(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】リザーブタンク
(51)【国際特許分類】
F01P 11/00 20060101AFI20241217BHJP
【FI】
F01P11/00 C
(21)【出願番号】P 2021051585
(22)【出願日】2021-03-25
【審査請求日】2024-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110003410
【氏名又は名称】弁理士法人テクノピア国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100116942
【氏名又は名称】岩田 雅信
(74)【代理人】
【識別番号】100167704
【氏名又は名称】中川 裕人
(72)【発明者】
【氏名】小島 桃香
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 真人
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-166347(JP,A)
【文献】特開2013-249791(JP,A)
【文献】米国特許第06216646(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01P 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却液が循環される冷却回路に設けられるリザーブタンクであって、
流入孔と流出孔とが形成され内部空間が冷却液を貯留する貯留空間として形成されたケースと、
連通孔が形成され前記貯留空間を複数の貯液室に区分する仕切板と、
前記ケースに接続され前記流入孔を介して前記貯留空間に冷却液を流入させるための流入ポートと、
前記ケースに接続され前記流出孔を介して前記貯留空間から冷却液を流出させるための流出ポートとを備え、
前記ケースにおける流出ポートが接続される部分が流出ポート接続部として設けられ、
前記複数の貯液室のうち前記流出孔を介して前記流出ポートと連通された貯液室が冷却液流出室として形成され、
前記仕切板を介して前記冷却液流出室に隣接する貯液室が隣接貯液室として形成され、
前記冷却液流出室における冷却液の流速を前記隣接貯液室における冷却液の流速より大きくするように制御する流速制御体が設けられ、
前記流速制御体が前記流出ポート接続部から前記流出ポートの先端部までの間に配置された
リザーブタンク。
【請求項2】
前記流速制御体は冷却液が流動される流動孔を有する形状に形成された
請求項1に記載のリザーブタンク。
【請求項3】
前記流速制御体が前記流出ポート接続部に取り付けられた
請求項1又は請求項2に記載のリザーブタンク。
【請求項4】
前記流速制御体が前記流出ポート接続部に対して着脱可能にされた
請求項3に記載のリザーブタンク。
【請求項5】
前記流速制御体が前記ケース又は前記流出ポートと一体に形成された
請求項1、請求項2又は請求項3に記載のリザーブタンク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却液が循環される冷却回路に設けられたリザーブタンクについての技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両には、例えば、エンジンや電動ユニット等の発熱部品を冷却するために、冷却液を循環させて発熱部品の冷却を行う冷却回路が搭載されているものがある。こうした冷却回路には、回路内を循環する冷却液を貯留するためのリザーブタンクが設けられ、発熱部品からの発熱量が大きい場合には冷却回路を循環する冷却液の流量を増加させ、必要とする冷却性能を確保するものがある。
【0003】
上記のような冷却回路においては、冷却液中の空気の量が増加すると冷却性能の低下を来すため、リザーブタンクの内部に存在する空気層に冷却液中の気泡(空気)を放出することで気液分離を行って冷却性能の低下を防止するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1に記載のリザーブタンクにおいては、リザーブタンクの内部を連通孔が形成された仕切板によって複数の部屋(貯液室)に分け、リザーブタンクの内部を流動する冷却液に連通孔を通過させることによって減速させ、気液分離を促す構成が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記のように連通孔が形成された仕切板が設けられたリザーブタンクにおいては、流動する冷却液の流速に応じて貯液室間で静圧の差が生じ、各貯液室における液面高さに差が生じることにより、液面高さが低くなる貯液室において冷却液中に空気層の空気が巻き込まれ易くなり、冷却性能が低下するおそれがある。
【0007】
