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特許7605806ステアリング装置及び安全運転支援システム
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  • 特許-ステアリング装置及び安全運転支援システム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】ステアリング装置及び安全運転支援システム
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20241217BHJP
   B62D 1/06 20060101ALI20241217BHJP
   B60W 50/14 20200101ALI20241217BHJP
   B60W 40/09 20120101ALI20241217BHJP
   B60W 50/12 20120101ALI20241217BHJP
   G01B 7/00 20060101ALI20241217BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20241217BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D1/06
B60W50/14
B60W40/09
B60W50/12
G01B7/00 101C
B62D119:00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022193620
(22)【出願日】2022-12-02
(65)【公開番号】P2024080434
(43)【公開日】2024-06-13
【審査請求日】2023-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】中村 高太郎
【審査官】小原 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-075849(JP,A)
【文献】特開2005-250564(JP,A)
【文献】特開2018-052379(JP,A)
【文献】特表2022-519582(JP,A)
【文献】特開2018-154316(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112339852(CN,A)
【文献】国際公開第2017/168540(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/00 - 1/28
B62D 6/00 - 6/10
B60R 16/00 - 16/08
B60W 40/08 - 50/16
G01B 7/00
H01H 36/00
G01V 3/08
G08G 1/16
B62D 119/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者による車両の操舵操作を受け付けるステアリングハンドルと、
前記ステアリングハンドルに作用するステアリングトルクを検出するトルクセンサと、
前記ステアリングハンドルに設けられた電極部の静電容量を測定する測定装置と、
前記ステアリングハンドルの把持の有無を判定するとともに前記ステアリングハンドルのリム部における把持位置を取得する把持判定装置と、を備えるステアリング装置であって、
前記把持判定装置は、前記測定装置による測定結果に基づいて前記ステアリングハンドルは把持されていると判定した後、前記トルクセンサによるトルク検出値の絶対値が所定のトルク閾値未満である状態が所定の時間閾値を超えて継続した場合、前記ステアリングハンドルは把持されていないと判定し、前記把持位置に基づいて前記トルク閾値及び前記時間閾値の何れか又は両方を変更することを特徴とするステアリング装置。
【請求項2】
請求項に記載のステアリング装置と、
前記把持判定装置と通信可能に接続された制御装置群と、を備えることを特徴とする安全運転支援システム。
【請求項3】
前記制御装置群は、前記把持判定装置による判定結果に基づいて生成した情報を運転者に報知する報知装置を含むことを特徴とする請求項に記載の安全運転支援システム。
【請求項4】
前記報知装置は、前記測定結果に基づいて前記ステアリングハンドルは把持されていないと判定された場合と、前記トルク検出値の絶対値が前記トルク閾値未満である状態が前記時間閾値を超えて継続したことに応じて前記ステアリングハンドルは把持されていないと判定された場合と、で報知態様を変えることを特徴とする請求項に記載の安全運転支援システム。
【請求項5】
前記制御装置群は、前記把持判定装置による判定結果に基づいて運転者の安全運転技能を評価する安全運転技能評価装置を含むことを特徴とする請求項に記載の安全運転支援システム。
【請求項6】
前記制御装置群は、複数の自動運転レベルに応じた自動運転制御を実行する自動運転装置を含み、
前記自動運転装置は、前記把持判定装置による判定結果に基づいて、前記自動運転レベルを変更することを特徴とする請求項に記載の安全運転支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリング装置及び安全運転支援システムに関する。より詳しくは、運転者による操舵操作を受け付けるステアリング装置及び安全運転支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、交通参加者の中でも脆弱な立場にある人々にも配慮した持続可能な輸送システムへのアクセスを提供する取り組みが活発化している。この実現へ向けて、車線維持機能、車線逸脱抑制機能、及び先行車追従機能等の運転支援機能に関する研究開発を通して交通の安全性や利便性をより一層改善する研究開発に注力している。
【0003】
このような運転支援機能を備える車両では、例えば特許文献1に示されたようなセンサ装置によって運転者によるステアリングハンドルの把持の有無を判定し、把持していないと判定した場合には、運転者に対しステアリングハンドルの把持を促したり、実行中の運転支援機能をキャンセルしたりする場合がある。
