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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】バイオマスガス化装置
(51)【国際特許分類】
   C10J 3/56 20060101AFI20241217BHJP
   C10J 3/54 20060101ALI20241217BHJP
   C10J 3/00 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
C10J3/56
C10J3/54 F
C10J3/00 K
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023051007
(22)【出願日】2023-03-28
(65)【公開番号】P2024140022
(43)【公開日】2024-10-10
【審査請求日】2023-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154380
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100081972
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 豊
(72)【発明者】
【氏名】尾田 裕介
(72)【発明者】
【氏名】橋本 公太郎
(72)【発明者】
【氏名】千嶋 啓之
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-208297(JP,A)
【文献】特開2003-56843(JP,A)
【文献】特表2016-504438(JP,A)
【文献】特開2013-87169(JP,A)
【文献】特開2012-246381(JP,A)
【文献】特開2017-215059(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10J 3/00、3/54、3/56
F23G 5/027、5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス化反応炉と、
前記ガス化反応炉に、投入孔を介して上方から、木質バイオマスと不活性ガスとを供給する上側供給部と、
前記ガス化反応炉に、下方から、不活性ガスを含む混合ガスを供給する下側供給部と、
前記投入孔に前記木質バイオマスが詰まった詰まり状態を検出する状態検出部と、
前記状態検出部による検出結果に基づいて、前記上側供給部による不活性ガスの供給量と前記下側供給部による不活性ガスの供給量とを調整するように前記上側供給部および前記下側供給部を制御する流量制御部と、を備え、
前記流量制御部は、前記状態検出部により前記詰まり状態が検出されると、前記上側供給部による不活性ガスの供給量と前記下側供給部による不活性ガスの供給量との和が一定値に維持されるように、前記上側供給部による不活性ガスの供給量を予め定められた第1供給量よりも増加させ、かつ、前記下側供給部による不活性ガスの供給量を予め定められた第2供給量よりも減少させることを特徴とするバイオマスガス化装置。
【請求項2】
請求項1に記載のバイオマスガス化装置において、
前記ガス化反応炉に充填された流動媒体をさらに備え、
前記流量制御部は、前記下側供給部により供給される混合ガスの流速が前記ガス化反応炉における前記流動媒体の最小流動化速度以上となるように前記下側供給部を制御することを特徴とするバイオマスガス化装置。
【請求項3】
請求項2に記載のバイオマスガス化装置において、
前記ガス化反応炉に充填された前記流動媒体の下側の圧力と上側の圧力とをそれぞれ検出する圧力検出部をさらに備え、
前記流量制御部は、前記流動媒体の下側の圧力と上側の圧力との圧力差に基づいて前記流動媒体が所定の流動状態であるか否かを判定し、前記所定の流動状態でないと判定すると、前記上側供給部による不活性ガスの供給量を前記第1供給量に戻し、かつ、前記下側供給部による不活性ガスの供給量を前記第2供給量に戻すことを特徴とするバイオマスガス化装置。
【請求項4】
請求項3に記載のバイオマスガス化装置において、
前記混合ガスは、水蒸気をさらに含み、
