(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】透明導電膜、積層体、及び透明導電膜を製造する方法
(51)【国際特許分類】
H01B 5/14 20060101AFI20241217BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20241217BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
H01B5/14 A
H01B13/00 503B
B32B9/00 A
(21)【出願番号】P 2021550589
(86)(22)【出願日】2020-09-16
(86)【国際出願番号】 JP2020035129
(87)【国際公開番号】W WO2021065519
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2019179479
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100163463
【氏名又は名称】西尾 光彦
(72)【発明者】
【氏名】山田 恭太郎
(72)【発明者】
【氏名】▲鶴▼澤 俊浩
(72)【発明者】
【氏名】待永 広宣
(72)【発明者】
【氏名】拝師 基希
(72)【発明者】
【氏名】上田 恵梨
【審査官】木村 励
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/027049(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/178298(WO,A1)
【文献】特開2002-163932(JP,A)
【文献】国際公開第2009/157571(WO,A1)
【文献】特開2014-201800(JP,A)
【文献】国際公開第2019/027048(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 5/14
H01B 13/00
B32B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明導電膜であって、
多結晶を備え、前記多結晶は、最大フェレー径の平均値が160~400nmであるグレインを有
し、
前記透明導電膜は、支持材の上に当該透明導電膜が配置された積層体のISO 15106-5:2015に従って決定される水蒸気透過度を0.0010~0.0250g/(m
2
・24時間)に保ち、
ISO 15106-5:2015に従って決定される前記支持材の水蒸気透過度は、1g/(m
2
・24時間)以上である、
透明導電膜。
【請求項2】
前記多結晶は、酸化インジウムを含む、請求項
1に記載の透明導電膜。
【請求項3】
7.15g/cm
3以上の密度を有する、請求項1
又は2に記載の透明導電膜。
【請求項4】
20~150nmの厚みを有する、請求項1~
3のいずれか1項に記載の透明導電膜。
【請求項5】
X線応力測定法によって決定される当該透明導電膜の内部応力は、150~1000MPaである、請求項1~
4のいずれか1項に記載の透明導電膜。
【請求項6】
基材と、
前記基材の上に配置された請求項1~
5のいずれか1項に記載の透明導電膜と、を備えた、
積層体。
【請求項7】
ISO 15106-5:2015に従って決定される前記基材の水蒸気透過度は、1g/(m
2・24時間)以上である、請求項
6に記載の積層体。
【請求項8】
スパッタリングによって基材の上に膜を形成することと、
前記膜をアニールして
多結晶の透明導電膜を形成することと、を含み、
前記スパッタリングにおいて、不活性ガスの圧力を0.4Pa以下に調整する、
透明導電膜を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電膜、積層体、及び透明導電膜を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多結晶状態の透明導電膜が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、導体付き基板が記載されており、導体付き基板は、透明導電膜を有し、透明導電膜の所要部分に金属被膜が形成されている。透明導電膜は、X線回折法における<222>方向の結晶粒子径が400Å以上の膜である。これにより、透明導電膜と金属被膜との間に強い密着強度が得られる。加えて、透明導電膜は、多結晶状態である。
【0004】
