(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】ベンチレーテッド型ディスクブレーキ用ディスクのブレーキバンド
(51)【国際特許分類】
F16D 65/12 20060101AFI20241217BHJP
【FI】
F16D65/12 T
F16D65/12 B
(21)【出願番号】P 2021535089
(86)(22)【出願日】2019-12-05
(86)【国際出願番号】 IB2019060481
(87)【国際公開番号】W WO2020128705
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-11-24
(31)【優先権主張番号】102018000020128
(32)【優先日】2018-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】521259127
【氏名又は名称】ブレンボ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ
【氏名又は名称原語表記】BREMBO S.p.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(72)【発明者】
【氏名】カヴァーニャ,ロレンツォ
(72)【発明者】
【氏名】ロンキ,ニノ
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/105131(WO,A2)
【文献】特開2007-205428(JP,A)
【文献】米国特許第03983973(US,A)
【文献】特表2004-526924(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 49/00-71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベンチレーテッド型ディスクブレーキのディスク(2)のブレーキバンド(1)であって、
前記ブレーキバンド(1)は、前記ブレーキバンド(1)の軸方向(X-X)を定義する回転軸(A-A)に近いバンド内径(D1)と前記回転軸(A-A)から遠いバンド外径(D2)との間に延在し、
前記ブレーキバンド(1)は、前記軸方向(X-X)に直交する径方向(R-R)と、前記軸方向(X-X)と前記径方向(R-R)の両方に直交する周方向(C-C)を定義しており、
前記ブレーキバンド(1)は、互いに対向する第1プレート(3)と第2プレート(4)を有し、
前記第1プレート(3)は第1の内面(5)を有し、前記第2プレート(4)は第2の内面(6)を有し、前記第1の内面(5)と前記第2の内面(6)は直接又は間接に対向して前記第1の内面(5)と前記第2の内面(6)との間に隙間(7)を定め、
前記第1プレート(3)は第1の外面(8)を有し、前記第2プレート(4)は第2の外面(9)を有し、前記第1の外面(8)と前記第2の外面(9)は、ブレーキ面(10,11)を形成する、反対側の平坦な周方向部分を有し、
前記第1プレート(3)は、前記軸方向(X-X)の第1プレート厚(14)を有する第1プレート本体(12)を有し、
前記第2プレート(4)は、前記軸方向(X-X)の第2プレート厚(15)を有する第2プレート本体(13)を有し、
前記第1プレート(3)と前記第2プレート(4)は、放熱のための複数の連結部(16,17,18,19)によって互いに連結されており、
前記複数の連結部(16,17,18,19)はそれぞれ、前記第1プレート(3)と前記第2プレート(4)の一方から他方及び/又は前記他方から前記一方に向けて突出して前記第1プレート(3)と前記第2プレート(4)を連結するフィン(27)として形作られており、
前記第1プレート(3)と前記第2プレート(4)の一方は、前記隙間(7)に突出するが前記第1プレート(3)と前記第2プレート(4)の他方には到達せず、前記隙間(7)が局部的に狭くなった少なくとも一つの部分を形成するとともに、前記第1プレート本体(12)及び/又は前記第2プレート本体(13)の厚みを局部的に大きくする、少なくとも一つのリッジを有し、
前記少なくとも一つのリッジは、前記複数の連結部(16,17,18,19)の中で互いに隣接する2つの連結部の間に延在して前記隣接する2つの連結部を連結し、
前記少なくとも一つのリッジは、前記複数の連結部(16,17,18,19)であって前記周方向(C-C)に間隔をあけて並列に配置された隣接する連結部を連結し、
前記複数の連結部(16,17,18,19)と前記少なくとも一つのリッジは、前記隙間(7)に沿って前記周方向(C-C)に割り振られた複数のモジュールにグループ化され、
