IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ グロッツ−ベッケルト・カーゲーの特許一覧

<>
  • 特許-編み具バーおよび編み具を交換する方法 図1
  • 特許-編み具バーおよび編み具を交換する方法 図2
  • 特許-編み具バーおよび編み具を交換する方法 図3
  • 特許-編み具バーおよび編み具を交換する方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】編み具バーおよび編み具を交換する方法
(51)【国際特許分類】
   D04B 15/20 20060101AFI20241217BHJP
   D04B 15/10 20060101ALI20241217BHJP
   D04B 27/06 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
D04B15/20
D04B15/10 Z
D04B27/06
D04B15/10 A
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021125437
(22)【出願日】2021-07-30
(65)【公開番号】P2022027704
(43)【公開日】2022-02-14
【審査請求日】2024-07-29
(31)【優先権主張番号】20188736
(32)【優先日】2020-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500131561
【氏名又は名称】グロッツ-ベッケルト・カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブッツ,トルシュテン
【審査官】▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第2902847(US,A)
【文献】特開平6-240549(JP,A)
【文献】米国特許第1848293(US,A)
【文献】米国特許第2254201(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B 15/20
D04B 15/10
D04B 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
編み具(3)の第1の集合を移動させるための編み具バー(1)であって、
これらの編み具(3)は、その作業位置において、編み具バー(1)の長手方向(x)に互いに隣り合うように一列に配置可能であり、
これらの編み具の編み手段(8)は、編み具バー(1)の長手方向(x)に対して直角な作業方向(y)を向いており、
編み具(3)の第1の集合の部分集合を受け入れるための少なくとも1つの編み具キャリア(2)が、編み具バー(1)に取り外し可能に結合され、
少なくとも1つの固定構成(5)が、少なくとも1つの編み具キャリア(2)を編み具バー(1)に固定し、
該固定構成(5)は、少なくとも1つの編み具キャリア(2)を固定するために適しかつ少なくとも1つの編み具キャリア(2)を固定するために配置されたn個のカバー(4)の第2の集合を少なくとも含み、nは2以上の自然数であり、
少なくとも1つの編み具キャリア(2)は、n個のカバー(4)の第2の集合の部分集合によって既に固定可能であり、この部分集合は、最大でn-1個のカバー(4)を含む、ことを特徴とする編み具バー。
【請求項2】
少なくとも1つのカバー(4)は、編み具バー(1)の長手方向(x)に延びるカバーの幅bと、編み具バー(1)の長手方向(x)に延びる編み具キャリアの幅bとの比が、
/b≦1
であり、好ましくは、
/b≦0.5
である、ことを特徴とする請求項1に記載の編み具バー(1)。
【請求項3】
少なくとも1つの固定構成(5)の少なくとも1つのカバー(4)によって、少なくとも第2の編み具キャリア(2)を固定可能である、ことを特徴とする請求項1または2に記載の編み具バー(1)。
【請求項4】
編み具バー(1)の長手方向(x)に長手方向の凹部(18)が延び、
少なくとも1つの編み具キャリア(2)は、長手方向の突出部(17)を含み、該突出部も実質的に長手方向(x)に延び、前記突出部は、
