(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】炭化水素油の水素化処理触媒用担体、炭化水素油の水素化処理触媒用担体の製造方法、炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法、及び炭化水素油の水素化処理方法
(51)【国際特許分類】
B01J 31/04 20060101AFI20241217BHJP
B01J 32/00 20060101ALI20241217BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20241217BHJP
B01J 27/19 20060101ALI20241217BHJP
C10G 45/08 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
B01J31/04 M
B01J32/00
B01J37/08
B01J27/19 M
C10G45/08 Z
(21)【出願番号】P 2021052744
(22)【出願日】2021-03-26
【審査請求日】2024-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000105567
【氏名又は名称】コスモ石油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100209347
【氏名又は名称】内田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】時津 総一郎
(72)【発明者】
【氏名】山田 晃
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0306579(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第103100390(CN,A)
【文献】特表2018-520841(JP,A)
【文献】特開平08-243407(JP,A)
【文献】国際公開第2006/093170(WO,A1)
【文献】特表2020-518448(JP,A)
【文献】特表2020-518447(JP,A)
【文献】米国特許第4102821(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J21/00-38/74
C10G1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナを含む金属酸化物に有機酸が担持された炭化水素油の水素化処理触媒用担体であって、
前記有機酸は、カルボキシ基を1個以上有し、20℃における100gの水への溶解度が0.015g未満である、炭化水素油の水素化処理触媒用担体。
【請求項2】
前記有機酸は、炭素数が12~26の有機酸である、請求項1に記載の炭化水素油の水素化処理触媒用担体。
【請求項3】
前記有機酸は、カルボキシ基を1個有する有機酸である、請求項1又は2に記載の炭化水素油の水素化処理触媒用担体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の炭化水素油の水素化処理触媒用担体の製造方法であって、
アルミナを含む金属酸化物に、前記有機酸を担持させることを含む、炭化水素油の水素化処理触媒用担体の製造方法。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の水素化処理触媒用担体に、周期表第6族金属から選ばれる少なくとも1種の金属を触媒基準、酸化物換算で0.5~25質量%、並びに周期表第9族及び第10族金属から選ばれる少なくとも1種の金属を触媒基準、酸化物換算で0.5~15質量%担持した後に、300℃以上で焼成することを含む、炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法。
【請求項6】
水素分圧3~20MPa、反応温度280~420℃、液空間速度0.1~10hr
-1で、請求項5に記載の製造方法により製造された炭化水素油の水素化処理触媒と、炭化水素油と、を接触処理する、炭化水素油の水素化処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素油の水素化処理触媒用担体、炭化水素油の水素化処理触媒用担体の製造方法、炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法、及び炭化水素油の水素化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原油の蒸留や分解によって得られる各油留分は、一般に硫黄化合物を含み、これらの油を燃料として使用する場合には、この硫黄化合物に起因する硫黄酸化物等が発生する。そのため、原油から石油製品を製造する工程には、硫黄化合物を除去するための水素化処理工程が設けられている。
【0003】
水素化処理工程では、水素の存在下、水素化処理触媒に、原油由来の原料油を接触処理することにより原料油を水素化処理する。水素化処理触媒としては、金属酸化物担体にモリブデン、ニッケル、コバルト等の水素化活性金属が担持された触媒が広く用いられている。
【0004】
水素化処理の効率を高めるために、水素化処理触媒の性能向上が望まれている。水素化処理触媒の性能向上のために、金属酸化物担体の検討、水素化活性金属の検討が行われている。
【0005】
金属酸化物担体の検討として、例えば特許文献1には、金属酸化物担体に酸化亜鉛を含有させることにより、水素化処理触媒のコーク劣化を抑制できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の水素化処理触媒は、常圧蒸留残渣油、減圧蒸留残渣油等の重質炭化水素油の水素化処理触媒である。重質炭化水素油は、軽質炭化水素油に比べ、難脱硫性であることから、高温、高圧等の激しい水素化処理条件が必要であり、水素化処理触媒が劣化しやすく、触媒寿命が短くなるという問題がある。
したがって、特許文献1に記載の水素化処理触媒の水素化活性、触媒寿命をさらに改良することが求められる。
【0008】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであって、従来の触媒に比べて水素化活性が高く、かつ長寿命な炭化水素油の水素化処理触媒用担体、前記炭化水素油の水素化処理触媒用担体の製造方法、炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法、及び炭化水素油の水素化処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明は、以下の態様を有する。
[1] アルミナを含む金属酸化物に有機酸が担持された炭化水素油の水素化処理触媒用担体であって、前記有機酸は、カルボキシ基を1個以上有し、20℃における100gの水への溶解度が0.015g未満である、炭化水素油の水素化処理触媒用担体。
[2] 前記有機酸は、炭素数が12~26の有機酸である、[1]に記載の炭化水素油の水素化処理触媒用担体。
[3] 前記有機酸は、カルボキシ基を1個有する有機酸である、[1]又は[2]に記載の炭化水素油の水素化処理触媒用担体。
[4] [1]~[3]のいずれか一項に記載の炭化水素油の水素化処理触媒用担体の製造方法であって、アルミナを含む金属酸化物に、前記有機酸を担持させることを含む、炭化水素油の水素化処理触媒用担体の製造方法。
[5] [1]~[3]のいずれか一項に記載の水素化処理触媒用担体に、周期表第6族金属から選ばれる少なくとも1種の金属を触媒基準、酸化物換算で0.5~25質量%、並びに周期表第9族及び第10族金属から選ばれる少なくとも1種の金属を触媒基準、酸化物換算で0.5~15質量%担持した後に、300℃以上で焼成することを含む、炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法。
[6] 水素分圧3~20MPa、反応温度280~420℃、液空間速度0.1~10hr-1で、[5]に記載の製造方法により製造された炭化水素油の水素化処理触媒と、炭化水素油と、を接触処理する、炭化水素油の水素化処理方法。
