(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】平版印刷版原版および使用方法
(51)【国際特許分類】
B41N 1/14 20060101AFI20241217BHJP
G03F 7/00 20060101ALI20241217BHJP
G03F 7/004 20060101ALI20241217BHJP
G03F 7/029 20060101ALI20241217BHJP
G03F 7/027 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
B41N1/14
G03F7/00 503
G03F7/004 505
G03F7/029
G03F7/004 507
G03F7/027
G03F7/004 501
(21)【出願番号】P 2022556202
(86)(22)【出願日】2021-03-10
(86)【国際出願番号】 US2021021600
(87)【国際公開番号】W WO2021194741
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2024-03-06
(32)【優先日】2020-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590000846
【氏名又は名称】イーストマン コダック カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ・フィーマン
(72)【発明者】
【氏名】サイジャ・ワーナー
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー・ディー・シンプソン
(72)【発明者】
【氏名】ステファニー・ハンスマン
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-507658(JP,A)
【文献】特開2007-277111(JP,A)
【文献】特開2014-048508(JP,A)
【文献】特表2018-505879(JP,A)
【文献】国際公開第2018/160379(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0021656(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第109752921(CN,A)
【文献】独国特許出願公開第102005048193(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41N 1/14
G03F 7/00
G03F 7/004
G03F 7/029
G03F 7/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に配置された赤外線放射感受性画像記録層と
を含む平版印刷版原版であって、
前記赤外線放射感受性画像記録層が、
a)フリーラジカル重合性成分と;
b)赤外線放射吸収剤と;
c)フリーラジカルを生成することができる開始剤組成物と;
d)ボレート化合物と;
e)赤外線放射感受性画像記録層の赤外線放射への露光中または露光後に着色ボロン酸錯体を形成することができる化合物と
を含み、
前記ボレート化合物が以下の構造(I)
B
-(R
1)(R
2)(R
3)(R
4)Z
+ (I)
(式中、
R
1、R
2、R
3、およびR
4は独立に、ボレートアニオンのホウ素原子に結合した、場合により置換されたアルキル、アリール、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、または複素環式基を表し、あるいは
R
1、R
2、R
3、およびR
4のうちの2つ以上は結合して、ホウ素原子を含む複素環式環を形成し、前記複素環式環は最大7個の炭素、窒素、酸素、または硫黄原子を有し;
Z
+はボレートアニオンの電荷の釣り合いを保たせるためのカチオンである)
によって表され
、
前記e)着色ボロン酸錯体を形成することができる化合物が、以下の部分構造(III)、および(IV):
【化1】
【化2】
のうちの1つまたは複数の1つまたは複数の出現を含む、平版印刷版原版。
【請求項2】
前記c)開始剤組成物が、フリーラジカルを生成することができる少なくとも1つのオニウム塩を含む、請求項1に記載の平版印刷版原版。
【請求項3】
赤外線放射露光後、前記赤外線放射感受性画像記録層が、平版インク、湿し水、または平版インクと湿し水との組み合わせを使用してオンプレスで現像可能である、請求項1
又は2に記載の平版印刷版原版。
【請求項4】
前記d)ボレート化合物と前記e)着色ボロン酸錯体を形成することができる化合物のモル比が少なくとも0.05:1および20:1以下である、請求項1
乃至3のいずれかに記載の平版印刷版原版。
【請求項5】
前記e)着色ボロン酸錯体を形成することができる化合物が前記部分構造(III)の1つまたは複数の出現を含む、請求項
1乃至4のいずれかに記載の平版印刷版原版。
【請求項6】
前記e)着色ボロン酸錯体を形成することができる化合物が以下の構造(V):
【化3】
(式中、Ar
1およびAr
2は独立に、置換もしくは非置換炭素環式芳香族基または置換もしくは非置換複素芳香族基であり;mおよびnは独立に、0、1、2、または3である)
によって表される、請求項
5に記載の平版印刷版原版。
【請求項7】
前記e)着色ボロン酸錯体を形成することができる化合物が以下の構造(VI):
【化4】
(式中、R
1およびR
2は独立に、ヒドロキシ、ハロゲン、アルキル、アルコキシ、アルキルカルボニル、アルキルカルボニルオキシ、アルコキシカルボニル、アリール、アリールオキシ、ニトロ、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アリールアミノ、ジアリールアミノ、およびアセチルアミノ基からなる群から選択される置換基であり、この置換基は、結合しているベンゼン環のオルト位、メタ位およびパラ位のいずれかに位置し;mおよびnは独立に、0、1、2、または3であり;pおよびqは独立に、0~5である)
によって表される、請求項
5に記載の平版印刷版原版。
【請求項8】
前記赤外線放射感受性画像記録層が1つまたは複数の酸感受性染料前駆体をさらに含む、請求項1
乃至7のいずれかに記載の平版印刷版原版。
【請求項9】
平版印刷版を提供する方法であって、
A)請求項1
乃至8のいずれかに記載の平版印刷版原版を赤外線放射に画像様露光して、前記赤外線放射感受性画像記録層に露光領域および非露光領域を得る工程と、
B)前記基板から前記赤外線放射感受性画像記録層の前記非露光領域を除去する工程と
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線放射を使用して画像形成され、画像形成平版印刷版を提供することができる赤外線放射感受性平版印刷版原版に関する。このような原版は、画像様露光赤外線放射感受性画像記録層の露光領域と非露光領域との間で安定なプリントアウト画像を提供する特有の赤外線放射感受性組成物を含む。本発明はまた、優れたプリントアウト画像を有する平版印刷版を提供するためにこれらの原版を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
平版印刷では、画像領域として知られている平版インク受容領域が、アルミニウム含有基板などの平面基板の親水性表面上に生成される。印刷版表面を水で湿らせ、平版印刷インクを塗布すると、親水性領域は水を保持し、平版印刷インクを跳ね返し、平版インク受容画像領域は平版印刷インクを受容し、水を跳ね返す。平版印刷インクは、おそらく印刷機でブランケットローラーを使用して、画像が複製される材料の表面に転写される。
【0003】
平版印刷版を調製するのに有用なネガ型平版印刷版原版は、典型的には基板の親水性表面上に配置されたネガ型放射感受性画像記録層を含む。このような画像記録層は、適切なポリマーバインダー材料に分散させることができる放射感受性成分を含む。原版を適切な放射に画像様露光して画像記録層に露光領域および非露光領域を形成した後、非露光領域を適切な手段によって除去し、基板の下にある親水性表面をあらわにする。除去されない画像記録層の露光領域は平版インク受容性であり、現像工程によってあらわにされる親水性基板表面は水および水溶液、例えば湿し水を受容し、平版印刷インクを跳ね返す。
【0004】
近年、平版印刷業界では、画像記録層の非露光領域を除去するために、平版印刷インクもしくは湿し水、またはその両方を使用してオンプレス現像(「DOP」)を行うことによって、平版印刷版の製造を簡素化することが大いに望まれている。したがって、オンプレス現像可能な平版印刷版原版の使用が、少ない環境への影響ならびに処理化学薬品、処理装置床面積、および操作および維持費の節約を含む、多くの利益のために、印刷業界でますます採用されている。レーザイメージング後、オンプレス現像可能な原版を平版印刷機に直接取り込むことができる。
【0005】
画像形成平版印刷版原版は、印刷機に行く前に、可読性のために、画像記録層の露光領域と非露光領域で異なる色を有することが非常に望ましい。露光領域と非露光領域の色の違いは、典型的には、「プリントアウト」、「プリント-アウト」、または「プリントアウト画像」と呼ばれる。強力なプリントアウト画像により、操作者が画像形成平版印刷版原版を視覚的に識別し、これらを印刷機ユニットに適切に取り付けることが容易になる。
【0006】
画像形成直後と暗所での保管後の両方において、オンプレス現像可能な印刷版原版のプリントアウトを改善するために、業界では多くのアプローチがとられてきた。これらは全て欠点を有する。
【0007】
水性現像剤を使用する従来開発された原版(湿式処理)は、着色剤含有画像形成層が保持されるインク受容領域と、湿式処理中に着色剤含有画像形成層が除去される親水性支持体表面との間の高いコントラストを確保するために、着色剤を組み込んで設計されてきた。このような高いコントラストは、目ならびに自動カメラシステムによる可読性のために必要とされる。しかしながら、オンプレス現像可能な原版の場合、原版が印刷機に取り付けられる前に画像形成層はどこにも除去されず、したがって、プリントアウト画像が生成されるはずである。プリントアウト画像は、通常、露光領域と非露光領域との間に色の違いを形成するために放射によって生成されたプロトンによって切り替えることができる酸感受性ロイコ染料に基づく。この概念によって生成されるコントラストは、湿式処理されたプレートで得られるコントラストよりもはるかに低く、発色反応の逆反応または他の望ましくない反応のために退色する傾向がある。したがって、強力で、暗所での保管中に退色しないプリントアウト画像を実現するための改善が必要である。