一方、ガスバリア層により透明導電層の劣化を防止する技術が知られている。例えば、特許文献2には、樹脂基材、ガスバリア層、及び透明導電層を備えた透明導電フィルムが記載されている。透明導電フィルムにおいて、ガスバリア層は、樹脂基材と透明導電層との間に形成されている。ガスバリア層により、水蒸気の透過が抑制され、透明導電層が劣化することが防止される。透明導電フィルムにおいて、例えば、40℃、90%RHの高湿条件下における水蒸気透過率が0.1g/m2/day以下である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平5-151827号公報
【文献】特開2014-201800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術によれば、透明導電膜におけるX線回折法における<222>方向の結晶粒子径は、透明導電膜と金属被膜との密着強度を高める観点から定められており、特許文献1では、高温高湿環境における透明導電膜の耐久性について何ら検討されていない。
【0007】
特許文献2に記載の技術によれば、透明導電層の劣化の防止のためにガスバリア層が必要である。
【0008】
このような事情を踏まえて、本発明は、透明導電膜の近くにガスバリア層が存在していなくても高温高湿環境において高い耐久性を有する透明導電膜を提供する。また、本発明は、このような透明導電膜を製造するのに有利な方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
多結晶を備え、前記多結晶は、最大フェレー径の平均値が160~400nmであるグレインを有する、透明導電膜を提供する。
【0010】
また、本発明は、
基材と、
前記基材の上に配置された上記の透明導電膜と、を備えた、
積層体を提供する。
【0011】
また、本発明は、
スパッタリングによって基材の上に膜を形成することと、
前記膜をアニールして透明導電膜を形成することと、を含み、
前記スパッタリングにおいて、不活性ガスの圧力を0.4Pa以下に調整する、
透明導電膜を製造する方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
上記の透明導電膜は、透明導電膜の近くにガスバリア層が存在していなくても高温高湿環境において高い耐久性を有する。上記の方法は、上記の透明導電膜を製造するのに有利である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明に係る積層体の一例を示す断面図である。
【
図2】
図2に示す透明導電膜の膜面の構造を模式的に示す図である。
【
図3】
図3は、本発明に係る積層体を備えたヒータの一例を示す断面図である。
【
図4】
図4は、本発明に係る積層体を備えたヒータの別の一例を示す断面図である。
【
図5】
図5は、
図3に示すヒータを備えたヒータ付物品の一例を示す断面図である。
【
図6】
図6は、透明導電膜の内部応力の測定方法を概念的に説明する図である。
【
図7A】
図7Aは、実施例1に係る透明導電膜の膜面の透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【
図8A】
図8Aは、比較例1に係る透明導電膜の膜面のTEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
透明導電膜の近くにガスバリア層が存在していなくても高温高湿環境における透明導電膜の耐久性を高めることができれば、透明導電膜の価値がより高まる。例えば、スマートフォン等のタッチパネルを備えた情報端末及びヒータ等の分野でこのような透明導電膜を使用できれば、高付加価値の製品を提供できる。例えば、車載機器は過酷な環境下でも適切に機能することが求められるので、過酷な環境でも透明導電膜が耐久性を有することは車載機器において透明導電膜を使用するうえで有利である。一方、従来、透明導電膜の耐久性を高めるためには、特許文献2に記載の技術のように、透明導電膜の近くにガスバリア層を設ける必要があると考えられていた。そこで、本発明者らは、透明導電膜の近くにガスバリア層が存在していなくても高温高湿環境における透明導電膜の耐久性を高めることができる技術について鋭意検討を重ねた。多大な試行錯誤を重ねた結果、本発明者らは、透明導電膜が所定の多結晶を備えることが高温高湿環境における透明導電膜の耐久性を高めるうえで有利であることを新たに発見した。本発明者は、この新たな発見に基づいて本発明を遂に完成させた。
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、下記の説明は、本発明を例示的に説明するものであり、本発明は以下の実施形態に限定されるわけではない。なお、本明細書において、「透明」とは、典型的には、可視光に対して透明であることを意味する。
【0016】
図1に示す通り、積層体1は、基材2と、透明導電膜3とを備えている。透明導電膜3は、基材2の上に配置されている。このように、透明導電膜3は、典型的には、基材2の上に配置された状態で提供される。
