(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】光スペクトラムアナライザ
(51)【国際特許分類】
G01J 3/18 20060101AFI20241217BHJP
G01J 3/32 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
G01J3/18
G01J3/32
(21)【出願番号】P 2023065062
(22)【出願日】2023-04-12
【審査請求日】2023-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000000572
【氏名又は名称】アンリツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】上野 真樹
(72)【発明者】
【氏名】森本 晋司
(72)【発明者】
【氏名】吉野 創
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-033585(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2022/0049989(US,A1)
【文献】特許第3986031(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 3/00- 4/04
G01J 7/00- 9/04
G01J 1/00- 1/60
G01J 11/00
G01N 21/00-21/01
G01N 21/17-21/61
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象のパルス光に含まれる波長をその波長に応じた方向に分光させた回折光を出射する分光部(4)と、
前記分光部(4)から出射される前記回折光を受光して電気信号に変換する受光部(8)と、
波長掃引された前記回折光を前記受光部(8)に受光させる掃引部(9)と、
前記受光部(8)により変換された前記電気信号を増幅し光パワー信号として出力する増幅部(16)と、
前記増幅部(16)が出力した前記光パワー信号をA/D変換するA/D変換部(17)と、
波長掃引中に、前記A/D変換部(17)によりサンプリングされデジタル値に変換された前記光パワー信号に基づいて前記パルス光に含まれる波長ごとの光パワーを求める制御部(12)と、を備えた光スペクトラムアナライザ(1)において、
前記増幅部(16)は、互いに異なるゲインを有する複数のアンプ(Amp21~Amp2m)を有し、
前記A/D変換部(17)は、複数の前記アンプ(Amp21~Amp2m)の出力が各々接続された複数のA/D変換器を有し、
前記制御部(12)は、
複数の前記アンプ(Amp21~Amp2m)により増幅され、複数の前記A/D変換器によりそれぞれデジタル値に変換された前記光パワー信号に基づいて、出力が飽和していない前記アンプ(Amp21~Amp2m)の1つを選択するアンプ選択部を有し、
前の波長から次の波長に掃引されている間に、前記A/D変換部(17)によってサンプリングされ、かつ、前記アンプ選択部によって選択された前記アンプ(Amp21~Amp2m)が出力した前記光パワー信号のデジタル値の平均値またはピーク値を、前記前の波長の前記光パワー、または、前記次の波長の前記光パワー
とし、
前記A/D変換部(17)は、前記パルス光の周期よりも短いサンプリング時間で前記光パワー信号のサンプリングを行う、
光スペクトラムアナライザ(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光スペクトラムアナライザに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、測定対象である被測定光のスペクトラム(被測定光に含まれる波長ごとの光パワー)を測定するために、例えば特許文献1に示されたような光スペクトラムアナライザが用いられている。特許文献1の光スペクトラムアナライザは、被測定光を回折格子に入射して、被測定光を分散分光させた回折光を出射させ、回折格子を回転させて、波長掃引された回折光を受光部に受光させている。
【0003】
近年、光源の発熱を抑えるため、被測定光としてパルス光での測定が求められている。そこで、パルス光が発光しているタイミングで、受光部で変換された光スペクトル信号(電気信号)のA/D変換を行う光スペクトラムアナライザが提案されている(特許文献2)。
