(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】電池制御装置及び電池システム
(51)【国際特許分類】
H02J 7/00 20060101AFI20241217BHJP
G01R 31/382 20190101ALI20241217BHJP
G01R 31/3828 20190101ALI20241217BHJP
G01R 31/3842 20190101ALI20241217BHJP
G01R 31/389 20190101ALI20241217BHJP
G01R 31/392 20190101ALI20241217BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
H02J7/00 Y
G01R31/382
G01R31/3828
G01R31/3842
G01R31/389
G01R31/392
H01M10/48 P
H01M10/48 301
(21)【出願番号】P 2021566820
(86)(22)【出願日】2020-09-18
(86)【国際出願番号】 JP2020035632
(87)【国際公開番号】W WO2021131184
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2019237407
(32)【優先日】2019-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505083999
【氏名又は名称】ビークルエナジージャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大川 圭一朗
(72)【発明者】
【氏名】中尾 亮平
【審査官】宮本 秀一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/199629(WO,A1)
【文献】特開2010-256323(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R31/36-31/396
H01M10/42-10/48
H02J7/00-7/12
H02J7/34-7/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池の電流値、電圧値、及び内部抵抗値に基づいて、第1の手法で前記電池の第1充電状態を演算する第1演算部と、
前記第1の手法とは異なる第2の手法で前記電池の第2充電状態を演算する第2演算部と、
前記第1充電状態と前記第2充電状態との間の差分が所定値以上の場合に内部抵抗の補正演算を実行可と判定する内部抵抗演算実行判定部と、
前記第1充電状態と前記第2充電状態との間の差分の絶対値と、前記電流値の絶対値とに応じた抵抗補正量を演算する内部抵抗補正量演算部と、
前記実行可の判定がされた場合に、前記演算された抵抗補正量で、前記内部抵抗値を補正する内部抵抗補正部と、
を含
み、
前記抵抗補正量は、前記差分の絶対値が同じでも、前記電流値の絶対値が小さいほど、大きな値である、
ことを特徴とする電池制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電池制御装置において、
前記内部抵抗補正部によって補正された前記内部抵抗値に基づいて、前記電池の劣化度を演算する劣化度演算部
をさらに含んだことを特徴とする電池制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電池制御装置において、
前記内部抵抗補正部は、さらに前記第2充電状態、前記電流値、及び前記電池の温度が所定条件を充足する場合に、前記演算された抵抗補正量で前記内部抵抗値を補正する、
ことを特徴とする電池制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の電池制御装置において、
前記内部抵抗補正部は、前記差分が検出されない、または、前記第2充電状態が前記所定条件を充足しない場合には、前記内部抵抗値を補正せず、前記差分が検出され、かつ、前記第2充電状態、前記電流値、及び前記電池の温度が前記所定条件を充足すると判定された直近の演算周期において補正した前記内部抵抗値を出力する、
ことを特徴とする電池制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載の電池制御装置において、
前記抵抗補正量は、前記差分
の絶対値が大きいほど、かつ、前記電流値の絶対値が小さいほど、大きな値である、
ことを特徴とする電池制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の電池制御装置において、
前記抵抗補正量は、さらに前記電池の温度に応じた値である、
ことを特徴とする電池制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載の電池制御装置において、
前記抵抗補正量は、前記電池の温度が高いほど、小さな値である
ことを特徴とする電池制御装置。
【請求項8】
請求項5に記載の電池制御装置において、
前記抵抗補正量は、さらに前記電池の劣化度に応じた値である、
ことを特徴とする電池制御装置。
【請求項9】
請求項8に記載の電池制御装置において、
前記抵抗補正量は、前記電池の劣化度が大きいほど、大きな値である、
ことを特徴とする電池制御装置。
【請求項10】
請求項1~9の何れか1項に記載の電池制御装置と、
前記電池が複数接続され前記電池制御装置により制御される組電池と、を有する、