【0017】
図2に示す通り、透明導電膜3は、多結晶31を備えている。多結晶31は、グレイン32を有する。グレイン32の最大フェレー径の平均値Dfは、160~400nmである。平均値Dfが160nm以上であることにより、水蒸気が透明導電膜3を透過しにくく、透明導電膜3の近くにガスバリア層が存在していなくても高温高湿環境において透明導電膜3が高い耐久性を発揮しうる。加えて、平均値Dfが400nm以下であることにより、透明導電膜3が曲げ応力を受けても透明導電膜3においてクラックが発生しにくい。このため、高温高湿環境において透明導電膜3が高い耐久性を発揮しうる。平均値Dfは、例えば、以下の(I)、(II)、及び(III)のステップを含む方法に従って決定できる。
(I)透明導電膜3の膜面のTEM写真において無作為に選んだ10箇所以上の400nm平方の視野において隣り合うグレイン32の像のコントラスト差等に基づきグレイン32同士の境界を決定する。
(II)(I)のステップにおいて決定された境界に基づき、各視野に含まれる各グレイン32の最大フェレー径を決定する。この決定は、各視野において、全体を視認可能なグレイン32に対して行う。
(III)(II)のステップで決定された各グレイン32の最大フェレー径に基づき、算術平均により、グレイン32の最大フェレー径の平均値Dfを決定する。
【0018】
透明導電膜3に対し所定の耐久試験を行う。この場合、耐久試験後の透明導電膜3のシート抵抗Rp[Ω/□]及び耐久試験前の透明導電膜3のシート抵抗Rb[Ω/□]は、例えば、|Rp-Rb|/Rb≦5%の関係を満たす。換言すると、耐久試験の前後における透明導電膜3のシート抵抗の変化率は、例えば5%以下である。耐久試験は、例えば、透明導電膜3の環境を温度85℃及び相対湿度85%の条件に1000時間保つことにより行われる。高温高湿環境において透明導電膜3のシート抵抗が変化しにくく、高温高湿環境において透明導電膜3が高い耐久性を発揮しうる。なお、耐久試験における透明導電膜3の環境の条件は一例にすぎず、例えば、スマートフォン等のタッチパネルを備えた情報端末及びヒータ等の車載用デバイス等の分野で一般的に求められるその他の条件で透明導電膜3に対し耐久試験を行っても、|Rp-Rb|/Rb≦5%の関係が満たされうる。例えば、透明導電膜3によれば、高温低湿環境、低温高湿環境、及び低温低湿環境において耐久試験を行っても、|Rp-Rb|/Rb≦5%の関係が満たされうる。
【0019】
平均値Dfは、170nm以上であってもよく、180nm以上であってもよく、190nm以上であってもよく、200nm以上であってもよい。平均値Dfは、350nm以下であってもよく、330nm以下であってもよく、300nm以下であってもよく、280nm以下であってもよく、250nm以下であってもよい。
【0020】
透明導電膜3は、例えば、ISO 15106-5:2015に従って決定される所定の積層体の水蒸気透過度Wsを0.0010~0.0250g/(m2・24時間)に保つ。所定の積層体は、支持材の上に透明導電膜3が配置された積層体である。加えて、ISO 15106-5:2015に従って決定されるその支持材の水蒸気透過度は、1g/(m2・24時間)以上である。この場合、透明導電膜3は、高い水蒸気透過度を有する支持材の上に透明導電膜3が配置されて作製された積層体の水蒸気透過度を低く保つことができる。このため、透明導電膜3の近くにガスバリア層が存在していなくても、透明導電膜3は、より確実に、高温高湿環境において高い耐久性を発揮しうる。なお、この積層体は、透明導電膜3の水蒸気透過性を間接的に評価するために便宜的に作製されるものであり、積層体1を作製する場合に、上記の支持体の上に透明導電膜3が形成された状態で、その支持体が基材2の上に重ねられるわけではない。積層体1を作製する場合には、典型的には、基材2の上に透明導電膜3が単独で形成される。この積層体における支持材は、積層体1における基材2と同一であってもよく、異なっていてもよい。換言すると、ISO 15106-5:2015に従って決定される基材2の水蒸気透過度の値は、1g/(m2・24時間)以上の範囲に限定されない。基材2の水蒸気透過度の値は1g/(m2・24時間)未満であってもよい。この積層体において、支持材は、透明導電膜3とは異なる空間を占めており、透明導電膜3とは明確に区別される。
【0021】
透明導電膜3によれば、水蒸気透過度Wsは、望ましくは0.0010~0.0200g/(m2・24時間)に保たれ、より望ましくは0.0010~0.0150g/(m2・24時間)に保たれ、さらに望ましくは0.0010~0.0120g/(m2・24時間)に保たれる。水蒸気透過度Wsは、0.005g/(m2・24時間)以上であってもよいし、0.008g/(m2・24時間)以上であってもよい。
