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特許7605709鉄道車両用電動機軸受の異常診断システム並びに方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】鉄道車両用電動機軸受の異常診断システム並びに方法
(51)【国際特許分類】
   B61K 9/04 20060101AFI20241217BHJP
   B61L 25/02 20060101ALI20241217BHJP
   B61K 13/00 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
B61K9/04
B61L25/02 Z
B61K13/00 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021110583
(22)【出願日】2021-07-02
(65)【公開番号】P2023007619
(43)【公開日】2023-01-19
【審査請求日】2024-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】319007240
【氏名又は名称】株式会社日立インダストリアルプロダクツ
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】吉田 豊美
(72)【発明者】
【氏名】辺見 真
(72)【発明者】
【氏名】早坂 靖
(72)【発明者】
【氏名】小山 貴之
【審査官】西中村 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-120385(JP,A)
【文献】特開2020-038124(JP,A)
【文献】特開2017-026420(JP,A)
【文献】特開2016-210209(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0199101(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0222504(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61K 9/00- 9/12
B61K 13/00
B61L 25/02
F16C 19/52
G01M 13/04
G01M 17/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両を駆動する電動機の軸受振動情報と鉄道車両の車両位置情報を入手する入力部と、前記軸受振動情報と前記車両位置情報を連携させて記録する診断データベースと、演算部を備え、
前記入力部は、列車運行情報を入手し、前記演算部は、前記車両位置情報と前記列車運行情報を用いて前記軸受振動情報を第1の複数グループにグループ分けし、
前記入力部は、気象情報を入手し、前記演算部は、前記車両位置情報と前記気象情報を用いて前記軸受振動情報を第2の複数グループにグループ分けし、
前記第1の複数グループは、列車についての走行距離、走行区間、走行区間往復数を含み、
前記第2の複数グループは、車両走行における地域、季節、外気温を含み、
前記演算部は、前記車両位置情報を用いて前記軸受振動情報を複数グループにグループ分けして前記診断データベースに記録し、前記入力部から指定されたグループに属する前記軸受振動情報を用いて鉄道車両を駆動する電動機の軸受の異常診断を行うことを特徴とする鉄道車両用電動機軸受の異常診断システム。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄道車両用電動機軸受の異常診断システムであって、
前記入力部は、列車運行情報を入手し、前記演算部は、前記車両位置情報と前記列車運行情報を用いて前記軸受振動情報を第1の複数グループにグループ分けし、
前記入力部は、気象情報を入手し、前記演算部は、前記車両位置情報と前記気象情報を用いて前記軸受振動情報を第2の複数グループにグループ分け
前記演算部は、前記入力部から指定された複数のグループに属する前記軸受振動情報を用いて鉄道車両を駆動する電動機の軸受の異常診断を行うことを特徴とする鉄道車両用電動機軸受の異常診断システム。
【請求項3】
鉄道車両を駆動する電動機の軸受振動情報と鉄道車両の車両位置情報を入手し、前記軸受振動情報と前記車両位置情報を連携させて記録するとともに、
列車運行情報を入手し、前記車両位置情報と前記列車運行情報を用いて前記軸受振動情報を第1の複数グループにグループ分けし、
気象情報を入手し、前記車両位置情報と前記気象情報を用いて前記軸受振動情報を第2の複数グループにグループ分けし、
前記第1の複数グループは、列車についての走行距離、走行区間、走行区間往復数を含み、
前記第2の複数グループは、車両走行における地域、季節、外気温を含み、
