IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ クノル−ブレムゼ ジステーメ フューア ヌッツファールツォイゲ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツングの特許一覧

<>
  • 特許-車両、特に商用車用のステアリングギア 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】車両、特に商用車用のステアリングギア
(51)【国際特許分類】
   B62D 3/06 20060101AFI20241217BHJP
   F16C 19/36 20060101ALI20241217BHJP
   F16C 31/04 20060101ALI20241217BHJP
   F16C 25/08 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
B62D3/06
F16C19/36
F16C31/04
F16C25/08 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023512153
(86)(22)【出願日】2021-08-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-08
(86)【国際出願番号】 EP2021072551
(87)【国際公開番号】W WO2022038045
(87)【国際公開日】2022-02-24
【審査請求日】2023-02-17
(31)【優先権主張番号】102020121808.7
(32)【優先日】2020-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】597007363
【氏名又は名称】クノル-ブレムゼ ジステーメ フューア ヌッツファールツォイゲ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Knorr-Bremse Systeme fuer Nutzfahrzeuge GmbH
【住所又は居所原語表記】Moosacher Strasse 80, D-80809 Muenchen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー コーガン
【審査官】久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第02916945(US,A)
【文献】特表2004-526107(JP,A)
【文献】特開昭63-172010(JP,A)
【文献】特開昭54-029170(JP,A)
【文献】中国実用新案第203739970(CN,U)
【文献】特開昭51-039353(JP,A)
【文献】特開2008-185063(JP,A)
【文献】米国特許第05795037(US,A)
【文献】実開平05-083451(JP,U)
【文献】米国特許第02664760(US,A)
【文献】米国特許第02826932(US,A)
【文献】西独国特許出願公開第03714833(DE,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03192719(EP,A1)
【文献】米国特許第09731753(US,B2)
【文献】国際公開第2013/058752(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 3/06
F16C 19/36
F16C 31/04
F16C 25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両、特に商用車のステアリングシステムのためのボール・ナット式ステアリングギア(10)であって、
少なくとも1つのハウジング(12)と、
少なくとも1つのステアリングスピンドル(14)と、
前記ハウジング(12)内で軸方向摺動可能にガイドされ、組付け状態で複数のボール(14a)を介して前記ステアリングスピンドル(14)に連結されている少なくとも1つのステアリングスピンドルナット(16)と、
前記ステアリングスピンドル(14)を前記ハウジング(12)内で支持する少なくとも1つの軸受装置(18)と
を有しているボール・ナット式ステアリングギア(10)において、
前記軸受装置(18)は、少なくとも1つの予圧装置(20)を有し、