【0022】
透明導電膜3において多結晶31をなす材料は特に限定されない。多結晶31は、例えば、酸化インジウムを含む。これにより、透明導電膜3は、より確実に、高温高湿環境において高い耐久性を発揮しうる。
【0023】
透明導電膜3において、多結晶31は、望ましくは、酸化インジウムを主成分として含む。このことは、高温高湿環境において透明導電膜3が高い耐久性を発揮する観点から有利である。本明細書において、「主成分」とは質量基準で最も多く含まれている成分を意味する。
【0024】
透明導電膜3において、多結晶31は、望ましくは、インジウムスズ酸化物(ITO)を含む。これにより、透明導電膜3は、より確実に、高温高湿環境において高い耐久性を発揮しうる。ITOにおける酸化スズの含有率は、例えば3~14重量%であり、望ましくは5~13重量%である。
【0025】
透明導電膜3の密度dは、特定の値に限定されない。密度dは、例えば、7.15g/cm3以上である。この場合、多結晶31において、グレイン32同士の隙間が小さくなりやすい。その結果、水蒸気が透明導電膜3を透過しにくく、透明導電膜3は、より確実に、高温高湿環境において高い耐久性を発揮しうる。
【0026】
密度dは、7.20g/cm3以上であってもよく、7.30g/cm3以上であってもよい。密度dは、例えば、7.50g/cm3以下である。これにより、透明導電膜3においてクラックが発生しにくく、透明導電膜3は、より確実に、高温高湿環境において高い耐久性を発揮しうる。密度dは、7.40g/cm3以下であってもよい。
【0027】
透明導電膜3の厚みtは、特定の値に限定されない。厚みtは、例えば、20~150nmの厚みを有する。厚みtが20nm以上であることにより、透明導電膜3が所望のシート抵抗を有しやすい。一方、厚みtが150nm以下であることにより、透明導電膜3においてクラックが発生しにくく、透明導電膜3は、より確実に、高温高湿環境において高い耐久性を発揮しうる。
【0028】
厚みtは、25nm以上であってもよく、35nm以上であってもよく、45nm以上であってもよい。厚みtは、140nm以下であってもよく、130nm以下であってもよく、120nm以下であってもよい。
【0029】
X線応力測定法によって決定される透明導電膜の内部応力Piは、特定の値に限定されない。内部応力Piは、例えば、150~1000MPaである。内部応力Piが100MPa以上であることにより、多結晶31において、グレイン32同士の隙間が小さくなりやすい。その結果、水蒸気が透明導電膜3を透過しにくく、透明導電膜3は、より確実に、高温高湿環境において高い耐久性を発揮しうる。一方、内部応力Piが1000MPa以下であることにより、透明導電膜3においてクラックが発生しにくく、透明導電膜3は、より確実に、高温高湿環境において高い耐久性を発揮しうる。内部応力Piは、例えば、実施例に記載の方法に従って測定されうる。
【0030】
内部応力Piは、160MPa以上であってもよく、180MPa以上であってもよく、200MPa以上であってもよく、300MPa以上であってもよい。内部応力Piは、950MPa以下であってもよく、900MPa以下であってもよく、800MPa以下であってもよい。
【0031】
積層体1において、基材2は、特定の基材に限定されない。特に、ISO 15106-5:2015に従って決定される基材2の水蒸気透過度Wkは、特定の値に限定されない。水蒸気透過度Wkは、例えば、1g/(m2・24時間)以上である。水蒸気透過度Wkは、1g/(m2・24時間)未満であってもよい。
【0032】
基材2は、例えば、可視光に対して透明である。これにより、積層体1も可視光に対して透明でありうる。積層体1は、近赤外光等の所定の波長の光に対して透明性を有していてもよい。
【0033】
基材2の材料は、特定の材料に限定されない。基材2は、例えば、有機ポリマー等の有機材料を含んでいる。これにより、基材2は、可撓性を有しやすい。基材2は、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、及び芳香族ポリアミドからなる群から選ばれる少なくとも1つの有機ポリマーを含んでいてもよい。基材2は、ガラス等の無機材料を含んでいてもよい。この場合、積層体1が高い剛性を有しやすい。基材2は、有機材料と無機材料とのハイブリッドであってもよいし、複合材料であってもよい。
【0034】
例えば、積層体1において、基材2と透明導電膜3とは接触している。透明導電膜3との界面をなす基材2の主面21は、ガスバリア性の材料で形成されていてもよいし、ガスバリア性を有しない材料で形成されていてもよい。
【0035】