【0004】
特許文献1に示されたセンサ装置では、ステアリングハンドルに設けられた電極の静電容量の測定値に基づいて、運転者によるステアリングハンドルの把持の有無を判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-203660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで特許文献1に記載のセンサ装置のように、静電容量の測定値に基づいてステアリングハンドルの把持の有無を判定する場合、ステアリングハンドルに静電容量を有する異物(例えば、濡れたタオル、携帯情報端末、及び飲料容器等)が接触していると、運転者がステアリングハンドルを把持していないにも関わらず、把持されていると誤判定してしまうおそれがある。
【0007】
そこで特許文献1に記載のセンサ装置では、静電容量の測定値が所定値以上でありかつ運転者の心拍が検出されなかった場合、ステアリングハンドルに異物が接触していると判定する。しかしながらこの場合、ステアリングハンドルを把持する運転者の心拍を検出する心拍検出装置を設ける必要があり、コストが増加するおそれがある。
【0008】
本発明は、ステアリングハンドルへの異物の接触と運転者の手の接触とを区別しながら運転者によるステアリングハンドルの把持の有無を精度良く判定できるステアリング装置及び安全運転支援システムを提供することを目的としたものであり、ひいては持続可能な輸送システムの発展に寄与することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係るステアリング装置(例えば、後述のステアリング装置1)は、運転者による車両の操舵操作を受け付けるステアリングハンドル(例えば、後述のステアリングハンドル2)と、前記ステアリングハンドルに作用するステアリングトルクを検出するトルクセンサ(例えば、後述のトルクセンサ31)と、前記ステアリングハンドルに設けられた電極部(例えば、後述の電極部60R,60L,60U,60D)の静電容量を測定する測定装置(例えば、後述の測定回路62R,62L,62U,62D)と、前記ステアリングハンドルの把持の有無を判定する把持判定装置(例えば、後述の把持判定装置60)と、を備え、前記把持判定装置は、前記測定装置による測定結果に基づいて前記ステアリングハンドルは把持されていると判定した後、前記トルクセンサによるトルク検出値(例えば、後述の検出値Tr_d)の絶対値が所定のトルク閾値(例えば、後述のトルク閾値Tr_th)未満である状態が所定の時間閾値(例えば、後述の時間閾値T_th)を超えて継続した場合、前記ステアリングハンドルは把持されていないと判定することを特徴とする。
【0010】
(2)この場合、前記把持判定装置は、前記測定結果に基づいて前記ステアリングハンドルの把持位置を取得し、当該把持位置に基づいて前記トルク閾値及び前記時間閾値の何れか又は両方を変更することが好ましい。
【0011】
(3)本発明に係る安全運転支援システムは、前記ステアリング装置と、前記把持判定装置と通信可能に接続された制御装置群(例えば、後述の制御装置群8)と、を備えることを特徴とする。
【0012】
(4)この場合、前記制御装置群は、前記把持判定装置による判定結果に基づいて生成した情報を運転者に報知する報知装置(例えば、後述の報知装置81)を含むことが好ましい。
【0013】
(5)この場合、前記報知装置は、前記測定結果に基づいて前記ステアリングハンドルは把持されていないと判定された場合と、前記トルク検出値の絶対値が前記トルク閾値未満である状態が前記時間閾値を超えて継続したことに応じて前記ステアリングハンドルは把持されていないと判定された場合と、で報知態様を変えることが好ましい。
【0014】
(6)この場合、前記制御装置群は、前記把持判定装置による判定結果に基づいて運転者の安全運転技能を評価する安全運転技能評価装置(例えば、後述の安全運転技能評価装置82)を含むことが好ましい。
【0015】
(7)この場合、前記制御装置群は、複数の自動運転レベルに応じた自動運転制御を実行する自動運転装置(例えば、後述の自動運転装置83)を含み、前記自動運転装置は、前記把持判定装置による判定結果に基づいて、前記自動運転レベルを変更することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
(1)運転者がステアリングハンドルを把持していると、右左折時はもちろん、直進時においても僅かながら間欠的にステアリングトルクが発生する。そこで把持判定装置は、ステアリングハンドルに設けられた電極部の静電容量の測定結果に基づいてステアリングハンドルは把持されていると判定した後、トルクセンサによるトルク検出値の絶対値がトルク閾値未満である状態が時間閾値を超えて継続した場合、すなわち時間閾値にわたり有意なステアリングトルクが検出されなかった場合、ステアリングハンドルに静電容量を有する異物が接触していると判断し、ステアリングハンドルは把持されていないと判定する。よって本発明によれば、ステアリングハンドルへの異物の接触と運転者の手の接触とを区別しながら運転者によるステアリングハンドルの把持の有無を精度良く判定することができ、ひいては持続可能な輸送システムの発展に寄与することができる。また本発明では、上述のように運転者の心拍を検出する必要が無いので、従来よりもコストを低減することができる。
【0017】
(2)運転者がステアリングハンドルを把持しながら運転する場合に発生するステアリングトルクの大きさは、ステアリングハンドルの把持位置によって異なる。よって本発明によれば、ステアリングハンドルの把持位置に基づいてトルク閾値及び時間閾値の何れか又は両方を変更することにより、ステアリングハンドルへの異物の接触と運転者の手の接触とを精度良く区別することができる。
【0018】
