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特許7605761繊維補強樹脂中空成形体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】繊維補強樹脂中空成形体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/44 20060101AFI20241217BHJP
   B29C 70/16 20060101ALI20241217BHJP
   B29C 43/12 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
B29C70/44
B29C70/16
B29C43/12
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021565495
(86)(22)【出願日】2020-12-08
(86)【国際出願番号】 JP2020045616
(87)【国際公開番号】W WO2021124977
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2023-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2019229732
(32)【優先日】2019-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001096
【氏名又は名称】倉敷紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】飯尾 隼人
(72)【発明者】
【氏名】高野 直哉
(72)【発明者】
【氏名】平石 陽一
(72)【発明者】
【氏名】田中 忠玄
(72)【発明者】
【氏名】中明 裕太
(72)【発明者】
【氏名】駒井 優貴
【審査官】岩▲崎▼ 則昌
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-130698(JP,A)
【文献】特開平8-150691(JP,A)
【文献】特開平6-270270(JP,A)
【文献】特許第3821467(JP,B2)
【文献】国際公開第2000/015414(WO,A1)
【文献】独国特許出願公開第102012104370(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/44
B29C 70/16
B29C 43/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維補強樹脂中空成形体の製造方法であり、
連続繊維群が開繊され一方向に並列状に配列された一方向連続繊維の表面に振りかけられた熱可塑性粉体樹脂が溶融した樹脂が前記一方向連続繊維の表面に付着したセミプレグを、樹脂一体化繊維シートとして用い、
弾性体の表面に、前記樹脂一体化繊維シート1枚を又は前記樹脂一体化繊維シートを複数枚積層した状態で、オーバーラップ部が生じるように巻回し、
前記樹脂一体化繊維シートが巻きつけられた前記弾性体を、中空形状を有する加熱金型内に配置し、
前記弾性体の内部へ圧力流体を供給することにより圧空成形を行うことで、前記加熱金型から加熱を受けて前記樹脂を溶融させ、前記弾性体に巻きつけられた前記樹脂一体化繊維シート全体に前記樹脂を含浸させて、前記樹脂を前記繊維補強樹脂中空成形体のマトリックス樹脂とする、繊維補強樹脂中空成形体の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂一体化繊維シートが複数枚であり、前記複数枚の樹脂一体化繊維シートは一方向連続繊維の方向性が異なるように積層されて巻回される、請求項1に記載の繊維補強樹脂中空成形体の製造方法。
【請求項3】
前記繊維補強樹脂中空成形体の製造に使用する前記樹脂一体化繊維シートは、前記一方向連続繊維と交錯する方向の架橋繊維を含み、かつ前記樹脂は前記一方向連続繊維と前記架橋繊維とを一体化している請求項1又は2に記載の繊維補強樹脂中空成形体の製造方法。
【請求項4】
前記一方向連続繊維と前記架橋繊維の合計を100質量%としたとき、前記一方向連続繊維は75~99質量%であり、前記架橋繊維は1~25質量%である請求項3に記載の繊維補強樹脂中空成形体の製造方法。
【請求項5】
前記樹脂一体化繊維シートの厚みは0.01~5.0mmである請求項1~4のいずれかに記載の繊維補強樹脂中空成形体の製造方法。
