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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】抗グラム陰性菌化合物
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/32 20060101AFI20241217BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20241217BHJP
   A23L 33/17 20160101ALI20241217BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20241217BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20241217BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20241217BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20241217BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20241217BHJP
   C12P 1/04 20060101ALI20241217BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20241217BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20241217BHJP
【FI】
C07K14/32 ZNA
A23L33/135
A23L33/17
A61K38/16
A61P1/00
A61P31/04
A61P31/10
C12N1/20 A
C12N1/20 E
C12P1/04 A
C12P21/02 A
C12N15/31
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2020554676
(86)(22)【出願日】2018-10-31
(86)【国際出願番号】 JP2018040547
(87)【国際公開番号】W WO2020090045
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-04-30
【審判番号】
【審判請求日】2023-02-03
【微生物の受託番号】NITE  NITEBP-02767
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100126480
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 睦
(72)【発明者】
【氏名】高田 雅親
(72)【発明者】
【氏名】砂原 博文
(72)【発明者】
【氏名】麻生 祐司
【合議体】
【審判長】上條 肇
【審判官】荒木 英則
【審判官】小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-147469(JP,A)
【文献】特開2001-136959(JP,A)
【文献】特表2007-518394(JP,A)
【文献】特表2015-509945(JP,A)
【文献】特表平8-506010(JP,A)
【文献】Lantibiotic (A0A285JLI1_9BACI) [online],2018年05月23日,検索日 2018.12.28 UniProt <https://www.uniprot.org/uniprot/A0A285JLI1>
【文献】Lantibiotic (A0A290WPH5_BACLI) [online],2018年05月23日,検索日2022年4月27日、UniProt <https://rest.uniprot.org/unisave/A0A290WPH5?format=txt&versions=4>
【文献】Lantibiotic (A0A2X1V906_PAEPO) [online],2018年10月10日,検索日2022年4月27日、UniProt <https://rest.uniprot.org/unisave/A0A2X1V906?format=txt&versions=2>
【文献】Experimental Biology and Medicine,1945年,Vol.60, No. 1,p.60-64
【文献】The Journal of Biological Chemistry,1988年,Vol.263, No.19,p.9508-9514
【文献】EARL,A.M., et al., J.Bacteriol., 189巻3号, 2007年, 1163-1170ページ
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N15/00-15/90
C07K1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAPlus/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE(STN)
REGISTRY/CAPlus(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式に示すアミノ酸配列からなる化合物。
