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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】酸化チタン粉体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/053 20060101AFI20241217BHJP
   C09C 3/06 20060101ALI20241217BHJP
   C09C 3/08 20060101ALI20241217BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20241217BHJP
   C09C 1/36 20060101ALI20241217BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20241217BHJP
   C09D 7/62 20180101ALI20241217BHJP
   C09D 11/037 20140101ALI20241217BHJP
   A61K 8/29 20060101ALI20241217BHJP
   A61Q 1/00 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
C01G23/053
C09C3/06
C09C3/08
C09D17/00
C09C1/36
C09D201/00
C09D7/62
C09D11/037
A61K8/29
A61Q1/00
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2023522659
(86)(22)【出願日】2022-05-16
(86)【国際出願番号】 JP2022020415
(87)【国際公開番号】W WO2022244741
(87)【国際公開日】2022-11-24
【審査請求日】2023-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2021083606
(32)【優先日】2021-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000215800
【氏名又は名称】テイカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】弁理士法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江尻 和正
(72)【発明者】
【氏名】柴田 和也
【審査官】玉井 一輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-084251(JP,A)
【文献】国際公開第2020/230812(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第105858722(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 23/053
C09C 3/06
C09C 3/08
C09D 17/00
C09C 1/36
C09D 201/00
C09D 7/62
C09D 11/00
A61K 8/29
A61Q 1/00
A61Q 17/04
C09D 7/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線回折測定におけるルチル型結晶のピーク強度(I)に対するアナタース型結晶のピーク強度(I)の比(I/I)が0.1以下であり、
含まれる粒子の、平均短軸長さが10~50nmであり、平均アスペクト比が1~3であり、
450nmの波長における吸光度A450と320nmの波長における吸光度A320との比(A450/A320)が0.015~0.5であり、かつ
窒素原子を含み、ESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)測定において、該窒素原子に由来するピークが395~402eVに観察される、酸化チタン粉体。
【請求項2】
前記X線回折測定においてアナタース型結晶のピークが観察されない、請求項1に記載の酸化チタン粉体。
【請求項3】
比表面積が25~100m/gである、請求項1又は2に記載の酸化チタン粉体。
【請求項4】
600nmの波長における吸光度A600が0.1以下である、請求項1又は2に記載の酸化チタン粉体。
【請求項5】
表色系における、L値が92~99であり、a値が-5~2であり、b値が3~30である、請求項1又は2に記載の酸化チタン粉体。
【請求項6】
前記粉体に含まれる粒子の表面を、無機化合物及び/又は有機化合物の層で被覆してなる、請求項1又は2に記載の酸化チタン粉体。
【請求項7】
前記粒子の表面を無機化合物の層で被覆してなる酸化チタン粉体であって、該無機化合物が、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、ケイ素、亜鉛、チタニウム、ジルコニウム、鉄、セリウム及び錫からなる群から選択される少なくとも一種の元素を含む、請求項6に記載の酸化チタン粉体。
【請求項8】
前記粒子の表面を有機化合物の層で被覆してなる酸化チタン粉体であって、該有機化合物が、脂肪酸又はその塩、シリコーン系化合物、カップリング剤及びフッ素化合物からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項6に記載の酸化チタン粉体。
【請求項9】
表色系における、L値が92~99であり、a値が-5~2であり、b値が2~30である、請求項6に記載の酸化チタン粉体。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の酸化チタン粉体を分散媒に分散させてなる分散体。
【請求項11】
請求項1又は2に記載の酸化チタン粉体を含有する化粧料。
【請求項12】
請求項1又は2に記載の酸化チタン粉体を含有する塗料。
【請求項13】
請求項1又は2に記載の酸化チタン粉体を含有するインキ。
【請求項14】
請求項1又は2に記載の酸化チタン粉体を外添剤として含有するトナー。
【請求項15】
含水酸化チタンの水分散液にアルカリ金属水酸化物を加えて、アルカリ金属チタン酸塩を得るアルカリ化工程、
該アルカリ金属チタン酸塩の水分散液に塩酸を加えてルチル型結晶を含む酸化チタンを得る酸性化工程、
該酸化チタンに含窒素化合物を含浸させる含浸工程、及び
200~600℃で焼成する焼成工程を有し、
焼成する前の酸化チタンの比表面積が120~300m /gである、請求項1又は2に記載の酸化チタン粉体の製造方法。
【請求項16】
含浸工程において、酸性化工程後に残存する塩酸を塩基性含窒素化合物で中和して、酸化チタンに含窒素化合物を含浸させる、請求項15に記載の酸化チタン粉体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化チタン粉体、その用途及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線による日焼けが肌に対し悪影響を及ぼすことから、日焼け止め化粧料が広く用いられている。また、日焼け止め化粧料のみならず、メークアップ化粧料においても紫外線遮蔽効果が求められることが多くなっている。これに対し、酸化チタンや酸化亜鉛のような無機粒子や、有機系紫外線吸収剤を配合した化粧料が開発されている。中でも酸化チタンは紫外線の遮蔽効果が高い上に有機系紫外線吸収剤のような皮膚トラブルを起こしにくいので、広く用いられている。特に、粒子サイズが数十nm以下であるような酸化チタン微粒子は、寸法が光の波長よりも小さいために可視光の透過性に優れていて、これを含有する化粧料は、酸化チタン由来の白っぽさが低減され、使用時の透明感に優れている(特許文献1~3を参照)。
【0003】