[7] 水素分圧3~20MPa、反応温度280~420℃、液空間速度0.1~10hr-1で、[5]に記載の製造方法により製造された炭化水素油の水素化処理触媒と、炭化水素油と、を接触処理する、水素化炭化水素油の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来の触媒に比べて水素化活性が高く、かつ長寿命の炭化水素油の水素化処理触媒用担体、前記炭化水素油の水素化処理触媒用担体の製造方法、炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法、及び炭化水素油の水素化処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下の記載は本発明の実施態様の一例であり、本発明はこれらの内容に限定されず、その要旨の範囲内で変形して実施することができる。
【0012】
≪炭化水素油の水素化処理触媒用担体≫
本実施形態の炭化水素油の水素化処理触媒用担体(以下、単に「担体」ともいう。)は、アルミナを含む金属酸化物に有機酸が担持された担体である。前記有機酸は、カルボキシ基を1個以上有し、20℃における100gの水への溶解度が0.015g未満である。
【0013】
<金属酸化物>
本実施形態の金属酸化物は、アルミナを含む。金属酸化物はアルミナ以外の金属酸化物を含んでもよい。
アルミナ以外の金属酸化物としては、本分野の炭化水素油の水素化処理触媒の担体に含まれ得る金属酸化物を使用することができ、ゼオライト、シリカ、ジルコニア、チタニア、ボリア、酸化リン、酸化亜鉛等が例として挙げられ、酸化リン、酸化亜鉛、チタニア、ボリアが好ましく、酸化リン、酸化亜鉛が特に好ましい。なお、ホウ素、ケイ素は一般に半金属とされる元素であるが、本明細書においては金属として取り扱う。
【0014】
アルミナ以外の金属酸化物は、アルミナとの混合物でもよく、アルミナと複合酸化物を形成していてもよい。アルミナ以外の金属酸化物は1種類でも2種類以上でもよい。金属酸化物が2種類以上の場合、アルミナとこれら2種類以上の金属酸化物の混合物でもよく、これら2種類以上の金属酸化物が複合酸化物を形成していてもよい。
【0015】
金属酸化物がアルミナ以外の金属酸化物を含む場合の各金属酸化物の含有割合の好ましい範囲は以下の通りである。
金属酸化物の総質量に対するアルミナの含有割合は、80~99.9質量%であることが好ましく、82.5~99.8質量%であることがより好ましく、85~99.6質量%であることがさらに好ましい。
金属酸化物が酸化リンを含む場合、金属酸化物の総質量に対する酸化リンの含有割合は、0.01~10質量%であることが好ましく、0.01~5質量%であることがより好ましい。
金属酸化物が酸化亜鉛を含む場合、金属酸化物の総質量に対する酸化亜鉛の含有割合は、0.01~15質量%であることが好ましく、0.01~10質量%であることがより好ましい。
金属酸化物がシリカを含む場合、金属酸化物の総質量に対するシリカの含有割合は、0.01~18質量%であることが好ましく、0.01~15質量%であることがより好ましい。
金属酸化物がチアニアを含む場合、金属酸化物の総質量に対するチタニアの含有割合は、0.01~20質量%であることが好ましく、0.01~17.5質量%であることがより好ましい。
金属酸化物がボリアを含む場合、金属酸化物の総質量に対するボリアの含有割合は、0.01~20質量%であることが好ましく、0.01~15質量%であることがより好ましい。
金属酸化物がゼオライトを含む場合、金属酸化物の総質量に対するゼオライトの含有割合は、0.01~10質量%であることが好ましく、0.01~5質量%であることがより好ましい。
【0016】
金属酸化物中の各金属酸化物の含有割合は、各金属酸化物の元素換算の質量を測定し、アルミナはAl2O3、酸化リンはP2O5、酸化亜鉛はZnO、シリカはSiO2、チタニアはTiO2、ボリアはB2O3、ジルコニアはZrO2に換算した値を金属酸化物の総質量で除すことにより求めることができる。
本明細書において、金属酸化物、担体、水素化処理触媒中に含まれる金属酸化物、周期表第6族金属、周期表第9族及び第10族金属の元素換算の質量は、誘導結合プラズマ発光分析により測定することができる。
【0017】
アルミナとしては、α-アルミナ、β-アルミナ、γ-アルミナ、δ-アルミナ等の種々のアルミナを使用することができるが、多孔質で高比表面積であるアルミナが好ましく、なかでもγ-アルミナがより好ましい。
アルミナの純度は、98質量%以上が好ましく、99質量%以上がより好ましい。アルミナ中の不純物としては、SO4
2-、Cl-、Fe2O3、Na2O等が挙げられるが、これらの不純物はできるだけ少ないことが好ましく、不純物全量で2質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。成分毎ではSO4
2-が1.5質量%以下、Cl-、Fe2O3、Na2Oはそれぞれ0.1質量%以下であることが好ましい。
【0018】
<有機酸>
本実施形態の有機酸は、カルボキシ基を1個以上有し、20℃における100gの水への溶解度が0.015g未満である。
アルミナを含む金属酸化物に担持されている有機酸は、1種類でも、2種類以上でもよい。
【0019】
有機酸が有するカルボキシ基の数は、1~3個であることが好ましく、1~2個であることがより好ましく、1個であることがさらに好ましい。カルボキシ基の数が前記上限値以下であると、触媒の酸点を選択的に被覆し、活性金属の分散性を向上させる。
【0020】
有機酸の20℃における100gの水への溶解度は、0.01g以下であることが好ましく、0.005g以下であることがより好ましく、0.001g以下(不溶)であることがさらに好ましい。
有機酸の20℃における100gの水への溶解度が前記上限値未満(以下)であると、得られる水素化処理触媒の水素化活性が向上し、触媒寿命が向上する。
【0021】
有機酸の20℃における100gの水への溶解度は、例えば、JIS K 8001:2017により測定することができる。また、有機酸の20℃における100gの水への溶解度が既知の場合、例えば、神奈川県化学物質安全情報提供システム(KIS-NET)に記載された値を使用することができる。
【0022】
20℃における100gの水への溶解度が0.015g未満である限り、カルボキシ基以外の有機酸の基本骨格構造は特に限定されないが、例えば、炭素と水素のみからなる炭化水素構造が好ましい。
すなわち、有機酸は炭素と水素のみからなる炭化水素化合物中の1個以上の水素原子がカルボキシ基で置換された有機酸であることが好ましい。
【0023】
このような炭化水素化合物としては、飽和炭化水素化合物、不飽和炭化水素化合物が挙げられる。また、炭化水素化合物は、鎖状構造のみからなる炭化水素化合物でもよく、環状構造のみからなる炭化水素化合物でもよく、鎖状構造と環状構造の両方を有する炭化水素化合物でもよい。また鎖状構造は直鎖構造でも分岐構造でもよい。
【0024】
鎖状構造のみからなる飽和炭化水素化合物としては、アルカンが例として挙げられ、環状構造のみからなる飽和炭化水素化合物としては、シクロアルカンが例として挙げられる。鎖状構造と環状構造の両方を有する飽和炭化水素化合物としては、シクロアルカン中の1個以上の水素原子がアルキル基で置換された飽和炭化水素化合物が例として挙げられる。
【0025】
鎖状構造のみからなる不飽和炭化水素化合物としては、アルケン、アルキン、及びアルカンの1以上の炭素-炭素単結合が2重結合、3重結合に置換された不飽和炭化水素化合物が例として挙げられる。環状構造のみからなる不飽和炭化水素化合物としては、芳香族炭化水素化合物、シクロアルケン、シクロアルカンの1以上の炭素-炭素単結合が2重結合に置換された不飽和炭化水素化合物が例として挙げられる。鎖状構造と環状構造の両方を有する不飽和炭化水素化合物としては、芳香族炭化水素化合物中、シクロアルケン中、又はシクロアルカンの1以上の炭素-炭素単結合が2重結合に置換された不飽和炭化水素化合物中の1個以上の水素原子がアルキル基、アルケニル基、アルキニル基で置換された不飽和炭化水素化合物が例として挙げられる。
【0026】
