IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシーの特許一覧

特許7605754架橋セルロースエーテルを製造するためのプロセス
<>
  • 特許-架橋セルロースエーテルを製造するためのプロセス 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】架橋セルロースエーテルを製造するためのプロセス
(51)【国際特許分類】
   C08B 15/10 20060101AFI20241217BHJP
   C08J 3/24 20060101ALN20241217BHJP
【FI】
C08B15/10
C08J3/24
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021561034
(86)(22)【出願日】2020-04-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-29
(86)【国際出願番号】 US2020028671
(87)【国際公開番号】W WO2020223039
(87)【国際公開日】2020-11-05
【審査請求日】2023-04-04
(31)【優先権主張番号】62/841,383
(32)【優先日】2019-05-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100187964
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 剛
(72)【発明者】
【氏名】ヒルド、アレクサンドラ
(72)【発明者】
【氏名】ノイバウアー、ジョージ
(72)【発明者】
【氏名】メンツ、ソニア
(72)【発明者】
【氏名】シュピーレ、マティアス
(72)【発明者】
【氏名】シュレック、マイケル
【審査官】岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-518448(JP,A)
【文献】国際公開第2015/165588(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 15/
C08J 3/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋セルロースエーテルを製造するためのプロセスであって、
(i)少なくとも1つのセルロース材料を、(ia)少なくとも1つの架橋剤および(ib)少なくとも1つのアルカリ化試薬を含む混合物と接触させて、活性化セルロース材料を形成するステップと、
(ii)ステップ(i)の前記活性化セルロース材料を少なくとも1つのエーテル化試薬と接触させるステップと(ここで、前記少なくとも1つのエーテル化試薬が、前記活性化セルロース材料と反応して、前記架橋セルロースエーテルを形成する)
を含み、
前記少なくとも1つのエーテル化試薬が、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、塩化メチル、塩化エチル、およびそれらの混合物からなる群から選択され、
前記少なくとも1つの架橋剤が、以下の化学構造(I)を有するジグリシジルエーテル型架橋剤であり、
【化1】

式中、nは、3~25であり、前記少なくとも1つのアルカリ化試薬は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、およびそれらの混合物の溶液からなる群から選択される、
プロセス。
【請求項2】
架橋セルロースエーテルを製造するためのプロセスであって、
(A)(a)少なくとも1つの架橋剤を(b)少なくとも1つのアルカリ化試薬と混合して、架橋剤/アルカリ化試薬混合物を形成するステップと、
(B)少なくとも1つのセルロース材料をステップ(A)の前記混合物と接触させて、活性化セルロース材料を形成するステップと、
(C)ステップ(B)の前記活性化セルロース材料を少なくとも1つのエーテル化試薬と接触させるステップと(ここで、前記少なくとも1つのエーテル化試薬が、前記活性化セルロース材料と反応して、架橋セルロースエーテルを形成する)
を含み、
前記少なくとも1つのエーテル化試薬が、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、塩化メチル、塩化エチル、およびそれらの混合物からなる群から選択される、
プロセス。
【請求項3】
前記架橋セルロースエーテルを、精製、洗浄、乾燥、造粒、および製粉のうちの1つ以上のステップに供するステップをさらに含む、請求項1または請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記活性化セルロース材料が、500キロパスカル以下の圧力でかつ50℃以下の温度で形成される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
前記架橋セルロースエーテルが、1,000キロパスカル以上の圧力でかつ70℃超の温度で形成される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項6】
前記少なくとも1つのセルロース材料が、木材パルプ、綿リンター、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項7】
ステップ(i)およびステップ(ii)が、不活性雰囲気で実施される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項8】
記少なくとも1つのアルカリ化試薬が、前記セルロース材料の無水グルコース単位1モル当たり1モルのアルカリ化試薬~前記セルロース材料の無水グルコース単位1モル当たり3.5モルのアルカリ化試薬の濃度でステップ(i)の前記混合物中に存在し、前記活性化セルロース材料を形成する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項9】
前記少なくとも1つのセルロース材料を粉砕して、粉砕されたセルロースフロック材料を形成するステップをさらに含み、前記粉砕するステップが、前記少なくとも1つのセルロース材料を(ia)少なくとも1つの架橋剤および(ib)少なくとも1つのアルカリ化試薬を含む混合物と接触させる前に実施される、請求項1に記載のプロセス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋セルロースエーテルを製造するためのプロセスおよびそのようなプロセスによって調製された架橋セルロースエーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースエーテルなどのセルロース誘導体は、その優れた特性および生理学的安全性のために、例えば、増粘剤、接着剤、結合剤および分散剤、保水剤、保護コロイド、安定剤、ならびに懸濁液、乳化剤およびフィルム形成剤として広く使用されている。加えて、セルロースエーテルは、モルタルのレオロジーを改善するために、様々な建設用途におけるドライミックスモルタルに用いられることが知られている。また、セルロースエーテルは、モルタルから吸収性基材への水の損失を制限する保水性を付与するためにモルタルで使用される。これにより、水硬性結合剤(セメントまたは石膏)が硬化反応中に十分な水を利用できるようになり、最終生成物の高い機械的強度をもたらす。水が不足すると、硬化が不完全になり、機械的強度が乏しく、亀裂が形成され、かつ耐摩耗性が低下する。
【0003】
これまで、セルロースエーテルは、セルロースパルプなどのセルロース出発材料を、2つのプロセス操作(ステップまたは段階):(1)アルカリ化操作および(2)エーテル化操作に供することを含む、周知の従来のプロセスによって製造されてきた。セルロースエーテルを作製するための周知の最先端の従来の手順は、例えば、米国特許第6,235,893B1号に図示および記載されている。従来のプロセスは、(1)セルロースパルプをアルカリ化するステップ、および(2)アルカリ化セルロースパルプをエーテル化してセルロースエーテルを形成するステップを含む。例えば、従来のプロセスでは、セルロースパルプは、水酸化ナトリウムでアルカリ化され、塩化メチルおよびアルキレンオキシド(エチレンオキシドまたはプロピレンオキシド)でエーテル化される。また、上記のアルカリ化およびエーテル化の操作のうちの各1つは、段階的に、すなわち、1つのステップまたは2つ以上の異なる別個のステップで実施することができ、各ステップは、圧力および温度の特定のプロセス条件で所定の期間実施することができる。セルロースエーテルが作製された後、セルロースエーテルは、(3)セルロースエーテルを洗浄すること、(4)セルロースエーテルを乾燥させること、および(5)セルロースエーテルを粒子状に製粉すること、などのさらなる所望のプロセスステップに供することができる。典型的には、アルカリ化およびエーテル化操作は、単一の反応器または2つ以上の反応器で実施することができる。
