(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】全固体電池用電極
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20241217BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20241217BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20241217BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20241217BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20241217BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/36 C
H01M4/62 Z
H01M10/052
H01M10/0562
(21)【出願番号】P 2022116808
(22)【出願日】2022-07-22
【審査請求日】2023-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 正博
(72)【発明者】
【氏名】橋本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 出
(72)【発明者】
【氏名】杉本 裕太
【審査官】森 透
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-161364(JP,A)
【文献】国際公開第2021/187391(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/004397(WO,A1)
【文献】特開2018-137222(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13
H01M 4/36
H01M 10/0562
H01M 10/052
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
100質量部の複合粒子と、
0.05~0.103質量部のイミダゾリン系化合物と
を含み、
前記複合粒子は、コア粒子と被覆層とを含み、
前記被覆層は、前記コア粒子の表面の少なくとも一部を被覆しており、
前記コア粒子は、活物質を含み、
前記被覆層は、フッ化物固体電解質を含
み、
前記コア粒子の比表面積に対する、前記複合粒子の比表面積の比は、1.50~1.80である、
全固体電池用電極。
【請求項2】
10~100質量部の硫化物固体電解質をさらに含む、
請求項
1に記載の全固体電池用電極。
【請求項3】
前記イミダゾリン系化合物は、式(1):
【化1】
により表され、
前記式(1)中、
R
1は、アルキル基またはヒドロキシアルキル基であり、1~22の炭素数を有し、
R
2は、アルキル基またはアルケニル基であり、10~22の炭素数を有する、
請求項1または請求項2に記載の全固体電池用電極。
【請求項4】
前記フッ化物固体電解質は、式(2):
Li
3-xTi
xAl
1-xF
6 …(2)
により表され、
前記式(2)中、xは0≦x≦1を満たす、
請求項1または請求項2に記載の全固体電池用電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、全固体電池用電極に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2020-161364号公報は、固体電解質層形成用組成物に分散剤を添加することを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
長期使用に伴う抵抗増加を抑えることが求められている。そこで本開示は、抵抗増加率の低減を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
1.全固体電池用電極(以下「電極」と略記され得る。)は、100質量部の複合粒子と、0質量部より多く0.3質量部以下のイミダゾリン系化合物(以下「IM化合物」と略記され得る。)とを含む。複合粒子は、コア粒子と被覆層とを含む。被覆層は、コア粒子の表面の少なくとも一部を被覆している。コア粒子は、活物質を含む。被覆層は、フッ化物固体電解質を含む。
【0006】
本開示の新知見によると、電極中における活物質の分散性が、長期使用に伴う抵抗増加に影響し得る。活物質は、長期使用中、膨張と収縮とを繰り返す。活物質は粒子群である。粒子群が分散せず、粒子群が凝集体を形成することがある。凝集体においては、個々の粒子の体積変化が集積し得る。これにより、凝集体の体積変化が増幅され得る。凝集体の大きな体積変化に、周囲のイオン伝導パスが追随できず、イオン伝導パスが途切れる可能性がある。イオン伝導パスが途切れることにより、抵抗増加が促進されると考えられる。
