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特許7605902誘導基質の非存在下における糸状菌細胞内でのタンパク質の産生
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】誘導基質の非存在下における糸状菌細胞内でのタンパク質の産生
(51)【国際特許分類】
   C12P 21/00 20060101AFI20241217BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20241217BHJP
   C12N 1/15 20060101ALN20241217BHJP
   C12R 1/885 20060101ALN20241217BHJP
【FI】
C12P21/00 C
C12P21/02 C ZNA
C12N1/15
C12R1:885
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023084937
(22)【出願日】2023-05-23
(62)【分割の表示】P 2019539732の分割
【原出願日】2017-10-03
(65)【公開番号】P2023109919
(43)【公開日】2023-08-08
【審査請求日】2023-05-23
(31)【優先権主張番号】62/403,787
(32)【優先日】2016-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509240479
【氏名又は名称】ダニスコ・ユーエス・インク
(73)【特許権者】
【識別番号】519119552
【氏名又は名称】ヴィーティーティー テクニカル リサーチ センター オブ フィンランド リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110003579
【氏名又は名称】弁理士法人山崎国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100118647
【弁理士】
【氏名又は名称】赤松 利昭
(74)【代理人】
【識別番号】100123892
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 忠雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169993
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 千裕
(74)【代理人】
【識別番号】100173978
【弁理士】
【氏名又は名称】朴 志恩
(72)【発明者】
【氏名】ウォード、マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ルオ、ユン
(72)【発明者】
【氏名】ベンデズ、フェリペ オセアス
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルコネン、マリ
(72)【発明者】
【氏名】サロヘイモ、マルック
(72)【発明者】
【氏名】アロ、ニナ
(72)【発明者】
【氏名】パクラ、ティーナ
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/151512(WO,A2)
【文献】特表2007-530065(JP,A)
【文献】特表2014-503185(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 21/00
C12P 21/02
C12N 1/15
C12R 1/885
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導基質の非存在下、トリコデルマ属(Trichoderma)種の真菌細胞中で、異種の目的タンパク質(POI)を産生する方法であって、
(i)5’から3’の方向に、(a)構成的プロモーターを含む第1の核酸配列、および(b)前記第1の核酸配列に作動可能に連結した第2の核酸配列を含むポリヌクレオチドコンストラクトを前記真菌細胞に導入する工程であって、前記第2の核酸配列は、配列番号6に対して90%の配列同一性を有するAce3タンパク質をコードし、最後の4つのC末端アミノ酸として「Lys-Ala-Ser-Asp」を含む、工程と、
(ii)真菌細胞の増殖およびタンパク質の産生に好適な条件下で工程(i)の前記細胞を発酵させる工程であって、前記条件は誘導基質を含まない、工程
を含む方法。
【請求項2】
前記真菌細胞は、前記異種の目的タンパク質をコードする、導入されたポリヌクレオチドコンストラクトを含み、前記コンストラクトは、工程(i)の前、工程(i)の間、または工程(i)の後に前記真菌細胞に導入される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ポリヌクレオチドコンストラクトは、前記第2の核酸の3’に作動可能に連結した第3の核酸配列を含み、前記第3の核酸配列は天然のace3ターミネーター配列を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリヌクレオチドコンストラクトは、前記真菌細胞のゲノムに組み込まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ポリヌクレオチドコンストラクトは、前記真菌細胞のゲノムのテロメア部位に組み込まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ポリヌクレオチドコンストラクトは、前記真菌細胞のゲノムのグルコアミラーゼ(gla1)遺伝子座に組み込まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ポリヌクレオチドコンストラクトは、配列番号4、配列番号11または配列番号13に対して90%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記コードされたAce3タンパク質は、配列番号6、配列番号12または配列番号14に対して95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記異種の目的タンパク質は、α-アミラーゼ、アルカリα-アミラーゼ、β-アミラーゼ、セルラーゼ、デキストラナーゼ、α-グルコシダーゼ、α-ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペントサナーゼ、キシラナーゼ、インベルターゼ、ラクターゼ、ナリンガナーゼ、ペクチナーゼ、プルラナーゼ、酸プロテアーゼ、アルカリプロテアーゼ、ブロメライン、中性プロテアーゼ、パパイン、ペプシン、ペプチダーゼ、レンネット、レニン、キモシン、スブチリシン、テルモリシン、アスパラギン酸プロテイナーゼ、トリプシン、リパーゼ、エステラーゼ、ホスホリパーゼ、ホスファターゼ、フィターゼ、アミダーゼ、イミノアシラーゼ、グルタミナーゼ、リゾチーム、ペニシリンアシラーゼ;イソメラーゼ、オキシドレダクターゼ、カタラーゼ、クロロペルオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ、ペルオキシダーゼ、リアーゼ、アスパラギン酸β-デカルボキシラーゼ、フマラーゼ、ヒスタダーゼ、トランスフェラーゼ、リガーゼ、アミノペプチダーゼ、カルボキシペプチダーゼ、キチナーゼ、クチナーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ、α-ガラクトシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ、ラッカーゼ、マンノシダーゼ、ムタナーゼ、ポリフェノールオキシダーゼ、リボヌクレアーゼおよびトランスグルタミナーゼからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記プロモーターは、rev3プロモーター(配列番号15)、bxlプロモーター(配列番号16)、tkl1プロモーター(配列番号17、PID104295プロモーター(配列番号18)、dld1プロモーター(配列番号19)、xyn4プロモーター(配列番号20)、PID72526プロモーター(配列番号21)、axe1プロモーター(配列番号22)、hxk1プロモーター(配列番号23)、dic1プロモーター(配列番号24)、optプロモーター(配列番号25)、gut1プロモーター(配列番号26)およびpki1プロモーター(配列番号27)からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2016年10月4日に出願された米国仮特許出願第62/403,787号
明細書の優先権を主張するものであり、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
配列表
EFSを介し、添付して提出した配列表テキストファイルには、2017年10月2日
に作成した、サイズが157キロバイトのファイル「NB41159WOPCT_SEQ
LISTING.txt」が含まれている。この配列表は、37C.F.R.§1.52
(e)に適合しており、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0003】
分野
本開示は、一般に、分子生物学、生化学、タンパク質の産生および糸状菌の分野に関す
る。本開示の特定の実施形態は、1つ以上の目的タンパク質の産生を増加させるための、
変異糸状菌細胞、その組成物、およびその方法に関する。より詳しくは、特定の実施形態
において、本開示は、親糸状菌細胞由来の変異糸状菌(宿主)細胞に関し、この変異宿主
細胞は、誘導基質の非存在下での1つ以上の目的タンパク質(POI)の発現/産生を可
能にする遺伝子の改変を含む。
【背景技術】
【0004】
リグノセルロース植物物質の成分であるセルロースは、自然界に見られる最も豊富な多
糖類である。同様に、糸状菌は植物バイオマスの効率的な分解菌であることが当該技術分
野で知られており、実際、工業に関連したリグノセルロース分解酵素(以下、集合的に「
セルラーゼ」酵素と呼ぶ)の主要な供給源である。例えば、糸状菌はセルロースのβ-(
1,4)結合グリコシド結合を加水分解してグルコースを生成する細胞外セルラーゼ酵素
(例えば、セロビオヒドロラーゼ、エンドグルカナーゼ、β-グルコシダーゼ)を産生す
ることが知られている(すなわち、そのことにより、これらの糸状菌が増殖のためにセル
ロースを利用する能力を付与する)。
【0005】
特に、糸状菌トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)(T
.リーゼイ(T.reesei);真菌ハイポクレア・ジェコリナ(Hypocrea
jecorina)のアナモルフ)は、セルラーゼ酵素の効率的な生産体であることが知
られている(例えば、国際公開第1998/15619号パンフレット、同第2005/
028636号パンフレット、同第2006/074005号パンフレット、同第199
2/06221号パンフレット、同第1992/06209号パンフレット、同第199
2/06183号パンフレット、同第2002/12465号パンフレットなどを参照さ
れたい)。したがって、T.リーゼイ(T.reesei)などの糸状菌は、セルロース
由来エタノール、布帛および衣類、洗剤、繊維、食品および飼料添加物、ならびに他の工
業用途などの商品の製造に有用な酵素を産生する能力を有することから、これまで利用さ
れてきた。
【0006】
これらの工業関連酵素のトリコデルマ属(Trichoderma)中における発現(
および産生)は、増殖に利用できる炭素源に依存することが知られている。より詳しくは
、糸状菌によるセルラーゼ酵素の産生は、エネルギー消費プロセスであり、したがって、
これらの酵素の効率的な産生を確実にするために、誘導および抑制の両機構が糸状菌の中
で発達してきた。例えば、植物細胞壁物質の分解に必要な酵素(すなわち、セルラーゼ/
ヘミセルラーゼ)をコードする種々の遺伝子は、「誘導」基質の存在下で「活性化」され
、そして植物バイオマスよりも好ましい、容易に代謝される炭素源(例えば、D-グルコ
ース)の存在下では「炭素カタボライト抑制」(以下、「CCR」)として知られる機構
により「抑制」される。このように、セルラーゼ遺伝子はグルコースによって強く抑制さ
れ、セルロースおよび特定の二糖類(例えば、ソホロース、ラクトース、ゲンチオビオー
ス)によって数千倍誘導される。例えば、主要なセロビオヒドロラーゼ1(cbh1)の
発現レベルは、グルコース含有培地と比較して、セルロースまたはソホロースなどの誘導
炭素源を含有する培地で数千倍「アップレギュレート」される(Ilmen et al
.,1997)。さらに、「誘導された」T.リーゼイ(T.reesei)培養物に「
抑制」炭素源を添加すると(セルロースまたはソホロース)誘導に打ち勝ち、セルラーゼ
遺伝子発現のダウンレギュレーションをもたらすことが示された(el-Gogary
et al.,1989;Ilmen et al.,1997)。このように、セルラ
ーゼ系(酵素)を含む遺伝子(この系の遺伝子メンバーは相乗的に作用し、上記のように
、セルロースの可溶性オリゴ糖への効率的な加水分解に必要である)の発現は、転写レベ
ルで少なくとも調整および調節される。
【0007】
より具体的には、ゲノムワイド分析で、T.リーゼイ(T.reesei)中に少なく
とも10個のセルロース分解酵素および16個のキシラン分解酵素をコードする遺伝子の
存在が明らかになった(Martinez et al、2008)。特に、最も豊富に
分泌される酵素は、2つの主要なセロビオヒドロラーゼ(EC.3.2.1.91)、c
bh1(セロビオヒドロラーゼ1)およびcbh2(セロビオヒドロラーゼ2)、ならび
に2つの主要な特異的エンド-β-1,4-キシラナーゼ(EC3.3.1.8)、xy
n1(エンド-1,4-β-キシラナーゼ1)およびxyn2(エンド-1,4-β-キ
シラナーゼ2)であり、本明細書では「主要な工業関連ヘミセルラーゼおよびセルラーゼ
」または「MIHC」と呼ぶ。これらのMIHCは、セルロースおよびキシランを分解す
る追加の酵素と共に作用し、その結果、可溶性オリゴ糖および単糖、例えば、セロビオー
ス、D-グルコース、キシロビオースおよびD-キシロースを生成する。さらに、ソホロ
ースは、これらの酵素のいくつかのトランスグリコシル化活性の産物である(Vaher
i et al,1979)。より詳しくは、これらの可溶性オリゴ糖および単糖(すな
わち、セロビオース、D-グルコース、キシロビオース、D-キシロースおよびソホロー
ス)はT.リーゼイ(T.reesei)中でのMICHの発現に影響することがこの文
献で報告されている。例えば、D-グルコースの存在はCCRを引き起こし、これは、少
量のMIHCの分泌をもたらす。ソホロースは、cbh1およびcbh2の発現のための
最も強力なインデューサーであると考えられている。D-キシロースは、濃度に依存して
xyn1およびxyn2の発現を調節する。
【0008】
一般に、トリコデルマ属(Trichoderma)などの糸状菌による酵素/ポリペ
プチドの商業規模生産は、一般に、バッチ法、流加法、および連続フロープロセスなどの
、固体培養または浸漬培養による。例えば、トリコデルマ属(Trichoderma)
における工業的セルラーゼ生産で最も問題であり、かつ高価な態様の1つは、トリコデル
マ属(Trichoderma)宿主細胞に適切なインデューサー(すなわち、誘導基質
)を提供することにある。例えば、研究室規模実験の場合と同様、商業規模のセルラーゼ
(酵素)の生産は、固体セルロース(すなわち、誘導基質)上で真菌細胞を増殖させるこ
とによって、または「ラクトース」などの二糖インデューサー(すなわち、誘導基質)の
存在下で細胞を培養することによって「誘導」される。
【0009】
残念ながら、工業規模では、両「誘導」方法とも、セルラーゼ生産に関連する高コスト
をもたらすという欠点を有する。例えば、上記のように、セルラーゼ合成は、セルロース
誘導とグルコース抑制の両方を受ける。このように、誘導性プロモーター制御下でのセル
ラーゼ酵素の収率に影響を及ぼす重要な因子は、セルロース基質とグルコース濃度との間
の適切なバランスの維持である(すなわち、これは、調節された遺伝子産物の妥当な商業
的収率を得るために重要である)。セルロースは有効で安価なインデューサーであるが、
糸状菌細胞が固体セルロース上で増殖する場合、グルコース濃度の制御が問題となり得る
。低濃度のセルロースでは、グルコースの産生が遅すぎて、活発な細胞増殖および機能の
代謝要求を満たすことができない。他方、グルコース生成がその消費よりも速い場合、セ
ルラーゼ合成はグルコース抑制によって停止され得る。したがって、基質添加を遅くし、
かつグルコース濃度をモニタリングするために、高価なプロセス制御スキームが必要とさ
れる(Ju and Afolabi,1999)。さらに、セルロース物質の固体特性
のために、基質のゆっくりした連続的な送達を行うことは困難であり得る。
【0010】
「誘導基質」としてのセルロースの使用に伴う問題のいくつかは、「ラクトース」、「
ソホロース」または「ゲンチオビオース」などの可溶性「誘導基質」の使用によって克服
することができる。例えば、「誘導基質」としてラクトースを使用する場合、ラクトース
はインデューサーおよび炭素源として機能するよう、高濃度で提供されなければならない
(例えば、Seiboth,et.al.,2002を参照されたい)。ソホロースはセ
ルロースよりも強力なインデューサーであるが、ソホロースは高価であり、かつ製造が困
難である。例えば、グルコース、ソホロースおよび他の二糖類の混合物(すなわち、グル
コースの酵素変換により生成される)は、セルラーゼの効率的な生産のために使用するこ
とができるが、これはグルコースの単独使用よりも大きな(生産)コストを招く。このよ
うに、固体セルロースよりも取り扱いおよび制御が容易であるものの、誘導基質としての
ソホロースの使用は、セルラーゼを製造するコストを法外に高価にする可能性がある。
【0011】
上記に基づけば、生産のために費用のかかる誘導基質(例えば、ソホロース、ラクトー
スなど)の提供が必要または要件でない、糸状菌による酵素/ポリペプチドの費用効率の
高い商業的規模生産のための、進行中で対処されていないニーズが当該技術分野に依然存
在することは明らかである。より詳しくは、糸状菌宿主細胞により1種以上の内因性リグ
ノセルロース分解酵素を商業規模で生産する(このような糸状菌細胞は誘導基質の非存在
下でこれらの遺伝子の1種以上を発現し得る)ニーズが当該技術分野に残されている。さ
らに、そのような糸状菌宿主細胞中で発現し産生される、1つ以上の異種タンパク質産物
(このようなタンパク質をコードする異種遺伝子が真菌宿主細胞に導入され、この細胞が
誘導基質の非存在下でそのような異種遺伝子を発現し得る)を高い費用効率で産生すると
いう、未だ対処されていないさらなるニーズが当該技術分野に存在している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示の特定の実施形態は、産生のために高価な誘導基質(例えば、ソホロース、ラク
トースなど)を提供することを必要または要件としない、糸状菌による酵素/ポリペプチ
ドの商業規模の生産に関する。したがって、他の特定の実施形態は、1つ以上の目的タン
パク質の産生を増加させるための、変異糸状菌細胞、その組成物、およびその方法に関す
る。例えば、本開示の特定の実施形態は、親糸状菌細胞に由来する変異糸状菌細胞に関し
、この変異細胞は、配列番号6のAce3タンパク質に対して約90%の配列同一性を有
するAce3タンパク質をコードする、導入されたポリヌクレオチドコンストラクトを含
み、この変異細胞は、変異細胞と親細胞が類似の条件下で培養された場合、親細胞と比較
して誘導基質の非存在下でより多くの量の目的タンパク質(POI)を産生する。他の特
定の実施形態では、変異細胞と親細胞が類似の条件下で培養された場合、変異細胞は親細
胞と比較して誘導基質の存在下でより多くの量のPOIを産生する。
【0013】
変異細胞の別の実施形態では、配列番号6に対して約90%の配列同一性を有する、コ
ードされたAce3タンパク質は、最後の4つのC末端アミノ酸として「Lys-Ala
-Ser-Asp」を含む。別の実施形態では、配列番号6に対して約90%の配列同一
性を有する、コードされたAce3タンパク質は、配列番号6に作動可能に連結し、かつ
同配列に先行する配列番号98のN末端アミノ酸フラグメントを含む。変異細胞の、他の
特定の実施形態では、Ace-3タンパク質は、配列番号12に対して約90%の配列同
一性を有する。別の実施形態では、Ace3タンパク質をコードする導入されたポリヌク
レオチドは、配列番号5に対して約90%の同一性を有するオープンリーディングフレー
ム(ORF)配列を含む。
【0014】
変異細胞のさらに他の実施形態では、POIは内因性POIまたは異種POIである。
このように、特定の実施形態では、変異細胞は、異種POIをコードする、導入されたポ
リヌクレオチドコンストラクトを含む。別の実施形態では、異種POIをコードするポリ
ヌクレオチドコンストラクトは、セルロース誘導性遺伝子プロモーターの制御下で発現す
る。他の特定の実施形態では、内因性POIは、リグノセルロース分解酵素である。この
ように、他の実施形態では、リグノセルロース分解酵素は、セルラーゼ酵素、ヘミセルラ
ーゼ酵素、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される。他の特定の実施形態で
は、リグノセルロース分解酵素は、cbh1、cbh2、egl1、egl2、egl3
、egl4、egl5、egl6、bgl1、bgl2、xyn1、xyn2、xyn3
、bxl1、abf1、abf2、abf3、axe1、axe2、axe3、man1
、agl1、agl2、agl3、glr1、swo1、cip1およびcip2からな
る群から選択される。さらに他の実施形態では、異種POIは、α-アミラーゼ、アルカ
リα-アミラーゼ、β-アミラーゼ、セルラーゼ、デキストラナーゼ、α-グルコシダー
ゼ、α-ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペントサナーゼ、キシ
ラナーゼ、インベルターゼ、ラクターゼ、ナリンガナーゼ、ペクチナーゼ、プルラナーゼ
、酸プロテアーゼ、アルカリプロテアーゼ、ブロメライン、中性プロテアーゼ、パパイン
、ペプシン、ペプチダーゼ、レンネット、レニン、キモシン、スブチリシン、テルモリシ
ン、アスパラギン酸プロテイナーゼ、トリプシン、リパーゼ、エステラーゼ、ホスホリパ
ーゼ、ホスファターゼ、フィターゼ、アミダーゼ、イミノアシラーゼ、グルタミナーゼ、
リゾチーム、ペニシリンアシラーゼ、イソメラーゼ、オキシドレダクターゼ、カタラーゼ
、クロロペルオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、ヒドロキシステロイドデヒドロゲ
ナーゼ、ペルオキシダーゼ、リアーゼ、アスパラギン酸β-デカルボキシラーゼ、フマラ
ーゼ、ヒスタダーゼ、トランスフェラーゼ、リガーゼ、アミノペプチダーゼ、カルボキシ
ペプチダーゼ、キチナーゼ、クチナーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ、α-ガラクトシダ
ーゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ、ラッカーゼ、マンノシダーゼ、ムタ
ナーゼ、ポリフェノールオキシダーゼ、リボヌクレアーゼおよびトランスグルタミナーゼ
からなる群から選択される。
【0015】
変異細胞の別の実施形態では、ポリヌクレオチドコンストラクトは、配列番号6に対し
て約90%の配列同一性を有するAce3タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列
の5’に作動可能に連結されたプロモーター配列を含む。特定の実施形態では、ポリヌク
レオチドコンストラクトは、配列番号6に対して約90%の配列同一性を有するAce3
タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列の3’に作動可能に連結された天然のac
e3ターミネーター配列をさらに含む。他の特定の実施形態では、ポリヌクレオチドコン
ストラクトは、真菌細胞のゲノムに組み込まれる。特定の実施形態では、ポリヌクレオチ
ドコンストラクトは、真菌細胞ゲノムのテロメア部位に組み込まれる。他の特定の実施形
態では、ポリヌクレオチドコンストラクトは、真菌細胞ゲノムのグルコアミラーゼ(gl
a1)遺伝子座に組み込まれる。さらに他の実施形態では、ポリヌクレオチドコンストラ
クトは、配列番号4、配列番号11または配列番号13に対して約90%の配列同一性を
有するヌクレオチド配列を含む。他の実施形態では、コードされたAce3タンパク質は
、配列番号6、配列番号12または配列番号14に対して95%の配列同一性を有するア
ミノ酸配列を含む。したがって、他の実施形態では、コードされたAce3タンパク質は
、配列番号6、配列番号12または配列番号14のアミノ酸配列を含む。
【0016】
他の実施形態では、変異細胞は、配列番号48の野生型キシラナーゼレギュレーター1
(Xyr1)タンパク質、または配列番号46の変異キシラナーゼレギュレーター1(X
yr1)タンパク質をコードする、ポリヌクレオチドを発現する遺伝子改変を含む。他の
特定の実施形態では、変異細胞は、内因性炭素カタボライトリプレッサー1(Cre1)
タンパク質またはAce1タンパク質をコードする遺伝子の発現を減少または抑制する遺
伝子改変を含む。さらに別の実施形態では、変異細胞は、Ace2タンパク質の発現を含
む遺伝子改変を含む。他の実施形態では、糸状菌細胞は、子嚢菌門(Ascomycot
a)の亜門のチャワンタケ亜門(Pezizomycotina)細胞である。他の特定
の実施形態では、糸状菌細胞は、トリコデルマ属(Trichoderma)種の細胞で
ある。
【0017】
他の実施形態では、開示は、配列番号6、配列番号12または配列番号14に対して約
90%の配列同一性を有するAce3タンパク質をコードする、ポリヌクレオチドORF
に関する。
【0018】
他の実施形態では、開示は、本開示の変異細胞によって産生されるリグノセルロース分
解酵素に関する。他の実施形態では、開示は、本開示の変異細胞によって産生される異種
POIに関する。
【0019】
他の実施形態では、開示は、誘導基質の非存在下、トリコデルマ属(Trichode
rma)種の真菌細胞中で、目的内因性タンパク質を産生する方法に関し、この方法は(
i)5’から3’の方向に(a)プロモーターを含む第1の核酸配列、および(b)第1
の核酸配列に作動可能に連結した第2の核酸配列(第2の核酸配列は、配列番号6に対し
て約90%の配列同一性を有するAce3タンパク質をコードし、最後の4つのC末端ア
ミノ酸として「Lys-Ala-Ser-Asp」を含む)を含むポリヌクレオチドコン
ストラクトを真菌細胞に導入する工程と、(ii)真菌細胞の増殖およびタンパク質の産
生に好適な条件下で(このような好適な増殖条件は誘導基質を含まない)工程(i)の細
胞を発酵させる工程とを含む。本方法の特定の実施形態では、ポリヌクレオチドコンスト
ラクトは、第2の核酸の3’に作動可能に連結された第3の核酸配列を含み、この第3の
核酸配列は天然のace3ターミネーター配列を含む。別の実施形態では、ポリヌクレオ
チドコンストラクトは、真菌細胞のゲノムに組み込まれる。特定の実施形態では、ポリヌ
クレオチドコンストラクトは、真菌細胞ゲノムのテロメア部位に組み込まれる。他の特定
の実施形態では、ポリヌクレオチドコンストラクトは、真菌細胞ゲノムのグルコアミラー
ゼ(gla1)遺伝子座に組み込まれる。本方法の他の実施形態では、ポリヌクレオチド
コンストラクトは、配列番号4、配列番号11または配列番号13に対して約90%の配
