(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】操舵制御装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20241217BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20241217BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20241217BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20241217BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20241217BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D119:00
B62D113:00
B62D101:00
(21)【出願番号】P 2021042827
(22)【出願日】2021-03-16
【審査請求日】2023-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】杉山 賢
(72)【発明者】
【氏名】中村 功一
【審査官】高瀬 智史
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-035072(JP,A)
【文献】特開2018-130007(JP,A)
【文献】特開2001-010514(JP,A)
【文献】特開2004-276834(JP,A)
【文献】特開2021-035182(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0350788(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102018207542(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
B62D 119/00
B62D 113/00
B62D 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
協調駆動モード及び独立駆動モードを含む複数の駆動状態を切り替えてモータの駆動を制御する複数の制御系統を備え、
前記複数の制御系統は、前記モータを制御するための指令値を演算する制御部を有し、
前記複数の制御系統は、前記協調駆動モードを実行する場合、前記複数の制御系統のうちいずれか一つの制御系統の前記制御部で演算された指令値に基づいてそれぞれ前記モータの駆動を制御し、
前記複数の制御系統は、前記独立駆動モードを実行する場合、自身の制御系統の前記制御部で演算された指令値に基づいてそれぞれ前記モータの駆動を制御し、
前記複数の制御系統は、各制御系統の前記制御部で演算された指令値が互いに乖離していない場合に前記協調駆動モードに切り替えられ、各制御系統の前記制御部で演算された指令値が互いに乖離している場合に前記独立駆動モードに切り替えられ、
前記複数の制御系統は、車両の始動スイッチがオフされた場合、
前記複数の制御系統のそれぞれにおいて前記始動スイッチがオフされたことを判定するように構成されているなかで、前記複数の制御系統のそれぞれにおいて前記始動スイッチがオフされたことを判定したタイミングを起点として、自身の制御系統の前記制御部で演算された指令値を徐々に制限しており、
前記複数の制御系統は、車両の走行中に
、前記複数の制御系統のうち少なくとも一つの制御系統が前記始動スイッチがオフされたことを判定した場合、
自身の制御系統で未だ前記始動スイッチがオフされたことが判定されていないなかでも、各制御系統の前記制御部で演算される指令値が互いに乖離しているか否かに関係なく、前記独立駆動モードに切り替える操舵制御装置。
【請求項2】
前記複数の制御系統は、自身の制御系統の駆動モードの情報を他の制御系統に対して送信するとともに、他の制御系統の駆動モードの情報を受信しており、
前記複数の制御系統のうちいずれか一つの制御系統は、走行中に前記始動スイッチがオフされたことに起因して前記独立駆動モードに切り替えた場合、自身の制御系統が前記独立駆動モードに切り替わったことを示す駆動モードの情報を他の制御系統に対して送信しており、
前記複数の制御系統のうち他の制御系統は、前記複数の制御系統のうちいずれか一つの制御系統からの駆動モードの情報を受信するとともに、当該受信した駆動モードの情報に基づいて、
自身の制御系統で未だ前記始動スイッチがオフされたことが判定されていないなかでも、前記独立駆動モードに切り替える請求項1に記載の操舵制御装置。
【請求項3】
前記複数の制御系統は、
車両の走行中に前記始動スイッチがオフされたことにより前記独立駆動モードに切り替えられている期間中において、前記始動スイッチがオンされた場合、
駆動モードを切り替えることによって生じる前記モータのトルクの変動がステアリングホイールを振動させる可能性の高い状況では、前記独立駆動モードのままで維持し、
駆動モードを切り替えることによって生じる前記モータのトルクの変動が前記ステアリングホイールを振動させる可能性の低い状況では、前記協調駆動モードに切り替える請求項1または2に記載の操舵制御装置。
【請求項4】
前記複数の制御系統は、
前記ステアリングホイールの操舵がされている場合、駆動モードを切り替えることによって生じる前記モータのトルクの変動が前記ステアリングホイールを振動させる可能性の高い状況であるとして、前記独立駆動モードのままで維持し、
前記ステアリングホイールの操舵がされていない状況では、駆動モードを切り替えることによって生じる前記モータのトルクの変動が前記ステアリングホイールを振動させる可能性の低い状況であるとして、前記協調駆動モードに切り替える請求項3に記載の操舵制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、マスター側及びスレーブ側の2つの制御系統によってモータへの通電を制御する操舵制御装置が開示されている。操舵制御装置は、マスター側の制御系統に設けられたマスター制御部で電流指令値を演算するとともに、スレーブ側の制御系統に設けられたスレーブ制御部で電流指令値を演算している。操舵制御装置は、通常時すなわち各制御系統間で電流指令値が乖離する異常が生じていないと判定する場合に協調駆動モードを実行し、各制御系統間で電流指令値が乖離する異常が生じていると判定する場合に独立駆動モードを実行している。操舵制御装置は、協調駆動モードを実行する場合、マスター側及びスレーブ側の両方の制御系統の通電をマスター制御部で演算される電流指令値を用いて制御している。操舵制御装置は、独立駆動モードを実行する場合、マスター側の制御系統の通電をマスター制御部で演算される電流指令値を用いて制御し、スレーブ側の制御系統の通電をスレーブ制御部で演算される電流指令値を用いて制御している。
【0003】
特許文献2には、イグニッションスイッチがオフ操作されると、イグニッションオフ時の制御として、演算した電流指令値を電流制限する操舵制御装置としてのコントローラが開示されている。操舵制御装置は、一定時間の間に電流指令値を徐々に制限している。そして、操舵制御装置は、一定時間の経過後に、電流指令値を零まで制限するとともに、電源リレーを遮断状態とすることで自身をオフ状態としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-130007号公報
【文献】特開2001-10514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両の走行中にイグニッションスイッチがオフ操作されることがある。操舵制御装置には、それぞれの制御系統に走行中にイグニッションスイッチがオフ操作されたことを示す信号が入力されて、それぞれの制御系統で走行中におけるイグニッションオフ時の制御が実行される。ところで、マスター側の制御系統に設けられた電源リレーを遮断状態とするタイミングと、スレーブ側の制御系統に設けられた電源リレーを遮断状態とするタイミングとがずれること等に起因して、マスター側の制御系統及びスレーブ側の制御系統のいずれか一方の制御系統が他の制御系統よりも先に走行中イグニッションオフ時の制御に移行することがある。この結果、先に走行中イグニッションオフ時の制御に移行した制御系統では、当該制御系統の制御部で演算される電流指令値が電流制限される。
【0006】
例えば、マスター側の制御系統がスレーブ側の制御系統よりも先に走行中イグニッションオフ時の制御に移行した場合には、マスター制御部で演算される電流指令値は制限される一方、スレーブ制御部で演算される電流指令値は制限されない。そして、走行中イグニッションオフ時の制御中に運転者が操舵した場合には、マスター制御部及びスレーブ制御部は当該操舵に応じた電流指令値を演算する。この場合、マスター制御部で演算された電流指令値は電流制限されている一方、スレーブ制御部で演算された電流指令値は電流制限されていないことから、マスター制御部で演算された電流指令値とスレーブ制御部で演算された電流指令値との間に乖離が生じる。このため、スレーブ側の制御系統では、マスター制御部で演算された電流制限された電流指令値とスレーブ制御部で演算された電流制限されていない電流指令値との間で電流指令値に乖離が生じていると判定し、協調駆動モードから独立駆動モードに切り替えられる。スレーブ側の制御系統の通電は、マスター制御部で演算された電流制限された電流指令値を用いた制御から、スレーブ制御部で演算された電流制限されていない電流指令値を用いた制御へと変動する。これにより、モータから出力されるトルクが変動するおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する操舵制御装置は、協調駆動モード及び独立駆動モードを含む複数の駆動状態を切り替えてモータの駆動を制御する複数の制御系統を備え、前記複数の制御系統は、前記モータを制御するための指令値を演算する制御部を有し、前記複数の制御系統は、前記協調駆動モードを実行する場合、前記複数の制御系統のうちいずれか一つの制御系統の前記制御部で演算された指令値に基づいてそれぞれ前記モータの駆動を制御し、前記複数の制御系統は、前記独立駆動モードを実行する場合、自身の制御系統の前記制御部で演算された指令値に基づいてそれぞれ前記モータの駆動を制御し、前記複数の制御系統は、各制御系統の前記制御部で演算された指令値が互いに乖離していない場合に前記協調駆動モードに切り替えられ、各制御系統の前記制御部で演算された指令値が互いに乖離している場合に前記独立駆動モードに切り替えられ、前記複数の制御系統は、車両の始動スイッチがオフされた場合、自身の制御系統の前記制御部で演算された指令値を徐々に制限しており、前記複数の制御系統は、車両の走行中に前記始動スイッチがオフされた場合、各制御系統の前記制御部で演算される指令値が互いに乖離しているか否かに関係なく、前記独立駆動モードに切り替える。
【0008】