【化1】
【請求項2】
請求項1に記載の化合物を含有する、抗グラム陰性菌薬。
【請求項3】
請求項1に記載の化合物を含有する、抗ビブリオ属細菌薬。
【請求項4】
請求項1に記載の化合物を含有する、抗腸炎ビブリオ薬。
【請求項5】
請求項1に記載の化合物を含有する、抗真菌薬。
【請求項6】
請求項1に記載の化合物を含有する、抗トリコフィトン属菌薬。
【請求項7】
請求項1に記載の化合物を含有する、抗白癬菌薬。
【請求項8】
請求項1に記載の化合物を含有する、抗毛瘡菌又は趾間菌薬。
【請求項9】
請求項1に記載の化合物を含有する、抗グラム陽性菌薬。
【請求項10】
グラム陰性菌に対する抗菌作用を補助する処置と併用されない、請求項に記載の抗グラム陰性菌
【請求項11】
前記処置が、保存料の添加である、請求項10に記載の抗グラム陰性菌
【請求項12】
前記保存料が、キレート剤である、請求項11に記載の抗グラム陰性菌
【請求項13】
Bacillus subtilis MT2株(受託番号:NITE BP-02767)から産生される、請求項1に記載の化合物。
【請求項14】
Bacillus subtilis MT2株(受託番号:NITE BP-02767)。
【請求項15】
Bacillus subtilis MT2株(受託番号:NITE BP-02767)を含む抗グラム陰性菌薬。
【請求項16】
Bacillus subtilis MT2株(受託番号:NITE BP-02767)を含む飲料又は食料。
【請求項17】
Bacillus subtilis MT2株(受託番号:NITE BP-02767)を培養することと、
前記Bacillus subtilis MT2株(受託番号:NITE BP-02767)が産生した下記化学式に示すアミノ酸配列からなる化合物を採取することと、
を含む、抗グラム陰性菌化合物の製造方法。
【化2】
【請求項18】
抗グラム陰性菌薬の製造における請求項に記載の化合物の使用。
【請求項19】
抗グラム陰性菌薬の製造におけるBacillus subtilis MT2株(受託番号:NITE BP-02767)の使用。
【請求項20】
Bacillus subtilis MT2株(受託番号:NITE BP-02767)を含む、腸炎の治療薬。
【請求項21】
請求項1に記載の化合物を含有する、飲料又は食料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗グラム陰性菌化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
細菌が産生する抗菌作用を有するペプチドやタンパク質は、バクテリオシンとして知られている。バクテリオシンは天然由来物質であることから、合成物質からなる抗菌剤と比較して人体への影響が低いと考えられており、乳酸菌であるLactococcus lactisが産生するバクテリオシンであるナイシン(Nisin)は、世界の多くの国で、保存料として食品に添加することが認められている(例えば、特許文献1、2参照。)。
【0003】
バクテリオシンは、産生菌の類縁菌に対して抗菌作用を有することが知られている。そのため、一般に、グラム陽性菌由来のバクテリオシンは、グラム陽性菌である産生菌の類縁菌に対しては抗菌作用を有するが、グラム陰性菌に対しては抗菌作用を有しないものと考えられている。
【0004】
上述したナイシンも、グラム陽性菌に対しては抗菌作用を有するが、グラム陰性菌に対しては抗菌作用を有しない。そのため、ナイシンは、例えば魚介類による食中毒の原因菌である腸炎ビブリオに対する抗菌作用がない。ナイシン以外のバクテリオシンについても、例えば、サブチリン(Subtilin)及びエンチアニン(Entianin)は、グラム陽性菌に対しては抗菌作用を有するが、グラム陰性菌に対しては抗菌作用を有しない。これは、グラム陰性菌の外膜が、グラム陽性菌由来のバクテリオシンに対するバリアをなしているためと考えられている(例えば、非特許文献1から3参照。)。
【0005】
また、グラム陽性菌由来のバクテリオシンは、真菌に対しても抗菌作用を有しないものと考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4111489号公報
【文献】特許第5738561号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】J. Barbosa, et al., “Class I and Class II Lanthipeptides Produced by Bacillus spp.”, J. Nat. Prod. 2015, 78, 2850?2866
【文献】C. V. Prudencio, et al., “Strategies for the use of bacteriocins in Gram-negative bacteria: relevance in food microbiology”, J Food Sci Technol (September 2015), 52(9):5408-5417
【文献】善藤威史ら、「乳酸菌バクテリオシンの探索と利用」、Japanese Journal of Lactic Acid Bacteria, Vol. 25, No. 1, 2014, Japan Society for Lactic Acid Bacteria
