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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】振動低減機構および振動低減方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 31/08 20060101AFI20241217BHJP
   E02D 7/02 20060101ALI20241217BHJP
   E02D 7/18 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
E02D31/08
E02D7/02
E02D7/18
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021128453
(22)【出願日】2021-08-04
(65)【公開番号】P2023023178
(43)【公開日】2023-02-16
【審査請求日】2024-06-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】磯田 和彦
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-023516(JP,A)
【文献】特開2015-052216(JP,A)
【文献】特開2010-001668(JP,A)
【文献】特開2010-281407(JP,A)
【文献】特開2020-118216(JP,A)
【文献】米国特許第05173012(US,A)
【文献】中国実用新案第204803925(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 31/08
E02D 7/02
E02D 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動発生箇所と前記振動発生箇所から発生する振動波の伝播経路上にある振動障害予防箇所との間に設けられ、
支持地盤まで根入れされ周面部の周面摩擦力を低減した根入れ部と、地表上に位置する杭頭部と、を備える杭体と、
地表面において前記杭体の正面視両側に近接して配置され、鋼材で形成された第一架台部材と、前記第一架台部材の上部に配置され、鋼材で形成された第二架台部材と、を備える架台と、
前記第一架台部材の間において前記杭体と前記第二架台部材との間に配置され、上端が前記第二架台部材に連結され、下端が前記杭頭部に連結された回転慣性質量ダンパーと、
を備える、
振動低減機構。
【請求項2】
前記第二架台部材の上部に設けられ、前記回転慣性質量ダンパーに上載荷重を載荷する錘を備える、
請求項1に記載の振動低減機構。
【請求項3】
前記杭体と前記回転慣性質量ダンパーとは、直列されて前記伝播経路直交方向に複数設けられ、
前記第二架台部材は、それぞれの前記回転慣性質量ダンパーの上部に設けられ、
前記第一架台部材と前記第二架台部材とは、平面視井桁状に配設される、
請求項1または2に記載の振動低減機構。
【請求項4】
前記第一架台部材と前記第二架台部材とは、H形鋼で形成され、
前記第一架台部材の下側フランジは、地表面に接し、
前記第二架台部材の下側フランジは、前記第一架台部材の上側フランジと前記回転慣性質量ダンパーとにそれぞれ連結され、
前記第一架台部材と前記第二架台部材とは、それぞれのH形の形成方向が平面視で直交するように配設される、
請求項1から3のいずれか一項に記載の振動低減機構。
【請求項5】
前記杭体の周囲に地盤面補強層が形成され、
前記地盤面補強層の上部に前記第一架台部材が設けられる、
