(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】コイル部品、回路基板、電子機器、及びコイル部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 17/04 20060101AFI20241217BHJP
H01F 41/04 20060101ALI20241217BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20241217BHJP
H01F 1/26 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
H01F17/04 F
H01F41/04 B
H01F1/147 166
H01F1/26
(21)【出願番号】P 2021030452
(22)【出願日】2021-02-26
【審査請求日】2024-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126572
【氏名又は名称】村越 智史
(72)【発明者】
【氏名】松浦 準
【審査官】五貫 昭一
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-121006(JP,A)
【文献】特開2021-163853(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/04
H01F 41/04
H01F 1/147
H01F 1/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイル軸の周りに延びるコイル導体と、
第1弾性限界及び第1比透磁率を有する第1金属磁性粒子と、前記第1弾性限界よりも小さな第2弾性限界及び前記第1比透磁率よりも低い第2比透磁率を有する第2金属磁性粒子と、前記第1金属磁性粒子の表面を覆い前記コイル軸に沿う第1方向における第1厚さが前記第1方向に垂直な第2方向における第2厚さよりも厚くなるように構成された磁気ギャップ部と、を有しており、前記コイル軸を含むように配置される磁性基体と、
を備えるコイル部品。
【請求項2】
前記磁気ギャップ部は、空隙及び樹脂の少なくとも一方で構成されており、前記第1金属磁性粒子の前記第1方向における一方の端部を覆う第1磁気ギャップ要素を有する、
請求項1に記載のコイル部品。
【請求項3】
前記第1磁気ギャップ要素は、前記コイル軸を通る平面で前記磁性基体を切断した断面で観察したときに、前記第1金属磁性粒子の周長の1/16以上1/2未満の長さに亘って前記第1金属磁性粒子の周方向に延在している、
請求項
2に記載のコイル部品。
【請求項4】
前記磁気ギャップ部は、前記第1金属磁性粒子に含有される元素の酸化物を含む第2磁気ギャップ要素を有する、
請求項1又は2に記載のコイル部品。
【請求項5】
前記第2磁気ギャップ要素の前記第1方向における厚さは、前記第2磁気ギャップ要素の前記第2方向における厚さよりも厚い、
請求項4に記載のコイル部品。
【請求項6】
前記コイル軸を通る平面で前記磁性基体を切断した断面で観察した場合に、前記磁気ギャップ部の前記第1方向における寸法は、前記第1金属磁性粒子の前記第1方向における寸法の0.5%以上4.0%以下である、
請求項1から5のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項7】
前記第1金属磁性粒子及び前記第2金属磁性粒子はいずれもFe-Si系合金から構成されており、
前記第1金属磁性粒子におけるSiの含有比率は、前記第2金属磁性粒子におけるSiの含有比率よりも多い、
請求項1から6のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項8】
前記第1金属磁性粒子におけるFeの含有比率は、前記第2金属磁性粒子におけるFeの含有比率よりも少ない、
請求項7に記載のコイル部品。
【請求項9】
前記磁性基体において、前記第1金属磁性粒子と前記第2金属磁性粒子の合計体積に対する前記第1金属磁性粒子の体積比率は、10~65vol%の範囲にある、
請求項1から8のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項10】
前記磁性基体は、前記第1金属磁性粒子及び前記第2金属磁性粒子を含む素体を前記第1方向に加圧することで成形される、
請求項1から9のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項11】
前記磁気ギャップ部は、空隙及び樹脂の少なくとも一方で構成されており、前記第1方向における前記第1金属磁性粒子の他方の端部を覆う他の第1磁気ギャップ要素を有する、
請求項1から10のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか1項に記載のコイル部品を備える回路基板。
【請求項13】
請求項12の回路基板を備える電子機器。
【請求項14】
コイル軸の周りに延びるコイル導体が設置された金型キャビティに第1比透磁率を有する第1金属磁性粒子と前記第1比透磁率よりも低い第2比透磁率を有する第2金属磁性粒子とを含む磁性材料を充填し、前記磁性材料を前記第1金属磁性粒子の弾性限界より小さく前記第2金属磁性粒子の弾性限界よりも大きな成形圧力で前記コイル軸に沿う方向に加圧して成形体を形成する工程と、
前記成形圧力を除荷した後に前記成形体を熱処理して磁性基体を形成する工程と、
を備えるコイル部品の製造方法。
【請求項15】
第1比透磁率を有する第1金属磁性粒子と前記第1比透磁率よりも低い第2比透磁率を有する第2金属磁性粒子とを含む混合磁性材料から複数の磁性体シートを作製する工程と、
前記複数の磁性体シートの各々の表面に導電パターンを形成する工程と、
前記導電パターンが形成された前記複数の磁性体シートを積層方向に積層して
前記導電パターン同士を電気的に接続し、前記積層方向に沿ってコイル軸を有する積層体を形成する工程と、
前記第1金属磁性粒子の弾性限界より小さく前記第2金属磁性粒子の弾性限界よりも大きな圧力で前記積層方向に前記積層体を加圧することにより成形体を形成する工程と、
前記成形圧力を除荷した後に前記成形体を熱処理して磁性基体を形成する工程と、
を備えるコイル部品の製造方法。
【請求項16】
第1比透磁率を有する第1金属磁性粒子と前記第1比透磁率よりも低い第2比透磁率を有する第2金属磁性粒子とを含む混合磁性材料に、前記第1金属磁性粒子の弾性限界より小さく前記第2金属磁性粒子の弾性限界よりも大きな成形圧力で一軸方向に成形圧力を加えて成形体を形成する工程と、
前記成形体を熱処理して磁性基体を形成する工程と、
前記磁性基体に前記一軸方向の周りに延びるようにコイル導体を設ける工程と、
を備えるコイル部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の開示は、コイル部品、回路基板、電子機器、及びコイル部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、複数種類の金属磁性粒子を含む磁性基体を備えるコイル部品が知られている。例えば、特開昭63-271905号公報には、硬いFe-Si-Al系合金から成る金属磁性粒子とFe-Si-Al系合金よりも柔らかい純鉄粉末とを混合した混合粒子を加圧成形することにより、高透磁率で直流重畳特性に優れた磁性基体を作製できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、コイル部品における磁性基体を加圧成形により作製する場合には、金属磁性粒子の充填密度を上げて高い透磁率が実現できるように高い成形圧力が用いられている。例えば、特許文献1では、20ton/cm2の成形圧力が用いられている。このような高い成形圧力により金属磁性粒子は塑性変形し、加圧成形後の磁性基体においては隣接する金属磁性粒子同士が密着している。このようなコイル部品において電流印加時に発生する磁束は、比透磁率が高い磁性材料から成る高透磁率粒子を選好して通過する。このため、コイル導体に流れる直流電流が増えると、磁束が通過する磁性基体内の複数の磁路のうち高透磁率粒子の存在比率が高い磁路から順に磁気飽和が起こる。
【0005】
このように、2種類以上の互いに比透磁率が異なる磁性材料から構成された金属磁性粒子を含む従来の磁性基体においては、磁気飽和が起こりやすい磁路と起こりにくい磁路とがある。このため、コイル導体に流れる直流電流が増えると、複数の磁路のうち磁気飽和が起こりやすい磁路から順に段階的に磁気飽和が発生して、コイル部品のインダクタンスが徐々に低下する。このため、2種類以上の互いに比透磁率が異なる磁性材料から構成された金属磁性粒子を含み高い成形圧力で成形された磁性基体においては、高い直流重畳特性を実現することが困難である。
【0006】
他方、成形圧力が低いと、磁性基体における金属磁性粒子の充填率が低くなるため、高いインダクタンスを実現することが難しい。
【0007】
本発明の目的は、上述した問題の少なくとも一部を解決又は緩和することである。より具体的な本発明の目的の一つは、2種類以上の互いに比透磁率が異なる磁性材料から構成された金属磁性粒子を含む磁性基体を備えるコイル部品における直流重畳特性を改善することである。
【0008】
より具体的な本発明の目的の一つは、2種類以上の互いに比透磁率が異なる磁性材料から構成された金属磁性粒子を含む磁性基体を備えるコイル部品において、高い透磁率と高い直流重畳特性とを両立させることである。
【0009】
本明細書に開示される発明の前記以外の目的は、本明細書全体を参照することにより明らかになる。本明細書に開示される発明は、前記の課題に代えて又は前記の課題に加えて、本明細書の記載から把握される課題を解決するものであってもよい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によるコイル部品は、コイル軸の周りに延びるコイル導体と、当該コイル軸を含むように配置される磁性基体と、を備える。当該磁性基体は、第1弾性限界及び第1比透磁率を有する第1金属磁性粒子と、前記第1弾性限界よりも小さな第2弾性限界及び前記第1比透磁率よりも低い第2比透磁率を有する第2金属磁性粒子と、前記第1金属磁性粒子の表面を覆い前記コイル軸に沿う第1方向における第1厚さが前記第1方向に垂直な第2方向における第2厚さよりも厚くなるように構成された磁気ギャップ部と、を有する。