そこで、本発明は、冷却液への空気の巻き込みを抑制し、冷却回路における冷却性能の低下を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るリザーブタンクは、冷却液が循環される冷却回路に設けられるリザーブタンクであって、流入孔と流出孔とが形成され内部空間が冷却液を貯留する貯留空間として形成されたケースと、連通孔が形成され前記貯留空間を複数の貯液室に区分する仕切板と、前記ケースに接続され前記流入孔を介して前記貯留空間に冷却液を流入させるための流入ポートと、前記ケースに接続され前記流出孔を介して前記貯留空間から冷却液を流出させるための流出ポートとを備え、前記ケースにおける流出ポートが接続される部分が流出ポート接続部として設けられ、前記複数の貯液室のうち前記流出孔を介して前記流出ポートと連通された貯液室が冷却液流出室として形成され、前記仕切板を介して前記冷却液流出室に隣接する貯液室が隣接貯液室として形成され、前記冷却液流出室における冷却液の流速を前記隣接貯液室における冷却液の流速より大きくするように制御する流速制御体が設けられ、前記流速制御体が前記流出ポート接続部から前記流出ポートの先端部までの間に配置されたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、仕切板によって貯留空間を流動する冷却液の流速が減速されると共に、流速制御体によって冷却液流出室における冷却液の静圧が隣接貯液室における冷却液の静圧より小さくされ、貯留空間における貯液室間の静圧の差が低減されることにより、各貯液室における冷却液の液面高さの変動が小さくされるため、冷却液への空気の巻き込みが抑制され、冷却回路における冷却性能の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図2乃至
図6と共に本発明リザーブタンクの実施の形態を示すものであり、本図は、リザーブタンクが設けられた冷却回路の概略構成を示す図である。
【
図5】リザーブタンクにおける冷却液の流れを示す断面図である。
【
図6】流速制御体がケースと一体に形成された例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明のリザーブタンクを実施するための形態について、添付図面を参照して説明する。
【0012】
<冷却回路の概略構成>
まず、リザーブタンク1が設けられる冷却回路100の概略構成について説明する(
図1参照)。
【0013】
冷却回路100は、例えば、ハイブリッド車両等の車両200に搭載され、冷却液50を貯留するリザーブタンク1と冷却液50を循環させるウォータポンプ101と発熱部品である電動ユニット102と熱交換によって冷却液50を冷却するラジエータ103とを有している。
【0014】
ウォータポンプ101としては、例えば、電動ポンプが用いられ、ウォータポンプ101が駆動されることにより冷却液50が圧送される。電動ユニット102には車両の駆動源となる図示しないモータやそれを制御する図示しない制御部等が搭載されている。ラジエータ103はファン103aを有しており、ファン103aが駆動されることにより、ラジエータを通過する冷却液50が冷却風によって冷却される。
【0015】
冷却回路100における上記の各部は、配管104によって冷却液50が循環可能に接続されている。配管104は、リザーブタンク1とウォータポンプ101とを接続する第1の接続管104aと、ウォータポンプ101と電動ユニット102とを接続する第2の接続管104bと、電動ユニット102とラジエータ103とを接続する第3の接続管104cと、ラジエータ103とリザーブタンク1とを接続する第4の接続管104dとを有している。
【0016】
冷却回路100において、ウォータポンプ101が駆動されることにより、リザーブタンク1に貯留された冷却液50がウォータポンプ101を介して電動ユニット102に供給される。電動ユニット102に供給された冷却液50は、電動ユニット102を冷却した後にラジエータ103に送られ、ラジエータ103による熱交換によって冷却された後に、再びリザーブタンク1に供給される。
【0017】
冷却回路100においては、電動ユニット102の駆動状態に応じて必要とされる冷却性能が制御され、例えば、電動ユニット102が高い出力を発揮する場合には、高い冷却性能が発揮される状態にされる。このように、高い冷却性能が発揮されるときには、リザーブタンク1に貯留された冷却液50を利用して冷却回路100内を循環する冷却液50の流量を増加させることにより、必要とされる冷却性能が確保される。
【0018】
なお、上記の冷却回路100においては、ウォータポンプ101がリザーブタンク1と電動ユニット102の間に設けられた例を示したが、ウォータポンプ101は冷却回路100における任意の位置に設けられていてもよい。
【0019】
<リザーブタンクの構成>
次に、リザーブタンク1の構成について説明する(
図2乃至
図4参照)。
【0020】
以下の説明にあっては、リザーブタンクにおいて流入ポートが位置する側を前方として前後左右の方向を示すものとする。ただし、以下に示す前後左右の方向は説明の便宜上のものであり、本発明の実施に関しては、これらの方向に限定されることはない。
