(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20241217BHJP
B62D 1/06 20060101ALI20241217BHJP
B60W 40/08 20120101ALI20241217BHJP
G01B 7/00 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D1/06
B60W40/08
G01B7/00 101C
(21)【出願番号】P 2022193749
(22)【出願日】2022-12-02
【審査請求日】2023-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】中村 高太郎
【審査官】小原 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特許第5009473(JP,B2)
【文献】特開2009-265851(JP,A)
【文献】特開2017-182318(JP,A)
【文献】特開2018-120757(JP,A)
【文献】特開2012-043275(JP,A)
【文献】特開2018-047816(JP,A)
【文献】特開2020-060313(JP,A)
【文献】特開2018-075849(JP,A)
【文献】国際公開第2017/168540(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/00 - 1/28
B62D 6/00 - 6/10
B60R 16/00 - 16/08
B60W 40/08 - 50/16
G01B 7/00
H01H 36/00
G01V 3/08
G08G 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者による車両の操舵操作を受け付けるステアリングハンドルと、
前記ステアリングハンドルに設けられた電極部の静電容量を測定する測定装置と、
前記電極部の設置位置が異なる複数の前記測定装置と、
複数の前記測定装置による測定値に基づいて前記ステアリングハンドルの把持の有無を判定する把持判定装置と、を備えるステアリング装置であって、
前記ステアリングハンドルには、前記測定装置毎に検出対象領域が定められ、
前記把持判定装置は、前記電極部の静電容量に対する容量閾値を設定する容量閾値設定部と、前記測定値と前記容量閾値との差又は比較に基づいて前記検出対象領域毎に把持の有無を判定する判定部と、を備え、
前記容量閾値設定部は、複数の前記測定装置の
各々の測定値の
傾き又は所定の判定期間における変化量に基づいて前記容量閾値の補正の要否を判断することを特徴とするステアリング装置。
【請求項2】
前記容量閾値設定部は、
前記傾き又は前記変化量を比較することによって複数の前記測定装置の測定値の変化傾向の類似度合いに応じて増減する類似度を算出し、前記類似度が所定の類似度基準より高い場合、前記容量閾値を補正し、前記類似度が前記類似度基準より低い場合、前記容量閾値を一定に維持することを特徴とする請求項1に記載のステアリング装置。
【請求項3】
前記容量閾値設定部は、複数の前記測定装置の測定値が何れも増加傾向である場合、前記容量閾値を増加側へ補正し、複数の前記測定装置の測定値が何れも減少傾向である場合、前記容量閾値を減少側へ補正することを特徴とする請求項
2に記載のステアリング装置。
【請求項4】
前記判定部は、前記測定値から前記容量閾値である基準値を減じることによって得られる容量差分値に基づいて前記ステアリングハンドルの把持の有無を判定することを特徴とする請求項
3に記載のステアリング装置。
【請求項5】
前記判定部は、前記測定値と前記容量閾値である把持判定閾値とを比較することによって前記ステアリングハンドルの把持の有無を判定することを特徴とする請求項
3に記載のステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリング装置に関する。より詳しくは、ステアリングハンドルと、運転者によるステアリングハンドルの把持の有無を判定する把持判定装置と、を備えるステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、交通の安全性を向上するため、車線維持機能、車線逸脱抑制機能、車線変更機能、及び先行者追従機能等、運転者による車両の運転を支援する運転支援装置の車両への搭載が進められている。このような運転支援装置を備える車両では、例えば特許文献1に示されたような把持判定装置によって運転者によるステアリングハンドルの把持の有無を判定し、把持していないと判定した場合には、運転者に対しステアリングハンドルの把持を促したり、実行中の運転支援機能をキャンセルしたりする場合がある。
【0003】
特許文献1に示された把持判定装置では、ステアリングハンドルに設けられた静電容量センサの出力値と所定の閾値との比較に基づいて、運転者によるステアリングハンドルの把持の有無を判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで静電容量センサの出力値は、ステアリングハンドルの周辺の温度に応じて変動する。このためステアリングハンドルの周囲の環境状態の変化によらず閾値を固定した場合、誤判定するおそれがある。そこで特許文献1に記載の発明では、ステアリングハンドルの周辺温度の検出値又は推定値に基づいて静電容量センサの出力値に対する閾値を変更している。
【0006】
しかしながら特許文献1に示された発明では、静電容量センサに加えて温度センサも設ける必要がある。また静電容量センサの出力値は、周辺の温度だけでなく湿度によっても変動する。このため周辺の湿度も考慮するためには、温度センサだけでなく湿度センサも必要となる。
【0007】
本発明は、簡易な構成によってステアリングハンドルの周辺の環境状態の変動による誤判定を防止できるステアリング装置を提供することを目的としたものであり、ひいては持続可能な輸送システムの発展に寄与することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係るステアリング装置(例えば、後述のステアリング装置1)は、運転者による車両の操舵操作を受け付けるステアリングハンドル(例えば、後述のステアリングハンドル2)と、前記ステアリングハンドルに設けられた電極部(例えば、後述の電極部40,50)の静電容量を測定する測定装置(例えば、後述の測定回路42,52)と、前記電極部の設置位置が異なる複数の前記測定装置と、複数の前記測定装置による測定値(例えば、後述の測定値Ch_R_d(n),Ch_L_d(n)及びそのフィルタ値Ch_R_f(n),Ch_L_f(n))に基づいて前記ステアリングハンドルの把持の有無を判定する把持判定装置(例えば、後述の把持判定装置80)と、を備え、前記ステアリングハンドルには、前記測定装置毎に検出対象領域が定められ、前記把持判定装置は、前記電極部の静電容量に対する容量閾値(例えば、後述の基準値Ch_0又は把持判定閾値Ch_th)を設定する容量閾値設定部(例えば、後述の容量閾値設定部82)と、前記測定値と前記容量閾値との差又は比較に基づいて前記検出対象領域毎に把持の有無を判定する判定部(例えば、後述の判定部81)と、を備え、前記容量閾値設定部は、複数の前記測定装置の測定値の変化傾向の類似度合いに基づいて前記容量閾値の補正の要否を判断することを特徴とする。