前記複数のモジュールは、第1モジュール(31)、第2モジュール(32)及び第3モジュール(33)を有し、
前記少なくとも一つのリッジは2つのリッジ(20,21)を有し、前記第1モジュール(31)は前記周方向(C-C)に間隔をあけて互いに隣接する第1の3つの連結部(16)を有し、前記第1の3つの連結部(16)は前記2つのリッジ(20,21)によって互いに連結され、
前記2つのリッジ(20,21)は前記周方向(C-C)に整列されており、
前記2つのリッジ(20,21)は前記第1プレート(3)から前記隙間(7)に突出するが前記第2プレート(4)には到達せず、
前記少なくとも一つのリッジは別の2つのリッジ(20,21)を有し、前記第2モジュール(32)は前記周方向(C-C)に間隔をあけて互いに隣接する第2の3つの連結部(16)を有し、前記第2の3つの連結部(16)は前記別の2つのリッジ(20,21)によって互いに連結され、
前記別の2つのリッジ(20,21)は前記周方向(C-C)に整列されており、
前記別の2つのリッジ(20,21)は前記第2プレート(4)から前記隙間(7)に突出するが前記第1プレート(3)には到達せず、
前記第3モジュール(33)は、いずれのリッジにも連結されていない少なくとも一つの連結部(17)を有する、ブレーキバンド(1)。
【請求項2】
前記複数のモジュールは第4モジュール(34)を有し、
前記第4モジュール(34)は、1対の隣接する連結部(18,19)を有し、
前記1対の隣接する連結部(18,19)は、前記バンド外径(D2)によって定義されるバンド縁から、前記第1モジュール(31)及び/又は第2モジュールより後退しており、及び/又は
前記第4モジュール(34)は、2対の隣接する連結部(18,19)を有し、
前記2対の隣接する連結部(18,19)の各対(18,19)は、前記バンド内径(D1)から前記バンド外径(D2)に延在する方向に沿って互いに整列された2つの連結部(18,19)を有し、
前記隣接する連結部(18,19)は対をなすフィンで、
前記対をなすフィン(27)は曲線経路に沿って延在し、及び/又は
前記対をなすフィン(27)は同じ方向に凹状になっている、請求項1のブレーキバンド(1)。
【請求項3】
前記複数のモジュールは第4モジュール(34)を有し、
前記第4モジュール(34)は、3対の隣接する連結部(18,19)を有し、
前記3対の隣接する連結部(18,19)のうちで中央に位置する一つの対は、前記周方向(C-C)に関して前記中央に位置する前記一つの対の両側に位置する2つの対よりも径方向(R-R)に短く、及び/又は
前記複数のモジュールは2つの前記第4モジュール(34)を有し、前記2つの前記第4モジュール(34)は前記隙間(7)の中で前記回転軸(A-A)に対して反対側の角度位置に配置されている、請求項1のブレーキバンド(1)。
【請求項4】
前記ブレーキバンド(1)はビークルのためのものであって、
前記第1プレート(3)は、前記ビークルの本体に対向する内側プレートであり、
前記第2プレート(4)は、前記ビークルのホイールに対向する外側プレートであり、
前記第1モジュール(31)の前記第1の3つ連結部(16)は、前記バンド内径(D1)に近い位置から前記バンド外径(D2)に近い位置まで連続的に延在する前記フィン(27)からなる、請求項1~3のいずれかのブレーキバンド(1)。
【請求項5】
前記第2モジュール(32)の前記第2の3つの連結部(16)は、前記バンド内径(D1)に近い位置から前記バンド外径(D2)に近い位置まで連続して延在する前記フィン(27)からなり、
前記第2モジュール(32)の前記フィン(27)は4つあり、
前記4つの前記フィン(27)は3つのリッジ(20,21,22)によって互いに連結されており、
前記3つのリッジ(20,21,22)は、前記第2プレート(4)から前記隙間(7)に突出するが反対側の第1プレート(3)には到達せず、及び/又は
前記第1モジュール(31)の前記フィン(27)は、前記径方向(R-R)と前記周方向(C-C)を通る面上に横断面を有し、前記バンド外径(D2)に近い縁から前記バンド内径(D1)に近い縁に向かって先細りしており、及び/又は
前記第2モジュール(32)の前記フィン(27)は、前記径方向(R-R)と前記周方向(C-C)を通る面上に横断面を有し、前記バンド外径(D2)に近い縁から前記バンド内径(D1)に近い縁に向かって先細りしており、又は
前記第1モジュール(31)の前記フィン(27)は、曲線経路に沿って前記隙間(7)の中に延在し、すべてが同じ方向に凹状になっており、又は
