(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】イソシアネート化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 263/10 20060101AFI20241217BHJP
B01D 3/14 20060101ALI20241217BHJP
B01D 3/32 20060101ALI20241217BHJP
C07C 265/14 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
C07C263/10
B01D3/14 A
B01D3/32 Z
C07C265/14
(21)【出願番号】P 2023539900
(86)(22)【出願日】2021-12-30
(86)【国際出願番号】 KR2021020332
(87)【国際公開番号】W WO2022146092
(87)【国際公開日】2022-07-07
【審査請求日】2023-06-28
(31)【優先権主張番号】10-2020-0187828
(32)【優先日】2020-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】501014658
【氏名又は名称】ハンワ ソリューションズ コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】HANWHA SOLUTIONS CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジュ・ウォン・ミン
(72)【発明者】
【氏名】ヒュン・チョル・リュ
(72)【発明者】
【氏名】キド・ハン
【審査官】藤代 亮
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-533393(JP,A)
【文献】特表2020-503325(JP,A)
【文献】特開2004-155760(JP,A)
【文献】特開2009-120528(JP,A)
【文献】特表2020-502209(JP,A)
【文献】特表2018-533475(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103086841(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 263/10
B01D 3/14
B01D 3/32
C07C 265/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミン化合物の塩とホスゲンを溶媒下で反応させてイソシアネート化合物、前記溶媒および未反応ホスゲンを含む反応生成物を得る反応段階、および
前記反応生成物を分割壁蒸留塔(dividing-wall distillation column)で蒸留し、前記未反応ホスゲンを含むストリームを前記分割壁蒸留塔の塔頂部で得て、前記イソシアネート化合物を含むストリームを前記分割壁蒸留塔の塔底部で得て、前記溶媒を含むストリームを前記分割壁蒸留塔のサイドストリームドロー(side stream draw)で得る蒸留段階を含み、
前記蒸留段階は、前記分割壁蒸留塔
に連結されたリボイラーの温度が100℃~165℃になるように行われ
、
前記分割壁蒸留塔の塔頂部の圧力が20torr以下になるように行われる、イソシアネート化合物の製造方法。
【請求項2】
前記蒸留段階は、前記分割壁蒸留塔の整流部から予備分離器側に分けられる液相流れの分割比(liquid split ratio)が15%以下になるように行われる、請求項1に記載のイソシアネート化合物の製造方法。
【請求項3】
前記アミン化合物は、分子内に脂肪族基を有する脂肪族アミンである、請求項1に記載のイソシアネート化合物の製造方法。
【請求項4】
前記アミン化合物は、分子内に2以上のアミノ基を含む2官能以上の鎖状または環状の脂肪族アミンである、請求項1に記載のイソシアネート化合物の製造方法。
【請求項5】
前記アミン化合物は、ヘキサメチレンジアミン、2,2-ジメチルペンタンジアミン、2,2,4-トリメチルヘキサンジアミン、ブテンジアミン、1,3-ブタジエン-1,4-ジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、1,6,11-ウンデカトリアミン、1,3,6-ヘキサメチレントリアミン、1,8-ジイソシアナト-4-イソシアナトメチルオクタン、ビス(アミノエチル)カーボネート、ビス(アミノエチル)エーテル、キシリレンジアミン,α,α、α’,α’-テトラメチルキシリレンジアミン、ビス(アミノエチル)フタレート、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタンジアミン、シクロヘキサンジアミン、メチルシクロヘキサンジアミン、ジシクロヘキシルジメチルメタンジアミン、2,2-ジメチルジシクロヘキシルメタンジアミン、2,5-ビス(アミノメチル)ビシクロ-[2,2,1]-ヘプタン、2,6-ビス(アミノメチル)ビシクロ-[2,2,1]-ヘプタン、3,8-ビス(アミノメチル)トリシクロデカン、3,9-ビス(アミノメチル)トリシクロデカン、4,8-ビス(アミノメチル)トリシクロデカン、4,9-ビス(アミノメチル)トリシクロデカン、ビス(アミノメチル)ノルボルネン、およびキシリレンジアミンからなる群より選択される1種以上の化合物である、請求項1に記載のイソシアネート化合物の製造方法。
【請求項6】
前記アミン化合物は、ビス(アミノメチル)スルフィド、ビス(アミノエチル)スルフィド、ビス(アミノプロピル)スルフィド、ビス(アミノヘキシル)スルフィド、ビス(アミノメチル)スルホン、ビス(アミノメチル)ジスルフィド、ビス(アミノエチル)ジスルフィド、ビス(アミノプロピル)ジスルフィド、ビス(アミノメチルチオ)メタン、ビス(アミノエチルチオ)メタン、ビス(アミノエチルチオ)エタン、ビス(アミノメチルチオ)エタン、および1,5-ジアミノ-2-アミノメチル-3-チアペンタンからなる群より選択される1種以上の硫黄含有脂肪族アミンである、請求項1に記載のイソシアネート化合物の製造方法。
【請求項7】
