(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】鏡
(51)【国際特許分類】
A47G 1/00 20060101AFI20241217BHJP
【FI】
A47G1/00 A
A47G1/00 J
(21)【出願番号】P 2021530743
(86)(22)【出願日】2020-07-10
(86)【国際出願番号】 JP2020027116
(87)【国際公開番号】W WO2021006348
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2023-03-16
(31)【優先権主張番号】P 2019129675
(32)【優先日】2019-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【氏名又は名称】立花 顕治
(72)【発明者】
【氏名】田口 雅文
(72)【発明者】
【氏名】大家 和晃
(72)【発明者】
【氏名】下川 洋平
【審査官】渡邉 洋
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2012-0111666(KR,A)
【文献】特開2002-078587(JP,A)
【文献】登録実用新案第3013638(JP,U)
【文献】特開2001-146585(JP,A)
【文献】特開2017-214059(JP,A)
【文献】特開2019-059246(JP,A)
【文献】特開2016-165379(JP,A)
【文献】国際公開第2015/186360(WO,A1)
【文献】実公昭55-028136(JP,Y2)
【文献】特開2008-114760(JP,A)
【文献】実公昭36-026752(JP,Y1)
【文献】特開2010-000330(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47G 1/00- 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面視多角状に形成され、像が映る第1主面、前記第1主面とは反対側の第2主面、及び前記第1主面及び第2主面とを連結する周縁面を有する、鏡本体と、
防曇層と、
を備え、
前記周縁面は、複数の第1端面と、隣接する前記第1端面同士を連結する第2端面と、を備え、
前記第2端面が、平面視において前記鏡本体の外縁に形成された第1面取り部を構成しており、
前記第1主面と前記周縁面との間に、第2面取り部が形成され、
前記
防曇層は、前記第1主面及び前記第2面取り部を覆う塗布膜によって形成され、
前記防曇層は、吸水性樹脂を主成分とする材料により構成され、加水分解性金属化合物によって形成される架橋構造を有しており、
前記吸水性樹脂は、エポキシ樹脂及びポリビニルアセタール樹脂の少なくとも一方を含有し、
前記加水分解性金属化合物は、シリコンアルコキシドからなり、
前記シリコンアルコキシドの添加量は、前記エポキシ樹脂または前記ポリビニルアセタール樹脂からなる吸水性樹脂100質量部に対して、1質量部以上50質量部以下であり、
前記防曇層の厚みが、2~12μmである、鏡。
【請求項2】
前記防曇層と前記第1主面とが化学的に結合している、請求項
1に記載の鏡。
【請求項3】
前記防曇層と前記第1主面との間に配置される下地層をさらに備えている、請求項1
または2に記載の鏡。
【請求項4】
前記防曇層は、前記周縁面を覆うように配置されている、請求項
1から3のいずれかに記載の鏡。
【請求項5】
前記防曇層の鉛筆硬度が、H~2Hである、請求項
4に記載の鏡。
【請求項6】
前記第1主面の周縁から中央側へ延びる所定の幅の周縁領域には、前記防曇層が配置されていない、請求項1から
5のいずれかに記載の鏡。
【請求項7】
前記防曇層は、前記周縁面を覆うように配置されており、
前記周縁面に配置される防曇層の厚みが、前記第1主面に配置される防曇層の厚みよりも大きい、請求項1から
6のいずれかに記載の鏡。
【請求項8】
前記防曇層は、飛散防止機能を有している、請求項1から
7のいずれかに記載の鏡。
【請求項9】
前記鏡本体に対する前記防曇層の密着性は、JIS K5600-5-6に規定するクロスカット試験において、分類0または1である、請求項
7または8に記載の鏡。
【請求項10】
前記鏡本体の第2主面にカッターで直線状の切込みを形成し、水平面に配置した丸棒を、前記切込みと対応するように下側に向けた前記防曇層に接触させ、前記切込みの両側を押圧することで、前記鏡本体を割段したとき、前記防曇層が切断されていない、請求項
7から9のいずれかに記載の鏡。
【請求項11】
前記防曇層を覆う保護フィルムをさらに備えている、請求項1から
10のいずれかに記載の鏡。
【請求項12】
前記保護フィルムは、シート状の基材と、前記基材の一方の面に配置された粘着層とを有し、
前記粘着層により、前記基材が前記防曇層に接着され、
前記基材の周縁部には、前記粘着層が配置されていない領域を有する、請求項
11に記載の鏡。
【請求項13】
前記防曇層は、前記周縁面を覆うように配置されており、
前記保護フィルムは、前記周縁面を覆う前記防曇層の少なくとも一部には接着されていない、請求項
12に記載の鏡。
【請求項14】
前記保護フィルムは、前記第1面取り部が形成されている箇所において、前記鏡本体から突出するように形成されている、請求項
11から13のいずれかに記載の鏡。
【請求項15】
前記保護フィルムの曲げ強さは、96~131MPaである、請求項
11から14のいずれかに記載の鏡。
【請求項16】
前記保護フィルムの厚みは、30~90μmである、請求項
11から15のいずれかに記載の鏡。
【請求項17】
前記保護フィルムは、複数に分割された状態で前記防曇層を覆うように構成されている、請求項
11から16のいずれかに記載の鏡。
【請求項18】
前記鏡本体は、
ガラス板と、
前記ガラス板の一方の面に積層された金属層または半金属層と、
前記金属層または半金属層上に積層された樹脂製の保護層と、
前記金属層または半金属層と前記保護層との間に積層された無機酸化物からなる無機酸化物層と、
を備えている、請求項1から
17のいずれかに記載の鏡。
【請求項19】
前記半金属層は、SiまたはGeを主成分とする、請求項
18に記載の鏡。
【請求項20】
前記鏡本体は、
ガラス板と、
前記ガラス板の一方の面に積層された金属層と、
前記金属層上に積層された樹脂製の保護層と、
を備えている、請求項1から
19のいずれかに記載の鏡。
【請求項21】
前記ガラス板の他方の面が前記第1主面を構成し、
前記第1主面を覆うように防曇層が配置されている、請求項
20に記載の鏡。
【請求項22】
前記周縁面において、
前記ガラス板と前記金属層との間の第1界面、及び前記金属層と前記保護層との間の第2界面を覆うように配置された周縁保護層をさらに備えている、請求項
20または21に記載の鏡。
【請求項23】
前記ガラス板の他方の面が前記第1主面を構成し、
前記第1主面を覆うように防曇層が配置され、
前記周縁面において、
前記ガラス板と前記金属層との間の第1界面、及び前記金属層と前記保護層との間の第2界面を覆うように配置された周縁保護層をさらに備え、
前記防曇層の一部が、前記周縁保護層を覆っている、請求項
20に記載の鏡。
【請求項24】
前記周縁保護層は、紫外線硬化性樹脂により形成されている、請求項
22または23に記載の鏡。
【請求項25】
前記周縁面において外部に露出する前記ガラス板の端面には、前記周縁保護層で覆われていない領域が設けられている、請求項
22から24のいずれかに記載の鏡。
【請求項26】
前記鏡本体が割れたときに、破片が飛散するのを防止する、飛散防止フィルムをさらに備え、
前記飛散防止フィルムが、前記保護層を覆うように配置されている、請求項
20から25のいずれかに記載の鏡。
【請求項27】
前記保護層に、複数の種類の情報が記載されている、請求項
20から26のいずれかに記載の鏡。
【請求項28】
前記防曇層が結露するまでの時間が30秒以上である、請求項1から
