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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】エンジン
(51)【国際特許分類】
   F02F 7/00 20060101AFI20241217BHJP
   F01M 9/10 20060101ALI20241217BHJP
   F01M 1/06 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
F02F7/00 K
F01M9/10 M
F01M1/06 L
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021195600
(22)【出願日】2021-12-01
(65)【公開番号】P2023081684
(43)【公開日】2023-06-13
【審査請求日】2024-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】720001060
【氏名又は名称】ヤンマーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 雄樹
(72)【発明者】
【氏名】北川 智明
【審査官】藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-090201(JP,A)
【文献】特開2008-240531(JP,A)
【文献】実開昭60-143994(JP,U)
【文献】実開昭54-032629(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2015/0033893(US,A1)
【文献】西独国特許出願公開第02753332(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 7/00
F01M 9/10
F01M 1/06 ~ 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクシャフトから駆動力を取り出すエンジンギヤケースが取り付けられたエンジンであって、
前記エンジンギヤケースは、
潤滑油の注油が行われる潤滑部と、
前記潤滑部へ注油される潤滑油を飛散させるためのギヤ内油路を有する油路付きギヤとを備えており、
前記油路付きギヤは、固定シャフト部材と、前記固定シャフト部材によって軸支され、前記固定シャフト部材の周囲で回転する回転ギヤ部材とを有しており、
前記固定シャフト部材には、前記エンジンに設けられたエンジン側油路と連通するシャフト内油路が設けられており、
前記固定シャフト部材に第1切欠き部が形成され、前記回転ギヤ部材に第2切欠き部が形成され、前記回転ギヤ部材の回転によって前記第1切欠き部と前記第2切欠き部とが重なったときに前記ギヤ内油路を連通させて潤滑油を飛散させる注油用開口が形成されることを特徴とするエンジン。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジンであって、
前記固定シャフト部材と前記回転ギヤ部材とに囲まれた空間として、前記シャフト内油路から潤滑油の供給を受ける油溜まり部が形成されており、
前記回転ギヤ部材の内周面に、前記固定シャフト部材と前記油溜まり部とを連通させる連通溝部を有することを特徴とするエンジン。
【請求項3】
請求項2に記載のエンジンであって、
前記連通溝部は、前記シャフト内油路の油路出口に対向して円環状に設けられる第1溝と、前記第1溝と連通して前記油溜まり部に向かって設けられる第2溝とを含むことを特徴とするエンジン。
【請求項4】
請求項1からの何れか1項に記載のエンジンであって、
前記第1切欠き部および前記第2切欠き部は、前記油路付きギヤの軸方向および径方向に対して傾斜する傾斜部を有することを特徴とするエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのクランクシャフトから駆動力を取り出すエンジンギヤケースが取り付けられたエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンを搭載する構造物(車両やエンジン搭載型発電機など)では、エンジンにギヤケース(エンジンギヤケース)を取り付け、このエンジンギヤケースによってエンジンのクランクシャフトから駆動力を取り出す場合がある。エンジンギヤケースによって取り出される駆動力は、例えば油圧ポンプなどの外部装置の駆動に使用される。