前記アミン化合物はm-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミンおよびo-キシリレンジアミンからなる群より選択される1種以上の化合物である、請求項1に記載のイソシアネート化合物の製造方法。
【請求項8】
前記アミン化合物の塩は、アミン化合物の塩酸塩または炭酸塩である、請求項1に記載のイソシアネート化合物の製造方法。
【請求項9】
前記反応段階は、芳香族炭化水素系溶媒およびエステル系溶媒のうちの少なくとも1つを含む溶媒下で行われる、請求項1に記載のイソシアネート化合物の製造方法。
【請求項10】
前記溶媒は、モノクロロベンゼン、1,2-ジクロロベンゼン、1,2,4-トリクロロベンゼン、アミルホルメート、n-ブチルアセテート、イソブチルアセテート、n-アミルアセテート、イソアミルアセテート、メチルイソアミルアセテート、メトキシブチルアセテート、sec-ヘキシルアセテート、2-エチルブチルアセテート、2-エチルヘキシルアセテート、シクロヘキシルアセテート、メチルシクロヘキシルアセテート、ベンジルアセテート、エチルプロピオネート、n-ブチルプロピオネート、イソアミルプロピオネート、エチルアセテート、ブチルステアレート、ブチルラクテート、アミルラクテート、メチルサリシレート、ジメチルフタレートおよびメチルベンゾエートからなる群より選択される1種以上の化合物である、請求項
9に記載のイソシアネート化合物の製造方法。
【請求項11】
前記イソシアネート化合物を含むストリームから低沸点物質(lights)を除去する脱低沸点物段階をさらに含む、請求項1に記載のイソシアネート化合物の製造方法。
【請求項12】
前記イソシアネート化合物を含むストリームから高沸点物質(heavies)を除去する脱高沸点物段階をさらに含む、請求項1に記載のイソシアネート化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イソシアネート化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キシリレンジイソシアネート(xylylene diisocyanate、以下、XDI)は、分子内に芳香族環を含んでいるが、脂肪族イソシアネートに分類される。XDIは化学工業、樹脂工業および塗料工業分野でポリウレタン系材料、ポリウレア系材料またはポリイソシアヌレート系材料などの原料として非常に有用な化合物である。
【0003】
通常、イソシアネート化合物は合成過程で副反応が多く発生するので、無水塩酸または炭酸と反応させてアミン化合物の塩を形成し、これをホスゲンと反応させる方法で製造される。
【0004】
一例として、XDIの場合、キシリレンジアミン(xylylene diamine、以下XDA)を無水塩酸と反応させてアミン-塩酸塩を形成し、これをホスゲンと反応させることで製造される。より具体的には、従来は液状の原料アミン、例えば、XDA含有溶液を無水塩酸と反応させてXDA-HCl塩酸塩を形成し、これを少なくとも100℃以上の高温で加熱した後、気相ホスゲンを注入して気-液反応を行い、XDIなどのイソシアネート化合物を製造する方法を適用してきた。
【0005】
前記イソシアネート化合物の形成反応は代表的な吸熱反応であって、その収率を高めるために反応中に持続的な加熱および高温の維持が求められる。
【0006】
しかし、XDIなどのイソシアネート化合物は概してアミノ基の反応性が大きいため、ホスゲン化反応中に副反応が多く発生し、副反応により形成される副産物はイソシアネート化合物を原料として適用した工程(例えば、ポリウレタン樹脂を製造する工程)に影響を及ぼし、品質の低下を招く問題がある。
【0007】
このようにイソシアネート化合物の製造過程中の高温維持の必要性と、XDIなど生成されたイソシアネート化合物の大きな反応性により、製品の熱変性などによる副産物の生成や副反応の発生の恐れはさらに高くなり、これによってその精製工程にも大きな負荷が発生する場合が多かった。
【0008】
かかる問題によって、以前からイソシアネート化合物の製造中の副反応や副産物の生成を抑制するための多様な試みが行われているが、まだ実効性のある技術は開発されていないのが実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ホスゲンを使用したイソシアネート化合物の製造時、反応生成物の熱変性および副産物の生成を最小化し、エネルギー効率を増大し得るイソシアネート化合物の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態によれば、
アミン化合物の塩とホスゲンを溶媒下で反応させてイソシアネート化合物、前記溶媒および未反応ホスゲンを含む反応生成物を得る反応段階、および
前記反応生成物を分割壁蒸留塔(dividing-wall distillation column)で蒸留し、前記未反応ホスゲンを含むストリームを前記分割壁蒸留塔の塔頂部で得て、前記イソシアネート化合物を含むストリームを前記分割壁蒸留塔の塔底部で得て、前記溶媒を含むストリームを前記分割壁蒸留塔のサイドストリームドロー(side stream draw)で得る蒸留段階を含み、
前記蒸留段階は、前記分割壁蒸留塔の塔底部の温度が165℃以下になるように行われる、イソシアネート化合物の製造方法が提供される。
【0011】
以下、本発明の実施形態によるイソシアネート化合物の製造方法について説明する。
本明細書で別に定義されない限り、すべての技術的用語および科学的用語は本発明が属する通常の技術者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本発明で説明に使用される用語は、単に特定の具体例を効果的に記述するためであり、本発明を制限することを意図しない。
【0012】
本明細書で使用される単数形は、文脈上明らかに逆の意味を示さない限り複数形も含む。
本明細書で使用される「含む」の意味は、特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分を具体化し、他の特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素、成分および/または群の存在や付加を除外させるものではない。
