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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】劣化診断システム
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20241217BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021131603
(22)【出願日】2021-08-12
(65)【公開番号】P2023026027
(43)【公開日】2023-02-24
【審査請求日】2024-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000233826
【氏名又は名称】能美防災株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100147566
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100161171
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 潤一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100188514
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】井関 晃広
(72)【発明者】
【氏名】辻本 圭亮
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 義英
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-029390(JP,A)
【文献】特開2020-084419(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物に設置され、前記構造物の劣化診断を行うための物理量を検出するセンサヘッドと、
前記センサヘッドにより検出された前記物理量に基づいて前記構造物の劣化診断を行う診断部と
を備え、
前記構造物は、前記構造物の構造体における四分位点よりも外側に設けられた支承により支持されており、
前記センサヘッドは、前記四分位点と前記支承との間に設置され、
前記診断部は、
前記センサヘッドにより検出された前記物理量から、前記構造物の劣化診断の第1の指標となる前記構造物の傾き情報を特徴量として算出し、
算出した前記傾き情報を時間経過とともに順次、記憶部に時系列データとして記憶させ、
前記記憶部に順次記憶された前記時系列データの中から過去の特徴量を抽出し、前記過去の特徴量と現在の特徴量との間にあらかじめ設定した有意差が存在する場合には、1つのセンサヘッドの検出結果から算出された前記傾き情報の時間変化から前記構造物に劣化が発生していると判断することができる
劣化診断システム。
【請求項2】
前記センサヘッドは、
前記構造物の中央から一方の位置にある第1の四分位点と第1の支承との間に設置された第1のセンサヘッドと、
前記構造物の中央から他方の位置にある第2の四分位点と第2の支承との間に設置された第2のセンサヘッドと
で構成され、
前記診断部は、
前記第1のセンサヘッドにより検出された物理量から、前記特徴量の1つである第1の傾き情報を算出し、前記第1の傾き情報を時間経過とともに順次、前記記憶部に第1の時系列データとして記憶させ、
前記第2のセンサヘッドにより検出された物理量から、前記特徴量の1つである第2の傾き情報を算出し、前記第2の傾き情報を時間経過とともに順次、前記記憶部に第2の時系列データとして記憶させ、
前記第1の時系列データまたは前記第2の時系列データに基づいて前記構造物に劣化が発生していると判断した場合には、前記第1のセンサヘッドおよび前記第2のセンサヘッドの検出結果から算出された2つのセンサヘッドのそれぞれの前記傾き情報の時間変化の比較から前記劣化の発生位置を特定することができる
請求項1に記載の劣化診断システム。
【請求項3】
前記センサヘッドは、前記物理量として加速度を検出し、
前記診断部は、
前記センサヘッドにより検出された物理量である前記加速度から、前記構造物の劣化診断の第2の指標となる前記構造物の固有振動情報を前記特徴量としてさらに算出し、
前記傾き情報に基づく構造物の劣化診断により前記構造物に劣化が発生していないと判断した場合には、前記固有振動情報に基づく構造物の劣化診断により前記構造物に劣化が発生しているか否かを判断する
請求項1または2に記載の劣化診断システム。
【請求項4】
前記センサヘッドは、前記物理量として加速度を検出し、
前記診断部は、
前記センサヘッドにより検出された物理量である前記加速度から、前記構造物の劣化診断の第2の指標となる前記構造物の固有振動情報を前記特徴量としてさらに算出し、
前記固有振動情報に基づく構造物の劣化診断により前記構造物に劣化が発生していないと判断した場合には、前記傾き情報に基づく構造物の劣化診断により前記構造物に劣化が発生しているか否かを判断する
請求項1または2に記載の劣化診断システム。
【請求項5】