【請求項6】
前記樹脂一体化繊維シートの繊維体積含有率(Vf)は20~65体積%、樹脂体積含有率は35~80体積%である、請求項1~5のいずれかに記載の繊維補強樹脂中空成形体の製造方法。
【請求項7】
前記樹脂一体化繊維シートが複数枚であり、
前記複数枚の樹脂一体化繊維シートを重ね、重なっている部分を切り取り、それをオーバーラップ部が生じるように巻回する、請求項1~6のいずれかに記載の繊維補強樹脂中空成形体の製造方法。
【請求項8】
前記複数枚の樹脂一体化繊維シートは、前記一方向連続繊維の方向が前記弾性体の長さ方向に対して0°の樹脂一体化繊維シートを含む、請求項1~7のいずれかに記載の繊維補強樹脂中空成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セミプレグを用いた繊維補強樹脂中空成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
強化繊維材料である炭素繊維は、各種のマトリックス樹脂と複合化され、得られる繊維強化プラスチックは種々の分野・用途に広く利用されるようになってきた。そして、高度の機械的特性や耐熱性等を要求される航空・宇宙分野や、一般産業分野では、熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とする、一方向性の連続繊維が用いられている。従来から、炭素繊維基材に樹脂を完全含浸したプリプレグが用いられており、複合材料としたときの耐衝撃性が優れ、成形時間が短く、かつ成形コスト低減の可能性が示唆されている。しかし、樹脂が完全含浸しているプリプレグは硬度が高く、柔軟性も乏しく、丸くすることが困難である。そのため、樹脂が強化繊維基材内に未含浸のセミプレグが注目されている。セミプレグは、マトリックス樹脂が繊維基材上に付着・融着している状態又は半含浸状態の未含浸の基材シートで、柔らかく賦形性が優れている。また、ダイレクトに成形を行うことができるため、成形効率も優れている。
【0003】
しかし、強化繊維樹脂を成形する時に熱可塑性樹脂を繊維基材に含浸させることが必要となるが、短繊維の場合は不織布に加工する必要があり、効率が極めて悪くなる。また、連続繊維の場合は配向がずれて乱れたり、ボイドやシワなどの欠陥が生じることがある。そのため、ダイレクトな成形に使用できるより適したセミプレグ基材が求められている。
【0004】
特許文献1には、膨張可能なマンドレルを使用して繊維強化樹脂プリフォームを金属成形体に一体化させることが提案されている。特許文献2には、内圧保持チューブ付きマンドレルの外周に長繊維配向プリプレグシートを巻回し、節状部付近にはさらに短繊維二次元ランダムプリプレグシートを巻回し、金型内で内圧保持チューブを膨張させて加熱加圧成形する、ゴルフシャフトの製造方法が提案されている。特許文献3には、特定のフッ素樹脂と強化繊維を含むテープ状の繊維強化複合材料を第1層の外周に巻き付ける、パイプの製造方法が提案されている。特許文献4には、パイプの成形基材として、一方向に強化繊維を引き揃えたシート材に熱可塑性樹脂からなる不織布を重ねたシート状の成形基材を用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-172116号公報
【文献】特開2013-106782号公報
【文献】WO2017/191735明細書
【文献】特開2011-62818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前記従来技術は原料基材が硬く、あるいは単独で取り扱えないという問題があり、中空成形加工も困難である問題があった。
【0007】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、取り扱い性の良いセミプレグを用いて、薄くて賦形性に優れた繊維補強樹脂中空成形体及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、樹脂一体化繊維シートを使用した繊維補強樹脂中空成形体であって、前記樹脂一体化繊維シートは、連続繊維群が開繊され一方向に並列状に配列された一方向連続繊維と、前記一方向連続繊維の少なくとも表面に存在する熱可塑性樹脂を含み、前記中空成形体は、前記樹脂一体化繊維シートが1枚又は複数枚積層された状態で、オーバーラップ部が生じるように巻回され、前記一方向連続繊維内には前記熱可塑性樹脂が含浸し、前記樹脂一体化繊維シートが一体化されている繊維補強樹脂中空成形体である。
