(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】イオンをトラップするための装置
(51)【国際特許分類】
H01J 49/42 20060101AFI20241217BHJP
【FI】
H01J49/42 550
H01J49/42 450
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023182451
(22)【出願日】2023-10-24
【審査請求日】2023-11-29
(32)【優先日】2022-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】508306565
【氏名又は名称】サーモ フィッシャー サイエンティフィック (ブレーメン) ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【氏名又は名称】鈴木 博子
(72)【発明者】
【氏名】ハミッシュ スチュワート
【審査官】後藤 慎平
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-012704(JP,A)
【文献】特表2010-512632(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 40/00-49/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンをトラップするための装置であって、
前記装置の表面に沿って延在する電極のアレイと、
前記電極のアレイとは異なる1つ以上の更なる電極と、
前記電極のアレイ及び前記1つ以上の更なる電極によって画定される、前記イオンを受け取るためのトラップ領域と、
制御回路と、を備え、
前記制御回路は、
前記電極のアレイ内の各電極が各隣接する電極に対して異なる位相を有し、前記電極のアレイから前記イオンを反発させるように振動電圧のセットを前記電極のアレイに印加し、
前記1つ以上の更なる電極のうちの少なくとも1つに
DCトラップ電圧を印加して、前記イオンを強制的に前記電極のアレイに向かわせ、前記振動電圧のセット及び前記
DCトラップ電圧が、それによって前記イオンを前記トラップ領域内にトラップし、
遅延期間中、前記電極のアレイへの前記振動電圧のセットの印加を停止し、
前記遅延期間中、前記1つ以上の更なる電極のうちの少なくとも1つに
DC集束電圧を印加して、前記イオンを強制的に前記電極のアレイに向かわせ、
前記遅延期間後、前記電極のアレイ及び/又は前記1つ以上の更なる電極のうちの少なくとも1つに抽出電圧を印加して、前記トラップ領域から前記イオンを抽出する、ように構成されて
おり、
前記制御回路は、
前記イオンが前記電極のアレイから第1の距離範囲に位置付けられるように前記振動電圧のセット及び前記DCトラップ電圧を印加し、
前記イオンが位置付けられる前記電極のアレイからの前記第1の距離範囲を減少させるように前記DC集束電圧を印加する、ように構成されている、イオンをトラップするための装置。
【請求項2】
前記制御回路は、前記
DC集束電圧及び前記
DCトラップ電圧を前記1つ以上の更なる電極のうちの同じ少なくとも1つの電極に印加するように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記
DC集束電圧は、前記
DCトラップ電圧である、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記
DC集束電圧は、
前記振動電圧のセットの大きさよりも小さい大きさ、及び/又は
少なくとも5V、少なくとも10V、又は少なくとも20Vの大きさを有する、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記遅延期間は、
0.1μs~2μs、又は
0.1μs~1μsの持続時間を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記
DC集束電圧の大きさは、前記遅延期間中に傾斜化又はパルス化される、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記
DC集束電圧は、前記遅延期間中の複数のそれぞれの時間間隔中に複数の異なる大きさを有する、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記
DC集束電圧の大きさは、前記遅延期間中一定である、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記電極のアレイ及び前記1つ以上の更なる電極のうちの少なくとも1つは、輸送電極であり、前記制御回路は、前記トラップ領域に沿ってイオンを輸送するために、輸送電圧を前記輸送電極に印加するように構成されている、請求項
1に記載の装置。
【請求項10】
前記トラップ領域は、相対的に低圧の領域及び相対的に高圧の領域を有し、前記制御回路は、前記トラップ領域の前記相対的に高圧の領域と前記トラップ領域の前記相対的に低圧の領域との間でイオンを輸送するために前記輸送電圧を印加するように構成されている、請求項
9に記載の装置。
【請求項11】
前記制御回路は、前記イオンが前記トラップ領域に入った後に、前記
DCトラップ電圧を前記1つ以上の更なる電極に印加するように構成されている、請求項
1に記載の装置。
【請求項12】
前記
DCトラップ電圧は、前記電極のアレイに印加される前記振動電圧のセットの大きさよりも小さい大きさを有する、請求項
11に記載の装置。
【請求項13】
前記電極のアレイ及び前記1つ以上の更なる電極のうちの少なくとも1つは、抽出電極を備え、前記制御回路は、前記抽出電圧を前記抽出電極に印加するように構成されている、請求項
1に記載の装置。
【請求項14】
前記抽出電圧は、前記
DCトラップ電圧の大きさよりも大きい大きさを有する、請求項
13に記載の装置。
【請求項15】
前記制御回路は、
前記
DCトラップ電圧を前記抽出電極に印加して前記トラップ領域内にイオンをトラップし、
前記抽出電圧を前記抽出電極に印加して前記トラップ領域から前記イオンを抽出する、ように構成されている、請求項
13に記載の装置。
【請求項16】
前記トラップ領域は、相対的に低圧の領域及び相対的に高圧の領域を有し、前記抽出電極は、前記相対的に低圧の領域に沿って延在する、請求項
13に記載の装置。
【請求項17】
前記1つ以上の更なる電極は、前記トラップ領域の周囲に位置付けられた1つ以上の障壁電極を含み、前記制御回路は、障壁電圧を前記1つ以上の障壁電極に印加して前記トラップ領域内にイオンをトラップするように構成されている、請求項
1に記載の装置。
【請求項18】
前記制御回路は、前記イオンが前記電極のアレイから第1の距離範囲に位置付けられるように、前記振動電圧のセット及び前記
DCトラップ電圧を印加するように構成され、
前記障壁電圧は、前記電極のアレイから少なくとも前記第1の距離範囲まで延在するポテンシャル障壁を規定する、請求項
17に記載の装置。
【請求項19】
質量分析システムであって、
請求項
1に記載のイオンをトラップするための装置と、
イオンをトラップするための前記装置からイオンを受け取るように構成された質量分析器と、を備える質量分析システム。
【請求項20】
前記質量分析器は、飛行時間型質量分析器である、請求項19に記載の質量分析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、イオンをトラップするための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
抽出トラップは、連続イオン源又はパルスイオン源などのイオン源からのイオンを蓄積及びトラップする質量分析器に結合されたデバイスである。抽出トラップは、典型的には、イオンを衝突冷却し、有利な空間及びエネルギー特性のパケットに圧縮し、次いで、イオンを分析器にパルス抽出する。抽出トラップは、磁場型分析器(Mather et al.,International Journal of Mass Spectrometry and Ion Physics,1978,28,347-364)、飛行時間型分析器(Chien et al.,Rapid Communications in Mass Spectrometry,1993,7,837-843)、四重極型分析器(Bonner et al.,International Journal of Mass Spectrometry and Ion Physics,1972,10,197-203)及びフーリエ変換型分析器(例えば、Orbitrap(商標)(米国特許第7425699(B2)号)などの軌道トラップ質量分析器)を含む多くの異なるタイプの分析器と対にされてきた。
【0003】
歴史的に、最も一般的な抽出トラップは、米国特許第2939952(A)号に記載され、同第5569917(A)号、同第6803564(B2)号、及び同第6380666(B1)号において飛行時間型分析器に結合されて示されている3D四重極イオントラップ又はポールトラップであった。
図1は、リフレクトロン飛行時間型分析器のためのイオン源として機能し、それによって、トラップのいずれかの端部に印加される高電圧がイオンを排出する四重極イオントラップの現代のレイアウトを示す。イオンは、リフレクトロン又はイオンミラーによって反射されてイオン検出器に集束される前に、分析器の長さに沿って移動する。
【0004】
ポールトラップは、イオンが高RF電界を横切って注入され、十分に冷却してトラップされる距離がほとんどないため、トラップ効率が低いという欠点がある。ポールトラップはまた、全てのイオンが一点に集束されるため、強い空間電荷効果を被る。強い空間電荷効果は、最適な集束及び高分解能のために非常に厳密に定義されたイオンパケット特性に依存する分析トラップ及び飛行時間型分析器の両方にとって問題である。
【0005】
3Dトラップは、線形イオントラップ、通常、RF擬ポテンシャルを使用して、イオンを半径方向に集束させ、ターミナル極DCを介して軸線方向にイオンをトラップするターミナル極DCによってキャップされた細長いRF多重極ロッドのアセンブリによって大きく取って代わられている(Donald J.Douglas et al.,Mass Spectrometry Reviews,2004,24,1-29)。これらの利点は、イオンが長手方向軸に沿って注入され、衝突冷却のための空間を与えるときのより高いトラップ効率、及びイオンパケットが上記軸に沿って拡散させられる際の空間電荷容量の典型的には30~50倍の改善である。空間電荷能力は、米国特許第5763878(A)号においてFranzenによって示された六重極などの高次多重極トラップ場によって改善され得るが、これらは、飛行時間(ToF)軸線に沿ってイオンを拡散させるという欠点があり、パルス抽出時に比較的不十分な集束特性をもたらす。
【0006】
追加のイオンガイド/トラップ構造は、「RFカーペット」の形態で存在する。RFカーペットでは、各々が隣接する電極とは異なる(例えば、反対の)RF振幅を有する、密に詰め込まれた一連の電極又は電極のアレイが、電極が広がっている表面にわたって擬ポテンシャル障壁を形成する。イオンは、電極のアレイに対向して取り付けられたDC電極によってこの擬ポテンシャル表面に対して固定されてもよく、イオンは領域にわたって拡散する。イオンはまた、例えば、DC勾配、又はRF電極上に重畳される進行波によって、RFカーペットを横断して輸送され得る(G.Bollen,Int.J.Mass.Spectrom,2011,299,131-138)。PCBプリントRF表面デバイスのSLIM(Structures for Lossless Ion Manipulations)ファミリーも、DC障壁電極と、同じ表面上のRF電極と一体化された様式で実装されたスイッチとを含む(米国特許出願公開第20190103261(A1)号)。
【0007】
飛行時間分析器のための理想的な初期イオンパケット形状は、薄いディスクであり、これは、狭い抽出イオン時間焦点及び対応する高い機器分解能に必要とされる小さいToF軸方向空間分布を損なうことなく、空間電荷のための体積を最大化する。イオンは、RFカーペットの長さ及び幅にわたって拡散するため、イオンは、広く平坦なパケットを形成し、これは、ToF用途に特に適しており、その厚さは、カウンタDCの強度及びRF電極に近接するRF擬ポテンシャルの指数関数的上昇の強度によって決定される。この後者の要因は、直列の電極の密度をリソグラフィスケールまで増加させることによって高めることができるが、これはまた、イオンを物理的表面に極めて接近させ、その結果、帯電及び機械的公差のリスクを伴う。