上記のなかでも、飽和炭化水素化合物としてはアルカンが好ましく、直鎖のアルカンがより好ましい。不飽和炭化水素化合物としては、アルケン又はアルカンの2以上の炭素-炭素単結合が2重結合に置換された不飽和炭化水素化合物が好ましく、直鎖のアルケン又は直鎖のアルカンの2以上の炭素-炭素単結合が2重結合に置換された不飽和炭化水素化合物が好ましい。
【0027】
すなわち、有機酸としては、アルカン中の1個以上の水素原子がカルボキシ基で置換された有機酸が好ましく、直鎖のアルカン中の1個以上の水素原子がカルボキシ基で置換された有機酸がより好ましい。
また、有機酸としては、アルケン中又はアルカンの2以上の炭素-炭素単結合が2重結合に置換された不飽和炭化水素化合物中の1個以上の水素原子がカルボキシ基で置換された有機酸が好ましく、直鎖のアルケン中又は直鎖のアルカンの2以上の炭素-炭素単結合が2重結合に置換された不飽和炭化水素化合物中の1個以上の水素原子がカルボキシ基で置換された有機酸がより好ましい。
【0028】
有機酸の炭素数は、12~26であることが好ましく、14~26であることがより好ましく、14~22であることがさらに好ましい。炭素数が前記下限値以上であると、得られる水素化処理触媒の水素化活性が向上し、触媒寿命が向上する。炭素数が前記上限値以下であると、アルコール等の溶媒に容易に溶解するため、担体へ有機酸を担持する際に用いる含浸液の調製が容易となり、触媒を製造しやすくなり、工業的利用上有利である。
【0029】
直鎖のアルカン中の1個以上の水素原子がカルボキシ基で置換された炭素数12~26の有機酸としては、ドデカン酸(ラウリン酸)、トリデカン酸、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、ヘプタデカン酸(マルガリン酸)、オクタデカン酸(ステアリン酸)、ノナデカン酸、イコサン酸(アラキジン酸)、ヘンイコサノン酸(ヘンイコシル酸)、ドコサン酸(ベヘン酸)、トリコサン酸、テトラコサン酸(リグノセリン酸)、ペンタコサン酸、ヘキサコサン酸が好ましい。
【0030】
直鎖のアルケン中の1個以上の水素原子がカルボキシ基で置換された炭素数12~26の有機酸としては、ドデセン酸、トリデセン酸、テトラデセン酸(ミリストレイン酸)、ペンタデセン酸、ヘキサデセン酸(パルミトレイン酸)、ヘプタデセン酸、オクタデセン酸(オレイン酸)、イコセン酸(エイコセン酸)、ドコセン酸、トリコセン酸、テトラコセン酸、ペンタコセン酸、ヘキサコセン酸が好ましい。前記有機酸は、cis体及びtrans体両方を含む。
【0031】
直鎖のアルカンの2以上の炭素-炭素単結合が2重結合に置換された不飽和炭化水素化合物中の1個以上の水素原子がカルボキシ基で置換された炭素数12~26の有機酸としては、ヘキサデカジエン酸、ヘキサデカトリエン酸、ヘキサデカテトラエン酸、ヘプタデカジエン酸、オクタデカジエン酸(リノール酸)、オクタデカトリエン酸(α-リノレン酸、γ-リノレン酸)、オクタデカテトラエン酸、イコサジエン酸(エイコサジエン酸)、イコサトリエン酸(エイコサトリエン酸)、イコサテトラエン酸(エイコサテトラエン酸、アラキドン酸)、イコサペンタエン酸(エイコサペンタエン酸)、ヘンイコサペンタエン酸、ドコサジエン酸、ドコサテトラエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸が好ましい。
【0032】
有機酸の担持量は、担体の総質量に対し、0.2~25質量%以上であることが好ましく、0.5~20質量%であることがより好ましく、1~5質量%であることがさらに好ましい。有機酸の担持量が前記下限値以上であると、触媒表面の強酸点を優先的に被覆し、活性金属の分散性向上に寄与する。有機酸の担持量が前記上限値以下であると、触媒担体の親水性を阻害しないため、金属の分散に悪影響を与えない。
有機酸の担持量は、全有機体炭素計TOCにより測定することができる。
【0033】
(担体の物性)
本実施形態の担体の比表面積は、窒素吸着法(BET法)による測定値で、200~400m2/gであることが好ましく、250~360m2/gであることがより好ましい。比表面積が前記範囲の下限値以上であると、周期表第6族金属、周期表第9族及び第10族金属が充分分散するため、水素化活性が高くなる。比表面積が前記範囲の上限値以下であると、担体が充分な大きさの細孔径を有するため、水素化処理触媒の細孔径も充分な大きさとなる。そのため、硫黄化合物の触媒細孔内への拡散が充分となり、水素化活性が高くなる。すなわち、比表面積が前記範囲内であると、周期表第6族金属、周期表第9族及び第10族金属の分散性が良好であり、かつ充分な大きさの細孔径を有する水素化処理触媒が得られる。
【0034】
本実施形態の担体の水銀圧入法で測定される細孔分布における平均細孔径は、4~12nmであることが好ましく、6~10nmであることがより好ましい。平均細孔径が前記範囲内であると、充分な細孔内表面積を有し、かつ硫黄化合物の触媒細孔内への拡散が充分となり、水素化活性が高くなる。
【0035】
本実施形態の担体の細孔容積は、水銀圧入法による測定値で、0.5~0.9mL/gであることが好ましく、0.55~0.85mL/gであることがより好ましい。細孔容積が前記範囲の下限値以上であると、通常の含浸法で触媒を調製する場合、細孔内に入り込む溶媒量が充分となる。溶媒量が充分であると、周期表第6族金属、周期表第9族及び第10族金属の原料化合物が溶媒によく溶解し、周期表第6族金属、周期表第9族及び第10族金属の分散性が向上し、水素化活性が高い水素化処理触媒を得ることができる。周期表第6族金属、周期表第9族及び第10族金属の原料化合物の溶解性を上げるために、硝酸等の酸を多量に加える方法があるが、加えすぎると担体の低表面積化が起こり、水素化活性低下の主原因となる。細孔容積が前記範囲の上限値以下であると、比表面積が充分に大きくなり、周期表第6族金属、周期表第9族及び第10族金属の分散性が向上する。すなわち、細孔容積が前記範囲内であると、充分な比表面積を有し、かつ細孔容積内に充分な量の溶媒が入り込めるため、周期表第6族金属、周期表第9族及び第10族金属の原料化合物の溶解性と分散性が共に良好になり、水素化活性がより向上する。
【0036】
≪炭化水素油の水素化処理触媒用担体の製造方法≫
本実施形態の水素化処理触媒用担体の製造方法は、アルミナを含む金属酸化物に、前記有機酸を担持する工程を有する、炭化水素油の水素化処理触媒用担体の製造方法である。
【0037】
<金属酸化物の製造方法>
本実施形態の金属酸化物は、本分野で公知の方法により製造することができる。以下、アルミナを主成分とする金属酸化物の製造方法の一例を説明する。
本実施形態のアルミナを主成分とする金属酸化物の製造方法は、例えば、アルミナゲルを調製するアルミナゲル調製工程、前記アルミナゲルを混錬して混練物を得る混錬工程、前記混練物を成形して成形品を得る成形工程、及び前記成形品を乾燥、焼成して焼成体としての金属酸化物を得る焼成工程を有する。
【0038】
アルミナを主成分とする金属酸化物が、上述のゼオライト、シリカ、ジルコニア、チタニア、ボリア、酸化リン、酸化亜鉛等を含む場合、前記アルミナゲル(混錬中のアルミナゲルを含む)、前記混錬物、及び前記成形品のいずれかに、前記金属酸化物又はこれらの原料化合物(以下、「金属酸化物原料」ともいう)を添加すればよい。中でも混錬工程中のアルミナゲルに金属酸化物原料を添加し、混錬工程を行うことが好ましい。
【0039】
アルミナ原料は、アルミニウムを含む物質であればどのようなものでも使用できるが、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム等のアルミニウム塩が好ましい。これらのアルミナ原料は、通常水溶液として供され、その濃度は特に制限されないが、2~50質量%が好ましく、5~40質量%がより好ましい。
【0040】
アルミナゲルの調製としては、例えば、攪拌釜で硫酸水溶液、アルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウムを混合してスラリーを調製する。得られたスラリーに対して回転円筒型連続真空濾過器による水分除去、純水洗浄を行い、アルミナゲルを得る。
【0041】
