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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】移動体の監視装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/76 20060101AFI20241217BHJP
   G05D 3/12 20060101ALI20241217BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20241217BHJP
   B29C 45/17 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
B29C45/76
G05D3/12 X
B29C45/00
B29C45/17
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023531200
(86)(22)【出願日】2021-06-29
(86)【国際出願番号】 JP2021024573
(87)【国際公開番号】W WO2023275999
(87)【国際公開日】2023-01-05
【審査請求日】2024-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】小木曽 太郎
【審査官】田村 佳孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-131468(JP,A)
【文献】特開2004-139299(JP,A)
【文献】特開2016-194423(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/76
G05D 3/12
B29C 45/00
B29C 45/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向及び前記第1方向と反対方向となる第2方向に往復運動する移動体の監視装置であって、
移動体の位置を検出し、位置情報として出力する位置検出部と、
移動体が特定の位置を通過したことを検出する近接センサと、
前記第1方向へ移動した移動体が前記近接センサで検出されたときの移動体の位置を第1位置情報として記憶し、前記第2方向へ移動した移動体が前記近接センサで検出されたときの移動体の位置を第2位置情報として記憶する第1記憶部と、
前記第1記憶部に記憶された少なくとも1つの前記第1位置情報と少なくとも1つの前記第2位置情報とに基づいて、監視時における前記近接センサの検出領域の定点位置を定点位置情報として算出する算出部と、
基準定点位置情報を記憶する第2記憶部と、
移動体の監視時に前記算出部で算出された前記定点位置情報と前記第2記憶部に記憶された前記基準定点位置情報との偏差が規定範囲から外れる場合、移動体の位置ずれ量が許容値を超えたと判定する監視部と、
を備える移動体の監視装置。
【請求項2】
前記第2記憶部は、定点位置の校正時に前記算出部で算出された定点位置情報を基準定点位置情報として記憶する、
請求項1に記載の監視装置。
【請求項3】
前記第1記憶部は、
前記第1方向へ移動した移動体が前記近接センサの検出領域に入ったことが前記近接センサで検出された場合、そのときの移動体の位置を第1位置情報として記憶し、
前記第2方向へ移動した移動体が前記近接センサの検出領域に入ったことが前記近接センサで検出された場合、そのときの移動体の位置を第2位置情報として記憶する、
請求項1又は2に記載の監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体の監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械、産業用ロボット、成形装置等の多くは、複数の可動部を備えている。例えば、射出成形機は、可動部として、射出装置、型締め装置、エジェクタ装置等を備えている。これら可動部には、モータの駆動力を移動体(駆動対象物)に伝達する動力伝達機構が設けられている。このような動力伝達機構として、射出成形機のエジェクタ装置において、1つのモータの駆動軸からタイミングベルトを介して複数の従動軸に駆動力を伝達し、従動軸に連結されたプーリを介してボールねじを駆動する機構が知られている(例えば、特許文献1参照)。本機構において、移動体は、ボールねじが駆動されることにより往復運動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-284931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような動力伝達機構において、タイミングベルトと従動プーリとの間に歯飛び(ジャンピング)が発生すると、モータ側のロータリエンコーダで検出される移動体の位置と、実際の移動体の位置との間に位置ずれが生じる。従来、移動体の位置ずれを検出するためのセンサとして、近接センサが多く用いられている。近接センサは、ボールねじの駆動により往復運動する移動体の移動経路に設けられる。