前記第2モジュール(32)の前記フィン(27)は、曲線経路に沿って前記隙間(7)に延在し、同じ方向に凹状になっている、請求項1~4のいずれかのブレーキバンド(1)。
【請求項6】
前記ブレーキバンド(1)は4つの第1モジュール(31)を有し、及び/又は
前記ブレーキバンド(1)は2つの第2モジュール(31)を有し、
前記第1モジュール(31)は、前記第2モジュール(32)と並列に配置され、前記第1モジュール(31)と前記第2モジュール(32)は前記フィン(27)を共有し、
前記第1モジュール(31)と前記第2モジュール(32)は、周方向に前記第1モジュール(31)、次に前記第2モジュール(32)、続いて前記第1モジュール(31)を配置した第1及び第2モジュールアセンブリを形成し、
前記第1及び第2モジュールアセンブリは、前記ブレーキバンド(1)の中で2回繰り返されており、
前記ブレーキバンド(1)の中で2回繰り返されている前記第1及び第2モジュールアセンブリは、前記隙間(7)の中で前記回転軸(A-A)の反対側の角度位置に配置されている、請求項1~5のいずれかのブレーキバンド(1)。
【請求項7】
前記第1モジュール(31)及び/又は前記第2モジュール(32)の前記リッジ(20,21,22)は、前記バンド外径(D2)の近くに配置され、
前記バンド外径(D2)の近くに配置された前記リッジ(20,21,22)の外側の別のリッジは、前記第1モジュール(31)の前記連結部(16)と前記第2モジュール(32)の前記連結部(16)との間をあけて設けられており、及び/又は
前記第1及び第2モジュールアセンブリは、前記ブレーキバンド(1)の周囲の円弧に沿って、環状の不連続な経路に沿って周方向(C-C)に延在しているか、又は、前記ブレーキバンド(1)の周囲の複数の円弧に亘って周方向に延在しており、前記円弧は互いに隣接しないように配置されており、及び/又は
前記少なくとも一つのリッジ(20,21,22)は、環状扇部に沿って、前記バンド外径の近くに延在する唯一のリッジである、請求項6のブレーキバンド(1)。
【請求項8】
前記第3モジュール(33)は、前記いずれのリッジにも連結されていない少なくとも一つの連結部(17)を有し、
前記いずれのリッジにも連結されていない少なくとも一つの連結部(17)は前記フィン(27)で、前記バンド内径(D1)に近くの位置から前記バンド外径(D2)に近い位置に延在し、
前記いずれのリッジにも連結されていない少なくとも一つの連結部(17)の前記フィン(27)は、前記バンド外径(D2)から前記バンド内径(D1)に向かって先細っており、及び/又は
前記いずれのリッジにも連結されていない少なくとも一つの連結部(17)の前記フィン(27)は、曲がっており、同じ共通の凹状方向を有する、請求項1~7のいずれかのブレーキバンド(1)。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかのブレーキバンド(1)を有するディスクブレーキ用ディスク(2)。
【請求項10】
請求項1~
8のいずれかのブレーキバンド(1)を有するビークル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキバンド及びディスクブレーキ用ベンチレーテッドディスクに関し、特に、限定的ではないが、自動車分野に適用されるものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ディスクブレーキでは、ブレーキディスクの外周マージンに跨ってブレーキキャリパが配置されており、軸方向(X-X)を定義する回転軸(A-A)を中心に回転するように構成されている。ブレーキディスクでは、軸方向(X-X)にほぼ直交する径方向(R-R)と、軸方向(X-X)に直交する周方向(C-C)と、軸方向(X-X)と径方向(R-R)に直交する局部的な接線方向(T-T)が定義される。
【0003】
既知のとおり、ディスクブレーキ用のディスクは、該ディスクを乗物のハブに取り付けるように構成されたベルを有し、そこからキャリパのパッドと協働することを意図して環状部(すなわち、ブレーキバンド)が延在している。ベンチレーテッド型のディスクの場合、ブレーキバンドは、対向し且つ例えばピラー又はフィンの形をした連結部材によって互いに連結された2つのプレートによって作られている。2つのプレートの外面は、反対側のブレーキ面を形成しており、内面はピラーとフィンと共に、ディスクの回転中に遠心方向の空気流が通過することによってディスクを冷却するベンチレーションチャンネルの範囲を定めている。
【0004】