ことを特徴とする電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池制御装置及び電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車(EV:Electric Vehicle)やプラグインハイブリッド自動車(PHEV:Plug-in Hybrid Electric Vehicle)、ハイブリッド自動車(HEV:Hybrid Electric Vehicle)等の電動車両に搭載される電動車両システムは、電力供給源としての電池と、電池制御装置を有する。電池制御装置は、電池の性能を最大限に引き出すために、電池の電圧や温度、電流を検出し、これらに基づいて電池の充電状態(SOC:State of Charge)や、劣化状態(SOH:State of Health)、電池の入出力可能な電力を演算する。
【0003】
電池は、劣化に伴い、内部抵抗が上昇する。このため、リアルタイムに電池の内部抵抗値が演算され、電池の入出力可能電力を適切に演算するために用いられるほか、初期の内部抵抗値と劣化後の内部抵抗値との比率がSOHとして算出され、電池交換の目安として用いられる。
【0004】
ここで、電池の内部抵抗を演算する方式には、電池電圧変化量と電流変化量の比率から算出した電池の内部抵抗に基づき演算する方式と、電池の等価回路モデルにより算出した内部抵抗に基づき演算する方式とがある。
【0005】
例えば特許文献1には、後者の等価回路モデルに基づく内部抵抗演算方式による内部抵抗をもとに演算されるSOC(以下、SOCv)と電流積算をベースとするSOC(以下、SOCi)のSOC差分が電池劣化に伴う内部抵抗の変化として検出され、SOH算出に用いる内部抵抗を補正する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した従来技術では、SOC差分が生じたために補正が必要と判断された内部抵抗の補正値を、比較的小さな固定値として、演算の安定性を重視している。このため、電池制御装置が認識しているSOHの演算値と、制御対象とする電池の実際のSOH(SOH真値ともいう)が大きく異なるような場合においても、小さな固定値で内部抵抗を補正するため、SOH演算値がSOH真値へ収束する収束速度が遅いという課題がある。
【0008】
本発明の目的は、上述した課題を解決するため、SOH演算値の収束速度を速くし、内部抵抗値を高精度に推定することが可能な電池制御装置及び電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明では、電池制御装置は、電池の電流値、電圧値、及び内部抵抗値に基づいて、第1の手法で前記電池の第1充電状態を演算する第1演算部と、前記第1の手法とは異なる第2の手法で前記電池の第2充電状態を演算する第2演算部と、前記電池の内部抵抗値を補正する補正部と、を含み、前記補正部は、前記第1充電状態と前記第2充電状態との間に所定値以上の差分が検出された場合に、前記差分と前記電流値とに応じた抵抗補正量で、前記電池の内部抵抗値を補正するようにした。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電池の内部抵抗の演算値の収束性と精度を両立することが可能なため、電池システムの信頼性を確保すると共に効率的に電池を使用することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明における実施例1に係るハイブリッド自動車の電動システムの構成を示すブロック図。
【
図2】
図1の電池システムを構成する単電池制御部の構成を示すブロック図。
【
図3】
図1の電池システムを構成する組電池制御部の構成を示すブロック図。
【
図4】SOCテーブル、内部抵抗テーブル、及び分極抵抗テーブルを示す図。
【
図5】実施例1における組電池制御部を構成するSOC演算部の構成を示すブロック図。
【
図6】単電池のSOCとOCVの関係を示す特性例。
【
図9】実施例1における内部抵抗演算実行判定部の構成を示すブロック図。
【
図10】実施例1におけるSOH演算部の構成を示すブロック図。
【
図11】実施例1における内部抵抗補正量マップを示す図。
【
図12】実施例1におけるSOH算出処理を示すフローチャート。
【
図13】従来技術における充放電パルス入力時のSOH演算のプロファイルを示す図。
【
図14】実施例1における充放電パルス入力時のSOH演算のプロファイルを示す図。
【
図15】実施例2におけるSOH演算部の構成を示すブロック図。
【
図16】実施例2における内部抵抗補正量マップを示す図。
【
図17】実施例1における高温領域にての充放電パルス入力時のSOH演算のプロファイルを示す図。
【
図18】実施例2における高温領域にての充放電パルス入力時のSOH演算プロファイルを示す図。
【
図19】実施例2の変形例における抵抗補正量マップを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施例を図面に基づいて説明する。本発明の説明で参照する図面は、あくまで例示に過ぎない。本発明は、以下の実施例に限られるものではなく、各実施例及び変形例の一部又は全部を矛盾なく組合せた形態も、本発明の開示に含まれる。以下では、本発明に関連する構成及び処理のみを説明し、その他の構成及び処理の説明を省略する場合がある。また、以下では、同一もしくは類似の構成及び処理には同一符号を付与して重複説明を省略し、また、後出の実施例において既出の実施例と同一もしくは類似の構成及び処理の重複説明を省略する場合がある。
【0013】