【0005】
近接センサは、比較的安価である反面、環境温度、電源電圧等により検出領域の大きさが変化する特性がある。近接センサの設置環境において、冬と夏との温度差が大きい場合、近接センサの検出距離の変化率は、例えば十数%程度となる。そのため、歯飛びにより生じる移動体の最小位置ずれ量が近接センサの変化率の範囲内である場合、移動体の位置ずれの有無を正確に判定することが難しいという課題がある。
【0006】
本発明の目的は、移動体の位置ずれの有無をより正確に判定できる移動体の監視装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、第1方向及び前記第1方向と反対方向となる第2方向に往復運動する移動体の監視装置であって、移動体の位置を検出し、位置情報として出力する位置検出部と、移動体が特定の位置を通過したことを検出する近接センサと、前記第1方向へ移動した移動体が前記近接センサで検出されたときの移動体の位置を第1位置情報として記憶し、前記第2方向へ移動した移動体が前記近接センサで検出されたときの移動体の位置を第2位置情報として記憶する第1記憶部と、前記第1記憶部に記憶された少なくとも1つの前記第1位置情報と少なくとも1つの前記第2位置情報とに基づいて、監視時における前記近接センサの検出領域の定点位置を定点位置情報として算出する算出部と、基準定点位置情報を記憶する第2記憶部と、移動体の監視時に前記算出部で算出された前記定点位置情報と前記第2記憶部に記憶された前記基準定点位置情報との偏差が規定範囲から外れる場合、移動体の位置ずれ量が許容値を超えたと判定する監視部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る移動体の監視装置によれば、移動体の位置ずれの有無をより正確に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】エジェクタ装置1のシステム構成を示すブロック図である。
図2】テーブル15を二方向に移動させたときの近接センサ22の動作を説明する図である。
図3】テーブル15を一方向に移動させたときの近接センサ22の動作を説明する図である。
図4】実施形態のエジェクタ装置1においてテーブル15の位置ずれを検出する処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る移動体の監視装置を、射出成形機のエジェクタ装置に適用した場合の実施形態について説明する。エジェクタ装置は、射出成形機において、型締め装置(不図示)の金型内から成形品を取り出す機能を備えた装置である。
【0011】
図1は、エジェクタ装置1のシステム構成を示すブロック図である。図2は、テーブル15を二方向に移動させたときの近接センサ22の動作を説明する図である。図3は、テーブル15を一方向に移動させたときの近接センサ22の動作を説明する図である。
【0012】
なお、本明細書に添付した図面は、いずれも模式図であり、理解しやすさ等を考慮して、各部の形状、縮尺、縦横の寸法比等を、実物から変更又は誇張している。また、本明細書等において、形状、幾何学的条件、これらの程度を特定する用語、例えば、「方向」の用語については、その用語の厳密な意味に加えて、概ねその方向とみなせる範囲を含む。
【0013】
図1に示すように、エジェクタ装置1は、可動機構10と、制御装置20とを備えている。
可動機構10は、モータ11、位置検出部12、動力伝達部13、ボールねじ14、テーブル(移動体)15を備えている。なお、図1において、可動機構10の構成は、本発明に係る移動体の監視装置の説明に必要な部分のみを示している。
【0014】
モータ11は、ボールねじ14を駆動するための回転力を発生する動力源である。モータ11は、サーボモータにより構成される。モータ11には、位置検出部12が設けられている。