【0009】
(2)この場合、前記容量閾値設定部は、前記類似度合いに応じて増減する類似度(例えば、後述の類似度S(n))を算出し、前記類似度が所定の類似度基準(例えば、後述の類似度基準S_th)より高い場合、前記容量閾値を補正し、前記類似度が前記類似度基準より低い場合、前記容量閾値を一定に維持することが好ましい。
【0010】
(3)この場合、前記容量閾値設定部は、複数の前記測定装置の各々の測定値の傾き(例えば、後述の傾きa_R(n),a_L(n))を比較することによって前記類似度を算出することが好ましい。
【0011】
(4)この場合、前記容量閾値設定部は、複数の前記測定装置の各々の測定値の所定の判定期間における変化量(例えば、後述の変化量dCh_R_f(n),dCh_L_f(n))を比較することによって前記類似度を算出することが好ましい。
【0012】
(5)この場合、前記容量閾値設定部は、複数の前記測定装置の測定値が何れも増加傾向である場合、前記容量閾値を増加側へ補正し、複数の前記測定装置の測定値が何れも減少傾向である場合、前記容量閾値を減少側へ補正することが好ましい。
【0013】
(6)この場合、前記判定部は、前記測定値から前記容量閾値である基準値(例えば、後述の基準値Ch_0)を減じることによって得られる容量差分値(例えば、後述の容量差分値ΔCh_R,ΔCh_L)に基づいて前記ステアリングハンドルの把持の有無を判定することが好ましい。
【0014】
(7)この場合、前記判定部は、前記測定値と前記容量閾値である把持判定閾値(例えば、後述の把持判定閾値Ch_th)とを比較することによって前記ステアリングハンドルの把持の有無を判定することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
(1)本発明に係るステアリング装置の把持判定装置は、ステアリングハンドルに対する電極部の設置位置が異なる複数の静電容量の測定装置と、複数の測定装置による測定値に基づいてステアリングハンドルの把持の有無を判定する把持判定装置と、を備える。またステアリングハンドルには、測定装置毎に検出対象領域が定められ、把持判定装置は、電極部の静電容量に対する容量閾値を設定する容量閾値設定部と、測定値と容量閾値との差又は比較に基づいて検出対象領域毎に把持の有無を判定する判定部と、を備える。ここで運転者がステアリングハンドルを複数の検出対象領域の何れかにおいて把持すると、この把持された領域を検出対象領域とする測定装置の測定値が増加し、ひいては測定値と容量閾値との差も増加する。このためステアリング装置では、測定値と容量閾値との差又は比較に基づいて検出対象領域毎に把持の有無を判定することができる。ここでステアリングハンドルの周辺の環境状態が変化すると、これら測定装置による静電容量の測定値も変化するため、環境状態の変化に起因する誤判定を抑制するためには、環境状態の変化に応じて容量閾値を適切に補正する必要がある。また複数の電極部はほぼ同じ環境下にあるため、環境状態の変化による各測定装置の測定値の変化傾向は似たものとなる。そこで容量閾値設定部は、複数の測定装置の測定値の変化傾向の類似度合いに基づいて容量閾値の補正の要否を判断することにより、測定値の変化の原因を運転者の手の位置の変化によるものと環境状態の変化によるものとに切り分け、適切なタイミングで容量閾値を補正することができる。よって本発明によれば、ステアリングハンドルの周辺の環境状態の変化によらず測定値と容量閾値との差を一定にできるので、ステアリングハンドルの周辺の環境状態の変動による誤判定を防止することができ、ひいては持続可能な輸送システムの発展に寄与することができる。また本発明では、ステアリングハンドルの周辺の環境状態を検出するためのセンサを設ける必要が無いので、従来よりも簡易な構成で誤判定を防止することができる。
【0016】
(2)容量閾値設定部は、類似度合いに応じて増減する類似度を算出し、この類似度が類似度基準より高い場合、すなわち複数の測定装置の各々の測定値の変化傾向が類似している場合、これら測定値の変化は環境状態の変化によるものとして容量閾値を補正し、類似度が類似度基準より低い場合、これら測定値の変化は運転者の手の位置が変化することによるものとして容量閾値を一定に維持する。よって本発明によれば、測定値と容量閾値との差から、環境状態の変化による変動分のみを除くことができるので、ステアリングハンドルの周辺の環境状態の変動による誤判定を防止することができる。
【0017】
(3)容量閾値設定部は、複数の測定装置の各々の測定値の傾きを比較することによって類似度を算出する。よって本発明によれば、簡易な演算によって各測定値の変化傾向の類似度を算出することができる。
【0018】
(4)容量閾値設定部は、複数の測定装置の各々の測定値の所定の判定期間における変化量を比較することによって類似度を算出する。よって本発明によれば、簡易な演算によって各測定値の変化傾向の類似度を算出することができる。
【0019】
(5)容量閾値設定部は、複数の測定値の変化傾向の類似度が類似度基準より高くかつ複数の測定値が何れも増加傾向である場合、容量閾値を増加側へ補正し、複数の測定値の変化傾向の類似度が類似度基準より高くかつ複数の測定値が何れも減少傾向である場合、容量閾値を減少側へ補正する。これにより、環境状態の変化によらず測定値と容量閾値との差を一定にすることができるので、誤判定を防止することができる。
【0020】
(6)本発明において、判定部は、測定値から容量閾値である基準値を減じることによって得られる容量差分値に基づいてステアリングハンドルの把持の有無を判定する。よって本発明によれば、ステアリングハンドルの周辺の環境状態の変化によらず容量差分値を一定にすることができるので、精度良く把持の有無を判定することができる。
【0021】
(7)本発明において、判定部は、測定値と容量閾値である把持判定閾値とを比較することによってステアリングハンドルの把持の有無を判定する。よって本発明によれば、ステアリングハンドルの周辺の環境状態の変化によらず容量差分値と把持判定閾値との差を一定にすることができるので、精度良く把持の有無を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態に係るステアリング装置の構成を示す図である。