請求項1から4のいずれか一項に記載の振動低減機構。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の振動低減機構が振動発生箇所と前記振動発生箇所から発生する振動波の伝播経路上にある振動障害予防箇所との間に設けられていることを特徴とする、振動低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動低減機構および振動低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建設作業に伴って発生する作業音の振動数は主として4~16Hzの範囲とされており、振動数域が広範囲にわたるため、現場周辺での振動障害の発生と工事現場に対する周辺からの苦情等の要因となっている。解体工事や杭工事等においては、4~8Hzの低振動数による大きな振動が生じ、建設重機や工事用車両等の通行においては、8~16Hzの高振動数による振動が長時間に渡って生じる。
上記の振動の対策方法として、工事現場において建設重機等の走行路上に古タイヤや防振マットや鉄板等を敷く方法や、振動波の伝播経路上の地表に防振溝や鋼矢板(防振壁)等を設置する方法や、工事現場の周縁に盛土や土嚢等を積み上げる方法がとられている。
【0003】
しかしながら、古タイヤや防振マットや鉄板等を敷く方法は、移動する建設重機や工事用車両等による振動しか対応できず、工事等の作業による振動には対応できないという問題がある。また、防振溝を設置する方法は、10m程度の大規模な深さの防護溝を設けても高振動数域で平均5dB程度しか振動を低減できないという問題がある。鋼矢板を設置する方法は、鋼矢板の設置費用が高額であるため、工事が不経済となるという問題がある。また、盛土や土嚢等を積み上げる方法についても工費や設置スペースの問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-115476号公報
【文献】特許6785535号公報
【文献】特開2016-23516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方で、上記の従来の振動に対する対策方法における諸問題に対し、対策の実施に要するコストを抑え所望の振動低減効果を確保する方法として、振動発生源と振動を低減する対象物との間の所定の位置に錘や土嚢等を敷設する方法がある(例えば、特許文献1および2参照)。しかし、上記の方法は、11Hz以上の高振動数域で振動低減効果を発揮するものの、4~8Hzの低振動数域では振動低減効果がほとんど得られないという課題がある。
【0006】
また、上記課題で挙げられた低振動数域の振動を低減できる方法として、振動伝達経路上に杭支持された基礎を設け、その上にばね支持された錘を設置しTMD(Tuned Mass Damper)動吸振器とした装置を設ける方法がある(特許文献3参照)。この方法では、TMD動吸振器において固有振動数(ばねと錘の諸元)を低減対象の振動波の振動数と共振するように調整することで、任意の振動数で振動波の伝播をブロックする効果を発揮できる。しかし、上記の方法では、振動低減効果を大きくするためには錘の質量を大きくする必要があるという課題がある。また、1個の錘とそれを支持する複数のばねからなるTMD動吸振器により振動を低減できる対象振動数は1つしかないため、複数の振動数を低減するためには複数のTMD動吸振器を設置できる広い設置場所が必要になるという課題もある。また、錘の質量の調整やTMD動吸振器の設置場所を確保するためのコストが嵩み不経済な方法となるという課題もある。
【0007】
また、近年、制振装置として直動変位(軸方向変位)をボールねじにより回転に変換し錘を回転させて慣性抵抗力を得る回転慣性質量ダンパーが適用されている。回転慣性質量ダンパーは上記の機構により、コンパクトな構成ながら回転させる錘質量の数百倍~数千倍もの大きな慣性質量を付与することができるという特徴を有する。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので巨大な機構や多大なコストを要することなく、建設作業に伴い発生する振動を低減することができる振動低減機構および振動低減方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係る振動低減機構は、振動発生箇所と振動障害予防箇所との間に設けられ、支持地盤まで根入れされ周面部の周面摩擦力を低減した根入れ部と、地表上に位置する杭頭部と、を備える杭体と、地表面において前記杭体の正面視両側に近接して配置され、鋼材で形成された第一架台部材と、前記第一架台部材の上部に配置され、鋼材で形成された第二架台部材と、を備える架台と、前記第一架台部材の間において前記杭体と前記第二架台部材との間に配置され、上端が前記第二架台部材に連結され、下端が前記杭頭部に連結された回転慣性質量ダンパーと、を備える。