前記流量制御部は、前記所定の流動状態でないと判定し、かつ、前記状態検出部により前記詰まり状態が検出されると、前記下側供給部による水蒸気の供給量を減少させることを特徴とするバイオマスガス化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマスをガス化するバイオマスガス化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、バイオマスを連続的に供給し、ガス化するようにした装置が知られている(例えば特許文献1参照)。上記特許文献1記載の装置では、ガス化反応器にバイオマスを投入する投入部に観察窓を設け、観察窓を通じて光学センサにより投入部の閉塞状態を検出し、投入部にバイオマスが詰まった閉塞状態が検出されると、高圧窒素ガスを投入部に向けて噴射することで、投入部に詰まったバイオマスを除去する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-235141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1記載の装置では、バイオマスが詰まると、投入部を介して反応器内に窒素ガスが噴射されるため、一時的に反応器内の温度が低下することで反応温度が低下し、安定したガス化反応を行うことが難しくなる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様であるバイオマスガス化装置は、ガス化反応炉と、ガス化反応炉に、投入孔を介して上方から、木質バイオマスと不活性ガスとを供給する上側供給部と、ガス化反応炉に、下方から、不活性ガスを含む混合ガスを供給する下側供給部と、投入孔に木質バイオマスが詰まった詰まり状態を検出する状態検出部と、状態検出部による検出結果に基づいて、上側供給部による不活性ガスの供給量と下側供給部による不活性ガスの供給量とを調整するように上側供給部および下側供給部を制御する流量制御部と、を備える。流量制御部は、状態検出部により詰まり状態が検出されると、上側供給部による不活性ガスの供給量と下側供給部による不活性ガスの供給量との和が一定値に維持されるように、上側供給部による不活性ガスの供給量を予め定められた第1供給量よりも増加させ、かつ、下側供給部による不活性ガスの供給量を予め定められた第2供給量よりも減少させる。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、反応温度を維持しながら木質バイオマスの詰まりを解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施形態に係るバイオマスガス化装置のガス化反応炉周辺の構成の一例を概略的に示す図。
図2図1の投入孔付近の拡大図。
図3】本発明の実施形態に係るバイオマスガス化装置の制御構成の一例を概略的に示すブロック図。
図4図1の流動媒体の流動状態について説明するための図。
図5図3のコントローラにより実行される流量制御処理の一例を示すフローチャート。
図6】変形例に係るバイオマスガス化装置の投入孔付近の拡大図。
図7図6のバイオマスガス化装置の制御構成の一例を概略的に示すブロック図。
図8図7のコントローラにより実行される流量制御処理の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図1図8を参照して本発明の実施形態について説明する。本発明の実施形態に係るバイオマスガス化装置は、木質バイオマスを熱分解することで、一酸化炭素やメタン等を含む合成ガスを製造する。合成ガスは、例えば発電用ガスエンジンの燃料ガスとして利用することができる。
【0009】
地球の平均気温は、大気中の温室効果ガスにより、生物に適した温暖な状態に保たれている。具体的には、太陽光で暖められた地表面から宇宙空間へと放射される熱の一部を温室効果ガスが吸収し、地表面へと再放射することで、大気が温暖な状態に保たれている。このような大気中の温室効果ガスの濃度が増加すると、地球の平均気温が上昇する(地球温暖化)。
【0010】
温室効果ガスの中でも地球温暖化への寄与が大きい二酸化炭素の大気中における濃度は、バイオマスや化石燃料として地上や地中に固定された炭素と、二酸化炭素として大気中に存在する炭素とのバランスによって決定される。例えば、植物(バイオマス)の生育過程での光合成により大気中の二酸化炭素が吸収されると大気中の二酸化炭素濃度が減少し、化石燃料の消費(燃焼)により二酸化炭素が大気中に放出されると大気中の二酸化炭素濃度が増加する。地球温暖化を抑制するには、化石燃料をバイオマスに由来する再生可能燃料で代替し、炭素排出量を低減することが必要となる。
【0011】