前記長手方向の凹部(18)に挿入可能である、ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の編み具バー(1)。
【請求項5】
少なくとも1つのカバー(4)、および/または少なくとも1つの編み具キャリア(2)、および/または編み具バー(1)は、実質的に繊維強化ポリマーから構成される、ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の編み具バー(1)。
【請求項6】
少なくとも1つの編み具キャリア(2)は、編み具(3)の作業方向(y)に延びかつ編み具(3)を取り外し可能に受け入れるために適した凹部(11)、好ましくは溝(11)、を含み、該凹部(11)は、突起(10)、溝(11)の場合は好ましくは溝壁(10)、によって、編み具バー(1)の長手方向(x)に互いに間隔を置いて配置される、ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の編み具バー(1)。
【請求項7】
少なくとも1つの固定構成(5)は、少なくとも1つのカバー(4)を含み、該カバーを用いて編み具(3)を少なくとも1つの編み具キャリア(2)の前記凹部(11)に固定可能である、ことを特徴とする請求項6に記載の編み具バー(1)。
【請求項8】
編み具(3)の少なくとも一部は、2つのカバー(4)によって少なくとも1つの編み具キャリア(2)の前記凹部(11)に固定可能である、ことを特徴とする請求項7に記載の編み具バー(1)。
【請求項9】
少なくとも1つのカバー(4)の少なくとも1つのカバーフランク(20)と作業方向(y)とがフランク角(19)をなし、フランク角(19)は25度より大きく45度より小さい、ことを特徴とする、請求項1から8のいずれか1項に記載の編み具バー(1)。
【請求項10】
隣接する編み具キャリア(2)の間には、長手方向(x)に、ギャップ幅sのギャップ(13)が存在する、ことを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の編み具バー(1)。
【請求項11】
少なくとも1つの編み具キャリア(2)は、編み具バー(1)の長手方向(x)において、内側突起(15)が幅bIVを有し、外側突起(16)が幅bAVを有しており、これらの幅は、
AV=0.5・(bIV-s)
の式により関係している、ことを特徴とする請求項10に記載の編み具バー(1)。
【請求項12】
少なくとも1つの編み具キャリア(2)の、編み具キャリアの幅bは、
25.4mm(1インチ)≦b≦254mm(10インチ)
を満たし、好ましくは、
76.2mm(3インチ)≦b≦152.4mm(6インチ)
を満たす、ことを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載の編み具バー(1)。
【請求項13】
編み具バー(1)の少なくとも1つの編み具(3)を交換する方法であって、
少なくとも1つの編み具(3)を含む編み具(3)の第1の集合は、その作業位置において、編み具バー(1)の長手方向(x)に互いに隣り合うように一列に並べられ、
編み具(3)の編み手段(8)は、編み具バー(1)の長手方向(x)に直角な作業方向(y)を向いており、
少なくとも1つの編み具(3)を含む編み具(3)の第1の集合の部分集合が、編み具(3)のこの部分集合を編み具バー(1)に取り外し可能に結合する編み具キャリア(2)に取り付けられ、
少なくとも1つの固定構成(5)が、少なくとも1つの編み具キャリア(2)を編み具バー(1)に固定しており、
固定構成(5)は、n個のカバー(4)の第2の集合で少なくとも1つの編み具キャリア(2)を固定し、nは2以上の自然数であり、
少なくとも1つの編み具(3)を取り外すために、最大でn-1個のカバー(4)が解放され、
少なくとも1つの編み具(3)が、少なくとも1つの他の編み具(3)と交換される、ことを特徴とする方法。
【請求項14】
少なくとも1つの編み具(3)は、保守用ギャップ(14)を通じて交換され、
保守用ギャップ(14)は、最大でn-1個のカバー(4)のうちの少なくとも1つが解放されたときに、編み具キャリア(2)と該少なくとも1つのカバーとの間に形成される、ことを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