(3)安全運転支援システムは、ステアリング装置と、このステアリング装置の把持判定装置と通信可能に接続された制御装置群と、を備える。これにより制御装置群では、把持判定装置によるステアリングハンドルの把持の有無の判定結果やステアリングハンドルへの異物の接触の有無の判定結果に基づいて、運転者による安全な運転を支援することができひいては持続可能な輸送システムの発展に寄与することができる。
【0019】
(4)報知装置は、把持判定装置による判定結果に基づいて生成した情報を運転者に報知する。これにより、例えば、運転者がステアリングハンドルを把持していない場合や、ステアリングハンドルに異物が接触している場合には、運転者に適切な把持を促したり、異物の除去を促したりすることができるので、運転者による安全な運転を支援することができる。
【0020】
(5)報知装置は、静電容量の測定結果に基づいてステアリングハンドルは把持されていないと判定された場合と、トルク検出値の絶対値がトルク閾値未満である状態が時間閾値を超えて継続したことに応じてステアリングハンドルは把持されていないと判定された場合とで報知態様を変えることにより、運転者に適切な把持を促したり、運転者にステアリングハンドルに接触していると推定される異物の除去を促したりすることができるので、運転者による安全な運転を支援することができる。
【0021】
(6)安全運転技能評価装置は、把持判定装置による判定結果に基づいて運転者の運転技量を評価する。これにより、例えば、運転者がステアリングハンドルを適切に把持していない場合と、ステアリングハンドルに異物が接触している場合とを区別して運転技能を評価することができるので、運転者による安全な運転を支援することができる。
【0022】
(7)自動運転装置は、把持判定装置による判定結果に基づいて、自動運転レベルを変更する。これにより、運転者がステアリングハンドルを把持していない場合と、ステアリングハンドルに異物が接触している場合とを区別して自動運転レベルを変更することができるので、運転者による安全な運転を支援することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態に係るステアリング装置及びこのステアリング装置を含む安全運転支援システムの構成を示す図である。
図2】把持センサユニットの回路構成を示す図である。
図3】把持判定処理の具体的な手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態に係るステアリング装置及び安全運転支援システムについて、図面を参照しながら説明する。
【0025】
図1は、本実施形態に係るステアリング装置1及びこのステアリング装置1を含む安全運転支援システム9の構成を示す図である。
【0026】
安全運転支援システム9は、図示しない車両に搭載されたステアリング装置1と、このステアリング装置1と通信可能に接続された制御装置群8と、を備え、これらステアリング装置1及び制御装置群8を用いることによって運転者による車両の安全な運転を支援する。
【0027】
なお本実施形態では、制御装置群8を構成する装置81~83は、例えばCANバス80を介したCAN通信によってステアリング装置1と通信を行うことが可能な車載装置とした場合について説明するが、本発明はこれに限らない。制御装置群8を構成する複数の装置81~83の全て又は一部は、図示しない車載通信装置を介してステアリング装置1と無線による通信が可能な車外装置としてもよい。
【0028】
ステアリング装置1は、運転者による車両の操舵操作や車両補機に対する補機操作等を受け付けるステアリングハンドル2と、このステアリングハンドル2を軸支するステアリングシャフト3と、運転者によるステアリングハンドル2の把持の有無を判定し、さらにその把持位置を取得する把持センサユニット6と、を備える。
【0029】
ステアリングハンドル2は、円環状であり運転者が把持可能なリム部20と、このリム部20の内側に設けられたハブ部23と、ハブ部23から径方向に沿って延びリム部20の内周部に接続される3つのスポーク部25L,25R,25Dと、を備える。
【0030】
ハブ部23は、円盤状であり、例えば運転者から視たリム部20の中心に設けられ、ステアリングハンドル2の中心を構成する。運転者から視たハブ部23の背面側には、ステアリングハンドル2を軸支するステアリングシャフト3が連結されている。ステアリングシャフト3は、ハブ部23の骨格である心金と、図示しない車体の一部を構成する操舵機構とを連結する軸状の連結部材である。したがって運転者がステアリングハンドル2を回動させることによって生じるステアリングトルクは、このステアリングシャフト3によって図示しない操舵機構に伝達される。またこのステアリングシャフト3には、ステアリングシャフト3に作用するステアリングトルクを検出し、検出値に応じた信号を把持センサユニット6へ出力するトルクセンサ31が設けられている。
【0031】
リム部20とハブ部23とは、3つのスポーク部25L、25R,25Dによって接続されている。左スポーク部25Lは、水平方向に沿って延び、ハブ部23のうち運転者から視た左側の部分とリム部20の内周部のうち運転者から視た左側の部分とを接続する。右スポーク部25Rは、左スポーク部25Lと平行かつ水平方向に沿って延び、ハブ部23のうち運転者から視た右側の部分とリム部20の内周部のうち運転者から視た右側の部分とを接続する。下スポーク部25Dは、スポーク部25L,25Rに対し直交かつ鉛直方向に沿って延び、ハブ部23のうち運転者から視た下側の部分とリム部20の内周部のうち運転者から視た下側の部分とを接続する。
【0032】
以上のようにリム部20は運転者から視て円環状であり、運転者はその全周にわたり把持可能である。またこのリム部20には、後述の把持センサユニット6の複数の電極部60R,60L,60U,60Dが全周にわたり設けられている。
【0033】