前記予圧装置(20)により、前記ステアリングスピンドル(14)は予圧をかけられ、前記ステアリングスピンドル(14)の予圧により前記ステアリングスピンドル(14)の撓みを低減させ、
前記予圧装置(20)は、組付け状態で、前記ステアリングスピンドル(14)の第1の端部の領域(14c)に配置されている第1の予圧エレメント(20a)を有し、
前記予圧装置(20)は、組付け状態で、前記ステアリングスピンドル(14)の第2の端部の領域(14d)に配置されている第2の予圧エレメント(20b)を有する、
ボール・ナット式ステアリングギア(10)。
【請求項2】
前記軸受装置(18)は、少なくとも1つの第1の軸受ユニット(18a)および少なくとも1つの第2の軸受ユニット(18b)を有している、請求項1記載のボール・ナット式ステアリングギア(10)。
【請求項3】
組付け状態で、前記第1の軸受ユニット(18a)は、前記ステアリングスピンドル(14)の前記第1の端部の領域(14c)に配置されていて、前記第2の軸受ユニット(18b)は、前記ステアリングスピンドル(14)の前記第2の端部の領域(14d)に配置されている、請求項2記載のボール・ナット式ステアリングギア(10)。
【請求項4】
前記第1の軸受ユニット(18a)は少なくとも1つの第1の円錐ころ軸受を有していて、前記第2の軸受ユニット(18b)は少なくとも1つの第2の円錐ころ軸受を有している、請求項記載のボール・ナット式ステアリングギア(10)。
【請求項5】
組付け状態で、前記第1の予圧エレメント(20a)は、前記ステアリングスピンドル(14)の前記第1の端部の領域(14c)で前記ステアリングスピンドル(14)に螺合されていて、前記第1の円錐ころ軸受の少なくとも1つのインナレースに当て付けられている、請求項記載のボール・ナット式ステアリングギア(10)。
【請求項6】
組付け状態で、前記第2の予圧エレメント(20b)は、前記ステアリングスピンドル(14)の前記第2の端部の領域(14d)で前記ステアリングスピンドル(14)に螺合されていて、前記第2の円錐ころ軸受の少なくとも1つのインナレースに当て付けられている、請求項または記載のボール・ナット式ステアリングギア(10)。
【請求項7】
前記第1の予圧エレメントおよび前記第2の予圧エレメント(20b)の組付け状態および当て付け状態で、前記ステアリングスピンドル(14)の予圧は、少なくとも引張り予圧として形成されている、請求項からまでのいずれか1項記載のボール・ナット式ステアリングギア(10)。
【請求項8】
前記第1の予圧エレメント(20a)が溝付きナットとして形成されており、かつ前記第2の予圧エレメント(20b)が溝付きナットとして形成されている、請求項からまでのいずれか1項記載のボール・ナット式ステアリングギア(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両、特に商用車のステアリングシステムのためのボール・ナット式ステアリングギアであって、少なくとも1つのハウジングと、少なくとも1つのステアリングスピンドルと、ハウジング内で軸方向摺動可能にガイドされ、組付け状態で複数のボールを介して前記ステアリングスピンドルに連結されている少なくとも1つのステアリングスピンドルナットと、少なくとも1つの軸受装置とを有しているステアリングギアに関する。
【0002】
商用車のための、もしくは大型商用車のための今日のステアリングギアは、しばしば、ボール・ナット式ステアリングギアとして形成されている。このような構成形式は、大型商用車における特に大きな車軸荷重のもとで、大きな操舵力アシストもしくは操舵モーメントアシストという利点を提供すると同時に構造の基本原理が単純である。
【0003】
従来技術により既に、このような形式のボール・ナット式ステアリングギアが公知である。
【0004】
すなわち、独国特許出願公開第3714833号明細書にはパワーステアリング装置が示されており、このパワーステアリング装置は、第1の力増幅装置を含み、第1の力増幅装置は、ステアリングギアの基礎ハウジング内に組み込まれた作動ピストンを有しており、この作動ピストンは、ねじ付きスピンドルに係合している。作動ピストンは、歯列を介して、ステアリングセグメントを支持するステアリング軸を駆動する。第2の力増幅装置として、電動機が設けられており、この電動機は、減速ギアおよび切替可能なクラッチを介して延長軸を駆動する。延長軸は相対回動不能にねじ付きスピンドルに結合されている。第2の力増幅装置は、基礎ハウジングにフランジ固定されたハウジング内に収容されている。
【0005】
