(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 17/10 20060101AFI20241217BHJP
F16C 33/20 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
F16C17/10 Z
F16C33/20 A
(21)【出願番号】P 2021047741
(22)【出願日】2021-03-22
【審査請求日】2024-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】591001282
【氏名又は名称】大同メタル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174182
【氏名又は名称】古田 広人
(72)【発明者】
【氏名】石田 淳之亮
(72)【発明者】
【氏名】三島 卓也
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-029181(JP,A)
【文献】特開2020-159527(JP,A)
【文献】特開2013-015151(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 17/02、17/10
F16C 33/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の内輪および外輪と、樹脂製の摺動部材とからなり、前記内輪と前記外輪と前記摺動部材とは、それぞれ円筒形状に形成される軸受において、
前記摺動部材は、前記外輪の内周面に形成され、
前記摺動部材の内周面は、周方向全長にわたって、軸線方向の断面において
軸線方向全長にわたって形成される凸曲面を有し、
前記摺動部材の内周面における凸曲面の曲率半径は、軸線方向中央部において最大で、軸線方向両端部に向かって小さくなり、
前記内輪の外周面は、周方向全長にわたって、軸線方向の断面において
軸線方向全長にわたって形成される凹曲面を有し、
前記内輪の外周面における凹曲面の曲率半径は、軸線方向において一定であり、
前記摺動部材の内周面における凸曲面の曲率半径と前記内輪の外周面における凹曲面の曲率半径との関係は、凸曲面の曲率半径>凹曲面の曲率半径であり、
前記摺動部材の内周面における凸曲面の曲率半径と前記内輪の外周面における凹曲面の曲率半径との差は、軸線方向中央部において最大で、軸線方向両端部に向かって小さくなり、
前記摺動部材の内周面における凸曲面と前記内輪の外周面における凹曲面とは、対向接触して摺動することを特徴とする軸受。
【請求項2】
前記摺動部材は、ナイロン、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルイミド、ポリエチレンから選択される1種以上の合成樹脂を主体とし、ガラス繊維粒子、セラミック繊維粒子、炭素繊維粒子、アラミド繊維粒子、アクリル繊維粒子、ポリビニルアルコール繊維粒子から選択される1種以上の繊維状粒子を1~15体積%含有す
ることを特徴とする請求項1記載の軸受。
【請求項3】
前記摺動部材は、さらに、黒鉛、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、窒化硼素、ポリテトラフルオロエチレンから選択される1種以上の固体潤滑剤を1~20体積%含有す
ることを特徴とする請求項2記載の軸受。
【請求項4】
前記摺動部材は、さらに、CaF
2、CaCo
3、タルク、マイカ、ムライト、酸化鉄、リン酸カルシウム、チタン酸カリウム、Mo
2Cから選択される1種以上の充填材を1~10体積%含有す
ることを特徴とする請求項2又は請求項3記載の軸受
。
【請求項5】