車両の走行中に始動スイッチがオフされた場合、複数の制御系統の中で走行中に始動スイッチがオフされた時の制御に移行するタイミングがばらつくことがある。先に走行中に始動スイッチがオフされた時の制御に移行した制御系統では自身の制御系統の制御部で演算された指令値を徐々に制限する一方、未だ走行中に始動スイッチがオフされた時の制御に移行していない制御系統では自身の制御系統の制御部で演算された指令値を制限していない。上記構成では、走行中に始動スイッチがオフされた場合には、各制御系統の制御部で演算される指令値が互いに乖離しているか否かに関係なく、協調駆動モードから独立駆動モードへと切り替えるようにしている。このため、各制御系統の制御部で演算された指令値が互いに乖離してから協調駆動モードから独立駆動モードへ切り替わるよりも前に各制御系統を独立駆動モードへと切り替えることができる。このことから、走行中に始動スイッチがオフされた時の制御中に指令値が各制御系統の制御部でそれぞれ演算される場合であっても、各制御系統の通電が変動することを抑えることができる。これにより、車両の走行中に始動スイッチがオフされた場合において、モータから出力されるトルクが変動することを抑えることができる。
【0009】
上記の操舵制御装置において、前記複数の制御系統は、車両の走行中に前記始動スイッチがオフされたか否かをそれぞれ判定しており、前記複数の制御系統は、自身の制御系統の駆動モードの情報を他の制御系統に対して送信するとともに、他の制御系統の駆動モードの情報を受信しており、前記複数の制御系統のうちいずれか一つの制御系統は、走行中に前記始動スイッチがオフされたことに起因して前記独立駆動モードに切り替えた場合、自身の制御系統が前記独立駆動モードに切り替わったことを示す駆動モードの情報を他の制御系統に対して送信しており、前記複数の制御系統のうち他の制御系統は、前記複数の制御系統のうちいずれか一つの制御系統からの駆動モードの情報を受信するとともに、当該受信した駆動モードの情報に基づいて、前記独立駆動モードに切り替えることが好ましい。
【0010】
複数の制御系統は、車両の走行中に始動スイッチがオフされたか否かをそれぞれ判定していることから、複数の制御系統の中で走行中に始動スイッチがオフされた時の制御に移行するタイミングがばらつくとともに、独立駆動モードに切り替えるタイミングがばらつくことがある。複数の制御系統のうち他の制御系統は、複数の制御系統のうちいずれか一つの制御系統から受信した駆動モードの情報に基づいて、独立駆動モードに切り替えるようにしている。このことから、他の制御系統が車両の走行中に始動スイッチがオフされたことを別個に判定してから独立駆動モードに切り替える場合よりも、複数の制御系統の中で独立駆動モードに切り替えるタイミングを合わせることができる。これにより、モータから出力されるトルクを安定させることができる。
【0011】
上記の操舵制御装置において、前記複数の制御系統は、車両の走行中に前記始動スイッチがオフされたことにより前記独立駆動モードに切り替えられている期間中において、前記始動スイッチがオンされた場合、駆動モードを切り替えることによって生じる前記モータのトルクの変動がステアリングホイールを振動させる可能性の高い状況では、前記独立駆動モードのままで維持し、駆動モードを切り替えることによって生じる前記モータのトルクの変動が前記ステアリングホイールを振動させる可能性の低い状況では、前記協調駆動モードに切り替えることが好ましい。
【0012】
上記構成では、複数の制御系統は、走行中に始動スイッチがオフされた時の制御を実行している期間中において、始動スイッチがオンされた場合であっても、駆動モードを切り替えることによって生じる前記モータのトルクの変動がステアリングホイールを振動させる可能性の高い状況では、独立駆動モードのままで維持している。このような場合、複数の制御系統は、駆動モードを切り替えないことによって、モータから出力されるトルクが変動することを抑えることができる。これにより、当該トルクの変動がステアリングホイールを振動させて、運転者によるステアリングホイールの操舵感に影響を及ぼすことを抑えることができる。また、複数の制御系統は、走行中に始動スイッチがオフされた時の制御を実行している期間中において、始動スイッチがオンされた場合に、駆動モードを切り替えることによって生じる前記モータのトルクの変動が前記ステアリングホイールを振動させる可能性の低い状況では、協調駆動モードに切り替えるようにしている。このような場合、複数の制御系統は、モータから出力されるトルクが変動することを抑えた状態で、駆動モードを協調駆動モードに切り替えることができる。
【0013】
上記の操舵制御装置において、前記複数の制御系統は、前記ステアリングホイールの操舵がされている場合、駆動モードを切り替えることによって生じる前記モータのトルクの変動が前記ステアリングホイールを振動させる可能性の高い状況であるとして、前記独立駆動モードのままで維持し、前記ステアリングホイールの操舵がされていない状況では、駆動モードを切り替えることによって生じる前記モータのトルクの変動が前記ステアリングホイールを振動させる可能性の低い状況であるとして、前記協調駆動モードに切り替えることが好ましい。
【0014】
上記構成では、ステアリングホイールの操舵がされていると判定される場合とは、駆動モードを切り替えたときに指令値の変動が生じやすいと想定できる状況であって、モータから出力されるトルクの変動がステアリングホイールを振動させる可能性が高いと想定できる状況である。ステアリングホイールの操舵がされていないと判定される場合とは、駆動モードを切り替えたときに指令値の変動が生じにくいと想定できる状況であって、モータから出力されるトルクの変動がステアリングホイールを振動させる可能性が低いと想定できる状況である。このように、ステアリングホイールの操舵がなされているかどうかに基づいて駆動モードの切り替えを行うことによって、駆動モードの切り替えを好適に行うことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の操舵制御装置によれば、走行中にイグニッションスイッチがオフされた場合において、モータから出力されるトルクが変動することを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】操舵制御装置を搭載したステアリング装置の概略構成を示す構成図。
【
図3】第1マイコン及び第2マイコンの概略構成を示すブロック図。
【
図4】走行中イグニッションオフ信号が入力された場合におけるゲイン演算部で演算される第1ゲイン及び第2ゲインの時間変化について示すグラフ。
【
図5】スレーブ側制御系統の駆動モードの切り替え処理の手順を示すフローチャート。
【
図6】先にスレーブ側制御系統において走行中にイグニッションスイッチがオフされたと判定された場合のマスター側制御系統の駆動モードの切り替え処理の流れを示すシーケンスチャート。
【
図7】スレーブ側制御系統の駆動モードの切り替え処理の手順を示すフローチャート。
【
図8】走行中にイグニッションスイッチがオフされたことに起因した協調駆動モードから独立駆動モードへの切り替えを実行する場合について、内部状態を示すタイミングチャート。
【
図9】比較例として、走行中にイグニッションスイッチがオフされたことに起因した協調駆動モードから独立駆動モードへの切り替えを実行しない場合について、内部状態を示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0017】
操舵制御装置を電動パワーステアリング装置(以下、「EPS」という。)に適用した一実施形態について図面に従って説明する。
図1に示すように、EPS1は、運転者のステアリングホイール10の操作に基づいて転舵輪15を転舵させる操舵機構2、運転者のステアリング操作を補助するアシスト機構3、及びアシスト機構3を制御する操舵制御装置30を備えている。
【0018】
操舵機構2は、一端にステアリングホイール10が固定されて他端にピニオンギアが形成されているステアリング軸11と、ピニオンギアと噛み合うラックギアが形成されているラック軸12とを備えている。これらピニオンギア及びラックギアによりラックアンドピニオン機構13が構成されている。ステアリング軸11は、ステアリングホイール10と連結されたコラム軸11a、コラム軸11aの下端部に連結された中間軸11b、及び中間軸11bの下端部に連結されたピニオン軸11cを有している。ピニオン軸11cの下端部には、ピニオンギアが形成されている。ステアリング軸11の回転運動は、ラックアンドピニオン機構13を介してラック軸12の軸方向の往復直線運動に変換される。ラック軸12の往復直線運動は、ラック軸12の両端にそれぞれ連結されたタイロッド14を介して左右の転舵輪15にそれぞれ伝達されることにより、転舵輪15の転舵角が変化し、車両の進行方向が変更される。
【0019】
アシスト機構3は、回転軸21を有するモータ20と、減速機構22とを備えている。モータ20の回転軸21は、減速機構22を介してコラム軸11aに連結されている。減速機構22はモータ20の回転を減速し、当該減速した回転力をコラム軸11aに伝達する。すなわち、ステアリング軸11にモータ20のトルクが付与されることにより、運転者のステアリング操作が補助される。モータ20としては、例えば3相のブラシレスモータが採用されている。減速機構22としては、例えばウォームギア機構が採用されている。
【0020】
図2に示すように、モータ20は、その回転軸21を中心に回転するロータ23と、ロータ23の外周に配置されるステータ24とを備えている。ロータ23には、その表面に永久磁石が固定されている。永久磁石は、ロータ23の周方向に異なる極性(N極、S極)が交互に並んで配置されている。こうした永久磁石は、モータ20が回転する際に磁界を形成する。ステータ24には、U相、V相、及びW相の3相のコイル25が円環状に配置されている。コイル25は、第1コイル25aと第2コイル25bとを有している。第1コイル25a及び第2コイル25bは、それぞれスター結線されたU相、V相、及びW相のコイルを含んでいる。モータ20には、モータ20の駆動を制御する制御ユニットである操舵制御装置30が接続されている。
【0021】
図1に示すように、操舵制御装置30には、車両に設けられた各種のセンサが接続されている。各種のセンサとしては、第1トルクセンサ40a、第2トルクセンサ40b、第1回転角センサ41a、第2回転角センサ41b、及び車速センサ42が車両に設けられている。第1トルクセンサ40a及び第2トルクセンサ40bは、コラム軸11aに設けられている。第1回転角センサ41a及び第2回転角センサ41bは、モータ20に設けられている。第1トルクセンサ40aは、運転者のステアリング操作に伴いステアリング軸11に付与される第1操舵トルクTh1を検出する。第2トルクセンサ40bは、運転者のステアリング操作に伴いステアリング軸11に付与される第2操舵トルクTh2を検出する。第1回転角センサ41aは、モータ20の回転軸21の第1回転角θ1を検出する。第2回転角センサ41bは、モータ20の回転軸21の第2回転角θ2を検出する。車速センサ42は、車両の走行速度である車速SPDを検出する。操舵制御装置30は、モータ20を制御対象としており、モータ20の駆動を制御している。詳しくは、操舵制御装置30は、各種のセンサの検出値に基づいて、操舵機構2に対して付与するモータ20の目標のトルクを設定し、実際のトルクが目標のトルクとなるように、モータ20に供給される電流を制御する。操舵制御装置30には、車両の駆動源を始動させるための始動スイッチとしてのイグニッションスイッチ43が接続されている。操舵制御装置30には、イグニッションスイッチ43のオンオフを示す始動信号Sigが入力される。イグニッションスイッチ43は、運転者によるイグニッションスイッチ43の操作に応じた始動信号Sigを出力する。