次いで、得られたアルミナゲルを濾液中にSO4
2-、Na+が検出できなくなるまで洗浄した後、前記アルミナゲルを純水に混濁させて均一なスラリーとする。得られたアルミナゲルスラリーを、水分量が60~90質量%となるまで脱水して、ケーキを得る。
【0042】
前記アルミナゲルスラリーの脱水は、圧搾濾過器によって行うことが好ましい。圧搾濾過器とは、スラリーに圧縮空気又はポンプ圧を作用させて濾過する装置であり、一般に圧濾器とも呼ばれる。圧搾濾過器には板枠型と凹板型とがある。板枠型圧濾器は、濾板と濾枠が交互に端板間に締め付けられており、濾枠の中へスラリーを圧入して濾過する。濾板は濾液流路となる溝を有し、濾枠には濾布が張ってある。一方、凹板型圧濾器は、濾布と凹板型の濾板を交互に並べて端板との間で締め付け濾室を構成している(参考文献:化学工学便覧p715)。
【0043】
圧搾濾過器でアルミナゲルスラリーの脱水を行うことにより、得られる担体の表面状態を向上させることができ、水素化活性成分の硫化度を向上させることができる。なお、この圧搾濾過器による脱水工程は、アルミナゲル調製工程、及び前記混練工程のうち少なくとも一方の工程の後に行うことが好ましく、両方の工程の後に行ってもよい。中でも、アルミナゲル調製工程後、前記混錬工程前に行うことがより好ましい。
【0044】
前記方法の他にも、アルミナゲルの調製方法としては、アルミナ原料を含む水溶液をアルミン酸ナトリウム、アルミン酸、アンモニア等の中和剤で中和する方法、ヘキサンメチレンテトラミン、炭酸カルシウム等の沈殿剤と混合する方法等が挙げられる。
中和剤の使用量は、特に制限されないが、アルミナ原料を含む水溶液と中和剤の合計量に対して30~70質量%が好ましい。沈殿剤の使用量は、特に制限されないが、アルミナ原料を含む水溶液と沈殿剤の合計量に対して30~70質量%が好ましい。
【0045】
上述の金属酸化物原料をアルミナゲルに添加する場合、上述の方法によりアルミナゲルを調製し、得られたアルミナゲルに対して熟成、洗浄、脱水乾燥、水分調整を行った後に添加を行えばよく、共沈法、混練法等により、アルミナゲルに金属酸化物原料を添加することができる。
【0046】
混練法によりアルミナゲルに金属酸化物原料を添加する場合、アルミナゲル調製工程で得られたアルミナゲルに、金属酸化物原料を添加し、混練を行う。具体的には、50~90℃に加熱したアルミナゲルの水分調整物に、15~90℃に加熱した金属酸化物原料を添加する。そして、加熱ニーダー等を用いて混練、攪拌し、混練物を得る。なお、上述したように、圧搾濾過器による脱水を、アルミナゲルと金属酸化物原料とを混練、攪拌した後に行ってもよい。金属酸化物原料は、固体として添加してもよく、液体として添加してよく、金属酸化物原料を溶媒に溶解又は懸濁した液体として添加してもよい。
【0047】
金属酸化物原料としては、本分野で公知の原料を使用することができる。
【0048】
酸化亜鉛を含む金属酸化物を製造する場合、添加する亜鉛酸化物原料としては、亜鉛単体、種々の亜鉛化合物を使用することができ、酸化亜鉛、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、炭酸亜鉛、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、水酸化亜鉛、シュウ酸亜鉛、リン酸亜鉛、アルミン酸亜鉛、チタン酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛等が例として挙げられ、なかでも酸化亜鉛、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、アルミン酸亜鉛が好ましく、硝酸亜鉛、酸化亜鉛、アルミン酸亜鉛が特に好ましい。
【0049】
亜鉛酸化物原料が酸化亜鉛等の固体の場合、前記アルミゲルに亜鉛酸化物原料を硝酸等の酸とともに添加して前記混錬工程を行うことが好ましい。亜鉛酸化物原料が固体の場合、その平均粒子径は0.01~5μmが好ましく、0.01~2μmがより好ましく、0.01~1μmがさらに好ましい。
亜鉛酸化物原料の平均粒子径は、JIS R1629に準拠したレーザー回折散乱法により測定して得られた粒度分布の体積平均である。
【0050】
酸化リンを含む金属酸化物を製造する場合、添加するリン酸化物原料としては、リン単体、種々の化合物を使用することができ、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸、リン酸アルミニウム等が例として挙げられ、なかでもオルトリン酸が好ましい。
【0051】
得られた混練物を成形、乾燥、焼成して、焼成体を得る。上記混練物の成形に当たっては、押出し成形、加圧成形等の種々の成形方法により行うことができる。また、得られた成形品の乾燥温度は15~150℃が好ましく、80~120℃がより好ましい。乾燥時間は30分間以上が好ましい。前記焼成の焼成温度は必要に応じて適宜設定できるが、例えばγ‐アルミナとするための焼成温度は、450℃以上が好ましく、480~600℃がより好ましい。焼成時間は2時間以上が好ましく、3~12時間がより好ましい。
【0052】
<有機酸の担持>
アルミナを含む金属酸化物への有機酸を担持は、本分野で公知の方法により行うことができる。このような担持方法としては、アルミナを含む金属酸化物へ有機酸を含浸させる含浸法が1例として挙げられる。以下、含浸法について説明する。
【0053】
含浸法としては、金属酸化物を金属酸化物の全細孔容積に対して過剰の含浸液に浸した後に溶媒を全て乾燥させることにより、有機酸を担持する蒸発乾固法、金属酸化物を金属酸化物の全細孔容積に対して過剰の含浸液に浸した後に濾過等の固液分離により有機酸が担持された触媒を得る平衡吸着法、金属酸化物に金属酸化物の全細孔容積とほぼ等量の含浸液を含浸し、溶媒を全て乾燥させることにより、有機酸を担持する細孔充填法が例として挙げられる。なお、アルミナを含む金属酸化物に、2種類以上の有機酸を含浸させる方法としては、これら各成分を同時に含浸させる一括含浸法でもよく、個別に含浸させる逐次含浸法でもよい。
【0054】
含浸液は、有機酸を有機溶媒に溶解することにより調製することができる。有機溶媒としては、有機酸を溶解可能であり、かつ、後述の乾燥工程により揮発除去される有機溶媒であれば特に限定されないが、例えば、イソプロピルアルコール、エタノール、ブタノール、ペンタノール、オクタノール等が挙げられる。
【0055】
含浸法により、金属酸化物に有機酸及び有機溶媒を含む含浸液が含浸された含浸体を得ることができる。乾燥により、含浸体から溶媒を除去することが好ましい。乾燥は、本分野で公知の方法により行うことができ、乾燥温度、乾燥時間、乾燥圧力、乾燥雰囲気は、除去する溶媒及び有機酸の沸点等により適宜調整することができる。
【0056】
一例として、乾燥温度は、20~300℃未満でもよく、20~200℃でもよく、20~150℃でもよい。
乾燥時間は、1~24時間でもよく、1~8時間でもよく、1~3時間でもよい。乾燥雰囲気としては、窒素雰囲気、空気雰囲気等が挙げられ、乾燥圧力は、常圧、減圧雰囲気が挙げられる。
【0057】
≪炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法≫
本実施形態の炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法は、前記担体に、周期表第6族金属から選ばれる少なくとも1種の金属を触媒基準、酸化物換算で0.5~25質量%、並びに周期表第9族及び第10族金属から選ばれる少なくとも1種の金属を触媒基準、酸化物換算で0.5~15質量%担持した後に、300℃以上で焼成することを含む。
本明細書において「周期表第6族金属」(以下、「第6族金属」ということがある)とは、長周期型周期表における第6族金属を意味し、「周期表第9族及び第10族金属」(以下、「第9族及び第10族金属」ということがある)とは、長周期型周期表における第9族及び第10族金属を意味する。
第6族金属、並びに第9族及び第10族金属を総称して「水素化活性成分」ともいう。
【0058】
第6族金属としては、モリブデン、タングステン、クロム等が挙げられ、なかでも単位質量当たりの水素化活性が高いモリブデンが好ましい。