基材2の厚みTは、特定の値に限定されない。厚みTは、良好な透明性、良好な強度、及び取り扱い易さの観点から、例えば、10μm~2mmである。厚みTは、20μm以上であってもよく、30μm以上であってもよく、50μm以上であってもよい。厚みTは、1.8mm以下であってもよく、1.5mm以下であってもよく、1.0mm以下であってもよく、500μm以下であってもよく、300μm以下であってもよく、200μm以下であってもよい。
【0036】
透明導電膜3を製造する方法の一例について説明する。透明導電膜3は、例えば、以下の(i)及び(ii)のステップを含む方法によって製造される。
(i)スパッタリングによって基材2の上に膜を形成する。
(ii)膜をアニールして透明導電膜3を形成する。
【0037】
(i)のステップのスパッタリングにおいて、不活性ガスの圧力Pfが0.4Pa以下に調整される。従来、スパッタリングにより透明導電膜を形成するときに不活性ガスの圧力が低いことは、透明導電膜の内部応力が高まって基材の変形を招くため、不利であると考えられていた。しかし、本発明者らの試行錯誤によれば、透明導電膜の形成のためのスパッタリングにおいて、圧力Pfを0.4Pa以下に調整することが高温高湿環境において高い耐久性を発揮する透明導電膜を製造するうえで有利であることが分かった。透明導電膜の形成のためのスパッタリングにおいて、圧力Pfが0.4Pa以下に調整されていると、イオン粒子が高いエネルギー状態を保ったまま基材2に衝突すると考えられる。これにより、グレイン32の最大フェレー径の平均値Dfが160~400nmの範囲に調整されやすいと考えられる。
【0038】
圧力Pfは、0.35Pa以下であってもよく、0.3Pa以下であってもよい。圧力Pfは、例えば、0.05Pa以上であり、0.07Pa以上であってもよく、0.1Pa以上であってもよい。
【0039】
(i)のステップにおけるスパッタリングの方法は、特定の方法に限定されない。(i)のステップにおけるスパッタリングの方法は、例えば、高磁場DCマグネトロンスパッタ法である。これにより、より確実に、高温高湿環境において高い耐久性を発揮する透明導電膜3を製造できる。
【0040】
(ii)のステップにおけるアニールにより、(i)のステップで形成された膜において結晶化が促される。その結果、透明導電膜3において所望の状態の多結晶31が得られる。
【0041】
(ii)のステップのアニールにおける基材2の環境温度Tkは、特定の値に限定されない。環境温度Tkは、例えば、165℃以上である。これにより、アニール後に基材2が収縮しやすく、透明導電膜3の内部応力が高くなりやすい。その結果、より確実に、高温高湿環境において高い耐久性を発揮する透明導電膜3を製造できる。
【0042】
環境温度Tkは、170℃以上であってもよく、175℃以上であってもよい。環境温度Tkは、例えば185℃以下である。これにより、透明導電膜3においてクラックが発生しにくい。
【0043】
(ii)のステップのアニールの時間Haは、特定の値に限定されない。時間Haは、例えば、90分間以下である。時間Haは、60分間以下であってもよい。時間Haは、例えば、15分間以上である。これにより、透明導電膜3において所望の状態の多結晶31が得られる。
【0044】
透明導電膜3は、スパッタリングではなく、真空蒸着又はイオンプレーティング等の方法によって形成されてもよい。
【0045】
積層体1は、例えば、情報端末用のタッチパネル及びヒータ等の分野で使用可能である。例えば、積層体1を用いて
図3に示すヒータ10aを提供できる。ヒータ10aは、積層体1と、一対の給電用電極4とを備えている。一対の給電用電極4は、透明導電膜3に電気的に接続されている。一対の給電用電極4は、電源(図示省略)に接続されうる。本明細書において、一対の給電用電極4は、正極及び負極の対を意味する。一対の給電用電極4の一方が正極として作用する場合、一対の給電用電極4の他方が負極として作用する。電源からの電力が一対の給電用電極4によって透明導電膜3に供給され、透明導電膜3が発熱する。
【0046】
給電用電極4は、例えば、1μm以上の厚みを有する。これにより、ヒータ1aを高い昇温速度で動作させる場合に、給電用電極4が破壊しにくい。なお、この給電用電極4の厚みは、タッチパネル等の表示デバイスに使用される透明導電性フィルムに形成される電極の厚みに比べると格段に大きい。給電用電極4の厚みは、2μm以上であってもよく、3μm以上であってもよく、5μm以上であってもよい。給電用電極4の厚みは、例えば5mm以下であり、1mm以下であってもよく、700μm以下であってもよい。
【0047】