少なくとも1つの編み具(3)が交換された後、前に解放された最大でn-1個のカバー(4)が再び固定され、
少なくとも1つの編み具キャリア(2)を編み具バー(1)に少なくとも部分的に固定するクランプ力が発生する、ことを特徴とする請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
経編み地を製造するための経編み機は長年にわたり知られている。このような機械は、典型的には、多数の編み具(例えば、経編み針、糸案内要素、スライダ、シンカー)を含んでおり、これらの編み具は、編み手段を有している。上述した編み具のこれらの編み手段は、その長手方向に沿って編み具バーに取り付けられており、ループ形成プロセス中に機能的に協働する。編み具バーは、バーキャリアとレバーシャフトによって駆動可能であり、レバーシャフトの回転軸を中心に旋回運動を行う。「編み手段」という用語は、編み具の、ループ形成プロセスに機能的に関与し、少なくとも断続的に糸と直接接触する領域を指す。ひげ針のような形状の経編み針の場合、編み手段は、例えばフックである。編み手段は、その動作位置において、編み具バーの長手方向に対して直角に延びる作業方向を向いている。編み具は、摩耗して定期的に交換しなければならないため、典型的には、編み具バーに取り外し可能に結合されている。同じ種類の編み具は、編み具バーに対して、その長手方向に隣り合うように(すなわち一列に並べて)等間隔に取り付けられ、また、他の編み具バーの編み具とループ形成プロセス中に衝突することなく協働することができるように、相対的に調整されている。編み具を備えた経編み機を設定し、編み具を相互に調整するためには、経編み機を停止させる必要がある。したがって、設定時間を短縮するような方法で編み具を取り付け、調整することができれば好ましい。これに関連して、既知の解決手段は、同じタイプの複数の編み具をモジュール化して組み合わせることである。これらのモジュールでは、編み具は、予め整列され、必要な距離だけ離されて、鋳造材料で取り外し不能に成形されている。このようにして、モジュールを編み具バーに取り付ける際、モジュールのすべての編み具を、他のバーに取り付けられた編み具と両立できるように共同で調整することができる。これにより、設定時間を短縮することができる。欠点としては、鋳造金属の重量が大きいこと、および、1つの編み具が摩耗や不具合を起こした場合、そのモジュールの他の編み具が使用可能であっても、常にモジュール全体を交換しなければならないことが挙げられる。また、新しいモジュールが取り付けられると、再度調整する必要がある。編み機が取り外し不能に組み込まれたモジュールの代わりに、長手方向に並んで配置された複数の凹部を有する編み具キャリアが知られている。各凹部には編み具が受け入れられ、カバーと固定構成によって編み具キャリアに「押し付け」られる。編み具は、それぞれ編み具キャリアに取り外し可能に取り付けられる。編み具が摩耗した場合は、別々に交換することができる。
【0002】
米国特許第1848293号明細書(特許文献1)には、編み具キャリア(針スペーサバー4)を有するバーが示されており、この編み具キャリアは、バーの一次成形中にバー中に一体に鋳造さる。これによって、ネジ止めやボルト止めの場合に比べて、より強固なバーと、バーと編み具キャリアの間の強固な結合を提供することが図られている。バーと編み具キャリアは一体化しており、その中に編み具が挿入され、クランピングプレート3で保持される。
【0003】
米国特許第2254201号明細書(特許文献2)には、一体型の針床を有するバーが示されている。針床は、編み具が挿入される溝を含む。編み具は、複数のクランプ部材30によって所定の位置に固定される。それぞれのクランプ部材が接触する編み具が少数であることにより、編み具の修理または交換が容易となる。連続するクランプ部材間の分割線または接合線は、編み具の長手方向に対して斜めに走っている(言い換えれば、編み具と平行ではない)。そのため、編み具の一部は2つのクランプ部材で同時にクランプされる。
【0004】