27のいずれかに記載の鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
鏡には種々のものがあり、例えば、特許文献1には、防食鏡が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
鏡は、ガラス板を構成要素としているため、慎重に取り扱う必要があり、落とすと割れたり、欠けるおそれがある。本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、落としても欠けにくい鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
項1.平面視多角状に形成され、像が映る第1主面、前記第1主面とは反対側の第2主面、及び前記第1主面及び第2主面とを連結する周縁面を有する、鏡本体を備え、
前記周縁面は、複数の第1端面と、隣接する前記第1端面同士を連結する第2端面と、を備え、
前記第2端面が、平面視において前記鏡本体の外縁に形成された第1面取り部を構成している、鏡。
【0006】
項2.前記第1主面と前記周縁面との間に、第2面取り部が形成されている、項1に記載の鏡。
【0007】
項3.前記第1主面の少なくとも一部を覆う防曇層をさらに備えている、項1または2に記載の鏡。
【0008】
項4.前記防曇層と前記第1主面とが化学的に結合している、項3に記載の鏡。
【0009】
項5.前記防曇層と前記第1主面との間に配置される下地層をさらに備えている、項3または4に記載の鏡。
【0010】
項6.前記第1主面と前記周縁面との間に、第2面取り部が形成されており、
前記防曇層は、前記第2面取り部を覆うように配置されている、項3から5のいずれかに記載の鏡。
【0011】
項7.前記防曇層は、前記周縁面を覆うように配置されている、項6に記載の鏡。
【0012】
項8.前記防曇層の鉛筆硬度が、H~2Hである、項7に記載の鏡。
【0013】
項9.前記防曇層の厚みが、2~12μmである、項3から8のいずれかに記載の鏡。
【0014】
項10.前記第1主面の周縁から中央側へ延びる所定の幅の周縁領域には、前記防曇層が配置されていない、項3から9のいずれかに記載の鏡。
【0015】
項11.前記第1主面の全面が前記防曇層に覆われている、項3から9のいずれかに記載の鏡。
【0016】
項12.前記防曇層は、前記周縁面を覆うように配置されており、
前記周縁面に配置される防曇層の厚みが、前記第1主面に配置される防曇層の厚みよりも大きい、項3から11のいずれかに記載の鏡。
【0017】
項13.前記防曇層は、親水性による防曇性能を有している、項3から12のいずれかに記載の鏡。
【0018】
項14.前記防曇層は、吸水性による防曇性能をさらに有している、項13に記載の鏡。
【0019】
項15.前記防曇層は、吸水性樹脂を主成分とする材料により構成されている、項11記載の鏡。
【0020】
項16.前記吸水性樹脂は、エポキシ樹脂及びポリビニルアセタール樹脂の少なくとも一方を含有する、項15に記載の鏡。
【0021】
項17.前記防曇層は、飛散防止機能を有している、項3から16のいずれかに記載の鏡。
【0022】
項18.前記防曇層は、加水分解性金属化合物によって形成される架橋構造を有している、請求項17に記載の防曇鏡。
【0023】
項19.前記加水分解性金属化合物は、シリコンアルコキシドからなる、項18に記載の防曇鏡。
【0024】
項20.前記鏡本体に対する前記防曇層の密着性は、JIS K5600-5-6に規定するクロスカット試験において、分類0または1である、項17から19のいずれかに記載の防曇鏡。
【0025】
項21.前記鏡本体の第2主面にカッターで直線状の切込みを形成し、水平面に配置した丸棒を、前記切込みと対応するように下側に向けた前記防曇層に接触させ、前記切込みの両側を押圧することで、前記鏡本体を割段したとき、前記防曇層が切断されていない、項17から20のいずれかに記載の防曇鏡。
【0026】
項22.前記防曇層を覆う保護フィルムをさらに備えている、項3から21のいずれかに記載の鏡。
【0027】
項23.前記保護フィルムは、シート状の基材と、前記基材の一方の面に配置された粘着層とを有し、
前記粘着層により、前記基材が前記防曇層に接着され、
前記基材の周縁部には、前記粘着層が配置されていない領域を有する、項22に記載の鏡。
【0028】
項24.前記防曇層は、前記周縁面を覆うように配置されており、
前記保護フィルムは、前記周縁面を覆う前記防曇層の少なくとも一部には接着されていない、項23に記載の鏡。
【0029】
項25.前記保護フィルムは、前記第1面取り部が形成されている箇所において、前記鏡本体から突出するように形成されている、項22から24のいずれかに記載の鏡。
【0030】
項26.前記保護フィルムの曲げ強さは、96~131MPaである、項22から25のいずれかに記載の鏡。
【0031】
項27.前記保護フィルムの厚みは、30~90μmである、項22から26のいずれかに記載の鏡。
【0032】
項28.前記保護フィルムは、複数に分割された状態で前記防曇層を覆うように構成されている、項22から27のいずれかに記載の鏡。
【0033】
項29.前記鏡本体は、
前記ガラス板の一方の面に積層された半金属層と、
前記半金属層上に積層された樹脂製の保護層と、
前記半金属層と前記保護層との間に積層された無機酸化物からなる無機酸化物層と、
を備えている、項1から28のいずれかに記載の鏡。
【0034】
項30.前記半金属層は、SiまたはGeを主成分とする、請求項29に記載の鏡。
【0035】
項31.前記鏡本体は、
ガラス板と、
前記ガラス板の一方の面に積層された金属層と、
前記金属層上に積層された樹脂製の保護層と、
を備えている、項1から28のいずれかに記載の鏡。
【0036】
項32.前記ガラス板の他方の面が前記第1主面を構成し、
前記第1主面を覆うように防曇層が配置されている、項31に記載の鏡。
【0037】
項33.前記周縁面において、
前記ガラス板と前記金属層との間の第1界面、及び前記金属層と前記保護層との間の第2界面を覆うように配置された周縁保護層をさらに備えている、項31または32に記載の鏡。
【0038】
項34.前記ガラス板の他方の面が前記第1主面を構成し、
前記第1主面を覆うように防曇層が配置され、
前記周縁面において、
前記ガラス板と前記金属層との間の第1界面、及び前記金属層と前記保護層との間の第2界面を覆うように配置された周縁保護層をさらに備え、
前記防曇層の一部が、前記周縁保護層を覆っている、項31に記載の鏡。
【0039】
項35.前記周縁保護層は、紫外線硬化性樹脂により形成されている、項33または34に記載の鏡。
【0040】
項36.前記周縁面において外部に露出する前記ガラス板の端面には、前記周縁保護層で覆われていない領域が設けられている、項33から35のいずれかに記載の鏡。
【0041】
項37.前記鏡本体が割れたときに、破片が飛散するのを防止する、飛散防止フィルムをさらに備え、
前記飛散防止フィルムが、前記保護層を覆うように配置されている、項31から36のいずれかに記載の鏡。
【0042】
項38.前記保護層に、複数の種類の情報が記載されている、項31から37のいずれかに記載の鏡。
【0043】
項39.前記防曇層が結露するまでの時間が30秒以上である、項3から38のいずれかに記載の鏡。
【発明の効果】
【0044】
本発明によれば、落としても欠けにくくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図1】本発明に係る鏡の一実施形態を示す平面図である。
【
図3】本発明に係る鏡の他の例を示す断面図である。
【
図4】本発明に係る鏡の他の例を示す断面図である。
【
図5】本発明に係る鏡の他の例を示す断面図である。
【
図6】本発明に係る鏡の他の例を示す断面図である。
【
図8】本発明に係る鏡の他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明に係る鏡の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。本実施形態に係る鏡は、鏡本体を備えている。以下では、まず、鏡本体について説明を行い、その後、鏡本体に付加される防曇層等の各種の付加要素について説明する。