前記内輪および前記外輪は、鉄合金からなることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製の内輪および外輪と、樹脂製の摺動部材とからなり、内輪と外輪と摺動部材とは、それぞれ円筒形状に形成される軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車に代表される車両に適用されるスライドドアは、主に乗降時の利便性を考慮し、電動スライドドアが適用されているケースがある。この電動スライドドアのドア開閉機構は、ワイヤーケーブルがプーリー機構を介して開閉する構造となっている。そして、プーリーは主に樹脂から成り、プーリーの駆動には転がり軸受が適用されている(特許文献1)。
【0003】
一般に、転がり軸受は、対をなす軌道輪の間に介在させた転動体の転がり接触により、摩擦を減じるものであり、その優れた低トルク性から一般機械用の軸受として広く普及している。 しかしながら、転がり軸受は、内輪、外輪、転動体、保持器等の多数の部品から成ることから組立、製造コストが高騰する傾向にあり、また、転動体の収納スペースを要することから軸受の小型化にも一定の限度がある。さらに、低騒音化の為には、高精度加工を要し、製造コストが著しく増大するという欠点もあり、代替として滑り軸受を使用する場合が多い。
【0004】
上記した滑り軸受は、焼結含油金属や樹脂等からなる外周部材に軸受孔を設け、この軸受孔に微小な軸受隙間を介在させて軸等の内周部材を挿入することによって構成されるが、このような滑り軸受では、軸受隙間の大小によって軸受寿命、トルク、触れ精度等が大きな影響を受けるため軸受隙間を厳しく管理する必要がある。また、滑り軸受については、相手側部材が支軸等の別機能を併せ持つ場合が多いため、内周部材と外周部材とを別途製造するのが通常であるが、両部材について精密加工を施さなければならず、手間を要するため、軸受隙間の寸法、形状の管理が困難であり、軸受隙間の不良による機能性の低下を招きやすい。
【0005】
これらの課題を解決する手段として、外輪と内輪とから構成され、外輪の内周部に形成された環状突起または環状溝と、内輪の外周部に形成された環状溝または環状突起とが係合してなる滑り軸受が知られている(特許文献2)。また、外輪と内輪とから構成され、内輪が溶融硬化させた樹脂組成物からなり、内輪と外輪の軸受隙間が、内輪の硬化時の樹脂収縮によって形成してなる滑り軸受が知られている(特許文献3)。また、外輪と内輪とから構成され、軸方向の断面視にて、外周面が凸曲面の内輪と内周面が内輪外周面の凸曲面に対応する凹曲面の外輪とからなる滑り軸受が知られている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-112025号公報
【文献】実開昭59-39316号公報
【文献】特開平9-32856号公報
【文献】特開2011-74975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2においては、内輪、外輪にそれぞれ環状溝、環状突起を有する構造であるが、環状突起部、環状溝部を除く部分は平坦部を有しており、摺動面積が増大することで相対的に摺動抵抗の増大が懸念される。
【0008】
また、特許文献3においては、溶融樹脂から成る内輪と、金属のほかセラミックや或いは内輪の射出成型時の温度に影響を受けない程度の部材から成る外輪とで形成される滑り軸受が提供されている。しかしながら、軸受と軸とを組み付ける際に締代を持たせることにより軸との抜けや回転を防止する役割を果たすが、内輪が樹脂の場合、金属製の軸との物性の差により軸受の組付時に内輪が拡大し、軸と内輪とに十分な締代が確保されず、組付運転時の抜けや回転が生じることによる軸受機能の低下が懸念される。また、軸との組付時に内輪が拡大し、外輪との隙間が狭まることによる軸受摺動性の悪化が懸念される。
【0009】
また、特許文献4においては、外輪の内周面における凹曲面と内輪の外周面における凸曲面とが互いの面に沿ってアキシャル方向への傾きや軸線方向への内輪、外輪の相対的なずれを生じさせ、その傾きやずれによって軸受摺動部への偏荷重の発生やそれによる偏摩耗を生じさせ、軸受機能の低下を招く恐れがある。
【0010】