【0011】
本発明の一態様において、前記磁気ギャップ部は、空隙及び樹脂の少なくとも一方で構成されており、前記第1金属磁性粒子の前記第1方向における一方の端部を覆う第1磁気ギャップ要素を有する。
【0012】
本発明の一態様において、前記第1磁気ギャップ要素は、前記コイル軸を通る平面で前記磁性基体を切断した断面で観察したときに、前記第1金属磁性粒子の周長の1/16以上1/2未満の長さに亘って前記第1金属磁性粒子の周方向に延在している。
【0013】
本発明の一態様において、前記磁気ギャップ部は、前記第1金属磁性粒子に含有される元素の酸化物を含む第2磁気ギャップ要素を有する。
【0014】
本発明の一態様において、前記第2磁気ギャップ要素の前記第1方向における厚さは、前記第2磁気ギャップ要素の前記第2方向における厚さよりも厚い。
【0015】
本発明の一態様において、前記コイル軸を通る平面で前記磁性基体を切断した断面で観察した場合、前記磁気ギャップ部の前記第1方向における寸法は、前記第1金属磁性粒子の前記第1方向における寸法の0.5%以上4.0%以下である。
【0016】
本発明の一態様において、前記第1金属磁性粒子及び前記第2金属磁性粒子はいずれもFe-Si系合金から構成されており、前記第1金属磁性粒子におけるSiの含有比率は、前記第2金属磁性粒子におけるSiの含有比率よりも多い。
【0017】
本発明の一態様において、前記第1金属磁性粒子におけるFeの含有比率は、前記第2金属磁性粒子におけるFeの含有比率よりも少ない。
【0018】
本発明の一態様による磁性基体において、前記第1金属磁性粒子と前記第2金属磁性粒子の合計体積に対する前記第1金属磁性粒子の体積比率は、10~65vol%の範囲にある。
【0019】
本発明の一態様において、前記磁性基体は、前記第1金属磁性粒子及び前記第2金属磁性粒子を含む素体を前記第1方向に加圧することで成形される。
【0020】
本発明の一態様において、前記磁気ギャップ部は、空隙及び樹脂の少なくとも一方で構成されており、前記第1方向における前記第1金属磁性粒子の他方の端部を覆う他の第1磁気ギャップ要素を有する。
【0021】
本発明の一態様による回路基板は、上記のいずれかのコイル部品を備える。
【0022】
本発明の一態様による電子機器は、上記の回路基板を備える。
【0023】
本発明の一態様は、コイル部品の製造方法に関する。本発明の一態様による製造方法は、コイル軸の周りに延びるコイル導体が設置された金型キャビティに第1比透磁率を有する第1金属磁性粒子と前記第1比透磁率よりも低い第2比透磁率を有する第2金属磁性粒子とを含む磁性材料を充填し、前記磁性材料を前記第1金属磁性粒子の弾性限界より小さく前記第2金属磁性粒子の弾性限界よりも大きな成形圧力で前記コイル軸に沿う方向に加圧して成形体を形成する工程と、前記成形圧力を除荷した後に前記成形体を熱処理して磁性基体を形成する工程と、を備える。
【0024】
本発明の一態様による製造方法は、第1比透磁率を有する第1金属磁性粒子と前記第1比透磁率よりも低い第2比透磁率を有する第2金属磁性粒子とを含む混合磁性材料から複数の磁性体シートを作製する工程と、前記複数の磁性体シートの各々の表面に導電パターンを形成する工程と、前記導電パターンが形成された前記複数の磁性体シートを積層方向に積層して積層体を形成する工程と、前記第1金属磁性粒子の弾性限界より小さく前記第2金属磁性粒子の弾性限界よりも大きな圧力で前記積層方向に前記積層体を加圧することにより成形体を形成する工程と、前記成形圧力を除荷した後に前記成形体を熱処理して磁性基体を形成する工程と、を備える。
【0025】
本発明の一態様による製造方法は、第1比透磁率を有する第1金属磁性粒子と前記第1比透磁率よりも低い第2比透磁率を有する第2金属磁性粒子とを含む混合磁性材料に、前記第1金属磁性粒子の弾性限界より小さく前記第2金属磁性粒子の弾性限界よりも大きな成形圧力で一軸方向に成形圧力を加えて成形体を形成する工程と、前記成形体を熱処理して磁性基体を形成する工程と、前記磁性基体に前記一軸方向の周りに延びるようにコイル導体を設ける工程と、を備える。
【発明の効果】
【0026】
本発明の少なくとも一つの実施形態によれば、2種類以上の互いに比透磁率が異なる磁性材料から構成された金属磁性粒子を含む磁性基体を備えるコイル部品における直流重畳特性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の一実施形態によるコイル部品を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図1のコイル部品のI-I線断面を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図2の磁性基体の領域Aを拡大して模式的に示す図である。
【
図4】
図3の磁性基体の領域Bを拡大して本発明の一実施形態における磁気ギャップ部40を模式的に示す図である。
【
図5】本発明の一実施形態によるコイル部品の製造方法の流れを示すフロー図である。
【
図6】圧縮成形工程における第1金属磁性粒子の弾性変形を説明する模式図である。
【
図7】
図3の磁性基体の領域Bを拡大して本発明の別の実施形態における磁気ギャップ部40を模式的に示す図である。
【
図8】本発明の別の実施形態によるコイル部品を模式的に示す分解斜視図である。
【
図9】本発明のさらに別の実施形態によるコイル部品を模式的に示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、適宜図面を参照し、本発明の様々な実施形態を説明する。なお、複数の図面において共通する構成要素には当該複数の図面を通じて同一の参照符号が付されている。各図面は、説明の便宜上、必ずしも正確な縮尺で記載されているとは限らない点に留意されたい。以下で説明される本発明の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。以下の実施形態で説明されている諸要素が発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0029】
図1及び
図2を参照して本発明の一実施形態によるコイル部品1について説明する。
図1は、コイル部品1を模式的に示す斜視図であり、
図2はコイル部品1を
図1のI-I線で切断した断面を示す模式的な断面図である。図示のように、コイル部品1は、基体10と、基体10に設けられたコイル導体25と、基体10の表面に設けられた外部電極21と、基体10の表面において外部電極21から離間した位置に設けられた外部電極22と、を備える。基体10は、磁性材料を含む。このため、本明細書では、基体10を磁性基体10と呼ぶことがある。
図1では、磁性基体10を透過させて、磁性基体10の内部に設けられたコイル導体25を図示している。
【0030】
本明細書においては、
図1及び
図2に示されている「L軸」、「W軸」、及び「T軸」を基準として各部材の配置、寸法、形状、及びその他の側面を説明することがある。本明細書においては、コイル部品1の「長さ」方向、「幅」方向及び「厚さ」方向はそれぞれ、
図1の「L軸」方向、「W軸」方向及び「T軸」方向とすることがある。「厚さ」方向を「高さ」方向と呼ぶこともある。
【0031】
コイル部品1は、実装基板2aに実装され得る。実装基板2aには、ランド部3a、3bが設けられている。コイル部品1は、外部電極21とランド部3aとを接合し、また、外部電極22とランド部3bとを接続することで実装基板2aに実装される。本発明の一実施形態による回路基板2は、コイル部品1と、このコイル部品1が実装される実装基板2aと、を備える。回路基板2は、様々な電子機器に搭載され得る。回路基板2が搭載され得る電子機器には、スマートフォン、タブレット、ゲームコンソール、自動車の電装品、サーバ及びこれら以外の様々な電子機器が含まれる。
【0032】
コイル部品1は、インダクタ、トランス、フィルタ、リアクトル及びこれら以外の様々なコイル部品であってもよい。コイル部品1は、カップルドインダクタ、チョークコイル及びこれら以外の様々な磁気結合型コイル部品であってもよい。コイル部品1は、例えば、DC/DCコンバータに用いられるパワーインダクタであってもよい。コイル部品1の用途は、本明細書で明示されるものには限定されない。
【0033】
磁性基体10は、磁性材料で構成され、概ね直方体形状を有する。本発明の一実施形態において、磁性基体10は、長さ寸法(L軸方向の寸法)が1.0mm~6.0mm、幅寸法(W軸方向の寸法)が1.0mm~6.0mm、高さ寸法(T軸方向の寸法)が1.0mm~5.0mmとなるように形成されている。磁性基体10の寸法は、本明細書で具体的に説明される寸法には限定されない。本明細書において「直方体」又は「直方体形状」という場合には、数学的に厳密な意味での「直方体」のみを意味するものではない。磁性基体10の寸法及び形状は、本明細書で明示されるものには限定されない。
【0034】
磁性基体10は、第1主面10a、第2主面10b、第1端面10c、第2端面10d、第1側面10e、及び第2側面10fを有する。磁性基体10は、これらの6つの面によってその外面が画定されている。第1主面10aと第の主面10bとはそれぞれ磁性基体10の高さ方向両端の面を成し、第1端面10cと第2端面10dとはそれぞれ磁性基体10の長さ方向両端の面を成し、第1側面10eと第2側面10fとはそれぞれ磁性基体10の幅方向両端の面を成している。
【0035】
図1に示されているように、第1主面10aは磁性基体10の上側にあるため、第1主面10aを「上面」と呼ぶことがある。同様に、第2主面10bを「下面」と呼ぶことがある。コイル部品1は、第2主面10bが基板2と対向するように配置されるので、第2主面10bを「実装面」と呼ぶこともある。コイル部品1の上下方向に言及する際には、
図1の上下方向を基準とする。
【0036】
本発明の一の実施形態において、外部電極21は、磁性基体10の実装面10b及び端面10cに設けられている。外部電極22は、磁性基体10の実装面10b及び端面10dに設けられている。外部電極21、22の形状及び配置は、図示された例には限定されない。外部電極21と外部電極22とは、長さ方向において互いに離間して配置されている。