【0003】
外部装置の入力軸は、エンジンギヤケースの出力ギヤに対してスプラインにて結合されることが一般的であり、このスプラインには潤滑油の注油が必要である。スプラインに注油される潤滑油は、出力ギヤと噛合されたアイドルギヤに設けられる油路を通って注油されることがある。
【0004】
特許文献1には、ギヤに設けた油路を介して注油を行える構成が開示されている。特許文献1では、ギヤと(該ギヤを軸支する)ギヤシャフトとに油路となる貫通孔を設け、ギヤの貫通孔とギヤシャフトの貫通孔とが一致したときに油路が連通し、油路を通った潤滑油が飛散して注油が行える構成となっている。尚、特許文献1の油路において、少なくともギヤ側の貫通孔は、注油される潤滑油の量を適切に調節する(過剰な注油を抑制する)ために、細孔として形成される。従来のエンジンギヤケースでも、特許文献1と類似した構成(アイドルギヤとアイドルギヤシャフトとに油路となる貫通孔を設ける構成)によって、スプラインへの注油を行っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-191432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の構成では、ギヤに油路となる細孔を形成するにあたって、工具折れの懸念などがあり製造性が悪いといった問題がある。また、ギヤとギヤシャフトとの間には、通常、ギヤに対して圧入されるギヤブッシュが設けられる。この場合、ギヤブッシュにおいても油路となる貫通孔が形成されるが、ギヤの貫通孔とギヤブッシュの貫通孔とを位置決めして圧入する必要があり、組立性が悪くなるといった問題もある。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、潤滑油の注油用の油路を備えており、製造性および組立性に優れたエンジンギヤケースを備えたエンジンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明のエンジンは、クランクシャフトから駆動力を取り出すエンジンギヤケースが取り付けられたエンジンであって、前記エンジンギヤケースは、潤滑油の注油が行われる潤滑部と、前記潤滑部へ注油される潤滑油を飛散させるためのギヤ内油路を有する油路付きギヤとを備えており、前記油路付きギヤは、固定シャフト部材と、前記固定シャフト部材によって軸支され、前記固定シャフト部材の周囲で回転する回転ギヤ部材とを有しており、前記固定シャフト部材には、前記エンジンに設けられたエンジン側油路と連通するシャフト内油路が設けられており、前記固定シャフト部材と前記回転ギヤ部材とに囲まれた空間として、前記シャフト内油路から潤滑油の供給を受ける油溜まり部が形成されており、前記固定シャフト部材に対する前記回転ギヤ部材の位置によって、前記油溜まり部から潤滑油を飛散させる注油用開口が形成されることを特徴としている。
【0009】
上記の構成によれば、油路付きギヤにおける固定シャフト部材と回転ギヤ部材とに囲まれた空間として油溜まり部が形成されており、この油溜まり部から潤滑油を飛散させることができる。このため、油路付きギヤでは、特に回転ギヤ部材の内部に細孔による油路を形成する必要がなく、油路付きギヤの各部材に対する加工が容易となり、製造性を向上させることができる。
【0010】
また、上記エンジンは、前記回転ギヤ部材の内周面に、前記固定シャフト部材と前記油溜まり部とを連通させる連通溝部を有する構成とすることができる。
【0011】
上記の構成によれば、連通溝部を設けることでシャフト内油路を短くすることができ、固定シャフト部材の加工性を向上させることができる。
【0012】
また、上記エンジンでは、前記連通溝部は、前記シャフト内油路の油路出口に対向して円環状に設けられる第1溝と、前記第1溝と連通して前記油溜まり部に向かって設けられる第2溝とを含む構成とすることができる。
【0013】
上記の構成によれば、シャフト内油路から油溜まり部に向かってスムーズに潤滑油を供給することができる。
【0014】
また、上記エンジンは、前記固定シャフト部材に溝状の第1切欠き部が形成され、前記回転ギヤ部材に溝状の第2切欠き部が形成され、前記回転ギヤ部材の回転によって前記第1切欠き部と前記第2切欠き部とが重なったときに前記注油用開口が生じる構成とすることができる。
【0015】