米国特許第5453146号明細書(特許文献3)には、支持部材2とキャリア1からなるバーの製造方法が記載されている。まず、支持部材がキャリアに結合される。次に、支持部材に、編み具を挿入するための溝が設けられ、複数のセグメントに分割される。支持部材の個々のセグメントは、分割線の領域において、分割線の幅分だけ互いに間隔を置いている。セグメント間の分割線は、溝の中を延びており、溝の幅よりも狭くなっているため、分割線が延びる溝にも編み具を挿入することができる。
【0005】
欧州特許出願公開第3354781号明細書(特許文献4)には、その本体上に第1の固定構成によって編み具キャリアが取り外し可能に取り付けられたバーが記載されている。編み具は、カバー部材と第2の固定構成によって編み具キャリアに取り外し可能に取り付けられている。第2の固定構成が解除されると、第1の固定構成によって編み具キャリアがバーに取り付けられたまま、個々の編み具を交換することができる。第1の固定構成が解除されると、編み具キャリアは、編み具とともに、他のバーの編み具と相対的に調整されるか、あるいは完全に交換される。編み具キャリアを再調整することなく、編み具ツールを個別に交換することができる。2つの別個の固定構成を使用すると、重量が増加し、特にレバーシャフトの回転軸を中心とした旋回運動の場合には回転する質量が増加する。
【0006】
米国特許第2902847号明細書(特許文献5)には、編み具キャリアのほか、関連する編み具とバー上のそれらの配置が記載されている。編み具および編み具キャリアは、カバー部材および単一の共同固定構成によって、バーに取り外し可能に取り付けられる。バーの各編み具キャリアは、1つのカバー部材だけで機能的に結合されている。カバー部材の固定を解除すると、1つの編み具または編み具キャリア全体を交換することができる。どちらの場合も、固定構成を再クランプする前に、固定構成の解放されたカバー部材によってクランプされていたすべての編み具キャリアを、その編み具が他のバーの編み具と衝突せずに協働するように再調整する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許第1848293号明細書
【文献】米国特許第2254201号明細書
【文献】米国特許第5453146号明細書
【文献】欧州特許出願公開第3354781号明細書
【文献】米国特許第2902847号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、経編み機の高速運転を可能にし、設定および保守の時間を短縮することが可能な編み具バーおよび編み具バーの編み具を交換する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的は、本発明にしたがって、請求項1および13によって達成される。本発明の編み具バーは、編み具の第1の集合を移動させるための編み具バーであって、これらの編み具は、その作業位置において、編み具バーの長手方向に互いに隣り合うように一列に配置可能であり、これらの編み具の編み手段は、編み具バーの長手方向に直角な作業方向を向いている。この編み具バーにおいて、編み具の第1の集合の部分集合を受け入れるための少なくとも1つの編み具キャリアが、編み具バーに取り外し可能に結合され、少なくとも1つの固定構成が、少なくとも1つの編み具キャリアを編み具バーに固定する。
本発明に従う編み具バーは、固定構成が、少なくとも1つの編み具キャリアを固定するために適しかつ少なくとも1つの編み具キャリアを固定するために配置されたおよび/または配置可能であるn個のカバーの第2の集合を少なくとも含み、nは2以上の自然数であり、少なくとも1つの編み具キャリアが、n個のカバーの第2の集合の部分集合によって既に固定可能であり、この部分集合は、最大でn-1個のカバーを含む、ことを特徴とする。数nは、次のような数の集合Nのうちの任意の数とすることができる。
【数1】
カバーは、編み具キャリアをクランプし、それによって編み具ツールバーに固定するように構成されている。カバーは解放可能であり、カバーの有利な配置を得るように、編み具バーの長手方向に選択的に配置し、編み具キャリアに対して整列させることができる。保守作業などのためにカバーを解放する必要がある場合、編み具キャリアは、少なくとも1つのさらなるカバーによって編み具バーに固定されたままである。そのため、他の編み具キャリアや編み具に対して編み具キャリアの位置を再調整する必要はない。保守時間および保守費用が削減される。編み具ツールの第1の集合は、例えば、経編み針、糸案内要素、スライダ、および/またはシンカーを含むものであってもよい。