【0008】
米国特許出願公開第2020/0096865号明細書(Igarashiら)は、酸発生剤、テトラアリールボレート、酸感受性染料前駆体、および電子吸引置換基を有する芳香族ジオールの存在のために改善されたプリントアウト画像を示すネガ型平版印刷版原版を記載している。このような画像形成組成物において、原色形成反応は、画像形成放射への露光中に生成される酸感受性染料前駆体およびプロトンを依然として伴う。プリントアウト値は芳香族ジオールの存在によって改善されるが、依然として著しい退色が起こる。
【0009】
プリントアウト画像は、赤外線放射感受性画像形成組成物を使用した非効率的な酸発生、引き続いてオンプレス現像のために、十分に強力となり得ないので、酸発生剤および酸感受性色前駆体、例えばラクトン系染料を使用して生成されるレベルを超えてプリントアウト画像を改善することが望まれている。さらに、赤外線放射画像形成中に生成されたプロトンの濃度は、しばしば化学平衡または他の画像形成後化学反応を通して画像形成後に低下する。結果として、プロトン誘導色変化に基づくプリントアウト画像は、画像形成後にしばしば退色する。
【0010】
したがって、赤外線放射画像形成中に生成されるプロトン以外の化学種との反応を通して色を変化させる色前駆体を使用して安定なプリントアウト画像を生成する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】米国特許出願公開第2020/0096865号明細書
【発明の概要】
【0012】
本発明は、
基板と、
基板上に配置された赤外線放射感受性画像記録層と
を含む平版印刷版原版であって、
赤外線放射感受性画像記録層が、
a)フリーラジカル重合性成分と;
b)赤外線放射吸収剤と;
c)フリーラジカルを生成することができる開始剤組成物と;
d)ボレート化合物と;
e)赤外線放射感受性画像記録層の赤外線放射への露光中または露光後に着色ボロン酸錯体を形成することができる化合物と
を含み、
ボレート化合物が以下の構造(I)
B-(R1)(R2)(R3)(R4)Z+ (I)
(式中、R1、R2、R3、およびR4は独立に、ボレートアニオンのホウ素原子に結合した、場合により置換されたアルキル、アリール、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、または複素環式基を表し、あるいは
R1、R2、R3、およびR4のうちの2つ以上は結合して、ホウ素原子を含む複素環式環を形成し、前記複素環式環は最大7個の炭素、窒素、酸素、または硫黄原子を有し;
Z+はボレートアニオンの電荷の釣り合いを保たせるためのカチオンである)
によって表される、平版印刷版原版を提供する。
【0013】
さらに、本発明は、平版印刷版を提供する方法であって、
A)本発明のいずれかの実施形態に記載の平版印刷版原版を赤外線放射に画像様露光して、赤外線放射感受性画像記録層に露光領域および非露光領域を得る工程と、
B)基板から赤外線放射感受性画像記録層の非露光領域を除去する工程と
を含む方法を提供する。
【0014】
本発明は、画像形成露光中または画像形成露光後に画像形成赤外線放射に露光された領域の画像形成層で生成された着色ボロン酸錯体からのプリントアウト画像を提供する。このようなプリントアウト画像は、強力で、暗所保管中に退色しない。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下の議論は、本発明の種々の実施形態に関し、いくつかの実施形態が特定の使用に望ましい場合があるが、開示される実施形態は、以下に請求される本発明の範囲を限定すると解釈されるべきでも、みなされるべきでもない。さらに、当業者であれば、以下の開示が、任意の特定の実施形態の議論で明示的に説明されているよりも広い用途を有することを理解するだろう。
【0016】
定義
赤外線放射感受性画像記録層、および本発明の実施で使用される他の材料の種々の成分を定義するために本明細書で使用する場合、特に指示しない限り、単数形「a」、「an」および「the」は成分の1つまたは複数を含む(すなわち、複数指示対象を含む)ことを意図している。
【0017】
本出願で明示的に定義されていない各用語は、当業者によって一般的に受け入れられる意味を有すると理解すべきである。用語の解釈がその文脈で用語を無意味または本質的に無意味にする場合、用語を標準的な辞書の意味を有すると解釈すべきである。
【0018】
本明細書で指定される種々の範囲の数値の使用は、明示的に指示しない限り、あたかも明言される範囲内の最小値と最大値の両方の前に「約」という単語があるかのように、近似値とみなされるべきである。このように、明言される範囲より上および下のわずかな変動が範囲内の値と実質的に同じ結果を達成するのに有用となり得る。さらに、これらの範囲の開示は、最小値と最大値との間の全ての値ならびに範囲の終点を含む連続範囲として意図される。
【0019】
文脈上特段の指示がない限り、本明細書で使用する場合、「平版印刷版原版」、「原版」および「IR感受性平版印刷版原版」という用語は、本発明の実施形態への等価な言及を意図している。
【0020】
本明細書で使用する場合、「赤外線放射吸収剤」という用語は、電磁スペクトルの近赤外線(近IR)および赤外線(IR)領域の電磁放射を吸収する化合物または材料を指し、典型的には、近IRおよびIR領域で最大吸収を有する化合物または材料を指す。
【0021】
本明細書で使用する場合、「近赤外線領域」および「赤外線領域」という用語は、少なくとも750nm以上の波長を有する放射を指す。ほとんどの例では、これらの用語が、少なくとも750nm、おそらくは少なくとも750nmおよび1400nm以下の電磁スペクトルの領域を指すために使用される。
【0022】
本発明の目的のために、プリントアウト画像の強度は、一般的に、EN ISO 11664-4「Colorimetry--Part 4:CIE 1976 L*a*b* Colour space.」および他の既知の参考文献に従って、CIE 2°観察者および発光体としてD50を使用して、45/0幾何学(非偏光)での反射測定から測定された放射露光領域の色と放射非露光領域の色との間のCIE 1976 L*a*b*色空間におけるユークリッド距離である、ΔEによって示される。色測定はTechkon SpectroDensなどの市販の機器を使用して行うことができる。CIE 1976 L*a*b色空間では、色は3つの数値の色値:色の明度(または輝度)についてのL*、色の緑-赤成分についてのa*、および色値の青-黄色成分についてのb*として表される。
【0023】
本発明の目的のために、可視スペクトル領域は、400nm~700nmの波長を有する電磁放射のスペクトル領域を指す。
【0024】
ポリマーに関する用語の定義を明確にするために、国際純正・応用化学連合(「IUPAC」)、Pure Appl.Chem.68、2287~2311(1996)によって公開されている「Glossary of Basic Terms in Polymer Science」を参照すべきである。しかしながら、本明細書に明示的に示される定義が優先するとみなすべきである。
【0025】
本明細書で使用する場合、「ポリマー」という用語は、多くの小さな反応性モノマーを結合して、同じ化学組成の繰り返し単位を形成することによって形成される比較的大きな分子量を有する化合物を説明するために使用される。これらのポリマー鎖は、通常、ランダムな様式でコイル状構造を形成する。溶媒の選択により、鎖長が長くなるにつれてポリマーが不溶性になり、溶媒媒体に分散したポリマー粒子になり得る。これらの粒子分散体は、非常に安定であり、本発明で使用するために記載される赤外線放射感受性画像形成層において有用となり得る。本発明では、特に指示しない限り、「ポリマー」という用語が非架橋材料を指す。したがって、非架橋ポリマー粒子が良好な溶媒和特性の一定の有機溶媒に溶解することができるが、架橋ポリマー粒子が、ポリマー鎖が強い共有結合によって接続されているために有機溶媒中で膨潤し得るが、溶解しないという点で、架橋ポリマー粒子は非架橋ポリマー粒子と異なる。
【0026】
「コポリマー」という用語は、ポリマー鎖に沿って配置された2つ以上の異なる繰り返しまたは反復単位で構成されたポリマーを指す。
【0027】
「骨格」という用語は、複数のペンダント基を結合することができるポリマー中の原子の鎖を指す。このような骨格の例に、1つまたは複数のエチレン性不飽和重合性モノマーの重合から得られる「全炭素」骨格がある。
【0028】
本明細書で使用する場合、「エチレン性不飽和重合性モノマー」という用語は、フリーラジカルまたは酸触媒重合反応および条件を用いて重合可能な1つまたは複数のエチレン性不飽和(-C=C-)結合を含む化合物を指す。この用語は、これらの条件下で重合可能でない不飽和-C=C-結合のみを有する化学化合物を指すことを意図していない。
【0029】
特に指示しない限り、「重量%」という用語は、組成物、配合物または層の全固形分に基づく成分または材料の量を指す。特に指示しない限り、百分率は、乾燥層または配合物もしくは組成物の全固形分のいずれについても同じであり得る。
【0030】
本明細書で使用する場合、「層」または「コーティング」という用語は、1つの配置もしくは適用された層、またはいくつかの連続の配置もしくは適用された層の組み合わせからなることができる。層が赤外線放射感受性およびネガ型であると考えられる場合、これは(「赤外線放射吸収剤」について上記のように)赤外線放射に感受性であると同時に、平版印刷版の形成においてネガ型である。
【0031】
本明細書で使用する場合、「オンプレス現像可能」および「オンプレス現像性」という用語は、画像形成原版を適切な印刷機に取り付け、湿し水、平版印刷インク、または湿し水と平版印刷インクの組み合わせを使用して最初の数枚の印刷物の間に現像を行うことによって、赤外線放射露光(画像形成)後に本発明による原版を現像する能力を指す。
【0032】
使用
本発明による平版印刷版原版は、画像様露光後に望ましいプリントアウト画像を示す平版印刷版を提供するのに有用である。これらの平版印刷版は、プレス操作中の平版印刷に有用である。平版印刷版は、本発明によるオンプレスまたはオフプレス処理を使用して調製することができる。平版印刷版原版は、以下のように記載される構造および成分で調製される。
【0033】
平版印刷版原版