【
図3】基準値を設定する基準値設定処理の具体的な手順を示すフローチャートである。
【
図4】基準値設定処理によって基準値を設定した場合における、把持の有無に対する判定結果等のタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態に係るステアリング装置について、図面を参照しながら説明する。
【0024】
図1は、本実施形態に係るステアリング装置1の構成を示す図である。ステアリング装置1は、図示しない車両に搭載される。ステアリング装置1は、運転者による車両の操舵操作や車両補機に対する補機操作等を受け付けるステアリングハンドル2と、このステアリングハンドル2を軸支するステアリングシャフト3と、ステアリングハンドル2に設けられた複数の電極部の静電容量の測定結果に基づいて、運転者によるステアリングハンドル2の把持の有無を判定する把持センサユニット8と、を備える。
【0025】
ステアリングハンドル2は、円環状であり運転者が把持可能なリム部20と、このリム部20の内側に設けられたハブ部23と、ハブ部23から径方向に沿って延びリム部20のリム内周部21に接続される3つのスポーク部25L,25R,25Dと、を備える。
【0026】
ハブ部23は、円盤状であり、例えば運転者から視たリム部20の中心に設けられ、ステアリングハンドル2の中心を構成する。運転者から視たハブ部23の背面側には、ステアリングハンドル2を軸支するステアリングシャフト3が連結されている。ステアリングシャフト3は、ハブ部23の骨格である心金と、図示しない車体の一部を構成する操舵機構とを連結する軸状の連結部材である。したがって運転者がステアリングハンドル2を回転させることによって生じるステアリングトルクは、このステアリングシャフト3によって図示しない操舵機構に伝達される。
【0027】
リム部20とハブ部23とは、3つのスポーク部25L,25R、25Dによって接続されている。左スポーク部25Lは、水平方向に沿って延び、ハブ部23のうち運転者から視た左側の部分とリム内周部21のうち運転者から視た左側の部分とを接続する。右スポーク部25Rは、左スポーク部25Lと平行かつ水平方向に沿って延び、ハブ部23のうち運転者から視た右側の部分とリム内周部21のうち運転者から視た右側の部分とを接続する。下スポーク部25Dは、スポーク部25L,25Rに対し直交かつ鉛直方向に沿って延び、ハブ部23のうち運転者から視た下側の部分とリム内周部21のうち運転者から視た下側の部分とを接続する。
【0028】
以上のようにリム部20は運転者から視て円環状であり、運転者はその全周にわたり把持可能である。またこのリム部20には、後述の把持センサユニット8の複数(
図1の例では、2つ)の電極部40,50が設けられている。なお本実施形態では、ステアリングハンドル2のうち、リム部20に複数の電極部40,50を設けた場合について説明するが、本発明はこれに限らない。複数の電極部は、リム部20の他、ハブ部23やスポーク部25L,25R,25D等に設けてもよい。また本実施形態では、ステアリングハンドル2には2つの電極部40,50を設けた場合について説明するが、本発明はこれに限らない。ステアリングハンドル2に設ける電極部の数は、3以上であってもよい。
【0029】
左スポーク部25L及び右スポーク部25Rには、それぞれ、運転者が図示しない車両補機(例えば、オーディオ装置やカーナビゲーション装置等)を操作するための運転者による補機操作を受け付ける左補機操作コンソールユニット27L及び右補機操作コンソールユニット27Rが設けられている。運転者は、これら補機操作コンソールユニット27L,27Rに設けられた複数のスイッチを指で操作することによって、車両補機を操作することが可能となっている。
【0030】
なお以下では、運転者から視て略円形のリム部20、リム内周部21、ハブ部23、及びステアリングシャフト3の位置や各スポーク部25L,25R,25Dの向きを、ステアリングシャフト3を中心としかつリム部20の運転者から視た上端部20Cを基準とした時計回りの角度[°]で表す場合もある。すなわち、右スポーク部25Rは、90°の向きに沿って延び、ハブ部23及びリム内周部21の90°の部分を接続する。下スポーク部25Dは、180°の向きに沿って延び、ハブ部23及びリム内周部21の180°の部分を接続する。また左スポーク部25Lは、270°の向きに沿って延び、ハブ部23及びリム内周部21の270°の部分を接続する。
【0031】
把持センサユニット8は、それぞれ検出対象領域が異なる複数(本実施形態では、2つ)の近接センサ4,5と、これら近接センサ4,5による測定結果に基づいて運転者によるステアリングハンドル2の把持の有無及び把持位置を判定する把持判定装置80と、を備える。
【0032】
右近接センサ4は、リム部20に設けられた右電極部40と、この右電極部40と電気的に接続された右測定回路42と、を備える。右電極部40は、リム部20に沿って延びる円弧状であり、導電性である。右電極部40は、リム部20の内部に設けられている。右電極部40は、リム部20のうち0°から180°の間の約180°の範囲(すなわち、主に直進時に運転者が右手で把持可能な範囲)に配置されている。なお以下では、リム部20のうち右電極部40が配置されている領域を右グリップ部20Rともいう。右測定回路42は、配線41を介して右電極部40と接続されている。右測定回路42は、右電極部40の配置位置と人体との間の距離に応じて増減する値として、右電極部40と接地との間の静電容量を測定する。右電極部40の配置位置と人体との距離が近くなるほど、右電極部40と接地との間の静電容量は大きくなる。右測定回路42による静電容量の測定値Ch_R_dは把持判定装置80へ送信される。
【0033】
図2は、右測定回路42の回路構成を示す図である。
右測定回路42は、パルス電源43と、増幅器44と、第1スイッチ45と、第2スイッチ46と、充電コンデンサ47と、静電容量測定部48と、を備える。なお
図2では、右電極部40と接地(例えば、車体)との間の静電容量を、ステアリングハンドル2を操作する運転者の手を含む人体Hによって形成される静電容量Chと、人体Hを除く配線や部品等の浮遊コンデンサEによって形成される浮遊容量Ceと、に分けて図示する。
【0034】