【0037】
コイル導体25は、厚さ方向(T軸方向)に沿って延びるコイル軸Axの周りに螺旋状に巻回されている。コイル導体25は、その一端において外部電極21と接続されており、その他端において外部電極22と接続されている。図示の実施形態において、コイル導体25は、その両端のみが磁性基体10から露出しており、それ以外の部位は磁性基体10内に設けられている。このように、コイル導体25は、少なくともその一部が磁性基体10に覆われている。図示の実施形態において、コイル軸Axは、第1の主面10a及び第2の主面10bと交わっているが、第1の端面10c、第2の端面10d、第1の側面10e、及び第2の側面10fとは交わっていない。言い換えると、第1の端面10c、第2の端面10d、第1の側面10e、及び第2の側面10fは、コイル軸Axに沿って延びている。
図2の断面は、このコイル軸Axを通る平面で切断した磁性基体10の断面を示している。
【0038】
本発明の一実施形態において、磁性基体10は、複数種類の金属磁性粒子を含む磁性材料から構成される。
図3及び
図4を参照して、磁性基体10の微視的構造を説明する。
図3は、磁性基体10の断面のうち
図2に示されている領域Aを拡大して模式的に示す図であり、
図4は、磁性基体10の断面のうち
図3に示されている領域Bを拡大して模式的に示す図である。
図3に示されているように、一実施形態における磁性基体10は、複数の第1金属磁性粒子31と、複数の第2金属磁性粒子32と、を含む。磁性基体10の断面には、多数の第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32が含まれているので、
図3及び
図4においては、図示されている第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32のうちの一部のみに符号を付している。第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32の表面には、絶縁膜が設けられてもよい。この場合、隣接する金属磁性粒子同士は、絶縁膜を介して互いと結合される。また、この絶縁膜によって隣接する金属磁性粒子同士は互いから電気的に絶縁されている。この絶縁膜は、後述するように、金属磁性粒子の構成元素の酸化物を含む酸化膜であってもよい。複数の第1金属磁性粒子31及び複数の第2金属磁性粒子32のうち隣接するもの同士は、絶縁性の結着材により互いと結合されてもよい。本明細書において、第1金属磁性粒子31と第2金属磁性粒子32とを区別する必要がない場合には、第1金属磁性粒子31と第2金属磁性粒子32とを区別せずに単に金属磁性粒子と呼ぶことがある。
【0039】
第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32はそれぞれ軟磁性材料から成る。一実施形態において第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32はそれぞれFeを主成分とする軟磁性材料から成る。具体的には、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32はそれぞれ、(1)Fe、Ni等の金属粒子、(2)Fe-Si-Cr合金、Fe-Si-Al合金、Fe-Si合金、Fe-Ni合金等の結晶質合金粒子、(3)Fe-Si-B合金、Fe-Si-Cr-B-C合金、Fe-Si-Cr-B合金等のアモルファス合金粒子又は(4)これらが混合された混合粒子である。磁性基体10に含まれる金属磁性粒子の組成は、上記のものに限られない。
【0040】
第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32の各々の材料は、第1金属磁性粒子31の材料の弾性限界が第2金属磁性粒子32の材料の弾性限界よりも大きく、且つ、第1金属磁性粒子31の材料の比透磁率が第2金属磁性粒子32の材料の比透磁率よりも大きくなるように選択される。金属磁性粒子の「弾性限界」は、当該金属磁性粒子に荷重をかけ変形させても、除荷すれば元の形状に戻る応力の限界値を意味する。当業者の通常の用法に従って、荷重をかける前の寸法に対して、除荷後の寸法に残る永久歪みが0.02%以内の変形が弾性限界内の変形と判断される。
【0041】
第1金属磁性粒子31の材料として、Fe基のアモルファス合金を採用することができる。アモルファスは、原子構造がランダムであるため高い弾性限界を有する。上記のとおり、第1金属磁性粒子31の材料として採用することができるアモルファス合金には、Fe-Si-Bアモルファス合金、Fe-Si-Cr-B-Cアモルファス合金、及びFe-Si-Cr-Bのアモルファス合金が含まれる。第2金属磁性粒子32の材料として、純金属の粒子を含むことができる。第1金属磁性粒子31の材料として上記のアモルファスを採用した場合、第2金属磁性粒子32の材料として、例えばカルボニル鉄又は純Niを採用することができる。カルボニル鉄や純Niは、柔らかく、Fe基のアモルファス合金粒子と比べて弾性限界が低い。特に、上述したFe-Si-Bアモルファス合金、Fe-Si-Cr-B-Cアモルファス合金、及びFe-Si-Cr-Bアモルファス合金はいずれも、カルボニル鉄や純Niよりも比透磁率が高い。
【0042】
第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32の材料は、互いに同じ種類の金属元素を異なる含有比率で含む合金であってもよい。例えば、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32をいずれもFe-Si合金の粒子とすることができる。この場合、Siの含有比率を第2金属磁性粒子32におけるSiの含有比率よりも高くすることで、第1金属磁性粒子31の弾性限界を第2金属磁性粒子32の弾性限界よりも大きくし、第1金属磁性粒子31の材料の比透磁率を第2金属磁性粒子32の材料の比透磁率よりも高くすることができる。一実施形態において、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32はいずれもFe-Si-Cr合金の粒子であってもよい。一実施形態において、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32はいずれもFe-Si-Al合金の粒子であってもよい。これらの場合にも、第1金属磁性粒子31におけるSiの含有比率を第2金属磁性粒子32におけるSiの含有比率よりも高くすることで、第1金属磁性粒子31の弾性限界を第2金属磁性粒子32の弾性限界よりも大きくし、第1金属磁性粒子31の材料の比透磁率を第2金属磁性粒子32の材料の比透磁率よりも高くすることができる。
【0043】
このように、第1金属磁性粒子31と第2金属磁性粒子32とは、含有する元素の種類が異なるか、又は、同じ種類の元素から成る場合でもその組成が異なるので、磁性基体10の断面のSEM像にエネルギー分散型X線分光(EDS)を行うことにより第1金属磁性粒子31と第2金属磁性粒子32とを識別することができる。例えば、EDSにより粒子ごとの組成を分析し、鉄のモル比が所定の値よりも低い粒子を第1金属磁性粒子31とすることができる。EDSにより粒子ごとの組成を分析し、Siのモル比が所定の値よりも高い粒子を第1金属磁性粒子31としてもよい。
【0044】
一実施形態において、第2金属磁性粒子32の平均粒径は、当該磁性基体10に含まれる複数の第1金属磁性粒子31の平均粒径よりも小さくてもよい。例えば、第2金属磁性粒子32の平均粒径は、第1金属磁性粒子31の平均粒径の1/2以下、1/3以下、1/4、1/5以下、20/3以下、又は1/10以下とされてもよい。第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32の平均粒径は、磁性基体10をその厚さ方向(T軸方向)に沿って切断して断面を露出させ、当該断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影したSEM像に基づいて粒度分布を求め、このようにして求められた粒度分布に基づいて定められる。例えば、SEM像に基づいて求められた粒度分布の50%値(D50)を金属磁性粒子の平均粒径とすることができる。第1金属磁性粒子31の平均粒径は、例えば1μm~50μmの範囲とすることができ、第2金属磁性粒子32の平均粒径は、例えば0.1μm~20μmの範囲とすることができる。第2金属磁性粒子32の平均粒径が第1金属磁性粒子31の平均粒径よりも小さい場合、隣接する2つの第1金属磁性粒子31の間に第2金属磁性粒子32が入り込み易く、その結果、磁性基体10における金属磁性粒子の充填率(Density)を高めることができる。
【0045】
本発明の一実施形態において、第1金属磁性粒子31の体積及び第2金属磁性粒子32の総体積に対する第1磁性粒子31の全体積の体積比率は、10~65vol%とされてもよい。
【0046】
磁性基体10に含まれる金属磁性粒子は、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32のみには限られない。磁性基体10は、第1金属磁性粒子31に比べて弾性限界が低く、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32のいずれとも異なる弾性限界及び比透磁率を有する第3金属磁性粒子を含んでもよい。
【0047】
磁性基体10は、複数の第1金属磁性粒子31及び複数の第2金属磁性粒子32を含む混合粒子を樹脂及び希釈溶剤と混練して生成した混合樹脂組成物を成形金型内に入れ、この成型金型内の混合樹脂組成物に成形圧力を加えて成形体を作製し、この成形体に熱処理を行うことで作製され得る。成形圧力は、コイル導体25のコイル軸Axの方向(図示の実施形態では、T軸方向)に加えられる。例えば、コイル導体25のコイル軸Axが加圧方向と平行になるようにコイル導体25を成型金型内に設置してインサート成形を行うことにより、コイル導体25のコイル軸Axの方向に成形圧力を加えることができる。
【0048】