【0059】
第9族及び第10族金属としては、ニッケル、コバルト等が挙げられ、なかでも水素化能が高く、触媒調製コストが低いニッケルが好ましい。
【0060】
本実施形態の触媒の製造方法において、前記担体に担持させる第6族金属原料としては、モリブデン化合物、タングステン化合物、クロム化合物が挙げられ、モリブデン化合物が好ましい。
第6族金属原料は1種類のみでもよく、2種類以上でもよい。
【0061】
モリブデン化合物としては、三酸化モリブデン、モリブドリン酸、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸等が挙げられ、モリブドリン酸、三酸化モリブデン、モリブデン酸アンモニウムが好ましい。
モリブデン化合物は1種類のみでもよく、2種類以上でもよい。
【0062】
タングステン化合物としては、タングステン酸、メタタングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸アンモニウム、三酸化タングステン、リンタングステン酸等が挙げられ、タングステン酸、メタタングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸アンモニウムが好ましい。
タングステン化合物は1種類のみでもよく、2種類以上でもよい。
【0063】
クロム化合物としては、酸化クロム、酢酸クロム、硫酸クロム、リン酸クロム、クロム酸、ニクロム酸、ニュートラルレッド等が挙げられ、クロム酸が好ましい。
クロム化合物は1種類のみでもよく、2種類以上でもよい。
【0064】
本実施形態の触媒の製造方法において、前記担体に担持させる第9族及び第10族金属原料としては、ニッケル化合物又はコバルト化合物が好ましい。
ニッケル化合物としては、酸化ニッケル、炭酸ニッケル、酢酸ニッケル、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、塩化ニッケル等が挙げられ、硝酸ニッケル、炭酸ニッケルが好ましい。
コバルト化合物としては、炭酸コバルト、酢酸コバルト、硝酸コバルト、硫酸コバルト、塩化コバルト等が挙げられ、炭酸コバルト、酢酸コバルトが好ましく、炭酸コバルトがより好ましい。
【0065】
第6族金属の担持量は、触媒基準、酸化物換算で0.5~25質量%であり、2.5~25質量%であることが好ましく、8~20質量%であることがより好ましく、10~16質量%であることがさらに好ましい。第6族金属の担持量が前記範囲の下限値以上であると、第6族金属に起因する効果を発現させるのに充分である。第6族金属の担持量が前記範囲の上限値以下であると、第6族金属が凝集し難く、充分分散する。すなわち、効率的に分散可能な第6族金属の量を超えたり、触媒表面積が大幅に低下することがないため、触媒活性の向上を図ることができる。
【0066】
第9族及び第10族金属の担持量は、触媒基準、酸化物換算で0.5~15質量%であり、0.5~10質量%であることが好ましく、1~8質量%であることがより好ましく、1~6質量%であることがさらに好ましい。第9族及び第10族金属の担持量が前記範囲の下限値以上であると、第9族及び第10族金属に帰属する活性点が充分に得られる。第9族及び第10族金属の担持量が前記範囲の上限値以下であると、第9族及び第10族金属が凝集し難く、分散性が向上する。例えば第9族及び第10族金属としてニッケルを用いた場合に、不活性な前駆体であるNiO種(触媒硫化後や水素化処理中はNiS種として存在する)や、担体の格子内に取り込まれたNiスピネル種が生成され難いため、触媒活性の向上がみられる。
【0067】
第6族金属、並びに第9族及び第10族金属の触媒基準、酸化物換算の担持量は、第6族金属、並びに第9族及び第10族金属の元素換算の質量を測定し、第6族金属については6価の酸化物、第9族及び第10族金属については2価の酸化物に換算した値を水素化処理触媒の総質量で除すことにより求めることができる。
【0068】
担体に、第6族金属原料、並びに第9族及び第10族金属原料(以下、「水素化活性成分原料」ともいう。)を担持させる方法としては、含浸法、共沈法、混練法、沈着法、イオン交換法等の公知の方法でよい。含浸法としては、担体を担体の全細孔容積に対して過剰の含浸溶液に浸した後に溶媒を全て乾燥させることにより、水素化活性成分原料を担持する蒸発乾固法、担体を担体の全細孔容積に対して過剰の含浸溶液に浸した後に濾過等の固液分離により水素化活性成分原料が担持された触媒を得る平衡吸着法、担体に担体の全細孔容積とほぼ等量の含浸溶液を含浸し、溶媒を全て乾燥させることにより、水素化活性成分原料を担持する細孔充填法が例として挙げられる。なお、担体に、水素化活性成分原料を含浸させる方法としては、これら各成分を同時に含浸させる一括含浸法でもよく、個別に含浸させる逐次含浸法でもよい。
【0069】
水素化活性成分原料を、担体に担持させる具体的方法(含浸法)としては、以下の方法が挙げられる。
まず、水素化活性成分原料を含む含浸用溶液を調製する。含浸液は、水素化活性成分原料を水に溶解することにより調製することができる。調製時、これらの水素化活性成分原料の溶解を促進するために、加温(30~100℃)や、酸(硝酸、リン酸、有機酸《クエン酸、酢酸、リンゴ酸、酒石酸等》)の添加を行ってもよい。すなわち、本実施形態においては、担体に含有するリンとは別に、水素化活性成分原料等を、前記担体に担持させる際に、別途リンを担持してもよい。
【0070】
水素化活性成分原料等を、前記担体に担持させる際に、別途添加するリン化合物としては、モリブドリン酸等のリンを含む水素化活性成分原料、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸が挙げられ、オルトリン酸が好ましい。水素化活性成分原料を、前記担体に担持させる際に、別途リンを担持させると、得られる水素化処理触媒中の水素化活性成分の分散性を向上させることができる。
【0071】
続いて、調製した含浸用溶液を、前記担体に、均一になるよう徐々に添加して含浸する。含浸時間は1分間~5時間が好ましく、5分間~3時間がより好ましい。含浸温度は5~100℃が好ましく、10~80℃がより好ましい。含浸雰囲気は特に限定されないが、大気中、窒素中、真空中がそれぞれ適している。
【0072】
第6族金属原料の酸化物換算質量に対する、担体に含まれるリンの酸化物換算質量の比は、0.01~1.5であることが好ましい。前記範囲内であれば、得られる水素化処理触媒の表面積及び細孔容積が減少せず、水素化活性の低下が抑制されるのみならず、酸量が増えることなく、炭素析出を防止でき、これにより活性劣化が抑制される。
【0073】
第6族金属原料としてモリブデン化合物を用いる場合、モリブデン化合物の酸化物換算質量に対する担体に含まれるリンの酸化物換算質量の比は、0.01~1.5が好ましく、0.05~1.0がより好ましい。モリブデン化合物の酸化物換算質量に対する担体に含まれるリンの酸化物換算質量の比が前記範囲内であると、得られる水素化処理触媒中の第9族及び第10族金属化合物等とモリブデンの渾然一体化が図れる。
【0074】
水素化活性成分原料等を担持後、含浸体を窒素気流中、空気気流中、又は真空中で、15~80℃で水分をある程度(LOI《Loss on ignition》が50%以下となるように)除去することが好ましい。その後、乾燥炉にて、空気気流中、80~150℃で、10分間~10時間乾燥することが好ましい。
【0075】
続いて、含浸体又は乾燥後の含浸体を300℃以上で焼成する。焼成温度は、300~700℃であることが好ましく、400~600℃であることがより好ましく、450~550℃が特に好ましい。焼成時間は、1~24時間であることが好ましく、1~8時間であることがより好ましい。焼成雰囲気としては、酸素含有雰囲気等が挙げられ、空気雰囲気が好ましい。
【0076】
<水素化処理触媒>
本実施形態の炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法により製造される水素化処理触媒は、アルミナを含む金属酸化物と、周期表第6族金属から選ばれる少なくとも1種の金属と、周期表第9族及び第10族金属から選ばれる少なくとも1種の金属を含む。