【0007】
以下、固体電解質(Solid Electrolyte)が「SE」と略記され得る。例えば、フッ化物固体電解質は、「フッ化物SE」と略記され得る。電極の製造過程(スラリー)において、IM化合物は、SEに対して分散剤として作用し得る。本開示の新知見によると、IM化合物は、とりわけフッ化物SEに対して、高い分散性を付与し得る。複合粒子は、フッ化物SEで被覆されている。よって、複合粒子は凝集し難く、電極中によく分散し得る。すなわち、活物質が凝集し難く、電極中によく分散し得る。加えて、フッ化物SEは、例えば酸化物SE(LiNbO3等)に比して、長期使用に伴う反応抵抗の増加が小さい傾向がある。これらの作用の相乗により、抵抗増加率の低減が期待される。
【0008】
ただし、IM化合物の配合量が過大であると、かえって抵抗増加率が高くなる可能性がある。IM化合物が絶縁性であるためと考えられる。そのため、IM化合物の配合量は、上限値(0.3質量部)を有する。
【0009】
2.上記「1」に記載の電極は、例えば100質量部の複合粒子と、0.05~0.1質量部のイミダゾリン系化合物とを含んでいてもよい。抵抗増加率の低減が期待されるためである。なお「M~N」の数値範囲は、特に断りのない限り、上限値および下限値を含む。例えば「0.05~0.1質量部」は、0.05質量部以上0.1質量部以下を示す。
【0010】
3.上記「1」または「2」に記載の電極は、例えば、10~100質量部の硫化物固体電解質をさらに含んでいてもよい。硫化物SEは、電極中にイオン伝導パスを形成し得る。硫化物SEは、高いイオン伝導性を示し得る。
【0011】
4.上記「1」~「3」のいずれか1項に記載の電極において、イミダゾリン系化合物は、例えば、下記式(1)により表されてもよい。
【0012】
【0013】
上記式(1)中、R1は、アルキル基またはヒドロキシアルキル基であり、1~22の炭素数を有する。R2は、アルキル基またはアルケニル基であり、10~22の炭素数を有する。上記式(1)で表されるIM化合物は、フッ化物SEに対して、高い分散性を付与し得る。
【0014】
5.上記「1」~「4」のいずれか1項に記載の電極において、フッ化物固体電解質は、例えば下記式(2)により表されてもよい。
Li3-xTixAl1-xF6 …(2)
上記式(2)中、xは0≦x≦1を満たす。上記式(2)で表されるフッ化物SEは、長期使用に伴う反応抵抗の増加が小さい傾向がある。
【0015】
6.上記「1」~「5」のいずれか1項に記載の電極において、コア粒子の比表面積に対する、複合粒子の比表面積の比は、1.07より大きく3.27以下であってもよい。IM化合物の作用の増大が期待されるためである。
【0016】
以下、本開示の実施形態(以下「本実施形態」と略記され得る。)、および本開示の実施例(以下「本実施例」と略記され得る。)が説明される。ただし、本実施形態および本実施例は、本開示の技術的範囲を限定しない。本実施形態および本実施例は、全ての点で例示である。本実施形態および本実施例は、非制限的である。本開示の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内における全ての変更を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本実施形態における全固体電池の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<全固体電池>
図1は、本実施形態における全固体電池の概念図である。全固体電池200は、発電要素150を含む。全固体電池200は、例えば、外装体(不図示)を含んでいてもよい。外装体が、発電要素150を収納していてもよい。外装体は、例えば、金属箔ラミネートフィルム製のパウチ等であってもよいし、金属製のケース等であってもよい。全固体電池200は、1個の発電要素150を単独で含んでいてもよいし、複数個の発電要素150を含んでいてもよい。複数個の発電要素150は、例えば、直列回路を形成していてもよいし、並列回路を形成していてもよい。
【0019】
発電要素150は、第1電極110とセパレータ層130と第2電極120とを含む。セパレータ層130は、第1電極110と第2電極120との間に介在している。セパレータ層130は、第1電極110を第2電極120から分離している。セパレータ層130は、例えば硫化物SE(後述)等を含んでいてもよい。セパレータ層130は、例えば1~100μmの厚さを有していてもよい。
【0020】