左スポーク部25L及び右スポーク部25Rには、それぞれ、運転者が図示しない車両補機(例えば、オーディオ装置やカーナビゲーション装置等)を操作するための運転者による補機操作を受け付ける左補機操作コンソールユニット27L及び右補機操作コンソールユニット27Rが設けられている。運転者は、これら補機操作コンソールユニット27L,27Rに設けられた複数のスイッチを指で操作することによって、車両補機を操作することが可能となっている。
【0034】
なお以下では、運転者から視て略円形のリム部20及びステアリングシャフト3の位置や各スポーク部25L,25R,25Dの向きを、ステアリングシャフト3を中心としかつリム部20の運転者から視た上端部21を基準とした時計回りの角度[°]で表す場合もある。すなわち、右スポーク部25Rは、90°の向きに沿って延び、ハブ部23及びリム部20の90°の部分を接続する。下スポーク部25Dは、180°の向きに沿って延び、ハブ部23の180°の部分とリム部20の180°の部分、すなわちリム部20の運転者から視た下端部22とを接続する。また左スポーク部25Lは、270°の向きに沿って延び、ハブ部23及びリム部20の270°の部分を接続する。
【0035】
図2は、把持センサユニット6の回路構成を示す図である。
把持センサユニット6は、それぞれ検出対象領域が異なる複数(本実施形態では、4つ)の近接センサ6R,6L,6U,6Dと、これら近接センサ6R,6L,6U,6Dによる測定結果に基づいて、運転者によるステアリングハンドル2の把持の有無を判定し、さらにその把持位置を取得する把持判定装置60と、を備える。
【0036】
右近接センサ6Rは、リム部20に設けられた右電極部60Rと、この右電極部60Rと電気的に接続された右測定回路62Rと、を備える。右電極部60Rは、リム部20に沿って延びる円弧状であり、導電性である。右電極部60Rは、リム部20の内部に設けられている。右電極部60Rは、リム部20のうち45°から135°の間の約90°の範囲(すなわち、主に直進時に運転者が右手で把持可能な範囲)に配置されている。なお以下では、リム部20のうち右電極部60Rが配置されている領域を右グリップ部20Rともいう。右測定回路62Rは、配線61Rを介して右電極部60Rと接続されている。右測定回路62Rは、右電極部60Rの配置位置と人体との間の距離に応じて増減する値として、右電極部60Rと接地との間の静電容量を測定する。右電極部60Rの配置位置と人体との距離が近くなるほど、右電極部60Rと接地との間の静電容量は大きくなる。右測定回路62Rによる静電容量の測定値Ch_Rは把持判定装置60へ送信される。
【0037】
右測定回路62Rは、パルス電源63と、増幅器64と、第1スイッチ65と、第2スイッチ66と、充電コンデンサ67と、静電容量測定部68と、を備える。なお図2では、右電極部60Rと接地(例えば、車体)との間の静電容量を、ステアリングハンドル2を操作する運転者の手を含む人体Hによって形成される静電容量Chと、人体Hを除く配線や部品等の浮遊コンデンサEによって形成される浮遊容量Ceと、に分けて図示する。
【0038】
図2に示すように、パルス電源63と増幅器64とは直列に接続されている。第2スイッチ66と充電コンデンサ67とは並列に接続されている。パルス電源63及び増幅器64から成る直列回路と、第2スイッチ66及び充電コンデンサ67から成る並列回路は、第1スイッチ65を介して接続されている。増幅器64の出力端子と第1スイッチ65とは、配線61Rを介して右電極部60Rに接続されている。したがってパルス電源63は、増幅器64及び配線61Rを介して右電極部60Rに接続される。また第2スイッチ66及び充電コンデンサ67は、それぞれ第1スイッチ65及び配線61Rを介して右電極部60Rに接続されている。
【0039】
パルス電源63は、把持判定装置60からの指令に応じて、所定周波数かつ所定電圧のパルス電圧Vsを増幅器64に供給する。増幅器64は、パルス電源63から供給されるパルス電圧Vsを増幅し、右電極部60Rに印加する。
【0040】
第2スイッチ66は、図示しない駆動回路によってオン/オフされるスイッチング素子である。この第2スイッチ66の駆動回路は、例えば充電コンデンサ67の電圧VCrefが予め定められた閾値Vthrに到達するまでの間、第2スイッチ66をオフにし、電圧VCrefが閾値Vthrに到達した後に、第2スイッチ66をオンにし、充電コンデンサ67に蓄えられた電荷を放電する。
【0041】
第1スイッチ65は、図示しない駆動回路によってオン/オフされるスイッチング素子である。この第1スイッチ65の駆動回路は、パルス電源63のパルス電圧Vsの立ち上がりに応じて第1スイッチ65をオフにする。これにより右電極部60Rには、パルス電源63及び増幅器64から供給されるパルス電圧が印加され、図2において矢印2aで示す経路を経て電荷が移動し、人体H及び浮遊コンデンサEが充電される。
【0042】
また第1スイッチ65の駆動回路は、パルス電源63のパルス電圧Vsの立ち下がりに応じて第1スイッチ65をオンにする。これにより、人体H及び浮遊コンデンサEと充電コンデンサ67とが接続され、人体H及び浮遊コンデンサEから充電コンデンサ67へ図2において矢印2bで示す経路を経て電荷が移動し、充電コンデンサ67が充電される。これにより充電コンデンサ67の電圧VCrefは上昇する。
【0043】
このためパルス電源63及び増幅器64によってパルス電圧を右電極部60Rに印加すると、人体H及び浮遊コンデンサEの充電及び放電が交互に繰り返され、充電コンデンサ67の電圧VCrefが徐々に高くなる。この際、充電コンデンサ67の電圧VCrefが閾値Vthrに到達するまでの時間(又は、パルス電源63のパルス数)は、人体Hによって形成される静電容量Ch、すなわち右電極部60Rと運転者の身体との間の距離に応じて変化する。すなわち、リム部20のうち右電極部60Rの配置位置に対し運転者の身体の一部が接触又は接近しており静電容量Chが高い場合、充電コンデンサ67の電圧VCrefが閾値Vthrに到達するまでにかかる時間は短くなり、運転者の身体の一部が右電極部60Rの配置位置から離れており静電容量Chが低い場合、充電コンデンサ67の電圧VCrefが閾値Vthrに到達するまでにかかる時間は長くなる。
