(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】ステータ分割体、ステータ及びモータ
(51)【国際特許分類】
H02K 1/16 20060101AFI20241217BHJP
H02K 1/18 20060101ALI20241217BHJP
H02K 3/44 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
H02K1/16 Z
H02K1/18 A
H02K1/18 C
H02K3/44 B
(21)【出願番号】P 2022501947
(86)(22)【出願日】2021-02-17
(86)【国際出願番号】 JP2021005988
(87)【国際公開番号】W WO2021166976
(87)【国際公開日】2021-08-26
【審査請求日】2023-08-10
(31)【優先権主張番号】P 2020026637
(32)【優先日】2020-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】亀田 洋平
【審査官】所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-182327(JP,A)
【文献】特開2004-320824(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/16
H02K 1/18
H02K 3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースの内側に嵌合された嵌合状態で前記ケースから径方向内側への圧縮力を受けるステータが、周方向に複数に分割されたうちの一つであるステータ分割体であって、
ステータコアが周方向に複数に分割されたうちの一つであり、ヨーク部及びティース部を有する分割コアと、
前記ティース部が内側に挿入され且つ前記分割コアに対して非接触の状態で配置されるコイルと、
前記コイルが内部に埋設された状態に成形され、前記嵌合状態で前記周方向の圧縮力を受けるモールド樹脂部と、
を有
し、
前記モールド樹脂部は、前記嵌合状態で前記周方向に隣り合う別の前記モールド樹脂部と前記周方向に接するステータ分割体。
【請求項2】
ケースの内側に嵌合された嵌合状態で前記ケースから径方向内側への圧縮力を受けるステータが、周方向に複数に分割されたうちの一つであるステータ分割体であって、
ステータコアが周方向に複数に分割されたうちの一つであり、ヨーク部及びティース部を有する分割コアと、
前記ティース部が内側に挿入され且つ前記分割コアに対して非接触の状態で配置されるコイルと、
前記コイルが内部に埋設された状態に成形され、前記嵌合状態で前記周方向の圧縮力を受けるモールド樹脂部と、
を有し、
前記モールド樹脂部は、前記ヨーク部よりも前記周方向の外側に張り出してい
るステータ分割体。
【請求項3】
ケースの内側に嵌合された嵌合状態で前記ケースから径方向内側への圧縮力を受けるステータが、周方向に複数に分割されたうちの一つであるステータ分割体であって、
ステータコアが周方向に複数に分割されたうちの一つであり、ヨーク部及びティース部を有する分割コアと、
前記ティース部が内側に挿入され且つ前記分割コアに対して非接触の状態で配置されるコイルと、
前記コイルが内部に埋設された状態に成形され、前記嵌合状態で前記周方向の圧縮力を受けるモールド樹脂部と、
を有し、
前記モールド樹脂部は、前記嵌合状態で前記周方向に隣り合う別の前記モールド樹脂部との間に、弾性部材が介在され
るステータ分割体。
【請求項4】
前記弾性部材は、前記モールド樹脂部に取り付けられる請求項3に記載のステータ分割体。
【請求項5】
請求項1~請求項4の何れか1項に記載のステータ分割体を複数備え、当該複数のステータ分割体が円環状に並べられて構成されるステータ。
【請求項6】
ケースの内側に嵌合された嵌合状態で前記ケースから径方向内側への圧縮力を受けるステータであって、
各々がヨーク部及びティース部を有する複数の分割コアが円環状に並べられて構成されるステータコアと、
各前記ティース部が内側に挿入され且つ各前記分割コアに対して非接触の状態で配置される複数のコイルと、
各前記コイルが内部に埋設された状態に成形され、前記複数の分割コアを一体に結合すると共に、前記嵌合状態で前記周方向の圧縮力を受ける複数のモールド樹脂部と、
を備え
、
前記ステータコアの周方向に隣り合う前記複数の分割コアの各前記ヨーク部間に隙間が形成されているステータ。
【請求項7】