すなわち、水素化処理触媒は、アルミナを含む金属酸化物に、周期表第6族金属から選ばれる少なくとも1種の金属と、周期表第9族及び第10族金属から選ばれる少なくとも1種の金属が担持された炭化水素油の水素化処理触媒である。
【0077】
本実施形態の水素化処理触媒に含まれる第6族金属としては、前記第6族金属原料、前記焼成により生成した酸化物(具体例:三酸化モリブデン)、及び第6族金属と、アルミニウム、亜鉛、リン、第9族金属、第10族金属からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素との複合酸化物が例として挙げられる。
【0078】
本実施形態の水素化処理触媒に含まれる第9族及び第10族金属としては、前記第9族及び第10族金属原料、前記焼成により生成した酸化物(具体例:酸化ニッケル)、及び第9族及び第10族金属と、アルミニウム、亜鉛、リン、第6族金属からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素との複合酸化物が例として挙げられる。
【0079】
水素化処理触媒に含まれる第6族金属の含有割合、並びに第9族及び第10族金属の含有割合は、上述した通りである。
【0080】
水素化処理触媒は300℃以上で焼成を行うことにより製造されるため、有機酸は蒸発、分解、燃焼して除去される。したがって、水素化処理触媒中には有機酸は含まれない又は含まれていたとしても極めて微量である。
【0081】
水素化処理触媒は、アルミナ、第6族金属、第9族金属、第10族金属以外の酸化物を含んでいてもよい。酸化物としては、ゼオライト、シリカ、ジルコニア、チタニア、ボリア、酸化リン、酸化亜鉛等が例として挙げられ、酸化リン、酸化亜鉛、チタニア、ボリアが好ましく、酸化リン、酸化亜鉛が特に好ましい。
【0082】
水素化処理触媒が酸化リンを含む場合、水素化処理触媒の総質量に対する酸化リンの含有割合は、0.01~9.5質量%であることが好ましく、0.01~4.7質量%であることがより好ましい。
水素化処理触媒が酸化亜鉛を含む場合、水素化処理触媒の総質量に対する酸化亜鉛の含有割合は、0.01~14.5質量%であることが好ましく、0.01~9.5質量%であることがより好ましい。
水素化処理触媒がシリカを含む場合、水素化処理触媒の総質量に対するシリカの含有割合は、0.01~17質量%であることが好ましく、0.01~14質量%であることがより好ましい。
水素化処理触媒がチアニアを含む場合、水素化処理触媒の総質量に対するチタニアの含有割合は、0.01~19質量%であることが好ましく、0.01~16.5質量%であることがより好ましい。
水素化処理触媒がボリアを含む場合、水素化処理触媒の総質量に対するボリアの含有割合は、0.01~19質量%であることが好ましく、0.01~14.5質量%であることがより好ましい。
【0083】
水素化処理触媒の総質量に対するゼオライト、シリカ、ボリア、酸化リン、チタニア、酸化亜鉛、及びジルコニアから選ばれる少なくとも1種以上の酸化物の合計含有割合は0.01~18質量%が好ましく、0.01~15質量%がより好ましく、0.01~10質量%がより好ましい。ゼオライト、シリカ、ボリア、酸化リン、チタニア、酸化亜鉛、及びジルコニアとしては、一般に、この種の触媒の担体成分として使用されるものを使用することができる。
【0084】
水素化処理触媒の比表面積は、BET法による測定値で、100~300m2/gであることが好ましく、150~250m2/gであることがより好ましい。比表面積が前記範囲の下限値以上であると、水素化活性成分が充分分散するため、水素化活性が高くなる。比表面積が前記範囲の上限値以下であると、水素化処理触媒が充分な大きさの細孔径を有する。そのため、硫黄化合物の触媒細孔内への拡散が充分となり、水素化活性が高くなる。すなわち、比表面積が前記範囲内であると、水素化活性成分の分散性と水素化処理時の硫黄化合物の触媒細孔内への拡散性の両方を向上させることができる。
【0085】
水素化処理触媒の水銀圧入法で測定される細孔分布における平均細孔径は、6~11nmであることが好ましく、7~10.5nmであることがより好ましい。平均細孔径が前記範囲内であると、充分な細孔内表面積(すなわち、触媒の有効表面積)を有しつつ、硫黄化合物の触媒細孔内への拡散性を高め、水素化活性をより向上させることができる。
【0086】
水素化処理触媒の細孔容積は、水銀圧入法による測定値で、0.35~0.80mL/gであることが好ましく、0.35~0.70mL/gであることがより好ましい。細孔容積が前記範囲の下限値以上であると、水素化処理の際、硫黄化合物の触媒細孔内での拡散が充分となって水素化活性が向上する。細孔容積が前記範囲の上限値以下であると、触媒の比表面積が極端に小さくなることを抑制できる。細孔容積が前記範囲内であると、水素化活性成分の分散性と水素化処理時の硫黄化合物の触媒細孔内への拡散性の両方を向上させることができる。
【0087】
前記の平均細孔径、及び細孔容積を満たす細孔の有効数を多くするために、本実施形態の水素化処理触媒の細孔径分布としては、全細孔容積に対する、平均細孔径±1.5nmの細孔径を有する細孔の容積の割合が、65%以上が好ましく、70%以上がより好ましい。
【0088】
さらに、本実施形態の水素化処理触媒中の水素化活性成分の分布状態は、触媒中でこれらの成分が均一に分布しているユニフォーム型が好ましい。
【0089】
<作用機序>
本実施形態の水素化処理触媒用担体は、アルミナ及び有機酸を含む。アルミナを含む担体に水素化活性成分を担持させる場合、水素化活性成分(特に第6族金属)が、アルミナ上の強い酸点において凝集しやすくなると考えられる。本実施形態の水素化処理触媒では、カルボキシ基を含む有機酸がアルミナ上の強い酸点を被覆することにより、アルミナ上の強い酸点の数が減少すると考えられる。したがって、水素化活性成分を担持させる際に、水素化活性成分の凝集が抑制され、水素化活性成分が高分散に担持されるため、水素化活性が向上し、触媒寿命が向上すると考えられる。また、カルボキシ基を1個以上有し、20℃における100gの水への溶解度が0.015g未満である有機酸がアルミナ上の強い酸点を有効に被覆するメカニズムとしては以下のように考えられる。カルボキシ基を1個以上有し、20℃における100gの水への溶解度が0.015g以上の有機酸を用いた場合、水素化活性成分(原料)を含む水溶液を担体に担持する際に、前記有機酸が担体から遊離しやすくなり、前記被覆効果が損なわれることが考えられる。また、有機酸を金属酸化物に担持する際に含浸液の有機溶媒としてアルコールを使用した場合、カルボキシ基を1個以上有し、20℃における100gの水への溶解度が0.015g以上の有機酸を用いた場合、前記アルコールと前記有機酸が反応して、容易にエステルを形成する。このエステルは前記有機酸(カルボン酸)よりも極性が弱いため、アルミナ上の酸点に選択的に吸着することができないため、被覆効果が損なわれると考えられる。したがって、カルボキシ基を1個以上有し、20℃における100gの水への溶解度が0.015g未満の有機酸を用いた場合は、水素化活性成分(原料)添加時に、前記有機酸によるアルミナ上の強い酸点の被覆効果を失うことなく、水素化活性成分(原料)を担持することができると考えられる。
【0090】
<炭化水素油の水素化処理方法>
本実施形態の炭化水素油の水素化処理方法は、水素分圧3~20MPa、反応温度280~420℃、液空間速度0.1~10hr-1で、前記本発明の製造方法により製造された炭化水素油の水素化処理触媒と、炭化水素油と、を接触処理する炭化水素油の水素化処理方法である。
また、前記炭化水素油の水素化処理方法によると、水素分圧3~20MPa、反応温度280~420℃、液空間速度0.1~10hr-1で、前記本発明の製造方法により製造された水素化処理触媒と、炭化水素油と、を接触処理する、水素化炭化水素油の製造方法が提供される。
【0091】
水素分圧は、3~20MPaであることが好ましく、4~17.5MPaであることがより好ましく、5~15MPaであることがさらに好ましい。水素分圧が前記範囲の下限値以上であると、水素化処理が進行しやすい。
【0092】