前記診断部は、
前記センサヘッドによる前記物理量の検出中における気温データを取得し、
取得した前記気温データに応じてあらかじめ設定された補正係数を用いて前記特徴量を補正することで前記現在の特徴量を算出し、算出した前記現在の特徴量を時間経過とともに順次、記憶部に記憶させることで前記時系列データを生成する
請求項1から4のいずれか1項に記載の劣化診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、橋梁等の構造物の劣化を診断する劣化診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
構造物の異常を検知する従来技術として、異常を検知するための特徴量として固有振動数を用いる構造物異常検知システムがある(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1に係るシステムは、固有振動数の振動強度などについて、複数位置間の関係性を評価して、異常を検知している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2017/064855号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
特許文献1では、固有振動の変化に基づいて構造物の劣化を検知することができる。しかしながら、振動形状の節付近で劣化が発生した場合には、固有振動数への影響は小さく、固有振動数の変化が現れにくくなってしまう。
【0005】
従って、このような場合には固有振動の変化に基づいて高精度に劣化を検知できない問題がある。また、このような問題を回避するためには、大量のセンサが必要となり、製造コストの上昇を招いてしまう。
【0006】
本開示は、前記のような課題を解決するためになされたものであり、製造コストの上昇を抑制するとともに、固有振動の変化が現れにくい箇所の劣化を高精度に検知することのできる劣化診断システムを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る劣化診断システムは、構造物に設置され、構造物の劣化診断を行うための物理量を検出するセンサヘッドと、センサヘッドにより検出された物理量に基づいて構造物の劣化診断を行う診断部とを備え、構造物は、構造物の構造体における四分位点よりも外側に設けられた支承により支持されており、センサヘッドは、四分位点と支承との間に設置され、診断部は、センサヘッドにより検出された物理量から、構造物の劣化診断の第1の指標となる構造物の傾き情報を特徴量として算出し、算出した傾き情報を時間経過とともに順次、記憶部に時系列データとして記憶させ、記憶部に順次記憶された時系列データの中から過去の特徴量を抽出し、過去の特徴量と現在の特徴量との間にあらかじめ設定した有意差が存在する場合には、1つのセンサヘッドの検出結果から算出された傾き情報の時間変化から構造物に劣化が発生していると判断することができるものである。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、製造コストの上昇を抑制するとともに、固有振動の変化が現れにくい箇所の劣化を高精度に検知することのできる劣化診断システムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の実施の形態1に係る劣化診断システムで使用されるセンサヘッドの設置位置を示した説明図である。
図2】本開示の実施の形態1において、橋梁の中央付近で亀裂による損傷が発生した場合の傾きの変化を示した説明図である。
図3】本開示の実施の形態1に係る劣化診断システムの構成図である。
図4A】本開示の実施の形態1において、橋梁の中央付近で亀裂による損傷が発生した際の傾き情報の時間変化を示した説明図である。
図4B】本開示の実施の形態1において、橋梁の四分位点付近で亀裂による損傷が発生した際の傾き情報の時間変化を示した説明図である。
図4C】本開示の実施の形態1において、橋梁の支承付近で亀裂による損傷が発生した際の傾き情報の時間変化を示した説明図である。
図5A】本開示の実施の形態2において、橋梁の中央付近で亀裂による損傷が発生した際の固有振動情報の時間変化を示した説明図である。
図5B】本開示の実施の形態2において、橋梁の四分位点付近で亀裂による損傷が発生した際の固有振動情報の時間変化を示した説明図である。
図5C】本開示の実施の形態2において、橋梁の支承付近で亀裂による損傷が発生した際の固有振動情報の時間変化を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の劣化診断システムの好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
本開示は、構造物の構造体における四分位点よりも外側に設けられた支承により支持された構造物を劣化診断対象とし、四分位点と支承との間にセンサヘッドを設置し、センサヘッドにより検出された物理量から、構造物の劣化診断の指標となる構造物の傾き情報を特徴量として算出し、傾き情報の時間変化から構造物の劣化診断を行うことを技術的特徴とするものである。
【0011】
実施の形態1.