前記車両位置情報を用いて前記軸受振動情報を複数グループにグループ分けし、指定されたグループに属する前記軸受振動情報を用いて鉄道車両を駆動する電動機の軸受の異常診断を行うことを特徴とする鉄道車両用電動機軸受の異常診断方法。
【請求項4】
請求項3に記載の鉄道車両用電動機軸受の異常診断方法であって、
列車運行情報を入手し、前記車両位置情報と前記列車運行情報を用いて前記軸受振動情報を第1の複数グループにグループ分けし、
気象情報を入手し、前記車両位置情報と前記気象情報を用いて前記軸受振動情報を第2の複数グループにグループ分け
指定された複数のグループに属する前記軸受振動情報を用いて鉄道車両を駆動する電動機の軸受の異常診断を行うことを特徴とする鉄道車両用電動機軸受の異常診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両用電動機軸受の異常診断システム並びに方法に係り、特に、位置情報と連動したデータ取得及び診断基準による電車運転時の鉄道車両用電動機軸受の異常診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両において、種々の軸受メンテナンスシステムや異常診断システムが提案されており、特に位置情報と連動した軸受使用状況の管理システムとして特許文献1が知られている。特許文献1には、「鉄道車両に、GPS受信機、およびその受信した位置情報を無線で送信する通信装置を搭載する。外部に使用状況管理装置を設け、この使用状況管理装置に、鉄道車両の送信装置から送信されたデータに基づいて鉄道車両の走行距離を計算する走行距離計算手段を設ける。鉄道車両には、さらに各車軸軸受の温度を測定する温度センサを設け、測定した温度を前記通信装置で前記使用状況管理装置へ送信する。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-210209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
鉄道車両の軸受の異常を検知し異常診断する場合、リアルタイム監視技術がある。このとき、路線全区間でリアルタイムデータを取得するとデータ量が膨大となってしまう懸念がある。また、ポイントの多い都市部や坂の多い山間部あるいは鉄橋を含む路線などでは、運転環境に依存した外乱による振動診断精度の低下が考えられる。さらに、鉄道用電動機は、軸受の内外で環境に依存した温度差がある条件下で使用される。この温度変化はグリース粘度に影響を与えるため、電動機の振動変化に影響を及ぼすことが考えられる。このように、特定区間や特定軌条輪の環境要因による振動が原因となり誤診断につながることが考えられる。
【0005】
リアルタイム監視技術として、特許文献1に示されたように、GPSを用いて位置情報を利用した軸受使用状況を管理する方法がある。特許文献1では、GPSを用いて、車速、移動履歴、走行距離を記録し送信している。また、台車軸受温度も記録し送信している。しかし、特定区間の外乱(ポイントなど)や外気温度変化による振動変化などの環境要因を除いた振動診断ができない。
【0006】
特許文献1によれば、位置情報と振動情報をリンクさせ、さらには台車軸受温度の影響も考慮するものとされているが、列車運行が鉄道車両用電動機の軸受の振動に与える影響を多方面から解析することについて考慮されていない。
【0007】
以上のことから本発明においては、鉄道車両用電動機の軸受を対象に、列車運行が鉄道車両用電動機の軸受の振動に与える影響を多方面から高精度に求めることを可能とする鉄道車両用電動機軸受の異常診断システム並びに方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
また本発明は、「鉄道車両を駆動する電動機の軸受振動情報と鉄道車両の車両位置情報を入手する入力部と、軸受振動情報と車両位置情報を連携させて記録する診断データベースと、演算部を備え、入力部は、列車運行情報を入手し、演算部は、車両位置情報と列車運行情報を用いて軸受振動情報を第1の複数グループにグループ分けし、入力部は、気象情報を入手し、演算部は、車両位置情報と気象情報を用いて軸受振動情報を第2の複数グループにグループ分けし、第1の複数グループは、列車についての走行距離、走行区間、走行区間往復数を含み、第2の複数グループは、車両走行における地域、季節、外気温を含み、演算部は、車両位置情報を用いて軸受振動情報を複数グループにグループ分けして診断データベースに記録し、入力部から指定されたグループに属する軸受振動情報を用いて鉄道車両を駆動する電動機の軸受の異常診断を行うことを特徴とする鉄道車両用電動機軸受の異常診断システム」としたものである。
【0011】