位置検出部12は、テーブル15(後述)の位置を検出し、位置情報として出力する検出装置である。位置検出部12は、モータ11の回転に伴って発生するパルス数をカウントし、ボールねじ14上におけるテーブル15の位置情報を、モータ11の回転角に対応したパルス数として出力する。位置検出部12は、例えば、ロータリエンコーダにより構成される。位置検出部12から出力された位置信号は、制御部21にセミクローズドフィードバック信号として送信されるほか、第1記憶部25に送信される。
【0015】
動力伝達部13は、モータ11で発生した回転力をボールねじ14に伝達する機構である。動力伝達部13は、駆動プーリ131、従動プーリ132及びタイミングベルト133を備えている。駆動プーリ131は、モータ11の駆動軸に設けられたプーリである。従動プーリ132は、ボールねじ14と連結されたプーリである。なお、従動プーリ132は、ボールねじ14に対して複数設けられることが多いが、図1では、構成を簡略化して、ボールねじ14に対して1つの従動プーリ132が連結される構成を示している。タイミングベルト133は、駆動プーリ131の回転力を従動プーリ132に伝達する無端ベルトである。タイミングベルト133は、駆動プーリ131と従動プーリ132との間に掛け渡されている。
【0016】
ボールねじ14は、モータ11により生じる回転運動を直進運動に変換する機構である。ボールねじ14には、テーブル15が連結されている。モータ11の回転を制御して、ボールねじ14を正回転又は逆回転させることにより、テーブル15を往復運動させることができる。なお、本明細書等では、テーブル15の移動方向をX方向とする。X方向において、テーブル15が従動プーリ132から離れる方向をX1方向(第1方向)、X1方向と反対方向となる、テーブル15が従動プーリ132に近づく方向をX2方向(第2方向)として説明する。また、本明細書等では、「~方向」を、適宜に「~側」ともいう。
【0017】
テーブル15は、金型内に出入りするエジェクタロッド(不図示)と連結された移動体である。テーブル15がX1方向に移動すると、エジェクタロッドの先端部が前進して金型内に突き出され、金型内から成形品が押し出される。テーブル15がX2方向に移動すると、エジェクタロッドの先端部は、金型内の所定位置まで後退する。このように、テーブル15の往復運動に連動してエジェクタロッドが前進/後退することにより、成形の1サイクル毎に金型内から成形品を取り出すことができる。なお、図1では、テーブル15の原点位置となる基点を「X00」、X1方向に移動したテーブル15の折り返し位置となる終点を「X0Z」でそれぞれ表している。また、図1では、テーブル15が基点X00と終点X0Zに位置している状態をそれぞれ模式的に示している。
【0018】
制御装置20は、制御部21、近接センサ22、検出部23、指令生成部24、第1記憶部25、算出部26、第2記憶部27、定点位置選択部28及び監視部29を備えている。図1において、位置検出部12、近接センサ22、第1記憶部25、算出部26、第2記憶部27及び監視部29は、本実施形態において、移動体の監視装置2を構成する。
【0019】
制御部21は、指令生成部24で生成された動作指令に基づいて、モータ11の駆動を制御する制御ユニットであり、CPU(中央処理装置)、メモリ等を含むマイクロプロセッサにより構成される。なお、制御部21の機能は、ハードウェアとソフトウェアとの協働で実現されてもよいし、ハードウェア(電子回路)のみで実現されてもよい。
【0020】
近接センサ22は、テーブル15がボールねじ14上の特定の位置を通過したことを非接触で検出するセンサである。近接センサ22から出力される信号は、検出結果に応じてON(動作)又はOFF(復帰)のいずれかのレベルに変化する。テーブル15が近接センサ22の検出領域(後述)に入ると、近接センサ22から出力される信号は、ONレベルとなる。一方、テーブル15が近接センサ22の検出領域から離れると、近接センサ22から出力される信号は、OFFレベルとなる。なお、本明細書等においては、図2及び図3(後述)に示すように、近接センサ22の中心を通る線を「基準軸CX」として説明する。
【0021】
検出部23は、近接センサ22から出力される信号のレベル(ON/OFF)に基づいて、テーブル15が近接センサ22へ近づいたか、離れたかを検出する。検出部23は、近接センサ22から出力される信号がOFFレベルからONレベルに変化した場合、指令生成部24及び第1記憶部25に検出信号を送信する。
【0022】
