(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】補強構造
(51)【国際特許分類】
E04C 3/18 20060101AFI20241217BHJP
E04C 3/16 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
E04C3/18
E04C3/16
(21)【出願番号】P 2024139215
(22)【出願日】2024-08-20
【審査請求日】2024-08-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【復代理人】
【識別番号】100193390
【氏名又は名称】藤田 祐作
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】皆川 宥子
(72)【発明者】
【氏名】高谷 真次
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】林 智之
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-046170(JP,A)
【文献】特開平06-136877(JP,A)
【文献】特開2004-324125(JP,A)
【文献】特開平05-280143(JP,A)
【文献】特開2021-042589(JP,A)
【文献】特開平11-081468(JP,A)
【文献】特開2016-065431(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04C 3/12 - 3/16
E04B 1/26
E04B 1/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質梁の補強構造であって、
前記木質梁は、梁材の梁軸方向の側面である対向面同士が対向するように複数の梁材を梁幅方向に重ねたものであり、
前記梁材は、梁幅方向に貫通する貫通孔を有し、
複数の前記梁材の対向面の間に、前記貫通孔と対応する箇所に孔を有する補強板が配置され
、
前記貫通孔の周方向に沿って設けられる筒状の補強管をさらに有し、
前記補強管の軸方向の端部と前記木質梁の端部との間には前記木質梁の木質材が介在することを特徴とする補強構造。
【請求項2】
木質梁の補強構造であって、
前記木質梁は、梁材の梁軸方向の側面である対向面同士が対向するように複数の梁材を梁幅方向に重ねたものであり、
前記梁材は、梁幅方向に貫通する貫通孔を有し、
複数の前記梁材の対向面の間に、前記貫通孔と対応する箇所に孔を有する補強板が配置され、
前記補強板は木製の部材であり、前記補強板に用いる木質材のせん断強度と曲げ強度が、前記梁材に用いる木質材よりも高いことを特徴とす
る補強構造。
【請求項3】
木質梁の補強構造であって、
前記木質梁は、梁材の梁軸方向の側面である対向面同士が対向するように複数の梁材を梁幅方向に重ねたものであり、
前記梁材は、梁幅方向に貫通する貫通孔を有し、
複数の前記梁材の対向面の間に、前記貫通孔と対応する箇所に孔を有する補強板が配置され、
前記補強板
は、前記貫通孔の中心から梁軸方向に対して45°傾斜した4方向の位置を覆うように
配置される、側面視でX字状の1枚または2枚の板材であることを特徴とす
る補強構造。
【請求項4】
少なくともいずれかの前記梁材の対向面に、前記補強板を収容する凹部が設けられ、
前記凹部とは異なる箇所で、複数の前記梁材の対向面同士が接しており、
当該箇所において、複数の前記梁材の間でせん断力を伝達するための第1のせん断力伝達機構が設けられたことを特徴とする請求項1
から3のいずれかに記載の補強構造。
【請求項5】
前記梁材と前記補強板との間でせん断力を伝達するための第2のせん断力伝達機構が設けられたことを特徴とする請求項1
から3のいずれかに記載の補強構造。
【請求項6】
前記補強板は鋼製の部材であることを特徴とする請求項1
または3に記載の補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質梁の補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、木質材を建物の梁として使用する事例が増加しつつある。このような木質梁に貫通孔をあけて設備配管等を通すことは、天井裏空間の有効活用につながり、階高を低減できるメリットがある。
【0003】
ただし、木質梁に貫通孔をあけると耐力の低下が予測される。そのため、特許文献1では、貫通孔を有する木質梁の補強構造として、当該貫通孔に達する木質梁のスリットに鋼板を挿入し、鋼板に設けられた貫通部と木質梁の貫通孔の位置を対応させるものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の補強構造は、木質梁にスリットを高い精度で加工する必要があり、木質梁の製作に手間がかかっていた。また鋼板をスリットに挿入する必要があるため、鋼板の形状や配置も限られていた。
【0006】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、貫通孔を有する木質梁を簡易な構成で補強できる補強構造等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した目的を達成するための第1の発明は、木質梁の補強構造であって、前記木質梁は、梁材の梁軸方向の側面である対向面同士が対向するように複数の梁材を梁幅方向に重ねたものであり、前記梁材は、梁幅方向に貫通する貫通孔を有し、複数の前記梁材の対向面の間に、前記貫通孔と対応する箇所に孔を有する補強板が配置され、前記貫通孔の周方向に沿って設けられる筒状の補強管をさらに有し、前記補強管の軸方向の端部と前記木質梁の端部との間には前記木質梁の木質材が介在することを特徴とする補強構造である。
第2の発明は、木質梁の補強構造であって、前記木質梁は、梁材の梁軸方向の側面である対向面同士が対向するように複数の梁材を梁幅方向に重ねたものであり、前記梁材は、梁幅方向に貫通する貫通孔を有し、複数の前記梁材の対向面の間に、前記貫通孔と対応する箇所に孔を有する補強板が配置され、前記補強板は木製の部材であり、前記補強板に用いる木質材のせん断強度と曲げ強度が、前記梁材に用いる木質材よりも高いことを特徴とする補強構造である。