【0022】
操舵制御装置30の構成について説明する。
図2に示すように、操舵制御装置30は、モータ20の第1コイル25aに対して供給される電流を制御する第1電子制御装置(以下、「第1ECU51」という。)を有するマスター側制御系統50と、第2コイル25bに対して供給される電流を制御する第2電子制御装置(以下、「第2ECU61」という。)を有するスレーブ側制御系統60とを備えている。
【0023】
マスター側制御系統50及びスレーブ側制御系統60は、協調駆動モード及び独立駆動モードを切り替えて、モータ20の駆動を制御している。協調駆動モードでは、マスター側制御系統50及びスレーブ側制御系統60の両方の制御系統の通電を、マスター側制御系統50の第1ECU51で演算された指令値に基づいて制御している。一方、独立駆動モードでは、マスター側制御系統50の通電をマスター側制御系統50の第1ECU51で演算された指令値に基づいて制御しているとともに、スレーブ側制御系統60の通電をスレーブ側制御系統60の第2ECU61で演算された指令値に基づいて制御している。本実施形態では、マスター側制御系統50の機能とスレーブ側制御系統60の機能とが入れ替わることがないものとする。すなわち、協調駆動モードにおいて、スレーブ側制御系統60の第2ECU61で演算された指令値に基づいて、マスター側制御系統50及びスレーブ側制御系統60の両方の制御系統の通電をすることはない。
【0024】
マスター側制御系統50の第1ECU51は、制御部としての第1マイコン52、第1駆動回路53、第1駆動リレー54、第1電源リレー55、第1電圧センサ56、第1コンデンサ57、及び第1電流センサ58を有している。スレーブ側制御系統60の第2ECU61は、制御部としての第2マイコン62、第2駆動回路63、第2駆動リレー64、第2電源リレー65、第2電圧センサ66、第2コンデンサ67、及び第2電流センサ68を有している。第1駆動回路53と第2駆動回路63とは、同一構成である。第1駆動リレー54と第2駆動リレー64とは、同一構成である。第1電源リレー55と第2電源リレー65とは、同一構成である。第1電圧センサ56と第2電圧センサ66とは、同一構成である。第1コンデンサ57と第2コンデンサ67とは、同一構成である。第1電流センサ58と第2電流センサ68とは、同一構成である。第1マイコン52と第2マイコン62とは、後述の指令値演算部を除いて同一構成である。なお、同一構成とは、同一の設計思想のなかで同一の機能及び性能を有するものである。
【0025】
第1ECU51には、第1コイル25aに供給する電流の電力源である第1電源70が接続されている。第1駆動回路53と第1電源70の高電位側とは、第1電源線L1を介して接続されている。第1駆動回路53と第1電源70の低電位側とは、第1電源グランド線GL1を介して接続されている。第1電源グランド線GL1は、第1電源グランドFG1に接続されている。第1電源線L1には、第1駆動リレー54が設けられている。第1駆動リレー54は、第1マイコン52からの第1リレー信号Srl1に基づきオンオフすることにより、第1電源線L1の導通状態と遮断状態とを切り替える。第1電源線L1が導通状態である場合、第1電源70の電力は、第1電源線L1を介して第1駆動回路53に供給される。第1電源線L1が遮断状態である場合、第1電源70の電力は、第1電源線L1を介して第1駆動回路53に供給されない。
【0026】
第1マイコン52と第1電源70の高電位側とは、第3電源線L3を介して接続されている。第1マイコン52の低電位側は、第1内部グランドSG1に接続されている。第3電源線L3には、車両のイグニッションスイッチ43から出力される始動信号Sigに応じてオンオフする第1電源リレー55が設けられている。第1電源リレー55は、始動信号Sigに応じて第3電源線L3の導通状態と遮断状態とを切り替える。イグニッションスイッチ43がオンである旨示す始動信号Sigが第1電源リレー55に入力される場合、第1電源リレー55はオンされて、第3電源線L3は導通状態となる。第3電源線L3が導通状態である場合、第1電源70の電力は、第3電源線L3を介して第1マイコン52に供給される。イグニッションスイッチ43がオフである旨示す始動信号Sigが第1電源リレー55に入力される場合、第1電源リレー55はオフされて、第3電源線L3は遮断状態となる。第3電源線L3が遮断状態である場合、第1電源70の電力は、第3電源線L3を介して第1マイコン52に供給されない。第3電源線L3には、第1電圧センサ56が設けられている。第1電圧センサ56は、第3電源線L3に生じる第1電源70からの電圧を第1イグニッション電圧Vg1として検出する。
【0027】
第1コンデンサ57は、第1電源線L1における第1駆動リレー54及び第1駆動回路53の間の部分と、第1電源グランド線GL1との間に設けられている。第1コンデンサ57は、第1電源70からの電圧を平滑化している。
【0028】
第1駆動回路53は、3相の第1コイル25aに対応する3相の駆動回路である。第1駆動回路53は、直列に接続された一対のスイッチング素子を1組とするスイッチングアームを、並列に3組接続してなる周知の3相の駆動回路として構成されている。スイッチング素子には、例えばMOS-FET(電界効果トランジスタ:metal-oxide-semiconductor field-effect-transistor)が採用されている。一対のスイッチング素子のうち上流側のスイッチング素子は、第1電源70の高電位側と第1コイル25aとの間をそれぞれ開閉する。一対のスイッチング素子のうち下流側のスイッチング素子は、第1電源70の低電位側と第1コイル25aとの間をそれぞれ開閉する。
【0029】
第1電流センサ58は、第1駆動回路53と第1コイル25aとの間の給電経路を流れる各相の電流値である第1実電流値I1を検出する。
第1マイコン52は、第3電源線L3を介して第1電源70から供給される電力を用いて、第1駆動回路53の駆動を制御するための第1モータ制御信号Sm1を出力するとともに、第1駆動リレー54を制御する第1リレー信号Srl1を出力する。第1マイコン52は、第1モータ制御信号Sm1として、第1駆動回路53を構成するスイッチング素子のオンオフを規定するPWM信号を生成する。
【0030】
第2ECU61には、第2コイル25bに供給する電流の電力源である第2電源80が接続されている。第2駆動回路63と第2電源80の高電位側とは、第2電源線L2を介して接続されている。第2駆動回路63と第2電源80の低電位側とは、第2電源グランド線GL2を介して接続されている。第2電源グランド線GL2は、第2電源グランドFG2に接続されている。第2電源線L2には、第2駆動リレー64が設けられている。第2駆動リレー64は、第2マイコン62からの第2リレー信号Srl2に基づきオンオフすることにより、第2電源線L2の導通状態と遮断状態とを切り替える。第2電源線L2が導通状態である場合、第2電源80の電力は、第2電源線L2を介して第2駆動回路63に供給される。第2電源線L2が遮断状態である場合、第2電源80の電力は、第2電源線L2を介して第2駆動回路63に供給されない。
【0031】
第2マイコン62と第2電源80の高電位側とは、第4電源線L4を介して接続されている。第2マイコン62の低電位側は、第2内部グランドSG2に接続されている。第4電源線L4には、車両のイグニッションスイッチ43から出力される始動信号Sigに応じてオンオフする第2電源リレー65が設けられている。第2電源リレー65は、始動信号Sigに応じて第4電源線L4の導通状態と遮断状態とを切り替える。イグニッションスイッチ43がオンである旨示す始動信号Sigが第2電源リレー65に入力される場合、第2電源リレー65はオンされて、第4電源線L4は導通状態となる。第4電源線L4が導通状態である場合、第2電源80の電力は、第4電源線L4を介して第2マイコン62に供給される。イグニッションスイッチ43がオフである旨示す始動信号Sigが第1電源リレー55に入力される場合、第1電源リレー55はオフされて、第3電源線L3は遮断状態となる。第3電源線L3が遮断状態である場合、第1電源70の電力は、第3電源線L3を介して第1マイコン52に供給されない第4電源線L4には、第2電圧センサ66が設けられている。第2電圧センサ66は、第4電源線L4に生じる第2電源80からの電圧を第2イグニッション電圧Vg2として検出する。
【0032】
第2コンデンサ67は、第2電源線L2における第2駆動リレー64及び第2駆動回路63の間の部分と、第2電源グランド線GL2との間に設けられている。第2コンデンサ67は、第2電源80からの電圧を平滑化している。
【0033】
第1電源グランドFG1及び第2電源グランドFG2は、電位が大地とほぼ等しい部位である。本実施形態では、第1電源グランドFG1及び第2電源グランドFG2は、操舵制御装置30が搭載される車両のボディである。また、第1内部グランドSG1及び第2内部グランドSG2は、各ECUにおける電気回路上の電圧の基準となる部位である。第1内部グランドSG1及び第2内部グランドSG2は、操舵制御装置30が実装されている基板上に設けられている。
【0034】
このように、第1ECU51及び第2ECU61には、別個の電源が別個の電源線及び電源グランド線を介してそれぞれ接続されている。これにより、本実施形態では、モータ20の駆動を制御する制御系統が冗長化されているとともに、電源の構成が冗長化されている。
【0035】
第2駆動回路63は、3相の第2コイル25bに対応する3相の駆動回路である。第2駆動回路63は、直列に接続された一対のスイッチング素子を1組とするスイッチングアームを、並列に3組接続してなる周知の3相の駆動回路として構成されている。一対のスイッチング素子のうち上流側のスイッチング素子は、第2電源80の高電位側と第2コイル25bとの間をそれぞれ開閉する。一対のスイッチング素子のうち下流側のスイッチング素子は、第2電源80の低電位側と第2コイル25bとの間をそれぞれ開閉する。
【0036】
第2電流センサ68は、第2駆動回路63と第2コイル25bとの間の給電経路を流れる各相の電流値である第2実電流値I2を検出する。
第2マイコン62は、第4電源線L4を介して第2電源80から供給される電力を用いて、第2駆動回路63の駆動を制御するための第2モータ制御信号Sm2を出力するとともに、第2駆動リレー64を制御する第2リレー信号Srl2を出力する。第2マイコン62は、第2モータ制御信号Sm2として、第2駆動回路63を構成するスイッチング素子のオンオフを規定するPWM信号を生成する。
【0037】
第1マイコン52及び第2マイコン62の機能について説明する。
