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  • 特許-二次電池の処理方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】二次電池の処理方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/54 20060101AFI20241217BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20241217BHJP
   C22B 26/12 20060101ALI20241217BHJP
   C22B 3/04 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
H01M10/54
C22B7/00 C
C22B26/12
C22B3/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023002593
(22)【出願日】2023-01-11
(65)【公開番号】P2024098840
(43)【公開日】2024-07-24
【審査請求日】2023-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】藤永 悠志
(72)【発明者】
【氏名】松田 英樹
(72)【発明者】
【氏名】空澤 光将
(72)【発明者】
【氏名】坂田 幸之
(72)【発明者】
【氏名】清水 良
【審査官】柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-026089(JP,A)
【文献】特開2005-197149(JP,A)
【文献】特開平06-338353(JP,A)
【文献】特許第7109702(JP,B1)
【文献】国際公開第2021/201055(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/54
C22B 7/00
C22B 26/12
C22B 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極に金属リチウムを含有する二次電池の処理方法であって、
電池セルの外装体の少なくとも一部を開封するフィルム開封工程と、
前記開封された電池セルに40-175℃の水蒸気を接触させる水蒸気接触工程を含む、二次電池の処理方法。
【請求項2】
前記水蒸気接触工程において前記電池セルに接触する気体の相対湿度は、40%以上である、請求項1に記載の二次電池の処理方法。
【請求項3】
前記電池セルに、40-70℃の水蒸気を接触させる水蒸気接触工程を含む、請求項1又は2に記載の二次電池の処理方法。
【請求項4】
前記水蒸気接触工程の後に、失活された前記金属リチウムを含む電池セル構成材料を水に溶解させて回収する回収工程を含む、請求項1又は2に記載の二次電池の処理方法。
【請求項5】
前記電池セルを焙焼する焙焼工程を含まない、請求項1又は2に記載の二次電池の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、より多くの人々が手ごろで信頼でき、持続可能かつ先進的なエネルギーへのアクセスを確保できるようにするため、エネルギーの効率化に貢献する二次電池に関する研究開発が行われている。
【0003】
二次電池としては、負極として金属リチウムが使用される二次電池が知られている。このような二次電池には、金属リチウムをはじめとする有価物が多く含まれることから、使用済の二次電池から上記有価物を回収して再利用することが好ましい。しかし、上記金属リチウムを含む二次電池を再利用する際に、反応性の高い金属リチウムが電池セル内部に残存した状態で電池セルの分解等を行うことは危険性が高い。従って、電池セルの内部に残存する金属リチウムを失活させ、反応性を低下させる技術が提案されている(例えば、特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平06-338353号公報
【文献】特許第7109702号公報