上述のブレーキパッドは、2つのプレートの反対面(「ブレーキ面」という名前の面)にパッドで摩擦を加えることによって、乗物にブレーキ動作を加えるように構成されたディスクブレーキキャリパと協働することが意図されている。
【0005】
ブレーキの動作中、ブレーキキャリパのパッドとブレーキバンドのブレーキ面との間の摩擦は、廃棄すべき大量の熱を発生することが知られている。
【0006】
確かに、発生した熱は、いくつかの望ましくない現象、例えば、ブレーキバンドの変形、ブレーキ面でのクラックの形成、又はブレーキバンドを形成している材料の状態の局部的な変態を生じ、それはブレーキバンド自体の劣化を招く。
【0007】
特に高ブレーキ効率を有する高性能のモータビークルの場合、廃棄すべきエネルギが多く、ブレーキ動作中に発生した熱を廃棄する必要性が一層感じられる。
【0008】
上述の型のベンチレーテッドディスクは、いわゆるベンチレーションチャンネルの数や形に関して、時がたつにつれて絶えず進化しており、軸方向に対向する2つのプレートによって隙間が形成されている。
【0009】
公知のベンチレーテッドディスクの中には、排熱性(冷却性)の点でいわゆる「ピラーディスク」が特に効率的であることが示されている。このディスクでは、ベンチレーションチャンネルは、特に、2つプレートを横方向に連結する「ピラー」として定義されるコラム連結部材によって内側が制限されており、軸方向の延長部に対して径方向と周方向の延長部が狭くなっている。
【0010】
例えば、ベンチレーテッド“ピラーディスク”は、欧州特許第1373751号で知られており、そこでは、ディスクに同軸で且つ異なる径を有する3つの同心的な外周面に沿って複数のピラーが配置されて、2つのプレートに平行でそれらの中間に位置する面上に3つの「ライン」を形成しており、ピラーは異なる断面を有する。例えば、中間と外側のライン上では「偏菱形」断面のピラーを有し、内側のライン上では「水滴形」のピラーを有する。
【0011】
その他のピラー構造のベンチレーテッドディスクが、例えば、WO2004/102028号、米国特許第5,542,503号で開示されている。
【0012】
ベンチレーテッドディスクの中でも、いわゆる「フィン」ディスク又は「ウィング」ディスクが知られている。これらのものでは、ベンチレーションチャンネルは、特に主方向に沿って細長い部材を連結することによって内側に制限されている、または、径方向(R-R)に平行な方向に沿って向けられるか、2つのプレートを横方向に連結するらせん形状になっている。実質的に径方向に延在する上述のフィンは、実際、冷却空気が隙間を通るように案内する空力学的表面を形成している。
【0013】
ディスクのブレーキ面に対してパッドを当てるブレーキ動作は熱を発生し、結果的に、ディスクの温度が上昇して、特に性能が要求される場合は、ディスクが白熱する程になることが知られている。ブレーキ中、ディスクの高温によって、ディスクが変形し、パッドとブレーキ面との間の接触によってディスクが劣化する。また、パッドの摩擦材料がガラス化したり、ディスク材料によって汚染される。
【0014】
ブレーキ面の中央環状部(すなわち、それぞれのプレートの外側表面の中央環状部)が高温になることが知られている。その領域は、ディスクの寿命中にクラックが発生し易い。
【0015】
上述の問題を解消するために、この分野では、ブレーキング中及びブレーキング後、ディスクの熱を抑えるように、ブレーキングによって発生した熱の発散効率を高める必要と、ブレーキバンドの中央部の機械的抵抗を高めること必要がある。
【0016】
そのための解決策がWO2004/102028号、WO2002/064992号、米国特許第7,066,306号、米国特許第7,267,210号、米国特許出願公開公報第2006/0243546号、米国特許出願公開公報第2004/012047号、米国特許第6,367,599号、米国特許第5,542,503号及び米国特許第4,865,167号に開示されている。種々の点で満足のいくものであるが、これらの公知の解決策は、ブレーキバンドの中央環状領域に望まれる機械的抵抗と、ブレーキ動作によって生じた局部的な高温を除くことができる同領域の空気流を最大化する必要性との妥協点を得られることがなかった。
【0017】
しかし、上述の型式のベンチレーテッドディスクは、ディスクブレーキ(特に、ベンチレーテッドディスクを備えたディスクブレーキ)に影響を与える別の問題で、上述の問題と同時に発生するが同時に解消すべき問題(以下に簡単に説明する)に対する解決策を提供するものでない。
【0018】