さらに、欧州特許出願公開第3192719号明細書には、ハウジングと、操舵用回転軸と、ウォームホイールと、ウォーム軸と、先端側軸受と、電動モータと、予圧機構とを備えた電動式パワーステアリング装置が開示されている。予圧機構は、楔片と、楔片用弾性部材とを備える。楔片は、先端側軸受の外周面とハウジングの内周面との間に円周方向に関する変位を可能にした状態で配置されている。楔片用弾性部材は、楔片に対し、円周方向片側に向く力を加える。
【0006】
さらに、米国特許第9731753号明細書には、車両のためのステアリングギア構成要素が示されており、このステアリングギア構成要素は、回転可能で、軸方向には移動できないように支持されているウォームと、ボール・ナットとから成っており、ウォームは、ボールの列の収容のためにボール循環路スピンドルを有しており、ボール・ナットは、ボールの列を介してウォームと駆動接続されており、ボール・ナットは、シリンダのピストンとして操舵力アシストのために作用するようになっており、ステアリングスピンドルに、センサ素子のための信号送信器が配置されて、ウォームに、センサ素子が配置されている、あるいは、ステアリングスピンドルに、センサ素子が配置されて、ウォームに、センサ素子のための信号送信器が配置されている。
【0007】
さらに、国際公開第2013058752号には、自動車の多軸ステアリング用のパワーステアリングシステムが開示されており、このパワーステアリングシステムは一次ステアリングギアと第2のステアリングギアとを有しており、一次ステアリングギアはステアリングホイールによって制御され、ステアリングホイールは、自動車の第1の車軸における操舵可能な車輪に取り付けられているピストンを含み、第2のステアリングギアは、自動車の第2の車軸における操舵可能な車輪に取り付けられており、当該パワーステアリングシステムは、さらに第1のパワーステアリングギアと第2のパワーステアリングギアとを互いに接続しているトランスミッションアセンブリを有している。一次ステアリングギアは、ピストンに結合されていてかつトランスミッションアセンブリに結合されている出力エレメントを備えた流体制御弁を有している。
【0008】
さらに、独国特許発明第10351618号明細書には、ステアリングギアを備えた商用車ステアリングが開示されていて、このステアリングギアは、ギア入力部に導入された操舵運動を、ギアハウジング内で回転可能に支持された軸と、軸の回転により軸に沿って可動のピストンとを介して、ピットマンアームに伝達しており、当該商用車ステアリングはさらに、液圧式の補助力増幅装置を有しており、この補助力増幅装置は、作動液による制御された圧力付与によりピストン運動をアシストし、この場合、付加的な補助力増幅装置が設けられていて、この付加的な補助力増幅装置は、電動モータを有していて、電動モータのトルクは、減速ギアを介して軸に伝達される。
【0009】
このようなボール・ナット式ステアリングギアのコア部材は、ボールねじスピンドルであって、このボールねじスピンドルは、連結されたボールスピンドルナットと、これらの両構成部分を連結するボール循環路とを備える。しかしながら、この構成群は、作動時に、特にステアリングスピンドルにおいて複雑な3次元的な応力状態になるので、著しい摩耗にさらされている。これはとりわけ、ボールスピンドルナットが、これに噛み合うセクターシャフトを回転させ、このセクターシャフトの係合により、ステアリングスピンドルの撓みにつながる半径方向の力成分を受ける場合である。これは特に、ステアリングアシストエネルギが、サーボギア段と電気モータとを介してボールねじスピンドルに提供される場合に生じる。
【0010】
ステアリングスピンドルの撓みはさらに、ボール循環路の個々のボール列における部分的に高められた押圧力につながる。これは、ボール循環路の許容面圧を点状に超過するおそれがあり、ボールねじスピンドルもしくはステアリングスピンドルおよびボールスピンドルナットのボールおよび循環軌道の損傷を生じさせる。
【0011】
そこで本発明の課題は、冒頭で述べた形式のステアリングギアを有利な形式に改良して、特に、ステアリングギアの摩耗を最小にし、ステアリングギアの構成スペースを最適にすることである。
【0012】
この課題は、本発明によれば、請求項1の特徴を備えたステアリングギアにより解決される。これによると、車両、特に商用車のステアリングシステムのためのボール・ナット式ステアリングギアであって、少なくとも1つのハウジングと、少なくとも1つのステアリングスピンドルと、ハウジング内で軸方向摺動可能にガイドされ、組付け状態で複数のボールを介してステアリングスピンドルに連結されている少なくとも1つのステアリングスピンドルナットと、ステアリングスピンドルをハウジング内で支持する少なくとも1つの軸受装置とを有したボール・ナット式ステアリングギアにおいて、軸受装置、ステアリングスピンドル、およびハウジングは、当て付けられた支持部を形成していることが想定されている。