一対の給電用電極4は、例えば、以下の様に形成される。化学気相成長法(CVD)及び物理気相成長法(PVD)等のドライプロセス又はメッキ法により、透明導電膜3の主面上にシード層を形成する。次に、給電用電極4を形成すべきでないシード層の上に、マスキングフィルムが配置される。マスキングフィルムは、レジストをシード層の上に積層し、その後露光及び現像のプロセスを経て作製されうる。その後、メッキ法等のウェットプロセスによってマスキングフィルムが配置されていない部分に1μm以上の金属膜を形成する。次に、シード層上に配置したマスキングフィルムを除去するとともに、レジストを用いて形成されるマスキングフィルムで給電用電極4をなすべき金属膜を覆う。次に、エッチングにより露出しているシード層を除去する。その後、マスキングフィルムを取り除くことにより、一対の給電用電極4を形成できる。
【0048】
一対の給電用電極4は、以下の様に形成してもよい。まず、上記の様に、透明導電膜3の主面上にシード層を形成する。その後、CVD及びPVD等のドライプロセス又はメッキ法等のウェットプロセスにより、透明導電膜3の主面上に1μm以上の金属膜を形成する。次に、レジストを用いて形成されるマスキングフィルムで給電用電極4をなすべき金属膜の一部を覆う。その後、不要な金属膜をエッチングにより除去し、マスキングフィルムを取り除く。これにより、一対の給電用電極4が形成される。さらに、導電性インクを透明導電膜3の主面上に所定のパターンで塗布し、塗布した導電性インクを硬化させることによって給電用電極4を形成してもよい。給電用電極4は、ディスペンサーによる塗布及びスクリーン印刷等の塗布方法によって導電性ペーストを透明導電膜3の主面上に所定のパターンで塗布し、塗布した導電性ペーストを硬化させることによって形成されてもよい。導電性ペーストは、典型的には、銀等の導電性材料のフィラーを含有している。給電用電極4は、半田ペーストを用いて形成してもよい。
【0049】
ヒータ10aは、様々な観点から変更可能である。例えば、ヒータ10aは、
図4に示すヒータ10bのように変更されてもよい。ヒータ10bは、特に説明する場合を除き、ヒータ10aと同様に構成されている。ヒータ10aの構成要素と同一又は対応するヒータ10bの構成要素には、同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。ヒータ10aに関する説明は、技術的に矛盾しない限り、ヒータ10bにも当てはまる。
【0050】
図4に示す通り、ヒータ10bは、保護層5を備えている。保護層5は、保護層5と基材2との間に透明導電膜3が位置するように配置されている。保護層5は、例えば、所定の保護フィルムと、保護フィルムを透明導電膜3に貼り付ける粘着剤層とを備えている。保護層5によって透明導電膜3が保護され、ヒータ10bは高い耐衝撃性を有する。保護層5における保護フィルムの材料は、特に限定されないが、例えば、フッ素樹脂、シリコーン、アクリル樹脂、及びポリエステル等の合成樹脂である。保護フィルムの厚みは、特定の値に限定されないが、例えば20~200μmである。これにより、ヒータ10bが良好な耐衝撃性を有しつつヒータ10bの厚みが大きくなりすぎることを防止できる。粘着剤層は、例えば、アクリル系粘着剤等の公知の粘着剤によって形成されている。例えば、保護フィルム自体が粘着性を有する場合には、保護フィルムのみによって保護層5が形成されていてもよい。
【0051】
ヒータ10a又は10bを用いてヒータ付物品を提供できる。例えば、
図5に示す通り、ヒータ付物品100は、成形体7と、粘着層6と、ヒータ10aとを備えている。成形体7は、被着面71を有する。成形体7は、金属材料、ガラス、又は合成樹脂で形成されている。粘着層6は、被着面71に接触している。粘着層6は、例えば、アクリル系粘着剤等の公知の粘着剤によって形成されている。ヒータ10aは、粘着層6に接触しているとともに粘着層6によって成形体7に取り付けられている。
【0052】
粘着層6は、例えば、基材2の主面に予め形成されていてもよい。この場合、粘着層6と被着面71とを対向させてヒータ10aを成形体7に押し付けることによって、ヒータ10aを成形体7に取り付けることができる。また、粘着層6はセパレータ(図示省略)によって覆われていてもよい。この場合、ヒータ10aを成形体7に取り付けるときに、セパレータが剥離されて粘着層6が露出する。セパレータ6は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル樹脂製のフィルムである。
【0053】
ヒータ10aは、例えば、近赤外線を用いた処理をなす装置において、この近赤外線の光路上に配置される。この装置は、例えば、近赤外線を用いて、センシング又は通信等の所定の処理を行う。成形体7は、例えば、このような装置の筐体を構成する。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。まず、実施例及び比較例に関する評価方法及び測定方法について説明する。