【0010】
上記の構成とすることで、架台と杭体と回転慣性質量ダンパーとからなり、巨大な錘や複数の振動数に対応するための機構を必要としない振動低減機構とすることができる。そのため、巨大な機構や多大なコストを要することなく、回転慣性質量ダンパーによる慣性質量と杭や架台による鉛直剛性とからなる振動系がTMD動吸振器と同様に機能するため、振動発生箇所から発生する振動に対する所望の振動低減効果を得ることが可能となる。
【0011】
また、本発明に係る振動低減機構において、前記第二架台部材の上部に設けられ、上載荷重を載荷する錘を備えてもよい。
【0012】
上記の構成とすることにより、従来技術にある地表に土嚢や錘を載荷する方法と同じ効果を発揮できる。そのため、振動低減機構は高振動数域の振動数に対する振動低減効果をより高めることができる。
【0013】
また、本発明に係る振動低減機構において、前記杭体と前記回転慣性質量ダンパーとは、直列されて伝播経路直交方向に複数設けられ、前記第二架台部材は、それぞれの前記回転慣性質量ダンパーの上部に設けられ、前記第一架台部材と前記第二架台部材とは、平面視井桁状に配設されてもよい。
【0014】
上記の構成とすることにより、振動低減機構は、帯状に複数の振動低減機構を設ける構成となり、隣接する杭体の軸剛性または慣性質量を調整することで、複数の異なる振動数に対して振動低減機構を同調させることができる。そのため、振動発生要因となる多くの建設機械や工事用車両を有し、広範な箇所で複数の作業が行われる工事現場等の大規模な振動発生箇所に対しても所望の振動低減効果を発揮することが可能となる。
また、振動低減機構は、1つの架台に複数の回転慣性質量ダンパーおよび杭体を設ける構成にすることで、従来のTMD動吸振器のように同調振動数毎に大きな錘やばね等を設ける必要がなくなる。そのため、軽量かつ大きな設置スペースが不要なコンパクトな構成とすることが可能となる。また、多大なコストを要することなく複数の振動数に対応した振動低減対策を実施することが可能となる。
【0015】
また、本発明に係る振動低減機構において、前記第一架台部材と前記第二架台部材とは、H形鋼で形成され、前記第一架台部材の下側フランジは、地表面に接し、前記第二架台部材の下側フランジは、前記第一架台部材の上側フランジと前記回転慣性質量ダンパーとにそれぞれ連結され、前記第一架台部材と前記第二架台部材とは、それぞれのH形の形成方向が平面視で直交するように配設されてもよい。
【0016】
上記の構成とすることで、第一架台部材および第二架台部材は、曲げ剛性や曲げ強度に対する断面効率を向上させることができる。そのため、錘による上載荷重や架台の上部に配置されている第二架台部材の重量による振動低減機構の破損を防止し、所望の振動低減効果を発揮することが可能となる。
【0017】
また、本発明に係る振動低減機構において、前記杭体の周囲に土間コンクリートやモルタル等による地盤面補強層が形成され、前記地盤面補強層の上部に前記第一架台部材が設けられてもよい。
【0018】
上記の構成とすることで、錘による上載荷重や振動低減機構の重量による振動低減機構が設置されている地盤の沈下を抑制することができ、振動低減機構の各部の配設位置のずれの発生等による振動低減効果の低下を防ぐことができる。
【0019】
また、本発明に係る振動低減方法は、上記のいずれかの振動低減機構が振動発生箇所と前記振動発生箇所から発生する振動波の伝播経路上にある振動障害予防箇所との間に設けられていることを特徴とする。
【0020】
上記の構成とすることにより、巨大な機構や多大なコストを要することのなく、所望の振動低減効果を得ることができる振動低減方法とすることが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、巨大な機構や多大なコストを要することなく、建設作業に伴い発生する振動を低減することができる振動低減機構および振動低減方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態による振動低減機構の一例における設置位置を示す説明図である。