本発明は多様な変更を加えることができ、様々な形態を有することができるため、特定の実施例を例示して以下で詳細に説明する。しかし、これは本発明を特定の開示形態に対して限定しようとするものではなく、前記思想および技術範囲に含まれるすべての変更、均等物または代替物を含むものとして理解しなければならない。
【0013】
本明細書で、例えば「~上に」、「~上部に」、「~下部に」、「~隣に」など二つの部分の位置関係が説明される場合、「すぐに」または「直接」という表現が使用されない限り、二つの部分の間に一つ以上の他の部分が位置し得る。
本明細書で、例えば「~後に」、「~に続いて」、「~次に」、「~前に」など時間的前後関係が説明される場合、「すぐに」または「直接」という表現が使用されない限り、連続的でない場合を含むこともできる。
【0014】
本明細書で「低沸点物質」は本発明によるターゲット生成物であるイソシアネート化合物より低い沸点を有する物質を意味し;「高沸点物質」は本発明によるターゲット生成物であるイソシアネート化合物より高い沸点を有する物質を意味する。
【0015】
本明細書で蒸留塔の「塔底部」は前記蒸留塔の下部排出物が前記蒸留塔の外部に排出される出口を意味し、蒸留塔の「塔頂部」は前記蒸留塔の上部排出物が前記蒸留塔の外部に排出される出口を意味する。
【0016】
発明の一実施形態によれば、
アミン化合物の塩とホスゲンを溶媒下で反応させてイソシアネート化合物、前記溶媒および未反応ホスゲンを含む反応生成物を得る反応段階、および
前記反応生成物を分割壁蒸留塔(dividing-wall distillation column)で蒸留し、前記未反応ホスゲンを含むストリームを前記分割壁蒸留塔の塔頂部で得て、前記イソシアネート化合物を含むストリームを前記分割壁蒸留塔の塔底部で得て、前記溶媒を含むストリームを前記分割壁蒸留塔のサイドストリームドロー(side stream draw)で得る蒸留段階を含み、
前記蒸留段階は、前記分割壁蒸留塔の塔底部の温度が165℃以下になるように行われる、イソシアネート化合物の製造方法が提供される。
【0017】
イソシアネート化合物を、光学材料をはじめとする精密化学製品の原料として使用するためには、高い純度が要求される。
しかし、一般にXDIを含むイソシアネート化合物の合成時に副反応が多く発生し、反応生成物間の反応および熱変性によってイソシアネート化合物の純度が低下する問題がある。
【0018】
一例として、脂肪族ジイソシアネートは、脂肪族ジアミンとホスゲンの反応によって製造することができる。この時、副反応が発生し、副反応物として、例えば(クロロメチル)ベンジルイソシアネート[(chloromethyl)benzyl isocyanate]などのモノイソシアネートなどが生成される。このような副反応の発生および副産物の生成は、脂肪族ジイソシアネートの製造過程中の高温維持の必要性と、XDIなど生成された脂肪族ジイソシアネートの大きな反応性によってもたらされると知られている。特に、最終生成物である脂肪族ジイソシアネートは高温に一定時間露出する場合副反応を起こすか、または二量体あるいは三量体以上の多量体を含むオリゴマーやポリマーなど高分子形態の副産物が形成される。
【0019】
本発明者らは研究を重ねた結果、アミン化合物のホスゲン化反応による反応生成物を、分割壁蒸留塔を用いて蒸留する場合、反応生成物の熱変性および副産物の生成を最小化し、かつエネルギー効率が増大し得ることが確認された。
【0020】
前記反応生成物内には原料であるホスゲン、溶媒、副産物である低沸点物質と高沸点物質など数多くの物質が混合している。前記反応生成物から高純度のイソシアネート化合物を得るためには、分離するための不純物の成分と同様の個数の蒸留装置を連続的に配置しなければならない。そして、前記ホスゲン化反応にホスゲンとイソシアネート化合物の間に相当する沸点を有する溶媒を使用すると、前記溶媒が除去されるまで蒸留装置内で他の成分と再混合が起こる。しかし、前記溶媒は、前記反応生成物の80重量%以上を占めるため、前記溶媒を除去する工程までのエネルギー効率が非常に低下する問題がある。
【0021】
本発明の実施形態によるイソシアネート化合物の製造方法では分割壁蒸留塔が適用されることによって、前記溶媒は前記分割壁蒸留塔のサイドストリームドローで得られ、溶媒を除去するための別途の蒸留装置や工程が求められず、溶媒の再混合による工程運用の負担とエネルギー消耗を低減することができる。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態によるイソシアネート化合物の製造方法に用いられる工程および装置を模式的に示す図である。
【0023】
以下、
図1を参照して本発明の一実施形態によるイソシアネート化合物の製造方法に含まれ得る各段階について説明する。
【0024】
(反応段階)
まず、アミン化合物の塩とホスゲンを溶媒下で反応させてイソシアネート化合物、前記溶媒および未反応ホスゲンを含む反応生成物が得られる反応段階が行われる。
【0025】
本発明の一実施形態によれば、アミン化合物とホスゲンの急激な反応と副反応を抑制するために、前記アミン化合物はアミン化合物の塩として適用することが好ましい。例えば、前記アミン化合物の塩はアミン化合物の塩酸塩または炭酸塩であり得る。
【0026】
前記アミン化合物の塩は、アミン化合物と無水塩酸または炭酸を反応させて中和反応によって準備される。前記中和反応は20~80℃の温度で行われる。
前記無水塩酸または炭酸の供給比率は前記アミン化合物1モルに対して、例えば2モル~10モル、あるいは2モル~6モル、あるいは2モル~4モルであり得る。
【0027】
好ましくは、前記アミン化合物は、分子内に脂肪族基を有する脂肪族アミンを適用することができる。具体的には、前記脂肪族アミンは、鎖状または環状の脂肪族アミンであり得る。より具体的には、前記脂肪族アミンは、分子内に2個以上のアミノ基を含む2官能以上の鎖状または環状の脂肪族アミンであり得る。
【0028】