【0004】
より最近では、架橋セルロースエーテルを作製するために、架橋技術を使用することにより、セルロースエーテルを作製するための従来のプロセスに改善がなされている。架橋技術は、二塩化メチレン、エピクロロヒドリン、または様々なジグリシジルエーテルのような二官能性架橋剤を使用して鎖延長または架橋することができるセルロースエーテルを伴う。例えば、米国特許第6,958,393B2号(EP1384727B9と等しい)は、架橋技術を使用して架橋セルロースエーテルを含有するポリエーテル基を作製する方法を開示している。架橋セルロースエーテルは、セルロースエーテルを摂氏90度(℃)以下で、不活性雰囲気、例えば窒素(N)、架橋剤を含有するポリエーテル基の存在下、および苛性アルカリまたはアルカリの存在下で架橋することによって製造される。セルロースエーテルの架橋は、セルロースエーテル自体が作製される反応器中で、かつ苛性アルカリまたはアルカリの存在下で起こる。
【0005】
純粋な非架橋セルロースエーテルとは対照的に、例えばドライミックスモルタル配合物において架橋セルロースエーテルを使用することの1つの利点は、セルロースエーテルを架橋剤で架橋することにより、セルロースエーテルの水溶液の粘度を増加させることができ、増加したまたは高い粘度を有する得られた架橋セルロースエーテルは、依然として水溶液中で水溶性のままであり得る。また、架橋技術を使用して製造された、増加したまたは高い粘度を有する架橋セルロースエーテルは、例えば、モルタル用途において、生成物および用途の性能を損なうことなく、低減された添加量レベルで使用することができる。セルロースエーテルは、モルタル配合物に使用される比較的高価な構成成分であり、配合物中のセルロースエーテル添加量を低減させると、配合物のコストを節約することができる。
【0006】
既知のプロセスでは、セルロースエーテルを架橋するのに使用される架橋剤の添加量は、「過剰架橋」を防止するために非常に低く保たれ、次に、水不溶性のままであり、かつ水溶液の粘度に寄与しないポリマー生成物を提供する。しかしながら、より大きな反応器の内容物に付加される少量の架橋剤の均一な分布は、既知のプロセスを使用して実現することは非常に困難である。
【0007】
本明細書における「過剰架橋」は、セルロースエーテルの架橋に関して、セルロースエーテルと架橋剤との反応が大規模すぎて、共有結合したセルロースエーテル鎖の3次元ネットワークをもたらすことを意味し、そのような鎖は、水溶性ではなく、水相でゲル粒子として現れる。過剰架橋は、水溶液中のセルロースエーテルの水溶性の低下をもたらす。セルロースエーテルで過剰架橋が発生すると、得られた架橋セルロースエーテルの量が低減し、水溶液に可溶になり、架橋セルロースエーテルの適切な粘度は、水溶液中で達成することができない。言い換えれば、過剰架橋は、望ましくない粘度の低下をもたらす。過剰架橋セルロースエーテルは、非過剰架橋セルロースエーテルと比較して、水溶性の低下をもたらす架橋度を示す。
【0008】
例えば、米国特許第6,958,393B2号に記載されたセルロースエーテルを架橋するための知られたプロセスは、(1)セルロースを懸濁媒体の存在下でアルカリ金属水酸化物水溶液でアルカリ化させる、(2)アルカリ化セルロースを1つ以上のアルキレンオキシドと反応させる、(3)アルカリ化セルロースを懸濁媒体中に存在するハロゲン化アルキルとさらに反応させる、(4)続いてまたは同時に、アルカリ化セルロースを、特定量の架橋剤を使用して架橋剤と反応させる、(5)さらにアルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ化試薬をステップ(4)の反応混合物に付加する、(6)得られた架橋セルロースエーテルを精製および乾燥する、などのいくつかのステップを含む。
【0009】
米国特許第6,958,393B2号に記載されたプロセスでは、(1)高圧でのプロセスのエーテル化ステップ中の架橋剤の付加、(2)場合によっては架橋剤としてエピクロロヒドリン(ECH)の使用、(3)純粋な状態または有機溶媒に分散した低レベルの架橋剤の付加、(4)限られた低レベルの純粋な架橋剤での架橋剤の均一な分布、(5)プロセスの結果として得られる生成物の良好な性能の展示、が必要である。上記の要件に加えて、上記の知られたプロセスを使用すると、場合によっては、反応器中の架橋剤の分布が乏しくなり、架橋セルロース生成物の過剰架橋および望ましくない粘度の減少をもたらした。また、米国特許第6,958,393B2号の知られたプロセスの効率は、実験室規模からパイロットプラント規模、および/または最終的には実物大の産業プラント規模に容易に移行しない。したがって、上記の知られたプロセスを、プラント規模および知られたプロセスの条件下で機能させるには、より高度な専門知識、知識、技術的努力が必要である。
【0010】
架橋プロセスを成功させるためには、架橋剤がプロセスに少量導入されるときに、架橋剤の均一な分布を達成することが必要であることが見出された。均一な分布は、所望の分岐ポリマーを創出し、過剰架橋につながる局所的な過剰添加を防止するために達成されなければならない。過剰架橋(すなわち、高レベルの架橋)は、局所的な架橋ネットワークおよび局所不溶性材料のレベルの増加につながる。過剰架橋は、架橋セルロースエーテル製造プロセスのいつ、どの段階、ステップまたは操作に架橋剤がプロセスに導入されるかに依存し得ることも見出された。例えば、架橋剤は、エーテル化操作の前、最中、または後に導入または付加されることがある。しかしながら、アルカリ化およびエーテル化反応は、発熱反応であるため、プロセスで過剰架橋が発生するかどうかに影響を与える可能性のある多くの要因がある。要因には、例えば、反応時間、プロセスに導入される架橋剤のタイプ、プロセスに導入される架橋剤の量、架橋剤がプロセスに導入される方法、架橋剤を導入する時点でのプロセス条件、および架橋剤がどの期間にわたってプロセスに導入されるか、が含まれ得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、有用であり、かつ知られた従来のプロセスよりも高い効率で産業プラント規模で実装することができる架橋セルロースエーテルを製造するための新しい改善されたプロセスを提供することが望まれ、同時に、そのような改善されたプロセスの結果として得られる生成物の性能は、従来のプロセスの知られた生成物と同じか、それよりも良好なままである。
【0012】
従来技術のプロセスの問題は、本発明のプロセスを使用して解決することができる。本発明は、粘度が適切に増加した架橋セルロースエーテル(本明細書では「XCE」と呼ぶ)を調製するための新規なプロセスを対象とする。
【0013】
本発明は、水溶液の粘度が高められたXCEを調製するための新規の低圧(例えば、大気圧での)プロセスを対象とする。本発明は、大気圧でのセルロースエーテル製造プロセスにおいて、ヒドロキシエチルメチルセルロース誘導体などのXCEの製造を可能にする架橋剤添加を提供することに関し、これは、既知の従来のプロセスの費用のかかる高圧添加ステップを排除するだけではなく、水溶液の粘度が増加した生成物を提供する。このような生成物は、例えばドライミックスモルタル配合物において、減量して使用することができ、なおも適切な性能特性を提供する。
【0014】
一実施形態では、架橋剤の添加は、低圧ステップで行われ、これは、本発明のプロセスでは、例えば、高圧エーテル化プロセスステップの前のステップであるプロセスのアルカリ化ステップである。本発明において、架橋剤の添加量の制御は、良好なレオロジー性能(より高い粘度レベル)を有するが、より少ない技術的労力でXCE生成物を製造するための経済的な方法を提供する。また、本発明の添加量の概念は、既知のプロセスと比較して、架橋剤の付加のための強化されたプロセスウィンドウのさらなる利点を有する。
【0015】
1つの好ましい実施形態では、本発明は、(i)少なくとも1つのセルロース材料を、(ia)少なくとも1つの架橋剤と(ib)少なくとも1つのアルカリ化とを含む混合物と接触させて活性化セルロース材料を形成するステップと、(ii)ステップ(i)の活性化セルロース材料を少なくとも1つのエーテル化試薬と接触させるステップであって、少なくとも1つのエーテル化試薬が、活性化セルロース材料と反応して、XCEを形成する、接触させるステップと、を含む、XCEを製造するためのプロセスを対象とする。接触ステップ(i)は、例えば、500キロパスカル(kPa)以下(≦)の圧力で、かつ50℃の温度以下(≦)で実施することができる。接触ステップ(ii)は、例えば、1,500kPa以上(≧)の圧力で、かつ70℃までの温度(≧)で実施される。任意選択で、上記のプロセスは、ステップ(ii)から得られたXCEを精製、洗浄、乾燥、造粒、および製粉する1つ以上の追加のステップを含むことができる。
