(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】セルロースフィブリル強化補修モルタル
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20241217BHJP
C04B 16/02 20060101ALI20241217BHJP
C04B 14/06 20060101ALI20241217BHJP
B28C 7/04 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B16/02 Z
C04B14/06 Z
B28C7/04
(21)【出願番号】P 2021574808
(86)(22)【出願日】2020-03-11
(86)【国際出願番号】 CA2020050379
(87)【国際公開番号】W WO2021012036
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2023-03-08
(32)【優先日】2019-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518457314
【氏名又は名称】パフォーマンス バイオフィラメンツ インク
【氏名又は名称原語表記】PERFORMANCE BIOFILAMENTS INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100163991
【氏名又は名称】加藤 慎司
(72)【発明者】
【氏名】ミンハス,ガーマインダー
(72)【発明者】
【氏名】グーレイ,キース
(72)【発明者】
【氏名】オヌアグルチ,オビンナ
(72)【発明者】
【氏名】バンティア,ネムクマール
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-024938(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0062211(US,A1)
【文献】特開2018-030744(JP,A)
【文献】特開平10-029847(JP,A)
【文献】Iwamoto et al.,Relationship between aspect ratio and suspension viscosity of wood cellulose nanofibers,Polymer Journal,2013年07月17日,46,p.73-76
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00-32/02
C04B 40/00-40/06
B28C 1/00- 9/04
E04G 23/00-23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
補修モルタルを用いてコンクリート材料中の鉄筋の耐腐食性を改善する方法であって、
鉄筋が少なくとも部分的に埋め込まれている、クラックが入った及び/または損傷したコンクリート材料を得ることと、
セメントバインダー及び細骨材をセルロースフィブリルと混合して、前記セルロースフィブリルを均一に分散させることにより、前記セメントバインダー及び前記細骨材と前記セルロースフィブリルとの混合物を得ることと、
前記混合物を水/化学混和剤と更に混合して、ワーカブルな補修モルタルを得ることと、
前記ワーカブルな補修モルタルを前記コンクリート材料に塗布することと、を含み、
前記セルロースフィブリルが
乾燥後の前記補修モルタルの約0.1vol.%を構成し、前記セルロースフィブリルの表面積が60~100m
2/gであり、前記セルロースフィブリルの幅が約80nm~約500nm、長さが約100μm~約800μmであり、前記セルロースフィブリルの少なくとも95%のアスペクト比が少なくとも50である、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は補修モルタルに関し、詳細には、補修モルタルとコンクリート基材との間の界面結合強度を強化するセルロースフィブリル強化補修モルタルに関する。また、この補修モルタルは、補修されたコンクリートに埋め込まれたスチール補強棒の腐食を最小限に抑える。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは、圧縮強度が良好で比較的安価であるため、最も使用されている建築材料の一つである。残念ながら、コンクリートはクラック及び劣化を起こしやすく、それにより構造的完全性が弱まる。さらに、補強コンクリート中の鉄筋の腐食は、このような構造物の耐久性に影響を及ぼす。腐食の主な原因は、一部のコンクリートの高い透過性にある。透過性が高いため、水、酸素、塩化物、及び他の腐食物質がコンクリートマトリックスに侵入し、埋め込まれたスチール補強棒を腐食する。
【0003】
クラックが入ったもしくは劣化したコンクリートを補修するには、及び/またはコンクリートのハニカムを埋めるには、セメントベース補修モルタルが一般的に使用されている。従来のセメントベース補修モルタルは、バインダー(例えば、セメント)、フィラー(例えば、砂、砂利、炭酸カルシウム、石灰石骨材など)、結合強化剤(例えば、粉末ポリマー)、及び水和剤(例えば、水)を含む。しかし、セメントベース補修モルタルには、初期硬化中のクラック、及び/または補修モルタルとコンクリートとの間の界面の接着不良により引き起こされる剥離といった欠点がある。Tilly and Jacobsによって示された統計によると(Tilly and Jacobs,Concrete Repairs,Performance in Service and Current Practice,HIS BRE Press,Bracknell,2007)、セメントベース補修材の20%、55%、及び90%がそれぞれ5年、10年、25年以内に破損することが示唆されている。セメントベースパッチ補修の不具合の80%は、セメントベース補修モルタルとコンクリートとの間の界面結合強度不良による層間剥離、クラック、及び腐食に関連する問題に起因する。
【0004】
モルタル-コンクリート界面の界面結合強度は、少なくとも2つの要因:(1)コンクリートの表面状態、及び(2)セメントベースモルタルの硬化条件の影響を受ける。コンクリートの表面状態については、コンクリートに前処理を施すことがある。前処理は、典型的には、補修モルタルを塗布する前に、補修対象のコンクリートの表面のスカリファイ、目粗し、及びコンディショニングのうちの1つ以上を伴う。例えば、International Concrete Repair Institute(ICRI)は、特定のコンクリート表面の目粗しを推奨し、調製及び評価の技法を提供している(ICRI Technical Guideline No.310.2R-2013;Formerly Guidelines No.03732:Selecting and Specifying Concrete Surface Preparation for Coatings,Sealers,and Polymer Overlays,ICRI 310.2R-2013,Minnesota,2013)。しかし、前処理は、典型的には時間、エネルギー、及びコストがかかる。さらに、天候、緊急性、及び他の外的要因が前処理に影響を及ぼすことがある。
【0005】
セメントベースモルタルの硬化条件については、初期体積変化及びそれに付随する収縮応力発生により、硬化中のモルタルに欠陥が生じることがある。硬化中、古い乾燥コンクリートはセメントベースモルタルの水分を吸収する。これは「偽凝結」(すなわち、補修モルタルの急速な硬化)を引き起こし、それによってモルタルが乾燥して補修モルタル/コンクリート界面に疎性の粉末が形成され得る(すなわち、風解)。その結果、セメントベース補修モルタルと古いコンクリートとの間の界面結合強度が損なわれ、層間剥離が生じ得る。
【0006】
さらに、セメントベース複合材は、硬化するにつれて収縮する。そのため、硬化した(つまり、ワーカブルでない)セメントベースモルタルオーバーレイの体積は、典型的には打設直後の体積に比べて小さい。セメントベース複合材は、混合及び打設の初期段階ではワーカブルであり、収縮することができる。しかし、セメントベース複合材が硬くなり強度を発達させると、収縮する能力が低下する。水分が欠如すると、とりわけ水:セメントの比が低いセメントベース複合材の場合、自己収縮変形及びそれに付随するマトリックスクラックにつながる。これまでの研究では、混合物中に保水性の多孔質材料(例えば、軽量骨材(LWA)や超吸水性ポリマー(SAP))を含めることで、セメント複合材の初期自己変形が低減し得ることが示されている(Jensen & Hansen.,2002;Bentz,2007;Castro et al.,2011)。しかし、ナノ及びマイクロサイズのセルロース繊維の広範な可用性、低密度、高比表面、及び親水性などの属性を考慮すると、セメント複合材の保水剤及び脱着剤としても機能する可能性がある。
【0007】
セルロース繊維をセメントベースマトリックスに導入する際の大きな課題は、マトリックス全体に繊維を均一に分散させるのを達成することである。セメントベースマトリックス中の繊維の分散が不十分及び/または繊維分布が不均一である場合、複合材の構造的完全性及び/または強度が低下し得る。さらに、セメントベース複合材にパルプ繊維を加えると、概して複合材のワーカビリティー及び打設時間が損なわれる。したがって、ワーカビリティーを改善し、複合材の打設時間を長くするためには、しばしば水またはスーパー可塑剤の含量を多くする必要がある。余分な水を追加すると、セメントベース材料がより多孔質で弱くなり、概してセメント複合材の他の性能(機械的強度、接着強度、凍結融解特性など)が低下するため、典型的には水の追加を避ける。
【0008】
打設時間とは、セメントベース複合材が相当程度のワーカビリティーの喪失なしに打設されるまでの時間を指す。ワーカビリティーが著しく低下したセメントベース複合材は、圧縮及び仕上げが困難なだけでなく、複合材とセメントベース基材(例えば、コンクリートなど)との間の接着不良にも寄与し得る。ユーザーは、望ましい打設時間により、モルタル完成前にコンシステンシー(=ワーカビリティー)を失うことなく広い面積のモルタルを塗り広げることができる。
【0009】