上記の構成によれば、溝状の第1切欠き部および第2切欠き部は、固定シャフト部材および回転ギヤ部材への加工が容易であり、製造性を向上させることができる。
【0016】
また、上記エンジンでは、前記第1切欠き部および前記第2切欠き部は、前記油路付きギヤの軸方向および径方向に対して傾斜する傾斜部を有する構成とすることができる。
【0017】
上記の構成によれば、潤滑部に対して、所望の経路で潤滑油を注油するような設計が容易となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のエンジンは、エンジンギヤケースにおける油路付きギヤにおける固定シャフト部材と回転ギヤ部材とに囲まれた空間として油溜まり部を形成し、この油溜まり部から潤滑油を飛散させることで、油路付きギヤの各部材に対する加工が容易となり、製造性を向上させることができるといった効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態を示すものであり、エンジンギヤケースの正面図である。
図2】エンジンギヤケースの背面図である。
図3】エンジンギヤケースを正面から見た図であり、FWハウジングを外して内部のギヤ配置が視認できるようにした図である。
図4】アイドルギヤの断面図である。
図5】アイドルギヤのギヤシャフトのみを抜き出して示したものであり、(a)は斜視図、(b)は背面図、(c)は(b)のA-A断面図である。
図6】アイドルギヤのギヤおよびギヤブッシュを抜き出して示したものであり、(a)は斜視図、(b)は正面図、(c)は(b)のB-B断面図、(d)は(b)のC-C断面図である。
図7】アイドルギヤの拡大断面図であり、(a)は第2切欠き部と第1切欠き部とが重なった状態を示しており、(b),(c)は第2切欠き部と第1切欠き部とが重ならない状態を示している。
図8】潤滑油がFWハウジングの裏面に沿って流れる注油経路を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。図1は、本実施の形態に係るエンジンに備えられるエンジンギヤケース10の正面図である。図2は、エンジンギヤケース10の背面図である。エンジンギヤケース10は、図示しないエンジン本体に取り付けられ、そのエンジン本体のクランクシャフトから駆動力を取り出すものである。ここでは、エンジン本体との対向面側をエンジンギヤケース10の背面側とし、エンジン本体との対向面の反対側をエンジンギヤケース10の正面側としている。尚、エンジン本体の構成については公知であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0021】
図1に示すように、エンジンギヤケース10の正面側は、FW(フライホイール)ハウジング11にて覆われている。また、エンジンギヤケース10の背面側には、エンジン本体のクランクシャフト50が接続されるとともに、エンジンギヤケース10から出力を受ける外部装置(例えば、油圧ポンプ)の入力軸(図示省略)を連結するためのスプライン穴30aが設けられている。すなわち、外部装置の入力軸はスプライン軸とされており、このスプライン軸とスプライン穴30aとをスプライン結合することにより、外部装置はエンジンギヤケース10から出力を受けることが可能となる。尚、クランクシャフト50は、厳密にはエンジン本体側の部材であって、エンジンギヤケース10の構成要素ではないが、図1ではエンジンギヤケース10とエンジン本体との接続関係が理解できるようにクランクシャフト50を図示している。
【0022】
図3は、エンジンギヤケース10を正面から見た図であり、FWハウジング11を外して内部のギヤ配置が視認できるようにした図である。図3に示すように、エンジンギヤケース10内には、少なくとも入力ギヤ20、出力ギヤ30およびアイドルギヤ40が設けられている。入力ギヤ20は、クランクシャフト50に接続され、クランクシャフト50の回転が入力されるギヤである。出力ギヤ30は、エンジンギヤケース10から外部装置に駆動力を出力するためのギヤであり、上述したスプライン穴30aが設けられている。アイドルギヤ40は、入力ギヤ20と出力ギヤ30との間に配置され、入力ギヤ20から出力ギヤ30へ駆動力を伝達するギヤである。
【0023】