前記ステータコアの周方向に隣り合う前記複数の分割コアの各前記ヨーク部間に隙間が形成されている請求項
5に記載のステータ。
【請求項8】
ケースと、
前記ケースの内側に嵌合される請求項5~請求項7の何れか1項に記載のステータと、
永久磁石を有し、前記ステータの内側に配置されるロータと、
を備えたモータ。
【請求項9】
前記隙間における前記周方向の寸法をaとし、
前記ステータと前記ロータとの間の空隙における径方向の寸法をbとし、
前記永久磁石における磁化方向の厚さ寸法をcとする場合、
a/(b+c)<0.07の関係が成立するように構成されている請求項7を引用する請求項8に記載のモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータに関し、特にステータ及び該ステータを周方向に複数に分割したうちの一つであるステータ分割体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許第5181994号公報には、周方向に延在するヨーク部と、該ヨーク部から径方向に延在するティース部とを夫々が備える複数の固定子片(ステータ片)が周方向に組み合わされて形成される分割型固定子(分割型ステータ)が記載されている。この分割型ステータでは、ヨーク部の周方向における両端面から上記周方向に延在する2つのスリットが、複数のステータ片のヨーク部の夫々に形成されている。これにより、複数のステータ片がケースに収められる際に生じる応力を上記2つのスリットの間の領域に集中させることにより、電動機の効率低下の原因となる鉄損を低減させるようにしている。
【0003】
特許2006-333657号公報には、複数のコアプレートが積層されることによって構成されるステータコアをケースに収容させたステータユニットと、該ステータユニットに対して回転自在なロータとを有するモータが開示されている。このモータでは、ステータコアを、第一の部分と、軸線方向で第一の部分の両端部に重なるように固定される第二の部分とから構成している。第一の部分は、ケースの内径よりも小さい外径を有するコアプレートが積層されて構成されている。第二の部分を構成するコアプレートは、第一の部分を構成するコアプレートと同じ外径を有する基部と、該基部の外周部から延設された複数の突起部を有している。そして、これら複数の突起部のみでステータコアとケースとを接触させることにより、ステータコアにおいて応力が作用する領域を小さくするようにしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許第5181994号公報に記載された先行技術では、ケースとステータコアの寸法精度次第では、隣り合う固定子片の内径側においてヨーク部の円周方向端面が互いに強く接することにより、円周方向に圧縮応力が発生するおそれがあり、これを防ぐためには厳しい寸法精度管理が必要となる。しかしながら、そのような寸法精度管理を量産で行うのは非常に困難であり、可能であっても製造コストが増加する原因となる。
【0005】
特許2006-333657号公報に記載された先行技術では、第二の部分を構成するコアプレートの基部の外周部から延設された複数の突起部は、基部に接続された部分において、上記コアプレートの径方向の剛性が高くなっている。このため、ケース及び各突起部の寸法精度次第では、各突起部がケースから受ける径方向の荷重がコアプレートの基部に伝わり、コアプレートの基部(ヨーク部)に高い圧縮応力が発生して、鉄損が増加するおそれがある。
【0006】
本発明は上記事実を考慮し、従来よりも鉄損を低減可能で且つ寸法精度管理が容易なステータ分割体、ステータ及びモータを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様のステータ分割体は、ケースの内側に嵌合された嵌合状態で前記ケースから径方向内側への圧縮力を受けるステータが、周方向に複数に分割されたうちの一つであるステータ分割体であって、ステータコアが周方向に複数に分割されたうちの一つであり、ヨーク部及びティース部を有する分割コアと、前記ティース部が内側に挿入され且つ前記分割コアに対して非接触の状態で配置されるコイルと、前記コイルが内部に埋設された状態に成形され、前記嵌合状態で前記周方向の圧縮力を受けるモールド樹脂部と、を備えている。
【0008】