例えば、前記アミン化合物は、ヘキサメチレンジアミン、2,2-ジメチルペンタンジアミン、2,2,4-トリメチルヘキサンジアミン、ブテンジアミン、1,3-ブタジエン-1,4-ジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、1,6,11-ウンデカトリアミン、1,3,6-ヘキサメチレントリアミン、1,8-ジイソシアナト-4-イソシアナトメチルオクタン、ビス(アミノエチル)カーボネート、ビス(アミノエチル)エーテル、キシリレンジアミン,α,α、α’,α’-テトラメチルキシリレンジアミン、ビス(アミノエチル)フタレート、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタンジアミン、シクロヘキサンジアミン、メチルシクロヘキサンジアミン、ジシクロヘキシルジメチルメタンジアミン、2,2-ジメチルジシクロヘキシルメタンジアミン、2,5-ビス(アミノメチル)ビシクロ-[2,2,1]-ヘプタン、2,6-ビス(アミノメチル)ビシクロ-[2,2,1]-ヘプタン、3,8-ビス(アミノメチル)トリシクロデカン、3,9-ビス(アミノメチル)トリシクロデカン、4,8-ビス(アミノメチル)トリシクロデカン、4,9-ビス(アミノメチル)トリシクロデカン、ビス(アミノメチル)ノルボルネン、およびキシリレンジアミンからなる群より選択される1種以上の化合物であり得る。本発明において、前記キシリレンジアミンは脂肪族ジアミンに分類される。
【0029】
また、前記アミン化合物は、ビス(アミノメチル)スルフィド、ビス(アミノエチル)スルフィド、ビス(アミノプロピル)スルフィド、ビス(アミノヘキシル)スルフィド、ビス(アミノメチル)スルホン、ビス(アミノメチル)ジスルフィド、ビス(アミノエチル)ジスルフィド、ビス(アミノプロピル)ジスルフィド、ビス(アミノメチルチオ)メタン、ビス(アミノエチルチオ)メタン、ビス(アミノエチルチオ)エタン、ビス(アミノメチルチオ)エタン、および1,5-ジアミノ-2-アミノメチル-3-チアペンタンからなる群より選択される1種以上の硫黄含有脂肪族アミンであり得る。
【0030】
前記アミン化合物の中でもキシリレンジアミン(XDA)は、本発明の一実施形態によるイソシアネート化合物の製造方法に適用時、さらに優れた効果を示すことができる。好ましくは、前記アミン化合物は、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミンおよびo-キシリレンジアミンからなる群より選択される1種以上の化合物であり得る。
【0031】
本発明の一実施形態によれば、前記反応段階は、固体状のアミン化合物の塩と気相ホスゲンを溶媒下で反応させる気体-液体-固体の3相反応で行われる。そのため、急激な反応を効果的に抑制することができ、副反応および副産物の発生を最小化することができる。
【0032】
前記アミン化合物の塩とホスゲンを溶媒下で反応させる時、ホスゲンを一度に投入するかまたは分割して投入することができる。例えば、相対的に低い温度下で少量のホスゲンを1次投入して前記アミン化合物の塩と反応させることによってその中間体を生成させる。次に、相対的に高温下で残量のホスゲンを2次投入して前記中間体と反応させることによってイソシアネート化合物を含む反応液を得ることができる。一例として、キシリレンジアミンと少量のホスゲンを反応させてカルバモイル系塩形態の中間体を生成させた後、残量のホスゲンを投入して前記カルバモイル系塩形態の中間体とホスゲンを反応させてキシリレンジイソシアネートなどの脂肪族イソシアネートを形成することができる。
【0033】
このような反応段階によって最終生成物であるイソシアネート化合物を高温下で露出する時間を最小化することができる。さらに、相対的に低い温度で前記中間体を形成することによって、全体的な反応工程で高温の維持に必要な時間を減らすことができる。これによって、全体工程に投入される熱量が減少する。そして、ホスゲンの高温反応時間を相対的に短縮させ、ホスゲンの爆発的な気化による危険性を減らすこともできる。
【0034】
前記反応段階は、芳香族炭化水素系溶媒およびエステル系溶媒のうち少なくとも一つを含む溶媒下で行われる。前記溶媒は、前記反応段階の実行温度を考慮して選択することができる。
前記芳香族炭化水素系溶媒は、モノクロロベンゼン、1,2-ジクロロベンゼンおよび1,2,4-トリクロロベンゼンなどのハロゲン化芳香族炭化水素系溶媒であり得る。
【0035】
前記エステル系溶媒は、アミルホルメート、n-ブチルアセテート、イソブチルアセテート、n-アミルアセテート、イソアミルアセテート、メチルイソアミルアセテート、メトキシブチルアセテート、sec-ヘキシルアセテート、2-エチルブチルアセテート、2-エチルヘキシルアセテート、シクロヘキシルアセテート、メチルシクロヘキシルアセテート、ベンジルアセテート、エチルプロピオネート、n-ブチルプロピオネート、イソアミルプロピオネート、エチルアセテート、ブチルステアレート、ブチルラクテート、およびアミルラクテートなどの脂肪酸エステル;またはメチルサリシレート、ジメチルフタレートおよびメチルベンゾエートなどの芳香族カルボン酸エステルであり得る。
【0036】
本発明の一実施形態によれば、前記反応段階で前記アミン化合物の塩は前記溶媒に20体積%以下の濃度、例えば1~20体積%、あるいは5~20体積%の濃度で含まれ得る。前記溶媒に含まれる前記アミン化合物の塩の濃度が20体積%を超える場合、前記反応段階で多量の塩が析出する恐れがある。
【0037】
前記反応段階は165℃以下、好ましくは80℃~165℃の温度下で行われる。
【0038】
本発明の一実施形態によれば、前記反応段階でホスゲンを分割して投入する場合、80℃~100℃あるいは85℃~95℃の温度下でホスゲン全体の投入量のうちの10~30重量%、あるいは12~30重量%、あるいは15~28重量%を投入する。このような反応条件によって急激な反応が抑制され、カルバモイル系塩形態の中間体を選択的かつ効果的に形成することができる。次に、110℃~165℃あるいは120℃~150℃の温度下で残量のホスゲンを投入しながら前記中間体とホスゲンを反応させてイソシアネート化合物を含む反応生成物を得ることができる。
【0039】