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、従来のバクテリオシンは、産生菌の類縁菌に対してのみ抗菌作用を有するため、抗菌スペクトルが狭い。本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、抗菌スペクトルが広い抗菌化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面に係る抗グラム陰性菌化合物は、下記化学式1に示すアミノ酸配列を有する。
【化1】
【0010】
また、本発明の一側面に係る抗グラム陰性菌薬は、上記化学式1に示すアミノ酸配列を有する抗グラム陰性菌化合物を含む。
【0011】
また、本発明の一側面に係る飲料又は食料は、上記化学式1に示すアミノ酸配列を有する抗グラム陰性菌化合物を含む。
【0012】
また、本発明の一側面に係る枯草菌(Bacillus subtilis)は、上記化学式1に示すアミノ酸配列を有する化合物を産生することができる枯草菌である。
【0013】
また、本発明の一側面に係る抗グラム陰性菌薬は、上記化学式1に示すアミノ酸配列を有する化合物を産生することができる枯草菌を含む。
【0014】
また、本発明の一側面に係る飲料又は食料は、上記化学式1に示すアミノ酸配列を有する化合物を産生することができる枯草菌を含む。
【0015】
また、本発明の一側面に係る枯草菌は、Bacillus subtilis MT2株(受託番号:NITE BP-02767)である。
【0016】
また、本発明の一側面に係る抗グラム陰性菌薬は、Bacillus subtilis MT2株(受託番号:NITE BP-02767)を含む。
【0017】
また、本発明の一側面に係る飲料又は食料は、Bacillus subtilis MT2株(受託番号:NITE BP-02767)を含む。
【0018】
また、本発明の一側面に係る抗グラム陰性菌化合物の製造方法は、枯草菌を培養することと、枯草菌が産生した上記化学式1に示すアミノ酸配列を有する化合物を採取することと、を含む。
【0019】
また、本発明の一側面に係る抗グラム陰性菌化合物の製造方法は、Bacillus subtilis MT2株(受託番号:NITE BP-02767)を培養することと、Bacillus subtilis MT2株(受託番号:NITE BP-02767)が産生した上記化学式1に示すアミノ酸配列を有する化合物を採取することと、を含む。
【0020】
また、本発明の一側面に係る使用は、抗グラム陰性菌薬の製造における上記化学式1に示すアミノ酸配列を有する抗グラム陰性菌化合物の使用である。
【0021】
また、本発明の一側面に係る使用は、抗グラム陰性菌薬の製造における上記化学式1に示すアミノ酸配列を有する化合物を産生することができる枯草菌の使用である。
【0022】
また、本発明の一側面に係る使用は、抗グラム陰性菌薬の製造におけるBacillus subtilis MT2株(受託番号:NITE BP-02767)の使用である。
【0023】
また、本発明の一側面に係る腸炎の治療方法は、上記化学式1に示すアミノ酸配列を有する抗グラム陰性菌化合物を患者に投与することを含む。
【0024】
また、本発明の一側面に係る腸炎の治療方法は、上記化学式1に示すアミノ酸配列を有する化合物を産生することができる枯草菌を患者に投与することを含む。
【0025】
また、本発明の一側面に係る腸炎の治療方法は、Bacillus subtilis MT2株(受託番号:NITE BP-02767)を患者に投与することを含む。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、抗菌スペクトルが広い抗菌化合物を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1(a)はバクテリオシンの生産遺伝子を示し、図1(b)はバクテリオシンのプレペプチドを示し、図1(c)はバクテリオシン(活性ペプチド)を示す。
図2】ANI法によるBacillus subtilis MT2株の全ゲノム配列と、Bacillus subtilis subsp. subtilis 168の全ゲノム配列と、の相同解析の結果を示すグラフである。
図3】ANI法によるBacillus subtilis MT2株の全ゲノム配列と、Bacillus subtilis subsp. subtilis 6051-HGWの全ゲノム配列と、の相同解析の結果を示すグラフである。
図4】ANI法によるBacillus subtilis MT2株の全ゲノム配列と、Bacillus subtilis subsp. spizizenii W23の全ゲノム配列と、の相同解析の結果を示すグラフである。
図5】ANI法によるBacillus subtilis MT2株の全ゲノム配列と、Bacillus tequilensis FJAT-14262aの全ゲノム配列と、の相同解析の結果を示すグラフである。
図6】バクテリオシンの質量分析結果を示すグラフである。
図7】バクテリオシンの抗菌活性を示すグラフである。