混合樹脂組成物中の樹脂は、熱硬化性樹脂であってもよい。熱処理工程により樹脂が硬化されることにより、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32のうち隣接する粒子同士を結着させる結着材となってもよい。この場合、磁性基体10の第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32の間の隙間の少なくとも一部は、硬化した樹脂で充填される。混合樹脂組成物中の樹脂は、熱処理工程において熱分解されてもよい。この場合、完成品の磁性基体10には、樹脂組成物中の樹脂は含まれなくてもよい。
【0049】
第1金属磁性粒子31の周囲には、第1金属磁性粒子31の材料の比透磁率よりも低い比透磁率を有する低透磁率材料から成る磁気ギャップ部40が設けられる。第1金属磁性粒子31の周囲に磁気ギャップ部40が設けられることで、第1金属磁性粒子31と当該第1金属磁性粒子31に隣接する金属磁性粒子(第1金属磁性粒子31及び/又は第2金属磁性粒子32)との間の間隔は、磁気ギャップ部40が設けられていない場合に比べて大きくなる。つまり、磁気ギャップ部40は、第1金属磁性粒子31とその第1金属磁性粒子31に隣接する金属磁性粒子との間に介在している。磁気ギャップ部40は、第1金属磁性粒子31の表面を覆うように設けられる。磁気ギャップ部40は、第1金属磁性粒子31のT軸方向(すなわち、加圧方向)の少なくとも一方の端部に設けられた第1磁気ギャップ要素と、第1金属磁性粒子31の表面全体を覆う第2磁気ギャップ要素と、を含むことができる。第1金属磁性粒子31の表面を覆う第2磁気ギャップ要素は、第1磁気ギャップ要素よりも当該第1金属磁性粒子31の径方向内側に設けられてもよい。第2金属磁性粒子32は、第1金属磁性粒子31の表面に直接接することができる。第1磁気ギャップ要素は、第2ギャップ要素が設けられない場合に、第1金属磁性粒子31に直接接することができる。図示の実施形態においては、第1金属磁性粒子31の表面全体に第2磁気ギャップ要素としての絶縁膜41が設けられ、この絶縁膜41を介して第1金属磁性粒子31のT軸方向(すなわち、加圧方向)の正側の端部に第1磁気ギャップ要素40aが設けられ、負側の端部に磁気ギャップ要素40bが設けられている。このように、ある一つの第1金属磁性粒子31に設けられる第1磁気ギャップ要素は、T軸方向の一端にある第1磁気ギャップ要素40aと他端にある第1磁気ギャップ要素40bとに分割されていてもよい。符号「31」の記載を一部省略したのと同じ趣旨で、
図3及び
図4においては、第1磁気ギャップ要素40a、40bのうちの一部のみに符号を付している。
【0050】
第1磁気ギャップ要素40a、40bは、空隙であってもよいし、樹脂であってもよい。第1磁気ギャップ要素40a、40bのうち一部が空隙で一部が樹脂であってもよい。この場合、空隙と樹脂とを合わせて第1磁気ギャップ要素40a又は第1磁気ギャップ要素40bとする。
【0051】
上述したように、図示の実施形態において、第2磁気ギャップ要素は、第1金属磁性粒子31の表面全体を覆う絶縁膜41である。絶縁膜41は、第1金属磁性粒子31に含有されている元素(例えば、F、Cr、Si、Cr、Al)の酸化物から成る酸化膜であってもよい。第1金属磁性粒子31に含まれる元素の酸化物は、その元素自身よりも比透磁率が小さい。第1金属磁性粒子31に含有されている元素の酸化物を含む絶縁膜は、コイル部品1の製造工程における熱処理時に第1金属磁性粒子31の表面に形成され得る。金属磁性粒子に含まれる絶縁膜41は、絶縁材料から成るコーティング膜であってもよい。このコーティング膜は、例えばゾルゲル法を用いたコートプロセスによって第1金属磁性粒子31の表面に形成された酸化ケイ素を含む薄膜であってもよい。ゾルゲル法により金属磁性粒子の表面に酸化ケイ素から成るコーティング膜を形成するためには、まず、金属磁性粒子、エタノール、及びアンモニア水を含む混合液中に、TEOS(テトラエトキシシラン、Si(OC2H5)4)、エタノール、及び水を含む処理液を混合して混合液を作製し、次に、この混合液を撹拌し、その後にこの攪拌された混合液を濾過する。これにより、各々の表面に酸化ケイ素膜が設けられた金属磁性粒子を混合液から分離することができる。
【0052】
磁気ギャップ部40は、第2磁気ギャップ要素を備えてもよいし、備えなくともよい。例えば、金属磁性粒子同士が熱硬化性樹脂からなる絶縁性の結着材を介して結合される場合には、第1金属磁性粒子31の表面に絶縁膜41は必須ではない。この場合には、磁気ギャップ部40は、第2磁気ギャップ要素を備えなくともよい。
【0053】
磁気ギャップ部40は、第1金属磁性粒子31を構成する材料の比透磁率よりも低い比透磁率を有する上記以外の低透磁率材料から構成されてもよい。
【0054】
本発明の一実施形態において、磁気ギャップ部40のT軸方向における厚さ寸法T21a、21bはそれぞれ、第1金属磁性粒子31のT軸方向における寸法T11の0.5%以上4.0%以下である。磁気ギャップ部40の厚さ寸法T21a、寸法T21bはそれぞれ、100nm~3000nmの範囲であってもよい。寸法T21aは、T軸に平行で第1金属磁性粒子31の断面と重複する線分のうち最も長い線分L1をT軸方向の正側に延長した直線を想定し、この直線のうち磁気ギャップ部40と交わる部分の長さを意味する。例えば、
図4に示されている実施形態において、磁気ギャップ部40の厚さ寸法T21aは、T軸方向における絶縁膜41の厚さとT軸方向における第1磁気ギャップ要素40aの厚さとの合計である。寸法T21bも同様に、線分L1をT軸方向の負側に延長した直線のうち磁気ギャップ部40と交わる部分の長さを意味する。例えば、
図4に示されている実施形態において、磁気ギャップ部40の厚さ寸法T21bは、T軸方向における絶縁膜41の厚さとT軸方向における第1磁気ギャップ要素40bの厚さとの合計である。磁性基体10には複数の第1金属磁性粒子31が含まれており、第1金属磁性粒子31のT軸方向の端部に設けられている磁気ギャップ部40の寸法21a、21bは第1金属磁性粒子31ごとに変わり得ることを考慮して、本明細書では、磁気ギャップ部40の寸法21a、21bを以下のように定める。まず、磁性基体10をT軸方向に沿って切断して断面を露出させ、当該断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により所定の倍率で撮影したSEM像においてEDS分析を行ってこのSEM像に含まれる各粒子の組成を分析し、このSEM像に含まれる全粒子のうち鉄のモル比が低い方から20個の粒子を測定対象の第1金属磁性粒子31とする。測定倍率は、観察視野の縦方向及び横方向の大きさがSEM像内に含まれる最も大きな第1金属磁性粒子31の直径の3~10倍となるように定めることができる。そして、このようにして選択された20個の測定対象の第1金属磁性粒子31の各々について、上記のように定義された寸法T21a及び寸法T21bを測定し、この20個の測定対象の第1金属磁性粒子31について測定した寸法T21aの平均値を磁性基体10についての磁気ギャップ部40のT軸方向における寸法T21aとし、同様に20個の第1金属磁性粒子31について測定した寸法T21bの平均値を磁性基体10についての磁気ギャップ部40のT軸方向における寸法T21bとする。金属磁性粒子、絶縁膜41、及び第1磁気ギャップ要素40a、40bは、SEM像において明度の差により互いに識別可能である。測定対象の第1金属磁性粒子31の一部には、そのT軸方向の端部に磁気ギャップ部40が観察されないものが含まれてもよい。一部の第1金属磁性粒子31のT軸方向の端部には、磁気ギャップ部40が形成されなくてもよいし、仮に第1金属磁性粒子31のT軸方向の端部に磁気ギャップ部40が形成されていても断面を露出させるための切断位置が当該第1金属磁性粒子31の中心から外れた位置を通過する場合には、磁気ギャップ部40が観察されないことがある。測定対象のうち磁気ギャップ部40が存在しない第1金属磁性粒子31については、T21a、T21bの値を0として平均値の算出に用いることができる。
【0055】
本発明の一実施形態において、磁気ギャップ部40は、そのT軸方向における厚さ寸法T21a、T21bは、磁気ギャップ部40のT軸方向に垂直な方向における厚さ寸法よりも厚くなるように構成される。
図4には、磁気ギャップ部40のT軸方向に垂直なL軸方向における厚さ寸法T22a、T22bが図示されている。磁気ギャップ部40は、T軸方向における厚さ寸法T21a、T21bが、T軸方向に垂直なL軸方向における厚さ寸法T22a、T22bよりも大きくなるように構成されている。磁気ギャップ部40のW軸方向における寸法は図示されていないが、W軸方向もT軸方向と直交するので、磁気ギャップ部40のW軸方向における厚さ寸法は、T軸方向における厚さ寸法T21a、T21bよりも小さくなる。磁気ギャップ部40のL軸方向における厚さ寸法T22a、T22bは、T軸方向における厚さ寸法T21a、T21bと同様に定義され、また測定される。以下で説明するように、第1金属磁性粒子31のL軸方向における端部は、第1磁気ギャップ要素40a、40bによって覆われていないため、磁気ギャップ部40のL軸方向における厚さ寸法T22a、T22bは、絶縁膜41のL軸方向における厚さに等しい。絶縁膜41は、第1金属磁性粒子31の全周に沿ってほぼ同一の厚さを有していてもよい。本発明の一実施形態において、絶縁膜41の厚さ(磁気ギャップ部40のL軸方向における厚さ寸法T22a、T22bに等しい。)は、100nm未満である。
【0056】
次に、第1磁気ギャップ要素40a、40bの詳細について、
図4をさらに参照してさらに説明する。第1磁気ギャップ要素40aは、第1金属磁性粒子31のT軸方向の正側に設けられており、第1磁気ギャップ要素40bは、第1金属磁性粒子31のT軸方向の負側に設けられている。第1磁気ギャップ要素40a、40bはそれぞれ、絶縁膜41を介して又は直接に第1金属磁性粒子31に接していて第1金属磁性粒子31の表面の一部の領域を覆い、第1金属磁性粒子31の表面全体は覆わない。第1磁気ギャップ要素40aは、第1金属磁性粒子31の表面のうちT軸方向における正側の端部を含む領域を覆い、第1磁気ギャップ要素40bは、第1金属磁性粒子31の表面のうちT軸方向における負側の端部を含む領域を覆う。第1磁気ギャップ要素40a、40bは、第1金属磁性粒子31の周長の1/16以上1/2未満の長さに亘って第1金属磁性粒子31の周方向に延在している。第1金属磁性粒子31の周方向における第1磁気ギャップ要素40a、40bの長さが第1金属磁性粒子31の周長の1/16未満となると磁気ギャップとしての機能に乏しい。他方、第1磁気ギャップ要素40a、40bの長さが第1金属磁性粒子31の周長の1/2以上となると第1金属磁性粒子31が磁気ギャップで取り囲まれることとなるため、磁束が当該第1金属磁性粒子31を通過しにくくなってインダクタンスが劣化する原因となる。よって、インダクタンスの劣化を抑制しつつ磁気ギャップとしての機能を奏することができるように、第1金属磁性粒子31の周方向における第1磁気ギャップ要素40a、40bの長さは、第1金属磁性粒子31の周長の1/16以上1/2未満とされる。