しかしながら、透明性を向上させるためにより微細化、高分散化するほど、レイリー散乱の影響を受けやすくなる。レイリー散乱の強度は粒子が小さくなるほど強く、青い光が赤い光よりも散乱されやすいので、微粒子酸化チタンを含む化粧料を肌に塗布した際に青みが感じられることになる。青白い色彩では、肌の色が不健康そうに見えるので化粧料としては好ましくない。
【0004】
これに対し、微量の酸化鉄(Fe)を含有させることによって、青みを打ち消す方策がある。しかしながら酸化鉄は青の補色である黄色だけではなく、赤色も呈するために、化粧料がくすんだ色合いになることが避けられず、より優れた方策が望まれている。
【0005】
特許文献4には、2価の硫黄原子(S2-)がドープされてなるルチル型結晶を含む酸化チタン粉体が記載されていて、レイリー散乱に由来する青みを打ち消し、透明性が良好で、色調も良好な化粧料が得られるとされている。また、その酸化チタン粉体に含まれる粒子の、平均短軸長さが4~13nmであり、かつ平均アスペクト比が2~7であることも記載されている。このように、粒径を小さくすることによって透明性が向上するとともにUVB(280~320nm)の遮蔽効果も向上するが、UVA(320~400nm)の遮蔽効果は低下してしまう。日焼けによるメラニン色素の沈着を効果的に抑制して白い肌を保つために、UVAの遮蔽効果の向上が求められている。
【0006】
微粒子酸化チタンの粒径を大きくすることによってUVAの遮蔽効果が向上することが知られている。しかしながら、粒径が大きくなると透明性が低下して白っぽくなるという問題を有している。また、紫外線遮蔽用途の酸化チタンとして広く用いられている紡錘形状のルチル型酸化チタン粒子は、その結晶成長を進行させることによって粒径を大きくすることができるが、その際、主に長軸方向に結晶が成長するために、粒子のアスペクト比(長軸長さ/短軸長さ)が大きくなってしまう。近年、アスペクト比の大きな微粒子は、皮膚刺激が強いという理由などにより、人体に対する安全性に問題を有しているとされていて、例えば欧州化粧品規格では、酸化チタン微粒子のアスペクト比を4.5以下に規定している。したがって、単に結晶を成長させて酸化チタンの粒径を大きくする方策には課題がある。
【0007】
一方、非特許文献1には、窒素がドープされ、アナタース型結晶とルチル型結晶の両方を含む酸化チタンナノ粒子からなる光触媒が記載されている。当該酸化チタンナノ粒子は、400~500nmの光を吸収することが示されている(図4b)。また、その具体例では、ルチル型結晶の割合が18.3%、20.2%及び36.9%の例が記載されていて、最も光触媒活性に優れているのが20.2%のときであると記載されている(表1及び図5参照)。すなわち、ルチル型結晶よりもはるかに多くのアナタース型結晶を含むときに光触媒活性が高いことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2010-173863号公報
【文献】特開2011-001199号公報
【文献】特開2014-084251号公報
【文献】国際公開第2020/230812号
【非特許文献】
【0009】
【文献】J. Liuら、Catalysts、2020、10、1126
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、ルチル型結晶を主成分とし、UVAの遮蔽効果に優れ、人体に対する安全性が高く、色調の良好な酸化チタン粉体を提供することを目的とするものである。また、透明性が良好で色調の良好な分散体、特に化粧料を提供することを目的とするものである。さらに、このような酸化チタン粉体の好適な製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、X線回折測定におけるルチル型結晶のピーク強度(I)に対するアナタース型結晶のピーク強度(I)の比(I/I)が0.1以下であり、
含まれる粒子の、平均短軸長さが10~50nmであり、平均アスペクト比が1~3であり、
450nmの波長における吸光度A450と320nmの波長における吸光度A320との比(A450/A320)が0.015~0.5であり、かつ
窒素原子を含み、ESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)測定において、該窒素原子に由来するピークが395~402eVに観察される、酸化チタン粉体を提供することによって解決される。
【0012】
このとき、前記X線回折測定においてアナタース型結晶のピークが観察されないことが好ましい。比表面積が25~100m/gであることも好ましい。600nmの波長における吸光度A600が0.1以下であることも好ましい。また、L表色系における、L値が92~99であり、a値が-5~2であり、b値が3~30であることも好ましい。
【0013】
好適な実施態様では、前記粉体に含まれる粒子の表面を、無機化合物及び/又は有機化合物の層で被覆してなる。このとき、前記粒子の表面を無機化合物の層で被覆してなる酸化チタン粉体であって、該無機化合物が、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、ケイ素、亜鉛、チタニウム、ジルコニウム、鉄、セリウム及び錫からなる群から選択される少なくとも一種の元素を含むことが好ましい。またこのとき、前記粒子の表面を有機化合物の層で被覆してなる酸化チタン粉体であって、該有機化合物が、脂肪酸又はその塩、シリコーン系化合物、カップリング剤及びフッ素化合物からなる群から選択される少なくとも一種であることも好ましい。さらにこのとき、L表色系における、L値が92~99であり、a値が-5~2であり、b値が2~30であることも好ましい。
【0014】
前記酸化チタン粉体を分散媒に分散させてなる分散体が、好適な実施態様である。前記酸化チタン粉体を含有する、化粧料、塗料、インキも、好適な実施態様である。また、前記酸化チタン粉体を外添剤として含有するトナーも好適な実施態様である。
【0015】
上記課題は、含水酸化チタンの水分散液にアルカリ金属水酸化物を加えて、アルカリ金属チタン酸塩を得るアルカリ化工程、
該アルカリ金属チタン酸塩の水分散液に塩酸を加えてルチル型結晶を含む酸化チタンを得る酸性化工程、
該酸化チタンに含窒素化合物を含浸させる含浸工程、及び
200~600℃で焼成する焼成工程を有する、酸化チタン粉体の製造方法を提供することによっても解決される。
【0016】
このとき、焼成する前の酸化チタンの比表面積が120~300m/gであることが好ましい。また、含浸工程において、酸性化工程後に残存する塩酸を塩基性含窒素化合物で中和して、酸化チタンに含窒素化合物を含浸させることも好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の酸化チタン粉体は、ルチル型結晶を主成分とし、UVAの遮蔽効果に優れ、人体に対する安全性が高く、色調が良好である。これにより、レイリー散乱に由来する青みを打ち消すことができ、透明性が良好で色調の良好な分散体、特に化粧料を提供することができる。また、本発明の製造方法によれば、そのような酸化チタン粉体を簡便に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1で得られた、比表面積が約80m/gの酸化チタン粉体(焼成後)のX線回折測定のチャートである。
図2】実施例1で得られた、比表面積が約80m/gの酸化チタン粉体(焼成後)のESCA測定のチャートである。
図3】実施例1で得られた、比表面積が約60m/gの酸化チタン粉体(焼成後)のESCA測定のチャートである。
図4】比較例3で用いた酸化チタン粉体「MT-100Z」のESCA測定のチャートである。
図5】実施例1で得られた、比表面積が約80m/gの酸化チタン粉体(焼成後)の透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