図3に示すように、第1マイコン52は、第1指令値演算部90、第1電流フィードバック制御部91、第1イグニッション判定部92、第1ステータス保持部93、及び第1送受信部94を有している。第2マイコン62は、第2指令値演算部100、第2電流フィードバック制御部101、第2イグニッション判定部102、第2ステータス保持部103、及び第2送受信部104を有している。第1電流フィードバック制御部91と第2電流フィードバック制御部101とは、同一構成である。第1イグニッション判定部92と第2イグニッション判定部102とは、同一構成である。第1ステータス保持部93と第2ステータス保持部103とは、同一構成である。第1送受信部94と第2送受信部104とは、同一構成である。第2指令値演算部100が後述の指令値乖離判定部109を有する一方、第1指令値演算部90は指令値乖離判定部109を有しない点で、第1指令値演算部90と第2指令値演算部100とは構成が異なる。
【0038】
第1指令値演算部90は、第1トルクセンサ40aにより検出された第1操舵トルクTh1、車速センサ42により検出された車速SPD、及び第1イグニッション判定部92により生成された信号を取得する。第1指令値演算部90は、第1操舵トルクTh1、車速SPD、及び第1イグニッション判定部92により生成された信号に基づいて、第1実電流値I1の目標値である第1最終電流指令値I1*を演算する。
【0039】
第1電流フィードバック制御部91は、第1指令値演算部90により演算された第1最終電流指令値I1*、第1回転角センサ41aにより検出された第1回転角θ1、及び第1電流センサ58により検出された第1実電流値I1を取得する。第1電流フィードバック制御部91は、第1実電流値I1及び第1回転角θ1に基づいて、第1最終電流指令値I1*に第1実電流値I1を追従させるように、第1最終電流指令値I1*と第1実電流値I1との偏差に基づく電流フィードバック制御を実行することにより、第1モータ制御信号Sm1を生成する。
【0040】
第1イグニッション判定部92は、第1電圧センサ56により検出された第1イグニッション電圧Vg1、及び車速センサ42により検出された車速SPDを取得する。第1イグニッション判定部92は、第1イグニッション電圧Vg1及び車速SPDに基づいて、車両のイグニッションスイッチ43の状態を判定する。具体的には、第1イグニッション判定部92は、第1イグニッション電圧Vg1が電圧閾値V0を超える場合に、イグニッションスイッチ43がオンされたことを判定し、第1イグニッションオン信号Son1を生成する。電圧閾値V0とは、イグニッションスイッチ43がオンであるときに、
図2に示した第3電源線L3を介して第1電源70から供給される第1イグニッション電圧Vg1の最低値に設定されている。第1イグニッション判定部92は、第1イグニッション電圧Vg1が電圧閾値V0を超えない状況が所定時間tgの間継続した場合に、イグニッションスイッチ43がオフされたことを判定し、第1イグニッションオフ信号Soff1を生成する。また、第1イグニッション判定部92は、第1イグニッションオフ信号Soff1を生成する状況のなかでも、走行中である場合には第1走行中イグニッションオフ信号Soff1aを生成する。すなわち、第1イグニッション判定部92は、車速SPDが車速閾値SPD0を超える状況が所定時間tgの間継続し、かつ第1イグニッション電圧Vg1が電圧閾値V0を超えない状況が所定時間tgの間継続した場合に、走行中にイグニッションスイッチ43がオフされたことを判定し、第1走行中イグニッションオフ信号Soff1aを生成する。車速閾値SPD0とは、車両が走行しているといえる車速SPDに設定されている。
【0041】
第1ステータス保持部93は、マスター側制御系統50の駆動モードを保持している。すなわち、第1ステータス保持部93は、マスター側制御系統50が協調駆動モードでモータ20の駆動を制御しているという駆動モードの情報、あるいは独立駆動モードでモータ20の駆動を制御しているという駆動モードの情報を保持している。第1ステータス保持部93は、例えば第1イグニッション判定部92により生成された信号や第1送受信部94から受け取った情報に基づいてマスター側制御系統50の駆動モードを把握する。
【0042】
第1送受信部94は、第2マイコン62の後述する第2送受信部104との間で情報を送受信している。
第2指令値演算部100は、第2トルクセンサ40bにより検出された第2操舵トルクTh2、車速センサ42により検出された車速SPD、及び第2イグニッション判定部102により生成された信号を取得する。第2指令値演算部100は、第2操舵トルクTh2、車速SPD、及び第2イグニッション判定部102により生成された信号に基づいて、第2実電流値I2の目標値である第2最終電流指令値I2*を演算する。
【0043】
第2電流フィードバック制御部101は、第2指令値演算部100により演算された第2最終電流指令値I2*、第2回転角センサ41bにより検出された第2回転角θ2、及び第2電流センサ68により検出された第2実電流値I2を取得する。第2電流フィードバック制御部101は、第2実電流値I2及び第2回転角θ2に基づいて、第2最終電流指令値I2*に第2実電流値I2を追従させるように、第2最終電流指令値I2*と第2実電流値I2との偏差に基づく電流フィードバック制御を実行することにより、第2モータ制御信号Sm2を生成する。
【0044】
第2イグニッション判定部102は、第2電圧センサ66により検出された第2イグニッション電圧Vg2、及び車速センサ42により検出された車速SPDを取得する。第2イグニッション判定部102は、第2イグニッション電圧Vg2及び車速SPDに基づいて、車両のイグニッションスイッチ43の状態を判定する。第2イグニッション判定部102における車両のイグニッションスイッチ43の状態の判定方法は、第1イグニッション判定部92における判定方法と同じである。これにより、第2イグニッション判定部102は、第2イグニッションオン信号Son2、第2イグニッションオフ信号Soff2、及び第2走行中イグニッションオフ信号Soff2aを生成する。
【0045】
第2ステータス保持部103は、スレーブ側制御系統60の駆動モードを保持している。すなわち、第2ステータス保持部103は、スレーブ側制御系統60が協調駆動モードでモータ20の駆動を制御しているという駆動モードの情報、あるいは独立駆動モードでモータ20の駆動を制御しているという駆動モードの情報を保持している。
【0046】
第2送受信部104は、第1マイコン52の第1送受信部94との間で情報を送受信している。
第1指令値演算部90及び第2指令値演算部100の機能について説明する。
【0047】
図3に示すように、第1指令値演算部90は、第1基本指令値演算部95、第1ゲイン出力部96、乗算器97、及び第1ガード処理部98を有している。また、第2指令値演算部100は、第2基本指令値演算部105、第2ゲイン出力部106、乗算器107、第2ガード処理部108、及び指令値乖離判定部109を有している。第1基本指令値演算部95と第2基本指令値演算部105とは、同一構成である。第1ゲイン出力部96と第2ゲイン出力部106とは、同一構成である。乗算器97と乗算器107とは、同一構成である。第1ガード処理部98と第2ガード処理部108とは、同一構成である。
【0048】
第1基本指令値演算部95には、車速SPD及び第1操舵トルクTh1が入力される。第1基本指令値演算部95は、車速SPD及び第1操舵トルクTh1に基づいて、d/q座標系におけるq軸上の電流指令値である第1基本電流指令値Iq1*を演算する。第1基本指令値演算部95は、第1操舵トルクTh1の絶対値が大きいほど、また車速SPDが小さいほど、より大きな絶対値となる第1基本電流指令値Iq1*を演算する。なお、第1基本指令値演算部95は、d/q座標系におけるd軸上の電流指令値を「0」としている。
【0049】
第1ゲイン出力部96には、第1イグニッション判定部92により生成された信号が入力される。第1ゲイン出力部96は、第1イグニッション判定部92により生成された信号に基づいて、第1ゲインG1を0~1の範囲で出力する。第1ゲイン出力部96は、第1イグニッション判定部92から第1イグニッションオン信号Son1あるいは第1イグニッションオフ信号Soff1が入力される場合、第1ゲインG1として「1」を出力する。第1ゲイン出力部96は、第1イグニッション判定部92から第1走行中イグニッションオフ信号Soff1aが入力される場合、走行中イグニッションオフ時の制御として、第1ゲインG1として「1」以下の値を出力する。
【0050】
図4は、第1イグニッション判定部92から第1走行中イグニッションオフ信号Soff1aが入力された場合における、第1ゲイン出力部96から出力される第1ゲインG1の時間変化を示している。
図4における時間の「0」は、第1ゲイン出力部96に第1イグニッション判定部92から第1走行中イグニッションオフ信号Soff1aが入力されてから、運転者のステアリング操作を補助するべき補助継続期間D1が経過したときを示している。補助継続期間D1は、イグニッションスイッチ43をオフした直後は未だ運転者によって操舵される可能性が高いため、運転者のステアリング操作を補助できるようにした所定の期間のことである。
図4に示すように、第1ゲイン出力部96は、補助継続期間D1が経過してからの時間が経過するほど、絶対値の小さい第1ゲインG1を出力する。すなわち、第1ゲイン出力部96は、補助継続期間D1が経過してから、第1ゲインG1の絶対値を徐々に小さくしている。第1ゲインG1の絶対値は、補助継続期間D1が経過してから指数関数的に小さくなる。第1ゲイン出力部96は、補助継続期間D1が経過してから所定時間が経過した場合、第1ゲインG1を「0」として出力する。
【0051】
乗算器97には、第1基本指令値演算部95により演算された第1基本電流指令値Iq1*、及び第1ゲイン出力部96により出力された第1ゲインG1が入力される。乗算器97は、第1基本電流指令値Iq1*及び第1ゲインG1を乗算した乗算値である第1調整後電流指令値Iq1a*を演算する。第1イグニッション判定部92において第1イグニッションオン信号Son1あるいは第1イグニッションオフ信号Soff1が生成される場合、第1基本電流指令値Iq1*と第1調整後電流指令値Iq1a*とは等しくなる。一方、第1イグニッション判定部92において第1走行中イグニッションオフ信号Soff1aが生成される場合、第1調整後電流指令値Iq1a*の絶対値は第1基本電流指令値Iq1*の絶対値以下の値になる。すなわち、第1イグニッション判定部92において第1走行中イグニッションオフ信号Soff1aが生成される場合、第1調整後電流指令値Iq1a*の絶対値は徐々に制限される。
【0052】