図2に示すように、パルス電源43と増幅器44とは直列に接続されている。第2スイッチ46と充電コンデンサ47とは並列に接続されている。パルス電源43及び増幅器44から成る直列回路と、第2スイッチ46及び充電コンデンサ47から成る並列回路は、第1スイッチ45を介して接続されている。増幅器44の出力端子と第1スイッチ45とは、配線41を介して右電極部40に接続されている。したがってパルス電源43は、増幅器44及び配線41を介して右電極部40に接続される。また第2スイッチ46及び充電コンデンサ47は、それぞれ第1スイッチ45及び配線41を介して右電極部40に接続されている。
【0035】
パルス電源43は、把持判定装置80からの指令に応じて、所定周波数かつ所定電圧のパルス電圧Vsを増幅器44に供給する。増幅器44は、パルス電源43から供給されるパルス電圧Vsを増幅し、右電極部40に印加する。
【0036】
第2スイッチ46は、図示しない駆動回路によってオン/オフされるスイッチング素子である。この第2スイッチ46の駆動回路は、例えば充電コンデンサ47の電圧VCrefが予め定められた閾値Vthrに到達するまでの間、第2スイッチ46をオフにし、電圧VCrefが閾値Vthrに到達した後に、第2スイッチ46をオンにし、充電コンデンサ47に蓄えられた電荷を放電する。
【0037】
第1スイッチ45は、図示しない駆動回路によってオン/オフされるスイッチング素子である。この第1スイッチ45の駆動回路は、パルス電源43のパルス電圧Vsの立ち上がりに応じて第1スイッチ45をオフにする。これにより右電極部40には、パルス電源43及び増幅器44から供給されるパルス電圧が印加され、
図2において矢印2aで示す経路を経て電荷が移動し、人体H及び浮遊コンデンサEが充電される。
【0038】
また第1スイッチ45の駆動回路は、パルス電源43のパルス電圧Vsの立ち下がりに応じて第1スイッチ45をオンにする。これにより、人体H及び浮遊コンデンサEと充電コンデンサ47とが接続され、人体H及び浮遊コンデンサEから充電コンデンサ47へ
図2において矢印2bで示す経路を経て電荷が移動し、充電コンデンサ47が充電される。これにより充電コンデンサ47の電圧VCrefは上昇する。
【0039】
このためパルス電源43及び増幅器44によってパルス電圧を右電極部40に印加すると、人体H及び浮遊コンデンサEの充電及び放電が交互に繰り返され、充電コンデンサ47の電圧VCrefが徐々に高くなる。この際、充電コンデンサ47の電圧VCrefが閾値Vthrに到達するまでの時間(又は、パルス電源43のパルス数)は、人体Hによって形成される静電容量Ch、すなわち右電極部40と運転者の身体との間の距離に応じて変化する。すなわち、リム部20のうち右電極部40の配置位置に対し運転者の身体の一部が接触又は接近しており静電容量Chが高い場合、充電コンデンサ47の電圧VCrefが閾値Vthrに到達するまでにかかる時間は短くなり、運転者の身体の一部が右電極部40の配置位置から離れており静電容量Chが低い場合、充電コンデンサ47の電圧VCrefが閾値Vthrに到達するまでにかかる時間は長くなる。
【0040】
静電容量測定部48は、充電コンデンサ47の電圧VCrefが閾値Vthrに到達するまでの時間やパルス数を測定しており、この測定結果に基づいて間接的に右電極部40の近傍に存在する人体Hによって形成される静電容量Chを測定する。静電容量測定部48は、以上の手順によって得られた静電容量Chの測定値Ch_R_dを把持判定装置80へ送信する。
【0041】
左近接センサ5は、リム部20に設けられた左電極部50と、この左電極部50と電気的に接続された左測定回路52と、を備える。左電極部50は、リム部20に沿って延びる円弧状であり、導電性である。左電極部50は、リム部20の内部に設けられている。左電極部50は、リム部20のうち180°から360°の間の約180°の範囲(すなわち、主に直進時に運転者が左手で把持可能な範囲)に配置されている。なお以下では、リム部20のうち左電極部50が配置されている領域を左グリップ部20Lともいう。左測定回路52は、配線51を介して左電極部50と接続されている。左測定回路52は、左電極部50の配置位置と人体との間の距離に応じて増減する値として、左電極部50と接地との間の静電容量を測定する。左電極部50の配置位置と人体との距離が近くなるほど、左電極部50と接地との間の静電容量は大きくなる。左測定回路52による静電容量の測定値Ch_L_dは把持判定装置80へ送信される。なお左測定回路52の回路構成は、
図2を参照して説明した右測定回路42の回路構成とほぼ同じであるので詳細な説明を省略する。
【0042】
以上のように右近接センサ4の右電極部40は、他の電極部50よりも右グリップ部20Rに近い位置に設けられている。このため右近接センサ4はリム部20のうち右グリップ部20Rを検出対象領域とする。左近接センサ5の左電極部50は、他の電極部40よりも左グリップ部20Lに近い位置に設けられている。このため左近接センサ5はリム部20のうち左グリップ部20Lを検出対象領域とする。以上のようにステアリングハンドル2のリム部20には、近接センサ4,5毎に検出対象領域が定められる。把持判定装置80は、上述のようにそれぞれリム部20における検出対象領域が異なる2つの近接センサ4,5の測定値Ch_R_d,Ch_L_dに基づいて、運転者によるリム部20の把持の有無及び把持位置を取得する。
【0043】
把持判定装置80は、各近接センサ4,5の測定値Ch_R_d,Ch_L_dと基準値Ch_0や把持判定閾値Ch_th等の静電容量に対する容量閾値との差又は比較に基づいて、運転者による把持の有無を検出対象領域毎に判定する判定部81と、判定部81において把持の有無を判定する際に参照される容量閾値を測定値Ch_R_d,Ch_L_dに基づいて逐次設定する容量閾値設定部82と、を備える。
【0044】
判定部81は、右近接センサ4の測定値Ch_R_dから基準値Ch_0を減じることによって容量差分値ΔCh_Rを算出し、さらにこの容量差分値ΔCh_Rと把持判定閾値Ch_thとの大きさを比較することによって、ステアリングハンドル2のうち、右近接センサ4が検出対象領域とする右グリップ部20Rにおける把持の有無を判定する。より具体的には、判定部81は、容量差分値ΔCh_Rと把持判定閾値Ch_thとの差(ΔCh_R-Ch_th)が0又は正である場合、すなわち下記式(1-1)が成立する場合、ステアリングハンドル2はリム部20のうち右グリップ部20Rにおいて運転者によって把持されていると判定する。また判定部81は、容量差分値ΔCh_Rと把持判定閾値Ch_thとの差(ΔCh_R-Ch_th)が負である場合、すなわち下記式(1-2)が成立する場合、ステアリングハンドル2はリム部20のうち右グリップ20Rにおいて運転者によって把持されていないと判定する。
Ch_R_d-Ch_0≧Ch_th (1-1)
Ch_R_d-Ch_0<Ch_th (1-2)
【0045】