木質バイオマスのガス化では、予め粉砕された木質バイオマスのチップを高温のガス化反応炉へ投入し、乾留する。ガス化反応炉内で所望の化学反応を進行させ、所望の組成の合成ガスを安定して製造するには、ガス化反応炉内の温度(反応温度)を適切な温度に維持する必要がある。一方、木質バイオマスは、高温条件下で熱膨張するため、投入部に詰まることがある。そこで、本実施形態では、反応温度を維持しながら木質バイオマスの詰まりを解消することができるよう、以下のようにバイオマスガス化装置を構成する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係るバイオマスガス化装置(以下、装置)100のガス化反応炉10周辺の構成の一例を概略的に示す図である。図1に示すように、装置100は、ガス化反応炉10と、ガス化反応炉10に上方から木質バイオマスと不活性ガスである窒素ガスとを供給する上側供給部20と、ガス化反応炉10に下方から水蒸気と水素ガスと窒素ガスとの混合ガスを供給する下側供給部30とを備える。
【0013】
ガス化反応炉10は、鉛直方向の軸線CL1を中心として延在する外管11および内管12と、外管11の外周面に密接するように設けられた略円筒形状の電気炉13とを備える。内管12の上端は、外管11の上端よりも上方に位置し、内管12の下端は、外管11の下端よりも上方に位置する。外管11の上端は、外管11の内周面と内管12の外周面とを接続する円環形状の上蓋14により閉鎖される。内管12の上端12aは、上蓋14よりも上方に位置する。外管11の下端は、下蓋15により閉鎖され、下蓋15の中心部には、開口15aが設けられる。開口15aには、下側供給部30に接続された供給管16が挿通される。
【0014】
供給管16には、外管11の内周面に対向する範囲において、複数の孔部16aが設けられる。供給管16の上端面は、複数の孔部16cが放射状に設けられた円盤形状のプレート16bにより閉鎖される。外管11の内周面と供給管16の外周面との間の円筒形状の空間SP1には、プレート16bの下方に空隙を残した状態で、比較的大径のアルミナビーズが充填される。プレート16bの上面から所定高さまでの外管11内の空間SP2には、比較的小径のアルミナビーズが充填される。供給管16の孔部16aを介して空間SP1に流入した混合ガスは、空間SP1に充填されたアルミナビーズの間隙を流れ、プレート16bの孔部16cを介して空間SP2に流入し、空間SP2に充填されたアルミナビーズの間隙を流れる。空間SP1,SP2にアルミナビーズを充填することで、空間SP1,SP2の温度を維持しやすくなるとともに、空間SP2を通過する混合ガスを整流することができる。
【0015】
空間SP2に充填されたアルミナビーズの層の上面から上蓋14の下面までの外管11内の空間SP3には、所定高さまで珪砂等の流動媒体が充填される。内管12の下端12bは、空間SP3に充填された流動媒体の層(充填層)内に位置する。空間SP3には、上方から木質バイオマスのチップが供給される。空間SP3の流動媒体とチップとは、下方から供給される混合ガスにより吹上げられることで流動化され、液体のように挙動する。流動化された流動媒体の層(流動層)は、ガス化反応の反応場となる。均一な温度分布の流動層内では、混合ガスと木質バイオマスのチップとの接触が十分かつ均一に行われ、温度分布が均一となるため、ガス化反応の反応速度を高めることができる。
【0016】
電気炉13は、外管11の下端から所定高さh1までを包囲するように設けられる。所定高さh1は、空間SP3の流動媒体が吹上げられる高さh2を考慮して設定される。これにより、ガス化反応炉10内は下方から供給される混合ガスにより水蒸気雰囲気となり、電気炉13に包囲された空間SP3の流動層は所定の反応温度に維持される。このような流動層に、投入孔25を介して上方から木質バイオマスのチップが供給されると、流動層内でバイオマスのガス化反応(熱分解反応)が進行し、合成ガスが生成される。
【0017】
外管11には、電気炉13の上方に排出口11aが設けられる。流動層内で生成された合成ガスは、流動層上方の空間SP3および排出口11aを介してガス化反応炉10から排出される。ガス化反応炉10から排出された合成ガスは、不図示の気液分離器や凝縮器等を介して水分やタール成分等が除去され、利用される。
【0018】