【0008】
米国特許第6683301(B2)号及び同第7365317(B2)号においてWhitehouseは、RFカーペット又は表面が抽出トラップとして作用するようにどのように構成され得るかを記載している。米国特許第8373120号は、同様のシステムを示す。
図2は、米国特許第6683301(B2)号のデバイスの提案されたレイアウトを再現している。この文献では、イオンは、電極の2Dアレイで形成されたRFカーペット上に注入され、上方に配置されたグリッド状の対向電極から対向するDCを介してアレイに固定される。次いで、イオンは、グリッド及びRF表面電極の両方に印加される高電圧によって、グリッドを通って飛行時間分析器内にパルス抽出され得る。
【0009】
図1は、一般的なトラップ-レフレクトロンToF機器レイアウトを示すが、多重反射飛行時間型分析器も関連しており、イオンは、しっかりと折り畳まれた非常に細長い飛行経路に沿って方向付けられる。このような機器は、典型的には、単一反射分析器よりもかなり高い分解能が可能であるが、Grinfeld(D.Grinfeld,A.E.Giannakopulos,I.Kopaev、A.Makarov,M.Monastyrskiy,M.Skoblin,Eur.J.Mass Spectrom.2014,20,131-42)によって報告されているように、深刻な空間電荷問題に悩まされることが多い。線形イオントラップによって供給される注目すべき分析器の例は、Grinfeldによって米国特許第9136101(B2)号に記載されており、完全な機器構成がHockによって米国特許第10593525(B2)号に示されている。この装置は、線形イオン抽出トラップからイオンを抽出し、一対の細長いイオンミラー間で振動するように方向付ける。振動するイオンパケットは、ミラーの長さに沿ってドリフトし膨張することが可能になり、空間電荷効果を低減するのに役立つ。ミラーは、互いに対して傾斜され、減速電位を生成し、減速電位は、イオンパケットを反射し、イオンパケットを抽出トラップに隣接して位置する検出器に戻すように再方向付ける。
【0010】
しかしながら、この空間電荷制限特徴を用いても、イオンパケットに対する生の空間電荷の影響は実質的なままであり、分解能は、パケット内の約1500個のイオンにおいて大幅に低減される。更に、抽出トラップの擬ポテンシャルウェル深さが制限され、イオンがトラップ内に拡散することを可能にする場合、イオン数に対する分解能の許容範囲は実質的に増加する。イオン雲の拡大も焦点特性に干渉するため、分解能の最高点は実質的に損なわれる。同様に、ミラーシステムは、空間電荷のレベルを最適化するように再調整することができるが、この場合も最高レベルの分解能性能が犠牲になる。空間電荷と解像度との間の妥協を少なくするか、又はアクセス可能な空間電荷範囲をはるかに大きくすることが望ましい。
図3は、線形トラップウェル深さが異なると、MR-ToF分解能及び空間電荷の傾向がどのように変化するかを示す。
【0011】
抽出トラップの重要な特徴は、それらが迅速に動作し、異なる注入イオンパケットを熱化された雲に処理し、現在の飛行時間型機器では100Hzよりもかなり大きい競合的な取得速度で分析器に抽出することである。これは、約7eVの運動エネルギーで注入されたイオンを急速に冷却するために、トラップ内に比較的高いガス圧、典型的には>2×10-3mbarを必要とする。しかしながら、そのような圧力は、分析器へのかなりのガス漏れを引き起こし、この問題は、RFカーペットトラップにおける抽出グリッドの大きな開口面積によって悪化する。既知の解決策は、抽出領域に隣接するトラップの高圧領域内でイオンを急速に予冷し、次いでイオンを比較的低いエネルギーでガス制限部を横切って移動させ、適切に熱化するためにはるかに低い圧力を要することである。Gilesらは、米国特許出願公開第20190103263(A1)号において、2つのそのような圧力領域と、イオンの移動に対する障壁として作用することなくガス移動を効果的に制限する、より小さい半径を有する界面セグメントとを有するセグメント線形四重極トラップを記載した。
【0012】
トラップ-ToF機器は、同様のm/zの多くのイオンが存在する場合、空間電荷効果に大いに悩まされる。パケット中のイオン数が増加するにつれて、分解能は急速に崩壊し、測定された平均m/zに著しいシフトがあることが多い。
【0013】
更なる有害な影響は、トラップ内のイオンの総数がRF擬ポテンシャルウェルによって規定される閾値を超えるときのイオン雲の全体的な膨張である。これが起こると、不十分にトラップされたより高いm/zイオンは、トラップされたイオン体積の外側に押しやられ、トラップ及び透過の失敗によって引き起こされる実質的な分解能低下、質量シフト、及び感度損失を被る可能性がある。
【0014】
基本的にトラップ容積を増加させることによってトラップ空間電荷容量を増加させるいくつかの方法がある。より大きなトラップ、又はより高次の多重極を有するトラップは、ポールトラップよりも非常に多くのイオンをトラップし得るが、この増加がToF飛行軸におけるイオン空間拡散の増加を伴う場合、抽出されたイオンパケットの焦点特性が損なわれ、機器分解能が損なわれる。
【0015】
特に重要なのは、分析器軸に直交する1次元におけるイオン雲の拡大、すなわち、分解能を損なうことなく空間電荷容量の拡大を可能にするため、3Dトラップから細長い線形イオントラップへのシフトである。イオンが両方の直交次元に拡大することを可能にする次のステップは、米国特許第6683301(B2)号及び同第7365317(B2)号においてWhitehouseによって説明されるように、RF表面を介して達成される。
【0016】
このようなRF表面の欠点は、擬ポテンシャルがDCからの反力と釣り合うのに十分な強さである点に、トラップされたイオン面が位置するため、異なるm/zのイオンが、RF表面から異なる距離に位置することである。飛行時間型分析器の場合、擬ポテンシャル強度が質量依存性であり、したがって時間焦点の位置における質量依存性(すなわちm/zシフト)を誘発し、問題を引き起こす可能性があり、この問題は当技術分野で対処又は認識されていない。更なる問題は、大きな平面表面が大きな抽出グリッドを必要とすることであり、必然的に、ガス充填トラップから、線形トラップ又は3Dトラップで生じるよりもはるかに多くのガスが分析器に漏れることである。
【0017】
抽出源内でイオン雲を拡大するための1つの既知の技術は、「遅延抽出」である。元々、これは、レーザパルスと抽出場の印加との間の遅延に対する利点が見出された、MALDIイオン源などのレーザベース技術に関するものであった。これらの技術は、MALDIプルーム中の非イオン化物質の低減を含み、そうでなければ、非イオン化物質は、高エネルギー検体イオンと衝突し、断片化を生成し、イオン源において、イオンエネルギーと、高分解能のために抽出場によって集束され得る空間位置との間の関係を生成し、イオン雲の拡大もまた、空間電荷の影響を低減する。RFトラップの場合、遅延抽出は、典型的には、例えば、米国特許第9595432(B2)号におけるようにイオン位相空間を操作するため、又はRFがより完全にクエンチされる時間を可能にするための、RFのクエンチと抽出場の印加との間の遅延を意味する。
【0018】
分析器自体内の解決策も提案されてきた。米国特許第9136101(B2)号のMR-ToF分析器は、イオン雲が拡大して空間電荷効果を制限することを可能にするように特に設計されているが、実際には依然として空間電荷効果から大きく影響を受け、そのような設計は、厳密に集束されたビームを有する分析器よりも機械的誤差に対してより脆弱になる。抽出されたイオンビームを拡大するためにレンズが使用されてもよいが、これは、空間電荷効果が既に影響を与え始めている抽出後のどこかで行われ、分析器構成要素は、拡大されたビームを受け入れるためにより大きく作製され得る。分析器集束要素はまた、空間電荷を許容するように調整されてもよいが、これはまた、典型的には、低空間電荷性能の実質的な犠牲を伴い、場合によっては、機器を損なう。
【0019】
本開示の1つの目的は、分析器(例えば、飛行時間型分析器)内の高密度イオンパケットによって引き起こされる空間電荷効果の問題に対処することであり、空間電荷効果は、分解能及び質量精度を損なう可能性があり、初期電荷密度に関連する。本開示の別の目的は、上述の他の問題に対処することである。
【発明の概要】
【0020】
これを背景に、請求項1、11、及び19によるイオンをトラップするための装置が提供される。例えば、多数のタイプのイオントラップが提供され、実施形態は、デュアル圧力トラップ領域、イオン注入中の傾斜トラップ場、及び/又はRF場がクエンチされた後のイオンの遅延抽出のうちの1つ以上を伴うRFカーペット抽出トラップに関連する。特定の実施形態は、そのようなトラップが質量分析器に結合されるときのm/z範囲にわたる分解能の損失に加えて、トラップ内でのイオンのトラップ及び輸送の効率に関する問題に対処する。
【0021】
本発明の様々な態様を組み合わせることができることに留意されたい。例えば、請求項1~11のいずれか一項に記載の遅延抽出は、請求項12~21のいずれか一項に記載の経時的に大きさが増加するDCトラップ電圧、及び/又は請求項22以降のいずれか一項に記載のイオンをトラップするための二重圧力装置と組み合わせて実施され得る。同様に、請求項12から21のいずれか一項に記載の経時的に大きさが増加するDCトラップ電圧は、請求項22以降のいずれか一項に記載のイオンをトラップするための二重圧力装置と組み合わせて実施され得る。
【0022】
いくつかの実施形態では、イオントラップからのイオンの抽出が改善され得る。例えば、ある実施形態は、RFカーペット抽出トラップに関する特定の問題が、RFカーペットのRF擬ポテンシャル強度が質量依存性であり得るため、異なるm/zのイオンがRF表面から異なる距離でトラップ内にトラップされることであることを認識する。これは、イオンがトラップからToFに抽出されるとき、異なるm/zを有するイオンがトラップ内で異なる開始位置を有し、したがって分析器を通る異なる経路長を有するため、飛行時間質量(ToF)分析器に結合された抽出トラップに対して特定の問題を提示し得る。したがって、系統的なm/zシフトがトラップによって導入され得る。この問題に対処するために、イオンがイオントラップから抽出されるとき、RFカーペット上のRFは、最初にクエンチされ(すなわち、オフにされ)得、次いで、適切な遅延期間が満了した後に、抽出パルスがイオントラップに印加され得る。遅延期間中、異なるm/zのイオンは、DC電界(例えば、元のトラップ電界)の影響下で空間焦点内に移動し、その結果、抽出電圧(例えば、抽出パルス)がトラップに印加されると、異なるm/zを有するイオンは、トラップ内で実質的に同じ開始高さを有することになる。したがって、遅延抽出は、焦点面を整合させるために、異なるm/zのイオンを予め集束するために使用されることができ、それは、本明細書に説明されるイオントラップに結合されるToF分析器から得られるm/z値における系統誤差を低減させることができる。したがって、平面イオン雲を放出する改善されたイオントラップを提供することができる。
【0023】
更に、本開示は、RFカーペット抽出トラップに関する別の問題が、トラップに入るイオンがDCトラップ電界によってRF電極内に加速され得ることであることを認識する。イオンの損失は望ましくない場合がある。この問題に対処するために、DC電圧は、イオンがトラップに注入されている間は低い値に設定されてもよく、その後、イオンがトラップ内で冷却されるにつれて、ある期間にわたって上昇又は傾斜させられてもよい。イオン注入後のトラップ電圧の漸進的な又は緩やかな増大又は傾斜を使用して、イオンによるエネルギーの取り込みを制限し、イオンをRFカーペット上に徐々に圧縮することができる。これにより、RFカーペットとの衝突によるイオン損失のリスクを低減することができる。
【0024】
加えて、本開示のいくつかの実施形態は、二重圧力型RFカーペット抽出トラップに関する。すなわち、いくつかの実施形態は、異なる圧力の領域を有する抽出トラップを提供する。例えば、開口部(例えば、イオンが通過することを可能にするためのスロット)を備え得るガスリストリクタは、イオンをトラップするための装置の上部プレートから懸架され得る。これにより、簡単な構成を容易にすることができ、RF電極がRFカーペットトラップの対向する底部基板にわたって妨害されずに延びることを可能にする。加えて、トラップ領域内(例えば、トラップ領域の高圧領域内)の上部プレートは、くさび形状で形成されてもよく、これは、小さいガス制限開口へのイオンの効果的な横方向集束を可能にすることができる。そのような二重圧力抽出トラップは、そこから吊り下げられたガスリストリクタを有するPCB上部プレート上に構築され得る。