知られているように、ブレーキの動作中、ディスクとブレーキバンドは特に、ディスク自体の種々の自然振動モードに関連する種々の周波数で機械的に振動する。このようなディスクの振動は、例えば、ディスクに機械的に連結され、ブレーキング中に付勢される物の振動周波数が、ディスクの自然振動周波数に十分近い場合、その物の振動によって引き起こされる共振によって生じる。
【0019】
上述の振動は、共振周波数が可聴範囲(例えば、甲高い悲鳴を伴う2~9kHz)にある場合、耳に聴こえる雑音(特に、嫌な「キーッ」という音)を発生することも知られている。
【0020】
したがって、ディスクの振動周波数を活性化された周波数とは異なる値にシフトする構造上の工夫によって、上述の甲高い音を減少又は無くす解決策を提供する必要があり、その解決策によれば、この現象に最も影響を与える自然振動モード(例えば、ブレーキバンドがベルの周囲で振動するいわゆる「タンジェンシャル」振動モード(例えば、
図5,6に示す、実質的に同じ周波数又は極めて近い周波数の2つの振動モード。))を分断できる。
【0021】
これらの問題を解決するために、上述の「ピラー」構造とは異なる構造のディスクが知られている。
【0022】
例えば、イタリア特許第1,273,754号は、2つのプレートの間の隙間に向かって、プレートの内部に突出する突起を特定の場所に配置され、発生する振動と雑音を低減するように特に決められた質量を有するブレーキバンドを開示している。
【0023】
例えば、嫌な振動現象を解消する構造を有する別のベンチレーテッドディスクが米国特許第4,523,666号から知られている。
【0024】
クノールブレムゼ(Knorr-Bremse GmbH)による米国特許第3,983,973号は、互いに離間してベンチレーションチャンネルを形成する一対の摩擦プレートを有するブレーキディスクを示している。ブレーキ力は、ブレーキパッドのブレーキライニングによってプレートに与えられる。二つのプレートは、複数のフローガイドリブ又はフィンによって相互に連結されており、摩擦プレートの間にベンチレーション通路を形成している。振動抑制材料のストリップが、摩擦プレートの対向面に形成された径方向の溝に配置されている。これらのインサートは、振動を減衰し、摩擦プレートが作られている鉄系材料の膨張係数よりも大きな膨張係数を有する金属部材(例えば、鉛、青銅又は銅)からなる。
【0025】
同様の解決策が米国特許公開公報第2009/035598号から知られている。
【0026】
振動を減衰するスクウォーク型の受動ダンパをブレーキ装置に連結することが米国特許公開公報第2012/111692号から知られている。
【0027】
米国特許第6,131,707号、WO2016/020820号公報、WO2017/153902号公報、WO2017/153873号公報、EP0318687号、WO2011/058594号公報、WO2006/105131号公報、米国特許出願公開公報第2006/219500公報、米国特許第6,145,636号、米国特許出願公開公報第2010/122880公報、米国特許第6,325,185号、米国特許第4,523,666号、米国特許第5,004,078号から、ブレーキ動作によって発生した振動を減衰するために、ブレーキバンドプレートに周方向に不均一に連結部を設けることが知られている。その他の解決策は、スミス・フィリップ・ジョンの米国特許出願公開公報第2008/067018、レイトン・チャールズの米国特許出願公開公報第2009/000884A1号、本件出願人のWO2017/153873号、本件出願人のWO2017/153902号、フォード・グローバル・テック・リミテッド・ライアビリティ・カンパニーのドイツ実用新案DE20 015 102580U1、タハラとアオキの米国特許第6,241,053号公報、シミズの米国特許第5,706,915号公報、特開平10-318302公報、特開平06-129452号公報、ドイツ特許公開公報102014222648A1公報及びドイツ特許公開公報4323782A1公報から知られている。
【0028】
しかし、いくつかのブレーキング条件では、プレート連結部材の配置は、構造上の不均一性を発生し、そのために、ブレーキディスクの自然振動モードを問題を解消する周波数に改変できるものではない。
【0029】
したがって、ブレーキングの際に、特に効率の良い冷却性能と振動及び雑音を最小化する特性を同時に提供するとともに、ブレーキバンドの一体性と耐久性に影響する応力集中が生じるのを回避する、新たなベンチレーテッド構造が必要とされる。
【0030】
上述したベンチレーテッドディスクとブレーキバンドは、上述の要求を十分に満足できるものではなかった。
【0031】