また本発明は、「鉄道車両を駆動する電動機の軸受振動情報と鉄道車両の車両位置情報を入手し、軸受振動情報と車両位置情報を連携させて記録するとともに、列車運行情報を入手し、車両位置情報と列車運行情報を用いて軸受振動情報を第1の複数グループにグループ分けし、気象情報を入手し、車両位置情報と気象情報を用いて軸受振動情報を第2の複数グループにグループ分けし、第1の複数グループは、列車についての走行距離、走行区間、走行区間往復数を含み、第2の複数グループは、車両走行における地域、季節、外気温を含み、車両位置情報を用いて軸受振動情報を複数グループにグループ分けし、指定されたグループに属する軸受振動情報を用いて鉄道車両を駆動する電動機の軸受の異常診断を行うことを特徴とする鉄道車両用電動機軸受の異常診断方法」としたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、鉄道車両用電動機の軸受を対象に、列車運行が鉄道車両用電動機の軸受の振動に与える影響を多方面から高精度に求めることを可能とする鉄道車両用電動機軸受の異常診断システム並びに方法を提供することができる。
【0013】
また本発明の実施例によれば、外乱振動の多い区間を除いた診断が可能となり、外気温など、振動に影響する要因を加味した診断が可能となり、振動診断の精度向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る鉄道車両用電動機軸受の異常診断システムの構成例を示す図。
図2】診断装置内のCPUが実行する処理内容のうち情報入力関係を示すフローチャート。
図3】診断装置内のCPUが実行する処理内容のうち位置情報に対応した軸受振動情報のグループ分けのフローチャート。
図4】診断装置内のCPUが実行する処理内容のうち地理環境情報に対応した軸受振動情報のグループ分けのフローチャート。
図5】位置情報に対応した軸受振動情報のグループ分けとして、診断データベースDBに蓄積された情報の例を示す図。
図6】地理環境情報に対応した軸受振動情報のグループ分けとして、診断データベースDBに蓄積された情報の例を示す図。
図7a】位置情報に対応した軸受振動情報のグループ分け事例を示す図。
図7b】地理環境情報に対応した軸受振動情報のグループ分け事例を示す図。
図8】診断装置内のCPUが実行する処理内容のうち診断処理関係を示すフローチャート。
図9】走行関連診断項目にグループ分けしたことの利点を説明するための図。
図10】地理環境関連診断項目にグループ分けしたことの利点を説明するための図。
図11】複数項目の組み合わせによる診断事例を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施例について図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0016】
図1は、本発明に係る鉄道車両用電動機軸受の異常診断システムの構成例を示す図である。
【0017】
異常診断システムは、鉄道事業者1が保有する鉄道車両10を、サービス事業者2が保有する診断装置20により診断する構成のものであり、さらにはこの実現のために気象サービス会社3からの気象情報D3、鉄道事業者1における列車運行管理システムから列車運行情報D4の提供を得て構成されるのがよい。なお、鉄道事業者1とサービス事業者2は、同一の事業者であってもよい。
【0018】
このうち診断対象となる鉄道車両10には、この車両の車両位置を示す車両位置情報D2を検知する位置検知手段14として例えばGPS,車両台車11に取り付けられた主電動機12の軸受の振動を電動機軸受振動情報D1として検知する振動センサS(図示の例ではS1からS4)、並びに検知した情報D1,D2をサービス事業者2に情報伝送する情報通信手段15が搭載されている。
【0019】
サービス事業者2が保有し計算機により構成される診断装置20は、各所からの情報を入力し、適宜の形式に加工した情報を出力する入出力部21と、記憶部であるRAM22,ROM23,共通バス24,CPU25により構成されている。CPU25における演算はROM23に格納されたプログラムに従い実行され、さらにCPU25は、入力した情報、加工した二次的情報あるいは最終出力情報を蓄積、記憶する診断データベースDBに接続されている。
【0020】
図2は、診断装置20内のCPU25が実行する処理内容のうち情報入力関係を示すフローチャートである。このフローでは、まず処理ステップSt1において、鉄道車両10内の情報通信手段15が情報伝送してきた情報D1,D2をデータベースDBに格納する。なおこの情報入手は、現在実走行中の車両からオンラインで入手し、即時に以降の診断処理を実行してもよいし、鉄道事業者1側である程度の期間蓄積した車両ごとの検知情報として入手されるものであってもよい。ただし、これらの情報D1,D2は検出した時刻、及び検知した車両に関する情報(車両名や主電動機名など)を含んでおり、相互に紐づけが可能な情報とされている。これらの時刻情報などによる紐づけは、以降の各種情報D3,D4についても同様にされている。
【0021】