<1.鏡本体の概要>
図1は鏡本体の平面図、
図2は鏡本体のA-A線断面図である。
図1及び
図2に示すように、鏡本体1は、外形として、平面視長方形状に形成され、像が映る第1主面11、この第1主面11とは反対側の第2主面12、及び第1主面11及び第2主面12とを連結する周縁面13を有している。但し、鏡本体1の平面形状は特には限定されず、
図1のような長方形のほか、多角形状に形成することもできる。
【0047】
周縁面13は、4つの第1端面131と、隣接する第1端面131同士を連結する第2端面132と、を備えている。4つの第1端面131は、長方形の主たる4つの辺を構成する端面であり、隣接する第1端面131同士は直交している。第2端面132は、隣接する第1端面131に対し、平面視において斜めに延びるように連結されている。すなわち、第2端面132は、平面視において、鏡本体1の周縁の面取り部を構成している。以下、第2端面132を第1面取り部と称することがある。
【0048】
また、
図1及び
図2に示すように、第1主面11と周縁面13との間に面取り部14を形成することもできるが、必須ではない。以下、この面取り部14を第2面取り部と称することがある。第2面取り部14は、断面において、後述するガラス板2に形成されており、第1主面11と周縁面13に対し、斜めに延びるように連結されている。
【0049】
<2.鏡本体の層構成>
図2に示すように、鏡本体1は、第1面(下面)及び第2面(上面)を有するガラス板2と、このガラス板2の第1面に積層された金属層3と、金属層3を覆うように積層された保護層4と、を有しており、ガラス板2における第2面が第1主面11を構成している。以下、鏡本体1構成する各部材について説明する。
【0050】
<2-1.ガラス板>
本実施形態に係るガラス板2は、公知のガラス板を用いることができ、熱線吸収ガラス、一般的なクリアガラスやグリーンガラス、またはUVグリーンガラスで形成することもできる。以下に、クリアガラス、熱線吸収ガラス、及びソーダ石灰系ガラスの一例を示す。
【0051】
(クリアガラス)
SiO2:70~73質量%
Al2O3:0.6~2.4質量%
CaO:7~12質量%
MgO:1.0~4.5質量%
R2O:13~15質量%(Rはアルカリ金属)
Fe2O3に換算した全酸化鉄(T-Fe2O3):0.08~0.14質量%
【0052】
(熱線吸収ガラス)
熱線吸収ガラスの組成は、例えば、クリアガラスの組成を基準として、Fe2O3に換算した全酸化鉄(T-Fe2O3)の比率を0.4~1.3質量%とし、CeO2の比率を0~2質量%とし、TiO2の比率を0~0.5質量%とし、ガラスの骨格成分(主に、SiO2やAl2O3)をT-Fe2O3、CeO2およびTiO2の増加分だけ減じた組成とすることができる。
【0053】
(ソーダ石灰系ガラス)
SiO2:65~80質量%
Al2O3:0~5質量%
CaO:5~15質量%
MgO:2質量%以上
NaO:10~18質量%
K2O:0~5質量%
MgO+CaO:5~15質量%
Na2O+K2O:10~20質量%
SO3:0.05~0.3質量%
B2O3:0~5質量%
Fe2O3に換算した全酸化鉄(T-Fe2O3):0.02~0.03質量%
【0054】
本実施形態に係るガラス板2の厚みは特には限定されないが、例えば、1~10mmとすることが好ましく、3~8mmであることがさらに好ましい。
【0055】
<2-2.金属層>
金属層3は、銀鏡膜31及び銅膜32によって構成されている。すなわち、ガラス板2の第1面に、像を映す公知の銀鏡膜31が積層され、さらにこの銀鏡膜31を覆うように銅膜32が積層されている。銅膜32は銀鏡膜31の保護層として機能する。但し、銅膜32を省略し、銀鏡膜31のみで金属層を形成することもできる。
【0056】
<2-3.保護層>
保護層4は、上記銅膜32を覆う層であり、エポキシ樹脂、アクリルシリコン樹脂などの樹脂材料で形成することができる。また、この保護層4には、鏡の製造場所、製造年月日、後述する防曇層の情報など、鏡に関する各種の情報を印刷などによって付加することができる。
【0057】
<2-4.周縁保護層>
鏡本体1は、ガラス板2、金属層3、及び保護層4をこの順で積層することにより構成されているため、周縁面13にはこれらの界面が露出する。そのため、これらの界面から水分が浸入すると、金属層3が劣化するおそれがある。そこで、必要に応じて、
図3に示すように、鏡本体1の周縁面13を覆う周縁保護層5を設けることができる。周縁保護層5は、樹脂材料などで形成することができ、例えば、UV硬化樹脂、2液系エポキシ樹脂、熱硬化性樹脂等で形成することができる。なお、周縁保護層5を積層しやすくするため、
図4に示すように、周縁面13に、断面において斜めに切り欠き(面取り部とすることもできる)を形成し、この切り欠きを覆うように周縁保護層5を積層することができる。この場合、
図4に示すように、ガラス板2の端面は露出してもよいし、周縁保護層5で覆っていてもよい。なお、切り欠きは、ガラス板2の端面から保護層4に向かうにしたがって、内側へ斜めに向かうように形成し、この切り欠きにガラス板2、金属層3、及び保護層4の界面が配置されるようにする。
【0058】
<3.防曇層>
図5に示すように、上記鏡本体1のガラス板2の第2主面12には、必要に応じて、防曇層7を積層することができる。以下、防曇層7について詳細に説明する。
【0059】
防曇層7は、ガラス板2の防曇効果を奏するものであれば、特には限定されず、公知のものを用いることができる。一般的に、防曇層7は、水蒸気から生じる水を水膜として表面に形成する親水タイプ、水蒸気を吸収する吸水タイプ、表面に水滴が凝結しにくい撥水吸水タイプ、及び水蒸気から生じる水滴を撥水する撥水タイプがあるが、いずれのタイプの防曇層も適用可能である。以下では、その一例として、撥水吸水タイプの防曇層の例を説明する。
[有機無機複合防曇層]
有機無機複合防曇層は、ガラス板2の表面に形成された単層膜もしくは積層された複層膜である。有機無機複合防曇層は、少なくとも吸水性樹脂と撥水基と金属酸化物成分とを含んでいる。防曇層7は、必要に応じ、その他の機能成分をさらに含んでいてもよい。吸水性樹脂は、水を吸収して保持できる樹脂であればその種類を問わない。撥水基は、撥水基を有する金属化合物(撥水基含有金属化合物)から防曇層7に供給することができる。金属酸化物成分は、撥水基含有金属化合物その他の金属化合物、金属酸化物微粒子等から防曇層7に供給することができる。以下、各成分について説明する。
【0060】
(吸水性樹脂)
吸水性樹脂としては特に制限はなく、ポリエチレングリコール、ポリエーテル系樹脂、ポリウレタン樹脂、デンプン系樹脂、セルロース系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステルポリオール、ヒドロキシアルキルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセタール樹脂、ポリ酢酸ビニル等が挙げられる。これらのうち好ましいのは、ヒドロキシアルキルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセタール樹脂、ポリ酢酸ビニル、エポキシ系樹脂及びポリウレタン樹脂であり、より好ましいのは、ポリビニルアセタール樹脂、エポキシ系樹脂及びポリウレタン樹脂であり、特に好ましいのは、ポリビニルアセタール樹脂である。
【0061】
ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコールにアルデヒドを縮合反応させてアセタール化することにより得ることができる。ポリビニルアルコールのアセタール化は、酸触媒の存在下で水媒体を用いる沈澱法、アルコール等の溶媒を用いる溶解法等公知の方法を用いて実施すればよい。アセタール化は、ポリ酢酸ビニルのケン化と並行して実施することもできる。アセタール化度は、2~40モル%、さらには3~30モル%、特に5~20モル%、場合によっては5~15モル%が好ましい。アセタール化度は、例えば13C核磁気共鳴スペクトル法に基づいて測定することができる。アセタール化度が上記範囲にあるポリビニルアセタール樹脂は、吸水性及び耐水性が良好である有機無機複合防曇層の形成に適している。