セメントベース複合材の強度及び耐久性に悪影響を及ぼすことなく、良好な水分リザーバーとして機能する(すなわち、セメント水和中に水分を内部に保持したり放出したりすることにより機能する)材料としては、超吸水性ポリマー(SAP)及び軽量細骨材(LWA)が挙げられる。残念ながら、これらの材料は、大規模用途での使用は費用対効果が低いため、理想的ではない。また、SAPは寸法的に不安定であるため、セメントベース複合材の強度及び弾性率に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0010】
セメントベース複合材の自己収縮を低減するために使用される内部硬化剤が知られている。これらの内部硬化剤のいくつかを使用することで高強度のセメントベース複合材が得られるものの、必ずしも高強度のセメントベース複合材が有効で耐久性のある高性能のセメントベース複合材として機能するとは限らない。例えば、高強度セメント複合材は、優れた強度特性を有するものと認識されている。しかし、高強度セメントモルタルをコンクリート基材に適用した場合、モルタル-コンクリート基材界面でのクラック成長耐性が欠如する。したがって、より脆性の高い高強度セメント複合材は補修材として有効ではない。言い換えれば、セメントベース材料の圧縮強度は、その性能を規定する属性を示すものではない。したがって、セメントベース補修モルタルが、モルタルと基材との間に界面を形成する際に、どのようにコンクリート基材と相互作用するかを予測することは不可能である。
【0011】
全体的な性能特性(セメントベース補修モルタルとコンクリート基材界面との間の界面結合強度、及び修復された補強コンクリート構造物内のスチール補強棒の腐食の軽減を含む)が強化されたセメントベース補修モルタルが広く望まれている。このような補修モルタルは、持続可能で環境に優しく再生可能な材料で構成されることが望ましい。
【0012】
以上の関連技術の例及びそれに関連する制限事項は、例示を意図したものであり、排他性は意図されていない。関連技術の他の制限事項については、本明細書を読み図面を検討すれば、当業者には明らかになるであろう。
【発明の概要】
【0013】
以下の実施形態及びその態様は、範囲を限定しないように意図されている代表的かつ例示的なシステム、手段、及び方法と共に記載及び例示される。様々な実施形態において、上記の問題のうちの1つ以上が低減または解消しており、一方他の実施形態は他の改善を対象とする。
【0014】
本発明は、補修モルタルオーバーレイとコンクリート基材との間の界面結合強度を強化することができる補修モルタルに関する。本明細書に記載の補修モルタルは、従来のモルタルと比較して、最終的な補修製品に、鉄筋耐腐食性改善、初期変形の低減、及び補修モルタルオーバーレイとコンクリート基材との間の界面結合強度の強化、のうちの1つ以上を付与する。
【0015】
本発明の1つの態様は、セメントバインダーとセルロースフィブリルとを含む補修モルタルを提供する。
【0016】
いくつかの実施形態において、セルロースフィブリルは、補修モルタル全体に均一に分散されている。
【0017】
いくつかの実施形態において、セルロースフィブリルは、ナノフィブリル化セルロース及び/またはマイクロフィブリル化セルロースを含む。
【0018】
いくつかの実施形態において、セルロースフィブリルのアスペクト比は約20~約500である。
【0019】
いくつかの実施形態において、セルロースフィブリルの幅は約20nm~約30μmである。
【0020】
いくつかの実施形態において、セルロースフィブリルの長さは約1μm~約2,000μmである。
【0021】
いくつかの実施形態において、セルロースフィブリルは補修モルタルの約0.05vol.%~約5vol.%を構成する。
【0022】
いくつかの実施形態において、セルロースフィブリルは補修モルタルの約0.1vol.%を構成する。
【0023】
いくつかの実施形態において、セルロースフィブリルの表面積は約80m2/gである。他の実施形態において、セルロースフィブリルの表面積は60~100m2/gであり得る。
【0024】
いくつかの実施形態において、セルロースフィブリルの保水値(WRV)は約2~約5である。
【0025】
いくつかの実施形態において、セルロースフィブリルの密度は約1,300kg/m3~約1,500kg/m3である。
【0026】
いくつかの実施形態において、セルロースフィブリルの粘度は約1,000mL/g~約5,000mL/gである。
【0027】
いくつかの実施形態において、セメントバインダーは、アルミナセメント、高炉セメント、アルミン酸カルシウムセメント、I型ポルトランドセメント、IA型ポルトランドセメント、II型ポルトランドセメント、IIA型ポルトランドセメント、III型ポルトランドセメント、IIIA型ポルトランドセメント、IV型ポルトランドセメント、V型ポルトランドセメント、水硬性セメント(例えば、白色セメント、灰色セメント、混合水硬性セメント、IS型ポルトランド高炉スラグセメント、IP型及びP型ポルトランドポゾランセメント、ならびにI(SM)型スラグ改良ポルトランドセメント)、GU型混合水硬性セメント、HE型早強セメント、MS型中耐硫酸塩セメント、HS型高耐硫酸塩セメント、MH型中庸熱セメント、LH型低熱セメント、K型膨張性セメント、O型膨張性セメント、M型膨張性セメント、S型膨張性セメント、超速硬(regulated set)セメント、超早強セメント、高鉄(high iron)セメント、ならびに油井セメントのうちの1つ以上を含む。
【0028】
いくつかの実施形態において、セメントバインダーは補修モルタルの約20vol.%~約22vol.%を構成する。
【0029】
いくつかの実施形態において、補修モルタルの水:セメントバインダーの比率は約0.2~約0.6である。
【0030】
いくつかの実施形態において、セメントバインダーは、フィラー、化学混和剤、及び保水剤のうちの1つ以上を含む。
【0031】
いくつかの実施形態において、フィラーは、砂、炭酸カルシウム、石灰石、砕石、及び砂利のうちの1つ以上を含む。
【0032】
いくつかの実施形態において、フィラーは補修モルタルの約45vol.%~約55vol.%を構成する。
【0033】
いくつかの実施形態において、化学混和剤は、空気連行剤、遅延剤、促進剤、可塑剤、ポリマー、腐食防止剤、アルカリシリカ反応性抑制剤、結合剤、着色剤、消泡剤、消臭剤、及び乾式分散剤のうちの1つ以上を含む。
【0034】
いくつかの実施形態において、化学的混和剤は補修モルタルの約0.03vol.%~約0.3vol.%を構成する。
【0035】
いくつかの実施形態において、保水剤はコポリマーを含む。
【0036】
いくつかの実施形態において、コポリマーは、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)、ウェランガム、及びキサンタンガムのうちの1つ以上を含む。
【0037】
いくつかの実施形態において、保水剤は補修モルタルの約0vol.%~約0.08vol.%を構成する。
【0038】
本発明の別の態様は、補修モルタルを調製する方法を提供する。当該方法は、セメントバインダーを水及び化学的混和剤と混合してワーカブルなセメント性材料を得ることと、次いでプレミックスされたセメント性材料にセルロースフィブリルスラリーを加えることとを含む。いくつかの実施形態において、セルロースフィブリルスラリーをワーカブルなセメント性材料と混合することは、ワーカブルなセメント性材料全体にセルロースフィブリルを均一に分散させることを含む。
【0039】
本発明の別の態様は、補修モルタルを調製する方法を提供する。当該方法は、セメントバインダーを水/化学混和剤と混合して、ワーカブルなセメント性材料を得ることと、セルロースフィブリルをワーカブルなセメント性材料と混合することとを含む。いくつかの実施形態において、セルロースフィブリルをワーカブルなセメント性材料と混合することは、ワーカブルなセメント性材料全体にセルロースフィブリルを均一に分散させることを含む。
【0040】
本発明の別の態様は、補修モルタルを調製する方法を提供する。当該方法は、セメントバインダーをセルロースフィブリルと混合して、セメントバインダー全体にセルロースフィブリルを均一に分散させることと、セメントバインダー及びセルロースフィブリルを水/化学混和剤と混合して、コンシステンシーが非常に良好な補修モルタルを得ることとを含む。
【0041】
いくつかの実施形態において、セルロースフィブリルは、ナノフィブリル化セルロース及び/またはマイクロフィブリル化セルロースを含む。
【0042】
いくつかの実施形態において、セルロースフィブリルのアスペクト比は約20~約500である。
【0043】
いくつかの実施形態において、セルロースフィブリルの幅は約20nm~約30μmである。
【0044】
いくつかの実施形態において、セルロースフィブリルの長さは約1μm~約2,000μmである。
【0045】
いくつかの実施形態において、セルロースフィブリルは補修モルタルの約0.05vol.%~約5vol.%を構成する。
【0046】
いくつかの実施形態において、セルロースフィブリルは補修モルタルの約0.1vol.%を構成する。
【0047】
いくつかの実施形態において、セルロースフィブリルの表面積は約80m2/gである。他の実施形態において、セルロースフィブリルの表面積は60~100m2/gであり得る。
【0048】
いくつかの実施形態において、セルロースフィブリルの保水値(WRV)は約2~約5である。
【0049】
いくつかの実施形態において、セルロースフィブリルの密度は約1,300kg/m3~約1,500kg/m3である。
【0050】
いくつかの実施形態において、セルロースフィブリルの粘度は約1,000mL/g~約5,000mL/gである。
【0051】
いくつかの実施形態において、セメントバインダーは、アルミナセメント、高炉セメント、アルミン酸カルシウムセメント、I型ポルトランドセメント、IA型ポルトランドセメント、II型ポルトランドセメント、IIA型ポルトランドセメント、III型ポルトランドセメント、IIIA型ポルトランドセメント、IV型ポルトランドセメント、V型ポルトランドセメント、水硬性セメント(例えば、白色セメント、灰色セメント、混合水硬性セメント、IS型ポルトランド高炉スラグセメント、IP型及びP型ポルトランドポゾランセメント、ならびにI(SM)型スラグ改良ポルトランドセメント)、GU型混合水硬性セメント、HE型早強セメント、MS型中耐硫酸塩セメント、HS型高耐硫酸塩セメント、MH型中庸熱セメント、LH型低熱セメント、K型膨張性セメント、O型膨張性セメント、M型膨張性セメント、S型膨張性セメント、超速硬(regulated set)セメント、超早強セメント、高鉄(high iron)セメント、ならびに油井セメントのうちの1つ以上を含む。