本実施の形態1では、構造物の構造体にセンサヘッドを設ける場合の具体例として、構造物に相当する橋梁の主桁に設置された2つのセンサヘッドによる測定結果の比較に基づいて、構造物の劣化診断を行う場合について説明する。
【0012】
なお、詳細は後述するが、センサヘッドの数は、2つ以外でもよい。1つのセンサヘッドを設けることで、劣化が発生しているか否かを判断することができ、2つ以上のセンサヘッドを設けることで、さらに劣化発生位置を特定することができることとなる。
【0013】
図1は、本開示の実施の形態1に係る劣化診断システムで使用されるセンサヘッドの設置位置を示した説明図である。構造物に相当する橋梁10は、橋梁10の構造体における四分位点11(1)よりも外側に設けられた支承12(1)、および四分位点11(2)よりも外側に設けられた支承12(2)により支持されている。
【0014】
センサヘッド20(1)、20(2)のそれぞれは、橋梁10に設置され、橋梁10の劣化診断を行うための物理量を検出する。ここで、センサヘッド20(1)は、四分位点11(1)と支承12(1)との間に設置され、センサヘッド20(2)は、四分位点11(2)と支承12(2)との間に設置されている。
【0015】
つまり、センサヘッド20(1)およびセンサヘッド20(2)は、橋梁10の構造体における中央からみて四分位点を越えた外側である支承12(1)および支承12(2)側に設置されている。
【0016】
構造物は、弾力性を持つため、その自重でたわみが生じる。支承間で劣化や損傷が発生すると、そのたわみは大きくなる。ところで、橋梁10のような構造物では、損傷によってたわみが大きくなる際に生じる、構造物の傾きの変化は、その弾力性ゆえに、支承間で一定ではなく、構造物の位置によって異なる。
【0017】
図2は、本開示の実施の形態1において、橋梁10の中央付近で亀裂1による損傷が発生した場合の傾きの変化を示した説明図である。図2(a)は、中央付近で橋梁10が完全に分断されるような損傷が発生した状態を示している。このような状態は、劣化の継続的な進行や、大きな地震や災害などの発生により、生じる。
【0018】
この場合、構造物の修復コストは大きい。一方、図2(b)は、橋梁10が完全に分断されるような損傷に至る前の損傷の初期状態を示している。これは腐食などにより徐々に劣化が進行することで発生する状態である。この段階で構造物を修復する場合、その修復コストは分断後の修復コストよりもかなり小さくて済むため、初期段階で劣化を検知することは大きなメリットがある。
【0019】
図2(a)のような構造物が支承間で分断されている状態では、傾きの変化は、損傷部に近いほど大きくなる傾向にある。一方、完全に構造物が分断されるような損傷状態に至る前の図2(b)に示したような損傷状態では、橋梁10の中心部の傾きの変化は小さく、支承12(1)、12(2)付近の傾きに大きな変化が生じる。ゆえに、中心部にセンサヘッドを設置したとしても、徐々に進行するような劣化を、傾きの変化によって捉えることは困難となる。
【0020】
一方、上記位置にセンサヘッド20(1)およびセンサヘッド20(2)を設置することで、橋梁10のような構造物において損傷の初期段階で、構造物の損傷を検知することができる。つまり、構造物の損傷をより高感度に検知することができる。
【0021】
また、劣化が中心部ではなく、支承間の亀裂などの生じやすい四分位点などで発生しても、傾きの変化は同様に、センサヘッド20(1)およびセンサヘッド20(2)、もしくはそれらよりも支承部に近い位置の方が、中心部よりも、大きくなる。
【0022】
なお、図2(a)および図2(b)では、橋梁10の中央付近で亀裂1が発生した状態を模式的に示しているが、図1では、四分位点11(1)と支承12(1)との間において、亀裂1による損傷が発生して劣化が進行している状態を模式的に示している。
【0023】
次に、図3を用いて、図1の説明図に対応させた、本実施の形態1に係る劣化診断システムの具体的な構成について説明する。図3は、本開示の実施の形態1に係る劣化診断システムの構成図である。本実施の形態1における劣化診断システムは、2つのセンサヘッド20(1)、20(2)と、診断部30と、記憶部40とを備えて構成されている。
【0024】
診断部30は、センサヘッド20(1)、20(2)により検出された物理量に基づいて、構造物である橋梁10の劣化診断を行うコントローラに相当する。診断部30は、1以上のセンサヘッド20により検出された物理量から、橋梁の劣化診断の第1の指標となる構造物の傾き情報を特徴量として算出する。