指令生成部24は、制御部21がモータ11を駆動するための動作指令を生成する。指令生成部24には、エジェクタ装置1の動作を記述した動作プログラムが与えられる。指令生成部24は、与えられた動作プログラムに基づいて、動作指令を生成する。例えば、指令生成部24は、テーブル15が近接センサ22に近づくように、モータ11によりボールねじ14を駆動させる動作指令を作成する。また、指令生成部24は、テーブル15が近接センサ22から離れるように、モータ11によりボールねじ14を駆動させる動作指令を作成する。指令生成部24で生成された動作指令は、制御部21へ送信される。指令生成部24から制御部21へ動作指令が送信されることにより、モータ11の回転方向、回転速度、回転量(回転角)等が制御される。これにより、成形の1サイクルにおいて、テーブル15に連結されたエジェクタロッド(不図示)の前進/後退が制御される。
【0023】
第1記憶部25は、テーブル15の位置情報等を記憶する記憶装置である。第1記憶部25には、ボールねじ14によりX1方向(第1方向)へ移動したテーブル15が近接センサ22で検出されたときの位置が第1位置情報として記憶される。第1記憶部25には、ボールねじ14によりX2方向(第2方向)へ移動したテーブル15が近接センサ22で検出されたときの位置が第2位置情報として記憶される。また、第1記憶部25には、監視部29において、算出部26で算出された定点位置情報と第2記憶部27に記憶された基準定点位置情報との偏差の大きさを判定する際に使用される規定範囲に関する情報が記憶される。なお、規定範囲に関する情報は、第1記憶部25に限らず、監視部29に記憶されていてもよいし、他の記憶部に記憶されていてもよい。
【0024】
第1記憶部25は、検出部23から検出信号を受信した時点において、位置検出部12から送信されたテーブル15の位置を示す位置情報を第1位置情報として記憶する。第2位置情報についても同様である。なお、第1記憶部25には、第1位置情報及び第2位置情報を一組記憶してもよいし、複数組記憶してもよい。第1位置情報及び第2位置情報を複数組記憶するとは、テーブル15を連続して複数回に亘り往復運動させて、一往復ごとに第1位置情報と第2位置情報とを関連付けて記憶することをいう。
【0025】
前述のように、近接センサ22の検出領域Sの大きさは、環境温度、電源電圧等により変化する。図2は、大きさが異なる2つの検出領域Sにおいて、テーブル15を二方向(X1方向及びX2方向)に往復運動させた場合に、近接センサ22から出力される信号のレベル変化を示している。図2の上図は、近接センサ22の検出領域Sが大きい場合における信号のレベル変化を示している。図2の下図は、近接センサ22の検出領域Sが小さい場合における信号のレベル変化を示している。なお、図2の上図と下図において、信号のレベル変化を示すタイミングチャートの時間軸は一致している。
【0026】
図2においては、近接センサ22の検出領域Sの範囲を実線と破線とで示している。検出領域Sにおいて、実線の部分は、近接センサ22がONレベルになる範囲を示している。また、破線の部分は、近接センサ22がOFFレベルになる範囲を示している。図2に示すように、近接センサ22から出力される信号は、テーブル15が近接センサ22に近づいて、検出領域Sの実線の範囲に入ることでONレベルとなり、テーブル15が近接センサ22から離れて、検出領域Sの破線の範囲から外れることでOFFレベルとなる。
【0027】
図2に示すように、基点側(X2側)からX1方向に移動したテーブル15が位置X11で近接センサ22に検出されると、近接センサ22から出力される信号は、位置X11において、OFFレベルからONレベルに変化する。第1記憶部25には、テーブル15が近接センサ22で検出されたときの位置X11が第1位置情報として記憶される。テーブル15が更に近接センサ22からX1方向に離れ、近接センサ22で検出されなくなると、近接センサ22から出力される信号は、ONレベルからOFFレベルに変化する。
【0028】
一方、終点側(X1側)からX2方向に移動したテーブル15が位置X21で近接センサ22により検出されると、近接センサ22から出力される信号は、位置X21において、OFFレベルからONレベルに変化する。第1記憶部25には、テーブル15が近接センサ22で検出されたときの位置X21が第2位置情報として記憶される。テーブル15が更に近接センサ22からX2方向に離れ、近接センサ22で検出されなくなると、近接センサ22から出力される信号は、ONレベルからOFFレベルに変化する。