【0062】
ポリビニルアルコールの平均重合度は、好ましくは200~4500であり、より好ましくは500~4500である。高い平均重合度は、吸水性及び耐水性が良好である有機無機複合防曇層の形成に有利であるが、平均重合度が高すぎると溶液の粘度が高くなり過ぎて膜の形成に支障をきたすことがある。ポリビニルアルコールのケン化度は、75~99.8モル%が好ましい。
【0063】
ポリビニルアルコールに縮合反応させるアルデヒドとしては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、ヘキシルカルバルデヒド、オクチルカルバルデヒド、デシルカルバルデヒド等の脂肪族アルデヒドを挙げることができる。また、ベンズアルデヒド;2-メチルベンズアルデヒド、3-メチルベンズアルデヒド、4-メチルベンズアルデヒド、その他のアルキル基置換ベンズアルデヒド;クロロベンズアルデヒド、その他のハロゲン原子置換ベンズアルデヒド;ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、シアノ基等のアルキル基を除く官能基により水素原子が置換された置換ベンズアルデヒド;ナフトアルデヒド、アントラアルデヒド等の縮合芳香環アルデヒド等の芳香族アルデヒドを挙げることができる。疎水性が強い芳香族アルデヒドは、低アセタール化度で耐水性に優れた有機無機複合防曇層を形成する上で有利である。芳香族アルデヒドの使用は、水酸基を多く残存させながら吸水性が高い膜を形成する上でも有利である。ポリビニルアセタール樹脂は、芳香族アルデヒド、特にベンズアルデヒドに由来するアセタール構造を含むことが好ましい。
【0064】
エポキシ系樹脂としては、グリシジルエーテル系エポキシ樹脂、グリシジルエステル系エポキシ樹脂、グリシジルアミン系エポキシ樹脂、環式脂肪族エポキシ樹脂等が挙げられる。これらのうち好ましいのは、環式脂肪族エポキシ樹脂である。
【0065】
ポリウレタン樹脂としては、ポリイソシアネートとポリオールとで構成されるポリウレタン樹脂が挙げられる。ポリオールとしては、アクリルポリオール及びポリオキシアルキレン系ポリオールが好ましい。
【0066】
有機無機複合防曇層は、吸水性樹脂を主成分とする。本発明において、「主成分」とは、質量基準で含有率が最も高い成分を意味する。有機無機複合防曇層の重量に基づく吸水性樹脂の含有率は、膜硬度、吸水性及び防曇性の観点から、好ましくは50重量%以上、より好ましくは60重量%以上、特に好ましくは65重量%以上であり、95重量%以下、より好ましくは90重量%以下である。
【0067】
(撥水基)
撥水基による上述の効果を十分に得るためには、撥水性が高い撥水基を用いることが好ましい。好ましい撥水基は、(1)炭素数3~30の鎖状又は環状のアルキル基、及び(2)水素原子の少なくとも一部をフッ素原子により置換した炭素数1~30の鎖状又は環状のアルキル基(以下、「フッ素置換アルキル基」ということがある)から選ばれる少なくとも1種である。
【0068】
(1)及び(2)に関し、鎖状又は環状のアルキル基は、鎖状アルキル基であることが好ましい。鎖状アルキル基は、分岐を有するアルキル基であってもよいが、直鎖アルキル基が好ましい。炭素数が30を超えるアルキル基は、防曇層7を白濁させることがある。膜の防曇性、強度及び外観のバランスの観点から、アルキル基の炭素数は、20以下が好ましく、6~14がより好ましい。特に好ましいアルキル基は、炭素数6~14、特に炭素数6~12の直鎖アルキル基、例えばn-ヘキシル基(炭素数6)、n-デシル基(炭素数10)、n-ドデシル基(炭素数12)である。(2)に関し、フッ素置換アルキル基は、鎖状又は環状のアルキル基の水素原子の一部のみをフッ素原子により置換した基であってもよく、鎖状又は環状のアルキル基の水素原子のすべてをフッ素原子により置換した基、例えば直鎖状のパーフルオロアルキル基、であってもよい。フッ素置換アルキル基は撥水性が高いため、少ない量の添加によって十分な効果を得ることができる。ただし、フッ素置換アルキル基は、その含有量が多くなり過ぎると、膜を形成するための塗工液中でその他の成分から分離することがある。
【0069】
(撥水基を有する加水分解性金属化合物)
撥水基を防曇層7に配合するためには、撥水基を有する金属化合物(撥水基含有金属化合物)、特に撥水基と加水分解可能な官能基又はハロゲン原子とを有する金属化合物(撥水基含有加水分解性金属化合物)又はその加水分解物を、膜を形成するための塗工液に添加するとよい。言い換えると、撥水基は、撥水基含有加水分解性金属化合物に由来するものであってもよい。撥水基含有加水分解性金属化合物としては、以下の式(I)に示す撥水基含有加水分解性シリコン化合物が好適である。
RmSiY4-m (I)
ここで、Rは、撥水基、すなわち水素原子の少なくとも一部がフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1~30の鎖状又は環状のアルキル基であり、Yは加水分解可能な官能基又はハロゲン原子であり、mは1~3の整数である。加水分解可能な官能基は、例えば、アルコキシル基、アセトキシ基、アルケニルオキシ基及びアミノ基から選ばれる少なくとも1種であり、好ましくはアルコキシ基、特に炭素数1~4のアルコキシ基である。アルケニルオキシ基は、例えばイソプロペノキシ基である。ハロゲン原子は、好ましくは塩素である。なお、ここに例示した官能基は、以降に述べる「加水分解可能な官能基」としても使用することができる。mは好ましくは1~2である。
【0070】
式(I)により示される化合物は、加水分解及び重縮合が完全に進行すると、以下の式(II)により表示される成分を供給する。
RmSiO(4-m)/2 (II)
ここで、R及びmは、上述したとおりである。加水分解及び重縮合の後、式(II)により示される化合物は、実際には、防曇層7中において、シリコン原子が酸素原子を介して互いに結合したネットワーク構造を形成する。
【0071】
このように、式(I)により示される化合物は、加水分解又は部分加水分解し、さらには少なくとも一部が重縮合して、シリコン原子と酸素原子とが交互に接続し、かつ三次元的に広がるシロキサン結合(Si-O-Si)のネットワーク構造を形成する。このネットワーク構造に含まれるシリコン原子には撥水基Rが接続している。言い換えると、撥水基Rは、結合R-Siを介してシロキサン結合のネットワーク構造に固定される。この構造は、撥水基Rを膜に均一に分散させる上で有利である。ネットワーク構造は、式(I)により示される撥水基含有加水分解性シリコン化合物以外のシリコン化合物(例えば、テトラアルコキシシラン、シランカップリング剤)から供給されるシリカ成分を含んでいてもよい。撥水基を有さず加水分解可能な官能基又はハロゲン原子を有するシリコン化合物(撥水基非含有加水分解性シリコン化合物)を撥水基含有加水分解性シリコン化合物と共に防曇層7を形成するための塗工液に配合すると、撥水基と結合したシリコン原子と撥水基と結合していないシリコン原子とを含むシロキサン結合のネットワーク構造を形成できる。このような構造とすれば、防曇層中における撥水基の含有率と金属酸化物成分の含有率とを互いに独立して調整することが容易になる。
【0072】
撥水基は、吸水性樹脂を含む防曇層7表面における水蒸気の透過性を向上させることにより防曇性能を向上させる効果がある。吸水と撥水という2つの機能は互いに相反するため、吸水性材料と撥水性材料とは、従来、別の層に振り分けて付与されてきたが、撥水基は、防曇層の表面近傍における水の偏在を解消して結露までの時間を引き延ばし、単層構造を有する防曇層の防曇性を向上させる。以下ではその効果を説明する。
【0073】