【0010】
カバーの幅bと編み具キャリアの幅bの比は、
/b≦1
であることが有利であり、好ましくは、
/b≦0.5
であることが有利である。カバーの幅と編み具キャリアの幅は、編み具バーの長手方向に延びるものである。b/b=1であれば、カバーを、1つのカバーが2つの隣接する編み具キャリアのそれぞれの半分に重なるように、編み具キャリアに対して配置することができ、それによって両方を固定することが可能となる。このため、この比率は有利であると考えられる。カバーの幅と編み具キャリアの幅の比がb/b≦0.5であれば、さらなる利点が得られる。カバーの適切な配置により、1つの編み具キャリアを少なくとも3つのカバーで、それぞれのカバーが編み具キャリアと少なくとも部分的に重なるように固定することができる。特に、編み具の部分集合を2つのカバーで同時に固定できる場合、例えばこの編み具の部分集合のうちの1つを交換するために、この編み具の部分集合を固定している他の2つのカバーが解放されても、編み具キャリアは依然として第3のカバーで固定されていることは確実である。
【0011】
また、少なくとも1つの固定構成の少なくとも1つのカバーで、少なくとも第2の編み具キャリアが固定可能であると有利である。これにより、1つのカバーが常に1つの編み具キャリアのみを固定する場合よりも広いカバーを使用することができる。この目的のために、カバーは、編み具キャリアに対して、その端部領域で編み具キャリアと重なってそれを固定するカバーが、第2の隣接する編み具キャリアとも少なくとも部分的に重なって、この第2の隣接する編み具キャリアも固定するように配置される。幅広のカバーを使用することで、編み具バーの設定作業を削減することができる。
【0012】
編み具バーが、編み具バーの長手方向に延びる長手方向の凹部を含み、少なくとも1つの編み具キャリアが、編み具バーの長手方向に実質的に延びる長手方向の突出部を含み、好ましくはこの突出部が(例えば、編み具バーの長手方向に走る溝などの)長手方向の凹部に形状噛み合い(form-locking:フォームロック)方式で挿入可能であると有利である。編み具キャリアが編み具バー上にフォームロック方式で配置されることで、編み具キャリアの編み具バー上での位置合わせが容易になる。その後、編み具キャリアは、他の編み具キャリアや編み具に対して、編み具バーの長手方向に調整することができる。一方、針の作業方向における位置は、形状嵌め(form fit:フォームフィット)によって定められる。
【0013】
少なくとも1つのカバー、および/または、少なくとも1つの編み具キャリア、および/または編み具バーは、実質的に繊維強化ポリマーで構成されていると、さらなる利点が得られる。炭素繊維および/またはガラス繊維を含む繊維強化ポリマーが有益である。編み具の作業方向に実質的に向いている第1の繊維配向を有する第1の繊維セットと、編み具バーの長手方向に実質的に向いている第2の繊維配向を有する第2の繊維セットの両方からなる繊維強化ポリマーは、特に有益である。また、さらなる繊維配向を持つ繊維を追加することで、機械的特性および熱的特性に良い影響を与えることができる。材料の要求と部品に作用する応力を考慮して設計されたこの種のカバー、編み具キャリア、および編み具バーは、金属材料で作られた部品よりも軽量である。この軽量化により、編み機がより高速の作業速度で動作することが可能となる。
【0014】
編み具キャリアが、編み具の作業方向に延びかつ編み具を取り外し可能に受け入れるのに適した凹部(好ましくは、溝)を備えており、この凹部が、突起(凹部が溝の場合、好ましくは溝壁)によって編み具バーの長手方向に互いに間隔を置いて配置されていると、さらに有利である。編み具キャリアの凹部にフォームロック方式で配置されている編み具は有益である。編み具キャリアの突起のうち、同じ編み具キャリアの凹部が長手方向の両側に隣接しているものは内側突起である。これに対して、外側突起とは、編み具キャリアの突起のうち、その片側のみが同じ編み具キャリアの凹部に長手方向に隣接しているものをいう。長手方向の第2の側では、外側突起が編み具キャリアの端部を形成する。内側突起および外側突起は、一般的な突起と同様に、溝壁として構成することができる。ここでいう溝壁とは、溝を制限する突起のことである。編み具バーの長手方向において、少なくとも1つの内側突起の幅、すなわち内側突起幅が、少なくとも2つの隣接する編み具の間の距離を規定すると、特に有益である。編み具を交換する場合、編み具キャリア内で新しい編み具を調整して整列させるのに必要な時間は、このようにして短縮される。