【0025】
本開示のいくつかの実施形態は、トラップ領域の周囲に位置付けられた1つ以上の障壁電極の提供に関する。そのような障壁電極は、トラップ領域の下面(例えば、アレイが設けられる面であって、本明細書では第1の面として説明される面)上に配置されてもよく、そこから延在してもよい。このような障壁電極に障壁電圧を印加して、イオンをトラップ領域内にトラップすることができる。そのようなトラップは、DC電極、又はRF電極、又はDC及びRFの組み合わせが供給される電極によって提供され得る。下面に位置付けられた障壁電極に加えて、又はその代わりに、上部プレート上のDC電極を介してRFカーペットの平面の周りをトラップすることも有利であり得る。
【0026】
本開示のいくつかの態様では、イオンをトラップするための装置であって、装置の表面(第1の表面と称され得る)に沿って延在する電極のアレイと、電極のアレイとは異なる1つ以上の更なる電極と、電極のアレイ及び1つ以上の更なる電極によって画定される、イオンを受け取るためのトラップ領域と、制御回路であって、電極のアレイ内の各電極が、各隣接する電極に対して異なる位相を有する、電極のアレイからイオンを反発させるように振動電圧のセットを電極のアレイに印加し、1つ以上の更なる電極のうちの少なくとも1つにトラップ電圧を印加して、イオンを強制的に電極のアレイに向かわせ、振動電圧のセット及びトラップ電圧は、それによってイオンをトラップ領域内にトラップする、ように構成された制御回路とを備え、1つ以上の更なる電極は、トラップ領域の周囲に位置付けられた1つ以上の障壁電極を含み、制御回路は、障壁電圧を1つ以上の障壁電極に印加してトラップ領域内にイオンをトラップするように構成されている、イオンをトラップするための装置が提供され得る。そのような障壁電極は、例えば抽出領域を取り囲む電極として、上部プレート上に位置付けられたDC電極、及び/又はトラップ領域の周囲に配置された別個の電極を備えてもよい。
【0027】
更に、前述のくさび形電極は、イオンをトラップするための任意のタイプの装置において漏斗効果を提供するために使用することができ、二重圧力抽出トラップに限定されない。例えば、本開示のいくつかの態様では、イオンをトラップするための装置であって、装置の表面(第1の表面と称され得る)に沿って延在する電極のアレイと、電極のアレイとは異なる1つ以上の更なる電極と、電極のアレイ及び1つ以上の更なる電極によって画定される、イオンを受け取るためのトラップ領域と、制御回路であって、電極のアレイ内の各電極が、各隣接する電極に対して異なる位相を有する、電極のアレイからイオンを反発させるように振動電圧のセットを電極のアレイに印加し、1つ以上の更なる電極のうちの少なくとも1つにトラップ電圧を印加して、イオンを強制的に電極のアレイに向かわせ、振動電圧のセット及びトラップ電圧は、それによってイオンをトラップ領域内にトラップする、ように構成された制御回路とを備え、1つ以上の更なる電極が漏斗電極を備え、制御回路が輸送電圧を漏斗電極に印加するように構成されている、イオンをトラップするための装置が提供され得る。漏斗電極は、くさび形を有してもよく、イオンの横方向分離を低減し(すなわち、イオン雲を狭め)、改善されたイオン輸送を提供することができる。
【0028】
したがって、本開示は、RFカーペットベースの抽出トラップのためのイオンのトラップ及び輸送を改善する様々な概念を提供する。いくつかの実施形態は、飛行時間型分析器への抽出に好適な大型の平面初期イオン雲を可能にする。遅延抽出タイプのプロセスは、RFのクエンチ(すなわち、振動電圧がRFカーペットに印加されなくなるとき)と抽出場の印加との間で説明され、その間には、小さいDC場のみが印加され、それは、異なるm/zのトラップされたイオン平面が抽出点においてより良好に整列することを可能にし、したがって、質量依存分解能損失を低減する。更に、イオンをRF表面トラップに注入する際のエネルギーの取り込みを制限するイオンローディング機構が記載されており、低圧抽出領域を有する二重圧力構造が、分析器へのガス漏れを制限するために提案されている。
【0029】
本開示を通して、電圧が電極に印加されるものとして説明される場合、対応する電磁界が確立されることが理解されるであろう。例えば、本開示が、例えば、「抽出電圧」(又は任意の他のタイプの電圧)を1つ以上の電極に印加することを説明する場合、これは、対応する「抽出電界」がその抽出電圧によって引き起こされることにつながると理解されるであろう。同様に、本開示が、例えば、「RF電界」又は「DC電界」を印加することを説明する場合、制御回路は、適切なRF又はDC電圧を1つ以上の電極に印加して、そのような電界を確立するように構成されることが理解されるであろう。
【0030】
上述の利点及び様々な他の利点は、以下の説明及び添付の図面から明らかになるであろう。
ここで、本開示を、添付の図を参照して、例として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】リフレクトロン飛行時間イオン源として機能する四重極イオントラップを示す。
【
図2】抽出トラップとして作用するように構成された既知のRFカーペットを示す。
【
図3】異なる線形トラップウェル深さに対するMR-ToF分解能及び空間電荷を示す。
【
図4A】イオンをトラップするための異なる装置の実施形態を示す。
【
図4B】イオンをトラップするための異なる装置の実施形態を示す。
【
図4C】イオンをトラップするための異なる装置の実施形態を示す。
【
図5】イオンをトラップするための二重圧力装置の一実施形態を示す。
【
図6】イオンをトラップするための二重圧力装置の更なる実施形態を示す。
【
図7】イオンをトラップするための二重圧力装置の一実施形態の上面図を示す。
【
図9】イオンをトラップするためのシミュレートされた装置内のイオン経路を示す。
【
図10】イオンをトラップするための装置について計算された擬ポテンシャルの形態を示す。
【
図11】イオンが経時的にポテンシャルウェル内に冷却されるときのイオン軌道を示す。
【
図12】抽出後のシミュレートされたイオン時間拡散を示す。
【
図13】RFクエンチ後に遅延される抽出パルスを使用するときの、イオンの位置に対する集束効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本開示は、いくつかの異なるRFカーペットを提供する。RFカーペット抽出トラップ100のコア構造の様々な例が、
図4A~
図4Cに示されている。そのようなRFカーペット抽出トラップ100はまた、本明細書において、イオンをトラップするための装置又はイオントラップとして説明される。
【0033】
図4Aは、イオンをトラップするための装置の基本的な実施形態を示す。装置は、RFカーペットを提供するために、装置の下面である第1の表面上に一連の又はアレイのRF電極101+、101-を備える。RF電極101+、101-は、x方向及びy方向に延在する。更なる電極102(グリッド電極であってもよい)が、第2の表面上のRFカーペットの上方に取り付けられてもよい。小さい反発DCがトラップ中に更なる電極102に印加され、強い吸引DCがイオン抽出中に印加される。したがって、更なる電極102は、制御回路150がトラップ中(すなわち、トラップ電圧及び振動電圧がイオンをトラップするために同時に印加されるとき)にトラップ電圧を印加するトラップ電極102として作用し、電極102は、制御回路150がイオンを抽出するために抽出電圧を印加する抽出電極102として作用する。トラップ/抽出電極102はまた、対向電極102として説明され得る。
【0034】
制御回路150は、明確にするために、様々な電極への接続が破線で省略されて示されている。各実施形態は、そのような制御回路150を備え得ることが理解されるであろう。制御回路150は、任意の電極に電圧を印加し、任意のセンサから測定値を受け取ることができる。制御回路150は、本開示の装置の種々の電極に電圧を印加するための論理を備えてもよい。制御回路150はまた、受信された測定値(例えば、トラップ領域内の電荷測定値)に基づいて特定の動作を実行する(例えば、電極上の電圧を調整する)こともできる。制御回路150は、従来の技術を使用して形成されてもよく、したがって、明確さ及び簡潔さのために、更に詳細には説明されない。
【0035】
使用中、イオンは、装置のトラップ領域内にトラップされる。トラップ領域は、電極のアレイ及び1つ以上の更なる電極によって画定される。電極のアレイが配置される表面は、好ましくは実質的に平坦な表面であるが、必ずしも完全に2次元又は完全に平坦である必要はない。電極のアレイは、1又は2方向に延在してもよい。例えば、アレイの電極は、x及び/又はy方向の様々な位置に位置付けられ得る。アレイの個々の電極は、実質的に1次元又は2次元であってもよく、いずれの場合も、z方向に比較的小さい空間的広がり(厚さ又は高さ)を有する。電極のアレイは、各々がy方向に延在し、x方向に離間される一連の平行線電極を備えてもよい。すなわち、アレイ自体が1次元であってもよく、各電極は1次元であってもよく、アレイの電極は集合的に2次元表面にわたって延在する。いくつかの実施形態では、アレイは、アレイの各(x,y)位置に提供される小さい線(1次元)電極又は小さい平面(2次元)電極を伴う、異なる(x,y)位置における点の2次元アレイであってもよい。この場合、電極のアレイの電極は、再び、集合的に、2次元表面(すなわち、電極が配置される下面)の一部にわたって延在する。
【0036】
電極の高さは、それらの幅の一方又は両方の小部分(例えば、10%未満、又は1%未満)であってもよい。
図4Aに示す実施例では、RF電極101+、101-及び対向電極102は、実質的に平面であり、実質的に平行である。したがって、トラップ領域は、RF電極101+、101-の対向する第1の表面と対向電極102の第2の表面との間の領域である。イオンは、x-y平面に平行なRFカーペットの平面に平行な平面において、高さ(z値)の狭い分布でトラップされることが好ましい。
【0037】
PCB設計では、アレイの電極は実質的に2次元であることが好ましいが、これは必須ではない。例えば、RF表面は、2つのエッチング及び/又は切断された金属電極の噛合歯から構築されてもよい。これらは、安定性のために非常に深くすることができ、重い基板なしで設けることができる。いくつかの実施形態では、厚い電極は、
図4B及び
図4Cにおけるように、イオンを絶縁表面から遠くに保つために、印刷されるのではなく、PCBに接着/ねじ留めされ得る(又は任意の他の手段を使用して取り付けられ得る)。
【0038】
図4Dは、
図4A、
図4B、及び
図4Cの実施形態のいずれかの代わりに使用することができ、後続の実施形態でも使用することができる、下部電極のアレイ104の代替構造の一例を示す。
図4Dの構造は、
図4A~
図4Cの実施形態と同様に動作することができる。電極104はそれぞれ三角柱の形状であり、トラップ領域の表面の下に延在する。電極104は、そのテーパ形状により、平面図では線状電極の1次元アレイのように見える。しかしながら、
図4Dの斜視図に見られるように、各電極はy方向に延在するが、z方向にも実質的な非0の空間範囲を有する。
図4Dに示されるように、各電極104は、
図4A、
図4B、及び
図4CのPCB基板103に取って代わるマトリックス112に埋め込まれてもよい。
【0039】
したがって、概略的には、本開示のアレイの電極は、トラップ領域の内面であり得る表面に沿って延在するものとして説明され得る。いくつかの実施形態では、これは、
図4A、
図4B、及び
図4Cのように、電極が平坦な表面上に配置されてもよく、電極自体が平坦な表面上に位置付けられ、実質的に1次元又は2次元であることを意味する。しかしながら、電極のアレイの電極は、
図4Dに示されるように、表面に沿って延在し(すなわち、電極は、トラップ領域の内面に沿って延在してもよい)、表面の下にも延在する3次元構造であってもよい。電極がそれに沿って延在する表面は、電極の機能面として説明されてもよく、この表面は、実質的に平坦かつ平面的であってもよく、装置の上面に提供される電極(複数可)と実質的に平行であってもよい。
【0040】
動作中、RF電極101+、101-及び対向電極102は、イオンをトラップするために協働する。制御回路150は、振動(例えば、RF)電圧のセットをRF電極101+、101-に印加して、イオンをアレイから反発させ、電極のアレイ内の各電極は、各隣接する電極に対して異なる位相を有してもよい。電極のアレイは、5mm未満、3mm未満、1mm未満、0.1mm未満、又は0.01mm未満の間隔(例えば、任意の2つの隣接する電極間の最短距離)を有してもよい。電極のアレイ内の各電極は、各隣接する電極に対して逆位相を有してもよい。例えば、各電極は、各隣接する電極と同一の周波数を有するが、180度の位相シフトを有してもよい。電極のアレイは、実質的に平面であってもよい。