第1の態様のステータ分割体は、ケースの内側に嵌合された嵌合状態でケースから径方向内側への圧縮力を受けるステータが、周方向に複数に分割されたうちの一つである。このステータ分割体は、ステータコアが周方向に複数に分割されたうちの一つであり、ヨーク部及びティース部を有する分割コアと、ティース部が内側に挿入され且つ分割コアに対して非接触の状態で配置されるコイルと、このコイルが内部に埋設された状態に成形されるモールド樹脂部とを備えている。このモールド樹脂部は、上記嵌合状態で上記周方向の圧縮力を受ける。これにより、分割コアのヨーク部に上記周方向の圧縮応力が発生することを防止又は抑制できるので、鉄損を低減することができる。しかも、モールド樹脂部を構成する成形樹脂は、分割コアよりも剛性が低いため、寸法ばらつきを吸収することができる。これにより、寸法精度管理が容易になる。
【0009】
第2の態様のステータ分割体は、第1の態様のステータ分割体において、前記モールド樹脂部は、前記ヨーク部よりも前記周方向の外側に張り出している。
【0010】
第2の態様のステータ分割体では、モールド樹脂部が分割コアのヨーク部よりもステータの周方向外側に張り出している。このため、複数のステータ分割体からなるステータがケースの内側に嵌合された状態では、上記のように張り出したモールド樹脂部同士が上記周方向に接することにより、分割コアのヨーク部同士が上記周方向に接することを防止又は抑制できる。これにより、分割コアのヨーク部に上記周方向の圧縮応力が発生することを効果的に防止又は抑制できる。
【0011】
第3の態様のステータ分割体は、第1の態様のステータ分割体において、前記モールド樹脂部は、前記嵌合状態で前記周方向に隣り合う別の前記モールド樹脂部との間に、弾性部材が介在される。
【0012】
第3の態様のステータ分割体では、複数のステータ分割体からなるステータがケースの内側に嵌合された状態では、上記の弾性部材がステータの周方向の圧縮力を受ける。これにより、分割コアのヨーク部に上記周方向の圧縮応力が発生することを効果的に防止又は抑制できる。
【0013】
第4の態様のステータ分割体は、第3の態様のステータ分割体において、前記弾性部材は、前記モールド樹脂部に取り付けられる。
【0014】
第4の態様のステータ分割体では、弾性部材がモールド樹脂部に取り付けられるので、複数のステータ分割体からなるステータをケースの内側に嵌合させる作業などが容易になる。
【0015】
第5の態様の発明に係るステータは、第1の態様~第4の態様の何れか1つの態様のステータ分割体を複数備え、当該複数のステータ分割体が円環状に並べられて構成される。
【0016】
第5の態様のステータは、複数のステータ分割体が円環状に並べられて構成される。これら複数のステータ分割体は、第1の態様~第4の態様の何れか1つの態様のものであるため、前述した作用及び効果が得られる。
【0017】
第6の態様のステータは、ケースの内側に嵌合された嵌合状態で前記ケースから径方向内側への圧縮力を受けるステータであって、各々がヨーク部及びティース部を有する複数の分割コアが円環状に並べられて構成されるステータコアと、各前記ティース部が内側に挿入され且つ各前記分割コアに対して非接触の状態で配置される複数のコイルと、各前記コイルが内部に埋設された状態に成形され、前記複数の分割コアを一体に結合すると共に、前記嵌合状態で前記周方向の圧縮力を受ける複数のモールド樹脂部と、を備えている。
【0018】
第6の態様のステータは、ケースの内側に嵌合された嵌合状態でケースから径方向内側への圧縮力を受ける。このステータは、各々がヨーク部及びティース部を有する複数の分割コアが円環状に並べられて構成されるステータコアと、各ティース部が内側に挿入され且つ各分割コアに対して非接触の状態で配置される複数のコイルと、各コイルが内部に埋設された状態に成形される複数のモールド樹脂部とを備えている。これら複数のモールド樹脂部は、複数の分割コアを一体に結合すると共に、上記嵌合状態で上記周方向の圧縮力を受ける。これにより、各分割コアのヨーク部に上記周方向の圧縮応力が発生することを防止又は抑制できるので、鉄損を低減することができる。しかも、各モールド樹脂部を構成する成形樹脂は、各分割コアよりも剛性が低いため、寸法ばらつきを吸収することができる。これにより、寸法精度管理が容易になる。
【0019】
第7の態様のステータは、第5の態様又は第6の態様に記載のステータにおいて、前記ステータコアの周方向に隣り合う前記複数の分割コアの各前記ヨーク部間に隙間が形成されている。
【0020】
第7の態様のステータでは、ステータコアの周方向に隣り合う複数の分割コアの各ヨーク部間に隙間が形成されている。これにより、各ヨーク部に上記周方向の圧縮応力が発生することを防止できる。
【0021】