列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。他の実施形態では、コードされたAce3タ
ンパク質は、配列番号6、配列番号12または配列番号14に対して95%の配列同一性
を有するアミノ酸配列を含む。別の実施形態では、コードされたAce3タンパク質は、
配列番号6、配列番号12または配列番号14のアミノ酸配列を含む。
【0020】
本方法の特定の実施形態では、工程(i)のプロモーターは、rev3プロモーター(
配列番号15)、bxlプロモーター(配列番号16)、tkl1プロモーター(配列番
号17)、PID104295プロモーター(配列番号18)、dld1プロモーター(
配列番号19)、xyn4プロモーター(配列番号20)、PID72526プロモータ
ー(配列番号21)、axe1プロモーター(配列番号22)、hxk1プロモーター(
配列番号23)、dic1プロモーター(配列番号24)、optプロモーター(配列番
号25)、gut1プロモーター(配列番号26)、およびpki1プロモーター(配列
番号27)からなる群から選択される。
【0021】
本方法の関連する実施形態では、内因性POIはリグノセルロース分解酵素である。特
定の実施形態では、リグノセルロース分解酵素は、セルラーゼ酵素、ヘミセルラーゼ酵素
、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される。特定の実施形態では、セルラー
ゼ酵素は、cbh1、cbh2、egl1、egl2、egl3、egl4、egl5、
egl6、bgl1、bgl2、swo1、cip1およびcip2からなる群から選択
される。別の実施形態では、ヘミセルラーゼ酵素は、xyn1、xyn2、xyn3、x
yn4、bxl1、abf1、abf2、abf3、axe1、axe2、axe3、m
an1、agl1、agl2、agl3およびglr1からなる群から選択される。
【0022】
本方法の他の実施形態では、工程(i)は、異種POIをコードする、導入されたポリ
ヌクレオチドコンストラクトをさらに含む。特定の実施形態では、異種POIをコードす
るポリヌクレオチドコンストラクトは、セルロース誘導性遺伝子プロモーターの制御下で
発現する。特定の実施形態では、セルロース誘導性遺伝子プロモーターはcbh1、cb
h2、egl1、egl2、xyn2またはstp1から選択される。
【0023】
他の実施形態では、本方法は、配列番号48の野生型キシラナーゼレギュレーター1(
Xyr1)タンパク質、または配列番号46の変異キシラナーゼレギュレーター1(Xy
r1)タンパク質をコードする、ポリヌクレオチドを発現する遺伝子改変をさらに含む。
他の実施形態では、本方法は、内因性炭素カタボライトリプレッサー1(Cre1)タン
パク質またはAce1タンパク質をコードする遺伝子の発現を減少または抑制する遺伝子
改変をさらに含む。さらに別の実施形態では、本方法は、Ace2タンパク質の発現を含
む遺伝子改変をさらに含む。
【0024】
他の実施形態では、本開示は、誘導基質の非存在下、トリコデルマ属(Trichod
erma)種の真菌細胞中で目的内因性タンパク質を産生する方法に関し、この方法は、
(i)5’から3’の方向に(a)プロモーターを含む第1の核酸配列、および(b)第
1の核酸配列に作動可能に連結した第2の核酸配列(この第2の核酸配列は、配列番号1
2に対して約90%の配列同一性を有するAce3タンパク質をコードする)を含むポリ
ヌクレオチドコンストラクトを真菌細胞に導入する工程と、(ii)真菌細胞の増殖およ
びタンパク質の産生に好適な条件下で(このような好適な増殖条件は誘導基質を含まない
)工程(i)の細胞を発酵させる工程を含む。他の実施形態では、ポリヌクレオチドコン
ストラクトは、第2の核酸の3’に作動可能に連結された第3の核酸配列を含み、この第
3の核酸配列は天然のace3ターミネーター配列を含む。本方法の他の実施形態では、
ポリヌクレオチドコンストラクトは、真菌細胞のゲノムに組み込まれる。特定の実施形態
では、ポリヌクレオチドコンストラクトは、真菌細胞のゲノムのテロメア部位に組み込ま
れる。他の特定の実施形態では、ポリヌクレオチドコンストラクトは、真菌細胞ゲノムの
グルコアミラーゼ(gla1)遺伝子座に組み込まれる。本方法の別の実施形態では、ポ
リヌクレオチドコンストラクトは、配列番号4、配列番号11または配列番号13に対し
て約90%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。特定の実施形態では、コード
されたAce3タンパク質は、配列番号6、配列番号12または配列番号14に対して9
5%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。他の特定の実施形態では、コードされた
Ace3タンパク質は、配列番号6、配列番号12または配列番号14のアミノ酸配列を
含む。
【0025】
したがって、他の実施形態の方法8では、内因性POIはリグノセルロース分解酵素で
ある。特定の実施形態では、リグノセルロース分解酵素は、セルラーゼ酵素、ヘミセルラ
ーゼ酵素、またはこれらの組み合わせからなる群から選択される。別の実施形態では、セ
ルラーゼ酵素は、cbh1、cbh2、egl1、egl2、egl3、egl4、eg
l5、egl6、bgl1、bgl2、swo1、cip1およびcip2からなる群か
ら選択される。他の実施形態では、ヘミセルラーゼ酵素は、xyn1、xyn2、xyn
3、xyn4、bxl1、abf1、abf2、abf3、axe1、axe2、axe
3、man1、agl1、agl2、agl3およびglr1からなる群から選択される
【0026】
本方法の別の実施形態では、工程(i)は、異種POIをコードする、導入されたポリ
ヌクレオチドコンストラクトをさらに含む。特定の実施形態では、異種POIをコードす
るポリヌクレオチドコンストラクトは、セルロース誘導性遺伝子プロモーターの制御下で
発現する。本方法の、他の特定の実施形態では、工程(i)のプロモーターは、rev3
プロモーター(配列番号15)、bxlプロモーター(配列番号16)、tkl1プロモ
ーター(配列番号17、PID104295プロモーター(配列番号18)、dld1プ
ロモーター(配列番号19)、xyn4プロモーター(配列番号20)、PID7252
6プロモーター(配列番号21)、axe1プロモーター(配列番号22)、hxk1プ
ロモーター(配列番号23)、dic1プロモーター(配列番号24)、optプロモー
ター(配列番号25)、gut1プロモーター(配列番号26)、およびpki1プロモ
ーター(配列番号27)からなる群から選択される。別の実施形態では、本方法は、配列
番号48の野生型キシラナーゼレギュレーター1(Xyr1)タンパク質、または配列番
号46の変異キシラナーゼレギュレーター1(Xyr1)タンパク質をコードする、ポリ
ヌクレオチドを発現する遺伝子改変をさらに含む。他の特定の実施形態では、本方法は、
内因性炭素カタボライトリプレッサー1(Cre1)タンパク質またはAce1タンパク
質をコードする遺伝子の発現を減少または抑制する遺伝子の改変をさらに含む。さらに他
の実施形態では、本方法はAce2タンパク質を発現する遺伝子の改変をさらに含む。
【0027】
他の特定の実施形態では、本開示は誘導基質の非存在下、トリコデルマ属(Trich
oderma)種の真菌細胞中で目的異種タンパク質を産生する方法に関し、この方法は
(i)5’から3’の方向に(a)構成的プロモーターを含む第1の核酸配列、および(
b)第1の核酸配列に作動可能に連結した第2の核酸配列(この第2の核酸配列は、配列
番号6に対して約90%の配列同一性を有するAce3タンパク質をコードし、最後の4
つのC末端アミノ酸として「Lys-Ala-Ser-Asp」を含む)を含むポリヌク
レオチドコンストラクトを真菌細胞に導入する工程と、(ii)真菌細胞の増殖およびタ
ンパク質の産生に好適な条件下で(このような好適な増殖条件は誘導基質を含まない)工
程(i)の細胞を発酵させる工程とを含む。したがって、本方法の特定の実施形態では、
真菌細胞は、異種POIをコードする、導入されたポリヌクレオチドコンストラクトを含
み、このコンストラクトは、工程(i)の前、工程(i)の間、または工程(i)の後に
真菌細胞に導入される)。別の実施形態では、ポリヌクレオチドコンストラクトは、第2
の核酸の3’に作動可能に連結された第3の核酸配列を含み、この第3の核酸配列は天然
のace3ターミネーター配列を含む。本方法の他の実施形態では、ポリヌクレオチドコ
ンストラクトは、真菌細胞のゲノムに組み込まれる。特定の実施形態では、ポリヌクレオ
チドコンストラクトは、真菌細胞のゲノムのテロメア部位に組み込まれる。他の実施形態
では、ポリヌクレオチドコンストラクトは、真菌細胞ゲノムのグルコアミラーゼ(gla
1)遺伝子座に組み込まれる。
【0028】
本方法の他の特定の実施形態では、ポリヌクレオチドコンストラクトは、配列番号4、
配列番号11または配列番号13に対して約90%の配列同一性を有するヌクレオチド配
列を含む。別の実施形態では、コードされたAce3タンパク質は、配列番号6、配列番
号12または配列番号14に対して95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。他
の実施形態では、コードされたAce3タンパク質は、配列番号6、配列番号12または
配列番号14のアミノ酸配列を含む。他の実施形態では、異種POIをコードするポリヌ
クレオチドコンストラクトは、セルロース誘導性遺伝子プロモーターの制御下で発現する
。他の特定の実施形態では、異種POIは、α-アミラーゼ、アルカリα-アミラーゼ、
β-アミラーゼ、セルラーゼ、デキストラナーゼ、α-グルコシダーゼ、α-ガラクトシ
ダーゼ、グルコアミラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペントサナーゼ、キシラナーゼ、インベル
ターゼ、ラクターゼ、ナリンガナーゼ、ペクチナーゼ、プルラナーゼ、酸プロテアーゼ、
アルカリプロテアーゼ、ブロメライン、中性プロテアーゼ、パパイン、ペプシン、ペプチ
ダーゼ、レンネット、レニン、キモシン、スブチリシン、テルモリシン、アスパラギン酸
プロテイナーゼ、トリプシン、リパーゼ、エステラーゼ、ホスホリパーゼ、ホスファター
ゼ、フィターゼ、アミダーゼ、イミノアシラーゼ、グルタミナーゼ、リゾチーム、ペニシ
リンアシラーゼ、イソメラーゼ、オキシドレダクターゼ、カタラーゼ、クロロペルオキシ
ダーゼ、グルコースオキシダーゼ、ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ、ペルオキシ
ダーゼ、リアーゼ、アスパラギン酸β-デカルボキシラーゼ、フマラーゼ、ヒスタダーゼ
、トランスフェラーゼ、リガーゼ、アミノペプチダーゼ、カルボキシペプチダーゼ、キチ
ナーゼ、クチナーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ、α-ガラクトシダーゼ、β-ガラクト
シダーゼ、β-グルコシダーゼ、ラッカーゼ、マンノシダーゼ、ムタナーゼ、ポリフェノ
ールオキシダーゼ、リボヌクレアーゼおよびトランスグルタミナーゼからなる群から選択
される。
【0029】
本方法の他の実施形態では、工程(i)のプロモーターはrev3プロモーター(配列
番号15)、bxlプロモーター(配列番号16)、tkl1プロモーター(配列番号1
7、PID104295プロモーター(配列番号18)、dld1プロモーター(配列番
号19)、xyn4プロモーター(配列番号20)、PID72526プロモーター(配
列番号21)、axe1プロモーター(配列番号22)、hxk1プロモーター(配列番
号23)、dic1プロモーター(配列番号24)、optプロモーター(配列番号25
)、gut1プロモーター(配列番号26)、およびpki1プロモーター(配列番号2
7)からなる群から選択される。さらに他の実施形態では、本方法は、配列番号48の野
生型キシラナーゼレギュレーター1(Xyr1)タンパク質、または配列番号46の変異
キシラナーゼレギュレーター1(Xyr1)タンパク質をコードする、ポリヌクレオチド
を発現する遺伝子改変をさらに含む。別の実施形態では、本方法は、内因性炭素カタボラ
イトリプレッサー1(Cre1)タンパク質またはAce1タンパク質をコードする遺伝
子の発現を減少または抑制する遺伝子改変をさらに含む。さらに他の実施形態では、本方
法は、Ace2タンパク質の発現を含む遺伝子改変をさらに含む。
【0030】
別の実施形態では、本開示は、誘導基質の非存在下、トリコデルマ属(Trichod
erma)種の真菌細胞中で目的異種タンパク質を産生する方法に関し、この方法は(i
)5’から3’の方向に(a)構成的プロモーターを含む第1の核酸配列、および(b)
第1の核酸配列に作動可能に連結した第2の核酸配列(この第2の核酸配列は、配列番号
12に対して約90%の配列同一性を有するAce3タンパク質をコードする)を含むポ
リヌクレオチドコンストラクトを真菌細胞に導入する工程と、(ii)真菌細胞の増殖お
よびタンパク質の産生に好適な条件下で(このような好適な増殖条件は誘導基質を含まな
い)工程(i)の細胞を発酵させる工程とを含む。特定の実施形態では、真菌細胞は異種
POIをコードする、導入されたポリヌクレオチドコンストラクトを含む(このコンスト
ラクトは、工程(i)の前、工程(i)の間、または工程(i)の後に真菌細胞に導入さ
れる)。他の実施形態では、ポリヌクレオチドコンストラクトは、第2の核酸の3’に作
動可能に連結された第3の核酸配列を含み、この第3の核酸配列は天然のace3ターミ
ネーター配列を含む。本方法の他の実施形態では、ポリヌクレオチドコンストラクトは、
真菌細胞のゲノムに組み込まれる。特定の実施形態では、ポリヌクレオチドコンストラク
トは、真菌細胞のゲノムのテロメア部位に組み込まれる。他の実施形態では、ポリヌクレ
オチドコンストラクトは、真菌細胞ゲノムのグルコアミラーゼ(gla1)遺伝子座に組
み込まれる。さらに他の実施形態では、ポリヌクレオチドコンストラクトは、配列番号4
、配列番号11または配列番号13に対して約90%の配列同一性を有するヌクレオチド
配列を含む。特定の実施形態では、コードされたAce3タンパク質は、配列番号6、配
列番号12または配列番号14に対して95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む
。別の実施形態では、コードされたAce3タンパク質は、配列番号6、配列番号12ま
たは配列番号14のアミノ酸配列を含む。本方法の別の実施形態では、異種POIをコー
ドするポリヌクレオチドコンストラクトは、セルロース誘導性遺伝子プロモーターの制御
下で発現する。特定の実施形態では、異種POIは、α-アミラーゼ、アルカリα-アミ
ラーゼ、β-アミラーゼ、セルラーゼ、デキストラナーゼ、α-グルコシダーゼ、α-ガ
ラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペントサナーゼ、キシラナーゼ、
インベルターゼ、ラクターゼ、ナリンガナーゼ、ペクチナーゼ、プルラナーゼ、酸プロテ
アーゼ、アルカリプロテアーゼ、ブロメライン、中性プロテアーゼ、パパイン、ペプシン
、ペプチダーゼ、レンネット、レニン、キモシン、スブチリシン、テルモリシン、アスパ
ラギン酸プロテイナーゼ、トリプシン、リパーゼ、エステラーゼ、ホスホリパーゼ、ホス
ファターゼ、フィターゼ、アミダーゼ、イミノアシラーゼ、グルタミナーゼ、リゾチーム
、ペニシリンアシラーゼ、イソメラーゼ、オキシドレダクターゼ、カタラーゼ、クロロペ
ルオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ、ペ
ルオキシダーゼ、リアーゼ、アスパラギン酸β-デカルボキシラーゼ、フマラーゼ、ヒス
タダーゼ、トランスフェラーゼ、リガーゼ、アミノペプチダーゼ、カルボキシペプチダー
ゼ、キチナーゼ、クチナーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ、α-ガラクトシダーゼ、β-
ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ、ラッカーゼ、マンノシダーゼ、ムタナーゼ、ポ
リフェノールオキシダーゼ、リボヌクレアーゼおよびトランスグルタミナーゼからなる群
から選択される。
【0031】
本方法の他の実施形態では、工程(i)のプロモーターはrev3プロモーター(配列
番号15)、bxlプロモーター(配列番号16)、tkl1プロモーター(配列番号1
7、PID104295プロモーター(配列番号18)、dld1プロモーター(配列番
号19)、xyn4プロモーター(配列番号20)、PID72526プロモーター(配
列番号21)、axe1プロモーター(配列番号22)、hxk1プロモーター(配列番
号23)、dic1プロモーター(配列番号24)、optプロモーター(配列番号25
)、gut1プロモーター(配列番号26)、およびpki1プロモーター(配列番号2
7)からなる群から選択される。さらに他の実施形態では、本方法は、配列番号48の野
生型キシラナーゼレギュレーター1(Xyr1)タンパク質、または配列番号46の変異
キシラナーゼレギュレーター1(Xyr1)タンパク質をコードする、ポリヌクレオチド
を発現する遺伝子の改変をさらに含む。別の実施形態では、本方法は、内因性炭素カタボ
ライトリプレッサー1(Cre1)タンパク質またはAce1タンパク質をコードする遺
伝子の発現を減少または抑制する遺伝子の改変をさらに含む。さらに他の実施形態では、
本方法はAce2タンパク質を発現する遺伝子の改変をさらに含む。
【0032】
他の特定の実施形態では、本開示は、誘導基質の非存在下、内因性タンパク質の産生を
増加させるためにトリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)株
を遺伝子的に改変する方法に関し、この方法は、(i)配列番号3のAce3-Sタンパ
ク質、配列番号8のAce3-SCタンパク質または配列番号10のAce3-LCタン
パク質をコードするace3遺伝子のゲノムコピーを含む、T.リーゼイ(T.rees
ei)株をスクリーニングし、同定する工程(同定されたT.リーゼイ(T.reese
i)株は、配列番号6のAce3-Lタンパク質、配列番号14のAce3-LNタンパ
ク質または配列番号12のAce3-ELタンパク質をコードするace3遺伝子のゲノ
ムコピーを含まない)と、(ii)工程(i)で同定されたT.リーゼイ(T.rees
ei)株に、5’から3’の方向に、(a)プロモーターを含む第1の核酸配列、および
(b)第1の核酸配列に作動可能に連結した第2の核酸配列を含むポリヌクレオチドコン
ストラクト導入する工程(第2の核酸配列は、配列番号6に対して約90%の配列同一性
を有するAce3タンパク質をコードし、最後の4つのC末端アミノ酸として「Lys-
Ala-Ser-Asp」を含む、または第2の核酸配列は、配列番号12に対して約9
0%の配列同一性を有するAce-3タンパク質をコードする)と、(iii)真菌細胞
の増殖およびタンパク質の産生に好適な条件下(このような好適な増殖条件は誘導基質を
含まない)で工程(ii)の細胞を発酵させる工程とを含む。
【0033】
他の特定の実施形態では、本開示は、親糸状菌細胞に由来する変異糸状菌細胞に関し、
この変異細胞は、代替プロモーターで置換された天然のace3遺伝子プロモーターを含
み、この変異細胞は、変異細胞と親細胞が類似の条件下で培養された場合、誘導基質の非
存在下で親細胞と比較してより多くの量の目的タンパク質(POI)を産生する。特定の
実施形態では、代替プロモーターはトリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma
reesei)プロモーターである。別の実施形態では、代替プロモーターは、rev3
プロモーター(配列番号15)、bxlプロモーター(配列番号16)、tkl1プロモ
ーター(配列番号17)、PID104295プロモーター(配列番号18)、dld1
プロモーター(配列番号19)、xyn4プロモーター(配列番号20)、PID725
26プロモーター(配列番号21)、axe1プロモーター(配列番号22)、hxk1
プロモーター(配列番号23)、dic1プロモーター(配列番号24)、optプロモ
ーター(配列番号25)、gut1プロモーター(配列番号26)、およびpki1プロ
モーター(配列番号27)からなる群から選択されるプロモーターである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1図1は、Ace3タンパク質コード領域の模式図を示す。より詳しくは、図1Aは、ゲノム中の同じDNA配列にアラインされた(図1A)T.リーゼイ(T.reesei)株QM6aおよびRUT-C30のアノテーションに基づく、Ace3タンパク質コード領域の模式図を示す。予測されるエクソンおよびイントロンを、それぞれ矢印および破線で示す。破線の垂直線は、RUT-C30ゲノムのナンセンス変異を示す。配列番号2のクローン化ace3-S(短い)オープンリーディングフレームおよび配列番号5のクローン化ace3-L(長い)オープンリーディングフレームは、本願に記載のようにスクリーニングし、試験した。図1Bに、T.リーゼイ(T.reesei)株RUT-C30由来のAce3-Lタンパク質(配列番号6)、T.リーゼイ(T.reesei)株QM6a由来のAce3-Sタンパク質(配列番号3)、Ace3-SCタンパク質(配列番号8)、Ace3-LNタンパク質(配列番号14)、Ace3-LCタンパク質(配列番号10)およびAce3-ELタンパク質(配列番号12)のアミノ酸アラインメントを示す。
図2図2は、Ace3発現ベクターpYL1(図2A)、pYL2(図2B)、pYL3(図2C)およびpYL4(図2D)の模式図を示す。
図3図3は、親および変異細胞を、20%ラクトース(lac)または20%グルコース(glu)を含有するsrMTP中の規定培地中で増殖させた場合の、T.リーゼイ(T.reesei)親および変異細胞上清のポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)を示す。各レーンで、等容量の培養上清を使用した。Mは分子量マーカーであり、親T.リーゼイ(T.reesei)株を対照株とした。
図4図4は、1.5%グルコース/ソホロース(sop)または1.5%グルコース(glu)を補充した規定培地中、振盪フラスコ内で親および変異細胞を増殖させた場合の、T.リーゼイ(T.reesei)親および変異細胞上清のSDS-PAGEを示す。各レーンで、等容量の培養上清を使用した。培養上清の全タンパク質濃度を、各対応するレーンの下に示す。Mは分子量マーカーであり、KDはキロダルトンである。
図5図5は、炭素源としてグルコース/ソホロース(sop)またはグルコース(glu)を補充した規定培地中、2L発酵槽内で増殖させた、T.リーゼイ(T.reesei)親および変異細胞のSDS-PAGEを示す。Mは分子量マーカーであり、ゼロ(0)は種培養上清である。
図6図6は、ace3遺伝子座の天然プロモーター上流の5’領域を含むDNAフラグメント、loxP隣接ハイグロマイシンB耐性(選択マーカー)カセット、およびace3ORFの5’末端に作動可能に融合(連結)した目的プロモーターを含むDNAフラグメントを融合することによって作製されたプロモーター置換コンストラクトの模式図を示す。
図7図7は、dic1プロモーターを含むAce3発現ベクターpYL8の模式図を示す。
図8図8は、2.5%グルコース/ソホロース(「Sop」、誘導条件)または2.5%グルコース(「Glu」、非誘導条件)を補充した規定培地中、振盪フラスコ内で親および改変株を増殖させた場合の、T.リーゼイ(T.reesei)親およびその改変(娘)細胞上清のSDS-PAGEを示す。各レーンで、等容量の培養上清を使用した。Mは分子量マーカーであり、KDはキロダルトンである。
図9図9は、小規模(2L)発酵におけるタンパク質の産生を示す。T.リーゼイ(T.reesei)親株および娘株「LT83」を、炭素源としてグルコース/ソホロース(Sop、誘導条件)またはグルコース(Glu、非誘導条件)を含む規定培地中で増殖させた。発酵の終わりにグルコース/ソホロース上で親株によって産生された全タンパク質を任意で100に設定し、各時点で各株によって産生されたタンパク質の相対量をプロットした。
図10図10は、2.5%グルコース/ソホロース(「Sop」、誘導条件)または2.5%グルコース(「Glu」、非誘導条件)を補充した規定培地中、振盪フラスコ内で親および改変株を増殖させた場合の、T.リーゼイ(T.reesei)親およびその変異(娘)細胞上清のSDS-PAGEを示す。各レーンで、等容量の培養上清を使用した。Mは分子量マーカーであり、KDはキロダルトンである。
図11図11は、ace3遺伝子座の模式図を示す。ace3遺伝子座の5’末端(N末端)の矢印は、cDNA配列によって示唆される形態(矢印1)、RutC-30アノテーション形態(矢印2)およびQM6aアノテーション形態(矢印3)における異なる転写開始部位を示す。ace3遺伝子座の3’末端(C末端)の矢印は、RutC-30アノテーション形態(矢印4)およびQM6aアノテーション形態(矢印5)における異なる停止コドンを示す。
図12図12は、クローン化された異なるace3形態の模式図を示す。したがって、図12に示され、そして実施例6に記載されるように、以下のace3形態をクローン化し、試験した:1,713bpのエクソン3、148bpのイントロン3および177bpのエクソン4を含む配列番号1の「ace3-S」、1,713bpのエクソン3、148bpのイントロン3および144bpのエクソン4を含む配列番号7の「ace3-SC」、258bpのエクソン2、423bpのイントロン2、1,635bpエクソン3、148bpイントロン3および144bpのエクソン4を含む配列番号4の「ace3-L」、258bpのエクソン2、423bpのイントロン2、1,635bpのエクソン3、148bpのイントロン3および177bpのエクソン4を含む配列番号9の「ace3-LC」、61bpのエクソン1、142bpのイントロン1、332bpのエクソン2、423bpのイントロン2、1,635bpのエクソン3、148bpのイントロン3および144bpのエクソン4を含む配列番号11の「ace3-EL」、ならびに258bpのエクソン2、1,635bpのエクソン3、148bpのイントロン3および144bpのエクソン4を含む配列番号13の「ace3-LN」。
図13図13は、ace3-SC遺伝子形態の核酸配列(配列番号7;1,713bpのエクソン3、148bpのイントロン3および144bpのエクソン4を含む)、ならびにコードされたAce3-SCタンパク質配列(配列番号8)を示す。ace3-SC遺伝子形態について図13に示すように、太字の黒色テキストで示されるヌクレオチドは、イントロン配列を表す。
図14図14は、ace3-S遺伝子形態の核酸配列(配列番号1;1,713bpのエクソン3、148bpのイントロン3および177bpのエクソン4を含む)ならびにコードされたAce3-Sタンパク質配列(配列番号3)を示す。ace3-S遺伝子形態について図14に示すように、太字の黒色テキストで示すヌクレオチドは、イントロン配列を表す。
図15図15は、ace3-L遺伝子形態の核酸配列(配列番号4;258bpのエクソン2、423bpのイントロン2、1,635bpのエクソン3、148bpのイントロン3および144bpのエクソン4を含む)、ならびにコードされたAce3-Lタンパク質配列(配列番号6)を示す。ace3-L遺伝子形態について図15に示すように、太字の黒色テキストで示すヌクレオチドは、イントロン配列を表す。
図16図16は、ace3-LC遺伝子形態の核酸配列(配列番号9、258bpのエクソン2、423bpのイントロン2、1,635bpのエクソン3、148bpのイントロン3および177bpのエクソン4を含む)、ならびにコードされたAce3-LCタンパク質配列(配列番号10)を示す。ace3-LC遺伝子形態について図16に示すように、太字の黒色テキストで示すヌクレオチドは、イントロン配列を表す。