【0041】
制御回路150はまた、トラップ電圧を対向電極102に印加して、イオンを電極101+、101-のアレイに向かわせる。トラップ電圧は、イオンがトラップ領域に入った後にのみ活性化又は印加されてもよい。電圧の組み合わされた作用は、装置のトラップ領域内にイオンをトラップする。例えば、RF電極101+、101-及び対向電極102は、従来の方法で動作することができ、電極の密に詰め込まれたアレイは、電極のアレイが広がる第1の表面にわたって擬ポテンシャル障壁を形成し、イオンは、第1の表面及び電極のアレイの反対側の第2の表面に取り付けられたDC電極によってこの擬ポテンシャル表面に対して固定され、イオンをトラップ領域にわたって広げる。トラップ電圧は、電極のアレイに印加される振動電圧の大きさ(例えば、絶対値又はRMSの大きさ)よりも小さい大きさを有し得るDC電圧であり得る。
【0042】
イオンを装置から除去することが望ましい場合、イオンの抽出をもたらすトラップ領域内の電位勾配を確立するために、抽出電圧が装置の1つ以上の電極に印加される。例えば、制御回路150は、トラップ領域からイオンを抽出するために、電極(RF電極101+、101-)のアレイ及び/又は1つ以上の更なる電極(例えば、対向電極102又は何らかの他の電極)のうちの少なくとも1つに抽出電圧を印加してもよい。例えば、プッシュ/プル構成(例えば、RFカーペットによるプッシュ及び抽出電極によるプル)を使用して、抽出電圧を2つ以上の電極に印加することができる。
【0043】
したがって、概略的には、電極のアレイ及び1つ以上の更なる電極のうちの少なくとも1つの電極など、装置の少なくとも1つの電極は、抽出電極であってもよく、制御回路は、抽出電極に抽出電圧を印加するように構成されてもよい。抽出電極は、装置の低圧領域のみに作用してもよい。抽出電極への抽出電圧の印加は、トラップ領域からイオンを放出し得る。好ましい実施形態では、抽出電極は、電極のアレイの反対側にあってもよく、抽出電極は、好ましくは、電極のアレイと実質的に平行である。抽出電極及びアレイは両方とも、実質的に平行な平面構造であってもよい。抽出電極は、イオンが通過することを可能にするための1つ以上の開口(例えば、任意の開口部又は穴)を備えてもよい。例えば、グリッド構造が提供されてもよい。したがって、抽出電極は、イオンが通過することを可能にするための複数の開口を備えるグリッド電極及び/又はセグメント化電極であってもよい。好ましくは、抽出電圧は、トラップ電圧の大きさよりも大きい大きさを有する。
【0044】
本開示の特定の態様は、イオンの遅延された抽出、及びトラップ電圧の漸進的な傾斜に関する。例えば、イオンは、前述のように、電極101+、101-、及び102の組み合わされた作用によって、トラップ領域内にトラップされてもよい。トラップ電圧がオンにされるときに、トラップ領域に入るイオンが電極101+、101-と衝突することを防止するために、トラップ電圧は徐々に増大され得る。例えば、トラップ電圧は、経時的に大きさが増加してもよく、これにより、イオンが下部電極101+、101-へと加速されることを防止することができる。すなわち、イオンは、トラップ領域に入った後、トラップ電圧がその最大値に達する前に熱的に冷却されてもよい。
【0045】
更に、抽出前に、z方向におけるイオンの広がりを低減するために、集束電圧がトラップ領域に印加されてもよい。例えば、電極101+、101-上のRF電圧は、遅延期間中にクエンチされてもよく、その遅延期間中に、集束電圧(単に、トラップ電圧と同じ電圧であってもよい)が、イオンを集束させるために、1つ以上の電極(例えば、電極101+、101-、102、及び/又は108のうちのいずれか1つ以上)に印加されてもよい。遅延期間は、0.1μs~2μs又は0.1μs~1μsの持続時間を有し得る。しかしながら、当該サンプルに応じて他の持続時間を使用することもできる。
【0046】
次に、イオンが集束された後、上部電極102に抽出電圧を印加することによって、イオンをトラップ領域から抽出することができる。例えば、振動電圧(例えば、RFカーペット101+、101-に印加される電圧)及びトラップ電圧(例えば、電極102)のセットの印加は、イオンが電極のアレイからある距離範囲に位置付けられるようなものであってもよい。次いで、集束電圧の印加は、イオンが位置付けられる電極のアレイからの距離範囲を減少させ得る。これは、イオン雲の特性を改善することができ、これは、トラップが質量分析器に結合されるときにm/zシフトを低減する際に有利であり得る。
【0047】
集束電圧を提供するために、小さな引力DCが電極101+、101-に印加され得ることに留意されたい。しかしながら、この電圧は、対向電極(例えば、電極102)に対して定義され得るため、同等の効果は、対向電極が反発DC電圧を有する(すなわち、対向電極から離れて電極のアレイに向かってイオンを反発させる集束電圧を引き起こす)ことである。したがって、DC電圧を電極のセット全体に印加して、イオンを電極のアレイ上に押し下げる集束電界を生成することができる。
【0048】
RF電極101+、101-は、PCB基板103上に印刷されてもよく、又は支持体に接着されるか、若しくは別様に搭載される固体電極を備えてもよい。電極構造はまた、言及することによって本明細書に組み込まれるDebatin et al,Physical Review A,2008,77,033422によって説明される平面多極イオントラップの様式で、2つの連動コームを備えてもよい。基板103の材料は、例えば、PCB、ガラス、セラミック、又はプラスチックを含むことができ、電極構造の第1の表面全体を覆う必要はない。基板103は、それに取り付けられた様々な構成要素をそれらの意図された位置に保持するのに十分なサイズであってもよい。
【0049】
RF電極101+、101-の幅及び分離は、低ミリ及びサブミリ規模の間隔から、潜在的に、リソグラフィ方法を介してエッチング除去されるミクロンレベル電極まで、大きく変動し得る。一般に、電極101+、101-が小さく、数が多いほど、擬ポテンシャルの減衰が強くなり、イオンが電極101+、101-により近くなる。これは、イオンがガス制限領域などの制限された空間を通って移動する場合に非常に有利である。抽出トラップの場合、強く減衰する擬ポテンシャルは、同様のm/zのイオンを互いに近づけ、イオンパケットをより良好に圧縮し、非常に強い時間焦点が達成されることを可能にする。フリップ側では、従来のミリ規模の約1MHzレベルではなく、非常に高いRF(例えば、10MHz以上)が必要とされ、電極へのそのような近接は、表面電荷、汚染、及び注入中の未熱化イオンの損失からの問題のリスクがある。したがって、任意の所与の用途のための最も適切な電極間隔は、様々な要因に依存し、本開示の態様は、任意の特定の規模に限定されない。
【0050】
イオンがトラップの側面を越えて逃げるのを防止するために、1つ以上の障壁電極104によってポテンシャル障壁が提供されてもよい。本明細書で説明されるイオンをトラップするための装置は、長手方向(すなわち、x方向)に延在する長手方向軸を有してもよく、複数の障壁電極104が長手方向に離間されてもよい。トラップ領域内のイオンの横方向(すなわち、RFカーペットの平面に垂直なz方向に垂直な方向)トラップを提供する任意の電極は、障壁電極とみなすことができる。例えば、少なくともイオンがトラップ中に占有するRF電極101+、101-の上方の高さ(すなわち、z方向)まで延在するDC又はRF障壁104が提供されてもよい。
図4A、
図4B、及び
図4Cは、PCBプリントDC電極、隆起RF電極(セグメント化されてもよいが、必ずしもセグメント化されなくてもよい)、及びRF電極上に重畳されたDCを介して提供される障壁電極104の例を示す。特に、
図4Aは、DC障壁電極104及びゲート電極105を備えるPCBプリント電極を示す。
図4Bは、基板103に取り付けられた固体障壁電極104を示しており、RF+、RF-で示される隆起領域がサイドガードとして設けられている。
図4Cは、DC+RFとして示される重畳されたDCを有するセグメント化サイドガード電極を有する隆起障壁電極104を示す。
【0051】
図4の障壁電極104の様々な組み合わせを提供することができる。例えば、
図4Aの障壁電極は、
図4B及び/又は
図4Cの障壁電極と組み合わせることができる。同様に、
図4Bの障壁電極は、
図4A及び/又は
図4Cの障壁電極と組み合わせることができる。様々なタイプの電極が、障壁電極として機能するようにトラップ領域の周囲に配置されてもよく、そのような障壁電極に印加される任意の電圧は、障壁電圧として説明されてもよい。
【0052】
図4A~
図4Cの障壁電極104の隆起電極は、抽出電界に干渉する可能性があるため、不必要に高く隆起させるべきではなく、そうでなければ抽出電界は、好ましい実施形態では非常に強く、線形である。PCBプリントDC電極の中には、ゲートとして機能し、イオンが上流イオン光学系からイオン入口を介してトラップ100に入ることを可能にする小型DC電極105も示されている。
【0053】
障壁電極は、トラップ領域の周囲に位置付けられた(RFカーペット又は電極のアレイとは異なる)1つ以上の更なる電極として一般的な意味で説明され得る。例えば、障壁電極は、電極のアレイと同じ基板上にあってもよいが、電極のアレイの縁部の周りに配置されてもよい。制御回路は、トラップ領域内にイオンをトラップするために、1つ以上の障壁電極に障壁電圧を印加するように構成されてもよい。したがって、障壁電極は、x-y平面において横方向トラップを提供することができる。1つ以上の障壁電極は、
図7に関連して更に詳細に説明されるように、上部プレート等の異なる基板上に提供されてもよいことに留意されたい。
【0054】
使用中、制御回路は、好ましくは、イオンが電極のアレイから第1の距離範囲に位置決めされるように、振動電圧のセットを電極のアレイに印加し、トラップ電圧をトラップ電極に印加する。この距離範囲は、好ましくは、実質的に平面のイオン雲に対するz値の狭い範囲である。好ましくは、障壁電圧は、電極のアレイから少なくとも第1の距離範囲まで延在する(例えば、イオンをトラップ領域内に横方向に閉じ込めるための)ポテンシャル障壁を画定し得る。例えば、ポテンシャル障壁は、好ましくは、イオンが失われないことを確実にするために、第1の距離範囲の少なくとも最高値(すなわち、z方向の最大高さ)まで延在すべきである。しかしながら、イオンのいくらかの損失が許容可能である場合、ポテンシャル障壁をより小さいz値まで延在させることは許容可能であり得る。
【0055】
障壁電圧は、多くの形態を取り得る。例えば、制御回路は、以下の:1つ以上の障壁電極のうちの少なくとも1つへのDC障壁電圧、1つ以上の障壁電極のうちの少なくとも1つへの無線周波数(RF)障壁電圧、及び/又は1つ以上の障壁電極のうちの少なくとも1つへのDC障壁電圧とRF障壁電圧との重畳、のうちの1つ以上を印加するように構成されてもよい。場合によっては、1つ以上の障壁電極は、複数の障壁電極を含んでもよい。制御回路は、隣接する障壁電極に逆位相を有する障壁電圧を印加するように構成されてもよい。これは、擬ポテンシャルを生成し得る。複数の障壁電極のうちの1つ以上は、電極のアレイの電極の端部に位置付けられてもよい。そのような配置は、イオンがトラップ領域内にトラップされ、RFカーペットの縁部を越えて移動することができないことを確実にすることができる。
【0056】
使用される障壁電極の性質にかかわらず、トラップ100の長さ及び幅は、分析器の受け入れに合わせることができる。例えば、大きなグリッド状リフレクトロンを有する通常のToF分析器は、おそらく10×10mmであっても、比較的大きな初期イオンパケットを受け入れることができるが、MR-ToF分析器は、例えば10×1mmなど、はるかに厳しい制限を有することがある。重要なのは、単に初期空間分布ではなく、全体的な位相空間の受け入れである。更に、RF電極101+、101-は長方形として示されているが、他の形状を使用することもできる。例えば、円形(又は任意の他の形状)のRFカーペットが代わりに使用されてもよい。対向電極102は、RFカーペットと同じ形状又は異なる形状で提供されてもよく、したがって、矩形若しくは円形、又は任意の他の形状であってもよい。
【0057】
図5は、Gilesによって米国特許出願公開第2019/0103263(A1)号に記載されたタイプのRFカーペットトラップへの適合である更なる実施形態を示す。