【0004】
しかしながら、従来の光スペクトラムアナライザでは、パルス光の周期とA/D変換部のサンプリングとを同期させる必要があるため、測定系が煩雑になる上に、パルス光の周波数に掃引速度が制限されるため、掃引自体が遅くなる、という課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3274035号公報
【文献】特開2022-152858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、掃引速度の低下を抑制しつつパルス光のスペクトラムを安定して測定することができる光スペクトラムアナライザを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した目的を達成するために、本発明に係る光スペクトラムアナライザは、下記[1]を特徴としている。
[1]
測定対象のパルス光に含まれる波長をその波長に応じた方向に分光させた回折光を出射する分光部(4)と、
前記分光部(4)から出射される前記回折光を受光して電気信号に変換する受光部(8)と、
波長掃引された前記回折光を前記受光部(8)に受光させる掃引部(9)と、
前記受光部(8)により変換された前記電気信号を増幅し光パワー信号として出力する増幅部(16)と、
前記増幅部(16)が出力した前記光パワー信号をA/D変換するA/D変換部(17)と、
波長掃引中に、前記A/D変換部(17)によりサンプリングされデジタル値に変換された前記光パワー信号に基づいて前記パルス光に含まれる波長ごとの光パワーを求める制御部(12)と、を備えた光スペクトラムアナライザ(1)において、
前記増幅部(16)は、互いに異なるゲインを有する複数のアンプ(Amp21~Amp2m)を有し、
前記A/D変換部(17)は、複数の前記アンプ(Amp21~Amp2m)の出力が各々接続された複数のA/D変換器を有し、
前記制御部(12)は、
複数の前記アンプ(Amp21~Amp2m)により増幅され、複数の前記A/D変換器によりそれぞれデジタル値に変換された前記光パワー信号に基づいて、出力が飽和していない前記アンプ(Amp21~Amp2m)の1つを選択するアンプ選択部を有し、
前の波長から次の波長に掃引されている間に、前記A/D変換部(17)によってサンプリングされ、かつ、前記アンプ選択部によって選択された前記アンプ(Amp21~Amp2m)が出力した前記光パワー信号のデジタル値の平均値またはピーク値を、前記前の波長の前記光パワー、または、前記次の波長の前記光パワーとし、
前記A/D変換部(17)は、前記パルス光の周期よりも短いサンプリング時間で前記光パワー信号のサンプリングを行う、
光スペクトラムアナライザ(1)であること。
【0008】
上記[1]の構成の光スペクトラムアナライザによれば、前の波長から次の波長に掃引されている間に、サンプリングされた光パワー信号には、光パワー信号がピークのタイミングでサンプリングされたものが含まれる可能性が高い。しかも、アンプをスイッチで切り替える期間がなくなり、前の波長から次の波長に掃引されている間にサンプリングが可能な期間も長くすることができ、光パワー信号のピークのタイミングでサンプリングできる可能性をより一層高くすることができる。これにより、掃引速度の低下を抑制しつつパルス光のスペクトラムを安定して測定することができる。
上記[2]の構成の光スペクトラムアナライザによれば、光パワー信号のピークのタイミングでサンプリングできる可能性をより一層高くすることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、掃引速度の低下を抑制しつつパルス光のスペクトラムを安定して測定することができる光スペクトラムアナライザを提供することができる。
【0010】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の光スペクトラムアナライザの一実施形態を示す構成図である。
【
図3】
図3は、
図1に示す表示部に表示されるグラフの一例である。
【
図4】
図4は、
図1に示す制御部の処理手順を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、