本発明が解決する課題は、上述の要求を満足するとともに、従来技術に関連して説明した課題を同時に解消する構造と機能特性を有する、ディスクブレーキ用のブレーキバンドとディスクを提供することである。
【発明の概要】
【0032】
本発明の目的は、これらの振動とその結果の異音の発生を減らすブレーキング装置を提供することである。
【0033】
この目的及びその他の目的と利点は、請求項1のブレーキバンド、請求項9のディスクブレーキディスク、及び請求項10のビークルによって達成される。
【0034】
好都合な実施形態は、従属請求項の対象である。
【0035】
この解決策を分析すれば、いかに提案された解決策が、先行技術の解決策で達成されるブレーキ快適性をさらに改善し、振動を減衰し、異音を生じる振動が無くなるかがわかる。特に、提案する解決策は、タンジェンシャルモードの周波数を分離するのに役立つ。
【0036】
また、提案する解決策は、いくつかの実施形態では、ブレーキバンドの隙間を通過する空気流が大きく乱れることにより、極めて高く且つ改善されたディスク冷却効率を維持する。この乱れは、連結部の間に配置されて周方向に延在するプレートのリッジの特定形状によって決められる。
【0037】
装置、ブレーキディスク及びビークルの更なる特徴と利点は、添付図面を参照した非限定的な実施例に関する以下の説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】
図1は、ブレーキディスクを外側又はホイール側から見た斜視図で、プレートの連結部のモジュールがリッジによって交互に連結された複数のグループとして強調されている。
【
図2】
図2は、
図1のブレーキディスクを内側又はビークル側から見た斜視図である。
【
図3】
図3は、複数のリッジを横断するように隙間の中に位置する径方向と周方向を含む面に沿った、
図1のディスクの外側プレート又はホイール側プレートの斜視図で、そこではプレートがビークルのスタブ車軸に対するディスクの連結ベルに連結されている。
【
図4】
図4は、複数のリッジを横断するように隙間の中に位置する径方向と周方向を含む面に沿った、
図1のディスクの内側プレート又はビークル側プレートの斜視図である。
【
図5】
図5は、本願で提案する解決策の無いブレーキディスクの自然振動モード(すなわち、タンジェンシャルモード)の一つを示す。
【
図6】
図6は、本願で提案する解決策の無いブレーキディスクの自然振動モード(すなわち、タンジェンシャルモード)の一つを示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
実施形態によれば、ベンチレーテッド型のディスクブレーキ2のためのディスクのブレーキバンド1が提供される。
【0040】
上述のブレーキバンド1は、ブレーキバンド1の回転軸A-Aの近くに内径D1を有し、回転軸A-Aから遠く離れたところに外径D2を有する。回転軸は、軸方向X-Xを定義する。
【0041】
ブレーキバンド1は、軸方向X-Xにほぼ直交する径方向R-Rと、軸方向X-Xと径方向R-Rの両方に直交する周方向C-Cを定義する。
【0042】
ブレーキバンド1は、互いに対向する2つのプレート3,4を有する。
【0043】
プレート3,4は、直接的又は間接的に互いに対向し、ブレーキバンド1のための通気路を形成する隙間7を定めている。
【0044】
プレート3,4は、外面8,9を有する。
【0045】
外面8,9は、ブレーキ面10,11を形成する、両側の平坦な外周部分を有する。換言すると、外面8,9の部分は、ブレーキバンド1に対して挟まれたとき、ブレーキキャリパに収容されたブレーキパッドと協働してブレーキ動作を加える。パッドによってブラシがかけられる又は巻き込まれる、外面8,9の一部が、ブレーキ面10,11を形成する。
【0046】
プレート3,4はプレート本体12,13を有する。プレート本体12,13は、軸方向X-Xの延長部又はプレート厚14,15を有する。換言すると、軸方向から観察したとき、各プレート3,4はプレート厚14,15を有する。プレート厚14,15は、プレート3,4のプレート本体12の軸方向の厚みである。
【0047】
プレート3,4は、放熱部又は連結部16,17,18,19によって互いに連結されている。
【0048】
連結部16,17,18,19は、柱(コラム)及び/又はリブ、又はフィン27として形作られており、一方のプレートから反対のプレートに突出して、プレート3,4の連結ブリッジの形をしている。
【0049】