以下の説明において、例えば「xxx100a」「xxx100b」のように、同一番号に枝番号が付加された符号が付与されている同一名称の複数の要素を総称する場合には、同一番号のみを用いて「xxx100」のように表す。また同様に、「YYYzzz1」「YYYzzz2」のように、同一記号に添え字が付加された記号が付与されている同一名称の複数の要素を総称する場合にも、同一番号のみを用いて「YYY」のように表す。
【0014】
以下に説明する実施例では、ハイブリッド自動車(HEV)の電源を構成する蓄電装置に対して適用した場合を例に挙げて説明する。しかし、これに限らず、以下に説明する実施例の構成は、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)、電気自動車(EV)などの乗用車やハイブリッド鉄道車両といった産業用車両の電源を構成する蓄電装置の蓄電器制御回路にも適用できる。
【0015】
以下に説明する実施例では、蓄電部を構成する蓄電器にリチウムイオン電池を適用した場合を例に挙げて説明する。蓄電器としては、他にもニッケル水素電池や鉛電池、電気二重層キャパシタ、ハイブリッドキャパシタなどを用いることもできる。
【実施例1】
【0016】
本発明の実施例1を
図1から
図14に基づいて説明する。
【0017】
図1は、本発明における実施例1に係るハイブリッド自動車の電動システムSの構成を示すブロック図である。本実施例の電動システムSにおいて、電池システム100は、リレー300,310を介して、インバータ400及びモータ410と接続される。車両制御部200は、電池システム100のSOCを始めとする情報と、インバータ400及びモータ410からの情報や、エンジン(図示しない)の情報をもとに駆動力の配分等を決定する。
【0018】
電池システム100の構成について説明する。電池システム100は、複数の単電池111から構成される組電池110と、単電池111の状態を監視する単電池管理部120と、電池システム100に流れる電流を検知する電流検知部130と、組電池110の総電圧を検知する電圧検知部140と、組電池110の制御を行う組電池制御部150と、単電池111、単電池群112、及び組電池110の電池特性に関する情報を格納する記憶部180とを含んで構成される。
【0019】
組電池制御部150は、単電池管理部120から送信される単電池111の電池電圧や温度、電流検知部130から送信される電池システム100に流れる電流値、電圧検知部140から送信される組電池110の総電圧値、更には単電池111が過充電もしくは過放電であるかの診断結果や単電池管理部120に通信エラーが発生した場合に出力される異常信号が入力され、入力された情報をもとに組電池110の状態検知などを行う。また、組電池制御部150が行う処理の結果は、単電池管理部120や車両制御部200に送信される。
【0020】
組電池110は、電気エネルギーの蓄積及び放出(直流電力の充放電)が可能な複数の単電池111(リチウムイオン電池)を電気的に直列に接続して構成される。1つの単電池111は、出力電圧が3.0~4.2V(平均出力電圧:3.6V)であり、単電池111のOCVとSOCには
図6に示すような相関関係があるとした場合を例に挙げて説明するが、これ以外の電圧仕様のものでも構わない。
【0021】
組電池110を構成する単電池111は、状態の管理及び制御を行う上で、所定の単位数にグループ分けが行われている。グループ分けされた単電池111は、電気的に直列に接続され、単電池群112を構成する。所定の単位数は、例えば1個、4個、6個・・・というように、等区分とする場合もあれば、4個と6個とを組み合わせる、というように、複合区分とする場合もある。
【0022】
組電池110を構成する単電池111の状態を監視する単電池管理部120は、複数の単電池制御部121から構成されており、上記のようにグループ分けされた単電池群112に対して1つの単電池制御部121が割り当てられている。単電池制御部121は、割り当てられた単電池群112からの電力を受けて動作し、単電池群112を構成する単電池111の電池電圧や温度を監視する。
図1では、単電池群112aと112bに対応して、単電池制御部121aと121bが設けられた構成となっている。本実施例では、説明を簡単にするために、単電池群112は、4個の単電池111が電気的に直列に接続された構成であるものとし、さらに、4個の単電池111を1つの単電池制御部121が監視する構成とした。
【0023】
図2は、
図1の電池システム100を構成する単電池制御部121の構成を示すブロック図である。単電池制御部121は、電圧検出回路122、制御回路123、信号入出力回路124、及び温度検知部125を備える。電圧検出回路122は、各単電池111の端子間電圧を測定する。温度検知部125は、単電池群112の温度を測定する。制御回路123は、電圧検出回路122及び温度検知部125からの測定結果を受け取り、信号入出力回路124を介して組電池制御部150に送信する。なお、単電池制御部121に一般的に実装される、自己放電や消費電流ばらつき等に伴い発生する単電池111間の電圧やSOCばらつきを均等化する回路構成は、周知のものであるので記載を省略した。
【0024】
図2における単電池制御部121が備える温度検知部125は、単電池群112の温度を測定する機能を有する。温度検知部125は、単電池群112全体として1つの温度を測定し、単電池群112を構成する単電池111の温度代表値としてその温度を取り扱う。温度検知部125が測定した温度は、単電池111、単電池群112、又は組電池110の状態を検知するための各種演算に用いられる。
図2は温度代表値を前提とするため、単電池制御部121に1つの温度検知部125を設けた。単電池111毎に温度検知部125を設けて単電池111毎に温度を測定し、単電池111毎の温度に基づいて各種演算を実行することもできるが、この場合は温度検知部125の数が多くなる分、単電池制御部121の構成が複雑となる。