上側供給部20は、チップを貯留するホッパ21と、水平方向の軸線CL2を中心として延在し、ホッパ21の排出口21aとガス化反応炉10の内管12とを接続する供給管22と、供給管22内に配置されたスクリュ23とを備える。スクリュ23の一端23aは、モータ24に接続され、スクリュ23の他端23bは、ガス化反応炉10の内管12内に位置する。スクリュ23は、モータ24により駆動されて軸線CL2を中心として回転し、排出口21aを介してホッパ21から落下したチップを内管12内に搬送する。スクリュ23の他端23bに面する供給管22内の空間を、以下では投入孔25と称する。
【0019】
上側供給部20は、さらに、内管12の上端12aに接続され、内管12を介してガス化反応炉10内に上方から窒素ガスを供給する窒素供給部26を備える。窒素供給部26は、窒素ガスが充填された高圧タンクとして構成され、窒素供給部26と内管12の上端12aとを接続する配管には、ガス化反応炉10内に上方から供給される窒素ガスの流量Un1を調整する調整弁26aが設けられる。
【0020】
図2は、投入孔25付近の拡大図である。図2に示すように、投入孔25の入口側にはノズル部25aが設けられ、投入孔25の出口側には、ディフューザ部25bが設けられ、投入孔25が、内管12の内径が絞られたベンチュリ部として形成される。窒素供給部26により上方から供給された窒素ガスは、ノズル部25aを通過することで流速が高まり、スクリュ23により側方から投入孔25に供給されたチップを、ディフューザ部25bを介して下方に噴射することができる。また、窒素ガスの流速が高まることで投入孔25が負圧になるため、スクリュ23により搬送されたチップを吸引することができる。これにより、毛羽立ちやすい木質バイオマスのチップを、窒素ガスとともに、投入孔25を介して上方からガス化反応炉10に供給することができる。
【0021】
下側供給部30は、供給管16の下端に接続された混合加熱器31と、混合加熱器31に水を供給する水供給部32と、混合加熱器31に水素ガスを供給する水素供給部33と、混合加熱器31に窒素ガスを供給する窒素供給部26とを備える。水供給部32は、不図示の水源から水を汲み上げて混合加熱器31に供給する給水ポンプとして構成され、水供給部32と混合加熱器31とを接続する配管には、水の流量Usを調整する調整弁32aが設けられる。水素供給部33は、水素ガスが充填された高圧タンクとして構成され、水素供給部33と混合加熱器31とを接続する配管には、水素ガスの流量Uhを調整する調整弁33aが設けられる。窒素供給部26と混合加熱器31とを接続する配管には、ガス化反応炉10内に下方から供給される窒素ガスの流量Un2を調整する調整弁26bが設けられる。
【0022】
混合加熱器31では、水供給部32から供給された水が加熱により気化されて水蒸気が生成され、水素供給部33から供給された水素ガスおよび窒素供給部26から供給された窒素ガスと混合されて高温の混合ガスが生成される。混合加熱器31で生成された高温の混合ガスは、供給管16を介して下方からガス化反応炉10内に供給される。
【0023】
図3は、装置100の制御構成の一例を概略的に示すブロック図である。図3に示すように、装置100は、さらに、調整弁26a,26b,32a,33aを制御するコントローラ40を備える。また、図2および図3に示すように、投入孔25の入口側(ノズル部25aの上流側)の圧力P1を検出する圧力センサ41、投入孔25の出口側(ディフューザ部25bの下流側)の圧力P2を検出する圧力センサ42、流動媒体の充填層の下側(入口側)、例えば供給管16内の圧力P3を検出する圧力センサ43、および充填層の上側(出口側)、例えば充填層上部の圧力P4を検出する圧力センサ43を備える。
【0024】
図2に示すように、投入孔25にチップが詰まっていない正常状態では、投入孔25の入口側の圧力P1と出口側の圧力P2とが等しくなる(P1=P2)。一方、投入孔25にチップが詰まった詰まり状態では、圧力損失が生じることで、投入孔25の入口側の圧力P1が出口側の圧力P2よりも低くなる(P1<P2)。圧力センサ41,42を、投入孔25の詰まり状態を検出する状態検出部と呼ぶこともある。
【0025】
コントローラ40は、CPU、RAM、ROM、I/Oインタフェース、その他の周辺回路を有するコンピュータを含んで構成され、CPUが上側供給部20(調整弁26a)および下側供給部30(調整弁26b,32a,33a)を制御する流量制御部として機能する。圧力センサ41,42により検出された圧力P1,P2に基づいて、投入孔25が正常状態であるか詰まり状態であるかを判定する。コントローラ40は、投入孔25が正常状態であると判定すると、ガス化反応炉10内に供給される窒素ガスの流量Un(Un=Un1+Un2)、水(水蒸気)の流量Us、および水素ガスの流量Uhが規定流量Un0,Us0,Uh0となるように、調整弁26a,26b,32a,33aを制御する。