図6】実施例1で得られた、比表面積が約60m/gの酸化チタン粉体(焼成後)の透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
図7】実施例1及び比較例2で得られた、比表面積が約80m/gの酸化チタン粉体(焼成後)の吸光度を対比したグラフである。
図8】実施例1及び比較例3で得られた濃度10質量%の乳化製剤の塗膜の光線透過率を対比したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の酸化チタン粉体は、X線回折測定におけるルチル型結晶のピーク強度(I)に対するアナタース型結晶のピーク強度(I)の比(I/I)が0.1以下であり、
含まれる粒子の、平均短軸長さが10~50nmであり、平均アスペクト比が1~3であり、
450nmの波長における吸光度A450と320nmの波長における吸光度A320との比(A450/A320)が0.015~0.5であり、かつ
窒素原子を含み、ESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)測定において、該窒素原子に由来するピークが395~402eVに観察されるものである。このような酸化チタン粉体は、本発明者らが鋭意検討することによって初めて製造することができたものである。以下、詳細に説明する。
【0020】
本発明の酸化チタン粉体においては、X線回折測定におけるルチル型結晶のピーク強度(I)に対するアナタース型結晶のピーク強度(I)の比(I/I)が0.1以下である。アナタース型結晶の含有率が高いと、光触媒活性が高くなるので、紫外線や可視光に晒される用途に用いられた場合に、酸化チタン粒子と接触する有機物を劣化させやすい。特に、酸化チタンを化粧料に配合する場合には、肌を刺激してトラブルを生じさせやすいので望ましくない。
【0021】
ここで、ルチル型結晶のピーク強度(I)は、X線回折測定における2θ=27.5°付近にある、ルチル型酸化チタン(110面)のピーク強度(I)である。また、アナタース型結晶のピーク強度(I)は、2θ=25.3°付近にある、アナタース型酸化チタン(101面)のピーク強度(I)である。これらのピーク強度は、本願明細書の実施例に記載のX線回折装置又はそれと同等の装置を用い、本願明細書の実施例に記載の測定条件又はそれと同等の測定条件によって得ることができる。X線回折測定チャートに現れる各ピークは独立したピークである必要はなく、ルチル型結晶のピークのショルダーピークとしてアナタース型結晶のピークが観察されていてもよい。装置に付属の解析ソフトウェアによってピーク分離されて、それぞれのピークの強度が算出される。
【0022】
比(I/I)は、0.05以下であることが好ましく、前記X線回折測定においてアナタース型結晶のピークが観察されないことがより好ましい。ここで、アナタース型結晶のピークが観察されないとは、本願実施例に記載されている条件で測定した時にアナタース型結晶のピークが検出されないということである。本実施例の条件においては、比(I/I)が0.03未満である。
【0023】
本発明の酸化チタン粉体に含まれる粒子の平均短軸長さは10~50nmである。平均短軸長さが10nm以上であることによって、UVA(320~400nm)の遮蔽効果が向上する。平均短軸長さが10nm未満の場合には、UVB(280~320nm)の遮蔽効果は向上するものの、UVAの遮蔽効果は低下する。皮膚に炎症を起こすおそれのあるUVBを遮蔽することも重要であるが、メラニン色素が沈着して肌が黒くなるUVAを遮蔽することも重要であり、特に美容上の観点からはUVAの遮蔽はとても重要である。平均短軸長さは、12nm以上であることが好ましく、14nm以上であることがより好ましい。一方、平均短軸長さが50nm以下であることによって、酸化チタンを含む塗膜の透明性が向上する。平均短軸長さは、40nm以下であることが好ましく、30nm以下であることがより好ましい。平均短軸長さと平均長軸長さは、透過型電子顕微鏡(TEM)写真を撮影し、粒子を画像処理することによって得られる。
【0024】
また、本発明の酸化チタン粉体に含まれる粒子の平均アスペクト比(平均長軸長さ/平均短軸長さ)は1~3である。一般に、針状の無機粒子は、肺や皮膚に刺激を与えるおそれがあることから、人体に対する安全性が懸念されている。平均アスペクト比が3以下であることによって、人体に対する安全性を向上させることができる。また、平均アスペクト比が小さいことによって、酸化チタンを含む化粧料を皮膚に塗布する際の粉体特有のきしみ感が大幅に低減されることから、使用感にも優れる。平均アスペクト比が2.5以下であることがより好ましく、2以下であることがさらに好ましい。
【0025】
本発明の酸化チタン粉体の、450nmの波長における吸光度A450と320nmの波長における吸光度A320との比(A450/A320)は0.015~0.5である。比(A450/A320)が0.015以上であることによって、青色の光を吸収することができ、レイリー散乱にもとづく青色を効果的に打ち消すことができる。さらに、肌の色に近い色調になるので、肌に塗った時に透明感が向上する。比(A450/A320)が0.025以上であることが好ましい。一方、比(A450/A320)が0.5を超えると、着色が著しくなり、化粧料に用いるのが困難になる。比(A450/A320)が0.4以下であることが好ましく、0.3以下であることがより好ましい。酸化チタン粉体の吸光度は、粉体を圧縮して得られる成型品を試料とし、分光光度計を用いて拡散反射法によって測定して得られる。
【0026】
本発明の酸化チタン粉体は、窒素原子を含み、ESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)測定において、該窒素原子に由来するピークが395~402eVに観察される。ESCA測定において、Ti-Nの結合エネルギーのピークは397eV付近に、Ti-N-O及びTi-O-Nの結合エネルギーのピークは400eV付近に、それぞれ現れるとされている。これらのピークの有無については、本願実施例に記載された条件のESCA測定においてピークが観察されるかどうかで判断される。また、これらのピークのいずれかが観察されることによって、窒素原子を含んでいると判断される。なお、ESCA測定において、スカンジウム原子に由来するピークが406eVと401.7eVにダブレットピーク(幅4.3eV)として現れることが知られている。このうち401.7eVのピークは、本発明で規定する395~402eVの範囲と重複するが、このピークは考慮しない。また、本発明の酸化チタン粉体において、スカンジウム原子を配合することは通常ない。
【0027】
図2に示されるように、実施例1においてアンモニアで中和してから380℃で焼成して得られた比表面積が約80m/gの酸化チタン粉体では、粒子の表面に400eV付近のピークが存在し、粒子内部に397eV付近のピークが存在する。一方、図3に示されるように、実施例1においてアンモニアで中和してから480℃で焼成して得られた比表面積が約60m/gの酸化チタン粉体では、粒子の表面に400eV付近のピークが存在するが、粒子内部に397eV付近のピークは存在しない。このことから、より高温で焼成して粒子を大きくした場合には、粒子内部に一旦形成されたTi-N結合が消失している可能性がある。一方、図4に示されるように、比較例3で用いた、アンモニアで中和せず焼成もしていない市販の酸化チタン粉体では、395~402eVの範囲にピークは観察されない。なお、比較例2のように、アンモニアで中和せずに焼成を行って得られた酸化チタン粒子の場合には、実施例1の比表面積が約60m/gの酸化チタン粉体と同様に、粒子の表面に400eV付近のピークが存在するが、粒子内部に397eV付近のピークは存在しない。この400eV付近のピークは、大気中で焼成した際に、大気中の窒素分子に由来する窒素原子が酸化チタン粒子の表面に結合したものと考えられる。しかしながら、比較例2の酸化チタン粉体では、実施例1~4の酸化チタン粉体とは異なり、450nmの光を十分に吸収することができず、450nmの波長における吸光度A450と320nmの波長における吸光度A320との比(A450/A320)は0.015以下である。以上のようなことから、アンモニアで中和してから高温で焼成することによって、粒子内部に一旦形成されたTi-N結合が消失したとしても、450nmの光を吸収する何らかの構造が残っていると推定される。したがって、窒素原子に由来するピークが395~402eVに観察されるとともに、比(A450/A320)が0.015~0.5であることによって、色調の良好な酸化チタン粉体が得られるといえる。