【文献】国際公開第2021/201055号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、使用済みのリチウム電池を安全に解体することを目的とし、負極活物質に対して反応性を有する物質を供給する技術が開示されている。しかし、上記技術は、乾燥した不活性ガス等の雰囲気下で電池を解体することを要し、解体に手間とコストを要する。また、特許文献1には、反応性を有する物質の供給に適した条件についても、処理中の水素ガスの濃度を爆発限界値以下とすること以外、言及されていない。
【0006】
特許文献2には、電池廃棄物の処理方法として、第一熱処理工程と、第一熱処理工程よりも多い量の酸素を含む雰囲気下で、電池廃棄物を加熱する第二熱処理工程とを含む技術が開示されている。特許文献3には、リチウムが含まれる電池廃棄物を熱処理する方法として、炉内酸素分圧を調整しながら、電池廃棄物を加熱する熱処理方法が開示されている。
【0007】
特許文献2に開示された技術は、電池廃棄物の最高到達温度を400℃~800℃とするものであり、特許文献3に開示された技術は、電池廃棄物の最高到達温度を500℃~650℃とするものである。しかし、いずれの上記温度範囲においても、溶融した金属リチウムと金属リチウム以外の有価物との反応が起こることで、当該有価物を効率的に回収できないという課題がある。また、高温で処理を行うことでエネルギー消費量やCO排出量が増大するという課題がある。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、二次電池を構成する材料を安全かつ効率的に回収でき、エネルギーの効率化に寄与する二次電池の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1) 本発明は、負極に金属リチウムを含有する二次電池の処理方法であって、電池セルに40-175℃の水蒸気を接触させる水蒸気接触工程を含む、二次電池の処理方法に関する。
【0010】
(1)の発明によれば、二次電池を構成する材料を安全かつ効率的に回収でき、エネルギーの効率化に寄与する二次電池の処理方法を提供できる。
【0011】
(2) 前記水蒸気接触工程において前記電池セルに接触する気体の相対湿度は、40%以上である、(1)に記載の二次電池の処理方法。
【0012】
(2)の発明によれば、より効率的かつ低エネルギーで二次電池の処理を行うことができる。
【0013】
(3) 前記電池セルに、40-70℃の水蒸気を接触させる水蒸気接触工程を含む、(1)又は(2)に記載の二次電池の処理方法。
【0014】
(3)の発明によれば、より低エネルギーで二次電池の処理を行うことができる。
【0015】
(4) 前記水蒸気接触工程の後に、失活された前記金属リチウムを含む電池セル構成材料を水に溶解させて回収する回収工程を含む、(1)~(3)いずれかに記載の二次電池の処理方法。
【0016】
(4)の発明によれば、より安全に電池セルを構成する材料を回収して二次電池の処理を行うことができる。
【0017】
(5) 前記電池セルを焙焼する焙焼工程を含まない、(1)~(4)いずれかに記載の二次電池の処理方法。
【0018】
(5)の発明によれば、電池セルを焙焼することなく、二次電池の処理を行うことで、より安全かつ低エネルギーで二次電池の処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態に係る二次電池の処理方法を示すフローチャートである。
図2】本実施形態に係る二次電池セルの構成を示す概念断面図である。
図3】負極に対して接触させたガスの条件と、Li反応率との関係を示すグラフである。
図4】電池セルに対して接触させたガスの条件と、Li反応率との関係を示すグラフである。
図5】電池セルに対して接触させた水蒸気量と失活時間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<二次電池の処理方法の概要>
本実施形態に係る二次電池の処理方法は、負極に金属リチウム(Li)を含有する二次電池の金属リチウム(Li)を失活させて処理を行う方法である。本実施形態に係る二次電池の処理方法は、図1に示す水蒸気接触工程S3を含む。水蒸気接触工程S3は、電池セルに40-175℃の水蒸気を接触させる工程である。
【0021】
本実施形態に係る二次電池の処理方法の対象としては、固体電解質を備える固体二次電池が挙げられる。以下、本実施形態に係る二次電池の処理方法の対象である二次電池を、固体二次電池として説明する。一方で、上記二次電池としては、固体二次電池には限定されず、例えば電解質として電解液を用いる電池であってもよいし、高分子ゲルに電解液を含有させたポリマー電池であってもよい。