図17図17は、ace3-EL遺伝子形態の核酸配列(配列番号11;61bpのエクソン1、142bpのイントロン1、332bpのエクソン2、423bpのイントロン2、1,635bpのエクソン3、148bpのイントロン3および144bpのエクソン4を含む)、ならびにコードされたAce3-ELタンパク質配列(配列番号12)を示す。ace3-EL遺伝子形態について図17に示すように、太字の黒色テキストで示すヌクレオチドは、イントロン配列を表す。
図18図18は、ace3-LN遺伝子形態の核酸配列(配列番号13;258bpのエクソン2、1,635bpのエクソン3、148bpのイントロン3および144bpのエクソン4を含む)、ならびにコードされたAce3-LNタンパク質配列(配列番号14)を示す。ace3-LN遺伝子形態について図18に示すように、太字の黒色テキストで示すヌクレオチドは、イントロン配列を表す。
図19図19は、gla1遺伝子座へのace3形態の組み込みのために設計されたDNAフラグメント配置の模式図を示す。
図20図20は、ベクターpMCM3282の模式図を示す。
図21図21は、ベクターpCHL760の模式図を示す。
図22図22は、ベクターpCHL761の模式図を示す。
図23図23は、誘導(「Glu/Sop」)および非誘導(「Glu」)培養条件下で、T.リーゼイ(T.reesei)親細胞(図23、細胞識別番号1275.8.1)および変異T.リーゼイ(T.reesei)(娘)細胞(図23、細胞識別番号2218、2219、2220、2222および2223)の浸漬培養(すなわち、振盪フラスコ)によって産生された分泌タンパク質のSDS-PAGEを示す。
【0035】
生物学的配列の簡単な説明
以下の配列は、37C.F.R.§§1.821-1.825(“Requireme
nts for Patent Applications Containing N
ucleotide Sequence and/or Amino Acid Seq
uence Disclosures―the Sequence Rules”)に適
合しており、WIPO標準ST.25(2009)、欧州特許条約(EPC)および特許
協力条約(PCT)規則5.2および49.5(a-bis)、ならびに実施細則の第2
08章および附属書Cの配列表要件と一致している。ヌクレオチドおよびアミノ酸配列デ
ータに使用した記号およびフォーマットは、37C.F.R.§1.822に規定された
規則を順守している。
【0036】
配列番号1は、配列番号3のAce3-Sタンパク質をコードする遺伝子を含む、トリ
コデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)野生型株QM6a核酸配
列である。
【0037】
配列番号2は、配列番号3のAce3-Sタンパク質をコードする核酸配列のオープン
リーディングフレーム(ORF)である。
【0038】
配列番号3は、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)(
QM6a株)Ace3タンパク質のアミノ酸配列であり、以下「Ace3-S」と称する
【0039】
配列番号4は、配列番号6のAce3-Lタンパク質をコードする遺伝子を含む、トリ
コデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)Rut-C30株の核酸
配列である。
【0040】
配列番号5は、配列番号6のAce3-Lタンパク質をコードする核酸配列のORFで
ある。
【0041】
配列番号6は、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)(
Rut-C30株)Ace3タンパク質のアミノ酸配列であり、以下「Ace3-L」と
称する。
【0042】
配列番号7は、配列番号8のAce3-SCタンパク質をコードする遺伝子を含む、ト
リコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)の核酸配列である。
【0043】
配列番号8は、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)A
ce3タンパク質のアミノ酸配列であり、以下「Ace3-SC」と称する。
【0044】
配列番号9は、配列番号10のAce3-LCタンパク質をコードする遺伝子を含む、
トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)の核酸配列である。
【0045】
配列番号10は、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)
Ace3タンパク質のアミノ酸配列であり、以下「Ace3-LC」と称する。
【0046】
配列番号11は、配列番号12のAce3-ELタンパク質をコードする遺伝子を含む
、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)の核酸配列である
【0047】
配列番号12は、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)
Ace3タンパク質のアミノ酸配列であり、以下「Ace3-EL」と称する。
【0048】
配列番号13は、配列番号14のAce3-LNタンパク質をコードする遺伝子を含む
、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)の核酸配列である
【0049】
配列番号14は、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)
Ace3タンパク質のアミノ酸配列であり、以下「Ace3-LN」と称する。
【0050】
配列番号15は、rev3プロモーター配列を含む核酸配列である。
【0051】
配列番号16は、β-xylプロモーター配列を含む核酸配列である。
【0052】
配列番号17は、tki1プロモーター配列を含む核酸配列である。
【0053】
配列番号18は、PID104295プロモーター配列を含む核酸配列である。
【0054】
配列番号19は、dld1プロモーター配列を含む核酸配列である。
【0055】
配列番号20は、xyn4プロモーター配列を含む核酸配列である。
【0056】
配列番号21は、PID72526プロモーター配列を含む核酸配列である。
【0057】
配列番号22は、axe3プロモーター配列を含む核酸配列である。
【0058】
配列番号23は、hxk1プロモーター配列を含む核酸配列である。
【0059】
配列番号24は、dic1プロモーター配列を含む核酸配列である。
【0060】
配列番号25は、optプロモーター配列を含む核酸配列である。
【0061】
配列番号26は、gut1プロモーター配列を含む核酸配列である。
【0062】
配列番号27は、pki1プロモーター配列を含む核酸配列である。
【0063】
配列番号28は、プライマーTP13の核酸配列である。
【0064】
配列番号29は、プライマーTP14の核酸配列である。
【0065】
配列番号30は、プライマーTP15の核酸配列である。
【0066】
配列番号31は、プライマーTP16の核酸配列である。
【0067】
配列番号32は、プライマーTP17の核酸配列である。
【0068】
配列番号33は、プライマーTP18の核酸配列である。
【0069】
配列番号34は、プライマーTP19の核酸配列である。
【0070】
配列番号35は、プライマーTP20の核酸配列である。
【0071】
配列番号36は、プライマーTP21の核酸配列である。
【0072】
配列番号37は、プライマーTP22の核酸配列である。
【0073】
配列番号38は、プライマーTP23の核酸配列である。
【0074】
配列番号39はプライマーTP24の核酸配列である。
【0075】
配列番号40は、プライマーTP25の核酸配列である。
【0076】
配列番号41は、プライマーTP26の核酸配列である。
【0077】
配列番号42は、プラスミドpYL1の核酸配列である。
【0078】
配列番号43は、プラスミドpYL2の核酸配列である。
【0079】
配列番号44は、プラスミドpYL3の核酸配列である。
【0080】
配列番号45は、プラスミドpYL4の核酸配列である。
【0081】
配列番号46は、T.リーゼイ(T.reesei)xyr1(A824V)変異タン
パク質のアミノ酸配列である。
【0082】
配列番号47は、T.リーゼイ(T.reesei)Ace2タンパク質のアミノ酸配
列である。
【0083】
配列番号48は、T.リーゼイ(T.reesei)野生型xyr1タンパク質のアミ
ノ酸配列である。
【0084】
配列番号49は、プライマーの核酸配列である。
【0085】
配列番号50は、プライマーの核酸配列である。
【0086】
配列番号51は、プライマーの核酸配列である。
【0087】
配列番号52は、プライマーの核酸配列である。
【0088】
配列番号53はプライマーの核酸配列である。
【0089】
配列番号54は、プライマーの核酸配列である。
【0090】
配列番号55は、プライマーの核酸配列である。
【0091】
配列番号56は、プライマーの核酸配列である。
【0092】
配列番号57は、プライマーの核酸配列である。
【0093】
配列番号58は、プライマーの核酸配列である。
【0094】
配列番号59は、プライマーの核酸配列である。
【0095】
配列番号60は、プライマーの核酸配列である。
【0096】
配列番号61は、プライマーの核酸配列である。
【0097】
配列番号62は、プライマーの核酸配列である。
【0098】
配列番号63は、プライマーの核酸配列である。
【0099】
配列番号64はプライマーの核酸配列である。
【0100】
配列番号65は、プライマーの核酸配列である。
【0101】
配列番号66は、プライマーの核酸配列である。
【0102】
配列番号67は、プライマーの核酸配列である。
【0103】
配列番号68は、プライマーの核酸配列である。
【0104】
配列番号69は、プライマーの核酸配列である。
【0105】
配列番号70は、プライマーの核酸配列である。
【0106】
配列番号71は、プライマーの核酸配列である。
【0107】
配列番号72は、プライマーの核酸配列である。
【0108】
配列番号73は、プライマーの核酸配列である。
【0109】
配列番号74は、プライマーの核酸配列である。
【0110】
配列番号75は、プライマーの核酸配列である。
【0111】
配列番号76は、プライマーの核酸配列である。
【0112】
配列番号77は、プライマーの核酸配列である。
【0113】
配列番号78は、プライマーの核酸配列である。
【0114】
配列番号79は、プライマーの核酸配列である。
【0115】
配列番号80は、プライマーの核酸配列である。
【0116】
配列番号81は、プライマーの核酸配列である。
【0117】
配列番号82は、人工核酸配列である。
【0118】
配列番号83は、人工核酸配列である。
【0119】
配列番号84は、人工核酸配列である。
【0120】
配列番号85は、人工核酸配列である。
【0121】
配列番号86は、人工核酸配列である。
【0122】
配列番号87は、人工核酸配列である。
【0123】
配列番号88は、人工核酸配列である。
【0124】
配列番号89は、人工核酸配列である。
【0125】
配列番号90は、人工核酸配列である。
【0126】
配列番号91は、人工核酸配列である。
【0127】
配列番号92は、プライマーの核酸配列である。
【0128】
配列番号93は、プライマーの核酸配列である。
【0129】
配列番号94は、プライマーの核酸配列である。
【0130】
配列番号95は、プライマーの核酸配列である。
【0131】
配列番号96は、プライマーの核酸配列である。
【0132】
配列番号97は、プライマーの核酸配列である。
【0133】
配列番号98は、配列番号12のAce3-ELタンパク質のN末端配列の45(45
)位のアミノ酸フラグメントを含むアミノ酸配列である。
【0134】
配列番号99は、Ace3-SCタンパク質をコードする核酸配列のORFである。
【0135】
配列番号100は、Ace3-LCタンパク質をコードする核酸配列のORFである。
【0136】
配列番号101は、Ace3-ELタンパク質をコードする核酸配列のORFである。
【0137】
配列番号102は、Ace3-LNタンパク質をコードする核酸配列のORFである。
【発明を実施するための形態】
【0138】
I.概要
本開示の特定の実施形態は、1つ以上の目的タンパク質の産生を増加させるための、変
異糸状菌細胞、その組成物、およびその方法に関する。より詳しくは、本開示の特定の実
施形態は、誘導飼料(すなわち、ラクトース、ソホロース、ゲンチオビオース、セルロー
スなどの誘導基質)の非存在下で、1つ以上の目的タンパク質を産生することができる変
異糸状菌細胞に関する。したがって、本開示の特定の実施形態は、親糸状菌細胞由来の変
異糸状菌(宿主)細胞に関し、その変異宿主細胞は、誘導基質の非存在下で、(目的タン
パク質をコードする)目的遺伝子の発現を可能にする遺伝子の改変を含む。(目的タンパ
ク質をコードする)目的遺伝子は、内因性の糸状菌細胞遺伝子(例えば、cbh1、ch
b2、xyn1、xyn2、xyn3、egl1、egl2、egl3、bgl1、bg
l2など)または糸状菌細胞に対して異種の遺伝子であり得る。
【0139】
したがって、他の特定の実施形態では、本開示の変異真菌宿主細胞は、Ace3-Lタ
ンパク質(配列番号6)、Ace3-ELタンパク質(配列番号12)およびAce3-
LNタンパク質(配列番号14)からなる群から選択される、Ace3タンパク質をコー
ドする「セルラーゼ発現の活性化因子3」(ace3)遺伝子の発現を増加させる遺伝子
改変を含む。他の実施形態では、本開示の変異真菌宿主細胞は、Ace3-Lタンパク質
(配列番号6)、Ace3-ELタンパク質(配列番号12)およびAce3-LNタン
パク質(配列番号14)からなる群から選択される、Ace3タンパク質をコードするポ
リヌクレオチドオープンリーディングフレーム(ORF)の発現を増加させる遺伝子改変
を含む。したがって、特定の実施形態では、本開示の変異真菌宿主細胞は、Ace3-L
タンパク質(配列番号6)、Ace3-ELタンパク質(配列番号12)およびAce3
-LNタンパク質(配列番号14)からなる群から選択される、Ace3タンパク質に対
して、約90%~約99%の配列同一性を有するAce3タンパク質をコードするAce
3遺伝子またはそのORFの発現/産生を増加させる遺伝子改変を含む。
【0140】
特定の実施形態では、Ace3タンパク質(すなわち、Ace3-L、Ace3-EL
またはAce3-LNタンパク質)の発現を増加させる遺伝子改変は、糸状菌宿主細胞の
ゲノム(染色体)に組み込まれたace3発現カセットである。他の実施形態では、糸状
菌細胞内でAce3タンパク質の発現を増加させる遺伝子改変は、ace3発現カセット
(すなわち、Ace3-L、Ace3-ELまたは、Ace3-LNタンパク質をコード
する)を含むエピソーム的に維持されたプラスミドコンストラクトである。他の実施形態
では、糸状菌細胞内でAce3-L、Ace3-ELまたはAce3-LNタンパク質を
コードするace3遺伝子の発現を増加させる遺伝子改変は、テロメア部位に組み込まれ
たテロメアベクター/プラスミドである。特定の実施形態では、そのような発現カセット
またはプラスミドは、2つ以上のコピー数で存在する。他の特定の実施形態では、ace
3遺伝子またはace3のORFは、異種プロモーターに作動可能に連結している。他の
実施形態では、糸状菌細胞内でAce3-L、Ace3-ELまたはAce3-LNタン
パク質をコードするace3遺伝子(またはそのORF)の発現を増加させる遺伝子改変
は、Ace3-L、Ace3-ELまたはAce3-LNタンパク質をコードするace
3遺伝子の発現を変化させる天然ace3プロモーター(すなわち、ace3遺伝子に天
然に関連したace3プロモーター領域)の改変である。
【0141】
II.定義
本組成物および方法をさらに詳細に説明する前に、以下の用語および語句を定義する。
定義されない用語は、使用され、かつ当業者に知られている通常の意味と一致すべきであ
る。
【0142】
本明細書に引用されている全ての刊行物および特許は、参照により本明細書に組み込ま
れる。
【0143】
ある範囲の値が示されている場合、文脈上別段の明確な指示がなければ、その範囲の上
限と下限の間にある下限値の単位の10分の1までの各介在値、およびその範囲内の任意
の他の記載された値または介在値は、本組成物および方法の範囲内に包含されると理解さ
れる。これらのより小さい範囲の上限および下限は、独立して、より小さい範囲に含まれ
、また、記載された範囲における任意の具体的に除外された限界に従うことを条件として
、本発明の組成物および方法に包含される。記載された範囲が限界の一方または両方を含
む場合、それらの含まれた限界の一方または両方を除く範囲もまた、本発明の組成物およ
び方法に含まれる。
【0144】
いくつかの範囲は、本明細書では、「約」という用語が先行する数値で示される。「約
」という用語は、本明細書では、それが先行する正確な数、ならびにそれが先行する数に
近い、または近似する数についてのリテラルサポート(literal support
)を提供するために使用される。数字が具体的に挙げられた数に近いまたは近似するかを
決定する際に、挙げられていない近いまたは近似する数は、それが提示される文脈におい
て、具体的に挙げられた数の実質的に等価な数を提供する数であり得る。例えば、数値に
関連して「約」という用語は、その用語が文脈において特に明確に定義されていない限り
、その数値の-10%~+10%の範囲を指す。別の例では、「約6のpH値」という句
は、pH値が特に他に定義されていなければ、5.4~6.6のpH値を指す。
【0145】
本明細書に示した見出しは、本明細書全体を参照することによって得ることができる本
組成物および方法の様々な態様または実施形態を限定するものではない。したがって、す
ぐ下で定義する用語は、本明細書全体を参照することによってより完全に定義される。
【0146】
この発明を実施するための形態によると、以下の略語および定義が適用される。単数形
「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、文脈上別段の明確
な指示がなければ、複数の指示対象を含むことに留意されたい。したがって、例えば、「
酵素」への言及は、複数のそのような酵素を含み、「用量」への言及は、1つ以上の用量
、および当業者に知られたその等価物への言及を含むなどである。
【0147】
特許請求の範囲が、任意選択の要素を排除するように記載されていることにもさらに留
意されたい。したがって、この記述は、請求項の構成要素の列挙に関連して「唯一(so
lely)」、「ただ~のみ(only)」、「~を除いて(excluding)」、
「~を含まない(not including)」などの排他的な用語の使用、または「
否定的な」限定の使用のための先行文として機能することを意図している。
【0148】
さらに、「~を含む(comprising)」という用語は、本明細書で使用される
とき、「~を含む(comprising)」という用語の後の成分を「含むが、それに
限定されない(including,but not limited to)」ことを
意味することに留意されたい。「~を含む(comprising)」という用語の後の
成分は必要または必須であるが、その成分を含む組成物は他の非必須または任意選択の成
分をさらに含んでもよい。
【0149】
「~から構成される(consisting of)という用語は、本明細書で使用さ
れるとき、「~から構成される(consisting of)という用語の後の成分を
「含み、かつそれに限定される(including and limited to)
」ことを意味することに留意されたい。「~から構成される(consisting o
f)という用語の後の成分は、したがって、必要または必須であり、かつその組成物には
他の成分は含まれない。
【0150】
本開示を読めば当業者には明らかなように、本明細書に記載および例示する個々の実施
形態のそれぞれは、本明細書に記載する本組成物および方法の範囲または精神から逸脱す
ることなく、他のいくつかの実施形態のいずれかの特徴から容易に分離または組み合わせ
ることができる別個の構成要素および特徴を有する。記載した方法はいずれも、記載した
事象の順序で、または論理的に可能な他の任意の順序で実施することができる。
【0151】
本明細書で使用されるとき、「子嚢菌真菌細胞」という用語は、菌界における子嚢菌門
(Ascomycota)の任意の生物を指す。子嚢菌真菌細胞の例には、トリコデルマ
属(Trichoderma)種、アスペルギルス属(Aspergillus)種、ミ
セリオフトラ属(Myceliophthora)種、およびペニシリウム属(Peni
cillium)種などのチャワンタケ(Pezizomycotina)亜門内の糸状
菌が含まれるが、それらに限定されない。
【0152】
本明細書で使用されるとき、「糸状菌」という用語は、真菌類(Eumycota)亜
門および卵菌類(Oomycota)亜門の全ての糸状形態の菌を指す。例えば、糸状菌
には、限定されないが、アクレモニウム属(Acremonium)、アスペルギルス属
(Aspergillus)、エメリセラ属(Emericella)、フサリウム属(
Fusarium)、フミコーラ属(Humicola)、ムコール属(Mucor)、
ミセリオフトラ属(Myceliophthora)、ニューロスポラ属(Neuros
pora)、ペニシリウム属(Penicillium)、スキタリジウム属(Scyt
alidium)、チエラビア属(Thielavia)、トリポクラジウム属(Tol
ypocladium)、またはトリコデルマ属(Trichoderma)の種が含ま
れる。いくつかの実施形態では、糸状菌は、アスペルギルス・アクレアツス(Asper
gillus aculeatus)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergill
us awamori)、アスペルギルス・フェチダス(Aspergillus fo
etidus)、アスペルギルス・ジャポニクス(Aspergillus japon
icus)、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulan
s)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、またはアスペ
ルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)であり得る。
【0153】
いくつかの実施形態では、糸状菌は、フザリウム・バクトリディオイデス(Fusar
ium bactridioides)、フザリウム・セレアリス(Fusarium
cerealis)、フザリウム・クロックウェレンス(Fusarium crook
wellense)、フザリウム・クルモルム(Fusarium culmorum)
、フザリウム・グラミネアルム(Fusarium graminearum)、フザリ
ウム・グラミヌム(Fusarium graminum)、フザリウム・ヘテロスポル
ム(Fusarium heterosporum)、フザリウム・ネグンディ(Fus
arium negundi)、フザリウムオキシスポルム(Fusarium oxy
sporum)、フザリウム・レチクラタム(Fusarium reticulatu
m)、フザリウム・ロゼウム(Fusarium roseum)、フザリウム・サンブ
シヌム(Fusarium sambucinum)、フザリウム・サルコクロウム(F
usarium sarcochroum)、フザリウム・スポロトリキオイデス(Fu
sarium sporotrichioides)、フザリウム・スルフレウム(Fu
sarium sulphureum)、フザリウム・トルロスム(Fusarium
torulosum)、フザリウム・トリコテチオデス(Fusarium trich
othecioides)またはフザリウム・ベネナツム(Fusarium vene
natum)である。いくつかの実施形態では、糸状菌は、フミコーラ・インソレンス(
Humicola insolens)、フミコーラ・ラヌギノーサ(Humicola
lanuginosa)、ムコール・ミエヘイ(Mucor miehei)、ミセリ
オフトラ・テルモフィラ(Myceliophthora thermophila)、
ニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)、シタリジウム・テ
ルモフィルム(Scytalidium thermophilum)、またはチエラビ
ア・テレストリス(Thielavia terrestris)である。
【0154】
いくつかの実施形態では、糸状菌は、トリコデルマ・ハルジアヌム(Trichode
rma harzianum)、トリコデルマ・コニンギ(Trichoderma k
oningii)、トリコデルマ・ロンギブラキアツム(Trichoderma lo
ngibrachiatum)、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma r
eesei)またはトリコデルマ・ビリデ(Trichoderma viride)で
ある。いくつかの実施形態では、糸状菌は、トリコデルマ・リーゼイ(Trichode
rma reesei)ATCC寄託番号56765としてAmerican Type
Culture Collectionから入手可能な、T.リーゼイ(T.rees
ei)株「Rut-C30」由来のトリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma
reesei)細胞である。いくつかの実施形態では、糸状菌は、US Departm
ent of Agriculture、Northern Regional Res
earch Laboratoryの培養物コレクションからNRRL番号15709と
して入手可能な、T.リーゼイ(T.reesei)株「RL-P37」由来のトリコデ
ルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)細胞である。
【0155】
本明細書で使用されるとき、「変異糸状菌細胞」、「変異真菌細胞」、「変異細胞」な
どという語句は、チャワンタケ(Pezizomycotina)亜門に属する親(対照
)糸状菌細胞に由来する(すなわち、得られる)糸状菌細胞を指す。したがって、本明細
書で定義される「変異」糸状菌細胞は「親」糸状菌細胞に由来するが、この「変異」細胞
は、「親」細胞にはない少なくとも1つの遺伝子改変を含む。例えば、本開示の「変異糸
状菌細胞」と「親糸状菌細胞」を比較する場合、「親」細胞は、少なくとも1つの遺伝子
改変を含む「変異」細胞に対して、遺伝子的に改変されていない(親)「対照」細胞とし
ての役割を果たす。
【0156】
本明細書で使用されるとき、「遺伝子改変」という用語は、核酸配列の改変/変化を指
す。改変には、限定されないが、核酸配列中の少なくとも1つのヌクレオチドの置換、欠
失、挿入または化学的修飾が含まれ得る。
【0157】
本明細書の定義では、「遺伝子改変を含む変異細胞」および「Ace3-Lタンパク質
、Ace3-ELタンパク質および/またはAce3-LNタンパク質をコードする遺伝
子の発現を増加させる遺伝子改変を含む変異細胞」という語句は、Ace3-Lタンパク
質、Ace3-ELタンパク質および/またはAce3-LNタンパク質をコードする遺
