(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】セメント混和材およびセメント組成物
(51)【国際特許分類】
C04B 22/14 20060101AFI20241217BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20241217BHJP
C04B 22/06 20060101ALI20241217BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20241217BHJP
C04B 111/27 20060101ALN20241217BHJP
【FI】
C04B22/14 D
C04B22/08 A
C04B22/08 Z
C04B22/06 Z
C04B22/14 B
C04B28/02
C04B111:27
(21)【出願番号】P 2022528781
(86)(22)【出願日】2021-05-27
(86)【国際出願番号】 JP2021020245
(87)【国際公開番号】W WO2021246288
(87)【国際公開日】2021-12-09
【審査請求日】2023-05-26
(31)【優先権主張番号】P 2020096100
(32)【優先日】2020-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【氏名又は名称】伊藤 高志
(72)【発明者】
【氏名】島崎 大樹
(72)【発明者】
【氏名】本間 一也
(72)【発明者】
【氏名】森 泰一郎
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-322848(JP,A)
【文献】特開2003-073155(JP,A)
【文献】特開2010-126408(JP,A)
【文献】特開2006-219319(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00-32/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)イーリマイト、カルシウムシリケート、およびカルシウムアルミノフェライトからなる群より選ばれた一種又は二種以上の水硬性化合物と、(B)遊離石灰と、(C)無水石膏と、(D)アルミナシリカ粉末
とを含有
し、
(A)水硬性化合物が15~20質量%、(B)遊離石灰が25~43質量%、(C)無水石膏が25~35質量%、(D)アルミナシリカ粉末が17~28質量%であるセメント混和材。
【請求項2】
ブレーン比表面積が4,500cm
2/g以上である請求項1記載のセメント混和材。
【請求項3】
化学成分としてCaOが40~65質量部、Al
2O
3が5~15質量部、SiO
2が5~30質量部、SO
3が20~30質量部である請求項1又は2に記載のセメント混和材。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載のセメント混和材とセメントとを含有してなるセメント組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、土木・建築分野などで使用されるセメント混和材およびセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セメントコンクリートの防水性を促進させる方法としては、水/セメント比をできる限り小さくするため、JIS A 6204「コンクリート用化学混和剤」で規定されているように、減水剤や高性能減水剤を使用することが一般的に普及している。
【0003】
一方、水粉体比の低減によらず、防水性を向上させる方法としては、例えばカルシウムサルホアルミネート化合物と白土焼成物を混和してなる混和材(特許文献1参照)や、撥水剤と炭酸化混和材をセメントに混合する方法(特許文献2参照)、撥水材を充填材(骨材)に被覆すること(特許文献3参照)、撥水剤をセメントコンクリート硬化体の表面に塗布すること(特許文献4参照)が行われている。
【0004】
しかしながら、セメントコンクリートは硬化収縮や乾燥収縮などによりひび割れが発生する危険性があり、防水性をセメントコンクリートに付与させることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-219319号公報
【文献】特開2012-111640号公報
【文献】特開平1-317140号公報
【文献】特開2004-231488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、コンクリートの防水性を増進させるセメント混和材およびセメント組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、特定の水硬性化合物と遊離石灰と無水石膏とアルミナシリカ粉末との組み合わせにより当該課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち本発明は下記のとおりである。
【0008】
[1] (A)イーリマイト、カルシウムシリケート、およびカルシウムアルミノフェライトからなる群より選ばれた一種又は二種以上の水硬性化合物と、(B)遊離石灰と、(C)無水石膏と、(D)アルミナシリカ粉末と、を含有するセメント混和材。
[2] ブレーン比表面積が4,500cm2/g以上である[1]記載のセメント混和材。
[3] 化学成分としてCaOが40~65質量部、Al2O3が5~15質量部、SiO2が5~30質量部、SO3が20~30質量部である[1]又は[2]に記載のセメント混和材。
[4] (A)水硬性化合物が15~20質量%、(B)遊離石灰が25~43質量%、(C)無水石膏が25~35質量%、(D)アルミナシリカ粉末が17~28質量%である、[1]~[3]のいずれかに記載のセメント混和材。
