙げられる。これらの中でも、顔料を小粒子径化する観点から、高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。
高圧ホモジナイザーを用いて分散処理を行う場合、処理圧力やパス回数の制御により、顔料分散体中の顔料粒子の平均粒径を調整することができる。処理圧力は、生産性及び経済性の観点から、好ましくは60MPa以上300MPa以下であり、パス回数は、好ましくは3以上30以下である。
【0024】
(工程II)
工程IIは、任意の工程である。得られた顔料分散体A中の有機溶剤は実質的に除去されていることが好ましいが、本発明の効果を損なわない限り、例えば0.1質量%程度以下残存していてもよい。
顔料分散体A中の顔料含有ポリマー粒子の平均粒径は、保存安定性を向上させる観点、高精細な記録を行う観点から、好ましくは50nm以上、より好ましくは100nm以上、更に好ましくは120nm以上であり、そして、好ましくは350nm以下、より好ましくは320nm以下、更に好ましくは300nm以下である。
下記の工程IIIで、架橋処理した場合も、得られる顔料分散体A中の顔料含有架橋ポリマー粒子の平均粒径は、前記顔料含有ポリマー粒子の平均粒径と同等である。
なお、前記平均粒径は、実施例に記載の方法により測定される。
【0025】
(工程III)
工程IIIで、顔料含有ポリマー粒子を構成するポリマーaのカルボキシ基の一部を架橋し、顔料含有ポリマー粒子の表層部の一部又は全部に架橋構造を形成させ、顔料含有ポリマー粒子を顔料含有架橋ポリマー粒子とすることができる。この架橋処理により顔料の分散安定性に悪影響を与えるポリマーaの膨潤や収縮が抑制されて、本発明インクの吐出安定性、乾燥性、得られる記録物の画像堅牢性がより改善されると考えられる。
【0026】
架橋剤aは、ポリマーaがアニオン性ポリマーである場合、アニオン性基と反応しうる官能基を有する化合物が好ましく、該官能基を分子中に2以上6以下有する化合物がより好ましい。
架橋剤aの好適例としては、分子中に2以上のエポキシ基、オキサゾリン基、又はイソシアネート基を有する化合物等が挙げられる。これらの中でも、水溶率が50質量%以下、好ましくは40質量%以下の水不溶性で、分子中に2以上4以下のエポキシ基を有する化合物が好ましく、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル及びペンタエリスリトールポリグリシジルエーテルから選ばれる1種以上がより好ましく、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル(水溶率27質量%)が更に好ましい。ここで「水溶率」とは、25℃のイオン交換水90質量部に架橋剤10質量部を溶解したときの溶解率(質量%)をいう。
【0027】
工程IIIにおける顔料含有ポリマー粒子の架橋率は、吐出安定性、画像堅牢性等を向上させる観点から、ポリマーaのカルボキシ基のモル当量数に対する架橋剤の架橋性官能基のモル当量数の比で、好ましくは10モル%以上、より好ましくは20モル%以上、更に好ましくは30モル%以上であり、そして、好ましくは80モル%以下、より好ましくは70モル%以下、更に好ましくは65モル%以下である。
架橋処理の温度は、架橋反応の完結と経済性の観点から、好ましくは40℃以上、より好ましくは55℃以上であり、そして、好ましくは95℃以下、より好ましくは80℃以下である。
得られる顔料分散体Aの固形分濃度は、顔料分散体の分散安定性を向上させる観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。
顔料分散体の固形分濃度は、実施例に記載の方法により測定される。
【0028】
<融点110℃以上のポリエチレンワックス>
本発明に用いられるポリエチレンワックスは、吐出安定性、画像堅牢性等を向上させる観点から、融点は110℃以上であり、好ましくは115℃以上、より好ましくは120℃以上、更に好ましくは125℃以上であり、そして、好ましくは160℃以下、より好ましくは150℃以下、更に好ましくは145℃以下である。
【0029】
ポリエチレンワックスは、エチレンを主成分とするワックスである。ここで「エチレンを主成分とする」とは、ワックスを構成する成分全体に対して、エチレンの含有量が、好ましくは50質量%以上、より好ましくは65質量%以上、更に好ましくは80質量%以上であることをいう。
酸化ポリエチレンワックスは、高分子量のポリエチレンを、熱分解等により所望の分子量に調整しながら、分子内に酸素原子等を導入することにより得ることができるものであり、ポリエチレンワックスとして用いることができる。
ワックス全量中のポリエチレンワックスの含有量は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、より更に好ましくは100質量%である。
【0030】