前記イソシアネート化合物は、前記反応段階で使用される前記アミン化合物の種類によって変わる。例えば、前記イソシアネート化合物は、n-ペンチルイソシアネート、6-メチル-2-ヘプタンイソシアネート、シクロペンチルイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジイソシアナトメチルシクロヘキサン(H6TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ジイソシアナトシクロヘキサン(t-CHDI)、およびジ(イソシアナトシクロヘキシル)メタン(H12MDI)からなる群より選択される1種以上の化合物であり得る。
【0040】
特に、本発明の実施形態によるイソシアネート化合物の製造方法は、キシリレンジイソシアネート(XDI)の製造により有用である。XDIは構造異性体として1,2-XDI(o-XDI)、1,3-XDI(m-XDI)、1,4-XDI(p-XDI)を含む。
【0041】
前記反応段階は、バッチ式および連続式のいずれかによっても行うことができる。前記反応段階は、回転軸を有する反応器110;前記反応器の内部に反応物を供給するアミン化合物の塩供給ライン10とホスゲン供給ライン20;前記反応器に熱量を供給する熱源;および前記反応器で得られる反応生成物を後続の精製工程に移送する反応生成物移送ライン102を含む反応ユニット100で行うことができる。
【0042】
(蒸留段階)
次に、前記反応生成物を分割壁蒸留塔(dividing-wall distillation column)で蒸留し、前記未反応ホスゲンを含むストリームを前記分割壁蒸留塔の塔頂部で得て、前記イソシアネート化合物を含むストリームを前記分割壁蒸留塔の塔底部で得て、前記溶媒を含むストリームを前記分割壁蒸留塔のサイドストリームドロー(side stream draw)で得る蒸留段階が行われる。
【0043】
図2の(a)は、通常の蒸留塔で化合物A、B、Cを分離するためのシーケンスを示す図であり、
図2の(b)は、分割壁蒸留塔で化合物A、B、Cを分離するためのシーケンスを示す図である。ここで、前記化合物A、B、Cの沸点はA<B<Cであると仮定する。
【0044】
図2の(a)を参照すると、通常の蒸留工程により化合物A、B、Cの混合物からA、B、Cを分離するためには、前記混合物から化合物Aを分離するための蒸留塔1および前記蒸留塔1から得られた化合物BとCの混合物からBとCを分離するための蒸留塔2を連続的に配置しなければならない。
【0045】
一方、
図2の(b)を参照すると、分割壁蒸留塔30は内部に分割壁31を置いて予備分離器側(prefractionator side)33と主分離器側(draw side)35を統合した構造を有する。分割壁蒸留塔30では予備分離器側33と主分離器側35との間の圧力バランスを合わせて運転が容易であるだけでなく、2基の蒸留塔を1つに統合運用でき、費用の負担を減らし、エネルギー効率を増大し得る。
【0046】
図2の(b)に示す分割壁蒸留塔30に化合物A、B、Cの混合物であるフィードが供給されると、予備分離器側33で化合物Bの一部とAは整流部37に上がり、化合物Bの残りとCは脱去部39に下がる。整流部37で化合物Aは分割壁蒸留塔30の塔頂部から排出される。脱去部39で化合物Cは分割壁蒸留塔30の塔底部から排出される。そして、化合物AとCの間に相当する沸点を有する化合物Bは主分離器側35に集まり、分割壁蒸留塔30のサイドストリームドローから排出される。
【0047】
本発明の一実施形態によれば、前記蒸留段階では前記反応生成物に含まれている未反応ホスゲン、主生成物であるイソシアネート化合物、前記溶媒、副産物である塩化水素などが前記分割壁蒸留塔の塔頂部、塔底部およびサイドストリームドローで分離されて得られる。
【0048】
前記反応生成物に含まれている成分のうちの未反応ホスゲンは
図2の(b)で化合物Aに対応するストリームから得られ、主生成物であるイソシアネート化合物は
図2の(b)で化合物Cに対応するストリームから得られ、前記溶媒は
図2の(c)で化合物Bに対応するストリームから得られる。
【0049】
具体的には、
図1および
図2の(b)を参照すると、前記反応生成物は、反応物移送ライン102を介して分割壁蒸留塔210に供給される。分割壁蒸留塔210の予備分離器側33で前記溶媒の一部とホスゲンは整流部37に上がり、前記溶媒の残りと主生成物であるイソシアネート化合物は脱去部39に下がる。整流部37でホスゲンが豊富な分画は分割壁蒸留塔210の塔頂部に連結された塔頂ストリームライン293から排出される。脱去部39で前記イソシアネート化合物が豊富な分画は、分割壁蒸留塔210の塔底部に連結された塔底ストリームライン212から排出される。そして、前記溶媒が豊富な分画は主分離器側35に集まり、分割壁蒸留塔30のサイドストリームドローに連結されたサイドストリームライン251から排出される。
【0050】
このように、本発明の実施形態によるイソシアネート化合物の製造方法では分割壁蒸留塔を用いて前記反応生成物からホスゲンとイソシアネート化合物を分離すると同時に、前記溶媒を分割壁蒸留塔のサイドストリームドローから得ることができる。したがって、前記溶媒を除去するための別途の蒸留装置や工程が求められず、溶媒の再混合による工程運用の負担とエネルギー消耗を低減することができる。
【0051】
前記分割壁蒸留塔210から塔頂ストリームライン293、塔底ストリームライン212およびサイドストリームライン251を介して排出される物質の純度および工程のエネルギー効率に影響を及ぼす要素は多様である。例えば、分割壁蒸留塔210の全カラムの段数、分離壁の長さ、凝縮器295での還流量、リボイラー214での熱供給量、気相流れの分割比(vapor split ratio)、液相流れの分割比(liquid split ratio)などが排出される物質の純度および工程のエネルギー効率に影響を及ぼすことができる。本発明による前記蒸留段階は溶媒の量が多いため、前記要素の中でも液相流れの分割比(liquid split ratio)が15%以下になるように行われることがエネルギー低減の側面から好ましい。
【0052】