[5] [1]~[4]のいずれかに記載のセメント混和材とセメントとを含有してなるセメント組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、コンクリートの防水性を増進させるセメント混和材およびセメント組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態(本実施形態)を詳細に説明するが、本発明は当該実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書における「部」や「%」は、特に規定しない限り質量基準とする。また、「セメントコンクリート」とは、セメントペースト、モルタル、コンクリートの総称である。
【0011】
[セメント混和材]
本実施形態のセメント混和材は、(A)イーリマイト、カルシウムシリケート、およびカルシウムアルミノフェライトからなる群より選ばれた一種又は二種以上の水硬性化合物と、(B)遊離石灰と、(C)無水石膏と、(D)アルミナシリカ粉末と、を含有する。
上記4種を含有することで、コンクリートの防水性を増進させることが可能で、特に、セメント混和材および当該セメント混和材を含むセメント組成物の反応を適切な時期に活性化させ、セメントコンクリートのひび割れを防ぎ防水性を付与させることができる。
以下、各成分について説明する。
【0012】
(A)水硬性化合物:
本実施形態の水硬性化合物は、イーリマイト、カルシウムシリケート、およびカルシウムアルミノフェライトからなる群より選ばれた一種又は二種以上である。
これらの水硬性化合物によれば、水和によって生成するエトリンガイトやカルシウムシリケート水和物、カルシウムアルミノシリケート水和物、カルシウムアルミネート水和物が空隙を充填することによって、組織を緻密化し防水性を向上させることができる。
【0013】
(イーリマイト)
イーリマイトはカルシウムサルホアルミネートやアウインとも言われ、3CaO・3Al2O3・CaSO4の化学式で示される鉱物である。
【0014】
イーリマイトは、例えば、石灰石などの石灰原料、石膏などの硫酸塩原料、およびボーキサイトなどのアルミナ原料などを原料として、例えば、CaO:CaSO4:Al2O3のモル比で3:1:3の割合で配合し、キルンなどを用いて1500℃程度で焼成し、粉砕して製造される。
【0015】
イーリマイトは、ブレーン比表面積値(JIS R5201、以下、ブレーン値という)が2,000~4,000cm2/gのものC1と、5,000~8,000cm2/gのものC2とを混合して用いるのが好ましい。C1とC2の混合比C1/C2は2~5が好ましく、2.5~3.5がより好ましい。2以上であることで反応速度が低下することなく良好な防水効果が期待できる。5以下であるとセメントコンクリートのブリーディング水が減少し、ブリーディング水による空洞を減少させることによって防水効果が期待できる。
【0016】
(カルシウムシリケート)
カルシウムシリケートは、CaO-SiO2系を総称するものであり特に限定されるものではないが、一般的に、2CaO・SiO2や3CaO・SiO2がよく知られている。
【0017】
カルシウムシリケートは、反応速度の観点から、ブレーン値で2000~4500cm2/gであることが好ましく、2500~4000cm2/gであることがより好ましい。
【0018】
(カルシウムアルミノフェライト)
カルシウムアルミノフェライトはCaO、Al2O3、Fe2O3を主成分とする化合物を総称するもので、4CaO・Al2O3・Fe2O3(C4AF)、6CaO・2Al2O3・Fe2O3(C6A2F)、6CaO・Al2O3・2Fe2O3(C6AF2)などが知られている。
【0019】
本実施形態のカルシウムアルミノフェライトは、例えば、カルシアを含む原料(CaO原料)、アルミナを含む原料(Al2O3原料)、フェライトを含む原料(Fe2O3原料)などを混合して、キルンや電気炉での焼成などの熱処理をして得られる。
【0020】
カルシウムアルミノフェライトは、可使時間の観点から、ブレーン値で2000~7000cm2/gであることが好ましく、3000~6000cm2/gであることがより好ましい。
【0021】
以上のような水硬性化合物のうち、水和反応のタイミング、膨張特性付与の観点から、イーリマイトを50%以上含むことが好ましく、70%以上含むことがより好ましい。
【0022】
(B)遊離石灰:
遊離石灰とは、通常、f-CaO(フリーライム)と呼ばれるものである。本実施形態に係るセメント混和材中に遊離石灰が含有されることで、水硬性物質の反応に消費されるカルシウム分を供給することができる。また、遊離石灰により膨張特性が付与される結果、乾燥収縮が抑制される。
【0023】
遊離石灰の粉末度は、長期強度や膨張性の観点から、ブレーン値で2000~7000cm2/gであることが好ましく、3000~6000cm2/gであることがより好ましい。
【0024】
(C)無水石膏:
無水石膏は何れの結晶構造のものでもよい。無水石膏を含有することで、初期から長期にわたる全体的な強度を良好にすることができる。
【0025】
無水石膏の粉末度は反応性の観点から、ブレーン値で2000~5000cm2/gであることが好ましく、2500~4500cm2/gであることがより好ましい。
【0026】
(D)アルミナシリカ粉末
アルミナシリカ粉末としては、例えば、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、メタカオリン、シリカフューム、下水汚泥、火山灰、活性白土、白土焼成物が含まれる。
【0027】
アルミナシリカ粉末の粉末度は硬化体組織への充填性の観点から、ブレーン値で2500cm2/g以上であることが好ましく、3500cm2/g以上であることがより好ましい。
【0028】