【0025】
次に、診断部30は、算出した傾き情報を時間経過とともに順次、記憶部40に時系列データとして記憶させる。さらに、診断部30は、記憶部40に順次記憶された時系列データの中から過去の特徴量を抽出し、過去の特徴量と現在の特徴量との間にあらかじめ設定した有意差が存在するか否かを判断する。そして、診断部30は、有意差が存在すると判断した場合には、橋梁10に劣化が発生していると判断する。
【0026】
特に、本実施の形態1では、特徴量として構造物の傾き情報を用いている。そこで、傾き情報に基づく劣化診断手法について、図4A図4Cに示した具体例を用いて、詳細に説明する。
【0027】
図4Aは、本開示の実施の形態1において、橋梁10の中央付近で亀裂1による損傷が発生した際の傾き情報の時間変化を示した説明図である。図4A中の折れ線グラフは、損傷の進行を示す時間経過を横軸とし、傾きを縦軸として、損傷の進行に伴う傾きの時間変化を時系列データとして示している。
【0028】
診断部30は、センサヘッド20(1)により検出された物理量から、特徴量の1つである第1の傾き情報を算出し、第1の傾き情報を時間経過とともに順次、記憶部40に第1の時系列データとして記憶させる。図4Aの折れ線グラフにおいて、点線上で▲のプロットにより示された各データが、第1の時系列データに相当する。
【0029】
同様に、診断部30は、センサヘッド20(2)により検出された物理量から、特徴量の1つである第2の傾き情報を算出し、第2の傾き情報を時間経過とともに順次、記憶部40に第2の時系列データとして記憶させる。図4Aの折れ線グラフにおいて、実線上で●のプロットにより示された各データが、第2の時系列データに相当する。
【0030】
橋梁10の中央付近で亀裂1による損傷が発生した場合には、図4Aで示したように、第1の時系列データによる傾きの時間変化と、第2の時系列データによる傾きの時間変化とが、正負で逆であり、かつ、時間経過とともに傾きの絶対値が同程度で変化していくことが分かる。
【0031】
従って、診断部30は、センサヘッド20(1)により検出された物理量に基づいて算出した第1の時系列データ、あるいはセンサヘッド20(2)により検出された物理量に基づいて算出した第2の時系列データのいずれか1つに基づいて、過去の特徴量である傾きと、現在の特徴量である傾きとの間にあらかじめ設定した有意差が存在する場合に劣化が発生していると判断することができる。
【0032】
例えば、図4Aにおいて、過去の時点を横軸の0の時刻とし、現在の時点を横軸の6の時刻とした場合には、診断部30は、それぞれの時刻における傾きの差分が、あらかじめ設定した有意差以上となった場合に、亀裂1が発生したと判断できる。
【0033】
さらに、診断部30は、センサヘッド20(1)により検出された物理量に基づいて算出した第1の時系列データ、およびセンサヘッド20(2)により検出された物理量に基づいて算出した第2の時系列データの両方の時間変化を比較し、正負で逆であり、時間経過とともに傾きの絶対値が同程度で変化していると判断した場合には、橋梁10の中央付近で亀裂1による損傷が発生したとして、劣化の発生位置を特定することができる。
【0034】
図4Bは、本開示の実施の形態1において、橋梁10の四分位点11(1)付近で亀裂1による損傷が発生した際の傾き情報の時間変化を示した説明図である。図4B中の折れ線グラフは、図4Aと同様に、損傷の進行を示す時間経過を横軸とし、傾きを縦軸として、損傷の進行に伴う傾きの時間変化を時系列データとして示している。
【0035】
診断部30は、センサヘッド20(1)により検出された物理量から、特徴量の1つである第1の傾き情報を算出し、第1の傾き情報を時間経過とともに順次、記憶部40に第1の時系列データとして記憶させる。図4Bの折れ線グラフにおいて、点線上で▲のプロットにより示された各データが、第1の時系列データに相当する。
【0036】
同様に、診断部30は、センサヘッド20(2)により検出された物理量から、特徴量の1つである第2の傾き情報を算出し、第1の傾き情報を時間経過とともに順次、記憶部40に第2の時系列データとして記憶させる。図4Bの折れ線グラフにおいて、実線上で●のプロットにより示された各データが、第2の時系列データに相当する。
【0037】