吸水性樹脂を含む防曇層7へと侵入した水蒸気は、吸水性樹脂等の水酸基と水素結合し、結合水の形態で保持される。量が増加するにつれ、水蒸気は、結合水の形態から半結合水の形態を経て、ついには防曇層中の空隙に保持される自由水の形態で保持されるようになる。防曇層7において、撥水基は、水素結合の形成を妨げ、かつ形成した水素結合の解離を容易にする。吸水性樹脂の含有率が同じであれば、膜中における水素結合可能な水酸基の数には差がないが、撥水基は水素結合の形成速度を低下させる。したがって、撥水基を含有する防曇層7において、水分は、最終的には上記のいずれかの形態で膜に保持されることになるが、保持されるまでには膜の底部まで水蒸気のまま拡散することができる。また、一旦保持された水も、比較的容易に解離し、水蒸気の状態で膜の底部まで移動しやすい。結果的に、膜の厚さ方向についての水分の保持量の分布は、表面近傍から膜の底部まで比較的均一になる。つまり、防曇層の厚さ方向の全てを有効に活用し、膜表面に供給された水を吸収することができるため、表面に水滴が凝結しにくく、防曇性が高くなる。さらに、表面に水滴が凝結しにくいことにより、水分を吸収した防曇層は、低温でも凍結しにくいという特徴を有する。
【0074】
一方、撥水基を含まない防曇層においては、膜中に侵入した水蒸気は極めて容易に結合水、半結合水又は自由水の形態で保持される。したがって、侵入した水蒸気は、膜の表面近傍で保持される傾向にある。結果的に、膜中の水分は、表面近傍が極端に多く、膜の底部へ進むにつれて急速に減少する。つまり、膜の底部では未だ水を吸収できるにも拘わらず、膜の表面近傍では水分により飽和して水滴として凝結するため、防曇性が限られたものとなる。
【0075】
撥水基含有加水分解性シリコン化合物(式(I)参照)を用いて撥水基を防曇層に導入すると、強固なシロキサン結合(Si-O-Si)のネットワーク構造が形成される。このネットワーク構造の形成は、耐摩耗性のみならず、硬度、耐水性等を向上させる観点からも有利である。
【0076】
撥水基は、防曇層の表面における水の接触角が70度以上、好ましくは80度以上、より好ましくは90度以上になる程度に添加するとよい。水の接触角は、4mgの水滴を膜の表面に滴下して測定した値を採用することとする。特に撥水性がやや弱いメチル基又はエチル基を撥水基として用いる場合は、水の接触角が上記の範囲となる量の撥水基を防曇層に配合することが好ましい。この水滴の接触角は、その上限が特に制限されるわけではないが、例えば150度以下、また例えば120度以下、さらには100度以下である。撥水基は、防曇層の表面のすべての領域において上記水滴の接触角が上記の範囲となるように、防曇層に均一に含有させることが好ましい。
【0077】
防曇層は、吸水性樹脂100質量部に対し、0.05質量部以上、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上の範囲内となるように、また、10質量部以下、好ましくは5質量部以下、の範囲内となるように、撥水基を含むことが好ましい。
【0078】
(無機酸化物)
無機酸化物は、例えば、Si、Ti、Zr、Ta、Nb、Nd、La、Ce及びSnから選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物であり、少なくとも、Siの酸化物(シリカ)を含む。有機無機複合防曇層は、吸水性樹脂100重量部に対し、好ましくは0.01重量部以上であり、より好ましくは0.1重量部以上、さらに好ましくは0.2重量部以上、特に好ましくは1重量部以上、最も好ましくは5重量部以上、場合によっては10重量部以上、必要であれば20重量部以上、また、好ましくは50重量部以下、より好ましくは45重量部以下、さらに好ましくは40重量部以下、特に好ましくは35重量部以下、最も好ましくは33重量部以下、場合によっては30重量部以下となるように、無機酸化物を含むことが好ましい。無機酸化物は、有機無機複合防曇層の強度、特に耐摩耗性を確保するために必要な成分であるが、その含有量が多くなると、有機無機複合防曇層の防曇性が低下する。
【0079】
(無機酸化物微粒子)
有機無機複合防曇層は、無機酸化物の少なくとも一部として、無機酸化物微粒子をさらに含んでいてもよい。無機酸化物微粒子を構成する無機酸化物は、例えば、Si、Ti、Zr、Ta、Nb、Nd、La、Ce及びSnから選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物であり、好ましくはシリカ微粒子である。シリカ微粒子は、例えば、コロイダルシリカを添加することにより有機無機複合防曇層に導入できる。無機酸化物微粒子は、有機無機複合防曇層に加えられた応力を、有機無機複合防曇層を支持する物品に伝達する作用に優れ、硬度も高い。したがって、無機酸化物微粒子の添加は、有機無機複合防曇層の耐摩耗性を向上させる観点から有利である。また、有機無機複合防曇層に無機酸化物微粒子を添加すると、微粒子が接触又は近接している部位に微細な空隙が形成され、この空隙から膜中に水蒸気が取り込まれやすくなる。このため、無機酸化物微粒子の添加は、防曇性の向上に有利に作用することもある。無機酸化物微粒子は、有機無機複合防曇層を形成するための塗工液に、予め形成した無機酸化物微粒子を添加することにより、有機無機複合防曇層に供給することができる。
【0080】
無機酸化物微粒子の平均粒径が大きすぎると、有機無機複合防曇層が白濁することがあり、小さすぎると凝集して均一に分散させることが困難となる。この観点から、無機酸化物微粒子の平均粒径は、好ましくは1~20nmであり、より好ましくは5~20nmである。なお、ここでは、無機酸化物微粒子の平均粒径を、一次粒子の状態で記述している。また、無機酸化物微粒子の平均粒径は、走査型電子顕微鏡を用いた観察により任意に選択した50個の微粒子の粒径を測定し、その平均値を採用して定めることとする。無機酸化物微粒子は、その含有量が多くなると、有機無機複合防曇層全体の吸水量が低下し、有機無機複合防曇層が白濁するおそれがある。無機酸化物微粒子は、吸水性樹脂100重量部に対し、好ましくは0~50重量部であり、より好ましくは2~30重量部、さらに好ましくは5~25重量部、特に好ましくは10~20重量部となるように添加するとよい。
【0081】
(撥水基を有しない加水分解性金属化合物)
防曇層は、撥水基を有しない加水分解性金属化合物(撥水基非含有加水分解性化合物)に由来する金属酸化物成分を含んでいてもよい。好ましい撥水基非含有加水分解性金属化合物は、撥水基を有しない加水分解性シリコン化合物である。撥水基を有しない加水分解性シリコン化合物は、例えば、シリコンアルコキシド、クロロシラン、アセトキシシラン、アルケニルオキシシラン及びアミノシランから選ばれる少なくとも1種のシリコン化合物(ただし、撥水基を有しない)であり、撥水基を有しないシリコンアルコキシドが好ましい。なお、アルケニルオキシシランとしては、イソプロペノキシシランを例示できる。
【0082】
撥水基を有しない加水分解性シリコン化合物は、以下の式(III)に示す化合物であってもよい。
SiY4 (III)
上述したとおり、Yは、加水分解可能な官能基であって、好ましくはアルコキシル基、アセトキシ基、アルケニルオキシ基、アミノ基及びハロゲン原子から選ばれる少なくとも1つである。
【0083】
撥水基非含有加水分解性金属化合物は、加水分解又は部分加水分解し、さらに、少なくともその一部が重縮合して、金属原子と酸素原子とが結合した金属酸化物成分を供給する。この成分は、金属酸化物微粒子と吸水性樹脂とを強固に接合し、防曇層の耐摩耗性、硬度、耐水性等の向上に寄与しうる。撥水基を有しない加水分解性金属化合物に由来する金属酸化物成分は、吸水性樹脂100質量部に対し、0~40質量部、好ましくは0.1~30質量部、より好ましくは1~20質量部、特に好ましくは3~10質量部、場合によっては4~12質量部の範囲とするとよい。
【0084】