【0052】
いくつかの実施形態において、セメントバインダーは補修モルタルの約20vol.%~約22vol.%を構成する。
【0053】
いくつかの実施形態において、補修モルタルの水:セメントバインダーの比率は約0.2~約0.6である。
【0054】
いくつかの実施形態において、当該方法はさらに、フィラー、化学混和剤、及び保水剤のうちの1つ以上を、セメントバインダー及びワーカブルなセメント性材料のうちの1つ以上と混合することを含む。
【0055】
いくつかの実施形態において、当該方法はさらに、フィラー、化学混和剤、及び保水剤のうちの1つ以上を第3の液体と混合して液体混合物を得ることと、液体混合物を、ワーカブルなセメント性材料及びセルロースフィブリルスラリーのうちの1つ以上に加えることとを含む。
【0056】
いくつかの実施形態において、フィラーは、砂、炭酸カルシウム、石灰石、砕石、及び砂利のうちの1つ以上を含む。
【0057】
いくつかの実施形態において、フィラーは補修モルタルの約45vol.%~約55vol.%を構成する。
【0058】
いくつかの実施形態において、化学混和剤は、空気連行剤、遅延剤、促進剤、可塑剤、ポリマー、腐食防止剤、アルカリシリカ反応性抑制剤、結合剤、着色剤、消泡剤、消臭剤、及び乾式分散剤のうちの1つ以上を含む。
【0059】
いくつかの実施形態において、化学的混和剤は補修モルタルの約0.03vol.%~約0.3vol.%を構成する。
【0060】
いくつかの実施形態において、保水剤はコポリマーを含む。
【0061】
いくつかの実施形態において、コポリマーは、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)、ウェランガム、及びキサンタンガムのうちの1つ以上を含む。
【0062】
いくつかの実施形態において、保水剤は補修モルタルの約0vol.%~約0.08vol.%を構成する。
【0063】
本発明の別の態様は、コンクリート基材を補修する方法を提供する。当該方法は、セメントバインダーと、細骨材と、セルロースフィブリルとを含む補修モルタルをコンクリート基材の表面に塗布することを含む。
【0064】
いくつかの実施形態において、当該方法はさらに、コンクリート基材の表面を前処理することを含む。
【0065】
本発明の別の態様は、クラックが入ったコンクリート材料及び/または劣化したコンクリート材料を補修するための、セメントバインダーと、細骨材と、セルロースフィブリルとを含む補修モルタルの使用を提供する。
【0066】
いくつかの実施形態において、補修モルタルの使用は、コンクリート材料中の1つ以上の空洞または孔隙を埋めることである。
【0067】
本発明の別の態様は、補修モルタルを調製するためのキットであって、セルロースフィブリルの第1の容器と、細骨材及びセメントバインダーの第2の容器とを含む、キットを提供する。
【0068】
上記の例示的な態様及び実施形態に加えて、図面を参照し、以下の詳細な説明を検討することによってさらなる態様及び実施形態が明らかになるであろう。
【0069】
例示的な実施形態は、図面の参照図に示されている。本明細書で開示される実施形態及び図面は、限定ではなく例示とみなされるように意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【
図1】セルロースの繰返し単位(n)の化学構造である。
【
図2】本発明の実施形態例に従う補修モルタルを調製する方法を示すフローチャートである。
【
図3】非フィブリル化パルプ繊維(左)及びセルロースフィブリル(右)の水和領域を示す図である。
【
図4】コンクリート基材のハーフシリンダー及びセメントベース補修モルタルのハーフシリンダーで構成されたシリンダーの側面断面図である。
【
図5】セルロースフィブリルありまたはなしのスチール繊維補強コンクリート基材のハーフシリンダー及びセメントベース補修モルタルのハーフシリンダーで構成されたシリンダーで行った斜め剪断試験の結果を示すグラフである。
【
図6】セルロースフィブリルありまたはなしの無補強コンクリート基材のハーフシリンダー及びセメントベース補修モルタルのハーフシリンダーで構成されたシリンダーで行った斜め剪断試験の結果を示すグラフである。
【
図7】
図5で試験したシリンダー純圧縮の画像である。
【
図8】
図6で試験したシリンダー純圧縮の画像である。
【
図9】セルロースフィブリルありまたはなしのスチール補強コンクリート基材のハーフシリンダー及びセメントベース補修モルタルのハーフシリンダーで構成されたシリンダーで行った斜め剪断試験の結果を示すグラフであり、コンクリート基材の表面は前処理されていない。
【
図10】セルロースフィブリルありまたはなしの無補強コンクリート基材のハーフシリンダー及びセメントベース補修モルタルのハーフシリンダーで構成されたシリンダーで行った斜め剪断試験の結果を示すグラフであり、コンクリート基材の表面は前処理されていない。
【
図11】
図9で試験したシリンダー純圧縮の画像である。
【
図13(a)】30%コンシステンシーの漂白クラフトパルプの多段階精製から得られたCMFの画像であり、マイクロ~ナノサイズ分布を有し、フィブリルの幅は80nm~500nm、長さは100μm~800μmである。
【
図13(b)】13mm真鍮でコーティングしたスチールマイクロファイバーの画像である。
【
図13(c)】50mmフックエンドスチール繊維の画像である。
【
図14(a)】腐食試験用シリンダーの断面図である。
【
図14(b)】
図14(a)に示された腐食試験用シリンダーの上面透視図である。
【
図16(a)】腐食試験用シリンダー試験片の画像である。
【
図16(b)】基準補修モルタルで覆われた分割した腐食試験用シリンダー試験片の画像である。
【
図16(c)】本発明の1つの実施形態に従う補修モルタルで覆われた分割した腐食試験用シリンダー試験片の画像である。
【
図17】コンクリート基材が無補強試験シリンダーで行った腐食試験中の腐食電流を示すグラフである。
【
図18】コンクリート基材がスチール繊維で補強された試験シリンダーで行った腐食試験中の腐食電流を示すグラフである。
【
図19】試験シリンダーで行った腐食試験中のクラックまでの時間を示すグラフである。
【
図20】試験シリンダーで行った腐食試験中の経時的なクラック幅を示すグラフである。
【
図21】試験シリンダーで行った腐食試験中の腐食速度を示すグラフである。
【
図22】試験シリンダーで行った腐食試験の前後の引抜力を示すグラフである。
【
図23(a)】腐食試験用プリズムの断面図である。
【
図23(b)】
図23(a)に示された腐食試験用プリズムの上面透視図である。
【
図24(a)】腐食試験用プリズム試験片の画像である。
【
図24(b)】15V試験後の基準補修モルタルで覆われた分割した腐食試験用プリズム試験片の画像である。
【
図24(c)】15V試験後の本発明の実施形態に従う補修モルタルで覆われた分割した腐食試験用プリズム試験片の画像である。
【
図24(d)】25V試験後の基準補修モルタルで覆われた分割した腐食試験用プリズム試験片の画像である。
【
図24(e)】25V試験後の本発明の実施形態に従う補修モルタルで覆われた分割した腐食試験用プリズム試験片の画像である。
【
図25】7.5Vで試験プリズムで行った腐食試験中の腐食電流を示すグラフである。
【
図26】15Vで試験プリズムで行った腐食試験中の腐食電流を示すグラフである。
【
図27】25Vで試験プリズムで行った腐食試験中の腐食電流を示すグラフである。
【
図28】試験プリズムで行った腐食試験中のクラックまでの時間を示すグラフである。
【
図29】試験プリズムで行った腐食試験中の腐食速度を示すグラフである。
【
図30】試験プリズムで行った腐食試験の前後の引抜力を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0071】
以下の説明全体にわたり、当業者がより深く理解できるように、具体的な詳細を述べる。ただし、周知の要素については、本開示を不必要に不明瞭にすることを回避するため、詳細に示されまたは述べられていない場合がある。したがって、本明細書及び図面は、限定的ではなく例示的なものとみなされるべきである。
【0072】
文脈による別段の定めがない限り、「コンクリート」(本明細書で使用する場合)は、バインダー(例えば、セメントなど)、1つ以上のフィラー(例えば、砂、炭酸カルシウム、石灰石粗骨材など)、及び液体(例えば、水など)の混合物から作製される建築材料を指す。混合物に保水剤を加えてもよい。
【0073】
文脈による別段の定めがない限り、「コンクリート基材」(本明細書で使用する場合)とは、補修モルタルを接着させる固まって硬化した(すなわち、ワーカブルでない)コンクリートを指す。
【0074】
文脈による別段の定めがない限り、「補修モルタル」(本明細書で使用する場合)とは、クラックが入った及び/または劣化したコンクリート基材を補修するための、及び/または劣化したコンクリート基材の空隙を埋めるための、コンクリート基材を覆う構築物を指す。
【0075】
文脈による別段の定めがない限り、「パルプ繊維」(本明細書で使用する場合)とは、非フィブリル化セルロース系繊維、ヘミセルロース系繊維、及びリグノセルロース系繊維を指す。
【0076】
文脈による別段の定めがない限り、「セルロース」(本明細書で使用する場合)とは、いずれも1~4位でβ結合したグルコースユニットの鎖を含む炭水化物ポリマーを指す。セルロースの構造を
図1に示す。
【0077】