橋梁10の四分位点11(1)付近で亀裂1による損傷が発生した場合には、図4Bで示したように、第1の時系列データによる傾きの時間変化と、第2の時系列データによる傾きの時間変化とが、正負で逆であり、かつ、異なる度合いで時間経過とともに傾きの絶対値が変化していくことが分かる。
【0038】
より具体的には、図4Bでは、四分位点11(1)付近で亀裂1が発生しているため、センサヘッド20(1)による第1の時系列データとしての傾きの時間変化の方が、センサヘッド20(2)による第2の時系列データとしての傾きの時間変化よりも大きくなっている。
【0039】
従って、診断部30は、センサヘッド20(1)により検出された物理量に基づいて算出した第1の時系列データ、あるいはセンサヘッド20(2)により検出された物理量に基づいて算出した第2の時系列データのいずれか1つに基づいて、過去の特徴量である傾きと、現在の特徴量である傾きとの間にあらかじめ設定した有意差が存在する場合に劣化が発生していると判断することができる。
【0040】
例えば、図4Bにおいて、過去の時点を横軸の0の時刻とし、現在の時点を横軸の6の時刻とした場合には、診断部30は、それぞれの時刻における傾きの差分が、あらかじめ設定した有意差以上となった場合に、亀裂1が発生したと判断できる。
【0041】
さらに、診断部30は、センサヘッド20(1)により検出された物理量に基づいて算出した第1の時系列データ、およびセンサヘッド20(2)により検出された物理量に基づいて算出した第2の時系列データの両方の時間変化を比較し、正負で逆であり、かつ、時間経過とともに傾きの絶対値が異なる度合いで変化していると判断した場合には、より大きな時間変化を示すセンサヘッドが設置された方の四分位点付近で亀裂1による損傷が発生したとして、劣化の発生位置を特定することができる。
【0042】
図4Cは、本開示の実施の形態1において、橋梁10の支承付近で亀裂1による損傷が発生した際の傾き情報の時間変化を示した説明図である。図4C中の折れ線グラフは、図4A図4Bと同様に、損傷の進行を示す時間経過を横軸とし、傾きを縦軸として、損傷の進行に伴う傾きの時間変化を時系列データとして示している。
【0043】
診断部30は、センサヘッド20(1)により検出された物理量から、特徴量の1つである第1の傾き情報を算出し、第1の傾き情報を時間経過とともに順次、記憶部40に第1の時系列データとして記憶させる。図4Cの折れ線グラフにおいて、点線上で▲のプロットにより示された各データが、第1の時系列データに相当する。
【0044】
同様に、診断部30は、センサヘッド20(2)により検出された物理量から、特徴量の1つである第2の傾き情報を算出し、第2の傾き情報を時間経過とともに順次、記憶部40に第2の時系列データとして記憶させる。図4Cの折れ線グラフにおいて、実線上で●のプロットにより示された各データが、第2の時系列データに相当する。
【0045】
橋梁10の支承12(1)付近で亀裂1による損傷が発生した場合には、図4Cで示したように、第1の時系列データによる傾きの時間変化と、第2の時系列データによる傾きの時間変化とが、正負で同じ方向に変化していくことが分かる。
【0046】
より具体的には、図4Cでは、四分位点11(1)よりも外側の支承12(1)付近で亀裂1が発生しているため、センサヘッド20(1)による第1の時系列データとしての傾きの時間変化と、センサヘッド20(2)による第2の時系列データとしての傾きの時間変化とが、ともに正の方向に増加する傾向を示している。さらに、亀裂1に近いセンサヘッド20(1)による第1の時系列データの時間変化の方が、センサヘッド20(2)による第2の時系列データの時間変化よりも小さくなる傾向がある。
【0047】
従って、診断部30は、センサヘッド20(1)により検出された物理量に基づいて算出した第1の時系列データ、あるいはセンサヘッド20(2)により検出された物理量に基づいて算出した第2の時系列データのいずれか1つに基づいて、過去の特徴量である傾きと、現在の特徴量である傾きとの間にあらかじめ設定した有意差が存在する場合に劣化が発生していると判断することができる。
【0048】
例えば、図4Cにおいて、過去の時点を横軸の0の時刻とし、現在の時点を横軸の6の時刻とした場合には、診断部30は、それぞれの時刻における傾きの差分が、あらかじめ設定した有意差以上となった場合に、亀裂1が発生したと判断できる。
【0049】