なお、図2の上図と下図において、検出領域Sの大きさと近接センサ22から出力される信号のレベル変化との関係については後述する。
【0029】
算出部26は、第1記憶部25に記憶された第1位置情報と第2位置情報とに基づいて、位置ずれ監視時における近接センサ22の検出領域Sの定点位置を定点位置情報として算出する。定点位置は、図2の上図においては、符号X01の位置となり、図2の下図において、符号X02の位置となる。以下、定点位置X01、X02を総称して「定点位置X0k」ともいう。算出部26において、定点位置X0kは、第1位置情報で表されるテーブル15の位置と第2位置情報で表されるテーブル15の位置との平均値として算出される。算出部26で算出された定点位置情報は、監視部29に送信される。
【0030】
なお、算出部26において、複数組の第1位置情報及び第2位置情報に基づいて定点位置情報を算出する場合、算出部26は、第1記憶部25に第1位置情報と第2位置情報とが必要数揃ったときに、これらの位置情報に基づいて定点位置情報を算出する。例えば、複数組の第1位置情報及び第2位置情報において、各組毎にそれぞれ定点位置を算出し、複数の定点位置の平均値を最終的な定点位置情報としてもよい。
【0031】
例えば、図2の上図において、X1方向に移動したテーブル15が位置X11で近接センサ22に検出された場合に、基点(図1の位置X00)から位置X11までの距離を500mmとする。そして、終点で折り返した後、X2方向に移動したテーブル15が位置X21で近接センサ22に検出された場合に、基点から位置X21までの距離を800mmとすると、算出部26で算出される定点位置X01は、650mmとなる。
同様に、図2の下図において、X1方向に移動したテーブル15が位置X12で近接センサ22に検出された場合に、基点から位置X12までの距離を600mmとする。そして、終点で折り返した後、X2方向に移動したテーブル15が位置X22で近接センサ22に検出された場合に、基点から位置X22までの距離を700mmとすると、算出部26で算出される定点位置X02は、650mmとなる。
【0032】
図2に示すように、近接センサ22の検出領域Sの大きさが環境温度、電源電圧等により変化した場合でも、検出領域Sの形状が基準軸CXに対して線対称であれば、検出領域Sの大きさにかかわらず、定点位置X0kは、同じ位置となる(X01=X02)。このような特性は、図2に示すように、テーブル15と近接センサ22との間の距離L1とL2が同じで、近接センサ22の検出領域Sの大きさが変化した場合だけでなく、検出領域Sの大きさが同じで、テーブル15と近接センサ22との間の距離L1とL2が変化(L1>L2又はL1<L2)した場合も同様となる。
【0033】
ここで、比較のため、テーブル15を一方向に移動させたときの近接センサ22の動作について説明する。図3は、テーブル15を一方向(例えば、X1方向)に移動させた場合に、近接センサ22から出力される信号のレベル変化を示している。図3の上図は、近接センサ22の検出領域Sが大きい場合における信号のレベル変化を示している。図3の下図は、近接センサ22の検出領域Sが小さい場合における信号のレベル変化を示している。図3の上図と下図においても、信号のレベル変化を示すタイミングチャートの時間軸は一致している。
【0034】
図3の上図において、基点側からX1方向に移動したテーブル15が位置X11で近接センサ22により検出されると、近接センサ22から出力される信号は、位置X11において、OFFレベルからONレベルに変化する。本検出例においては、テーブル15が近接センサ22で検出されたときの位置X11が第1位置情報となる。この後、テーブル15が近接センサ22からX1方向に離れ、近接センサ22で検出されなくなると、近接センサ22から出力される信号は、ONレベルからOFFレベルに変化する。本検出例では、X1方向に移動させたテーブル15が近接センサ22で検出されなくなった位置X11aが第2位置情報となる。
【0035】
図3の上図に示す動作例において、第1位置情報で表されるテーブル15の位置X11と第2位置情報で表されるテーブル15の位置X11aとの平均値を算出すると、定点位置はX01aとなる。ここで、図3の上図には示していないが、終点側(X1側)からX2方向に近接センサ22を移動させたときに、テーブル15が近接センサ22で検出される位置を、図2の上図と同じく位置X21とすると、応差はD1となる。応差とは、テーブル15が近接センサ22に近づいたときに信号レベルがONになる位置と、テーブル15が近接センサ22から離れたときに信号レベルがOFFになる位置との差をいう。応差の影響については、後述する。