判定部81は、左近接センサ5の測定値Ch_L_dから基準値Ch_0を減じることによって容量差分値ΔCh_Lを算出し、さらにこの容量差分値ΔCh_Lと把持判定閾値Ch_thとの大きさを比較することによって、ステアリングハンドル2のうち、左近接センサ5が検出対象領域とする左グリップ部20Lにおける把持の有無を判定する。より具体的には、判定部81は、容量差分値ΔCh_Lと把持判定閾値Ch_thとの差(ΔCh_L-Ch_th)が0又は正である場合、すなわち下記式(2-1)が成立する場合、ステアリングハンドル2はリム部20のうち左グリップ部20Lにおいて運転者によって把持されていると判定する。また判定部81は、容量差分値ΔCh_Lと把持判定閾値Ch_thとの差(ΔCh_L-Ch_th)が負である場合、すなわち下記式(2-2)が成立する場合、ステアリングハンドル2はリム部20のうち左グリップ20Lにおいて運転者によって把持されていないと判定する。
Ch_R_d-Ch_0≧Ch_th (2-1)
Ch_R_d-Ch_0<Ch_th (2-2)
【0046】
ここで基準値Ch_0とは、運転者の手がステアリングハンドル2の電極部40,50の設置位置から十分に離れた位置に存在するときにおける電極部40,50の静電容量の値に相当し、正値である。従って容量差分値ΔCh_R(=Ch_R_d-Ch_0),ΔCh_L(=Ch_L_d-Ch_0)は、運転者の手が電極部40,50の設置位置に近づくほど増加する。この基準値Ch_0には、予め定められた固定値又は容量閾値設定部82によって逐次設定される値が用いられる。
【0047】
また把持判定閾値Ch_thとは、運転者の手が電極部40,50の設置位置に十分に接近しているか否か、すなわち運転者がステアリングハンドル2を把持しているか否かを判定するために容量差分値ΔCh_R,ΔCh_Lに対して設定される閾値であり、正値である。この把持判定閾値Ch_thには、予め定められた固定値又は容量閾値設定部82によって逐次設定される値が用いられる。
【0048】
ここで各測定値Ch_R_d,Ch_L_dや容量差分値ΔCh_R,ΔCh_Lは、運転者の手と各電極部40,50の設置位置との間の距離だけでなく各電極部40,50の設置位置の周辺の温度や湿度等の環境状態に応じて変動する。より具体的には、各測定値Ch_R_d,Ch_L_dや各容量差分値ΔCh_R,ΔCh_Lは、温度が高くなるほど増加し、湿度が高くなるほど増加する傾向がある。このため基準値Ch_0や把持判定閾値Ch_th等の容量閾値を環境状態の変化に依存しない固定値とすると、判定部81は誤判定するおそれがある。そこで容量閾値設定部82は、環境状態の変動に応じて基準値Ch_0及び把持判定閾値Ch_thの両方又は何れかを変化させる。なお本実施形態では、容量閾値設定部82は、環境状態の変動に応じて基準値Ch_0を変動させ、把持判定閾値Ch_thを固定値とする場合について説明するが、本発明はこれに限らない。
【0049】
図3は、基準値Ch_0を設定する基準値設定処理の具体的な手順を示すフローチャートである。
図3に示す基準値設定処理は、容量閾値設定部82において所定の制御周期Δt毎に繰り返し実行される。
【0050】
始めにステップST1では、容量閾値設定部82は、右近接センサ4による右電極部40の静電容量の右測定値Ch_R_d(n)及び左近接センサ5による左電極部50の静電容量の左測定値Ch_L_d(n)を取得し、ステップST2に移る。ここで、記号(n)は、離散化した時間を示す記号であり、第n制御周期目における処理によって取得又は算出されたデータであることを示す。すなわち、記号(n)が今回の制御タイミングにおいて取得又は算出されたデータであるとした場合、記号(n-1)は前回の制御タイミング(すなわち、Δt前)において取得又は算出されたデータであることを示す。なお、以下の説明では、時間を示す記号(n)を適宜、省略する。
【0051】
ステップST2では、容量閾値設定部82は、ステップST1で取得した各測定値Ch_R_d(n),Ch_L_d(n)に対し高周波数のノイズを除去するためのフィルタ処理を施し、ステップST3に移る。なお以下では、右測定値Ch_R_d(n)にフィルタ処理を施して得られる値を、右フィルタ値と言い、“Ch_R_f(n)”と表記する。また以下では、左測定値Ch_L_d(n)にフィルタ処理を施して得られる値を左フィルタ値と言い、“Ch_L_f(n)”と表記する。また本実施形態では、容量閾値設定部82は、各測定値Ch_R_d(n),Ch_L_d(n)に対するフィルタ処理として、例えば下記式(3)及び(4)に示すような重み付き移動平均処理を施す場合について説明するが、本発明はこれに限るものではない。ここで下記式において、“w”は重みであり、0より大きな任意の正の値である。
Ch_R_f(n)=
(Ch_R_d(n)+w×Ch_R_f(n-1))/(1+w) (3)
Ch_L_f(n)=
(Ch_L_d(n)+w×Ch_L_f(n-1))/(1+w) (4)
【0052】
ステップST3では、容量閾値設定部82は、右測定値の右フィルタ値Ch_R_f(n)の変化傾向を表すパラメータとして右フィルタ値Ch_R_f(n)の傾きa_R(n)を算出し、ステップST4に移る。より具体的には、容量閾値設定部82は、下記式(5)に示すように、第n-1周期から第n周期までの1周期分の判定期間における右フィルタ値の変化量(Ch_R_f(n)-Ch_R_f(n-1))を判定期間の長さ(Δt)で除算することによって、右フィルタ値Ch_R_f(n)の傾きa_R(n)を算出する。すなわち右フィルタ値Ch_R_f(n)が増加傾向にある場合、傾きa_R(n)は正値となり、減少傾向にある場合、傾きa_R(n)は負値となる。
a_R(n)=
(Ch_R_f(n)-Ch_R_f(n-1))/Δt (5)
【0053】
ステップST4では、容量閾値設定部82は、左測定値の左フィルタ値Ch_L_f(n)の変化傾向を表すパラメータとして左フィルタ値Ch_L_f(n)の傾きa_L(n)を算出し、ステップST5に移る。より具体的には、容量閾値設定部82は、下記式(6)に示すように、第n-1周期から第n周期までの1周期分の判定期間における左フィルタ値の変化量(Ch_L_f(n)-Ch_L_f(n-1))を判定期間の長さ(Δt)で除算することによって、左フィルタ値Ch_L_f(n)の傾きa_L(n)を算出する。すなわち左フィルタ値Ch_L_f(n)が増加傾向にある場合、傾きa_L(n)は正値となり、減少傾向にある場合、傾きa_L(n)は負値となる。
a_L(n)=
(Ch_L_f(n)-Ch_L_f(n-1))/Δt (6)
【0054】