【0015】
少なくとも1つの固定構成は、編み具を編み具キャリアの凹部に固定可能な少なくとも1つのカバーを含み、編み具が編み具キャリアの突起を越えて高さ方向に突出していると、有利である。これにより、カバーは編み具キャリアの凹部に編み具を固定する。これにより、編み具が、編み具キャリアを編み具バーに固定する。カバーは、編み具のカバー支持面上に載置されるのみである。これらの面は、編み具が作業位置にあるときに、カバーの方向において編み具を制限する編み具の表面を構成する。したがって、編み具を固定するための別の固定方法は必要とされない。その結果、重量が軽減され、編み機は、より高速に動作することができる。
【0016】
さらに、少なくとも編み具の部分集合が、2つのカバーによって少なくとも1つの編み具キャリアの凹部に固定可能であると、有利である。特に、カバーの端部領域では、隣接するカバー間の隙間のために、個々の編み具のカバー支持面の一部のみがカバーのうちの1つと接触することが起こり得る。その結果、編み具はもはや確実に固定されない可能性がある。特に、カバーの端部領域によって固定されている編み具が、少なくとも部分的に第2のカバーによって追加的に固定可能であれば、これらの編み具も確実に固定されることが保証される。
【0017】
カバーが、カバーの少なくとも1つのフランク(flank:側面)と作業方向とが、25度より大きく45度より小さいフランク角をなす場合には、有利である。高さ方向は、編み物ツールのバーの長手方向に対して直角であり、作業方向に対して直角である。したがって、このようなカバーの端部領域にある編み具のカバー支持面は、常にこのような形状の第2のカバーと部分的に接触し、したがって、この第2のカバーによって追加的に固定される。フランク角が30度と40度の間、特に35度の場合、さらに有利である。特に、1つのカバーが、編み具バーの長手方向と編み具の作業方向によって定まる平面内で平行四辺形および/または台形の形状を有するように、フランク角を選択することが有利である。平行四辺形のカバーは、同じ向きで互いに隣り合うように並べることができる。一方、台形のカバーは、高さ方向周りに180°互いに回転させた状態で配置することができる。
【0018】
編み具バーの長手方向において、隣接する編み具キャリアの間にギャップ幅sのギャップ(隙間)が存在する場合、さらなる利点が得られる。ギャップ幅としては、
0.005mm≦s≦0.5mm
を満たすギャップ幅が有益である。ギャップ幅は、
0.01mm≦s≦0.1mm
を満たす場合、特に有益である。このギャップにより、少なくともギャップ幅の範囲内で、編み具バー上の編み具キャリアを長手方向に相対的に移動させ、相互に整列または調整することが可能となる。これにより、製造上の小さな誤差を補正することができ、また、異なる編み具バー上の編み具を、ループ形成プロセス中に衝突しないように長手方向に相互に配置することができる。
【0019】
さらなる利点は、編み具バーの長手方向において、内側突起が幅bIVを有し、外側突起が幅bAVを有する編み具キャリアからなる編み物ツールバーで得られる。これらの幅は、以下の式により関係している。
AV=0.5・(bIV-s)
編み具は、編み具キャリア上に長手方向に等間隔に配置され、隣接する編み具キャリアは、上述したギャップによって分離される。このように突起を構成することで、編み具キャリア上の編み具の調整、および、隣接する編み具キャリアに対する編み具キャリアの向きの調整が容易になる。
【0020】
本発明に従う教示のさらに有用な実施形態は、以下のような編み具キャリアの幅bを有する少なくとも1つの編み具キャリアを有する編み具バーである。すなわち、編み具キャリアの幅bは、
25.4mm(1インチ)≦b≦254mm(10インチ)
を満たし、さらに好ましくは、
76.2mm(3インチ)≦b≦152.4mm(6インチ)
を満たす。