【0057】
第1金属磁性粒子31のL軸方向の端には第1磁気ギャップ要素40a、40bのいずれも設けられていない。図示の実施形態においては、第1金属磁性粒子31のL軸方向における両端は、絶縁膜41を介して第2金属磁性粒子32と接している。一の第1金属磁性粒子31に隣接して別の第1金属磁性粒子31が存在する場合には、当該一の第1金属磁性粒子31は、第1金属磁性粒子31のL軸方向における少なくとも一方の端は、絶縁膜41を介して当該別の第1金属磁性粒子31と接していてもよい。
【0058】
本発明の実施形態における磁性基体10は第1磁気ギャップ要素40a、40bを有するため、以下に説明するとおり、高い透磁率と高い直流重畳特性を両立させることができる。従来のコイル部品においては、透磁率を高めるために金属磁性粒子が密に充填されているため、磁性基体中に第1磁気ギャップ要素40a、40bに対応する部位が存在しない。従来のコイル部品においては、磁性基体中の金属磁性粒子の表面に絶縁膜が設けられることがあるが、その絶縁膜は、金属磁性粒子の表面に、当該金属磁性粒子の周方向において均一な厚さを有するように形成され、コイル軸方向(T軸方向に相当する方向)の厚さ寸法がコイル軸方向に垂直な方向の厚さよりも厚く形成されることはない。すなわち、従来のコイル部品においては第1磁気ギャップ要素40a、40bに対応する部位が存在しない。磁性基体において互いに比透磁率が異なる材料から構成されている2種類の金属磁性粒子が密に充填されると、コイル導体に電流が流れた際に発生する磁束は、比透磁率が高い磁性材料から成る高透磁率粒子が多く存在する磁路を選好して通過するため、コイル導体に流れる直流電流が増えると、磁束が通過する磁性基体内の複数の磁路のうち高透磁率粒子の存在比率が高い磁路から順に磁気飽和が起こる。本発明の実施形態においては、第2金属磁性粒子32よりも高い比透磁率を有する第1金属磁性粒子31のT軸方向の少なくとも一方の端部に第1磁気ギャップ要素40a、40bが設けられているので、高透磁率粒子が多く存在する磁路における磁気飽和を抑制することができる。また、第1磁気ギャップ要素40a、40bは、第1金属磁性粒子31の周方向のうちコイル軸Axと平行なT軸方向の端部に設けられている一方で、T軸方向と垂直な方向の端部には設けられていない。このため、高透磁率粒子の全周が磁気ギャップで囲まれることがないので、第1磁気ギャップ要素40a、40bに起因するインダクタンスの低下も抑制されている。このため、本発明の実施形態における磁性基体10によって、高い透磁率と高い直流重畳特性を両立させることができる。
【0059】
本発明の一実施形態において、磁性基体10は、金属磁性粒子同士を結合する結着材を含んでいてもよい。結着材は、例えば、絶縁性に優れた熱硬化性樹脂からなる。結着材の材料として用いられる樹脂材料は、第1磁性材料よりも小さな透磁率を有する。結着材用の樹脂材料として、例えば、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスチレン(PS)樹脂、高密度ポリエチレン(HDPE)樹脂、ポリオキシメチレン(POM)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリフッ化ビニルデン(PVDF)樹脂、フェノール(Phenolic)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂又はポリベンゾオキサゾール(PBO)樹脂が用いられ得る。
【0060】
続いて、本発明の一実施形態によるコイル部品1の製造方法の例について
図5を参照して説明する。
図5は、本発明の一実施形態によるコイル部品1の製造方法の一例を説明する。
図5に示す製造方法においては、圧縮成形プロセスによりコイル部品1が製造される。
【0061】
まず、準備工程として、複数の第1金属磁性粒子31と複数の第2金属磁性粒子32との混合粒子を樹脂及び希釈溶剤と混練して混合樹脂組成物が生成される。樹脂として、エポキシ樹脂、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂、又は前記以外の公知の樹脂を用いることができる。
【0062】
次に、ステップS11において、成形金型のキャビティ内に予め準備したコイル導体25を設置し、コイル導体25が設置された成形金型内に上記のようにして生成した混合樹脂組成物を充填し、この成型金型内の混合樹脂組成物にパンチで成形圧力を加えて内部にコイル導体25を含む成形体を作製する。コイル導体25は、コイル軸Axがパンチのストローク方向(加圧方向)と一致またはほぼ一致するように金型キャビティ内に設置される。コイル軸とパンチのストローク方向との為す角度が30度以内であれば、コイル軸Axと加圧方向とは一致している又はほぼ一致していると判断することができる。
【0063】
ステップS11の圧縮成形処理においては、第1金属磁性粒子31の弾性限界よりも小さく第2金属磁性粒子32の弾性限界よりも大きな成形圧力で混合樹脂組成物が圧縮成形され、成形体が作製される。この成形圧力により、ステップS11の圧縮成形処理において、第1金属磁性粒子31は弾性変形する一方で第2金属磁性粒子32は塑性変形する。具体的な成形圧力は、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32の材料により異なるが、例えば、5~15ton/cm2とされ得る。例えば、第1金属磁性粒子31がFe-Si-Cr-Bアモルファスから構成され、第2金属磁性粒子32がカルボニル鉄から構成される場合には、5~12ton/cm2の範囲の成形圧力で圧縮成形が行われてもよい。
【0064】
成形圧力が第2金属磁性粒子32の弾性限界よりも大きいため、圧縮成形処理での加圧中に第2金属磁性粒子32が塑性変形し、この塑性変形した第2金属磁性粒子32から第1金属磁性粒子31に対して加圧方向に垂直な方向(以下、「加圧面方向」という。)に応力が作用する。図示の実施形態における加圧面方向は、WL面に平行な方向である。第1金属磁性粒子31は、この第2金属磁性粒子32からの加圧面方向に作用する応力により弾性変形する。
図6を参照して圧縮成形処理における第1金属磁性粒子31の弾性変形について説明する。
図6(a)は加圧前、
図6(b)は加圧中、
図6(c)は除荷後の第1金属磁性粒子31の断面の形状をそれぞれ模式的に示している。
図6(a)に示されているように、加圧前には第1金属磁性粒子31の断面は概ね円形を呈している。第1金属磁性粒子31の断面形状は円形には限られないが、説明の簡潔さのために
図6(a)では第1金属磁性粒子31の形状を円形としている。金型キャビティ内の混合樹脂組成物に成形圧力が加えられると、
図6(b)に示されているように、塑性変形した第2金属磁性粒子32からの加圧面方向への応力により、第1金属磁性粒子31は加圧面方向において弾性圧縮され、加圧前よりも加圧方向(T軸方向)に延びた形状を呈する。塑性変形した第2金属磁性粒子32から第1金属磁性粒子31へは加圧方向への応力も作用するが、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32は金型キャビティ内で加圧方向へ移動することができるため、第1金属磁性粒子31に作用する加圧方向への応力は、第1金属磁性粒子31の加圧方向における移動を促進する一方で、第1金属磁性粒子31を加圧方向において弾性圧縮しない。
図6(b)では第2金属磁性粒子32の図示を省略しているが、
図4に示されているように第1金属磁性粒子31の周囲には多数の第2金属磁性粒子32が存在している。除荷後に成形体を金型キャビティから取り出すと、成形体に加圧面方向に作用していた圧縮応力が解放されるため、成形体は加圧面方向に膨張する。このため、第2金属磁性粒子32から第1金属磁性粒子31に作用していた加圧面方向における応力も解放されるので、
図6(c)に示すように、第1金属磁性粒子31は元の形状に復帰する。このとき、第2金属磁性粒子32は塑性変形しているから、除荷によってある程度のスプリングバックは発生するものの、元の形状には戻らない。このため、除荷後の成形体においては、第1金属磁性粒子31の加圧方向の両端に空隙51a、51bが生じる。この空隙には、混合樹脂組成物に含まれる樹脂が流れ込むこともある。完成後の磁性基体10においては、この空隙51a、51b及び/又はこの空隙51a、51bに流入した樹脂が第1磁気ギャップ要素40a、40bとなる。
【0065】
圧縮成形工程において成形体が得られた後に、製造プロセスはステップS12に進む。ステップS12では、圧縮成形工程により得られた成形体に対し熱処理が行われ、成形体から磁性基体10が生成される。具体的には、ステップS12での加熱処理により、混合樹脂組成物中の樹脂が硬化して結着材となり、結着材により複数の第1金属磁性粒子31及び複数の第2金属磁性粒子32が結着される。熱処理は、混合樹脂組成物中の樹脂の硬化温度以上の温度で行われる。ステップS12での加熱処理は、例えば、例えば150℃から300℃にて30分~240分間行われる。
【0066】
このステップS12での加熱処理により、第1金属磁性粒子31の構成元素が酸化することにより、第1金属磁性粒子31の表面に、第1金属磁性粒子31の構成元素の酸化物を含む絶縁膜41が形成されてもよい。
【0067】