ステップST5では、容量閾値設定部82は、算出した傾きa_R(n),a_L(n)を比較することによって、右フィルタ値Ch_R_f(n)の変化傾向と左フィルタ値Ch_L_f(n)の変化傾向との間の類似度合いに応じて増減する類似度S(n)を算出し、ステップST6に移る。より具体的には、容量閾値設定部82は、例えば下記式(7)に従ってフィルタ値Ch_R_f(n),Ch_L_f(n)の変化傾向の類似度S(n)を算出する。下記式(7)において、“a0”は、予め定められた正値の係数である。下記式(7)によって定義される類似度S(n)は、各フィルタ値Ch_R_f(n),Ch_L_f(n)の変化傾向の表す傾きa_R(n),a_L(n)が近くなるほど、すなわち各フィルタ値Ch_R_f(n),Ch_L_f(n)の変化傾向の類似度合いが高くなるほど、大きな値となる。また類似度S(n)は、各フィルタ値Ch_R_f(n),Ch_L_f(n)の変化傾向の表す傾きa_R(n),a_L(n)が離れるほど、すなわち各フィルタ値Ch_R_f(n),Ch_L_f(n)の変化傾向の類似度合いが低くなるほど、小さな値となる。
S(n)=a0/(|a_R(n)-a_L(n)|) (7)
【0055】
ステップST6では、容量閾値設定部82は、右フィルタ値Ch_R_f(n)の傾きa_R(n)及び左フィルタ値Ch_L_f(n)の傾きa_L(n)は、同符号であるか否かを判定する。容量閾値設定部82は、ステップST6の判定結果がYESである場合、ステップST7に移る。ステップST7では、容量閾値設定部82は、類似度S(n)は所定の正値の類似度基準S_thより高いか否か(S(n)>S_th)を判定する。
【0056】
容量閾値設定部82は、ステップST6の判定結果がNOである場合又はステップST7の判定結果がNOである場合、すなわち傾きa_R(n),a_L(n)が異符号であるか又は類似度S(n)が類似度基準S_th以下である場合、第n-1周期から第n周期までの判定期間の間における各フィルタ値Ch_R_f(n),Ch_L_f(n)の変化は運転者の手の位置の変化に起因するものであると判断する。この場合、容量閾値設定部82は、基準値Ch_0(n)を補正する必要は無いと判断し、ステップST8に移る。
【0057】
ステップST8では、容量閾値設定部82は、下記式(8)に示すように、基準値Ch_0(n)を前周期における基準値Ch_0(n-1)と等しい値に設定し、ステップST1に戻る。すなわち容量閾値設定部82は、基準値Ch_0(n)を一定に維持する。なお基準値の初期値Ch_0(0)は、例えば予め定められた値又は
図3に示す基準値設定処理の開始直後の右測定値Ch_R_d(0)及び左測定値Ch_L_d(0)の何れか小さい方と等しい値に設定される。
Ch_0(n)=Ch_0(n-1) (8)
【0058】
容量閾値設定部82は、ステップST7の判定結果がYESである場合、すなわち傾きa_R(n),a_L(n)が同符号でありかつ類似度S(n)が類似度基準S_thより高い場合、第n-1周期から第n周期までの時間Δtの間における各フィルタ値Ch_R_f(n),Ch_L_f(n)の変化は環境状態の変化に起因するものであると判断する。この場合、容量閾値設定部82は、環境状態の変化に応じて基準値Ch_0(n)を補正する必要があると判断し、ステップST9に移る。
【0059】
ステップST9では、容量閾値設定部82は、傾きa_R(n),a_L(n)の少なくとも何れかに基づいて補正値dCh_0(n)を算出し、ステップST10に移る。より具体的には、容量閾値設定部82は、例えば下記式(9)に示すように、傾きa_R(n)に時間Δtを乗算することによって、時間Δtの間における環境状態の変化に応じた補正値dCh_0(n)を算出する。従って各フィルタ値Ch_R_f(n),Ch_L_f(n)が何れも増加傾向である場合、補正値dCh_0(n)は正値とする。また、各フィルタ値Ch_R_f(n),Ch_L_f(n)が何れも減少傾向である場合、補正値dCh_0(n)は負値とする。
dCh_0(n)=a_R(n)×Δt (9)
【0060】
なお、傾きa_R(n),a_L(n)は同符号でありかつ略等しいことから、傾きa_L(n)に時間Δtを乗算することによって補正値dCh_0(n)を算出してもよいし、傾きa_R(n),a_L(n)の平均値に時間Δtを乗算することによって補正値dCh_0(n)を算出してもよい。
【0061】
ステップST10では、容量閾値設定部82は、下記式(10)に示すように、前周期における基準値Ch_0(n-1)にステップST9で算出した補正値dCh_0(n)を加えたものを基準値Ch_0(n)とし、ステップST1に戻る。すなわち容量閾値設定部82は、各フィルタ値Ch_R_f(n),Ch_L_f(n)が何れも増加傾向である場合、基準値Ch_0(n)を増加側へ補正し、各フィルタ値Ch_R_f(n),Ch_L_f(n)が何れも減少傾向である場合、基準Ch_0(n)を減少側へ補正する。
Ch_0(n)=Ch_0(n-1)+dCh_0(n) (10)
【0062】
図4は、以上のような基準値設定処理によって基準値Ch_0を設定した場合における、ステアリングハンドル2の把持の有無に対する判定結果等のタイムチャートである。
図4の上段には右測定値Ch_R_d(実線)、左測定値Ch_L_d(一点鎖線)、及び基準値Ch_0(破線)を示し、中段には右容量差分値ΔCh_R(実線)、左容量差分値ΔCh_L(一点鎖線)、及び把持判定閾値Ch_th(破線)を示し、下段には右グリップ部20R及び左グリップ部20Lにおける把持の判定結果を示す。なお
図4では、各フィルタ値Ch_R_f,Ch_L_fは各測定値Ch_R_d,Ch_L_dとほぼ等しいものとし、図示を省略する。
【0063】
始めに時刻t0~t1の間では、運転者が左手で左グリップ部20Lを把持することにより、左測定値Ch_L_dが急激に上昇する。このため時刻t0~t1の間では、左容量差分値ΔCh_Lが把持判定閾値Ch_thを超えるので、これ以降、判定部81は、ステアリングハンドル2は左グリップ部20Lにおいて把持されていると判定する。また時刻t0~t1の間では、右測定値Ch_R_dはほぼ一定であり、右容量差分値ΔCh_Rは把持判定閾値Ch_th未満の値でほぼ一定である。従って時刻t0~t1の間では、判定部81は、右グリップ部20Rにおいて把持されていないと判定する。また各測定値Ch_R_d,Ch_L_dの時刻t0~t1の間における変化傾向の類似度Sは類似度基準S_th未満であるので、容量閾値設定部82は、基準値Ch_0を一定に維持する(
図3のステップST8参照)。
【0064】