図8】バクテリオシンの抗菌活性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお以下の示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は構成部材の組み合わせ等を下記のものに特定するものではない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において種々の変更を加えることができる。
【0029】
本実施形態に係る抗グラム陰性菌化合物は、下記化学式2に示すアミノ酸配列を有する。下記化学式2に示すアミノ酸配列は、C150H231N39O38S5である。本実施形態に係る抗グラム陰性菌化合物は、グラム陰性菌、真菌、及びグラム陽性菌に対し抗菌作用を有する。
【化2】
【0030】
本実施形態に係る抗グラム陰性菌化合物が抗菌作用を示すグラム陰性菌の例としては、ビブリオ属細菌が挙げられる。ビブリオ属細菌の例としては、腸炎ビブリオ、コレラ菌、Non O1コレラ菌、ビブリオ・ミミカス(Vibrio mimicus)、ビブリオ・フルビアリス(Vibrio fluvialis)、ビブリオ・バルニフィカス(Vibrio vulnificus)、ビブリオ・アルギノリチカス(Vibrio alginolyticus)、ビブリオ・パラヘモリチカス(Vibrio parahaemolyticus)、及びビブリオ・ファニシイ(Vibrio furnissii)が挙げられる。
【0031】
本実施形態に係る抗グラム陰性菌化合物が抗菌作用を示す真菌の例としては、トリコフィトン属菌が挙げられる。トリコフィトン属菌の例としては、白癬菌(紅色菌)(Trichophyton rubrum)、毛瘡菌、趾間菌(Trichophyton mentagrophytes)、トリコフィトン(Trichophyton spp.)、及びトリコフィトン・ベルコーズム(Trichophyton verrucosum)が挙げられる。
【0032】
本実施形態に係る抗グラム陰性菌化合物が抗菌作用を示すグラム陽性菌の例としては、バシラス属菌が挙げられる。バシラス属菌の例としては、枯草菌(Bacillus subtilis)、セレウス菌(Bacillus cereus)、炭疸菌(Bacillus anthracis)、及びバシラス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)が挙げられる。枯草菌は、醤油や味噌の製造過程で有害である。
【0033】
本実施形態に係る抗グラム陰性菌化合物は、例えば枯草菌から産生される。本実施形態に係る抗グラム陰性菌化合物は、グラム陽性菌である枯草菌由来であるが、グラム陰性菌及び真菌に対して、グラム陽性菌に対する抗菌作用と同等の抗菌作用を有する。そのため、本実施形態に係る抗グラム陰性菌化合物は、グラム陰性菌に対する抗菌作用を補助する処置と併用されなくともよい。
【0034】
グラム陰性菌に対する抗菌作用を補助する処置としては、食品保存料等の保存料の添加が挙げられる。保存料としては、キレート剤、界面活性剤、酸及び塩が挙げられる。キレート剤の例としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)が挙げられる。界面活性剤の例としてはTween 80が挙げられる。酸及び塩の例としては、乳酸、クエン酸、ピロリン酸、グルコン酸、酢酸、ニトリロ三酢酸、次亜塩素酸、ソルビン酸、安息香酸及びポリリン酸(polyphosphoric acid)、並びにそれらの塩や、リン酸三ナトリウム(tri-sodium phosphate)が挙げられる。
【0035】
保存料は、グラム陰性菌の外膜を不安定化すると考えられている。従来、グラム陽性菌由来のバクテリオシンでグラム陰性菌を殺菌するためには、このような保存料との併用が必要と考えられていた。これに対し、本実施形態に係る抗グラム陰性菌化合物は、保存料と併用されなくても、グラム陰性菌に対する有効な抗菌作用を示すことが可能である。
【0036】
また、グラム陰性菌に対する抗菌作用を補助する処置としては、植物精製油(plant essential oil)の添加が挙げられる。植物精製油の例としては、オレガノ精製油及びタイム精製油が挙げられる。植物精製油に含まれるチモールやカルバクロールが、グラム陰性菌の外膜を不安定化すると考えられている。しかし、本実施形態に係る抗グラム陰性菌化合物は、植物精製油と併用されなくても、グラム陰性菌に対する有効な抗菌作用を示すことが可能である。
【0037】
また、グラム陰性菌に対する抗菌作用を補助する処置としては、高圧処理が挙げられる。高圧処理とは、例えば、30MPa以上の圧力を加える処理である。高圧処理が、グラム陰性菌の外膜を不安定化すると考えられている。しかし、本実施形態に係る抗グラム陰性菌化合物は、高圧処理と併用されなくても、グラム陰性菌に対する有効な抗菌作用を示すことが可能である。
【0038】
また、グラム陰性菌に対する抗菌作用を補助する処置としては、高温及び低温処理が挙げられる。高温及び低温処理が、グラム陰性菌の外膜を不安定化すると考えられている。また、グラム陰性菌に対する抗菌作用を補助する処置としては、パルス電界処理が挙げられる。パルス電界処理は、グラム陰性菌の温度を上げるため、高温処理と同様の効果があると考えられる。しかし、本実施形態に係る抗グラム陰性菌化合物は、高温処理、低温処理、又はパルス電界処理と併用されなくても、グラム陰性菌に対する有効な抗菌作用を示すことが可能である。
【0039】