ポリエチレンワックスはエマルションとして用いることが好ましい。ワックスエマルションの製造方法に特に制限はなく、例えば、ポリエチレンワックスと、必要に応じて用いられるその他のワックスと、公知の界面活性剤を混合して乳化する方法が挙げられる。界面活性剤としては、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤等を用いることができる。
ノニオン界面活性剤としては、高級アルコールのエチレンオキシド付加物、アルキル化したフェノールのエチレンオキシド付加物等が挙げられる。アニオン界面活性剤としては、高級アルコ-ルのエチレンオキシド付加物をベースとした硫酸エステル塩やリン酸エステル塩、アルキル化したベンゼンスルホン酸塩等が挙げられる。
ポリエチレンワックスは、吐出安定性、画像堅牢性等を向上させる観点から、ノニオン性のポリエチレンワックスエマルションが好ましい。
【0031】
ポリエチレンワックスのインク中での平均粒径は、ワックスの分散安定性、インクの吐出安定性、画像堅牢性等を向上させる観点から、好ましくは300nm以下、より好ましくは200nm以下、更に好ましくは100nm以下であり、そして、好ましくは10nm以上、好ましくは30nm以上である。
ポリエチレンワックスの平均粒径は、動的光散乱法により測定することができ、例えば、実施例記載の方法により、日機装株式会社製マイクロトラック粒度分析計UPAを用いて測定することができる。
ワックスエマルションの市販品の好適例としては、東邦化学工業株式会社製のハイテックEシリーズ、BYK社製のAQUACERシリーズ、中京油脂株式会社製のセロゾールシリーズ、三井化学株式会社製のケミパールシリーズ等が挙げられる。
【0032】
<有機溶剤>
本発明に用いられる有機溶剤は、本発明インクの吐出安定性、乾燥性、画像堅牢性を向上させる観点から、1,2-プロパンジオール(a)(沸点:188℃)と、エチレングリコールモノブチルエーテル(沸点:171℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点:121℃)、プロピレングリコールモノブチルエーテル(沸点:170℃)、及びジプロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点:187℃)から選ばれる1種以上の溶剤(b)とを含み、該溶剤(b)の加重平均沸点が160℃以上で、該溶剤(b)のインク中の合計含有量が7質量%以上であり、該有機溶剤の加重平均沸点が190℃以下で、該有機溶剤のインク中の含有量が30質量%以下である。
【0033】
溶剤(b)の加重平均沸点は、上記と同様の観点から、好ましくは162℃以上、より好ましくは165℃以上、更に好ましくは168℃以上であり、そして、好ましくは187℃以下、より好ましくは185℃以下、更に好ましくは180℃以下、より更に好ましくは176℃以下である。
溶剤(b)のインク中の合計含有量は、好ましくは8質量%以上であり、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは18質量%以下、更に好ましくは16質量%以下である。
【0034】
有機溶剤は、本発明の効果を阻害しない範囲内で、上記以外の他の有機溶剤を含有することができる。用いられる他の有機溶剤としては、多価アルコール、多価アルコールアルキルエーテル等の水溶性有機溶剤が挙げられる。
1,2-プロパンジオール(a)と溶剤(b)とを含む全有機溶剤の加重平均沸点は、上記と同様の観点から、好ましくは189℃以下、より好ましくは188℃以下、更に好ましくは187℃以下であり、そして、好ましくは168℃以上、より好ましくは169℃以上、更に好ましくは170℃以上である。
また、全有機溶剤のインク中の含有量(合計量)は、好ましくは25質量%以下、より好ましくは20質量%以下であり、そして、好ましくは8質量%以上である。
【0035】
本発明インクは、必要に応じて、更に界面活性剤を含有することができる。
界面活性剤としては、ノニオン性界面活性剤、シリコーン系活性剤、フッ素系活性剤等が挙げられるが、ノニオン性界面活性剤がより好ましい。
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、多価アルコール型界面活性剤、脂肪酸アルカノールアミド等が挙げられる。これらの中では、アセチレングリコール系界面活性剤が好ましく、例えば、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールがより好ましい。
ノニオン性界面活性剤の市販品例としては、日信化学工業株式会社及びAir Products & Chemicals社製のサーフィノールシリーズ、川研ファインケミカル株式会社製のアセチレノールシリーズ等が挙げられる。
上記の界面活性剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
<水系インクの製造方法>