【0044】
静電容量測定部68は、充電コンデンサ67の電圧VCrefが閾値Vthrに到達するまでの時間やパルス数を測定しており、この測定結果に基づいて間接的に右電極部60Rの近傍に存在する人体Hによって形成される静電容量Chを測定する。静電容量測定部68は、以上の手順によって得られた静電容量Chの測定値Ch_Rを把持判定装置60へ送信する。
【0045】
左近接センサ6Lは、リム部20に設けられた左電極部60Lと、この左電極部60Lと電気的に接続された左測定回路62Lと、を備える。左電極部60Lは、リム部20に沿って延びる円弧状であり、導電性である。左電極部60Lは、リム部20の内部に設けられている。左電極部60Lは、リム部20のうち225°から315°の間の約90°の範囲(すなわち、主に直進時に運転者が左手で把持可能な範囲)に配置されている。なお以下では、リム部20のうち左電極部60Lが配置されている領域を左グリップ部20Lともいう。左測定回路62Lは、配線61Lを介して左電極部60Lと接続されている。左測定回路62Lは、左電極部60Lの配置位置と人体との間の距離に応じて増減する値として、左電極部60Lと接地との間の静電容量を測定する。左電極部60Lの配置位置と人体との距離が近くなるほど、左電極部60Lと接地との間の静電容量は大きくなる。左測定回路62Lによる静電容量の測定値Ch_Lは把持判定装置60へ送信される。なお左測定回路62Lの回路構成は、図2に示す右測定回路62Rとほぼ同じであるので、詳細な説明を省略する。
【0046】
上近接センサ6Uは、リム部20に設けられた上電極部60Uと、この上電極部60Uと電気的に接続された上測定回路62Uと、を備える。上電極部60Uは、リム部20に沿って延びる円弧状であり、導電性である。上電極部60Uは、リム部20の内部に設けられている。上電極部60Uは、リム部20のうち315°から405°(45°)の間の約90°の範囲(すなわち、主に転回時に運転者が右手又は左手で把持可能な範囲)に配置されている。なお以下では、リム部20のうち上電極部60Uが配置されている領域を上グリップ部20Uともいう。上測定回路62Uは、配線61Uを介して上電極部60Uと接続されている。上測定回路62Uは、上電極部60Uの配置位置と人体との間の距離に応じて増減する値として、上電極部60Uと接地との間の静電容量を測定する。上電極部60Uの配置位置と人体との距離が近くなるほど、上電極部60Uと接地との間の静電容量は大きくなる。上測定回路62Uによる静電容量の測定値Ch_Uは把持判定装置60へ送信される。なお上測定回路62Uの回路構成は、図2に示す右測定回路62Rとほぼ同じであるので、詳細な説明を省略する。
【0047】
下近接センサ6Dは、リム部20に設けられた下電極部60Dと、この下電極部60Dと電気的に接続された下測定回路62Dと、を備える。下電極部60Dは、リム部20に沿って延びる円弧状であり、導電性である。下電極部60Dは、リム部20の内部に設けられている。下電極部60Dは、リム部20のうち135°から225°の間の約90°の範囲(すなち、主に転回時に運転者が右手又は左手で把持可能な範囲でありかつリム部20のうち運転者の膝に最も近い範囲)に配置されている。なお以下では、リム部20のうち下電極部60Dが配置されている領域を下グリップ部20Dともいう。下測定回路62Dは、配線61Dを介して下電極部60Dと接続されている。下測定回路62Dは、下電極部60Dの配置位置と人体との間の距離に応じて増減する値として、下電極部60Dと接地との間の静電容量を測定する。下電極部60Dの配置位置と人体との距離が近くなるほど、下電極部60Dと接地との間の静電容量は大きくなる。下測定回路62Dによる静電容量の測定値Ch_Dは把持判定装置60へ送信される。なお下測定回路62Dの回路構成は、図2に示す右測定回路62Rとほぼ同じであるので、詳細な説明を省略する。
【0048】
以上のように右近接センサ6Rの右電極部60Rは、他の電極部60L,60U,60Dよりも右グリップ部20Rに近い位置に設けられている。このため右近接センサ6Rはリム部20のうち右グリップ部20Rを検出対象領域とする。従って右グリップ部20Rが運転者によって把持されている場合、又は右グリップ部20Rに、濡れたタオル、携帯情報端末、及び飲料容器等の静電容量を有する異物が接触している場合、右近接センサ6Rによる測定値Ch_Rは、所定の右静電容量閾値Ch_R_thより大きくなる。
【0049】
左近接センサ6Lの左電極部60Lは、他の電極部60R,60U,60Dよりも左グリップ部20Lに近い位置に設けられている。このため左近接センサ6Lはリム部20のうち左グリップ部20Lを検出対象領域とする。従って左グリップ部20Lが運転者によって把持されている場合、又は左グリップ部20Lに上述のような静電容量を有する異物が接触している場合、左近接センサ6Lによる測定値Ch_Lは、所定の左静電容量閾値Ch_L_thより大きくなる。
【0050】
上近接センサ6Uの上電極部60Uは、他の電極部60R,60L,60Dよりも上グリップ部20Uに近い位置に設けられている。このため上近接センサ6Uはリム部20のうち上グリップ部20Uを検出対象領域とする。従って上グリップ部20Uが運転者によって把持されている場合、又は上グリップ部20Uに上述のような静電容量を有する異物が接触している場合、上近接センサ6Uによる測定値Ch_Uは、所定の上静電容量閾値Ch_U_thより大きくなる。
【0051】
また下近接センサ6Dの下電極部60Dは、他の電極部60R,60L,60Dよりも下グリップ部20Dに近い位置に設けられている。このため下近接センサ6Dはリム部20のうち下グリップ部20Dを検出対象領域とする。従って下グリップ部20Dが運転者によって把持されている場合、又は下グリップ部20Dに上述のような静電容量を有する異物が接触している場合、下近接センサ6Dによる測定値Ch_Dは、所定の下静電容量閾値Ch_D_thより大きくなる。
【0052】