【0025】
図2では、簡易的に温度検知部125を示した。実際は温度測定対象に温度センサが設置され、設置した温度センサが温度情報を電圧として出力し、これを測定した結果が制御回路123を介して信号入出力回路124に送信され、信号入出力回路124が単電池制御部121の外に測定結果を出力する。この一連の流れを実現する機能が温度検知部125として単電池制御部121に実装されているが、温度情報(電圧)の測定には電圧検出回路122を用いることもできる。
【0026】
図1に説明を戻す。組電池制御部150と単電池管理部120は、フォトカプラのような絶縁素子170を介して、信号通信部160により信号の送受信を行う。絶縁素子170を設けるのは、組電池制御部150と単電池管理部120とで、動作電源が異なるためである。すなわち、単電池管理部120は、組電池110から電力を受けて動作するのに対して、組電池制御部150は、車載補機用のバッテリ(例えば12V系バッテリ)を電源として用いている。絶縁素子170は、単電池管理部120を構成する回路基板に実装してもよいし、組電池制御部150を構成する回路基板に実装してもよい。尚、システム構成によっては、絶縁素子170を省略することも可能である。
【0027】
本実施例における組電池制御部150と、単電池制御部121a及び121bとの間の信号通信部160について説明する。単電池制御部121a及び121bは、それぞれが監視する単電池群112a及び112bの電位の高い順に従って直列に接続されている。組電池制御部150が送信した信号は、絶縁素子170を介して、信号通信部160により単電池制御部121aに入力される。単電池制御部121aの出力と単電池制御部121bの入力との間も同様に、信号通信部160により接続され、信号の伝送を行う。
【0028】
尚、本実施例では、単電池制御部121aと121bの間は、絶縁素子170を介していないが、絶縁素子170を介していてもよい。そして、単電池制御部121bの出力は、絶縁素子170を介して、信号通信部160により組電池制御部150へ入力される。このように、組電池制御部150と、単電池制御部121a及び121bとは、信号通信部160により、ループ状に接続されている。このループ接続は、デイジーチェーン接続などと呼ぶ場合もある。
【0029】
組電池制御部150の構成について
図3に基づいて説明する。
図3は、
図1の電池システム100を構成する組電池制御部150の構成を示すブロック図である。本実施例では、単電池111に関する診断結果や単電池管理部120に通信エラーなどが発生した場合に出力される異常信号に基づく処理内容については、簡単のため説明を省略し、SOC及びSOH演算に関する構成を述べる。
【0030】
組電池制御部150は、SOC演算部151と内部抵抗演算実行判定部152とSOH演算部153とを含んで構成される。SOC演算部151は、組電池110を構成する各単電池111の平均電圧、組電池110に流れる電流、組電池110の温度、及びSOH演算部153が出力するSOHを入力とし、SOC及びSOCvを出力する。SOC及びSOCvの演算処理内容については、後述する。
【0031】
内部抵抗演算実行判定部152は、組電池110を構成する各単電池111の平均電圧、組電池110に流れる電流、組電池110の温度、及びSOC演算部151が出力するSOCとSOCvを入力とし、SOH演算実行可否を判定し、判定結果を出力する。SOH演算部153は、SOC演算部151が出力するSOC及びSOCvと、温度、電流、及び内部抵抗演算実行判定部152が出力する判定結果を入力として、SOHを演算し、出力する。演算されたSOCやSOHは、車両制御部200へ送信される。
【0032】
記憶部180は、組電池110、単電池111、単電池群112の内部抵抗特性、満充電時の容量、分極抵抗特性、劣化特性、個体差情報、SOCとOCVの対応関係などの情報を格納する。なお、本実施例では、記憶部180は組電池制御部150又は単電池管理部120の外部に設置されている構成としたが、組電池制御部150又は単電池管理部120に記憶部が設けられてもよい。
【0033】
図4は、SOCテーブル181、内部抵抗テーブル182、及び分極抵抗テーブル183を示す図である。SOCテーブル181、内部抵抗テーブル182、及び分極抵抗テーブル183は、記憶部180に格納されている。
【0034】
図4(a)に示すように、SOCテーブル181は、単電池111のSOCとOCV(Open Circuit Voltage:開回路電圧)との対応関係を温度に応じて記述したデータテーブルである。
【0035】
また、
図4(b)に示すように、内部抵抗テーブル182は、単電池111の温度及びSOCとRoの初期抵抗値RoInitとの対応関係を記述したデータテーブルである。Roの初期抵抗値RoInitとは、
図7のように単電池111を等価回路で表した場合における、電池新品時のRoの抵抗値である。
【0036】
また、
図4(c)に示すように、分極抵抗テーブル183は、単電池111の温度及びSOCとRpの初期抵抗値RpInitとの対応関係を記述したデータテーブルである。Rpの初期抵抗値RpInitとは、
図7のように単電池111を等価回路で表した場合における、電池新品時のRpの抵抗値である。
【0037】
尚、本実施例の説明ではデータテーブルを用いたが、各対応関係を数式などで表現してもよく、図示のデータテーブルという形に限定されるものではない。
【0038】
組電池制御部150を構成するSOC演算部151について、
図5及び
図6に基づき説明する。
図5は、実施例1における組電池制御部150を構成するSOC演算部151の構成を示すブロック図である。
図6は、単電池111のSOCとOCVの関係を示す特性例である。