伝子またはORFの少なくとも1つのコピーを糸状菌細胞へ導入することを含むが、これ
に限定されない。したがって、外因的に導入された、Ace3-Lタンパク質、Ace3
-ELタンパク質、および/またはAce3-LNタンパク質をコードする遺伝子または
ORFの少なくとも1つのコピーを含む糸状菌細胞は、親真菌細胞(改変されていない)
と比較して、遺伝子改変を含む変異真菌細胞である。
【0158】
他の実施形態では、本開示の親真菌細胞は、本明細書で開示されるAce3タンパク質
のいずれかをコードする内因性ace3遺伝子(すなわち、Ace3-Sタンパク質、A
ce3-SCタンパク質、Ace3-Lタンパク質、Ace3-LCタンパク質、Ace
3-ELタンパク質およびAce3-LNタンパク質をコードするace3遺伝子)の存
在に関してスクリーニングされる。例えば、親真菌細胞が、Ace3-Lタンパク質、A
ce3-ELタンパク質、またはAce3-LNタンパク質をコードするace3遺伝子
の内因性コピーを含むと決定された場合、その改変真菌細胞は、遺伝子改変によって、例
えば、ace3遺伝子の内因性プロモーターを異種プロモーターで置換することによって
生成し得る。同様に、親真菌細胞がAce3-Sタンパク質、Ace3-SCタンパク質
、またはAce3-LCタンパク質をコードするace3遺伝子の内因性コピーを含むと
決定された場合、その変異真菌細胞は、遺伝子改変によって、例えば、本開示のAce3
-Lタンパク質、Ace3-ELタンパク質、および/またはAce3-LNタンパク質
をコードするポリヌクレオチドコンストラクトを真菌細胞に導入することによって生成す
ることができ、これは、Ace3-S、Ace3-SC、またはAce3-LCタンパク
質をコードする内因性ace3遺伝子の遺伝子改変をさらに含み得る。
【0159】
他の実施形態では、本開示の変異糸状菌細胞は、さらなる遺伝子改変を含むであろう。
例えば、特定の実施形態では、そのような変異糸状菌細胞(すなわち、本開示のAce3
-Lタンパク質、Ace3-ELおよび/またはAce3-LNタンパク質をコードする
遺伝子またはORFの外因的に導入されたコピーを含む)は、炭素カタボライトリプレッ
サータンパク質「Cre1」またはAce1リプレッサータンパク質をコードする遺伝子
の発現および/または活性を低下させる遺伝子改変をさらに含む。
【0160】
他の実施形態では、そのような変異糸状菌細胞(すなわち、本開示のAce3-Lタン
パク質、Ace3-ELおよび/またはAce3-LNタンパク質をコードする遺伝子ま
たはORFの外因的に導入されたコピーを含む)は、配列番号25または配列番号27に
示されるキシラナーゼレギュレーター1(Xyr1)の少なくとも1つのコピーを導入す
る遺伝子改変をさらに含む。
【0161】
本明細書で使用されるとき、「Ace3-L」タンパク質形態(配列番号6)および「
Ace3-LN」タンパク質形態(配列番号14;図1Bを参照されたい)は、同一のア
ミノ酸配列を含む。しかしながら、見出し「Ace3-L」および「Ace3-LN」は
、そのようなタンパク質形態をコードするその特定の遺伝子との比較のために、本開示の
特定の実施形態で使用されるが、これは決して本開示を限定するものではない。
【0162】
本明細書で使用されるとき、「宿主細胞」という用語は、本明細書に記載されているよ
うに、入ってくる配列(すなわち、細胞に導入されるポリヌクレオチド配列)のための、
宿主および発現ビヒクルとして作用する能力を有する糸状菌細胞を指す。
【0163】
「異種」核酸コンストラクトまたは配列は、それが発現される細胞に対して天然でない
か、または天然の形態で存在しない配列の一部を有する。制御配列に関して、異種とは、
現在発現を調節している同じ遺伝子に対して天然においては調節作用をしない制御配列(
すなわち、プロモーターまたはエンハンサー)を指す。一般に、異種核酸配列は、それら
が存在する細胞またはゲノムの一部に対して内因性ではなく、感染、トランスフェクショ
ン、形質転換、マイクロインジェクション、エレクトロポレーションなどによって細胞に
加えられたものである。「異種」核酸コンストラクトは、天然細胞に見出される制御配列
/DNAコード配列の組み合わせと同一であるか、または異なる制御配列/DNAコード
配列の組み合わせを含み得る。同様に、異種タンパク質は、天然において互いに同じ関係
で見出されない2つ以上のサブ配列(例えば、融合タンパク質)を指すことが多い。
【0164】
本明細書で使用されるとき、「DNAコンストラクト」または「発現コンストラクト」
という用語は、少なくとも2つのDNAポリヌクレオチドフラグメントを含む核酸配列を
指す。DNAまたは発現コンストラクトを用いて、核酸配列を真菌宿主細胞に導入するこ
とができる。このDNAはインビトロで(例えば、PCRで)または任意の他の好適な手
法によって生成し得る。いくつかの好ましい実施形態では、DNAコンストラクトは目的
配列(例えば、Ace3-Lタンパク質をコードする)を含む。特定の実施形態では、目
的ポリヌクレオチド配列は、プロモーターに作動可能に連結される。いくつかの実施形態
では、DNAコンストラクトは少なくとも1つの選択マーカーをさらに含む。さらなる実
施形態では、DNAコンストラクトは、宿主細胞染色体に相同な配列を含む。他の実施形
態では、DNAコンストラクトは、宿主細胞染色体とは非相同な配列を含む。
【0165】
本明細書で使用されるとき、「セルラーゼ」、「セルロース分解酵素」または「セルラ
ーゼ酵素」という用語は、エキソグルカナーゼ、エキソセロビオヒドロラーゼ、エンドグ
ルカナーゼおよび/またはβ-グルコシダーゼなどの細菌酵素または真菌酵素を意味する
。これらの異なるタイプのセルラーゼ酵素は、セルロースおよびその誘導体をグルコース
に変換するのに相乗的に働く。例えば、多くの微生物、例えば、木材腐朽菌のトリコデル
マ属(Trichoderma)、堆肥化細菌のテルモモノスポラ属(Thermomo
nospora)(現在は、テルモビフィダ属(Thermobifida))、バチル
ス属(Bacillus)、およびセルロモナス属(Cellulomonas);スト
レプトミケス属(Streptomyces);ならびに真菌フミコーラ属(Humic
ola)、アスペルギルス属(Aspergillus)、およびフザリウム属(Fus
arium)は、セルロースを加水分解する酵素を産生する。これらの微生物が産生する
酵素は、セルロースのグルコースへの変換に有用な3種類の作用を有するタンパク質の混
合物、すなわちエンドグルカナーゼ(EG)、セロビオヒドロラーゼ(CBH)、および
β-グルコシダーゼ(BG)の混合物である。本明細書の定義では、「エンドグルカナー
ゼ」(EG)、「セロビオヒドロラーゼ」(CBH)および「β-グルコシダーゼ」(B
G)という用語は、それぞれ、それらの略語「EG」、「CBH」および「BG」と互換
的に使用される。
【0166】
本明細書で使用されるとき、「炭素制限」という用語は、微生物が所望のタンパク質産
物を辛うじて産生することができるだけの炭素は存在するが、生物の要求を完全に満たす
、例えば、増殖を維持することができるだけの炭素は存在しない状態である。したがって
、炭素の最大量はタンパク質の産生に使用される。
【0167】
本明細書で使用されるとき、「プロモーター」という用語は、下流の遺伝子またはその
オープンリーディングフレーム(ORF)の転写を指示するように機能する核酸配列を指
す。プロモーターは一般に、標的遺伝子が発現している宿主細胞に適切である。プロモー
ターは他の転写および翻訳調節核酸配列(「制御配列」とも呼ばれる)と共に、所与の遺
伝子を発現させるために必要である。一般に、転写および翻訳調節配列には、プロモータ
ー配列、リボソーム結合部位、転写開始および転写停止配列、翻訳開始および翻訳停止配
列、ならびにエンハンサーまたは活性化因子の配列が含まれるが、これらに限定されない
。特定の実施形態では、プロモーターは誘導性プロモーターである。他の実施形態では、
プロモーターは構成的プロモーターである。
【0168】
本明細書で使用されるとき、「プロモーター配列」は、発現目的のために特定の糸状菌
によって認識されるDNA配列である。「プロモーター」は、核酸の転写を指示する核酸
制御配列のアレイと定義される。本明細書で使用されるとき、プロモーターには、転写開
始部位近傍の必要な核酸配列を、例えば、ポリメラーゼII型プロモーターの場合にはT
ATAエレメントを、含む。「構成的」プロモーターは、ほとんどの環境および発生条件
下で活性なプロモーターである。「誘導性プロモーター」は、環境的または発生的調節下
で活性なプロモーターである。
「作動可能に連結された」という用語は、核酸発現制御配列(例えば、プロモーター、ま
たは転写因子結合部位のアレイ)と、第2の核酸配列との機能的な連結を指し、発現制御
配列が第2の配列に対応する核酸の転写を指示する。したがって、核酸は、それが別の核
酸配列と機能的関係に配置されたとき、「作動可能に連結されて」いる。例えば、分泌リ
ーダー(すなわち、シグナルペプチド)をコードするDNAは、ポリペプチドの分泌に関
与するプレタンパク質として発現する場合、ポリペプチドをコードするDNAに作動可能
に連結されており;プロモーターまたはエンハンサーは、配列の転写に影響する場合、コ
ード配列に作動可能に連結されており;またはリボソーム結合部位は、翻訳を促進するよ
うに配置されている場合、コード配列に作動可能に連結されている。一般に、「作動可能
に連結された」とは、連結されるDNA配列は隣接していることを意味し、分泌リーダー
の場合では、隣接し、かつリーディングフェースにあることを意味する。しかし、エンハ
ンサーは隣接している必要はない。連結は、適当な制限部位でのライゲーションによって
行われる。そのような部位が存在しない場合は、従来の手法にしたがって、合成オリゴヌ
クレオチドアダプターあるいはリンカーが使用される。他の実施形態では、連結は、DN
Aを配列に依存せず瘢痕を残さない方法で結合するシームレスクローニング法によって行
われる。シームレスクローニングは、通常、Gibson Assembly(NEB)
、NEBuilder HiFi DNA Assembly(NEB)、Golden
Gate Assembly(NEB)、およびGeneArt Seamless
cloning and Assembly system(ThermoFisher
Scientific)などの商業的に入手可能なシステムを用いて実行されるが、こ
れらに限定されない。
【0169】
本明細書で使用されるとき、「コード配列」という用語は、その(コードする)タンパ
ク質産物のアミノ酸配列を直接特定するヌクレオチド配列を指す。コード配列の境界は、
一般に、通常ATG開始コドンで始まるオープンリーディングフレームによって決まる。
コード配列には、通常、DNA、cDNA、および組換えヌクレオチド配列が含まれる。
【0170】
本明細書の定義では、「オープンリーディングフレーム」(以下「ORF」)は、(i
)開始コドン、(ii)アミノ酸を示す一連の2以上のコドン、および(iii)終止コ
ドンからなる連続するリーディングフレームを含む核酸または核酸配列(天然に存在する
か、天然に存在しないか、または合成であるかにかかわらず)を意味し、ORFは、5’
から3’の方向に読み取られる(または翻訳される)。
【0171】
本明細書で使用されるとき、「遺伝子」という用語は、ポリペプチド鎖の生成に関与す
るDNAのセグメントを意味し、これは、コード領域の前後の領域(例えば、5’非翻訳
(5’UTR)配列または「リーダー」配列、および3’UTR配列または「トレーラー
」配列、ならびに個々のコードセグメント(エクソン)間の介在配列(イントロン)を含
んでいても含んでいなくてもよい。遺伝子は、酵素(例えば、プロテアーゼ、マンナナー
ゼ、キシラナーゼ、アミラーゼ、グルコアミラーゼ、セルラーゼ、オキシダーゼ、リパー
ゼなど)などの商業的に重要な工業用タンパク質またはペプチドをコードし得る。目的遺
伝子は、天然に存在する遺伝子、変異遺伝子または合成遺伝子であり得る。
【0172】
細胞、核酸、タンパク質、またはベクターに関して使用する場合の「組換え」という用
語は、本明細書で使用されるとき、細胞、核酸、タンパク質、またはベクターが、異種核
酸または異種タンパク質の導入によって、または天然の核酸またはタンパク質の改変によ
って改変されていること、または細胞がそのように改変された細胞に由来することを示す
。したがって、例えば、組換え細胞は、細胞の天然(非組換え)形態内には見出されない
遺伝子を発現するか、またはさもなければ異常に発現する、過少発現する、もしくは全く
発現しない天然遺伝子を発現する。
【0173】
「ベクター」という用語は、本明細書では、1つ以上の細胞型に導入する核酸配列を保
有するように設計されたポリヌクレオチドとして定義される。ベクターには、クローニン
グベクター、発現ベクター、シャトルベクター、プラスミド、ファージまたはウイルス粒
子、DNAコンストラクト、カセットなどが含まれる。発現ベクターには、プロモーター
、シグナル配列、コード配列および転写ターミネーターなどの調節配列が含まれ得る。
【0174】
本明細書で使用される「発現ベクター」は、好適な宿主中でタンパク質を発現させるこ
とができる好適な制御配列に、作動可能に連結されたコード配列を含むDNAコンストラ
クトを意味する。このような制御配列には、転写を生じさせるプロモーター、転写を制御
する任意選択的オペレーター配列、mRNA上の好適なリボソーム結合部位をコードする
配列、エンハンサー、ならびに転写および翻訳の終了を制御する配列が含まれ得る。
【0175】
本明細書で使用されるとき、「分泌シグナル配列」という用語は、より大きなポリペプ
チドの成分として、そのより大きなポリペプチドに、それが合成された細胞の分泌経路を
通過させるポリペプチド(すなわち、「分泌ペプチド」)をコードするDNA配列を意味
する。より大きなポリペプチドは、通常、分泌経路を通る過程で切断され、分泌ペプチド
が除去される。
【0176】
本明細書で使用されるとき、「誘導」という用語は、「インデューサー」(すなわち、
誘導基質)の存在に応じて、極めて大きい速度で糸状菌細胞中での目的タンパク質(以下
、「POI」)の合成をもたらす遺伝子の転写の増加を指す。POIをコードする「目的
遺伝子」(以下、「GOI」)または「目的ORF」の「誘導」を測定するために、変異
糸状菌(宿主)細胞を候補誘導基質(インデューサー)で処理し、誘導基質(インデュー
サー)で処理していない親糸状菌(対照、非改変)細胞と比較する。したがって、(未処
理の)親(対照)細胞に100%の相対タンパク質活性値を割り当てると、変異宿主細胞
においてPOIをコードするGOIの誘導は、活性値(すなわち、対照細胞に対する値)
が100%より大きい、110%より大きい、より好ましくは150%より大きい、より
好ましくは200~500%(すなわち、対照に対して2~5倍高い)、またはより好ま
しくは1000~3000%高いときに達成される。
【0177】
本明細書で使用されるとき、「インデューサー(inducer)」、「インデューサ
ー(inducers)」、「誘導基質(inducing substrate)」ま
たは「誘導基質(inducing substrates)」は互換的に使用され、糸
状菌細胞に「増加した量」のポリペプチド(例えば、酵素、レセプター、抗体など)を産
生させる、または誘導基質が存在しない場合に産生するもの以外の化合物/物質を産生さ
せる任意の化合物を指す。誘導基質の例には、ソホロース、ラクトース、ゲンチビオース
およびセルロースが含まれるが、これらに限定されない。
【0178】
本明細書で使用されるとき、「誘導飼料」という用語は、少なくとも「誘導基質」を含
む、糸状菌細胞に与える組成物を指し、そのような誘導飼料は、POIの産生を誘導する
【0179】
本明細書で使用されるとき、「単離(された)」または「精製(された)」という用語
は、それが天然に結合している少なくとも1つの成分から除去される核酸またはアミノ酸
を指す。
【0180】
本明細書での定義では、「目的タンパク質」または「POI」という用語は、糸状菌細
胞において発現することが所望されるポリペプチドを指す。そのようなタンパク質は、酵
素、基質結合タンパク質、表面活性タンパク質、構造タンパク質などであり得、高レベル
で発現させることができ、商業化を目的とすることができる。目的タンパク質は、内因性
遺伝子または異種遺伝子(すなわち、変異細胞および/または親細胞に対して)によって
コードすることができる。目的タンパク質は、細胞内で、または分泌(細胞外)タンパク
質として発現させることができる。
【0181】
本明細書で使用されるとき、「ポリペプチド」および「タンパク質」(ならびに/また
はそれらのそれぞれの複数形)という用語は、互換的に使用され、ペプチド結合によって
連結したアミノ酸残基を含む任意長のポリマーを指す。本明細書では、アミノ酸残基に対
する従来の1文字コードまたは3文字コードが使用される。ポリマーは直鎖状または分枝
状であってよく、修飾アミノ酸を含んでもよく、非アミノ酸によって中断されてもよい。
これらの用語はまた、天然に、または介入(例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル
化、脂質化、アセチル化、リン酸化、または標識成分との結合などの他の任意の操作もし
くは修飾)によって改変されているアミノ酸ポリマーを包含する。また、例えば、アミノ
酸の1つ以上のアナログ(例えば、非天然アミノ酸などを含む)、および当該技術分野で
知られている他の修飾を含むポリペプチドも、この定義内に含まれる。
【0182】
本明細書で使用されるとき、機能的にかつ/または構造的に類似したタンパク質は、「
関連タンパク質」であると見なされる。そのようなタンパク質は、属および/または種が
異なる生物、あるいは異なる分類の生物(例えば、細菌および真菌)に由来し得る。関連
タンパク質はまた、一次配列分析によって決定されるか、二次または三次構造分析によっ
て決定されるか、または免疫学的交差反応性によって決定される相同体を包含する。
【0183】
本明細書で使用されるとき、「実質的に活性を有しない」という語句、または類似の語
句は、特定の活性が混合物中で検出できないか、または混合物の意図する目的を妨害しな
い量で存在することを意味する。
【0184】
本明細書で使用されるとき、「誘導ポリペプチド」という用語は、N末端およびC末端
のいずれかまたは両方への1つ以上のアミノ酸の付加、アミノ酸配列中の1つまたは多数
の異なる部位での1つ以上のアミノ酸の置換、タンパク質の一方もしくは両方の末端での
、またはアミノ酸配列中の1つ以上の部位での1つ以上のアミノ酸の欠失、ならびに/あ
るいはアミノ酸配列中の1つ以上の部位での1つ以上のアミノ酸の挿入によって、タンパ
ク質から得られるか、または得ることができるタンパク質を指す。タンパク質誘導体の調
製は、天然のタンパク質をコードするDNA配列を改変し、そのDNA配列を好適な宿主
に形質転換し、その改変DNA配列を発現させて誘導タンパク質を形成することによって
達成することができる。
【0185】
関連(および誘導)タンパク質には、「変異タンパク質」が含まれる 変異タンパク質
は、少ない数のアミノ酸残基における置換、欠失、および/または挿入によって、参照/
親タンパク質(例えば、野生型タンパク質)とは異なる。変異タンパク質と親タンパク質
との間の異なるアミノ酸残基の数は、1つ以上、例えば、1、2、3、4、5、6、7、
8、9、10、15、20、30、40、50、またはそれ以上のアミノ酸残基であり得
る。変異タンパク質は、参照タンパク質と少なくとも約70%、少なくとも約75%、少
なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約91%、少
なくとも約92%、少なくとも約93%、少なくとも約94%、少なくとも約95%、少
なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、もしくは少なくとも約9
9%、またはそれ以上のアミノ酸配列同一性を共有し得る。変異タンパク質はまた、選択
されたモチーフ、ドメイン、エピトープ、保存領域などにおいて、参照タンパク質と異な
っていてもよい。
【0186】
本明細書で使用されるとき、「相同タンパク質」という用語は、参照タンパク質と類似
の活性および/または構造を有するタンパク質を指す。相同体が必ずしも進化的に関連し
ているということではない。したがって、この用語は異なる生物から得られる同一の、類
似の、または対応する酵素(すなわち、構造および機能に関して)を包含することが意図
されている。いくつかの実施形態では、参照タンパク質に類似の四次、三次および/また
は一次構造を有する相同体を特定することが望ましい。いくつかの実施形態では、相同タ
ンパク質は、参照タンパク質と類似の免疫応答を誘導する。いくつかの実施形態では、相
同タンパク質は、所望の活性を有する酵素を産生するように遺伝子操作される。
【0187】
配列間の相同性の程度は、当該技術分野で周知の任意の好適な方法を使用して決定し得
る(例えば、Smith and Waterman,1981;Needleman
and Wunsch,1970;Pearson and Lipman,1988;
Wisconsin Genetics Software Package(Gene
tics Computer Group,Madison,WI)のGAP、BEST
FIT、FASTAおよびTFASTAなどのプログラム;ならびにDevereux
et al.,1984を参照されたい)。
【0188】
本明細書で使用されるとき、「実質的に類似(の)」および「実質的に同一(の)」と
いう句は、少なくとも2つの核酸またはポリペプチドとの関連では、通常、ポリヌクレオ
チドまたはポリペプチドが対照(すなわち、野生型)配列と比較して、少なくとも約70
%の同一性、少なくとも約75%の同一性、少なくとも約80%の同一性、少なくとも約
85%の同一性、少なくとも約90%の同一性、少なくとも約91%の同一性、少なくと
も約92%の同一性、少なくとも約93%の同一性、少なくとも約94%の同一性、少な
くとも約95%の同一性、少なくとも約96%の同一性、少なくとも約97%の同一性、
少なくとも約98%の同一性、もしくは少なくとも約99%の同一性、またはそれ以上を
有する配列を含むことを意味する。配列同一性は、BLAST、ALIGN、およびCL
USTALなどの既知のプログラムにより、標準的なパラメータを用いて決定することが
できる。
【0189】
本明細書で使用されるとき、「遺伝子」という用語は、タンパク質またはRNAの発現
をコードし、かつ指示する核酸を指す場合、「対立遺伝子」という用語と同義である。糸
状菌の栄養型は一般に一倍体であるため、特定の表現型を与えるには、特定の遺伝子の単
一コピー(すなわち、単一の対立遺伝子)で十分である。
【0190】
本明細書中で使用されるとき、「野生型」および「天然」という用語は、互換的に使用
され、そして天然に見出されるような遺伝子、タンパク質、真菌細胞または菌株を指す。
【0191】
本明細書で使用されるとき、「遺伝子の欠失」は、宿主細胞のゲノムからの遺伝子の除
去を指す。遺伝子が遺伝子のコード配列に直接隣接して位置しない制御エレメント(例え
ば、エンハンサーエレメント)を含む場合、遺伝子の欠失は、コード配列の欠失を指し、
また、場合により、例えばプロモーター配列および/またはターミネーター配列(これら
に限定されない)を含む隣接エンハンサーエレメントの欠失を指す。
【0192】
本明細書で使用されるとき、「遺伝子の破壊」は、細胞が宿主細胞内で機能的遺伝子産
物、例えば、タンパク質を産生するのを実質的に妨げる任意の遺伝子操作または化学的操
作、すなわち、変異を広く指す。例示的な破壊方法には、ポリペプチドコード配列、プロ
モーター、エンハンサー、もしくは別の調節エレメントを含む、遺伝子の任意の部分の完
全または部分的な欠失、またはその変異誘発が含まれ、変異誘発は置換、挿入、欠失、逆
位、ならびにそれらの組み合わせおよびバリエーションを包含し、その変異はいずれも機
能的遺伝子産物の産生を実質的に妨げる。遺伝子はまた、RNAi、アンチセンス、CR
ISPR/Cas9、または遺伝子発現を消失、減少または低減する任意の他の方法を使
用して破壊することができる。
【0193】
本明細書で使用されるとき、「本開示のAce3-Lタンパク質、Ace3-ELおよ
び/またはAce3-LNタンパク質をコードする遺伝子の発現を増加させる「遺伝子改
変」を含む変異[宿主]細胞」という語句は、そのようなAce3-Lタンパク質、Ac
e3-ELおよび/またはAce3-LNタンパク質をコードするace3遺伝子形態(
またはそのORF)を含むプラスミドまたは染色体組み込みカセットを宿主細胞に導入す
ること(例えば、形質転換により)を含む。他の特定の実施形態では、例えば、親真菌細
胞がAce3-Lタンパク質、Ace3-ELおよび/またはAce3-LNタンパク質
をコードする内因性遺伝子形態を天然に含む場合、「Ace3-Lタンパク質、Ace3
-ELおよび/またはAce3-LNタンパク質をコードする遺伝子の発現を増加させる
「遺伝子改変」を含む、変異[宿主]細胞」という語句は、天然/野生型ace3遺伝子
プロモーターを異種プロモーターで置換することを含む。
【0194】
本明細書で使用されるとき、「好気性発酵」は、酸素の存在下における増殖を指す。
【0195】
本明細書で使用されるとき、「細胞ブロス」という用語は、液体培養/浸漬培養におけ
る培地および細胞を集合的に指す。
【0196】
本明細書で使用されるとき、「細胞量」という用語は、液体培養/浸漬培養において存
在する細胞成分(無傷細胞および溶解細胞を含む)を指す。細胞量は、乾燥重量または湿
潤重量で表すことができる。
【0197】
本明細書で使用されるとき、「機能性ポリペプチド/タンパク質」は、酵素活性、結合
活性、表面活性特性などの活性を有し、かつ、その活性を消失または減少させるために、
変異誘発されたり、切断されたり、またはその他の改変がなされていないタンパク質であ
る。機能性ポリペプチドは、明細書に記載されているように、熱的に安定または不安定で
あり得る。
【0198】
本明細書で使用されるとき、「機能性遺伝子」は、活性な遺伝子産物、すなわち、一般
的にはタンパク質を産生するために、細胞成分が使用し得る遺伝子である。機能性遺伝子
は、細胞成分が活性遺伝子産物を産生するために使用することができないか、または細胞
成分が活性遺伝子産物を産生するために使用する能力が低下するように改変された、破壊
された遺伝子とは正反対である。
【0199】
本明細書で使用されるとき、「目的タンパク質」は、糸状菌細胞の浸漬培養において産
生が所望されるタンパク質である。一般に、目的タンパク質は、工業、医薬、動物の健康
、ならびに食品および飲料の用途において商業的に重要なものであり、大量に生産するこ
とが望ましい。目的タンパク質は、糸状菌細胞によって発現される、数え切れないほどの
他のタンパク質と区別されるべきであり、それらは一般に産物として目的物ではなく、主
にバックグラウンドのタンパク質混入物と考えられる。
【0200】
本明細書で使用されるとき、「変異真菌宿主細胞」は、変異細胞によって産生されるタ
ンパク質の量が親細胞と比較して、少なくとも5%増加、少なくとも10%増加、少なく
とも15%増加、またはそれ以上の増加であるなら、「親真菌細胞」よりも「バイオマス
1単位量当たり実質的により多くのタンパク質」を産生している(ここで、このタンパク
質の量はタンパク質産生が測定される細胞のバイオマスの総量に対して正規化されたもの
であり、バイオマスは湿潤重量(例えば、細胞ペレット)または乾燥重量で表すことがで
きる)。
【0201】
III.Activator of Cellulase Expression 3(
ace3)
最近、セルラーゼ/ヘミセルラーゼ産生が「誘導された」(すなわち、異なる誘導組成
物;例えば、ソホロース、ラクトースの添加によって)トリコデルマ・リーゼイ(Tri
choderma reesei)培養物(Hakkinen et al.,2014