プレート3,4の少なくとも一方は、少なくとも一つのリッジ(突起部)20,21,22を有する。リッジ20,21,22は、プレート3,4から隙間7に突出しているが、反対側のプレート4,3には到達していない。これにより、隙間7が局部的に狭い箇所が少なくとも一つ形成されているとともに、プレート12,13が厚くなる箇所が形成されており、プレート厚14,15が局部的に大きくなっている。
【0050】
上述の少なくとも一つのリッジ20,21,22は、少なくとも第1連結部16から隣接する連結部16に延在しており、これら連結部16を連結している。
【0051】
上述の少なくとも一つのリッジ20,21,22は、周方向C-Cに沿って延在し、周方向C-Cに隣り合って配置された隣接する少なくとも2つの連結部16を連結している。
【0052】
上述の連結部16と少なくとも一つのリッジ20,21,22は、隙間8に沿って周方向に割り振られた複数のモジュール31,32,33,34にグループ化される。
【0053】
少なくとも第1モジュール31は、2つのリッジ20,21によって互いに連結された少なくとも3つの隣接する連結部16を有する。2つのリッジ20,21は、第1プレート3から隙間7に突出しているが、反対のプレート4には到達していない。
【0054】
少なくとも第2モジュール32は、2つのリッジ20,21によって互いに連結された少なくとも3つの隣接する連結部16を有する。2つのリッジ20,21は、周方向C-Cに整列されている。2つのリッジ20,21は、第2プレートから隙間7に突出しているが、反対のプレート3には到達していない。
【0055】
少なくとも第3モジュール33は、少なくとも一つの連結部17を有する。連結部17は、リッジと連結されていない。
【0056】
実施形態によれば、少なくとも第4モジュール34は、少なくとも一つの連結部18,19を有する。第4モジュール34の各連結部は、第1モジュール31及び/又は第2モジュールよりも、バンド外径D2によって範囲が定められたバンド縁から後退している。
【0057】
実施形態によれば、少なくとも第4モジュール34は、少なくとも2対の隣接する連結部18,19を有する。各対18,19は、バンド内径D1からバンド外径D2に延びる方向に沿って、互いに整列された2つの連結部18,19を有する。
【0058】
実施形態によれば、上述の連結部18,19はフィンである。
【0059】
実施形態によれば、上述の対をなすフィン27は、曲線経路に沿って延在している。
【0060】
実施形態によれば、上述の少なくとも2対のフィン27はすべて、同じ方向に凹状になっている。
【0061】
実施形態によれば、少なくとも第4モジュール34は、少なくとも3対の隣接する連結部18,19を有する。連結部18,19の中間の対は、周方向の両側にある別の対の連結部と並んで配置されており、隣接する周方向の端部にある対よりも径方向R-Rの長さが短い。
【0062】
実施形態によれば、上述の少なくとも第4モジュール34は、隙間7の中で角度的に反対の場所に配置された2つの第4モジュール34からなる。
【0063】
実施形態によれば、上述の第1プレート3は、ビークルに対向するプレート(すなわち、内側プレート)である。
【0064】
実施形態によれば、上述の第2プレート4は、ビークルのホイールに対向するプレート(すなわち、外側プレート)である。
【0065】
実施形態によれば、第1モジュール31の3つの隣接する連結部16はリブ又はフィン27である。これらリブ又はフィンは、バンド内径D1に近い場所からバンド外径D2に近い場所まで連続的に延在する。
【0066】
実施形態によれば、上述の第2モジュール32の少なくとも3つの隣接する連結部16はリブ又はフィン27である。リブ又はフィンは、バンド内径D1に近い位置からバンド外径D2に近い位置まで連続的に延在している。
【0067】
実施形態によれば、第2モジュール32のフィン27は4つあり、それらは3つのリッジ20,21,22によって互いに連結されている。3つのリッジ20,21,22は、周方向C-Cに一列に整列している。また、3つのリッジ20,21,22は、第2プレート4から隙間7に突出しているが、反対のプレート3には到達していない。
【0068】
実施形態によれば、第1モジュール31のフィン27は、径方向R-Rと周方向C-Cを通る面上に決定された横断面を有し、外径D2に近い縁から内径D1に近い縁に向かって先細りとなっている。
【0069】
実施形態によれば、第2モジュール32のフィン27は、径方向R-Rと周方向C-Cを通る横断面を有し、外径D2に近い縁から内径D1に近い縁に向かって先細りになっている。
【0070】
実施形態によれば、第1モジュール31のフィン27は、曲線経路に沿って隙間8に延在しており、すべてが同じ方向に凹状になっている。