本発明による原版は、赤外線放射感受性画像記録組成物(以下に記載される)を適切な基板(以下に記載される)に適切に適用してネガ型である赤外線放射感受性画像記録層を形成することによって形成することができる。一般的に、赤外線放射感受性画像記録組成物(および得られた赤外線放射感受性画像記録層)は、a)1つまたは複数のフリーラジカル重合性成分と;b)1つまたは複数の赤外線放射吸収剤と;c)開始剤組成物と;d)1つまたは複数のボレート化合物と;e)その各々が赤外線放射感受性画像記録層の赤外線放射への露光中または露光後に着色ボロン酸錯体を形成することができる、1つまたは複数の化合物と;場合により、f)本明細書で定義されるa)、b)、c)、d)、およびe)成分の全てとは異なる非フリーラジカル重合性ポリマー材料とを含む。いくつかの非常に有用な実施形態では、赤外線放射感受性画像記録層が、望ましいプリントアウト画像を有する所望の平版画像を提供するために必要な唯一の必須成分としての上述の成分a)~e)から本質的になる。
【0034】
一般的に、各原版にはただ1つの赤外線放射感受性画像記録層が存在する。この層は一般的に原版の最外層であるが、いくつかの実施形態では、赤外線放射感受性画像記録層の上に(または直ぐ上に接触して)配置された、以下に記載される、最外水溶性親水性保護層(トップコートまたは酸素バリア層としても知られている)が存在することができる。
【0035】
基板:
本発明による原版を調製するために使用される基板は、一般的に親水性画像形成側表面、または少なくとも適用された赤外線放射感受性画像記録層より親水性の表面を有する。基板は、一般的に平版印刷版原版を調製するために従来使用されている原料アルミニウムまたは適切なアルミニウム合金で構成され得るアルミニウム含有支持体を含む。
【0036】
アルミニウム含有基板は、物理的(機械的)粒子化、電気化学的粒子化、または化学的粒子化、引き続いて1回または複数回の陽極酸化処理によるある種の粗化を含む、当技術分野で既知の技術を用いて処理することができる。各陽極酸化処理は、典型的には、リン酸または硫酸および従来条件のいずれかを使用して行われ、アルミニウム含有支持体上に所望の親水性酸化アルミニウム(または陽極酸化物)層を形成する。単一酸化アルミニウム(陽極酸化物)層が存在してもよく、または様々な深さおよび形状の細孔開口部を有する複数の細孔を有する複数の酸化アルミニウム層が存在してもよい。したがって、このようなプロセスは、以下に記載されるように提供することができる赤外線放射感受性画像記録層の下に陽極酸化物層または酸化アルミニウム層を提供する。このような細孔およびその幅を制御する方法の議論は、例えば、米国特許出願公開第2013/0052582号明細書(Hayashi)、同第2014/0326151号明細書(Nambaら)、および同第2018/0250925号明細書(Merkaら)、ならびに米国特許第4,566,952号明細書(Sprintschuikら)、同第8,789,464号明細書(Tagawaら)、同第8,783,179号明細書(Kurokawaら)、および同第8,978,555号明細書(Kurokawaら)、ならびに欧州特許第2,353,882号明細書(Tagawaら)に記載されている。改善された基板内に異なる酸化アルミニウム層を提供するために2つの連続的な陽極酸化処理を提供することについての教示は、例えば、米国特許出願公開第2018/0250925号明細書(Merkaら)に記載されている。
【0037】
アルミニウム支持体の硫酸陽極酸化によって、一般的に少なくとも1g/m2および5g/m2以下、より典型的には少なくとも3g/m2および4g/m2以下の表面上のアルミニウム(陽極)酸化物重量(被覆度)が得られる。リン酸陽極酸化によって、一般的に少なくとも0.5g/m2および5g/m2以下、より典型的には少なくとも1g/m2および3g/m2以下の表面上のアルミニウム(陽極)酸化物重量が得られる。
【0038】
陽極酸化アルミニウム含有支持体を、既知の陽極処理後プロセス、例えばポリ(ビニルホスホン酸)(PVPA)、ビニルホスホン酸コポリマー、ポリ[(メタ)アクリル酸]もしくはそのアルカリ金属塩、または(メタ)アクリル酸コポリマーもしくはそのアルカリ金属塩、リン酸塩とフッ化物塩の混合物、またはケイ酸ナトリウムの水溶液を使用した後処理を使用してさらに処理して、陽極酸化物孔を密封する、もしくはその表面を親水化する、またはその両方を行うことができる。後処理プロセス材料はまた、不飽和二重結合を含み、処理表面と上にある赤外線放射露光領域との間の接着を増強することができる。このような不飽和二重結合は低分子量材料で提供することができる、またはポリマーの側鎖内に存在することができる。有用な後処理プロセスには、すすぎによる基板の浸漬、すすぎなしの基板の浸漬、および押出コーティングなどの種々のコーティング技術が含まれる。
【0039】
陽極酸化アルミニウム含有基板を、アルカリ性または酸性細孔拡大溶液で処理して、柱状細孔を含有する陽極酸化物層を提供することができる。いくつかの実施形態では、処理アルミニウム含有基板が、粒子化し、陽極酸化し、後処理したアルミニウム含有支持体の直ぐ上に配置された親水性層を含むことができ、このような親水性層がカルボン酸側鎖を有する非架橋親水性ポリマーを含むことができる。
【0040】
基板の厚さは、変えることができるが、印刷からの摩耗に耐えるのに十分であり、印刷フォームの周りを包むのに十分薄くなるべきである。有用な実施形態には、厚さが少なくとも100μmおよび700μm以下の処理したアルミ箔が含まれる。基板の裏側(非画像形成側)を帯電防止剤、滑性層またはつや消し層でコーティングして原版の取扱いおよび「手触り」を改善することができる。
【0041】
基板を、赤外線放射感受性画像記録層配合物および場合により、親水性保護層配合物で適切にコーティングされたシート材料の連続ロール(または連続ウェブ)として形成し、引き続いて、4つの直角の角を有する形状または形態(よって、典型的には正方形または長方形の形状または形態)を有する個々の平版印刷版原版を提供するサイズに切り込むまたは切断する(またはその両方を行う)ことができる。典型的には、切断された個々の原版は、平面形状またはほぼ平坦な長方形形状を有する。
【0042】
赤外線放射感受性画像記録層:
本発明による赤外線放射感受性記録層組成物(およびそれから調製された赤外線放射感受性画像記録層)は、その用語が平版分野で知られているように「ネガ型」に設計されている。さらに、赤外線放射感受性画像記録層は、露光後に平版印刷版原版にオンプレス現像性を提供するために、例えば湿し水、平版印刷インク、またはこれら2つの組み合わせを使用した現像を可能にするために、成分のある特定の組み合わせで設計することができる。
【0043】
本発明の実施で使用される赤外線放射感受性画像記録層は、その各々が赤外線放射露光中にフリーラジカル開始を使用して重合することができる、a)1つまたは複数のフリーラジカル重合性基を含有する、1つまたは複数のフリーラジカル重合性成分を含む。いくつかの実施形態では、各分子中に同じまたは異なる数のフリーラジカル重合性基を有する、少なくとも2つのa)フリーラジカル重合性成分が存在する。よって、有用なa)フリーラジカル重合性成分は、1つまたは複数の重合性エチレン性不飽和基(例えば、2つ以上のこのような基)を有する1つまたは複数のフリーラジカル重合性モノマーまたはオリゴマーを含有することができる。同様に、このようなフリーラジカル重合性基を有する架橋性ポリマーを使用することもできる。ウレタンアクリレートおよびメタクリレート、エポキシドアクリレートおよびメタクリレート、ポリエステルアクリレートおよびメタクリレート、ポリエーテルアクリレートおよびメタクリレート、ならびに不飽和ポリエステル樹脂などのオリゴマーまたはプレポリマーを使用することができる。いくつかの実施形態では、フリーラジカル重合性成分がカルボキシル基を含む。
【0044】
1つまたは複数のa)フリーラジカル重合性成分が、赤外線放射感受性画像記録層中の他の成分の「ポリマーバインダー」として機能する架橋性ポリマーマトリックスを提供するのに十分に大きい分子量を有する、または十分な重合性基を有することが可能である。このような実施形態では、別個のf)非フリーラジカル重合性ポリマー材料(下記)は必要ではないが、所望であれば依然として存在することができる。
【0045】
フリーラジカル重合性成分には、尿素ウレタン(メタ)アクリレートまたは複数の(2つ以上の)重合性基を有するウレタン(メタ)アクリレートが含まれる。各化合物が2つ以上の不飽和重合性基を有し、化合物のいくつかが3つ、4つまたはそれ以上の不飽和重合性基を有する、このような化合物の混合物を使用することができる。例えば、フリーラジカル重合性成分は、ヘキサメチレンジイソシアネートに基づくDESMODUR(登録商標)N100脂肪族ポリイソシアネート樹脂(Bayer Corp.,Milford,Conn.)をヒドロキシエチルアクリレートおよびペンタエリスリトールトリアクリレートと反応させることによって調製することができる。有用なフリーラジカル重合性化合物には、Kowa Americanから入手可能なNK Ester A-DPH(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)、ならびにSartomer Company,Inc.から入手可能なSartomer 399(ジペンタエリスリトールペンタアクリレート)、Sartomer 355(ジ-トリメチロールプロパンテトラアクリレート)、Sartomer 295(ペンタエリスリトールテトラアクリレート)およびSartomer 415[エトキシ化(20)トリメチロールプロパントリアクリレート]が含まれる。
【0046】
多数の他のa)フリーラジカル重合性成分が当技術分野で知られており、Photoreactive Polymers:The Science and Technology of Resists、A Reiser、Wiley、ニューヨーク、1989、102~177頁、B.M.Monroe in Radiation Curing:Science and Technology、S.P.Pappas編、Plenum、ニューヨーク、1992、399~440頁および「Polymer Imaging」A.B.CohenおよびP.Walker、Imaging Processes and Material、J.M.Sturgeら(編)、Van Nostrand Reinhold、ニューヨーク、1989、226~262頁を含むかなりの文献に記載されている。例えば、有用なフリーラジカル重合性成分は、欧州特許第1,182,033号明細書(Fujimakiら)[0170]段落で始まる、ならびに米国特許第6,309,792号明細書(Hauckら)、第6,569,603号明細書(Furukawa)および第6,893,797号明細書(Munnellyら)にも記載されている。他の有用なa)フリーラジカル重合性成分には、米国特許出願公開第2009/0142695号明細書(Baumannら)に記載されているものが含まれ、このラジカル重合性成分は1H-テトラゾール基を含む。