次に時刻t2~t3の間では、ステアリングハンドル2は左グリップ部20Lのみにおいて把持されている状態で電極部40,50の周辺の環境状態が変化することにより、各測定値Ch_R_d,Ch_L_dが共にほぼ等しい傾きで上昇する。従って各測定値Ch_R_d,Ch_L_dの時刻t2~t3の間における変化傾向の類似度Sは類似度基準S_th以上であるので、容量閾値設定部82は、基準値Ch_0を各測定値Ch_R_d,Ch_L_dの増加に合わせて増加側へ補正する(
図3のステップST9~ST10参照)。このため時刻t2~t3の間では、環境状態の変化によらず各容量差分値ΔCh_R,ΔCh_Lはほぼ一定に維持される。特に時刻t2~t3の間では、右測定値Ch_R_dの増加に合わせて基準値Ch_0を増加側へ補正することにより、右容量差分値ΔCh_Rを把持判定閾値Ch_th未満の値で一定に維持できる。このため判定部81では、時刻t2~t3の間で右グリップ部20Rが把持されたと誤判定してしまうことを防止することができる。
【0065】
次に時刻t4~t6の間では、運転者が右手で右グリップ部20Rを把持することにより、右測定値Ch_R_dが急激に上昇する。このため時刻t5において、右容量差分値ΔCh_Rが把持判定閾値Ch_thを超えるので、これ以降、判定部81は、ステアリングハンドル2は、左右のグリップ部20R,20Lにおいて把持されていると判定する。また時刻t4~t6の間では、運転者は左グリップ部20Lを把持したままであるので、左測定値Ch_L_dはほぼ一定である。従って各測定値Ch_R_d,Ch_L_dの時刻t4~t6の間における変化傾向の類似度Sは類似度基準S_th未満であるので、容量閾値設定部82は、基準値Ch_0を一定に維持する(
図3のステップST8参照)。
【0066】
次に時刻t6~t7の間では、ステアリングハンドル2が左右のグリップ部20R,20Lの両方で把持されている状態で電極部40,50の周辺の環境状態が変化することにより、各測定値Ch_R_d、Ch_L_dが共にほぼ等しい傾きで上昇する。従って各測定値Ch_R_d,Ch_L_dの時刻t6~t7の間における変化傾向の類似度Sは類似度基準S_th以上であるので、容量閾値設定部82は、基準値Ch_0を各測定値Ch_R_d,Ch_L_dの増加に合わせて増加側へ補正する(
図3のステップST9~ST10参照)。このため時刻t6~t7の間では、環境状態の変化によらず各容量差分値ΔCh_R,ΔCh_Lはほぼ一定である。
【0067】
次に時刻t7~t9の間では、運転者が右手を右グリップ部20Rから離すことにより、右測定値Ch_R_dが急激に低下する。このため時刻t8では、右容量差分値ΔCh_Rが把持判定閾値Ch_thを下回る。このため時刻t8以降では、判定部81は、ステアリングハンドル2は右グリップ部20Rにおいて把持されていないと判定する。また時刻t7~t8の間では、運転者は左グリップ部20Lを把持したままであるので、左測定値Ch_L_dはほぼ一定である。従って各測定値Ch_R_d,Ch_L_dの時刻t7~t9の間における変化傾向の類似度Sは類似度基準S_th未満であるので、容量閾値設定部82は、基準値Ch_0を一定に維持する(
図3のステップST8参照)。
【0068】
以上のように容量閾値設定部82は、各測定値Ch_R_d、Ch_L_dの変化傾向の類似度Sが類似度基準S_thより高い期間(
図4の例では、時刻t2~t3の期間及び時刻t6~t7の期間)でのみ、各測定値Ch_R_d、Ch_L_dの増減に合わせて基準値Ch_0を増減させることにより、電極部40,50の周辺の環境状態の変動に応じて基準値Ch_0を変化させることができる。
【0069】
以上のように本実施形態では、第n-1周期から第n周期までの1制御周期Δt分の判定期間の間における各フィルタ値Ch_R_f(n),Ch_L_f(n)の変化傾向の類似度合いに基づいて基準値Ch_0(n)の補正の要否を判断したが、判定期間の長さはこれに限らない。判定期間は、数周期分Δt×m(mは、2以上の整数)としてもよい。
【0070】
また
図3に示す基準値設定処理では、各フィルタ値Ch_R_f(n),Ch_L_f(n)の変化傾向の類似度合いに基づいて基準値Ch_0(n)の補正の要否を判断したが、本発明はこれに限らない。容量閾値設定部82は、フィルタ処理を施す前の測定値Ch_R_d(n),Ch_L_d(n)の変化傾向の類似度合いに基づいて基準値Ch_0(n)の補正の要否を判断してもよい。
【0071】
また本実施形態では、判定部81は、上記式(1-1)及び(1-2)に基づいて、運転者によるステアリングハンドル2の右グリップ部20Rにおける把持の有無を判定する場合について説明したが、本発明はこれに限らない。判定部81は、上記式(1-1)及び(1-2)と等価な下記式(11-1)及び(11-2)に基づいて、運転者によるステアリングハンドル2の把持の有無を判定してもよい。すなわち判定部81は、把持判定閾値Ch_thと基準値Ch_0との和が測定値Ch_R_d以下である場合、すなわち下記式(11-1)が成立する場合、ステアリングハンドル2は右グリップ部20Rにおいて運転者によって把持されていると判定し、把持判定閾値Ch_thと基準値Ch_0との和が測定値Ch_R_dより大きい場合、すなわち下記式(11-2)が成立する場合、ステアリングハンドル2は右グリップ部20Rにおいて運転者によって把持されていると判定してもよい。なお左グリップ部20Lにおける把持の有無の判定についても同様であるので、詳細な説明を省略する。
Ch_R_d≧Ch_th+Ch_0 (11-1)
Ch_R_d<Ch_th+Ch_0 (11-2)
【0072】
本実施形態に係るステアリング装置1によれば、以下の効果を奏する。
(1)ステアリング装置1の把持判定装置80は、ステアリングハンドル2に対する電極部40,50の設置位置が異なる複数の近接センサ4,5と、複数の近接センサ4,5による測定値Ch_R_d,Ch_L_dに基づいてステアリングハンドル2の把持の有無を判定する把持判定装置80と、を備える。またステアリングハンドル2には、近接センサ4,5毎に検出対象領域が定められ、把持判定装置80は、電極部40,50の静電容量に対する基準値Ch_0を設定する容量閾値設定部82と、測定値Ch_R_d,Ch_L_dと基準値Ch_0との差に基づいて検出対象領域毎に把持の有無を判定する判定部81と、を備える。ここで運転者がステアリングハンドル2を複数の検出対象領域の何れかにおいて把持すると、この把持された領域を検出対象領域とする近接センサ4,5の測定値Ch_R_d、Ch_L_dが増加し、ひいては測定値Ch_R_d,Ch_L_dと基準値Ch_0との差も増加する。このためステアリング装置1では、測定値Ch_R_d,Ch_L_dと基準値Ch_0との差に基づいて検出対象領域毎に把持の有無を判定することができる。ここでステアリングハンドル2の周辺の環境状態が変化すると、これら近接センサ4,5による静電容量の測定値Ch_R_d,Ch_L_dも変化するため、環境状態の変化に起因する誤判定を抑制するためには、環境状態の変化に応じて基準値Ch_0を適切に補正する必要がある。