【0022】
<固体二次電池>
図2は、本実施形態に係る二次電池の処理方法の対象に含まれる、固体二次電池の構成の概要を示す断面図である。図2に示すように、固体二次電池の電池セル1は、負極活物質21及び負極集電体22を含む負極2と、正極活物質31及び正極集電体32を含む正極3と、負極2と正極3との間に積層される固体電解質層4と、上記負極2と固体電解質層4と正極3とにより構成される積層体を収容する外装体51及び52と、を有する。
【0023】
(負極層)
負極2は、例えば負極集電体22とその上に積層される負極活物質21とを含む。負極2には、上記以外に、バインダ、導電助剤、電解質等が含まれていてもよい。バインダ、導電助剤、電解質等は、特に限定されず、二次電池の電極材料として公知の物質を適用することができる。
【0024】
負極活物質21は、リチウム金属を必須として含む。負極活物質21は、リチウム金属以外に、他の負極活物質を含有してもよい。リチウム金属以外の負極活物質としては、例えば、チタン酸リチウム(LiTi12)等のリチウム遷移金属酸化物、TiO、Nb及びWO等の遷移金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物、グラファイト、ソフトカーボン及びハードカーボン等の炭素材料、並びに金属インジウム及びリチウム合金等が挙げられる。
【0025】
負極集電体22は、特に限定されず、固体二次電池の負極集電体として公知の物質を用いることができる。負極集電体は、銅金属、ステンレス、及びアルミニウムからなる群より選択される少なくとも1つ以上を含有するものが好ましく、銅金属を含有するものがより好ましい。本実施形態に係る二次電池の処理方法は、負極集電体として銅金属を含有する固体二次電池において、銅金属を好ましく回収することができるためである。
【0026】
(正極層)
正極3は、例えば正極集電体32とその上に積層される正極活物質31とを備える。正極3には、上記以外に、バインダ、導電助剤、電解質等が含まれていてもよい。バインダ、導電助剤、電解質等は、特に限定されず、二次電池の電極材料として公知の物質を適用することができる。
【0027】
正極活物質31は、特に限定されず、二次電池の正極活物質として公知の物質を用いることができる。正極活物質としては、例えば、LiCoO、LiNiO、NCM(Li(NixCoyMnz)O、(0<x<1、0<y<1、0<z<1、x+y+z=1))等の三元系正極材料、LiVO、LiCrO等の層状正極活物質粒子、LiMnO4、Li(Ni0.25Mn0.75、LiCoMnO、LiNiMn等のスピネル型正極活物質、LiCoPO、LiMnPO、LiFePO等のオリビン型正極活物質等を用いることができる。
【0028】
正極集電体32は、特に限定されず、二次電池の正極集電体として公知の物質を用いることができる。正極集電体32としては、例えば、ステンレス(SUS)箔、アルミ(Al)箔等の金属箔が挙げられる。
【0029】
(固体電解質層)
固体電解質層4は、固体電解質を必須として含む層である。固体電解質としては、特に限定されないが、硫化物系固体電解質、酸化物系固体電解質、窒化物系固体電解質、ハロゲン化物系固体電解質、等が挙げられる。中でも、固体電解質として硫化物系固体電解質を用いることが好ましい。本実施形態に係る二次電池の処理方法は、固体電解質として硫化物系固体電解質を用いる場合であっても、二次電池の処理時に発生し得る硫化水素の発生を制御できるためである。硫化物系固体電解質としては、例えば、LPS系ハロゲン(Cl、Br、I)、LiS-P、LiS-P-LiI等が挙げられる。なお、上記「LiS-P」の記載は、LiSおよびPを含む原料組成物を用いてなる硫化物系固体電解質材料を意味する。
【0030】
(外装体)
外装体51及び52は、上記積層された負極2、固体電解質層4、及び正極3を収容する。外装体51及び52は、図2に示すように、例えば一対のラミネートフィルムを用いることができる。外装体の構成としては、上記には特に限定されず、二次電池に適用される公知の外装体を用いることができる。
【0031】
<二次電池の処理方法>