【0026】
水(水蒸気)の規定流量Us0は、単位時間あたりの木質バイオマスの供給量(例えば100[g/h]程度)に応じて、水蒸気(S:Steam)とバイオマス(B:Biomass)との重量比S/Bが所定値(例えば0.5程度)となるように定められる。窒素ガスの規定流量Un0は、水(水蒸気)の規定流量Us0に応じて、水蒸気と窒素ガスとの比率が所定値(例えば40:60程度)となるように定められる。水素ガスの規定流量Uh0も同様に、水(水蒸気)の規定流量Us0に応じて、水蒸気と水素ガスとの比率が所定値となるように定められる。これにより、ガス化反応炉内で所望の化学反応を進行させ、所望の組成の合成ガスを製造することができる。
【0027】
上方から供給される窒素ガスの規定流量Un10は、窒素ガスの規定流量Un0に所定値α(0<α<1)を乗算した値(αUn0)として定められる。下方から供給される窒素ガスの規定流量Un20は、窒素ガスの規定流量Un0に所定値(1-α)を乗算した値((1-α)Un0)として定められる。
【0028】
コントローラ40は、投入孔25が詰まり状態であると判定すると、ガス化反応炉10内に供給される窒素ガスの流量Unが規定流量Un0に維持されるように、上方から供給される窒素ガスの流量Un1を増加させ、かつ、下方から供給される窒素ガスの流量Un2を減少させるように、調整弁26a,26bを制御する。すなわち、上方から供給される窒素ガスの流量Un1を、規定流量Un10に所定流量ΔUnを加算した値(Un10+ΔUn)まで増加させ、下方から供給される窒素ガスの流量Un2を、規定流量Un20から所定流量ΔUnを減算した値(Un20-ΔUn)まで減少させる。
【0029】
上方から供給される窒素ガスの流量Un1を増加させることで、投入孔25における窒素ガスの流速を高め、チップを下方に吹き飛ばすことで、投入孔25の詰まりを解消することができる。この場合、水蒸気とバイオマスとの重量比S/B等の反応条件が維持されるため、所望の化学反応の反応速度を低下させることがなく、所望の組成の合成ガスの収率を低下させることがない。また、上方から供給される窒素ガスの流量Un1の増加に応じて下方から供給される窒素ガスの流量Un2を減少させることで、ガス化反応炉10内に供給される窒素ガスの総量が一定量に維持される。この場合、ガス化反応炉10内の熱容量および反応温度が維持されるため、所望の化学反応の反応速度を低下させることがなく、所望の組成の合成ガスの収率を低下させることがない。
【0030】
規定流量Un10,Un20に加算または減算される所定流量ΔUnは、状態検出部により詰まり状態が検出されなくなるまで徐々に大きくすることができる。ただし、混合ガスの流速Ucが、ガス化反応炉10内の流動層を維持できる流速範囲内であることを条件とする。
【0031】
図4は、流動媒体の流動状態について説明するための図である。図2では、下側供給部30により下方からガス化反応炉10内に供給される混合ガスの流速Ucを横軸に示し、流動媒体の充填層の下側(入口側)の圧力P3と上側(出口側)の圧力P4との圧力差ΔPを縦軸に示す。下方からガス化反応炉10内に供給される混合ガスの流量[m3/sec]は、下方から供給される窒素ガスの流量Un2、水(水蒸気)の流量Us、水素ガスの流量Uh、および混合ガスの温度等に基づいて算出することができる。混合ガスの流速Uc[m/sec]は、流動媒体の充填層に流入するときの平均流速であり、混合ガスの流量[m3/sec]を外管11(空間SP3)の断面積で除算して算出することができる。
【0032】
図1に示すように、下方からガス化反応炉10内に供給された混合ガスは、空間SP2で整流され、空間SP3の充填層に流入する。図4に示すように、充填層に流入するときの流速Ucが低いときは、混合ガスが流動媒体の間隙を流れ、流動媒体が静止状態を保ち、流動媒体の流動化が起こらない(固定層)。流速Ucが高まると、混合ガスが流れる流動媒体の間隙の圧力が徐々に低下し、充填層での圧力降下(圧力損失)、すなわち充填層の入口側と出口側との圧力差ΔPが大きくなる。このような圧力降下(圧力差ΔP)が充填層(流動媒体)の重量を超えると、流動媒体の流動化が開始する(流動層)。流動化が開始すると、圧力差ΔPが一定となる。流動化が開始するときの圧力降下(圧力差ΔP)を流動化圧力降下Plim、流動化が開始するときの流速Ucを最小流動化速度Umfと称する。