以上のように近接センサ6R,6L,6U,6Dの測定値Ch_R,Ch_L,Ch_U,Ch_Dは、運転者によるリム部20の把持だけでなくリム部20への異物の接触によって変化することから、これら測定値Ch_R,Ch_L,Ch_U,Ch_Dのみではリム部20の把持の有無を正確に判定することができない。そこで把持判定装置60は、把持センサユニット6によって取得される測定値Ch_R,Ch_L,Ch_U,Ch_D及びトルクセンサ31によって取得されるステアリングトルクの検出値Tr_dに基づいて、以下で図3を参照して説明する把持判定処理を実行することにより、リム部20への異物の接触と運転者の手の接触とを区別しながら運転者によるリム部20の把持の有無を判定する。
【0053】
図3は、把持判定装置60による把持判定処理の具体的な手順を示すフローチャートである。図3に示す処理は、運転者が図示しないスタートスイッチを操作することによって車両が起動されたことに応じて、把持判定装置60において所定の制御周期の下で繰り返し実行される。
【0054】
始めにステップST1では、把持判定装置60は、近接センサ6R,6L,6U,6Dから静電容量の測定値Ch_R,Ch_L,Ch_U,Ch_Dを取得し、ステップST2に移る。
【0055】
ステップST2では、把持判定装置60は、ステップST1で取得した測定値Ch_R,Ch_L,Ch_U,Ch_Dに基づいて、リム部20への運転者の手及び上述のような静電容量を有する異物を含む物体の接触の有無を判定する。より具体的には、把持判定装置60は、測定値Ch_R,Ch_L,Ch_U,Ch_Dのうち少なくとも何れかが各々に対して定められた静電容量閾値Ch_R_th,Ch_L_th,Ch_U_th,Ch_D_thより大きい場合、リム部20に物体が接触していると判定する。また把持判定装置60は、測定値Ch_R,Ch_L,Ch_U,Ch_Dが何れも静電容量閾値Ch_R_th,Ch_L_th,Ch_U_th,Ch_D_th以下である場合、リム部20に物体が接触していないと判定する。
【0056】
把持判定装置60は、ステップST2の判定結果がNOである場合、ステップST11に移る。ステップST11では、把持判定装置60は、運転者によってリム部20は把持されていないと判定し、ステップST12に移る。
【0057】
把持判定装置60は、ステップST2の判定結果がYESである場合、ステップST3に移る。ステップST3では、把持判定装置60は、ステップST1において取得した測定値Ch_R,Ch_L,Ch_U,Ch_Dに基づいて、物体のリム部20への接触位置を取得し、ステップST4に移る。より具体的には、把持判定装置60は、測定値Ch_Rが右静電容量閾値Ch_R_thより大きい場合、物体の接触位置は右グリップ部20Rであるとし、測定値Ch_Lが左静電容量閾値Ch_L_thより大きい場合、物体の接触位置は左グリップ部20Lであるとし、測定値Ch_Uが上静電容量閾値Ch_U_thより大きい場合、物体の接触位置は上グリップ部20Uであるとし、測定値Ch_Dが下静電容量閾値Ch_D_thより大きい場合、物体の接触位置は下グリップ部20Lであるとする。
【0058】
ステップST4では、把持判定装置60は、ステップST3において取得した接触位置に基づいて後述のトルク閾値Tr_th及び時間閾値T_thを設定し、ステップST5に移る。より具体的には、把持判定装置60は、ステップST3において取得した接触位置のうち、下端部22から最も離れた位置を最上部接触位置とし、この最上部接触位置に基づいてトルク閾値Tr_th及び時間閾値T_thを設定する。なお上グリップ部20Uは、他のグリップ部20R,20L,20Dよりも下端部22から離れている。右グリップ部20R及び左グリップ部20Lは、下グリップ部20Dよりも下端部22から離れている。また右グリップ部20Rと下端部22との間の距離は、左グリップ部20Lと下端部22との間の距離と等しい。
【0059】
なお本実施形態では、把持判定装置60は、最上部接触位置に基づいてトルク閾値Tr_th及び時間閾値T_thの両方を変更する場合について説明するが、本発明はこれに限らない。把持判定装置60は、最上部接触位置に基づいてトルク閾値Tr_thのみを変更してもよいし、時間閾値T_thのみを変更してもよい。また把持判定装置60は、トルク閾値Tr_th及び時間閾値T_thを何れも固定値としてもよい。
【0060】
より具体的には、把持判定装置60は、最上部接触位置がリム部20における下端部22に近づくほどトルク閾値Tr_thを小さくする(すなわち、トルク閾値Tr_thを0に近づける)。すなわち把持判定装置60は、最上部接触位置が下グリップ部20Dである場合、最上部接触位置が上グリップ部20U、右グリップ部20R、又は左グリップ部20Lである場合よりもトルク閾値Tr_thを小さくする。また把持判定装置60は、最上部接触位置が右グリップ部20R又は左グリップ部20Lである場合、最上部接触位置が上グリップ部20Uである場合よりもトルク閾値Tr_thを小さくする。
【0061】
運転者がリム部20を把持しながら運転する場合に発生するステアリングトルクの大きさは、運転者による把持位置がリム部20における運転者から視た下端部22に近づくほど小さくなる傾向がある。そこで本実施形態では、最上部接触位置がリム部20の下端部22に近づくほどトルク閾値Tr_thを小さくすることにより、リム部20への異物の接触と運転者の手の接触とをさらに精度良く区別できる場合がある。
【0062】
把持判定装置60は、最上部接触位置がリム部20における下端部22に近づくほど時間閾値T_thを長くする。すなわち把持判定装置60は、最上部接触位置が下グリップ部20Dである場合、最上部接触位置が上グリップ部20U、右グリップ部20R、又は左グリップ部20Lである場合よりも時間閾値T_thを長くする。また把持判定装置60は、最上部接触位置が右グリップ部20R又は左グリップ部20Lである場合、最上部接触位置が上グリップ部20Uである場合よりも時間閾値T_thを長くする。
【0063】