反応温度は、280~420℃であることが好ましく、300~410℃であることがより好ましく、320~400℃であることがさらに好ましい。反応温度が前記範囲の下限値以上であると、触媒活性を充分に発揮できる。反応温度が前記範囲の上限値以下であると、炭化水素油の熱分解が適度に進行しつつも、触媒劣化が起こり難い。反応温度とは触媒層の平均温度を意味する。
【0093】
液空間速度は、0.1~10hr-1であることが好ましく、0.1~5hr-1であることがより好ましく、0.1~3hr-1であることがさらに好ましい。液空間速度が前記範囲の下限値以上であると、生産性が向上する。液空間速度が前記範囲の上限値以下であると、硫黄分の除去能が向上する。
【0094】
水素/炭化水素油比は、50~3000Nm3/kLが好ましく、100~2500Nm3/kLがより好ましく、200~2000Nm3/kLがさらに好ましい。
【0095】
本実施形態の炭化水素油の水素化処理方法に供される炭化水素油としては、原油を常圧蒸留装置で常圧蒸留して得られる常圧蒸留軽油、常圧蒸留灯油、常圧蒸留重油、常圧蒸留残渣油、前記常圧蒸留残渣油をさらに減圧蒸留装置で減圧蒸留して得られる減圧蒸留残渣油、減圧蒸留軽油、減圧蒸留重油、水素化分解重油等潤滑油基油の溶剤抽出により抽出除去される油分の中で特に重質な油分である重質エキストラクト、流動接触分解残油、流動接触分解軽油、熱分解重油、熱分解軽油、脱礫油等が挙げられる。
【0096】
本実施形態の炭化水素油の水素化処理方法に供される炭化水素油の密度は、0.78~1.15g/cm3が好ましく、0.82~1.1g/cm3がより好ましく、0.84~1.06g/cm3がさらに好ましい。硫黄分は、0.05~7質量%が好ましく、0.5~6.5質量%がより好ましく、0.8~6質量%がさらに好ましい。炭化水素油が残渣油の場合、ニッケル分は、200質量ppm以下が好ましく、バナジウム分は400質量ppm以下が好ましく、アスファルテン分は15質量%以下が好ましい。
【0097】
本実施形態の炭化水素油の水素化処理方法により製造される水素化炭化水素油の密度は、0.7~1.05g/cm3が好ましく、0.75~1.0g/cm3がより好ましく、0.77~0.95g/cm3がさらに好ましい。硫黄分は、0.001~0.8質量%が好ましく、0.01~0.6質量%がより好ましく、0.05~0.5質量%がさらに好ましい。炭化水素油が残渣油の場合、ニッケル分は、50質量ppm以下が好ましく、バナジウム分は100質量ppm以下が好ましく、アスファルテン分は5質量%以下が好ましい。
【0098】
本実施形態の水素化処理触媒は、一般的には、使用前に(すなわち、本実施形態の水素化処理方法を行うのに先立って)、反応装置中で硫化処理して活性化する。この硫化処理は、一般に、200~400℃、好ましくは250~350℃、常圧あるいはそれ以上の水素分圧の水素雰囲気下で、硫黄化合物を含む石油蒸留物、それにジメチルジスルファイドや二硫化炭素等の硫化剤を加えたもの、あるいは硫化水素を用いて行う。
【0099】
本実施形態の水素化処理触媒を用いて、炭化水素油を水素化処理することにより、水素化処理が充分に進行し、かつ長期間にわたり炭化水素油中の硫黄化合物を低減させることが可能となる。
【0100】
本実施形態の水素化処理方法を商業規模で行うには、本実施形態の水素化処理触媒の固定床、移動床、あるいは流動床式の触媒層を反応装置内に形成し、この反応装置内に原料油を導入し、前記の条件下で水素化反応を行えばよい。最も一般的には、固定床式触媒層を反応装置内に形成し、原料油を反応装置の上部に導入し、原料油を固定床の上から下に通過させ、反応装置の下部から生成物を流出させるものか、反対に原料油を反応装置の下部に導入し、原料油を固定床の下から上に通過させ、反応装置の上部から生成物を流出させるものである。
【0101】
本実施形態の水素化処理方法は、本実施形態の水素化処理触媒を、単独の反応装置に充填して行う一段の水素化処理方法であってもよいし、幾つかの反応装置に充填して行う多段連続水素化処理方法であってもよい。
【0102】
本実施形態の水素化処理方法は、3種類の触媒(前段触媒、中段触媒、後段触媒)と接触させる水素化処理方法でもよい。このような3種類の触媒を用いる水素化処理方法は、常圧蒸留残渣油や減圧蒸留残渣油等の重質炭化水素油で好ましく用いられ、各触媒はそれぞれ主に要求される性能が異なる。前段触媒では、主に耐金属性能及び中段以降の触媒を保護するために脱金属活性が要求される。中段触媒では耐金属性能及び脱金属活性、それと同時に脱硫性能をバランスよく有することが要求される。後段触媒では、主に脱硫性能が要求される。このような反応系においては、上述の本発明の水素化処理触媒は、前段触媒、中段触媒、後段触媒のいずれの触媒としても使用することができ、中でも、中段触媒として使用することが好ましい。前段触媒としては本分野で公知の前段触媒を使用することができ、このような前段触媒としては、特開2010-248476号、国際公開第2015/053087号、国際公開第2015/046316号、国際公開第2015/046323号に記載の前段触媒が例として挙げられる。中段触媒としては、国際公開第2015/046323号、国際公開第2015/053087号に記載の中段触媒が例として挙げられる。後段触媒としては本分野で公知の後段触媒を使用することができ、このような後段触媒としては、特開2010-248476号、国際公開第2015/053087号、国際公開第2015/046323号に記載の後段触媒が例として挙げられる。
【0103】
本実施形態の水素化処理方法において、前段触媒の充填割合は、全触媒容積の10~50%が好ましく、15~40%がより好ましい。中段触媒の充填割合は、全触媒容積の10~50%が好ましく、15~40%がより好ましい。後段触媒の充填割合は、全触媒容積の20~70%が好ましく、30~65%がより好ましい。前段触媒、中段触媒、及び後段触媒の充填割合が前記範囲内であると、触媒寿命、脱硫活性、及び脱金属活性の維持に好適である。
【実施例】
【0104】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0105】
<金属酸化物の物理性状及び触媒及び担体の化学性状>
〔1〕物理性状の分析(比表面積、細孔容積、及び平均細孔径)
(a)測定方法及び使用機器:
比表面積は、窒素吸着によるBET法により測定した。窒素吸着装置は、マイクロトラック・ベル(株)製の表面積測定装置(BELSORP-mini II)を使用した。
細孔容積、及び平均細孔径は、水銀圧入法により測定した。水銀圧入装置は、Micromeritics社製のポロシメーター(AutoPore IV)を使用した。
【0106】
(b)水銀圧入法の測定原理:
水銀圧入法は、毛細管現象の法則に基づく。水銀と円筒細孔の場合には、この法則は次式で表される。すなわち、掛けた圧力Pの関数としての細孔への進入水銀体積を測定する。なお、触媒の細孔水銀の表面張力は484dyne/cmとし、接触角は130°とした。
D=-(1/P)4γcosθ
式中、Dは細孔径、Pは掛けた圧力、γは表面張力、θは接触角である。
細孔容積は、金属酸化物1g当たりの細孔へ進入した全水銀体積量である。平均細孔径は、Pの関数として算出されたDの平均値である。
細孔分布は、Pを関数として算出されたDの分布である。
【0107】
(c)測定手順:
(1)真空加熱脱気装置の電源を入れ、温度400℃、真空度5×10-2Torr以下になることを確認する。
(2)サンプルビュレットを空のまま真空加熱脱気装置に掛ける。
(3)真空度が5×10-2Torr以下となったことを確認し、サンプルビュレットを、そのコックを閉じて真空加熱脱気装置から取り外し、冷却後、重量を測定する。
(4)サンプルビュレットに試料(金属酸化物)を入れる。
(5)試料入りサンプルビュレットを真空加熱脱気装置に掛け、真空度が5×10-2Torr以下になってから1時間以上保持する。
(6)試料入りサンプルビュレットを真空加熱脱気装置から取り外し、冷却後、重量を測定し、試料重量を求める。
(7)AutoPore IV用セルに試料を入れる。
(8)AutoPore IVにより測定する。
【0108】
〔2〕化学組成の分析
水素化処理触媒中、及び担体中の各元素の含有割合が、原料の仕込み量に基づいた割合となっていることを、以下の方法により確認した。