次に、ステップS13において、ステップS12で得られた磁性基体10の表面に導体ペーストを塗布することにより、外部電極21及び外部電極22を形成する。外部電極21は、磁性基体10内に設けられているコイル導体25の一方の端部と電気的に接続され、外部電極22は、磁性基体10内に設けられているコイル導体25の他方の端部と電気的に接続されるように設けられる。外部電極21、22は、めっき層を含んでもよい。このめっき層は2層以上であってもよい。2層のめっき層は、Niめっき層と、当該Niめっき層の外側に設けられるSnめっき層と、を含んでもよい。コイル導体25の端部が磁性基体10から外部に露出するようにコイル導体25を配置し、このコイル導体25のうち磁性基体10から露出している部分を実装面10bに向けて折り曲げることにより、コイル導体25のうち磁性基体10から外部に露出している部位を外部電極としてもよい。
【0068】
以上により、コイル部品1が製造される。製造されたコイル部品1は、リフロー工程により基板2に実装されてもよい。この場合、コイル部品1が配置された基板2は、例えばピーク温度260℃に加熱されているリフロー炉を高速で通過した後に、外部電極21、22がそれぞれ実装基板2aのランド部3にはんだ接合されることで、コイル部品1が実装基板2aに実装され、回路基板2が得られる。
【0069】
上記のように、絶縁膜41は、絶縁材料から成るコーティング膜であってもよい。絶縁膜41がコーティング膜である場合には、準備工程において、表面に絶縁膜が形成された第1金属磁性粒子31が準備される。コーティング膜は、第2金属磁性粒子32の表面にも設けられてもよい。
【0070】
図7を参照して、本発明の別の実施形態における磁気ギャップ部40について説明する。
図7は、
図3の磁性基体の領域Bを拡大して本発明の別の実施形態における磁気ギャップ部40を模式的に示す図である。
図7に示されている実施形態において、磁気ギャップ部40は、絶縁膜41に代えて絶縁膜141を含む点で
図3に示されている実施形態と異なっている。絶縁膜141は、そのT軸方向における厚さT121a、121bがT軸方向に垂直なL軸方向における厚さT122a、T122bよりも厚くなるように構成されている。絶縁膜141は、そのT軸方向における厚さT121a、121bは、例えば100~3000nmであり、L軸方向における厚さT122a、T122bは、例えば100nm未満である。絶縁膜141のW軸方向における厚さは図示されていないが、L軸方向における厚さと同じ又は同程度であり、具体的にはT軸方向における厚さT121a、121bよりも小さい。絶縁膜141のT軸方向における厚さT121a、121bは、T軸に平行で第1金属磁性粒子31の断面と重複する線分のうち最も長い線分L1をT軸方向の正側に延長した直線を想定し、この直線のうち絶縁膜141と交わる部分の長さを意味する。絶縁膜141のL軸方向における厚さ寸法T122a、T122bは、T軸方向における厚さ寸法T121a、T121bと同様に定義され、また測定される。
【0071】
絶縁膜141は、上述したステップS12での加熱処理における加熱条件や、第1金属磁性粒子31の組成を調整することにより形成される。具体的には、第1金属磁性粒子31の表面に酸化膜が形成しやすい加熱条件においてステップS12での加熱処理を行うことにより、ステップS11で形成された空隙51a、51bが第1金属磁性粒子31の構成元素の酸化膜により充填されることで絶縁膜141が形成される。
【0072】
図7に示されている磁気ギャップ部40は、第1磁気ギャップ要素40a、40bを備えていない。
図7に示されている磁気ギャップ部40は、第1磁気ギャップ要素40a、40bを備えてもよい。例えば、ステップS11で形成された空隙51a、51bの一部が第1金属磁性粒子31の構成元素の酸化膜で充填され残部が空隙のままとなるとき、又は当該空隙に樹脂が流れ込む場合に、空隙51a、51bのうち酸化膜により充填されていない領域が第1磁気ギャップ要素40a、40bとなる。
【0073】
続いて、
図8を参照して、本発明の別の実施形態によるコイル部品1について説明する。
図8に示されているコイル部品1は、積層コイルである。
【0074】
磁性基体10は、複数の磁性体シート11~17をT軸方向に積層し、積層された磁性体シートを熱圧着することで作製され得る。磁性基体10は、既述のとおり、複数の第1金属磁性粒子31と、複数の第2金属磁性粒子32と、を含み、第1金属磁性粒子31の材料の比透磁率よりも低い比透磁率を有する低透磁率材料から成る磁気ギャップ部40を有する。この磁気ギャップ部40は、上記のとおり、T軸方向における厚さ寸法が、T軸方向に垂直な方向(L軸方向及びW軸方向)における厚さ寸法よりも大きくなるように構成されている。
【0075】
コイル導体25は、T軸方向に延びるコイル軸Axの周りに延びている。図示されているように、コイル導体25は、導体パターンC1~C5と、この導体パターンC1~C5のうち隣接して配置されたもの同士を接続するビア導体V1~V4とを有する。ビア導体V1~V4は、磁性体シート12~15に形成されたT軸方向に延びる貫通孔に導電性ペーストを埋め込むことで作製され得る。導体パターンC1~C5は、例えば、導電性に優れた金属又は合金から成る導電性ペーストを磁性体シートに例えばスクリーン印刷法により印刷することにより形成される。この導電性ペーストの材料として、Ag、Pd、Cu、Al又はこれらの合金を用いることができる。導体パターンC1~C5の各々は、隣接する導体パターンとビア導体V1~V4を介して電気的に接続される。このようにして接続された導体パターンC1~C5及びビア導体V1~V4が、コイル軸Axの周りに螺旋状に延びるコイル導体25を形成する。
【0076】
次に、
図8に示されているコイル部品1の製造方法の例を説明する。
図8に示されているコイル部品1は、積層プロセスによって製造することができる。まず、磁性材料から成る複数の磁性体シート11~17を作成する。これらの磁性体シート11~17の各々は、複数の第1金属磁性粒子31と複数の第2金属磁性粒子32との混合粒子をバインダ樹脂(例えば、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂)及び希釈溶剤(例えば、トルエン)と混練して混合樹脂組成物を生成し、この生成された混合樹脂組成物をPETフィルムなどの基材上に例えばドクターブレード法によりシート状に塗工し、この塗工された混合樹脂組成物を乾燥させて希釈溶剤を揮発させることで作製される。
【0077】
次に、磁性体シート12~15の所定の位置に各々をT軸方向に貫く貫通孔を形成する。次に、磁性体シート12~16の各々の上面に導電性ペーストをスクリーン印刷法により印刷することで、磁性体シート12~16に未焼成導体パターンを形成するとともに、磁性体シート12~15に形成された各貫通孔に導電性ペーストを埋め込む。磁性体シート12~16に形成される未焼成導体パターンはそれぞれ、導体パターンC1~C5の前駆体であり、磁性体シート12~15の貫通孔に埋め込まれた導電性ペーストはそれぞれ、ビア導体V1~V4の前駆体である。
【0078】
次に、導電性ペーストが乾燥した後に、磁性体シート11~17を積層する。磁性体シート11~17は、当該各磁性体シートに形成されている導体パターンC1~C5の前駆体のうち隣接するもの同士がビア導体V1~V4の前駆体を介して電気的に接続されるように積層される。次に、上記のように積層された磁性体シートをプレス機により熱圧着し、シート積層体を作製する。この熱圧着処理においては、磁性体シート11~17の積層方向に沿って、第1金属磁性粒子31の弾性限界より小さく第2金属磁性粒子32の弾性限界よりも大きな圧力でシート積層体を加圧する。具体的には、成形金型のキャビティ内にシート積層体を設置し、この金型キャビティ内のシート積層体にパンチで成形圧力を加える圧縮成形処理により、内部に導体パターンC1~C5の前駆体を含む成形体を作製する。シート積層体は、コイル軸Axがパンチのストローク方向(加圧方向)と一致またはほぼ一致するように金型キャビティ内に設置される。コイル軸Axとパンチのストローク方向との為す角度が30度以内であれば、コイル軸Axと加圧方向とは一致している又はほぼ一致していると判断することができる。
【0079】
シート積層体への圧縮成形処理においては、第1金属磁性粒子31の弾性限界よりも小さく第2金属磁性粒子32の弾性限界よりも大きな成形圧力でシート積層体が圧縮成形され、成形体が作製される。この成形圧力により、第1金属磁性粒子31は弾性変形する一方で第2金属磁性粒子32は塑性変形する。具体的な成形圧力は、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32の材料により異なるが、例えば、5~15ton/cm2とされ得る。例えば、第1金属磁性粒子31がFe-Si-Cr-Bアモルファスから構成され、第2金属磁性粒子32がカルボニル鉄から構成される場合には、5~12ton/cm2の範囲の成形圧力で圧縮成形が行われてもよい。
【0080】
シート積層体への圧縮成形処理における成形圧力が第2金属磁性粒子32の弾性限界よりも大きいため、この圧縮成形処理での加圧中に第2金属磁性粒子32が塑性変形し、この塑性変形した第2金属磁性粒子32から第1金属磁性粒子31に対して加圧方向に垂直な方向(以下、「加圧面方向」という。)に応力が作用する。図示の実施形態における加圧面方向は、WL面に平行な方向である。第1金属磁性粒子31は、この第2金属磁性粒子32からの加圧面方向に作用する応力により弾性変形する。圧縮成形処理における第1金属磁性粒子31の弾性変形とそれによる第1磁気ギャップ要素40a、40bの形成については実施形態1と同様なので説明を省略する。
【0081】
次に、熱圧着されたシート積層体を、ダイシング機やレーザ加工機等の切断機を用いて所望のサイズに個片化することで、チップ積層体が得られる。次に、このチップ積層体を脱脂し、脱脂されたチップ積層体を加熱処理する。この加熱処理により、複数の第1金属磁性粒子31及び複数の第2金属磁性粒子32の表面が酸化し、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32が酸化物の被膜で覆われる。この酸化物の被膜により隣接する金属磁性粒子が互いと結合される。加熱処理は、例えば350℃から900℃の温度で、例えば30分~360分間行われる。脱脂は、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32を酸化させるための熱処理とは別に行われてもよい。第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32のための熱処理と別個に行われる脱脂処理においては、チップ積層体は、200℃~400℃で例えば20分間~120分間加熱される。成型時に生成していた顕著な第1磁気ギャップ要素40a、40bは、熱処理後も空隙として残留し第1磁気ギャップ要素40a、40bとなる。第1磁気ギャップ要素40a、40bの空隙部には、必要に応じて樹脂等を含侵することも出来る。