図2の電流電圧変換部から出力された光パワー信号のタイムチャートである。
【
図6】
図6は、比較例における光スペクトラムアナライザの測定部の一例を示す回路図である。
【
図7】
図7は、
図1に示す本実施形態の光スペクトラムアナライザ及び
図6に示す比較例のスペクトラムアナライザの連続サンプリング可能期間、連続サンプリング不可期間を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に関する具体的な実施形態について、各図を参照しながら以下に説明する。
【0013】
図1に示すように、光スペクトラムアナライザ1は、パルス光に含まれる波長ごとの光パワーを測定し、表示する装置である。
【0014】
光スペクトラムアナライザ1は、入射部2と、コリメータ3と、回折格子4(=分光部)と、集光器5と、スリット6と、集光器7と、受光部8と、モータ9(=掃引部)と、を備えている。入射部2は、例えば光ファイバから構成され、測定対象のパルス光を出射する。パルス光はコリメータ3に入射される。コリメータ3は、入射部2からのパルス光を平行光に変換する。コリメータ3から出射された平行光は、回折格子4に入射される。
【0015】
回折格子4は、コリメータ3から出射された平行光を分散分光する。本実施形態では、回折格子4は、モータ9により紙面に垂直な回動軸10回りに回動自在に設けられている。回折格子4の表面には、回動軸10と直交する方向に沿った微細な溝部(図示せず)が回動軸方向に沿って複数並べて形成されている。回折格子4は、コリメータ3からの平行光が入射されると、分散分光した回折光を出射する。回折光は、回折現象によってパルス光に含まれる波長をその波長に応じた方向に分光させた光である。回折光は、集光器5に入射される。モータ9は、回折格子4を回転させて、波長掃引された回折光を後述する受光部8に受光させる。すなわち、回折格子4の回転に伴って連続的に波長が変化する回折光が、受光部8に受光される。
【0016】
集光器5は、回折光を後述するスリット6が配置された位置に集光する。スリット6を通った回折光は、集光器7に入射される。集光器7は、入射された回折光を受光部8が配置された位置に集光する。受光部8は、フォトダイオードから構成され、入射された回折光の光パワーに応じた電流が流れる。
【0017】
光スペクトラムアナライザ1はさらに、測定部11と、制御部12と、メモリ13と、表示部14と、を備えている。測定部11は、
図2に示すように、電流電圧変換部15と、増幅部16と、A/D変換部17と、を有している。電流電圧変換部15は、受光部8に流れる電流を電圧に変換して光パワー信号(=電気信号)として出力する。電流電圧変換部15は、光パワー信号の高周波ノイズを除去するローパスフィルタとしても機能する。電流電圧変換部15は、ローパスフィルタの通過帯域幅(VBW:Video Band Width)及びゲインが変更可能に設けられ、後述する制御部12によりVBW及びゲインが制御される。
【0018】
次に、電流電圧変換部15の詳細な構成について説明する。電流電圧変換部15は、アンプAmp1と、アンプAmp1の入力と出力との間に接続された複数の素子151~15n(nは整数)と、複数の素子151~15nとアンプAmp1との接続をオンオフするスイッチSW1~SWnと、を有している。素子151~15nは、コンデンサまたは抵抗から構成されている。スイッチSW1~SWnのオンオフを制御して、アンプAmp1に接続する素子151~15nを切り替えることにより、電流電圧変換部15のVBW及びゲインを変更することができる。
【0019】
増幅部16は、電流電圧変換部15から出力された光パワー信号を増幅する。本実施形態において、増幅部16は、それぞれ異なるゲインの複数のアンプAmp21~Amp2m(mは整数)を有する。複数のアンプAmp21~Amp2mは各々、出力がA/D変換部17に接続されている。電流電圧変換部15によって高周波ノイズが除去され、増幅部16によって増幅されたアナログの光パワー信号は、A/D変換部17に入力される。
【0020】
A/D変換部17は、複数のA/D変換器を備え、それぞれのA/D変換器への入力を有する。複数のA/D変換器のそれぞれの入力には、複数のアンプAmp21~Amp2mの出力が接続されている。A/D変換部17は、複数のA/D変換器の入力に各々入力されたアナログの光パワー信号をサンプリングしてA/D変換し、光パワー信号の信号レベルのデジタル値を制御部12に出力する。