【0013】
本発明の根底を成す思想は、当て付けられた支持部により、ステアリングスピンドルは、軸受装置によって、少なくともハウジングに関して予圧をかけられ得るということであり、このようなことは、従来技術において通常の固定・可動軸受では不可能である。ステアリングスピンドルの予圧により、とりわけセクターシャフトの係合の半径方向の力成分によって生じるステアリングスピンドルの撓みは低減される。このような撓みの低減により、さらに、ボールもしくはボール循環路の均一な接触パターンが実現され、これにより部分的なもしくは点状の過負荷を効果的に回避することができる。さらに、ステアリングギア内の製品寿命に適した力伝達に必要な構成部材寸法に関しては、液圧式のステアリングアシストを省くことによって、ステアリングスピンドルは将来的により高い摩耗にさらされるので、本発明によっては、純粋に電気機械的なステアリングに向かう傾向も考慮されている。予想耐用期間を保証するために、純粋に電子機械的な用途のために、スピンドル直径の拡大およびボール循環路の数の増加が必要であり、したがってこれにより、構成スペースの問題が生じてしまう。この点において、ステアリングスピンドルの予圧は、このような構造空間の問題と、摩耗の増大とに対処することができ、したがって、これに関連したステアリングギアの最適化を提供することができる。しかしながら、本発明の範囲内では、本発明によるステアリングギアを純粋に電気機械的な構成の他に、付加的にまたは代替的に電気機械・液圧式の構成として設けることも可能である。
【0014】
特に、当て付けられた支持部は、スピンドルの予圧を生じさせる。
【0015】
軸受装置、ステアリングスピンドル、およびハウジングは、有利な構成において、当て付けられた支持部を形成しており、これによりステアリングスピンドルは予圧されている。予圧により、スピンドルの直径を減じることができる。すなわち、予圧により、直径減少が実現され、これにより、少なくとも軸受装置、ステアリングスピンドル、およびハウジングを含む構成群全体の寸法全体もしくは必要な構成スペースも減じることができる。
【0016】
さらに、軸受装置は、ステアリングスピンドルに軸方向および/または半径方向で調節可能に予圧をかけることができる少なくとも1つの予圧装置を有していることが想定されていてもよい。このような予圧装置により、ステアリングスピンドルの予圧の正確かつ定義された調節が可能となり、予圧は狭い範囲内で保持されるのが望ましいのでこのようなことは特に重要である。予圧を過度に大きく選択すると、これは、ステアリングスピンドルおよびボール循環ナットのボールもしくはボール循環路の摩耗に悪影響を及ぼす。これに対して、予圧を過度に小さく選択すると、セクターシャフトへのボール循環ナットの係合部によって、やはり過度の大きな撓みが生じてしまい、このようなことも、この構成部品の摩耗に対して不都合に作用する。
【0017】
さらに、軸受装置が、少なくとも1つの第1の軸受ユニットおよび少なくとも1つの第2の軸受ユニットを有していることが想定され得る。軸受装置を少なくとも1つの第1の軸受ユニットと第2の軸受ユニットとに分割することは、これにより予圧をさらに精密に調節することができるので有利である。さらに、軸受ユニットの適切な配列および構成により、ステアリングスピンドルおよびボール循環ナットに作用する負荷、応力、および摩耗をさらに最適化することができる。
【0018】
さらに、組付け状態で、第1の軸受ユニットはステアリングスピンドルの第1の端部の領域に配置されていて、第2の軸受ユニットは、ステアリングスピンドルの第2の端部の領域に配置されていることが考えられる。両軸受ユニットのこのような配置により、軸受装置の、特に半径方向でより剛性の構成が得られる。なぜならば、互いに対する軸方向の間隔が増大するにつれて、(少なくとも有意な限界において)軸方向の支持距離を増大させることができ、こうして、ステアリングスピンドルとボール循環ナットとに作用する力、特にモーメントに対して効果的に対抗することができるからである。さらに、ステアリングスピンドルの両端部領域における配置は、組付け可能性およびアクセス可能性に関して、これらが簡単になるので、有利である。
【0019】