【0028】
また、本発明の酸化チタン粉体の、600nmの波長における吸光度A600が0.1以下であることが好ましい。吸光度A600が0.1以下であることによって、赤色の光の吸収を抑制することができる。青色に加えて赤色の光も吸収した場合には、色調がくすんでしまい、化粧料として用いた際に好ましくない。吸光度A600が0.07以下であることがより好ましく、0.05以下であることがさらに好ましい。
【0029】
本発明の酸化チタン粉体の、L表色系における、L値が92~99であり、a値が-5~2であり、b値が3~30であることが好ましい。L値が92以上であることにより、くすみのない白度の高い粉体とすることができる。L値は、より好適には93以上であり、さらに好適には95以上である。また、a値が2以下であることによって赤みが抑制される。a値は、より好適には0以下であり、さらに好適には-1以下である。さらに、b値が3以上であることによって効果的に青みを打ち消すことができる。b値は、より好適には4以上であり、さらに好適には5以上である。一方、b値が30を超えると黄色が濃すぎる場合がある。b値は、より好適には20以下であり、さらに好適には15以下である。
【0030】
また、本発明の酸化チタン粉体の鉄含有量が300ppm以下であることが好ましい。この鉄含有量(ppm)は、粉体の質量に対する鉄元素の質量である。鉄含有量が300ppm以下であることによって、くすみのない透明感に優れた分散体、特に化粧料を得ることができる。鉄含有量はより好適には200ppm以下であり、さらに好適には150ppm以下である。鉄含有量が多すぎると、酸化チタン粒子の凝集を引き起こし、透明感が悪化するおそれがある。なお、本実施例及び比較例で得られた酸化チタン粉体は、いずれも特に鉄元素を含んでいないものである。
【0031】
本発明の酸化チタン粉体の比表面積が25~100m/gであることが好ましい。比表面積が25m/g以上であることによって、白っぽさが低減され、透明感に優れた分散体、特に化粧料を得ることができる。比表面積は、より好適には40m/g以上であり、さらに好適には50m/g以上である。一方、比表面積が100m/g以下であることによって、UVAを効果的に遮蔽することができ、日焼けによるメラニン色素の生成を抑制できる分散体、特に化粧料を得ることができる。比表面積は、より好適には90m/g以下である。
【0032】
以下、本発明の酸化チタン粉体の製造方法について説明する。好適な製造方法は、含水酸化チタン(TiO・nHO)の水分散液にアルカリ金属水酸化物を加えて、アルカリ金属チタン酸塩を得るアルカリ化工程、該アルカリ金属チタン酸塩の水分散液に塩酸を加えてルチル型結晶を含む酸化チタン(TiO)を得る酸性化工程、該酸化チタンに含窒素化合物を含浸させる含浸工程、及び200~600℃で焼成する焼成工程を有するものである。
【0033】
前記アルカリ化工程では、含水酸化チタン(二酸化チタン水和物:TiO・nHO)の水分散液にアルカリ金属水酸化物を加えて、アルカリ金属チタン酸塩を得る。このとき用いられる含水酸化チタンの製造方法は特に限定されないが、硫酸チタニル(TiOSO)水溶液を加熱して加水分解することによって製造されたものなどを用いることができる。こうして得られる含水酸化チタンは通常アナタース型結晶を含有する。
【0034】
前記含水酸化チタンの水分散液に加えるアルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化リチウムが挙げられるが、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましく、水酸化ナトリウムが特に好ましい。この時加えられるアルカリ金属水酸化物のモル数は、含水酸化チタン中のチタン元素のモル数の2~20倍であることが好ましい。またこの時の加熱温度は60~120℃であることが好ましい。これにより、アルカリ金属チタン酸塩の水分散液が得られる。アルカリ金属チタン酸塩としては、チタン酸ナトリウム(NaTi)、チタン酸カリウム、チタン酸リチウムが挙げられる。
【0035】
アルカリ化工程の後の酸性化工程では、前記アルカリ金属チタン酸塩の水分散液に塩酸を加えてルチル型結晶を含む酸化チタン(TiO)を得る。塩酸を加えて水分散液を酸性にすることによって、ルチル型結晶を含む酸化チタン粒子が分散した水分散体を得ることができる。塩酸の添加量は、水分散液中の過剰のアルカリを中和し、さらに水分散液を酸性にできる量である。また、塩酸を加えてから加熱して熟成することが好ましく、その条件を調整することによって、粒子を成長させることができる。好適な熟成温度は40~110℃である。より好適には60℃以上である。また、より好適には105℃以下である。好適な熟成時間は、2分~24時間である。より好適には5分以上である。また、より好適には10時間以下である。
【0036】
酸性化工程の後の含浸工程では、得られた酸化チタンに含窒素化合物を含浸させる。酸性化工程で得られた酸化チタンの水分散体に含窒素化合物を加えて含浸させてから乾燥させてもよいし、当該水分散体を乾燥させてから、含窒素化合物を含浸させてもよい。ここで用いられる含窒素化合物は特に限定されず、アンモニア、重炭酸アンモニウム、アミン、尿素などを用いることできる。
【0037】
含浸工程において、酸性化工程後に残存する塩酸を塩基性含窒素化合物で中和して、酸化チタンに含窒素化合物を含浸させることが好ましい。こうすることによって、酸化チタン粒子を含む水分散体中で、中和操作と同時に含窒素化合物を均一に含浸させることができる。この時に用いられる塩基性含窒素化合物としては、アンモニア、重炭酸アンモニウム、アミンなどを用いることができる。アンモニア水を加えることが、操作が簡便で安価であり、特に好適である。中和操作を行った後で酸化チタン粒子を加熱することによって水分を除いて乾燥する。好適な乾燥温度は70℃以上200℃未満である。乾燥後、必要に応じて粉砕やふるい分けを行って酸化チタン粉体(焼成前)を得ることができる。
【0038】
また、酸性化工程後に残存する塩酸を含窒素化合物以外の塩基で中和することもできる。そのような塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが例示される。中和操作を行った後で酸化チタン粒子を加熱することによって水分を除いて乾燥する。好適な乾燥温度は70℃以上200℃未満である。乾燥後、必要に応じて粉砕やふるい分けを行って酸化チタン粉体(焼成前)を得ることができる。この酸化チタン粉体(焼成前)に対して、塩基性含窒素化合物の溶液、好適には水溶液を含浸させて、その後焼成工程に供することができる。
【0039】
焼成工程では、200~600℃で酸化チタン粉体を焼成する。これによって、酸化チタン粒子の短軸長さを長くするとともに、アスペクト比を小さくすることができる。焼成温度は、250℃以上であることが好ましく、300℃以上であることがより好ましい。また、焼成温度は、550℃以下であることが好ましく、500℃以下であることがより好ましい。焼成する際の雰囲気は特に限定されず、大気雰囲気下で焼成することができる。この場合、大気中の窒素分子に由来する窒素原子が酸化チタン粒子の表面に結合することがある。焼成後、必要に応じて粉砕やふるい分けを行って酸化チタン粉体(焼成後)を得ることができる。
【0040】