【0055】
[グレインの最大フェレー径の平均値の決定]
実施例及び比較例に係る積層体を300μm平方の正方形状に切り出し、断片を得た。透明導電膜の膜面が作業者を向くようにこの断片をウルトラミクロトームの試料ホルダに固定した。断片における透明導電膜の膜面に対して極めて小さい鋭角(3°以下)をなす平面上にその先端が位置するようにナイフを設置した。その後、ナイフを用いて、70nmの厚みで断片を切削し、切片を得た。3μm平方以上の目的観察部位を持つ切片を得られるようにナイフを設置した。
【0056】
日本電子社製の透過型電子顕微鏡JEM-2800を用いて、切片から作製したTEM観察用の試料における透明導電膜の膜面を観察した。この膜面のTEM写真から、無作為に選んだ10箇所以上の400nm平方の視野において隣り合うグレインの像のコントラスト差等に基づきグレイン同士の境界を決定した。その後、決定されたグレイン同士の境界に基づき、各視野に含まれる各グレインの最大フェレー径を決定した。この決定は、各視野において、全体を視認可能なグレインに対して行った。決定された各グレインの最大フェレー径に基づき、算術平均により、グレインの最大フェレー径の平均値Dfを決定した。結果を表1に示す。なお、最大フェレー径の平均値Dfの決定には、10個以上のグレインの最大フェレー径の値を使用した。
【0057】
[水蒸気透過度の測定]
水蒸気透過度測定装置DELTAPERMを用いて、ISO 15106-5:2015に従って、実施例及び比較例に係る積層体から作製した水蒸気透過度測定用の試験片の水蒸気透過度を測定した。この測定において、上流側チャンバの温度を温度40℃及び相対湿度90%に調節し、上流側チャンバの圧力を50Torr(トール)に調節した。加えて、この測定において、透明導電膜が下流側チャンバに接していた。この測定において、下流側チャンバの圧力が1Torrを超えたら真空ポンプを作動させて、排気を行った。この測定の結果から決定した水蒸気透過度を表1に示す。実施例及び比較例で使用した基材の水蒸気透過度を積層体と同様に測定した。結果を表1に示す。
【0058】
[透明導電膜の厚みの測定]
X線回折装置(リガク社製、製品名:RINT2200)を用いて、X線反射率法によって、各実施例及び各比較例に係る積層体の透明導電膜の厚みを測定した。結果を表1に示す。
【0059】
[透明導電膜の密度]
X線反射率法に従って、各実施例及び各比較例に係る積層体の透明導電膜の密度を測定した。結果を表1に示す。
【0060】
[透明導電膜の内部応力]
X線回折装置(リガク社製、製品名:RINT2200)を用いて、40kV及び40mAの光源からCu‐Kα線(波長λ:0.1541nm)を平行ビーム光学系を通過させて試料に照射し、sin2Ψ法の原理で透明導電膜の内部応力(圧縮応力)を評価した。sin2Ψ法は、多結晶薄膜の結晶格子歪みの角度(Ψ)に対する依存性から、薄膜の内部応力を求める手法である。上記のX線回折装置を用い、θ/2θスキャン測定によって、2θ=29.8°~31.2°の範囲において0.02°おきに回折強度を測定した。各測定点における積算時間は100秒に設定した。得られたX線回折(ITOの(222)面のピーク)のピーク角2θと、光源から照射されたX線の波長λとから、各測定角度(Ψ)におけるITO結晶格子面間隔dを算出し、結晶格子面間隔dから下記の式(1)及び式(2)の関係から結晶格子歪みεを算出した。λは、光源から照射されたX線(Cu‐Kα線)の波長であり、λ=0.1541nmである。d0は、無応力状態のITOの格子面間隔であり、d0=0.2910nmである。d0の値は、International Centre for Diffraction Data (ICDD)のデータベースに記載された値である。
2dsinθ=λ 式(1)
ε=(d-d0)/d0 式(2)
【0061】
図6に示す通り、透明導電膜の試料Saの主面に対する法線とITO結晶Crの結晶面の法線とのなす角度(Ψ)が45°、52°、60°、70°、及び90°であるそれぞれの場合において、上記のX線回折測定を行い、それぞれの角度(Ψ)における結晶格子歪みεを算出した。その後、透明導電膜の面内方向の残留応力(内部応力)σを、sin
2Ψと結晶格子歪みεとの関係をプロットした直線の傾きから下記式(3)により求めた。結果を表1に示す。
ε={(1+ν)/E}σsin
2Ψ-(2ν/E)σ 式(3)
【0062】
上記の式(3)において、EはITOのヤング率(116GPa)であり、νはポアソン比(0.35)である。これらの値は、D.G.Neerinck and T.J.Vink, “Depth Profiling of thin ITO films by grazing incidence X-ray diffraction”, Thin Solid Films,278(1996),P12-17 に記載されている値である。