本実施形態に係る抗グラム陰性菌化合物を産生可能な枯草菌は、例えば、図1(a)及び配列番号1に示すバクテリオシンの生産遺伝子を有する。配列番号1において、1位から72位は、リーダーペプチドをコードしている。当該リーダーペプチドをコードしている部分を除いた遺伝子配列を配列番号2に示す。本実施形態に係る抗グラム陰性菌化合物を産生可能な枯草菌は、配列番号2に示す遺伝子配列を有していてもよい。
【0040】
図1(a)及び配列番号1に示す生産遺伝子が転写、翻訳され、図1(b)及び配列番号3に示すバクテリオシンのプレペプチドが産生される。配列番号3において、1位から24位は、リーダーペプチドである。当該リーダーペプチドを除いたアミノ酸配列を配列番号4に示す。
【0041】
図1(b)及び配列番号3に示すバクテリオシンのプレペプチドが翻訳後修飾され、リーダーペプチドが切断されることにより、図1(c)及び上記化学式2に示す配列を有する活性型ペプチドが産生される。
【0042】
配列番号4に示すプレペプチドの3位のセリンが、活性型ペプチドではアラニンに置換される。配列番号4に示すプレペプチドの5位のセリンが、活性型ペプチドではデヒドロアラニンに置換される。配列番号4に示すプレペプチドの7位のシステインが、活性型ペプチドではアラニンに置換される。配列番号4に示すプレペプチドの8位のトレオニンが、活性型ペプチドではアミノ酪酸に置換される。
【0043】
配列番号4に示すプレペプチドの11位のシステインが、活性型ペプチドではアラニンに置換される。配列番号4に示すプレペプチドの13位のトレオニンが、活性型ペプチドではアミノ酪酸に置換される。配列番号4に示すプレペプチドの18位のトレオニンが、活性型ペプチドではデヒドロブチリンに置換される。配列番号4に示すプレペプチドの19位のシステインが、活性型ペプチドではアラニンに置換される。
【0044】
配列番号4に示すプレペプチドの23位のトレオニンが、活性型ペプチドではアミノ酪酸に置換される。配列番号4に示すプレペプチドの25位のトレオニンが、活性型ペプチドではアミノ酪酸に置換される。配列番号4に示すプレペプチドの26位のシステインが、活性型ペプチドではアラニンに置換される。配列番号4に示すプレペプチドの28位のシステインが、活性型ペプチドではアラニンに置換される。配列番号4に示すプレペプチドの31位のセリンが、活性型ペプチドではデヒドロアラニンに置換される。
【0045】
活性型ペプチドにおいては、配列番号4に示すプレペプチドの3位のセリンに対応するアラニンと、配列番号4に示す7位のシステインに対応するアラニンと、が、チオエーテル結合して、ランチオニンをなしている。
【0046】
活性型ペプチドにおいては、配列番号4に示すプレペプチドの8位のトレオニンに対応するアミノ酪酸と、配列番号4に示す11位のシステインに対応するアラニンと、が、チオエーテル結合して、3-メチルランチオニンをなしている。
【0047】
活性型ペプチドにおいては、配列番号4に示すプレペプチドの13位のトレオニンに対応するアミノ酪酸と、配列番号4に示す19位のシステインに対応するアラニンと、が、チオエーテル結合して、3-メチルランチオニンをなしている。
【0048】
活性型ペプチドにおいては、配列番号4に示すプレペプチドの23位のトレオニンに対応するアミノ酪酸と、配列番号4に示す26位のシステインに対応するアラニンと、が、チオエーテル結合して、3-メチルランチオニンをなしている。
【0049】
活性型ペプチドにおいては、配列番号4に示すプレペプチドの25位のトレオニンに対応するアミノ酪酸と、配列番号4に示す28位のシステインに対応するアラニンと、が、チオエーテル結合して、3-メチルランチオニンをなしている。
【0050】
本実施形態に係る抗グラム陰性菌化合物を産生可能な枯草菌の一つであるBacillus subtilis MT2株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構(日本、郵便番号292-0818、千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に国際寄託されており、受託番号はNITE BP-02767である。Bacillus subtilis MT2株は、2018年8月22日(国内寄託日)に、独立行政法人製品評価技術基盤機構(日本)に国内寄託されており、2018年10月4日に、独立行政法人製品評価技術基盤機構(日本)に対し、ブダペスト条約に基づく国際寄託への移管請求をした。
【0051】
本実施形態に係る抗グラム陰性菌化合物は、医薬品に含有されてもよい。本実施形態に係る抗グラム陰性菌化合物を含有する医薬品は、グラム陰性菌、グラム陽性菌及び真菌の消毒薬として使用可能である。また、本実施形態に係る抗グラム陰性菌化合物を含有する医薬品は、肺炎、食中毒及び腸炎の治療薬として使用可能である。さらに、本実施形態に係る抗グラム陰性菌化合物を含有する医薬品は、白癬、カンジダ症、クリプトコックス症、及びアスペルギルス症等の真菌症の治療薬として使用可能である。
【0052】
医薬品は、有効量の本実施形態に係る抗グラム陰性菌化合物を含む。有効量とは、抗菌作用を奏するために必要な量であり、対象とする菌、症状、患者の年齢、患者の体重、及び患者の性別等によって適宜決定される。
【0053】