本発明インクは、前記の顔料含有ポリマー粒子の顔料分散体と、融点110℃以上のポリエチレンワックスと、有機溶剤と、水と、必要に応じて、インクに通常用いられる保湿剤、湿潤剤、浸透剤、界面活性剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤等の各種添加剤を混合することにより得ることができる。
【0037】
<水系インクの各成分の含有量>
本発明インク中の各成分の含有量は、本発明インクの吐出安定性、乾燥性、画像堅牢性を向上させる観点から、以下のとおりである。
【0038】
(顔料の含有量)
本発明インク中の顔料の含有量は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは2.5質量%以上であり、そして、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましく8質量%以下である。
本発明インク中の顔料含有ポリマー粒子の含有量は、好ましくは2質量%以上、より好ましくは4質量%以上、更に好ましくは6質量%以上であり、そして、好ましくは18質量%以下、より好ましくは16質量%以下、更に好ましくは14質量%以下、より更に好ましくは12質量%以下である。
【0039】
(融点110℃以上のポリエチレンワックスの含有量)
本発明インク中の融点110℃以上のポリエチレンワックスの含有量は、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは0.6質量%以上、更に好ましくは0.8質量%以上であり、そして、好ましくは1.3質量%以下、より好ましくは1.2質量%以下、更に好ましくは1.1質量%以下である。
【0040】
(有機溶剤の含有量)
本発明インク中の有機溶剤の含有量は、30質量%以下であり、好ましくは25質量%以下、より好ましくは20質量%以下であり、そして、好ましくは8質量%以上である。
(水の含有量)
本発明インク中の水の含有量は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、そして、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは70質量%以下である。
【0041】
<水系インク物性>
本発明インクの32℃の粘度は、保存安定性、画像濃度を向上させる観点から、好ましくは2mPa・s以上、より好ましくは3mPa・s以上、更に好ましくは5mPa・s以上であり、そして、好ましくは12mPa・s以下、より好ましくは9mPa・s以下、更に好ましくは7mPa・s以下である。水系インクの粘度は、E型粘度計を用いて測定できる。
本発明インクのpHは、保存安定性、画像濃度を向上させる観点から、好ましくは7.0以上、より好ましくは7.2以上、更に好ましくは7.5以上である。また、部材耐性、皮膚刺激性の観点から、pHは、好ましくは11以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは9.5以下である。水系インクのpHは、常法により測定できる。
【0042】
本発明インクは、ピエゾ式等の公知のインクジェット記録装置に装填し、記録媒体にインク液滴として吐出させて画像等を記録することができる。
本発明インクは、低吸液性記録媒体へのインクジェット記録においても画像堅牢性に優れた記録物を得ることができる。
低吸液性記録媒体としては、低吸液性のコート紙、アート紙、及び非吸液性の樹脂フィルムが挙げられる。
コート紙としては、汎用光沢紙、多色フォームグロス紙等が挙げられる。
樹脂フィルムとしては、透明合成樹脂フィルムが挙げられ、例えば、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン、ナイロン等のフィルムが挙げられる。これらのフィルムは、二軸延伸、一軸延伸、無延伸のフィルムであってもよい。これらの中では、ポリエステルフィルム、延伸ポリプロピレンフィルムが好ましく、コロナ放電処理されたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、コロナ放電処理された二軸延伸ポリプロピレン(OPP)フィルム等がより好ましい。
【実施例】
【0043】
以下の製造例、実施例及び比較例において、「部」及び「%」は特記しない限り「質量部」及び「質量%」である。なお、各物性等の測定方法は以下のとおりである。
【0044】
(1)ポリマーの数平均分子量の測定
N,N-ジメチルホルムアミドに、リン酸及びリチウムブロマイドをそれぞれ60mmol/Lと50mmol/Lの濃度となるように溶解した液を溶離液として、ゲル浸透クロマトグラフィー法〔東ソー株式会社製GPC装置(HLC-8320GPC)、東ソー株式会社製カラム(TSKgel SuperAWM-H、TSKgel SuperAW3000、TSKgel guardcolum Super AW-H)、流速:0.5mL/min〕により、標準物質として分子量既知の単分散ポリスチレンキット〔PStQuick B(F-550、F-80、F-10、F-1、A-1000)、PStQuick C(F-288、F-40、F-4、A-5000、A-500)、東ソー株式会社製〕を用いて測定した。