【0016】
別の実施形態では、本発明は、(A)少なくとも1つの架橋剤を(b)少なくとも1つのアルカリ化試薬と混合して架橋剤/アルカリ化試薬混合物を形成するステップと、(B)少なくとも1つのセルロース材料をステップ(A)の混合物と接触させて活性化セルロース材料を形成するステップと、(C)ステップ(B)の活性化セルロース材料を少なくとも1つのエーテル化試薬と接触させるステップであって、少なくとも1つのエーテル化試薬が、活性化セルロース材料と反応して架橋セルロースエーテルを形成する、接触させるステップと、(D)任意選択で、架橋セルロースエーテルを、精製、洗浄、乾燥、造粒、および製粉のうちの1つ以上のステップに供するステップと、を含む、架橋セルロースエーテルを製造するためのプロセスを対象とする。
【0017】
さらに別の好ましい実施形態では、架橋剤は、アルカリ化操作中にプロセスに導入または付加され、架橋剤は、架橋剤とアルカリ化試薬との混合物の形態でプロセスに付加される。
【0018】
さらに別の実施形態では、本発明は、上記のプロセスによって製造されたXCEを対象とする。本発明の上記のプロセスによって製造されたXCEは、有益には、高い水溶性を有し、非架橋セルロースエーテルと比較した場合、水溶液中の粘度の増加につながる。
【0019】
本発明のなおさらに別の実施形態は、上記のXCEを含むドライミックスモルタル形成組成物に関する。
【0020】
驚くべきことに、本発明のプロセスを使用し、低圧プロセス条件下(例えば、100kPa~500kPa)で所望の低添加量の均一に分布した架橋剤化合物を導入することにより、XCEを製造するプロセス全体を有利に単純化するだけでなく、XCEを作るための効率的な製造プロセスを提供することが見出された。例えば、本発明プロセスに導入される架橋剤の添加量は、本発明のプロセスの初期のステップで実施される、すなわち、本発明のプロセスで使用される架橋剤の添加量は、本発明のプロセスのセルロース出発物質操作のアルカリ化中に導入または付加されるが、既知の従来のプロセスで使用される架橋剤の添加量は、エーテル化操作中に導入または付加される。したがって、所望の均一に分布された架橋剤の添加量の付加は、従来のプロセスの高圧点または高圧ステップでの架橋剤の添加量の付加とは対照的に、本発明プロセスの低圧点または低圧ステップで起こる。典型的な従来のプロセスでは、水酸化ナトリウム(NaOHまたは苛性ソーダ)などのアルカリ化試薬をセルロースに付加して、アルカリ化ステップを実行する。しかしながら、本発明に従って行われるように、架橋剤がアルカリ化試薬と組み合わされる場合、アルカリ化試薬は、架橋剤の希釈剤としても機能し、プロセスにおいて架橋剤の均一な分布を可能にする。有益なことに、本発明のプロセススキームの後のアルカリ化ステップまたは他の任意のステップで、さらなる量の架橋剤を付加する必要がなくなり得る。
【0021】
本発明のプロセスの他のいくつかの利点には、例えば、(1)架橋剤の添加量の制御は、過剰架橋を特に大規模プラントプロセスの使用において回避する有利な所望の(および適切な)増加した粘度レベルを有するXCEをもたらすこと、(2)架橋剤は水溶性が低く、アルカリ溶液中で分散液を形成すること、(3)少量の架橋剤の添加量でより高い粘度を提供するプロセスにおいて少量の架橋剤が必要とされること、(4)大規模なプラント規模のプロセスにおいて少量の架橋剤の均一な分布が可能であること、(5)このプロセスは、本発明のプロセスを実行するために使用される反応器内に追加の噴霧デバイスを必要としないこと、が含まれる。
さらに、有利には、本発明のプロセスは、既知のプロセスによって調製された既知の生成物と同じまたは良好な性能特性を有するXCE生成物を提供する。加えて、有利には、本発明のプロセスは、本発明プロセスのアルカリ化ステップで行われる架橋剤の添加量を用いて、かつ過剰架橋の問題なしに、大きなプラント規模で実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明のプロセスを示す概略フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本開示における「均一な分布」は、セルロース繊維を異なる成分に接触させることに関して、本明細書では、セルロース繊維および他の成分が、所与の体積のすべての最小体積要素において同じ分布を有することを意味する。最小体積要素は、所与の体積におけるセルロース繊維の平均粒子サイズの10倍のエッジ長を有する立方体である。
【0024】
一般に、XCEを製造するためのプロセスは、アルカリ化ステップおよびエーテル化ステップを含む。アルカリ化ステップの前に、セルロース出発材料を粉砕するステップを実施することができ、典型的には、所望であり、XCEの洗浄(高温HO)/造粒ステップおよび/または乾燥/製粉ステップは、エーテル化ステップの後に実施することができる。プロセスのアルカリ化操作中に、架橋剤がアルカリ化操作に導入または追加されて、エーテル化操作中など、プロセスの後半でセルロース材料の架橋を提供する。
【0025】
1つの広義の実施形態では、本発明は、XCE生成物を製造するためのプロセスへの架橋剤の添加および架橋剤の付加に関する。1つの好ましい実施形態において、架橋剤は、架橋剤とアルカリ化試薬との混合物の形態のアルカリ化試薬と組み合わされたアルカリ化ステップまたはプロセスの操作に付加されるか、または添加される。
【0026】
本発明で使用される少量の架橋剤は、知られた生成物と同じレオロジー性能(例えば、ミリパスカル秒[mPa.s]で測定された高粘度)を有するが、より高い効率の架橋剤を用いる超高粘度生成物をもたらす。有利なことに、その結果、望ましくない副反応のレベルが低下し、廃水処理への影響が最小限に抑えられる。また、本発明では、高価な架橋剤の添加量を低減し、過剰架橋を防止する。
【0027】
本発明で使用される架橋剤の添加量は、アルカリ/水を架橋剤の懸濁媒体(または希釈剤)として使用するという利点を有し、その結果、添加ステップ中のセルロース材料中の分散の均一な分布を提供する目的を、従来のプロセスと比較してより簡単に達成することができる。加えて、アルカリ/水の懸濁媒体を使用する本発明は、架橋剤の希釈剤として有機溶媒を使用する当技術分野で知られたプロセスのように、XCE製造プラントにおける安全性の問題および環境上の懸念を有さない。
【0028】
本発明のプロセスのさらなる利点には、例えば、(1)プロセスは、Epilox M 985またはEpilox P13-42などのジグリシジルエーテル化学に基づく容易に入手可能な架橋剤を使用すること、および(2)架橋剤/アルカリ/水分散液は無毒性であること、が挙げられる。対照的に、知られたプロセスでは、架橋剤系としてエピクロロヒドリン(ECH)を使用し、そのような知られたプロセスは、例えば、ECHが毒性であることが知られており、発癌性であり、かつ低沸点(116℃)/低分子量(Mw)(92.53g・mol-1)を有することを含むいくつかの不利な点に悩まされている。表Iは、Epilox生成物対ECHの物理データの比較を示している。
【表1】
【0029】
本発明のプロセスは、有益なレオロジー挙動および様々な応用分野において有利な特性を有する、不可逆的にXCEを提供する。本発明は、XCEを調製するための架橋剤として、C10~C24アルキル二官能性化合物(オキシランおよび/またはハロゲン化物)およびポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルを使用する。本発明のプロセスは、架橋剤/アルカリ/水混合物または分散液を使用して、プロセスのアルカリ化ステップに架橋剤を導入する。XCEを調製するために架橋剤としてECHを使用する従来技術のプロセスは、しばしば不溶性の架橋生成物をもたらし、本発明で有用な架橋剤は、ECHよりも環境への懸念が少ない。
【0030】
一般に、本発明で有用な架橋剤/アルカリ分散液組成物は、(i)架橋剤と、(ii)水中のアルカリ化試薬と、(iii)所望される任意の他の任意選択成分と、の混合物を含む。
【0031】
本発明のセルロースエーテルを調製するために使用される架橋剤は、例えば、当技術分野で知られた1つ以上の架橋剤を含む。非水溶性を有するか、または水への10パーセント(%)未満(<)の溶解度を有する架橋剤が典型的には使用される。例えば、架橋剤の非水溶性特性により、セルロース骨格のヒドロキシル(-OH)基との望ましい副反応の最適化が起こり、アルカリ化操作で使用されるNaOHの-OH基との望ましくない副反応が最小限に抑えられる。