【0021】
制御部12は、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Array)またはDSP(Digital Signal Processor)から構成され、光スペクトラムアナライザ1全体の制御を司る。制御部12は、モータ9を等速度で回転させて、波長掃引された回折光を受光部8に受光させる。制御部12は、離散的な波長ごとに光パワー信号を取得する。そして、制御部12は、離散的な波長ごとに取得した光パワー信号を繋ぎ合わせて、
図3に示すような連続的な波長ごとの光パワー信号の信号レベル(dB)を表示部14に表示させる。メモリ13は、光パワー信号のデジタル値などが記憶される。
【0022】
次に、上述した光スペクトラムアナライザ1の動作について
図4のフローチャートを参照して以下説明する。制御部12は、図示しない操作部の操作に応じて掃引を開始する。このとき、回折格子4は、測定開始点にあるものとする。制御部12は、モータ9を制御して、回折格子4を測定終了点に向けて等速度で回転させる(S1)。
【0023】
次に、制御部12は、モータ9に取り付けられた図示しないエンコーダの出力から回折格子4が測定終了点に到達したか否かを判定する(S2)。測定終了点に到達していなければ(S2でN)、制御部12は、スイッチSW1~SWnのオンオフを制御して、電流電圧変換部15のVBWを設定する(S3)。
【0024】
S3で制御部12が実行するVBWの設定の一例について説明する。その前に光パワー信号の信号レベルとVBWとの関係について説明する。光パワー信号の信号レベルは、低くなるほど信号対ノイズ比(SN比)が小さくなり、ノイズに弱くなる。一方、VBWは、低い(狭い)帯域ほど高周波ノイズをカットできる帯域が広くなるため、高周波ノイズの影響を抑えることができる。しかしながら、光パワー信号がパルス信号である場合、VBWが低い帯域ほど電流電圧変換部15から出力されるパルスの立ち上がり時間、立ち下がり時間が長くなる。このため、光パワー信号の信号レベルが高いときにVBWを低くすると、電流電圧変換部15の出力が高い信号レベルに達するまでに時間がかかり、結果、掃引時間が長くなってしまう。逆に、光パワー信号の信号レベルが低いときにVBWを高くしてしまうと掃引時間は短くなるが、高周波ノイズの影響を抑えることができなくなってしまう。
【0025】
そこで、制御部12は、光パワー信号の信号レベルの低さに応じて、低いVBWに設定する。これにより、高周波ノイズの影響を抑えつつ掃引時間が長くなるのを抑制することができる。VBWが設定されると、ゲインも設定される。
【0026】
次に、制御部12は、A/D変換部17によりパルス光の周期よりも短いサンプリング周期でサンプリングされた光パワー信号のデジタル値を順次読み出し、メモリ13に格納するA/D読み出し処理を開始する(S4)。S4において、制御部12は、全てのアンプAmp21~Amp2mにより増幅された光パワー信号のデジタル値を読み出して、メモリ13に格納する。その後、制御部12は、読み出した光パワー信号のデジタル値に基づいて出力が飽和していないアンプAmp21~Amp2mの1つを選択するアンプ選択処理を行う(S5)。
【0027】
このアンプ選択処理の詳細について
図5を参照して説明する。
図5は、電流電圧変換部15から出力された光パワー信号である。図中の飽和レベルLo(oは1~mまでの任意の整数)~Lo+2は、各アンプAmp2o~Amp2o+2の出力が飽和する入力信号レベルを示す。光パワー信号は、アンプAmp2oの飽和レベルLoを超えることがないため、アンプAmp2oにより増幅された光パワー信号のデジタル値には最大値(=飽和値)が含まれることなく、光パワー信号のピークを捉えることができる。
【0028】
光パワー信号は、アンプAmp2o+1,Amp2o+2の飽和レベルLo+1,Lo+2を超えるため、アンプAmp2o+1,Amp2o+2により増幅された光パワー信号のデジタル値には最大値が含まれ、光パワー信号のピークを捉えることができない。アンプ選択処理において、制御部12は、デジタル値の最大値が含まれていないアンプAmp21~Amp2mの1つを選択する。
【0029】