本発明は、上記した事情に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、(1)軸との締代を確保することによる組付運転時の抜けや回転を防ぎ、(2)摺動面の接触面積を減らして摺動抵抗を低減することができ、(3)摺動時の軸線方向への内輪、外輪の相対的なずれを小さくすることが可能な軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した目的を達成するために、請求項1に係る発明においては、
金属製の内輪および外輪と、樹脂製の摺動部材とからなり、前記内輪と前記外輪と前記摺動部材とは、それぞれ円筒形状に形成される軸受において、
前記摺動部材は、前記外輪の内周面に形成され、
前記摺動部材の内周面は、周方向全長にわたって、軸線方向の断面において軸線方向全長にわたって形成される凸曲面を有し、
前記摺動部材の内周面における凸曲面の曲率半径は、軸線方向中央部において最大で、軸線方向両端部に向かって小さくなり、
前記内輪の外周面は、周方向全長にわたって、軸線方向の断面において軸線方向全長にわたって形成される凹曲面を有し、
前記内輪の外周面における凹曲面の曲率半径は、軸線方向において一定であり、
前記摺動部材の内周面における凸曲面の曲率半径と前記内輪の外周面における凹曲面の曲率半径との関係は、凸曲面の曲率半径>凹曲面の曲率半径であり、
前記摺動部材の内周面における凸曲面の曲率半径と前記内輪の外周面における凹曲面の曲率半径との差は、軸線方向中央部において最大で、軸線方向両端部に向かって小さくなり、
前記摺動部材の内周面における凸曲面と前記内輪の外周面における凹曲面とは、対向接触して摺動することを特徴とする。
【0012】
請求項2に係る発明においては、請求項1記載の軸受において、前記摺動部材は、ナイロン、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルイミド、ポリエチレンから選択される1種以上の合成樹脂を主体とし、ガラス繊維粒子、セラミック繊維粒子、炭素繊維粒子、アラミド繊維粒子、アクリル繊維粒子、ポリビニルアルコール繊維粒子から選択される1種以上の繊維状粒子を1~15体積%含有することを特徴とする。
【0013】
請求項3に係る発明においては、請求項2記載の軸受において、前記摺動部材は、さらに、黒鉛、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、窒化硼素、ポリテトラフルオロエチレンから選択される1種以上の固体潤滑剤を1~20体積%含有することを特徴とする。
【0014】
請求項4に係る発明においては、請求項2又は請求項3記載の軸受において、前記摺動部材は、さらに、CaF2、CaCo3、タルク、マイカ、ムライト、酸化鉄、リン酸カルシウム、チタン酸カリウム、Mo2Cから選択される1種以上の充填材を1~10体積%含有することを特徴とする。
【0015】
請求項5に係る発明においては、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の軸受において、前記内輪および前記外輪は、鉄合金からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明においては、金属製の内輪および外輪と、樹脂製の摺動部材とからなる軸受において、摺動部材は外輪の内周面に形成され、摺動部材の内周面における凸曲面と内輪の外周面における凹曲面とが対向接触して摺動する。このような構成では、内輪を金属製とすることで、金属製の相手軸との物性の差による軸受の組付時の内輪の拡大を防ぎ、軸と内輪とに十分な締代が確保され、組付運転時の抜けや回転の発生による軸受機能の低下や、内輪と摺動部材との摺動面隙間が狭まることへの摺動性悪化を防ぐことができる。
【0017】
また、摺動部材の内周面における凸曲面の曲率半径と内輪の外周面における凹曲面の曲率半径との関係は、凸曲面の曲率半径>凹曲面の曲率半径とし、摺動部材の内周面における凸曲面の曲率半径と内輪の外周面における凹曲面の曲率半径との差は、軸線方向中央部において最大で、軸線方向両端部に向かって小さくすることで、摺動面同士が一部でしか接触せず、摺動面の接触面積が小さくなり、摺動抵抗を低減することができ、また、摺動部材の内周面に凸曲面を有する外輪の保持性が向上し、摺動時の軸線方向への内輪、外輪の相対的なずれを小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図6】摺動部材を半分に分割した断面斜視図である。