)からの転写プロファイリングデータが調べられ、セルラーゼおよびヘミセルラーゼ遺伝
子発現の推定「レギュレーター」が同定され、また調節タンパク質をコードする候補遺伝
子が同定された。Hakkinen et al.(2014)は、遺伝子ID番号77
513(遺伝子ID番号はT.リーゼイ(T.reesei)データベース2.0と同じ
である)として、この候補遺伝子を同定し(Hakkinen et al.図2および
表2を参照されたい)、この候補遺伝子を「Activator of Cellula
se Expression 3」(以下、「ace3」)と命名し、コードされたタン
パク質(すなわち、候補転写因子)を「Ace3」と命名した。より詳しくは、Hakk
inen et al.(2014)の研究では、T.リーゼイ(T.reesei)Q
M6a株(genome.jgi.doe.gov/Trire2/Trire2.ho
me.htmlを参照されたい)の、公的に利用可能なゲノム配列に基づく予測されたa
ce3 ORF(配列番号:2)が使用されたが、このQM6aの予測されたアノテーシ
ョン(遺伝子ID 77513)は、2つのエクソンおよび1つのイントロンからなる(
例えば、図1を参照されたい))。
【0202】
本明細書中に記載し、そして下記実施例の項でさらに記述するように、本開示の出願人
らは、T.リーゼイ(T.reesei)「RUT-C30株」アノテーションに基づく
ace3 ORFに対して、Hakkinen et al.,2014に記載のクロー
ン化ace3 ORF(すなわち、Ace3のT.リーゼイ(T.reesei)「QM
6a株」アノテーションに基づく)を比較し評価したとき、驚くべき予期しなかった結果
を見出した。例えば、下記実施例1に記載のように、配列番号6のより長いAce3タン
パク質(本明細書では「Ace3-L」と呼ぶ)をコードする、配列番号4のT.リーゼ
イ(T.reesei)「RUT-C30株」ace3遺伝子(または配列番号5のOR
F)に対して、配列番号1のT.リーゼイ(T.reesei)「QM6a株」ace3
遺伝子(および配列番号2のORF)は、配列番号3のより短いAce3タンパク質(本
明細書では「Ace3-S」と呼ぶ)をコードする。
【0203】
対照的に、T.リーゼイ(T.reesei)Rut-C30株の公的に利用可能なゲ
ノム配列(genome.jgi.doe.gov/TrireRUTC30_1/Tr
ireRUTC30_1.home.htmlを参照されたい)から予測されるace3
ORF(遺伝子ID 98455)は、3つのエクソンと2つのイントロンを含み、よ
り長いタンパク質配列(すなわち、T.リーゼイ(T.reesei)QM6a由来のA
ce3-Sと比較して)を含む(図1A)。より詳細には、「RUT-C30」モデルに
よって予測される開始コドンは「QM6a」モデルのそれより上流に位置し、C末端にナ
ンセンス変異があり(Poggi-Parodi et al.,2014)、より長い
N末端配列およびより短いC末端配列をもたらす(例えば、図1Bを参照されたい)。
【0204】
同様に、下記実施例6に記載するように、ace3遺伝子コード領域の5’末端の位置
は明らかではなく、したがって、出願人は本明細書に記載のように、ace3遺伝子の5
’末端をさらに評価した。上で簡潔に述べたように、Joint Genome Ins
titute(JGI)におけるDNA配列のアノテーションは、DNA配列が同じであ
っても、変異株Rut-C30と野生型株QM6aとでは異なった。QM6aの場合、コ
ード領域の5’末端は、エクソン3の上流にあり、イントロン2内にあることが示唆され
た(図11に示すように)。Rut-C30の場合、コード領域の5’末端はエクソン2
内にある(図11)。
【0205】
ゲノムDNA配列および追加のcDNA配列のさらなる分析により、「エクソン1」お
よび「イントロン1」が存在する可能性のあることが示唆された(図11に示すように)
。さらに、Rut-C30のace3コード領域の3’末端は、野生型分離株QM6aの
配列と比較して、未成熟終止コドンを作り出す変異を含んでいた(図11)。したがって
、実施例6に記載のように、出願人は図12に示すように、ace3遺伝子のこれらの異
なる可能な形態の過剰発現の効果を調べた。
【0206】
さらに、下記実施例に記載のように、出願人は、「pYL1」、「pYL2」、「pY
L3」および「pYL4」(図2A~2Dプラスミドマップを参照されたい)と命名され
た4つの異なるace3発現ベクターの1つを用いて、T.リーゼイ(T.reesei
)細胞を形質転換することによって、Ace3-Sタンパク質(配列番号3)およびAc
e3-Lタンパク質(配列番号6)をコードする遺伝子を構築し(実施例1)かつテスト
した(実施例2~4)。より詳細には(実施例1)、これらの発現ベクターは、E.コリ
(E.coli)における複製と選択のための細菌ColE1 oriおよびAmpR遺
伝子を有するベクター骨格を含む。さらに、発現ベクター(図2A~2Dを参照されたい
)はT.リーゼイ(T.reesei)pyr2選択マーカー、およびその天然ターミネ
ーターを有するace3 ORFコード配列(ace3-Lまたはace3-S)に作動
可能に連結した異種T.リーゼイ(T.reesei)プロモーター配列(すなわち、h
xk1またはpki1プロモーター)を含む。
【0207】
続いて、生成された安定なT.リーゼイ(T.reesei)形質転換体(すなわち、
変異宿主細胞A4-7、B2-1、C2-28およびD3-1)を、「誘導」および「非
誘導」の両条件下で、徐放性マイクロタイタープレート(srMTP)(実施例2)、振
盪フラスコ(実施例3)および小規模発酵(実施例4)において試験/スクリーニングし
、培養上清を回収し、そしてポリアクリルアミドゲル電気泳動により分析した(図3~図
5を参照されたい)。これらの実施例に示すように、試験した宿主細胞の全て(すなわち
、親、変異A4-7、変異B2-1、変異C2-28および変異D3-1)は、誘導基質
(すなわち、ソホロースまたはラクトース)の存在下で多量のタンパク質を分泌した。対
照的に、驚くべきことに、誘導基質(すなわち、ソホロースまたはラクトース)の非存在
下、「グルコース」が唯一の炭素源である場合、ace3-L ORFを発現する変異宿
主細胞(すなわち、変異A4-7およびC2-28)のみが分泌タンパク質を産生するこ
とができ、親(対照)細胞およびace3-S ORFを発現する変異宿主細胞(すなわ
ち、変異B2-1およびD3-1)は検出可能な分泌タンパク質を産生しないことが観察
された。
【0208】
他の実施形態では、本開示は、ace3-L(実施例5)発現コンストラクトの発現を
駆動する13種の異なるプロモーターを使用し、「非誘導」条件下でタンパク質の産生が
増強されることをさらに示す。例えば、試験した13のプロモーターには、(i)ホルム
アミダーゼ遺伝子(rev3;タンパク質ID 103041)プロモーター(配列番号
15)、(ii)β-キシロシダーゼ遺伝子(bxl;タンパク質ID 121127)
プロモーター(配列番号16)、(iii)トランスケトラーゼ遺伝子(tkl1;タン
パク質ID 2211)プロモーター(配列番号17)、(iv)機能の知られていない
遺伝子(タンパク質ID 104295)プロモーター(配列番号18)、(v)オキシ
ドレダクターゼ遺伝子(dld1;タンパク質ID 5345)プロモーター(配列番号
19)、(vi)キシラナーゼIV遺伝子(xyn4;タンパク質ID 111849)
プロモーター(配列番号20)、(vii)α-グルクロニダーゼ遺伝子(タンパク質I
D 72526)プロモーター(配列番号21)、(viii)アセチルキシランエステ
ラーゼ遺伝子1(axe1;タンパク質ID 73632)プロモーター(配列番号22
)、(ix)ヘキソースキナーゼ遺伝子(hxk1;タンパク質ID 73665)プロ
モーター(配列番号23)、(x)ミトコンドリアキャリアタンパク質遺伝子(dic1
;タンパク質ID 47930)プロモーター(配列番号24)、(xi)オリゴペプチ
ドトランスポーター遺伝子(opt;タンパク質ID 44278)プロモーター(配列
番号25)、(xii)グリセロールキナーゼ遺伝子(gut1;タンパク質ID 58
356)プロモーター(配列番号26)および(xiii)ピルビン酸キナーゼ遺伝子(
pki1;タンパク質ID 78439)プロモーター(配列番号27)が含まれた。表
3に示すように、親T.リーゼイ(T.reesei)細胞は、ソホロースインデューサ
ーの存在下でのみ、分泌タンパク質を産生した。対照的に、13の異なるプロモーターの
いずれか1つで駆動されるAce3-Lを含み、かつ発現させる、変異(娘)T.リーゼ
イ(T.reesei)細胞は、誘導条件下および非誘導条件下の両方で類似量の分泌タ
ンパク質を産生した。また、実施例5に記載のように、T.リーゼイ(T.reesei
)親株およびその形質転換体を、振盪フラスコ実験および小規模発酵でさらに試験した。
図8に示すように、親(対照)T.リーゼイ(T.reesei)細胞は、ソホロース(
「Sop」)インデューサーの存在下でのみ分泌タンパク質を産生したが、娘株LT83
は誘導(「Sop」)および非誘導(「Glu」)の両条件下で、類似量の分泌タンパク
質を産生した。同様に、図9に示すように、親(対照)T.リーゼイ(T.reesei
)株は、ソホロースインデューサー(「Sop」)の存在下でのみ分泌タンパク質を産生
したが、娘株LT83は誘導(「Sop」)および非誘導(「Glu」)条件の両方で、
類似量の分泌タンパク質を産生した。
【0209】
本開示の実施例6には、ace3遺伝子の異なる可能な形態を過剰発現することの効果
の実験的研究が記載されている(例えば、変異株Rut-C30/野生型株QM6aゲノ
ム配列アノテーションの上記議論、図11および図12を参照されたい)。したがって、
図12に示したace3の異なる形態は、T.リーゼイ(T.reesei)ace3遺
伝子の過剰発現ベクターが、T.リーゼイ(T.reesei)のグルコアミラーゼ遺伝
子座(gla1)にace3の標的化組み込みを可能にするよう設計されている場合に、
T.リーゼイ(T.reesei)内で過剰発現されたものである。したがって、表5に
示すコンストラクトは、異なる形態のace3遺伝子を有することによって異なる。 同
様に、24ウェルマイクロタイタープレート中、炭素源として2%ラクトースまたは2%
グルコースを含む液体培地で表7の株を増殖させ、培養上清から全分泌タンパク質の量を
測定した。ace3-L、ace3-ELおよびace3-LN形態の過剰発現(すなわ
ち、RutC-30C末端変異を有する)は、両培地(すなわち、2%ラクトースまたは
2%グルコース)共に、全タンパク質の産生が改善された(表8)。炭素源としてラクト
ースを有する培地では、ace3遺伝子の全ての形態の過剰発現は、全タンパク質の産生
をある程度改善したが、改善のレベルは、ace3遺伝子のace3-L、ace3-E
Lおよびace3-LN形態を過剰発現する株で最も高かった(表8)。したがって、a
ce3遺伝子のace3-L、ace3-ELおよびace3-LN形態を過剰発現する
場合、「非誘導条件」で(すなわち、グルコースを炭素源として使用したとき)高レベル
の分泌タンパク質が観察されることが明らかである。
【0210】
本開示の実施例7には、ace3遺伝子座の天然プロモーターの上流の5’領域を含む
DNAフラグメント、loxP隣接ハイグロマイシンB耐性選択マーカーカセット、およ
びace3オープンリーディングフレームの5’末端に作動可能に融合した目的プロモー
ターを含むフラグメントを融合することによって作製されたプロモーター置換コンストラ
クト(図6を参照されたい)について記載されている。例えば、特定の実施形態では、プ
ロモーター置換コンストラクトは、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma
reesei)細胞内の内因性ace3遺伝子プロモーターを代替プロモーターで置換す
るために使用される。
【0211】
本開示の実施例8には、目的内因性非リグノセルロース遺伝子プロモーターを、目的リ
グノセルロース遺伝子プロモーターで置換することが記載されている。例えば、T.リー
ゼイ(T.reesei)グルコアミラーゼ発現コンストラクトを、DNAポリヌクレオ
チドフラグメントから組み立てた(ここで、T.リーゼイ(T.reesei)グルコア
ミラーゼをコードするORF配列は、5’(上流)T.リーゼイ(T.reesei)c
bh1プロモーターに作動可能に連結し、3’(下流)T.リーゼイ(T.reesei
)cbh1ターミネーターに作動可能に連結し、このコンストラクトは選択マーカーとし
てT.リーゼイ(T.reesei)pyr2遺伝子をさらに含んだ)。培養過程でT.
リーゼイ(T.reesei)グルコアミラーゼ酵素を分泌することができる形質転換体
を同定するために、変異(娘)T.リーゼイ(T.reesei)細胞(すなわち、Ac
e3-Lタンパク質をコードする遺伝子の発現を増加させる遺伝子改変を含む)を、グル
コアミラーゼ発現コンストラクトで形質転換し、形質転換体を選択し、炭素源としてグル
コースを含む液体培地中で(すなわち、ソホロースまたはラクトースなどの誘導基質なし
で)培養した。図10に示すように、親T.リーゼイ(T.reesei)細胞はグルコ
ース/ソホロース(誘導条件)を含む規定培地で1,029μg/mLのグルコアミラー
ゼを産生し、グルコース(非誘導条件)を含む規定培地では、わずかに38μg/mLの
グルコアミラーゼを生成するのみであったが、dic1プロモーターで駆動されるace
3-Lを含む改変(娘)株「LT88」は、「誘導」(「Sop」)条件で3倍高いグル
コアミラーゼを産生し(すなわち、親(対照)株と比較して)、「非誘導」(「Glu」
)条件において2.5倍高いグルコアミラーゼを産生した(すなわち、親(対照)株と比
較して)。したがって、これらの結果は、Ace3-L ORFを含む変異(娘)細胞は
、インデューサーの非存在下で細胞外タンパク質を産生するだけでなく、これらの変異細
胞はまたそのような誘導条件下で、親(対照)T.リーゼイ(T.reesei)細胞よ
りも多くの総タンパク質を産生することを示している。
【0212】
実施例9には、天然に関連した異種の目的遺伝子プロモーターを、目的リグノセルロー
ス遺伝子プロモーターで置換することが記載されている。例えば、ブティアウクセラ属(
Buttiauxella)種のフィターゼ(すなわち、異種GOI)をコードするOR
Fが、5’末端でT.リーゼイ(T.reesei)cbh1プロモーターに、かつ3’
末端でT.リーゼイ(T.reesei)cbh1ターミネーターに作動可能に連結され
、このDNAコンストラクトは選択マーカーをさらに含む。培養過程でブティアウクセラ
属フィターゼ酵素を分泌することができる形質転換体を同定するために、変異T.リーゼ
イ(T.reesei)細胞(すなわち、Ace3-Lタンパク質をコードする遺伝子の
発現を増加させる遺伝子改変を含む)を、フィターゼ発現コンストラクトで形質転換し、
形質転換体を選択し、炭素源としてグルコースを含む液体培地中で(すなわち、ソホロー
スまたはラクトースなどの誘導基質なしで)培養する。
【0213】
本開示の実施例10には、T.リーゼイ(T.reesei)pki1プロモーターの
下で発現するストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyog
enes)cas9遺伝子、およびU6プロモーターの下で発現されるガイドRNAを含
む、天然ace3プロモーター置換ベクターの構築が記載されている。例えば、cas9
媒介ace3プロモーター置換ベクター(pCHL760およびpCHL761)をT.
リーゼイ(T.reesei)親細胞に形質転換し、ace3プロモーター置換株の機能
性を試験するために、振盪フラスコ中、50mlの浸漬培養でインデューサー基質(ソホ
ロース)の存在下および非存在下で細胞を増殖させた。SDS-PAGEに見られるよう
に、親細胞(図23、ID 1275.8.1)では、グルコース/ソホロース(誘導)
の場合と比較して、グルコース(非誘導)を含む規定培地では分泌タンパク質の産生は非
常に少なかった。対照的に、形質転換体2218、2219、2220、2222および
2223は、誘導条件下および非誘導条件下で類似した量の分泌タンパク質を産生し、h
xk1またはdic1プロモーターを有する変異細胞(すなわち、ace3遺伝子座で天
然ace3プロモーターを置換)が、インデューサーの非存在下で細胞外タンパク質を産
生したことを示した。
【0214】
このように、本明細書中で考察し記載するように、本開示の特定の態様は、1種以上の
内因性糸状菌リグノセルロース分解酵素(すなわち、セルロース分解酵素、例えば、セロ
ビオヒドロラーゼ、キシラナーゼ、エンドグルカナーゼなど)の産生に関する。より詳細
には、本開示の特定の実施形態は、誘導基質の完全な非存在下で、本開示の変異宿主細胞
(すなわち、Ace3-Lタンパク質、Ace3-ELおよび/またはAce3-LNタ
ンパク質の発現を増加させる遺伝子改変を含む変異宿主細胞)中で、このような内因性酵
素を産生することに関する。本開示の変異宿主細胞、組成物および方法は、特に、本開示
のそのような変異宿主細胞が、そのようなセルロース分解酵素を産生するために誘導基質
を必要としないという事実のために(すなわち、誘導基質の存在下でのみそのようなセル
ロース分解酵素を産生する親細胞とは対照的に)、前述のセルロース分解酵素を産生する
コスト/経費を大きく削減するのに特に有用である。
【0215】
例えば、特定の実施形態では、本開示は、誘導基質の非存在下で1種以上の内因性の目
的タンパク質、および/または誘導基質の非存在下で1種以上の異種の目的タンパク質を
発現/産生することができる変異真菌宿主細胞に関する。したがって、特定の実施形態で
は、本開示の変異真菌宿主細胞(すなわち、Ace3-Lタンパク質、Ace3-ELお
よび/またはAce3-LNの発現を増加させる遺伝子改変を含む)は、内因性の目的非
リグノセルロースタンパク質および/または異種の目的タンパク質を発現するようにさら
に改変される。例えば、特定の実施形態では、内因性の目的非リグノセルロースタンパク
質をコードする遺伝子は、変異真菌宿主細胞において改変される。したがって、特定の実
施形態では、内因性の目的非リグノセルロースタンパク質をコードする遺伝子(またはO
RF)と天然に関連したプロモーターは、リグノセルロースタンパク質をコードする糸状
菌遺伝子由来のプロモーター(例えば、目的の非リグノセルロースタンパク質をコードす
る内因性遺伝子に作動可能に連結された5’-リグノセルロース遺伝子プロモーター)で
置換される。同様に、他の特定の実施形態では、本開示の変異真菌宿主細胞(すなわち、
Ace3-Lタンパク質、Ace3-ELおよび/またはAce3-LNの発現を増加さ
せる遺伝子改変を含む)は、異種の目的タンパク質を発現するように改変される。したが
って、他の特定の実施形態では、異種の目的タンパク質をコードする遺伝子と天然に関連
したプロモーターは、リグノセルロースタンパク質をコードする糸状菌遺伝子由来のプロ
モーター(例えば、異種の目的タンパク質をコードする異種遺伝子に作動可能に連結した
5’-リグノセルロース遺伝子プロモーター)で置換される。
【0216】
したがって、特定の実施形態では、本開示は親糸状菌細胞に由来する変異糸状菌細胞に
関し、この変異細胞は、親細胞と比較して、Ace-Lタンパク質をコードする遺伝子の
発現を増加させる遺伝子改変を含み、このコードされたAce3-Lタンパク質は配列番
号6のAce3-Lタンパク質に対して約90%の配列同一性を有する。例えば、特定の
実施形態では、配列番号6に対して約90%の配列同一性を有する、コードされたAce
3タンパク質は、最後の4つのC末端アミノ酸として「Lys-Ala-Ser-Asp
」を含む。他の実施形態では、配列番号6に対して約90%の配列同一性を有する、コー
ドされたAce3タンパク質は、配列番号6に作動可能に連結し、かつ同配列に先行する
配列番号98のN末端アミノ酸フラグメントをさらに含む。別の実施形態では、Ace-
3タンパク質は、配列番号12に対して約90%の配列同一性を有する。
【0217】
他の特定の実施形態では、本開示のポリヌクレオチドは、配列番号4、配列番号11ま
たは配列番号13に対して、約90%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。他
の実施形態では、本開示のポリヌクレオチドは、配列番号5、配列番号101または配列
番号102に対して、約90%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。
【0218】
IV.糸状菌宿主細胞
本開示の特定の実施形態では、Ace3-Lポリペプチドをコードする遺伝子またはO
RFの発現を増加させる遺伝子改変を含む、変異糸状菌細胞(すなわち、親糸状菌細胞に
由来する)が提供される。より詳しくは、特定の実施形態では、変異糸状菌細胞(すなわ
ち、親(対照)細胞に対して)は、配列番号6のAce3-Lタンパク質をコードする遺
伝子(またはORF)の発現を増加させる遺伝子改変を含む。好ましい実施形態では、配
列番号6のAce3-Lタンパク質をコードする遺伝子(またはORF)の発現を増加さ
せる遺伝子改変を含む、そのような変異真菌細胞は、誘導基質の非存在下で、内因性の目
的タンパク質の少なくとも1つを産生することができる。他の実施形態では、配列番号6
のAce3-Lタンパク質をコードする遺伝子(またはORF)の発現を増加させる遺伝
子改変を含む、そのような変異真菌細胞は、誘導基質の非存在下で、異種の目的タンパク
質の少なくとも1つを産生することができる。
【0219】
したがって、特定の実施形態では、本開示の操作および使用のための糸状菌細胞には、
アスコマイコタ門(Ascomycota)、チャワンタケ亜門(Pezizomyco
tina)、特に栄養菌糸状態を有する真菌由来の糸状菌が含まれる。そのような生物に
は、限定されないが、トリコデルマ属(Trichoderma)種、アスペルギルス属
(Aspergillus)種、フザリウム属(Fusarium)種、スケドスポリウ
ム属(Scedosporium)種、ペニシリウム属(Penicillium)種、
クリソスポリウム属(Chrysosporium)種、セファロスポリウム属(Cep
halosporium)種、タラロマイセス属(Talaromyces)種、ゲオス
ミチア属(Geosmithia)種、マイセリオフトーラ属(Myceliophth
ora)種、およびニューロスポラ属(Neurospora)種を含む、商業的に重要
な産業用および医薬用タンパク質の産生に使用される糸状菌細胞が含まれる。
【0220】
特定の糸状菌には、限定されないが、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderm
a reesei)(以前はトリコデルマ・ロンギブラチアツム(Trichoderm
a longibrachiatum)およびヒポクレア・ジェコリナ(Hypocre
a jecorina)として分類)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillu
s niger)、アスペルギルス・フミガツス(Aspergillus fumig
atus)、アスペルギルス・イタコニクス(Aspergillus itaconi
cus)、アスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)、アス
ペルギルス・ニデユランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギ
ルス・テレウス(Aspergillus terreus)、アスペルギルス・ソーヤ
エ(Aspergillus sojae)、アスペルギルス・ジャポニクス(Aspe
rgillus japonicus)、スケドスポリウム・プロリフィカンス(Sce
dosporium prolificans)、ニューロスポラ・クラッサ(Neur
ospora crassa)、ペニシリウム・フニクロスム(Penicillium
funiculosum)、ペニシリウム・クリソゲヌム(Penicillium
chrysogenum)、タラロマイセス(ゲオスミチア)・エメルソニイ(Tala
romyces(Geosmithia)emersonii)、フザリウム・ベネナツ
ム(Fusarium venenatum)、ミセリオフトラ・テルモフィラ(Myc
eliophthora thermophila)およびクリソスポリウム・ルクノウ
エンセ(Chrysosporium lucknowense)が含まれる。
【0221】
V.組換え核酸および分子生物学
特定の実施形態では、本開示は、Ace3-L、Ace3-ELまたはAce3-LN
タンパク質をコードする遺伝子またはORFの発現を増加させる遺伝子改変を含む変異糸
状菌宿主細胞に関する。上記のように、そのような変異宿主細胞は、誘導基質の非存在下
で、1つ以上の目的タンパク質を産生し得る(すなわち、非改変親(対照)細胞とは対照
的に)。
【0222】
したがって、特定の実施形態では、本開示は、Ace3-L、Ace3-ELまたはA
ce3-LNタンパク質をコードする遺伝子またはORF含む組換え核酸に関する。特定
の実施形態では、組換え核酸は、糸状菌宿主細胞内でAce3-L、Ace3-ELまた
はAce3-LNタンパク質を産生するためのポリヌクレオチド発現カセットを含む。他
の実施形態では、ポリヌクレオチド発現カセットは、発現ベクター内に含まれる。特定の
実施形態では、発現ベクターはプラスミドである。他の実施形態では、組換え核酸、ポリ
ヌクレオチド発現カセットまたはその発現ベクターは、配列番号4、配列番号5、配列番
号11、配列番号101、配列番号13または配列番号102に対して少なくとも85%
の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。別の実施形態では、組換え核酸、ポリヌ
クレオチド発現カセットまたはその発現ベクターは、配列番号6に対して約90%の配列
同一性を有するAce3-Lタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む。
【0223】
他の特定の実施形態では、組換え核酸(またはそのポリヌクレオチド発現カセットもし
くはその発現ベクター)は、1つ以上の選択マーカーをさらに含む。糸状菌に使用するた
めの選択マーカーには、限定されないが、alsl、amdS、hygR、pyr2、p
yr4、pyrG、sucA、ブレオマイシン耐性マーカー、ブラスチシジン耐性マーカ
ー、ピリチアミン耐性マーカー、クロリムロンエチル耐性マーカー、ネオマイシン耐性マ
ーカー、アデニン経路遺伝子、トリプトファン経路遺伝子、チミジンキナーゼマーカーな
どが含まれる。特定の実施形態では、選択マーカーはpyr2であり、その成分および使
用方法は、国際公開第2011/153449号パンフレットに一般的に記載されている
。したがって、特定の実施形態では、本開示のAce3タンパク質をコードするポリヌク
レオチドコンストラクトは、それに作動可能に連結された、選択マーカーをコードする核
酸配列を含む。
【0224】
別の実施形態では、組換え核酸、ポリヌクレオチドコンストラクト、ポリヌクレオチド
発現カセットまたはその発現ベクターは、Ace3-L、Ace3-ELまたはAce3
-LNタンパク質をコードする遺伝子(またはORF)の発現を駆動する異種プロモータ
ーを含む。より詳しくは、特定の実施形態では、異種プロモーターは構成的プロモーター
または誘導性プロモーターである。特定の実施形態では、異種プロモーターは、rev3
プロモーター、bxlプロモーター、tkl1プロモーター、PID104295プロモ
ーター、dld1プロモーター、xyn4プロモーター、PID72526プロモーター