【0021】
リザーブタンク1は本体部2と流入ポート3と流出ポート4とを有している(
図2参照)。
【0022】
本体部2は箱状に形成されたケース5とケース5の内部に配置された仕切板6、6、6とから成る。なお、配置される仕切板6の数は任意であり、一つ又は二つでもよく、四つ以上であってもよい。ケース5は内部空間が貯留空間5aとして形成されている。ケース5の上面部7における後端部には、カバー8によって開閉可能にされた補給孔9が形成され、補給孔9から冷却液50が貯留空間5aに補給可能にされている。
【0023】
ケース5の前面部10は、下端部が流入ポート接続部11として設けられ、流入ポート接続部11には流入孔11aが形成されている。ケース5の底面部12における後端部は流出ポート接続部13として設けられ、流出ポート接続部13には流出孔13aが形成されている。
【0024】
仕切板6、6、6は前後方向に離隔して配置されている。貯留空間5aは、仕切板6、6、6によって複数の貯液室に区分され、各貯液室は前方から順に第1の貯液室14、第2の貯液室15、第3の貯液室16、第4の貯液室17として形成されている。
【0025】
仕切板6における下端寄りの部分には複数の連通孔6aが上下左右に離隔して形成されている。連通孔6aを介して、第1の貯液室14と第2の貯液室15が連通され、第2の貯液室15と第3の貯液室16が連通され、第3の貯液室16と第4の貯液室17が連通されている。
【0026】
流入ポート3は軸方向が前後方向にされ、後端部がケース5の流入ポート接続部11に結合され、内部空間が流入孔11aを介して第1の貯液室14と連通されている。流入ポート3には第4の接続管104dが連結されている。
【0027】
流出ポート4は軸方向が上下方向にされ、上端部がケース5の流出ポート接続部13に結合され、内部空間が流出孔13aを介して第4の貯液室17と連通されている。流出ポート4には第1の接続管104aが連結されている。
【0028】
流入ポート3と流出ポート4は径が同じにされており、流入ポート3と流出ポート4には略同じ量の冷却液50が流動可能にされている。
【0029】
上記のように、第4の貯液室17は、流出ポート4と連通され貯留空間5aから冷却液50が流出される冷却液流出室として形成されている。また、第3の貯液室16は仕切板6を介して第4の貯液室17と隣接する隣接貯液室として形成されている。
【0030】
第4の貯液室17には、流速制御体18が配置されている(
図2及び
図3参照)。流速制御体18は、外径が流出孔13aより大きくされた環状の枠部19と枠部19の内側に格子状に設けられた格子部20とから成る(
図3及び
図4参照)。流速制御体18には、枠部19と格子部20によって網目状の流動孔21、21、・・・が形成されている。
【0031】
流速制御体18は、第4の貯液室17において流出孔13aを覆う状態で流出ポート接続部13に着脱可能に取り付けられている。流速制御体18は、例えば、金属材料によって形成されている。
【0032】
なお、流速制御体18は、流出ポート接続部13から流出ポート4の先端部までの間に配置されていればよく、例えば、外径が流出ポート4の内径以下にされ流出ポート4の内部に配置されていてもよい。
【0033】
<リザーブタンクにおける冷却液の流れ>
次に、リザーブタンク1における冷却液50の流れについて説明する(
図5参照)。
【0034】
リザーブタンク1の貯留空間5aには所定の量の冷却液50が貯留され、貯留空間5aにおける上部には空気層60が形成されている。ウォータポンプ101が非駆動の状態においては、冷却液が冷却回路100を循環されず、貯留空間5aにおける冷却液50も流動しない状態にされている。このとき、各貯液室における冷却液50の液面高さは同じ位置にされている。
【0035】
ウォータポンプ101が駆動された状態においては、冷却液50が冷却回路100を循環され、流入ポート3から第1の貯液室14に冷却液50が流入される。第1の貯液室14に流入した冷却液50は、連通孔6aを通過し第2の貯液室15と第3の貯液室16を介して第4の貯液室17に流動される。第4の貯液室17に流動された冷却液50は流出ポート4から流出される。
【0036】
貯留空間5aにおいて流動される冷却液50は、連通孔6aを通過する度に圧力損失によって減速される。したがって、第2の貯液室15における冷却液50の流速は第1の貯液室14における冷却液50の流速より遅くなり、第3の貯液室16における冷却液50の流速は第2の貯液室15における冷却液50の流速より遅くなる。
【0037】
第1の貯液室14から第3の貯液室16へ向けて流動されるに従って段階的に速度が低下された冷却液50は、第4の貯液室17に流動され、流出孔13aを介して流出ポート4から流出される。
【0038】