【0009】
本発明の繊維補強樹脂中空成形体の製造方法は、連続繊維群が開繊され一方向に並列状に配列された一方向連続繊維と、前記一方向連続繊維の少なくとも表面に存在する熱可塑性樹脂を含む樹脂一体化シートを用い、弾性体の表面に、前記樹脂一体化繊維シートを1枚又は複数枚積層された状態で、オーバーラップ部が生じるように巻回し、前記樹脂一体化繊維シートが巻きつけられた前記弾性体を、中空形状を有する加熱金型内に配置し、前記弾性体の内部へ圧力流体を供給して圧空成形を行い、前記熱可塑性樹脂を溶融させ、前記一方向連続繊維に前記熱可塑性樹脂を含浸および前記樹脂一体化繊維シートを一体化させる、繊維補強樹脂中空成形体の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の繊維補強樹脂中空成形体は、連続繊維群が開繊され一方向に並列状に配列された一方向連続繊維と、前記一方向連続繊維の少なくとも表面に存在する熱可塑性樹脂を含む樹脂一体化繊維シートを用いることにより、セミプレグの取り扱い性がよく、薄くて賦形性に優れた繊維補強樹脂中空成形体及びその製造方法を提供できる。また、本発明の中空成形体の製造方法は、成形サイクルが速く、短時間で高品質の中空成形体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1Aは本発明の一実施形態の繊維補強樹脂中空成形体の模式的斜視図、図1Bは同模式的断面図である。
図2図2は、図1の繊維補強樹脂中空成形体の成形に使用した樹脂一体化炭素繊維シートの積層方法を示す模式的説明図である。
図3図3Aは、中空成形に使用するマンドレルの模式的斜視図、図3Bは同マンドレルに樹脂一体化炭素繊維シートを巻回した模式的斜視図、図3C図3Bの断面図である。
図4図4Aは、成形金型に樹脂一体化炭素繊維シートを巻回したマンドレルを入れた状態を示す模式的平面図、図4B図4AのI-I線断面図である。
図5図5は本発明の一実施形態の繊維補強樹脂中空成形体の成形に使用する樹脂一体化炭素繊維シートの模式的斜視図である。
図6図6は、図5に示した樹脂一体化炭素繊維シートの幅方向の模式的断面図である。
図7図7は、図5に示した樹脂一体化炭素繊維シートの製造方法を示す模式的工程図である。
図8図8は、実施例1の繊維補強樹脂中空成形体の端部及び中央部における試験力-変位測定グラフである。
図9図9は、実施例2の繊維補強樹脂中空成形体の端部及び中央部における試験力-変位測定グラフである。
【符号の説明】
【0012】
1 樹脂一体化炭素繊維シート
2 一方向炭素繊維
3,3a,3b 架橋繊維
4 樹脂
5 樹脂が付着していない部分
6 開繊装置
7 供給ボビン
8 炭素繊維フィラメント群(炭素繊維未開繊トウ)
9a,9b ニップロール
12a-12b ブリッジロール
13a-13g ガイドロール
14,17 粉体供給ホッパー
15,18 ドライパウダー樹脂
16,19 加熱装置
20 巻き上げロール
21a-21j 開繊ロール
23 ロール開繊工程
24 架橋繊維発生工程
25 粉体樹脂付与工程
30 中空成形体
31 繊維補強樹脂部
32 樹脂一体化炭素繊維シートのオーバーラップ部
33a,33b 樹脂一体化炭素繊維シート
34 重なり部分
35 マンドレル
36 治具
37 樹脂一体化炭素繊維シート
39 下金型
40 上金型
41 エアー供給口
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、樹脂一体化繊維シートを使用した繊維補強樹脂中空成形体(以下、繊維補強樹脂中空成形体を「中空成形体」と略称する場合もある。)である。前記樹脂一体化繊維シートは、連続繊維群が開繊され一方向に並列状に配列された一方向連続繊維と、前記一方向連続繊維の少なくとも表面に存在する熱可塑性樹脂を含む。本発明の中空成形体は、樹脂一体化繊維シートが1枚又は複数枚積層された状態で、オーバーラップ部が生じるように巻回され、繊維シート内には熱可塑性樹脂が含浸し、樹脂一体化繊維シートが一体化されている。中空成形体の製造に使用される前記樹脂一体化繊維シートは、前記一方向連続繊維と交錯する方向の架橋繊維を含み、かつ前記熱可塑性樹脂は前記一方向連続繊維と前記架橋繊維とを一体化していることが好ましい。前記樹脂一体化繊維シートは、前記一方向連続繊維上に他方向に配置されている補助糸を含んでもよい。補助糸とは、繊維シートの配向性を一定に保つものであり、補助糸としては、例えば、ガラス繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維等が挙げられる。