【0036】
一方、図3の下図において、基点側からX1方向に移動したテーブル15が位置X12で近接センサ22により検出されると、近接センサ22から出力される信号は、位置X12において、OFFレベルからONレベルに変化する。本検出例においては、テーブル15が近接センサ22で検出されたときの位置X12が第1位置情報となる。この後、テーブル15が近接センサ22からX1方向に離れ、近接センサ22で検出されなくなると、近接センサ22から出力される信号は、ONレベルからOFFレベルに変化する。本検出例では、X1方向に移動させたテーブル15が近接センサ22で検出されなくなった位置X12aが第2位置情報となる。
【0037】
図3の下図に示す動作例において、第1位置情報で表されるテーブル15の位置X12と、第2位置情報で表されるテーブル15の位置X12aとの平均値を算出すると、定点位置はX02aとなる。ここで、図3の下図には示していないが、終点側(X1側)からX2方向に近接センサ22を移動させたときに、テーブル15が近接センサ22で検出される位置を、図2の下図と同じく位置X22とすると、応差はD2となる。
【0038】
図3の上図と下図とを比較すると、上図の条件で算出された定点位置X01aと、下図の条件で算出された定点位置X02aとは同じ位置にならず、応差の変化量(D1-D2)の1/2倍だけ位置がずれる。これは、検出領域Sの大きさの変化に比例して、応差も変化(D1>D2)するためである。テーブル15を一方向に移動させたときに検出した第1位置情報と第2位置情報とに基づいて定点位置を算出すると、検出領域Sの大きさが変化した場合、応差の影響を受けて定点位置がずれてしまう。このように、本検出例においては、環境温度、電源電圧等の影響により検出領域Sの大きさが変化した場合に、テーブル15の位置ずれの検出精度が低下することになる。
【0039】
一方、本実施形態において、算出部26は、図2に示すように、テーブル15を二方向に往復運動させたときに検出した第1位置情報と第2位置情報とに基づいて定点位置を算出する。これによれば、検出領域Sの大きさが変化した場合でも、応差の影響を受けることなしに定点位置を正確に算出できるため、テーブル15の位置ずれの検出精度を向上させることができる。
【0040】
再び、図1に戻って説明する。第2記憶部27は、定点位置の校正時に算出部26で算出された定点位置情報を基準定点位置情報として記憶する。定点位置の校正とは、定点位置のずれを監視する作業を行う前に、基準となる正しい定点位置を登録する作業をいう。定点位置の校正時としては、例えば、エジェクタ装置1のセットアップ時が挙げられる。エジェクタ装置1のセットアップ時に、動力伝達部13の各部を正常な状態に調整した上で、テーブル15を試験的に一往復又は複数往復させて第1及び第2位置情報を検出し、これらの位置情報に基づいて定点位置を算出することにより、基準定点位置情報を得ることができる。第2記憶部27に記憶された基準定点位置情報は、所定のタイミングで監視部29に読み出される。
【0041】
なお、基準定点位置情報は、必ずしも算出部26で算出された値でなくてもよい。校正時に、外部測定機器を用いて、基点X00から基準軸CX(図2参照)までの距離を測定し、その結果を基準定点位置情報として第2記憶部27に記憶させてもよい。外部測定機器としては、例えば、レーザ変位計を用いることができる。或いは、テーブル15を基準軸CXに停止させた状態で位置検出部12の基点X00を設定してもよい。一般に、基点X00の座標値は0(ゼロ)とされるため、基準定点位置情報は0であり、第2記憶部27にも0を記録させればよい。
【0042】
定点位置選択部28は、算出部26と第2記憶部27との導通と、算出部26と監視部29との導通とを切り替える。定点位置選択部28において、算出部26と第2記憶部27との導通に切り替えられると、定点位置の校正時において、算出部26により算出された基準定点位置情報が第2記憶部27に記憶される。一方、定点位置選択部28において、算出部26と監視部29との導通に切り替えられると、位置ずれ監視時において、算出部26により算出された点位置情報が監視部29に送信される。
【0043】