撥水基を有しない加水分解性シリコン化合物の好ましい一例は、テトラアルコキシシラン、より具体的には炭素数が1~4のアルコキシ基を有するテトラアルコキシシランである。テトラアルコキシシランは、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ-n-プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ-n-ブトキシシラン、テトライソブトキシシラン、テトラ-sec-ブトキシシラン及びテトラ-tert-ブトキシシランから選ばれる少なくとも1種である。
【0085】
テトラアルコキシシランに由来する金属酸化物(シリカ)成分の含有量が過大となると、防曇層の防曇性が低下することがある。防曇層の柔軟性が低下し、水分の吸収及び放出に伴う膜の膨潤及び収縮が制限されることが一因である。テトラアルコキシシランに由来する金属酸化物成分は、吸水性樹脂100質量部に対し、0~30質量部、好ましくは1~20質量部、より好ましくは3~10質量部の範囲で添加するとよい。
【0086】
撥水基を有しない加水分解性シリコン化合物の好ましい別の一例は、シランカップリング剤である。シランカップリング剤は、互いに異なる反応性官能基を有するシリコン化合物である。反応性官能基は、その一部が加水分解可能な官能基であることが好ましい。シランカップリング剤は、例えば、エポキシ基及び/又はアミノ基と加水分解可能な官能基とを有するシリコン化合物である。好ましいシランカップリング剤としては、グリシジルオキシアルキルトリアルコキシシラン及びアミノアルキルトリアルコキシシランを例示できる。これらのシランカップリング剤において、シリコン原子に直接結合しているアルキレン基の炭素数は1~3であることが好ましい。グリシジルオキシアルキル基及びアミノアルキル基は、親水性を示す官能基(エポキシ基、アミノ基)を含むため、アルキレン基を含むものの、全体として撥水性ではない。
【0087】
シランカップリング剤は、有機成分である吸水性樹脂と無機成分である金属酸化物微粒子等とを強固に結合し、防曇層の耐摩耗性、硬度、耐水性等の向上に寄与しうる。しかし、シランカップリング剤に由来する金属酸化物(シリカ)成分の含有量が過大となると、防曇層の防曇性が低下し、場合によっては防曇層が白濁する。シランカップリング剤に由来する金属酸化物成分は、吸水性樹脂100質量部に対し、0~10質量部、好ましくは0.05~5質量部、より好ましくは0.1~2質量部の範囲で添加するとよい。
【0088】
(架橋構造)
防曇層は、架橋剤、好ましくは有機ホウ素化合物、有機チタン化合物及び有機ジルコニウム化合物から選ばれる少なくとも1種の架橋剤、に由来する架橋構造を含んでいてもよい。架橋構造の導入は、防曇層の耐摩耗性、耐擦傷性、耐水性を向上させる。別の観点から述べると、架橋構造の導入は、防曇層の防曇性能を低下させることなくその耐久性を改善することを容易にする。
【0089】
金属酸化物成分がシリカ成分である防曇層に架橋剤に由来する架橋構造を導入した場合、その防曇層は、金属原子としてシリコンと共にシリコン以外の金属原子、好ましくはホウ素、チタン又はジルコニウム、を含有することがある。
【0090】
架橋剤は、用いる吸水性樹脂を架橋できるものであれば、その種類は特に限定されない。ここでは、有機チタン化合物についてのみ例を挙げる。有機チタン化合物は、例えば、チタンアルコキシド、チタンキレート系化合物及びチタンアシレートから選ばれる少なくとも1つである。チタンアルコキシドは、例えば、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラ-n-ブトキシド、チタンテトラオクトキシドである。チタンキレ-ト系化合物は、例えば、チタンアセチルアセトナート、チタンアセト酢酸エチル、チタンオクチレングリコール、チタントリエタノールアミン、チタンラクテートである。チタンラクテートは、アンモニウム塩(チタンラクテートアンモニウム)であってもよい。チタンアシレートは、例えばチタンステアレートである。好ましい有機チタン化合物は、チタンキレート系化合物、特にチタンラクテートである。
【0091】
吸水性樹脂がポリビニルアセタールである場合の好ましい架橋剤は、有機チタン化合物、特にチタンラクテートである。
【0092】
また、上述したシリコンアルコキシド等の加水分解性金属化合物によって架橋構造が形成されると、防曇層7と鏡本体1との密着性が向上するとともに、防曇層7が飛散防止機能を奏することができる。防曇層を形成する際に用いる防曇層用塗工液におけるシリコンアルコキシド添加量は、ポリビニルアセタールまたはポリエポキシ樹脂からなる吸水性樹脂100質量部に対して、1質量部以上、好ましくは1.5質量部以上であり、50質量部以下、好ましくは30質量部以下が好ましい。加水分解性金属化合物の添加量が少ないと、鏡本体1と防曇層7との密着性が低下し、防曇層7が鏡本体1から剥がれやすくなる。一方、加水分解性金属化合物の添加量が多いと、防曇層7が硬くなるため、鏡本体1が破断したときに破れやすくなる。したがって、防曇層7の飛散防止機能が低下する。
【0093】
(その他の任意成分)
防曇層にはその他の添加剤を配合してもよい。添加剤としては、防曇性を改善する機能を有するグリセリン、エチレングリコール等のグリコール類が挙げられる。添加剤は、界面活性剤、レベリング剤、紫外線吸収剤、着色剤、消泡剤、防腐剤等であってもよい。
【0094】
(下地層)
防曇層7は、ガラス板2に直接積層することもできるが、ガラス板2上に下地層を形成し、その上に、防曇層7を積層することもできる。このように下地層を介して、防曇層7をガラス板2上に積層することで、防曇層7を剥がれにくくすることができる。下地層は、例えば、シランカップリング剤等を採用することができる。
【0095】
[膜厚]
有機無機複合防曇層の膜厚は、要求される防曇特性その他に応じて適宜調整すればよい。有機無機複合防曇層の厚みは、好ましくは2~12μmであり、より好ましくは2~15μm、さらに好ましくは3~10μmである。防曇層7の厚みが2μm以上であれば、十分な防曇効果を得ることができる。しかしながら、防曇層7が厚すぎると、その縁部が視認されやすくなり、好ましくない。これに対しては、例えば、
図6に示すように、防曇層7を第1主面11の縁部から第2面取り部14を覆うように防曇層を延長することもできる。あるいは、周縁面13の全体または一部を覆うように延ばすこともできる。このようにすると、防曇層7が厚くても、その縁部を視認できなくすることができる。また、防曇層7が厚すぎると、膜厚のムラにより反射像が歪むおそれがある。また、防曇層7は、上記のように樹脂材料から形成されており、複屈折率を有するため、厚すぎると像がぼやけるおそれがある。
【0096】
なお、上述した周縁保護層及び防曇層の両方を設けることもできる。このとき、防曇層7を形成する順序は特には限定されないが、例えば、
図4に示す周縁保護層5を形成する場合には、その後に、防曇層7を形成することが好ましい。これは、防曇層7を先に形成すると、防曇層用の溶液に含まれる酸性溶液が鏡本体1の周縁面13から露出する各部材の界面に接するおそれがあるため、これを防ぐために、先に周縁保護層7を形成することが好ましい。この場合、周縁保護層5の一部に防曇層7が積層されることがある。また、鏡本体1の周縁面13は、周縁保護層5及び防曇層7のいずれか一方で完全に覆われていてもよいし、一部が露出するようにしてもよい。例えば、ガラス板2の端面の少なくとも一部を露出させてもよい。
【0097】
ところで、上記のように防曇層7を周縁面13にまで延長すると、表面張力により周縁面13に形成される防曇層7の厚みが、第1主面11に形成される防曇層7の厚みよりも大きくなる。なお、生産性やコストを考慮すると、大型の鏡本体を形成し、その上に防曇層を積層した後に、種々の製品の要求に応じた大きさの鏡を切り出すことが考えられる。しかしながら、製品の品種によっては求められる防曇性能などの仕様が相違するため、求められる製品の大きさに鏡本体を切断した後に、防曇層7を積層することが好ましい。これにより、不要な在庫を抑え、多品種生産に対応することができる。
【0098】
[硬度]
防曇層7の硬さは、例えば、JIS K5600-5-4で規定する鉛筆硬度がH~2Hであることが好ましい。これは、防曇層が硬すぎると、防曇性能が十分に得られない一方、柔らかすぎると耐久性に劣るからである。