測定サンプルは、ガラスバイアル中にポリマー0.1gを前記溶離液10mLと混合し、25℃で10時間、マグネチックスターラーで撹拌し、シリンジフィルター(DISMIC-13HP、PTFE製、0.2μm、アドバンテック株式会社製)で濾過したものを用いた。
【0045】
(2)顔料分散体の固形分濃度の測定
30mLの軟膏容器にデシケーター中で恒量化した硫酸ナトリウム10.0gを量り取り、そこへサンプル約1.0gを添加して混合した後、正確に秤量し、105℃で2時間保持して揮発分を除去し、更にデシケーター内で更に15分間放置し、質量を測定した。
揮発分除去後のサンプルの質量を固形分として、最初のサンプルの質量で除して固形分濃度とした。
【0046】
(3)顔料分散体の平均粒径
レーザー粒子解析システム(大塚電子株式会社製、商品名:ELS-8000)を用いて、動的光散乱法により顔料分散体の平均粒径を測定し、キュムラント法解析により算出した。測定条件は、温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力した。測定試料には、顔料分散体をスクリュー管(マルエム株式会社製No.5)に計量し、固形分濃度が2×10-4質量%になるように水を加えてマグネチックスターラーを用いて25℃で1時間撹拌したものを用いた。
【0047】
(4)ポリマーの酸価の測定
電位差自動滴定装置(京都電子工業株式会社製、電動ビューレット、型番:APB-610)に樹脂をトルエンとアセトン(2:1)を混合した滴定溶剤に溶かし、電位差滴定法により0.1N水酸化カリウム/エタノール溶液で滴定し、滴定曲線上の変曲点を終点とした。水酸化カリウム溶液の終点までの滴定量から酸価(mgKOH/g)を算出した。
【0048】
(5)ワックスの融点の測定
ワックスの融点は、JIS K 0064に準拠した測定装置により行った。具体的には、示差走査熱量計(Q20、ティー・エイ・インスルメント社製)を用いて、試料を200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却した。次に、試料を昇温速度10℃/分で昇温し、200℃まで熱量を測定した。観測された融解熱ピークのうち、ピーク面積が最大のピークの温度を融解の最大ピーク温度とし、該ピーク温度を融点とした。
【0049】
(6)ワックスエマルションの平均粒径の測定
ワックスエマルションの平均粒径(平均分散粒径)は、日機装株式会社製マイクロトラック粒度分析計UPAを用いて測定した。
【0050】
製造例1(ポリマー(a)の製造)
アクリル酸31部、スチレン69部を混合しモノマー混合液を調製した。反応容器内に、メチルエチルケトン(MEK)10部、重合連鎖移動剤(2-メルカプトエタノール)0.2部、及び前記モノマー混合液の10%を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に、行った。
一方、滴下ロートに、モノマー混合液の残りの90%、前記重合連鎖移動剤0.13部、MEK30部及びラジカル重合開始剤(2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、富士フイルム和光純薬株式会社製、商品名:V-65)1.1部の混合液を入れ、窒素雰囲気下、反応容器内の前記モノマー混合液を攪拌しながら65℃まで昇温し、滴下ロート中の混合液を3時間かけて滴下した。滴下終了から65℃で2時間経過後、前記重合開始剤0.1部をMEK2部に溶解した溶液を加え、更に65℃で2時間、70℃で2時間熟成させた後に減圧乾燥してポリマー(a)(数平均分子量:19000、酸価:240mgKOH/g)を得た。
【0051】
実施例1(水系インク1の製造)
(1)顔料分散体の製造
製造例1で得られたポリマー(a)100部をMEK78.6部と混合し、更に中和剤として5N水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム16.9%)41.2部を加え中和した(中和度:40モル%)。更にイオン交換水800部を加え、その中にシアン顔料(C.I.ピグメント・ブルー15:3、ディーアイシー株式会社製、商品名:TGR-SD)100部を加え、ディスパー(浅田鉄工株式会社製、商品名:ウルトラディスパー)を用いて、20℃でディスパー翼を7000rpmで回転させる条件で60分間攪拌した。得られた混合物をマイクロフルイダイザー(Microfluidics社製、商品名)で200MPaの圧力で10パス分散処理した。
得られた分散液にイオン交換水250部を加え、攪拌した後、減圧下60℃でMEKを完全に除去し、更に一部の水を除去して、顔料濃度が10%となった後に、エポキシ架橋剤(トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ナガセケムテックス株式会社製、商品名:デナコールEX-321、エポキシ当量140)35.7部を加えて密栓し、スターラーで撹拌しながら70℃で5時間加熱後、室温まで降温することで、顔料を含有する架橋ポリマー粒子(架橋率60モル%)を含む顔料分散体(固形分濃度:24%)を得た。