、axe1プロモーター、hxk1プロモーター、dic1プロモーター、optプロモ
ーター、gut1プロモーターおよびpki1プロモーターからなる群から選択される。
特定の理論または作用機序に拘束されることを望むものではないが、本明細書では、グル
コース制限条件下でより高い発現レベル(すなわち、過剰グルコース濃度に対して)を与
える、rev3、bxl、tkl、PID104295、dld1、xyn4、PID7
2526、axe1、hxk1、dic1、opt、gut1およびpki1などのプロ
モーターは、本開示に特に有用であると考える。したがって、特定の実施形態では、組換
え核酸(またはポリヌクレオチドコンストラクト、ポリヌクレオチド発現カセットもしく
はその発現ベクター)は、Ace3タンパク質をコードする核酸配列の5’に作動可能に
連結したプロモーターを含む。
【0225】
別の実施形態では、組換え核酸(またはポリヌクレオチドコンストラクト、ポリヌクレ
オチド発現カセット、またはその発現ベクター)は、天然ace3ターミネーター配列を
コードする核酸配列をさらに含む。したがって、特定の実施形態では、組換え核酸(また
はポリヌクレオチドコンストラクト、ポリヌクレオチド発現カセット、またはその発現ベ
クター)は、Ace3タンパク質をコードする核酸配列の5’に作動可能に連結したプロ
モーター、およびAce3タンパク質をコードする核酸配列の3’に作動可能に連結した
天然ace3ターミネーター配列を含む(例えば、5’-Pro-ORF-Term-3
’。ここで「Pro」は構成的プロモーターであり、「ORF」はAce3をコードし、
「Term」は天然ace3ターミネーター配列である)。
【0226】
したがって、特定の実施形態では、本開示の真菌宿主細胞を形質転換するために、糸状
菌の形質転換および真菌の培養のための標準的な手法(これは、当業者によく知られてい
る)が使用される。したがって、真菌宿主細胞へのDNAコンストラクトまたはベクター
の導入法には、形質転換、エレクトロポレーション、核マイクロインジェクション、形質
導入、トランスフェクション(例えば、リポフェクション媒介およびDEAE-デキスト
リン媒介トランスフェクション)、リン酸カルシウムDNA沈殿物とのインキュベーショ
ン、DNA被覆微粒子を用いる高速銃、遺伝子銃またはバイオリスティック形質転換、プ
ロトプラスト融合などの手法が含まれる。一般的な形質転換技術は当該技術分野で知られ
ている(例えば、Ausubel et al.,1987、Sambrook et
al.,2001および2012、ならびにCampbell et al.,1989
を参照されたい)。トリコデルマ属(Trichoderma)内での異種タンパク質の
発現は、例えば、米国特許第6,022,725号明細書;同第6,268,328号明
細書;Harkki et al.,1991およびHarkki et al.,19
89に記載されている。アスペルギルス属(Aspergillus)株の形質転換につ
いては、Cao et al.(2000)も参照されたい。
【0227】
一般に、トリコデルマ属(Trichoderma)種の形質転換は、通常、105~
107/mL、特に2×106/mLの密度で透過性処理を施したプロトプラストまたは
細胞を使用する。適切な溶液中(例えば、1.2Mソルビトールおよび50mM CaC
l2)の100μLの容量のこれらのプロトプラストまたは細胞を、所望のDNAと混合
する。一般に、高濃度のポリエチレングリコール(PEG)が取り込み溶液に添加される
。ジメチルスルホキシド、ヘパリン、スペルミジン、塩化カリウムなどの添加剤もまた、
形質転換を促進するために取り込み溶液に添加し得る。同様の手順は、他の真菌宿主細胞
についても利用可能である。例えば、米国特許第6,022,725号明細書および同第
6,268,328号明細書を参照されたい(これらは両者とも参照により組み込まれる
)。
【0228】
特定の実施形態では、本開示は、糸状菌宿主細胞に対して内因性である1つ以上の目的
タンパク質の発現および産生に関する(すなわち、Ace3-Lの発現を増加させる遺伝
子改変を含む、本開示の変異真菌宿主細胞によって、内因性タンパク質が産生される)。
他の実施形態では、本開示は、糸状菌宿主細胞に対して異種である1つ以上の目的タンパ
ク質の発現および産生に関する。したがって、本開示は一般に、組換え遺伝学の分野にお
けるルーチンの手法に頼っている。本開示で使用する一般的な方法を開示する基本的なテ
キストには、Sambrook et al.,(2nd Edition,1989)
;Kriegler(1990)およびAusubel et al.,(1994)が
含まれる。
【0229】
したがって、特定の実施形態では、目的タンパク質をコードする異種遺伝子またはOR
Fが糸状菌(宿主)細胞に導入される。特定の実施形態では、異種遺伝子またはORFは
、典型的には、複製および/または発現のために糸状菌(宿主)細胞に形質転換される前
に、中間ベクターにクローニングされる。これらの中間ベクターは、例えば、プラスミド
またはシャトルベクターなどの原核生物ベクターであり得る。特定の実施形態では、異種
遺伝子またはORFの発現は、その天然のプロモーターの制御下にある。他の実施形態で
は、異種遺伝子またはORFの発現は、異種構成性プロモーターまたは異種誘導性プロモ
ーターであり得る異種プロモーターの制御下に置かれる。
【0230】
当業者は、自然(天然)のプロモーターは、その機能を変化させることなく、1つ以上
のヌクレオチドの置換、置換、付加または削除によって改変できることを知っている。本
発明の実施は、プロモーターに対するそのような改変を包含するが、それらを強いるもの
ではない。
【0231】
発現ベクター/コンストラクトは、通常、異種配列の発現に必要な全ての追加のエレメ
ントを含む転写ユニットまたは発現カセットを含有する。例えば、典型的な発現カセット
は、目的タンパク質をコードする異種核酸配列に作動可能に連結した5’プロモーターを
含有し、転写物、リボソーム結合部位、および翻訳終結の効率的なポリアデニル化に必要
な配列シグナルをさらに含み得る。カセットの追加のエレメントには、エンハンサーと、
ゲノムDNAが構造遺伝子として使用される場合には、機能性スプライスドナー部位およ
びアクセプター部位を有するイントロンが含まれ得る。
【0232】
プロモーター配列に加えて、発現カセットはまた、効率的な終結を提供するために、構
造遺伝子の下流に転写終結領域を含み得る。終結領域は、プロモーター配列と同じ遺伝子
から得てもよく、または異なる遺伝子から得てもよい。本発明においては、任意の真菌タ
ーミネーターは、機能的である可能性が高いが、好ましいターミネーターには、トリコデ
ルマ属(Trichoderma)cbhI遺伝子由来のターミネーター、アスペルギル
ス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)trpC遺伝子(Ye
lton et al.,1984;Mullaney et al.,1985)、ア
スペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)もしくはアスペル
ギルス・ニガー(Aspergillus niger)グルコアミラーゼ遺伝子(Nu
nberg et al.,1984;Boel et al.,1984)、および/
またはムコール・ミエヘイ(Mucor miehei)カルボキシルプロテアーゼ遺伝
子(欧州特許第0215594号明細書)が含まれる。
【0233】
遺伝子情報を細胞に輸送するために使用される特定の発現ベクターは、特に重要ではな
い。真核細胞または原核細胞における発現に使用される、従来のベクターのいずれも使用
し得る。標準的な細菌発現ベクターには、バクテリオファージλおよびM13、ならびに
pBR322ベースのプラスミド、pSKF、pET23Dなどのプラスミド、MBP、
GST、およびLacZなどの融合発現系が含まれる。便宜的な単離方法を提供するため
に、組換えタンパク質にエピトープタグ、例えば、c-mycを添加することもできる。
【0234】
発現ベクター中に含むことができるエレメントには、また、レプリコン、組換えプラス
ミドを保有する細菌の選択を可能にする抗生物質耐性をコードする遺伝子、または異種配
列の挿入を可能にするためのプラスミドの非必須領域における固有の制限部位があり得る
。当該技術分野で知られている多くの耐性遺伝子のいずれもが好適であり得るため、選択
された特定の抗生物質耐性遺伝子は確定的ではない。原核生物配列は、トリコデルマ・リ
ーゼイ(Trichoderma reesei)におけるDNAの複製または組み込み
を妨害しないように選択することが好ましい。
【0235】
本発明の形質転換方法は、形質転換ベクターの全部または一部の、糸状菌ゲノムへの安
定な組み込みをもたらし得る。しかしながら、自己複製する染色体外形質転換ベクターの
維持をもたらす形質転換も考えられる。
【0236】
多くの標準的なトランスフェクション方法を使用して、大量の異種タンパク質を発現す
るトリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)細胞株を作製する
ことができる。トリコデルマ属(Trichoderma)のセルラーゼ産生株にDNA
コンストラクトを導入するための出版された方法には、Lorito,Hayes,Di
Pietro and Harman,1993,Curr.Genet.24:349
-356;Goldman,VanMontagu and Herrera-Estr
ella,1990,Curr.Genet.17:169-174;Penttila
,Nevalainen,Ratto,Salminen and Knowles,1
987,Gene 6:155-164が、アスペルギルス属(Aspergillus
)については、Yelton,Hamer and Timberlake,1984,
Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:1470-1474が、フザリ
ウム属(Fusarium)については、Bajar,Podila and Kola
ttukudy,1991,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:8
202-8212は、ストレプトミケス属(Streptomyces)については、H
opwood et al.,1985,The John Innes Founda
tion,Norwich,UKが、そしてバチルス属(Bacillus)については
、Brigidi,DeRossi、Bertarini,Riccardi and
Matteuzzi,1990,FEMS Microbiol.Lett.55:13
5-138)が含まれる。
【0237】
外来ヌクレオチド配列を宿主細胞に導入する既知の手順はいずれも使用し得る。これら
には、リン酸カルシウムトランスフェクション法、ポリブレン法、プロトプラスト融合法
、エレクトロポレーション法、バイオリスティックス法、リポソーム法、マイクロインジ
ェクション法、血漿ベクター法、ウイルスベクター法、および宿主細胞にクローン化ゲノ
ムDNA、cDNA、合成DNAまたは他の外来遺伝子物質を導入する方法として知られ
る他の任意の方法の使用が含まれる(例えば、上記のSambrook et al.を
参照されたい)。米国特許第6,255,115号明細書に記載されているような、アグ
ロバクテリウム属(Agrobacterium)媒介トランスフェクション法も有用で
ある。使用する特定の遺伝子工学の手順が、異種遺伝子を発現し得る宿主細胞に少なくと
も1つの遺伝子を首尾よく導入し得ることのみが必要である。
【0238】
発現ベクターが細胞に導入された後、トランスフェクトされた細胞は、セルラーゼ遺伝
子プロモーター配列の制御下で遺伝子の発現に有利な条件下で培養される。形質転換細胞
の大きなバッチは、本明細書に記載のようにして培養することができる。最後に、標準的
な手法を用いて培養物から生成物を回収する。
【0239】
このように、本明細書における発明は、その発現が天然に存在するセルラーゼ遺伝子、
融合DNA配列、および種々の異種コンストラクトを含む、セルラーゼ遺伝子プロモータ
ー配列の制御下にある、所望のポリペプチドの発現および増強された分泌を提供する。本
発明はまた、このような所望産物を高レベルで発現および分泌させる方法を提供する。
【0240】
VI.目的タンパク質
上記のように、本開示の特定の実施形態は、変異糸状菌細胞(親糸状菌細胞に由来する
)に関し、この変異細胞は、Ace3-L、Ace3-ELまたはAce3-LNタンパ
ク質をコードする、遺伝子の発現を増加(親細胞と比較して)させる遺伝子改変を含み、
このコードされたAce3-L、Ace3-ELまたはAce3-LNタンパク質は、配
列番号6のAce3-Lタンパク質に対して約90%の配列同一性を有し、かつ変異細胞
は、誘導基質の非存在下で、少なくとも1つの目的タンパク質(POI)を発現する。
【0241】
本開示の特定の実施形態は、誘導基質の非存在下において、タンパク質(すなわち、目
的タンパク質)の細胞内産生および/または細胞外産生を増強するために特に有用である
。目的タンパク質は、内因性タンパク質(すなわち、宿主細胞において内因性)または異
種タンパク質(すなわち、宿主細胞において天然でない)であり得る。本開示にしたがっ
て産生することができるタンパク質には、限定されないが、ホルモン、酵素、成長因子、
サイトカイン、抗体などが含まれる。
【0242】
例えば、目的タンパク質には、限定されないが、ヘミセルラーゼ、ペルオキシダーゼ、
プロテアーゼ、セルラーゼ、キシラナーゼ、リパーゼ、ホスホリパーゼ、エステラーゼ、
クチナーゼ、ペクチナーゼ、ケラチナーゼ、レダクターゼ、オキシダーゼ、フェノールオ
キシダーゼ、リポキシゲナーゼ、リグニナーゼ、プルラナーゼ、タンナーゼ、ペントサナ
ーゼ、マンナナーゼ、β-グルカナーゼ、ヒアルロニダーゼ、コンドロイチナーゼ、ラッ
カーゼ、アミラーゼ、グルコアミラーゼ、アセチルエステラーゼ、アミノペプチダーゼ、
アミラーゼ類、アラビナーゼ、アラビノシダーゼ、アラビノフラノシダーゼ、カルボキシ
ペプチダーゼ、カタラーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ、エピメラーゼ、α-ガラクトシ
ダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、α-グルカナーゼ、グルカンライザーゼ、エンド-β-
グルカナーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルクロニダーゼ、インバーターゼ、イソメラ
ーゼなどが含まれ得る。
【0243】
特定の実施形態では、目的タンパク質には、限定されないが、国際公開第03/027
306号パンフレット、同第200352118号パンフレット、同第20035205
4号パンフレット、同第200352057号パンフレット、同第200352055号
パンフレット、同第200352056号パンフレット、同第200416760号パン
フレット、同第9210581号パンフレット、同第200448592号パンフレット
、同第200443980号パンフレット、同第200528636号パンフレット、同
第200501065号パンフレット、同第2005/001036号パンフレット、同
第2005/093050号パンフレット、同第200593073号パンフレット、同
第200674005号パンフレット、同第2009/149202号パンフレット、同
第2011/038019号パンフレット、同第2010/141779号パンフレット
、同第2011/063308号パンフレット、同第2012/125951号パンフレ
ット、同第2012/125925号パンフレット、同第2012125937号パンフ
レット、同第/2011/153276号パンフレット、同第2014/093275号
パンフレット、同第2014/070837号パンフレット、同第2014/07084
1号パンフレット、同第2014/070844号パンフレット、同第2014/093
281号パンフレット、同第2014/093282号パンフレット、同第2014/0
93287号パンフレット、同第2014/093294号パンフレット、同第2015
/084596号パンフレットおよび同第2016/069541号パンフレットに開示
されている酵素が含まれる。
【0244】
タンパク質の産生の最適条件は、宿主細胞の選択および発現されるタンパク質の選択に
よって変化する。そのような条件は、ルーチンの実験および/または最適化によって、当
業者には容易に確かめ得る。
【0245】
目的タンパク質は、発現後に精製または単離することができる。目的タンパク質は、ど
のような他の成分が試料中に存在するかによって、当業者に知られた様々な方法で単離ま
たは精製し得る。標準的な精製方法には、電気泳動手法、分子的手法、免疫学的手法、ク
ロマトグラフィー手法、例えば、イオン交換、疎水性、親和性、および逆相HPLCクロ
マトグラフィー、ならびにクロマトフォーカシングが含まれる。例えば、目的タンパク質
は、標準的な抗目的タンパク質抗体カラムを用いて精製し得る。タンパク質濃度と関連し
て、限外ろ過およびダイアフィルトレーション手法もまた有用である。必要な精製の程度
は、目的タンパク質の使用目的により異なる。ある場合には、タンパク質の精製は不要で
ある。
【0246】
他の特定の実施形態では、本開示の遺伝子的に改変された真菌細胞(すなわち、ace
3-Lの発現を増加させる遺伝子改変を含む変異真菌宿主細胞)が、増加したレベルの目
的タンパク質を産生する能力を有することを確認するために、種々のスクリーニング法を
実施し得る。発現ベクターは、検出可能な標識として機能する標的タンパク質へのポリペ
プチド融合物をコードし得る、または標的タンパク質自体が選択可能なもしくはスクリー
ニング可能なマーカーとして機能し得る。標識タンパク質は、ウェスタンブロッティング
、ドットブロッティング(Cold Spring Harbor Protocols
ウェブサイトで入手可能な方法)、ELISA、または標識がGFPである場合、全細胞
蛍光法もしくはFACSによって検出し得る。例えば、6-ヒスチジンタグは標的タンパ
ク質への融合体として含まれ、そしてこのタグはウェスタンブロッティングによって検出
される。標的タンパク質が十分に高いレベルで発現する場合、クマシー/銀染色と組み合
わされたSDS-PAGEを、変異宿主細胞において親(対照)細胞を越える発現の増加
を検出するために実施することができ、この場合は標識を必要としない。さらに、細胞1
個あたりのタンパク質の活性または量、培地1ミリリットルあたりのタンパク質の活性ま
たは量の増加を検出するなどの他の方法を使用して、目的タンパク質の改善されたレベル
を確認することができ、これにより、またはこれらの方法の組み合わせにより、より長時
間、培養または発酵を効率的に継続することが可能になる。
【0247】
比生産性の検出は、タンパク質の産生を評価する別の方法である。比生産性(Qp)は
、次式により求めることができる:
Qp=gP/gDCW・hr
(式中、「gP」はタンク内で生成されたタンパク質のグラム数であり、「gDCW」は
タンク内の乾燥細胞重量(DCW)のグラム数であり、「hr」は生成時間と増殖時間を
含む、接種時からの発酵時間(時間)である)。
【0248】
他の実施形態では、変異真菌宿主細胞は(改変されていない)親細胞と比較して、少な
くとも約0.5%、例えば、少なくとも約0.5%、少なくとも約0.7%、少なくとも
約1%、少なくとも約1.5%、少なくとも約2.0%、少なくとも約2.5%、もしく
は少なくとも約3%、またはそれ以上の目的タンパク質を産生することができる。
【0249】
VII.発酵
特定の実施形態では、本開示は、変異真菌細胞の発酵を含む、目的タンパク質を産生す
る方法(ここで、変異真菌細胞は、目的タンパク質を分泌する)を提供する。一般に、当
該技術分野でよく知られた発酵方法が、変異真菌細胞を発酵させるために使用される。い
くつかの実施形態では、真菌細胞は、バッチまたは連続発酵条件下で増殖させる。古典的
なバッチ発酵は、クローズドシステムであり、培地の組成は発酵の開始時に設定され、発
酵中に変更されない。発酵の開始時に、培地に所望の生物を接種する。この方法では、系
にいかなる成分も添加することなく醗酵を行うことができる。一般には、バッチ発酵は炭
素源の添加に関して「バッチ」であると見なされ、pHおよび酸素濃度などの因子を制御
することが頻繁に行われる。バッチシステムの代謝産物およびバイオマス組成は、発酵が
停止される時まで絶えず変化する。バッチ培養内で、細胞は静的誘導期を経て高増殖対数
期に進み、最終的に増殖速度が低下または停止する静止期に進む。未処理のまま放置する
と、静止期にある細胞は最終的には死滅する。一般に、対数期の細胞は、生成物の大部分
の産生を担っている。
【0250】
標準的なバッチシステムの好適なバリエーションは、「流加発酵」システムである。一
般的なバッチシステムのこのバリエーションでは、発酵が進行するにつれて基質が少しず
つ添加される。流加システムは、カタボライト抑制が細胞の代謝を阻害する可能性が高い
場合、および培地中の基質量が限られた量であることが望ましい場合に有用である。流加
システムでは、実際の基質濃度の測定は困難であり、したがって、pH、溶存酸素、およ
びCO2などの廃ガスの分圧などの測定可能な因子の変化に基づいて推定される。バッチ
発酵および流加発酵は、当該技術分野において一般的であり、よく知られている。
【0251】
連続発酵は規定の発酵培地をバイオリアクターに連続的に添加し、処理のために等量の
馴化培地を同時に除去するオープンシステムである。連続発酵は、一般に、培養物を一定
の高密度に維持し、細胞は主として対数増殖期にある。連続発酵は、細胞の増殖および/
または産生物の濃度に影響する1つ以上の因子の調節を可能にする。例えば、一実施形態
では、炭素源または窒素源などの制限栄養素は一定比率で維持され、他の全てのパラメー
タは調節することができる。他のシステムでは、培地の濁度によって測定される細胞濃度
を一定に保ちながら、増殖に影響する多くの因子を連続的に変化させることができる。連
続システムは、定常状態の増殖条件を維持しようとする。したがって、培地を取り出すこ
とによる細胞損失は、発酵中の細胞増殖速度とバランスさせなければならない。連続発酵
プロセスで栄養素および増殖因子を調節する方法、ならびに産生物形成速度を最大化する
ための手法は、工業微生物学の分野においてはよく知られている。
【0252】
本開示の特定の実施形態は、真菌を培養するための発酵手順に関する。セルラーゼ酵素
の産生のための発酵手順は、当該技術分野で知られている。例えば、セルラーゼ酵素は、
バッチ、流加および連続フロープロセスなどの、固体または浸漬培養によって産生するこ
とができる。培養は一般に、水性無機塩培地、有機増殖因子、炭素およびエネルギー源物
質、分子状酸素、および、当然に、使用される糸状菌宿主の出発接種材料を含む増殖培地
中で行われる。
【0253】
適切な微生物増殖を確実にし、微生物変換プロセスで細胞による炭素およびエネルギー
源の吸収を最大にし、発酵培地において最大細胞密度で最大細胞収率を達成するには、炭
素およびエネルギー源、酸素、吸収可能な窒素、ならびに微生物接種材料に加えて、好適
な量の無機栄養素を適切な割合で供給する必要がある。
【0254】
水性無機培地の組成は、当該技術分野で知られているように、使用する微生物および基
質に部分的に依存して、広範囲にわたって変えることができる。無機培地には、窒素に加
えて、好適な量のリン、マグネシウム、カルシウム、カリウム、硫黄、およびナトリウム
が、好適な可溶性の吸収可能なイオン性の複合形態で含まれ、また、好ましくは、銅、マ
ンガン、モリブデン、亜鉛、鉄、ホウ素、およびヨウ素などのいくつかの微量元素も、こ
れもまた好適な可溶性の吸収可能な形態で含まれるが、これらは全て当該技術分野で知ら
れていることである。
【0255】
発酵反応は、微生物種が盛んに増殖するのを助けるのに有効な好適な酸素分圧で、発酵
槽の内容物を維持するために提供される、空気、酸素富化空気、または実質的に純粋な分
子状酸素などの分子状酸素含有ガスによって必要な分子状酸素が供給される好気的プロセ
スである。
【0256】
発酵温度はいくらか変えることができるが、トリコデルマ・リーゼイ(Trichod
erma reesei)などの糸状菌の場合、温度は一般に約20℃~40℃の範囲内
、一般に好ましくは約25℃~34℃の範囲内である。
【0257】
微生物はまた、吸収可能な窒素源を必要とする。吸収可能な窒素源は、任意の窒素含有
化合物、または微生物による代謝利用に好適な形態で窒素を放出することができる任意の
化合物であり得る。タンパク質加水分解物などの、様々な有機窒素源化合物を使用するこ
とができるが、通常、アンモニア、水酸化アンモニウム、尿素などの安価な窒素含有化合
物、およびリン酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、塩化アン
モニウム、または他の様々なアンモニウム化合物などの各種アンモニウム塩を利用するこ
とができる。アンモニアガス自体は、大規模な操作に便利であり、好適な量で水性発酵物
(発酵培地)をバブリングして使用することができる。同時に、そのようなアンモニアは
、pH制御を助けるために用いることもできる。
【0258】
水性微生物発酵物(発酵混合物)のpH範囲は、約2.0~8.0の例示的な範囲であ
るべきである。糸状菌では、pHは、通常、約2.5~8.0の範囲であり、トリコデル
マ・リーゼイ(Trichoderma reesei)では、pHは、通常、約3.0
~7.0の範囲である。微生物の好ましいpH範囲は、使用する培地および特定の微生物
にある程度まで依存し、したがって、当業者ならば容易に決定できることであるが、培地
の変化と共にいくらか変化する。
【0259】
制限因子として炭素含有基質を制御することができるようなやり方で醗酵を行うことが
好ましく、それによって炭素含有基質の細胞への良好な転換が提供され、相当量の未転換
基質による細胞の汚染が回避される。後者は、水溶性基質では、微量の残存物は容易に洗
い流せるので、問題にならない。しかしながら、非水溶性基質の場合には問題となる可能
性があり、好適な洗浄工程などの追加の生成物処理工程が必要になる。
【0260】
上記のように、このレベルに到達する時間は重要ではなく、特定の微生物および実施す
る発酵プロセスによって変化し得る。しかしながら、発酵培地中の炭素源濃度の決定方法
、および所望の炭素源レベルが達成されているか否かの決定方法は、当該技術分野ではよ
く知られている。
【0261】
発酵はバッチまたは連続操作として行うことができ、流加操作は、制御の容易さ、均一
な量の生成物の生産、および全ての装置の最も経済的な使用という点で非常に好ましい。
【0262】
必要ならば、水性無機培地を発酵槽に供給する前に、炭素およびエネルギー源物質の一
部または全部および/またはアンモニアなどの吸収可能な窒素源の一部を水性無機培地に
加えることができる。
【0263】
反応器に導入される流れの各々は、所定の速度に制御するか、炭素およびエネルギー基
質の濃度、pH、溶存酸素、発酵槽排ガス中の酸素または二酸化炭素、乾燥細胞重量によ
り測定可能な細胞密度、透光度などの、モニタリングによって決定可能な必要性に応じて
制御することが好ましい。炭素およびエネルギー源の効率的な利用と一致して、可能な限
り迅速な細胞増殖速度を得、基質の供給に対して可能な限り高い微生物細胞の収率を得る
ために、各種材料の供給速度は変化させることができる。
【0264】
バッチまたは好ましい流加操作においては、全ての装置、反応器、または発酵手段、槽
または容器、配管、付随する循環または冷却装置などは、最初に、通常、蒸気を使用して
、例えば、約121℃で少なくとも約15分間、滅菌する。次いで、酸素を含む必要な栄
養素の全て、および炭素含有基質を存在下で、滅菌した反応器に選択された微生物の培養