本実施形態に係る二次電池の処理方法は、図1に示す水蒸気接触工程S3を必須として備える。本実施形態に係る二次電池の処理方法は、図1に示すように、モジュール解体工程S1、フィルム開封工程S2、水蒸気接触工程S3、回収工程S4をこの順で備えることが好ましい。
【0032】
(モジュール解体工程S1)
モジュール解体工程S1は、複数の電池セルにより構成される電池モジュールを、複数の電池セルとモジュール構成部材とに解体する工程である。モジュール構成部材としては、特に制限されないが、例えば、バスバー、電圧検出線、サーミスタ、バインドバー、エンドプレート、セパレータ、ハーネス、電池ケース、電池ケース固定部材、セル電圧・温度モニターユニット等が挙げられる。本実施形態に係る二次電池の処理方法がモジュール解体工程S1を有することで、失活に要する時間を低減できる。
【0033】
一方で、本実施形態に係る二次電池の処理方法は、モジュール解体工程S1を有していなくてもよい。これにより、モジュール解体工程S1における作業の危険性を低減できる。
【0034】
(フィルム開封工程S2)
フィルム開封工程S2は、電池セル1の外装体51及び52の少なくとも一部を開封する工程である。上記開封とは、外装体51及び52による積層体の密閉状態から、外装体51及び52の内部に水蒸気を含む気体が流入可能な状態にすることを意味し、外装体51及び52とを完全に分離する必要はない。また、開封の方法も特に限定されず、外装体51及び52の接合部を剥離してもよいし、外装体51及び52の任意の箇所に孔をあけてもよい。
【0035】
(水蒸気接触工程S3)
水蒸気接触工程S3は、電池セル1に40-175℃の水蒸気を接触させることで、電池セル1に含まれる金属リチウムを失活させる工程である。金属リチウムを水蒸気と接触させることで、金属リチウムと水とが反応し水酸化リチウムが生成する。上記反応の進行により、リチウムの反応性を低下させる(失活させる)ことができる。
【0036】
水蒸気接触工程S3において電池セル1に接触する水蒸気の温度は40-175℃であり、上記温度範囲は金属リチウムの融点(約180℃)未満であることから、水蒸気接触工程S3は金属リチウムを溶融させずに失活させることができる。仮に金属リチウムが溶融した場合、正極活物質(例えば、NCM)と溶融した金属リチウムとが反応する恐れがある。この場合、高価な正極活物質を分子構造が維持された状態で回収することができないため、正極活物質の回収効率が低下する。本実施形態に係る水蒸気接触工程S3は、上記の理由により正極活物質の回収効率を向上できる。
【0037】
水蒸気接触工程S3において電池セル1に接触する、水蒸気を含む気体(空気)の相対湿度は、40%以上であることが好ましい。エネルギー効率の観点からは、水蒸気接触工程S3における水蒸気の温度は可能な限り低いことが好ましい。しかし、温度の低下につれて飽和水蒸気量が低下するため、金属リチウムの効率的な失活に必要な水蒸気量を確保できない場合がある。一方で、処理時間を短縮する観点からは水蒸気接触工程S3における水蒸気の温度は可能な限り高いことが好ましい。水蒸気接触工程S3における気体の相対湿度を40%以上とすることで、例えば水蒸気を含む気体の温度を90℃未満、又は70℃以下とした場合においても、電池セル1をエネルギー効率の観点から効率的に失活させることができ、かつ処理時間の観点からも好ましい。なお、処理時間のみの観点からは、水蒸気の温度を90℃~175℃としてもよい。
【0038】
水蒸気接触工程S3において電池セル1に接触する水蒸気の水蒸気量(g/m)は、以下の式(1)により算出される。上記水蒸気量は、上述のエネルギー効率の観点及び処理時間の観点から設定することができる。上記水蒸気量は、電池セル1を構成する材料の劣化が抑制される閾値として設定してもよい。これにより、金属リチウムの失活速度と材料の劣化抑制を考慮した最適な水蒸気量を設定できる。
水蒸気量(g/m)=所定の温度における飽和水蒸気量(g/m)×所定の温度における相対湿度(%) (1)
【0039】
(回収工程S4)
回収工程S4は、水蒸気接触工程S3を経た電池セル1(電池セル構成材料)を水に浸漬する工程である。回収工程S4により、水蒸気接触工程S3により生じた水酸化リチウム、硫化物系固体電解質等の水溶性物質と、負極集電体22、正極活物質31等の非水溶性物質とを分離することができる。また、水蒸気接触工程S3における発生気体の発生量を制御することにより、回収工程S4での気体発生量を低下させることができる。
【0040】