図5の実施形態では、RFカーペット電極101+、101-は、2つの別個の領域106A、106Bを通過し、これらの領域は、異なる圧力下にあり、ガスリストリクタ107によって分離されている。ガスリストリクタ107は、高圧領域から低圧領域へのガス流を制限するように構成されてもよく、イオンが通過することを可能にする開口を有してもよい。概略的には、電極のアレイは、例えば、トラップ領域の相対的に低圧の領域の1つ以上の縁部(例えば、最下面)に沿って、及びトラップ領域の相対的に高圧の領域の1つ以上の縁部(例えば、最下面)に沿って延在してもよく、これにより、イオンが電極のアレイに沿って移動する際にイオンを連続的にトラップすることが可能になり得る。例えば、アレイは、低圧及び高圧領域の下面(すなわち、抽出プレートに対向する第1の表面)に沿って延在することが好ましい。これは、アレイが低圧領域及び高圧領域の少なくとも一方の側の全体に沿って延びることを意味し得る。
【0058】
図5において、抽出電極として機能する対向電極102は、抽出領域106Bのみを覆い、トラップ領域の残り(すなわち、高圧領域106A)は、上部プレート上の別個の輸送電極108によって提供されるべきであることが好ましい(しかし必須ではない)。輸送電極108はまた、特定の時間にトラップ電圧を印加するため、トラップ電極として記載されることもある。上部プレート上のそのような別個の電極108は、抽出電極102から電気的に分離(すなわち、電気的に絶縁)されてもよく、イオンパケットが両方の領域106A、106Bにおいて並行して処理されることを可能にし、それによって、スループットを改善する。ガス封じ込め用の側壁は図示されていないが、従来の方法で設けることができる。したがって、一般的な意味では、トラップ領域は、相対的に低圧の領域と相対的に高圧の領域とを有することができ、抽出電極は、相対的に低圧の領域に沿って延在することができる(しかし、高圧の領域に沿って延在する必要はない)。場合によっては、トラップに沿ってイオンを輸送するための機構(例えば、進行波、又はRF電極に印加されるDC勾配)が提供される場合、抽出電極は、高圧領域に沿って延在してもよい。これにより、イオンを冷却するための(又は衝突若しくは断片セルとして機能するための)上流高圧領域を有する低圧抽出トラップを提供することができる。低圧抽出領域を設けることによって、分析器へのガス漏れを制限することができ、これにより試料の分析を向上させることができる。
【0059】
図6は、
図5に示されるトラップ100概念の断面図を示し、より詳細には、イオンの高スループット処理のために使用され得る、RFカーペットを組み込む二重圧力トラップ領域として装置がどのように使用され得るかを示す。
図6では、ガスリストリクタ107及び入口開口110(イオン入口とも呼ばれる)に適用され得る1つ以上の電極109などの追加の詳細が示されている。
【0060】
任意選択的に、RF電極列101+、101-の端部に、端部DCリペラ又は電荷収集面111が、分析器とは独立した任意選択的な電荷測定のために設けられてもよく、これは、トラップ領域におけるイオン集団の制御のために使用されてもよい。例えば、トラップ領域内の電荷の測定は、イオン入口のゲーティングを制御するために使用されることができる。概略的には、装置は、(例えば、分析器から独立して)電荷測定のために使用され得る電荷収集面などの電荷検出器を備え得る。そのような電荷検出器は、低圧領域又は高圧領域に設けられてもよく、あるいは1つ以上の検出器が両方の領域に設けられてもよい。本明細書に説明される制御回路は、イオン集団を測定し、イオンの入口を制御するために、そのような検出器からのデータを使用してもよい。
【0061】
既存のトラップに対するこの設計の利点は、一連のRF電極101+、101-が基板103にわたって邪魔されずに延びることができる一方で、ガスリストリクタ107は単に上部プレートから懸架され得るため、構造が単純であることである。電極101+、101-上のRFは比較的低いため、リストリクタ107は、電極101+、101-のアレイに十分に近接して(例えば、2mmなどの数mm以内であるが、他の距離を使用することもできる)位置付けて、効果的に機能させることができる。また、1つ以上のRF電極101+、101-は、リストリクタ107の領域において(例えばy方向に)比較的狭く、リストリクタが基板103に接触することを可能にすると共に、リストリクタ107内の狭くなったスロットを通してイオンを集束させることができる。
【0062】
したがって、概略的には、本開示は、第2の表面(例えば、装置の第2の表面であり得る上部プレート)を備えるイオンをトラップするための装置を提供することができ、第2の表面は、(第1の表面上に設けられた)電極のアレイに対向し、ガスリストリクタは、第2の表面から電極のアレイに向かって延在することができる。これにより、トラップ電極と電極のアレイとの間のトラップ領域を、異なる圧力で保持され得る2つの別個の領域に効果的に分割することができる。
【0063】
高圧領域は、好ましくは、妥当な時間内にイオンを冷却することができ、したがって、高圧領域の好ましい圧力は、>1×10-3mbar、理想的には>2×10-3mbarである。イオンを断片化する場合、高圧領域は、>5×10-3mbarであってもよい。いくつかの実施形態では、圧力上限は2×10-2mbarであってもよいが、特定の状況ではより高い圧力を使用することができる。
【0064】
低圧領域については、イオンを停止させるために、>5×10-4mbar程度が好ましく、イオンを迅速に停止させるために1×10-3mbarが好ましい。5×10-3mbarまでの圧力を使用することができるが、高圧では、イオン散乱が問題となり、性能を損なう可能性がある。例えば、相対的に低圧の領域は、0.5~2×10-2mbarの圧力を有してもよく、及び/又は相対的に高圧の領域は、0.5~2×10-3mbarの圧力を有してもよい。所望の用途に応じて、他の圧力も使用することができる。
【0065】
アレイの1つ以上の電極は、先端を切り取られてもよく、又はガスリストリクタの近くで比較的狭くてもよい。例えば、リストリクタに最も近い1つ、2つ、3つ、又はN個(Nは任意の数であり得る)の電極は、隣接する電極よりも狭くてもよい。電極のアレイによって画定されるチャネルは、リストリクタの近くで(例えば、装置の長手方向軸に垂直なy方向に)狭くなってもよく、したがって、ガスリストリクタは、広すぎる穴を有する必要はない。
【0066】
2つの領域106A、106Bは、典型的には、それぞれ0.5~2×10-2mbar及び0.5~2×10-3mbarの圧力であるが、他の圧力を使用することもできる。したがって、相対的に高圧の領域106Aは、相対的に低圧の領域106Bの圧力よりも(少なくとも)1桁高い圧力であってもよい。これは、高圧領域106Aに、7eVイオンを冷却するだけでなく、タンデム質量分析計内の単離されたイオンのための断片セルとしても機能するのに十分な圧力を与える。すなわち、二重圧力トラップは、タンデム質量分析計等の質量分析器を備える、質量分析システムに組み込むことができる。
【0067】
電圧(例えば、DC電圧)をリストリクタ107に印加して、イオンを高圧側106Aにトラップし、イオンを低圧側106Bに引き寄せ、又は一方若しくは他方の側の電界強度に一致し、イオンに対して効果的に不可視であるように設定することができる。すなわち、概略的には、制御回路は、ガスリストリクタに(例えば、リストリクタに取り付けられた電極に、又はリストリクタ自体に)電圧を印加して相対的に高圧の領域においてイオンをトラップし、及び/又は、相対的に低圧の領域にイオンを輸送し、及び/又は、相対的に高圧の領域及び/又は相対的に低圧の領域において電界強度を整合させるように構成されてもよい。したがって、ガスリストリクタは、イオンを装置の異なる領域間で輸送させる輸送電極として機能することができる。
【0068】
(例えば、領域106A、106B間でイオンを移動させるための)トラップ領域に沿ったイオン移動は、様々な方法で達成することができる。例えば、イオンは、前述のように、ガスリストリクタに印加される電圧を使用して移動されてもよい。加えて、イオンは、装置の1つ以上の他の電極に輸送電圧を印加することによって輸送されてもよい。例えば、DC勾配は、(参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6791078(B2)号に記載されているように)DCパルスの列として、又は(参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6894286(B2)号に記載されているように)RFとしてのいずれかで、上部プレートに取り付けられた又は印刷された電極108のセグメント化によって、又は重畳された進行波のRF電極シリーズ101+、101-への印加を介して、RF電極101+、101-に印加され得る。進行波は、輸送中のイオンによるエネルギーの取り込みを低減又は最小化するという利点を有し得、低圧抽出領域106Bにおいてイオンを停止及び冷却するための時間を必要とすることなく、(分析器が、例えば、偏向器を用いて対処可能であるはずのある程度の残留軸方向速度を伴うが)近熱化イオン雲の抽出を潜在的に可能にする。このようにして、最大1KHzの動作が可能である。したがって、RF電極101+、101-が、場合によっては、輸送電極として作用することができる一方、電極108などの様々な他の電極は、それに印加される輸送電圧を有することもでき、したがって、輸送電極として作用することもできる。これらの異なるアプローチの組み合わせもまた、イオン輸送を達成するために組み合わせられ得ることにも留意されたい。
【0069】
したがって、一般的な用語では、電極のアレイ及び1つ以上の更なる電極のうちの少なくとも1つは、輸送電極であってもよい。制御回路は、トラップ領域に沿ってイオンを輸送する(すなわち、イオンを移動させる)ために、輸送電極に輸送電圧を印加するように構成されてもよい。輸送電極は、この機能を実行する任意の電極であってもよく、輸送電極は、他の時に他の機能(例えば、イオンのトラップ又はイオンの集束)を実行してもよい。輸送電圧は、DC勾配に沿ってイオンを輸送するように構成されたDC勾配を有してもよい。輸送電圧は、DC電圧であってもよいし、DCオフセットを有するAC電圧であってもよい。輸送電圧はまた、イオンの輸送を引き起こす時間平均DC勾配を伴う、DCオフセットを有する時変電圧であってもよい。場合によっては、輸送電圧は、進行波の方向にイオンを輸送するように構成された進行波(例えば、RFカーペットに印加される)を含んでもよい。制御回路は、進行波電圧を振動電圧のセットに重畳するように構成されてもよい。これにより、重畳された進行波がイオンを放出することなくトラップ領域に沿って移動させながら、トラップを維持することができ、イオンの損失を低減することができる。いくつかの実施形態では、制御回路は、輸送電圧を電極のアレイ又は任意の他の電極に印加するように構成されてもよい。
【0070】
図4A~
図4C、
図5、及び
図6の実施形態は、本発明の有利な実装形態の特定の実施例を示すことが理解されよう。しかしながら、原理はより一般的に適用され得ることが理解されるであろう。例えば、本開示は、有利には、イオンをトラップするための装置であって、装置の(第1の)表面に沿って延在する電極のアレイと、電極のアレイとは異なる1つ以上の更なる電極と、イオンを受け取るためのトラップ領域であって、電極のアレイ及び1つ以上の更なる電極によって画定され、相対的に低圧の領域及び相対的に高圧の領域を有する、トラップ領域と、制御回路であって、電極のアレイ内の各電極が、各隣接する電極に対して異なる位相を有する、電極のアレイからイオンを反発させるように振動電圧のセットを電極のアレイに印加し、1つ以上の更なる電極のうちの少なくとも1つにトラップ電圧を印加して、イオンを強制的に電極のアレイに向かわせ、振動電圧のセット及びトラップ電圧は、それによってイオンをトラップ領域内にトラップする、ように構成された制御回路と、を備えるイオンをトラップするための装置を提供する。相対的に低圧の領域及び相対的に高圧の領域を有するトラップ領域を提供することによって、RFカーペット内のイオンの冷却の改善を達成することができる。更に、抽出領域が相対的に低圧に保持される場合、抽出領域からのガス漏れを低減することができる。
【0071】