図2】本発明の実施形態による振動低減機構の一例における斜視図である。
図3】本発明の実施形態による振動低減機構の一例における回転慣性質量ダンパーの正面視断面図である。
図4】本発明の実施形態による振動低減機構の一例を用いた振動低減モデルの説明図である。
図5】本発明の実施形態による振動低減機構の一例を用いた振動低減モデルによる第1の比較ケースの検討結果(加振振動数と応答倍率との関係)を示すグラフである。
図6】本発明の実施形態による振動低減機構の一例を用いた振動低減モデルによる第2の比較ケースの検討結果(加振振動数と応答倍率との関係)を示すグラフである。
図7】本発明の実施形態による振動低減機構の一例を用いた振動低減モデルによる第3の比較ケースの検討結果(加振振動数と応答倍率との関係)を示すグラフである。
図8】本発明の実施形態による振動低減機構の一例を用いた振動低減モデルによる第4の比較ケースの検討結果(加振振動数と応答倍率との関係)を示すグラフである。
図9】本発明の実施形態による振動低減機構の一例を用いた振動低減モデルによる第5の比較ケースの検討結果(加振振動数と応答倍率との関係)を示すグラフである。
図10】本発明の実施形態による振動低減機構の一例を用いた振動低減モデルによる第6の比較ケースの検討結果(加振振動数と応答倍率との関係)を示すグラフである。
図11】本発明の実施形態による振動低減機構の一例を用いた振動低減モデルによる各比較ケースの検討結果(加振振動数と振動低減レベルとの関係)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態による振動低減機構および振動低減方法について、図1乃至図11に基づいて説明する。
【0024】
図1に示すように、本実施形態による振動低減機構1は、建設機械や工事用車両等の走行や工事作業が実施されている工事現場である振動発生箇所2における加振により発生する振動波21の伝播方向上に設けられる。また、振動低減機構1は、振動発生箇所2と振動発生箇所2の近隣にある振動障害予防箇所11(以下、「住居11」とする)との間に設けられる。
【0025】
図2に示すように、振動低減機構1は、杭体3と、第一架台部材4と第二架台部材5とから構成される架台6と、回転慣性質量ダンパー7と、錘8と、地盤面補強層9とから構成される。
また、以下の説明において特に断りがない限り、本実施形態では図1乃至図3において複数の杭体3と回転慣性質量ダンパー7の配設方向を「X方向」、X方向に対して水平に直交する方向を「Y方向」、X方向およびY方向に直交する鉛直方向を「Z方向」とする。
【0026】
杭体3は、表層地盤91を貫通し支持地盤92に根入れされる根入れ部31と、地盤Gより上方の地表に位置する杭頭部32とを有する。そのため、杭体3は、振動低減機構1を設ける箇所において地表から支持地盤92に達する長さを有する。杭体3は鋼管杭やSC杭(鋼管巻き既製コンクリート杭)である。
根入れ部31は、外周部に周面摩擦力を低減する構成を有する。例えば、根入れ部31の外周面にアスファルトを塗布する構成や根入れ部31の外周部にさらに鋼管を設けた二重鋼管とする構成が挙げられる。
【0027】
第一架台部材4および第二架台部材5は、それぞれH形鋼により形成される。H形鋼の規格は、所望の振動低減機構1を形成することができれば限定されない。第一架台部材4は、下側フランジ41が地表面に接地し、ウェブ42はX-Z平面内に配置される。第一架台部材4,4は、杭体3に対してX方向両側に均等間隔で設けられる。
【0028】
第二架台部材5は、第一架台部材4のZ方向上部に設けられ、下側フランジ51が第一架台部材4,4の上側フランジ43に接地し、ウェブ52はY-Z平面内に配置される。そのため、第二架台部材5は、第一架台部材4,4間をY方向に架設され配置される。
【0029】
上記の構成により、第一架台部材4と第二架台部材5とは、平面視で直交するように配設される。