【
図11】外輪、摺動部材、内輪から構成される軸受の軸受摺動部を示す断面図である。
【
図12】非摺動時における比較例1の軸受の断面図である。
【
図13】摺動時における比較例1の軸受の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(軸受の構成)
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、本説明に用いられる図は、実施形態に係る軸受1の概略図であり、構成、構造等を理解し易くするために各箇所が誇張あるいは省略して描かれている。
【0020】
図1は、軸受1の斜視図であり、
図2は、軸受1を半分に分割した断面斜視図である。
図1及び
図2に示すように、軸受1は、外輪11、摺動部材12、内輪13から構成され、外輪11の内周面11cに摺動部材12が形成され、摺動部材12の内周面における凸曲面12cと内輪13の外周面における凹曲面13aとが対向接触して摺動する。また、外輪11及び内輪13は、金属製であり、摺動部材12は、合成樹脂製である。
【0021】
図3は、軸受1を構成する外輪11の斜視図であり、
図4は、外輪11を半分に分割した断面斜視図である。
図3及び
図4に示すように、外輪11は、外周、内周に共に軸線方向と平行になされる外周面11a、内周面11cを有する円筒形状である。また、外輪11の外周面の軸線方向両端部には、圧入を容易にする目的や圧入時のカジリ等損傷の発生を緩和するために面取11dが設けられている。
【0022】
より詳細には、外輪11の外周面11aは、軸受1の軸線方向から視認して円形状となっており、軸受1の軸線方向の断面において、周方向全長にわたって軸受1の軸線方向と平行になっているが、これに限定されない。外輪11の外周面11aは、外周面11a上に形成されるプーリー部材(図示しない)との接合を高めるため、断面視にて凹凸を有するようにしてもよい。また、摺動部材12が被覆される外輪11の内周面11cは、軸受1の軸線方向から視認して円形状となっており、軸受1の軸線方向の断面において、周方向全長にわたって軸受1の軸線方向と平行になっているが、これに限定されない。外輪11の内周面11cは、摺動部材12との接合を高めるため、断面視にて凹凸を有するようにしてもよい。
【0023】
図5は、軸受1を構成する摺動部材12の斜視図であり、
図6は、摺動部材12を半分に分割した断面斜視図である。
図5及び
図6に示すように、摺動部材12は、外周に軸線方向と平行になされる外周面12aを有し、内周に内周面として凸曲面12cを有する円筒形状である。
【0024】
より詳細には、摺動部材12の内周面は、軸受1の軸線方向の断面において、周方向全長にわたって、軸受1の径方向の内側(中心側)に向かって凸形状からなる凸曲面12cを有している。
【0025】
図7は、軸受1を構成する内輪13の斜視図であり、
図8は、内輪13を半分に分割した断面斜視図である。
図7及び
図8に示すように、内輪13は、内周に軸線方向と平行になされる内周面13cを有し、外周に外周面として凹曲面13aを有する円筒形状である。
【0026】
より詳細には、内輪13の外周面は、軸受1の軸線方向の断面において、周方向全長にわたって、軸受1の径方向の内側(中心側)に向かって凹形状からなる凹曲面13aを有している。また、内輪13の内周面13cは、軸受1の軸線方向から視認して円形状となっており、軸受1の軸線方向の断面において、周方向全長にわたって軸受1の軸線方向と平行になっている。
【0027】
次に、摺動部材12の内周面における凸曲面12cと内輪13の外周面における凹曲面13aとの関係について、
図9乃至
図11を参照して説明する。
図9は、摺動部材12の断面図であり、
図10は、内輪13の断面図であり、
図11は、外輪11、摺動部材12、内輪13から構成される軸受1の軸受摺動部を示す断面図である。