下方に注入される中心軸がないため、装置に入るイオンは、トッププレート108DCからの電界によって励起され得る。これは、イオンがRF電極101+、101-内に加速されるいくらかのリスクを生成するため、この反発DCが、イオン注入の間、低く、例えば、約1Vに設定され、イオンが冷却するにつれて、例えば、2msにわたって10Vに上昇又は増大されることが有利であり得る。したがって、本開示の別の概略的な態様では、制御回路は、1つ以上の更なる電極のうちの少なくとも1つにトラップ電圧を印加して、イオンを電極のアレイに向かわせるように構成されてもよく、振動電圧のセット及びトラップ電圧は、それによってイオンをトラップ領域内にトラップし、トラップ電圧は、経時的に大きさが増加する時変DC電圧であってもよい。そのような時変トラップ電圧は、トラップ電界が印加される前にイオンを冷却することを可能にすることができる。したがって、トラップ電圧は、イオンがトラップ領域に注入されている間、比較的低い大きさを有することができ(すなわち、トラップ電圧は、弱いトラップ電界を印加させることができ)、イオンがトラップ領域に注入された後、大きさを増加させることができる。これにより、イオンを徐々にトラップすることができる。
【0072】
イオンがトラップ領域に注入される間のトラップ電圧の大きさは、5V未満、3V未満、2V未満、又は1.5V未満であってもよい。したがって、イオンがトラップ領域に入って冷却される間、電圧を低く保つことができる。トラップ電圧の大きさは、少なくとも1×103Vs-1、少なくとも2×103Vs-1、又は少なくとも5×103Vs-1の速度で増加し得る。トラップ電圧の大きさは、経時的に連続的に増加してもよく、トラップ電圧の大きさは、経時的に線形に増加してもよい。大きさの不連続な(例えば、階段状の)増加も提供され得る。
【0073】
トラップ電圧は、最大電圧に達するまで、経時的に大きさが増加し得る。例えば、トラップ電圧の大きさは、最大電圧に達した後に一定であってもよい。したがって、イオンは徐々にトラップされ、次いで、特定の電圧に達すると閉じ込められ得る。最大電圧は、少なくとも5V、少なくとも10V、又は少なくとも20Vであってもよい。したがって、トラップ電圧は、少なくとも1ms、少なくとも2ms、又は少なくとも3ms後に最大電圧に到達し得る。最大電圧及び最大電圧に達する時間は、トラップされるイオンの性質及び/又は数に依存し得る。トラップ領域内のイオンの数に関する情報は、トラップ電圧を制御するために使用され得る。そのような情報は、トラップ領域内のセンサによって提供され得る。遅延期間の上限は20msであり得るが、任意の長さの遅延を使用することができる。
【0074】
次に
図7を参照すると、二重圧力トラップ用の上部プレートの特定の実施例が示されている。ここで、プレートは、プレートの穴に接着された抽出電極102を有するPCBである。RFカーペット101+、101-の側部をイオンの漏れから保護するために、グリッド電圧が印加されているか、又は別個の電圧が印加されているグリッド付き抽出電極102を取り囲むDC電極104の形態の障壁電極104が設けられている。プレート内の位置は、ガスリストリクタ107又は開口を取り付けるように示されている。
【0075】
図7はまた、高圧領域106Aの上のDC電極108が、くさび形部分108A、108B、及び108Cに横方向に分割されることを示す。外側電極部分108A、108Cにわずかに高いDCを印加することによって、イオンを中心に向かって流し込むことができ、ガスリストリクタ107がより狭いスロットを有することを可能にする。図示の実施形態では、これらの電極108A、108B及び108Cの長手方向セグメント化はなく、したがって、この場合、RF電極101+、101-は、トラップ100を横切ってイオンを推進する(すなわち、イオンをx方向に案内する)ために印加された電圧を有することができる。しかしながら、その代わりに、電極108の部分108A、108B、108Cのうちの任意の1つ以上は、x方向に沿ったイオン移動を提供するように、長手方向に(例えば、x方向に)セグメント化されてもよい。
【0076】
くさび形部分108A、108B、及び108Cは、トラップ領域に沿ってイオンを輸送するように構成することができるため、電極108は、概略的には輸送電極として説明することができる。同様に、くさび形部分108A、108B、及び108Cは、輸送電極部分として説明され得る。更に、電極108のくさび形部分108A、108B、及び108Cはイオンを流し込むように作用するため、電極108及びくさび形部分108A、108B及び108Cは、本明細書では漏斗電極及び漏斗電極部分としても説明される。漏斗電極108は、イオンがトラップ領域に沿って移動する際にイオンを流し込むことができる。これは、y方向におけるイオンの分離が、輸送電圧(漏斗電圧としても説明される)によって生成される電界に起因して低減されることを意味し得る。そのような電圧の印加は、y方向(すなわち、イオンの一般的な移動方向に垂直であり、カーペットトラップのz方向に垂直である)におけるイオンの広がりを低減する。これは、イオンがトラップ領域に沿って移動するときにイオンの横方向の分離を低減することによって、イオンをより密に閉じ込めることによってイオンの取り扱いを改善する。更に、二重圧力トラップ領域において、漏斗電圧を印加することは、イオン雲の低減された横方向範囲に起因して、より狭い開口が異なる圧力の領域間で使用されることを可能にする。これにより、より大きな圧力差を確立することが可能になる。
【0077】
前述したように、くさび形部分108A、108B、及び108Cは、実質的に三角形であってもよい。くさび形部分108A、108B、及び108Cの形状及びそれらに印加される電圧は、イオンに対して漏斗効果又はテーパ効果を提供することができる。一般的な意味で、装置は、イオンがトラップ領域に入ることを可能にするためのイオン入口を備えてもよく、漏斗電極は、第1の部分及び第2の部分を備えてもよく、漏斗電極の第1の部分は、イオン入口から離れるようにテーパ状である(すなわち、イオン入口の近くで最も広い)。同様に、第1の部分は、ガスリストリクタに向かってテーパ状であると説明することができる。第2の部分は、入口に向かってテーパ状になっている(又は同等に、入口の近くで最も狭い)1つ以上の更なるテーパ(例えば、くさび形)部分を備えてもよい。第2の部分は、好ましくは、2つのくさび形部分を備え、それにより、漏斗電極は、イオン入口から離れるようにテーパ状にされた第1の部分と、両方ともイオン入口に向かってテーパ状にされた第2の部分及び第3の部分とを備える。漏斗電極の第1及び第2の(及び任意選択で第3の)部分は、好ましくは(実質的に)同一平面上にある。例えば、漏斗電極の部分は、長方形の漏斗電極の部分を集合的に構成してもよい。漏斗作用を達成するために、制御回路は、漏斗電極の第1の部分よりも高い電圧を漏斗電極の第2の部分に印加するように構成されてもよい。漏斗効果はまた、適切なタイミング回路及びセグメント化漏斗電極を用いて提供され得る。
【0078】
先に使用された一般的な用語では、本明細書で説明される装置は、第2の表面(例えば、上部プレート)を備えてもよく、第2の表面は、電極のアレイに対向し、第2の表面は、抽出電極、輸送電極、及び/又は漏斗電極のうちの1つ以上を備えてもよい。前述のように、電極は、印加される電圧に応じて、異なる時間に異なる機能を実行することができ、したがって、漏斗電極は、輸送電極としても作用してもよく、又は別個の漏斗電極及び輸送電極が提供されてもよい。いずれにしても、本明細書で説明される抽出電極は、好ましくは、トラップ領域の相対的に低圧の領域に役立ち、低圧領域に隣接し、高圧領域から離れて位置付けられてもよい。漏斗電極は相対的に高圧の領域に役立つことが好ましいが、漏斗電極は低圧領域又は単一圧力装置においても使用することができる。輸送電極及びRFカーペット電極は、好ましくは、装置全体に沿ってイオンを移動させるために全ての領域(例えば、低圧領域及び高圧領域)に役立つ。好ましい実施形態は、イオンがトラップ領域に入ることを可能にするためのイオン入口を含み、制御回路は、1つ以上の更なる電極(すなわち、RFカーペットではない)のうちの少なくとも1つに電圧を印加して、イオンがイオン入口を通ってトラップ領域に入ることを可能にし、及び/又はイオンがイオン入口を通ってトラップ領域に入ることを防止するように構成され得る。
【0079】
図8は、本開示の一実施形態による、例示的な機器を示す。米国特許第10699888(B2)号に記載されているタイプのハイブリッド質量分析計が、四重極質量フィルター、軌道トラップ質量分析器、及び米国特許第9136101(B2)号においてGrinfeldによって詳細に記載されている多重反射飛行時間型質量分析器と組み合わせて示されている。RFカーペット抽出トラップは、MR-ToF分析器に供給する既存の抽出トラップの代わりになる。一般的な意味で、
図8の機器は、本明細書に記載の実施形態のいずれかによるイオンをトラップするための装置と、イオンをトラップするための装置からイオンを受け取るように構成された質量分析器とを備える質量分析システムとして説明することができる。好ましくは、質量分析器は飛行時間型質量分析器(例えば、MR-ToF分析器)である。
【0080】
シミュレーション結果
シミュレーションは、MASIM3Dプログラムにおいて、0.2mmだけ分離された0.4mm幅のRF電極(2Dアレイ)を有し、1.8mm幅のDC障壁電極によって端部がガードされた抽出トラップに対して構築された。トラップは、電極のRFアレイから上部グリッド電極(トラップ電極)まで4mmの距離で、中心から10mm延びるように選択された。軸対称を使用して、2Dモデルから円形トラップを作成し、中心で生成され、1×10
-2mbarの背景ガス中で冷却されたm/z200イオンの束の軌道を有するこのトラップの画像を
図9に示す。3MHz、50VのRFを、グリッド(トラップ)電極に+10V、外側障壁電極に+5Vと共に印加した。
【0081】
図10は、電極のアレイによる重畳されたRF擬ポテンシャル及びトラップ電極からの反発DCによって生成されたポテンシャルウェル(m/z200イオンについて)のプロットを示す。RF電極(+2mm)と上部グリッド(-2mm)との間のポテンシャルウェル(DC+RF擬ポテンシャル)が示され、イオンが沈降する領域がマークされている。このウェル構造は、このスタイルのイオントラップ又はガイドに特徴的であり、米国特許第6683301(B2)号に示されるものと同様である。
【0082】
図11は、m/z200及び2000のイオンが経時的にポテンシャルウェル内に冷却されるときのイオンの軌道を示す。イオン位置の広がりは小さく、約0.2mmであり、m/z2000は、擬ポテンシャル強度とグリッド+10Vからの対向電位との間のバランスの差の結果として、m/z200とは非常に異なる平均位置に位置することが観察され得る。したがって、m/z200及び2000に対する冷却イオン軌道から、異なる平均高さ位置が得られることが分かる。
【0083】
図12は、抽出グリッド上の-2KVに相当する500V/mm電界による抽出直後の、m/z200イオンの0.1mm(1シグマ)厚平面の第1の時間焦点におけるシミュレートされたイオン時間拡散を示す。時間拡散半値全幅はほぼ正確に1nsであり、これは飛行時間用途に適していることが分かる。高電界は、より強い抽出電圧を用いて、又はRF電極に印加される反対極性の電圧を用いて容易に印加することができる。イオン開始点がm/z200平面からm/z2000平面にシフトされたとき、同じ平面位置でのFWHMは1.5ns拡大し、これはほとんどのシステムで分解能を大幅に損なうことになる。
【0084】
図13は、本開示のグリッド電極によって提供される低反発電界の下でのみ移動するように、抽出パルスがRFクエンチ後に遅延される、本開示の一態様を実証する。これは、イオンを集束させ、z方向におけるイオンの平均位置の広がりを低減する効果を有する。10Vの印加DCの下で200~2000質量範囲に対して約0.5μsである高質量の位置に最低質量が一致するときに最適条件が生じ、位置偏差を0.23から0.07mmに縮小することが観察され得る。遅延期間中にDC電界を変化させること、又は抽出前に追加の遅延及び工程を追加することも有利であり得る。電子的に最も単純な0点を使用する代わりにRFクエンチの位相を制御することはまた、米国特許第10734210(B2)号に説明されるように、イオン位相空間の操作のための用途を有し得る。
【0085】