第1ガード処理部98には、乗算器97により演算された第1調整後電流指令値Iq1a*、及び第1イグニッション判定部92により生成された信号が入力される。第1ガード処理部98は、第1調整後電流指令値Iq1a*に対して各種のガード処理をかけることにより、第1調整後電流指令値Iq1a*を第1電流制限値Ilim1に制限した第1最終電流指令値I1*を演算している。各種のガード処理としては、例えばイグニッションスイッチ43がオフされた場合に第1調整後電流指令値Iq1a*を制限する制御や、マスター側制御系統50の過熱保護をするために第1調整後電流指令値Iq1a*の電流指令値を制限する制御が実行されている。なお、第1電流制限値Ilim1は、各種のガード処理に応じて設定されるものであり、その時々で最小の値が設定される。一例として、第1ガード処理部98は、第1イグニッション判定部92により第1イグニッションオフ信号Soff1が入力された場合、第1イグニッションオフ信号Soff1が入力されてから運転者のステアリング操作を補助するべき期間の経過後に第1電流制限値Ilim1をほぼ零にする。この場合のステアリング操作を補助するべき期間は、イグニッションスイッチ43をオフした直後は未だ運転者によって操舵される可能性が高いため、運転者のステアリング操作を補助できるようにした所定の期間のことであって、補助継続期間D1よりも長く設定された期間である。また、第1電流制限値Ilim1の絶対値は、このステアリング操作を補助するべき期間の経過後に徐々に減少するように設定されている。
【0053】
第1送受信部94は、乗算器97により演算された第1調整後電流指令値Iq1a*、第1ガード処理部98において用いられる第1電流制限値Ilim1、及び第1ステータス保持部93により保持されているマスター側制御系統50の駆動モードの情報を取得する。第1送受信部94は、所定の制御周期で、第1調整後電流指令値Iq1a*、第1電流制限値Ilim1、及びマスター側制御系統50の駆動モードの情報をスレーブ側制御系統60の第2送受信部104に対して送信する。
【0054】
第2基本指令値演算部105には、車速SPD及び第2操舵トルクTh2が入力される。第2基本指令値演算部105は、車速SPD及び第2操舵トルクTh2に基づいて、d/q座標系におけるq軸上の電流指令値である第2基本電流指令値Iq2*を演算する。第2基本指令値演算部105は、第2操舵トルクTh2の絶対値が大きいほど、また車速SPDが小さいほど、より大きな絶対値となる第2基本電流指令値Iq2*を演算する。なお、第2基本指令値演算部105は、d/q座標系におけるd軸上の電流指令値を「0」としている。
【0055】
第2ゲイン出力部106には、第2イグニッション判定部102により生成された信号が入力される。第2ゲイン出力部106は、第2イグニッション判定部102から第2イグニッションオン信号Son2あるいは第2イグニッションオフ信号Soff2が入力される場合、第2ゲインG2として「1」を出力する。第2ゲイン出力部106は、第2走行中イグニッションオフ信号Soff2aが入力される場合、走行中イグニッションオフ時の制御として、第2ゲインG2として「1」以下の値を出力する。
図4に示すように、第2ゲイン出力部106は、補助継続期間D1が経過してからの時間が経過するほど、絶対値の小さい第2ゲインG2を出力する。すなわち、第2ゲイン出力部106は、補助継続期間D1が経過してから、第2ゲインG2の絶対値を徐々に小さくしている。第2ゲイン出力部106は、補助継続期間D1が経過してから所定時間が経過した場合、第2ゲインG2を「0」として出力する。
【0056】
乗算器107には、第2基本指令値演算部105により演算された第2基本電流指令値Iq2*、及び第2ゲイン出力部106により出力された第2ゲインG2が入力される。乗算器107は、第2基本電流指令値Iq2*及び第2ゲインG2を乗算した乗算値である第2調整後電流指令値Iq2a*を演算する。第2イグニッション判定部102において第2イグニッションオン信号Son2あるいは第2イグニッションオフ信号Soff2が生成される場合、第2基本電流指令値Iq2*と第2調整後電流指令値Iq2a*とは等しくなる。一方、第2イグニッション判定部102において第2走行中イグニッションオフ信号Soff2aが生成される場合、第2調整後電流指令値Iq2a*の絶対値は第2基本電流指令値Iq2*の絶対値以下の値になる。すなわち、第2イグニッション判定部102において第2走行中イグニッションオフ信号Soff2aが生成される場合、第2調整後電流指令値Iq2a*の絶対値は徐々に制限される。
【0057】
指令値乖離判定部109には、乗算器107により演算された第2調整後電流指令値Iq2a*、第2送受信部104が第1送受信部94から受信した第1調整後電流指令値Iq1a*、マスター側制御系統50の駆動モード、及び第2トルクセンサ40bにより検出された第2操舵トルクTh2が入力される。指令値乖離判定部109は、第1調整後電流指令値Iq1a*と第2調整後電流指令値Iq2a*との指令値偏差ΔI*が乖離判定閾値ΔI0を超えているか否かに基づいて、第1調整後電流指令値Iq1a*と第2調整後電流指令値Iq2a*とが互いに乖離しているか否かを判定している。乖離判定閾値ΔI0は、第1調整後電流指令値Iq1a*と第2調整後電流指令値Iq2a*とが一致しているとみなせる値に設定されており、マスター側制御系統50及びスレーブ側制御系統60が正常であれば、指令値偏差ΔI*が乖離判定閾値ΔI0を超えないような値に設定されている。
【0058】
指令値乖離判定部109は、第1調整後電流指令値Iq1a*と第2調整後電流指令値Iq2a*とが互いに乖離していない場合、すなわちマスター側制御系統50及びスレーブ側制御系統60の間で調整後電流指令値が乖離する異常が生じていない場合には、協調駆動モードを実行するようにしている。協調駆動モードを実行する場合、指令値乖離判定部109は、第1調整後電流指令値Iq1a*を第2ガード処理部108に対して出力する。また、指令値乖離判定部109は、協調駆動モードを実行する場合、その旨示す信号を第2ステータス保持部103に出力する。
【0059】
指令値乖離判定部109は、第1調整後電流指令値Iq1a*と第2調整後電流指令値Iq2a*とが互いに乖離している場合、すなわちマスター側制御系統50及びスレーブ側制御系統60の間で調整後電流指令値が乖離する異常が生じている場合には、独立駆動モードを実行するようにしている。独立駆動モードを実行する場合、指令値乖離判定部109は、第2調整後電流指令値Iq2a*を第2ガード処理部108に対して出力する。また、指令値乖離判定部109は、独立駆動モードを実行する場合、その旨示す信号を第2ステータス保持部103に出力する。指令値乖離判定部109は、調整後電流指令値の乖離の判定結果に基づいて、第2ガード処理部108に対して出力する調整後電流指令値を変更することによって、スレーブ側制御系統60の駆動モードを切り替えている。なお、指令値乖離判定部109は、走行中イグニッションオフ時の制御として独立駆動モードが実行される期間中、第1調整後電流指令値Iq1a*と第2調整後電流指令値Iq2a*とが互いに乖離しているか否かの判定を行わないようにしている。
【0060】
第2ガード処理部108には、指令値乖離判定部109から出力された第1調整後電流指令値Iq1a*あるいは第2調整後電流指令値Iq2a*、及び第2イグニッション判定部102により生成された信号が入力される。第2ガード処理部108は、第1調整後電流指令値Iq1a*あるいは第2調整後電流指令値Iq2a*に対して各種のガード処理をかけることにより、第1調整後電流指令値Iq1a*あるいは第2調整後電流指令値Iq2a*を第2電流制限値Ilim2に制限した第2最終電流指令値I2*を演算している。各種のガード処理としては、例えばイグニッションスイッチ43がオフされた場合に第2調整後電流指令値Iq2a*を制限する制御や、スレーブ側制御系統60の過熱保護をするために第2調整後電流指令値Iq2a*の電流指令値を制限する制御が実行されている。なお、第2電流制限値Ilim2は、各種のガード処理に応じて設定されるものであり、その時々で最小の値が設定される。一例として、第2ガード処理部108は、第2イグニッション判定部102により第2イグニッションオフ信号Soff2が入力された場合、第2イグニッションオフ信号Soff2が入力されてから運転者のステアリング操作を補助するべき期間の経過後に第2電流制限値Ilim2をほぼ零にする。この場合のステアリング操作を補助するべき期間は、イグニッションスイッチ43をおオフした直後は未だ運転者によって操舵される可能性が高いため、運転者のステアリング操作を補助できるようにした所定の期間のことであって、補助継続期間D1よりも長く設定された期間である。また、第2電流制限値Ilim2の絶対値は、このステアリング操作を補助するべき期間の経過後に徐々に減少するように設定されている。
【0061】
指令値乖離判定部109には、第2イグニッション判定部102により生成された信号が入力される。指令値乖離判定部109は、第2イグニッション判定部102から第2走行中イグニッションオフ信号Soff2aが入力された場合、第1調整後電流指令値Iq1a*と第2調整後電流指令値Iq2a*とが互いに乖離しているか否かに関係なく、スレーブ側制御系統60の駆動モードを協調駆動モードから独立駆動モードに切り替える。すなわち、指令値乖離判定部109は、スレーブ側制御系統60の駆動モードを協調駆動モードから独立駆動モードに切り替えるべく、第2調整後電流指令値Iq2a*を第2ガード処理部108に対して出力する。
【0062】
図5を用いてスレーブ側制御系統60の駆動モードの切り替え処理について説明する。前提としてスレーブ側制御系統60では協調駆動モードが実行されているものとする。スレーブ側制御系統60は、以下の駆動モードの切り替え処理を繰り返し実行する。なお、説明を簡略化するために、指令値乖離判定部109における調整後電流指令値の乖離の判定の説明を省略している。
【0063】
図5に示すように、スレーブ側制御系統60の第2イグニッション判定部102は、協調駆動モードが実行されている場合(ステップS1)、走行中にイグニッションスイッチ43がオフされたか否かを判定する(ステップS2)。第2イグニッション判定部102は、車速SPDが車速閾値SPD0を超える状況が所定時間tgの間継続し、かつ第2イグニッション電圧Vg2が電圧閾値V0を超えない状況が所定時間tgの間継続した場合に、走行中にイグニッションスイッチ43がオフされたことを判定し、第2走行中イグニッションオフ信号Soff2aを生成する。
【0064】
スレーブ側制御系統60の指令値乖離判定部109は、走行中にイグニッションスイッチ43がオフされていない場合(ステップS2のNO)、協調駆動モードを実行し(ステップS3)、駆動モードの切り替え処理を終了する。指令値乖離判定部109は、協調駆動モードを実行する場合、第1調整後電流指令値Iq1a*を第2ガード処理部108に対して出力するとともに、協調駆動モードを実行する旨示す信号を第2ステータス保持部103に出力する。
【0065】
スレーブ側制御系統60の指令値乖離判定部109は、走行中にイグニッションスイッチ43がオフされた場合(ステップS2のYES)、独立駆動モードを実行し(ステップS4)、駆動モードの切り替え処理を終了する。指令値乖離判定部109は、独立駆動モードを実行する場合、第2調整後電流指令値Iq2a*を第2ガード処理部108に対して出力するとともに、独立駆動モードを実行する旨示す信号を第2ステータス保持部103に出力する。