つまり、前記蒸留段階は、前記分割壁蒸留塔の整流部37から予備分離器側33に分けられる液相流れの分割比が15%以下になるように行うことができる。前記液相流れの分割比は、前記分割壁蒸留塔の整流部37からの液相の総流量に対する予備分離器側33に投入される液相の比率を意味する。前記液相流れの分割比は、液分配器(liquid distributor)を用いて調節することができる。
【0053】
本発明の一実施形態によれば、分割壁蒸留塔210の塔頂部から排出される前記未反応ホスゲンを含むストリームは、塔頂ストリームライン293を介して凝縮器295に移送される。凝縮器295からホスゲンを含むガス相はガス相排出ライン299を介して排出され、液相物はリカバリードラム297に集まった後、分割壁蒸留塔210の上部に再供給される。ガス相排出ライン299を介して得られたホスゲンは、前記反応段階の反応物として再循環される。
【0054】
この時、分割壁蒸留塔210での蒸留効率の向上のために、前記蒸留段階は分割壁蒸留塔210の塔頂部の圧力が20torr以下になるように行われることが好ましい。一例として、前記蒸留段階は、分割壁蒸留塔210に連結された凝縮器295の圧力が20torr以下になるように行われることが好ましい。好ましくは、前記蒸留段階は、分割壁蒸留塔210に連結された凝縮器295の圧力が1~20torr、あるいは5~20torr、あるいは10~20torrになるように行うことができる。
【0055】
本発明の一実施形態によれば、分割壁蒸留塔210の塔底部から排出される前記イソシアネート化合物を含むストリームは、塔底ストリームライン212を介してリボイラー214に移送される。リボイラー214で低沸点分画は、分割壁蒸留塔210の下部に再供給され、前記イソシアネート化合物を含む分画は、イソシアネート排出ライン219を介して排出される。
【0056】
この時、分割壁蒸留塔210での蒸留効率の向上のために、前記蒸留段階は、前記分割壁蒸留塔の塔底部の温度が165℃以下になるように行われることが好ましい。一例として、前記蒸留段階は、分割壁蒸留塔210に連結されたリボイラー214の温度が165℃以下になるように行われることが好ましい。好ましくは、前記蒸留段階は、蒸留塔210に連結されたリボイラー214の温度が100℃~165℃、あるいは120℃~165℃、あるいは130℃~160℃になるように行うことができる。
【0057】
そして、前記蒸留段階で前記反応生成物の高温での滞留時間を最小化するために、リボイラー214としてはケトル型リボイラー(Kettle type reboiler)、薄膜蒸留装置(thin film evaporator)、強制循環型リボイラー(force circulated reboiler)、およびジャケット付容器型リボイラー(jacketed vessel type reboiler)などの装置が使用されることが好ましい。
【0058】
本発明の一実施形態によれば、分割壁蒸留塔210のサイドストリームドローから排出される前記溶媒を含むストリームは、サイドストリームライン251を介して凝縮器253を経てリカバリードラム255に移送される。リカバリードラム255に集まった前記溶媒を含むストリームは溶媒排出ライン259を介して排出される。溶媒排出ライン259を介して得られた溶媒は前記反応段階に再循環することができる。
【0059】
イソシアネート排出ライン219を介して排出される前記イソシアネート化合物を含む分画には微量の溶媒、高沸点物質などを含むことができる。必要に応じて、前記イソシアネート化合物を含む分画を精製して高純度のイソシアネート化合物を得る工程をさらに行うことができる。
【0060】
非制限的な例として、前記イソシアネート化合物を含む分画から低沸点物質(lights)を除去する脱低沸点物段階を行うことができる。前記脱低沸点物段階では、前記イソシアネート化合物を含む分画から公知の脱低沸点物ユニットによって低沸点物質(lights)を除去することができる。
【0061】
前記低沸点物質は、前記反応段階での主生成物であるイソシアネート化合物より低い沸点を有する物質を意味する。前記低沸点物質としては、前記主生成物を得る工程で副反応によって生成される物質が挙げられる。一例として、前記イソシアネート化合物でXDIを製造する工程で、前記低沸点物質は(クロロメチル)ベンジルイソシアネート((chloromethyl)benzyl isocyanate、CBI)およびエチルフェニルイソシアネート(ethylphenyl isocyanate、EBI)などのモノイソシアネートを含むことができる。
【0062】
本発明の一実施形態によれば、前記脱低沸点物段階で前記反応生成物の熱変性と副産物の生成を最小化するために、前記脱低沸点物段階は150℃~165℃の温度下で行うことが好ましい。そして、前記脱低沸点物段階は5torr以下の圧力下で行われることが好ましい。
【0063】
一例として、前記脱低沸点物段階は蒸留塔で行われるが、前記蒸留塔の下部(bottom)の温度を150℃~165℃にし、前記蒸留塔の上部(top)の圧力は5torr以下で運転することが前記熱変性と副産物の生成を最小化するのに有利である。ここで、前記蒸留塔の下部の温度は、前記蒸留塔の塔底部に連結されたリボイラーの温度を意味する。
【0064】
好ましくは、前記脱低沸点物段階の実行温度は150℃~165℃、あるいは155℃~165℃、あるいは155℃~162℃、あるいは160℃~162℃であり得る。そして、好ましくは、前記脱低沸点物段階を行う上部圧力は1torr~5torr、あるいは2torr~5torr、あるいは2torr~4torrであり得る。
【0065】
前記脱低沸点物段階の実行温度および圧力が上記の範囲を満たさない場合、前記脱低沸点物段階での前記熱変性と副産物の生成量が増加し、低沸点物質の除去効率が低下し、これにより、前記脱低沸点物段階から得られる反応生成物でイソシアネート化合物の濃度が低下する。
【0066】
一例として、前記脱低沸点物段階は、前記蒸留ユニット200のイソシアネート化合物排出ライン219を介して供給される前記イソシアネート化合物含有分画から低沸点物質を除去できるように構成された蒸留塔;前記蒸留塔の塔頂部から低沸点物質を排出する低沸点物質排出ライン;および前記蒸留塔の塔底部から前記低沸点物質が除去された反応生成物を排出して後続段階に移送する反応生成物移送ラインを含む脱低沸点物ユニットで行うことができる。
【0067】