第2電極120は、第1電極110と異なる極性を有する。例えば第1電極110が正極である時、第2電極120は負極である。第1電極110および第2電極120の少なくとも一方は、複合粒子およびIM化合物を含む。以下、第1電極110および第2電極120が「電極」と総称され得る。
【0021】
《電極》
電極は、活物質層を含む。電極は、例えば、基材等をさらに含んでいてもよい。例えば、基材の表面に活物質層が配置されていてもよい。基材は、例えばシート状であってもよい。基材は、例えば、Al箔、Cu箔、Ni箔等を含んでいてもよい。基材は、例えば、5~50μmの厚さを有していてもよい。
【0022】
活物質層は、例えば10~1000μmの厚さを有していてもよい。活物質層は、複合粒子とIM化合物とを含む。すなわち電極は、複合粒子とIM化合物とを含む。活物質層は、補助材をさらに含んでいてもよい。補助材は、例えば、イオン伝導材、電子伝導材、およびバインダからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0023】
(イミダゾリン系化合物)
IM化合物は、フッ化物SEに対して、高い分散性を付与し得る。すなわち、IM化合物は、複合粒子に対して、高い分散性を付与し得る。IM化合物は、イミダゾリン骨格を有する。イミダゾリン骨格は、含窒素複素環構造を含む。イミダゾリン骨格は、イミダゾールから誘導され得る。IM化合物は、例えば、下記式(1)により表されてもよい。
【0024】
【0025】
上記式(1)中、R1は、例えば、アルキル基またはヒドロキシアルキル基であってもよい。R1は、例えば、1~22の炭素数を有していてもよい。ヒドロキシアルキル基において、例えばN(窒素原子)に結合している炭素原子とは反対側の末端の炭素原子にヒドロキシル基が結合していてもよい。R2は、例えば、アルキル基またはアルケニル基であってもよい。R2は、例えば、10~22の炭素数を有していてもよい。アルケニル基において、二重結合の位置および個数は任意である。
【0026】
IM化合物は、例えば、1-ヒドロキシエチル-2-アルケニルイミダゾリン等を含んでいてもよい。活物質層は、1種のイミダゾリン系化合物を単独で含んでいてもよいし、2種以上のイミダゾリン系化合物を含んでいてもよい。例えば、ビックケミー社製「DISPERBYK(登録商標)-109」は、1-ヒドロキシエチル-2-アルケニルイミダゾリンを含む。
【0027】
IM化合物の配合量は、100質量部の複合粒子に対して、0質量部より多く0.3質量部以下である。IM化合物の配合量が0.3質量部を超えると、かえって抵抗増加率が高くなる可能性がある。IM化合物の配合量は、100質量部の複合粒子に対して、例えば、0.05~0.103質量部、0.05~0.1質量部、または0.103~0.2質量部であってもよい。IM化合物の配合量が、100質量部の複合粒子に対して、0.05~0.1質量部である時、抵抗増加率が低い傾向がある。
【0028】
(複合粒子)
複合粒子は、コア粒子と被覆層とを含む。複合粒子のD50は、例えば、1~30μmであってもよい。「D50」は、体積基準の粒度分布において、サイズが小さい方からの頻度の累積が50%に達する粒子径を示す。D50は、レーザ回折式粒度分布測定装置により測定され得る。複合粒子は、任意の形状を有し得る。複合粒子は、例えば、球状、楕円体状、フレーク状、または柱状等であってもよい。なお「粒子」は、粒子群、粉体の意味で使用される場合もある。
【0029】
(被覆層)
被覆層は、コア粒子の表面の少なくとも一部を被覆している。被覆層は、コア粒子の表面の全部を被覆していてもよい。被覆層は、コア粒子の表面の一部を被覆していてもよい。被覆層の厚さは、例えば、5~50nmであってもよい。
【0030】
被覆層は、フッ化物SEを含む。フッ化物SEは、例えば、LiとFとを含んでいてもよい。フッ化物SEは、例えば、Ca、Mg、Al、Y、Ti、およびZrからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0031】
フッ化物SEは、例えば下記式(2)により表されてもよい。
Li3-xTixAl1-xF6 …(2)
上記式(2)中、xは0≦x≦1を満たす。xは、例えば、0.2≦x≦0.8、0.3≦x≦0.7、または0.4≦x≦0.6を満たしていてもよい。
【0032】
(コア粒子)
コア粒子は、複合粒子の基材である。複合粒子は、1個のコア粒子を単独で含んでいてもよい。複合粒子は、複数個のコア粒子を含んでいてもよい。コア粒子は、例えば、二次粒子であってもよい。二次粒子は、一次粒子の集合体である。二次粒子のD50は、例えば1~30μmであってもよい。一次粒子の平均フェレ径は、例えば、0.01~3μmであってもよい。コア粒子は、任意の形状を有し得る。コア粒子は、例えば、球状、楕円体状、フレーク状、または柱状等であってもよい。
【0033】