文脈による別段の定めがない限り、「セルロース系材料」(本明細書で使用する場合)には、限定されるものではないが、広葉樹、針葉樹、農業材料(例えば、限定されるものではないが、小麦のわら、大麦のわら、及びトウモロコシの茎を含めた農作物の残物、ならびに綿、麻、亜麻、ジュート、及びサイザルを含めた繊維材料)、藻類セルロース、海洋植物セルロースのうちの1つ以上に由来するセルロース繊維、ヘミセルロース繊維、リグノセルロース繊維、パルプ繊維、クラフト繊維、サーモメカニカルパルプ(TMP)繊維、ならびに限定されるものではないが、1つ以上の派生的なパルプ繊維(限定されるものではないが、機械、サーモメカニカル、ケミサーモメカニカル、ケミカル、リサイクル、及びオルガノソルブパルプのうちの1つ以上を含む)を含めたこれらの派生物のうちの1つ以上が含まれる。
【0078】
文脈による別段の定めがない限り、「セルロースフィブリル(単数または複数)」または「CMF」(本明細書で使用する場合)とは、セルロース系材料の質量の少なくとも約25%をナノスケール及び/またはマイクロスケールのフィブリル化領域に変換してフィブリル化されたセルロース系材料を指す。特定の実施形態において、セルロースフィブリルには、限定されるものではないが、ナノフィブリル化セルロース(セルロースナノフィブリルとしても知られている)及び/またはマイクロフィブリル化セルロース(セルロースマイクロフィブリルとしても知られている)が含まれる。ある特定の実施形態において、セルロースフィブリルは、直鎖状セルロースフィブリルと分枝状セルロースフィブリルとの混合物から構成されている。ある特定の実施形態において、セルロースフィブリルは、フィブリルが疎性かつ個別である形態をとる。このような実施形態において、セルロースフィブリルは分散性であり、一緒に凝集/角化/結合していない。
【0079】
文脈による別段の定めがない限り、「ワーカブル」(本明細書で使用する場合)とは、混合直後のコンクリートまたは混合直後のセメントベース複合材(例えば、セメントベース補修モルタル)の物理的特性を指す。フレッシュコンクリート(または他のフレッシュセメントベース複合材)は、容易に混合、打設、及び/または圧縮することができる場合、ワーカブルであるとされる。コンクリート(または他のセメントベース複合材)は、分離(すなわち、均質性の喪失)なしに混合、打設、圧縮ができない場合、ワーカブルでないとされる。
【0080】
文脈による別段の定めがない限り、「疎水性」(本明細書で使用する場合)とは、水をはじく能力及び/または水と混ざらない能力を指す。
【0081】
文脈による別段の定めがない限り、「親水性」(本明細書で使用する場合)は、水を引き寄せる能力及び/または水と混ざる能力を指す。
【0082】
文脈による別段の定めがない限り、「ポリマー」(本明細書で使用する場合)とは、モノマーと呼ばれる小さな分子の重合によって形成された分子または巨大分子を指し、多くの場合、ただし常にではないが、繰返し構造からなる形態をとる。
【0083】
文脈による別段の定めがない限り、「体積パーセント」(vol.%)(本明細書で使用する場合)とは、混合物の総体積(vtot)に対する1つの物質の体積(v1)の比率を指し、以下のように定義される。
体積パーセント=v1/vtot×100%
補修モルタルにおける「vol.%」とは、上で定義したように、混合物の全乾燥体積(vtot)に対する1つの物質の乾燥体積(v1)の比率を指す。
【0084】
文脈による別段の定めがない限り、「重量パーセント」(wt%)(本明細書で使用する場合)とは、混合物中のバインダーの総質量(mtot)に対する1つの物質の質量(m1)の比率を指し、以下のように定義される。
重量パーセント=m1/mtot×100%
補修モルタルにおけるwt%とは、上で定義したように、混合物中のバインダーの総乾燥質量(mtot)に対する1つの物質の乾燥質量(m1)の比率を指す。
【0085】
文脈による別段の定めがない限り、「表面積」(本明細書で使用する場合)は、平方単位で表される物体の露出面積の測定値を指す。
【0086】
文脈による別段の定めがない限り、「アスペクト比」(本明細書で使用する場合)とは、長さ及び幅の寸法におけるセルロースフィブリルのサイズの比率を指し、以下のように定義される。
アスペクト比=長さ/幅
【0087】
文脈による別段の定めがない限り、「保水力」(または「WRV」)(本明細書で使用する場合)とは、セルロースフィブリルが水を保持する能力の尺度を指す。WRV値は、乾燥セルロースフィブリルの質量に対する湿潤セルロースフィブリルの液体質量の比率に等しく、以下のように定義される。
WRV=m液体/m乾燥
【0088】
文脈による別段の定めがない限り、「スラリー」(本明細書で使用する場合)とは、半液体の混合物を指す。混合物はコロイド状であってもよい。
【0089】
文脈による別段の定めがない限り、「内部相対湿度」(本明細書で使用する場合)とは、所与の温度及び圧力において補修モルタルの孔隙が保持することができる液体及び/または液体蒸気の最大量に対する、補修モルタルの孔隙内の液体及び/または液体蒸気の量の相対的な比率を指す。
【0090】
文脈による別段の定めがない限り、「骨材」(本明細書で使用する場合)とは、セメントベース複合材で使用される特定のフィラー材料を指す。骨材の例としては、(限定されるものではないが)砂、砂利、砕石、再生コンクリート、ジオシンセティック骨材が挙げられる。典型的には、粗骨材の直径は約5mm~約20mmである。いくつかの実施形態において、細骨材(砂)の直径は約5mm未満である。いくつかの実施形態において、砂利の直径は約10mm以下である。
【0091】
文脈による別段の定めがない限り、「約」(本明細書で使用する場合)とは、記載値の付近(すなわち、記載値の±5%以内)を意味する。
【0092】
いくつかの実施形態は、補修モルタルオーバーレイとコンクリート基材との間の適合性を強化し、それによって補修モルタルと基材との間の界面結合強度を強化することができる補修モルタルを提供する。補修モルタルはセルロースフィブリルで強化されている。いくつかの実施形態において、セルロースフィブリルは、補修モルタルの低い体積分率(例えば、約0.05vol.%~約5vol.%のセルロースフィブリル)に相当する。時間、エネルギー、及びコストがかかる基材の前処理は、補修モルタルを使用することにより、補修の品質及び/または補修モルタルと基材との間の界面結合強度を損なわずに回避することができる。補修材の早期層間剥離が低減または解消し、補修したコンクリート基材の長期耐久性及び/または性能が改善する。
【0093】
いくつかの研究がセルロースのナノ及びマイクロファイバーをセメントベース材料に加えることの利点を調べている(Nilsson and Sargenius,2011;Mejdoub et al.,2016;Onuaguluchi et al.,2014;Hisseine et al.,2018;Balea 2019)が、これらの研究はセルロース繊維を加えることでセメントベース材料の多孔性が低下することを示している。多孔性が低いと、強度及び弾性率は高められるが、基材との寸法適合性が欠如し容易に剥離するため、補修モルタルとしては不十分なものとなる(Emmons et al.1993)。それにもかかわらず、本発明者らは、セルロースフィブリルを本明細書に記載のセメントベース補修モルタルに加えることにより、これらの欠点が驚くほど軽減されると判断した。これは、本開示の他の箇所に記載の理由に加えて、少なくとも部分的な理由として、本発明のセメントベース補修モルタルと、鉄筋を含むコンクリート基材との間に予想外の電気化学的適合性があることによる。いかなる理論にも拘束されるものではないが、本発明者らは、予想外の強化された電気化学的適合性が、少なくとも、本明細書に記載の特定の寸法範囲、加えるセルロースフィブリルの表面積、及び/または特定のアスペクト比を有するセルロースフィブリルの割合に起因するものと考えている。
【0094】
本明細書に記載の補修モルタルは、セルロースフィブリルとセメントバインダーとの乾燥混合物またはスラリーを含む。いくつかの実施形態において、乾燥セルロースフィブリル及び乾燥セメントバインダーは、一緒にまたは別々に得られ、液体と合わせて補修モルタルを形成する。セルロースフィブリルは、様々なサイズのセルロースフィブリルの不均一な混合物として得られる。いくつかの実施形態において、セルロースフィブリルは、従来から知られているような非フィブリル化セルロース材料に高い剪断力を適用して非フィブリル化セルロース繊維を引き離すことによって調製される。非フィブリル化セルロース材料に適用されるエネルギー及びフィブリル化の方法が、フィブリル化の程度を決定する。例えば、非フィブリル化セルロース繊維の低エネルギーフィブリル化により、最初にセルロースナノフィブリル及び/またはセルロースマイクロフィブリルの断片化されたシート及び/または他の凝集物が形成される。高エネルギーフィブリル化により、単一化されたセルロースナノフィブリル及び/またはセルロースマイクロフィブリルが形成される。
【0095】
本明細書に記載のセルロースフィブリルは、補修モルタルのコンクリート基材との適合性を強化し、補修モルタルと基材との間の界面結合強度を強化する。いかなる理論にも拘束されるものではないが、本発明者らは、本明細書に記載のセルロースフィブリルのアスペクト比が適合性の強化に寄与すると考えている。いくつかの実施形態において、セルロースフィブリルのサイズ分布は広範であり、幅約20nm~約30μm及び/または長さ約1μm~約2,000μm、あるいは幅約80nm~約500nm及び長さ約100μm~約800μmを範囲とする。いくつかの実施形態において、セルロースフィブリルのアスペクト比は約20~約500である。いくつかの実施形態において、セルロースフィブリルの少なくとも95%のアスペクト比は少なくとも50である。
【0096】
いくつかの実施形態において、セルロースフィブリルの表面積は、セメントベース補修モルタルの強化または補強に従来から使用されているパルプ繊維の表面積よりも大きい。いくつかの実施形態において、セルロースフィブリルの表面積は、ブルナウアー‐エメット‐テラー(BET)表面積定量による測定で約80m2/gである。他の実施形態において、表面積は60~100m2/gの範囲内とすることができる。
【0097】
補修モルタルが必要とするセルロースフィブリルのvol.%は比較的小さいものに過ぎない。いくつかの実施形態において、補修モルタルは約0.05vol.%~約5vol.%のセルロースフィブリルを含む。いくつかの実施形態において、補修モルタルは約0.1vol.%のセルロースフィブリルを含む。
【0098】
いくつかの実施形態において、アスペクト比とセルロースフィブリルの表面積及び/または濃度との組合せが、補修モルタルのコンクリート基材に対する適合性強化に寄与する。