【0014】
本発明で使用する樹脂一体化繊維シートの繊維の主成分は、開繊され一方向に並列状に配列された一方向連続繊維であり、一方向長繊維である。繊維の副成分は、一方向連続繊維と交錯する方向に配列された架橋繊維であることが好ましい。ここで主成分は、樹脂一体化繊維シートに含まれる繊維を100質量%としたとき、75~99質量%が好ましく、副成分は1~25質量%が好ましい。熱可塑性樹脂は、粉体で一方向連続繊維及び架橋繊維の上から付着させ、一方向連続繊維の少なくとも表面で熱融着させ、かつ一方向連続繊維と架橋繊維とを一体化していることが好ましい。このシートは、一方向連続繊維と架橋繊維が、熱融着した熱可塑性樹脂により一体化しているため、取り扱い性が良好で、積層(巻回に伴う積層も含む)する際、及び成形する際の操作性が良い。
【0015】
前記樹脂一体化繊維シートは、一方向連続繊維の表面にマトリックスとなる熱可塑性粉体樹脂を付着させ熱融着させたセミプレグであることが好ましい。このセミプレグは、成形により、表面の熱可塑性樹脂が樹脂一体化繊維シート内及び樹脂一体化繊維シート間に一様に浸透かつ拡散する。これにより、賦形性(成形性)に優れ、ボイドを起こさない中空成形体が得られる。
【0016】
前記一方向連続繊維と架橋繊維の合計を100質量%としたとき、一方向連続繊維は75~99質量%が好ましく、より好ましくは80~97質量%、さらに好ましくは85~97質量%である。また、架橋繊維は1~25質量%が好ましく、より好ましくは3~20質量%、さらに好ましくは3~15質量%である。質量割合が前記の範囲であれば、一方向連続繊維の一体性が高く、幅方向の引張強度の高い樹脂一体化繊維シートとなる。
【0017】
前記樹脂一体化繊維シートの繊維体積(Vf)は、20~65体積%、熱可塑性樹脂35~80体積%が好ましく、より好ましくは繊維25~60体積%、樹脂40~75体積%である。これにより、樹脂一体化繊維シートの樹脂成分を、そのまま中空成形体のマトリックス樹脂成分にすることができる。すなわち、中空成形体を製造する際に、新たな樹脂の追加は不要である。樹脂一体化繊維シートの単位面積あたりの質量は10~3000g/m2が好ましく、より好ましくは20~2000g/m2であり、さらに好ましくは30~1000g/m2である。
【0018】
前記繊維は、炭素繊維、ガラス繊維及び弾性率が380cN/dtex以上の高弾性率繊維から選ばれる少なくとも一つが好ましい。前記高弾性率繊維としては、例えばアラミド繊維、とくにパラ系アラミド繊維(弾性率:380~980cN/dtex)、ポリアリレート繊維(弾性率:600~741cN/dtex)、ヘテロ環ポリマー(PBO,弾性率:1060~2200cN/dtex)繊維、高分子量ポリエチレン繊維(弾性率:883~1413cN/dtex)、ポリビニルアルコール繊維(PVA,強度:14~18cN/dtex)などがある(繊維の百科事典,522頁,2002年3月25日,丸善)。これらの繊維は樹脂強化繊維として有用である。とくに炭素繊維は有用である。
【0019】
前記樹脂一体化繊維シートの1枚の厚みは0.01~5.0mmが好ましい。この範囲の厚さの樹脂一体化繊維シートは成形しやすい。中空成形体の成形の際には、この樹脂一体化繊維シートを1枚又は2枚以上積層させて巻回する。好ましい積層数は2~20枚、さらに好ましくは3~15枚である。
【0020】
前記熱可塑性樹脂は、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、アクリル系樹脂、フェノキシ樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリイミド系樹脂、及びポリエーテルエーテルケトン系樹脂などが使用可能であるが、これらに限定されない。
【0021】
本発明の樹脂一体化繊維シートの樹脂の付着状態は、開繊された繊維シートの表面付近に樹脂が溶融固化して付着しており、樹脂は開繊された繊維シート内部には含浸していないか又は一部含浸しているのが好ましい。前記状態であると、樹脂一体化繊維シートを複数枚積層し、成形するのに好ましい。
【0022】