【0032】
本発明での使用に好適な架橋剤には、例えば、ポリオキシアルキレンまたはポリアルキレングリコール基、およびセルロースエーテルを架橋する際にセルロースエーテルとエーテル結合を形成する、ハロゲン基、グリシジルもしくはエポキシ基などの2つ以上、好ましくは2つの架橋基、またはエチレン性不飽和基、例えば、ビニル基を有する化合物が含まれる。好適な二官能性化合物には、例えば、1,2-ジクロロ(ポリ)アルコキシエーテル、ジクロロポリオキシエチレン、ジグリシジルポリアルコキシエーテル、ジグリシジルホスホネート、スルホン基を含有するジビニルポリオキシアルキレン、およびそれらの混合物が含まれる。2つの異なる官能基を持つ化合物も使用することができる。2つの異なる官能基を含有する化合物の例には、ECH、グリシジル(ポリ)オキシアルキルメタクリレート、およびそれらの混合物が含まれる。
【0033】
1つの好ましい実施形態では、本発明において有用な架橋剤は、ジグリシジルエーテル化学に基づくことができる。例えば、架橋剤は、以下の化学構造(I)によって示されるように、ジグリシジルエーテルタイプの架橋剤であり得る:
【化1】
上記の構造(I)では、「n」は、一実施形態では3~25、別の実施形態では7~20、さらに別の実施形態では9~15であり得る。
【0034】
本発明で有用ないくつかの市販の架橋剤、例えば、ジグリシジルエーテル化学に基づく架橋剤の例には、Epilox P13-42(Epilox P13-42生成物は、nが約(≒)8に等しい(=)場合に構造(I)である)、およびEpilox M 985(Epilox M 985生成物は、n=≒13の場合に構造(I)である(上記の両方のEpilox生成物は、Leuna-Harze GmbHから入手可能である))が含まれる。Epilox M 985架橋剤は、ポリプロピレングリコール(PPG)から作製された線状ポリ(プロピレングリコール)ジグリシジルエーテルである。
【0035】
Epilox M985およびEpiloxP13-42などの架橋剤は、有益なことにそのような架橋剤が(1)無毒性であり、および(2)沸点が非常に高い(例えば、200℃超(>))/高Mw(例えば、600グラム/モル[g/mol]超)という理由で好ましい実施形態の例である。これは、ECHなどの従来技術で使用される知られた架橋剤システムのいくつかとは対照的であり、(1)毒性および/または発癌性であり、および(2)低い沸点(例えば、116℃)および低いMw(例えば、92.53g/mol)を有する。
【0036】
Epilox M 985などの架橋剤を用いると、実際の共有結合の構築がセルロース材料と共に起こる。共有結合のこの構築は、セルロースエーテルのMwを有利に増加させる。本発明の増加したMwを有するセルロースエーテルは、有益な特性、例えば、高粘度レベル(例えば、非架橋セルロースエーテルと比較して>20%高い)に到達するための手段を提供する。
【0037】
架橋剤によって呈示されるいくつかの他の有利な特性の例は、性能特性を犠牲にすることなく、ドライミックスモルタル適用におけるより低添加量レベルを含むことができる。
【0038】
加えて、本発明のXCEを使用する場合、例えばドライミックスモルタル配合物で使用する場合、所望の性能を得るために必要なXCEの量は、非架橋セルロースエーテルと比較して低減する。XCE添加量のそのような低減は、次に、例えば、セメント質タイル接着剤の適用において、所望の性能を得るために必要とされるセルロースエーテルの低減した量と相関する使用コストを低減する。
【0039】
一般に、本発明で使用される架橋剤の量は、0.0001当量~0.05当量の範囲であり得、単位「当量」は、セルロースエーテルの無水グルコース単位(AGU)のモル数に対するそれぞれの架橋剤のモル比を表す。プロセスで使用される架橋剤の量は、一般に、一実施形態では0.0005当量~0.03当量であり、別の実施形態では0.001当量~0.005当量である。使用される架橋剤の量が0.05当量を上回ると、XCEの過剰架橋が発生する可能性があり、したがって、セルロースエーテルは、不溶性になる。使用される架橋剤の量が0.0001当量を下回る場合、例えば1%溶液でのXCEの粘度の上昇は、検出できない場合がある。
【0040】
架橋剤と混合して架橋剤を希釈するために使用され、本発明のプロセスのアルカリ化ステップ中にも使用されるアルカリ化試薬(またはアルカリ化剤)には、例えば、当技術分野で知られている1つ以上のアルカリ化試薬が挙げられる。例えば、アルカリ化試薬には、NaOH、水酸化カリウム(KOH)、水酸化リチウム(LiOH)、およびそれらの混合物などのアルカリ金属水酸化物の溶液が含まれる。いくつかの実施形態では、KOHまたはLiOHのアルカリ性水溶液は、アルカリ化試薬としての使用に好適であるが、経済的理由から、本発明においてアルカリ化試薬として使用されるアルカリ金属水酸化物は、NaOH水溶液である。好ましい実施形態では、本発明で使用されるアルカリ金属水酸化物は、The Dow Chemical Companyから入手可能な50%苛性ソーダである。アルカリ化試薬は、本発明のプロセスを実行するときに、1つの好ましい実施形態では、天然セルロースまたはセルロース水和物をアルカリ化するために使用される。
【0041】
一般に、アルカリ化試薬は、水中のアルカリ化試薬の混合物の形態であり(例えば、水中の50%NaOH)、水溶液の濃度は変動し得る。例えば、水溶液は、水の重量%に基づいて、一実施形態では約10重量パーセント(重量%)~90重量%、別の実施形態では25重量%~75重量%、さらに別の実施形態では40重量%~60重量%の範囲である。好ましい実施形態では、水溶液は、水中で50%試薬として使用される。
【0042】
アルカリ化試薬に使用される水は、任意の供給源から得られる。異なるタイプの水には、例えば、水道水、飲料水、および脱イオン水が含まれる。
【0043】
アルカリ化試薬は、アルカリ化試薬を本発明の架橋剤と混合する前または混合する直前に、従来の混合手段によってアルカリ化試薬と水を混合することによって形成される。
【0044】
1つの一般的な実施形態では、本発明で有用な架橋剤/アルカリ化試薬分散液または懸濁液を製造するプロセスは、(a)少なくとも1つの架橋剤を少なくとも1つのアルカリ化試薬と混合して分散液を形成することを含む。架橋剤とアルカリ化試薬とを混合して分散液を形成することは、任意の水平または垂直混合デバイスなどの任意の従来の混合手段によって実施されるか、または、架橋剤をアルカリ化試薬にポンプ圧送することによって、またはアルカリ化試薬の供給ラインと架橋剤の供給ラインとの組み合わせによって、実施することができる。
【0045】
架橋剤/アルカリ化試薬分散液によって呈示される有利な特性のうちの1つの例は、分散液がアルカリ化中にセルロース出発材料上に容易かつ均一に分布されることを含む。
【0046】
1つの広義の実施形態では、セルロース出発材料からXCEを製造するプロセスは、(a)少なくとも1つの架橋剤を少なくとも1つのアルカリ化試薬と混合して、架橋剤/アルカリ化試薬混合物を形成するステップと、(b)少なくとも1つのセルロース材料をステップ(a)の架橋剤/アルカリ化試薬混合物と接触させて活性化セルロース材料を形成し、その結果、活性化セルロース材料が少なくとも1つの架橋剤の存在下で、≦500kPaの圧力でかつ≦50℃の温度で形成されるステップと、(c)ステップ(b)からの少なくとも1つの架橋剤の存在下で、ステップ(b)の活性化セルロース材料を少なくとも1つのエーテル化試薬と接触させて、XCEを形成するステップと、(d)任意選択で、ステップ(c)からのXCEを精製、洗浄、乾燥、造粒、および製粉する1つ以上のステップを実行するステップと、を含む。
【0047】
図1を参照すると、一般に参照番号10で示される本発明のプロセスが示されており、水溶液の粘度が増強され、例えばドライミックスモルタルで有用なXCEを製造するための様々な一般的なプロセス操作またはステップが示されている。図1に示されるように、プロセスは、例えば、矢印11aおよび12aによって示されるようにそれぞれアルカリ化ステップ13に進む、パルプなどのセルロース出発材料11、および架橋剤とアルカリ化試薬12との分散液または混合物を含む。
【0048】