監視部29は、算出部26で算出された定点位置情報と、第2記憶部27に記憶された基準定点位置情報との偏差が規定範囲から外れるか否かを判定する。監視部29は、算出部26から取得した定点位置情報と第2記憶部27から取得した基準定点位置情報との偏差が規定範囲内であると判定した場合、射出成形機を制御する上位装置(不図示)に対して、正常(テーブル15の位置ずれなし)を通知する。一方、監視部29は、算出部26から取得した定点位置情報と第2記憶部27から取得した基準定点位置情報との偏差が規定範囲から外れると判定した場合、すなわちテーブル15の位置ずれ量が許容値を超えたと判定した場合、射出成形機を制御する上位装置に対して、異常(テーブル15の位置ずれあり)を通知する。この後、上位装置において、所定の異常処理が行われる。
【0044】
次に、本実施形態のエジェクタ装置1において、テーブル15の位置ずれを検出する処理の手順について説明する。図4は、本実施形態のエジェクタ装置1において、テーブル15の位置ずれを検出する処理の手順を示すフローチャートである。
なお、ボールねじ14によるテーブル15の往復運動は、指令生成部24により生成された動作指令が制御部21へ送信されることにより実行されるため、ここでは説明を省略する。
【0045】
ステップS101において、検出部23は、近接センサ22から出力される信号がOFFレベルからONレベルに変化したか否かを判定する。ステップS102において、検出部23により、近接センサ22から出力される信号がOFFレベルからONレベルに変化したと判定された場合、処理はステップS102へ移行する。一方、ステップS101において、検出部23により、近接センサ22から出力される信号がOFFレベルからONレベルに変化していないと判定された場合、処理はステップS101へ移行する。
【0046】
ステップS102(ステップS101:YES)において、検出部23は、指令生成部24及び第1記憶部25へ検出信号を送信する。これにより、第1記憶部25に第1位置情報が記憶される。
【0047】
ステップS103において、検出部23は、近接センサ22から出力される信号がOFFレベルからONレベルに変化したか否かを判定する。ステップS103において、検出部23により、近接センサ22から出力される信号がOFFレベルからONレベルに変化したと判定された場合、処理はステップS104へ移行する。一方、ステップS103において、検出部23により、近接センサ22から出力される信号がOFFレベルからONレベルに変化していないと判定された場合、処理はステップS103へ移行する。
【0048】
ステップS104(ステップS103:YES)において、検出部23は、指令生成部24及び第1記憶部25へ検出信号を送信する。これにより、第1記憶部25に第2位置情報が記憶される。
【0049】
ステップS105において、算出部26は、第1記憶部25に第1位置情報及び第2位置情報が必要数記憶されたか否かを判定する。ステップS105において、算出部26により、第1記憶部25に第1位置情報及び第2位置情報が必要数記憶されたと判定された場合、処理はステップS106へ移行する。ステップS105において、算出部26により、第1記憶部25に第1位置情報及び第2位置情報が必要数記憶されていないと判定された場合、処理はステップS101へ移行する。
【0050】
ステップS106において、算出部26は、第1記憶部25に記憶された第1位置情報と第2位置情報とに基づいて、位置ずれ監視時における近接センサ22の検出領域Sの定点位置を定点位置情報として算出し、監視部29に送信する。
【0051】
ステップS107において、監視部29は、算出部26で算出された定点位置情報と、第2記憶部27に記憶された基準定点位置情報との偏差が規定範囲から外れるか否かを判定する。ステップS107において、監視部29により、定点位置情報と基準定点位置情報との偏差が規定範囲から外れると判定された場合、処理はステップS108へ移行する。一方、ステップS107において、監視部29により、定点位置情報と基準定点位置情報との偏差が規定範囲から外れないと判定された場合、処理はステップS109へ移行する。
【0052】
ステップS108(ステップS107:YES)において、監視部29は、射出成形機を制御する上位装置に対して、異常(テーブル15の位置ずれあり)を通知する。ステップS108の完了後、本フローチャートの処理を終了する。
【0053】
ステップS109(ステップS107:NO)において、監視部29は、射出成形機を制御する上位装置に対して、正常(テーブル15の位置ずれなし)を通知する。ステップS109の完了後、本フローチャートの処理を終了する。なお、ステップS107において、監視部29により、定点位置情報と基準定点位置情報との偏差が規定範囲から外れないと判定された場合、監視部29から射出成形機を制御する上位装置に対して、正常を通知することなしに、本フローチャートの処理を終了してもよい。