【0047】
1つまたは複数のa)フリーラジカル重合性成分は、一般的に、全て赤外線放射感受性画像記録層の総乾燥被覆度に基づいて、少なくとも10重量%または少なくとも20重量%、および50重量%以下または70重量%以下の量で存在する。
【0048】
有用なa)フリーラジカル重合性成分は、世界の様々な商業的供給源から得ることができるか、または既知の出発物質および熟練した合成化学者によって行われる合成方法を使用して容易に調製することができる。
【0049】
さらに、赤外線放射感受性画像記録層は、1つまたは複数のb)赤外線放射吸収剤を含み、所望の赤外線放射感度を提供する、もしくは放射を熱に変換する、またはその両方を行う。有用な赤外線放射吸収剤は、顔料または赤外線放射吸収染料であり得る。適切な染料は、例えば、米国特許第5,208,135号明細書(Patelら)、同第6,153,356号明細書(Uranoら)、同第6,309,792号明細書(Hauckら)、同第6,569,603号明細書(Furukawa)、同第6,797,449号明細書(Nakamuraら)、同第7,018,775号明細書(Tao)、同第7,368,215号明細書(Munnellyら)、同第8,632,941号明細書(Balbinotら)、および米国特許出願公開第2007/056457号明細書(Iwaiら)に記載されるものである。いくつかの赤外線放射感受性実施形態では、赤外線放射感受性画像記録層中の少なくとも1つのb)赤外線放射吸収剤が、適切なカチオン性シアニン発色団およびテトラフェニルボレートアニオンなどのテトラアリールボレートアニオンを含むシアニン染料であることが望ましい。このような染料の例としては、米国特許出願公開第2011/003123号明細書(Simpsonら)に記載されるものが挙げられる。
【0050】
低分子量IR吸収染料に加えて、ポリマーと結合したIR染料発色団も同様に使用することができる。さらに、IR染料カチオンも使用することができる、すなわち、カチオンは側鎖にカルボキシ、スルホ、ホスホまたはホスホノ基を含むポリマーとイオン的に相互作用する染料塩のIR吸収部分である。
【0051】
1つまたは複数のb)赤外線放射吸収剤の総量は、赤外線放射感受性画像記録層の総乾燥被覆度に基づいて、少なくとも0.5重量%または少なくとも1重量%、および15重量%以下または30重量%以下である。
【0052】
有用なb)赤外線放射吸収剤は、世界の様々な商業的供給源から得ることができるか、または熟練した合成化学者が行うことができる既知の化学合成方法および出発物質を使用して調製することができる。
【0053】
さらに、本発明は、赤外線放射感受性画像記録層中に存在するc)開始剤組成物を利用する。このようなc)開始剤組成物は、1つまたは複数の有機ハロゲン化合物、例えばトリハロアリル化合物;ハロメチルトリアジン;ビス(トリハロメチル)トリアジン;ならびに少なくとも1つのオニウム塩、例えばヨードニウム塩、スルホニウム塩、ジアゾニウム塩、ホスホニウム塩、およびアンモニウム塩を含むことができ、これらの多くは、赤外線放射露光でフリーラジカルを生成することができるものとして当技術分野で知られている。例えば、オニウム塩以外の代表的な化合物は、例えば、米国特許出願公開第2005/0170282号明細書(Innoら、米国第282号)の[0087]~[0102]および米国特許第6,309,792号明細書(Hauckら)、ならびに日本特許公開第2002/107916号明細書および国際公開第2019/179995号パンフレットに記載されている。
【0054】
有用なオニウム塩は、例えば、引用された米国第282号の[0103]~[0109]に記載されている。例えば、有用なオニウム塩は、分子内の少なくとも1個のオニウムカチオンと、適切なアニオンとを含む。オニウム塩の例としては、ジアリールヨードニウム塩、トリフェニルスルホニウム、ジフェニルヨードニウム、ジフェニルジアゾニウム、これらの化合物のベンゼン環に1つまたは複数の置換基を導入することによって得られる化合物およびその誘導体が挙げられる。適切な置換基には、それだけに限らないが、アルキル、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アシル、アシルオキシ、クロロ、ブロモ、フルオロおよびニトロ基が含まれる。
【0055】
オニウム塩中のアニオンの例としては、それだけに限らないが、例えば、米国特許第7,524,614号明細書(Taoら)に記載される、ハロゲンアニオン、ClO4
-、PF6
-、BF4
-、SbF6
-、CH3SO3
-、CF3SO3
-、C6H5SO3
-、CH3C6H4SO3
-、HOC6H4SO3
-、ClC6H4SO3
-、およびホウ素アニオンが挙げられる。
【0056】
代表的な有用なヨードニウム塩は、米国特許第7,524,614号明細書(上記)、第6~7段に記載されており、ヨードニウムカチオンは、様々な列挙される一価置換基「X」および「Y」、またはそれぞれのフェニル基を有する縮合炭素環もしくは複素環を含有することができる。
【0057】
有用なオニウム塩は、共有結合を通して結合された分子中に少なくとも2個のオニウムイオンを有する多価オニウム塩であることができる。多価オニウム塩の中では、分子中に少なくとも2個のオニウムイオンを有するものが有用であり、分子中にスルホニウムまたはヨードニウムカチオンを有するものが有用である。
【0058】
さらに、日本特許公開第2002-082429号明細書[または米国特許出願公開第2002-0051934号明細書(Ippeiら)]の明細書の[0033]~[0038]段落に記載されるオニウム塩、または米国特許第7,524,614号明細書(上記)、第6段および第7段に記載されるヨードニウムボレート錯体も使用することができる。
【0059】
代表的なヨードニウムボレート塩は、例えば、米国特許第7,524,614号明細書(上記)の第8段に列挙されている。
【0060】
いくつかの実施形態では、オニウム塩の組み合わせ、例えば、米国特許出願公開第2017/0217149号明細書(Hayashiら)に化合物Aと化合物Bとして記載されている化合物の組み合わせを、c)開始剤組成物の一部として使用することができる。
【0061】
c)開始剤組成物は複数の成分を有することができるので、当業者の知識および以下に示される実施例を含む本明細書で提供される代表的な教示に基づいて、赤外線放射感受性画像記録層におけるc)開始剤組成物の様々な成分の有用な量または乾燥被覆度は当業者には容易に明らかになるだろう。有用なc)開始剤組成物材料は、世界の商業的供給源から容易に得ることができるか、または既知の出発物質および熟練した合成化学者によって行われる合成方法を使用して容易に調製することができる。
【0062】
赤外線放射感受性画像記録層の別の本質的な特徴は、以下の構造(I)によって表される1つまたは複数のd)ボレート化合物である。
【0063】
B-(R1)(R2)(R3)(R4)Z+ (I)
(式中、R1、R2、R3、およびR4は独立に、それぞれホウ素原子に結合した、置換もしくは非置換アルキル、アリール、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、または複素環式基を表し、あるいは
R1、R2、R3、およびR4のうちの2つ以上は結合して、ホウ素原子を含む複素環式環を形成し、前記複素環式環はそれぞれ最大7個の炭素、窒素、酸素、または硫黄原子を有し、
Z+はボレートアニオンの電荷の釣り合いを保たせるためのカチオンである)。
【0064】
例えば、有用な置換または非置換アルキル基は1~10個の炭素原子を含むことができ;置換または非置換アリール基は炭素環式環中に6個または10個の炭素原子を有することができ;置換または非置換アルケニル基は2~10個の炭素原子を有することができ;置換または非置換アルキニル基は2~10個の炭素原子を有することができ;置換または非置換シクロアルキル基は炭素環式環中に5~10個の炭素原子を含むことができる。
【0065】
この種の有用なボレート化合物には、米国特許第7,524,614号明細書(上記)の第7段および第8段ならびに日本特許公開第2002/107916号明細書に記載されているもののうちの1つなどのボレートアニオンを有するものが含まれる。
【0066】
例えば、テトラフェニルボレートを含むテトラアリールボレート化合物、およびトリフェニルアルキルボレート化合物などのトリアリールアルキルボレートが有用である。
【0067】
構造(I)のZ+は、ヨードニウムカチオンおよびスルホニウムカチオンなどのc)開始剤組成物の一部、または米国特許出願公開第2011/003123号明細書(Simpsonら)に記載されているシアニン染料カチオンなどのb)赤外線放射吸収剤の一部であり得る。より有用なカチオンには、それだけに限らないが、化学的に可能な任意のカチオンが含まれ、このようなカチオンは当業者には容易に明らかであろう。例えば、他の適切なカチオンには、アルカリ金属イオン、例えばナトリウムおよびカリウムイオン、第四級アンモニウムおよびホスホニウムカチオン、例えばテトラアルキルアンモニウムカチオン、ピリジニウム、ピペリジニウム、ピロリジニウム、ピロリニウム、イミダゾリウム、ピラゾリウム、オキサゾリウム、チアゾリウム、トリアゾリウムおよび他の有機カチオンが含まれる。
【0068】
赤外線放射感受性画像記録層の赤外線放射への画像形成露光中または画像形成露光後に、1つまたは複数のd)ボレート化合物は、分解し、以下に記載される着色ボロン酸錯体の形成に参加することができる1つまたは複数の活性ホウ素含有種を生成すると考えられる。有用な活性ホウ素含有種の例としては、それだけに限らないが、ホウ酸、アルキルボロン酸、アリールボロン酸、ジアルキルボリン酸、ジアリールボリン酸、およびアルキルアリールボリン酸が挙げられ、アルキル基およびアリール基の各々は独立に、ハロ基、メチル基、エステル基、アミド基、またはヒドロキシ基などの置換基で場合により置換されていてもよい。一般的に、未反応d)ボレート化合物は、本発明による平版印刷版原版の通常の保管中に着色ボロン酸錯体を実質的に形成しない。結果として、平版印刷版原版の赤外線放射非露光領域中に形成される着色ボロン酸のモル濃度は、周囲条件下での赤外線放射画像形成露光後30分後に赤外線放射露光領域中に形成される着色ボロン酸錯体のモル濃度よりも、典型的には50%未満、より典型的には70%未満だけ低い。