さらに、予圧装置が、組付け状態で、ステアリングスピンドルの第1の端部の領域に、またはステアリングスピンドルの第2の端部の領域に配置されている少なくとも1つの第1の予圧エレメントを有していることが可能である。両端部領域における軸受ユニットおよび予圧ユニットの配置によるこれらの改善された組付け可能性に対して補足的に、予圧ユニットのアクセス性および調節性は簡単になり、かつさらに精密にすることができる。これにより、ステアリングスピンドルの予圧をさらに正確にかつ的確に調整することができ、これによりボール循環路、ボール循環ナットおよびステアリングスピンドルの摩耗をさらに減じることができ、このことにより結果として、ステアリングギアの寿命がより長くなり、機能確実性が改善される。
【0020】
さらに、予圧装置は、組付け状態で、ステアリングスピンドルの第2の端部の領域に配置されている少なくとも1つの第2の予圧エレメントを有しており、この場合、第1の予圧エレメントは、ステアリングスピンドルの第1の端部の領域に配置されていることが想定されていてもよい。ステアリングスピンドルの両端部領域に2つの予圧エレメントを設けることにより、ステアリングスピンドルの軸方向および半径方向で片側に向かう予圧が阻止される。したがって、ステアリングスピンドルの軸方向の中心点からの両軸受ユニットおよび予圧エレメントの間隔が実質的に等しいように選択されている場合に、ステアリングスピンドルの予圧を実質的に対称にかけることができる。この構成は、ボール循環路、ボール循環ナットおよびステアリングスピンドルの内部において生じる応力および負荷を減じるので、それらの摩耗をさらに効果的に減少させることができる。
【0021】
第1の軸受ユニットは少なくとも1つの第1の円錐ころ軸受を有していて、第2の軸受ユニットは少なくとも1つの第2の円錐ころ軸受を有していることも想定可能である。円錐ころ軸受は、従来技術から既に、完成された信頼性の高い機械エレメントとして公知であり、当て付けられて予圧を加えられる支持部において特に良好に適している。なぜならば、円錐ころ軸受の力吸収性もしくは支持能力は、半径方向および軸方向で高く、かつ同時に支持部全体の当て付けおよび予圧の極めて簡単、正確かつ確実な調節を可能にするからである。さらに、両円錐ころ軸受の当て付けにより、支持部を全体として補強することができるので、特にステアリングスピンドルは、荷重が加えられた状態で(つまりセクターシャフトと動的に係合した状態で)、撓むことがさらに減じられ、このことは、摩耗、安全性および寿命に関する上述の利点を可能にする。支持部全体および/または第1の軸受ユニットおよび/または第2の軸受ユニットの剛性を高めるために、第1の軸受ユニットは、複数列、例えば2列、3列、または4列の円錐ころ軸受として形成されていてもよく、このことは、第2の軸受ユニットにも同様に当てはまる。複数列の円錐ころ軸受は、互いにつなぎ合わされた個別の円錐ころ軸受から、または組み合わせられた一体の円錐ころ軸受によって形成されていてもよい。
【0022】
さらに、第1の円錐ころ軸受と第2の円錐ころ軸受とは、組付け状態で、O字型配列を形成していることが考えられる。O字形配列により、O字形配列において第1および第2の軸受ユニットの外側に軸方向で位置しているか、もしくは交差する、両円錐ころ軸受を通る圧力線(力の流線)の位置に基づいて、支持部の吸収可能な傾動モーメントが高められる。傾動モーメントの吸収が高められる理由は、圧力線の圧力中心点の間隔の拡大であり、これにより、支持部の剛性をさらに増大させることができる。
【0023】
さらに、組付け状態で、第1の予圧エレメントは、ステアリングスピンドルの第1の端部の領域でステアリングスピンドルに螺合されていて、第1の円錐ころ軸受の少なくとも1つのインナレースに当て付けられていることも可能である。この構成は、ステアリングギアの製造を容易にする。なぜならば、ハウジングの軸受収容孔内に、第1の予圧エレメントを収容するための付加的なねじ山が加工される必要がないからである。さらに予圧エレメントはより小さくかつこれによりより好適に構成することができ、さらに簡単に組み付けることができる。
【0024】
付加的に、組付け状態で、第2の予圧エレメントは、ステアリングスピンドルの第2の端部の領域でステアリングスピンドルに螺合されていて、第2の円錐ころ軸受の少なくとも1つのインナレースに当て付けられていることも想定されていてもよい。このような配置により、第1の予圧エレメントに関して既に上述したものと同じ利点が得られる。さらに、ステアリングスピンドルに対する両予圧エレメントの協働により、ステアリングスピンドルの予圧を特に精密に、対称的かつ正確に調節することができる。なぜならば、両予圧エレメントは直接にステアリングスピンドルに作用するか、もしくはステアリングスピンドルに螺合されているからである。