前述の図は、イオンの遅延抽出が有利であり得ることを示す。先に述べたように、既知のRFカーペットの欠点は、トラップされたイオン面が、擬ポテンシャルがDCからの反力と釣り合うのに十分強い点に位置するため、異なるm/zのイオンがRF表面から異なる距離に沈降することである。飛行時間型分析器では、m/zシフトが導入され得るため、このことが問題になる。本開示の特定の実施形態は、これらのシミュレーション結果によって実証されるように、この問題に対処する。したがって、概略的な態様では、イオンをトラップするための装置が提供され、制御回路は、遅延期間中に電極のアレイへの振動電圧のセットの印加を停止し(すなわち、オフにする、又は少なくともその元の値の無視できる割合、例えば10%未満又は1%未満に低減する)、遅延期間の間に、1つ以上の更なる電極のうちの少なくとも1つに集束電圧を印加して、イオンを電極のアレイに向かわせ、遅延期間の後に、電極のアレイ及び/又は1つ以上の更なる電極のうちの少なくとも1つに抽出電圧を印加して、トラップ領域からイオンを抽出する、ように構成される。遅延期間の満了後に抽出電圧を印加することは、イオンが空間位置の狭い範囲内に集束されることを確実にすることができ、これは、より一貫したトラップ位置を与えることができ、それによって、ToF分析器に結合されるときに既知のRFカーペットによって導入されるm/zシフトを低減することができる。振動電圧のセットの印加の停止は、イオンがトラップ領域内にトラップされた後に行われてもよい。
【0086】
引き続き先に使用された概略的な用語を使用すると、本開示の制御回路は、集束電圧及びトラップ電圧を1つ以上の更なる電極のうちの同じ少なくとも1つの電極(例えば、上部電極102及び/又は108)に印加するように構成され得る。例えば、集束電圧はトラップ電圧であってもよい。すなわち、遅延期間中、トラップ電圧は印加され続けてもよく、トラップ電圧の連続印加は、トラップ領域内のイオンに対する集束効果を有し得る。したがって、イオンは、遅延期間中のトラップ電圧の印加に起因して集束され得(すなわち、より狭い範囲の高さ(z値)を占有し)、したがって、トラップ電圧は、振動電圧のセットが電極のアレイに印加されなくなった後、集束電圧として作用し得る。集束電圧及び/又はトラップ電圧が印加される電極は、イオンをトラップするための装置の上面(本明細書では第2の表面としても説明される)上にあってもよく、すなわち、電極は、電極のアレイ(RFカーペット)に対向してもよい。
【0087】
いくつかの実施形態では、集束電圧は、振動電圧のセットの大きさ(例えば、ピーク大きさ、又はRMS大きさ)より小さい大きさを有してもよい。例えば、集束電圧は、少なくとも5V、少なくとも10V、又は少なくとも20Vの大きさを有してもよい。集束電圧は、好ましくはDC電圧である。集束電圧は、遅延期間の少なくとも一部にわたって大きさが増加してもよく、これは、より短い遅延期間を可能にしてもよく、これは、イオン分散を低減させるのに役立ち得る。
【0088】
集束電圧は、必ずしもトラップ電圧と同じである必要はない。例えば、トラップ電圧はまた、振動電圧のセットが印加されなくなるときに停止されてもよく、異なる集束電圧が遅延期間中に印加されてもよい。集束電圧の正確な性質は、トラップされる特定のサンプルに依存して変化し得る。いくつかの実施形態では、集束電圧の大きさは、遅延期間中に傾斜又はパルス化されてもよい。集束電圧は、遅延期間中の複数のそれぞれの時間間隔(例えば、遅延期間のサブ間隔)中に複数の異なる大きさを有してもよい。集束電圧は、遅延期間中のいくつかの時間間隔において一定(例えば、一定の大きさを有する)であってもよく(例えば、遅延期間の全てにわたって一定、又は遅延期間の特定のサブ間隔において一定)、遅延期間中の他の時間間隔において線形又は非線形に変化してもよい。したがって、イオンが位置付けられる距離(z方向の高さ)範囲は、抽出前に微調整することができる。これは、イオン雲の形状を最適化して、イオン雲が後続の分析(例えば、質量分析器による)に好適であることを確実にするために使用されることができる。
【0089】
したがって、本開示の態様及び実施形態を使用して多数の利点を達成できることが分かる。例えば、遅延抽出は、焦点面を整合させるために、異なるm/zのイオンを事前集束するように使用されることができる。更に、イオン注入後のトラップ電圧の漸進的な緩やかな増大又は傾斜を用いて、イオンによるエネルギーの取り込みを制限し、それらをRFカーペット上に圧縮することができる。これにより、RFカーペットとの衝突によるイオン損失のリスクを低減することができる。更に、上部プレート上のDC電極を介したRFカーペットの平面の周りのトラップは、イオンの改善された操作を提供することができる。ガスリストリクタを有するPCBトッププレート上に構築され得る二重圧力RFカーペット抽出トラップの提供もまた、イオンの改善された処理に寄与する。二重圧力トラップは、既知の多重極ベースのシステムよりも製造及び動作が簡単であり、非常に狭い開口を有する圧力領域106A、106Bにわたるイオンの低エネルギー移動を容易にする。
【0090】
上述したトラップ概念は、例えば同等のトラップシステムのようにHVパルスをRF電極(電極101+、101-など)に重畳する必要がないため、非常に機械的に単純であり、既存のシステムよりも電子的に複雑でないことから恩恵を得る。機能的に、本明細書で説明されるシステムは、飛行時間型質量分析器における空間電荷性能に最適である、より平面的なイオン雲を提供することができる。電圧勾配を提供するために、例えば、セグメント化印刷電極を有するPCB板及びレジスタチェーンを使用することは、上述の態様及び実施形態を実装するための単純な手段を提供する。
【0091】
本開示では、例えば、RFカーペット(RF振動電圧が印加され得る電極のアレイ)に言及するときに、RF電圧が広範に説明されている。RFは、20kHzから300GHzまでを意味し得ることが理解されるであろう。
【0092】
更に、本明細書では電圧について詳細に説明するが、全ての電圧は接地(又は他の何らかの適切な基準点)に対するものであることが理解されよう。したがって、高電圧は、他の要素と基準点との間の電位差と比較したときに、基準点に対する比較的高い電位差を意味するものとして解釈されるべきである。
【0093】
前述の利点を保持しながら、多くの変形が、上記の装置、システム及び方法に対して行われ得ることが理解されよう。例えば、特定の構成要素について説明してきたが、同じ又は同様の機能を提供する代替の構成要素を提供することができる。
【0094】
実施形態は、1つ以上の基板上に提供されるものとして説明されてきた。例えば、本明細書で説明される電極(例えば、電極のアレイ及び他の電極)は、1つ以上の基板上にあってもよい。そのような基板は、プリント回路基板(PCB)であってもよく、又は電極を機械的に支持するための他の構造が使用されてもよい。PCBは、特に費用効果が高く、製造が容易な基板を提供する。しかしながら、本明細書で説明されるトラップ構造は、図示されるように基板103上に構築される必要はなく、電極は、スペーサを介して分離される電極を伴う端子ロッド上などの他の場所に支持されてもよい。
【0095】
本明細書に記載の対向電極102は、グリッドを組み込んだ金属プレート若しくはPCBによって完全にグリッド化されて提供されてもよく、又はより狭いサイズのためにグリッドレス開口でさえあってもよい。側方集束が、抽出中にそのような開口を通してイオンを絞るのを助けるために組み込まれてもよい。RF電極101+、101-は、PCB上に印刷されてもよいし、固体機械加工された電極であってもよいし、MEMS及びリソグラフィ法によって作製された非常に小さな電極であってもよい。
【0096】
抽出トラップは、線形、単反射及び多重反射、並びにセクタベースのToF分析器と互換性があり得る。任意の質量分析器を、本明細書に記載されるデバイスに結合することができる。本明細書に記載のトラップはまた、軌道トラップ質量分析器などのフーリエ変換分析器と組み合わされてもよい。トラップは、MALDI又は脱離ベースのイオン源と実行可能に組み合わせられ得る。
【0097】
本明細書で説明される二重圧力トラップは、抽出グリッド102及び入口開口110を除いて完全に封入されてもよく、又は別個にポンピングされてもよい。主冷却セルは、衝突領域として動作することができる。
【0098】
本明細書で説明される遅延抽出方法は、追加の段階又は電圧パルスを含んでもよい。
【0099】
抽出パルスの立ち上がり時間は、異なるイオン開始位置によって誘発される質量依存エネルギー変動を補正するように制御されてもよい(遅い立ち上がり時間は、低いm/zイオンを、高いm/zに対してより低いエネルギーで出現させる)。これは更に、遅延抽出と併せて質量非依存性挙動を促進するのに役立ち得る。
【0100】
いくつかの実施形態では、反発パルスが、イオンを放出するために(数百から数千ボルトで)電極のアレイに印加されてもよい。これは、複雑な電子機器を必要とし得るため、好ましい実施形態は、抽出グリッドを使用する。しかしながら、イオンを放出するためにアレイを使用する利点は、反対の極性の抽出電圧を抽出電極及びアレイの両方に印加し、それによって電界強度を2倍にすることが可能なことである。
【0101】
更に、いくつかの態様及び実施形態では、振動(AC)電圧(おそらくカーペットに向かうDCバイアスを有する)を抽出グリッド(トラップ電極としても知られる)に印加して、イオンをアレイに対してトラップすることができる。したがって、AC対向電極(又は対向電極セット)が設けられてもよい。2つの異なるAC擬ポテンシャルは、軸方向ウェルアーチファクトを生成することなく、イオン位置を平衡させ得る。いくつかの実施形態では、電圧のACセットは、RF表面と同様に、DC電極上に重畳されてもよく、これは、イオンがDC電極に接近する場合、付加的反発力を生成するために使用されてもよい。
【0102】
本明細書に開示される各特徴は、別段の指定のない限り、同一、同等、又は類似の目的を果たす代替的な特徴によって置き換えられ得る。したがって、別段の指定のない限り、開示される各特徴は、一般的な一連の同等又は類似の特徴の単なる一例である。
【0103】
特許請求の範囲内を含む、本明細書において使用される場合、文脈が別様に示さない限り、本明細書における用語の単数形は、複数形を含むものとして解釈され、文脈により可能な場合、その逆も同様である。例えば、文脈が別様に示さない限り、(例えば、電極検出器(an electrode detector)又は電圧(a voltage)などの)「a」又は「an」などの、特許請求の範囲を含む本明細書における単数形の言及は、「1つ以上」を意味する(例えば、1つ以上の電極又は1つ以上の電圧)。本開示の説明及び特許請求の範囲を通じて、語「備える(comprise)」、「含む」(including)、「有する(having)」、及び「包含する(contain)」、並びに語の変形、例えば「備えている(comprising)」及び「備える(comprises)」又は同様のものは、説明されている特性が、追随する追加の特性を含み、他の構成要素の存在を排除するとは意図されない(及び排除しない)ことを意味する。
【0104】
本明細書において提供されるありとあらゆる例、又は例示的な文言(「例えば(for instance)」、「~など(such as)」、「例えば(for example)」、及び同様の文言)の使用は、単に、発明をより良く例示することを意図され、特に特許請求されない限り、本開示の範囲への限定を示すものではない。本明細書におけるいずれの文言も、本開示の実施に不可欠なものとして主張されていないいかなる要素も示すものとして解釈されるべきではない。
【0105】
本明細書に記載された任意のステップは、異なるように記載されていない限り、又は文脈により別の意味が必要とされない限り、任意の順序で、又は同時に実行され得る。更に、あるステップがあるステップの後に実行されると説明されている場合、これは、介在ステップが実行されていることを排除するものではない。
【0106】
本明細書で開示される態様及び/又は特徴の全ては、そのような特徴及び/又はステップの少なくともいくつかが相互に排他的である組み合わせを除いて、任意の組み合わせで組み合わせることができる。特に、本開示の好ましい特徴は、本開示の全ての態様及び実施形態に適用可能であり、任意の組み合わせで使用され得る。同様に、必須ではない組み合わせで記載された特徴は、(組み合わせではなく)別々に使用され得る。
【0107】
更に、態様及び実施形態は、主に物理的装置を参照して説明されているが、本開示は、そのような装置を製造及び使用する方法も提供する。例えば、本明細書に記載される装置のいずれかを製造する方法が提供され、本明細書に記載される装置を使用する方法も提供される。
【0108】
項目:
1.イオンをトラップするための装置であって、
装置の表面に沿って延在する電極のアレイと、
電極のアレイとは異なる1つ以上の更なる電極と、
電極のアレイ及び1つ以上の更なる電極によって画定される、イオンを受け取るためのトラップ領域と、
制御回路であって、
電極のアレイ内の各電極が、各隣接する電極に対して異なる位相を有する、電極のアレイからイオンを反発させるように振動電圧のセットを電極のアレイに印加し、