前記脱低沸点物段階で前記反応生成物の高温での滞留時間を最小化するために、ケトル型リボイラー(Kettle type reboiler)、薄膜蒸留装置(thin film evaporator)、強制循環型リボイラー(force circulated reboiler)、およびジャケット付容器型リボイラー(jacketed vessel type reboiler)などの装置が備えられた蒸留塔440が用いられる。
【0068】
非制限的な例として、前記低沸点物質が除去された反応生成物から高沸点物質(heavies)を除去する脱高沸点物段階が行われる。前記脱高沸点物段階では、前記低沸点物質が除去された反応生成物から公知の脱高沸点物ユニットによって高沸点物質(heavies)を除去する。
【0069】
前記高沸点物質は、前記反応段階での主生成物であるイソシアネート化合物より高い沸点を有する物質を意味する。前記高沸点物質としては、前記主生成物を得る工程で形成されるイソシアネート化合物の二量体あるいは三量体以上の多量体を含むオリゴマー、あるいはポリマーなど高分子形態の副産物が挙げられる。
【0070】
本発明の一実施形態によれば、前記脱高沸点物段階で前記反応生成物の熱変性と副産物の生成を最小化するために、前記脱高沸点物段階は145℃~165℃の温度および1torr以下の圧力下で行われることが好ましい。
【0071】
一例として、前記脱高沸点物段階は薄膜蒸留装置(thin-film evaporator)下で行われるが、前記薄膜蒸留装置の下部(bottom)の温度を145℃~165℃にし、前記薄膜蒸留装置の下部(bottom)の圧力は1torr以下で運転することが前記熱変性と副産物の生成を最小化するのに有利である。
【0072】
好ましくは、前記脱高沸点物段階の実行温度は145℃~165℃、あるいは150℃~165℃、あるいは150℃~160℃、あるいは155℃~160℃であり得る。そして、好ましくは、前記脱高沸点物段階の実行圧力は0.1torr~1torr、あるいは0.5torr~1torrであり得る。
【0073】
前記脱高沸点物段階の実行温度および圧力が上記の範囲を満たさない場合、前記脱高沸点物段階での前記熱変性と副産物の生成量が増加し、高沸点物質の除去効率が低下し、これにより、前記脱高沸点物段階から得られるイソシアネート化合物の濃度が低下する。
【0074】
一例として、前記脱高沸点物段階は、前記脱低沸点物ユニットの反応生成物移送ラインを介して供給される前記反応生成物から高沸点物質を除去できるように構成された薄膜蒸留装置;前記薄膜蒸留装置の凝縮部にイソシアネート化合物を排出するイソシアネート化合物排出ライン;および前記薄膜蒸留装置の塔底部から前記高沸点物質を排出する高沸点物質排出ラインを含む脱高沸点物ユニットで行うことができる。
【発明の効果】
【0075】
本発明によれば、ホスゲンを使用したイソシアネート化合物の製造時、反応生成物の熱変性および副産物の生成を最小化し、かつエネルギー効率を増大し得るイソシアネート化合物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【
図1】本発明の一実施形態によるイソシアネート化合物の製造方法に用いられる工程および装置を模式的に示す図である。
【
図2】(a)通常の蒸留塔で化合物A、B、Cを分離するためのシーケンスを示す図である。(b)分割壁蒸留塔で化合物A、B、Cを分離するためのシーケンスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0077】
以下、本発明の具体的な実施形態により発明の作用、効果をより具体的に説明する。ただし、これは発明の理解を助けるための例示として提示されたものであり、発明の権利範囲はこれによっていかなる意味でも限定されるものではない。
【0078】
実施例1
図1に示すような装置を用いて次のような工程で1,3-XDI(m-XDI)を製造した。
【0079】
(反応段階)
常温および常圧の条件下で、6500kgの1,2-ジクロロベンゼン(o-DCB)の溶媒中で、塩酸500kgとm-キシリレンジアミン(m-XDA)560kgを4時間の間反応させ、m-キシリレンジアミンの塩酸塩870kgを形成した。
【0080】
前記m-キシリレンジアミンの塩酸塩870kgを、供給ライン10を介して反応器110に投入し、反応器の温度を125℃に昇温した。反応進行時間の間供給ライン20を介して合計1359kgのホスゲン(phosgene)を反応器に入れて攪拌した。ホスゲン投入時点から反応終了時点までドライアイス-アセトンコンデンサを用いてホスゲンが外部に漏れないようにした。90℃の温度下で1.5時間反応を進行させた。
【0081】
その後、反応器の内部温度を125℃になるように加熱し、ホスゲン6000kgをさらに投入した。反応器の温度は125℃を維持し、反応溶液が透明になるまで4.5時間さらに攪拌した。反応溶液が透明になった後に加熱を中断した。前記方法で得られた反応生成物は移送ライン102を介して蒸留ユニット200に移送された。
【0082】
(蒸留段階)
蒸留ユニット200の分割壁蒸留塔210は、移送ライン102を介して供給される前記反応生成物から前記未反応ホスゲンを含むストリームを前記分割壁蒸留塔の塔頂部で得て、1,3-XDIを含むストリームを前記分割壁蒸留塔の塔底部で得て、前記溶媒を含むストリームを前記分割壁蒸留塔のサイドストリームドロー(side stream draw)で得ることができるように構成される。
【0083】
具体的には、分割壁蒸留塔210は、カラムの中央に位置する分割隔壁(dividing wall)、液分配器(liquid distributor)、パッキングサポート、およびグリッドなどで構成されており、予備分離器側、主分離器側、整流部(rectifying section)、および脱去部(stripping section)は、構造パッキングの一種類であるメラパック(Mellapak)で充填した。
*全カラムの段数:20
*気相流れの分割比(vapor split ratio)=50:50
*液相流れの分割比(liquid split ratio)=10:90
【0084】