本発明の酸化チタン粉体は、このまま各種の用途に用いることができるが、表面を被覆することが好ましい。すなわち、本発明の好適な実施態様は、前記粉体に含まれる酸化チタン粒子の表面を、無機化合物及び/又は有機化合物の層で被覆してなる酸化チタン粉体である。
【0041】
酸化チタン粒子を被覆する無機化合物としては、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、ケイ素、亜鉛、チタニウム、ジルコニウム、鉄、セリウム及び錫からなる群から選択される少なくとも一種の元素を含むものであることが好ましい。これらの元素を含む化合物で被覆することによって、酸化チタン粒子の耐久性と分散安定性を改善することができる。特に好適なものがアルミニウム化合物であり、水酸化アルミニウムの形で被覆することが好ましく、これにより、分散安定性が改善されるとともに、酸化チタン特有の光触媒活性を抑制することができる。水酸化アルミニウムで被覆する方法としては、酸化チタン粒子を含むスラリーに対して、塩化アルミニウムなどの塩を添加し、加水分解させて水酸化アルミニウムを酸化チタン粒子表面に析出させる方法などが挙げられる。酸化チタン粉体中のアルミニウムの好適な含有量は、TiO100質量部に対してAl換算で2~30質量部である。
【0042】
酸化チタン粒子を被覆する有機化合物としては、脂肪酸又はその塩、シリコーン系化合物、カップリング剤及びフッ素化合物からなる群から選択される少なくとも一種が挙げられる。これらの中でも、脂肪酸又はその塩が好ましく、これにより、酸化チタン粒子の表面に親油性を付与することができ、油相中で分散することが容易になる。特に、化粧料などとして用いる際に、肌に塗布された化粧料が汗や雨で流れにくくなり、耐久性が改善される。ここで用いられる脂肪酸としては、炭素数が12~30の高級脂肪酸が好ましく用いられ、その塩としてはアルミニウム塩が好ましく用いられる。脂肪酸又はその塩で被覆する方法としては、酸化チタン粒子を含むスラリーに対して、アルカリ金属の脂肪酸塩を添加し、その後、硫酸などの強酸を加えることによって遊離した脂肪酸を酸化チタン粒子表面に析出させる方法などが挙げられる。酸化チタン粉体中の脂肪酸又はその塩の好適な含有量はTiO100質量部に対して2~50質量部である。この含有量は、遊離した脂肪酸に換算した量である。
【0043】
酸化チタン粒子の表面を覆う無機化合物の層は、均一な層である必要はなく、表面を部分的に覆うものであっても構わない。この点は、有機化合物の層についても同様である。無機化合物の層と有機化合物の層が別の層として形成されていてもよいし、一つの層の中に無機化合物と有機化合部の両方が含まれていても構わない。好適な実施態様では、酸化チタン粒子の表面が、水酸化アルミニウムと、炭素数が12~30の高級脂肪酸又はそのアルミニウム塩とを含む層で覆われている。
【0044】
酸化チタン粒子の表面を、無機化合物及び/又は有機化合物の層で被覆してなる酸化チタン粉体の場合、L表色系における、L値が92~99であり、a値が-5~2であり、b値が2~30であることが好ましい。表面を被覆することによって、被覆していないものと比べてb値が低下するので、被覆した酸化チタン粉体については、b値の好適な下限値を2まで下げた。より好適な範囲は、L値、a値、b値ともに、被覆していない酸化チタン粉体と同様である。
【0045】
こうして得られた本発明の酸化チタン粉体を分散媒に分散させてなる分散体が好適な実施態様である。この時の分散媒は、水でもよく、有機溶媒でもよい。また、水と有機溶媒の混合溶媒でもよいし、水と有機溶媒とから形成されるエマルションであってもよい。
【0046】
好適な用途は、本発明の酸化チタン粉末を含む、化粧料、塗料、インキ、トナーなどである。
【0047】
これらのうちでも特に好適な用途が化粧料であり、紫外線遮蔽効果を有する化粧料、特にメラニン色素の沈着を抑制できる化粧料として好適に用いられる。本発明の化粧料には、本発明の酸化チタン粉体以外の無機顔料や有機顔料を配合することができる。使用できる無機顔料には、酸化チタン、酸化亜鉛、ベンガラ、黄酸化鉄、黒酸化鉄、群青、紺青、酸化セリウム、タルク、白雲母、合成雲母、金雲母、黒雲母、合成フッ素金雲母、雲母チタン、雲母状酸化鉄、セリサイト、ゼオライト、カオリン、ベントナイト、クレー、ケイ酸、無水ケイ酸、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、チッ化ホウ素、オキシ塩化ビスマス、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化クロム、カラミン、カーボンブラック、ヒドロキシアパタイトおよびこれらの複合体等を用いることができる。また、使用できる有機顔料には、シリコーン粉末、ポリウレタン粉末、セルロース粉末、ナイロン粉末、シルク粉末、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粉末、スターチ、ポリエチレン粉末、ポリスチレン粉末、タール色素、天然色素、およびこれらの複合体等を用いることができる。
【0048】
本発明の化粧料には、目的に応じて他の成分を配合することができる。例えば、pH調整剤、保湿剤、増粘剤、界面活性剤、分散安定剤、防腐剤、酸化防止剤、金属封鎖剤、収斂剤、消炎剤、紫外線吸収剤、香料等を適宜配合することができる。
【0049】
本発明の化粧料の形態としては、乳液、ローション、オイル、クリーム、ペースト等が挙げられる。また、その具体的用途としては、日焼け止め化粧料、メークアップベース、ファンデーション、コンシーラー、コントロールカラー、口紅、リップクリーム、アイシャドー、アイライナー、マスカラ、チークカラー、マニキュア等のメークアップ化粧料、スキンケア化粧料、ヘアケア化粧料が例示される。
【0050】
本発明の酸化チタン粉体を塗料やインキに用いる場合には、ベースポリマーが溶解した溶液に酸化チタン粒子を分散させてもよいし、ベースポリマーの粒子が分散している水性エマルジョン中に酸化チタン粒子を分散させてもよい。その他、顔料、艶消し剤、界面活性剤、分散安定剤、レベリング剤、増粘剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤など、塗料やインキに通常添加される添加剤を配合することができる。また、微粒子酸化チタンを配合した塗料には、見る角度によって色調が変化する、いわゆる「フリップ・フロップ」効果を奏するものがあるが、本発明の酸化チタンを用いることによって、青みの少ない「フリップ・フロップ」塗膜を形成することができる。
【0051】
本発明の酸化チタン粉体をトナーの外添剤に用いる場合には、顔料を含んだトナー粒子と混合して用いられる。微粒子酸化チタンを用いることによって、多様な環境下において帯電性能の安定性に優れたトナーを提供することができる。このとき、トナーには、通常添加される各種の添加剤を配合することができる。
【実施例
【0052】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。実施例中の分析方法及び評価方法は、以下の方法に従った。
【0053】
(1)X線回折測定
ガラス板で試料ホルダーに平面状に押し付けられた酸化チタン粉体をX線回折装置(フィリップス社製)で測定した。測定条件は以下の通りである。
・Diffractometer system:XPERT-PRO
・線源:CuKα
・走査サイズ:2θ=0.008°
・電圧:45kV
・電流:20mA
・測定範囲:2θ=5~100°
・解析用付属ソフトウェア:HighScore Plus
【0054】
2θ=27.5°付近にある、ルチル型酸化チタン(110面)のピーク強度(I)と、2θ=25.3°付近にある、アナタース型酸化チタン(101面)のピーク強度(I)を測定し、それらの比(I/I)を算出した。このとき、上記付属ソフトウェアのピークサーチ機能を利用し、以下の条件でピークサーチを行った。この条件でピークサーチをした場合、アナタース型結晶のピークの検出限界における比(I/I)は0.03である。従って、アナタース型結晶のピークが検出されない時の比(I/I)は0.03未満である。