第8の態様のモータは、ケースと、前記ケースの内側に嵌合される第5の態様~第7の態様の何れか1つの態様のステータと、永久磁石を有し、前記ステータの内側に配置されるロータと、を備えている。
【0022】
第8の態様のモータでは、ケースの内側にステータが嵌合され、当該ステータの内側に永久磁石を有するロータが配置される。上記のステータは、第1の態様~第7の態様の何れか1つの態様のものであるため、前述した作用及び効果が得られる。
【0023】
第9の態様の発明に係るモータは、第7の態様を引用する第8の態様のモータにおいて、前記隙間における前記周方向の寸法をaとし、前記ステータと前記ロータとの間の空隙における径方向の寸法をbとし、前記永久磁石における磁化方向の厚さ寸法をcとする場合、a/(b+c)<0.07の関係が成立するように構成されている。
【0024】
第9の態様のモータでは、ステータコアの周方向に隣り合う複数の分割コアの各ヨーク部間に隙間が形成されている。そして、この隙間における上記周方向の寸法をaとし、ロータとステータとの間の空隙における径方向の寸法をbとし、ロータの永久磁石における磁化方向の厚さ寸法をcとする場合、a/(b+c)<0.07の関係が成立するように構成されている。このように構成することにより、本モータの効率を向上させることができる。つまり、上記の隙間により磁気抵抗が増加するため、磁束を補うためにコイルに流す電流を増やす必要がある。その結果、コイルでの損失が増加するが、上記の関係が成立する場合、コイルでの損失の増加よりも、鉄損減少の効果が上回るので、モータとしての合計の損失は減少する。これにより、本モータでは効率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、本発明に係るステータ分割体、ステータ及びモータでは、鉄損を低減可能で且つ寸法精度管理が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】第1実施形態に係るモータの構成を示す断面図である。
【
図2】第1実施形態に係るステータ分割体の構成を示す断面図である。
【
図3】第1実施形態に係るステータの構成を示す断面図である。
【
図4】第1実施形態に係るモータの効率について説明するための線図である。
【
図5】第2実施形態に係るステータ分割体の構成を示す断面図である。
【
図6】第2実施形態に係るステータの構成を示す断面図である。
【
図7】第3実施形態に係るステータ分割体の構成を示す断面図である。
【
図8】第3実施形態に係るステータの構成を示す断面図である。
【
図9】第4実施形態に係るステータの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<第1の実施形態>
以下、
図1~
図4を用いて、本発明の第1実施形態に係るモータ10について説明する。なお、各図においては、図面を見やすくする関係から、一部の符号を省略している場合がある。
【0028】
図1に示されるように、モータ10は、界磁であるロータ12が電機子であるステータ20の内側に同軸的に配置されたインナロータ型のモータとされている。ロータ12及びステータ20は、有底の円筒状に形成されたケース40内に同軸的に収容されている。
【0029】
ロータ12の中心には回転軸14が設けられており、ロータ12の外周側には複数(ここでは4つ)の永久磁石16が設けられている。複数の永久磁石16は、ロータ12の周方向に並んで設けられており、ロータ12の外周側に形成された複数(ここでは4つ)の磁石挿入孔(符号省略)の内側にそれぞれ挿入されている。これらの永久磁石16は、ロータ12の軸線方向から見て長尺矩形状をなしており、短手方向がロータ12の径方向に沿う姿勢で配置されている。各永久磁石16は、上記の短手方向が磁化方向とされている。
【0030】
ステータ20は、複数(ここでは6つ)のステータ分割体22が円環状に並べられて構成されている。
図2に示されるように、ステータ分割体22は、ステータ20が周方向に複数(ここでは6つ)に等分割されたうちの一つである。このステータ分割体22は、分割コア26と、コイル28と、モールド樹脂部30とを備えている。分割コア26は、
図1及び
図3に示されるステータコア24が周方向に複数に(ここでは6つに)等分割されたうちの一つである。なお、ステータ20の周方向は、ステータコア24の周方向と同じである。以下の説明では、ステータ20の周方向を単に「周方向」と称する場合がある。
【0031】
上記の分割コア26は、ステータ20の周方向に延在するヨーク部26A(