【0039】
図5に示すように、SOC演算部151は、SOCi演算部151-1、SOCv演算部151-2、及び組合せ演算部151-3を含んで構成される。
【0040】
SOCi演算部151-1は、電流と組合せ演算部151-3が出力したSOC演算結果の前回値(一周期前の演算結果)を入力とし、電流の積算値に基づくSOC(以下、SOCi)を演算して出力する。SOCv演算部151-2は、電池電圧、電流、及び温度に基づき、OCVを演算して、
図4(a)及び
図6に示すOCVとSOCの対応関係に基づきSOC(以下、SOCv)を演算する。組合せ演算部151-3は、SOCiとSOCvを入力とし、SOCiとSOCvを重み付け平均し出力する。
【0041】
次に、SOCi演算部151-1について説明する。SOCiは、組合せ演算部151-3が出力した結果の前回値(一周期前の演算結果)に対し、電流が流れたことによるSOCの変化量を加算することで、下記式(1)のように算出される。
【0042】
【0043】
ここで、SOC_oldは後述する式(4)で得られるSOCの前回値(一周期前の演算結果)、Iは電流、Qmaxは単電池111の満充電容量、tsは制御周期(電流や電圧等のサンプリング周期)である。
【0044】
SOCv演算部151-2について、
図7及び
図8に基づき説明する。
図7は単電池111の等価回路図を示しており、
図8は単電池111に充電電流が流れた場合の電圧の挙動を示している。単電池111は、電池の開回路電圧を表すOCVを模擬した直流電源と、電極や電解液などの電気抵抗を表すRoと、電池の電気化学的な反応に伴う抵抗成分(分極成分)をモデル化したRp及びCの並列回路と、を直列に接続した回路構成となっている。
【0045】
図8に示すように、充電電流が流れると、OCVに対してRoによる電圧上昇が発生し、その後、徐々にRpによる電圧上昇(分極電圧)が発生する。Roによる電圧上昇をVo、分極電圧をVpとすると、
図7で示した等価回路から、OCVは以下の式(2)で表せる。
【0046】
【0047】
上記式(2)中に含まれるRo,Rpは、下記式(3)に示すように、単電池111の各初期抵抗値RoInit,RpInitに対して、内部抵抗の上昇率(%)であるSOH_oldをそれぞれ乗算した結果である。下記式(3)におけるSOH_oldは、後述する式(6)で得られる前回値(一周期前の演算結果)である。
【0048】
【0049】
上記式(3)におけるRoInit,RpInitは、予め記憶部180に格納されている内部抵抗テーブル182、分極抵抗テーブル183が参照され、現時点でのSOC及び温度をもとに算出された結果である。SOCv演算部151-2は、上記式(2)の第1式~第3式からOCVを演算し、第4式に示すように
図4(a)及び
図6に示すようにOCVに対応したSOCをSOCvとして演算する。
【0050】
組合せ演算部151-3について述べる。組合せ演算部151-3は、SOCi演算部151-1が演算したSOCiと、SOCv演算部151-2が演算したSOCvと、電流と、温度とを入力として、以下の式(4)に基づき、SOCを演算する。
【0051】
【0052】
ここで、wは重み係数を示しており、例えば、以下の式(5)から算出する。
【0053】
【0054】
式(4)及び(5)により、電流が大きいときはwが小となるためSOCiへの偏重度合が高くなり、逆に電流が小さいときはwが大となるためSOCvへの偏重度合が高くなる。本実施例では、電流通電時の抵抗誤差に伴うSOCv誤差の影響を回避するため、式(5)のような重み係数を設けているが、これに限定されるものではない。
【0055】
次に、
図9に基づき内部抵抗演算実行判定部152について説明する。
図9は、実施例1における内部抵抗演算実行判定部152の構成を示すブロック図である。
【0056】
まず、
図9に基づき、内部抵抗演算実行判定部152の構成を述べる。内部抵抗演算実行判定部152は、SOC演算部151からの入力であるSOC及びSOCvを入力としてSOCvの演算に用いている抵抗値に所定値以上の誤差があるか否かを判定する内部抵抗誤差検知部152-1とSOC、電流、及び電圧が所定範囲内にあるか否かを判定する演算実行判定部152-2と、内部抵抗誤差検知部152-1及び演算実行判定部152-2それぞれの判定結果をもとに、内部抵抗の補正処理の実行可否を判定する補正可否判定部152-3を含んで構成される。
【0057】
内部抵抗誤差検知部152-1は、SOC演算部151が出力するSOCとSOCvの差分の絶対値(SOCvの誤差)が、所定値以上大きい場合、SOCvの演算に用いている内部抵抗値と、制御対象としている電池の内部抵抗値との間に不一致があると判定し、判定結果を出力する。
【0058】
次に、演算実行判定部152-2は、SOC、電流、及び温度を入力とし、内部抵抗値の補正演算を実行するか否かを判定する。具体的には、SOC演算部151によって演算されたSOC、電流、及び温度が所定範囲内にあるかどうかをチェックし、すべてが所定範囲内であるという条件を満たすときに演算可能とし、判定結果を出力する。SOC、電流、及び温度の所定範囲については、電池の特性やSOC誤差、電流及び温度センサ誤差の影響を考慮して決定されるものであり、記憶部180に格納されている。
【0059】
補正可否判定部152-3は、内部抵抗誤差検知部152-1及び演算実行判定部152-2の判定結果に基づき、内部抵抗の補正演算を実行するか否かを判定する。本実施例では、抵抗誤差を検知し、かつ、SOC、温度、及び電流が所定範囲内にある場合に、内部抵抗の補正演算を実行し、これ以外の場合は、内部抵抗の補正演算を実行しない。
【0060】
次に、
図10に基づいてSOH演算部153の構成を説明する。