なおサービス事業者2における情報の入手は、鉄道事業者1側からの提供を受動的に受ける形態としてもよいし、あるいはサービス事業者2における判断結果などに応じて鉄道事業者1側に能動的に働きかけ、情報取得の条件などを提示する形態のものであってもよい。例えば、位置情報などから例えばトンネル内を走行中であることが判明しているとき、或は情報を確保したい条件に合致するときに、診断システム側から鉄道車両10に対して情報確保すべき(あるいはすべきでない)ことを指示するものであってもよい。あるいは地形上、振動を生じにくい条件下での情報取得を指示するものであってもよい。
【0022】
処理ステップSt2では、鉄道事業者1における列車運行管理システムから列車運行情報D4(路線図、車両編成など)の提供を受け、これをデータベースDBに格納する。同様に処理ステップSt3では、気象サービス会社3からの気象情報D3(気温、雨量、降雪情報など)の提供を受け、これを診断データベースDBに格納する。
【0023】
処理ステップSt1からSt3は、情報入手段階の処理であり、これに対し、図3には診断装置20内のCPU25が実行する処理内容のうち情報のグルーピング処理関係を示すフローチャートを示している。情報のグルーピング処理には、大別すると2つの処理があり、一つは車両の位置情報に対応した軸受振動情報のグループ分け(第1のグループ分け)の考え方であり、もう一つは地理環境情報に対応した軸受振動情報のグループ分け(第2のグループ分け)の考え方である。なお、2つのグループ分けは、双方を組み合わせて実行するのが望ましい。
【0024】
図3の車両の位置情報に対応した軸受振動情報のグループ分けのフローチャートでは、処理ステップSt11において、診断データベースDB内の車両位置情報D2と電動機軸受振動情報D1と列車運行情報D4を入手する。なお、電動機軸受振動情報D1は、このタイミングで入手するものであっても、事前に診断データベースDB内に格納されているものであってもよい。
【0025】
処理ステップSt12では、車両位置情報D2と列車運行情報D4に応じて、電動機軸受振動情報D1を走行関連診断項目に分類し、或はいずれにも分類しないことの判断を実行する。ここで走行関連診断項目とは、車両走行における走行距離、走行区間、走行区間往復数であり、これらの項目は車両位置情報D2と列車運行情報D4から判別が可能である。列車運行情報D4には、各列車についての走行距離、走行区間、走行区間往復数の情報が含まれており、車両位置情報D2と対比することで、車両における現在の状況が確認可能である。
【0026】
因みに走行距離の観点からここに区分される電動機軸受振動情報D1が多くなれば、距離と振動との相関が算出可能であり、相関から外れる電動機軸受振動情報D1について、その異常を疑うことができる。また、走行区間の観点からここに区分される電動機軸受振動情報D1が多くなれば、この区間における速度と振動との相関が算出可能であり、相関から外れる電動機軸受振動情報D1について、その異常を疑うことができる。また、走行区間往復数の観点からここに区分される電動機軸受振動情報D1が多くなれば、列車の起動、停止と振動との相関が算出可能であり、相関から外れる電動機軸受振動情報D1について、その異常を疑うことができる。
【0027】
なお処理ステップSt12における分類処理は、列車の運行時に連続的に行ってもよいが、蓄積情報量が膨大になることから、何らかのイベントに合致する条件が成立するときにサンプリング入手するのがよい。この観点は例えば、走行距離が1万km、2万km、4万kmに達した状態などとするのがよい。また、これらのイベントが成立した位置、日時の情報TPとともに分類されるのがよい。
【0028】
図3の処理ステップSt13,14,15では、このイベント成立時の走行距離、走行区間、走行区間往復数の情報(D5,D6,D7)を、イベントが成立した位置、日時の情報TPとともに記憶し、診断データベースDBに格納する。
【0029】
図4の地理環境情報に対応した軸受振動情報のグループ分けのフローチャートでは、処理ステップSt21において、診断データベースDB内の車両位置情報D2と電動機軸受振動情報D1と気象情報D3を入手する。なお、気象情報D3は、このタイミングで気象サービス会社3から入手するものであっても、事前に診断データベースDB内に格納されているものであってもよい。
【0030】
処理ステップSt22では、車両位置情報D2と気象情報D3に応じて、電動機軸受振動情報D1を地理環境関連診断項目に分類し、或はいずれにも分類しないことの判断を実行する。ここで地理環境関連診断項目とは、車両走行における地域、季節、外気温であり、これらの項目は車両位置情報D2と気象情報D3から判別が可能である。
【0031】