図2以外では符号省略)と、ヨーク部26Aからステータ20の径方向内側へ延出されたティース部26B(
図2以外では符号省略)とによって構成されている。ヨーク部26A及びティース部26Bからなる分割コア26は、ステータ20の軸線方向から見て略T字状をなしている。この分割コア26は、電磁鋼板からなる複数枚の鉄心片が積層されて構成されている。なお、分割コア26は、磁性金属粉体を圧粉成形して形成されたものでもよい。
【0032】
コイル28は、素線29が巻回されて形成されたものである。素線29は、例えば銅、アルミ、銀又はこれらの合金からなる線材が絶縁被膜で覆われた(コーティングされた)ものである。この素線29は、ここでは平角線とされているが、丸線や六角線等であってもよい。このコイル28は、ステータ20の軸線方向を長手とする長尺な長円形状に巻回された巻回部28Aと、巻回部28Aの長手方向一端部側から延出された図示しない一対のコイルエンド部とによって構成されている。各ステータ分割体22のコイル28は、コイルエンド部同士が所定の結線方法により結線される構成になっている。
【0033】
上記のコイル28は、その内側(すなわち巻回部28Aの内側)に分割コア26のティース部26Bが挿入され且つ分割コア26のヨーク部26A及びティース部26Bに対して非接触の状態で配置されている。このコイル28は、一対のコイルエンド部の先端側を除く大部分が、分割コア26にモールド成形されたモールド樹脂部30内に埋設されている。
【0034】
モールド樹脂部30は、例えばエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂等に、非磁性体の粉末がフィラーとして混練されたものであり、熱伝導性及び絶縁性を有している。このモールド樹脂部30は、コイル28が内部に埋設された状態に成形されている。詳細には、このモールド樹脂部30によって、コイル28の巻回部28A及び一対のコイルエンド部の基端側が外側から覆われている。また、このモールド樹脂部30は、分割コア26とコイル28との間及びコイル28の素線29の間に充填されている。このモールド樹脂部30が設けられることにより、コイル28で発生する熱が分割コア26を介してケース40に伝達され、ケース40から放熱される。これにより、コイル28の冷却性能を向上させるようにしている。
【0035】
上記のモールド樹脂部30は、一例として、単一の成形樹脂によって構成されており、分割コア26とコイル28との間及びコイル28の素線29の間には、モールド樹脂部30とは別に成形された樹脂部が存在していない構成になっている。つまり、本実施形態では、分割コア26とコイル28との間及びコイル28の素線29の間には、一回の射出成形で成形された樹脂のみが存在している。このモールド樹脂部30では、分割コア26とコイル28との間に充填された樹脂と、コイル28の素線29の間に充填された樹脂との間に、それらの樹脂同士が熱溶着(熱融着)した部分が存在していない構成になっている。なお、上記のように、モールド樹脂部30を分割コア26及びコイル28と一体に成形する構成に限るものではない。例えば、分割コア26にインシュレータを装着してからコイル28を巻回し、その後にモールド樹脂部30を成形する構成にしてもよい。
【0036】
このモールド樹脂部30は、分割コア26よりもステータ20の軸線方向の長さ寸法が長く設定されており、分割コア26に対して上記軸線方向の両側に突出している。このモールド樹脂部30は、軸線方向から見て略台形状(略扇形状)をなしており、周方向の両端面31(
図2以外では符号省略)がヨーク部26Aの周方向の両端面27(
図2以外では符号省略)と同じ角度で傾斜している。
【0037】
但し、モールド樹脂部30の周方向の両端面31は、ヨーク部26Aの周方向の両端面27よりも僅かに周方向の両外側に突出している。つまり、モールド樹脂部30は、ヨーク部26Aよりも周方向の外側に張り出している。また、ティース部26Bの先端は、モールド樹脂部30の外側に露出している。なお、
図2では、モールド樹脂部30における上記の張り出しを誇張して図示している。
【0038】
上記構成のステータ分割体22を複数備えるステータ20は、
図1及び
図3に示されるように、複数のステータ分割体22が円環状に並べられて構成される。このステータ20は、圧入や焼き嵌め等の手段でケース40の内側に嵌合される。この嵌合状態では、ステータ20がケース40から径方向内側への圧縮力CF(
図3参照;