図10は、実施例1におけるSOH演算部の構成を示すブロック図である。SOH演算部153は、内部抵抗補正量演算部153-1と、内部抵抗補正部153-2と、SOH算出部153-3を含んで構成される。
【0061】
内部抵抗補正量演算部153-1は、SOC、SOCv、及び電流を入力として、
図11に示す抵抗補正量マップに基づいて内部抵抗補正量を演算し、内部抵抗補正部153-2へ出力する。内部抵抗補正部153-2は、内部抵抗演算実行判定部152の判定結果とSOC及び温度を入力として、内部抵抗補正量の演算が実行可能と判定された場合に、記憶部180に格納された内部抵抗テーブル182におけるSOC及び温度に対応した内部抵抗Roの初期抵抗値RoInitを補正し、補正後の内部抵抗値RoをSOH算出部153-3へ出力する。
【0062】
SOH算出部153-3は、補正後の内部抵抗値Roと、SOC及び温度に対応した初期抵抗値RoInitとに基づき、以下の式(6)を用いてSOHを算出する。補正後の内部抵抗値Roは、下記式(6)に基づくSOH算出のほか、電池の各種制御に用いてもよい。なお、下記式(6)に示す例では、SOHをRoとRoInitとの比率としたが、Roと同様にして補正したRpとRpInitの比率としてもよい。
【0063】
【0064】
内部抵抗補正部153-2は、内部抵抗誤差検知部152-1及び演算実行判定部152-2の何れかの判定結果に基づき、内部抵抗演算の実行が不可と判定された場合には、内部抵抗値の補正は行われない、つまり、直近で内部抵抗演算が実行可と判定された演算周期において演算された内部抵抗値が出力される。例えば、所定の演算周期で演算処理が行われる場合、実行が不可と判定された演算周期よりも一周期前に内部抵抗演算が実行可と判定された場合に、この一周期前の演算周期において演算された内部抵抗値が出力される。
【0065】
次に、内部抵抗補正量演算部153-1の処理内容について、
図11に基づき述べる。
図11は、電流値とSOC差分(SOCv-SOC)に応じた抵抗補正量のマップの一例を示している。本実施例では、SOC差分を内部抵抗のズレに伴う誤差として検知し、内部抵抗を補正する制御を想定している。このため、SOC差分が大きいほど、内部抵抗のズレが大きいことになる。すなわち、SOC差分が大きいほど、補正すべき内部抵抗の値を大きくする、つまり、大きな抵抗補正量を設定する。
【0066】
次に、補正量の電流依存性について考える。SOC差分が同じ、つまり、SOCv誤差が同じ場合、上記式(2)から、内部抵抗のズレに起因するVo及びVpの誤差も同様となる。Vo及びVpの誤差は、電流と内部抵抗の積で決まるため、Vo及びVpの誤差が一定の場合、電流が小さければ内部抵抗のズレが大きく、電流が大きければ内部抵抗のズレが小さいことになる。これを反映できるように、内部抵抗の補正量を規定すると、電流値の絶対値が小さければ小さいほど、抵抗補正量を大きくし、電流値の絶対値が大きければ大きいほど、抵抗補正量を小さくすることになる。
【0067】
以上まとめると、内部抵抗を用いたSOC演算値(SOCv)と、SOCvとは異なる手法で演算したSOCとの差分が大きければ大きいほど、かつ、電流値の絶対値が小さければ小さいほど、内部抵抗補正量を大きな値に設定するように抵抗補正量マップを構築すればよい。
【0068】
なお、
図11に示したSOC差分及び電流に応じた内部抵抗補正量は、マップあるいはテーブルとしてあらかじめ補正値を決めておき、記憶部180に格納されてもよいし、関係を数式で記述し、数式として実装されてもよい。
【0069】
次に、
図12のフローチャートを参照して、実施例1におけるSOH算出処理を説明する。
図12は、実施例1におけるSOH算出処理を示すフローチャートである。SOH算出処理は、電池システム100を含む電動システムSが起動されてシャットダウンされるまで組電池制御部150によって繰り返し実行される。
【0070】
先ずステップS11では、組電池制御部150は、SOC演算部151のSOCi演算部151-1において、上記式(1)に従いSOCiを演算する。次にステップS12では、組電池制御部150は、SOC演算部151のSOCv演算部151-2において、上記式(2)及び式(3)に従いSOCiを演算する。次にステップS13では、組電池制御部150は、SOC演算部151の組合せ演算部151-3において、上記式(4)及び式(5)に従いSOCを演算する。組電池制御部150は、ステップS13で算出したSOCを変数SOC_oldへ格納する。
【0071】
次にステップS14では、組電池制御部150は、内部抵抗演算実行判定部152の内部抵抗誤差検知部152-1においてSOCvの誤差(SOCとSOCvの差分の絶対値)が所定値以上であるか否かを判定し、演算実行判定部152-2において、入力されたSOC、電流、及び温度の全てが所定範囲内であるか否かを判定する。組電池制御部150は、内部抵抗演算実行判定部152の補正可否判定部152-3において、ステップS14の判定結果がYesの場合に内部抵抗の補正演算を実行すると判定してステップS15へ処理を移し、ステップS14の判定結果がNoの場合に内部抵抗の補正演算を実行しないと判定してステップS11へ処理を戻す。
【0072】
ステップS15では、組電池制御部150は、SOH演算部153の内部抵抗補正量演算部153-1において、SOC、SOCv、及び電流を入力として、
図11に示す内部抵抗補正量マップから内部抵抗補正量を演算する。次にステップS16では、組電池制御部150は、SOH演算部153の内部抵抗補正部153-2において、内部抵抗演算実行判定部152の判定結果、SOC及び温度を入力として、内部抵抗テーブル182におけるSOC及び温度に対応した初期抵抗値RoInitを上記式(3)の第1式に基づいて補正した補正後の内部抵抗値Roを、SOH算出部153-3へ出力する。