開繊された繊維シート(以下、「開繊シート」ともいう)の幅は、炭素繊維の場合、構成繊維本数1000本当たり0.1~5.0mmが好ましい。具体的には、開繊シートの幅は、50K又は60Kなどのラージトウの場合は構成繊維本数1000本当たり0.1~1.5mm程度であり、12K又は15Kなどのレギュラートウの場合は構成繊維本数1000本当たり0.5~5.0mm程度である。ここで、Kは構成繊維本数1000本のことを示す。1本当たりのトウの構成繊維本数が増加するほど、繊維の捩れが大きくなり開繊しにくくなるので、開繊シートの幅も狭くなる。このようにして炭素繊維メーカーの販売する未開繊トウを拡開し、使用し易い開繊シートとし、様々な中空成形体の成形のために供給できる。樹脂一体化繊維シートの製造のために供給される炭素繊維束(トウ)は5,000~50,000本/束が好ましく、この炭素繊維束(トウ)を10~280本、開繊手段へ供給するのが好ましい。このように炭素繊維束(トウ)を複数本供給して開繊し、1枚のシートにすると、炭素繊維束(トウ)と炭素繊維束(トウ)の間が開裂しやすいが、様々な方向性を有する架橋繊維が樹脂により開繊シートに接着固定されていると、トウ間の開裂も防止できる。
【0023】
架橋繊維の平均長さは、1mm以上が好ましく、さらに好ましくは5mm以上である。架橋繊維の平均長さが前記の範囲であれば、幅方向の強度が高く、取り扱い性に優れた炭素繊維シートとなる。
【0024】
本発明の中空成形体の製造に使用する樹脂一体化繊維シートの製造方法は、例えば、次の工程を含む。繊維シートとして炭素繊維シートを挙げて説明する。
(1)炭素繊維フィラメント群を、複数のロールを通過、開繊バーを通過、及びエアー開繊から選ばれる少なくとも一つの手段により開繊させ、一方向に並列状に配列させるに際し、開繊時もしくは開繊後に架橋繊維を炭素繊維フィラメント群から発生させるか、又は開繊時もしくは開繊後に架橋繊維を炭素繊維シートに落下させる。前記架橋繊維は炭素繊維シートの面積10mm2あたり平均1本以上とする。ロール又は開繊バーを通過させて炭素繊維フィラメント群を開繊する場合、炭素繊維フィラメント群に張力をかけることで、開繊時に炭素繊維フィラメント群から架橋繊維を発生させることができる。炭素繊維フィラメント群の張力は、例えば、15,000本あたり2.5~30Nの範囲とすることができる。エアー開繊を採用する場合は、この後にロール又は開繊バーにより架橋繊維を発生させるのが好ましい。架橋繊維を炭素繊維フィラメント群から発生させた場合は、架橋繊維は、炭素繊維シートを構成する炭素繊維と交錯した状態となる。ここで交錯とは、絡み合いを含む。例えば、架橋繊維の一部又は全部は炭素繊維シート内に存在し、一方向に配列されている炭素繊維と立体的に交錯している。
(2)開繊された炭素繊維シートに粉体樹脂を付与する。
(3)加圧フリー(加圧なし)状態で粉体樹脂を加熱溶融し、冷却し、炭素繊維シートの少なくとも表面の一部に部分的に樹脂を存在させる。この際に、架橋繊維を表面の樹脂により炭素繊維シートに接着固定させる。
【0025】
本発明の中空成形体は、前記の樹脂一体化繊維シートを弾性体の表面に1枚又は2枚以上積層させてオーバーラップ部が生じるように巻回し、成形したものである。前記樹脂一体化繊維シートは、1枚又は複数枚積層された状態で少なくとも2周以上巻回されていることが好ましい。前記オーバーラップ部の幅は3mm以上が好ましく、より好ましくは10mm以上である。なお、本発明では、2周巻回している場合は円周分の幅のオーバーラップ部が生じ、3周巻回している場合は円周の2倍分の幅のオーバーラップ部が生じるものとする。樹脂一体化繊維シートを2枚以上積層する際には、一方向連続繊維の方向性(一方向連続繊維の繊維の長手方向)が異なるように積層されていてもよい。また、弾性体はマンドレルであってよい。例えば、2枚積層する場合は、0°/90°とすることができる。これにより、中空成形体に要求される力学特性を有する中空成形体が得られる。樹脂一体化繊維シートを1枚用いる際には、例えば、マンドレルの長さ方向に対して斜め方向に巻回させた長尺の成形体や、マンドレルの長さ方向に対して90°方向に複数回巻回させた中空成形体が得られる。中空成形体としては、パイプ、シャフト、フレームなどであり、断面は円形中空、四角形中空、その他様々な形状の中空体が可能である。
【0026】
本発明の中空成形体は、中空部から外側に膨張する流体により成形されていることが好ましい。流体としては、例えば、圧力空気等の圧力流体が挙げられる。
【0027】
本発明の中空成形体の製造方法は、一実施形態において、次の工程を含む。