【0099】
いくつかの実施形態において、セルロースフィブリルのWRV及び/または表面積が、補修モルタルのコンクリート基材に対する適合性強化に寄与する。いくつかの実施形態において、セルロースフィブリルのWRVは、セメントベース補修モルタルの強化または補強に従来から使用されているパルプ繊維のWRVよりも大きい。いくつかの実施形態において、セルロースフィブリルのWRVは、約2(すなわち、2g水/g乾燥)~約5(すなわち、5g水/g乾燥)の範囲である。
【0100】
いくつかの実施形態において、セルロースフィブリルの粘度は約1000mL/g~約5000mL/gである。
【0101】
いくつかの実施形態において、セルロースフィブリルの密度は、約1300kg/m3~約1500kg/m3の範囲内にある。
【0102】
セメントバインダーは、任意のセメントもしくはセメントの混合物、または混合セメントとして従来から知られている補助的なセメント性材料を含み得る。水硬性セメントバインダーの具体例としては、(限定されるものではないが)アルミナセメント、高炉セメント、アルミン酸カルシウムセメント、米国材料試験協会(ASTM)指定I型ポルトランドセメント、ASTM指定IA型ポルトランドセメント、ASTM指定II型ポルトランドセメント、ASTM指定IIA型ポルトランドセメント、ASTM指定III型ポルトランドセメント、ASTM指定のIIIA型ポルトランドセメント、ASTM指定IV型ポルトランドセメント、ASTM指定V型ポルトランドセメント、水硬性セメント(例えば、白色セメント、灰色セメント、混合水硬性セメント、ASTM指定IS型高炉スラグセメント、ASTM指定IP型及びP型ポルトランドポゾランセメント、ASTM指定I(SM)型スラグ改良ポルトランドセメント)、ASTM指定GU型混合水硬性セメント、ASTM指定HE型早強セメント、ASTM指定MS型中耐硫酸塩セメント、ASTM指定HS型高耐硫酸性セメント、ASTM指定MH型中庸熱セメント、ASTM指定LH型低熱セメント、ASTM指定K型膨張性セメント、ASTM指定O型膨張性セメント、ASTM指定M型膨張性セメント、ASTM指定S型膨張性セメント、超速硬(regulated set)セメント、超早強セメント、高鉄(high iron)セメント、ならびに油井セメントが挙げられる。
【0103】
いくつかの実施形態において、補修モルタルの水:セメントバインダーの比率は約0.2~約0.6である。いくつかの実施形態において、補修モルタルの水:セメントバインダーの比率は約0.4~約0.6である。従来のコンクリートの水:セメントバインダーの比率は約0.4~約0.6である。従来の高性能コンクリートの水とセメントバインダーの比率は約0.2~約0.3である。水:セメントの比率が低ければ、典型的にはコンクリートの強度は高くなる。
【0104】
いくつかの実施形態において、補修モルタルは約20vol.%~約22vol.%のセメントバインダーを含む。
【0105】
いくつかの実施形態において、補修モルタルはさらに、1つ以上のフィラー及び/または化学的混和剤を含む。フィラーの例としては、(限定されるものではないが)砂、炭酸カルシウム、石灰石、砕石、砂利、及び骨材が挙げられる。化学混和剤の例としては、(限定されるものではないが)空気連行剤、遅延剤、促進剤(例えば、触媒、塩化カルシウム、ギ酸カルシウム)、可塑剤、ポリマー、腐食防止剤、アルカリシリカ反応性抑制剤、結合剤、着色剤、消泡剤、消臭剤(例えば、香料)、乾式分散剤(すなわち、液体と混和したときの乾式材料の流動性及び湿潤性を改善するもの)が挙げられる。
【0106】
いくつかの実施形態において、補修モルタルは約45vol.%~約55vol.%の1つ以上のフィラーを含む。いくつかの実施形態において、補修モルタルは約0.03vol.%~約0.3vol%の1つ以上の化学混和剤を含む。いくつかの実施形態において、補修モルタルは約45vol.%~約55vol.%の砂を含む。いくつかの実施形態において、補修モルタルは約3.5vol.%~約10vol.%のシリカフュームを含む。
【0107】
セルロースフィブリルのWRVのため、本明細書に記載の補修モルタルが保水剤を必要としない場合がある。しかし、いくつかの実施形態において、本明細書に記載の補修モルタルは、1つ以上の保水剤(増粘剤または粘度改質混和剤としても知られている)を含む。保水剤の例としては、(限定されるものではないが)高分子量コポリマー(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)、ウェランガム、及びキサンタンガムなど)が挙げられる。いくつかの実施形態において、補修モルタルは、0wt%の1つ以上の保水剤を含む。いくつかの実施形態において、補修モルタルは、0wt%~約0.08wt%の1つ以上の保水剤を含む。いくつかの実施形態において、補修モルタルは約0.03wt%~約0.08wt%の1つ以上の保水剤を含む。
【0108】
本発明の例示的な実施形態に従う補修モルタル70を得る方法100を
図2に示す。ステップ110において、セメントバインダー10を液体20(例えば、水)と混合してワーカブルなセメント性材料30を得る。いくつかの実施形態において、1つ以上のフィラー及び/または化学混和剤及び/または保水剤40は、乾燥状態または液体状態のセメントバインダー10と混合してもよい。例えば、任意選択のステップ120で、1つ以上のフィラー及び/または化学混和剤及び/または保水剤40は、乾燥した状態で乾燥セメントバインダーと混合してもよい。1つ以上のフィラー及び/または化学混和剤及び/または保水剤40は、任意選択のステップ130で、乾燥状態でワーカブルなセメント性材料30と混合してもよい。1つ以上のフィラー及び/または化学混和剤及び/または保水剤40は、ステップ150で液体25(例えば水)と個別にまたはまとめて混合し、得られた液体混合物(複数可)をステップ140でワーカブルなセメント性材料30に加えてもよい。乾燥セメントバインダーは、代替的に、ステップ180で、1つ以上のフィラー及び/または化学混和剤及び/または保水剤の液体混合物に加えて、ワーカブルなセメント性材料30を得ることができる。
【0109】
セルロースフィブリル50は、ステップ160でワーカブルなセメント性材料30と混合する。いくつかの実施形態において、セルロースフィブリル50は、液体60(例えば、水)と混合してフィブリルを分散させる。次いで、分散させたセルロースフィブリルスラリーを、ステップ160でワーカブルなセメント性材料30に加えて混合して、セルロースフィブリル強化セメントベース補修モルタル70を得る。いくつかの実施形態において、乾燥セルロースフィブリル50は、ステップ170でワーカブルなセメント性材料と混合する。いくつかの実施形態において、乾燥セルロースフィブリル50は、ステップ190で、乾燥セメントバインダー10、乾燥フィラー(複数可)及び/または化学混和剤(複数可)及び/または保水剤(複数可)40のうちの1つ以上と混合する。いくつかの実施形態(図示せず)において、乾燥セルロースフィブリル50及び/または分散させたセルロースフィブリルスラリーを、フィラー(複数可)、化学混和剤(複数可)、及び保水剤(複数可)のうちの1つ以上の液体混合物と混合する。いくつかの実施形態において、パンミキサー及び/またはドラムミキサーを使用して、様々な構成要素を液体20に入れて混合する。
【0110】
補修モルタル70を混合する方法は、補修モルタル全体のセルロースフィブリルの分散に影響を及ぼし得る。例えば、十分に混合したセルロースフィブリル50の水性懸濁液を、十分に混合したワーカブルなセメント性材料30に加えることで、補修モルタル全体にセルロースフィブリル50が均一に分散する。いくつかの実施形態において、乾燥セルロースフィブリルは、ワーカブルなセメント性材料30(乾燥フィラー(複数可)及び/または化学添加剤(複数可)及び/または保水剤(複数可)を含むまたは含まない)と十分に混合する。いくつかの実施形態において、乾燥セルロースフィブリルは、乾燥セメントバインダー10及び/または乾燥フィラー(複数可)及び/または化学添加剤(複数可)及び/または保水剤(複数可)40と十分に混合する。
【0111】
いくつかの実施形態において、補修モルタル70は、クラックが入ったまたは劣化したコンクリート基材を補修するために、及び/または多孔質コンクリート基材の細孔を埋めるために使用される。コンクリート基材は、補強されていても補強されていなくてもよい。例えば、コンクリート基材は、スチール繊維及び/またはスチール補強棒(すなわち、鉄筋)で補強されてもよい。いくつかの実施形態において、補修対象のコンクリート基材の表面を前処理する。例えば、補修対象のコンクリート基材の表面を、液体(例えば、水)で少なくとも部分的に飽和させてもよく、及び/または粉塵及び/または細片を除去してもよい。いくつかの実施形態において、補修モルタル70を塗布する前に、コンクリート基材の表面をスカリファイ及び/または目粗しによって前処理する。セルロースフィブリルをワーカブルなセメント性材料に加えることができるため、新たな装置及び/または既存装置に対する変更は不要である。
【0112】
図3は、従来パルプ繊維300の水和領域310及びセルロースフィブリル320の水和領域330を示している。セルロースフィブリルの水和領域は、従来パルプ繊維の水和領域に比べて数桁大きく、そのため本明細書に記載の補修モルタルの内部硬化領域が増加する。セルロースフィブリルは、補修モルタルの内部硬化面積を数桁増加させるため、本明細書に記載のセルロースフィブリル強化補修モルタルは、従来の非フィブリル化パルプ繊維強化セメントベース補修モルタルと比較して、補修モルタル-コンクリート基材界面の接着強度を劇的に改善する。
【0113】