物を接種する。使用する発酵槽の種類は重要ではない。
【0265】
発酵ブロスからの酵素(例えば、セルラーゼ)の回収および精製もまた、当業者に知ら
れた手順によって行うことができる。発酵ブロスは、一般に、細胞残屑、例えば、細胞、
種々の懸濁固体および他のバイオマス混入物質、ならびに所望のセルラーゼ酵素産物を含
み、これらは、当該技術分野で知られた手段によって発酵ブロスから除去することが好ま
しい。
【0266】
そのような除去に好適なプロセスには、無細胞ろ液を生成するための、例えば、遠心分
離、ろ過、透析、精密ろ過、回転真空ろ過、または他の知られたプロセスなどの従来の固
液分離手法が含まれる。結晶化の前に、限外ろ過、蒸発または沈殿などの手法を使用して
、発酵ブロス、または細胞を含まないろ液をさらに濃縮することが好ましい。
【0267】
上清またはろ液のタンパク質成分の沈澱が、塩、例えば硫酸アンモニウムによって行わ
れ、続いて、各種のクロマトグラフィー法、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、ア
フィニティークロマトグラフィー、または類似の分野で認められている方法によって精製
が行われ得る。
【実施例
【0268】
以下の実施例は本開示の実施形態を示しているが、それらは例示としてのみ与えられて
いることを理解されたい。上記の議論およびこれらの実施例から、当業者は種々の使用お
よび条件に適合させるために、本開示の種々の変更および修正を行うことができる。この
ような修正もまた、特許請求の範囲に記載された発明の範囲に含まれるものとする。
【0269】
実施例1
糸状菌細胞内でのace3過剰発現の生成
1A.概要
本実施例では、ace3遺伝子を発現する変異トリコデルマ・リーゼイ(Tricho
derma reesei)細胞(すなわち、例示的な糸状菌)を、プロトプラスト形質
転換を用い、pyr2遺伝子、異種プロモーター、およびace3遺伝子を含む核酸によ
り、親T.リーゼイ(T.reesei)細胞を形質転換することによって作製した。図
1および図2に概ね示すように、2つの異なるプロモーターおよび2つの異なるバージョ
ンのace3 ORF(図1;ace3-SCおよびace3-L)を4つの異なる組み
合わせで用い、4つの異なるace3-発現ベクターを構築した(図2A~2D)。hx
k1(ヘキソキナーゼをコードする遺伝子)およびpki1(ピルビン酸キナーゼをコー
ドする遺伝子)のプロモーターが、ace3の構成的発現を駆動するために選択されたが
、他のプロモーターもまた使用することができ、当業者によって選択され得る。
【0270】
1B.トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)宿主細胞
以下の実施例に示すT.リーゼイ(T.reesei)親宿主細胞は、Sheir-N
eiss and Montenecourt,1984により一般的に記述されている
ように、T.リーゼイ(T.reesei)pyr2遺伝子が欠失したT.リーゼイ(T
.reesei)株RL-P37(NRRL寄託番号15709)に由来した。
【0271】
1C.Ace3発現ベクターの構築
上の本開示の[発明を実施するための形態]に記載されているように、Ace3は、誘
導条件下(すなわち、ラクトースの存在下)のセルラーゼおよびヘミセルラーゼの産生に
必要であることが最近示されたT.リーゼイ(T.reesei)転写因子である(Ha
kkinen et al.,2014)。より詳しくは、Hakkinen et a
l.(2014)は、T.リーゼイ(T.reesei)株QM6a(genome.j
gi.doe.gov/Trire2/Trire2.home.htmlを参照された
い)の、公的に利用可能なゲノム配列に基づく予測ace3 ORFを使用したが、この
QM6aの予測アノテーション(タンパク質ID 77513)は、2つのエクソンと1
つのイントロンからなる(例えば、図1を参照されたい))。
【0272】
さらに、T.リーゼイ(T.reesei)Rut-C30株の公的に利用可能なゲノ
ム配列(genome.jgi.doe.gov/TrireRUTC30_1/Tri
reRUTC30_1.home.htmlを参照されたい)から予測されたace3
ORF(タンパク質ID 98455)は、3つのエクソンと2つのイントロンを含むよ
り長いタンパク質配列(すなわち、T.リーゼイ(T.reesei)QM6a由来の(
短い)ace3-Sに対して)を含む(図1)。より詳しくは、「RUT-C30」モデ
ルによって予測された開始コドンは「QM6a」モデルのそれより上流に位置し、C末端
にナンセンス変異があり(Poggi-Parodi et al.,2014)、より
長いN末端配列およびより短いC末端タンパク質配列をもたらす(図1)。
【0273】
本実施例では、短いace3 ORF(QM6aアノテーションに基づくが、タンパク
質のC末端を切断するRUT-C30ナンセンス変異を含む(Ace3-S))および長
いace3 ORF(RUT-C30アノテーションに基づく(Ace3-L))の両方
をクローニングした。図1に示すように、短いace3(Ace3-S)および長いac
e3(Ace3-L)ORFはいずれも、RUT-C30に見られるC末端のナンセンス
変異を含む(図1)。ace3 ORFの発現を駆動するために、異種ヘキソースキナー
ゼ(hxk1)プロモーターおよび異種ピルビン酸キナーゼ(pki1)プロモーターを
試験した。
【0274】
したがって、標準的な分子生物学的手順を用い、4つのAce3発現ベクターpYL1
、pYL2、pYL3およびpYL4(図2A~2D)を、構築した。これらの発現ベク
ターは、E.コリ(E.coli)の複製と選択のための細菌ColE1 oriおよび
AmpR遺伝子を有するベクター骨格を含む。T.リーゼイ(T.reesei)pyr
2選択マーカーに加えて、T.リーゼイ(T.reesei)プロモーター配列(すなわ
ち、hxk1またはpki1プロモーター)およびその天然ターミネーターを有するac
e3 ORF(ace3-Lまたはace3-SC)も存在する。Q5 High-fi
delity DNA polymerase(New England Biolab
s)および下記の表1に示すプライマーを使用して、T.リーゼイ(T.reesei)
ゲノムDNAから、T.リーゼイ(T.reesei)プロモーターおよびace3 O
RFをPCR増幅した。
【0275】
各ベクターのフラグメントをPCR増幅するために使用した特異的プライマーは、以下
の通りである。ベクターpYL1を構築するために、hxk1プロモーターはプライマー
対TP13(配列番号7)およびTP14(配列番号8)を用いて増幅し、Ace3-L
ORFはプライマーTP15(配列番号9)およびTP16(配列番号10)を用いて
増幅し、ベクター骨格はプライマー対TP17(配列番号11)およびTP18(配列番
号12)を用いて増幅した。プラスミドpYL1の完全配列を配列番号21として提供す
る。
【0276】
ベクターpYL2を構築するために、hxk1プロモーターはプライマー対TP13(
配列番号7)およびTP19(配列番号13)を用いて増幅し、Ace3-SC ORF
はプライマーTP20(配列番号14)およびTP16(配列番号10)を用いて増幅し
、ベクター骨格はプライマー対TP17(配列番号11)およびTP18(配列番号12
)を用いて増幅した。プラスミドpYL2の完全配列を配列番号22として提供する。
【0277】
ベクターpYL3を構築するために、pki1プロモーターはプライマー対TP21(
配列番号15)およびTP22(配列番号16)を用いて増幅し、Ace3-L ORF
はプライマーTP23(配列番号17)およびTP16(配列番号10)を用いて増幅し
、ベクター骨格はプライマー対TP17(配列番号11)およびTP24(配列番号18
)を用いて増幅した。プラスミドpYL3の完全配列を配列番号23として提供する。
【0278】
ベクターpYL4を構築するために、pki1プロモーターはプライマー対TP21(
配列番号15)およびTP25(配列番号19)を用いて増幅し、Ace3-SC OR
FはプライマーTP26(配列番号20)およびTP16(配列番号10)を用いて増幅
し、ベクター骨格はプライマー対TP17(配列番号11)およびTP24(配列番号1
8)を用いて増幅した。プラスミドpYL4の完全配列を配列番号24として提供する。
【0279】
各ベクターについて、上記3つのPCRフラグメントを組み立て、Gibson as
sembly cloning kit(New England Biolabs;カ
タログ番号E5510S)を用いて、製造業者のプロトコルにしたがってNEB DH5
αコンピテント細胞に形質転換した。得られたベクターの配列をサンガー配列決定法を用
いて決定し、それらのマップを図2A~2Dに示す。
【0280】
【表1】
【0281】
1D.T.リーゼイ(T.reesei)の形質転換
pYL1、pYL2、pYL3およびpYL4の発現ベクターを、PacI酵素(Ne
w England Biolabs)を用いて線状化し、ポリエチレングリコール(P
EG)媒介プロトプラスト形質転換によってT.リーゼイ(T.reesei)親宿主細
胞を形質転換した(Ouedraogo et al.,2015;Penttila
et al.,1987)。形質転換体をVogel最小培地寒天プレート上で増殖させ
、pyr2マーカーによって獲得したウリジン原栄養性について選択した。Vogel寒
天プレート上に2回連続してトランスファーすることによって安定な形質転換体を得、そ
の後、胞子懸濁液の平板希釈法により単一コロニーを得た。pYL1、pYL2、pYL
3およびpYL4を有する変異(すなわち、改変)宿主細胞を、それぞれ変異A4-7、
変異B2-1、変異C2-28および変異D3-1と命名した。
【0282】
実施例2
徐放性マイクロタイタープレート(srMTP)中でのタンパク質産生
本実施例は、非誘導条件下で酵素を分泌する形質転換体(実施例1を参照されたい)を
同定するために使用するスクリーニング方法を記載する。例えば、実施例1から得られた
安定な形質転換体を、徐放性マイクロタイタープレート(srMTP)中で試験した。使
用したsrMTPは、20%グルコース(重量/重量)または20%ラクトース(重量/
重量)を含有する24ウェルPDMSエラストマープレートであり、国際公開第2014
/047520号パンフレットに記載の通り調製した。
【0283】
「非誘導」および「誘導」の両条件で、実施例1に記載の親および変異T.リーゼイ(
T.reesei)宿主細胞を試験した。「非誘導条件」では、20%グルコース(重量
/重量)を含有するsrMTP中で、2.5%グルコース(重量/体積)を補充した規定
培地の1.25ml液体ブロス中で細胞を増殖させた。「誘導条件」では、20%ラクト
ース(重量/重量)を含有するsrMTP中で、2.5%グルコース/ソホロース(重量
/体積)を補充した規定培地(ソホロースおよびラクトースはセルラーゼ酵素発現の強力
なインデューサーとして働く)の1.25ml液体ブロス中で細胞を増殖させた。
【0284】
グルコース/ソホロースの調製は、米国特許第7,713,725号明細書に記載のよ
うに行った。規定培地は、国際公開第2013/096056号パンフレットに一般的に
記載されているように調製し、9g/Lのカザミノ酸、5g/Lの(NH4)2SO4、
4.5g/LのKH2PO4、1g/LのMgSO4・7H2O、1g/LのCaCl2
・2H2O、33g/LのPIPPS緩衝液(pH5.5)、0.25ml/LのT.リ
ーゼイ(T.reesei)微量成分を含んだ。T.リーゼイ(T.reesei)微量
成分は、191.41g/lのクエン酸・H2O、200g/LのFeSO4・7H2O
、16g/LのZnSO4・7H2O、0.56g/LのCuSO4・5H2O、1.2
g/LのMnSO4・H2Oおよび0.8g/LのH3BO3を含有する。全てのsrM
TPを、280rpmで連続的に振盪しながら、28℃で約120時間インキュベートし
た。
【0285】
インキュベーション後、全ての培養物からの上清を回収し、ポリアクリルアミドゲル電
気泳動(PAGE)を用いて分析した。90℃で15分間、等容量の培養上清を還元環境
に供した後、MOPS-SDS緩衝液を含む4~12%のNuPage(商標)(Inv
itrogen、Carlsbad CA)ポリアクリルアミドゲルにローディングダイ
を添加し、溶解させた。SimplyBlue(商標)(Invitrogen)でゲル
を染色し、画像化した(図3を参照されたい)。
【0286】
図3に示すように、試験した全ての宿主細胞は、インデューサー(すなわち、培地中の
ソホロースおよびsrMTP中のラクトース)の存在下で大量のタンパク質を分泌した。
しかしながら、グルコースが唯一の炭素源であって、インデューサー(すなわち、ソホロ
ースおまたはラクトース)の非存在下では、Ace3-L ORFを発現する変異宿主細
胞(すなわち、変異A4-7および変異C2-28)のみが分泌タンパク質を産生するこ
とができ、Ace3-SC ORFを発現する親宿主細胞および変異細胞(すなわち、変
異B1-1および変異D3-1)はPAGEの検出限界を超える細胞外タンパク質を産生
しなかった。この結果は、Ace3-Lが(すなわち、Ace3-Sとは対照的に)、T
.リーゼイ(T.reesei)においてインデューサーなしのタンパク質産生をできる
ことを明確に示している。
【0287】
分泌タンパク質の相対濃度を、参照として精製酵素を用いたZorbax C3逆相(
RP)分析により決定した。例えば、上記の宿主細胞の分泌タンパク質プロファイルをこ
の方法を用いて分析し、全ての宿主細胞(すなわち、親細胞および変異細胞)が誘導条件
下で、類似のセルラーゼタンパク質プロファイル(セルラーゼは、約40%のCBH1、
20%のCBH2、10%のEG1および7%のEG2からなる)を産生することが観察
された。非誘導条件下では、親細胞およびAce3-S発現変異宿主細胞でセルラーゼ酵
素は検出されなかった。対照的に、驚くべきことに、Ace3-L発現変異宿主細胞(す
なわち、変異A4-7およびC2-28)は、誘導条件下と類似の比率のセルラーゼ酵素
を産生することがわかった。
【0288】
簡単に記載すると、この分析方法は次のように行った:上清サンプルを50mM酢酸ナ
トリウム緩衝液(pH5.0)で希釈し、20ppmのEndoHを加えて脱グリコシル
化し、37℃で3時間インキュベートした。10μlの90%アセトニトリルを100μ
lのEndoH処理サンプルに加え、0.22μmフィルターを通過させた後、注入した
。Agilent Zorbax300 SB C3 RRHD 1.8um(2.1×
100mm)カラムを備えた、DAD検出(Agilent Technologies
)HPLCを有するAgilent1290を使用した。カラムは、60℃、流量1.0
mL/minで操作し、ランニングバッファーAとしてMiliQ水中0.1%のトリフ
ルオロ酢酸(TFA)およびランニングバッファーBとしてアセトニトリル中0.07%
のTFAを使用した。DAD検出器は4nmのウインドウで220nmおよび280nm
で操作した。注入容量は10μLであった。
【0289】
さらに、注目すべきことに、Ace3-L発現変異宿主細胞は、グルコースを含むsr
MTPで約20~30%の総細胞外タンパク質を産生した(すなわち、ラクトースを含む
srMTPで産生された総細胞外タンパク質と比較して)。この比較的低い発現は、グル
コースを含むsrMTP中での高いグルコース供給速度に起因し得る。例えば、最大のセ
ルラーゼおよびヘミセルラーゼ産生速度が低い増殖速度で多く観察されることは、十分に
立証されている(Arvas et al.,2011)。それにもかかわらず、srM
TP増殖アッセイは、タンパク質産生について安定なコロニーをスクリーニングするため
の比較的高スループットのアッセイであった。
【0290】
総合すると、Ace3-L ORFを発現する変異T.リーゼイ(T.reesei)
宿主細胞は、比較的低いタンパク質産生速度ではあるが、インデューサーの非存在下でセ
ルラーゼおよびヘミセルラーゼを産生することができた。より詳しくは、この低産生速度
は、下記の実施例3および実施例4に示すように、宿主細胞の産生能力よりもむしろ、s
rMTP増殖方法に関連した。
【0291】
実施例3
振盪フラスコ内でのタンパク質の産生
上で示したsrMTPの結果をさらに調査し、検証するために、インデューサー基質の
存在下および非存在下、振盪フラスコにおける50mL浸漬培養で、親宿主細胞およびA
ce3-L発現変異宿主細胞を増殖させた。より詳しくは、誘導条件(すなわち、炭素源
としてのグルコース/ソホロース)および非誘導条件(すなわち、炭素源としてのグルコ
ース)の両条件下の浸漬(液体)培養で、親T.リーゼイ(T.reesei)宿主細胞
、変異A4-7細胞および変異C2-28細胞を増殖させ、それらのそれぞれの細胞外(
分泌)タンパク質産生レベルを比較した。簡単に記載すると、底部バッフルを有する25
0mL三角フラスコ中の50mLのYEGブロスに、各宿主細胞(すなわち、T.リーゼ
イ(T.reesei)親宿主細胞、変異A4-7宿主細胞および変異C2-28宿主細
胞)の菌糸を別々に加えた。YEGブロスは、5g/Lの酵母抽出物および22g/Lの
グルコースを含有する。細胞培養物を48時間増殖させ、続いてさらに24時間、新鮮な
YEG中で二次培養した。次いで、これらの種培養物を、底部バッフルを有する250m
L振盪フラスコ中の、1.5%のグルコースを補充した50mLの規定培地(非誘導条件
)、または1.5%のグルコース/ソホロースを含む50mLの規定培地(誘導条件)に
接種した。
【0292】
全ての振盪フラスコを、200rpmで継続的に振盪しながら、28℃でインキュベー
トした。インキュベーションの3日後、全ての細胞培養物からの上清を回収し、上記実施
例2に記載のようにPAGEを用いて分析した。Bio-Rad試薬(Thermo S
cientific(登録商標);カタログ番号23236)、および標準として牛血清
アルブミン(BSA)の5倍希釈を使用し、595nmで、Bradford色素結合ア
ッセイによって上清中の総タンパク質を測定した。高性能液体クロマトグラフィー(HP
LC)分析によりグルコース濃度を測定したが、インキュベーション3日後の培養物中に
グルコースは検出されなかった。
【0293】
図4に示すように、親(対照)T.リーゼイ(T.reesei)細胞は、グルコース
/ソホロース(誘導性)を含む規定培地中で464μg/mLの全分泌タンパク質を産生
したが、グルコース(非誘導性)を含む規定培地中ではわずかに140μg/Lの全分泌
タンパク質を産生しただけであった。対照的に、変異A4-7細胞およびC2-28細胞
は、誘導および非誘導条件下で類似した量の分泌タンパク質を産生し、その両方が、ソホ
ロース(誘導)により親(対照)細胞で産生された分泌タンパク質よりも多かった。した
がって、これらの結果は、Ace3-L ORFを有する変異細胞(すなわち、変異A4
-7およびC2-28細胞)は、インデューサーの非存在下で細胞外タンパク質を産生す
るだけでなく、これらの変異細胞はまたそうした誘導条件下で、親(対照)T.リーゼイ
(T.reesei)細胞よりも多く全タンパク質を産生することを示している。
【0294】
実施例4
小規模流加発酵におけるタンパク質の生産
本実施例は、変異Ace3-L発現細胞(すなわち、変異A4-7およびC2-28細
胞)が、インデューサー基質の存在下および非存在下の小規模醗酵で類似量のセルラーゼ
およびヘミセルラーゼ酵素を産生したことを示す。より詳しくは、T.リーゼイ(T.r
eesei)の発酵を概ね米国特許第7,713,725号明細書に記載のように、2L
バイオリアクター内、クエン酸塩最小培地中で種培養物を使用して実施した。より具体的
には、発酵の間、全ての培養物からの上清を異なる時点で回収し、等容量の培養上清をP
AGE分析に供した。図5に示すように、親(対照)T.リーゼイ(T.reesei)
細胞は、ソホロースインデューサーの存在下でのみ、分泌タンパク質を産生した。対照的
に、変異A4-7およびC2-28細胞(図5)は、誘導および非誘導の両方の条件下で
、類似量のタンパク質を産生した。
【0295】
実施例5
Ace3発現のための異種プロモーター
本実施例は、ace3-Lの発現を駆動する13の異なるプロモーターを使用し、「非
誘導」条件下でタンパク質の産生が増強されることを示す。より詳しくは、プロトプラス
ト形質転換を用い、pyr2遺伝子、異種プロモーター、およびace3-L遺伝子を含
むテロメアベクターで親T.リーゼイ(T.reesei)細胞を形質転換することによ
り、ace3-L遺伝子を発現するT.リーゼイ(T.reesei)細胞を作製した。
【0296】
したがって、ace3-L ORFの発現を駆動する13のT.リーゼイ(T.ree
sei)プロモーターを選択した。試験した13種のプロモーターには、限定されないが
、(i)ホルムアミダーゼ遺伝子(rev3;タンパク質ID 103041)プロモー
ター(配列番号15)、(ii)β-キシロシダーゼ遺伝子(bxl;タンパク質ID
121127)プロモーター(配列番号16)、(iii)トランスケトラーゼ遺伝子(
tkl1;タンパク質ID 2211)プロモーター(配列番号17)、(iv)機能の
知られていない遺伝子(タンパク質ID 104295)プロモーター(配列番号18)
、(v)オキシドレダクターゼ遺伝子(dld1;タンパク質ID 5345)プロモー
ター(配列番号19)、(vi)キシラナーゼIV遺伝子(xyn4;タンパク質ID
111849)プロモーター(配列番号20)、(vii)α-グルクロニダーゼ遺伝子
(タンパク質ID 72526)プロモーター(配列番号21)、(viii)アセチル
キシランエステラーゼ遺伝子1(axe1;タンパク質ID 73632)プロモーター
(配列番号22)、)(ix)ヘキソースキナーゼ遺伝子(hxk1;タンパク質ID
73665)プロモーター(配列番号23)、(x)ミトコンドリアキャリアタンパク質
遺伝子(dic1;タンパク質ID 47930)プロモーター(配列番号24)、(x
i)オリゴペプチドトランスポーター遺伝子(opt;タンパク質ID 44278)プ
ロモーター(配列番号25)、(xii)グリセロールキナーゼ遺伝子(gut1;タン
パク質ID 58356)プロモーター(配列番号26)および(xiii)ピルビン酸
キナーゼ遺伝子(pki1;タンパク質ID 78439)プロモーター(配列番号27
)が含まれる。タンパク質ID(PID)番号は、genome.jgi.doe.go
v/Trire2/Trire2.home.htmlからのものである。したがって、
上記13のプロモーターは、その遺伝子が、グルコース濃度が高い場合には、一般に増殖
中、低レベルで発現され、グルコース濃度が低い場合またはソホロース誘導条件下では、
より高いレベルで発現されるので、発現を駆動するために選択された。
【0297】
下記表2に、標準的な分子生物学的手順を用いて構築した13のプロモーターおよびそ
の発現ベクターをまとめる。より詳しくは、本実施例で試験した発現ベクター(表2)は
、E.コリ(E.coli)の複製および選択のための細菌ColE1 oriおよびA
mpR遺伝子、ならびにサッカロミセス・セレビシアエ(Saccharomyces
cerevisiae)の複製および選択のための2μ oriおよびUra3遺伝子を
有するベクター骨格を含む。さらに、T.リーゼイ(T.reesei)テロメア配列(
「TrTEL」)、T.リーゼイ(T.reesei)pyr2選択マーカー、T.リー
ゼイ(T.reesei)プロモーター配列、およびその天然ターミネーター配列を有す
るace3-L ORFが存在する。代表的なベクターマップとして、dic1プロモー
ターを含むベクターpYL8を図7に示す。したがって、他のベクター(例えば、pYL
9、pYL12など)は、異なるプロモーター配列を除いて、図7に示したものと同じ配
列を有する。
【0298】
【表2】
【0299】
この発現ベクターを、ポリエチレングリコール(PEG)媒介プロトプラスト形質転換
によってT.リーゼイ(T.reesei)親宿主細胞(非機能性pyr2遺伝子を含む
)に挿入(形質転換)した(Ouedraogo et al.,2015;Pentt
ila et al.,1987)。形質転換体をVogel最小培地寒天プレート上で
増殖させ、pyr2マーカーによって獲得したウリジン原栄養性で選択した。Vogel
寒天プレート上で2回連続してトランスファーすることによって安定な形質転換体を得、
続いて非選択的PDAプレート上で2回連続して増殖させ、Vogel寒天プレート上で
1回増殖させ、その後、胞子懸濁液を平板希釈することによって単一コロニーを得た。
【0300】
「非誘導」および「誘導」の両条件で、上記親および形質転換した(娘)T.リーゼイ
(T.reesei)宿主細胞を試験した。例えば、「非誘導条件」で、標準の24ウェ
ルマイクロタイタープレート(MTP)中、2.5%グルコース(重量/体積)を補充し
た規定培地の1.25ml液体ブロス中で細胞を増殖させた。「誘導条件」では、MTP
中、2.5%グルコース/ソホロース(重量/体積)を補充した規定培地の1.25ml
液体ブロス(ソホロースがセルラーゼ酵素発現の強力なインデューサーとして働く)中で
細胞を増殖させた。インキュベーションに続いて、全培養物からの上清を回収し、Bio
-Rad試薬(Thermo Scientific(登録商標);カタログ番号232
36)および標準として牛血清アルブミン(BSA)の5倍希釈を使用し、595nmで
Bradford色素結合アッセイにより全分泌タンパク質を測定した。
【0301】
表3に示すように、親T.リーゼイ(T.reesei)細胞は、ソホロースインデュ
ーサーの存在下でのみ、高レベルの分泌タンパク質を産生した。対照的に、13の異なる
プロモーターで駆動されたAce3-Lを含み、かつ発現させる変異(娘)T.リーゼイ
(T.reesei)細胞は、誘導条件下および非誘導条件下の両方で類似した量の分泌
タンパク質を産生した。表3に示すように、各改変(娘)株のタンパク質レベルは、グル
コース/ソホロース(Glu/Sop)誘導条件下で親株(LT4)によって産生された
タンパク質(濃度)に対する比として示されている。
【0302】
【表3】
【0303】
さらに、実施例3で一般的に記載した振盪フラスコ実験で、T.リーゼイ(T.ree
sei)親株および上記のその形質転換体をさらに試験した。例えば、T.リーゼイ(T
.reesei)娘株「LT83」(ここで、娘株LT83は、dic1プロモーター(
配列番号28)で駆動されるace3-L ORFを含む)の代表的な結果を図8に示す
図8に示すように、親(対照)T.リーゼイ(T.reesei)細胞は、ソホロース
(「Sop」)インデューサーの存在下でのみ分泌タンパク質を産生したが、娘株LT8
3は誘導(「Sop」)および非誘導(「Glu」)の両条件下で、類似した量の分泌タ
ンパク質を産生した。
【0304】
同様に、実施例4で一般的に記載したようにして、小規模発酵を行った。より詳しくは
図9に示すように、親(対照)T.リーゼイ(T.reesei)株は、ソホロースイ
ンデューサー(「Sop」)の存在下でのみ分泌タンパク質を産生したが、娘株LT83
は誘導(「Sop」)および非誘導(「Glu」)の両条件下で、類似した量の分泌タン
パク質を産生した。
【0305】
実施例6
T.リーゼイ(T.reesei)ACE3過剰発現コンストラクトのクローニング
T.リーゼイ(T.reesei)のゲノム配列は、Joint Genome In
stitute(https://genome.jgi.doe.gov/)から公的
に入手可能であるが、ace3コード領域の5’末端の位置が明らかでない。例えば、J
oint Genome InstituteにおけるDNA配列のアノテーションは、
DNA配列が同じであっても、変異株Rut-C30(genome.jgi.doe.