さらに、診断部30は、センサヘッド20(1)により検出された物理量に基づいて算出した第1の時系列データ、およびセンサヘッド20(2)により検出された物理量に基づいて算出した第2の時系列データの両方の時間変化を比較し、正負の方向がともに同じであり、かつ、時間経過とともに傾きの絶対値が異なる度合いで変化していると判断した場合には、より小さな時間変化を示すセンサヘッドが設置された方の支承付近で亀裂1による損傷が発生したとして、劣化の発生位置を特定することができる。
【0050】
なお、センサヘッド20(1)とセンサヘッド20(2)は、橋脚10の中心から、左右均等の距離で配置されることが望ましい。ただし、センサヘッド20(1)が四分位点11(1)と支承12(1)との間に設置され、センサヘッド20(2)が四分位点11(2)と支承12(2)との間に設置されていれば、左右均等に配置されていないとしても、上述した劣化の発生位置を特定できる効果を得ることができる。
【0051】
以上のように、実施の形態1によれば、四分位点と支承との間にセンサヘッドを設置し、センサヘッドにより検出された物理量から、構造物の劣化診断の指標となる構造物の傾き情報を特徴量として算出し、傾き情報の時間変化から構造物の劣化診断を行う構成を備えている。この結果、特に、支承付近で発生した劣化を高精度に検知することのできる劣化診断システムを実現できる。
【0052】
特に、支承付近で発生した劣化に関して、劣化診断の指標値として構造物に関する振幅、位相、固有振動などを用いた場合には、時間経過に伴う指標値の変化が出にくく、高精度な劣化検知が困難であった。これに対して、センサヘッドを四分位点と支承との間に配置し、かつ、劣化診断の指標値として構造物の傾き情報を用いることで、支承付近で発生した劣化を高精度に検知することが可能となる。
【0053】
実施の形態2.
先の実施の形態1では、特徴量として傾き情報を用いる場合について説明した。これに対して、本実施の形態2では、劣化診断の第1の指標となる構造物の傾き情報に加え、劣化診断の第2の指標となる構造物の固有振動情報をさらに算出し、傾き情報と固有振動情報とを併用した劣化診断を行う場合について説明する。
【0054】
まず、固有振動情報に基づく劣化診断手法について、図5A図5Cに示した具体例を用いて、詳細に説明する。なお、本実施の形体2で使用されるセンサヘッド20(1)、20(2)のそれぞれは、物理量として加速度を検出できるものとする。また、以下においては、センサヘッド20(1)の検出結果を用いる場合について説明する。
【0055】
図5Aは、本開示の実施の形態2において、橋梁10の中央付近で亀裂1による損傷が発生した際の固有振動情報の時間変化を示した説明図である。図5A中の折れ線グラフは、損傷の進行を示す時間経過を横軸とし、無損傷時に対する固有振動数低下率を縦軸として、損傷の進行に伴う固有振動数の時間変化を時系列データとして示している。
【0056】
診断部30は、センサヘッド20(1)により検出された物理量である加速度から、特徴量の1つである1次の固有振動数を固有振動情報として算出し、1次の固有振動数を時間経過とともに順次、記憶部40に第3の時系列データとして記憶させる。図5Aの折れ線グラフにおいて、実線上で●のプロットにより示された各データが、第3の時系列データに相当する。
【0057】
同様に、診断部30は、センサヘッド20(1)により検出された物理量である加速度から、特徴量の1つである2次の固有振動数を固有振動情報として算出し、2次の固有振動数を時間経過とともに順次、記憶部40に第4の時系列データとして記憶させる。図5Aの折れ線グラフにおいて、点線上で×のプロットにより示された各データが、第4の時系列データに相当する。
【0058】
橋梁10の中央付近で亀裂1による損傷が発生した場合には、図5Aで示したように、第3の時系列データによる1次の固有振動数の時間変化が第4の時系列データによる2次の固有振動数の時間変化よりも大きくなっていることが分かる。
【0059】
従って、診断部30は、センサヘッド20(1)により検出された物理量に基づいて算出した第3の時系列データおよび第4の時系列データに基づいて、過去の特徴量と現在の特徴量との間にあらかじめ設定した有意差が存在する場合には、劣化が発生していると判断することができる。
【0060】
例えば、図5Aにおいて、過去の時点を横軸の0の時刻とし、現在の時点を横軸の6の時刻とした場合には、診断部30は、1次の固有振動数の低下率が、あらかじめ設定した閾値以上となった場合に、亀裂1が発生したと判断できる。
【0061】