セルロースフィブリルの保水特性及び脱着特性により、セルロースフィブリルは、セメント硬化中に水分を調節することができ、セメント水和が引き起こす初期の自己収縮の問題を低減及び/または防止する。セルロースフィブリルが液体を保持することで、補修モルタルの内部相対湿度が維持される。したがって、通常、セルロースフィブリルの不在下では補修モルタルの露出面にブリーディングし蒸発する液体が、セルロースフィブリルによって保持され、徐々に脱着する。ブリーディングの低減により、初期体積変化に誘導されるマイクロクラックが最小限に抑えられ、及び/または防止される。セルロースフィブリルは、補修モルタルマトリックス全体に水を均一に分布させ、硬化中のセメント粒子の水和を維持する。セルロースフィブリルは、硬化中、補修モルタルのマトリックス全体に均一に分布したまま保たれ、これは、非フィブリル化パルプ繊維強化セメントベース補修モルタルのパルプ繊維と比較して、沈降及び/またはブリーディングの低減を示すものである。理論に拘束されるものではないが、このブリーディングの低減は、ワーカブルなセルロースフィブリル強化補修モルタル中の遊離水の量の低減に起因する可能性が推測される。本明細書に記載のセルロースフィブリル強化補修モルタルの体積変化の低減及び/または内部相対湿度の維持及び/またはセメント粒子水和の増加は、補修モルタル-コンクリート基材界面での結合強度を強化し、及び/または初期の収縮によって誘導されるマイクロクラックを低減する。
【0114】
いくつかの実施形態において、セルロースフィブリル強化セメントベース補修モルタルの凝結/硬化期間は、従来のセメントベースモルタルの凝結/硬化期間と同様である。
【実施例】
【0115】
実施例1
米国試験材料協会(「ASTM」)C882(2013)の斜め剪断試験を使用して、例示的セルロースフィブリル強化補修モルタルの補修モルタル-コンクリート基材界面における接着強度を評価した。セメントベース補修モルタル及びコンクリート基材のハーフシリンダーを含む75mm×280mmのシリンダー試験片を4個用意し、試験を行った。例示的試験片200の長手方向断面の図を
図4に示す。例示的シリンダー試験片200は、コンクリート基材ハーフシリンダー210及びセメントベース補修モルタルハーフシリンダー220を含む。各試験片の補修モルタル及びコンクリート基材の組成を表1に示す。セメントバインダーを細骨材及び水と混合して、ワーカブルなセメント性材料を得た。この試験で使用したセルロースフィブリルは、30%コンシステンシーにおける漂白クラフトパルプの多段階精製によって生成されたものである。精製後、得られたセルロースフィラメントを水に完全に再分散させた後、最終脱水して約10%コンシステンシーとした。セルロースフィブリルは、ナノ幅/マイクロ長のサイズ分布を有する材料である。いくつかの実施形態において、サイズ分布は幅80~500nm、長さ100~800μmであり、表面積は約80m
2/gである。このセルロースフィブリルスラリーをワーカブルなセメント性材料と混合して、ワーカブルなセメント性材料全体にセルロースフィブリルを実質的に均一に分散させた。補修モルタルと基材との間の不適合(すなわち、剛性不適合)を低減または解消するため、補修モルタルの剛性が基材の剛性に実質的に対応するように補修モルタルの組成を選択した。当業者であれば、補修モルタル/基材の剛性が補修モルタル/基材の組成の関数であることを理解するであろう。
【表1-1】
【表1-2】
【0116】
各試験片を用意するため、ハーフシリンダーコンクリート基材を混合し、型枠にキャストし、ポリエチレンシートで24時間覆った。各コンクリート基材を2層で圧縮した(すなわち、ハーフシリンダー型枠にフレッシュコンクリート基材混合物を半分充填し、振動台を用いて振動させて、捕捉された空気を除去し、フレッシュコンクリート基材混合物を充填し、次いで再び振動させた)。脱型後、ハーフシリンダーをASTM C192/C192M-18「Standard Practice for Making and Curing Concrete Test Specimens in Laboratory」に従って23℃、95%相対湿度(RH)で14日間、養生室で湿潤養生した。コンクリート基材ハーフシリンダーの楕円形接触面に、テンプレート制御による表面目粗しの前処理を行った。テンプレート制御による表面目粗しは、確実に基材の粗さが均一になるようにする簡便な前処理方法である。コンクリート基材を打設する前に、7.5mm×1.4mmの開口部を有する多孔スチール板を型枠インサートに取り付けることで、キャスト及び脱型の作業後の基材表面に均一に分布した突起を作出した。次いで、既に湿潤養生したコンクリート基材を洗浄し、再び型枠に挿入した。各コンクリート基材に補修モルタルを塗布し、上記のように補修モルタルを2層で圧縮した。試験片をポリエチレンシートで24時間覆い、(上記のように)石灰水中で23℃、95% RHで6日間湿潤養生した。試験片にそれぞれ、400,000ポンドの容量を有するBaldwin Tate-Emry圧縮強度試験機(Baldwin Lima Hamilton Corporation(Ohio,USA)製)を用いて、0.24MPa/sの荷重速度下で純圧縮試験を行った(すなわち、接着面(すなわち、基材-補修モルタル界面)に沿って破損が観察されるまで、各試験片に圧縮力を適用した)。全ての試験片において、補修モルタル-コンクリート基材界面で破損が生じた。
【0117】
方程式(1)~(3)を用いて、試験中に発生する異なる応力を計算した。
【数1】
式中、σ
vは、結合面に沿って破壊をもたらすために必要な適用される垂直応力であり、P
vは最大適用破損荷重であり、τ及びσ
nはそれぞれ結合面に作用する剪断応力及び法線応力であり、I
αはコンクリート基材試験片の界面結合表面積である。ASTM C882(2013)は、I
αを0.7854ab(a及びbは楕円形結合面の2つの軸の長さである)にすることを推奨している。
【0118】
スチール補強コンクリート基材及び制御された結合領域表面目粗しを用いた試験片(すなわち、表1に示した混合1及び2)の斜め剪断試験結果を
図5に示す。無補強コンクリート及び制御された結合領域表面目粗しを用いた試験片の斜め剪断試験結果を
図6に示す。試験片のセメントベース補修モルタルは、0.1vol.%のセルロースフィブリルで強化した(斜線のバー)か、または強化しなかった(黒色のバー)。セルロースフィブリル強化セメントベース補修モルタルを含む試験片は、非強化試験片と比較して界面結合強度の改善が明らかである。0.5%スチール繊維強化試験片における相対的な接着強度の強化パーセントは約20.7%に過ぎないものの、無補強セルロースフィブリル強化試験片では約43%強化された。典型的には、補修モルタルの無制限の非線形変形が発生する傾向は、無補強基材の場合により高くなる。したがって、セルロースフィブリル強化試験片の接着強度の改善は、試験片がスチール繊維補強を伴わない場合に強調されている。
【0119】
純圧縮試験後の試験片の画像を
図7及び8に示す。ハーフシリンダー試験片のうちの1つが破損したため、8つのハーフシリンダー試験片(すなわち、4つのシリンダー試験片)を用意したにもかかわらず、
図7には7つの試料しか示されていない。
図7の試験片は、表1に示した混合2の組成を含む。
図8の試験片は、表1に示した混合1の組成を含む。
図8に示すセルロースフィブリル強化試験片で観察されたより大きな程度の表面スカリファイは、セルロースフィブリル強化セメントベース補修モルタルが基準補修モルタル(すなわち、セルロースフィブリルなし)よりもコンパクトな補修モルタル-基材界面結合を生成することを示唆している。
【0120】
コンクリート基材表面の前処理を行わない場合にセルロースフィブリルが補修モルタル/コンクリート基材界面間の結合強度に及ぼす影響を評価するため、斜め剪断試験も実施した。セメントベース補修モルタル及びコンクリート基材のハーフシリンダーを含む75mm×280mmのシリンダー試験片を4個用意し、試験を行った。各試験片の補修モルタル及びコンクリート基材の組成を表2に示す。セメントバインダーを水と混合し、ワーカブルなセメント性材料を得た。セルロースフィブリルを水と混合して、セルロースフィブリルスラリーを得た。このセルロースフィブリルスラリーをワーカブルなセメント性材料と混合して、ワーカブルなセメント性材料全体にセルロースフィブリルを実質的に均一に分散させた。斜め剪断試験の結果を
図9及び
図10に示す。試験片のセメントベース補修モルタルは、0.1vol.%のセルロースフィブリルで強化した(斜線のバー)か、または強化しなかった(黒色のバー)。
【表2-1】
【表2-2】
【0121】
補強コンクリート基材試験片の場合(
図9)、表面を前処理した非強化試験片(
図5)と比較して、未処理の非強化試験片では接着強度のわずかな低下が観察された。未処理の0.50%繊維補強基材を非強化補修モルタルで覆った場合と比較して、セルロースフィブリル強化補修モルタル-0.50%繊維強化基材複合材の剪断接着強度は約56%増加した。(
図9)無補強コンクリート基材の試験片(
図10)については、未処理セルロースフィブリル強化試験片では、接着強度が未処理非強化試験片と比較して約63%増加することが観察された(
図10)。目粗しを行った(つまり前処理した)表面は、典型的には、補修モルタルとコンクリート基材との間の機械的結合を強化するように機能するため、未処理の(つまり平滑な)試験片の場合は結合強度が低減することが予想される。したがって、セルロースフィブリル強化試験片による接着強度の強化が観察された理由は不明である。理論に拘束されるものではないが、平滑なコンクリート基材の表面の場合、補修モルタル-基材界面に均一に分布するセルロースフィブリルによって水和が維持されることが推測される。
【0122】
純圧縮試験後の試験片(すなわち、表2に記載された混合3及び4)の画像を
図11及び12に示す。
図11の試験片は、表2に示した混合4の組成を含む。
図12の試験片は、表2に示した混合3の組成を含む。
図12に示すセルロースフィブリル強化試験片で観察されたより大きな程度の表面スカリファイは、セルロースフィブリル強化補修モルタルが基準補修モルタル(すなわち、セルロースフィブリルなし)よりもコンパクトな補修モルタル-基材界面結合を生成することを示唆している。
【0123】
スチール繊維強化コンクリート基材を非強化補修モルタルで覆い、テンプレート制御による表面目粗し前処理を行った場合の斜め剪断試験結果と比較して、繊維強化基材を組み込んだセルロースフィブリル強化複合材では、剪断接着強度が約21%増加することが観察された(
図5)。無補強コンクリート基材を非強化補修モルタルで覆い、テンプレート制御による表面目粗しの前処理を行った試験片の斜め剪断試験結果と比較して、対応するセルロースフィブリル強化試験片では、斜め剪断接着強度が約43%増加することが観察された(