エンジンギヤケース10では、外部装置のスプライン軸と出力ギヤ30のスプライン穴30aとをスプライン結合するため、スプライン穴30aに対して潤滑油の注油が必要である。エンジンギヤケース10は、アイドルギヤ40に形成された油路(ギヤ内油路)を有しており、このギヤ内油路を介してスプライン穴30aへの注油が行えるようになっている。本発明の主な特徴は、アイドルギヤ40に形成されるギヤ内油路の構成にあり、以下のこの特徴点について詳細に説明する。尚、本実施の形態では、スプライン穴30aが特許請求の範囲に記載の潤滑部に相当し、アイドルギヤ40が油路付きギヤに相当する。
【0024】
図4は、アイドルギヤ40の断面図である。図4に示すように、アイドルギヤ40は、ギヤシャフト41、ギヤ42およびギヤブッシュ43の3つの部材によって構成されている。ギヤシャフト41は、エンジンギヤケース10をエンジンに取り付ける際、エンジン本体に対してボルトなどで固定され、それ自体は回転しない固定部材である。ギヤ42は、ギヤシャフト41の周囲で回転する環状のギヤ部材である。ギヤブッシュ43は、ギヤシャフト41とギヤ42との間に配置されるものであり、ギヤ42に対して圧入され、ギヤ42と一体的に回転する。本実施の形態では、ギヤシャフト41が特許請求の範囲に記載の固定シャフト部材に相当し、ギヤ42およびギヤブッシュ43が回転ギヤ部材に相当する。
【0025】
図5は、ギヤシャフト41のみを抜き出して示したものであり、(a)は斜視図、(b)は背面図、(c)は(b)のA-A断面図である。図5に示すように、ギヤシャフト41は、ギヤ42(およびギヤブッシュ43)を軸支するシャフト部411と、シャフト部411に対して正面側に形成されたフランジ部412とを有している。フランジ部412は、ギヤ42に対して正面側のギヤ主面に接触する。ギヤ42は、正面側のギヤ主面をフランジ部412に対して摺動させながら回転する(図4参照)。
【0026】
シャフト部411には、シャフト部411の裏面(端面)から側面(外周面)に通る貫通孔としてシャフト内油路413が形成されている。シャフト内油路413は、エンジンギヤケース10をエンジンに取り付けた際、エンジン本体のシリンダブロックにおける循環油路(エンジン側油路)と連通し、エンジン側油路から潤滑油の供給を受ける油路である。このため、エンジンギヤケース10の裏面には、シャフト内油路413とエンジン側油路とを連通させるための連通口12(図2参照)が設けられている。
【0027】
フランジ部412には、1つの溝状の第1切欠き部414が設けられている。第1切欠き部414は、フランジ部412の背面側の主面に形成されており、かつ、フランジ部412の外周面を開放している(フランジ部412の外周面の一部を切り欠くように形成されている)。また、第1切欠き部414の内周側端部は、アイドルギヤ40の径方向において、ギヤ42の内周面には到達しない位置とされている(図7(b)参照)。
【0028】
図6は、ギヤ42およびギヤブッシュ43を抜き出して示したものであり、(a)は斜視図、(b)は正面図、(c)は(b)のB-B断面図、(d)は(b)のC-C断面図である。図6に示すように、環状ギヤであるギヤ42は、その内側にギヤブッシュ43が圧入されており、ギヤシャフト41のシャフト部411の外周面とギヤブッシュ43の内周面とを摺擦させながら回転する。また、ギヤブッシュ43における正面側の端面は、ギヤ42の正面側のギヤ主面よりも低い位置とされている。すなわち、ギヤブッシュ43における正面側の端面は、フランジ部412の背面側の主面とは接触しない配置とされている。
【0029】
ギヤ42には、少なくとも1つ(本例では2つ)の溝状の第2切欠き部421が設けられている。第2切欠き部421は、ギヤ42の正面側において内周面を開放するように(ギヤ42の内側面の一部を切り欠くように)形成されている。また、第2切欠き部421の外周側端部は、アイドルギヤ40の径方向において、ギヤシャフト41におけるフランジ部412の外周面には到達しない位置とされている(図7(c)参照)。
【0030】
ギヤブッシュ43の内周面には、第1溝431と第2溝432とが形成されている。第1溝431は、ギヤブッシュ43の内周面において円周方向に沿って環状に形成された溝部である。第1溝431は、アイドルギヤ40の軸方向において、シャフト部411におけるシャフト内油路413のシャフト側面側の開口(シャフト内油路413の油路出口)と対向する位置に形成されている。第2溝432は、第1溝431の一部から、軸方向に沿って正面側に向かって伸びる直線状の溝部である。但し、第2溝432は、アイドルギヤ40の軸方向と完全に平行である必要はなく、図6(d)に示すように、軸方向に対して傾きを有していてもよい。