コア粒子は、活物質を含む。コア粒子は、正極活物質を含んでいてもよい。すなわち電極は、正極であってもよい。正極活物質は、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiMn2O4、Li(NiCoMn)O2、Li(NiCoAl)O2、Li(NiCoMnAl)O2、およびLiFePO4からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。例えば「Li(NiCoMn)O2」における「(NiCoMn)」は、括弧内の組成比の合計が1であることを示す。合計が1である限り、個々の成分量は任意である。
【0034】
正極活物質は、例えば下記式(3)により表されてもよい。
Li1-yNixM1-xO2 …(3)
0.5≦x≦1、-0.5≦y≦0.5
上記式(3)中、Mは、例えば、Co、MnおよびAlからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。xは、例えば、0.6以上であってもよいし、0.7以上であってもよいし、0.8以上であってもよいし、0.9以上であってもよい。
【0035】
コア粒子は、負極活物質を含んでいてもよい。すなわち電極は、負極であってもよい。負極活物質は、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、ソフトカーボン、ハードカーボン、Si、SiOx(0<x<2)、Si基合金、Sn、SnOx(0<x<2)、Li、Li基合金、およびLi4Ti5O12からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0036】
(複合粒子の形成方法)
複合粒子は、任意の方法により形成され得る。例えば、衝撃、圧縮およびせん断からなる群より選択される少なくとも1種の機械的エネルギが、処理対象(活物質およびフッ化物SEの混合物)に付与されることより、複合粒子が形成されてもよい。複合化処理が可能な装置としては、例えば、「ノビルタ」(ホソカワミクロン社製)、「バランスグラン」(フロイント・ターボ社製)等が考えられる。
【0037】
「ノビルタ」は、円筒状のケーシング(容器)と、ロータとを備える。ロータの回転軸は、ケーシングの中心軸と一致する。ケーシング内で、ロータが高速回転することにより、ケーシングの内壁と、ロータとの隙間(クリアランス)において、衝撃、圧縮およびせん断によるエネルギが処理対象に付与され得る。
【0038】
「バランスグラン」は、チョッパと、アジテータスクレーパとを備える。チョッパは、アジテータスクレーパと、同軸上に配置されている。チョッパは、攪拌および対流を促進する。チョッパによる攪拌および対流は、外周側から渦巻状に発生する。アジテータスクレーパは、チョッパとは逆向きに回転する。チョッパは、主にせん断によるエネルギを処理対象に付与し得る。
【0039】
(BET比)
例えば、活物質(コア粒子)に比して、比表面積が増加するように、複合粒子が形成されてよい。「コア粒子の比表面積に対する、複合粒子の比表面積の比」は、「BET比」と略記される。BET比は、例えば、1.07~3.27、1.16~3.27、1.20~3.27、1.50~3.00、1.79~3.00、または1.80~2.50であってもよい。BET比が大きい程、IM化合物の作用が増大しやすい傾向がある。すなわちBET比が大きい時、少ない添加量のIM化合物で、大きな分散効果が期待される。IM化合物の低減により、例えば、初期抵抗の低減等が期待される。例えば、バランスグランによる処理では、ノビルタによる処理に比して、BET比が大きくなりやすい傾向がある。
【0040】
「比表面積」は、単位質量あたりの表面積を示す。比表面積は、比表面積測定装置により測定され得る。例えば、マイクロトラック・ベル社製の比表面積/細孔分布測定装置「製品名 BELSORP MINI」(またはこれと同等製品)が使用されてもよい。測定手順は、例えば次のとおりである。3gの測定試料(粉末)が、測定用試験管に入れられる。測定用試験管が、比表面積測定装置にセットされる。比表面積測定装置において、窒素ガス吸着試験が実施されることにより、吸着等温線が取得される。窒素ガス吸着試験において、吸着温度は77Kであり、吸着相対圧の上限は0.99(P/P0)である。BET法によって、吸着等温線の直線領域が解析されることにより、比表面積が求まる。解析ソフトウエア(例えば「製品名 BELMaster7」等)により、吸着等温線が解析されてもよい。複合粒子の比表面積は、例えば0.5~2m2/gであってもよい。
【0041】
(イオン伝導材)
イオン伝導材は、活物質層内にイオン伝導パスを形成し得る。イオン伝導材は、例えば粒子状であってもよい。イオン伝導材は、例えば0.1~1μmのD50を有していてもよい。イオン伝導材の配合量は、100質量部の複合粒子に対して、例えば10~100質量部であってもよい。