・最小有意度:0.50
・最小ピークチップ:0.10°
・最大ピークチップ:1.00°
・ピークベース幅:2.00°
・方法:2次微分の最小値
【0055】
(2)ESCA測定
ESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)測定は、X線光電子分光分析装置(株式会社島津製作所製「ESCA3400」)を用いて行った。試料の粉体を薄膜状に押し固めてからカーボンテープで固定して測定した。15秒間のアルゴンスパッタリングによる表面のエッチングを繰り返し行うことによって試料の深さ方向に対する窒素原子の分布を測定した。C1sの結合エネルギー284.6eVで補正した。測定条件及びエッチング条件は以下の通りである。
【0056】
(測定条件)
・X線源:Mg-Kα線
・フィラメント電圧-電流:12kV-15mA
・真空度:1.0×10-6Pa未満
・測定範囲:385~415eV
・測定ステップ:0.1eV
・積算回数:30回
(アルゴンエッチング条件)
・フィラメント電圧-電流:2kV-20mA
・イオン源:アルゴンガス
・アルゴンエッチング中の真空度:1.0×10-4Pa
・エッチング時間:15秒/回
【0057】
(3)粒子の形状及び寸法
透過型電子顕微鏡(TEM)写真を撮影し、粒子を画像処理することによって、それぞれの粒子の長軸長さ(nm)と短軸長さ(nm)を求めた。アスペクト比は(長軸長さ/短軸長さ)で求められる値である。粒子を200個以上計測し、平均短軸長さ(nm)と平均アスペクト比を求めた。
【0058】
(4)比表面積
全自動比表面積測定装置(株式会社マウンテック製「Macsorb HM model-1208」)を用いて、BET法によって比表面積を測定した。測定に際しては、窒素ガス雰囲気下、150℃で20分間脱気してから測定した。
【0059】
(5)粉体色
薬包紙上に粉体試料用アルミリング(43φ)(株式会社リガク製 寸法:外径43mm、内径40mm、高さ5mm)をセットし、リング内に酸化チタン粉体を充填して平らにならし、錠剤成型圧縮機(株式会社前川試験機製作所社製「BRE-32」)を用いて、15MPaで30秒間加圧、成型し、厚さが2.5~3.0mmの錠剤を得て、測定用試料とした。こうして得られた試料の色を、コニカミノルタ株式会社製色彩色差計「CR-400」を用いて測定した。色彩色差計の白色校正を行ってから、L表色系におけるL値、a値及びb値を測定した。
【0060】
(6)吸光度
上記「(5)粉体色」と同様にして得られた錠剤を試料として、積分球付き分光光度計(株式会社日立ハイテクノロジーズ製「U-4100」)を用いて拡散反射法によって吸光度を得た。測定条件は以下の通りである。測定は、硫酸バリウム標準白色板を用いて標準補正してから行った。
・スキャンスピード:300nm/分
・サンプリング間隔:2nm
・測定波長:250~700nm
450nmの波長における吸光度A450と320nmの波長における吸光度A320から、吸光度比(A450/A320)を算出した。
【0061】
(7)塗膜の色差
表面の一部に塗膜が形成されたPETフィルムを、肌色の標準色であるバイオスキン(株式会社ビューラックス、♯バイオカラー BSC)上に置き、当該塗膜側から、色彩色差計(コニカミノルタ株式会社製「CR-400」)を用いて色差を測定した。色彩色差計の白色校正を行ってから、PETフィルム上の未塗布部分(ブランク)と、塗布部分のそれぞれについて、L表色系におけるL値、a値及びb値を測定した。塗布部分を2回測定した平均値を用い、以下の計算式からブランクと塗布部分の色差ΔEを算出した。ΔEの値が小さいほど、肌の色からの乖離が少なく、肌なじみが良いことを表す。
【0062】
【数1】
【0063】
ここで、L 、a 及びb はブランクのL値、a値及びb値を、L 、a 及びb は塗布部分のL値、a値及びb値を表す。
【0064】
(8)乳化製剤の官能評価(使用感、白さ、青み、透明感)
10人のパネラーが、日光の下で乳化製剤を前腕部の肌に塗布し、使用感を評価すると共に、見る角度を変えながら目視で白さ、青み及び透明感を評価した。青みの評価については、特に、静脈が青く透けて見える部分での青みを観察した。
【0065】
実施例1
硫酸チタニル(TiOSO)の水溶液を100℃に加熱して加水分解し、含水酸化チタン(二酸化チタン水和物)(TiO・nHO)を析出させてスラリーを得た。このスラリーをろ過して得られたケーキを水で洗浄して、含水酸化チタンのケーキ35kg(TiO換算で10kg)を得た。得られた含水酸化チタンは、アナタース型結晶を含むものである。このケーキに、48質量%水酸化ナトリウム水溶液70kgを撹拌しながら加えた後に加熱し、95~105℃の温度範囲で2時間撹拌してチタン酸ナトリウム(NaTi)のスラリーを得た。このスラリーをろ過して得られたケーキを十分に水で洗浄し、チタン酸ナトリウムのケーキを得た。得られたケーキに水を加えて、TiO換算で170g/Lのチタン酸ナトリウムを含むスラリーを得た。
【0066】
前記チタン酸ナトリウムを含むスラリーに、35質量%塩酸14.0kgを加えて加熱し、80℃で10分間熟成した。熟成後のスラリーを水で希釈して、TiO換算で70g/Lの酸化チタンを含むスラリーを得た。得られた酸化チタンは、ルチル型結晶を含むものである。この酸化チタンスラリーを80℃に昇温し、アンモニア水でpH7.0に調整してから、30分間熟成した。熟成完了後、アンモニア水又は塩酸でpH7.0に再調整したスラリーをろ過、洗浄して、酸化チタンのケーキを得た。このケーキを110℃で乾燥してから、衝撃式粉砕機で粉砕し、0.3mmのふるいを通して酸化チタン粉体(焼成前)を得た。この酸化チタン粉体の、平均短軸長さは6nmであり、平均アスペクト比は3.5であった。また、BET法によって測定した比表面積は204m/gであり、色彩色差計で測定したL値は97.99、a値は-0.53、b値は2.41であった。以上の評価結果を、表1にまとめて示す。
【0067】
得られた酸化チタン粉体(焼成前)を、空気を遮断しない蓋付きるつぼに入れて、大気雰囲気下で箱型電気炉(光洋サーモシステム株式会社製「KBF828N1」)を使用して、比表面積が約80m/gになるように、380℃で120分間焼成した。得られた焼成品を衝撃式粉砕機で粉砕し、0.3mmのふるいを通して、比表面積が82.0m/gの酸化チタン粉体(焼成後)を得た。また、同様の操作において、比表面積が約60m/gになるように、焼成温度を480℃に変更することによって、比表面積が60.3m/gの酸化チタン粉体(焼成後)も得た。
【0068】
こうして得られた酸化チタン粉体(焼成後)を用いて、上記方法に従って分析及び評価を行った。比表面積が約80m/gの酸化チタン粉体(焼成後)のX線回折測定のチャートを図1に示す。アナタース型結晶のピークは検出されず、ルチル型結晶のピーク強度(I)に対するアナタース型結晶のピーク強度(I)の比(I/I)は0.03未満であった。また、比表面積が約60m/gの酸化チタン粉体(焼成後)のX線回折測定でも、アナタース型結晶のピークは検出されなかった。さらに、以降に示す実施例2~4及び比較例1~2で得られた酸化チタン粉体(焼成後)の全てにおいても、アナタース型結晶のピークは検出されなかった。
【0069】
比表面積が約80m/gの酸化チタン粉体(焼成後)のESCA測定のチャートを図2に示す。エッチング前(Ar-0秒)には、結合エネルギー400eV付近にピークが観察され、15秒及び30秒のエッチング後(Ar-15秒、Ar-30秒)には、結合エネルギー397eV付近の大きいピークと400eV付近の小さいピークが観察された。いずれのピークも、窒素原子に由来するピークであった。
【0070】