【0069】
以下に記載される着色ボロン酸錯体を形成するための活性ホウ素含有種を生成することに加えて、本発明のいくつかの実施形態によるd)ボレート化合物は、赤外線放射への画像形成露光中に、単独で、または上記のc)開始剤組成物中の成分と組み合わせてフリーラジカルを生成することができる。フリーラジカルを生成することもできるd)ボレート化合物の有用な例としては、米国特許第7,524,614号明細書(上記)の第7段および第8段に記載されているもの、ならびに日本特許公開第2002/107916号明細書の[0012]~[0044]に記載されているものが挙げられる。d)ボレート化合物および少なくとも1つのオニウム塩が共通塩化合物を形成することも可能である。
【0070】
d)ボレート化合物が赤外線吸収カチオンであるZ+対イオンを含む実施形態では、d)ボレート化合物が赤外線放射吸収剤b)としても機能することができる。
【0071】
赤外線放射感受性画像記録層中の構造(I)によって表されるd)1つまたは複数のボレート化合物の総量は、全て赤外線放射感受性画像記録層の総乾燥被覆度に基づいて、一般的に少なくとも0.5重量%または少なくとも1重量%、および10重量%以下または20重量%以下であり得る。
【0072】
d)ボレート化合物がフリーラジカル開始剤、赤外線放射吸収剤、またはラジカル開始剤と赤外線放射吸収剤の両方としても機能することができる実施形態では、別個の非ボレート含有開始剤組成物c)および別個の非ボレート含有赤外線放射吸収剤はもはや必要ではないが、所望であれば依然として含めることができる。
【0073】
本発明の場合、d)ボレート化合物とe)着色ボロン酸錯体(下記)を形成することができる化合物のモル比は、少なくとも0.05:1および20:1以下、またはおそらくは少なくとも0.1:1および10:1以下である。
【0074】
有用なd)ボレート化合物は、様々な商業的供給源から得ることができるか、または当業者に既知の出発物質および合成方法を使用して調製することができる。
【0075】
さらに、1つまたは複数のe)それぞれ赤外線放射への露光中または露光後に着色ボロン酸錯体を形成することができる化合物は、赤外線放射感受性画像記録層中に存在する。赤外線放射感受性画像記録層の赤外線放射への露光中または露光後の着色ボロン酸錯体は、可視スペクトル領域に少なくとも1つの吸収ピークを有する。このようなe)化合物は、着色ボロン酸錯体を形成する前に可視スペクトル領域に吸収ピークを実質的に有さない化合物であってもよく、または可視スペクトル領域に少なくとも1つの吸収ピークを有するが、着色ボロン酸錯体の吸収ピークとは実質的に異なる波長にある化合物であってもよい。
【0076】
いくつかの特に有用な化合物は、以下の部分構造(II)、(III)、および(IV):
【化1】
のうちの1つまたは複数の出現を含む化合物として定義することができる。
【0077】
このような化合物は、部分構造(II)、(III)、および(IV)のうちの1つまたは複数の1つまたは複数の出現を有することができる。e)赤外線放射感受性画像記録層の赤外線放射への曝露中または曝露後に着色ボロン酸錯体を形成することができる化合物が、部分構造(III)の出現の1つまたは複数を含むことが特に望ましい場合がある。
【0078】
有用なe)部分構造(II)の1つまたは複数の出現を含む化合物には、それだけに限らないが、アリザリン、アリザリンレッドS、およびピロカテコールバイオレットが含まれる。このような化合物は、典型的には、可視スペクトルに1つまたは複数の吸収ピークを有する。このような可視吸収ピークは、着色ボロン酸錯体の形成で異なる波長にシフトし得る。形成されたボロン酸錯体は、以下の部分構造(IIa)または部分構造(IIb):
【化2】
(式中、R
aは、d)ボレート化合物について構造(I)について上に定義されるR
1、R
2、R
3、およびR
4のうちの1つであり得るか、またはR
aは-OH基であり得;R
bおよびR
cは、e)着色ボロン酸錯体を形成することができる化合物からの残基;水素原子、置換もしくは非置換アルキル基、または置換もしくは非置換アリール基であり得る)
のうちの1つまたは複数の両方の1つまたは複数の出現を含むことができる。いくつかの実施形態については、R
bおよびR
cが、e)着色ボロン酸錯体を形成することができる化合物からの残基であり得、着色ボロン酸錯体が、以下の部分構造(IIc):
【化3】
の1つまたは複数の出現を含むことができる。
【0079】
有用なe)部分構造(III)の1つまたは複数の出現を含む化合物には、以下の構造(V):
【化4】
(式中、Ar
1およびAr
2は独立に、置換もしくは非置換炭素環式芳香族基または置換もしくは非置換複素芳香族基であり;mおよびnは独立に、0、1、2、または3である)
によって表される化合物が含まれる。このような置換または非置換炭素環式芳香族基には、それだけに限らないが、非置換フェニル、非置換ナフチル、またはヒドロキシ、アルキル、ハロゲン、アルコキシ、アルキルカルボニル、アルキルカルボニルオキシ、アルコキシカルボニル、アリール、アリールオキシ、ニトロ、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アリールアミノ、ジアリールアミノ、もしくはアセチルアミノ基のうちの1つもしくは複数で置換されたフェニルもしくはナフチルが含まれる。このような置換または非置換複素芳香族基には、それだけに限らないが、非置換ピリジン-2-イル、ピリジン-3-イル、ピリジン-4-イル、ピリミジン-2-イル、ピリミジン-4-イル、ピリミジン-5-イル、もしくはピリミジン-6-イル、ピラジン、フラン、チオフェン、ピラゾールもしくはオキサゾール、イミダゾールおよびチアゾール基、または炭素環式芳香族基について記載されるように置換されたこのような基が含まれる。
【0080】
より詳細には、e)赤外線放射感受性画像記録層の赤外線放射への露光中または露光後に着色ボロン酸錯体を形成することができる化合物は、以下の構造(VI):
【化5】
(式中、R
1およびR
2は独立に、ヒドロキシ、ハロゲン、アルキル、アルコキシ、アルキルカルボニル、アルキルカルボニルオキシ、アルコキシカルボニル、アリール、アリールオキシ、ニトロ、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アリールアミノ、ジアリールアミノ、およびアセチルアミノ基からなる群から選択される置換基であり、この置換基は、結合しているベンゼン環のオルト位、メタ位およびパラ位のいずれかに位置し;mおよびnは独立に、0、1、2、または3であり;pおよびqは独立に、0~5である)
によって表され得る。
【0081】
この種の代表的な化合物には、それだけに限らないが、以下の化合物が含まれ、これらは個別にまたはその任意の混合物で使用することができる:
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【0082】
e)赤外線放射露光中または露光後に着色ボロン酸錯体を形成することができ、部分構造(III)を有する化合物から誘導される有用な着色ボロン酸錯体は、以下の部分構造(IIIa)または部分構造(IIIb):
【化10】
(式中、R
aは、d)ボレート化合物について構造(I)について上に定義されるR
1、R
2、R
3、およびR
4のうちの1つであり得るか、またはR
aは-OH基であり得;R
bおよびR
cは、e)着色ボロン酸錯体を形成することができる化合物からの残基、水素原子、置換もしくは非置換アルキル基、または置換もしくは非置換アリール基であり得る)
の1つまたは複数の出現を含むことができる。いくつかの実施形態では、R
bおよびR
cが、e)着色ボロン酸錯体を形成することができる化合物からの残基であり得、着色ボロン酸錯体が、部分構造(IIIc)の1つまたは複数の出現を有することができる。
【化11】
【0083】
有用なe)部分構造(IV)を有する化合物には、ケルメス酸、アシランサフィロール(Acilan Saphirol)SE、バットバイオレット1、C.I.ディスパースレッド60、カルミン酸、アリザリン、プルプリネムキナリザリン(purpurinem quinalizarin)、アリザリンレッド、およびアントラキノンの同様のヒドロキシ置換誘導体が含まれる。このような化合物は、典型的には、可視スペクトルに1つまたは複数の吸収ピークを有する。このような可視吸収ピークは、着色ボロン酸錯体の形成で異なる波長にシフトし得る。形成されたボロン酸錯体の構造は、例えば部分構造(IIIa)~(IIIc)によって定義される部分構造(III)で構成されるボロン酸化合物によって形成されたものと同様である。
【0084】
この種の代表的な化合物には、それだけに限らないが、
【化12】
【化13】
が含まれる。
【0085】
1つまたは複数のe)それぞれ着色ボロン酸錯体を形成することができる化合物は、少なくとも0.5重量%および20重量%以下の乾燥被覆度量で赤外線放射感受性画像記録層中に存在する。
【0086】
このような1つまたは複数のe)化合物は、様々な商業的供給源から得ることができるか、または当業者に既知の出発物質および合成方法を使用して調製することができる。
【0087】
赤外線放射感受性画像記録層が、存在すれば、ポリマー材料をフリーラジカル重合可能にするようないかなる官能基も有さない、1つまたは複数のf)非フリーラジカル重合性ポリマー材料(またはポリマーバインダー)をさらに含むことが、任意選択であるが、いくつかの実施形態では望ましい。したがって、このようなf)非フリーラジカル重合性ポリマー材料は、上記の1つまたは複数のa)フリーラジカル重合性成分とは異なり、これらは上記のb)、c)、d)、およびe)成分の全てとは異なる材料である。
【0088】
有用なf)非フリーラジカル重合性ポリマー材料は、一般的にゲル浸透クロマトグラフィー(ポリスチレン標準)によって測定される、少なくとも2000または少なくとも20000、および300000以下または500000以下の重量平均分子量(Mw)を有する。
【0089】
このようなf)非フリーラジカル重合性ポリマー材料は、例えば、米国特許第6,899,994号明細書(Huangら)に記載されるものなどのポリアルキレンオキシドセグメントを含む側鎖を有する繰り返し単位を含むポリマーを含む、当技術分野で知られているポリマーバインダー材料から選択することができる。他の有用なポリマーバインダーは、例えば国際公開第2015-156065号パンフレット(Kamiyaら)に記載されるポリアルキレンオキシドセグメントを含む異なる側鎖を有する2つ以上のタイプの繰り返し単位を含む。このようなポリマーバインダーのいくつかは、例えば、米国特許第7,261,998号明細書(Hayashiら)に記載されるものなどのペンダントシアノ基を有する繰り返し単位をさらに含むことができる。