図9乃至
図11はいずれも、軸受1の軸線方向の断面における図である。
【0028】
図9に示すように、摺動部材12の内周面における凸曲面12cは、軸線方向中央部CL12において外周面12aとの距離12xが最大であり、軸線方向両端部において外周面12aとの距離12yが最小である。また、摺動部材12の内周面における凸曲面12cは、軸線方向中央部CL12において曲率半径R121が最大であり、軸線方向両端部において曲率半径R122が最小であり、その曲率半径R121,R122は、軸線方向中央部CL12から軸線方向両端部に向かって徐々に小さくなっている。つまり、摺動部材12の内周面における凸曲面12cにおいて、軸線方向中央部CL12における曲率半径R121と、軸線方向両端部における曲率半径R122との関係は、
R121>R122
となっている。
【0029】
また、摺動部材12の内周面における凸曲面12cは、軸線方向中央部CL12において外周面12aとの距離12xが最大となるが、その距離12xは、軸受機能の低下抑制や強度を保持するため、1.5mm以上であることが望ましい。また、摺動部材12の内周面における凸曲面12cは、軸線方向両端部において外周面12aとの距離12yが最小となるが、その距離12yは、軸線方向両端部において1.2mm以上であることが望ましい。
【0030】
図10に示すように、内輪13の外周面における凹曲面13aは、軸線方向中央部CL13において内周面13cとの距離13xが最小であり、軸線方向両端部において内周面13cとの距離13yが最大である。また、内輪13の外周面における凹曲面13aは、軸線方向において曲率半径R13が一定である。
【0031】
また、内輪13の外周面における凹曲面13aは、軸線方向中央部CL13において内周面13cとの距離13xが最小となるが、その距離13xは、軸受機能の低下抑制や強度を保持するため、1.2mm以上であることが望ましい。また、内輪13の外周面における凹曲面13aは、軸線方向両端部において内周面13cとの距離13yが最大となるが、その距離13yは、軸線方向両端部において1.5mm以上であることが望ましい。
【0032】
図11に示すように、摺動部材12の内周面における凸曲面12cの曲率半径R121,R122は、内輪13の外周面における凹曲面13aの曲率半径R13よりも大きい。つまり、摺動部材12の内周面における凸曲面12cの曲率半径R121,R122と、内輪13の外周面における凹曲面13aの曲率半径R13との関係は、
R121,R122>R13
となっている。このように、摺動部材12の内周面における凸曲面12cの曲率半径R121,R122については、内輪13の外周面における凹曲面13aの曲率半径R13よりも大きくすることで、摺動部材12の内周面における凸曲面12cと、内輪13の外周面における凹曲面13aとが一部でしか接触せず、摺動面の接触面積が小さくなり、摺動抵抗を低減することができる。なお、摺動部材12の内周面における凸曲面12cの曲率半径R121,R122と、内輪13の外周面における凹曲面13aの曲率半径R13との関係は、
R13=R121,R122×(80~95%)
であることが望ましい。
【0033】
また、摺動部材12の内周面における凸曲面12cの曲率半径R121,R122と、内輪13の外周面における凹曲面13aの曲率半径R13との差は、軸線方向中央部において最大であり、軸線方向両端部において最小であり、その差は、軸線方向中央部から軸線方向両端部に向かって徐々に小さくなっている。つまり、摺動部材12の内周面における凸曲面12cと、内輪13の外周面における凹曲面13aとの隙間は、軸線方向中央部において最大であり、軸線方向両端部において最小であり、その隙間は、軸線方向中央部から軸線方向両端部に向かって徐々に小さくなっている。このように、摺動部材12の内周面における凸曲面12cと、内輪13の外周面における凹曲面13aとの隙間については、軸線方向中央部から軸線方向両端部に向かって小さくすることで、摺動部材12の内周面に凸曲面12cを有する外輪11の保持性が向上し、軸線方向への内輪13、外輪11の相対的なずれを小さくすることができる。