【0042】
イオン伝導材は、例えば、硫化物SE等を含んでいてもよい。電極は、100質量部の複合粒子に対して、例えば10~100質量部の硫化物SEを含んでいてもよい。硫化物SEは、例えば、ガラスセラミックス型であってもよいし、アルジロダイト型であってもよい。硫化物SEは、例えば、Li、P、およびSを含んでいてもよい。硫化物SEは、例えば、LiI-LiBr-Li3PS4、Li2S-SiS2、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Li2S-P2S5、LiI-Li2O-Li2S-P2S5、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5、Li2S-GeS2-P2S5、Li2S-P2S5、Li4P2S6、Li7P3S11、およびLi3PS4からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0043】
例えば、「LiI-LiBr-Li3PS4」は、LiIとLiBrとLi3PS4とが任意のモル比で混合されることにより生成された硫化物SEを示す。例えば、メカノケミカル法により硫化物SEが生成されてもよい。各原料(「LiI」等)の前に数字が付されることにより、モル比が特定されてもよい。例えば、「10LiI-15LiBr-75Li3PS4」は、「LiI/LiBr/Li3PS4=10/15/75(モル比)」で混合されていることを示す。
【0044】
(電子伝導材)
電子伝導材は、活物質層内に電子伝導パスを形成し得る。電子伝導材の配合量は、100質量部の複合粒子に対して、例えば0.1~10質量部であってもよい。電子伝導材は、例えば、アセチレンブラック(AB)、気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ(CNT)およびグラフェンフレーク(GF)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0045】
(バインダ)
バインダは、固体同士を結合し得る。バインダの配合量は、100質量部の複合粒子に対して、例えば0.1~10質量部であってもよい。バインダは、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、およびフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF-HFP)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【実施例】
【0046】
<試料の作製>
《No.1》
(負極用スラリーの作製)
下記材料が準備された。
活物質:Li4Ti5O12
IM化合物:1-ヒドロキシエチル-2-アルケニルイミダゾリン
イオン伝導材:10LiI-15LiBr-75Li3PS4(D50=0.9μm)
電子伝導材:VGCF
バインダ:SBR
分散媒:テトラリン
【0047】
超音波ホモジナイザ(SMT社製「UH-50」)により、活物質、IM化合物、イオン伝導材、電子伝導材、バインダ、および分散媒が混合されることによりスラリーが準備された。固形分の配合比は、「活物質/IM化合物/イオン伝導材/電子伝導材/バインダ=100/1.88/33.6/1.1/0.86(質量比)」であった。スラリーの固形分率は、58%であった。
【0048】
(複合粒子の作製)
フロイント・ターボ社製の「バランスグラン型式BG-25L」が準備された。同装置において、95.4体積部の正極活物質(LiNi0.8Co0.15Al0.05O2)と、4.6体積部のフッ化物SE(Li2.7Ti0.3Al0.7F6)との混合物に対して、複合化処理が施されることにより、複合粒子が形成された。処理条件は次のとおりであった。
【0049】
攪拌速度:1150rpm
処理時間:1時間
【0050】
(正極用スラリーの作製)
下記材料が準備された。
IM化合物:1-ヒドロキシエチル-2-アルケニルイミダゾリン
イオン伝導材:10LiI-15LiBr-75Li3PS4(D50=0.9μm)
電子伝導材:VGCF、AB
バインダ:SBR
分散媒:テトラリン
【0051】
超音波ホモジナイザにより、複合粒子、IM化合物、イオン伝導材、電子伝導材、バインダ、および分散媒が混合されることによりスラリーが準備された。固形分の配合比は、「複合粒子/IM化合物/イオン伝導材/VGCF/AB/バインダ=100/0.05/32.38/3.11/0.308/0.431(質量比)」であった。スラリーの固形分率は、66.5%であった。
【0052】
(セパレータ用スラリーの作製)
下記材料が準備された。
イオン伝導材:LiI-LiBr-Li2S-P2S5(ガラスセラミックス型、D50=2.5μm)
バインダ溶液:溶質 SBR(質量分率 5%)、溶媒 ヘプタン