【0054】
上述した本実施形態の移動体の監視装置2によれば、例えば、以下のような効果を奏する。
本実施形態の移動体の監視装置2において、算出部26は、テーブル(移動体)15を二方向に往復運動させたときに検出した第1位置情報と第2位置情報とに基づいて定点位置を算出する。そのため、近接センサ22の検出領域Sの大きさが変化した場合でも、応差の影響を受けることなしに、定点位置を正確に算出することができる。これによれば、環境温度、電源電圧等により検出領域Sの大きさが変化した場合でも、応差の影響を受けることなしに定点位置を正確に算出できるため、テーブル15の位置ずれの検出精度をより向上させることができる。
【0055】
ここで、具体例について説明する。エジェクタ装置の設置場所において、環境温度の温度差が年間を通じて40℃である場合に、近接センサの検出距離(動作区間)の変化率を絶対値で12%とする。そして、一般に流通している安価な角型の近接センサの1辺を17mmとし、この1辺の長さを検出距離の基準とすると、環境温度による検出距離の変動幅は、最大で17mm×0.12≒2mmとなる。また、近接センサの応差を検出距離の10%とすると、移動体を一方向に移動させたときに検出される位置の応差による誤差は、2mm×0.10×1/2=0.1mmとなる。
【0056】
一方、小型の射出成形機に用いられるエジェクタ装置において、従動プーリの歯数を40、ボールねじの移動ピッチを10mmとすると、従動プーリの1歯当たりのボールねじの移動量は10/40=0.25mmとなる。この値を検出したい最小位置ずれ量とすると、上述した検出距離の変動幅や応差による誤差があると、位置ずれを精度よく検出することができない。しかし、本実施形態の移動体の監視装置2によれば、検出距離の変動幅や応差による誤差を排除できるため、移動体の位置ずれの検出精度をより向上させることができる。
【0057】
本実施形態の移動体の監視装置2によれば、テーブル15が特定の位置を通過したことを検出するセンサとして近接センサを用いているため、安価な手段でテーブル15の位置ずれの有無を判定することができる。
本実施形態の移動体の監視装置2によれば、監視部29において、1又は複数の第1位置情報及び第2位置情報に基づいて算出した定点位置情報と、定点位置の校正時に算出した基準定点位置情報との偏差が規定範囲から外れるか否かを判定する。これによれば、算出部26で算出された定点位置情報のばらつきによる影響を排除することができるため、テーブル15の位置ずれの有無をより正確に判定することができる。
【0058】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、後述する変形形態のように種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内に含まれる。また、実施形態に記載した効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、実施形態に記載したものに限定されない。上述の実施形態及び後述する変形形態は、適宜に組み合わせて用いることもできるが、詳細な説明は省略する。
【0059】
(変形形態)
実施形態においては、検出部23において、近接センサ22から出力される信号がOFFレベルからONレベルに変化した場合に、テーブル(移動体)15の検出信号を出力する例について説明したが、これに限定されない。近接センサ22から出力される信号がONレベルからOFFレベルに変化した場合に、テーブル15の検出信号を出力するようにしてもよい。
【0060】
実施形態においては、ボールねじ14の近傍に、テーブル15の位置ずれ検出のための近接センサ22を設ける例について説明したが、これに限定されない。エジェクタロッド(不図示)の後退確認用の近接センサを、近接センサ22として共用するようにしてもよい。このような構成とすることにより、監視装置のコストを低減することができる。
【符号の説明】
【0061】
1:エジェクタ装置、2:移動体の監視装置、10:可動機構、11:モータ、12:位置検出部、13:動力伝達部、14:ボールねじ、15:テーブル(移動体)、20:制御装置、21:制御部、22:近接センサ、23:検出部、24:指令生成部、25:第1記憶部、26:算出部、27:第2記憶部、28:定点位置選択部、29:監視部
図1
図2
図3
図4