【0099】
[防曇層の形成範囲]
防曇層7は、上記のようにガラス板2全体に積層することもできるが、例えば、鏡本体1を支持する枠体を設けるとき、枠体が取り付けられる領域には、防曇層7を形成しないようにすることができる。これは、枠体が取り付けられることで防曇層に傷がつきやすいからである。枠体が設けられる部分は、例えば、ガラス板の周縁から内側へ5mm程度の領域とすることができる。このような領域は、例えば、防曇層7を形成する際に、ガラス板2の周縁をマスキングすることで形成することができる。
【0100】
なお、上述した防曇層は一例であり、その他の公知の防曇層を用いることができ、例えば、特開2001-146585号公報に記載の防曇層など、種々のものを用いることができる。そして、以上のような防曇層を形成することで、次に説明する防曇性能試験による結露までの時間を30秒以上、好ましくは60秒以上、より好ましくは100秒以上とすることができる。
【0101】
防曇性能試験は、室温20~23℃、湿度20~23%RHの環境内で次のように行うことができる。まず、
図7に示すように、内径が80mm、軸方向の長さが60mmの円筒を準備し、これを35℃の水が貯留された水槽の上方に配置した。このとき、円筒の上端と水槽の水面との距離を100mmとした。次に、防曇層7が形成された鏡を20℃、30%RHに、30分以上保管した後、円筒の上部開口を塞ぐように配置した。このとき、防曇層7を下向きにし、水と対向するようにした。そして、防曇層7が曇るまでの時間を測定した。
【0102】
<4.保護フィルム>
防曇層7は、保護フィルムによって覆うこともできる。保護フィルムは、シート状の基材と、この基材の一方面に積層される粘着剤層と、で構成することができる。そして、粘着剤層を防曇層に貼り付けることで、防曇層7を保護することができる。なお、保護フィルムは、鏡を使用する際に、取り外す。基材を形成する材料は得には限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、アクリル系樹脂等の樹脂材料で形成することができる。
【0103】
粘着剤層は、基材を防曇層7に適切な強度で固定できるものであればよい。具体的には、常温でタック性を有するアクリル系、ゴム系、及びメタクリル系とアクリル系のモノマーを共重合し、所望のガラス転移温度に設定した樹脂などの粘着層を使用できる。アクリル系モノマーとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ステアリル及びアクリル酸2エチルヘキシル等を適用することができ、メタクリル系モノマーとしては、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル及びメタクリル酸ステアリル等を適用することができる。また、ヒートラミネートなどで施工をする場合には、ラミネート温度で軟化する有機物を用いても良い。ガラス転移温度は、例えばメタクリル系とアクリル系のモノマーを共重合した樹脂の場合、各モノマーの配合比を変更することによって調整することができる。
【0104】
保護フィルムの厚みは、得には限定されないが、例えば、30~90μmとすることができる。保護フィルムの厚みが薄すぎると、防曇層7を十分に保護できず、防曇層7が傷つくおそれがある。一方、保護フィルムが厚すぎると、防曇層に貼り付けにくくなるおそれがある。
【0105】
保護フィルムの曲げ強さは、特には限定されないが、例えば、96~131MPaとすることができる。これは、保護フィルムの曲げ強さが低いと、保護フィルムが防曇層7の端縁にまで密着し、剥離しがたくなるおそれがある。一方、保護フィルムの曲げ強さが高いと、防曇層7に貼り付けにくくなるおそれがある。
【0106】
保護フィルムは、種々の態様で防曇層7を覆うことができる。例えば、防曇層7と同じ面積に形成して、防曇層7の全体を覆うほか、
図8に示すように、保護フィルム9が周縁面13から外側にはみ出すように形成することもできる。このようにすると、はみ出した部分を掴んで、保護フィルム9を剥がしやすくすることができる。このとき、はみ出した部分が、周縁面に沿うように曲げてもよい。また、はみ出す部分を小さくするため、第2面取り部14と対応する部分のみをはみ出すようにすることもできる。
【0107】
また、一枚の保護フィルムで防曇層7を覆ってもよいし、複数の保護フィルムで防曇層を覆ってもよい。すなわち、保護フィルムは、分割してもよい。
【0108】
<5.飛散防止層>
鏡が割れたときに、破片が飛散するのを防止するため、保護層4に飛散防止層を積層することもできる。飛散防止層は、例えば、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート等の樹脂材料で形成することができ、これを接着剤により保護層4に固定することができる。
【0109】
<6.特徴>
以上説明した鏡によれば、次のような効果を得ることができる。
(1)鏡本体1に第1面取り部132が形成されているため、落としたときに鏡本体1が欠けにくいという利点がある。また、第2面取り部14によっても、同様の効果を得ることができる。
(2)防曇層7を形成することで、鏡本体1のガラス板2が曇るのを防止することができる。
(3)防曇層7を鏡本体1の第1主面11に形成することで、第1主面11側からの衝撃を防曇層7によって吸収することができる。その結果、ガラス板2自体が破損しても、ガラス片が飛散するのを抑制することができる。
(4)上記のように、防曇層7は種々の材料で形成することができるが、例えば、吸水性樹脂を主成分とする材料で形成すると、防曇層7が、水を吸収して伸縮する能力を有することになるため、衝撃を吸収することができる。その結果、衝撃を緩和してガラス板2の破損を抑制することができる。また、吸収性樹脂は伸縮することができ、ガラス板2と強固に結合しているので、万一、ガラス板2が破損しても、ガラス片の飛散を抑制することができる。
【0110】
<7.変形例>
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。なお、以下の変形例は適宜組み合わせることができる。
【0111】
上記実施形態では、ガラス板に、金属層と保護層とをこの順で積層した例について説明したが、これらの代わりに半透過反射膜を積層することもできる。半島か反射膜は、いわゆるハーフミラーとして機能する膜である。半透過反射膜は、一例として、ガラス板上に積層される第1層と、第1層上に積層される第2層とを有している。但し、必要に応じて、第3層、第4層等、追加の層を設けることもできる。半透過反射膜を構成する層として、金属または半金属からなる金属反射層を用いる場合には、金属反射層の直上に低屈折率層または高屈折率層を積層した2層からなるユニットを1ユニット以上、または、金属反射層の上に低屈折率層及び高屈折率層をこの順で積層したユニットを1ユニット以上、積層することができる。金属反射層を用いない場合は、高屈折率層の上に、低屈折率層及び高屈折率層をこの順で積層したユニットを1ユニット以上積層することができる。高屈折率層の屈折率は、例えば、1.6以上であることが好ましく、1.8以上であることがさらに好ましい。低屈折率層の屈折率は、これよりも低く、例えば、1.6以下であることが好ましく、1.5以下であることがさらに好ましい。なお、高屈折率層及び低屈折率層は、屈折率の条件を満たせば、1つ以上の材料を積層することで形成することもできる。
【0112】
次に、半透過反射膜の各層の材料について説明する。半透過反射膜を構成する各層は、金属または半金属からなる層と、無機金属酸化物からなる層(無機酸化物層)によって形成することができ、例えば、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、SUSまたは別の好適な金属または半金属、二酸化ケイ素(SiO
2)、酸化スズ(SnO
2)、二酸化チタン(TiO