架台6は、上記の向きでZ方向に積載配置された第一架台部材4と第二架台部材5において、上側フランジ43と下側フランジ51とをボルト等の固定金具によって連結することにより形成される。
【0030】
回転慣性質量ダンパー7は、上端が下側フランジ51のZ方向下面にボルト等の固定金具によって連結され、下端が杭頭部32の上端にボルト等の固定金具によって連結されることにより、杭頭部32と下側フランジ51との間に配置される。
【0031】
図3に示すように、回転慣性質量ダンパー7は、平面視(回転軸方向)円形形状のボールねじ71とボールナット72と回転錘73とを備える。回転慣性質量ダンパー7は、直動変位(ダンパー両端の鉛直相対変位)をボールねじ71により回転に変換し、ボールナット72が回転軸を一定に保ちながら回転錘73を回転させる。回転慣性質量ダンパー7において、慣性質量をψとし、回転錘73の直径をD、質量をm、密度をρ、Z方向厚さをtとし、ボールねじ71のリード(ねじ山間隔)をL、相対変位をx、錘回転角をθ、回転慣性モーメントIθとすると、相対変位xを時間に対し2回微分した相対加速度(次式ではxの上に‥で示す)に対する装置負担力Pは次式となる。また、慣性質量ψは次式となる。
【0032】
【数1】
【0033】
【数2】
【0034】
上式において、回転錘73の直径Dはボールねじ71のリードLに対して十分大きく、慣性質量ψは回転錘73の直径Dの4乗に比例する。以上より、慣性質量ψは回転錘73の質量mに対して数百倍から数千倍もの大きな慣性質量を付与でき、杭の鉛直ばねと直列することで、小型でも大きな質量を有するTMD動吸振器として機能する。
【0035】
上記の杭体3と第二架台部材5と回転慣性質量ダンパー7は、第一架台部材4,4の間において同様の構成および配置でX方向に複数並列して設けられる。
本実施形態では、X方向に所定の間隔Xで杭体3が複数打設され、第二架台部材5が第一架台部材4,4間にY方向に複数架設され、それぞれの杭体3と第二架台部材5との間に回転慣性質量ダンパー7が配置される構成がX方向に連続して設けられる。上記の構成により、振動低減機構1はX方向に帯状の防振帯12を備える。また、第一架台部材4と第二架台部材5とは、平面視で直交するため、架台6はX方向に連続する平面視井桁状に形成される。
【0036】
錘8は、複数の土嚢81により構成される。土嚢81は、第二架台部材5の上側フランジ53上に積載される。錘8は、所望の振動低減機構1が形成されれば土嚢81による構成に限定されず、例えば上側フランジ53上に鋼板を積層した構成としてもよいし、コンクリートによる塊状体を載置した構成としてもよい。
【0037】
地盤面補強層9は、第一架台部材4と地盤Gとの間に数cm程度の厚さで形成される。そのため、振動低減機構1は地盤面補強層9上に設けられる。地盤面補強層9の材質は、振動低減機構1の自重により破壊されない圧縮強度を備える捨てコンクリートや均しモルタル等の公知のセメント系材料とする。
【0038】
第一架台部材4は、アンカーボルト等の打ち込み型の固定金具を下側フランジ41上から地盤面補強層9に打ち込むことで地盤面補強層9上に固定される。該固定金具は、地盤面補強層9を貫通し、地盤Gまで打設されてもよい。なお、第一架台部材4と地盤Gとの間に地盤面補強層9を形成しない構成の場合は、第一架台部材4は下側フランジ41上から地盤Gに該固定金具を打ち込むことによって地表面に固定されてもよい。
【0039】
次に、上述した実施形態による振動低減機構および振動低減方法の作用・効果について図1乃至図11に基づいて説明する。
【0040】
図1乃至図3に示すように、振動低減機構1は、杭体3と、第一架台部材4と第二架台部材5とから構成される架台6と、回転慣性質量ダンパー7と、錘8と、地盤面補強層9とを備える。杭体3と第二架台部材5と回転慣性質量ダンパー7は、第一架台部材4,4の間において同様の構成および配置によりX方向に所定の間隔Xで複数設けられ、振動低減機構1はX方向に帯状の防振帯12を備える。上記の構成を備える振動低減機構1を振動発生箇所2と振動波21の伝播方向上に位置する住居11との間に設ける。
【0041】