図1では図示省略)を受けるように、ステータ20の外径寸法及びケース40の内径寸法が設定されている。そして、上記の圧縮力CFによりステータ20がケース40に固定される。つまり、本実施形態では、ステータ20が所謂締り嵌め(しまりばめ)によってケース40に固定される構成になっている。
【0039】
また、上記の嵌合状態では、各ステータ分割体22のモールド樹脂部30が周方向の圧縮力(図示省略)を受けるように構成されている。つまり、上記の嵌合状態では、周方向に隣り合うステータ分割体22のモールド樹脂部30同士が互いに周方向に押し当てられることにより、上記周方向の圧縮力が発生する。
【0040】
また、本実施形態では、前述したように、各ステータ分割体22において、モールド樹脂部30がヨーク部26Aよりも周方向の両外側に張り出しているため、上記の嵌合状態では、周方向に隣り合う分割コア26のヨーク部26A間に隙間32(
図1及び
図3参照)が形成されるように構成されている。そして、
図1に示されるように、上記の隙間32における周方向の寸法をaとし、ステータ20とロータ12との間の空隙34における径方向の寸法をbとし、永久磁石16における磁化方向の厚さ寸法をcとする場合、a/(b+c)<0.07の関係が成立するように構成されている。つまり、上記のaがb+cの7%未満に設定される構成になっている。なお、上記のように、各ステータ分割体22において、モールド樹脂部30がヨーク部26Aよりも周方向の両外側に張り出した構成に限るものではない。各ステータ分割体22において、モールド樹脂部30がヨーク部26Aに対して周方向の片側のみに張り出した構成にしてもよい。その場合でも、モールド樹脂部30の上記片側への張り出し量の調整により、周方向に隣り合う分割コア26のヨーク部26A間に隙間32を形成することができる。
【0041】
(作用及び効果)
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0042】
上記構成のモータ10では、ケース40の内側にステータ20が嵌合され、当該ステータ20の内側にロータ12が配置されている。上記のステータ20は、複数のステータ分割体22が円環状に並べられて構成されている。各ステータ分割体22は、分割コア26と、コイル28と、モールド樹脂部30とを備えている。分割コイル28は、ステータコア24が周方向に複数に分割されたうちの一つであり、ヨーク部26A及びティース部26Bを有している。コイル28は、ティース部26Bが内側に挿入され且つ分割コア26に対して非接触の状態で配置されている。モールド樹脂部30は、コイル28が内部に埋設された状態に成形されている。
【0043】
このモータ10では、上記のようにケース40の内側にステータ20が嵌合された嵌合状態では、ステータ20がケース40から径方向内側への圧縮力CFを受ける。その結果、各ステータ分割体22のモールド樹脂部30が周方向の圧縮力を受けるようになっている。これにより、分割コア26のヨーク部26Aに周方向の圧縮応力が発生することを防止又は抑制できる。
【0044】
詳細には、本実施形態では、各モールド樹脂部30が各ヨーク部26Aよりも周方向外側に張り出している。このため、上記の嵌合状態では、そのように張り出したモールド樹脂部30同士が周方向に接することにより、各ヨーク部26A間に隙間32が形成されており、各ヨーク部26A同士が周方向に接することが防止されている。これにより、各ヨーク部26Aに周方向の圧縮応力が発生することを防止できるので、モータ10の効率低下の原因となる鉄損を大幅に低減することができる。しかも、モールド樹脂部30を構成する成形樹脂は、分割コア26よりも剛性が低い(柔軟性がある)ため、寸法ばらつきを吸収することができる。これにより、寸法精度管理が容易になる。
【0045】
また、本実施形態では、上記の隙間32における周方向の寸法をaとし、ロータ12とステータ20との間の空隙34における径方向の寸法をbとし、ロータ12の永久磁石16における磁化方向の厚さ寸法をcとする場合、a/(b+c)<0.07の関係が成立するように構成されている。このように構成することにより、モータ10の効率を向上させることができる。
【0046】
つまり、上記の隙間32により磁気抵抗が増加するため、従来のモータと同等のトルクを出力する場合は、磁気抵抗増加により減少した磁束を補うために、各コイル28に流す電流を増やす必要がある。その結果、コイル28での損失が増加するが、上記の関係が成立する場合、コイル28での損失の増加よりも、鉄損減少の効果が上回るので、モータ10としての合計の損失は減少する。これにより、モータ10の効率を向上させることができる。