図6において、検出器100は、X線回折を検出する。
【0063】
[耐久試験]
実施例及び比較例に係る積層体から作製した試験片に対し耐久試験を行った。耐久試験において、温度85℃及び相対湿度85%の環境に試験片を1000時間置いた。非接触式抵抗測定装置(ナプソン社製、製品名:NC-80MAP)を用いて、JIS Z 2316-1:2014に準拠して、渦電流測定法によって耐久試験の前後における各試験片の透明導電膜のシート抵抗を測定した。この測定結果から、各試験片に関し、|Rp-Rb|/Rbの値を求めた。ここで、Rpは、耐久試験後の透明導電膜のシート抵抗の値であり、Rbは、耐久試験前の透明導電膜のシート抵抗の値である。|Rp-Rb|/Rb≦5%を満たす試験片を「A」と評価し、それ以外の試験片を「X」と評価した。結果を表1に示す。
【0064】
<実施例1>
酸化インジウムスズ(ITO)(酸化スズの含有率:10重量%)をターゲット材として用いて、不活性ガスが存在する状態において、DCマグネトロンスパッタ法により、125μmの厚みを有するポリエチレンナフタレート(PEN)のフィルムの上にITO膜を形成した。不活性ガスとしてアルゴンガスを用い、アルゴンガスの圧力を0.2Paに調節した。ITO膜を形成した後のPENフィルムを、180℃の大気中に1時間置いて、アニール処理を行った。これにより、ITOを結晶化させ、透明導電膜を形成した。このようにして、実施例1に係る積層体を得た。透明導電膜の厚みが50nmになるようにDCマグネトロンスパッタ法の条件を調節した。実施例1に係る積層体の透明導電膜の膜面のTEM写真を
図7Aに示す。
図7Aに基づいて決定されたグレイン同士の境界を
図7Bに示す。
【0065】
<実施例2>
透明導電膜の厚みが100nmになるようにDCマグネトロンスパッタ法の条件を調節した以外は、実施例1と同様にして、実施例2に係る積層体を得た。
【0066】
<実施例3>
125μmの厚みを有するポリエチレンテレフタレート(PET)のフィルムをPENのフィルムの代わりに用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例3に係る積層体を得た。
【0067】
<実施例4>
125μmの厚みを有するPETのフィルムをPENのフィルムの代わりに用い、かつ、アニール処理の条件を160℃の大気中で1時間という条件に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例4に係る積層体を得た。
【0068】
<実施例5>
透明導電膜の厚みが30nmになるようにDCマグネトロンスパッタ法の条件を調節した以外は、実施例1と同様にして、実施例5に係る積層体を得た。
【0069】
<比較例1>
DCマグネトロンスパッタ法において、アルゴンガスの圧力を0.45Paに変更し、ITO膜を形成した後のPENフィルムを150℃の大気中に3時間置いてアニール処理を行った以外は、実施例1と同様にして、比較例1に係る積層体を得た。比較例1に係る積層体の透明導電膜の膜面のTEM写真を
図8Aに示す。
図8Aに基づいて決定されたグレイン同士の境界を
図8Bに示す。
【0070】
<比較例2>
DCマグネトロンスパッタ法において、アルゴンガスの圧力を1.0Paに変更した以外は、比較例1と同様にして、比較例2に係る積層体を得た。
【0071】
<比較例3>
アニール処理を行わなかったこと以外は、比較例1と同様にして、比較例3に係る積層体を得た。比較例3に係る積層体の透明導電膜は非晶質であった。
【0072】
表1に示す通り、実施例1~5に係る積層体の透明導電膜は、耐久試験の前後においてシート抵抗の変化率が小さく、高温高湿環境において良好な耐久性を示すことが示唆された。一方、比較例1~3に係る積層体の透明導電膜は、耐久試験の前後においてシート抵抗の変化率が大きく、高温高湿環境の耐久性が良好であるとは言い難かった。実施例1~5に係る積層体の透明導電膜において、グレインの最大フェレー径の平均値は160~400nmの範囲に収まっており、このことが、高温高湿環境における耐久性の観点から有利であることが示唆された。
【0073】
表1に示す通り、実施例1、2、及び5に係る積層体における透明導電膜の内部応力は、100~500MPaの範囲であった。一方、実施例3及び4に係る積層体における透明導電膜の内部応力は、実施例1、2、及び5に係る積層体における透明導電膜の内部応力より大きかった。基材としてPETのフィルムを用いた場合には、基材としてPENのフィルムを用いた場合と比べて、アニール処理後の収縮が大きくなりやすく、透明導電膜の内部応力が大きくなりやすいことが示唆された。
【0074】