本実施形態に係る抗グラム陰性菌化合物を含有する医薬品は、例えば、錠剤、カプセル、液体、クリーム、軟膏、硬膏、ジェル、ワックス、及びスプレーであってもよい。また、本実施形態に係る抗グラム陰性菌化合物を含有する医薬品は、例えば、消毒薬、内服薬、塗布治療薬等の皮膚外用薬、及び点眼剤として供される。本実施形態に係る抗グラム陰性菌化合物を含有する医薬品は、例えば、腸等の内蔵、手足指を含む人体の皮膚、毛、口腔、及び眼球等に適用される。また、本実施形態に係る抗グラム陰性菌化合物を含有する消毒薬は、例えば、食品、調理器具、病院等の建物の壁や床、及び机等の家具にも適用される。
【0054】
本実施形態に係る抗グラム陰性菌化合物を含有する医薬品は、液体油脂、固体油脂、ロウ、炭化水素、高級脂肪酸、高級アルコール、エステル、シリコーン、保湿剤、水溶性高分子、増粘剤、被膜剤、金属イオン封鎖剤、低級アルコール、多価アルコール、糖類、アミノ酸類、有機アミン類、pH調整剤、皮膚栄養剤、ビタミン類、香料、粉体、色材、及び水等の医薬品の配合成分を目的に応じて適宜含んでいてもよい。
【0055】
本実施形態に係る抗グラム陰性菌化合物は、飲料又は食料に含有されてもよい。また、本実施形態に係る抗グラム陰性菌化合物は、歯磨き粉及び口腔清浄剤等に含有されてもよい。
【0056】
本実施形態に係る抗グラム陰性菌化合物を産生することができる枯草菌は、医薬品、飲料又は食品に含有されてもよい。例えば、医薬品、飲料又は食品に含有される枯草菌が抗グラム陰性菌化合物を産生し、グラム陰性菌、真菌、及びグラム陽性菌に対し抗菌作用を発揮する。本実施形態に係る抗グラム陰性菌化合物を産生することができる枯草菌を含有する医薬品の対象疾患、形状、及び用法等は、本実施形態に係る抗グラム陰性菌化合物を含有する医薬品と同様である。
【0057】
Bacillus subtilis MT2株(受託番号:NITE BP-02767)は、医薬品、飲料又は食品に含有されてもよい。Bacillus subtilis MT2株(受託番号:NITE BP-02767)を含有する医薬品の対象疾患、形状、及び用法等は、本実施形態に係る抗グラム陰性菌化合物を含有する医薬品と同様である。
【0058】
本実施形態に係る抗グラム陰性菌化合物は、例えば、枯草菌を培地中で培養し、枯草菌が培地中に産生した上記化学式2に示すアミノ酸配列を有するペプチドを採取することにより製造されてもよい。培地からペプチドを採取、精製する方法は、特に限定されない。本実施形態に係る抗グラム陰性菌化合物は、化学的に合成されてもよい。
【0059】
以上のとおり、本発明の各実施形態に係る抗グラム陰性菌化合物等は、上述したいずれか1つ又は複数の組み合わせによる以下の例による構成及び作用効果を有する。
【0060】
本実施形態に係る抗グラム陰性菌化合物は、上記化学式2に示すアミノ酸配列を有する、抗グラム陰性菌化合物である。本実施形態に係る抗グラム陰性菌化合物は、グラム陰性菌、グラム陽性菌、及び真菌に対して抗菌作用を有する。
【0061】
本実施形態に係る抗グラム陰性菌化合物は、枯草菌(Bacillus subtilis)から産生されてもよい。また、本実施形態に係る抗グラム陰性菌化合物は、Bacillus subtilis MT2株(受託番号:NITE BP-02767)から産生されてもよい。本実施形態に係る抗グラム陰性菌化合物は、グラム陽性菌である枯草菌由来であるにも関わらず、グラム陰性菌に対して抗菌作用を有する。
【0062】
本実施形態に係る抗グラム陰性菌化合物が抗菌作用を示すグラム陰性菌は、ビブリオ属細菌であってもよい。ビブリオ属細菌は腸炎ビブリオであってもよい。
【0063】
本実施形態に係る抗グラム陰性菌化合物が抗菌作用を示すグラム陰性菌が抗菌作用を示す真菌は、トリコフィトン属菌であってもよい。トリコフィトン属菌は、白癬菌と、毛瘡菌又は趾間菌と、であってもよい。
【0064】
本実施形態に係る抗グラム陰性菌化合物は、グラム陰性菌に対する抗菌作用を補助する処置と併用されなくともよい。グラム陰性菌に対する抗菌作用を補助する処置が、保存料の添加であってもよい。保存料が、キレート剤であってもよい。本実施形態に係る抗グラム陰性菌化合物は、グラム陰性菌に対する抗菌作用を補助する処置と併用されなくとも、グラム陽性菌に対する抗菌作用と同等の、グラム陰性菌に対する抗菌作用を有する。
【0065】
本実施形態に係る抗グラム陰性菌薬は、上記の抗グラム陰性菌化合物を含んでいてもよい。本実施形態に係る飲料又は食料は、上記の抗グラム陰性菌化合物を含んでいてもよい。
【0066】
本実施形態に係る枯草菌(Bacillus subtilis)は、上記化学式2に示すアミノ酸配列を有する化合物を産生することができる枯草菌であってもよい。
【0067】
本実施形態に係る抗グラム陰性菌薬は、上記化学式2に示すアミノ酸配列を有する化合物を産生することができる枯草菌を含んでいてもよい。本実施形態に係る飲料又は食料は、上記化学式2に示すアミノ酸配列を有する化合物を産生することができる枯草菌を含んでいてもよい。
【0068】
本実施形態に係る枯草菌は、Bacillus subtilis MT2株(受託番号:NITE BP-02767)であってもよい。
【0069】
本実施形態に係る抗グラム陰性菌薬は、上記のBacillus subtilis MT2株(受託番号:NITE BP-02767)を含んでいてもよい。本実施形態に係る飲料又は食料は、上記のBacillus subtilis MT2株(受託番号:NITE BP-02767)を含んでいてもよい。
【0070】
本実施形態に係る抗グラム陰性菌化合物の製造方法は、枯草菌(Bacillus subtilis)を培養することと、枯草菌が産生した上記化学式2に示すアミノ酸配列を有する化合物を採取することと、を含んでいてもよい。