【0047】
なお、
図4には、本実施形態においてa/(b+c)を変化させた場合のモータ10の効率が線図にて示されている。この
図4において破線は、ステータが所謂締り嵌めによってケースに固定される従来の一般的なモータの効率を示している。この従来のモータでは、ステータコアのヨーク部に対して例えば周方向に20MPaの圧縮応力が作用している。この
図4に示されるように、a/(b+c)が0.07より小さくなると、モータ10の効率が、従来のモータの効率よりも高くなる。
【0048】
上記の効果について補足すると、従来のモータにおいて、外周部が平滑な円筒状のステータをケースに固定する場合、一般的には締り嵌めで固定される。この場合、ステータコア外周面に径方向内側への荷重が加わることにより、ステータコアのヨーク部には周方向の圧縮応力が発生し、これにより鉄損が増加する。上記のように締り嵌めでステータをケースに固定する以上、上記の圧縮応力が発生するが、それを極力低減する為には寸法精度を厳しくする必要がある。しかしながら、現実的にはステータコアやケースに一定量の寸法ばらつきが生じる。また、ステータコア及びケースは剛性が高いため、僅かな寸法ばらつきによって固定力が大きく変化する。したがって、場合によっては必要な固定力が得られなくなるおそれがあるが、これを防止するためには確実に必要な固定力が発生する締り嵌めになるような寸法公差でステータコア及びケースが設計される。そうすると、ばらつきの範囲内で最大の締り嵌め代になる場合は、必要以上の締り嵌め代によって過度な固定力がステータコアに作用し、ステータコアのヨーク部の圧縮応力が増加してしまうことにより、鉄損が増加してしまう。
【0049】
この点、本実施形態では、ステータ分割体22のモールド樹脂部30がヨーク部26Aよりも周方向の外側に張り出しており、締り嵌め時に発生する周方向の圧縮応力をモールド樹脂部30で負担して、ヨーク部26Aに対して周方向の圧縮応力が加わらないようにしている。これにより、鉄損を減少させ、モータ10の性能を向上させつつ、剛性が低いモールド樹脂部30によって寸法ばらつきを吸収することにより、寸法精度管理を容易にしている。なお、分割コア26のティース部26Bにはモールド樹脂部30を介して周方向の圧縮応力が加わるが、主磁束方向はティース部26Bの長手方向(ステータ20の径方向)であり、圧縮応力方向と直交しているため、この圧縮応力によって鉄損は増加しない。
【0050】
なお、上記第1実施形態では、モールド樹脂部30がヨーク部26Aよりも周方向の外側に張り出すことにより、周方向に隣り合うヨーク部26A間に隙間32が形成された構成にしたが、これに限らず、隙間32が形成されない構成にしてもよい。その場合でも、モールド樹脂部30が周方向の圧縮力を受けることにより、ヨーク部26Aに発生する周方向の圧縮応力を低減することができるので、鉄損を低減することができる。
【0051】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。なお、説明済みの実施形態と基本的に同様の構成及び作用については、説明済みの実施形態と同符号を付与しその説明を省略する。
【0052】
<第2の実施形態>
図5には、本発明の第2実施形態に係るステータ分割体22が断面図にて示されており、
図6には、本発明の第2実施形態に係るステータ20が断面図にて示されている。この実施形態に係るステータ20及びステータ分割体22は、第1実施形態に係るステータ20及びステータ分割体22と基本的に同様の構成とされているが、以下の点が相違している。
【0053】
この実施形態に係るステータ分割体22では、モールド樹脂部30の周方向の両端面31と、ヨーク部26Aの周方向の両端面27とが同一平面上に配置されている。また、モールド樹脂部30における周方向の端面31には、周方向の内側へ凹んだ凹部36(
図6では符号省略)が形成されている。そして、周方向一方側の凹部36には、
図5に示されるように、弾性部材42が嵌合されて取り付けられている。この弾性部材42は、例えば板ばね、圧縮コイルばね、弾性を有する樹脂などとされている。なお、凹部36への弾性部材42の取付方法は、嵌合に限らず、接着等の他の方法であってもよい。
【0054】
上記構成のステータ分割体22が円環状に複数並んで構成されるステータ20では、周方向に隣り合うモールド樹脂部30の間に弾性部材42が介在される。このステータ20がケース40の内側に嵌合された嵌合状態では、周方向に隣り合うモールド樹脂部30同士が、上記の弾性部材42を介して周方向の圧縮力を受ける構成になっている。なお、