【0082】
次に、このチップ積層体の端部に対して、必要に応じて、バレル研磨等の研磨処理を行う。次に、このチップ積層体の両端部に導体ペーストを塗布することにより外部電極を形成する。以上により、積層プロセスによりコイル部品1が得られる。
【0083】
続いて、
図9を参照して、本発明の別の実施形態によるコイル部品1について説明する。本発明の一実施形態によるコイル部品1は、巻線型のインダクタである。図示のように、
図9に示されている実施形態におけるコイル部品1は、ドラム型の磁性基体10と、コイル導体25と、第1の外部電極21と、第2の外部電極22と、を備えている。磁性基体10は、巻芯111と、当該巻芯111の一方の端部に設けられた直方体形状のフランジ112aと、当該巻芯111の他方の端部に設けられた直方体形状のフランジ112bとを有する。巻芯111は、コイル軸Axに沿って延びている。巻芯111には、コイル導体25が巻回されている。つまり、コイル導体25は、コイル軸Axの周りに螺旋状に延びている。コイル導体25は、導電性に優れた金属材料から成る導線と、当該導線の周囲を被覆する絶縁被膜とを有する。第1の外部電極21は、フランジ112aの下面に沿って設けられており、第2の外部電極22は、フランジ112bの下面に沿って設けられている。
【0084】
磁性基体10は、上記のとおり、複数の第1金属磁性粒子31と、複数の第2金属磁性粒子32と、を含み、第1金属磁性粒子31の材料の比透磁率よりも低い比透磁率を有する低透磁率材料から成る磁気ギャップ部40を有する。この磁気ギャップ部40は、上記のとおり、T軸方向における厚さ寸法が、T軸方向に垂直な方向(L軸方向及びW軸方向)における厚さ寸法よりも大きくなるように構成されている。
【0085】
次に、
図9に示されている巻線型のコイル部品1の製造方法の例を説明する。まず、混合樹脂組成物を圧縮成形することにより磁性基体10を作製する。この圧縮成形工程では、まず、複数の第1金属磁性粒子31と複数の第2金属磁性粒子32との混合粒子を樹脂及び希釈溶剤と混練して混合樹脂組成物を得る。この混合樹脂組成物には、金属磁性粒子が分散している。この混合樹脂組成物を成型金型に入れ、この成型金型内の混合樹脂組成物を加熱しながら5~15ton/cm
2の成形圧力で加圧することで成形体が作製される。成形圧力の加圧方向は、巻芯111の軸線に平行な方向とされる。巻芯111の軸線は、完成時にコイル軸Axとなる。
【0086】
次に、上記の圧縮成形工程により得られた成形体に対して熱処理を施す熱処理工程が行われる。この熱処理工程により成形体から磁性基体10が形成される。具体的には、熱処理工程において、混合樹脂組成物中の樹脂が硬化して結着材となり、結着材により複数の第1金属磁性粒子31及び複数の第2金属磁性粒子32が結着される。熱処理は、混合樹脂組成物中の樹脂の硬化温度以上の温度で、例えば150℃~300℃にて、30分~240分間行われる。
【0087】
次に、上記の熱処理工程により得られた磁性基体10にコイル導体25を設ける巻回工程が行われる。巻回工程においては、磁性基体10の巻芯111周りにコイル導体25を巻回する。次に、このコイル導体25の一端を第1の外部電極21に接続し、他端を第2の外部電極22に接続する。以上により、巻線型のコイル部品1が得られる。
【0088】
磁性基体10は、上記のとおり、複数の第1金属磁性粒子31と、複数の第2金属磁性粒子32と、を含み、第1金属磁性粒子31のコイル軸Axに平行な方向における少なくとも一方の端部に顕著な第1磁気ギャップ要素40a及び/又は第1磁気ギャップ要素40aを有する。
【実施例】
【0089】
実施例1
まず、第1金属磁性粒子31として平均粒径が20μmのFe-Si-Bアモルファス粒子を準備し、第2金属磁性粒子32として平均粒径が5μmのカルボニル鉄粒子を準備し、この2種類の金属磁性粉末を体積比率が30:70となるように混合して混合粒子を得た。カルボニル鉄の弾性限界は、Fe-Si-Bアモルファスの弾性限界よりも小さい。また、カルボニル鉄の比透磁率は、Fe-Si-Bアモルファスの比透磁率よりも小さい。次に、この混合粒子100wt%に対して3wt%のエポキシ樹脂を当該混合粒子と混練して混合樹脂組成物を生成した。直径2mmのエナメル被覆銅線をコイル軸Axの周りに4.5ターン分だけ巻回してコイル導体25を作製した。コイル導体25の両端から1.5mmの部位のそれぞれにおいてエナメル被覆を除去し、このエナメル被覆が除去された部位にはんだ層を形成した。このコイル導体25を、成型金型の金型キャビティに、コイル軸Axが加圧方向とほぼ一致するように設置した。次に、金型キャビティに上記の混合樹脂組成物を充填し、12ton/cm2の成形圧力を加えて内部にコイル導体25を含む成形体を作製した。成形圧力は、コイル導体25のコイル軸Axと平行な向きに加えられた。12ton/cm2の圧力は、カルボニル鉄の弾性限界よりも大きく、Fe-Si-Bアモルファスの弾性限界よりも小さい。
【0090】
続いて、成形圧力の除荷後に成形体を金型キャビティから取り出し、この金型キャビティから取り出された成形体に対し200℃で60分間熱処理を行って混合樹脂組成物中のエポキシ樹脂を硬化させることで、当該成形体から磁性基体10を形成した。加熱処理後に、コイル導体25の端部を折り曲げて、磁性基体10の実装面10bと対向させた。以上のようにして作製されたコイル部品をサンプル1とする。
【0091】
上記のようにして作製されたコイル部品(サンプル1)をコイル軸Axに沿って切断して断面を露出させ、この断面を1000倍の倍率で撮影してSEM像を得た。このSEM像においてEDS分析を行って粒子ごとの組成を分析し、鉄のモル比が低い方から20個の粒子を観察対象粒子として選択した。この観察対象粒子のうち16個についてコイル軸Axに沿う方向の少なくとも一方の端部を覆う空隙が観察された。また、この観察対象粒子のコイル軸Axに沿う方向の少なくとも一方の端部を覆う空隙のコイル軸Axに沿う方向における寸法の平均値は、630nmであった。観察対象粒子のコイル軸Axの少なくとも一方の端部を覆う空隙のコイル軸Axに沿う方向における寸法は、既述した寸法T21a、21bの測定方法と同様の手法で測定した。観察対象粒子の表面には、絶縁膜は観察されなかった。よって、観察対象粒子のコイル軸Axに沿う方向の端部を覆う空隙が磁気ギャップ部40に相当する。
【0092】
実施例2
次に、第1金属磁性粒子31として平均粒径が10μmのFe-Si合金粒子(Fe:93.5wt%、Si:wt6.5%)を準備し、第2金属磁性粒子32として平均粒径が10μmのFe-Si合金粒子(Fe:97wt%、Si:wt3%)を準備し、この2種類の金属磁性粉末を体積比率が30:70となるように混合して混合粒子を得た。第2金属磁性粒子32におけるSiの含有比率は第1金属磁性粒子31におけるSiの含有比率よりも小さいので、第2金属磁性粒子32の弾性限界は第1金属磁性粒子31の弾性限界よりも小さく、第2金属磁性粒子32の比透磁率は第1金属磁性粒子31の比透磁率よりも小さい。この混合粒子を用いて、実施例1と同様の方法でコイル部品を作製した。以上のようにして作製されたコイル部品をサンプル2とする。ただし、成形体を作製する際の成形圧力は、Fe:97wt%、Si:wt3%のFe-Si合金粒子の弾性限界よりも大きく、Fe:93.5wt%、Si:6.5wt%のFe-Si合金粒子の弾性限界よりも小さい6ton/cm2とした。
【0093】
上記のようにして作製されたコイル部品(サンプル2)をコイル軸Axに沿って切断して断面を露出させ、この断面を1000倍の倍率で撮影してSEM像を得た。このSEM像においてEDS分析を行って粒子ごとの組成を分析し、鉄のモル比が低い方から20個の粒子を観察対象粒子として選択した。この観察対象粒子のうち14個についてコイル軸Axに沿う方向の少なくとも一方の端部を覆う空隙が観察された。また、この観察対象粒子のコイル軸Axに沿う方向の少なくとも一方の端部を覆う空隙のコイル軸Axに沿う方向における寸法の平均値は、120nmであった。観察対象粒子のコイル軸Axの少なくとも一方の端部を覆う空隙のコイル軸Axに沿う方向における寸法は、既述した寸法T21a、21bの測定方法と同様の手法で測定した。観察対象粒子の表面には、絶縁膜は観察されなかった。よって、観察対象粒子のコイル軸Axに沿う方向の端部を覆う空隙が磁気ギャップ部40に相当する。
【0094】
実施例3
次に、第1金属磁性粒子31として平均粒径が4μmのFe-Si-Cr合金粒子(Fe:92wt%、Si:6.5wt%、Cr:1.5wt%)を準備し、第2金属磁性粒子32として平均粒径が3μmのFe-Si-Cr合金粒子(Fe:95wt%、Si:wt3%、Cr:2wt%)を準備し、この2種類の金属磁性粉末を体積比率が30:70となるように混合して混合粒子を得た。第2金属磁性粒子32におけるSiの含有比率は第1金属磁性粒子31におけるSiの含有比率よりも小さいので、第2金属磁性粒子32の弾性限界は第1金属磁性粒子31の弾性限界よりも小さく、第2金属磁性粒子32の比透磁率は第1金属磁性粒子31の比透磁率よりも小さい。この混合粒子を用いて、積層プロセスによりコイル部品を作製した。具体的には、上記の混合粒子をポリビニルブチラール樹脂及びトルエンと混練して混合樹脂組成物を生成し、この混合樹脂組成物をPETフィルムにドクターブレード法によりシート状に塗工した。このフィルム上に塗工された混合樹脂組成物を乾燥させて希釈溶剤を揮発させることで複数の磁性体シートを作製した。次に、この磁性体シートのうちの4枚にビア導体V1~V4を埋め込むための貫通孔を形成した。次に、上記のようにして貫通孔が形成された4枚の磁性体シート及び貫通孔が形成されていない1枚の磁性体シートの各々の上面に導電性ペーストを印刷し、また、貫通孔に導電性ペーストを充填することにより、