図6)。セルロースフィブリルが界面結合強度に及ぼす影響は、コンクリート基材表面の前処理がない試験片(すなわち、平滑な表面のコンクリート基材)においてなお一層明らかである。未処理のスチール繊維補強コンクリート基材を非強化補修モルタルで覆った試験片の斜め剪断試験結果と比較して、セルロースフィブリル強化試験片では、斜め剪断接着強度が約56%増加することが観察された(
図9)。未処理の無補強コンクリート基材を非強化補修モルタルで覆った試験片の斜め剪断試験結果と比較して、セルロースフィブリル強化試験片では、斜め剪断接着強度が約63%増加することが観察された(
図10)。したがって、界面結合強度は、セルロースフィブリルを含むセメントベース補修モルタルによって強化される。
【0124】
実施例2
非強化及びセルロースフィブリル強化補修モルタルオーバーレイがスチール鉄筋の腐食に及ぼす効果を評価した。具体的には、補修複合材の2つのタイプの鉄筋配置、すなわち、コンクリート基材/補修モルタルオーバーレイに完全に封入されたスチール鉄筋、及び基材-オーバーレイ界面に直接配置されたスチール鉄筋におけるスチール補強腐食リスクについて検討した。スチール鉄筋の腐食性能は、腐食電流、試験片の初期クラック形成時間、表面クラック幅の進展、腐食速度、及び腐食した補強棒の残存引抜力の測定によってモニタリングした。
【0125】
普通ポルトランドセメント(OPC)、天然砂、細骨材及び12mmサイズの砕石粗骨材(それぞれ比重が2.65と2.70のもの)を使用した。この試験で使用したセルロースフィブリルは、30%コンシステンシーにおける漂白クラフトパルプの多段階精製によって生成されたものである。精製後、得られたセルロースフィラメントを水に完全に再分散させた後、最終脱水して約10%コンシステンシーとした。セルロースフィブリルは、ナノ幅/マイクロ長のサイズ分布を有する材料である。いくつかの実施形態において、サイズ分布は幅80~500nm、長さ100~800μmであり、表面積は約80m
2/gである。10Mの変形カーボンスチール鉄筋及び13mmの真鍮コーティングスチールマイクロファイバー(Dramix OL 13/0.20)を使用した。混合物調製に利用した他の材料は、Darex II空気連行混和剤(AEA)及びADVA CAST 575高性能減水混和剤(HRWR)である。本試験で利用したセルロースフィブリル及びスチールファイバーの画像的説明を
図13(a)~13(b)に示す。
【0126】
コンクリート基材と補修モルタルオーバーレイとの間の弾性率の不一致、及び補修モルタル混合物中のセルロースフィブリルの分散不良を最小限に抑えるため、異なるクラスのコンクリート及び補修モルタル混合物のトライアルバッチを用意し、評価した。予備結果に基づき、基材用の0.45の水-セメント(w/c)比のコンクリート及び0.40のw/c比の補修モルタルオーバーレイ混合物からなる2種類の混合物を表1に示す混合割合で調製し、本試験で使用した。一部の基材は無補強であり、他の基材は0.50%のスチール繊維で補強した。非強化及びセルロースフィブリル強化補修モルタルの混合物をそれぞれ0%及び0.1%の体積分率で補強した。混合物間で公平な比較を行うために、混合設計にセルロースフィブリルスラリーの含水率を反映させることにより、混合物のw/c比を一定に保った。全ての試験において、補修モルタルオーバーレイは、基材をキャストしてから24時間後に打設した。その後、温度23℃、95±5% RHで複合材試験片をさらに13日間湿潤養生した後、関連試験を実施した。
【表3】
【0127】
鉄筋の加速腐食試験を行った。無補強及び0.5%スチール繊維コンクリート基材を非強化及びセルロースフィブリル強化補修モルタルで覆った場合のスチール補強の腐食防止について評価した。2セットの試験片に対し試験を行った。
図14(a)及び14(b)は、第1の腐食試験片セット(100mm×200mmの複合材シリンダー)に対する典型的な説明を示し、一方、第2の試験片セット(200mm×100mm×50mmのプリズムを接着したもの)についての説明は
図23(a)及び23(b)に示されている。検討対象の各補修基材-オーバーレイタイプについて、3つの試験片を試験した。
【0128】
腐食していない変形した(リブのある)スチール補強棒を基材に埋め込む前に、酢酸溶液を用いて補強物を十分に洗浄し、初期質量を定量した。キャストから24時間後、基材にオーバーレイを打設した。次いで、脱型した複合材をさらに13日間湿潤養生した。第1のセットのシリンダー試験片は、5% NaCl水溶液の容器に半分の高さまで部分的に浸漬し、25Vの印加電圧を適用して14日間腐食プロセスを加速した。一方、異なる腐食の程度が、コンクリート基材-補修モルタルオーバーレイ界面に直接配置されたスチール補強棒の性能に及ぼす影響を評価するため、7.5V、15V、及び25Vの可変印加電圧を使用して、プリズム試験片をそれぞれ21日、14日、8日の試験期間で試験した。
図15は、加速腐食試験のセットアップを示している。
各試験片について、試験中にクラックの開始が目視により観察されたら、腐食に誘導されたクラック幅の伝播のモニタリングを開始した。高解像度デジタルカメラで試料の縦方向クラックの画像を試験期間終了まで毎日撮影した。その後、これらの画像をオープンソースの画像解析ソフトウェアを用いて処理した。加速腐食試験の終了時、抽出した補強物をワイヤーブラシで洗浄した後、酢酸水溶液中で24時間放置した。その後、補強物に再度ブラシをかけ、乾燥させ、85psiの圧力を用いて穏やかにサンドブラストをかけ、秤量した。全ての補強棒に同じ洗浄技法を使用した。補強棒の実際の質量損失を用いて、各補修システムにおける鉄筋腐食速度を方程式6:ASTM G1-03(2017)を用いて計算した。
【数2】
式中、CRは1年当たりの腐食速度(mm)であり、Δmは質量損失(グラム)であり、Aは腐食に曝露された鉄筋の表面積(cm2)であり、ρはスチール鉄筋の密度(g/cm3)であり、Tは曝露時間(時間)である。
【0129】
図16(a)~16(c)は、腐食試験後のシリンダー試験片の典型的な画像概要を示している。試験した全ての試験片において、スチール鉄筋腐食に誘導された試験片のクラックが、埋め込まれたスチール鉄筋の近傍で縦方向に生じた。同様に、分割した試験片で観察された腐食残物(酸化物)は、セルロースフィブリル強化補修モルタルを組み込んだ試験片(
図16(c))の方が、CMFを組み込んでいない試験片(
図16(b))よりも概して少なかった。
【0130】
プレーン基材-補修モルタルオーバーレイ複合材及びスチール繊維強化基材-補修モルタルオーバーレイ複合材における平均スチール鉄筋腐食電流を、それぞれ
図17及び
図18に示す。
図17から、セルロースフィブリル強化補修モルタルを組み込んだ複合材シリンダーにおいて腐食活性が低下していることが相当に明らかである。
図17は、プレーン基材を非強化またはセルロースフィブリル強化補修モルタルで覆った両方のセットの初期電流は約0.1Aであったことを示しているが、補強棒に酸化層が形成されるにつれ、腐食電流は、錆層からの膨張応力によって鉄筋-マトリックス界面でマイクロクラックが生じるまで減少した。非強化補修モルタルで調製した補修複合材と比較して、セルロースフィブリル強化補修モルタルで調製した補修システムでは、マトリックスのクラックならびに結果として生じる試験用液の流入の増加及び腐食電流の増加がゆっくりであった。逆に、
図18では、スチール繊維強化基材-補修モルタルオーバーレイ試験片においてわずかに異なる傾向が示されている。第一に、基材にスチール繊維を加えることで、試験片の初期腐食電流が増加した。電流の増加は、基材中にランダムに分散している真鍮コーティングマイクロファイバーにおける基材の導電性を強化する能力に起因する。いずれの補修試験片セットにおいても、プレーン基材-補修モルタルオーバーレイ複合材と比較して腐食活性が急速であったが、セルロースフィブリル強化補修モルタルをオーバーレイ材料として使用した複合材の場合は、試験片の劣化が深刻でないように思われる。
【0131】
シリンダー複合材試験片において、腐食スチール棒と隣接マトリックスとの界面付近でマイクロクラックが発生するまでの時間を
図19に示す。
図19に示された結果は、プレーン基材及びスチール繊維強化基材の両方において、非強化補修モルタルをオーバーレイとして調製した複合材試験片でマイクロクラックがより早く生じたことを示している。また、
図19からは、真鍮コーティングスチールマイクロファイバーを基材に加えると、2セットの補修複合材でクラック開始が促進され、その影響は非強化補修モルタルオーバーレイの方が深刻であったことも明らかである。
【0132】
図20は、シリンダー複合材試験片の表面クラック幅の進展を示している。スチール繊維は試験片の導電性を高めることで初期クラックが発生しやすくなるが、このような繊維のクラックブリッジ能力が、試験片のクラック幅の伝播を最小限に抑える助けとなった。したがって、2セットの補修複合材において、試験終了時の平均最大クラック幅は、非強化基材で調製した複合材試験片で観察されたものと比較して小さいものであった。
図20からの最も重要な推論は、非強化補修モルタルオーバーレイと比較して、セルロースフィブリル強化補修モルタルオーバーレイを使用すると、クラック幅が約31~37.5%低減したことである。セルロースフィブリル強化補修モルタルを組み込んだ複合材試験片で観察されたこのクラック制御の改善は、2つの要因に起因している。第一に、試験片に発生した鉄筋腐食副産物の量が低減し、最終的にはクラックを伝播する膨張圧力の低下につながったことである。第二に、非強化補修モルタルオーバーレイと比較して、セルロースフィブリル強化補修モルタルオーバーレイと基材との間の結合がより改善され、基材がクラックの入ったオーバーレイの動きを軽減した可能性がある。
【0133】
実際の腐食に誘導された鉄筋の質量損失を用いて、2セットの補修複合材における鉄筋腐食速度を計算し、
図21に示した。セルロースフィブリル強化補修モルタルを使用すると、とりわけ非強化基材で調製した複合材において、複合材のスチール補強物の腐食速度がわずかに低減した。加速腐食試験の前後に行った鉄筋引抜の結果を
図22に示す。
図22から得られた第一の知見は、基材にスチール繊維を加えることで強化される極限引抜力はわずかであるものの、スチール繊維の影響は、スチール補強棒が部分的に劣化した後により顕在化するというものである。一方、セルロースフィブリル強化補修モルタルがもたらす優れた閉じ込めにより、腐食したスチール棒及び腐食していないスチール棒の両方において、非強化補修モルタルよりも優れた引抜性能が得られた。