【0090】
このような1つまたは複数のf)ポリマー非フリーラジカル重合性材料はまた、複数の(少なくとも2つの)ウレタン部分を含む骨格、ならびにポリアルキレンオキシドセグメントを含むペンダント基を有することができる。
【0091】
いくつかの有用なf)非フリーラジカル重合性ポリマー材料は、粒子形態、すなわち、離散粒子(非凝集粒子)の形態で存在することができる。このような離散粒子は、少なくとも10nmおよび1500nm以下、または典型的には少なくとも80nmおよび600nm以下の平均粒径を有することができ、一般的に赤外線放射感受性画像記録層内に均一に分布する。これらの材料のいくつかは、粒子形態で存在することができ、少なくとも50nmおよび400nm以下の平均粒径を有することができる。平均粒径は、電子走査型顕微鏡画像における粒子の測定および設定された測定数の平均化を含む、種々の既知の方法およびナノ粒子測定装置を使用して決定することができる。
【0092】
いくつかの実施形態では、f)非フリーラジカル重合性ポリマー材料が、赤外線放射感受性画像記録層の平均乾燥厚さ(t)よりも小さい平均粒径を有する粒子の形態で存在することができる。マイクロメートル(μm)単位の平均乾燥厚さ(t)は、以下の式によって計算される:
t=w/r
(式中、wはg/m2の赤外線放射感受性画像記録層の乾燥コーティング被覆度であり、rは1 g/cm3である)。
【0093】
f)非フリーラジカル重合性ポリマー材料は、赤外線放射感受性画像記録層の総乾燥被覆度に基づいて、少なくとも10重量%または少なくとも20重量%、および50重量%以下または70重量%以下の量で存在することができる。
【0094】
有用なf)非フリーラジカル重合性ポリマー材料は、種々の商業的供給源から得ることができるか、または例えば上記の刊行物に記載される、および熟練したポリマー化学者によって知られている、既知の手順および出発物質を使用して調製することができる。
【0095】
赤外線放射感受性画像記録層は、場合により架橋ポリマー粒子を含むことができ、このような材料は、例えば、米国特許第9,366,962号明細書(Hayakawaら)、同第8,383,319号明細書(Huangら)および同第8,105,751号明細書(Endoら)に記載されるように、少なくとも2μmまたは少なくとも4μm、および20μm以下の平均粒径を有する。このような架橋ポリマー粒子は、赤外線放射感受性画像記録層のみ、存在する場合は親水性保護層(下記)のみ、または赤外線放射感受性画像記録層と存在する場合は親水性保護層の両方に存在することができる。
【0096】
赤外線放射露光領域に形成された着色ボロン酸錯体は、本発明の平版印刷版原版に強力で長時間持続するプリントアウトを提供することができるが、酸またはフリーラジカルの存在下で特有に着色した形態に変換することができる追加のプリントアウトを伝統的な染料前駆体との併用によって提供することができる。酸ラジカルおよびフリーラジカルは、c)開始剤組成物、d)構造(I)によって表されるボレート化合物、またはc)開始剤組成物とd)ボレート化合物の両方から生成され得る。有用な染料前駆体には、米国シリアル番号第16/572,731号明細書に記載されているもの、ならびに米国特許出願公開第2018/154,667号明細書の11頁および12頁の発色機序に従って記載されている様々なクラスの発色化合物が含まれる。これらの染料前駆体は、典型的には、赤外線放射原版への画像形成露光中に即座に着色化合物を形成する。このような染料前駆体から生成されたプリントアウトは、背景技術の節に記載されているように、典型的には経時的に退色するが、本発明による着色ボロン酸錯体の形成が時々瞬間的ではなく、そのプリントアウト能力の完全な可能性を達成するのにいくらかの時間がかかる場合には依然として望ましい。
【0097】
赤外線放射感受性画像記録層はまた、慣用的な量の、それだけに限らないが、分散剤、保湿剤、殺生物剤、可塑剤、被覆性もしくは他の特性のための界面活性剤、粘度上昇剤、pH調整剤、乾燥剤、消泡剤、現像助剤、レオロジー改質剤またはこれらの組み合わせ、あるいは平版コーティング分野で一般的に使用されている任意の他の追加物を含む種々の他の任意の追加物も含むことができる。赤外線放射感受性画像記録層はまた、米国特許第7,429,445号明細書(Munnellyら)に記載される、一般的に250超の分子量を有するホスフェート(メタ)アクリレートを含むことができる。
【0098】
さらに、赤外線放射感受性画像記録層は、場合により、望ましくないラジカル反応を防止または緩和するための1つまたは複数の適切な共開始剤、連鎖移動剤、抗酸化剤または安定剤を含むことができる。この目的に適した抗酸化剤および阻害剤は、例えば、欧州特許第2,735,903号明細書(Wernerら)の[0144]~[0149]および米国特許第7,189,494号明細書(Munnellyら)の第7~9段に記載されている。
【0099】
赤外線放射感受性画像記録層の有用な乾燥被覆度は以下に記載される。
【0100】
親水性保護層:
本発明のいくつかの実施形態では、赤外線放射感受性画像記録層が、その上に層が配置されていない最外層であるが、本発明による原版を、親水性保護層(当技術分野では親水性オーバーコート、酸素バリア層またはトップコートとしても知られている)を単一赤外線放射感受性画像記録層の直ぐ上に配置して(これらの2つの層の間に中間層はない)設計することが可能である。
【0101】
存在する場合、この親水性保護層は一般的に原版の最外層であり、したがって、複数の原版を積み重ねる場合、ある原版の親水性保護層がその直ぐ上の原版の基板の裏側と接触することができ、合紙は存在しない。
【0102】
このような親水性保護層は、親水性保護層の総乾燥重量に基づいて、少なくとも60重量%および100重量%以下の量の1つまたは複数の膜形成水溶性ポリマーバインダーを含むことができる。このような膜形成水溶性(または親水性)ポリマーバインダーには、けん化度が少なくとも30%、または少なくとも75%、または少なくとも90%、および99.9%以下の修飾または未修飾ポリ(ビニルアルコール)が含まれ得る。
【0103】
さらに、1つまたは複数の酸修飾ポリ(ビニルアルコール)を、親水性保護層に膜形成水溶性(または親水性)ポリマーバインダーとして使用することができる。例えば、少なくとも1つのポリ(ビニルアルコール)は、カルボン酸、スルホン酸、硫酸エステル、ホスホン酸およびリン酸エステル基からなる群から選択される酸基で修飾され得る。有用な修飾ポリ(ビニルアルコール)材料の例としては、それだけに限らないが、スルホン酸修飾ポリ(ビニルアルコール)、カルボン酸修飾ポリ(ビニルアルコール)および第四級アンモニウム塩修飾ポリ(ビニルアルコール)、グリコール修飾ポリ(ビニルアルコール)またはこれらの組み合わせが挙げられる。
【0104】
任意の親水性オーバーコートはまた、少なくとも2μmの平均粒径を有し、上記のような架橋ポリマー粒子を含むことができる。
【0105】
存在する場合、親水性保護層は、親水性保護層形成として提供され、乾燥されて、少なくとも0.1g/m2および4g/m2未満の乾燥コーティング被覆度、または典型的には少なくとも0.15g/m2および2.5g/m2以下の乾燥コーティング被覆度を提供する。いくつかの実施形態では、親水性保護層が、オフプレス現像またはオンプレス現像中に容易に除去するために比較的薄くなるように、乾燥コーティング被覆度が0.1g/m2と低くおよび1.5g/m2以下、または少なくとも0.1g/m2および0.9g/m2以下である。
【0106】
親水性保護層は、例えば米国特許出願公開第2013/0323643号明細書(Balbinotら)に記載されるように、1つまたは複数の膜形成水溶性(または親水性)ポリマーバインダー内に、一般的に均一に分散した有機ワックス粒子を場合により含むことができる。
【0107】
平版印刷版原版の調製:
本発明による平版印刷版原版は、以下の方法で提供することができる。上記の、必須成分a)、b)、c)、d)、およびe)、ならびに任意の成分f)ならびに他の任意の追加物を含む赤外線放射感受性画像記録層配合物を、スピンコーティング、ナイフコーティング、グラビアコーティング、ダイコーティング、スロットコーティング、バーコーティング、ワイヤロッドコーティング、ローラーコーティングまたは押し出しホッパーコーティングなどの任意の適切な装置および手順を使用して、通常は上記の連続ウェブの形態で、適切なアルミニウム含有基板の親水性表面に適用することができる。このような配合物を噴霧によって適切な基板上に適用することもできる。典型的には、いったん赤外線放射感受性画像記録層配合物を適切な湿潤被覆度で適用したら、これを当技術分野で知られている適切な方法で乾燥して、以下に記載される所望の乾燥被覆度を得て、それによって赤外線放射感受性連続ウェブまたは赤外線放射感受性連続物品を得る。
【0108】
上記のように、赤外線放射感受性画像記録層配合物を適用する前に、基板(すなわち、連続ロールまたはウェブ)は、上記のように電気化学的に粒子化され、陽極酸化されて、アルミニウム含有支持体の外側表面上に適切な親水性陽極(酸化アルミニウム)層を提供し、陽極酸化表面は、通常、上記のように親水性ポリマー溶液で後処理することができる。これらの操作の条件および結果は、上記のように当技術分野で周知である。
【0109】
製造方法は、典型的には、水を含むまたは含まない適切な有機溶媒またはその混合物[メチルエチルケトン(2-ブタノン)、メタノール、エタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、2-メトキシプロパノール、イソ-プロピルアルコール、アセトン、γ-ブチロラクトン、n-プロパノール、テトラヒドロフランおよび当技術分野で容易に知られるその他のもの、ならびにこれらの混合物など]中に赤外線放射感受性画像記録層に必要とされる種々の成分を混合し、得られた赤外線放射感受性画像記録層配合物を連続基板ウェブに適用し、適切な乾燥条件下で蒸発によって溶媒を除去することを含む。
【0110】
適切な乾燥後、基板上の赤外線放射感受性画像記録層の乾燥被覆度は、少なくとも0.1g/m2または少なくとも0.4g/m2、および2g/m2以下または4g/m2以下であり得るが、所望であれば他の乾燥被覆度量を使用して所望の乾燥被覆度を提供することができる。
【0111】