【0073】
次にステップS17では、組電池制御部150は、SOH算出部153-3において、補正後の内部抵抗値Roと、SOC及び温度に対応した初期抵抗値RoInitとに基づいて、上記式(6)からSOHを算出する。組電池制御部150は、ステップS18で算出したSOHを変数SOH_oldへ格納する。
【0074】
次にステップS18では、組電池制御部150は、電池システム100を含む電動システムSがシャットダウンされるか否かを判定し、シャットダウンされる場合(ステップS18:Yes)に本SOH算出処理を終了し、シャットダウンされない場合(ステップS18:No)にステップS11へ処理を戻す。
【0075】
次に、実施例1の効果を
図13及び
図14を参照して説明する。
図13は、従来技術における充放電パルス入力時のSOH演算のプロファイルを示す図である。
図14は、実施例1における充放電パルス入力時のSOH演算のプロファイルを示す図である。
【0076】
図13及び
図14は、それぞれ、充電もしくは放電を繰り返す矩形波の充放電電流を入力したときの、(a)SOC演算値、(b)電流、(c)SOH(内部抵抗上昇率)の演算値の波形を示している。
図13は、本発明を適用する前の従来手法(抵抗補正量固定値)の結果を示し、
図14は本発明を適用した場合の結果を示している。
図13及び
図14において、SOH初期値は100%とし、真値に対して大きな乖離がある状態を想定した。
【0077】
図13(a)に示したSOCの波形を見ると、充放電の開始直後の領域では、内部抵抗に基づくSOC(SOCv)の波形は、SOH演算誤差(内部抵抗の誤差)の影響でSOC演算値に対し、大きな乖離がある。ここで、SOCvとSOCの差分を抽出し、内部抵抗が固定値で補正されると共にSOH演算値が徐々に更新されていく(
図13(c))。内部抵抗が固定値で更新されると、これに合わせてSOCvがSOC演算値に近づく、つまり、SOC差分が小さくなり、充放電の最後には、SOH演算値はSOH真値に収束し、SOC差分も小さくなる。
【0078】
次に、本発明を適用した場合のSOC、電流、及びSOHの波形について
図14に示す。
図14(a)に示したSOCの波形を見ると、充放電の開始直後の領域では、
図13に示した従来技術と同様に、SOCvの波形は、SOH誤差の影響で、SOCに対し乖離が大きいことが分かる。ここで、SOCvとSOCの差分を抽出し、内部抵抗が補正されるが、
図11に示すような抵抗補正量マップを用いることにより、SOC差分が大きいほど、内部抵抗補正量が大きくなるため、従来手法に比べ、SOHが真値へ近付く更新速度が速くなっていることが分かる。SOC差分の低下に伴って、抵抗補正量が小さくなるので、SOHが真値へ近付く更新速度は低下するものの、最終的には、従来手法に比べ、約半分程度の速度で演算値が真値に収束していることが分かる。
【0079】
本実施例によれば、内部抵抗に基づくSOC(SOCv)とSOCvとは異なる手法で演算されたSOCとの差分と、電流値とをもとに決定した内部抵抗補正量を用いて、内部抵抗を補正し、SOHを演算することで、従来のように内部抵抗補正量を固定値とした場合に比べ、SOH演算の収束性が大幅に向上すると共に、SOH演算精度(最終的な収束値と真値との差分)は従来と同等の精度を維持することが可能となる。
【0080】
すなわち、SOC差分と電流値に応じて補正する内部抵抗値を可変とすることで、電池制御装置が認識するSOHと制御対象の電池のSOH真値との差分が大きい状態において、抵抗補正量を大きく設定できるので、SOH演算値の収束性が向上する。また、SOH演算値が更新され真値に近づくと、内部抵抗値の補正量が小さくなるので、安定性を損なうことなく精度よくSOHを演算することが可能となる。結果として、演算精度と収束性を両立することが可能となるため、電池の入出力可能な電力を正確に把握出来るようになる他、電池交換の指標を正確に演算することが可能となる。
【実施例2】
【0081】
【0082】
実施例1では、抵抗に基づき演算したSOC(SOCv)と、電流に基づくSOC(SOCi)と、SOCvとの組み合わせで求めたSOCとの差分及び電流値に基づき、内部抵抗値の補正量を制御する方法について述べた。
【0083】
本実施例では、内部抵抗補正量の制御に電池の温度をさらに追加して用いる例について述べる。本実施例の説明では、実施例1との差分点を中心に説明し、実施例1と同様の構成の箇所については説明を省略する。本実施例における実施例1との差分点は、組電池制御部150が、SOH演算部153に代わりSOH演算部153Bを有する点である。以降、SOH演算部153Bについて述べる。
【0084】
本実施例におけるSOH演算部153Bについて、
図15に基づいて説明する。
図15は、実施例2におけるSOH演算部153Bの構成を示すブロック図である。SOH演算部153Bは、実施例1のSOH演算部153と比較して、内部抵抗補正量演算部153-1の代わりに、内部抵抗補正量演算部153-1Bを備えている点であり、入力として電池の温度が追加となっている。内部抵抗補正量演算部153-1Bは、SOC差分、電流、及び温度を入力として内部抵抗補正量を演算し、内部抵抗補正部153-2へ出力する。
【0085】
内部抵抗補正量演算部153-1Bにおける内部抵抗補正量の演算方法について、
図16に基づき説明する。
図16は、実施例2における内部抵抗補正量マップを示す図であり、SOC差分に応じた内部抵抗補正量を温度T毎に示す。
【0086】