【0134】
15V及び25V加速腐食試験後の腐食試験プリズム(非補強基材-補修モルタルオーバーレイ)のいくつかの画像を
図24(a)~24(e)に示す。
図24(a)~24(c)は15V腐食試験の結果を示し、
図24(d)及び24(e)は25V腐食試験の結果を示している。
図24(a)は、基材-オーバーレイ界面に腐食副産物が蓄積すると、最終的には経時的に補修不良になることを裏付けている。また、
図24(b)及び24(c)からは、セルロースフィブリル強化補修モルタルをオーバーレイとして組み込んだプリズムではスチール鉄筋の腐食がやや低減したことも明らかである。ただし、
図24(d)及び24(e)は、腐食速度が著しく増加するにつれて、セルロースフィブリル強化補修モルタルの使用から生じる利点が減弱されることを示している。これは、高い印加電圧、鉄筋の腐食速度の増加、及び副産物の蓄積によって、セルロースフィブリル強化補修モルタルオーバーレイによって生み出されるマトリックスの輸送/透過性及び接着強度の利点が部分的に不明瞭になることを考慮すれば理解可能である。
【0135】
スチール補強棒をプレーンコンクリート基材と補修モルタルオーバーレイとの間に挟んだ補修複合材で測定した平均腐食電流を
図25及び26に示す。
図25は、7.5Vの印加電圧で非常に低レベルの鉄筋腐食が誘導されたにもかかわらず、それでも非強化補修モルタルとセルロースフィブリル強化補修モルタルとの間でわずかな性能の差が認識できることを示しており、後者の方がわずかに低い腐食電流を示している。ただし、試験プリズムに発生する腐食が非常に少なかったため、21日後でも試験片にクラックは入らなかった。逆に、印加電圧を15Vに上げた場合において、
図26は、2セットの補修材の反応の明らかな差を強調している。非強化補修モルタルで覆った試験片は、より早くクラックが入っただけでなく、クラック開口及び電流の進展もより速くなった。また、
図27においても、印加電圧を25Vに上げた場合に同様の傾向が強調された。ただし、25Vを使用して腐食プロセスを加速すると、多大な腐食速度が誘発され、セルロースフィブリル強化補修モルタルオーバーレイによるスチール鉄筋保護の有効性が部分的に損なわれた。それにもかかわらず、
図27からは、オーバーレイをセルロースフィブリル強化補修モルタルで作製した場合、基材-補修オーバーレイ界面に配置されたスチール補強棒の腐食性能がより良好であることが非常に明らかである。
【0136】
試験プリズムに初期マイクロクラックが生じるのに必要な平均時間を
図28に示す。7.5Vの印加電圧を使用した場合は試験片にクラックが生じず、一方、15Vの印加電圧の場合のクラック発生時間は、プレーン基材-非強化補修モルタルオーバーレイで229時間、プレーン基材-セルロースフィブリル強化補修モルタルオーバーレイで237時間であった。印加電圧をさらに25Vに増加させるとマイクロクラックを急速に発展させたものの、15V試験と同様の傾向も観察された。25V加速試験におけるマイクロクラック発生時間は、基材-非強化補修モルタルオーバーレイで82時間、基材-セルロースフィブリル強化補修モルタルオーバーレイで89時間であった。これらの結果を同じ25V印加で試験したシリンダー補修複合材の結果と比較すると、プリズム複合材の方が早く破損が開始したことが明らかである。これは、シリンダー試験片のスチール鉄筋がコンクリート基材及び補修モルタルオーバーレイによって完全に封入されていたのに対し、プリズム試験片の場合には、スチール鉄筋が基材-オーバーレイ界面に位置することにより、試験溶液及び酸素へのアクセスが容易になることを考慮すれば意外なことではない。さらに、基材/オーバーレイマトリックスと比較すると、腐食副産物からの膨張応力が基材-オーバーレイ結合強度を超えた際に、界面がより大きく広がる傾向がある。
【0137】
図29は、各試験の終了時に記録した実際の質量損失から計算したスチール鉄筋の腐食速度を示しており、予想されたように、セルロースフィブリル強化補修モルタルをオーバーレイとして組み込んだ補修複合材の腐食速度は低かった。15V加速腐食試験においては、腐食速度は、非強化補修モルタル複合材と比較して、5.4mm/年から1.8mm/年に減少した。ただし、25V試験においては、腐食速度は急激に増加し、基材-非強化補修モルタルオーバーレイでは約20mm/年、基材-セルロースフィブリル強化補修モルタルオーバーレイでは13.0mm/年となった。これらの結果から主に推測されるのは、軽度または中レベルの腐食に関しては、セルロースフィブリル強化補修モルタルが、スチール補強棒の劣化及び全般的腐食の発生を最小限に抑えるのに相当に有効であることである。
【0138】
残存鉄筋引抜力の結果を
図30に示す。この図は、腐食レベルが高くなるにつれて鉄筋引抜抵抗が概して減少することを示している。これは、鉄筋腐食の程度が高いほど、鉄筋断面の損失及びスチール鉄筋に隣接する脆い錆の堆積が増加することを考慮すれば、予想されることである。したがって、鉄筋の機械的抵抗及び摩擦抵抗が低減し、さらに、基材-オーバーレイ界面で層間剥離が増加した結果、低い引抜き抵抗が観察されたことになる。上記にかかわらず、評価した全ての腐食レベルにおいて、セルロースフィブリル強化補修モルタルオーバーレイを組み込んだ複合材の残存鉄筋引抜力は、非強化補修モルタルで調製した複合材よりも優れていた。
【0139】
補修モルタルオーバーレイでさらなる封入を行う前の、無補強またはスチール繊維補強コンクリートシリンダーに埋め込まれたスチール補強棒における結果は、セルロースフィブリル強化補修モルタルが塩化物の進入及び鉄筋腐食に対して優れた抵抗性をもたらすことを示した。したがって、セルロースフィブリル強化補修モルタルを組み込んだ試験片は、非強化補修モルタルで調製した試験片と比較して、補修複合材のマイクロクラック発生が遅延しただけでなく、平均クラック幅及び腐食速度も低減した。
【0140】
真鍮コーティングスチールマイクロファイバーを基材に加えると、検討対象の2組の補修複合材でクラック開始が促進されたが、この悪影響は、繊維強化基材-非強化補修モルタル複合材の場合により深刻であった。しかし、このスチールマイクロファイバーは、クラック幅の伝播及び試験液の進入を低減するのに有効なだけではなく、補修複合材の鉄筋腐食速度も低減した。さらに、スチール補強棒に腐食に誘導された断面損失が発生した後には、スチール繊維が鉄筋の引抜抵抗に及ぼすプラスの影響がより明確になった。
【0141】
基材-オーバーレイ界面に配置された補強棒については、基材-オーバーレイ界面での腐食副産物の蓄積が、最終的には経時的に補修不良につながることが裏付けられた。しかし、試験結果は同様に、セルロースフィブリル強化補修モルタルをオーバーレイ材料として使用することで、鉄筋腐食に対する優れた保護が得られることを示した。セルロースフィブリル強化補修モルタルによって得られる前述の保護強化は、軽度または中レベルの腐食活性においてより有効であった。
【0142】
腐食プロセスを加速する上で使用する印加電圧を7.5~25Vに増加すると、腐食した鉄筋の引抜抵抗が概して減少するという事実にもかかわらず、セルロースフィブリル強化補修モルタルを組み込んだ複合材の残存腐食鉄筋の引抜力は、対応する非強化基準補修モルタルで覆った基材の引抜力よりも良好であった。
【0143】
多数の例示的な態様及び実施形態を上記で論じてきたが、当業者であれば、これらのある特定の変更、並べ替え、追加、及びサブコンビネーションを認識するであろう。そのため、以下の添付の請求項及び今後導入される請求項は、全体としての本明細書の最も広い解釈と一致するような全ての変更、並べ替え、追加、及びサブコンビネーションを含むように解釈されることが意図されている。
【0144】
用語の解釈
文脈上明らかに他の意味が要求されない限り、本明細書及び請求項全体において、
・「~を含む(comprise)」、「~を含む(comprising)」などは、排他的または網羅的な意味ではなく、包括的な意味で解釈するものとし、すなわち、「限定されるものではないが、~を含む」という意味で解釈するものとする。
・本明細書を説明するために使用する場合、「本明細書中で」、「上記」、「下記」、及び同様の趣旨の語は、本明細書の任意の特定の部分ではなく、全体としての本明細書を指すものとする。
・「または」は、2つ以上の項目のリストに言及する場合、以下の単語の解釈全てを網羅する:リスト内の項目のいずれか、リスト内の項目の全て、及びリスト内の項目の任意の組合せ。
・単数形「a」、「an」、及び「the」には任意の適切な複数形の意味も含まれる。
【0145】
上記で構成要素(例えば、基材、アセンブリ、デバイス、マニフォールドなど)が言及される場合、別段の指示がない限り、その構成要素への言及(「手段」への言及を含む)は、記載された構成要素の機能を果たす(すなわち、機能的に等価である)任意の構成要素(本明細書に記載の示された例示的な実施形態において機能を果たす開示された構造と構造的に等価でない構成要素を含む)をその構成要素の等価物として含むものと解釈されるべきである。
【0146】
システム、方法、及び装置の具体例について、例示の目的で本明細書で説明してきた。これらは例に過ぎない。本明細書に示す技術は、上記の例示的システム以外にも適用することができる。本発明の実施内において多くの変更、修正、追加、省略、及び並べ替えが可能である。本発明は、当業者には明らかと考えられる記載された実施形態のバリエーションを含み、これには、以下によって得られるバリエーションが含まれる:特徴、要素、及び/または行為を同等の特徴、要素、及び/または行為で置き換えること、異なる実施形態の特徴、要素、及び/または行為を混ぜて適合させること、本明細書に記載の実施形態の特徴、要素、及び/または行為を他の技術の特徴、要素、及び/または行為と組み合わせること、及び/または記載された実施形態の特徴、要素、及び/または行為の組合せを省略すること。
【0147】
そのため、以下の添付の請求項及び今後導入される請求項は、合理的に推測される全てのそのような変更、並べ替え、追加、省略、及びサブコンビネーションを含むように解釈されることが意図されている。請求項の範囲は、実施例に記載の好ましい実施形態によって限定されるべきではなく、全体としての説明と一致する最も広い解釈がなされるべきである。