図1に示されるような一般的なプロセスは、例えば、図1の点線で示される任意選択の粉砕ステップ21などの任意選択の操作またはステップを含むことができ、これらは、矢印21aによって示されるように進み、セルロース出発材料11を形成し、次に、矢印11aによって示されるように、アルカリ化ステップ13に進む。粉砕ステップ21は、任意選択であるが、粉砕ステップ21は、典型的には、セルロース出発材料11(例えば、木材パルプ)を粉砕して、反応器中で容易に流動および混合することができるセルロースの粉砕されたフロックを形成することができるように、好ましい実施形態で使用される。粉砕されたフロックはまた、架橋剤/アルカリ化試薬混合物12と、従来の噴霧手段を使用して反応器中で混合されているセルロースフロックにその混合物を噴霧することなどによって、容易に接触する。次に、セルロース11の粉砕されたフロックは、矢印11aによって示されるように、アルカリ化ステップ13に進むことができ、次に、進むことができる。
【0049】
アルカリ化ステップ13において、(i)NaOH(水中で50%)などのアルカリ化試薬および(ii)上記のような架橋剤を含む架橋剤/アルカリ化試薬分散液混合物12は、セルロース材料11と混合されて、矢印13aによって示されるように、活性化セルロース14を形成し、次に、これは、矢印14aによって示されるように、エーテル化ステップ15に進む。プロセス10のアルカリ化ステップ13において、架橋剤とアルカリ化試薬との組み合わせまたは混合物12(例えば、分散液または水性懸濁液12の形態である)を、矢印12aで示されるように、アルカリ化ステップ13に付加することができる。アルカリ化ステップ13は、架橋剤/アルカリ化試薬分散液中に存在する所望の所定添加量の架橋剤のプロセスへの付加を可能にするのに有利に役立つ低圧操作である。
【0050】
再び図1を参照すると、アルカリ化ステップ13の後、活性化セルロース14がアルカリ化ステップ13で形成され、活性化セルロースを、矢印14aによって示されるように、エーテル化ステップ15に供する。エーテル化ステップ15において、エーテル化試薬16は、矢印16aによって示されるように、エーテル化ステップ17に導入または付加されて、活性化セルロース14と接触し、エーテル化ステップ15中にセルロースエーテルを形成する。また、エーテル化ステップ15において、矢印12aで示されるように、アルカリ化ステップ13に以前に導入された架橋剤/アルカリ化試薬12の混合物からの架橋剤が存在する。活性化セルロースと共に架橋剤は、矢印14aによって示されるように、エーテル化ステップ15に進む。エーテル化ステップ15中に、エーテル化試薬16は、矢印16aによって示されるように、エーテル化ステップ15に付加される。そして、エーテル化ステップ15において、エーテル化試薬および架橋剤は、活性化セルロースと接触して、架橋剤の存在下でかつエーテル化ステップ15において、矢印15aによって示されるように形成されるXCEエーテル17を形成する。
【0051】
別の実施形態では、エーテル化ステップ15からのXCE17は、矢印17aによって示されるように、図1において点線で示される1つ以上の追加の任意選択の操作またはステップ22に進むことができる。ステップ22は、任意選択であるが、本発明のプロセスでは、典型的には、ステップ22のうちの1つ以上が所望され、かつ使用される。任意選択のステップ22は、当業者に既知のステップ、例えば、(1)XCEを洗浄するための温水(例えば、85℃超)(HO)洗浄ステップと、(2)XCE顆粒を形成するための造粒ステップと、(3)造粒されたXCEを乾燥させるための乾燥ステップと、(4)XCEを粉末生成物に形成するための製粉ステップと、から選択することができる。上記の任意選択の操作の各々は、単一ステップ操作で実施することができ、または必要に応じて、上記の任意選択のステップのうちの2つ以上を1つの操作に組み合わせることができる。
【0052】
例えば、エーテル化ステップ15の後のXCE17、典型的には、不要な揮発性副生成物および塩(NaCl)を有し、したがって、好ましい実施形態では、エーテル化ステップ15の後のXCE17は、矢印15aによって示されるように、洗浄ステップ22を通して処理され、XCEからの不要な揮発性副生成物、塩、および他の不純物を洗い流し、続いて乾燥ステップ22で処理される。
【0053】
本発明のセルロースエーテルを製造するために使用され、XCE製造プロセスのアルカリ化操作に付加される出発原料は、セルロースである。セルロースパルプは、典型的には、例えば、木材パルプまたは綿リンターパルプから得られる。パルプは、典型的には、従来の粉砕手段を使用して粉砕され、粉末またはフロック形態でセルロースを提供する。1つの好ましい実施形態では、本発明で有用な好適なセルロース出発材料には、粉砕された木材パルプ、粉砕されたリンターパルプ、およびそれらの混合物が含まれる。別の好ましい実施形態では、木材パルプがプロセスで使用され、木材パルプは、アルカリ化プロセスステップに供給されるときにセルロース供給物をより流動性にする手段として、セルロースの粉砕されたフロックに粉砕される。一般に、パルプは、例えば、一実施形態では1,000ミクロン(μm)~10μm、別の実施形態では900μm~25μmの最適サイズの粒子に粉砕される。粒子サイズが粗いほどアルカリ化ステップの効率が低下する可能性があり、粒子サイズが細かいほど粉砕に時間がかかりすぎる可能性がある。アルカリ化ステップの前に、反応器は、典型的には、パルプフロックで満たされる。
【0054】
前述のように、架橋剤は、プロセスのアルカリ化ステップ中に、水中の50%NaOHとの混合物としてプロセスに組み込まれるか、または導入される。
【0055】
架橋剤/アルカリ化試薬混合物組成物は、本発明のプロセスにおいて、セルロース出発物質をアルカリ化または「活性化」し、「活性化セルロース材料」を形成するために使用される。少なくとも1つのセルロース材料は、架橋剤/アルカリ化試薬混合物と接触され、アルカリ化試薬混合物中のセルロースは、プロセス条件下でセルロースをアルカリ化して、活性化セルロース材料を形成する。セルロース材料を架橋剤/アルカリ化試薬混合物と接触させるステップは、例えば、架橋剤/アルカリ化試薬混合物をセルロースに噴霧および混合することなどの既知の手段によって実施される。
【0056】
一般に、架橋剤/アルカリ組成物は、架橋剤とアルカリ化試薬との混合物の形態でプロセスのアルカリ化ステップに付加され、混合物組成物の濃度は、例えば、一実施形態では、1mol NaOH/mol AGU~3.5mol NaOH/mol AGU、別の実施形態では、1.5mol NaOH/mol AGU~3.3mol NaOH/mol AGU、さらに別の実施形態では、1.8mol NaOH/mol AGU~3.1mol NaOH/mol AGUの範囲にある。
【0057】
セルロースエーテルと接触するためにアルカリ化ステップ中に付加される架橋剤/アルカリ分散液は、任意の既知の付加手段、例えば、均一に噴霧することによって、およびNaOHの均一な分布を可能にする任意の手段によって実施でき、セルロースパルプの十分な活性化を確実にする。
【0058】
プロセスのアルカリ化ステップは、低圧および低温条件下で実施される。例えば、アルカリ化ステップの圧力は、一実施形態では0キロパスカル(kPa)~500kPa、別の実施形態では100kPa~400kPa、さらに別の実施形態では200kPa~300kPaの範囲である。上記の圧力範囲は、アルカリ化ステップ中の反応器中の典型的な圧力レベル範囲である。また、例えば、プロセスのアルカリ化ステップの温度は、一実施形態では10℃~50℃、別の実施形態では15℃~45℃、さらに別の実施形態では20℃~40℃の範囲である。上記の温度範囲は、アルカリ化ステップ中の反応器中の典型的な温度範囲である。本発明のプロセスで使用される温度がより高いと、望ましくない圧力上昇をもたらすであろう。
【0059】
本発明のプロセスに従ってセルロースエーテルを製造するために、エーテル化試薬は、上記のアルカリ化ステップで調製された活性化セルロース材料と混合される。セルロースエーテルを調製するために使用されるエーテル化試薬には、例えば、当技術分野で知られた1つ以上のエーテル化試薬が含まれる。例えば、エーテル化試薬には、エチレンオキシド(EO)、プロピレンオキシド(PO)、ブチレンオキシド(BO)、塩化メチル(MCl)、塩化エチル、クロロ酢酸、およびそれらの混合物が含まれ得る。1つの好ましい実施形態では、本発明において有用なエーテル化試薬は、例えば、MCl、PO、EO、およびそれらの混合物である。
【0060】
XCE製造プロセスのエーテル化操作に付加されるエーテル化試薬の量は、例えば、一実施形態では4mol/AGU~6mol/AGU、別の実施形態では4.5mol/AGU~5.5mol/AGU、およびさらに別の実施形態では4.7mol/AGU~5.3mol/AGUを含む。使用されるエーテル化試薬の量が<4mol/AGUの場合、セルロースエーテルは、置換不足であり、完全に水溶性ではない可能性がある。使用されるエーテル化試薬の量が6mol/AGU超の場合、この高添加量のエーテル化試薬により、セルロースエーテルが疎水性になり、水溶性が低下する可能性がある。