(a)弾性体の表面に、前記樹脂一体化繊維シートを1枚又は複数枚、オーバーラップ部が生じるように巻回する工程。
(b)前記樹脂一体化繊維シートが巻きつけられた前記弾性体を、中空形状を有する加熱金型内に配置し、前記弾性体の内部へ圧力流体を供給して圧空成形を行う(例えば、圧縮空気で前記樹脂一体化繊維シートを前記加熱金型に密着させて、目的の形状を得る)工程。
(c)熱可塑性樹脂を溶融させ、一方向連続繊維に含浸および巻回された前記樹脂一体化繊維シートを一体化させる工程。
【0028】
本発明の中空成形体の製造方法は、その他の実施形態において、次の工程を含む。
(a´)弾性体の表面に、樹脂一体化繊維シートを1枚又は複数枚巻回する工程。
(b´)前記樹脂一体化繊維シートが巻きつけられた前記弾性体を、中空キャビティーを有する加熱金型内に配置する工程。
(c´)前記弾性体の内部に圧力流体を供給し、前記弾性体から外側に向かって樹脂一体化繊維シートを膨張させて中空成形するとともに、熱可塑性樹脂を溶融させ積層部全体(巻回された前記樹脂一体化繊維シート全体)に含浸させる工程。
(d´)次いで冷却する工程。
【0029】
前記工程(a)及び前記工程(a´)において、樹脂一体化繊維シートを複数枚巻回する際、複数枚の樹脂一体化樹脂シートは、一方向連続繊維の方向性が異なるように積層されて巻回されることが好ましい。これにより、中空成形体に要求される力学特性を有する中空成形体が得られる。また、弾性体の表面に直接樹脂一体化繊維シートを巻回してもよいし、樹脂一体化繊維シートを巻回してプリフォームとした後に、それを弾性体の表面に配置してもよい。
【0030】
以下図面を用いて説明する。以下の図面において、同一符号は同一物を示す。図1Aは本発明の一実施形態の中空成形体30の模式的斜視図、図1Bは同模式的断面図である。この中空成形体30は、内部が長さ方向に中空で、繊維補強樹脂部31は樹脂一体化炭素繊維シートが複数枚積層されて一体化されている。32は樹脂一体化炭素繊維シートのオーバーラップ部である。中空成形体30の好ましい直径(外径)は10~200mmであり、好ましい長さは50~5000mmであり、好ましい厚みは0.03~5mm、より好ましい厚みは0.04~5mmである。
【0031】
図2は、図1の繊維補強樹脂中空成形体の成形に使用した樹脂一体化炭素繊維シートの積層方法を示す模式的説明図である。樹脂一体化炭素繊維シート33aは一方向連続繊維が0°であり、樹脂一体化炭素繊維シート33bは一方向連続繊維が90°である。樹脂一体化炭素繊維シート33aと33bが重なっている部分34を切り取り、マンドレルに巻き付ける。巻き付け回数は1回でもよいし、複数回でもよい。1回巻き付けの場合は、一部分重ね合わせる。
【0032】
図3Aは、中空成形に使用するマンドレル35の模式的斜視図、図3Bは同マンドレル35に樹脂一体化炭素繊維シート37を巻回した模式的斜視図、図3C図3Bの断面図である。マンドレル35の先端には治具36を取り付け、マンドレル内の圧力流体を封止する。マンドレルは例えばフッ素ゴム(耐熱限界温度230℃)、又はシリコーンゴム(耐熱限界温度230℃)製のチューブで、例えば、外径19mm、内径15mm、長さ500mmのものを使用する。図3Cでは、樹脂一体化炭素繊維シートをn周巻回した場合であり、オーバーラップ部の幅は、n-1周分の円周の長さと図中38で示す部分の長さの合算したものである。
【0033】
図4Aは、成形金型内に樹脂一体化炭素繊維シート37を巻回したマンドレル35を入れた状態を示す模式的平面図、図4B図4AのI-I線断面図である。成形金型は、下金型39と上金型40で構成され、加熱されており、金型内に樹脂一体化炭素繊維シート37を巻回したマンドレル35を入れ、マンドレル35の一端に固定したエアー供給口41から圧空を供給し、マンドレルを膨張させる。これにより、マンドレル35に巻回された樹脂一体化炭素繊維シート37は金型まで膨張し、金型から加熱を受けて樹脂一体化炭素繊維シート37表面の熱可塑性樹脂が溶融し、積層部全体(巻回された樹脂一体化炭素繊維シート37全体)に含浸する。次いで、金型を水冷し冷却する。これにより、繊維補強樹脂中空成形体が得られる。
【0034】