1つ以上の更なる電極のうちの少なくとも1つにトラップ電圧を印加して、イオンを強制的に電極のアレイに向かわせ、振動電圧のセット及びトラップ電圧は、それによってイオンをトラップ領域内にトラップし、
遅延期間中、電極のアレイへの振動電圧のセットの印加を停止し、
遅延期間中、1つ以上の更なる電極のうちの少なくとも1つに集束電圧を印加して、イオンを強制的に電極のアレイに向かわせ、
遅延期間後、電極のアレイ及び/又は1つ以上の更なる電極のうちの少なくとも1つに抽出電圧を印加して、トラップ領域からイオンを抽出する、ように構成された制御回路と、を備えるイオンをトラップするための装置。
2.制御回路は、集束電圧及びトラップ電圧を1つ以上の更なる電極のうちの同じ少なくとも1つの電極に印加するように構成されている、項1に記載の装置。
3.集束電圧は、トラップ電圧である、項1又は項2に記載の装置。
4.集束電圧は、振動電圧のセットの大きさよりも小さい大きさを有する、先行する項のいずれか一項に記載の装置。
5.集束電圧は、少なくとも5V、少なくとも10V、又は少なくとも20Vの大きさを有する、先行する項のいずれか一項に記載の装置。
6.集束電圧は、直流(DC)電圧である、先行する項のいずれか一項に記載の装置。
7.遅延期間は、
0.1μs~2μs、又は
0.1μs~1μsの持続時間を有する、先行する項のいずれか一項に記載の装置。
8.制御回路は、
イオンが電極のアレイから第1の距離範囲に位置付けられるように振動電圧のセット及びトラップ電圧を印加し、
イオンが位置付けられる電極のアレイからの第1の距離範囲を減少させるように集束電圧を印加する、ように構成されている、先行する項のいずれか一項に記載の装置。
9.集束電圧の大きさは、遅延期間中に傾斜又はパルス化される、先行する項のいずれか一項に記載の装置。
10.集束電圧は、遅延期間中の複数のそれぞれの時間間隔中に複数の異なる大きさを有する、先行する項のいずれか一項に記載の装置。
11.集束電圧の大きさは、遅延期間中一定である、先行する項のいずれか一項に記載の装置。
12.イオンをトラップするための装置であって、
装置の表面に沿って延在する電極のアレイと、
電極のアレイとは異なる1つ以上の更なる電極と、
電極のアレイ及び1つ以上の更なる電極によって画定される、イオンを受け取るためのトラップ領域と、
制御回路であって、
電極のアレイ内の各電極が、各隣接する電極に対して異なる位相を有する、電極のアレイからイオンを反発させるように振動電圧のセットを電極のアレイに印加し、
1つ以上の更なる電極のうちの少なくとも1つにトラップ電圧を印加して、イオンを強制的に電極のアレイに向かわせ、振動電圧のセット及びトラップ電圧は、それによってイオンをトラップ領域内にトラップする、ように構成され、トラップ電圧は、経時的に大きさが増加する時変直流(DC)電圧である、制御回路と、を備えるイオンをトラップするための装置。
13.トラップ電圧は、イオンがトラップ領域に注入される間は比較的低い大きさを有し、イオンがトラップ領域に注入された後、大きさが増加する、項12に記載の装置。
14.イオンがトラップ領域に注入される間のトラップ電圧の大きさは、5V未満、3V未満、2V未満、又は1.5V未満である、項12又は項13に記載の装置。
15.トラップ電圧は、最大電圧に達するまで経時的に大きさが増加する、項12~14のいずれか一項に記載の装置。
16.トラップ電圧の大きさは、最大電圧に到達した後に一定である、項15に記載の装置。
17.トラップ電圧の大きさは、少なくとも5V、少なくとも10V、又は少なくとも20Vの最大電圧まで増加する、項12~16のいずれか一項に記載の装置。
18.トラップ電圧は、少なくとも1ms、少なくとも2ms、又は少なくとも3ms後に最大電圧に達する、項12~17のいずれか一項に記載の装置。
19.トラップ電圧の大きさは、経時的に連続的に増加する、項12~18のいずれか一項に記載の装置。
20.トラップ電圧の大きさは、経時的に線形に増加する、項12~19のいずれか一項に記載の装置。
21.トラップ電圧の大きさは、少なくとも1×103Vs-1、少なくとも2×103Vs-1、又は少なくとも5×103Vs-1の速度で増加する、項12~20のいずれか一項に記載の装置。
22.イオンをトラップするための装置であって、
装置の表面に沿って延在する電極のアレイと、
電極のアレイとは異なる1つ以上の更なる電極と、
イオンを受け取るためのトラップ領域であって、電極のアレイ及び1つ以上の更なる電極によって画定され、相対的に低圧の領域及び相対的に高圧の領域を有するトラップ領域と、
制御回路であって、
電極のアレイ内の各電極が、各隣接する電極に対して異なる位相を有する、電極のアレイからイオンを反発させるように振動電圧のセットを電極のアレイに印加し、
1つ以上の更なる電極のうちの少なくとも1つにトラップ電圧を印加して、イオンを強制的に電極のアレイに向かわせ、振動電圧のセット及びトラップ電圧は、それによってイオンをトラップ領域内にトラップする、ように構成された制御回路と、を備えるイオンをトラップするための装置。
23.電極のアレイは、トラップ領域の相対的に低圧の領域に沿って、かつトラップ領域の相対的に高圧の領域に沿って延在する、項22に記載の装置。
24.相対的に低圧の領域と相対的に高圧の領域との間にガスリストリクタを更に備える、項22又は項23に記載の装置。
25.制御回路は、ガスリストリクタに電圧を印加して、
相対的に高圧の領域内のイオンをトラップし、
イオンを相対的に低圧の領域に輸送し、及び/又は
相対的に高圧の領域及び/又は相対的に低圧の領域における電界強度を整合させる、ように構成されている、項24に記載の装置。
26.ガスリストリクタに印加される電圧は、DC電圧である、項24又は項25に記載の装置。
27.電極のアレイに対向する第2の表面を更に備え、ガスリストリクタは、第2の表面から電極のアレイに向かって延在する、項24~26のいずれか一項に記載の装置。
28.ガスリストリクタの近くの電極のアレイの少なくとも1つの電極は、電極のアレイの複数の他の電極よりも狭い、項24~27のいずれか一項に記載の装置。
29.
相対的に高圧の領域は、0.1~2×10-2mbarの圧力を有する、及び/又は
相対的に低圧の領域は、0.5~5×10-3mbarの圧力を有する、項22~28のいずれか一項に記載の装置。
30.電極のアレイ及び1つ以上の更なる電極のうちの少なくとも1つは、輸送電極であり、制御回路は、トラップ領域に沿ってイオンを輸送するために、輸送電圧を輸送電極に印加するように構成されている、先行する項のいずれか一項に記載の装置。
31.トラップ領域は、相対的に低圧の領域及び相対的に高圧の領域を有し、制御回路は、トラップ領域の相対的に高圧の領域とトラップ領域の相対的に低圧の領域との間でイオンを輸送するために輸送電圧を印加するように構成されている、項31に記載の装置。
32.輸送電圧は、DC勾配に沿ってイオンを輸送するように構成されたDC勾配を有する、項30又は項31に記載の装置。
33.輸送電圧は、DC電圧である、項30~32のいずれか一項に記載の装置。
34.輸送電圧は、進行波の方向にイオンを輸送するように構成された進行波を含む、項30~32のいずれか一項に記載の装置。
35.制御回路は、進行波電圧を電極のアレイに印加される振動電圧のセットに重畳するように構成されている、項34に記載の装置。
36.制御回路は、輸送電圧を電極のアレイに印加するように構成されている、項30~35のいずれか一項に記載の装置。
37.輸送電極は、複数の輸送電極セグメントを備え、制御回路は、複数の輸送電極セグメントにわたって電圧勾配を印加するように構成されている、項30~36のいずれか一項に記載の装置。
38.1つ以上の更なる電極は輸送電極を含み、輸送電極は漏斗電極であり、制御回路は、輸送電圧を漏斗電極に印加するように構成されている、項30~37のいずれか一項に記載の装置。
39.制御回路は、イオンがトラップ領域に沿って移動するときにイオンを流し込むために輸送電圧を漏斗電極に印加するように構成されている、項38に記載の装置。
40.制御回路は、イオンがトラップ領域に沿って移動する際にイオンの横方向分離を低減するために輸送電圧を印加するように構成されている、項39に記載の装置。
41.イオンがトラップ領域に入ることを可能にするためのイオン入口を更に備え、漏斗電極は、第1の部分及び第2の部分を備え、漏斗電極の第1の部分は、イオン入口から離れてテーパ状である、項39又は項40に記載の装置。
42.漏斗電極の第1及び第2の部分は、実質的に同一平面上にある、項41に記載の装置。
43.制御回路は、漏斗電極の第1の部分よりも高い電圧を漏斗電極の第2の部分に印加するように構成されている、項41又は項42に記載の装置。
44.制御回路は、イオンがトラップ領域に入った後に、トラップ電圧を1つ以上の更なる電極に印加するように構成されている、先行する項のいずれか一項に記載の装置。
45.トラップ電圧は、電極のアレイに印加される振動電圧のセットの大きさよりも小さい大きさを有する、項44に記載の装置。
46.トラップ電圧はDC電圧である、項44又は項45に記載の装置。
47.電極のアレイ及び1つ以上の更なる電極のうちの少なくとも1つは、抽出電極を備え、制御回路は、抽出電圧を抽出電極に印加するように構成されている、先行する項のいずれか一項に記載の装置。
48.抽出電極は、電極のアレイの反対側にあり、好ましくは、抽出電極は、電極のアレイと実質的に平行である、項47に記載の装置。
49.抽出電極は、イオンが通過することを可能にするための1つ以上の開口を備える、項47又は項48に記載の装置。
50.抽出電極は、イオンが通過することを可能にするための複数の開口を備えるグリッド電極及び/又はセグメント化電極である、項47~49のいずれか一項に記載の装置。
51.抽出電圧は、トラップ電圧の大きさよりも大きい大きさを有する、項47~50のいずれか一項に記載の装置。
52.制御回路は、
トラップ電圧を抽出電極に印加してトラップ領域内にイオンをトラップし、
抽出電圧を抽出電極に印加してトラップ領域からイオンを抽出する、ように構成されている、項47~51のいずれか一項に記載の装置。
53.トラップ領域は、相対的に低圧の領域及び相対的に高圧の領域を有し、抽出電極は、相対的に低圧の領域に沿って延在する、項47~52のいずれか一項に記載の装置。
54.第2の表面を備え、第2の表面は電極のアレイに対向し、第2の表面は、抽出電極、輸送電極、及び/又は漏斗電極のうちの1つ以上を備える、先行する項のいずれか一項に記載の装置。
55.電極のアレイは、5mm未満、3mm未満、1mm未満、0.1mm未満、又は0.01mm未満の間隔を有する、先行する項のいずれか一項に記載の装置。
56.電極のアレイ内の各電極は、各隣接する電極に対して逆位相を有する、先行する項のいずれか一項に記載の装置。
57.電極のアレイは、実質的に平面である、先行する項のいずれか一項に記載の装置。
58.1つ以上の更なる電極は、トラップ領域の周囲に位置付けられた1つ以上の障壁電極を含み、制御回路は、障壁電圧を1つ以上の障壁電極に印加してトラップ領域内にイオンをトラップするように構成されている、先行する項のいずれか一項に記載の装置。
59.
制御回路は、イオンが電極のアレイから第1の距離範囲に位置付けられるように、振動電圧のセット及びトラップ電圧を印加するように構成され、
障壁電圧は、電極のアレイから少なくとも第1の距離範囲まで延在するポテンシャル障壁を規定する、項58に記載の装置。
60.制御回路は、以下の:
1つ以上の障壁電極のうちの少なくとも1つへのDC障壁電圧、
1つ以上の障壁電極のうちの少なくとも1つへの無線周波数(RF)障壁電圧、及び/又は
1つ以上の障壁電極のうちの少なくとも1つへのDC障壁電圧及びRF障壁電圧の重畳、のうちの1つ以上を印加するように構成されている、項58又は項59に記載の装置。
61.1つ以上の障壁電極は、複数の障壁電極を含む、項58~60のいずれか一項に記載の装置。
62.制御回路は、隣接する障壁電極に逆位相を有する障壁電圧を印加するように構成されている、項61に記載の装置。
63.複数の障壁電極のうちの1つ以上は、電極のアレイの電極の端部に位置付けられている、項61又は項62に記載の装置。
64.1つ以上の基板を更に備え、1つ以上の更なる電極及び電極のアレイのうちの少なくとも1つが、1つ以上の基板上にある、先行する項のいずれか一項に記載の装置。
65.1つ以上の基板は、1つ以上のプリント回路基板(PCB)である、項64に記載の装置。
66.質量分析システムであって、
先行する項のいずれか一項に記載のイオンをトラップするための装置と、
イオンをトラップするための装置からイオンを受け取るように構成された質量分析器であって、好ましくは、飛行時間型質量分析器である質量分析器と、を備える質量分析システム。