【0034】
本発明の軸受1において、外輪11、内輪13は、金属材料からなり、摺動部材12は、合成樹脂を主体とし、固体潤滑材等の充填剤を含む樹脂組成物からなるものを用いている。摺動部材12の具体例としては、ナイロン、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルイミド、ポリエチレンから選択される1種以上の合成樹脂を主体とし、ガラス繊維粒子、セラミック繊維粒子、炭素繊維粒子、アラミド繊維粒子、アクリル繊維粒子、ポリビニルアルコール繊維粒子から選択される1種以上の繊維状粒子を1~15体積%含有することが挙げられる。これにより、好適な摺動特性を得ることができる。
【0035】
また、固体潤滑材としては、黒鉛、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、窒化硼素、ポリテトラフルオロエチレンから選択される1種以上を1~20体積%含有する5~10%ことが望ましい。また、固体潤滑材以外の充填剤としては、CaF2、CaCo3、タルク、マイカ、ムライト、酸化鉄、リン酸カルシウム、チタン酸カリウム、Mo2Cから選択される1種以上を1~10体積%含有することが望ましい。また、外輪11、内輪13は、鉄合金からなることが望ましい。これらにより、摺動特性の向上を図ることができる。
【0036】
以上、本発明の軸受1は、外輪11、摺動部材12、内輪13を備えてなるラジアル滑り軸受であり、外輪11および内輪13は金属からなり、摺動部材12は樹脂組成物の成形体からなり、摺動部材12は外輪11の内周面に形成され、摺動部材12の内周面における凸曲面12cと内輪13の外周面における凹曲面13aとが対向接触しながら摺動するものである。このような構成の軸受1は、外輪11、摺動部材12、内輪13の3部品で構成されており、ボールベアリング(転がり玉軸受)と比較して部品点数が少なく、構造が簡単である。また、軸受1は、内輪13を金属製とすることで、金属製の相手軸との物性の差による軸受1の組付時の内輪13の拡大を防ぎ、相手軸(図示しない)と内輪13とに十分な締代が確保され、組付運転時の抜けや回転の発生による軸受機能の低下や、内輪13と摺動部材12との摺動面隙間が狭まることへの摺動性悪化を防ぐことができる。
【0037】
また、本発明の軸受1は、摺動部材12の内周面における凸曲面12cと内輪13の外周面における凹曲面13aとが対向接触して摺動するので、相手軸と直接摺動する樹脂製の滑り軸受と異なり、摩擦トルクや摩耗量に関して相手軸の材質や表面粗さの影響を受けにくい。また、内輪13と摺動部材12の摺接面は、相補的な凹凸曲面にあるので、互いの軸方向の位置ずれを防止することができ、アキシャル方向への傾きを抑えることができる。
【0038】
また、本発明の軸受1における内輪13と摺動部材12は、凹凸曲面同士が接触する態様であり、摺動部材12の内周面における凸曲面12cの曲率半径R121,R122と、内輪13の外周面における凹曲面13aの曲率半径R13を非同一としているが、凸曲面12cの曲率半径R121,R122>凹曲面13aの曲率半径R13とし、摺動部材12の内周面における凸曲面12cの曲率半径R121,R122と、内輪13の外周面における凹曲面13aの曲率半径R13との差が軸線方向中央部において最大で、軸線方向両端部に向かって小さくなることで、摺動面同士が一部でしか接触せず、摺動面の接触面積が小さくなり、従来の樹脂製の滑り軸受よりも摺動抵抗を低減することができ、また、摺動部材12の内周面に凸曲面12cを有する外輪11の保持性が向上し、摺動時の軸線方向への内輪13、外輪11の相対的なずれを小さくすることができる。
【0039】
(比較例1の軸受の構成)
次に、比較例1の軸受111の構成について、
図12及び
図13を参照して説明する。
図12は、非摺動時における比較例1の軸受111の断面図であり、
図13は、摺動時における比較例1の軸受111の断面図である。
【0040】