【0052】
(2)水系インク1の製造
得られた顔料分散体50部、ポリエチレンワックスエマルション(東邦化学工業株式会社製、商品名:ハイテックE-6500、融点(mp):140℃、固形分濃度:35%ノニオン性)2.85部、有機溶剤(a)として1,2-プロパンジオール(富士フイルム和光純薬株式会社製)19部、有機溶剤(b)としてエチレングリコールモノブチルエーテル(富士フイルム和光純薬株式会社製)8部、アセチレングリコール系界面活性剤(2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、Air Products and Chemicals社製、商品名:サーフィノール104)0.5部を混合し、合計量が100部となるようイオン交換水を添加した。5μmのフィルター(アセチルセルロース膜、外径:2.5cm、富士フイルム和光純薬株式会社製)を取り付けた容量25mLの針なしシリンジ(テルモ株式会社製)で濾過して水系インク1(固形分濃度:13%、顔料含有ポリマー粒子:12%(顔料:5%、ポリマー:7%)、ワックス:1%)を得た。
【0053】
実施例2~12、及び比較例1~9(水系インク2~12、21~29の製造)
実施例1において、表1に示す条件に変えた以外は、実施例1と同様にして水系インク2~12、21~29を得た。結果を表1に示す。
なお、比較例8で用いたハイテックE-8237は、東邦化学工業株式会社製のポリエチレンワックスエマルション(融点:106℃、平均粒径:80nm、固形分濃度:35%)である。
また、表2中のインク組成の数値は有効分量(固形分量)である。
【0054】
実施例及び比較例で得られた水系インクを用いて、下記の方法で、吐出安定性、乾燥性、画像堅牢性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0055】
(1)吐出安定性の評価
水系インクを用いて、以下のインクジェット記録方式により、A4サイズのコート紙(王子製紙株式会社製、商品名:OKトップコート+)に、画像を印刷した。
(インクジェット記録方式)
温度25±1℃、相対湿度30±5%の環境で、インクジェット記録ヘッド(京セラ株式会社製、商品名:KJ4B-HD06MHG-STDV、ピエゾ式)を装備した印刷評価装置(株式会社トライテック製)に水系インクを充填した。ヘッド電圧26V、駆動周波数10kHz、吐出液適量12pL、ヘッド温度32℃、解像度600dpi、吐出前フラッシング回数200発、負圧-4.0kPaを設定し、記録媒体の長手方向と搬送方向が同じになる向きに、記録媒体を搬送台に減圧で固定した。前記印刷評価装置に印刷命令を転送し、Duty100%のベタ画像を印刷した。
その後、30分間印刷評価装置を停止させ、記録ヘッドを大気暴露させた。30分間経過後、記録ヘッドからインクを一度パージし、ワイプ後に印刷を再開した際のノズル欠け状態を観察し、下記式によりノズル回復率(%)を算出し、吐出安定性を評価した。
ノズル回復率(%)=(正常吐出ノズル数/全ノズル数)×100
ノズル回復率(%)が大きいほどノズル回復性が優れていると判断され、数値として85%以上であれば、実用上使用できる。
【0056】
(2)乾燥性の評価
上記(1)のインクジェット記録方式により、Dutyが0~100%の範囲で5%刻みの階調画像を印刷した。その後、印刷済用紙を3秒間静置した後に、無印刷の前記コート紙を印刷面に乗せ、15秒間荷重30Nをかけて、無印刷のコート紙へのインクの転写を目視で観察した。
転写が生じなくなるDuty値を確認した。
転写が生じなくなるDuty値が大きいほど乾燥性が優れていると判断され、数値としてDuty値が70%以上であれば、実用上使用できる。
【0057】
(3)画像堅牢性の評価
上記(1)のインクジェット記録方式により、Duty100%のベタ画像を印刷した。印刷直後に短波長赤外線ヒーター(ヘレウス社製、商品名:ZKB1200/340G×9本、ヒーター有効長340mm、出力1200W)で印刷済用紙を3秒間乾燥させた。乾燥後の印刷済用紙を24時間静置後に、学振形摩耗試験機(株式会社大栄科学精器製作所製、商品名:RT-300)を用いて、2×2cmに切り取った無印刷のコート紙を印刷面に乗せ、荷重10Nで10往復させて、転写したインクの濃度を、分光光度計(サカタインクスエンジニアリング株式会社製、商品名:スペクトロアイ)を用いて測定した。
転写したインクの濃度が低いほど画像堅牢性が優れていると判断され、数値として0.2以下であれば、実用上使用できる。
【0058】
【0059】
表1から、実施例1~12で得られた水系インクは、比較例1~9で得られた水系インクに比べて、吐出安定性、乾燥性が優れており、画像堅牢性に優れた印刷物を得ることができることが分かる。