制御部12は、全てのアンプAmp21~Amp2mの出力が飽和して、アンプAmp21~Amp2mを選択できない場合(S6でN)、A/D読み出し処理を停止して、再びS3に戻り、電流電圧変換部15のVBWを変更してゲインを変更する。アンプAmp21~Amp2mが選択できると(S6でY)、制御部12は、VBWの最低値に応じた1ポイントあたりの測定間隔が経過して、次の波長に到達したか否かを判定する(S7)。次の波長に到達すると(S7でY)、制御部12は、A/D読み出し処理を停止すると共に、このときのエンコーダの出力に応じた波長をS7で到達した次の波長として設定する(S8)。次に、制御部12は、フィルタ処理を行う(S9)。
【0030】
S4でA/D読み出し処理を開始してからS8でA/D読み出し処理を停止するまでの期間は、前の波長から次の波長に掃引されている期間に含まれる。フィルタ処理において、制御部12は、この期間中にアンプ選択処理で選択されたアンプAmp21~Amp2mによって増幅された光パワー信号のデジタル値の平均値を求める(S9)。制御部12は、フィルタ処理で求めた平均値を、S8で設定した次の波長の光パワー信号として、メモリ13に格納した後(S10)、S2に戻る。
【0031】
S2に戻って回折格子4が測定終了点に到達すると(S2でY)、測定開始点から測定終了点の間で離散的な波長ごとの光パワー信号のデジタル値がメモリ13に格納されている。制御部12は、この離散的な波長ごとの光パワー信号を繋ぎ合わせて、
図3に示すような連続的な波長ごとの光パワーを示す表示波形を生成して表示部14に表示させ(S11,S12)、処理を終了する。
【0032】
次に、上述した本実施形態の光スペクトラムアナライザ1の効果について説明する。従来の光スペクトラムアナライザは、測定開始点から測定終了点に向けて掃引中に、次の波長に到達するごとに光パワー信号のサンプリングを行い、デジタル値を読み取っている。このため、パルス光がオフのタイミングで光パワー信号のサンプリングが行われることがあり、安定してパルス光のスペクトルを測定することができない。
【0033】
これに対して、本実施形態の光スペクトラムアナライザ1は、前の波長から次の波長に移動するまでの間に、複数回サンプリングされた光パワー信号の平均値を次の波長の光パワー信号としている。複数回サンプリングされた光パワー信号には、光パワー信号がピークのタイミングでサンプリングされたものが含まれる可能性が高い。このため、パルス光の周期と、A/D変換部のサンプリング周期との同期をとる構成としなくとも、光パワー信号のピークをサンプリングすることができ、安定して、パルス光のスペクトルを測定することができ、掃引速度の低下も抑制できる。
【0034】
しかも、本実施形態の光スペクトラムアナライザ1は、A/D変換部17が複数の入力を有し、複数のアンプAmp21~Amp2mの出力が入力できる構成となっている。この構成による効果について
図6及び
図7を参照して説明する。
図6は、比較例としての光スペクトラムアナライザの測定部100の一例を示す。同図において、
図2と同等の部分については同一符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0035】
比較例の光スペクトラムアナライザでは、A/D変換部101が1つの入力しか有しておらず、アンプAmp21~Amp2mのうちスイッチSW21~SW2mにより選択された1つの出力しかA/D変換できない。このため、比較例の光スペクトラムアナライザでは、
図7に示すように、前の波長から次の波長に移動するまでの測定間隔T1において、最初にスイッチSW1~SW1n、SW21~SW2nを切り替えて、VBWの設定及びアンプAmp21~Amp2mの選択を行う。このスイッチSW1~SW1n、SW21~SW2nを切り替えている期間中は、連続サンプリングを行うことができない連続サンプリング不可期間T2となる。
【0036】
連続サンプリング不可期間T2が経過した後、A/D変換部101がサンプリングを開始する。その後、サンプリングしたデジタル値に最大値(飽和値)が含まれていると、再びスイッチSW21~SW2nを切り替えて選択しているアンプAmp21~Amp2mを変更する必要がある。このスイッチSW21~SW2nを切り替えている期間中は、連続サンプリングを行うことができない連続サンプリング不可期間T3となる。このため、アンプAmp21~Amp2mを順次選択し、出力が飽和していないアンプAmp21~Amp2mが選択されるまで連続サンプリング不可期間T3が断続的に発生する。