【0025】
さらに、第1の予圧エレメントおよび第2の予圧エレメントの組付け状態および当て付け状態で、ステアリングスピンドルの予圧は、少なくとも引張り予圧として形成されていることが想定可能である。引張り予圧は、最初に無負荷状態におけるステアリングスピンドルの弾性的な撓みに抗して作用し、これによって、一方ではこの撓みを小さくすることができるという利点を有している。他方では、セクターシャフトが、ステアリングスピンドルの最大の撓みの点で作用するので、変形可能性は、いずれにせよこの構成によって最大になる。したがって、シャフトに引張り力が加えられると、まずは、無負荷状態においてステアリングスピンドルの弾性的な撓みを減じることができる。したがって、第1段階では変形可能性が減じられる。なぜならば、無負荷状態における弾性変形は、荷重が加えられた状態では、実質的にもはや変形と協働することができないからである。したがって、荷重が加えられた状態でも、ステアリングスピンドルは極めて僅かにしか変形しない。なぜならば、弾性的な変形割合は、引張り予圧により実質的になくされているからである。したがって、引張り予圧により、ステアリングギアの負荷がない状態でも、負荷された状態でも、ステアリングスピンドルの弾性変形が減少し、これによって、ボール循環路およびボール循環ナットの摩耗がさらに減少する。
【0026】
第1の予圧エレメントが溝付きナットとして形成されており、かつ第2の予圧エレメントが溝付きナットとして形成されていることも考えられる。溝付きナットは、相応に規定された締付けモーメントによる極めて正確な予圧を可能にする、極めて堅牢で、実証されたもしくは完成した、解離を防止された機械エレメントである。
【0027】
本発明のさらなる詳細および利点は、図示した実施例につき詳しく説明される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明によるステアリングギアの実施例の概略的な断面図である。
【0029】
唯1つの図面(図1)は、本発明によるステアリングギア10の実施例の概略的な断面図を示している。
【0030】
ステアリングギア10は、商用車(図1に示さず)のステアリングシステムのためのボール・ナット式ステアリングギア10として形成されている。
【0031】
ステアリングギア10は、ハウジング12と、ステアリングスピンドル14と、ハウジングの内で軸方向摺動可能にガイドされたステアリングスピンドルナット16とを有している。
【0032】
この場合、ステアリングスピンドルナット16は、ハウジング12の円いガイド孔12a内で軸方向摺動可能にガイドされている。
【0033】
ガイド孔12aは、特に円形の横断面を有していてもよく、ステアリングスピンドルナット16のガイド表面は、この場合、全周にわたってまたは周の一部でガイド孔12aに接触していてもよい。
【0034】
ステアリングスピンドルナット16はさらに、組付け状態で、複数のボールもしくはボール循環路14aを介してステアリングスピンドル14に連結されている。
【0035】
この場合、ボール循環路14aは、図1から見て取れるように、軸方向でボール14aに沿って複数のねじ状の循環路を有していると理解することができる。
【0036】
したがってボール14aは、ステアリングスピンドルの、軸方向に延びるねじ状もしくは螺旋状のスピンドル溝14b内にガイドされており、この場合、スピンドル溝14bは、半円形の横断面を有している。
【0037】
これに相応してボールもしくはボール循環路14aは、ステアリングスピンドルナット16の、これに対応して軸方向に延在する別のねじ状もしくは螺旋状のナット溝16aと協働し、この場合、ナット溝16aも同様に半円形の横断面を有する。
【0038】
図1によると、ステアリングスピンドル14の回転運動が、複数のボールもしくはボール循環路14aを介してステアリングスピンドルナット16に伝達され、その結果、ハウジング14内でのステアリングスピンドルナット16の軸方向の摺動運動が生じる。
【0039】
ステアリングスピンドルナット16は、さらにその周面の部分領域で部分歯列16bを有し、部分歯列は、組付け状態においてセクターシャフトのセクター歯車に係合している。
【0040】
ステアリングギア10は、図1によると、ステアリングスピンドル14をハウジング12で支持する軸受装置18をさらに有している。
【0041】
軸受装置18、ステアリングスピンドル14、およびハウジング12は、この場合、当て付けられた支持部を形成している。