【0033】
混合ガスの流速Ucを最小流動化速度Umfの3~5倍程度に維持することで、健全な状態の流動層を維持することができる。下方から供給される窒素ガスの規定流量Un20は、混合ガスの流速Ucが例えば最小流動化速度Umfの5倍程度となるように定められる。下方から供給される窒素ガスの規定流量Un20を、健全な状態の流動層を維持できる範囲の上限付近に設定しておくことで、投入孔25の詰まり状態に応じて下方から供給される窒素ガスの流量Un2を減少させるときの十分な余裕を確保することができる。
【0034】
コントローラ40は、圧力センサ43,44により検出された圧力P3,P4に基づいて流動媒体の充填層での圧力差ΔPを算出し、算出した圧力差ΔPが流動化圧力降下Plim以上であるか否かを判定する。圧力差ΔPが流動化圧力降下Plim未満であり、流動層が維持できていないと判定すると、上方から供給される窒素ガスの流量Un1を規定流量Un10、下方から供給される流量Un2を規定流量Un20に戻すように、調整弁26a,26bを制御する。これにより、混合ガスの流速Ucが常に最小流動化速度Umf以上となるように下側供給部30(調整弁26b)が制御され、流動層を維持することができる。なお、混合ガスの流速Ucを調整すると、充填層の入口側の圧力P3が主に変化することで圧力差ΔPが変化する。充填層の出口側の圧力P4は、通常、大気圧と同等のガス化反応炉10内の圧力に維持される。
【0035】
コントローラ40は、圧力P3,P4に基づき流動層が維持できていないと判定して窒素ガスを規定流量Un10,Un20に戻した場合に、投入孔25が詰まり状態であると判定すると、水(水蒸気)の流量Usを減少させるように調整弁32aを制御する。すなわち、投入孔25の詰まりを解消できない場合は、バイオマス供給量の減少に合わせて水蒸気の流量Usを減少させることで、水蒸気とバイオマスとの重量比S/B等の反応条件を維持する。これにより、合成ガスの収量が減少するものの、所望の化学反応の反応速度および所望の組成の合成ガスの収率を維持して装置100の運転を継続することができる。
【0036】
図5は、コントローラ40により実行される流量制御処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートに示す処理は、所定周期で繰り返し実行される。図5に示すように、先ずステップS1で、圧力センサ41,42により検出された圧力P1が圧力P2よりも低いか否かを判定する。ステップS1で否定されると、投入孔25が正常状態であると判定して処理を終了する。ステップS1で肯定されると、投入孔25が詰まり状態であると判定してステップS2に進む。ステップS2では、上方から供給される窒素ガスの流量Un1を所定流量ΔUnだけ増加させ、下方から供給される窒素ガスの流量Un2を所定流量ΔUnだけ減少させるように調整弁26a,26bを制御する。
【0037】
次いでステップS3で、圧力センサ43,44により検出された圧力P3,P4に基づいて流動媒体の充填層での圧力差ΔPを算出し、算出した圧力差ΔPが流動化圧力降下Plim以上であるか否かを判定する。ステップS3で肯定されると、流動層が維持できていると判定し、処理を終了する。ステップS3で否定されると、流動層が維持できていないと判定してステップS4に進み、上方から供給される窒素ガスの流量Un1および下方から供給される窒素ガスの流量Un2を規定流量Un10,Un20に戻すように調整弁26a,26bを制御する。
【0038】
次いでステップS5で、圧力センサ41,42により検出された圧力P1が圧力P2よりも低いか否かを判定する。ステップS5で否定されると、投入孔25が正常状態であると判定して処理を終了する。ステップS5で肯定されると、投入孔25の詰まり状態が継続していると判定してステップS6に進み、水(水蒸気)の流量Usを減少させるように調整弁32aを制御して処理を終了する。
【0039】
図6は、変形例に係るバイオマスガス化装置(以下、装置)100Aの投入孔25付近の拡大図である。装置100Aでは、投入孔25(ディフューザ部25b)の下方に開閉部27が設けられる。また、圧力センサ41,42に代えて、投入孔25(ディフューザ部25b)と開閉部27との間の内管12の内壁面に位置センサ45が設けられる。位置センサ45は、開閉部27の上面から所定高さh3だけ上方に設けられる。所定高さh3は、単位時間あたりの木質バイオマスの供給量(例えば100[g/h]程度)に応じて、所定時間(例えば1[min])毎に開閉部27の上に堆積するチップの高さを考慮して設定される。