【0037】
比較例の光スペクトラムアナライザでは、
図5に示すように、光パワー信号がピークとなるタイミングと連続サンプリング不可期間T3とが重なる虞があり、光パワー信号のピークを捉えられず、安定してパルス光のスペクトルを測定できない。
【0038】
これに対して、本実施形態の光スペクトラムアナライザ1は、ソフト上でアンプAmp21~Amp2mの選択を行っている。このため、本実施形態の光スペクトラムアナライザ1は、
図7に示すように、VBWを設定するための連続サンプリング不可期間T2は必要であるが、アンプAmp21~Amp2mを切り替えるための連続サンプリング不可期間T3をなくすことができ、比較例よりも連続サンプリング可能期間を長くとることができる。このため、本実施形態の光スペクトラムアナライザ1は、光パワー信号のピークをサンプリングすることができ、安定してパルス光のスペクトルを測定することができる。
【0039】
また、本実施形態の光スペクトラムアナライザ1は、パルス光の周期よりも短いサンプリング周期で光パワー信号のサンプリングを行っている。このため、光パワー信号のピークのタイミングでサンプリングできる可能性をより一層高くすることができる。
【0040】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0041】
上述した実施形態では、制御部12は、波長掃引中にフィルタ処理を行っていたがこれに限ったものではない。波長掃引が終わった後に、フィルタ処理を行ってもよい。
【0042】
上述した実施形態では、制御部12は、前の波長から次の波長に掃引する間に、連続サンプリングした光パワー信号の平均値を次の波長の光パワー信号としていたが、これに限ったものではない。平均値の代わりにピーク値を次の波長の光パワー信号としてもよい。また、前の波長から次の波長に掃引する間に、連続サンプリングした光パワー信号の平均値を前の波長の光パワー信号としてもよい。
【0043】
ここで、上述した本発明に係る光スペクトラムアナライザの実施形態の特徴をそれぞれ以下[1]~[2]に簡潔に纏めて列記する。
[1]
測定対象のパルス光に含まれる波長をその波長に応じた方向に分光させた回折光を出射する分光部(4)と、
前記分光部(4)から出射される前記回折光を受光して電気信号に変換する受光部(8)と、
波長掃引された前記回折光を前記受光部(8)に受光させる掃引部(9)と、
前記受光部(8)により変換された前記電気信号を増幅し光パワー信号として出力する増幅部(16)と、
前記増幅部(16)が出力した前記光パワー信号をA/D変換するA/D変換部(17)と、
波長掃引中に、前記A/D変換部(17)によりサンプリングされデジタル値に変換された前記光パワー信号に基づいて前記パルス光に含まれる波長ごとの光パワーを求める制御部(12)と、を備えた光スペクトラムアナライザ(1)において、
前記増幅部(16)は、互いに異なるゲインを有する複数のアンプ(Amp21~Amp2m)を有し、
前記A/D変換部(17)は、複数の前記アンプ(Amp21~Amp2m)の出力が各々接続された複数のA/D変換器を有し、
前記制御部(12)は、
複数の前記アンプ(Amp21~Amp2m)により増幅され、複数の前記A/D変換器によりそれぞれデジタル値に変換された前記光パワー信号に基づいて、出力が飽和していない前記アンプ(Amp21~Amp2m)の1つを選択するアンプ選択部を有し、
前の波長から次の波長に掃引されている間に、前記A/D変換部(17)によってサンプリングされ、かつ、前記アンプ選択部によって選択された前記アンプ(Amp21~Amp2m)が出力した前記光パワー信号のデジタル値の平均値またはピーク値を、前記前の波長の前記光パワー、または、前記次の波長の前記光パワーとする、
光スペクトラムアナライザ(1)。
[2]
[1]に記載の光スペクトラムアナライザ(1)において、
前記A/D変換部(17)は、前記パルス光の周期よりも短いサンプリング時間で前記光パワー信号のサンプリングを行う、
光スペクトラムアナライザ(1)。
【符号の説明】
【0044】
1 光スペクトラムアナライザ
4 回折格子(分光部)
8 受光部
9 モータ(掃引部)
12 制御部(アンプ選択部)
16 増幅部
17 A/D変換部
Amp21~Amp2m アンプ