このとき、第4の貯液室17における流出ポート接続部13には流速制御体18が取り付けられているため、第4の貯液室17を流動する冷却液50は、流動孔21、21、・・・を流動することにより流速制御体18が設けられていない状態と比べて流速が大きくなるように流速制御体18によって制御される。流動孔21、21、・・・を流動する冷却液50の流速が大きくされることにより、第4の貯液室17における冷却液50の流速が第3の貯液室16における冷却液50の流速より大きくされる。
【0039】
第4の貯液室17における冷却液50の流速が第3の貯液室16における冷却液50の流速より大きくされることにより、第4の貯液室17における静圧が第3の貯液室16における静圧より小さくなる。これにより、貯留空間5aにおいて冷却液50が流入する第1の貯液室14の静圧と冷却液50が流出する第4の貯液室17の静圧の差が小さくなり、貯留空間5aにおける貯液室間の静圧の差が低減される。
【0040】
以上のように、リザーブタンク1においては、貯留空間5aにおける冷却液50の流速が第1の貯液室14から第3の貯液室16に流動されるに従って徐々に減速されることにより、各貯液室において冷却液50の乱流が生じ難くされる。したがって、貯留空間5aにおいて冷却液50中の気泡が空気層60へ放出され易くなり、気液分離を促すことができる。
【0041】
また、流出ポート接続部13から流出ポート4の先端部までの間に、第4の貯液室17における冷却液50の流速を第3の貯液室16における冷却液50の流速より大きくするように制御する流速制御体18が設けられている。これにより、第4の貯液室17における静圧が第3の貯液室16における静圧より小さくされ、貯留空間5aにおける貯液室間の静圧の差が低減される。
【0042】
したがって、各貯液室における冷却液50の液面高さの差が小さくされるため、冷却液50への空気層60からの空気の巻き込みが抑制され、冷却回路100における冷却性能の低下を防止することができる。
【0043】
さらに、流速制御体18は流出ポート接続部13に取り付けられている。したがって、流速制御体18が第4の貯液室17に配置されることにより、ケース5の内部に、例えば、補給孔9から組付可能にされるため、リザーブタンク1における流速制御体18の組付けを容易に行うことができる。
【0044】
また、流速制御体18は流出ポート接続部13に着脱可能な状態で取り付けられている。したがって、ケース5に対して流速制御体18が取替可能にされるため、例えば、リザーブタンク1を他の車種に搭載する場合等において、ケース5の設計変更を来すことなく、冷却回路100を循環する冷却液50の流動状態や必要な冷却性能等に応じて流速制御体18を変更することができる。
【0045】
さらにまた、流速制御体18は冷却液50が流動される流動孔21を有する形状に形成されている。これにより、流動孔21を有する形状に形成された流速制御体18によって冷却液50の流速が制御されるため、簡素な構成で冷却液50の流速を制御することができる。
【0046】
なお、第4の貯液室17における冷却液50の流速を制御する方法として、例えば、流出ポート4の径を小さくする構成が考えられる。しかし、流速制御体18を用いて第4の貯液室17における冷却液50流速を制御することにより、冷却回路100において部分毎に配管104の径を変更したり、配管104の径を変更したりするための接続部材等を設ける必要がないため、冷却回路100全体の設計変更を来すことなく第4の貯液室17における冷却液50の流速を制御することができる。
【0047】
上記には流速制御体18が枠部19と格子部20によって構成された例を示したが、流速制御体18は流出孔13aより径の小さな流動孔21が形成された形状であればよく、例えば、中央部に一つの流動孔21が形成された環状にされていてもよい。さらに、形成される流動孔21の数も任意であり、複数の流動孔21、21、・・・が周方向に離隔して形成されていてもよい。なお、流速制御体18は金属材料に代えて、樹脂材料や布等で形成されていてもよい。
【0048】
また、上記には、流速制御体18が流出ポート接続部13に取り付けられた構成を示したが、流速制御体18はケース5又は流出ポート4と一体に形成されていてもよい。例えば、流速制御体18がケース5と一体に形成された場合には、流出孔13aの一部が流動孔21として機能する(
図6参照)。流速制御体18がケース5又は流出ポート4と一体に形成されることにより、流速制御体18をケース5又は流出ポート4とは別部材として形成する必要がないため、部品点数の削減を図ることができると共に、流速制御体18の位置ずれを防止することができる。
【符号の説明】
【0049】
100 冷却回路
101 ウォータポンプ
102 電動ユニット
103 ラジエータ
104 配管
1 リザーブタンク
2 本体部
3 流入ポート
4 流出ポート
5 ケース
5a 貯留空間
6 仕切板
6a 連通孔
11 流入ポート接続部
11a 流入孔
13 流出ポート接続部
13a 流出孔
14 第1の貯液室
15 第2の貯液室
16 第3の貯液室
17 第4の貯液室
18 流速制御体
50 冷却液
60 空気層