上記の実施形態による振動低減機構1について、図4に示す地盤Gを複数の質点に分解して単純化した振動低減モデル13を仮定し、振動波21に対する振動低減効果について検討する。
【0042】
図4において、1つの質点を10m×10m×10mの土塊Gと仮定する。質点はGからGまでの4点仮定し、質点GからGは水平方向に同一延長線上に位置する。質点Gは振動発生箇所2の位置であり、工事の作業や工事車両の通行等の外力の作用によって加振され、該加振によって生じた振動波21が振動低減モデル13上を伝播する。質点Gは振動低減機構1が設けられ、質点Gから水平方向に離隔Lだけ離れた位置とする。質点Gは質点Gから水平方向に離隔Lだけ離れた位置とする。質点Gは質点Gから水平方向に離隔Lだけ離れた位置とする。質点Gおよび質点Gは、振動低減機構1による振動低減効果の評価位置とする。土塊Gの質量Gは2,000tonとする。また、離隔Lは10mとする。
【0043】
各質点は、鉛直方向にばね定数k=1000kN/mmの地盤軸ばね93が仮定される。また、隣接する各質点間において水平方向にばね定数k=400kN/mmのせん断ばね94が仮定される。地盤軸ばね93は各質点が仮定される位置における軸剛性を示し、せん断ばね94は地盤Gにおけるせん断剛性を示す。
【0044】
質点Gは、質点Gに設けられる地盤軸ばね93に並列配置される振動低減機構モデル14が設けられる。振動低減機構モデル14は、錘質点82と、慣性質量ψ(ton)、減衰定数c(kN/kine)の回転慣性質量ダンパーモデル74と、軸剛性kを有する架台軸ばね61と、軸剛性kを有する杭体軸ばね33とを備える。回転慣性質量ダンパーモデル74および錘質点82と、架台軸ばね61とは並列配置される。また、杭体軸ばね33の軸剛性(ばね定数)は、杭体軸ばね33の杭頭に荷重を載荷させた際の該荷重を該荷重による沈下量で除した値とする。
【0045】
本実施形態の慣性質量を用いた振動低減機構の検討において、錘質点82の質量と架台軸ばね61の架台剛性は無視する。つまり、質点Gの質量をG、ばね定数kを∞とおく。そのため、振動低減モデル13は、錘質点82と回転慣性質量ダンパーモデル74と杭体軸ばね33とが鉛直方向に直列したTMD動吸振器機構を形成する。杭体軸ばね33は、支持地盤92に仮定される固定端95まで延び、振動波21による地盤変位も含めて評価する。なお、複数の振動低減機構を組み合わせたケースの検討においては、従来技術の地表に土嚢の錘を設置した場合についても併せて評価する。
【0046】
振動低減モデル13では、質点Gにおける慣性質量ψ(ton)、減衰定数c(kN/kine)、軸剛性k(kN/mm)を次表とした実施例1から4について振動低減機構モデル14の振動低減効果を検討する。
【0047】
【表1】
【0048】
振動低減モデル13による検討では、質点Gを直動方向に加速度加振したときの質点G、G、Gの応答を振動発生箇所2における振動障害の原因となり得る振動数範囲と仮定する加振振動数15Hzまでの振動数域で評価する。質点Gにおける加振振幅に対する質点G(i=2~4)の加速度振幅の比を質点iにおける伝達関数の応答倍率M(i=2~4)として次式で算出し、質点Gに設けた振動低減機構モデル14を通過し、質点G、Gに伝達される振動波21について検討する。
【0049】
【数3】
【0050】
また、振動低減モデル13による検討では、質点Gおける振動低減機構モデル14の構成が異なる6種類のケースにおいて振動波21による加振振動数fとケース1からケース6における質点iの応答倍率M(i=2~4)との関係を図5乃至図10に示し、各ケースの構成による振動低減効果について検討する。
【0051】
【表2】
【0052】
図5に示すように、振動低減機構がないケース1では全ての質点で振動波21による地盤Gの卓越振動数となる4Hz近傍において振動波21との共振により応答倍率(振幅)Mが増大しているため、低振動数域における振動障害が生じる可能性が高い。
【0053】