幅の大きい編み具キャリアは、1つの編み具キャリアに一度に多くの編み具を取り付けることができ、それにより、幅の小さい編み具キャリアの場合よりも少ない編み具キャリアを使用して編み具バーを完全に装備できるという利点がある。その結果、向き付けし、調整する必要がある編み具キャリアの数が減るため、全体として設定時間が短縮される。しかし、幅の小さい編み具キャリアには、小さくて軽いため扱いやすいという利点がある。このような理由から、特に上述した2つのサイズの範囲は、編み具の幅にとって有利である。
【0021】
編み具バーの少なくとも1つの編み具を交換するための方法であって、少なくとも1つの編み具を含む編み具の第1の集合は、その作業位置において、編み具バーの長手方向に互いに隣り合うように一列に並べられる方法によって利点が得られる。この方法において、編み具の編み手段は、編み具バーの長手方向に直角な作業方向を向いており、少なくとも1つの編み具を含む編み具の第1の集合の部分集合が、編み具のこの部分集合を編み具バーに取り外し可能に結合する編み具キャリアに取り付けられる。また、少なくとも1つの固定構成が、少なくとも1つの編み具キャリアを編み具バーに固定している。この方法において、固定構成は、n個のカバーの第2の集合で少なくとも1つの編み具キャリアを固定し、nは2以上の自然数であり、少なくとも1つの編み具を取り外すために、最大でn-1個のカバーが解放され、少なくとも1つの編み具が、少なくとも1つの他の編み具と交換される、ことによって利点が得られる。n-1個のカバーを解放するだけで編み具を交換することができるという事実は、交換の間、編み具キャリア自体は少なくとも1つのカバーによって固定されているという利点をもたらすもののである。編み具キャリアは、交換中もその位置を保持しており、編み具を交換した後に再調整する必要はない。
【0022】
本発明に従う方法では、少なくとも1つの編み具が保守用ギャップを介して交換される場合、さらなる利点が得られる。編み具キャリアと、解放された最大でn-1個のカバーのうちの少なくとも1つとの間の保守用ギャップは、このカバーが解放されたときに形成される。最大でn-1個のカバーは、交換される編み具が通過できるために十分な大きさの隙間を、編み具キャリアと編み具との間に形成するのに十分なだけ解放される。保守用ギャップは、少なくとも編み具の最大突出高さに対応するように調整すると有利である。これにより、保守用ギャップに、編み具が通過できるだけの大きさが確保される。編み具キャリア、編み具、およびカバーの形状によっては、編み具の最大突出高さよりも小さい保守用ギャップを通じて編み具を交換することも可能である。多くの編み具バーでは、カバーと編み具の間に弾性挿入体が配置されている。このような編み具バーの場合、保守用ギャップは、編み具キャリアと弾性挿入体との間に形成される。
【0023】
また、少なくとも1つの編み具が交換された後、前に解放された最大でn-1個のカバーが再び固定され、少なくとも1つの編み具キャリアを編み具バーに少なくとも部分的に固定するクランプ力が発生する方法も有利である。編み具が交換された後、編み具バーは、経編み機で動作可能な状態に戻されなければならない。そのために、すべてのn個のカバーは、編み具および編み具キャリアとともに、編み具バーに確実に固定される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、編み具キャリア2、編み具3、及び固定構成5を備えた編み具バー1の断面図である。
図2図2は、3つのカバー4を含む固定構成5を示す図であり、それぞれのカバー4は、2つのねじ6および2つの穴開き円盤7を含んでいる。
図3図3は、図2のA部を抜粋してその詳細を示す図であり、2つの編み具キャリア2および多数の編み具3が示されている。