分散媒:ヘプタン
【0053】
ポリプロピレン製の容器内において、超音波ホモジナイザにより、イオン伝導材とバインダ溶液と分散媒とが、30秒間混合された。混合後、容器が振とう器にセットされた。容器が振とう器により3分間振とうされることにより、スラリーが準備された。
【0054】
(発電要素の作製)
ブレード式アプリケータにより、正極用スラリーが基材(Al箔、厚さ 15μm)の表面に塗工された。塗工後、ホットプレート(設定温度 100℃)上において、スラリーが30分間乾燥されることにより活物質層が形成された。すなわち正極が形成された。
【0055】
ブレード式アプリケータにより、負極用スラリーが基材(Ni箔、厚さ 22μm)の表面に塗工された。塗工後、ホットプレート(設定温度 100℃)上において、スラリーが30分間乾燥されることにより活物質層が形成された。すなわち負極が形成された。負極の目付量は、正極の充電比容量(200mAh/g)に対する、負極の充電比容量の比が、1.0となるように調整された。
【0056】
正極にプレス加工が施された。プレス加工後、ダイコータにより、セパレータ用スラリーが正極の表面に塗工された。塗工後、ホットプレート(設定温度 100℃)上において、スラリーが30分間乾燥されることにより、セパレータ層が形成された。以上より第1ユニットが準備された。ロールプレス装置により、第1ユニットにプレス加工が施された。線圧は、2tоn/cmであった。
【0057】
負極にプレス加工が施された。プレス加工後、ダイコータにより、セパレータ用スラリーが負極の表面に塗工された。塗工後、ホットプレート(設定温度 100℃)上において、スラリーが30分間乾燥されることにより、セパレータ層が形成された。以上より第2ユニットが準備された。ロールプレス装置により、第2ユニットにプレス加工が施された。線圧は、2tоn/cmであった。
【0058】
セパレータ用スラリーが仮支持体(金属箔)の表面に塗工された。塗工後、ホットプレート(設定温度 100℃)上において、スラリーが30分間乾燥されることにより、セパレータ層が形成された。
【0059】
仮支持体上のセパレータ層が、第1ユニットの表面に転写された。打ち抜き加工により、第1ユニットおよび第2ユニットの平面形状が調整された。第1ユニットのセパレータ層と、第2ユニットのセパレータ層とが対面するように、第1ユニットと第2ユニットとが積層された。これにより発電要素が形成された。ロールプレス装置により、発電要素に熱間プレス加工が施された。プレス温度は160℃であった。線圧は2tоn/cmであった。
【0060】
(全固体電池の作製)
外装体(Alラミネートフィルム製のパウチ)が準備された。発電要素が外装体に封入された。拘束部材が準備された。5MPaの圧力が発電要素に加わるように、外装体の外側に拘束部材が取り付けられた。以上より、全固体電池が製造された。
【0061】
《No.2~5》
「正極用スラリーの作製」において、下記表1に示されるように、IM化合物の配合量が変更されることを除いては、No.1と同様に電極および全固体電池が製造された。
【0062】
《No.6》
「複合粒子の作製」において、ホソカワミクロン社製の「ノビルタ型式NOB-MINI」により、複合粒子が形成されることを除いては、No.1と同様に電極および全固体電池が製造された。処理条件は次のとおりであった。
【0063】
ケーシングとロータとの間のクリアランス:2mm
回転数:6100rpm
処理時間:30分
【0064】
<評価>
全固体電池のSOC(State Of Charge)が80%に調整された。恒温槽(設定温度 25℃)内において、46.4Cの時間率で全固体電池が2秒間放電された。放電時の電圧降下量と、電流とから、初期抵抗が求められた。なお「C」は電流の時間率(レート)を表す記号である。1Cの時間率においては、電池の定格容量が1時間で放電される。初期抵抗の測定後、耐久試験が実施された。すなわち、次の条件で高温保存試験が実施された。
【0065】
試験温度:60℃
保存開始時SOC:80%
保存時間:168時間
【0066】
耐久試験後、初期抵抗と同様に、耐久後抵抗が測定された。耐久後抵抗が初期抵抗で除されることにより、抵抗増加率が求められた。
【0067】
【0068】
上記表1において、100質量部の複合粒子に対して、IM化合物の配合量が0質量部より多く0.3質量部以下である範囲において、抵抗増加率が低い傾向がみられる。IM化合物の配合量が0.05~0.1質量部である範囲において、抵抗増加率がいっそう低減する傾向がみられる。
【0069】
【0070】
上記表2において、複合化処理後のBET比が大きい方が、抵抗増加率が低い傾向がみられる。
【符号の説明】
【0071】
110 第1電極、120 第2電極、130 セパレータ層、150 発電要素、200 全固体電池。