gov/TrireRUTC30_1/TrireRUTC30_1.home.htm
l)と野生型株QM6a(genome.jgi.doe.gov/Trire2/Tr
ire2.home.html)とでは異なった。QM6aの場合、ace3コード領域
の5’末端は、図11の矢印3で示すようにエクソン3の上流(5’末端)、イントロン
2内にあると示唆された。Rut-C30の場合、ace3コード領域の5’末端はエク
ソン2内にある(図11、矢印2)。ゲノムDNA配列および追加のcDNA配列のさら
なる分析により、図11に示すようにエクソン1およびイントロン1が存在する可能性の
あることが示唆された。さらに、Rut-C30のace3コード領域の3’末端は、野
生型分離株QM6aの配列(図11、矢印5)と比較して、未成熟終止コドン(図11
矢印4)を作り出す変異を含んでいる。したがって、本実施例では、ace3遺伝子のこ
れらの異なる可能な形態を過剰発現することの効果を、本明細書に記載するように実験的
に研究した(例えば、図11図12、および図13~18を参照されたい)。
【0306】
したがって、図12に示すace3の異なる形態が、T.リーゼイ(T.reesei
)において過剰発現した。ここで、T.リーゼイ(T.reesei)ace3遺伝子の
ための過剰発現ベクターは、T.リーゼイ(T.reesei)のグルコアミラーゼ遺伝
子座(gla1)にace3の標的組み込みを可能にするように設計された。より詳細に
は、全てのプラスミド(ベクター)コンストラクトで、T.リーゼイ(T.reesei
)ace3遺伝子は、T.リーゼイ(T.reesei)dic1プロモーターの制御下
、天然のace3ターミネーターにより発現した。これらのベクターは、T.リーゼイ(
T.reesei)形質転換体の選択のために、pyr4マーカーをその天然のプロモー
ターおよびターミネーターと共にさらに含む。gla1遺伝子座に組み込んだ後のpyr
4遺伝子の切除を可能にするために、pyr4プロモーターの反復が含まれた。E.コリ
(E.coli)中での複製と増幅を可能にするベクター骨格は、EcoRI-XhoI
消化pRS426であった(Colot et al,2006)。標的組み込みに必要
なT.リーゼイ(T.reesei)gla1遺伝子座の5’末端および3’末端フラン
ク、dic1プロモーター、異なる形態のace3コード領域、およびターミネーターを
、表4に示すプライマーを用いてPCRにより作製した。フランキングフラグメントの鋳
型は、野生型T.リーゼイ(T.reesei)QM6a(ATCC寄託番号13631
)由来のゲノムDNAであった。
【0307】
【表4】
【0308】
dic1プロモーター、ace3遺伝子およびターミネーターについては、鋳型は、こ
れらのフラグメントを保持する先のプラスミドpYL8(実施例5を参照されたい)であ
った。選択マーカー(pyr4)は、NotI消化を有する先のプラスミドから得た。所
望のDNAフラグメントを生成するために使用したPCRプライマーを表4に示す。PC
R産物および消化フラグメントを、アガロースゲル電気泳動を用いて分離した。製造業者
のプロトコルにしたがって、ゲル抽出キット(Qiagen)を用いてゲルから正しいフ
ラグメントを単離した。プラスミドは、PCT/EP2013/050126号明細書(
国際公開第2013/102674号パンフレットとして公開)に記載されている酵母相
同組換え法を用い、上記のフラグメントにより構築した。プラスミドを酵母からレスキュ
ーし、E.コリ(E.coli)に形質転換した。少数のクローンを選択し、プラスミド
DNAを単離し、配列を決定した。プラスミドの概要を表5に示す。
【0309】
【表5】
【0310】
したがって、表5に示されるコンストラクトは、異なる形態のace3遺伝子を有する
ことによって異なる。SC形態は、エクソン3および4、ならびにイントロン3を含む遺
伝子の短い形態である(図12および図13、配列番号7を参照されたい)。より詳しく
は、配列番号7のSC形態は、1,713bpのエクソン3、148bpのイントロン3
および144bpのエクソン4を含む。SC形態の(3’末端)C末端(すなわち、エク
ソン4)は、T.リーゼイ(T.reesei)RutC-30株と同じ変異を有する。
【0311】
S形態は、エクソン3および4、ならびにイントロン3を含む遺伝子の短い形態である
が、エクソン4の(3’末端)C末端に変異を有しない(図12および図14、配列番号
1を参照されたい)。より詳しくは、S形態は、1,713bpのエクソン3、148b
pのイントロン3および177bpのエクソン4を含む。これらの両形態(すなわち、「
SC」および「S」)において、翻訳開始コドンは、T.リーゼイ(T.reesei)
QM6a株のアノテーションにあるように、長いイントロン2(図12を参照されたい)
にあり、「SC」および「S」の両形態は、推定DNA結合ドメインのコード領域の一部
を欠いている。
【0312】
L形態は、エクソン2、3および4、ならびにイントロン2(長いイントロン)および
イントロン3を含む遺伝子の長い形態である(例えば、図12および図15、配列番号4
を参照されたい)。より詳しくは、L形態は、258bpのエクソン2、423bpのイ
ントロン2、1,635bpのエクソン3、148bpのイントロン3および144bp
のエクソン4を含む。L形態の(3’末端)C末端は、T.リーゼイ(T.reesei
)RutC-30株と同じ変異を有する。
【0313】
LC形態は、エクソン2、3および4、ならびにイントロン2(長いイントロン)およ
びイントロン3を含む遺伝子の長い形態である(例えば、図12および図16、配列番号
9を参照されたい)。より詳しくは、LC形態は、258bpのエクソン2、423bp
のイントロン2、1,635bpのエクソン3、148bpのイントロン3および177
bpのエクソン4を含む。LC形態は、C末端に変異がない。「L」および「LC」の両
形態では、翻訳開始コドンはRut-C30株に対してJGIでアノテートされているよ
うに、エクソン2にある。
【0314】
EL形態は、エクソン1、2、3および4、ならびにイントロン1、イントロン2(長
いイントロン)およびイントロン3を含むace3遺伝子の特に長いバージョンである(
例えば、図12および図17、配列番号11を参照されたい)。より詳しくは、EL形態
は、61bpのエクソン1、142bpのイントロン1、332bpのエクソン2、42
3bpのイントロン2、1,635bpのエクソン3、148bpのイントロン3および
144bpのエクソン4を含む。EL形態の(3’末端)C末端は、T.リーゼイ(T.
reesei)RutC-30株と同じ変異を有する。
【0315】
LN形態は、エクソン2、3および4、ならびにイントロン3を含むがイントロン2を
欠く遺伝子の長い形態である(例えば、図12および図18、配列番号13を参照された
い)。LN形態の(3’末端)C末端は、T.リーゼイ(T.reesei)RutC-
30株と同じ変異を有する。したがって、上記のように、ace3のL、LC、LNおよ
びEL形態は、完全な推定DNA結合ドメインをコードする。
【0316】
T.リーゼイ(T.reesei)RL-P37株への形質転換
表5に示した全てのプラスミドをMssIで消化して、標的組み込みのためにフラグメ
ントを放出させ、アガロースゲル電気泳動で分離した。例えば、図19は、T.リーゼイ
(T.reesei)の形質転換に使用される代表的なフラグメント内のDNA配列の配
置を示す図である。ゲル抽出キット(Qiagen)を用い、製造業者のプロトコルにし
たがって、ゲルから正しいフラグメントを単離した。約10μgの精製フラグメントを使
用して、T.リーゼイ(T.reesei)RL-P37株のpyr4-変異体のプロト
プラストを形質転換した。プロトプラストの調製および形質転換は、国際公開第2013
/102674号パンフレットに記載されているように、pyr4選択を使用して行った
【0317】
形質転換体を選択培地プレート上に画線した。増殖クローンを、表6に列挙したプライ
マーを用い、正確な組み込みについてPCRによりスクリーニングした。予想されたシグ
ナルを与えるクローンを単細胞クローンに精製し、表6に列挙したプライマーを用いるP
CRにより、そしてまたサザンブロッティングにより、正確な組み込みおよびクローン純
度について再スクリーニングした(データは示さず)。
【0318】
【表6】
【0319】
異なるace3形質転換体の培養
24ウェルマイクロタイタープレートにおいて、炭素源として2%ラクトースまたは2
%グルコースを含む液体培地中で表7に示す株を増殖させた。培地の他の成分は、0.4
5%KH2PO4、0.5%(NH4)2SO4、0.1%MgSO4、0.1%CaC
l2、0.9%カザミノ酸、0.048%クエン酸×H2O、0.05%FeSO4×7
H2O、0.0003%MnSO4×H2O、0.004%ZnSO4×7H2O、0.
0002%H3BO3および0.00014%CuSO4×5H2Oであった。pHを5
.5に維持するために、100mMのPIPPS(Calbiochem)を含めた。
【0320】
【表7】
【0321】
湿度80%のInfors HT microtonシェーカー中、28℃、800R
PMで培養を行った。3~7日目に培養物のサンプリングを行った。Bio Rad P
rotein Assayを用い、製造業者のプロトコルにしたがって、培養上清から全
分泌タンパク質の量を測定した。両培地で、RutC-30C末端に突然変異を有するa
ce3L、ELおよびLN形態の過剰発現により、全タンパク質の産生が改善された。炭
素源としてラクトースを有する培地では、ace3遺伝子の全形態の過剰発現により、全
タンパク質の産生はある程度改善されたが、改善のレベルは、ace3遺伝子のL、EL
およびLN形態を過剰発現する株で最も高かった。ace3遺伝子のL、ELまたはLN
形態を過剰発現する形質転換体と共に、グルコース(すなわち、非誘導条件)を使用した
とき、高レベルの分泌タンパク質(表8)が観察されたことは明らかである。
【0322】
【表8】
【0323】
実施例7
内因性Ace3異種プロモーターのノックイン
プロモーター置換コンストラクト(図6を参照されたい)を、ace3遺伝子座の天然
プロモーター上流の5’領域を含むDNAフラグメント、loxP隣接ハイグロマイシン
B耐性選択マーカーカセット、およびace3オープンリーディングフレームの5’に作
動可能に融合した目的プロモーターを含むフラグメントを融合することによって作製した
(例えば、糸状菌で使用するための遺伝子/プロモーター置換についてより詳しい記載の
あるPCT出願のPCT/US2016/017113号明細書を参照されたい)。
【0324】
したがって、上記のプロモーター置換コンストラクトでトリコデルマ・リーゼイ(Tr
ichoderma reesei)細胞を形質転換し、形質転換体を単離し、診断PC
RのためにゲノムDNAを抽出して、天然ace3遺伝子座におけるプロモーター置換コ
ンストラクトの相同組換えを確認する。この方法を使用して、ハイグロマイシンB耐性カ
セットおよび任意の目的プロモーターにより、天然ace3プロモーターが置換された形
質転換体を同定し得る。続いて、ハイグロマイシンB耐性カセットを、creリコンビナ
ーゼの作用によって除去する(Nagy、2000)。
【0325】
ace3遺伝子座における相同組み込みの効率は、国際公開第2016/100272
号パンフレット、国際公開第2016/100571号パンフレット、および国際公開第
2016/100568号パンフレットに例示されているように、好適に設計されたガイ
ドRNAによって天然ace3プロモーターへと導かれたcas9の作用によって向上さ
せ得る。
【0326】
条件付きプロモーター置換(CPR)戦略は、Hu et al.(2007)の刊行
物でアスペルギルス・フミガツス(Aspergillus fumigatus)につ
いて記載されており、これは、A.フミガツス(Afumigatus)NiiA窒素調
節可能プロモーター(pNiiA)を使用し、選択された遺伝子の内因性プロモーターを
欠失および置換する戦略を一般的に記載している。したがって、特定の実施形態では、類
似の方法を使用して、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei
)におけるace3遺伝子の内因性プロモーターを代替プロモーターで置き換えることが
できる。
【0327】
実施例8
内因性非リグノセルロース目的遺伝子プロモーターの、リグノセルロース目的遺伝子プロ
モーターによる置換
トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)グルコアミラーゼ
発現コンストラクトを、DNAポリヌクレオチドフラグメントから組み立てた(例えば、
米国特許第7,413,879号明細書を参照されたい)。ここで、T.リーゼイ(T.
reesei)グルコアミラーゼをコードするORF配列は、5’(上流)T.リーゼイ
(T.reesei)cbh1プロモーターに作動可能に連結され、3’(下流)T.リ
ーゼイ(T.reesei)cbh1ターミネーターに作動可能に連結された。このDN
Aコンストラクトは、選択マーカーとしてT.リーゼイ(T.reesei)pyr2遺
伝子をさらに含んだ。
【0328】
したがって、本開示の変異(娘)T.リーゼイ(T.reesei)細胞(すなわち、
Ace3-Lタンパク質をコードする遺伝子の発現を増加させる遺伝子改変を含む)を、
グルコアミラーゼ発現コンストラクトで形質転換した。培養中にT.リーゼイ(T.re
esei)グルコアミラーゼ酵素を分泌することができる、それらの形質転換体を同定す
るために、形質転換体を選択し、炭素源としてグルコースを含む液体培地で(すなわち、
ソホロースまたはラクトースなどの誘導基質を含まない)培養した。
【0329】
したがって、T.リーゼイ(T.reesei)グルコアミラーゼ発現(親)株(対照
)、および改変T.リーゼイ(T.reesei)(娘)グルコアミラーゼ発現株(すな
わち、Ace3-L ORFを含み、発現する)を振盪フラスコ内で増殖させ、全ての細
胞培養物の上清を回収し、上記実施例2および実施例3で一般的に記載したように、PA
GEを用いて分析した。
【0330】
より詳しくは、図10に示すように、親T.リーゼイ(T.reesei)細胞は、グ
ルコース/ソホロースを含む規定培地中(誘導条件)で1,029μg/mLのグルコア
ミラーゼを産生したが、グルコースを含む規定培地中(非誘導条件)ではわずかに38μ
g/Lのグルコアミラーゼを産生しただけであった。対照的に、dic1プロモーターか
ら駆動されるace3-Lを含む改変(娘)株「LT88」は、「誘導」(「Sop」)
条件下で3倍高いグルコアミラーゼを産生(すなわち、誘導条件下の親(対照)株と比較
して)し、かつ「非誘導」(「Glu」)条件下で2.5倍高いグルコアミラーゼを産生
(すなわち、誘導条件下の親(対照)株と比較して)し、または非誘導条件下の親(対照
)株と比較して、「非誘導」(「Glu」)条件下で67倍高いグルコアミラーゼを産生
した。したがって、これらの結果は、Ace3-L ORFを含む改変(娘)細胞は、イ
ンデューサーの非存在下で細胞外タンパク質を産生するだけでなく、これらの変異細胞は
そのような誘導条件下で、親(対照)T.リーゼイ(T.reesei)細胞よりも多く
、全タンパク質を産生することを示している。
【0331】
実施例9
天然に関連した異種の目的遺伝子プロモーターの、リグノセルロース目的遺伝子プロモー
ターによる置換
フィターゼ発現コンストラクトを、以下のようにDNAポリヌクレオチドフラグメント
から組み立てる(例えば、米国特許第8,143,046号明細書を参照されたい)。ブ
ティアウクセラ属(Buttiauxella)種のフィターゼをコードするORFは、
5’末端でT.リーゼイ(T.reesei)cbh1プロモーターに作動可能に連結し
、かつ3’末端でT.リーゼイ(T.reesei)cbh1ターミネーターに作動可能
に連結している。DNAコンストラクトは、選択マーカー、アスペルギルス・ニデュラン
ス(Aspergillus nidulans)amdS遺伝子をさらに含む。変異T
.リーゼイ(T.reesei)細胞(すなわち、Ace3-Lタンパク質をコードする
遺伝子の発現を増加させる遺伝子改変を含む)を、フィターゼ発現コンストラクトで形質
転換する。培養中にブティアウクセラ属(Buttiauxella)フィターゼ酵素を
分泌することができる形質転換体を同定するために、形質転換体を選択し、炭素源として
グルコースを含む液体培地中で(すなわち、ソホロースまたはラクトースなどの誘導基質
を含まない)培養した。
【0332】
実施例10
天然ace3プロモーター置換ベクターの構築
本実施例では、2つのace3プロモーター置換ベクターpCHL760およびpCH
L761を、標準的な分子生物学的手順を用いて構築した。ベクター骨格pMCM328
2(図20)は、大腸菌(E.coli)中での複製および選択のために、pMB1 o
riおよびAmpR遺伝子を含んだ。さらに、N.クラッサ(N.crassa)cpc
1プロモーターおよびA.ニデュランス(A.nidulans)trpCターミネータ
ーの下で発現する、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)
のためのhphハイグロマイシン選択マーカーを含んだ。プロモーター置換のために、ベ
クターは、T.リーゼイ(T.reesei)pki1プロモーター下で発現する、トウ
モロコシ用に最適化されたストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcu
s pyogenes)cas9コドン、およびU6プロモーター下で発現するガイドR
NAを含んだ(例えば、国際公開第2016/100568号パンフレットおよび国際公
開第2016/100272号パンフレットを参照されたい)。
【0333】
したがって、pMCM3282をEcoRVで消化し、ace3天然プロモーターを置
換するT.リーゼイ(T.reesei)hxk1またはdic1プロモーター領域に隣
接する、T.リーゼイ(T.reesei)ace3遺伝子座からの約1kbの5’末端
および3’末端相同配列を有する3つのフラグメントを、Gibson assembl
yによってpMCM3282/EcoRVにクローン化し、pCHL760(図21)お
よびpCHL761(図22)を得た。
【0334】
Q5 High-fidelity DNAポリメ―ラーゼ(New England
Biolabs)および下記の表9に記載のプライマーを使用して、T.リーゼイ(T
.reesei)ゲノムDNAから、hxk1またはdic1と共に5’ace3相同配
列および3’ace3相同配列をPCR増幅した。
【0335】
【表9】
【0336】
より詳しくは、各ベクターのフラグメントをPCR増幅するために使用した特定のプラ
イマーは次の通りである。pCHL760を構築するために、プライマー対CL1840
およびCL1791を用いて5’上流相同領域を増幅し、プライマー対CL1794およ
びCL1831を用いて、3’下流相同領域を増幅し、プライマー対CL1792および
CL1793を用いてdic1プロモーターを増幅した。
【0337】
pCHL761を構築するために、プライマー対CL1840およびCL1800を用
いて5’上流相同領域を増幅し、プライマー対CL1803およびCL1831を用いて
、3’下流相同領域を増幅し、プライマー対CL1801およびCL1802を用いてd
ic1プロモーターを増幅した。
【0338】
ベクターpMCM3282(図20)は、5’から3’方向に、T.リーゼイ(T.r
eesei)U6プロモーター、E.コリ(E.coli)ccdBカセット、およびC
as9結合に関与する一本鎖ガイドRNA(sgRNA)の構造領域を含み、U6遺伝子
由来のイントロンを含む。ccdBカセットを、トリコデルマ属(Trichoderm
a)ace3遺伝子内の5つの異なる標的部位に特異的な配列で置換した。最終ace3
プロモーター置換ベクターを構築するための、pCHL760(図21)およびpCHL
761(図22)へのガイドRNA配列の挿入。
【0339】
したがって、異なるsgRNA配列の産生のために、AarI制限部位を有する以下の
表10に示すオリゴヌクレオチドを設計した。
【0340】
【表10】
【0341】
より詳細には、CL1821およびCL1822、CL1823およびCL1824、
CL1825およびCL1826、CL1827およびCL1828、CL1829およ
びCL1830をアニールして、二本鎖DNAを作製し、それらを、タイプIISシーム
レスクローニング法を使用して、AarI部位でpCHL760およびpCHL761に
個々にクローニングした。正しく挿入されたガイドRNA配列を有する最終プラスミドは
、毒性のccdB遺伝子を失っていた。
【0342】
T.リーゼイ(T.reesei)の形質転換
pCHL760およびpCHL761のcas9媒介ace3プロモーター置換ベクタ
ーを、ポリエチレングリコール(PEG)媒介プロトプラスト形質転換法によりT.リー
ゼイ(T.reesei)親細胞に形質転換した。ハイグロマイシン耐性形質転換体を選
択するために、ハイグロマイシンを含むVogel最小培地寒天上で形質転換体を増殖さ
せた。これらの形質転換体のいくつかは、プラスミドを取り込んではいたが、ゲノムDN
Aへの安定な組み込みがなく、不安定であった。形質転換体をVogelの非選択的寒天
培地に移し、プラスミドおよびハイグロマイシン耐性マーカーを無くした。
【0343】
dic1プロモーター置換形質転換体についてスクリーニングするために、ゲノムDN
Aを抽出し、プライマー対CL1858およびCL1848(所望の組み込みについて予
想されるサイズの産物は2,412bpであった)ならびにCL1853およびCL18
18(所望の組み込みについて予想されるサイズの産物は2,431bpであった)を用
いてPCRした(例えば、表11を参照されたい)。続いて、PCR産物をDNA配列の
決定により分析し、所望のプロモーターの組み込みを確認した。
【0344】
hxk1プロモーター置換形質転換体についてスクリーニングするために、プライマー
対CL1858およびCL1898(所望の組み込みについて予想されるサイズの産物は
1,784bpであった)ならびにCL1853およびCL1850(所望の組み込みに
ついて予想されるサイズの産物は2,178bpであった)を用いてPCRし、続いてP
CR産物のDNA配列決定により、正しい組み込みを確認した(例えば、表11を参照さ
れたい)。
【0345】
【表11】
【0346】
振盪フラスコ中でのタンパク質の産生
ace3プロモーター置換株の機能性を試験するために、インデューサー基質(ソホロ
ース)の存在下および非存在下、振盪フラスコ内、50mlの浸漬培養で細胞を増殖させ
た。誘導条件(炭素源としてグルコース/ソホロース)および非誘導条件(炭素源として
のグルコース)の両条件下の(液体培養で、親T.リーゼイ(T.reesei)宿主細
胞(ID番号1275.8.1)、変異細胞ID番号2218、2219、2220、2
221、2222および2223を増殖させ、それらのそれぞれの細胞外分泌タンパク質
産生レベルを比較した。簡単に記載すると、底部バッフルを有する250mL三角フラス
コ中の50mLのYEGブロスに、各宿主細胞(すなわち、T.リーゼイ(T.rees
ei)親宿主細胞およびその変異細胞)の菌糸を別々に加えた。YEGブロスは、5g/
Lの酵母抽出物および22g/Lのグルコースを含有した。細胞培養物を48時間増殖さ
せ、続いてさらに24時間、新鮮なYEG中で二次培養した。次いで、これらの種培養物
を、底部バッフルを有する250mLの振盪フラスコ中、2.5%のグルコースを補充し
た50mLの規定培地(非誘導条件)、または2.5%のグルコース/ソホロースを含む
50mLの規定培地(誘導条件)に接種した。全ての振盪フラスコを、200rpmで継
続的に振盪しながら、28℃でインキュベートした。インキュベーションの4日後、全て
の細胞培養物からの上清を回収し、図23に示されているようにSDS-PAGEを用い
て分析した。
【0347】
上記SDS-PAGEに見られるように、親細胞(図23、ID1275.8.1)で
は、グルコース/ソホロース(誘導)の場合と比較して、グルコース(非誘導)を含む規
定培地では分泌タンパク質の産生は非常に少なかった。対照的に、形質転換体2218、
2219、2220、2222および2223は、誘導および非誘導条件下で類似量の分
泌タンパク質を産生した。したがって、これらの結果は、ace3遺伝子座において天然
ace3プロモーターを置換したhxk1またはdic1プロモーターを有する変異細胞
がインデューサーの非存在下で細胞外タンパク質を産生したことを示している。
【0348】
参考文献
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欧州特許出願第244,234号明細書
欧州特許出願公開第0215594号明細書
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図1A
図1B-1】
図1B-2】
図1B-3】
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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【配列表】
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