一般に、電池の内部抵抗は、温度上昇と共に減少する傾向がある。このため、温度Tに応じて一律な内部抵抗補正量を設定すると、内部抵抗値そのものに対して、内部抵抗補正量が大きすぎる場合がある。新品時の内部抵抗値に対する現在の内部抵抗値の比率としてSOHを演算する場合、内部抵抗値に対して内部抵抗補正量が大きすぎると、SOHの値の変動が大きく、振動する可能性がある。逆に、内部抵抗値に対して内部抵抗補正量が小さすぎると、SOHの値の変化が小さくなるため、SOH演算値の真値への収束速度が低下する可能性がある。
【0087】
そこで、
図16に示す抵抗補正量マップのように、
図10に示す抵抗補正量マップと比較して、内部抵抗値が小さくなる高温領域では、内部抵抗補正量を全体的に小さい値に設定し、反対に内部抵抗値が大きくなる低温領域では、内部抵抗補正量を全体的に大きい値に設定する。すなわち、本実施例では、内部抵抗に基づくSOC演算値(SOCv)と、SOCvとは異なる手法で演算したSOCとの差分が大きければ大きいほど、かつ、電流値の絶対値が小さければ小さいほど、かつ、電池の温度が高ければ高いほど、内部抵抗補正量を大きな値に設定するように抵抗補正量マップを構築する。
【0088】
このような抵抗補正量マップを構築することにより、温度に応じて異なる内部抵抗値に対して、収束性と安定性を確保したSOH演算が実行可能となる。
【0089】
なお、
図16に示したSOC差分、電流、及び温度に応じた内部抵抗補正量は、マップあるいはテーブルとしてあらかじめ補正値を決めておき、記憶部180に格納されてもよいし、関係を数式で記述し、数式として実装されてもよい。
【0090】
次に、本実施例における効果を
図17及び
図18を参照して説明する。
【0091】
図17及び
図18は、それぞれ、充電もしくは放電を繰り返す矩形波の充放電電流を入力したときの、(a)SOC演算値、(b)電流、(c)SOH(内部抵抗上昇率)の演算値の波形を示している。
図17は、例えば、常温領域(例えば25℃)で設定した内部抵抗補正量を用いて、高温領域(例えば50℃)でSOH演算を実行した場合の演算結果例を示している。
【0092】
内部抵抗値の小さい高温領域でSOHを演算する場合、式(6)のとおり、分母の初期抵抗値RoInitが常温時と比較して小さいにも関わらず、分子の現時点における内部抵抗値Roを算出する際、内部抵抗の補正量が大きい影響で、SOHの演算値が大きく変動し、場合によっては、
図17(c)に示すように、SOH真値付近で演算値が収束せず、振動する可能性がある。
【0093】
一方で、温度毎に適切な内部抵抗補正量を設定する、つまり、高温領域の場合、内部抵抗補正量をより小さい値に設定して演算すると、
図18(c)に示すように、SOH真値近傍での振動を抑制でき、かつ、収束性も確保可能な演算が実現できることが確認できる。
【0094】
本実施例によれば、内部抵抗に基づくSOC(SOCv)とSOCvとは異なる手法で演算されたSOCとの差分、電流値、及び温度に応じて決定した内部抵抗補正量を用い、内部抵抗を補正してSOHを演算することで、温度に応じて様々に異なる内部抵抗値に対しても、安定性と収束性を確保したSOHを演算することが可能となる。
【0095】
本実施例では、温度に応じて内部抵抗値が異なる点に着目し、補正量を調整する例について述べたが、内部抵抗値はこれ以外にも例えば、電池の劣化度に応じても異なる。このため、劣化度に応じて内部抵抗補正量を決定するようにしてもよい。つまり、
図19に示す実施例2の変形例における抵抗補正量マップのように、
図10に示す抵抗補正量マップと比較して、新品時のときは劣化度SOHが小さく内部抵抗が小さいため、内部抵抗補正量を全体的に小さくし、劣化の進行に伴い劣化度SOHが大きくなり内部抵抗が大きくなれば、内部抵抗補正量を全体的に大きくする。なお、
図19に示したSOC差分、電流、及び劣化度に応じた内部抵抗補正量は、マップあるいはテーブルとしてあらかじめ補正値を決めておき、記憶部180に格納されてもよいし、関係を数式で記述し、数式として実装されてもよい。
【0096】
すなわち、内部抵抗に基づくSOC演算値(SOCv)と、SOCvとは異なる手法で演算したSOCとの差分が大きければ大きいほど、かつ、電流値の絶対値が小さければ小さいほど、かつ、電池の劣化度が大きければ大きいほど、内部抵抗補正量を大きな値に設定するように抵抗補正量マップを構築する。これにより、電池の劣化度に応じて、安定性と収束性を確保するのに適した内部抵抗補正量で内部抵抗が補正可能となり、結果として、SOH演算値の安定性と収束性を両立することが可能となる。
【0097】
以上の説明はあくまで一例であり、本発明は上記実施例の構成に何ら限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。また、各実施例の処理における各ステップは、同一結果を得ることができる限りにおいて適宜順序を入れ替えて実行されてもよい。
【符号の説明】
【0098】
S・・・電動システム、100…電池システム、110…組電池、111…単電池、112…単電池群、120…単電池管理部、121…単電池制御部、122…電圧検出回路、123…制御回路、124…信号入出力回路、125…温度検知部、130…電流検知部、140…電圧検知部、150…組電池制御部、151…SOC演算部、151-1…SOCi演算部、151-2…SOCv演算部、151-3…組合せ演算部、152…内部抵抗演算実行判定部、152-1…内部抵抗誤差検知部、152-2…演算実行判定部、152-3…補正可否判定部、152-4…通電時間計測部、153…SOH演算部、153-1…内部抵抗補正量演算部、153-2…内部抵抗補正部、153-3…SOH算出部、160…信号通信部、170…絶縁素子、180…記憶部、200…車両制御部、300,310…リレー、400…インバータ、410…モータ、420…モータ/インバータ制御部