また複数の電極部40,50はほぼ同じ環境下にあるため、環境状態の変化による各近接センサ4,5の測定値Ch_R_d,Ch_L_dの変化傾向は似たものとなる。そこで容量閾値設定部82は、複数の近接センサ4,5の測定値のフィルタ値Ch_R_f,Ch_L_fの変化傾向の類似度合いに基づいて基準値Ch_0の補正の要否を判断することにより、測定値Ch_R_d,Ch_L_dの変化の原因を運転者の手の位置の変化によるものと環境状態の変化によるものとに切り分け、適切なタイミングで基準値Ch_0を補正することができる。よってステアリング装置1によれば、ステアリングハンドル2の周辺の環境状態の変化によらず測定値Ch_R_d,Ch_L_dと基準値Ch_0との差を一定にできるので、ステアリングハンドル2の周辺の環境状態の変動による誤判定を防止することができ、ひいては持続可能な輸送システムの発展に寄与することができる。またステアリング装置1では、ステアリングハンドル2の周辺の環境状態を検出するためのセンサを設ける必要が無いので、従来よりも簡易な構成で誤判定を防止することができる。
【0073】
(2)容量閾値設定部82は、フィルタ値Ch_R_f(n),Ch_L_f(n)の変化傾向の類似度合いに応じて増減する類似度S(n)を算出し、この類似度S(n)が類似度基準S_thより高い場合、すなわち複数の近接センサ4,5の各々のフィルタ値Ch_R_f(n),Ch_L_f(n)の変化傾向が類似している場合、これらフィルタ値Ch_R_f(n),Ch_L_f(n)の変化は環境状態の変化によるものとして基準値Ch_0を補正し、類似度S(n)が類似度基準S_thより低い場合、これらフィルタ値Ch_R_f(n),Ch_L_f(n)の変化は運転者の手の位置が変化することによるものとして基準値Ch_0を一定に維持する。よってステアリング装置1によれば、容量差分値ΔCh_R,ΔCh_Lから、環境状態の変化による変動分のみを除くことができるので、ステアリングハンドル2の周辺の環境状態の変動による誤判定を防止することができる。
【0074】
(3)容量閾値設定部82は、複数の近接センサ4,5の各々のフィルタ値Ch_R_f(n),Ch_L_f(n)の傾きa_R(n),a_L(n)を比較することによって類似度S(n)を算出する。よってステアリング装置1によれば、簡易な演算によって各フィルタ値Ch_R_f(n),Ch_L_f(n)の変化傾向の類似度S(n)を算出することができる。
【0075】
(4)容量閾値設定部82は、複数のフィルタ値Ch_R_f(n),Ch_L_f(n)の変化傾向の類似度S(n)が類似度基準S_thより高くかつ複数のフィルタ値Ch_R_f(n),Ch_L_f(n)が何れも増加傾向である場合、基準値Ch_0(n)を増加側へ補正し、複数のフィルタ値Ch_R_f(n),Ch_L_f(n)の変化傾向の類似度S(n)が類似度基準S_thより高くかつ複数のフィルタ値Ch_R_f(n),Ch_L_f(n)が何れも減少傾向である場合、基準値Ch_0を減少側へ補正する。これにより、環境状態の変化によらず容量差分値ΔCh_R,ΔCh_Lを一定にすることができるので、誤判定を防止することができる。
【0076】
(5)判定部81は、測定値Ch_R_d(n),Ch_L_d(n)から基準値Ch_0(n)を減じることによって得られる容量差分値ΔCh_R(n),ΔCh_L(n)に基づいてステアリングハンドル2の把持の有無を判定する。よってステアリング装置1によれば、ステアリングハンドル2の周辺の環境状態の変化によらず容量差分値ΔCh_R(n),ΔCh_L(n)を一定にすることができるので、精度良く把持の有無を判定することができる。
【0077】
以上のように本実施形態では、容量閾値設定部82は、複数の近接センサ4,5の各々のフィルタ値Ch_R_f(n),Ch_L_f(n)の傾きa_R(n),a_L(n)を比較することによって類似度S(n)を算出したが、本発明はこれに限らない。容量閾値設定部82は、複数の近接センサ4,5の各々のフィルタ値Ch_R_f(n),Ch_L_f(n)の所定の判定期間(例えば、第n-1周期から第n周期までの間)における変化量dCh_R_f(n),dCh_L_f(n)を下記式(12)、(13)に従って算出し、これら変化量dCh_R_f(n),dCh_L_f(n)を比較することによって類似度S(n)を算出してもよい。
dCh_R_f(n)=
Ch_R_f(n)-Ch_R_f(n-1) (12)
dCh_L_f(n)=
Ch_L_f(n)-Ch_L_f(n-1) (13)
【0078】
この場合、容量閾値設定部82は、例えば下記式(14)に従って類似度S(n)を算出する。下記式(14)において、“a1”は、予め定められた正値の係数である。下記式(14)によって定義される類似度S(n)は、各フィルタ値Ch_R_f(n),Ch_L_f(n)の変化傾向の表す変化量dCh_R_f(n),dCh_L_f(n)が近くなるほど、すなわち各フィルタ値Ch_R_f(n),Ch_L_f(n)の変化傾向の類似度合いが高くなるほど、大きな値となる。また類似度S(n)は、各フィルタ値Ch_R_f(n),Ch_L_f(n)の変化傾向の表す変化量dCh_R_f(n),dCh_L_f(n)が離れるほど、すなわち各フィルタ値Ch_R_f(n),Ch_L_f(n)の変化傾向の類似度合いが低くなるほど、小さな値となる。
S(n)=
a1/(|dCh_R_f(n)-dCh_L_f(n)|) (14)
【0079】
また本実施形態では、容量閾値設定部82は、把持判定閾値Ch_thを一定としかつ環境状態の変動に応じて基準値Ch_0を変化させる場合について説明したが、本発明はこれに限らない。容量閾値設定部82は、基準値Ch_0を一定としかつ環境状態の変動に応じて把持判定閾値Ch_thを変化させてもよい。なおこの際、把持判定閾値Ch_thを変化させるタイミングや幅は、
図3に示す基準値設定処理において基準値Ch_0を変化させるタイミングや幅と同じであるので詳細な説明を省略する。この場合、ステアリングハンドル2の周辺の環境状態の変化によらず容量差分値ΔChと把持判定閾値Ch_thとの差を一定にすることができるので、上記実施形態と同様に精度良く把持の有無を判定することができる。
【符号の説明】
【0080】
1…ステアリング装置
2…ステアリングハンドル
20…リム部
3…ステアリングシャフト
4…右近接センサ
40…右電極部
42…右測定回路(測定装置)
5…左近接センサ
50…左電極部(電極部)
52…左測定回路(測定装置)
8…把持センサユニット
80…把持判定装置
81…判定部
82…容量閾値設定部