【0061】
活性化セルロースと接触するためにエーテル化ステップに付加されるエーテル化試薬は、任意の知られた付加手段によって、例えば、構成要素を反応器にポンプ圧送することによって実施することができる。
【0062】
プロセスのエーテル化ステップは、例えば、不活性雰囲気下の反応容器(反応器)中で実施される。プロセスで使用される不活性材料には、例えば、N、アルゴン、およびそれらの混合物が含まれる。プロセスのエーテル化ステップ中、および反応物の反応が起こり、進行してセルロースエーテル材料を形成するにつれて、発熱反応の結果として圧力および温度が上昇する。
【0063】
セルロースエーテル生成物がエーテル化ステップ中に形成されるので、プロセスのエーテル化ステップの圧力は、例えば、一実施形態では1,500kPa~2,500kPa、別の実施形態では1,600kPa~2,400kPa、さらに別の実施形態では1,800kPa~2,200kPaの範囲である。1,500kPa未満の圧力では、反応速度が遅すぎ、2,500kPa超の圧力では、特別な高圧機器が必要である。
【0064】
プロセスのエーテル化ステップの温度は、例えば、一実施形態では60℃~100℃、別の実施形態では70℃~90℃、さらに別の実施形態では75℃~85℃である。60℃未満の温度では、反応速度は、許容できないほど遅くなり、100℃超の温度では、不要な副反応が発生し、圧力が上昇する可能性がある。例えば、圧力が2,500kPaを超えて上昇する場合、高圧を処理することができ、かつより高価な異なる圧力反応器が必要になる。
【0065】
一般に、エーテル化試薬は、プロセスのエーテル化ステップに付加され、活性化セルロース材料と混合され、その結果、セルロース材料とのエーテル化試薬は、均一な反応混合物を形成し、これは次に、エーテル化のプロセスの下で反応してセルロースエーテルを形成する。プロセスのエーテル化ステップにおいて、架橋剤はまた、反応混合物中に存在し、プロセスのアルカリ化ステップから生じ、架橋剤がアルカリ化ステップの低温で反応することなくエーテル化ステップに持ち越される。エーテル化ステップにおいて反応混合物を上記の温度範囲で加熱すると、架橋剤は、セルロースエーテルと反応し、架橋剤とセルロースエーテルとの架橋作用により、本発明のXCEが生成される。本発明のXCEを生成するためのセルロースエーテルの架橋作用は、例えば、プロセスのエーテル化プロセスステップの前、最中、または後に起こり得る。好ましい実施形態では、本発明の架橋反応は、架橋剤をエーテル化ステップに付加することによって、エーテル化プロセスステップ中に生成される。セルロースエーテルを架橋してXCEを生成することは、先行技術において周知の反応であり、例えば、米国特許第6,958,393B2号に記載されている。一般に、架橋剤との架橋に供されるセルロースエーテルは、典型的には、ヒドロキシアルキル基およびアルキルエーテル基を含有する混合セルロースエーテルである。例えば、一実施形態では、ヒドロキシアルキル基およびアルキルエーテル基を含有する混合セルロースエーテルには、ヒドロキシアルキルメチルセルロースなどのアルキルヒドロキシエチルセルロースが含まれる。
【0066】
いくつかの実施形態では、本発明での使用に好適なセルロースエーテル化合物の例示として、メチルセルロース(MC)、エチルセルロース、プロピルセルロース、ブチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、メチルヒドロキシエチルヒドロキシプロピルセルロース(MHEHPC)、エチルヒドロキシエチルセルロース(EHEC)、メチルエチルヒドロキシエチルセルロース(MEHEC)、疎水性修飾エチルヒドロキシエチルセルロース(HMEHEC)、疎水性修飾ヒドロキシエチルセルロース(HMHEC)、スルホエチルメチルヒドロキシエチルセルロース(SEMHEC)、スルホエチルメチルヒドロキシプロピルセルロース(SEMHPC)、スルホエチルヒドロキシエチルセルロース(SEHEC)、およびそれらの混合物が挙げられる。いくつかの好ましい実施形態では、混合セルロースエーテルは、例えば、HEMC、HPMC、およびそれらの混合物を含むことができる。
【0067】
本発明で有用なセルロースエーテルの場合、アルキル置換は、セルロースエーテル化学において、ツァイゼル法によって決定される「置換度DS」という用語で記載される。DSは、無水グルコース単位当たりの置換OH基の平均数である。メチル置換は、例えば、DS(メチル)またはDS(M)として報告され得る。ヒドロキシアルキル置換は、ツァイゼル法によって決定される「モル置換MS」という用語によって記載される。MSは、無水グルコース単位1mol当たりのエーテルとして結合するエーテル化試薬の平均モル数である。エーテル化試薬EOによるエーテル化は、例えば、MS(ヒドロキシエチル)またはMS(HE)として報告される。エーテル化試薬POによるエーテル化は、MS(ヒドロキシプロピル)またはMS(HP)として対応して報告される。側基は、ツァイゼル法を使用して決定される(参照:G.Bartelmus and R.Ketterer,Z.Anal.Chem.286(1977),161-190)。
【0068】
本発明のプロセスによって製造されたXCEは、例えば、ある程度のアルキル置換を有する上述のセルロースエーテルのいずれかを含む。例えば、架橋HECは、一実施形態では、1.5~4.5の置換度MS(HE)を有し、別の実施形態では、2.0~3.0の置換度MS(HE)を有する。さらに別の実施形態では、架橋されるメチルセルロースの混合エーテルを本発明のプロセスで使用することができる。例えば、HEMCの場合、DS(M)値は、一実施形態では1.2~2.1、別の実施形態では1.3~1.7、さらに別の実施形態では1.35~1.6の範囲であり、MS(HE)値は、一実施形態では0.05~0.75、別の実施形態では0.15~0.45、さらに別の実施形態では0.20~0.40の範囲である。HPMCの場合、DS(M)値は、一実施形態では1.2~2.1の範囲であり、別の実施形態では1.3~2.0の範囲であり、MS(HP)値は、一実施形態では0.1~1.5の範囲であり、別の実施形態では0.2~1.2の範囲である。
【0069】
上記のエーテル化ステップの後、製造されたXCE生成物は、様々な追加の任意選択の処理ステップで処理することができる。例えば、得られたXCEは、セルロース誘導体生成物およびそれからの粉末を製造するために通常使用される従来の方法を使用して、洗浄もしくは精製、造粒、乾燥、および/または粉末形態に粉砕することができる。例えば、洗浄の前または後に、XCE中に存在する揮発性有機構成成分を、蒸留またはスチームストリッピングによって還元またはXCE生成物から除去することができる。任意選択のステップは、当業者に周知であり、上記の方法のいずれかを本発明のプロセスで使用することができる。例えば、上記のエーテル化ステップの後、典型的には、XCEは洗浄および濾過されてフィルターケーキを生成する。フィルターケーキの貯蔵寿命は非常に短く、取り扱いが面倒な場合がある。したがって、上記の様々な任意選択のステップのうち、1つの好ましい実施形態では、XCE生成物の少なくとも洗浄ステップ、乾燥ステップ、および製粉ステップを実行して、取り扱い、包装および保管目的のしやすさのための乾燥粉末生成物を形成することが望ましい。
【0070】
本発明の上記プロセスによって作製されたXCEによって呈示されるいくつかの有利な特性には、例えば、(1)非常に高い粘度の水溶液が得られ、例えば、モルタル配合物の用途において添加量を減らすことが可能になる。
【0071】
例えば、本発明のプロセスによって製造されたXCE水溶液の粘度の増加は、非架橋セルロースエーテル水溶液と比較した場合、一実施形態では15%超、別の実施形態では20%超、さらに別の実施形態では30%超、およびさらに別の実施形態では50%超の粘度増加を含む。
【0072】
1つの広義の実施形態では、本発明のXCEは、レンダリング、セメント質タイル接着、セメント押出しなどの、ドライミックスモルタル配合物のための付加物として使用され得る。例えば、ドライミックスモルタル配合物を作製するプロセスでは、プロセスは、(I)保水剤として使用される上記のXCEと、(II)例えば、セメントまたは石膏を含む加水分解結合剤などの所望の従来のドライミックスモルタル配合成分と、を混合するステップを含む。
【0073】