上記のように、いくつかの実施形態では、適切な水系親水性保護層配合物(上記)を、既知のコーティングおよび乾燥条件、装置および手順を使用して、乾燥した赤外線放射感受性画像記録層に適用することができる。
【0112】
実際の製造条件では、これらのコーティング操作の結果が、単一赤外線放射感受性画像記録層のみ、または単一赤外線放射感受性画像記録層と最外層として配置された親水性保護層の両方を有する赤外線放射感受性平版印刷版原版材料の連続放射感受性ウェブ(またはロール)である。このような連続放射感受性ウェブは、使用のために適切なサイズの原版に切り込むまたは切断することができる。
【0113】
画像形成(露光)条件
使用中、本発明の赤外線放射感受性平版印刷版原版を、赤外線放射感受性画像記録層中に存在する赤外線放射吸収剤に応じて、適切な赤外線放射源に露光することができる。いくつかの実施形態では、平版印刷版原版を、少なくとも750nmおよび1400nm以下、または少なくとも800nmおよび1250nm以下の範囲内の有意な赤外線放射を放出する1つまたは複数のレーザーで画像形成して、赤外線放射感受性画像記録層に露光領域と非露光領域を作り出すことができる。このような赤外線放射レーザーは、計算機器または他のデジタル情報源によって供給されるデジタル情報に応じてこのような画像形成に使用することができる。レーザー画像形成は、当技術分野で既知の適切な方法でデジタル制御することができる。
【0114】
例えば、赤外線放射発生レーザー(またはこのようなレーザーの配列)からの画像形成または露光赤外線放射を使用して画像形成を行うことができる。所望であれば同時に複数の赤外線(または近IR)波長の画像形成放射を使用して画像形成を行うこともできる。原版を露光するために使用されるレーザーは、ダイオードレーザーシステムの信頼性および低メンテナンスのために、通常はダイオードレーザーであるが、ガスまたは固体状態レーザーなどの他のレーザーを使用することもできる。赤外線放射画像形成のための出力、強度および露光時間の組み合わせは当業者に容易に明らかになるだろう。
【0115】
赤外線画像形成装置は、フラットベッドレコーダーまたはドラムレコーダーとして構成することができ、赤外線放射感受性平版印刷版原版をドラムの内側または外側円筒表面に取り付ける。有用な画像形成装置の例は、830nmの波長の放射を放出するレーザーダイオードを含むKodak(登録商標)Trendsetter プレートセッター(Eastman Kodak Company)およびNEC AMZISetter Xシリーズ(NEC Corporation、日本)のモデルとして入手可能である。他の適切な画像形成装置には、波長810nmで動作するScreen PlateRite 4300シリーズもしくは8600シリーズプレートセッター(Screen USA、イリノイ州シカゴから入手可能)、またはPanasonic Corporation(日本)製のサーマルCTPプレートセッターが含まれる。
【0116】
赤外線放射感受性画像記録層がオゾンの存在に感受性である場合、レーザー画像形成の環境中のオゾンを低減または除去するための手段を含むことが望ましい場合がある。これを行うための有用な手段およびシステムは、例えば、米国特許出願公開第2019/0022995号明細書(Igarashiら)に記載されている。
【0117】
赤外線放射画像形成源が使用される場合、画像形成強度が、赤外線放射感受性画像記録層の感度に応じて、少なくとも30mJ/cm2および500mJ/cm2以下、典型的には少なくとも50mJ/cm2および300mJ/cm2以下となり得る。
【0118】
処理(現像)および印刷
上記の画像様露光後、赤外線放射感受性画像記録層に露光領域および非露光領域を有する露光赤外線放射感受性平版印刷版原版をオフプレスまたはオンプレスで処理して、非露光領域(およびこのような領域上の任意の親水性保護層)を除去することができる。この処理後および平版印刷中、あらわにされた親水性基板表面はインクを跳ね返し、残りの露光領域は平版印刷インクを受容する。
【0119】
オフプレス現像および印刷:
処理は、同じまたは異なる処理溶液(現像剤)の1回または複数回の連続適用(処理または現像工程)において、任意の適切な現像剤を使用してオフプレスで行うことができる。このような1回または複数回の連続処理は、赤外線放射感受性画像記録層の非露光領域を除去して基板の最外親水性表面をあらわにするのに十分であるが、有意な量の同じ層内で硬化された露光領域を除去するのに十分長くはない時間、行うことができる。
【0120】
このようなオフプレス処理の前に、露光原版を「予熱」プロセスに供して、赤外線放射感受性画像記録層の露光領域をさらに硬化させることができる。このような任意の予熱は、一般的に少なくとも60℃および180℃以下の温度で、任意の既知のプロセスおよび装置を使用して行うことができる。
【0121】
この任意の予熱に続いて、または予熱の代わりに、あらわになった原版を洗浄して(すすいで)、存在する親水性オーバーコートを除去することができる。このような任意の洗浄(またはすすぎ)は、任意の適切な水溶液(水または界面活性剤の水溶液など)を使用して、当業者には容易に明らかであろう適切な温度で適切な時間にわたって行うことができる。
【0122】
有用な現像剤は、通常の水または配合された水溶液であり得る。配合された現像剤は、界面活性剤、有機溶媒、アルカリ剤、および表面保護剤から選択される1つまたは複数の成分を含むことができる。例えば、有用な有機溶媒には、フェノールとエチレンオキシドおよびプロピレンオキシドの反応生成物[エチレングリコールフェニルエーテル(フェノキシエタノール)など]、ベンジルアルコール、エチレングリコールおよびプロピレングリコールと6個以下の炭素原子を有する酸のエステル、ならびにエチレングリコール、ジエチレングリコールおよびプロピレングリコールと6個以下の炭素原子を有するアルキル基のエーテル、例えば、2-エチルエタノールおよび2-ブトキシエタノールが含まれる。
【0123】
いくつかの例では、水性処理溶液をオフプレスで使用して、非露光領域を除去することによって画像形成原版を現像することと、画像形成し、現像(処理)した原版印刷面全体にわたって保護層またはコーティングを提供することの両方ができる。この実施形態では、水溶液が、いくぶん汚染または損傷から(例えば、酸化、指紋、塵または引っかき傷から)平版印刷版上の平版画像を保護(または「ゴム引き(gumming)」)することができるゴムのようにふるまう。
【0124】
記載されるオフプレス処理および任意の乾燥の後、得られた平版印刷版を、追加の溶液または液体と接触することなく印刷機に取り付けることができる。ブランケットまたはUVもしくは可視放射へのフラッド様露光(flood-wise exposure)の有無にかかわらず、平版印刷版をさらに焼成することは任意である。
【0125】
適切な方法で平版印刷インクおよび湿し水を平版印刷版の印刷面に適用することによって、印刷を行うことができる。湿し水が露光工程および処理工程によってあらわになった基板の親水性表面に取り込まれ、平版インクが赤外線放射感受性画像記録層の残りの(露光)領域に取り込まれる。次いで、平版インクを適切な受容材料(布、紙、金属、ガラスまたはプラスチックなど)に転写してその上に画像の所望の刷りを提供する。所望であれば、中間「ブランケット」ローラーを使用して平版インクを平版印刷版から受容材料(例えば、用紙)に転写することができる。
【0126】
オンプレス現像および印刷:
あるいは、本発明のネガ型平版印刷版原版は、平版印刷インク、湿し水、または平版印刷インクと湿し水の組み合わせを使用してオンプレス現像可能である。このような実施形態では、本発明による画像形成(露光)赤外線放射感受性平版印刷版原版が印刷機に取り付けられて、印刷操作が開始される。赤外線放射感受性画像記録層の非露光領域は、最初の印刷物が作成される際に、適切な湿し水、平版印刷インク、または両者の組み合わせによって除去される。水性湿し水の典型的な成分には、pH緩衝剤、減感剤、界面活性剤および湿潤剤、保湿剤、低沸点溶媒、殺生物剤、消泡剤および金属イオン封鎖剤が含まれる。湿し水の代表的な例としてはVarn Litho Etch 142W+Varn PAR(アルコールサブ)(Varn International、Addison、ILから入手可能)がある。
【0127】
枚葉印刷機を使用する典型的な印刷機の運転開始では、最初に湿しローラーを係合し、取り付けられた画像形成原版に湿し水を供給して、少なくとも非露光領域で露光赤外線放射感受性画像記録層を膨潤させる。数回転後、インクローラーを係合し、平版印刷版の印刷面全体を覆うように平版印刷インクを供給する。典型的には、インクローラー係合後5~20回転以内に、印刷シートを供給して、形成されたインク-湿し水エマルジョンを使用して、平版印刷版から赤外線放射感受性画像記録層の非露光領域、ならびに存在する場合はブランケットシリンダー上の材料を除去する。
【0128】
赤外線放射露光平版印刷原版のオンプレス現像性は、原版が赤外線放射感受性画像記録層に1つまたは複数のポリマーバインダー材料(フリーラジカル重合性であるかどうかにかかわらず)を含み、このポリマーバインダーの少なくとも1つが少なくとも50nmおよび400nm以下の平均径を有する粒子として存在する場合に特に有用である。
【0129】
本発明は、少なくとも以下の実施形態およびその組み合わせを提供するが、当業者が本開示の教示から認識するように、特徴の他の組み合わせも本発明の範囲内であると考えられる:
1.基板と、基板上に配置された赤外線放射感受性画像記録層とを含む平版印刷版原版であって、赤外線放射感受性画像記録層が、
a)フリーラジカル重合性成分と;
b)赤外線放射吸収剤と;
c)フリーラジカルを生成することができる開始剤組成物と;
d)ボレート化合物と;
e)赤外線放射感受性画像記録層の赤外線放射への露光中または露光後に着色ボロン酸錯体を形成することができる化合物と
を含み、
ボレート化合物が以下の構造(I)
B-(R1)(R2)(R3)(R4)Z+ (I)
(式中、R1、R2、R3、およびR4は独立に、ボレートアニオンのホウ素原子に結合した、場合により置換されたアルキル、アリール、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、または複素環式基を表し、あるいは
R1、R2、R3、およびR4のうちの2つ以上は結合して、ホウ素原子を含む複素環式環を形成し、前記複素環式環は最大7個の炭素、窒素、酸素、または硫黄原子を有し;
Z+はボレートアニオンの電荷の釣り合いを保たせるためのカチオンである)
によって表される、平版印刷版原版。