セメント混和材の比表面積は、ブレーン値で4,500cm2/g以上であることが好ましく、4,500~5,500cm2/gがより好ましい。4,500cm2/g以上であることで、より良好な防水効果が期待できる。
【0029】
セメント混和材の化学成分は、良好な防水効果や強度発現の観点からCaOが40~65部、Al2O3が5~15部、SiO2が5~30部、SO3が20~30部であることが好ましい。化学成分の含有量は、蛍光X線により求めることができる。
【0030】
また、より良好な防水効果の観点からセメント混和材中、(A)水硬性化合物は15~20質量%、(B)遊離石灰は25~43質量%、(C)無水石膏は25~35質量%、(D)アルミナシリカ粉末は17~28質量%であることが好ましい。
これらの含有量は、化学成分と粉末X線回折の同定結果に基づいて、計算によって求めることが好ましい。
【0031】
以上のような本実施形態のセメント混和材は、セメントコンクリートの防水性を増進させることができるので、防水用セメント混和材として用いることが好ましい。また、良好な膨張性をも示すため、膨張材、あるいは防水用膨張材として用いることがより好ましい。
【0032】
[セメント組成物]
本実施形態に係るセメント組成物は、本発明のセメント混和材とセメントとを含有してなる。
セメント混和材の使用量は、セメント100部に対して、0.6~20部が好ましく、1.0~10部がより好ましい。使用量が0.6~20部であることで、良好な防水効果と強度が得られる。
【0033】
ここで、セメントとしては特に限定されるものではなく、通常のセメントが使用可能であり、具体的には、普通、早強、趙早強、低熱、および中庸熱などの各種ポルトンランドセメント、これらポルトランドセメントに高炉スラグ、フライアッシュ、またはシリカを混合した各種混合セメント、また、石灰石微粉末や高炉徐冷スラグ微粉末を混合したフィラーセメント、廃棄物利用型セメント、いわゆる、エコセメントなどが挙げられ、これらのうちの1種または2種以上が併用可能である。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
(実験例1)
表1に示す割合になるように(A)水硬性化合物、(B)遊離石灰、(C)無水石膏、(D)アルミナシリカ粉末を混合してセメント混和材(防水用膨張材)を作製した。この混和材を、セメント100部に対して3.5部配合し、スランプ12±2.5cm、空気量4.5±1.5%、W/C60%、s/a48%のコンクリート配合を用いて、混練りしてコンクリートを得た。
なお、セメントは288kg/m3、細骨材は865kg/m3、粗骨材は987kg/m3、水は173kg/m3とした。
得られたコンクリートの透水比と圧縮強度を測定した。また、セメント混和材をセメント100部に対して10部配合し、同様に作製したコンクリートの長さ変化率を測定した。結果を表1に示す。
【0035】
<使用材料>
水 :水道水
セメント :普通ポルトランドセメント、比重3.16
(A)水硬性化合物 :イーリマイト(結晶質の3CaO・3Al2O3・CaSO4、強熱減量1.0%、ブレーン値5500cm2/g)
(B)遊離石灰 :石灰石粉末を電気炉を用いて1300℃で焼成し、粉砕したもの(ブレーン値4500cm2/g)
(C)無水石膏 :市販品(ブレーン値4000cm2/g)
(D)アルミナシリカ粉末 :フライアッシュ(JIS A 6201「コンクリート用フライアッシュ」に規定されるフライアッシュII種、ブレーン値3,500cm2/g)
細骨材 新潟県姫川産天然砂、比重2.62
粗骨材 :新潟県姫川産砕石、最大寸法25mm、比重2.64
【0036】
<評価方法>
スランプ :JIS A 1101に準じて測定
空気量 :JIS A 1128に準じて測定
【0037】
透水比 :コンクリート打ち込み後、φ100mm×100mmの円柱供試体を用い、7日間20℃の水中で養生し、透水試験を行った。試験方法はアウトプット法とし、試験体外側面から1.0MPaの水圧を500時間加え、にじみでる水量を測定し透水量とした。セメント混和材無しの透水量を分母とし、除した値を透水比とした。
【0038】
圧縮強度 :JIS A 1108に準じて材齢28日で測定した。
長さ変化率:JIS A 6202に準じて材齢7日の長さ変化率を測定した。評価は、長さ変化率が200×10―6以上を良、150×10―6以上、200×10―6未満を可、150×10―6未満を不可とした。
【0039】
【0040】
(実験例2)
(A)水硬性化合物、(B)遊離石灰、(C)無水石膏、(D)アルミナシリカ粉末を表2に示す割合で混合したセメント混和材とし、コンクリートを作製し、各種評価をしたこと以外は実施例1と同様に行った。結果を表2に併記する。
【0041】
【0042】
(実験例3)
実験No.1-6の(A)水硬性化合物であるイーリマイトを、カルシウムシリケート(実験No.3-1)、およびカルシウムアルミノフェライト(実験No.3-2)に変更してセメント混和材とし、コンクリートを作製し、各種評価をしたこと以外は実施例1と同様に行った。結果を表3に示す。
【0043】
【0044】
(実験例4)
実験No.1-6の(D)アルミナシリカ粉末であるフライアッシュを、高炉スラグ微粉末(実験No.4-1)、白土焼成物(実験No.4-2)、およびシリカフューム(実験No.4-3)に変更してセメント混和材とし、コンクリートを作製し、各種評価をしたこと以外は実施例1と同様に行った。結果を表4に示す。
【0045】
【0046】
本発明のセメント混和材により、例えば、セメントコンクリートの防水性を向上させることができ、ひび割れも防ぐことができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、主に、土木・建築分野などで使用されるセメントコンクリートの防水性を促進するセメント混和材およびセメント組成物として有効である。