前記蒸留段階で分割壁蒸留塔210に連結された凝縮器295の圧力が15torrになるようにし、分割壁蒸留塔210に連結されたリボイラー214の温度は160℃になるようにした。
【0085】
分割蒸留塔210の塔頂部で約1350kg/hrの還流ストリームを分割蒸留塔210に再投入し、これは塔頂の流出量に対して約39.5の還流比に相当する。
【0086】
凝縮器295でホスゲンを含むガス相はガス相排出ライン299を介して排出され、液相物はリカバリードラム297に集まった後、分割壁蒸留塔210の上部に再供給された。ガス相排出ライン299を介して得られたホスゲンは、前記反応段階の反応物として再循環された。
【0087】
リボイラー214で低沸点分画は、分割壁蒸留塔210の下部に再供給され、1,3-XDIを含む分画は、イソシアネート排出ライン219を介して排出された。
【0088】
分割壁蒸留塔210のサイドストリームドローから排出される前記溶媒を含むストリームは、サイドストリームライン251を介して凝縮器253を経てリカバリードラム255に移送された。リカバリードラム255に集まった前記溶媒を含むストリームは、溶媒排出ライン259を介して排出された。溶媒排出ライン259を介して得られた溶媒は前記反応段階に再循環された。
【0089】
実施例2
前記蒸留段階で分割壁蒸留塔210に連結された凝縮器295の圧力が5torrになるように運転したことを除いて、前記実施例1と同様の方法で1,3-XDI(m-XDI)を含むイソシアネート化合物を得た。
【0090】
実施例3
前記蒸留段階で分割壁蒸留塔210に連結されたリボイラー214の温度が120℃になるように運転したことを除いて、前記実施例1と同様の方法で1,3-XDI(m-XDI)を含むイソシアネート化合物を得た。
【0091】
比較例1
図2の(a)に示すような装置を用いて次のような工程で1,3-XDI(m-XDI)を製造した。
(反応段階)
前記実施例1と同様の方法で反応生成物を準備した。前記反応生成物は、移送ラインを介して第1蒸留塔1に供給された。
【0092】
(第1蒸留段階)
第1蒸留塔1は、移送ラインを介して供給される前記反応生成物からホスゲンを含むガス相を除去できるように構成した。
具体的には、第1蒸留塔1は、構造パッキングの一種類であるメラパック(Mellapak)が充填されたパッキングタワーを使用し、その高さは約6mである。
第1蒸留塔1の下部(bottom)の温度を155℃にし、第1蒸留塔1の上部(top)圧力を400torrで運転した。
約150kg/hrの還流ストリームを第1蒸留塔1に再投入し、これは塔頂の流出量に対して約3.2の還流比に相当する。
第1蒸留塔1の塔頂部に連結されたガス相排出ラインを介してホスゲンを含むガス相が排出された。前記ガス相が除去された反応生成物は、第1蒸留塔1の塔底部に連結された移送ラインを介して次の工程に移送された。
【0093】
(第2蒸留段階)
第2蒸留塔2は、移送ラインを介して供給される前記反応生成物から溶媒を除去できるように構成した。
具体的には、第2蒸留塔2は、構造パッキングの一種類であるメラパック(Mellapak)が充填されたパッキングタワーを使用し、その高さは約7mである。
第2蒸留塔2の下部(bottom)の温度を160℃にし、第2蒸留塔2の上部(top)の圧力を15torrで運転した。
約600kg/hrの還流ストリームを第2蒸留塔2に再投入し、これは塔頂の流出量に対して約0.5の還流比に相当する。
第2蒸留塔2の塔頂部に連結された溶媒排出ラインを介して1,2-ジクロロベンゼン(o-DCB)を含む溶媒が排出された。前記溶媒が除去された反応生成物は、第2蒸留塔2の塔底部に連結された移送ラインを介して排出された。
【0094】
比較例2
前記蒸留段階で分割壁蒸留塔210に連結された凝縮器295の圧力が30torrになるように運転したことを除いて、前記実施例1と同様の方法で1,3-XDI(m-XDI)を含むイソシアネート化合物を得た。
【0095】
比較例3
前記蒸留段階で分割壁蒸留塔210に連結されたリボイラー214の温度が170℃になるように運転したことを除いて、前記実施例1と同様の方法で1,3-XDI(m-XDI)を含むイソシアネート化合物を得た。
【0096】
試験例
前記実施例および比較例の各排出口から得られる分画の一部を回収してgel permeation chromatography分析を行った。前記分析により確認された主成分の含有量を下表1~6に示す。
【0097】
そして、前記実施例および比較例による工程を行うときに投入される単位時間当たりのエネルギー(kcal/hr)を測定して下表1~6に示す。
下表1~6中、「Heavys」は、イソシアネート化合物の排出ライン219を介して得られるm-XDI含有分画を意味する。
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
上記表1~表6を参照すると、前記実施例によるイソシアネート化合物の製造方法は、高純度のイソシアネート化合物を得ることができ、かつエネルギー効率が増大することが確認された。
それに対して、前記比較例では熱変性と副産物の生成量が増加し、最終的に得られるイソシアネート化合物の濃度およびエネルギー効率が低いことが確認された。
【符号の説明】
【0105】
10 アミン化合物の塩供給ライン
20 ホスゲン供給ライン
100 反応ユニット
110 反応器
102 反応生成物移送ライン
200 蒸留ユニット
210 分割壁蒸留塔
212 塔底ストリームライン
214 リボイラー
219 イソシアネート化合物排出ライン
251 サイドストリームライン
253 凝縮器(condenser)
255 リカバリードラム(recovery drum)
259 溶媒排出ライン
293 塔頂ストリームライン
295 凝縮器(condenser)
297 リカバリードラム(recovery drum)
299 ガス相排出ライン
A、B、C 化合物
1、2 蒸留塔
30 分割壁蒸留塔
31 分割壁(dividing wall)
33 予備分離器側(prefractionator side)
35 主分離器側(draw side)
37 整流部(rectifying section)
39 脱去部(stripping section)