【0066】
図3に示すように、第2送受信部104は、乗算器107により演算された第2調整後電流指令値Iq2a*、第2ガード処理部108において用いられる第2電流制限値Ilim2、及び第2ステータス保持部103により保持されているスレーブ側制御系統60の駆動モードの情報を取得する。第2送受信部104は、所定の制御周期で、第2調整後電流指令値Iq2a*、第2電流制限値Ilim2、及びスレーブ側制御系統60の駆動モードの情報をマスター側制御系統50の第1送受信部94に対して送信する。また、第2送受信部104は、所定の制御周期で、第1調整後電流指令値Iq1a*、第1電流制限値Ilim1、及びマスター側制御系統50の駆動モードの情報を受信する。また、第1送受信部94は、所定の制御周期で、第2調整後電流指令値Iq2a*、第2電流制限値Ilim2、及びスレーブ側制御系統60の駆動モードの情報を受信する。
【0067】
マスター側制御系統50は、第1送受信部94が第2送受信部104から独立駆動モードである旨示す信号を受信した場合、自身の駆動モードを独立駆動モードに切り替える。なお、本実施形態では、マスター側制御系統50は、協調駆動モードでも独立駆動モードでも第1調整後電流指令値Iq1a*を第1ガード処理部98に対して出力すればよく、制御結果としては何ら変更しないこととしている。ただし、マスター側制御系統50は、スレーブ側制御系統60の情報を取得することによって、スレーブ側制御系統60の情報に基づいてマスター側制御系統50の各種の制御を変更できるようになる。
【0068】
マスター側制御系統50よりも先にスレーブ側制御系統60において走行中にイグニッションスイッチ43がオフされたと判定された場合の駆動モードの切り替え処理について
図6を用いて説明する。
【0069】
図6のシーケンスチャートに示すように、スレーブ側制御系統60の指令値乖離判定部109は、走行中にイグニッションスイッチ43がオフされたと判定された場合(ステップS11)、スレーブ側制御系統60の駆動モードを協調駆動モードから独立駆動モードへと切り替える(ステップS12)。一方、マスター側制御系統50では、未だ走行中にイグニッションスイッチ43がオフされたと判定されていない。スレーブ側制御系統60の指令値乖離判定部109には、第2イグニッション判定部102により生成された第2走行中イグニッションオフ信号Soff2a、及び第2送受信部104が第1送受信部94から受信したマスター側制御系統50が協調駆動モードを実行している旨示すマスター側制御系統50の駆動モードの情報が入力される。指令値乖離判定部109は、マスター側制御系統50で未だ走行中にイグニッションスイッチ43がオフされたと判定されていないことを無視し、自身の制御系統で走行中にイグニッションスイッチ43がオフされたと判定されたことを優先して、スレーブ側制御系統60の駆動モードを協調駆動モードから独立駆動モードへと切り替える。
【0070】
スレーブ側制御系統60の第2送受信部104は、スレーブ側制御系統60の駆動モードの情報をマスター側制御系統50の第1送受信部94へ送信する(ステップS13)。
マスター側制御系統50は、第1送受信部94が第2送受信部104から受信したスレーブ側制御系統60の駆動モードの情報に基づいて、自身の駆動モードを独立駆動モードに切り替える(ステップS14)。マスター側制御系統50では、未だ走行中にイグニッションスイッチ43がオフされたと判定されていない。一方、マスター側制御系統50には、第1送受信部94が第2送受信部104から受信したスレーブ側制御系統60が独立駆動モードを実行している旨示すスレーブ側制御系統60の駆動モードの情報が入力される。マスター側制御系統50の第1ステータス保持部93は、自身の制御系統で未だイグニッションスイッチ43がオフされたと判定されていないことを無視し、スレーブ側制御系統60で走行中にイグニッションスイッチ43がオフされたと判定されたことを優先して、マスター側制御系統50が独立駆動モードでモータ20の駆動を制御しているという駆動モードの情報を保持する。
【0071】
スレーブ側制御系統60よりも先にマスター側制御系統50において走行中にイグニッションスイッチ43がオフされたと判定された場合の駆動モードの切り替え処理も、
図6に示した処理と同様である。マスター側制御系統50は、走行中にイグニッションスイッチ43がオフされたと判定された場合に、マスター側制御系統50の駆動モードを協調駆動モードから独立駆動モードへと切り替える。マスター側制御系統50の第1送受信部94は、マスター側制御系統50の駆動モードの情報をスレーブ側制御系統60の第2送受信部104へ送信する。スレーブ側制御系統60の指令値乖離判定部109は、自身の制御系統で未だイグニッションスイッチ43がオフされたと判定されていないことを無視し、マスター側制御系統50で走行中にイグニッションスイッチ43がオフされたと判定されたことを優先して、第2調整後電流指令値Iq2a*を出力する独立駆動モードに切り替える。また、スレーブ側制御系統60の第2ステータス保持部103は、自身の制御系統で未だイグニッションスイッチ43がオフされたと判定されていないことを無視し、マスター側制御系統50で走行中にイグニッションスイッチ43がオフされたと判定されたことを優先して、スレーブ側制御系統60が独立駆動モードでモータ20の駆動を制御しているという駆動モードの情報を保持する。
【0072】
図3に示すように、指令値乖離判定部109は、第2走行中イグニッションオフ信号Soff2aが入力されたことに基づいて調整後電流指令値を徐々に制限する期間中、すなわち走行中にイグニッションスイッチ43がオフされたことに起因して独立駆動モードを実行している期間中に、イグニッションスイッチ43がオンされたと判定された場合、ステアリング操作がされているか否かを判定する。指令値乖離判定部109は、第2操舵トルクTh2がトルク閾値Th0を超えているか否かに基づいて、ステアリング操作がされているか否かを判定し、ステアリング操作がされているか否かに基づいてスレーブ側制御系統60の駆動モードを切り替えている。トルク閾値Th0とは、ステアリング操作がされていると判定できる程度の第2操舵トルクTh2の値に設定されている。
【0073】
スレーブ側制御系統60の駆動モードの切り替え処理について
図7を用いて説明する。前提としてスレーブ側制御系統60では走行中にイグニッションスイッチ43がオフされたことに起因して独立駆動モードが実行されているものとする。スレーブ側制御系統60は、走行中にイグニッションスイッチ43がオフされたことに起因して独立駆動モードが実行されている期間中において、以下の駆動モードの切り替え処理を繰り返し実行する。
【0074】
スレーブ側制御系統60の第2イグニッション判定部102は、走行中にイグニッションスイッチ43がオフされたことに起因して独立駆動モードを実行している期間において(ステップS21)、イグニッションスイッチ43がオンされたか否かを判定する(ステップS22)。第2イグニッション判定部102は、第2イグニッション電圧Vg2が電圧閾値V0を超える場合に、イグニッションスイッチ43がオンされたと判定し、第1イグニッションオン信号Son1を生成する。
【0075】
スレーブ側制御系統60の指令値乖離判定部109は、ステップS22においてイグニッションスイッチ43がオンされていないと判定された場合(ステップS22のNO)、独立駆動モードのままで維持して、駆動モードの切り替え処理を終了する。
【0076】
スレーブ側制御系統60の指令値乖離判定部109は、ステップS22においてイグニッションスイッチ43がオンされたと判定された場合(ステップS22のYES)、ステアリング操作がされていないか否かを判定する(ステップS23)。指令値乖離判定部109は、第2操舵トルクTh2がトルク閾値Th0を超えているか否かに基づいて、ステアリング操作がされているか否かを判定している。
【0077】
スレーブ側制御系統60の指令値乖離判定部109は、ステップS23においてステアリング操作がされていると判定される場合(ステップS23のNO)、独立駆動モードのままで維持して、駆動モードの切り替え処理を終了する。指令値乖離判定部109は、第2操舵トルクTh2がトルク閾値Th0を超えている場合、ステアリング操作がされているとして、第2ガード処理部108に第2調整後電流指令値Iq2a*を出力することで、独立駆動モードを維持している。なお、ステアリング操作がされていると判定される場合とは、駆動モードを切り替えたときに調整後電流指令値の大きな変動が生じやすいと想定できる状況であって、駆動モードを切り替えたときにモータ20から出力されるトルクの変動がステアリングホイール10を振動させる可能性が高いと想定できる状況である。トルクの変動によってステアリングホイール10が振動すると、運転者によるステアリングホイール10の操舵感に影響を及ぼすおそれがある。
【0078】
スレーブ側制御系統60の指令値乖離判定部109は、ステップS23においてステアリング操作がされていないと判定される場合(ステップS23のYES)、独立駆動モードから協調駆動モードに切り替えて(ステップS24)、駆動モードの切り替え処理を終了する。指令値乖離判定部109は、第2操舵トルクTh2がトルク閾値Th0を超えていない場合、ステアリング操作がされていないとして、第2ガード処理部108に第1調整後電流指令値Iq1a*を出力することで、独立駆動モードから協調駆動モードへと切り替えている。なお、ステアリング操作がされていないと判定される場合とは、駆動モードを切り替えたときに調整後電流指令値の大きな変動が生じにくいと想定できる状況であって、駆動モードを切り替えたときにモータ20から出力されるトルクの変動がステアリングホイール10を振動させる可能性が低いと想定できる状況である。
【0079】
このように、走行中にイグニッションスイッチ43がオフされたことに起因して独立駆動モードを実行している期間にイグニッションスイッチ43がオンされた場合において、ステアリング操作がされているときには独立駆動モードのままで維持し、ステアリング操作がされていないときに独立駆動モードから協調駆動モードへと切り替えるようにしている。
【0080】
図3に示すように、指令値乖離判定部109は、独立駆動モードから協調駆動モードに切り替えたとき、第1調整後電流指令値Iq1a*を第2ガード処理部108に対して出力するとともに、協調駆動モードを実行する旨示す信号を第2ステータス保持部103に出力する。スレーブ側制御系統60の第2送受信部104は、スレーブ側制御系統60の駆動モードの情報をマスター側制御系統50の第1送受信部94へ送信する。マスター側制御系統50は、第1送受信部94が第2送受信部104から受信したスレーブ側制御系統60の駆動モードの情報に基づいて、自身の駆動モードを協調駆動モードに切り替える。
【0081】
本実施形態の作用を説明する。