【0031】
第2溝432の出口側端部(正面側端部)は、ギヤ42の第2切欠き部421に対して位置決めされていることが好ましい。また、図6の例では、ギヤ42およびギヤブッシュ43において、第2切欠き部421と第2溝432との対は2対とされているが、これらは1対であってもよく3対以上であってもよい。第2切欠き部421と第2溝432との対を複数とする場合は、アイドルギヤ40の円周方向に沿って等角度間隔で配置することが好ましい。
【0032】
アイドルギヤ40に形成されるギヤ内油路は、ギヤ42におけるシャフト内油路413および第1切欠き部414と、ギヤブッシュ43における第1溝431および第2溝432と、ギヤ42における第2切欠き部421とを含んで構成される。より具体的には、シャフト内油路413、第1溝431、第2溝432、第2切欠き部421、第1切欠き部414の順でギヤ内油路が形成される。
【0033】
このギヤ内油路は、常時連通して注油を行うものではなく、ギヤ42およびギヤブッシュ43の回転の過程で一時的に連通し、断続的な注油を行う。以下、ギヤ内油路における注油作用を図7を参照して説明する。
【0034】
まず、ギヤ内油路において、第1溝431、第2溝432および第2切欠き部421は、シャフト内油路413に対して常時連通しており、この部分は潤滑油が常に充填された状態となっている。さらに、アイドルギヤ40の正面側では、ギヤブッシュ43の端面がギヤ42のギヤ主面よりも低い位置とされていることから、ギヤブッシュ43の上端面、ギヤ42の内周面、およびギヤシャフト41(シャフト部411の外周面およびフランジ部412の背面側主面)で囲まれた環状の空間が存在し、この空間が潤滑油を一時的に貯留する油溜まり部44(図7(a)参照)となっている。すなわち、アイドルギヤ40では、ギヤシャフト41、ギヤ42およびギヤブッシュ43に囲まれた空間として油溜まり部44が形成されている。
【0035】
第1溝431および第2溝432は、シャフト内油路413と油溜まり部44とを連通させる連通溝部として形成されている。アイドルギヤ40では、連通溝部の形成によりシャフト内油路413と油溜まり部44とを直接接続する必要がなくなり、ギヤシャフト41におけるシャフト内油路413を短くすることができる。これにより、連通溝部にはギヤシャフト41の加工性を向上させる効果もある。
【0036】
図7(a)は、第2切欠き部421と第1切欠き部414とが重なった状態のアイドルギヤ40の拡大断面図である。このとき、第2切欠き部421と第1切欠き部414との重複箇所において開口(注油用開口)が生じ、油溜まり部44から潤滑油を飛散させることができる。
【0037】
尚、第2溝432をアイドルギヤ40の軸方向に対して傾きを持たせて設ける場合、油路の入口側(第1溝431との接続側)がギヤ42の回転方向(図6(a)に示す矢印R方向)上流側に位置し、油路の出口側(第2切欠き部421との接続側)が回転方向下流側に位置するように傾けられる。この場合、ギヤ42およびギヤブッシュ43の回転力によって、第2溝432内の潤滑油に飛散方向への液圧を与えることができる。
【0038】
一方、図7(b),(c)は、第2切欠き部421と第1切欠き部414とが重ならない状態のアイドルギヤ40の拡大断面図である。このとき、第2切欠き部421と第1切欠き部414との間で開口が生じず、油溜まり部44から潤滑油を飛散させることはできない。
【0039】
このように、アイドルギヤ40におけるギヤ内油路は、ギヤ42およびギヤブッシュ43の回転中、第2切欠き部421と第1切欠き部414とが重なるタイミングでのみ、潤滑油を油溜まり部44から飛散させることができる。また、潤滑油を飛散させるとき、第2切欠き部421と第1切欠き部414との重複箇所において生じる開口面積は、第2切欠き部421および第1切欠き部414の形状によって容易に調整することが可能である。すなわち、第2切欠き部421と第1切欠き部414との重複箇所の開口は、これを狭面積にすることも容易であり、注油される潤滑油の量を適切に調節する(過剰な注油を抑制する)ことができる。
【0040】