(a)分析方法及び使用機器:
触媒及び担体中の元素分析は、誘導結合プラズマ発光分析装置(iCAP 6000:Thermo Scientific社製)を用いて行った。
元素の定量は、絶対検量線法にて行った。
【0109】
(b)測定手順:
(1)ユニシールに、触媒又は担体0.05g、塩酸(50質量%)1mL、フッ酸一滴、及び純水1mLを投入し、加熱して溶解させた。
(2)溶解後、ポリプロピレン製メスフラスコ(50mL)に移し換え、純水を加えて、50mLに秤量した。
(3)この溶液を前記誘導結合プラズマ発光分析装置により測定した。
【0110】
<炭化水素油の水素化処理>
以下の要領にて、下記性状の常圧蒸留残渣油及び減圧蒸留残渣油の混合油の水素化処理を行った。先ず、前段触媒として脱金属触媒(亜鉛含有アルミナ担体にニッケルとモリブデンを担持した水素化脱金属触媒)と後段触媒として各実施例又は比較例の水素化処理触媒を体積比で15:85となるように高圧流通式反応装置に充填して固定床式触媒層を形成し、下記の条件で前処理した。次に、原料油と水素含有ガスとの混合流体を、反応装置の上部より導入して、下記の条件で水素化処理を進行させ、生成油とガスの混合流体を、反応装置の下部より流出させ、気液分離器で生成油を分離した。なお、以下の液空間速度(LHSV)は脱金属触媒と、実施例又は比較例の水素化処理触媒の合計の触媒層に対する、前記混合油のLHSVである。
【0111】
触媒の前処理条件:120℃で3時間常圧乾燥した。
触媒の予備硫化は減圧軽油により、水素分圧10.3MPa、370℃において12時間行った。その後、活性評価用の原料油に切り替えた。
【0112】
反応条件:
圧力(水素分圧):10.3MPa
液空間速度:0.253hr-1
水素/油比:0.8762Nm3/kL
硫黄分:0.3質量%
反応温度:硫黄分が0.3質量%となるように設定した
【0113】
原料油の性状:
油種;常圧蒸留残渣油及び減圧蒸留残渣油の混合油(中東系原油由来)
密度(15℃);0.991g/cm3
硫黄分;3.37質量%
バナジウム;24.96質量ppm
ニッケル;34.7質量ppm
アスファルテン分;4.17質量%
【0114】
[製造例1]
(1)アルミナを含む金属酸化物の製造
12質量%の硫酸水溶液1.5Lを攪拌釜に張込んだ純水100Lに投入し、95℃に加熱した後、攪拌羽根で5分間激しく攪拌した後、当該攪拌釜にアルミナ濃度70g/Lのアルミン酸ナトリウム3.9Lを投入して、水酸化アルミニウムを調製し、24時間攪拌羽根で攪拌した。得られたスラリーを濾過器に投入して濾過を行い、水分を除去した。次いで、得られたゲルを、純水を用いて、濾液中にSO4
2-、Na+が検出できなくなるまで洗浄した。次いで、洗浄後のゲルを純水に混濁させて均一なスラリーとし、当該スラリーを圧搾型濾過器へ投入した。前記スラリーは、濾布を介して濾板にはさみこまれ、濾板を圧搾することにより脱水を行った。
得られたケーキ中の水分量が80質量%になった時点で濾過を中断した。このケーキを加温型ニーダー(設定温度80℃)に投入し、均一になるように充分に混練した後、表1に記載の担体Dの組成となるようにリン酸及び酸化亜鉛粒子(平均粒子径:0.8μm)を添加し、均一になるようにさらに混練した。混練して得られたケーキを押し出し成形器に投入し、長径1.3mm、短径1.1mmの四つ葉型形状の押し出し成形品とした。この成形品を、乾燥し、次いで600℃で4時間焼成することにより、アルミナを主成分とし、酸化リン、酸化亜鉛を含む金属酸化物を得た。得られた金属酸化物は、リンを金属酸化物基準、酸化物換算で1.0質量%、亜鉛を金属酸化物基準、酸化物換算で4.0質量%、細孔容積が0.71mL/gであり、比表面積が303m2/gであり、平均細孔径が7.5nmであった。
【0115】
[実施例1]
(1)担体の製造
イソプロピルアルコール65.24gにミリスチン酸2.44gを溶解させた有機酸含浸用含浸液を調製した。表1に記載の組成となるように、製造例1で得られた金属酸化物100gに前記有機酸含浸用含浸液を含浸し、含浸体を得た。含浸体を窒素雰囲気下、50℃で減圧乾燥させ、その後120℃、ゲージ圧約-0.1MPaで3時間乾燥させ、担体Aを得た。なお、ミリスチン酸は、炭素数が14の直鎖飽和脂肪酸であり、20℃における100gの水への溶解度が0g(不溶)である。
担体A中の担体基準の有機酸の含有割合、担体A中の金属酸化物の担体基準、酸化物換算の含有割合を表1に示す。
【0116】
(2)水素化処理触媒の製造
イオン交換水37.54gにモリブデン酸アンモニウム四水和物10.51g、クエン酸一水和物13.77g、硝酸ニッケル11.12gを溶解させた水素化活性成分含浸用含浸液を調製した。表2に記載の触媒Aの組成となるように、担体A61.43gに前記水素化活性成分含浸用含浸液を含浸し、含浸体を得た。含浸体を乾燥させ、続いて空気雰囲気下、500℃で4時間焼成することにより水素化処理触媒Aを得た。水素化触媒Aを用いて、常圧蒸留残渣油及び減圧蒸留残渣油の混合油の水素化処理反応を行った。結果を表3に示す(以下、触媒B~Fの結果も同様に示す)。
【0117】
[実施例2]
(1)担体の製造
表1に記載の担体Bの組成となるように有機酸含浸用含浸液の組成を変更した以外は、実施例1と同様にして、担体Bを得た。
【0118】
(2)水素化処理触媒の製造
担体Aに代えて担体Bを使用したこと以外は、実施例1と同様にして水素化処理触媒Bを得、常圧蒸留残渣油及び減圧蒸留残渣油の混合油の水素化処理反応を行った。
【0119】
[実施例3]
(1)担体の製造
表1に記載の担体Cの組成となるように有機酸含浸用含浸液の組成を変更した以外は、実施例1と同様にして、担体Cを得た。
【0120】
(2)水素化処理触媒の製造
担体Aに代えて担体Cを使用したこと以外は、実施例1と同様にして水素化処理触媒Cを得、常圧蒸留残渣油及び減圧蒸留残渣油の混合油の水素化処理反応を行った。
【0121】
[実施例4]
(1)担体の製造
表1に記載の担体Dの組成となるように有機酸含浸用含浸液の組成を変更した以外は、実施例1と同様にして、担体Dを得た。具体的には実施例1の有機酸含浸液において、ミリスチン酸に代えてドコサン酸を使用し、その含有量を調整した。なお、ドコサン酸は、炭素数が22の直鎖飽和脂肪酸であり、20℃における100gの水への溶解度が0g(不溶)である。
【0122】
(2)水素化処理触媒の製造
担体Aに代えて担体Dを使用したこと以外は、実施例1と同様にして水素化処理触媒Dを得、常圧蒸留残渣油及び減圧蒸留残渣油の混合油の水素化処理反応を行った。
【0123】
[比較例1]
(1)担体の製造
製造例1で得られた金属酸化物を担体Eとした。
【0124】
(2)水素化処理触媒の製造
担体Aに代えて担体Eを使用したこと以外は、実施例1と同様にして水素化処理触媒Eを得、常圧蒸留残渣油及び減圧蒸留残渣油の混合油の水素化処理反応を行った。
【0125】
[比較例2]
(1)担体の製造
表1に記載の担体Fの組成となるように有機酸含浸用含浸液の組成を変更した以外は、実施例1と同様にして、担体Fを得た。具体的には実施例1の有機酸含浸液において、ミリスチン酸に代えてデカン酸を使用し、その含有量を調整した。なお、デカン酸は、炭素数が10の直鎖飽和脂肪酸であり、20℃における100gの水への溶解度が0.015gである。
【0126】
(2)水素化処理触媒の製造
担体Aに代えて担体Fを使用したこと以外は、実施例1と同様にして水素化処理触媒Fを得、常圧蒸留残渣油及び減圧蒸留残渣油の混合油の水素化処理反応を行った。
【0127】
【0128】
【0129】
【0130】
比較例2の触媒は、反応時間全般にわたって高温で反応する必要があり、水素化活性が低かった。本発明の担体を用いて製造された実施例1~4の触媒は、比較例1の触媒と比較して反応が安定した3日目において低温での反応が可能で初期活性が向上しており、さらに7日目経過後以降においてもいずれも低温での反応が可能であり、水素化活性が高く、長寿命であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明に係る炭化水素油の水素化処理触媒は、炭化水素油中の硫黄分を低減するために用いることができるため有用である。