図6に示すように、ケース2では、実施例1の構成を備えた振動低減機構モデル14を設けることにより、全ての質点の応答倍率Mにおいてケース1における地盤Gの卓越振動数である4Hz近傍の共振特性がケース1と比較して改善される。そのため、ケース2の振動低減機構モデル14を設けることにより、振動波21による低振動数域の振動を低減することが可能となる。
【0054】
図7に示すように、ケース3では、実施例1、2の構成を備えた振動低減機構モデル14を設けることにより、全ての質点の応答倍率Mにおいて5Hz以上の振動はほぼ伝達されなくなる。そのため、ケース2の振動低減機構モデル14のように杭体3と回転慣性質量ダンパー7が複数設けられる構成により、広範囲の振動数域の振動に対して振動低減効果を発揮することが可能となる。
【0055】
ケース4では、振動低減機構モデル14を設けず、従来技術と同様に質点Gに土塊Gの質量Gの半分の質量である1000tonの錘(土嚢)を追加する。図8に示すように、上記の構成により、全ての質点の応答倍率Mにおいて、3.5Hzおよび5Hz近傍の共振特性は改善されないが、5.5Hz以上の振動はほぼ伝達されなくなる。以上より、振動低減機構1を設けない錘のみによる振動低減機構についても高振動数域においては一定の振動低減効果を有するといえる。
【0056】
ケース5では、実施例1の振動低減機構モデル14とケース4に適用した土塊Gの質量Gの半分の質量である1000tonの錘(土嚢)とを質点Gに設ける。図9に示すように、上記の構成により、全ての質点の応答倍率Mにおいて、5.5Hz以上の振動はほぼ伝達されなくなる。以上より、振動低減機構モデル14と簡易な構成の錘とを併用する構成によっても広範囲の振動数域の振動に対して振動低減低減効果を発揮することが可能となる。
【0057】
ケース6では、実施例2-4の振動低減機構モデル14を振動波21に対して帯状に対向するように設ける。図10に示すように、上記の構成により、全ての質点の応答倍率Mにおいて5Hz以上の振動はほぼ伝達されなくなる。また、6種類の検討ケースの中で最も応答倍率の挙動が小さくなる。そのため、振動低減機構モデル14の設置数を増やし、伝播方向に対して帯状に形成することにより、広範囲の振動数域の振動に対してより大きな振動低減効果を発揮することが可能となる。
【0058】
ケース2からケース6の振動低減効果を振動低減レベル(振動低減機構がないケース1に対する応答倍率)で比較する。ケースj(j=2~6)におけるケース1に対する振動低減レベルη(j=2~6)は次式により算出する。η>0なら該質点においてケース1よりも振動が増加し、η<0であれば該質点においてケース1よりも振動が減少したことを示す。図5乃至図10より、本実施形態における質点G、G、Gの加振振動数の変化に対する応答倍率の挙動はほぼ同様となるため、ηの代表値として質点Gの各ケースおよび各加振振動数動数に対するηを比較する。
【0059】
【数4】
【0060】
図11に示すように、ケース2およびケース3は、地盤Gの卓越振動数4Hzでの振動低減効果は約-31dB(ケース1の約1/30に低減)となるため低振動数域における振動低減効果は大きいが、高振動数域における振動低減効果はほとんどない。
【0061】
また、ケース4は、高振動数域において約-3dBの振動低減効果があるが、低振動数域における振動低減効果はケース2、3と比較すると小さく、低振動数側にシフトした地盤Gの卓越振動数の近傍では振動波21との共振により振動が増加する。
【0062】
また、ケース5は、実施例1の振動低減機構モデル14の設置により、ケース4で見られた低振動数域における共振特性が大きく改善され、低振動数域においてもケース1、ケース2と同等の振動低減効果が得られる。また、3.5Hz以上の全振動数域においてケース1、ケース2よりも高い振動低減効果が得られる。
【0063】
また、ケース6は、ケース4、ケース5のような錘を載荷させる構成を備えなくても、実施例2-4の振動低減機構モデル14を設けることで、慣性質量ψを増大させ、増大させた慣性質量ψが錘と同様に作用することにより、全振動数域においてケース5と同等以上の振動低減効果を発揮することが可能となる。
【0064】