また、比表面積が約60m/gの酸化チタン粉体(焼成後)のESCA測定のチャートを図3に示す。エッチング前(Ar-0秒)には、結合エネルギー400eV付近に窒素原子に由来するピークが観察されたが、15秒及び30秒のエッチング後(Ar-15秒、Ar-30秒)には、結合エネルギー395~402eVの範囲内にピークは観察されなかった。
【0071】
比表面積が約80m/gの酸化チタン粉体(焼成後)の透過型電子顕微鏡(TEM)写真を図5に示す。TEM写真に基づいて画像処理して算出した平均短軸長さは12.7nmであり、平均アスペクト比は1.60であった。また、比表面積が約60m/gの酸化チタン粉体(焼成後)の透過型電子顕微鏡(TEM)写真を図6に示す。TEM写真に基づいて画像処理して算出した平均短軸長さは22.4nmであり、平均アスペクト比は1.54であった。
【0072】
色彩色差計で測定した比表面積が約80m/gの酸化チタン粉体(焼成後)のL値は96.04、a値は-1.66、b値は7.93であった。また、比表面積が約60m/gの酸化チタン粉体(焼成後)のL値は96.58、a値は-1.37、b値は7.58であった。
【0073】
また、分光光度計で測定した、比表面積が約80m/gの酸化チタン粉体(焼成後)の吸光度のグラフを、比較例2で得られた比表面積が約80m/gの酸化チタン粉体(焼成後)の吸光度とともに図7に示す。実施例1の酸化チタン粉体は、450nm付近に特徴的な吸収を有しているが、アンモニアで中和しなかった比較例2では450nm付近の吸収を有していなかった。
【0074】
比表面積が約80m/gの酸化チタン粉体(焼成後)の、320nmの吸光度は1.041であり、450nmの吸光度は0.088であり、600nmの吸光度は0.014であった。したがって、比(A450/A320)は0.085であった。また、比表面積が約60m/gの酸化チタン粉体(焼成後)の、320nmの吸光度は1.034であり、450nmの吸光度は0.081であり、600nmの吸光度は0.007であった。したがって、比(A450/A320)は0.078であった。以上の評価結果について、比表面積が約80m/gの酸化チタン粉体(焼成後)については表2に、約60m/gの酸化チタン粉体(焼成後)については表3に、それぞれまとめて示す。
【0075】
(ラッカーワニスの調製)
以下の材料を均一に混合し、ラッカーワニス3500gを作製した。このときのニトロセルロース(NC)の固形分濃度は10質量%であった。
・ニトロセルロース(H1/2):500g
(キシダ化学株式会社製 固形分濃度約70質量%)
・酢酸n-ブチル:1050g
・酢酸エチル:700g
・エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル:350g
・トルエン:900g
【0076】
(ニトロセルロース塗料の調製)
こうして得られたラッカーワニス40g、比表面積が約80m/gの酸化チタン粉体(焼成後)1.714g及び分散メディアとしてのφ0.5mmジルコニアビーズ(株式会社シンマルエンタープライゼス製)130gを100mLのボトル(ニッコーハンセン株式会社製:Jボトル丸形広口)に入れ、ペイントコンディショナー(RED DEVIL社製「1400-OH」)で90分間分散したのち、ジルコニアビーズを分離し、塗料を作製した。得られた塗料では、固形分全体に対して酸化チタンが30質量%含まれていた。
【0077】
(ニトロセルロース塗膜の形成と評価)
こうして得られた塗料を、ワイヤーバー(No.22)が装着された自動バーコーターを用いてPETフィルム(パナック社製:ルミラー100T60)上に塗布し、室温で24時間乾燥させ、塗膜を形成した。形成した塗膜の、バイオスキンとの色差ΔEを、上記方法に従って評価した。その結果、ΔEは9.6であった。また、比表面積が約60m/gの酸化チタン粉体を用いて同様に塗料および塗膜を作製して評価したところ、ΔEは10.2であった。
【0078】
(表面処理)
比表面積が約80m/g又は比表面積が約60m/gの酸化チタン粉体(焼成後)に水を加え、TiO換算で70g/Lの酸化チタンスラリーを得た。この酸化チタンスラリーを85℃まで昇温し、ポリ塩化アルミニウム(PAC:[Al(OH)Cl6-n)の10質量%水溶液を添加してから10分間熟成した。PACの添加量は、比表面積約80m/gの酸化チタン粉体100質量部に対してはAlとして6質量部、比表面積約60m/gの酸化チタン粉体100質量部に対してはAlとして4質量部となる量であった。48質量%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを6.0に調整してから30分間熟成し、ステアリン酸ナトリウムを添加した。ステアリン酸ナトリウムの添加量は、比表面積約80m/gの酸化チタン粉体100質量部に対して7質量部となる量、比表面積約60m/gの酸化チタン粉体100質量部に対して5質量部となる量であった。ステアリン酸ナトリウムを添加して60分間熟成した後50質量%硫酸でpHを6.0に調整し、さらに30分間熟成して得られたスラリーを濾過し、水で洗浄して、水酸化アルミニウムとステアリン酸(又はステアリン酸アルミニウム)の層で被覆された酸化チタンのケーキを得た。このケーキを110℃で乾燥してから、衝撃式粉砕機で粉砕し、0.3mmのふるいを通して、表面が被覆された酸化チタン粉体を得た。得られた粉体中の酸化チタン粒子は、水酸化アルミニウムとステアリン酸(又はステアリン酸アルミニウム)の層で被覆されたものであった。このようにして表面処理された酸化チタン粉体に含まれる粒子の平均短軸長さ及び平均アスペクト比は、表面処理される前の酸化チタン粉体とほとんど同じであった。
【0079】
こうして得られた、表面が被覆された比表面積約80m/gと比表面積約60m/gの酸化チタン粉体を用いて、酸化チタン濃度25質量%の乳化製剤を調製した。また、表面が被覆された比表面積約60m/gの酸化チタン粉体を用いて、酸化チタン濃度10質量%の乳化製剤を調製した。いずれの乳化製剤も化粧料を想定したものである。
【0080】
(濃度25質量%の乳化製剤)
以下に示す油相原料30.87g、表面が被覆された比表面積約80m/gの酸化チタン粉体22.05g及び分散メディアとしてのφ0.5mmジルコニアビーズ(株式会社シンマルエンタープライゼス製)130gを100mLのボトル(ニッコーハンセン株式会社製:Jボトル丸形広口)に入れ、ペイントコンディショナー(RED DEVIL社製、1400-OH)で5時間分散したのち、ジルコニアビーズを分離し、油相分散体を作製した。この油相分散体37.80gを100mLのポリプロピレン製カップに入れ、高速乳化・分散機(プライミクス株式会社製「T.K.ロボミックス」)を用いて、撹拌速度3000rpmで撹拌しながら、以下に示す水相原料の混合物25.2gを加え、3000rpmのままで5分間撹拌して、乳化製剤を作製した。
(油相原料)
・シクロペンタシロキサン21.07g:信越化学工業株式会社製「KF-995」
・流動パラフィン4.9g:株式会社MORESCO製「モレスコホワイト P-70」
・PEG-9ジメチコン4.9g:信越化学工業株式会社製「KF-6019」
(水相原料)
・イオン交換水17.53g
・1,3-ブチレングリコール7.67g
【0081】
こうして得られた濃度25質量%の乳化製剤を、ワイヤーバー(No.6)が装着された自動バーコーターを用いてPETフィルム(パナック社製:ルミラー100T60)上に塗布し、室温で24時間静置して乾燥させ、塗膜を形成した。形成した塗膜の、バイオスキンとの色差ΔEを、上記方法に従って評価した。その結果、ΔEは4.8であった。また、表面が被覆された比表面積約60m/gの酸化チタン粉体を用いて同様に濃度25質量%の乳化製剤を作成して同様に評価したところ、ΔEは6.4であった。
【0082】
(濃度10質量%の乳化製剤)