運転者による把持位置がリム部20における運転者から視た下端部22に近づくほど、ステアリングトルクは発生し難くなる。そこで本実施形態では、最上部接触位置がリム部20の下端部22に近づくほど時間閾値T_thを長くすることにより、リム部20への異物の接触と運転者の手の接触とをさらに精度良く区別できる場合がある。
【0064】
以上のように本実施形態では、把持判定装置60は、最上部接触位置がリム部20における下端部22に近づくほどトルク閾値Tr_thを小さくしかつ時間閾値T_thを長くする場合について説明するが、本発明はこれに限らない。把持判定装置60は、最上部接触位置がリム部20における下端部22に近づくほど、トルク閾値Tr_thを大きくしてもよいし、時間閾値T_thを短くしてもよい。これにより、実際は把持されていないにも関わらず、誤って把持されていると誤判定してしまうことを防止することができる場合がある。
【0065】
ステップST5では、把持判定装置60は、ステアリングトルクの検出値Tr_dの絶対値は、ステップST4で設定したトルク閾値Tr_th以上であるか否かを判定する。把持判定装置60は、ステップST5の判定結果がNOである場合、すなわちステアリングトルクの検出値Tr_dの絶対値がトルク閾値Tr_th未満である場合、ステップST6に移る。
【0066】
ステップST6では、把持判定装置60は、ステアリングトルクの検出値Tr_dの絶対値がトルク閾値Tr_th未満であった時間を測定するためのタイマTを制御周期ΔTだけカウントアップ(T←T+ΔT)し、ステップST7に移る。
【0067】
ステップST7では、把持判定装置60は、タイマTが時間閾値T_th以上であるか否かを判定する。把持判定装置60は、ステップST7の判定結果がNOである場合、ステップST9に移り、YESである場合、ステップST10に移る。
【0068】
また把持判定装置60は、ステップST5の判定結果がYESである場合、すなわちステアリングトルクの検出値Tr_dの絶対値がトルク閾値Tr_th以上である場合、ステップST8に移る。ステップST8では、把持判定装置60は、タイマTを初期値(例えば、0)にリセットし、ステップST9に移る。
【0069】
ステップST9では、把持判定装置60は、運転者によってリム部20は把持されていると判定し、ステップST12に移る。以上のように把持判定装置60は、リム部20に何らかの物体が接触したと判定された後、トルク閾値Tr_thを超えるステアリングトルクを検出した場合(ステップST2及びST5参照)、リム部20はステップST3で取得した接触位置を把持位置として把持されていると判定する。また把持判定装置60は、リム部20に何らかの物体が接触したと判定された後、ステアリングトルクの検出値Tr_dの絶対値がトルク閾値Tr_th未満である時間が時間閾値T_th未満である場合(ステップST2、ST5、及びST7参照)、リム部20はステップST3で取得した接触位置を把持位置として暫定的に把持されていると判定する。
【0070】
ステップST10では、把持判定装置60は、リム部20にはステップST3において取得した接触位置において異物が接触していると判定し、ステップST11に移る。またステップST11では、把持判定装置60は、上述のように運転者によってリム部20は把持されていないと判定し、ステップST12に移る。以上のように把持判定装置60は、リム部20に何らかの物体が接触したと判定されたことに応じてリム部20は把持されていると判定した後(ステップST9参照)、ステアリングトルクの検出値Tr_dの絶対値がトルク閾値Tr_th未満である状態が時間閾値T_thを超えて継続した場合(ステップST2、ST5、ST7、ST9参照)、リム部20にはステップST3において取得した接触位置において異物が接触していると判定した後(ステップST10参照)、リム部20は運転者によって把持されていないと判定する(ステップST11参照)。
【0071】
ステップST12では、把持判定装置60は、運転者によるリム部20の把持の有無に対する判定結果に関する情報と、把持位置に関する情報と、リム部20への異物の接触の有無の判定結果に関する情報と、異物の接触位置に関する情報と、を制御装置群8へ送信し、ステップST1に戻る。
【0072】
図1に戻り、制御装置群8は、報知装置81と、安全運転技能評価装置82と、自動運転装置83と、を備える。
【0073】
報知装置81は、把持判定装置60から送信されるリム部20の把持の有無に対する判定結果に関する情報、把持位置に関する情報、リム部20への異物の接触の有無の判定結果に関する情報、及び異物の接触位置に関する情報に基づいて運転者による安全な運転を支援するための支援情報を生成し、生成した支援情報を車両に設けられた図示しないHMI(Human Machine Interface)を介して運転者に通知する。より具体的には、報知装置81は、把持判定装置60において運転者がリム部20を把持していないと判定した場合や、運転者がリム部20を推奨把持位置にて把持していない場合には、リム部20を推奨把持位置にて把持するよう促す旨の支援情報を、HMIを用いることによって運転者の視覚、聴覚、及び触覚等を通じて運転者に通知する。また報知装置81は、リム部20に異物が付着していると判定された場合、リム部20を推奨把持位置にて把持するよう促す旨の支援情報とともにリム部20に付着した異物の除去を促す旨の支援情報を、HMIを用いることによって通知する。すなわち報知装置81は、複数の測定値Ch_R,Ch_L,Ch_U,Ch_Dが全て静電容量閾値未満であったことに応じてリム部20は把持されていないと判定された場合(ステップST2の判定結果がNOであった場合)と、ステアリングトルクの検出値Tr_dの絶対値がトルク閾値Tr_th未満である状態が時間閾値T_thを超えて継続したことに応じてリム部20が把持されていないと判定された場合(ステップST7の判定結果がYESであった場合)、すなわちリム部20に異物が接触していると判定した場合とで、報知態様を変えることにより、運転者にリム部20に接触している異物の除去を促すことが好ましい。