車両の走行中にイグニッションスイッチ43がオフされた場合、マスター側制御系統50及びスレーブ側制御系統60の間で走行中イグニッションオフ時の制御に移行するタイミングがばらつくことがある。これは、第1イグニッション判定部92により第1走行中イグニッションオフ信号Soff1aを生成するタイミングと、第2イグニッション判定部102により第2走行中イグニッションオフ信号Soff2aを生成するタイミングとが異なることに起因している。この原因としては、例えば、マスター側制御系統50に設けられた第1電源リレー55をオフすることにより第3電源線L3を遮断状態とするタイミングと、スレーブ側制御系統60に設けられた第2電源リレー65をオフすることにより第4電源線L4を遮断状態とするタイミングとがずれることが挙げられる。また、他にも、第1イグニッション電圧Vg1及び第2イグニッション電圧Vg2がノイズなどによってばらつくこと等が挙げられる。上記の要因によって、イグニッションスイッチ43がオフと判定するタイミングがずれることから、マスター側制御系統50及びスレーブ側制御系統60のいずれか一方の制御系統が他の制御系統よりも先に走行中イグニッションオフ時の制御に移行することがある。以下では、マスター側制御系統50がスレーブ側制御系統60よりも先に走行中イグニッションオフ時の制御に移行した場合について
図8を用いて説明する。
【0082】
図8の時間T1は、運転者によりイグニッションスイッチ43がオフされたときを示している。時間T2は、マスター側制御系統50及びスレーブ側制御系統60の両方の制御系統において走行中イグニッションオフ時の制御に移行するときを示している。時間T3は、補助継続期間D1が経過して、演算された調整後電流指令値を徐々に制限し始めるときを示している。また、時間T3において、運転者がステアリング操作を行った場合について示している。また、時間T4において、指令値乖離判定部109において、指令値偏差ΔI*が乖離判定閾値ΔI0を超えるような状況となるときを示している。
【0083】
図8に示すように、時間T1までの期間において、マスター側制御系統50及びスレーブ側制御系統60は、協調駆動モードを実行している。第1イグニッション電圧Vg1及び第2イグニッション電圧Vg2は、電圧閾値V0を超える状況にある。第1電流制限値Ilim1及び第2電流制限値Ilim2は、例えば最大値に設定されている。第1ゲインG1及び第2ゲインG2は、「1」である。第1調整後電流指令値Iq1a*及び第2調整後電流指令値Iq2a*は、第1基本電流指令値Iq1*及び第2基本電流指令値Iq2*と同じものが出力される。ここでは、説明を簡略化するために、運転者がステアリング操作を行っていないものとして、すなわち第1操舵トルクTh1及び第2操舵トルクTh2が「0」である場合について示している。このため、第1調整後電流指令値Iq1a*及び第2調整後電流指令値Iq2a*は、ともに「0」である。また、第1最終電流指令値I1*及び第2最終電流指令値I2*は、ともに「0」である。なお、協調駆動モードを実行しているため、第1最終電流指令値I1*及び第2最終電流指令値I2*は、第1調整後電流指令値Iq1a*に基づいて演算された値である。
【0084】
時間T1では、運転者によりイグニッションスイッチ43がオフされる。ここでは、マスター側制御系統50の第1イグニッション電圧Vg1がスレーブ側制御系統60の第2イグニッション電圧Vg2よりも先に電圧閾値V0を超えない状況になったものとする。このとき、車速SPDは車速閾値SPD0を超える状況にあるものとする。マスター側制御系統50の第1イグニッション判定部92は、車速SPDが車速閾値SPD0を超える状況が所定時間tgの間継続し、かつ第1イグニッション電圧Vg1が電圧閾値V0を超えない状況が所定時間tgの間継続した場合に、走行中にイグニッションスイッチ43がオフされたことを判定する。これにより、マスター側制御系統50は、独立駆動モードに切り替えられる。また、スレーブ側制御系統60は、マスター側制御系統50の第1送受信部94から受信したマスター側制御系統50の駆動モードの情報に基づいて、自身の駆動モードを独立駆動モードに切り替える。このため、時間T2において、マスター側制御系統50及びスレーブ側制御系統60は、独立駆動モードに切り替えられる。なお、スレーブ側制御系統60は、マスター側制御系統50よりも遅れて第2イグニッション電圧Vg2が電圧閾値V0を超えない状況になるため、走行中にイグニッションスイッチ43がオフされたことを判定するのが遅くなる。
【0085】
時間T2の後、時間T3までの期間は、補助継続期間D1である。補助継続期間D1の期間中は、未だ運転者によって操舵される可能性が高いため、第1ゲインG1を「1」のまま維持している。また、第2ゲインG2も「1」である。
【0086】
時間T3では、運転者がステアリング操作を行ったことから、第1調整後電流指令値Iq1a*及び第2調整後電流指令値Iq2a*は、その絶対値が「0」よりも大きい値である。時間T3では、補助継続期間D1が経過している。時間T3の後、第1ゲインG1の絶対値は徐々に小さくされている。第1ゲインG1の絶対値は、補助継続期間D1が経過してから所定時間が経過した場合、「0」となる。第1調整後電流指令値Iq1a*は、第1ゲインG1の絶対値が徐々に小さくなることに伴って徐々に制限されている。第1調整後電流指令値Iq1a*は、補助継続期間D1が経過してから所定時間が経過した場合、「0」となる。一方、第2ゲインG2は、未だ「1」のまま維持されている。第2調整後電流指令値Iq2a*は、第2ゲインG2が「1」で維持されることから未だ制限されていない。また、独立駆動モードを実行しているため、第1最終電流指令値I1*は第1調整後電流指令値Iq1a*と同じとなり、第2最終電流指令値I2*は第2調整後電流指令値Iq2a*と同じとなる。
【0087】
時間T4では、指令値偏差ΔI*が乖離判定閾値ΔI0を超えるような状況となる。しかし、時間T2において、マスター側制御系統50及びスレーブ側制御系統60は、独立駆動モードに切り替えられていることから、時間T4では駆動モードの切り替えが生じない。一例としては、時間T4の後において、補助継続期間D1が経過してから所定時間が経過する。この場合、時間T4の後において、第2ゲインG2の絶対値は徐々に小さくされ、第2調整後電流指令値Iq2a*及び第2最終電流指令値I2*は第2ゲインG2の絶対値が徐々に小さくなることに伴って徐々に制限されている。また、時間T4の後、第1電流制限値Ilim1及び第2電流制限値Ilim2の絶対値は、徐々に小さくされて最小値に設定される。
【0088】
このように、走行中にイグニッションスイッチ43がオフされたことを判定した場合には、マスター側制御系統50及びスレーブ側制御系統60のマイコンで演算された調整後電流指令値が互いに乖離しているか否かに関係なく、協調駆動モードから独立駆動モードへと切り替えている。すなわち、マスター側制御系統50及びスレーブ側制御系統60のマイコンで演算された調整後電流指令値が互いに乖離してから協調駆動モードから独立駆動モードへ切り替わるよりも前に、マスター側制御系統50及びスレーブ側制御系統60を独立駆動モードへと切り替えることができる。これにより、イグニッションオフ時の制御中に運転者の操舵に応じた指令値が各制御系統の制御部でそれぞれ演算される場合であっても、各制御系統の通電が、制限されている指令値を用いた制御と制限されていない指令値を用いた制御との間で変動することを抑えることができる。
【0089】
一方、
図9に示すように、比較例として、走行中にイグニッションスイッチ43がオフされたことを判定した場合であっても、協調駆動モードから独立駆動モードへと切り替えない場合について説明する。
【0090】
時間T1までの時間は本実施形態と同じである。時間T1も本実施形態と同じである。時間T2では、マスター側制御系統50の第1イグニッション判定部92は、車速SPDが車速閾値SPD0を超える状況が所定時間tgの間継続し、かつ第1イグニッション電圧Vg1が電圧閾値V0を超えない状況が所定時間tgの間継続した場合に、走行中にイグニッションスイッチ43がオフされたことを検出する。しかし、比較例の場合、時間T2において、マスター側制御系統50は、独立駆動モードに切り替えられない。また、時間T2において、スレーブ側制御系統60も、独立駆動モードに切り替えられない。時間T2から時間T3までの期間は、マスター側制御系統50及びスレーブ側制御系統60が協調駆動モードのまま維持されていることを除いて、本実施形態と同じである。時間T3では、運転者がステアリング操作を行ったことから、第1調整後電流指令値Iq1a*及び第2調整後電流指令値Iq2a*の絶対値は「0」よりも大きい値となる。第1調整後電流指令値Iq1a*は、第1ゲインG1が徐々に小さくなることに伴って徐々に制限される。一方、第2調整後電流指令値Iq2a*は、第2ゲインG2が未だ「1」のまま維持されていることから未だ制限されていない。このため、時間T4では、指令値偏差ΔI*が乖離判定閾値ΔI0を超えるような状況となる。そして、指令値乖離判定部109において、指令値偏差ΔI*が乖離判定閾値ΔI0を超えることに基づいて、マスター側制御系統50及びスレーブ側制御系統60が独立駆動モードに切り替えられる。この点、マスター側制御系統50の通電は、独立駆動モードへの切り替え前後で、マスター側制御系統50で演算された電流制限された第1調整後電流指令値Iq1a*を用いた制御のまま変化しない。すなわち、第1ガード処理部98に入力される調整後電流指令値は、独立駆動モードへの切り替え前後で、第1調整後電流指令値Iq1a*から変化しない。一方、スレーブ側制御系統60の通電は、独立駆動モードへの切り替え前後で、マスター側制御系統50で演算された電流制限された第1調整後電流指令値Iq1a*を用いた制御から、スレーブ側制御系統60で演算された電流制限された第2調整後電流指令値Iq2a*を用いた制御へと変化する。すなわち、第2ガード処理部108に入力される調整後電流指令値は、独立駆動モードへの切り替え前後で、第1調整後電流指令値Iq1a*から第2調整後電流指令値Iq2a*へ変化する。このため、第2モータ制御信号Sm2が変化して、モータ20から出力されるトルクが変動するおそれがあった。
【0091】
本実施形態の効果を説明する。
(1)走行中にイグニッションスイッチ43がオフされた場合には、各制御系統のマイコンで演算された調整後電流指令値が互いに乖離しているか否かに関係なく、協調駆動モードから独立駆動モードへと切り替えるようにしている。これにより、車両の走行中にイグニッションスイッチ43がオフされた場合において、モータ20から出力されるトルクが変動することを抑えることができる。
【0092】
(2)マスター側制御系統50及びスレーブ側制御系統60は、走行中にイグニッションスイッチ43がオフされたか否かをそれぞれ判定していることから、マスター側制御系統50とスレーブ側制御系統60とで走行中イグニッションオフ時の制御に移行するタイミングがばらつくことがある。これにより、マスター側制御系統50とスレーブ側制御系統60とで協調駆動モードから独立駆動モードに切り替えるタイミングがばらつくことがある。マスター側制御系統50は、スレーブ側制御系統60から受信した駆動モードの情報に基づいて、協調駆動モードから独立駆動モードに切り替えるようにしている。また、スレーブ側制御系統60は、マスター側制御系統50から受信した駆動モードの情報に基づいて、協調駆動モードから独立駆動モードに切り替えるようにしている。このことから、各制御系統が走行中にイグニッションスイッチ43がオフされたことを別個に判定してから別個に独立駆動モードに切り替える場合よりも、各制御系統の中で独立駆動モードに切り替えるタイミングを合わせることができる。これにより、モータ20から出力されるトルクを安定させることができる。