図8に示されている導体パターンC1~C5及びビアV1~V4の前駆体を形成した。導電性ペーストが乾燥した後に、上記の導体パターンの前駆体が形成された5枚の磁性シートと、導体パターンが形成されていない2枚の磁性体シートと、を導体パターンが形成されていない2枚の磁性体シートがそれぞれ上端及び下端に位置するように積層し、この積層された磁性体シートにその積層方向に沿って6ton/cm
2の圧力を加えることで、各磁性体シートを熱圧着し、シート積層体を作製した。6ton/cm
2の圧力は、Fe:95wt%、Si:3%、Cr:2wt%のFe-Si-Cr合金粒子(第2金属磁性粒子32)の弾性限界よりも大きく、Fe:92wt%、Si:6.5%、Cr:1.5wt%のFe-Si-Cr合金粒子(第1金属磁性粒子31)の弾性限界よりも小さい。
【0095】
次に、熱圧着されたシート積層体を切断して個片化することで、チップ積層体を作製した。次に、このチップ積層体に対し、酸素を含む雰囲気下において750℃で60分間熱処理を行って、ポリビニルブチラール樹脂を熱分解するとともに金属磁性粒子の表面に酸化被膜を形成することで、磁性基体10及びコイル導体25を作製した。次に、磁性基体10の表面に、銀粒子をエチルセルロース及びブチルカルビトールと混練して生成した導電性ペーストを塗布し、この塗布した導電性ペーストを焼き付けて下地電極層を作製した。次に、この下地電極層の表面にニッケル-錫めっき層を形成した。以上のようにして、磁性基体10の表面に、下地電極層及びめっき層を有する外部電極を形成した。以上のようにして作製されたコイル部品をサンプル3とする。
【0096】
上記のようにして作製されたコイル部品(サンプル3)をコイル軸Axに沿って切断して断面を露出させ、この断面を1000倍の倍率で撮影してSEM像を得た。このSEM像においてEDS分析を行って粒子ごとの組成を分析し、鉄のモル比が低い方から20個の粒子を観察対象粒子として選択した。この観察対象粒子のうち15個についてコイル軸Axに沿う方向の少なくとも一方の端部を覆う空隙が観察された。また、この観察対象粒子のコイル軸Axに沿う方向の少なくとも一方の端部を覆う空隙のコイル軸Axに沿う方向における寸法の平均値は、65nmであった。観察対象粒子のコイル軸Axの少なくとも一方の端部を覆う空隙のコイル軸Axに沿う方向における寸法は、既述した寸法T21a、21bの測定方法と同様の手法で測定した。観察対象粒子の表面には、絶縁膜は観察されなかった。よって、観察対象粒子のコイル軸Axに沿う方向の端部を覆う空隙が磁気ギャップ部40に相当する。
【0097】
比較例1
サンプル2の製造方法において成形圧力を10ton/cm2に変更し、それ以外はサンプル2の製造方法と同じ条件でコイル部品を作製した。10ton/cm2の圧力は、Fe:93.5wt%、Si:6.5%のFe-Si合金粒子(第1金属磁性粒子31)の弾性限界よりも大きい。上記のようにして作製されたコイル部品(サンプル4)をコイル軸Axに沿って切断して断面を露出させ、この断面を1000倍の倍率で撮影してSEM像を得た。このSEM像においてEDS分析を行って粒子ごとの組成を分析し、鉄のモル比が低い方から20個の粒子を観察対象粒子として選択した。この観察対象粒子のいずれにおいても、そのT軸方向における端部を覆う空隙やそれ以外の第1磁気ギャップ要素40a、40bに相当する領域は観察されなかった。第1金属磁性粒子31のT軸方向の端部に磁気ギャップ部が形成されなかった理由は、サンプル4の製造工程においては第1金属磁性粒子31の弾性限界よりも大きな成形圧力が用いられたため、第1金属磁性粒子31も塑性変形し、除荷後に加圧前の形状に復帰できなかったためと考えられる。
【0098】
比較例2
サンプル2の製造方法において成形圧力を1ton/cm2に変更し、それ以外はサンプル2の製造方法と同じ条件でコイル部品を作製した。1ton/cm2の圧力は、Fe:97wt%、Si:3%のFe-Si合金粒子(第2金属磁性粒子32)の弾性限界よりも小さい。上記のようにして作製されたコイル部品(サンプル5)をコイル軸Axに沿って切断して断面を露出させ、この断面を1000倍の倍率で撮影してSEM像を得た。このSEM像においてEDS分析を行って粒子ごとの組成を分析し、鉄のモル比が低い方から20個の粒子を観察対象粒子として選択した。この観察対象粒子の各々は、隣接する粒子との距離が大きく、樹脂によって取り囲まれていた。このように、サンプル5においては、観察対象粒子のいずれにおいてもそのT軸方向における端部を覆う空隙やそれ以外の第1磁気ギャップ要素40a、40bに相当する領域は観察されなかった。Fe:93.5wt%、Si:6.5%のFe-Si合金粒子(第1金属磁性粒子31)のT軸方向の端部に第1金属磁性粒子31の表面の一部の領域を覆い表面の全体を覆わない第1磁気ギャップ要素40a、40bが形成されなかった理由は、サンプル5の製造工程において第2金属磁性粒子32の弾性限界よりも小さな成形圧力が用いられたため、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32が密に充填されなかったためと考えられる。
【0099】
比較例3
サンプル1の製造方法において成形圧力の加圧方向をコイル軸Axと垂直な方向に変更し、それ以外はサンプル1の製造方法と同じ条件でコイル部品を作製した。このようにして作製されたコイル部品(サンプル6)をコイル軸Axに沿って切断して断面を露出させ、この断面を1000倍の倍率で撮影してSEM像を得た。このSEM像においてEDS分析を行って粒子ごとの組成を分析し、鉄のモル比が低い方から20個の粒子を観察対象粒子として選択した。この観察対象粒子のうち10個についてコイル軸Axと垂直な方向の少なくとも一方を覆う空隙が観察された。しかしながら、観察された空隙は、第1金属磁性粒子31のコイル軸Axに沿う方向の端部を覆っていないため、第1磁気ギャップ要素40a、40bに該当する空隙ではなかった。このため、後述するとおり、サンプル6の直流重畳特性は低かった。
【0100】
インピーダンスアナライザを用いて、サンプル1~6の各々について、インダクタンス及び直流重畳定格電流を測定した。その測定結果を表1に示す。
【表1】
【0101】
表1に示されているとおり、第1金属磁性粒子31のコイル軸に沿う方向の端部に磁気ギャップ部が設けられているサンプル1~3については、インダクタンスが1.0μHであり直流重畳定格電流も8.0~8.5Aの範囲であった。サンプル2の測定結果とサンプル4の測定結果とを対比して考察する。サンプル2とサンプル4の製造方法は、成形圧力以外は同じであるが、第1金属磁性粒子31の弾性限界よりも小さく第2金属磁性粒子32の弾性限界よりも大きな成形圧力が加えられたサンプル2の直流重畳定格電流は、8.2Aであり、第1金属磁性粒子31の弾性限界よりも大きな成形圧力が加えられたサンプル4の5.5Aから大きく改善している。この直流重畳特性の改善は、サンプル2の磁性基体10において第1金属磁性粒子31のT軸方向における端部を覆うように形成された空隙(第1磁気ギャップ要素40a、40b)の寄与によるものと考えられる。他方、サンプル2のインダクタンスは1.0μHであり、サンプル4の1.2μHからの低下は僅かであった。次に、サンプル2の測定結果とサンプル5の測定結果とを対比して考察する。サンプル2とサンプル5の製造方法は、成形圧力以外は同じであるが、第2金属磁性粒子32の弾性限界よりも小さい成形圧力を加えることにより作製されたサンプル5のインダクタンスは0.5μHであり、サンプル2の1.0μHと比べて大きく劣っている。以上の結果から、第1金属磁性粒子31の弾性限界よりも小さく第2金属磁性粒子32の弾性限界よりも大きな成形圧力を加えて第1金属磁性粒子31のコイル軸に沿う方向の端部に磁気ギャップ部を設けることにより、高い透磁率(インダクタンス)と高い直流重畳特性(直流重畳定格電流)とを両立できることが分かった。
【0102】
コイル軸を基準とした加圧方向のみが異なるサンプル1とサンプル6の直流重畳定格電流を比較すると、サンプル1の方が優れた直流重畳定格電流を実現している。この比較から、第1磁気ギャップ要素40a、40bに相当する空隙を第1金属磁性粒子31のコイル軸に沿う方向の端部に設けることで、直流重畳特性の改善度合いが高くなることが分かった。
【0103】
以上のとおり、本発明の少なくとも一つの実施形態によれば、磁気飽和が起こりやすい第1金属磁性粒子31の表面を覆う磁気ギャップ部40が設けられており、この磁気ギャップ部40のコイル軸Axに沿う方向の厚さ寸法が、コイル軸Axに垂直な方向における厚さ寸法よりも厚くなっている。この磁気ギャップ部40により、コイル軸Axに沿って磁性基体10内を流れる磁束が第1金属磁性粒子31を通る磁路に集中することを抑制できるため、高い直流重畳特性を得ることができる。また、磁気ギャップ部40のコイル軸Axに垂直な方向における厚さをコイル軸Axに沿う方向の厚さに比べて薄くすることにより、透磁率の低下を抑制することができるため、高い透磁率と高い直流重畳特性を両立させることができる。
【0104】
前述の様々な実施形態で説明された各構成要素の寸法、材料及び配置は、それぞれ、各実施形態で明示的に説明されたものに限定されず、当該各構成要素は、本発明の範囲に含まれ得る任意の寸法、材料及び配置を有するように変形することができる。例えば、磁性基体10は、
図1及び
図2に示されているように、コイル導体25を覆うように構成及び配置されてもよいし、
図9に示されているように、コイル導体25がその外表面に巻回されるように構成及び配置されてもよい。
【0105】
本明細書において明示的に説明していない構成要素を、上述の各実施形態に付加することもできるし、各実施形態において説明した構成要素の一部を省略することもできる。
【0106】
本明細書等における「第1」、「第2」、「第3」などの表記は、構成要素を識別するために付するものであり、必ずしも、数、順序、もしくはその内容を限定するものではない。また、構成要素の識別のための番号は文脈毎に用いられ、一つの文脈で用いた番号が、他の文脈で必ずしも同一の構成を示すとは限らない。また、ある番号で識別された構成要素が、他の番号で識別された構成要素の機能を兼ねることを妨げるものではない。
【符号の説明】
【0107】
1 コイル部品
10 磁性基体
21、22 外部電極
25 コイル導体
31 第1金属磁性粒子
32 第2金属磁性粒子
40 磁気ギャップ部
40a、40b 第1磁気ギャップ要素
41、141 絶縁膜(第2磁気ギャップ要素)
Ax コイル軸