【0074】
安全運転技能評価装置82は、把持判定装置60から送信されるリム部20の把持の有無に対する判定結果に関する情報、把持位置に関する情報、リム部20への異物の接触の有無の判定結果に関する情報、及び異物の接触位置に関する情報に基づいて、運転者の安全運転技能を評価する。
【0075】
自動運転装置83は、複数の自動運転レベルに応じた自動運転制御を実行する。この場合、自動運転装置83は、把持判定装置60から送信されるリム部20の把持の有無に対する判定結果に関する情報やリム部20への異物の接触の有無の判定結果に関する情報に基づいて、自動運転レベルを変更する。
【0076】
本実施形態に係るステアリング装置1及び安全運転支援システム9によれば、以下の効果を奏する。
【0077】
(1)運転者がステアリングハンドル2のリム部20を把持していると、右左折時はもちろん、直進時においても僅かながら間欠的にステアリングトルクが発生する。そこで把持判定装置60は、ステアリングハンドル2に設けられた複数の電極部60Rm60L,60U,60Dの静電容量の測定値Ch_R,Ch_L,Ch_U,Ch_Dに基づいてリム部20は把持されていると判定した後、トルクセンサ31によるステアリングトルクの検出値Tr_dの絶対値がトルク閾値Tr_th未満である状態が時間閾値T_thを超えて継続した場合、すなわち時間閾値T_thにわたり有意なステアリングトルクが検出されなかった場合、ステアリングハンドル2のリム部20に静電容量を有する異物が接触していると判定し、リム部20は把持されていないと判定する。よってステアリング装置1によれば、リム部20への異物の接触と運転者の手の接触とを区別しながら運転者によるリム部20の把持の有無を精度良く判定することができ、ひいては持続可能な輸送システムの発展に寄与することができる。またステアリング装置1では、上述のように運転者の心拍を検出する必要が無いので、従来よりもコストを低減することができる。
【0078】
(2)運転者がリム部20を把持しながら運転する場合に発生するステアリングトルクの大きさは、リム部20の把持位置によって異なる。よってステアリング装置1によれば、ステアリングハンドル2のリム部20の把持位置に基づいてトルク閾値Tr_th及び時間閾値T_thの何れか又は両方を変更することにより、リム部20への異物の接触と運転者の手の接触とを精度良く区別することができる。
【0079】
(3)安全運転支援システム9は、ステアリング装置1と、このステアリング装置1の把持判定装置60と通信可能に接続された制御装置群8と、を備える。これにより制御装置群8では、把持判定装置60によるリム部20の把持の有無の判定結果やリム部20への異物の接触の有無の判定結果に基づいて、運転者による安全な運転を支援することができひいては持続可能な輸送システムの発展に寄与することができる。
【0080】
(4)報知装置81は、把持判定装置60による判定結果に基づいて生成した情報を運転者に報知する。これにより、例えば、運転者がリム部20を把持していない場合や、リム部20に異物が接触している場合には、運転者に適切な把持を促したり、異物の除去を促したりすることができるので、運転者による安全な運転を支援することができる。
【0081】
(5)報知装置81は、静電容量の測定値Ch_R,Ch_L,Ch_U,Ch_Dに基づいてリム部20は把持されていないと判定された場合と、ステアリングトルクの検出値Tr_dの絶対値がトルク閾値Tr_th未満である状態が時間閾値T_thを超えて継続したことに応じてリム部20は把持されていないと判定された場合とで報知態様を変えることにより、運転者に適切な把持を促したり、運転者にリム部20に接触していると推定される異物の除去を促したりすることができるので、運転者による安全な運転を支援することができる。
【0082】
(6)安全運転技能評価装置82は、把持判定装置60による判定結果に基づいて運転者の運転技量を評価する。これにより、例えば、運転者がリム部20を適切に把持していない場合と、リム部20に異物が接触している場合とを区別して運転技能を評価することができるので、運転者による安全な運転を支援することができる。
【0083】
(7)自動運転装置83は、把持判定装置60による判定結果に基づいて、自動運転レベルを変更する。これにより、運転者がリム部20を把持していない場合と、リム部20に異物が接触している場合とを区別して自動運転レベルを変更することができるので、運転者による安全な運転を支援することができる。
【0084】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限らない。本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜変更してもよい。
【0085】
例えば上記実施形態では、リム部20を4つのグリップ部20R,20L,20U,20Dに分割し、把持センサユニット6は、各グリップ部20R,20L,20U,20Dの近傍に設けられた各電極部60R,60L,60U,60Dの静電容量の測定値Ch_R,Ch_L,Ch_U,Ch_Dに基づいて各グリップ部20R,20L,20U,20Dにおける把持の有無を判定したが、本発明はこれに限らない。すなわち、各電極部を設ける位置は、リム部20に限らずスポーク部25L,25R,25Dやハブ部23に設けてもよい。またステアリングハンドル2に設ける電極部の数は、4つに限らず、1から3つ又は5つ以上であってもよい。
【符号の説明】
【0086】
1…ステアリング装置
2…ステアリングハンドル
20…リム部
20R,20L,20U,20D…グリップ部
22…下端部
23…ハブ部
25L,25R,25D…スポーク部
31…トルクセンサ
6…把持センサユニット
60…把持判定装置
60R,60L,60U,60D…電極部
62R,62L,62U,62D…測定回路(測定装置)
8…制御装置群
81…報知装置
82…安全運転技能評価装置
83…自動運転装置
9…安全運転支援システム
図1
図2
図3