好ましい実施形態では、ドライミックスモルタル配合物は、当技術分野で知られるような従来の混合手段によって、成分(I)と(II)(例えば、固体粉末の物理的ブレンド)とを混合して調製することができる。ドライミックスモルタル配合物によって呈示されるいくつかの有利な特性には、例えば、より低添加量のXCE(>10%)を使用する能力が含まれ、結果として配合コストが低くなり得る。ドライミックスモルタル配合物を調製するために、一般に、保水剤成分(I)として使用されるXCEの量は、例えば、一実施形態では(ドライミックスモルタルの総量に基づいて)0.01重量%~1.0重量%、別の実施形態では0.05重量%~0.8重量%、さらに別の実施形態では0.1重量%~0.5重量%であり得る。これらのレベルを下回ると、ドライミックスモルタルの水分保持が不十分になり、これらの制限を上回ると、配合のコストが高くなりすぎる。
【0074】
従来のドライミックスモルタル配合成分、成分(II)は、例えば、セメント、石膏、フライアッシュ、炉スラグなどの加水分解結合剤などの成分、ならびに骨材(砂)、微細充填剤(炭酸カルシウム、ヒュームドシリカ、ドロマイトなど)、空気連行剤、脱泡剤、再分散性ポリマー粉末、疎水性剤、およびそれらの混合物が含まれ得る。
【実施例
【0075】
以下の実施例は、本発明をさらに詳細に説明するために提示されるが、特許請求の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。すべての部および割合は、特に指示がない限り重量である。
【0076】
発明実施例(Inv.Ex.)および比較例(Comp.Ex.)で使用される様々な用語および呼称は、以下のように説明する:
「HEMC」は、ヒドロキシエチルメチルセルロースの略である。
「HPMC」は、ヒドロキシエチルメチルセルロースの略である。
「AGU」は、無水グルコース単位の略である。
【0077】
「LVN」は、ISO 5351(2010)に記載された手順に従って測定されたパルプの限界粘度数を表す。
【0078】
実施例で使用される様々な原材料または構成成分は、以下のように説明される:
Epilox M 985は、Leuna Harzeから入手可能なポリ(プロピレングリコール)ジグリシジルエーテルである。
【0079】
本発明のプロセスで使用することができ、かつジグリシジルエーテルに基づく架橋化合物の実施例は、Eugene W.Jones,Crosslinking of Cotton Cellulose with Diglycidyl Ether,Journal of Applied polymer science,Vol.V,issue no 18,714-720(1961)に記載されている。
【0080】
一般的に、以下の実施例は、R.Dongesによる参考文献「Non-Ionic cellulose Ethers」,British Polymer Journal Vol.23,pp 315-326(1990)に記載されているように、ウィリアムソンエーテル合成の原理に従って製造され、「活性化」またはアルカリ化セルロースは、粉砕されたセルロースを50%苛性ソーダと接触させて処理することによって生成されている。次に、この活性化またはアルカリ化ステップの後に、MClおよびEOを使用したエーテル化操作が続く。
【0081】
表IIに記載されている以下の実施例では、HEMCを使用している。さらに、表IIに記載されている以下の実施例は、同じパルプ材料を使用している。
【0082】
比較例A-架橋剤(ベースライン)なしで合成されたセルロースエーテル
粉砕したセルロースのフロック(1.5モル[mol])を5リットル(L)のオートクレーブ(反応器)に付加した。パルプの限界粘度数(LVN)は、ISO 5351(2010)に記載された手順に従って測定した。粉砕されたセルロースのフロック(LVNは1,450ミリリットル/グラム[mL/g]以上)をオートクレーブに付加した。
【0083】
オートクレーブ反応器をNで3回パージした後、オートクレーブ反応器を40℃まで加熱した。次いで、ジメチルエーテル(DME、4.7mol/mol AGU)、および第1の塩化メチルの装入物(「MCl 1」、3.2mol/mol AGU)をオートクレーブに付加した。第1の苛性ソーダの装入物(「NaOH 1」、50%、1.9mol NaOH/mol AGU)を、40℃の温度で2分間(min)の間に3回に分けてオートクレーブに付加した。次いで、得られた反応混合物を40℃で30分間保持した。次いで、EO(0.45mol/mol AGU)をその反応混合物に付加し、その反応混合物を40℃で10分間保持した。
【0084】
得られた塊を45分で80℃まで加熱した。80℃で、第2のMCl装入物(「MCl 2」、1.3mol/mol AGU)をすばやくその塊に注入した。その後、第2の苛性ソーダ装入物(「NaOH 2」、0.67mol/mol AGU)を30分間にわたって7回に分けて付加し、続いて80℃で70分のクックオフ時間を行った。70分のクックオフ時間の後、得られたXCE生成物を形成した。次いで、得られたXCE生成物を、当技術分野で知られた従来の手順を使用して、次のプロセスステップに供した:熱水洗浄、ギ酸による中和、ラボ造粒機(Bosch Mum)を使用した造粒、乾燥、および製粉。
【0085】
比較例B-Epilox M 985で合成された架橋セルロースエーテル
EOを反応混合物に付加し、その反応混合物を40℃で10分間保持した後に、架橋剤Epilox M 985(0.0030mol/mol)をオートクレーブに付加したことを除いて、比較例Aで説明されたのと同じ手順を本実施例に使用した。
【0086】
比較例C-エピクロロヒドリンで合成された架橋セルロースエーテル
EOを反応混合物に付加し、反応混合物を40℃で10分間保持した後に、ECHを架橋剤(0.0030mol/4グラム[g]のイソプロピルアルコールと事前に混合したmol)として使用し、そのECHをオートクレーブに付加したことを除いて、比較例Aで説明したのと同じ手順を本実施例で使用した。
【0087】
発明実施例1-Epilox M985で合成された架橋セルロースエーテル
粉砕したセルロースのフロック(1.5mol)を5Lのオートクレーブに付加した。オートクレーブをNで3回パージした後、反応器を40℃まで加熱した。次に、DME(4.7mol/mol AGU)とMCl 1(3.2mol/mol AGU)をオートクレーブに注入した。オートクレーブにNaOH 1(強度50%、1.9mol NaOH/mol AGU)を次の3つの部分で付加した。(1)40℃の温度で2分間3回に分けた50%(0.95mol NaOH/mol AGU)、(2)別の添加デバイス(バイパス)による、0.003mol/mol架橋剤を含むエマルジョンとしての25%、(3)添加デバイスによる洗浄ステップとしての25%。次いで、混合物を40℃で30分間保持した。EO(0.45mol/mol AGU)を反応混合物に付加し、その反応混合物を40℃で10分間保持した。
【0088】
得られた塊を45分で80℃まで加熱した。80℃で、MCl 2(1.3mol/mol AGU)をすばやくその塊に注入した。その後、第2の苛性ソーダ装入物(「NaOH 2」、0.67mol/molのAGU)を30分間にわたってオートクレーブに7回に分けて付加し、続いて80℃で70分のクックオフ時間を行った。70分のクックオフ時間の後、得られたXCE生成物を形成した。次いで、得られたXCE生成物を、当技術分野で知られた従来の手順を使用して、次のプロセスステップに供した:熱水洗浄、ギ酸による中和、ラボ造粒機(Bosch Mum)を使用した造粒、乾燥、および製粉。
【表2】
【0089】
上記の比較例A~Cおよび本発明の実施例1を実施した結果を表IIに記載する。水中の50%NaOH溶液(または「50%苛性ソーダ」)の使用は、XCEを製造するための本発明のプロセスで使用された架橋剤の希釈剤として有益であることが見出された。50%苛性ソーダと組み合わせた架橋剤は、パルプに容易に噴霧された。50%苛性ソーダなどの高pH環境での架橋剤の安定性は、室温(RT;約25℃)で30分間の50%のNaOHでの保管の前後にDIN16946に従って架橋剤を含有する50%の苛性ソーダのエポキシ当量(EEW)を測定することによってチェックされた。この間、EEWは大きく変化しない。
【0090】
表IIに記載の結果から、架橋剤を含まないセルロースエーテル(比較例A)は、1%水溶液として5,160mPa.sの粘度を示している。エーテル化ステップ中にEpilox M 985(0.003mol/mol)を付加すると、粘度が5,720mPa.sまで増加する(比較例B)。ただし、Epilox M 985をエピクロロヒドリン(比較例C)に置き換えると、架橋ゲル粒子上で水不溶性の形成が原因で、粘度が大幅に低下する(2,120mPa.s)。本発明のプロセスにおいて、Epilox M 985架橋剤がアルカリ化ステップ中にプロセスに付加された場合(発明実施例1)、架橋剤のより均一な分布および得られたXCEの最適化された粘度(6,090mPa.s)が生成された。