以上より、ケース5のように回転慣性質量ダンパー7の慣性質量と杭体3の軸剛性から形成したTMD動吸振器機構と錘8を載荷させる構成とを併用した振動低減機構により、低振動数域で同調効果を発揮しつつ、高振動数域で振動低減することができる。つまり、杭体3の軸剛性、回転慣性質量ダンパー7の慣性質量の値を調整することで、回転慣性質量ダンパー7の固有振動数を加振振動数や低振動数域である地盤Gの卓越振動数に合わせる(同調させる)。TMD動吸振器機構の固有振動数fは、杭体3の軸剛性をk、回転慣性質量ダンパー7の慣性質量をψとすると、次式で算出される。
この機構により、振動低減機構1はTMD動吸振器として機能し、同調振動数の近傍の振動を大きく低減させることができる。
【0065】
【数5】
【0066】
また、ケース6のように複数の帯状のTMD機構によって杭体3の軸剛性を高めることにより、回転慣性質量ダンパー7の慣性質量が錘8の質量に加算されたときと同様の振動低減効果を発揮する。該慣性質量は、回転慣性質量ダンパー7内の回転錘73の質量の数百倍から数千倍になる。そのため、軽量な回転慣性質量ダンパー7の設置により巨大な錘8の質量を付加したのと同等の振動低減効果が得られることとなる。上記の構成により、広範囲の振動数域にわたり所望の振動低減効果を発揮することができる。
【0067】
また、ケース6のように振動低減機構1を帯状の防振帯12として構成することにより、1つの架台6に帯状に設けられる複数の杭体3の軸剛性と複数の回転慣性質量ダンパー7の慣性質量を調整することで、回転慣性質量ダンパー7を複数の異なる振動数に対して同調させることができる。そのため、1つの架台6と錘8を複数の回転慣性質量ダンパー7で共有化できる。上記の機構により、従来のTMD動吸振器のように同調振動数毎に錘とばねによる振動低減機構を設ける必要がなく、振動低減機構1の錘は慣性質量ダンパーの小さな質量で代替でき、ばねも杭の軸剛性を用いることで軽量かつコンパクトな機構となる。また、振動低減機構1は、巨大な機構や広い設置場所を要することなく所望の振動低減効果を発揮できる構成とすることができる。
【0068】
第一架台部材4および第二架台部材5は、H型鋼により形成されることで、曲げ剛性や曲げ強度に対する断面効率を向上させることができる。そのため、振動低減機構1は、錘8による上載荷重や架台6の上部に配置されている第二架台部材5の重量による破損を防止することが可能となる。
【0069】
地盤面補強層9は、架台6(第一架台部材4)と地盤Gとの間に設けられることで、錘8による上載荷重や振動低減機構1の重量により振動低減機構1が設置されている地盤Gの沈下を抑制することができる。そのため、振動低減機構1の各部位の配設位置のずれの発生等による振動低減効果の低下を防ぐことが可能となる。
【0070】
以上、本発明による振動低減機構および振動低減方法の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記の実施形態では、図1および図2に示すように振動低減機構1は、X方向に防振帯12を備えるが、振動波21は全方向に伝播する波とされる。そのため、例えば振動障害予防箇所が振動発生箇所2の周囲に位置する場合は、振動発生箇所2を包囲するように防振帯12を形成した振動低減機構1としてもよい。
【0071】
また、上記の本実施形態では、杭体3と、回転慣性質量ダンパー7と、架台6と、錘8とがZ方向に直列配置されているが、回転慣性質量ダンパー7とZ方向並列にオイルダンパー等の粘性減衰装置を付加して減衰係数を付加する構成としてもよいし、回転慣性質量ダンパー7を慣性質量と粘性減衰を同時に付与できる慣性コマとして振動低減機構1を構成してもよい。また、杭の軸剛性が過大な場合は、慣性質量ダンパーに付加ばねk´を直列して追加し、杭の軸剛性と付加ばねとの直列ばね剛性をkとしてもよい。
【符号の説明】
【0072】
1 振動低減機構
2 振動発生箇所
3 杭体
4 第一架台部材
5 第二架台部材
6 架台
7 回転慣性質量ダンパー
8 錘
9 地盤面補強層
11 振動障害予防箇所
31 根入れ部
32 杭頭部
41 下側フランジ
53 上側フランジ
51 下側フランジ
92 支持地盤
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11