【0093】
(3)マスター側制御系統50及びスレーブ側制御系統60は、走行中イグニッションオフ時の制御を実行している期間中において、イグニッションスイッチ43がオンされた場合であっても、駆動モードを切り替えることによって生じるモータ20のトルクの変動がステアリングホイール10を振動させる可能性の高い状況では、独立駆動モードのままで維持している。このような場合、マスター側制御系統50及びスレーブ側制御系統60は、駆動モードを切り替えないことによって、モータ20から出力されるトルクが変動することを抑えることができる。これにより、当該トルクの変動がステアリングホイール10を振動させて、運転者によるステアリングホイール10の操舵感に影響を及ぼすことを抑えることができる。また、マスター側制御系統50及びスレーブ側制御系統60は、走行中イグニッションオフ時の制御を実行している期間中において、イグニッションスイッチ43がオンされた場合に、駆動モードを切り替えることによって生じるモータ20のトルクの変動がステアリングホイール10を振動させる可能性の低い状況では、協調駆動モードに切り替えるようにしている。このような場合、マスター側制御系統50及びスレーブ側制御系統60は、モータ20から出力されるトルクが変動することを抑えた状態で、駆動モードを協調駆動モードに切り替えることができる。
【0094】
(4)ステアリングホイール10の操舵がされていると判定される場合とは、駆動モードを切り替えたときに駆動モードを切り替えたときに調整後電流指令値の変動が生じやすいと想定できる状況であって、モータ20から出力されるトルクの変動がステアリングホイール10を振動させる可能性が高いと想定できる状況である。ステアリングホイール10の操舵がされていないと判定される場合とは、駆動モードを切り替えたときに調整後電流指令値の変動が生じにくいと想定できる状況であって、モータ20から出力されるトルクの変動がステアリングホイール10を振動させる可能性が低いと想定できる状況である。このように、ステアリングホイール10の操舵がなされているかどうかに基づいて駆動モードの切り替えを行うことによって、駆動モードの切り替えを好適に行うことができる。
【0095】
上記実施形態は次のように変更してもよい。また、以下の他の実施形態は、技術的に矛盾しない範囲において、互いに組み合わせることができる。
・マスター側制御系統50の機能とスレーブ側制御系統60の機能とが入れ替わるようにしてもよい。すなわち、マスター側制御系統50の第1調整後電流指令値Iq1a*の異常時には、スレーブ側制御系統60がマスター側制御系統として、マスター側制御系統50がスレーブ側制御系統として機能するようにしてもよい。この場合、協調駆動モードにおいて、スレーブ側制御系統60で演算された電流指令値に基づいて、マスター側制御系統50及びスレーブ側制御系統60の両方の制御系統の通電を実行するようにしてもよい。
【0096】
・本実施形態では、スレーブ側制御系統60側にのみ指令値乖離判定部109を設けたが、スレーブ側制御系統60だけでなく、マスター側制御系統50にも指令値乖離判定部を設けるようにしてもよい。各制御系統は、自らの制御系統の指令値乖離判定部の判定結果に基づいて、自身の制御系統の駆動モードを切り替えるようにしてもよい。この場合、他の制御系統に対する自身の制御系統の駆動モードの送信をしないようにしてもよい。
【0097】
・第1イグニッション判定部92及び第2イグニッション判定部102によるイグニッションスイッチ43の状態の判定方法は適宜変更可能である。例えば、第1イグニッション判定部92は、第1イグニッション電圧Vg1が電圧閾値V0を超えるか否かの判定条件の代わりに、他の機器との通信が途絶したか否かの判定条件を用いてもよい。また、第1イグニッション判定部92は、各判定条件の成立あるいは不成立が所定時間tgの間継続した場合に、イグニッションスイッチ43の状態を判定したが、各判定条件が成立あるいは不成立したときに直ちにイグニッションスイッチ43の状態を判定するようにしてもよい。
【0098】
・マスター側制御系統50及びスレーブ側制御系統60は、協調駆動モード及び独立駆動モードだけでなく、例えばマスター側制御系統50及びスレーブ側制御系統60のいずれか一方に異常が生じた場合に残りの正常な一系統のみでモータ20を駆動させる他の駆動モードに切り替えられてもよい。
【0099】
・第1マイコン52は、第1電圧センサ56を通じて第1電源70からの電圧を第1イグニッション電圧Vg1として取得したが、第1電源70からの電圧を直接取得するようにしてもよい。また、第2マイコン62は、第2電圧センサ66を通じて第2電源80からの電圧を第2イグニッション電圧Vg2として取得したが、第2電源80からの電圧を直接取得するようにしてもよい。
【0100】
・第1ゲイン出力部96は、補助継続期間D1が経過してから、第1ゲインG1の絶対値を指数関数的に小さくしたが、第1ゲインG1の絶対値を徐々に小さくする態様は適宜変更可能である。例えば、第1ゲイン出力部96は、補助継続期間D1が経過してからの時間に比例して第1ゲインG1の絶対値を小さくしてもよいし、補助継続期間D1が経過してからの時間に応じて階段状に第1ゲインG1の絶対値を小さくしてもよい。すなわち、第1ゲイン出力部96は、補助継続期間D1が経過してから、第1ゲインG1を「1」から「0」へと急変させる場合と比べて緩やかに絶対値を小さくすればよい。また、第2ゲイン出力部106による第2ゲインG2の演算についても、第1ゲイン出力部96と同様に適宜変更可能である。
【0101】
・第1ゲイン出力部96は、第1ゲインG1の絶対値を徐々に小さくすることを補助継続期間D1が経過してから実行したが、これに限らない。第1ゲイン出力部96は、第1ゲインG1の絶対値を徐々に小さくすることを第1走行中イグニッションオフ信号Soff1aが入力されたときに実行するようにしてもよい。すなわち、補助継続期間D1を設けないようにしてもよい。また、第2ゲイン出力部106によって出力される第2ゲインG2の絶対値を徐々に小さくすることについても、第1ゲイン出力部96と同様に、補助継続期間D1が経過してから実行するものに限らない。
【0102】
・第1ゲイン出力部96は、第1ゲインG1の絶対値を徐々に小さくすることを、第1走行中イグニッションオフ信号Soff1aが入力されたときのみ実行したが、第1イグニッションオフ信号Soff1が入力されたときにも実行してもよい。また、第2ゲイン出力部106によって出力される第2ゲインG2の絶対値を徐々に小さくすることについても、第1ゲイン出力部96と同様に、第1イグニッションオフ信号Soff1が入力されたときに実行してもよい。
【0103】
・マスター側制御系統50への給電経路は適宜変更可能である。また、スレーブ側制御系統60への給電経路は適宜変更可能である。例えば、第1ECU51に接続される第1電源70と第2ECU61に接続される第2電源80とは別の電源としていたが、共通の電源としてもよい。
【0104】
・指令値乖離判定部109は、第1調整後電流指令値Iq1a*と第2調整後電流指令値Iq2a*とが互いに乖離しているか否かを判定したが、これに限らない。指令値乖離判定部109は、電圧指令値等の他の指令値に基づいて乖離を判定してもよい。
【0105】
・指令値乖離判定部109は、走行中にイグニッションスイッチ43がオフされたことに起因して独立駆動モードを実行している期間中にイグニッションスイッチ43がオンされたと判定された場合、スレーブ側制御系統60の駆動モードを切り替えるか否かを第2操舵トルクTh2に基づいて実行しているが、これに限らない。例えば、指令値乖離判定部109は、スレーブ側制御系統60の駆動モードを切り替えるか否かを第1操舵トルクTh1に基づいて実行してもよいし、第1回転角θ1あるいは第2回転角θ2の変化量である回転速度に基づいて実行してもよいし、指令値偏差ΔI*に基づいて実行してもよい。すなわち、指令値乖離判定部109は、独立駆動モード時に用いる指令値と協調駆動モード時に用いる指令値との偏差が小さい状況にあることを判定できる状態量を用いるのであれば、どのような状態量に基づいて実行してもよい。
【0106】
例えば、指令値乖離判定部109は、スレーブ側制御系統60の駆動モードを切り替えるか否かを、独立駆動モード時に用いる指令値と協調駆動モード時に用いる指令値との偏差が所定値よりも小さいことに基づいて実行してもよい。この所定値は、独立駆動モード時に用いる調整後電流指令値と協調駆動モード時に用いる調整後電流指令値とが一致するといえる程度の偏差に設定されている。運転者によってステアリング操作がされていない状況では、第1操舵トルクTh1及び第2操舵トルクTh2がほとんどゼロであるため、第1調整後電流指令値Iq1a*及び第2調整後電流指令値Iq2a*の指令値偏差ΔI*はほとんどゼロになることが想定される。
【0107】
・指令値乖離判定部109は、走行中にイグニッションスイッチ43がオフされたことに起因して独立駆動モードを実行している期間中にイグニッションスイッチ43がオンされたと判定された場合における協調駆動モードへの切り替えを、ステアリング操作がされていないことを条件に実行したが、これに限らない。例えば、指令値乖離判定部109は、協調駆動モードへの切り替えを、独立駆動モード時に用いる指令値、すなわちスレーブ側制御系統60の指令値と、協調駆動モード時に用いる指令値、すなわちマスター側制御系統50の指令値との偏差が所定値よりも小さいことを条件に実行してもよい。なお、所定値としては、ステアリングホイール10への影響が小さいとして実験的に求められた範囲の値に設定されている。
【0108】
・モータ20の機械的構成は、1系統であってもよい。例えば、コイル25は第1コイル25a及び第2コイル25bのうちいずれか一方のみを有し、マスター側制御系統50及びスレーブ側制御系統60は、ともに同一のコイルに対して供給される電流を制御するようにしてもよい。
【0109】
・本実施形態では、操舵制御装置30を適用したEPS1は、ステアリング軸11に減速機構22を介してモータ20のトルクを付与するEPSとして構成したが、これに限らず、例えばボールねじナットを介してラック軸12にモータ20のトルクを付与するEPSとして構成してもよい。また、操舵制御装置30は、EPSに適用するのに限らず、操舵側と転舵側との間の動力伝達をクラッチにより断接可能なリンク付きのステアバイワイヤ装置や操舵側と転舵側との間の動力伝達を分離したリンクレスのステアバイワイヤ装置に適用してもよい。
【符号の説明】
【0110】
1…EPS
10…ステアリングホイール
20…モータ
30…操舵制御装置
43…イグニッションスイッチ
50…マスター側制御系統
60…スレーブ側制御系統
51,61…第1、第2ECU
52,62…第1、第2マイコン
90、100…第1、第2指令値演算部
109…指令値乖離判定部
Iq1a*、Iq2a*…第1、第2調整後電流指令値