以下に示す油相原料38.50g、表面が被覆された比表面積約60m/gの酸化チタン粉体8.75g及び分散メディアとしてのφ0.5mmジルコニアビーズ(株式会社シンマルエンタープライゼス製)130gを100mLのボトル(ニッコーハンセン株式会社製:Jボトル丸形広口)に入れ、ペイントコンディショナー(RED DEVIL社製、1400-OH)で5時間分散したのち、ジルコニアビーズを分離し、油相分散体を作製した。この油相分散体37.80gを100mLのポリプロピレン製カップに入れ、高速乳化・分散機(プライミクス株式会社製「T.K.ロボミックス」)を用いて、撹拌速度3000rpmで撹拌しながら、以下に示す水相原料の混合物32.2gを加え、3000rpmのままで5分間撹拌して、乳化製剤を作製した。この乳化製剤の粘度を、B型粘度計を用いて、No.2ローター、25℃、60rpmの条件において測定したところ、72mPa・sであった。
(油相原料)
・ジメチコン29.75g:信越化学工業株式会社製「KF-96L-1.5cs」
・流動パラフィン4.375g:株式会社MORESCO製「モレスコホワイト P-70」
・PEG-9ポリジメチルシロキシエチルジメチコン4.375g:信越化学工業株式会社製「KF-6028P」
(水相原料)
・イオン交換水22.4g
・1,3-ブチレングリコール9.8g
【0083】
こうして得られた濃度10質量%の乳化製剤を、ワイヤーバー(No.6)が装着された自動バーコーターを用いてPETフィルム(パナック社製:ルミラー100T60)に塗布し、塗膜を形成した。この塗膜について、塗布直後のバイオスキンとの色差ΔEを上記方法にしたがって測定したところ6.4であったが、室温で24時間静置して乾燥させた後の色差ΔEは4.0となった。ここで、市販品の酸化チタン粉体を使用した比較例3の乳化製剤では、塗布直後の色差ΔEは本実施例の乳化製剤と同じ6.4であったが、乾燥後の色差ΔEは本実施例の乳化製剤よりも大きい4.4であった。このことから、本実施例の乳化製剤は、従来品に比べて、乾燥後に透明感が向上することがわかった。
【0084】
また、この乳化製剤を、ワイヤーバー(No.6)が装着された自動バーコーターを用いてポリプロピレンフィルム(三井化学東セロ株式会社製:無地OPPシート♯40)に塗布し、塗膜を形成した。この塗膜の光線透過率を、分光光度計(株式会社日立ハイテクノロジーズ製「U-4100」、積分球使用)を用い、以下の条件で測定した。波長に対する透過率をプロットしたグラフを、比較例3の乳化製剤の透過率とともに図8に示す。市販の酸化チタン粉体を用いた比較例3に比べて、UVA(320~400nm)の遮蔽効果が大きいことがわかる。また、400nmでの透過率が66.0%であり、450nmでの透過率が78.9%であり、透過率が50%となる波長が374nmであった。
・スキャンスピード:300nm/分
・サンプリング間隔:2nm
・測定波長:250~700nm
【0085】
また、得られた乳化製剤の使用感、白さ、青み及び透明感を、上記方法に従って評価し、本実施例の乳化製剤と、市販品の酸化チタン粉体を使用した比較例3の乳化製剤のいずれが優れているかを投票した。その結果、本実施例の乳化製剤は、比較例3の乳化製剤に比べて粘度が低く、肌に滴下した直後から乳化製剤が塗り広がりやすく、更には粉体特有のきしみ感が大幅に低減されていることから、10人のパネラー全員が、良好な使用感であると判断した。また、塗り広げて乾燥した後の白さ、青み及び透明感についても、10人のパネラー全員が、本実施例の酸化チタン粉体を使用した乳化製剤の方が白さや青みが抑えられており、透明感があると判断した。
【0086】
さらに、乳化製剤の粘度を比較例3の乳化製剤の粘度に近づけるために、油相原料を以下に示すとおりに変更した以外は上記と同様にして、濃度10質量%の乳化製剤を作製した。調整後の粘度を、B型粘度計を用いて、No.3ローター、25℃、60rpmの条件において測定したところ、1278mPa・sであった。
(油相原料)
・ジメチコン28.33g:信越化学工業株式会社製「KF-96L-1.5cs」
・流動パラフィン4.375g:株式会社MORESCO製「モレスコホワイト P-70」
・PEG-9ポリジメチルシロキシエチルジメチコン4.375g:信越化学工業株式会社製「KF-6028P」
・ステアリン酸アルミニウム1.42g
【0087】
粘度調整後の乳化製剤を、PMMAプレート上に1.3mg/cmの量均一に塗布した後、室温で30分間自然乾燥させ、SPFアナライザー(Optometrics社、Labsphere UV-2000S)を用いてSPFおよびUVAPFを測定した。その結果、SPFは12.6であり、UVBを効果的に遮蔽することがわかった。また、UVAPFは4.7であり、UVAも効果的に遮蔽することがわかった。以上の評価結果を表4にまとめて示す。
【0088】
実施例2
塩酸を加えた後のスラリーを、100~105℃の範囲で30分間熟成した以外は実施例1と同様にして、酸化チタン粉体を製造し、分析及び評価した。評価結果をまとめて表1~3に示す。
【0089】
実施例3
塩酸を加えた後のスラリーを、50℃で20分間熟成した以外は実施例1と同様にして、酸化チタン粉体を製造し、分析及び評価した。評価結果をまとめて表1~3に示す。比表面積が約60m/gの酸化チタン粉体(焼成後)については、比表面積のみを測定した。
【0090】
比較例1
前記チタン酸ナトリウムを含むスラリーに、35質量%塩酸10.0kgを加えて加熱し、100~105℃の範囲で5時間熟成した以外は実施例1と同様にして、酸化チタン粉体を製造し、分析及び評価した。評価結果をまとめて表1~3に示す。
【0091】
比較例2
含窒素化合物を含浸させなかった例である。前記チタン酸ナトリウムを含むスラリーに、35質量%塩酸14.0kgを加えて加熱し、80℃で10分間熟成した。熟成後のスラリーを水で希釈して、TiO換算で70g/Lの酸化チタンを含むスラリーを得た。得られた酸化チタンは、ルチル型結晶を含むものである。この酸化チタンスラリーを80℃に昇温し、24質量%水酸化ナトリウム水溶液でpH6.4に調整してから、30分間熟成した。熟成完了後、24質量%水酸化ナトリウム水溶液又は塩酸でpH6.4に再調整したスラリーをろ過、洗浄して、酸化チタンのケーキを得た。このケーキを実施例1と同様にして、乾燥、粉砕、ふるい分けを行って、酸化チタン粉体(焼成前)を得た。以降の工程は実施例1と同様にして、酸化チタン粉体(焼成後)を製造し、分析及び評価した。評価結果をまとめて表1~3に示す。
【0092】
実施例4
焼成の直前にアンモニア水を噴霧した例である。比較例2と同様にして得られた乾燥後の酸化チタン粉体(焼成前)100質量部に対し、10質量部の24質量%アンモニア水を噴霧した以外は比較例2と同様にして、酸化チタン粉体(焼成後)を製造し、分析及び評価した。評価結果をまとめて表1~3に示す。
【0093】
比較例3
実施例1で製造した濃度10質量%の乳化製剤において、用いた表面被覆酸化チタン粉体の代わりに、市販の酸化チタン粉体(テイカ株式会社製:「MT-100Z」)を用いて、ペイントコンディショナーでの分散時間を2時間とした以外は同様の条件で乳化製剤を作製した。「MT-100Z」は、紡錘形状の粒子を含む酸化チタン粉体であり、その平均短軸長さが7.9nm、平均アスペクト比が4.0のものであり、実施例1と同様に、ポリ塩化アルミニウムとステアリン酸ナトリウムで表面処理をしたものである。この粉体のESCA測定のチャートを図4に示す。395~402eVにピークが観察されないことがわかる。ここで、分散時間を短縮した理由は、分散中に粘度が上昇したためであり、また、塗布直後の塗膜のバイオスキンとの色差ΔEが本発明品と同等(6.4)となったためである。この乳化製剤の粘度を、B型粘度計を用いて、No.3ローター、25℃、60rpmの条件において測定したところ、1492mPa・sであった。得られた乳化製剤を実施例1と同様に評価した結果を表4にまとめて示す。
【0094】
【表1】
【0095】
【表2】
【0096】
【表3】
【0097】
【表4】

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8