図6では、周方向に隣り合うステータ分割体22の間に隙間32が形成されない例を示しているが、これに限らず、周方向に隣り合うステータ分割体22の間に隙間32が形成される構成にしてもよい。
【0055】
但しその場合も、隙間32における周方向の寸法をaとし、ロータ12(
図6では図示省略)とステータ20との間の空隙34における径方向の寸法をbとし、ロータ12の永久磁石16における磁化方向の厚さ寸法をcとする場合、a/(b+c)<0.07の関係が成立するように構成することが好ましい。この実施形態では、上記以外の構成は第1実施形態と同様とされている。
【0056】
この実施形態では、各ステータ分割体22のモールド樹脂部30が弾性部材42を介して周方向の圧縮力を受ける。これにより、分割コア26のヨーク部26Aに周方向の圧縮応力が発生することを効果的に防止又は抑制でき、第1実施形態と基本的に同様の作用効果を得ることができる。しかも、この実施形態では、弾性部材42がモールド樹脂部30に取り付けられるので、複数のステータ分割体22からなるステータ20をケース40の内側に嵌合させる作業などが容易になる。
【0057】
<第3の実施形態>
図7には、本発明の第3実施形態に係るステータ分割体22が断面図にて示されており、
図8には、本発明の第3実施形態に係るステータ20が断面図にて示されている。この実施形態に係るステータ20及びステータ分割体22は、第1実施形態に係るステータ20及びステータ分割体22と基本的に同様の構成とされているが、以下の点が相違している。
【0058】
この実施形態に係るステータ分割体22では、モールド樹脂部30の周方向の両端面31が、ヨーク部26Aの周方向の両端面27よりも周方向の内側に凹んでいる。そして、モールド樹脂部30の周方向一方側の端面には、例えば接着等の手段で弾性部材44が取り付けられている。この弾性部材44は、例えば弾性を有する樹脂製の板材であり、板厚方向が周方向に沿う姿勢で配置されている。このステータ20がケース40の内側に嵌合された嵌合状態では、周方向に隣り合うモールド樹脂部30同士が、上記の弾性部材44を介して周方向の圧縮力を受ける構成になっている。なお、
図6では、周方向に隣り合うステータ分割体22の間に隙間32が形成される例を示しているが、これに限らず、周方向に隣り合うステータ分割体22の間に隙間32が形成されない構成にしてもよい。この実施形態では、上記以外の構成は第1実施形態と同様とされている。
【0059】
この実施形態では、各ステータ分割体22のモールド樹脂部30が弾性部材44を介して周方向の圧縮力を受ける。この実施形態においても、第2実施形態と基本的に同様の作用効果を得ることができる。
【0060】
<第4の実施形態>
図9には、本発明の第4実施形態に係るステータ20が断面図にて示されている。この実施形態に係るステータ20は、第1実施形態に係るステータ20と基本的に同様の構成とされているが、以下の点が相違している。このステータ20では、複数(ここでは6つの分割コア26が、複数(ここでは6つ)のモールド樹脂部30によって一体に結合されている。なお、
図9では、周方向に隣り合うステータ分割体22の間に隙間32が形成される例を示している。このステータ20を製造する際には、前述したa/(b+c)<0.07の関係が満たされるように、治具を用いて複数の分割コア26を円環状に固定した状態で、モールド成形を行う。この実施形態では、上記以外の構成は第1実施形態と同様とされている。
【0061】
この実施形態においても、ケース40の内側にステータ20が嵌合された嵌合状態では、ステータ20がケース40から径方向内側への圧縮力CFを受けることにより、複数のモールド樹脂部30が周方向の圧縮力を受ける。これにより、第1実施形態と基本的に同様の作用効果を得ることができる。
【0062】
なお、上記各実施形態において、分割コア26やモールド樹脂部30などの数は一例であり、適宜変更することができる。
【0063】
その他、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲が上記各実施形態に限定されないことは勿論である。
【0064】
また、2020年2月19日に出願された日本国特許出願2020-026637号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個別に記載された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。