【0040】
位置センサ45は、例えば接触センサとして構成され、開閉部27の上に堆積したチップが所定高さh3に到達すると、チップに接触することで、所定高さh3までチップが堆積したことを検出し、開閉部27に信号を送信する。開閉部27は、通常閉鎖されるとともに位置センサ45からの信号に応じて開閉(開放後に閉鎖)され、上面に堆積したチップを所定時間毎に下方に落下させる。投入孔25にチップが詰まっていない正常状態では、位置センサ45により所定時間毎にチップの堆積が検出されるが、投入孔25にチップが詰まった詰まり状態では、所定時間毎にチップの堆積が検出されない。位置センサ45を、投入孔25の詰まり状態を検出する状態検出部と呼ぶこともある。
【0041】
図7は、装置100Aの制御構成の一例を概略的に示すブロック図である。図7に示すように、装置100Aのコントローラ40Aには、圧力センサ41,42に代えて、位置センサ45が接続される。コントローラ40Aは、位置センサ45から開閉部27に送信される信号を監視し、投入孔25が正常状態であるか詰まり状態であるかを判定する。
【0042】
図8は、コントローラ40Aにより実行される流量制御処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートに示す処理は、例えば所定時間毎に繰り返し実行される。図8に示すように、先ずステップS7で、位置センサ45により所定時間毎にチップの堆積が検出されているか否かを判定する。ステップS7で肯定されると、投入孔25が正常状態であると判定して処理を終了する。ステップS7で否定されると、投入孔25が詰まり状態であると判定してステップS2に進む。ステップS2~S4の処理は、図5のものと同様である。
【0043】
ステップS4で、上方から供給される窒素ガスの流量Un1および下方から供給される窒素ガスの流量Un2が規定流量Un10,Un20に戻されると、ステップS8に進み、位置センサ45により所定時間毎にチップの堆積が検出されているか否かを判定する。ステップS8で肯定されると、投入孔25が正常状態であると判定して処理を終了する。ステップS8で否定されると、投入孔25の詰まり状態が継続していると判定してステップS6に進み、水(水蒸気)の流量Usを減少させるように調整弁32aを制御して処理を終了する。
【0044】
本実施形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)装置100は、ガス化反応炉10と、ガス化反応炉10に投入孔25を介して上方から木質バイオマスと窒素ガスとを供給する上側供給部20と、ガス化反応炉10に下方から窒素ガスを含む混合ガスを供給する下側供給部30と、投入孔25に木質バイオマスが詰まった詰まり状態を検出する状態検出部(圧力センサ41,42、位置センサ45)と、状態検出部による検出結果に基づいて上側供給部20による窒素ガスの供給流量Un1と下側供給部30による窒素ガスの供給流量Un2とを調整するように上側供給部20(調整弁26a)および下側供給部30(調整弁26b,32a,33a)を制御するコントローラ40とを備える(図1図3図6図7)。
【0045】
コントローラ40は、状態検出部により詰まり状態が検出されると、上側供給部20による窒素ガスの供給流量Un1と下側供給部30による窒素ガスの供給流量Un2との和(Un1+Un2)(すなわち、ガス化反応炉10内に供給される窒素ガスの流量Un)が規定流量Un0に維持されるように、上側供給部20による窒素ガスの供給流量Un1を予め定められた規定流量Un10よりも増加させ、かつ、下側供給部30による窒素ガスの供給流量Un2を予め定められた規定流量Un20よりも減少させる(図5のステップS1,S2、図8のステップS6,S2)。
【0046】
上側供給部20による窒素ガスの供給流量Un1を増加させることで、投入孔25における流速を高め、投入孔25に詰まったチップを下方に噴射することで、詰まり状態を解消することができる。詰まり状態を検出、解消し、木質バイオマスの供給量を一定に保つことで、ガス化反応炉10内の混合ガスに含まれる水蒸気等の反応ガスとバイオマスとのバランスを保ち、所望の化学反応の反応速度や所望の組成の合成ガスの収率を維持することができる。また、ガス化反応炉10内に供給される窒素ガスの総量を一定に保つことで、ガス化反応炉10内の熱容量および反応温度を維持し、所望の化学反応の反応速度や所望の組成の合成ガスの収率を維持することができる。