【0091】
表IIIに記載されている以下の実施例では、HPMCを使用している。実施例は、実験用反応器(5Lのオートクレーブ)で製造された。すべての実施例は、同じパルプ材料を使用して実施された。
【0092】
比較例D-架橋剤(ベースライン)なしで合成されたセルロースエーテル
粉砕したセルロースのフロック(1.5mol)を5Lのオートクレーブに付加した。オートクレーブをNで3回パージした後、反応器を40℃まで加熱した。次に、DME(4.7mol/mol AGU)およびMCI 1(3.2mol/mol AGU)をオートクレーブに付加した。NaOH 1(強度50%、1.9mol NaOH/mol AGU)を、40℃の温度で2分間、3回に分けてオートクレーブに付加した。次いで、反応混合物を40℃で30分間保持した。次いで、PO(0.45mol/mol AGU)をその反応混合物に付加し、その反応混合物を40℃で10分間保持した。
【0093】
得られた塊を45分で80℃まで加熱した。80℃で、MCl 2(1.3mol/mol AGU)をすばやくその塊に注入した。その後、第2の苛性ソーダ装入物(「NaOH 2」、0.67mol/molのAGU)を30分間にわたってオートクレーブに7回に分けて付加し、続いて80℃で70分のクックオフ時間を行った。70分のクックオフ時間の後、得られたXCE生成物を形成した。次いで、得られたXCE生成物を、当技術分野で知られた従来の手順を使用して、次のプロセスステップに供した:熱水洗浄、ギ酸による中和、ラボ造粒機(Bosch Mum)を使用した造粒、乾燥、および製粉。
【0094】
比較例E-Epilox M 985で合成された架橋セルロースエーテル
POを反応混合物に付加し、その反応混合物を40℃で10分間保持した後に、架橋剤Epilox M 985(0.0030mol/mol)をオートクレーブ反応器に付加したことを除いて、比較例Dで説明されたのと同じ手順を本実施例に使用した。
【0095】
発明実施例2-Epilox M 985で合成された架橋セルロースエーテル
粉砕したセルロースのフロック(1.5mol)を5Lのオートクレーブに付加した。オートクレーブをNで3回パージした後、反応器を40℃まで加熱した。次に、DME(4.7mol/mol AGU)およびMCI 1(3.2mol/mol AGU)をオートクレーブに付加した。オートクレーブにNaOH 1(強度50重量%、1.9mol NaOH/mol AGU)を次の3つの部分で付加した。(1)40℃の温度で2分間3回に分けた50%(0.95mol NaOH/mol AGU)、(2)別の添加デバイス(バイパス)による、0.003mol/mol架橋剤を含むエマルジョンとしての25%、(3)添加デバイスによる洗浄ステップとしての25%。次いで、混合物を40℃で30分間保持した。次いで、PO(0.45mol/mol AGU)を反応混合物に付加し、その反応混合物を40℃で10分間保持した。
【0096】
得られた塊を45分で80℃まで加熱した。80℃で、MCl 2(1.3mol/mol AGU)をすばやくその塊に注入した。その後、第2の苛性ソーダ装入物(「NaOH 2」、0.67mol/mol AGU)を30分間にわたって7回に分けて付加し、続いて80℃で70分のクックオフ時間を行った。70分のクックオフ時間の後、得られたXCE生成物を形成した。次いで、得られたXCE生成物を、当技術分野で知られた従来の手順を使用して、次のプロセスステップに供した:熱水洗浄、ギ酸による中和、ラボ造粒機(Bosch Mum)を使用した造粒、乾燥、および製粉。
【表3】
【0097】
上記の比較例DおよびEならびに発明実施例2を実施した結果を表IIIに記載する。HEMCを使用した上記の比較例A~Cおよび発明実施例1と同様に、表IIIに要約された結果は、HPMCを使用した比較例DおよびEおよび発明実施例2と同じ観察結果を示している。表IIIに記載の実施例で使用されるパルプ材料は、表IIに記載の実施例で使用されるパルプ材料とは異なるため、非架橋HPMC(比較例D)の1%水性粘度は8,350mPa.sである。エーテル化ステップ中にEpilox M 985をプロセスに付加すると、XCEの粘度(比較例E)がわずかに増加した。しかしながら、アルカリ化ステップ中に本発明のステップにEpilox M 985架橋剤を付加した場合、本発明(発明実施例2)のXCEの粘度(10,700mPa.s)は、他の比較例DおよびEよりも著しく増加した。

以下に、本願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1] 架橋セルロースエーテルを製造するためのプロセスであって、
(i)少なくとも1つのセルロース材料を、(ia)少なくとも1つの架橋剤および(ib)少なくとも1つのアルカリ化試薬を含む混合物と接触させて、活性化セルロース材料を形成するステップと、
(ii)ステップ(i)の前記活性化セルロース材料を少なくとも1つのエーテル化試薬と接触させるステップであって、前記少なくとも1つのエーテル化試薬が、前記活性化セルロース材料と反応して、前記架橋セルロースエーテルを形成する、接触させるステップと、を含む、プロセス。
[2] 架橋セルロースエーテルを製造するためのプロセスであって、
(A)(a)少なくとも1つの架橋剤を(b)少なくとも1つのアルカリ化試薬と混合して、架橋剤/アルカリ化試薬混合物を形成するステップと、
(B)少なくとも1つのセルロース材料をステップ(A)の前記混合物と接触させて、活性化セルロース材料を形成するステップと、
(C)ステップ(B)の前記活性化セルロース材料を少なくとも1つのエーテル化試薬と接触させるステップであって、前記少なくとも1つのエーテル化試薬が、前記活性化セルロース材料と反応して、架橋セルロースエーテルを形成する、接触させるステップと、を含む、プロセス。
[3] 前記架橋セルロースエーテルを、精製、洗浄、乾燥、造粒、および製粉のうちの1つ以上のステップに供するステップをさらに含む、[1]または[2]に記載のプロセス。
[4] 前記活性化セルロース材料が、500キロパスカル以下の圧力でかつ50℃以下の温度で形成される、[1]に記載のプロセス。
[5] 前記架橋セルロースエーテルが、1,000キロパスカル以上の圧力でかつ70℃超の温度で形成される、[1]に記載のプロセス。
[6] 前記少なくとも1つの架橋剤が、以下の化学構造(I)を有するジグリシジルエーテル型架橋剤であり、
【化2】

式中、nは、3~25であり、前記少なくとも1つのアルカリ化試薬は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、およびそれらの混合物の溶液からなる群から選択される、[1]に記載のプロセス。
[7] 前記少なくとも1つのセルロース材料が、木材パルプ、綿リンター、およびそれらの混合物からなる群から選択され、前記少なくとも1つのエーテル化試薬が、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、塩化メチル、塩化エチル、およびそれらの混合物からなる群から選択される、[1]に記載のプロセス。
[8] ステップ(i)およびステップ(ii)が、不活性雰囲気で実施される、[1]に記載のプロセス。
[9] 前記少なくとも1つの架橋剤が、前記セルロースエーテルの無水グルコース単位1モル当たり0.0001モルの前記架橋剤~前記セルロースエーテルの無水グルコース単位1モル当たり0.05モルの前記架橋剤の濃度でステップ(i)の前記混合物中に存在し、前記少なくとも1つのアルカリ化試薬が、前記セルロース材料の無水グルコース単位1モル当たり1モルのアルカリ化試薬~前記セルロース材料の無水グルコース単位1モル当たり3.5モルのアルカリ化試薬の濃度でステップ(i)の前記混合物中に存在し、前記活性化セルロース材料を形成する、[1]に記載のプロセス。
[10] 前記少なくとも1つのセルロース材料を粉砕して、粉砕されたセルロースフロック材料を形成するステップをさらに含み、前記粉砕するステップが、前記少なくとも1つのセルロース材料をステップ(a)の分散液混合物と接触させる前に実施される、[1]に記載のプロセス。
[11] [1]に記載のプロセスによって製造された、架橋セルロースエーテル。
[12] ドライミックスモルタル配合物であって、
(I)[11]に記載の架橋セルロースエーテルと、
(II)加水分解結合剤と、を含み、前記加水分解結合剤が、セメントまたは石膏材料である、ドライミックスモルタル配合物。
図1