図5は本発明の一実施形態の中空成形体の製造に使用する、樹脂一体化炭素繊維シート1の模式的斜視図、図6は同、樹脂一体化炭素繊維シート1の幅方向の模式的断面図である。開繊された一方向炭素繊維2の表面には架橋繊維3が様々な方向に配置している。また一方向炭素繊維2の表面付近に樹脂4が溶融固化して付着しており、樹脂4は一方向炭素繊維2の内部には含浸していないか又は一部含浸している程度である。樹脂4は架橋繊維3を一方向炭素繊維2の表面に接着固定している。図6に示すように、一方向炭素繊維2の表面には架橋繊維3a,3bが存在する。架橋繊維3aは全部が一方向炭素繊維2の表面にある。架橋繊維3bは一部が一方向炭素繊維2の表面にあり、一部は内部に入って炭素繊維と交錯した状態である。樹脂4は架橋繊維3を一方向炭素繊維2の表面に接着固定している。また、一方向炭素繊維2の表面には樹脂4が付着している部分と、樹脂が付着していない部分5がある。樹脂が付着していない部分5は、樹脂一体化炭素繊維シート1を複数枚積層状態で加熱し、繊維強化樹脂成形品に成形する際に、繊維シート内部の空気がこの部分から抜ける通路となり、加圧により表面の樹脂が繊維シート内全体に含浸しやすくなる。これにより樹脂4は繊維強化樹脂中空成形体のマトリックス樹脂となる。
【0035】
図7は本発明の一実施形態の中空成形体の製造に使用する、樹脂一体化炭素繊維シートの製造方法を示す模式的工程図である。多数個の供給ボビン7(図7では1つのみ記載し、他は省略している。)から炭素繊維フィラメント群(トウ)8を引き出し、開繊ロール21a-21jの間を通過させることで、開繊させる(ロール開繊工程23)。ロール開繊に代えて、エアー開繊としてもよい。開繊ロールは固定又は回転してもよく、幅方向に振動してもよい。
【0036】
開繊工程の後、開繊されたトウをニップロール9a,9b間でニップし、この間に設置した複数のブリッジロール12a-12bの間を通過させ、トウの張力を例えば15,000本あたり(1個の供給ボビンから供給される炭素繊維フィラメント群に相当)2.5~30Nの範囲でかけることで、架橋繊維を発生させる(架橋繊維発生工程24)。ブリッジロールは回転してもよく、幅方向に振動してもよい。ブリッジロールは、例えば表面が梨地、凹凸、または鏡面の複数ロールであり、ブリッジロールを炭素繊維フィラメント群に対して屈曲状態で配置する、固定、回転、幅方向に振動させる又はこれらの組み合わせにより架橋繊維を発生させる。13a-13gはガイドロールである。
【0037】
その後、粉体供給ホッパー14からドライパウダー樹脂15を開繊シートの表面に振りかけ、圧力フリー状態で加熱装置16内に供給し加熱し、ドライパウダー樹脂15を溶融し、ガイドロール13e-13g間で冷却する。その後、開繊シートの裏面にも粉体供給ホッパー17からドライパウダー樹脂18を振りかけ、圧力フリー状態で加熱装置19内に供給し加熱し、ドライパウダー樹脂18を溶融し、冷却し、巻き上げロール20に巻き上げられる(粉体樹脂付与工程25)。ドライパウダー樹脂15、18は、例えばポリプロピレン樹脂(融点:150~165℃)とし、加熱装置16,19内の各温度は例えばドライパウダー樹脂の融点、軟化点又は流動化点の+5~60℃、滞留時間は例えば各4秒とする。これにより、炭素繊維開繊シートは幅方向の強度が高くなり、構成炭素繊維がバラバラになることはなく、シートとして扱えるようになる。
【0038】
粉体樹脂の付与は、粉体塗布法、静電塗装法、吹付法、流動浸漬法などが採用できる。炭素繊維開繊シート表面に粉体樹脂を落下させる粉体塗布法が好ましい。例えばドライパウダー状の粉体樹脂を開繊された炭素繊維シートに振りかける。
【0039】
本発明の利点をまとめると次のようになる。
(1)樹脂一体化炭素繊維シートは、プリプレグと異なり、セミプレグであるためダイレクト成形が可能である。故に、成形前の軟化、および軟化された材料の成形金型へ移動を行わなくても、中空成形体の成形が行える。また、樹脂一体化炭素繊維シートへの賦形と、熱可塑性樹脂の繊維基材全体への含浸とを、ほぼ同時に行える。
(2)樹脂一体化炭素繊維シートは、プリプレグと異なり、セミプレグであるため高サイクル成形ができ、賦形性、成形性が優れている。
(3)パウダー状の熱可塑性樹脂が熱融着しているため繊維間への含浸性が良い。すなわち、フィルム状の樹脂と異なり、中空成形体の成形時に空気抜けが優れていて、ボイドが発生しにくい。
(4)繊維一体化樹脂シートの繊維の主成分が、例えば炭素繊維のように連続繊維である(短繊維ではない)。このため、薄くて強度の高い中空成形体が得られる。
(5)次の比較から分かるように、本発明ではセミプレグを用いるため、樹脂に対する熱履歴を減らすことができる。これにより、樹脂の劣化を防ぐことができる。
・プリプレグ:シート作製時長時間+予備加熱時(プリプレグの軟化)+成形時+熱硬化時
・セミプレグ:シート作製時短時間+成形時のみ加熱