因みに、地域の観点からここに区分される電動機軸受振動情報D1が多くなれば、地形と振動との相関が算出可能であり、相関から外れる電動機軸受振動情報D1について、その異常を疑うことができる。また、季節の観点からここに区分される電動機軸受振動情報D1が多くなれば、この季節における気象と振動との相関が算出可能であり、相関から外れる電動機軸受振動情報D1について、その異常を疑うことができる。また、外気温の観点からここに区分される電動機軸受振動情報D1が多くなれば、気温と軸受温度との相関が算出可能であり、相関から外れる電動機軸受振動情報D1について、その異常を疑うことができる。
【0032】
なお処理ステップSt12における分類処理は、列車の運行時に連続的に行ってもよいが、蓄積情報量が膨大になることから、何らかのイベントに合致する条件が成立するときにサンプリング入手するのがよい。この観点は例えば、走行距離が1万km、2万km、4万kmに達した状態などとするのがよい。また、これらのイベントが成立した位置、日時の情報TPとともに分類されるのがよい。これにより、図3で述べた走行関連診断項目と図4で述べた地理環境関連診断項目が、紐付けされて一覧可能となる。
【0033】
図4の処理ステップSt23,24,25では、このイベント成立時の地域、季節、外気温の情報(D8,D9,D10)を、イベントが成立した位置、日時の情報TPとともに記憶し、診断データベースDBに格納する。なお診断データベースDBには、これら以外の項目を適宜追加設定してもよいことは言うまでもない。
【0034】
このようにして、診断データベースDBには位置情報に対応した軸受振動情報のグループ分けとして、図5の情報が蓄積される。図5は、測定位置をもとにした軸受振動情報のグループ分けの一例を示す図である。この例では軸受情報D1は、車両位置情報D2をもとにして路線D11ごと、地域D8ごと、走行距離D5ごと、走行区間D6ごと、または走行区間往復数D7ごとにグループ分けされている。
【0035】
例えば路線D11は、各路線(路線A、路線B,…など)でグループ化する。地域D8は、路線ごとに、都市部、山間部、鉄橋有などを抽出してグループ分けする。走行区間D6は、路線ごとに、平坦な直線であるなどの条件が同じ走行区間を抽出してグループ分けする。走行区間往復数D6は、路線D11ごとに、予め決めた走行区間の往復数でグループ分けする。なお、グループ分けでは、同じ車両や同じ型式のモータでまとめておくとよい。これにより、たとえば、同じ車両、同じ型式のモータで走行区間往復数が変化した場合の比較が可能となり、診断精度の向上が図られる。
【0036】
またこのようにして、診断データベースDBには地理環境情報に対応した軸受振動情報のグループ分けとして、図6の情報が蓄積される。図6は、地理環境情報をもとにした振動情報D1のグループ分けの一例である。地域D8について海岸、平坦な地形、カーブが多い、勾配、住宅密集、季節D9について風の強弱、降雪量、雨量、外気温D10について位置情報と連動して記憶した時間情報により特定、などでグループ分けをする。これにより、例えば、季節によって変化する外気温と軸受温度とグリース粘度の関係を診断ロジックに組み込むことが可能となり、軸受温度変化が軸受振動に与える影響を考慮した診断が可能となる。
【0037】
次に、具体的なグループ分け事例を図7a,図7bで説明する。図7aは、位置情報に対応した軸受振動情報のグループ分け事例である。この左側の例では路線D11がA路線であり、この時の位置、時間日付がTp1の時に、列車の走行距離D5が1万km、走行区間D6が停車駅前後の低速域であり、区間往復数D7が100回以下という観測事例であり、左側から2番目の例では路線D11がA路線であり、この時の位置、時間日付がTp2の時に、列車の走行距離D5が2万km、走行区間D6が最高速度の高速域であり、区間往復数D7が200回という観測事例であり、中央の例では路線D11がA路線であり、この時の位置、時間日付がTp3の時に、列車の走行距離D5が4万km、走行区間D6が停車駅前後の低速域であり、区間往復数D7が400回という事例であり、右側2番目の例では路線D11がA路線であり、この時の位置、時間日付がTp4の時に、列車の走行距離D5が2万km、走行区間D6が最高速度の高速域であり、区間往復数D7が200回という事例であり、右側の例では路線D11がA路線であり、この時の位置、時間日付がTp5の時に、列車の走行距離D5が1万km、走行区間D6が停車駅前後の低速域であり、区間往復数D7が100回以下という観測事例である。
【0038】
この例によれば、右から2番目と左から2番目の観測事例は、あるいは左右の観測事例は互いに類似のものであることから、本来は同様の振動傾向を示すものと考えられ、この比較結果が相違するとなれば、何らかの異常と診断することが可能である。
【0039】
図7bは、地理環境情報に対応した軸受振動情報のグループ分け事例である。この事例で、路線D11のA路線の地域D8は、平坦な地形から勾配に入る地形であり、季節D9としては、風が弱い地域と強い地域があり、あるいは降雪の多い地域と少ない地域、或は雨量が多い地域、少ない地域がある。温度D10は、15度から5度まで変化するといった、路線上の地理的、環境的な特徴を有している。