2)、または別の好適な無機金属酸化物から、上述した屈折率の範囲を満たすように、適宜選択される。例えば、シリコン、二酸化ケイ素、酸化スズ、二酸化チタン、SUS、Ag、Al、Cr、Mo、Tiの屈折率は、それぞれ、約4.4,約1.4、約1.8、約2.2、約2.4、約0.14、約1.4、約2.4、約3.6、約2.7である。半透過反射膜の層構成は、特には限定されないが、例えば、以下のようにすることができる。また、各層の電気抵抗を調整するため、添加物を適宜、ドープすることもできる。なお、例2,3の第1層のSiの代わりに、Ag,Al,Cr,Ti,またはMoを採用することもできる。
【表1】
【0113】
なお、例1及び例3では、第1層とガラス板2との間に下地層としてSiO2を設けることができる。また、SUSを用いると、可視光吸収率が向上することができる。可視光吸収率が向上すると、可視光反射率と可視光透過率の合計値が低減するため、可視光反射率と可視光透過率の調整が容易になる。
【0114】
以上のような金属または半金属を含有する無機金属酸化物で半透過反射膜を形成すると、広角度から半透過反射膜を見た場合に、色調が大きく変化しないので、本発明の鏡は、光学用カバーガラスとして適する。但し、金属反射層は、傷つきやすいため、鏡の最表面に配置されないことが好ましい。また、無機金属酸化物層を設けることで、耐アルカリ性を向上することができる。
【0115】
半透過反射膜の膜厚(物理膜厚)は、3~300nmであることが好ましく、5~250nmであることがさらに好ましい。半透過反射膜の膜厚が10nm未満となると、膜厚の制御が困難になり生産性が悪くなるという問題が生じる。一方、300nmを超えると、コストが高くなったり、表面の凹凸が顕著になりやヘイズ率が上昇し見栄えがよくない可能性がある。また、半透過反射膜を構成する各層の膜厚は、半透過反射膜の膜厚が上述した範囲となるように適宜調整することができ、特には限定されない。例えば、上記例2においては、第1層を18nm、第2層を85nm、第3層を65nmとした半透過反射膜を形成することができる。上記例4においては、シリコンの膜厚を約18nm、二酸化ケイ素の膜厚を約30nmとすることができる。その他、例1及び例3の二酸化チタンの膜厚は、約6nm、例5のSUSの膜厚は、約8nmとすることができる。
【0116】
また、例2において、第1層での反射を増反射するために、第2層に低屈折材料、第3層に高屈折材料を積層することができる。例えば、上記のように、第1層を18nm、第2層を85nm、第3層を65nmとし、半透過反射膜の光学膜厚を135nm±20nmに設定すれば、入射する光の波長λ(中心波長:550nm)に対し、光学膜厚をλ/4になるため、第1層と第2層との界面での反射を強めることができる。このようなに、各層の膜厚と屈折率を調整できるのであれば、例2に示した材料以外でもよい。
【0117】
半透過反射膜を設けることによる鏡の可視光透過率は、20%以上70%以下であることが好ましく、35%以上60%以下であることがさらに好ましく、35%以上50%以下であることが特に好ましい。一方、鏡の可視光反射率は、可視光透過率とトレードオフの関係にあるため、30%以上80%以下であることが好ましく、40%以上65%以下であることがさらに好ましく、50%以上65%以下であることが特に好ましい。
【0118】
このような鏡の可視光透過率及び可視光反射率は、半透過反射膜を構成する材料や膜厚、ガラス板2の材料や厚みを変更することで調整することができる。
【0119】
次に、半透過反射膜の成膜方法について説明する。半透過反射膜の成膜方法は特には限定されないが、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法などのいわゆる物理蒸着法、スプレー法、あるいは、化学気相法(CVD法)を採用することができる。特に、CVD法を採用する場合、オンラインCVD法を採用することが好ましい。オンラインCVD法とは、フロート法ガラス製造工程において、溶融錫浴上にある温度が615℃以上のガラスリボンのトップ面上に、コーターから半透過反射膜用の材料を供給し、熱分解酸化反応により半透過反射膜を形成する化学蒸着法の一つである。
【0120】
半透過反射膜の各層を成膜するには、1つのコーターから1つの材料を供給することができるが、層の膜厚が大きい場合には、2以上のコーターによって1つの層を成膜することもできる。例えば、上記例4において、シリコンの膜厚が18nm、二酸化ケイ素の膜厚が30nmである場合、第1~第3コーターを準備し、第1コーターによりシリコンを供給し、第2及び第3コーターにより二酸化ケイ素を供給することで、半透過反射膜の成膜を行うことができる。
【0121】
なお、上述したSUSは、CVDではなく、スパッタリングにより成膜される。また、膜厚が薄い材料を成膜するには、スパッタリングを用いることが好ましい。
【実施例】
【0122】
以下、本発明の実施例について説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定されない。以下では、防曇層の性能について評価する。
【0123】
(1)実施例に係る鏡の準備
以下のように、試験サンプルとしての鏡を準備した。
【0124】
(i) 鏡本体
ガラス板(ソーダライムシリケートガラス、厚さ3.1mm、サイズ100×100mm)の第2主面に、上述した半透過反射膜が積層された鏡本体を準備した。
【0125】
(ii) 防曇層
ポリビニルアセタール樹脂含有溶液(積水化学工業社製「エスレックKX-5」、固形分8質量%、アセタール化度9モル%、ベンズアルデヒドに由来するアセタール構造を含む)62.5質量%、テトラエトキシシラン(TEOS、信越化学工業社製「KBE-04」)1.04質量、チタンラクテート(マツモトファインケミカル社製「オルガチックスTC-310」;Ti(OH)2[OCH(CH3)COOH]2を44質量%含み、2-プロパノールと水とを混合溶媒とする溶液)1.21質量%、アルコール溶媒(日本アルコール工業製「ソルミックスAP-7」)17.79質量%、精製水17.44質量%、酸触媒として硝酸0.01質量%、レベリング剤(信越化学工業社製「KP-341」)0.01質量%をガラス製容器に入れ、室温(25℃)で3時間撹拌することにより、防曇層形成用塗工液を調製した。
【0126】
次いで、上述した鏡本体の第1主面に、室温20℃、相対湿度30%の環境下で、塗工液をフローコート法により塗布した。同環境下で10分間乾燥させた後、120℃の(予備)加熱処理を実施した。その後、上述の雰囲気及び時間を適用して高温高湿処理を実施し、さらに、同じく上述の雰囲気及び時間を適用して追加の熱処理を実施して、実施例に係る鏡を作製した。防曇層の膜厚は、3.9μmであった。
【0127】
以上のように作製された鏡について、以下の評価を行った。まず、JIS K5600-5-1に規定するクロスカット法で、防曇層の剥離に関する評価を行った。その結果、分類0(カットの縁が完全に滑らかで,どの格子の目にもはがれがない)の評価を得た。したがって、実施例に係る防曇層は、鏡本体に対し高い密着性を奏することが分かった。なお、分類1であっても実使用には許容できると考える。
【0128】
次に、飛散防止機能の評価を行った。まず、鏡本体1の第2主面にガラスカッタで直線状の切込みを形成した。なお、ガラスカッタの代わりに、ホイールカッタ、ダイヤモンドカッタを用いることもできる。次に、水平面に、ガラス板の厚みの2倍の直径の丸棒を配置した。続いて、防曇層を下側に向け、丸棒上に鏡を配置した。このとき、丸棒が切込みと対応するように(切込みに沿って延びるように)、防曇層に接触させた。その後、鏡本体の第2主面における切込みの両側を水平面に向けて同時に押圧することで、鏡本体を割段した。このとき、防曇層が切断されているか否かを確認したところ、防曇層は切断されていなかった。したがって、防曇層は、鏡本体が割れても破断しないため、割れた鏡本体の破片が飛散するのを防止できることが分かった。
【符号の説明】
【0129】
1 鏡本体
11 第1主面
12 第2主面
13 周縁面
132 第1面取り部
14 第2面取り部
2 ガラス板
3 金属層
5 保護層
7 防曇層