さらに、診断部30は、センサヘッド20(1)により検出された物理量に基づいて算出した第3の時系列データと第4の時系列データの両方の時間変化を比較し、1次の固有振動数の低下率が2次の固有振動数の低下率よりも大きい場合には、橋梁10の中央付近で亀裂1による損傷が発生したとして、劣化の発生位置を特定することができる。
【0062】
図5Bは、本開示の実施の形態2において、橋梁10の四分位点11(1)付近で亀裂1による損傷が発生した際の固有振動情報の時間変化を示した説明図である。図5B中の折れ線グラフは、図5Aと同様に、損傷の進行を示す時間経過を横軸とし、無損傷時に対する固有振動数低下率を縦軸として、損傷の進行に伴う固有振動数の時間変化を時系列データとして示している。
【0063】
診断部30は、センサヘッド20(1)により検出された物理量である加速度から、特徴量の1つである1次の固有振動数を固有振動情報として算出し、1次の固有振動数を時間経過とともに順次、記憶部40に第3の時系列データとして記憶させる。図5Bの折れ線グラフにおいて、実線上で●のプロットにより示された各データが、第3の時系列データに相当する。
【0064】
同様に、診断部30は、センサヘッド20(1)により検出された物理量である加速度から、特徴量の1つである2次の固有振動数を固有振動情報として算出し、2次の固有振動数を時間経過とともに順次、記憶部40に第4の時系列データとして記憶させる。図5Bの折れ線グラフにおいて、点線上で×のプロットにより示された各データが、第4の時系列データに相当する。
【0065】
橋梁10の四分位点11(1)付近で亀裂1による損傷が発生した場合には、図5Bで示したように、第4の時系列データによる2次の固有振動数の時間変化が、第3の時系列データによる1次の固有振動数の時間変化よりも大きくなっていることが分かる。
【0066】
従って、診断部30は、センサヘッド20(1)により検出された物理量に基づいて算出した第3の時系列データおよび第4の時系列データに基づいて、過去の特徴量と、現在の特徴量との間にあらかじめ設定した有意差が存在する場合には、劣化が発生していると判断することができる。
【0067】
例えば、図5Bにおいて、過去の時点を横軸の0の時刻とし、現在の時点を横軸の6の時刻とした場合には、診断部30は、2次の固有振動数の低下率が、あらかじめ設定した閾値以上となった場合に、亀裂1が発生したと判断できる。
【0068】
さらに、診断部30は、センサヘッド20(1)により検出された物理量に基づいて算出した第3の時系列データと第4の時系列データの両方の時間変化を比較し、2次の固有振動数の低下率が1次の固有振動数の低下率よりも大きい場合には、四分位点11(1)付近で亀裂1による損傷が発生したとして、劣化の発生位置を特定することができる。
【0069】
図5Cは、本開示の実施の形態2において、橋梁10の支承12(1)付近で亀裂1による損傷が発生した際の固有振動情報の時間変化を示した説明図である。図5C中の折れ線グラフは、図5A図5Bと同様に、損傷の進行を示す時間経過を横軸とし、無損傷時に対する固有振動数低下率を縦軸として、損傷の進行に伴う固有振動数の時間変化を時系列データとして示している。
【0070】
診断部30は、センサヘッド20(1)により検出された物理量である加速度から、特徴量の1つである1次の固有振動数を固有振動情報として算出し、1次の固有振動数を時間経過とともに順次、記憶部40に第3の時系列データとして記憶させる。図5Cの折れ線グラフにおいて、実線上で●のプロットにより示された各データが、第3の時系列データに相当する。
【0071】
同様に、診断部30は、センサヘッド20(1)により検出された物理量である加速度から、特徴量の1つである2次の固有振動数を固有振動情報として算出し、2次の固有振動数を時間経過とともに順次、記憶部40に第4の時系列データとして記憶させる。図5Cの折れ線グラフにおいて、点線上で×のプロットにより示された各データが、第4の時系列データに相当する。
【0072】
橋梁10の支承12(1)付近で亀裂1による損傷が発生した場合には、図5Cで示したように、第3の時系列データによる1次の固有振動数の時間変化、および第4の時系列データによる2次の固有振動数の時間変化が、ともに、あらかじめ設定した有意差が存在しない状態となっていることが分かる。
【0073】
従って、診断部30は、センサヘッド20(1)により検出された物理量に基づいて算出した第3の時系列データおよび第4の時系列データからは、劣化が発生していることを判断できないこととなる。