【0042】
軸受装置18はさらに、ステアリングスピンドル14に軸方向で調節可能に予圧をかけることができる予圧装置20を有している。
【0043】
付加的にまたは代替的に、相応にステアリングスピンドル14に半径方向で予圧装置20によって調節可能に予圧をかけることができるということも考えられる。
【0044】
軸受装置18は、第1の軸受ユニット18aと第2の軸受ユニット18bとをさらに有している。
【0045】
第1の軸受ユニット18aは、組付け状態で、ステアリングスピンドル14の第1の端部の領域14cに配置されている。
【0046】
相応に、第2の軸受ユニット18bは、ステアリングスピンドル14の第2の端部の領域14dに配置されている。
【0047】
このために、ステアリングスピンドル14は、その第1の端部の領域14cおよび第2の端部の領域14dもしくは区分に、第1の軸受ユニット18aおよび第2の軸受ユニット18bを収容するためのそれぞれ1つの軸受装着部を有している。
【0048】
ステアリングスピンドル14の第1の端部は、さらに、ステアリングコラム(図1に示さず)とステアリングホイールとに接続可能なステアリング挿入係合部14eと一体に結合されている。
【0049】
上述した予圧装置20は、組付け状態で、ステアリングスピンドル14の第1の端部の領域14cに配置されている第1の予圧エレメント20aをさらに含む。
【0050】
相応に予圧装置20は、同じく組付け状態で、ステアリングスピンドル14の第2の端部の領域14dに配置されている第2の予圧エレメント20bを有している。
【0051】
第1の予圧エレメント20aおよび第2の予圧エレメント20bに対して代替的に、予圧装置20は、ステアリングスピンドル14の第1の端部の領域14cまたは第2の端部の領域14dに配置されている1つだけの予圧エレメント20a,20bを有していてもよい。
【0052】
この場合、ステアリングスピンドル14の予圧は、唯1つの予圧エレメント20a,20bが配置されていない、ステアリングスピンドル14の対向する第1の端部の領域14cまたは第2の端部の領域14dに配置されている、ステアリングスピンドル14の対応する肩部(図1に示さず)を介してかけられる。
【0053】
第1の軸受ユニット18aは、図1によれば、第1の円錐ころ軸受を有しており、これに対して第2の軸受ユニット18bは相応に第2の円錐ころ軸受を有している。
【0054】
図1に示されているように、第1の円錐ころ軸受と第2の円錐ころ軸受とは、組付け状態で、O字型配列を形成している。
【0055】
両円錐ころ軸受は、一列の円錐ころ軸受として形成されているが、両円錐ころ軸受が、複数列の円錐ころ軸受として形成されていることも考えられ、この場合、個別の円錐ころ軸受が互いにつなぎ合わされているか、または一体に形成されていてもよい。
【0056】
特に、これに関しては、2列のまたは4列の円錐ころ軸受が考えられる。
【0057】
複数列の円錐ころ軸受の場合は、これらの軸受は、それぞれX字型配列、O字型配列、またはタンデム型配列で形成されていてもよい。
【0058】
さらに図1に示されているように、組付け状態で、第1の予圧エレメント20aは、ステアリングスピンドル14の第1の端部の領域14cでステアリングスピンドルに螺合されていて、第1の円錐ころ軸受のインナレースに当て付けられている。
【0059】
相応にさらに、組付け状態で、第2の予圧エレメント20bは、ステアリングスピンドル14の第2の端部の領域14dでステアリングスピンドルに螺合されていて、第2の円錐ころ軸受のインナレースに当て付けられている。
【0060】
したがって、第1の軸受ユニット18aと第2の軸受ユニット18bとは、軸方向中心軸線に関して対称に形成もしくは配置されていて、同じ構成部品を有している。
【0061】
第1の予圧エレメント20aと第2の予圧エレメント20bとは、それぞれ溝付きナットとして形成されている。
【0062】
したがって両溝付きナットが、各円錐ころ軸受の両インナレースに当て付けられていることにより、この両予圧エレメントの組付け状態および当て付け状態で、ステアリングスピンドル14の予圧は、引張り予圧として形成されている。
【0063】
両溝付きナットは、さらにそれぞれ、望ましくない解離を固定薄板によって防止されており、固定薄板は図1に示されていない。
【0064】
さらに組付け状態で、第1の円錐ころ軸受のアウタレースは、ステアリングスピンドル14の第1の端部の領域14cで、ハウジング12のまたは第1のハウジングカバーの第1のハウジング肩部に当て付けられている。