回収工程S4は、非水溶性物質である正極活物質(例えば、NCM)等の正極材料を回収する工程を含む。回収工程S4は、正極活物質(例えば、NCM)をダメージの少ない状態で回収することができる。回収された正極活物質に対しては、回収された状態により、適宜リチウムの再添加や構造修復等の処理を行ってもよい。また、本工程と同じタイミングで、正極活物質以外の非水溶性物質である、負極集電体22(例えば、銅箔)等を回収してもよい。回収工程S4は、生成するリチウム等を含む水溶液から、リチウムのみを回収する工程を含んでいてもよい。また、リチウムが回収された後の溶液から、更に他の成分を分離・回収する工程を含んでいてもよい。
【0041】
本実施形態に係る二次電池の処理方法は、本発明の効果を阻害しない限り、任意の他の工程を含んでいてもよい。例えば、水蒸気接触工程S3と回収工程S4との間に、電池セル1に含まれる金属リチウムが失活したか否かを判定する判定工程を設けてもよい。上記判定工程において、例えば、電池セルの電圧をモニタリングし、電圧が所定の閾値以下となった状態を金属リチウムが失活した、と判定してもよい。
【0042】
一方で、本実施形態に係る二次電池の処理方法は、全工程を通じて、電池セル1を焙焼する焙焼工程を含まないことが好ましい。上記焙焼工程を含まないことで、処理に要するエネルギー及びCOの発生を低減できる。
【0043】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明した。本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良は本発明に含まれる。
【実施例
【0044】
次に、本発明の実施例について説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0045】
[負極に対する失活用ガス接触試験]
図3は、負極(図1における、負極集電体22:銅箔、負極活物質21:金属リチウム、として構成した負極2)に対して、失活用ガスとしての水蒸気(HO)を図3に示す条件(温度、温度及び相対湿度)で接触させた際の、反応時間(hr)とLi反応率(%)との関係を示したグラフである。なお、Li反応率(%)は以下の式(2)により算出される。
Li反応率(%)=失活処理後の水酸化Li量/失活処理前の金属Li量×100 (2)
【0046】
上記式(2)における、水酸化Li量及び金属Li量は、集束イオンビーム(FIB)にて観察部位を加工したあと、電子顕微鏡にてエネルギー分散型X線分光法(SEM―EDX)にてLi反応率を測定した。測定には高性能FIB-SEM複合装置 Ethos NX5000(日立ハイテク製)を用いた。
【0047】
[電池セルに対する失活用ガス接触試験]
図4は、電池セル(図1における各構成をそれぞれ、負極集電体22:銅箔、負極活物質21:金属リチウム、固体電解質層4:硫化物系固体電解質、正極活物質31:NCM(Li(NixCoyMnz)O、正極集電体32:アルミニウム箔、として構成した電池セル1)において、外装体の一部を開封し、失活用ガスとしての水蒸気(HO)を図4に示す条件(温度及び相対湿度)で接触させた際の、反応時間(hr)とLi反応率(%)との関係を示したグラフである。即ち、図4は上記実施形態における水蒸気接触工程S3に対応する。
【0048】
図4の結果から、電池セルに含まれる金属リチウムを失活させる場合において、失活用ガスとして水蒸気(HO)を用いた場合、水蒸気量(g/m)が多いほどLiの失活に要する時間が短く、水蒸気量(g/m)によって失活速度をコントロールできる結果が明らかである。なお、水蒸気量(g/m)の算出方法は上述の通りである。
【0049】
[水蒸気量(失活条件)の設定]
図5は、セル端部から中央部の金属Liが水蒸気と反応するまでに要した時間を失活時間とした場合における、失活時間(min)と水蒸気量(g/m)との関係を示したグラフである。
【0050】
図5のグラフにおいて、水蒸気量を多くすればするほど、失活時間は短くなる。従って、例えば、処理時間を短縮する観点、及びエネルギー効率の観点から目標時間を設定し、目標時間以下となる条件にて水蒸気量(g/m)の条件を定めることができる。
【符号の説明】
【0051】
1 電池セル
2 負極
21 負極活物質(金属リチウム)
S3 水蒸気接触工程
S4 回収工程
図1
図2
図3
図4
図5