上述したギヤ内油路では、アイドルギヤ40における各部材(ギヤシャフト41、ギヤ42およびギヤブッシュ43)に囲まれた空間として油溜まり部44が形成されている。さらに、シャフト内油路413から油溜まり部44へ潤滑油を供給するための油路は、アイドルギヤ40における各部材の表面に形成された溝部によって形成されている。このため、アイドルギヤ40では、細孔による油路が形成されず、アイドルギヤ40の各部材に対する加工が容易となるため、アイドルギヤ40の製造性を悪化させることがない。尚、シャフト内油路413は、ギヤシャフト41に対して溝部ではなく貫通孔として形成されるが、シャフト内油路413には潤滑油の飛散量を調整する機能はなく、シャフト内油路413は細孔である必要はない。このため、シャフト内油路413がギヤシャフト41の製造性を悪化させることもない。
【0041】
また、アイドルギヤ40では、ギヤブッシュ43をギヤ42に圧入する際、第2溝432を第2切欠き部421に対して位置決めされていること好ましいが、第2溝432および第2切欠き部421が部材表面に形成されていることから、その位置決めは容易である。すなわち、ギヤ42へのギヤブッシュ43の圧入が、アイドルギヤ40の組立性を悪化させることもない。尚、第2溝432が第2切欠き部421に対して正確に位置決めされていなくても、第2溝432が油溜まり部44に連通していれば、アイドルギヤ40において上述した注油動作は行える。
【0042】
アイドルギヤ40から飛散する潤滑油は、出力ギヤ30のスプライン穴30aに対して直接的に注油される(スプライン結合箇所に向けて潤滑油を飛散させる)ものであってもよいが、間接的に注油されるものであってもよい。実際には、アイドルギヤ40からスプライン穴30aへ潤滑油を直接飛散させることは設計的に困難であり、本実施の形態では、FWハウジング11を利用して間接的に注油を行う構成が例示される。
【0043】
上述したように、アイドルギヤ40のギヤ内油路は、第2切欠き部421と第1切欠き部414とが重なったときに連通し(注油用開口を生じさせ)、潤滑油を飛散させる。このときの潤滑油の飛散方向は、固定部材であるギヤシャフト41に形成された第1切欠き部414の位置によるものとなる。本実施の形態では、注油用開口からの潤滑油の飛散方向は、図3における矢印D1方向であるとする。但し、矢印D1方向は、アイドルギヤ40の円周方向成分としては図示されるように外周方向に向かう方向であるが、アイドルギヤ40の軸方向成分としてはFWハウジング11側(正面側)に向かう方向となっている。すなわち、潤滑油の飛散方向は、アイドルギヤ40の軸方向および径方向の両方に対して傾斜を有している。また、このような飛散を行わせるため、第1切欠き部414および第2切欠き部421は、アイドルギヤ40の軸方向および径方向に対して傾斜する傾斜部を有している。具体的には、図7(a)に示すように、第1切欠き部414はその全体が傾斜部となっており、第2切欠き部421は半径方向外周側の端部に傾斜部が設けられている。これにより、注油用開口を通過した潤滑油は、第1切欠き部414および第2切欠き部421の傾斜部に沿って傾斜飛散することができる。
【0044】
このように、アイドルギヤ40から所定方向に飛散した潤滑油は、一旦、FWハウジング11の裏面に付着し、FWハウジング11の裏面に沿って流れることで注油対象であるスプライン穴30aに到達する。このとき、FWハウジング11の裏面に沿って流れる潤滑の経路は、図3における矢印D2方向であるとする。
【0045】
図8は、潤滑油がFWハウジング11の裏面に沿って流れる注油経路を示す断面図である。FWハウジング11の裏面には、潤滑油がスプライン結合箇所に確実に到達させるような注油経路(凹凸による経路)が形成されていることが好ましい。
【0046】
今回開示した実施形態は全ての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。したがって、本発明の技術的範囲は、上記した実施形態のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0047】
10 エンジンギヤケース
11 FWハウジング
12 連通口
20 入力ギヤ
30 出力ギヤ
30a スプライン穴(潤滑部)
40 アイドルギヤ(油路付きギヤ)
41 ギヤシャフト(固定シャフト部材)
411 シャフト部
412 フランジ部
413 シャフト内油路
414 第1切欠き部
42 ギヤ(回転ギヤ部材)
421 第2切欠き部
43 ギヤブッシュ(回転ギヤ部材)
431 第1溝(連通溝部)
432 第2溝(連通溝部)
44 油溜まり部
50 クランクシャフト
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8