図12に示すように、比較例1の軸受111は、外輪111a、摺動部材111b、内輪111cから構成され、本発明の軸受1とは異なり摺動部材111bは、内輪111cの外周面に形成される。また、摺動部材111bは、外周面に凸曲面を有し、凸曲面は、軸線方向中央部において曲率半径が最大で、軸線方向両端部において曲率半径が最小となる点で、本発明の軸受1における摺動部材12の内周面の凸曲面12cの構成と同じである。一方、外輪111aは、内周面に凹曲面を有し、凹曲面は、軸線方向において曲率半径が一定である点で、本発明の軸受1における内輪13の内周面の凹曲面13aの構成と同じである。つまり、摺動部材111bの外周面における凸曲面と外輪111aの内周面における凹曲面との隙間は、軸線方向中央部から軸線方向両端部に向かって小さくなる点で、本発明の軸受1の構成と同じである。
【0041】
図13に示すように、摺動時における比較例1の軸受111は、摺動部材111bの外周面に凸曲面を有し、外輪111aの内周面に凸曲面を有するため、軸線方向の位置によって凸曲面の曲率半径を変化させたとしても、摺動部材111bと外輪111aとが互いの摺動面に沿ってアキシャル方向に傾きを生じさせる懸念があり、その傾きによって軸受摺動部への偏荷重の発生や、それによる偏摩耗を生じさせ、軸受機能の低下を招く恐れがある。
【0042】
(比較例2の軸受の構成)
次に、比較例2の軸受112の構成について、
図14を参照して説明する。
図14は、比較例2の軸受112の断面図である。
【0043】
図14に示すように、比較例2の軸受112は、外輪112a、摺動部材112b、内輪112cから構成され、本発明の軸受1と同様に摺動部材112bは、外輪112aの内周面に形成される。また、摺動部材112bは、内周面において、軸線方向中央部付近に部分的に凹曲面と、軸線方向両端部付近に平坦面とを有し、凹曲面は、軸線方向中央部において外周面との距離が最小となる点で、本発明の軸受1の構成とは異なる。一方、内輪112cは、外周面において、軸線方向中央部付近に部分的に凸曲面と、軸線方向両端部付近に平坦面とを有し、凸曲面は、軸線方向中央部において内周面との距離が最大となる点で、本発明の軸受1の構成とは異なる。
【0044】
上記した比較例2の軸受112は、軸線方向両端部付近の平坦部同士が略全面で接触するため、摺動抵抗を低減する効果が得られない。また、比較例2の軸受112は、摺動部材112bの内周面における凹曲面部に摩耗粉や侵入異物等が堆積しやすく、平坦部での摺動面同士の隙間が一定であるため、摩耗粉や侵入異物が排出されにくい懸念がある。
【0045】
(比較例3の滑り軸受の構成)
次に、比較例3の軸受113の構成について、
図15を参照して説明する。
図15は、比較例3の軸受113の断面図である。
【0046】
図15に示すように、比較例3の軸受113は、外輪113a、摺動部材113b、内輪113cから構成され、本発明の軸受1と同様に摺動部材113bは。外輪113aの内周面に形成される。また、摺動部材113bは、内周面において、軸線方向中央部付近に部分的に凸曲面と、軸線方向両端部付近に平坦面とを有し、凸曲面は、軸線方向中央部において外周面との距離が最大となる点で、本発明の軸受1の構成とは異なる。一方、内輪113cは、外周面において、軸線方向中央部付近に部分的に凹曲面と、軸線方向両端部付近に平坦面とを有し、凹曲面は、軸線方向中央部において内周面との距離が最小となる点で、本発明の軸受1の構成とは異なる。
【0047】
上記した比較例3の軸受113は、軸線方向両端部付近の平坦部同士が略全面で接触するため、摺動抵抗を低減する効果が得られない。また、比較例3の軸受113は、内輪113cの外周面における凹曲面の端部が摺動部材113bに傷を付けたり局部的な摩耗を発生させることや、内輪113cの外周面における凹曲面部に摩耗粉や侵入異物等が堆積しやすく、平坦部での摺動面同士の隙間が一定であるため、摩耗粉や侵入異物が排出されにくい懸念がある。
【符号の説明】
【0048】
1 軸受
11 外輪
11a 外周面
11c 内周面
11d 面取
12 摺動部材
12a 外周面
12c 凸曲面(内周面)
13 内輪
13a 凹曲面(外周面)
13c 内周面