【0130】
2.e)着色ボロン酸錯体を形成することができる化合物が、以下の部分構造(II)、(III)、および(IV):
【化14】
のうちの1つまたは複数の1つまたは複数の出現を含む、実施形態1に記載の平版印刷版原版。
【0131】
3.赤外線放射感受性画像記録層が、上に定義されるa)、b)、c)、d)およびe)成分とは異なる1つまたは複数のf)非フリーラジカル重合性ポリマー材料をさらに含む、実施形態1または2に記載の平版印刷版原版。
【0132】
4.1つまたは複数のf)非フリーラジカル重合性ポリマー材料が粒子形態で存在する、実施形態3に記載の平版印刷版原版。
【0133】
5.c)開始剤組成物が、フリーラジカルを生成することができる少なくとも1つのオニウム塩を含む、実施形態1から4のいずれかに記載の平版印刷版原版。
【0134】
6.オニウム塩がジアリールヨードニウム塩である、実施形態5に記載の平版印刷版原版。
【0135】
7.d)ボレート化合物および少なくとも1つのオニウム塩が共通塩化合物として使用される、実施形態5または6に記載の平版印刷版原版。
【0136】
8.赤外線放射露光後、赤外線放射感受性画像記録層が、平版インク、湿し水、または平版インクと湿し水との組み合わせを使用してオンプレスで現像可能である、実施形態1から7のいずれかに記載の平版印刷版原版。
【0137】
9.d)ボレート化合物が、赤外線放射感受性画像記録層の総乾燥被覆度に基づいて、少なくとも0.5重量%および20重量%以下の乾燥被覆度量で赤外線放射感受性画像記録層中に存在する、実施形態1から8のいずれかに記載の平版印刷版原版。
【0138】
10.e)着色ボロン酸錯体を形成することができる化合物が、少なくとも0.5重量%および20重量%以下の乾燥被覆度量で赤外線放射感受性画像記録層中に存在する、実施形態1から9のいずれかに記載の平版印刷版原版。
【0139】
11.d)ボレート化合物とe)着色ボロン酸錯体を形成することができる化合物のモル比が少なくとも0.05:1および20:1以下である、実施形態1から10のいずれかに記載の平版印刷版原版。
【0140】
12.赤外線放射感受性画像記録層が最外層である、実施形態1から11のいずれかに記載の平版印刷版原版。
【0141】
13.赤外線放射感受性画像記録層が少なくとも2つのa)フリーラジカル重合性成分を含む、実施形態1から12のいずれかに記載の平版印刷版原版。
【0142】
14.基板が、酸化アルミニウム層と、酸化アルミニウム層上に配置された親水性ポリマーコーティングとを含むアルミニウム含有基板を含む、実施形態1から13のいずれかに記載の平版印刷版原版。
【0143】
15.e)着色ボロン酸錯体を形成することができる化合物が部分構造(III)の1つまたは複数の出現を含む、実施形態2から14のいずれかに記載の平版印刷版原版。
【0144】
16.e)着色ボロン酸錯体を形成することができる化合物が以下の構造(V):
【化15】
(式中、Ar
1およびAr
2は独立に、置換もしくは非置換炭素環式芳香族基または置換もしくは非置換複素芳香族基であり;mおよびnは独立に、0、1、2、または3である)
によって表される、実施形態15に記載の平版印刷版原版。
【0145】
17.e)着色ボロン酸錯体を形成することができる化合物が以下の構造(VI):
【化16】
(式中、R
1およびR
2は独立に、ヒドロキシ、ハロゲン、アルキル、アルコキシ、アルキルカルボニル、アルキルカルボニルオキシ、アルコキシカルボニル、アリール、アリールオキシ、ニトロ、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アリールアミノ、ジアリールアミノ、およびアセチルアミノ基からなる群から選択される置換基であり、この置換基は、結合しているベンゼン環のオルト位、メタ位およびパラ位のいずれかに位置し;mおよびnは独立に、0、1、2、または3であり;pおよびqは独立に、0~5である)
によって表される、実施形態15または16に記載の平版印刷版原版。
【0146】
18.e)着色ボロン酸錯体を形成することができる化合物が以下の化合物:
【化17】
【化18】
【化19】
【化20】
のうちの1つまたは複数を含む、実施形態15から17のいずれかに記載の平版印刷版原版。
【0147】
19.赤外線放射感受性画像記録層が1つまたは複数の酸感受性染料前駆体をさらに含む、実施形態1から18のいずれかに記載の平版印刷版原版。
【0148】
20.d)ボレート化合物がテトラアリールボレートまたはトリアリールアルキルボレートである、実施形態1から19のいずれかに記載の平版印刷版原版。
【0149】
21.平版印刷版を提供する方法であって、
A)実施形態1から20のいずれかに記載の平版印刷版原版を赤外線放射に画像様露光して、赤外線放射感受性画像記録層に露光領域および非露光領域を得る工程と、
B)基板から赤外線放射感受性画像記録層の非露光領域を除去する工程と
を含む方法。
【0150】
22.平版印刷インク、湿し水、または平版印刷インクと湿し水の組み合わせを使用して、オンプレスで基板から赤外線放射感受性画像記録層の非露光領域を除去する工程を含む、実施形態21に記載の方法。
【0151】
以下の実施例は、本発明の実施をさらに説明するために提供するものであって、何ら限定的であることを意図していない。特に指示しない限り、実施例で使用される材料は、示される種々の商業的供給源から得たが、他の商業的供給源も利用可能であり得る。
【0152】
発明実施例および比較実施例
アルミニウム含有基板を、以下の方法で平版印刷版原版用に調製した:
アルミニウム合金シート(支持体)の表面を、塩酸を使用した電解粗化処理に供して、平均粗さRaを0.5μmとした。得られた粒子化アルミニウムシートを、リン酸水溶液を使用した陽極酸化処理に供して、2.5g/m2乾燥被覆度の酸化アルミニウム層を形成し、引き続いてポリ(アクリル酸)溶液を後処理塗布してアルミニウム含有基板を得た。
【0153】
次いで、以下に記載される発明原版および比較原版の各々について、バーコーターを使用して、以下の表Iに示される成分を有する赤外線放射感受性組成物配合物を個別にコーティングすることによって、ネガ型赤外線放射感受性画像記録層をアルミニウム含有基板上に形成して、50℃で60秒間の乾燥後に乾燥コーティング重量0.9g/m2を得た。表Iに記載される原料は、以下の表IIで識別される。これらの材料は、化学薬品の1つまたは複数の商業的供給源から得ることができるか、または既知の合成方法を使用して調製することができる。
【0154】
【0155】
【0156】
【0157】
【0158】
以下の表IIIは、ネガ型平版印刷版原版の様々な発明実施例および比較実施例で使用されるe)赤外線放射への露光で着色ボロン酸錯体を形成することができる化合物、それらの量、ロイコ染料1の量、およびボレート化合物を示す。
【0159】
【0160】
【0161】
WinCon RedはConnect Chemicalsから得ることができる。
【0162】
クルクミンおよびピロカテコールバイオレットは、Sigma Aldrichから購入した。
【0163】
発明平版印刷版原版および比較平版印刷版原版の各々を、「オンプレス現像性」(DOP)および「プリントアウト画像」(PO)の2つの試験を使用して評価した。
【0164】
オンプレス現像性:
Trendsetter 800 III Quantum TH 1.7(Eastman Kodak Companyから入手可能)を使用して各平版印刷版原版を120mJ/cm2で画像様露光することによって、オンプレス現像性を評価した。次いで、各画像様露光平版印刷版原版を、現像(処理)することなくMAN Roland Favorite 04プレス機に取り付けた。湿し水(Varn Supreme 6038)および平版印刷インク(Gans Cyan)を供給し、平版印刷を実施した。印刷中にオンプレス現像が起こった。許容されるオンプレス現像性を、きれいな背景を得るのに必要な印刷用紙の数を数えることによって評価し、きれいな背景を達成するための印刷用紙の数に基づいて以下の定性的値のうちの1つを与えた。
+ 30枚未満の印刷用紙
0 30~100枚の印刷用紙
- 100枚超の印刷用紙
【0165】
プリントアウト画像:
平版印刷版原版の各々を、Trendsetter 800 III Quantum TH 1.7(Eastman Kodak Companyから入手可能)を使用して150mJ/cm2で画像様露光して、ネガ型IR感受性画像形成層に露光領域および非露光領域を得た。各画像様露光平版印刷版原版について、Techkon Spectro Dens分光濃度計を使用してΔE値を決定し、測定されたL*a*b値のユークリッド距離を計算し、露光直後および露光1時間後(暗所での保管)に以下の定性的な値を与えることによって、露光領域と非露光領域の色の違いを測定した。
【0166】
初期コントラスト
+ ΔE > 12
0 ΔE=7-12
- ΔE < 7
保管後のコントラスト
++ 初期デルタEの10%超の増加
+ 初期デルタEの2%超の増加
0 初期デルタEの+/-2%
- 2%超の減少
- 10%超の減少
【0167】
【0168】
表IVに提示されるデータから分かるように、本発明の実施は、現在知られている方法と同じレベルのプリントアウト画像を有する平版印刷版を提供する(例えば、発明実施例7対比較実施例3参照)。本発明を使用したプリントアウト画像の生成は、並列機序を介して進行し、したがって、現在知られている方法に加えて適用可能であり、よって、既に知られている方法に加えて使用した場合、プリントアウト画像の改善をもたらす(例えば、発明実施例1対比較実施例2)。
【0169】
発明実施例5および6は、様々なボロン酸化合物を使用してプリントアウト画像を形成することができることを実証している。発明実施例7で得られたデータから、着色ボロン酸錯体のプリントアウト画像形成にヨードニウム化合物は必要ではないと結論付けられる。発明実施例8、9および10からのデータは、発色効果が発色フェニル環の置換によって有意には影響されないことを実証している。比較実施例4のデータは、構造(I)によるボレート化合物の非存在がクルクミンの存在下でさえ低いプリントアウトをもたらしたので、プリントアウト画像形成の成功にはクルクミン誘導体とボレート化合物の組み合わせが必要であることを実証している。比較実施例6のデータから、構造(I)の範囲外であるフェニルボロン酸の添加は、赤外線放射露光領域と非露光領域の区別を可能にしない最初は非常にカラフルな平版印刷版原版をもたらすので、構造(I)によるd)ボレート化合物が反応性ボロン酸化合物を生成するために必要であることが分かる。