図4図4は、図1の断面図を、編み具3が交換されている状態で示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、編み具キャリア2を備えた編み具バー1の断面図である。編み具キャリア2は、長手方向の突出部17を備えており、編み具バー1の長手方向の凹部18に形状噛み合い(form-locking)方式で係合する。図示されている断面は、編み具キャリア2の溝11を通っている。溝11は、溝壁10によって囲まれている。編み具3は、作業方向を向いた端部にフック状の編み手段8を有し、断面図の平面内にはない溝11内に配置されている。編み具3は、溝壁10を越えて高さ方向zに飛び出している。固定構成5は、複数のカバー4(断面図では、1つを除いてカバー4は見えていない)、複数のねじ6、および複数の穴開き円盤7を含む。ねじ6は、カバー4を、弾性挿入体9、編み具3、および編み具キャリア2とともに編み具バー1に対してクランプするクランプ力を発生させ、それらを所定の位置に保持する。
【0026】
図2は、図1に既に示されている要素の異なる図である。固定構成5は、同じカバーの幅bを有する3つのカバー4を含み、それぞれのカバー4は、2つのねじ6および2つの穴開き円盤7を有する。カバーの幅bと編み具キャリアの幅bとの比は0.5未満である。有利なものとして前述した幅比の他に、b/b>1を満たす幅比も考えられる。但し、この場合、カバー4および/または編み具キャリア2の数に制限が生じ、編み具キャリア2の最大数次第で、かつカバー4を巧みに配置した場合にのみ有利になる。カバー4は、x-y平面において平行四辺形の形状の断面を有し、そのカバーのフランク(flank)20は、フランク角19をなして作業方向yから離れるように傾斜している。編み具キャリアの幅bを有する3つの編み具キャリア2も示されている。3つの編み具キャリア2のうちの2つは不完全に示されており、図面では、これらの境界線が中断されていることによって示されている。図2の中央の編み具キャリア2の溝11は、1つを除いてすべて編み具3を収納している。図2の右側および左側の編み具キャリア2の溝11は空であり、すなわち編み具3は装着されていない。この図は説明のためのものである。動作可能な状態では、すべての溝11に編み具3を収納することができる。カバーの端部領域21内では、編み具3の1つが、図2に示された3つのカバー4のうちの2つのカバー4によって保持されていることが分かる。これらは中央のカバー4と左側のカバー4である。これらの2つのカバー4は、いずれも端部領域21内でこれらの編み具3のそれぞれのカバー支持面12と接触している。
【0027】
図3は、図2のA部の詳細を示している。2つの編み具キャリア2と、2つの編み具キャリア2の間のギャップsが示されている。図3の左側の編み具キャリア2には、5つの溝11が示されている。これらの溝11のうちの4つには編み具3が収納されており、1つの溝11は「空」である。両方の編み具キャリア2は、カバー4によってA部の領域に保持されている。溝11、すなわち編み具3の間には、内側突起の幅bIVを有する内側突起15が示されている。ギャップsに直接隣接する外側突起10は、外側突起の幅bAVを有する外側突起16である。外側突起の幅bAVの大きさと内側突起の幅bIVの大きさとの関係は、上述した式で与えられる。
【0028】
図4は、図1の断面図と同じ位置にある編み具バー1の断面図である。但し、カバー4はその作業位置ではなく待機位置にあり、カバー4の弾性挿入体9と編み具キャリア2の溝の底部24との間に保守用ギャップ14が存在している。溝の底部24は、溝11を高さ方向zに制限する。編み具3は、その最大突出高さ22とともに示されている。最大突出高さ22は、この実施形態では、保守用ギャップの高さ23よりも小さい。編み具3は、カバー4を編み具バー1から完全に取り外さなくとも、保守用ギャップ14を通じて編み具キャリア2から取り外したり、編み具キャリア2に挿入したりすることができる。
【符号の説明】
【0029】
1:編み具バー、2:編み具キャリア、3:編み具、4:カバー、5:固定構成、6:ねじ、7:穴開き円盤、8:編み手段、9:弾性挿入体、10:突起/溝壁、11:凹部/溝、12:カバー支持面、13:ギャップ、14:保守用ギャップ、15:内側突起/内側溝壁、16:外側突起/外側溝壁、17:長手方向の突出部、18:長手方向の凹部、19:カバー4のフランク角、20:カバーのフランク、21:カバーの端部領域、22:最大突出高さ、23:保守用ギャップ14の高さ、24:溝11の底部、x:編み具バー1の長手方向、y:作業方向、z:高さ方向、b:カバーの幅、b:編み具キャリアの幅、s:ギャップ幅、bAV:外側突起の幅/外側溝壁の幅、bAV:内側突起の幅/内側溝壁の幅
図1
図2
図3
図4