【0074】
すなわち、四分位点11(1)と支承12(1)との間にセンサヘッド20(1)を設置したとしても、特徴量として固有振動情報だけを用いて劣化診断を行った場合には、支承付近で発生する劣化を検出することは困難となる。しかしながら、先の実施の形態1で説明したように、特徴量として傾き情報を用いることで、支承付近で発生する劣化を検出することができる。
【0075】
また、支承付近とは異なる位置で劣化が発生した場合には、傾き情報を用いた劣化診断と、固有振動情報を用いた劣化診断を併用することで、劣化の発生、あるいは劣化発生位置の特定を、より高精度に行うことができる。
【0076】
例えば、特徴量として傾き情報を用いただけでは、過去の傾き情報と現在の傾き情報との間に傾きの有意差が検出できなかったとしても、特徴量として固有振動情報をさらに用いることで、過去の固有振動情報と現在の固有振動情報との間に固有振動数の有意差が検出できれば、劣化の発生あるいは劣化発生位置の特定を行うことができる。
【0077】
以上のように、実施の形態2によれば、四分位点と支承との間にセンサヘッドを設置し、センサヘッドにより検出された物理量から、構造物の劣化診断の指標となる構造物の傾き情報とともに固有振動情報を特徴量として算出し、傾き情報と固有振動情報とを併用して構造物の劣化診断を行う構成を備えている。
【0078】
この結果、特に、支承付近で発生した劣化を傾き情報に基づいて高精度に検知することのできるとともに、支承付近とは異なる位置で劣化が発生した劣化を傾き情報および固有振動情報の併用に基づいて高精度に検知することのできる劣化診断システムを得ることができるというさらなる効果を実現できる。
【0079】
なお、本実施の形態2において、センサヘッド20(1)で説明したが、センサヘッド20(2)を用いてもよい。また、センサヘッド20(1)およびセンサヘッド20(2)の両方を用いるようにしてもよい。
【0080】
実施の形態3.
本実施の形態では、物理量の検出中における気温データを加味し、時系列データを生成することで、劣化検知の精度向上を図る場合について説明する。
【0081】
センサヘッド20により検出される物理量は、構造物が設置されている環境における気温に左右されることが考えられる。例えば、真冬に検出された物理量に基づいて算出した傾き情報と、真夏に検出された物理量に基づいて算出した傾き情報とをそのまま比較した場合には、劣化診断精度が均一にならないおそれがある。
【0082】
そこで、本実施の形態3に係る診断部30は、センサヘッド20による物理量の検出中における気温データを取得する。一例として、診断部30は、構造物の近傍に設置された気温計から温度データを取得するか、あるいは、構造物が設置された地域の気象データの一部として気温データを取得することができる。
【0083】
一方、本実施の形態3における記憶部40には、気温データと対応付けられてあらかじめ設定された補正係数が記憶されている。従って、診断部30は、取得した気温データに応じた補正係数を記憶部40から抽出することができる。
【0084】
そして、診断部30は、抽出した補正係数を用いて特徴量を補正することで、現在の特徴量を算出し、算出した現在の特徴量を時間経過とともに順次、記憶部40に記憶させることで、温度補正後の時系列データを生成する。
【0085】
このようにして生成された温度補正後の時系列データは、センサヘッド20による物理量の検出中における気温データを考慮して、気温データの影響が抑制されたものとなる。従って、診断部30は、温度補正後の時系列データを用いることで、物理量の検出中における気温データの影響を抑制して、劣化診断精度の均一化を図ることができる。
【0086】
以上のように、実施の形態3によれば、物理量の検出中における気温データを考慮して生成された温度補正後の時系列データを用いて劣化診断を行うことで、気温に左右されない劣化診断精度の均一化を図ることができる。
【符号の説明】
【0087】
10 橋梁(構造物)、11(1) 四分位点(第1の四分位点)、11(2) 四分位点(第2の四分位点)、12(1) 支承(第1の支承)、12(2) 支承(第2の支承)、20(1) センサヘッド(第1のセンサヘッド)、20(2) センサヘッド(第2のセンサヘッド)、30 診断部、40 記憶部。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C