【0047】
(2)装置100は、ガス化反応炉10に充填された流動媒体をさらに備える(図1)。コントローラ40は、下側供給部30により供給される混合ガスの流速Ucがガス化反応炉10における流動媒体の最小流動化速度Umf以上となるように下側供給部30を制御する(図4)。これにより、ガス化反応の反応場となる流動層を維持し、ガス化反応の反応速度を高く維持することができる。
【0048】
(3)装置100は、ガス化反応炉10に充填された流動媒体の下側の圧力P3と上側の圧力P4とをそれぞれ検出する圧力センサ43,44をさらに備える(図1)。コントローラ40は、流動媒体の下側の圧力P3と上側の圧力P4との圧力差ΔPに基づいて流動媒体が所定の流動状態であるか否かを判定し、所定の流動状態でないと判定すると、上側供給部20による窒素ガスの供給流量Un1を規定流量Un10に戻し、かつ、下側供給部30による窒素ガスの供給流量Un2を規定流量Un20に戻す(図5図8のステップS3,S4)。これにより、常に流動層を維持することができる。
【0049】
(4)混合ガスは、水蒸気をさらに含む。コントローラ40は、所定の流動状態でないと判定し、かつ、状態検出部により詰まり状態が検出されると、下側供給部30による水蒸気の供給流量Usを減少させる(図5のステップS3~S6、図8のステップS3,S4,S7,S6)。このように、詰まり状態を解消できない場合であっても流動層を維持し、水蒸気とバイオマスとの重量比S/B等の反応条件を維持することで、所望の化学反応の反応速度および所望の組成の合成ガスの収率を維持して装置100の運転を継続することができる。
【0050】
上記実施形態では、木質バイオマスのチップを用いる例を説明したが、木質バイオマスはチップに限らず、ペレットやパウダー(木粉)等であってもよい。上記実施形態では、不活性ガスとして窒素ガスを用いる例を説明したが、不活性ガスは窒素ガスに限らず、バイオマスガス化装置によるガス化反応に影響を及ぼさないガスであれば、どのようなものを用いてもよい。上記実施形態では、上側供給部および下側供給部の具体的な構成を例示して説明したが、上側供給部および下側供給部は例示されたものに限定されない。例えば、上側供給部と下側供給部とで異なる不活性ガス供給源(高圧タンク等)を用いてもよい。上記実施形態では、木質バイオマスと水蒸気と水素とを反応物として用いる例を説明したが、バイオマスガス化装置は、上方から木質バイオマスと不活性ガス、下方から不活性ガスを含む混合ガスを供給するものであれば、他の反応ガスを用いるものであってもよい。上記実施形態では、状態検出部として圧力センサや位置センサを用いる例を説明したが、状態検出部は、投入孔の詰まり状態を検出するものであれば、どのようなものでもよい。例えば、画像センサや重量センサにより木質バイオマスの詰まり状態や堆積状態を検出するものであってもよい。上記実施形態では、圧力センサ43,44の具体的な配置例を示して説明したが、流動媒体の下側の圧力と上側の圧力とをそれぞれ検出する圧力検出部は、図示したものに限定されない。
【0051】
以上の説明はあくまで一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、上述した実施形態および変形例により本発明が限定されるものではない。上記実施形態と変形例の1つまたは複数を任意に組み合わせることも可能であり、変形例同士を組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0052】
10 ガス化反応炉、11 外管、11a 排出口、12 内管、12a 上端、12b下端、13 電気炉、14 上蓋、15 下蓋、15a 開口、16 供給管、16a 孔部、16b プレート、16c 孔部、20 上側供給部、21 ホッパ、21a 排出口、22 供給管、23 スクリュ、23a 一端、23b 他端、24 モータ、25 投入孔、25a ノズル部、25b ディフューザ部、26 窒素供給部、26a,26b 調整弁、27 開閉部、30 下側供給部、31 混合加熱器、32 水供給部、32a 調整弁、33 水素供給部、33a 調整弁、40,40A コントローラ、41~44 圧力センサ、45 位置センサ、100,100A バイオマスガス化装置(装置)、CL1,CL2 軸線、SP1~SP3 空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8