【0071】
本実施形態に係る抗グラム陰性菌化合物の製造方法は、Bacillus subtilis MT2株(受託番号:NITE BP-02767)を培養することと、Bacillus subtilis MT2株(受託番号:NITE BP-02767)が産生した上記化学式2に示すアミノ酸配列を有する化合物を採取することと、を含んでいてもよい。
【0072】
本実施形態は、抗グラム陰性菌薬の製造における上記の抗グラム陰性菌バクテリオシンの使用であってもよい。
【0073】
本実施形態は、抗グラム陰性菌薬の製造における上記化学式2に示すアミノ酸配列を有する化合物を産生することができる枯草菌の使用であってもよい。
【0074】
本実施形態は、抗グラム陰性菌薬の製造におけるBacillus subtilis MT2株(受託番号:NITE BP-02767)の使用であってもよい。
【0075】
本実施形態に係る腸炎の治療方法は、上記の抗グラム陰性菌化合物を患者に投与することを含んでいてもよい。本実施形態に係る腸炎の治療方法は、上記化学式2に示すアミノ酸配列を有する化合物を産生することができる枯草菌を患者に投与することを含んでいてもよい。本実施形態に係る腸炎の治療方法は、Bacillus subtilis MT2株(受託番号:NITE BP-02767)を患者に投与することを含んでいてもよい。腸炎が食中毒であってもよい。
【0076】
なお、以上説明した各実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更/改良され得るととともに、本発明にはその等価物も含まれる。すなわち、各実施形態に当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、各実施形態が備える各要素、材料、条件、及び形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、各実施形態は例示であり、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもなく、これらも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【実施例
【0077】
以下に本発明の実施例を説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されないことはもちろんである。
【0078】
(実施例1:ヨモギ発酵液の調製)
ヨモギの葉においては、一日のうち、日の出時間を挟む前後1時間、合計2時間の間に、乳酸菌の数が最大化するとされている。また、この時間帯以外においては、乳酸菌が減少し、光合成菌が増加するとされている。したがって、この2時間の間に、ヨモギの葉の先端から約20cmの部分を採取した。採取した6.3kgのヨモギの葉を、すぐさま、中にビニールの袋を敷いた第1の漬物樽に入れ、ヨモギの葉に、3.2kgの糖蜜と0.6kgの粗塩を振りかけた後、ビニール袋の口を閉じて密封した。ビニール袋の上から、重石を載せ、ヨモギの葉を漬け込んだ。
【0079】
漬け汁がヨモギの葉の上まで上がった数日後、重石を外した。次に、第2の漬物樽に、すすぎ洗い出し用の塩素を含まない10Lの水を入れ、水の中に、ヨモギの葉の漬物と、10kgの漬け汁を入れた。さらに、第3の漬物樽を用意し、第3の漬物樽の開口上に金網フィルターを載せた。第2の漬物樽から、手でもみ洗いしながら少しずつヨモギの葉を取り出し、第3の漬物樽の開口上の金網フィルターにヨモギの葉を軽く掌で押さえて、漬け汁を絞った。
【0080】
ヨモギの葉を全て絞った後、第2の漬物汁に残っていた漬け汁を金網フィルターに通してろ過した。次に、第3の漬物樽の中の漬け汁に、糖蜜(波照間黒糖)を終濃度が10重量%となるよう、また粗塩を終濃度が3重量%となるよう溶かし入れた。その後、第3の漬物樽の周囲温度を約30℃にすることにより、発酵を開始させた。最初に大きな泡の発泡が確認され、徐々に細かい泡の発泡に変わっていき、最後に発泡が収まった。約1週間後、発泡が収まった時のpHは、3.8付近であった。このときの漬け汁を、ヨモギ発酵液とした。
【0081】
(実施例2:枯草菌の調製)
ラクトバチリMRS培地(:プロテオースペプトン1%、牛肉エキス1%、酵母エキス0.5%、ブドウ糖2%、Tween 80 0.1%、クエン酸アンモニウム0.5%、硫酸マグネシウム0.01%、硫酸マンガン0.005%、リン酸二カリウム0.2%、ディフコ社製)にヨモギ発酵液を滴下し、ヨモギ発酵液に含まれる細菌を培地中で培養し、必要に応じて数回の継代培養を行った。その後、培養された細菌を、ラクトバチリMRS寒天培地(上記のMRS培地に寒天3%を添加した培地)に塗抹培養し、生じたコロニーから細菌を採取した。
【0082】
次に、採取した細菌から、有胞子性乳酸菌であるバチルス・コアグランス(Bacillus coagulans)に対する抗菌活性を指標として、Spot on lawn検定法によって、抗菌性物質生産能を有する株を、Bacillus subtilis MT2株として選択した。選択したBacillus subtilis MT2株の菌学的性質を調べたところ、16SリボソームDNA(rDNA)の塩基配列の相同性の解析により、枯草菌(Bacillus subtilis)と同定された。
【0083】