【0071】
実施形態によれば、第2モジュール32のフィン27は曲線経路に沿って隙間8に延在しており、すべてが同じ方向に凹状になっている。
【0072】
実施形態において、少なくとも一つの第1モジュール31は、4つの第1モジュール31からなる。
【0073】
実施形態によれば、上述の少なくとも一つの第2モジュール32は、2つのモジュール32からなる。
【0074】
実施形態によれば、上述の第1モジュール31は、上述の第2モジュール32と横並びに配置されており、並んで配置された第1モジュール31と第2モジュール32はフィン27を共有している。
【0075】
実施形態によれば、第1モジュール31と第2モジュール32は、第1周方向に、第1モジュール31,第2モジュール32,及び第1モジュール31の順番に配置されて、第1及び第2モジュールアセンブリを形成している。
【0076】
実施形態によれば、第1及び第2モジュールアセンブリは、ブレーキバンド1に2回繰り返えされている。
【0077】
実施形態によれば、2つの第1及び第2モジュールアセンブリは、隙間7の中に、実質的に、角度上反対の位置に配置されている。
【0078】
実施形態によれば、第1モジュール31と第2モジュール32のリッジ20,21,22は、バンド外径D2の近くに配置されている。
【0079】
実施形態によれば、バンド外径D2の近くに配置されたリッジ20,21,22の外側のその他のリッジは、第1モジュール31と第2モジュール32の連結部16の間を避けている。
【0080】
実施形態によれば、リッジ20,21、22のアセンブリは、環状の不連続通路に沿って(例えば、ブレーキバンド1の周囲の円弧に沿って)周方向C-Cに延在しているか、又は、ブレーキバンドに沿って複数の周囲の円弧上を周方向C-Cに延在しており、それらの円弧は互いに隣接しない状態で配置されている。
【0081】
実施形態によれば、上述の少なくとも一つのリッジ20,21,22は一つのリッジで、これは円形セクタ(扇部)30に亘ってバンド外径D2の近くに延在している。
【0082】
実施形態によれば、少なくとも第3モジュール33は、少なくとも2つの連結部17を有し、これらはリッジに対する連結部を備えていない。
【0083】
実施形態によれば、リッジの無い連結部17はフィン27で、これらは実質的にバンド内径D1に近い位置からバンド外径D2に近い位置まで延在している。
【0084】
実施形態によれば、フィン27は、外径D2から内径D1に向かって先細りとなっている。
【0085】
実施形態によれば、フィン27は、曲がっており、同じ共通の方向に凹状になっている。
【0086】
本発明はさらに、上述の実施形態のいずれかに係るブレーキバンド1を有するディスクブレーキ2に関する。
【0087】
本発明はさらに、上述の実施形態に係るブレーキバンド1を有するビークルに関する。
【0088】
当業者は、偶発的な要求を満足するために、特許請求の範囲から逸脱することなく、上述の実施形態に変更や改変を行うこと、又は、構成要素を機能的に同等なものに置き換えることができる。
【0089】
互いに接近して配置されたリッジ20,21,22は、周方向に配置されたリッジグループを形成し、リッジの不均一な配置を実現する周方向の不連続性を示す周方向の分布を作る。この分布は、共鳴して迷惑な雑音や嫌な音を生み出すブレーキバンド1の自然振動モードを無くすように構成される。
【符号の説明】
【0090】
1:ブレーキバンド
2:ディスクブレーキディスク
3:プレート、第1プレート、ビークル側プレート、内側プレート
4:プレート、第2プレート、ホイール側プレート、外側プレート
5:内面
6:内面
7:隙間
7:外面
9:外面
10:ブレーキ面
11:ブレーキ面
12:プレート本体
13:プレート本体
14:プレート厚
15:プレート厚
16:リッジ連結部によって連結された長いフィン
17:リッジ連結部によって連結されていな長いフィン
18:内側の短いフィン連結部
19:外側の短いフィン連結部
20:第12つの長いフィンを連結するリッジ
21:2つのフィンを連結するリッジ
22:第3の対をなすフィンを連結するリッジ
23:ライン状の内側フィン
24:ライン状の外側フィン
27:フィン、リブ
30:円形扇部
31:3つのフィンと2つのリッジを有する第1モジュール
32:4つのフィンと3つのリッジを有する第2モジュール
33:リッジの無いフィンを有する第3モジュール
34:不連続なフィンを有する第4モジュール
X-X:回転軸、軸方向
D1:バンド内径
D2:バンド外径
R-R:径方向
C-C:接線方向