以上のとおり、セミプレグは成形時間を高速にできる。
(6)プリプレグでは軟化後、成形金型へ移動させるときに冷えるため、成形品表面の平滑性(金型の転写性)が悪い。本発明はダイレクト成形が可能であるため成形品表面の平滑性が良い。
(7)プリプレグでは軟化後、成形金型へ移動させるときに冷えるため、成形品にある程度の厚みが必要(薄い成形品はできない)。本発明はダイレクト成形が可能であるため、予備加熱後、成形前の基材(プリプレグ)の成形型への移し替えが不要である。このため、薄い中空成形体の製造もできる。
【実施例
【0040】
以下実施例を用いて本発明を具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
(1)炭素繊維未開繊トウ
炭素繊維未開繊トウは三菱ケミカル社製、品番:PYROFILE TR 50S15L、形状:レギュラートウ フィラメント15K(15,000本)、単繊維直径7μmを使用した。この炭素繊維未開繊トウの炭素繊維にはエポキシ系化合物がサイジング剤として付着されている。
(2)未開繊トウの開繊手段
図7の開繊手段を使用して開繊した(開繊工程)。開繊工程において、炭素繊維フィラメント群(トウ)の張力は15,000本あたり15Nとした。このようにして炭素繊維フィラメント構成本数15K、開繊幅500mm、厚み0.08mmの開繊シートとした。架橋繊維は3.3質量%であった。
(3)セミプレグ
ドライパウダー樹脂としてポリプロピレン(融点:150~165℃(プライムポリマー社製))を使用した。ドライパウダー樹脂の平均粒子径は80μmであった。この樹脂は、炭素繊維1m2に対して平均片面28.2g、両面で56.4g付与した。加熱装置16,19内の温度は各220℃、滞留時間は各8秒とした(粉体樹脂付与工程)。得られた樹脂一体化繊維シートの質量は132.4g/m2、厚みは0.2mm、繊維体積(Vf)は40体積%、熱可塑性樹脂60体積%であった。
(4)積層条件
・樹脂一体化繊維シートの積層枚数:2枚(オーバーラップ部は4枚分、オーバーラップ部の幅53.9mm)
・樹脂一体化繊維シートの繊維方向:二方向(直行方向に積層)、0°/90°(外側が90°)
(5)中空成形
図4に示す装置で、次の条件で中空成形を実施した。
・金型温度200℃
・エアー圧0.6MPa
・加熱成形時間3分
・水冷却時間5分
冷却後にエアラインを切り、中空成形体を脱型した。
【0042】
(実施例2)
積層条件を下記とし、加熱成形時間を5分とした以外は実施例1と同様に実験した。
・樹脂一体化繊維シートの積層枚数:4枚(オーバーラップ部は8枚分、オーバーラップ部の幅53.1mm)
・樹脂一体化繊維シートの繊維方向:二方向(直行方向に積層)、0°/90°/0°/90°(外側が90°)
(評価)
実施例1、2の中空成形体(パイプ)のサイズを測定した。直径(外径)及び長さはノギスを用いて測定し、厚みはマイクロメーターを用いて測定した。厚みに関しては、各々、5点測定しその平均値とした。結果を表1に示した。
【0043】
【表1】
【0044】
また、実施例1及び2の中空成形体を直径方向に圧縮試験を行った。圧縮試験は、オートグラフ(島津製作所社製の型式:AG-50kNXplus)を用いてφ50mmの円盤を中空成形体(端部又は中央部)に押し当て行った。実施例1ではストローク2.5mm、および5.0mmの圧縮を行い、実施例2ではストローク2.5mmの圧縮を行ったが、実施例1及び2の中空成形体が破壊・変形することは無かった。圧縮試験の結果を表2及び図8~9に示す。図8は、実施例1の中空成形体の端部及び中央部における試験力-変位測定グラフ、図9は、実施例2の中空成形体の端部及び中央部における試験力-変位測定グラフである。図8~9において、aは、中空成形体の端部での測定結果を示し、bは、中空成形体の中央部での測定結果を示す。
【0045】
【表2】
【0046】
以上の通り、実施例1及び2の中空成形体は、実用に十分な性能を有していることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の中空成形体は、パイプ、シャフト、フレームなどであり、断面は円形中空、四角形中空、その他様々な形状の中空体が可能である。本発明は、建築部材、スポーツ用品、風車、自転車、自動車、鉄道、船舶、航空、宇宙などの一般産業用途等において広く応用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9