Bacillus subtilis MT2株の全ゲノム配列と、既存の枯草菌株の一種であるBacillus subtilis subsp. subtilis 168の全ゲノム配列と、の相同値の平均値を、ANI(Average Nucleotide Identity)法で算出したところ、図2に示すように、98.5%であり、1.5%異なっていた。
【0084】
Bacillus subtilis MT2株の全ゲノム配列と、既存の枯草菌株の一種であるBacillus subtilis subsp. subtilis 6051-HGWの全ゲノム配列と、の相同値の平均値を、ANI法で算出したところ、図3に示すように、98.49%であり、1.51%異なっていた。
【0085】
Bacillus subtilis MT2株の全ゲノム配列と、既存の枯草菌株の一種であるBacillus subtilis subsp. spizizenii W23の全ゲノム配列と、の相同値の平均値を、ANI法で算出したところ、図4に示すように、92.03%であり、7.97%異なっていた。
【0086】
Bacillus subtilis MT2株の全ゲノム配列と、既存の枯草菌株の一種であるBacillus tequilensis FJAT-14262aの全ゲノム配列と、の相同値の平均値を、ANI法で算出したところ、図5に示すように、98.49%であり、1.51%異なっていた。
【0087】
以上示した既存の枯草菌株との比較から、Bacillus subtilis MT2株は枯草菌の新株であると考えられた。Bacillus subtilis MT2株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構(日本)に国際寄託されて、受託番号:NITE BP-02767が付与された。Bacillus subtilis MT2株は、配列番号1、2に示す遺伝子配列を有していた。
【0088】
(実施例3:バクテリオシンの調製)
Bacillus subtilis MT2株を、ラクトバチリMRS培地中、35℃以上37℃以下で好気的に3日間、振とう培養した。その後、菌体を含む培地を、10000rpmで、20分間、25℃で遠心分離した。さらに、遠心分離された培地を、目開き0.45μmの滅菌フィルターでろ過して菌体を除去し、培養上澄液を得た。
【0089】
逆相シリカゲルカートリッジ(Sep-Pac C18、ミリポア社製)を用いて、培養上澄液に含まれていたバクテリオシンを濃縮した。さらに、Sephasil Peptide C185μST(ファルマシア社製)を用いた逆相カラムクロマトグラフィーによって、活性バクテリオシン画分を分画した。
【0090】
マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計(MALDI-TOFMS ultrafleX III、ブルカー社製)を用いて、分画された活性バクテリオシンの質量分析を行ったところ、図6に示すように、精密分子量は約3346であった。なお、ターゲットプレートには、MTP384 ground steel (Bruker daltonics)を使用した。また、マトリックスとしては、種々検討したうえで、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸(HCCA)を使用した。分画された活性バクテリオシンのアミノ酸配列を解析したところ、上記化学式2に示すアミノ酸配列を有していた。
【0091】
(実施例4:バクテリオシンの抗菌活性)
グラム陽性菌として枯草菌(Bacillus subtilis, NBRC 3134)、グラム陰性菌として腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus, 12711T)を用意した。実施例3で調製した活性バクテリオシンを含む、pHが7.8の10mLの液に、上記の菌のいずれかを10個/mLの濃度で含む0.1mLの菌液を接種し、25℃で24時間後の菌の生菌数を測定した。また、コントロールとして、濃度が0.067mol/L、pH7.2の10mLのリン酸緩衝液に0.1mLの腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus, 12711T)の菌液を接種し、25℃で24時間後の菌の生菌数を測定した。その結果、図7に示すように、活性バクテリオシンは、枯草菌及び腸炎ビブリオの両方を同程度減少させた。
【0092】
さらに、真菌として白癬菌(Trichophyton mentagrophytes, NBRC 6124) を用意した。実施例3で調製した活性バクテリオシンを含む、pHが7.8の10mLの液に、白癬菌を10個/mLの濃度で含む0.1mLの菌液を接種し、25℃で24時間後の菌の生菌数を測定した。また、コントロールとして、濃度が0.067mol/L、pH7.2の10mLのリン酸緩衝液に0.1mLの白癬菌(Trichophyton mentagrophytes, NBRC 6124)の菌液を接種し、25℃で24時間後の菌の生菌数を測定した。その結果、図8に示すように、活性バクテリオシンは、白癬菌を減少させた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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