【0040】
図3図4のグループ分けの処理により、図7a,図7bの情報が互いに紐づけされて診断データベースDBに格納されている。
【0041】
図8は、診断装置20内のCPU25が実行する処理内容のうち診断処理関係を示すフローチャートである。図8ではまず、処理ステップSt31において、利用者が入出力部21の操作により、診断対象とする車両、さらには主電動機の軸受を指定する。
【0042】
また利用者は入出力部21の操作により、処理ステップSt32において、走行関連診断項目および地理環境関連診断項目の中から、診断したい項目を選択する。これは、走行関連診断項目に分類された走行距離D5、走行区間D6、走行区間往復数D7、および走行関連診断項目に分類された地域D8、季節D9、外気温D10などの中から少なくとも1つ以上を選択することであり、1つの選択の場合にはこの項目のみが診断され、複数の選択の場合には、これらのすべてが診断対象とされる。またこの選択においては、複合要素としての選択が可能であり、例えば走行距離D5と、地域D8、季節D9の論理積としての診断を指定することが可能である。
【0043】
処理ステップSt33では、選択された項目に合致する項目の過去情報が全て診断データベースDBから取り出され、処理ステップSt34では、取り出した情報を用いた例えば機械学習により各項目と振動との相関を得る。処理ステップSt35では、車両軸受の指定個所について、学習により得られた相関の関係を用いて診断評価を行う。
【0044】
この一連の診断評価の処理の中では、これらグループ分けした軸受振動情報について、測定位置に応じた診断基準を算出し、診断基準に照らし合わせて、軸受の異常を判定するのがよい。なおグループ分けおよび診断基準の算出と軸受の異常診断は、測定時(リアルタイム)ではなく後から行ってもよい。また、測定位置を見て軸受の異常診断をするかしないかを決めてもよい。
【0045】
また、位置情報や時刻情報より路線ダイヤを特定し、ダイヤより編成を特定しておくとよい。たとえば、ホーム階段付近は混雑度が高いなど電動機への負荷が異なることが考えられる。位置情報で階段付近に停車する編成内位置を特定することで、振動診断にこの電動機への負荷の変化を考慮することが可能となり、診断精度の向上が図られる。
【0046】
図9図10は、それぞれ走行関連診断項目および地理環境関連診断項目にグループ分けしたことの利点を説明するための図である。この図9によれば、走行関連診断項目について、走行距離を採用すると、距離と振動との相関が算出可能であり、例えば一定距離以上になると振動が増加することから、振動増加距離の算出が行える。走行区間を採用すると、速度と振動との相関が算出可能であり、例えば最高速度での走行区間は振動が大きくなることから振動大区間の特定が行える。走行区間往復数を採用すると、起動・停止と振動や軸受損傷との相関が算出可能であり、例えば起動、停止が多いと軸受の摩耗が進む可能性が有ることから、起動・停止が多い区間の特定が行える。
【0047】
また図10によれば、地理環境関連診断項目について、地域を採用すると、地形と振動との相関が算出可能であり、例えば環境の影響を排除のため、平坦な地形での計測ができ、さらに勾配有では、モータ負荷と振動、軸受損傷の相関をデータ化できる。季節を採用すると、気象と振動との相関が算出可能であり、例えば環境影響排除のため、晴天時の計測ができ、悪環境(多雨、多雪)での情報で振動の傾向をデータ化できる。外気温を採用すると、気温と軸受温度との相関が算出可能である。
【0048】
図11は、複数項目の組み合わせによる診断事例を示した図であり、ここでは全項目としている。TP1からTP5の各位置、日時の状態において、その時の車両振動に影響を与えたと考えられる要因を総合的に評価するときの参考項目が全て考慮されている。過去事例の中には同じ条件、類似条件のものが含まれ、あるいは気温の条件が追加されることでの新たな評価も可能となる。
【0049】
以上述べたように本発明によれば、鉄道用電動機の軸受情報を測定位置と連携させて記録し、軸受異常診断用基準を地理的な情報と連携させて記憶しておき、測定位置に応じた診断基準を読み出し、異常判定を行うことが可能となり、鉄道用電動機の軸受診断の精度向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0050】
1:鉄道事業者
2:サービス事業者
3:気象サービス会社
10:鉄道車両
11:車両台車
12:主電動機
14:位置検知手段
15:情報通信手段
20:診断装置
21:入出力部
22:RAM
23:ROM
24:共通バス
25:CPU
D1:電動機軸受振動情報
D2:車両位置情報
D3:気象情報
D4:列車運行情報
DB:診断データベース
S:振動センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7a
図7b
図8
図9
図10
図11