【0065】
したがって、第2の円錐ころ軸受のアウタレースは、ステアリングスピンドル14の第2の端部の領域14dで、ハウジング12のまたは第2のハウジングカバーの第2のハウジング肩部に当て付けられている。
【0066】
さらに図1からわかるように、ステアリングギア10は、付加的なステアリング支援モーメントを生成するための液圧ポンプ、液圧ピストン、または電気モータのような別の補助駆動装置なしに示されている。
【0067】
特にこの関連では、図1のステアリングギア10には、電気モータもしくはサーボモータがフランジ固定されていて、カップリングを介して直接に、または減速ギアを介して間接にステアリングスピンドル14に相対回動不能に連結されていることが想定されていてもよい。
【0068】
電気モータは、ステアリングスピンドル14の第1の端部の領域14cまたは第2の端部の領域14dでステアリングスピンドル14に連結されているようにハウジング12にフランジ固定されていてもよい。
【0069】
付加的にまたは代替的に、ステアリングスピンドルナット16と両軸受ユニット18a,18bとの間に形成されている、ハウジング12の円いガイド孔12aの中間室に、液圧ポンプを介してオイル圧を負荷することができる。
【0070】
したがって、付加的にまたは代替的に、液圧的な補助ステアリング力アシストを実現することができる。
【0071】
しかしながら、このために必要なハウジング管路、液圧ポンプ、もしくはハウジング12の円形のガイド孔12aの両中間室を制御するための相応の制御弁は、図1には示されていない。
【0072】
同じことは、これら両中間室を互いに、かつ軸受ユニット18a,18bに対してシールするためのステアリングスピンドルナット16の適合についても当てはまり、この場合、これによりステアリングスピンドルナット16は、付加的に液圧ピストンとしても機能する。
【0073】
本発明によるステアリングギア10の機能は以下の通り説明される:
ステアリングコラムを介してステアリングホイールに相対回動不能に結合可能な、ステアリングスピンドル14の第1の端部の領域14cにおけるステアリング挿入係合部14eを介して、回転スピンドルは、車両運転者の操舵の意思に応じて回転させられる。
【0074】
ステアリングスピンドル14がステアリングスピンドルナット16にボール循環路14aを介して連結されていることに基づき、その結果、ハウジング12内ではステアリングスピンドルナット16の軸方向の摺動運動もしくは並進運動が生じる。
【0075】
図1によりさらにわかるように、ステアリングスピンドルナット16自体は、その周面に設けられた部分歯列を介して、セクターシャフトのセクター歯車に係合している。
【0076】
したがって、ステアリングスピンドルナット16の軸方向の摺動運動もしくは並進運動はセクター歯車に伝達され、これは結果としてセクターシャフトの回転となる。
【0077】
セクターシャフトは他方、ピットマンアーム(図1には示されていない)に相対回動不能に結合されていて、ピットマンアームは、セクターシャフトの回転により旋回させられて、この旋回運動はステアリング機構に伝達され、このステアリング機構は次いで、車軸の車輪を、運転者の意思に相応に旋回させる。
【0078】
ステアリングスピンドルナット16とセクター歯車との間の噛み合いにより、各並進運動の際にステアリングスピンドルナット16は半径方向力を受け、この半径方向力をステアリングスピンドル14にボール循環路14aを介して伝達する。
【0079】
しかしながら、本発明によるステアリングスピンドル14は軸方向で引張応力によって予圧が加えられているので、ステアリングスピンドル14がステアリングスピンドルナット16から受ける半径方向力もしくは半径方向の変形は比較的僅かであるので、本発明により、ステアリングスピンドル14、ボール循環路14a、およびステアリングスピンドルナット16における摩耗は減じられる。
【符号の説明】
【0080】
10 ボール・ナット式ステアリングギア
12 ハウジング
12a ガイド孔
14 ステアリングスピンドル
14a ボールもしくはボール循環路
14b スピンドル溝
14c ステアリングスピンドルの第1の端部の領域
14d ステアリングスピンドルの第2の端部の領域
14e ステアリング挿入係合部
16 ステアリングスピンドルナット
16a ナット溝
16b 部分歯列
18 軸受装置
18a 第1の軸受ユニット
18b 第2の軸受ユニット
20 予圧装置
20a 第1の予圧エレメント
20b 第2の予圧エレメント
図1