第3の発明は、木質梁の補強構造であって、前記木質梁は、梁材の梁軸方向の側面である対向面同士が対向するように複数の梁材を梁幅方向に重ねたものであり、前記梁材は、梁幅方向に貫通する貫通孔を有し、複数の前記梁材の対向面の間に、前記貫通孔と対応する箇所に孔を有する補強板が配置され、前記補強板は、前記貫通孔の中心から梁軸方向に対して45°傾斜した4方向の位置を覆うように配置される、側面視でX字状の1枚または2枚の板材であることを特徴とする補強構造である。
【0008】
第1-3の発明では、木質梁を構成する複数の梁材の対向面の間に、梁材の貫通孔と対応する箇所に孔を有する補強板を配置する。これにより、木質梁を簡易な構成で補強することができる。また補強板は梁材の間に挟んで配置できるので、施工も容易に行うことができ、補強板の形状や配置が限定されることはない。
【0009】
第2の発明のように補強板を木製の部材とする場合、木質板を多用した環境面等に優れた架構を実現できる。また前記補強板に用いる木質材のせん断強度と曲げ強度を、梁材に用いる木質材よりも高くすることで、補強板の厚みを抑えつつ効果的に補強を行うことができる。
また第3の発明では、前記補強板が、前記貫通孔の中心から梁軸方向に対して45°傾斜した4方向の位置を覆うように配置されることにより、梁材の貫通孔の周囲の亀裂の起点となりやすい部分を補強板で補強することができ、亀裂の発生や進行を効率よく防止できる。
【0010】
少なくともいずれかの前記梁材の対向面に、前記補強板を収容する凹部が設けられ、前記凹部とは異なる箇所で、複数の前記梁材の対向面同士が接しており、当該箇所において、複数の前記梁材の間でせん断力を伝達するための第1のせん断力伝達機構が設けられてもよい。
これにより、補強板を木質梁の内部に収めることができ、木質梁の意匠性が向上する。また上記のせん断力伝達機構により梁材の対向面の間でせん断力を伝達し、梁材を一体化できる。
【0011】
前記梁材と前記補強板との間でせん断力を伝達するための第2のせん断力伝達機構が設けられることが望ましい。
これにより、梁材と補強板の間でせん断力を伝達し、梁材と補強板を一体化できる。
【0012】
前記補強板は、例えば鋼製の部材である。
補強板を鋼製とする場合、補強の目的や目標とする補強性能に応じた加工が容易であり、効率的な補強が可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、貫通孔を有する木質梁を簡易な構成で補強できる補強構造等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図3】梁材2の凹部23とせん断力伝達機構5を示す図。
【
図9】補強板4をドリルねじ42で梁材2に固定する例。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0017】
(1.木質梁1)
図1は、本発明の実施形態に係る補強構造10を有する木質梁1を示す図である。
図1(a)は木質梁1の梁軸方向の側面を示す図であり、
図1(b)は木質梁1の梁軸方向と直交する断面を示す図である。
図1(b)は
図1(a)の線A-Aによる断面である。梁軸方向は
図1(a)の左右方向、
図1(b)の紙面法線方向に対応する。
【0018】
木質梁1は、梁材2と補強板4等を有する。補強構造10は、補強板4によって木質梁1の梁材2を補強するものである。
【0019】
梁材2は、木質梁1において主に荷重を負担する荷重支持部であり、木質材により梁状に形成される。梁材2の梁軸方向と直交する断面は、例えば矩形状である。木質材は、繊維方向を梁軸方向とした集成材等であるが、これに限ることはない。例えばCLT(Cross Laminated Timber)、LVL(Laminated Veneer Lumber)、BP材など、繊維方向を梁軸方向または梁せい方向としたその他の木質材を用いてもよい。梁せい方向は
図1(a)、(b)の上下方向に対応する。
【0020】
図1(b)に示すように、木質梁1は、複数の梁材2を、梁軸方向の側面である対向面22同士が対向するように梁幅方向に重ねて形成される。梁幅方向は梁軸方向および梁せい方向と直交する方向であり、
図1(a)の紙面法線方向、
図1(b)の左右方向に対応する。
【0021】
梁材2は貫通孔21を有する。貫通孔21は、梁材2を梁幅方向に貫通するように設けられる。
図1(a)に示すように、本実施形態では梁材2の梁せい方向の中心部に貫通孔21が形成され、その断面が円形とされる。しかしながら、貫通孔21の位置や形状等は特に限定されない。貫通孔21は木質梁1に設備配管等を通すためのものであり、木質梁1において、2つの梁材2の貫通孔21の梁軸方向および梁せい方向の位置が対応する。
【0022】
図2は木質梁1の梁材2と補強板4を分解して示す斜視図である。補強板4は孔41を有する鋼製の矩形板状の部材(鋼板)であり、木質梁1の両梁材2の対向面22の間に挟み込んで配置され、両梁材2に接着剤(不図示)等で固定される。補強板4としては、平板状の通常の鋼板を用いることができる。孔41は、貫通孔21と略同等の径を有する円形の孔であり、梁材2の貫通孔21と対応する箇所に配置される。
【0023】
鋼板のサイズは、補強板4として必要な強度や補強範囲に応じて定められる。例えば鋼板の厚さは1~22mmの間で設定し、鋼板の縦横の長さは、木質梁1の梁せいをHとして、少なくとも貫通孔21の周囲の幅H/30の円環状の範囲Rを覆うように設定する。これは、既往の研究結果で最も損傷の見られた範囲である。しかしながら、鋼板の厚さや縦横の長さがこれに限ることはない。また、補強板4としては、通常の鋼板の他、縞鋼板やパンチングメタル等を用いることも可能である。
【0024】
以上説明したように、本実施形態の補強構造10では、木質梁1を構成する複数の梁材2の対向面22の間に、梁材2の貫通孔21と対応する箇所に孔41を有する補強板4を配置する。これにより木質梁1を簡易な構成で補強することができる。また補強板4は梁材2の間に挟んで配置できるので、施工も容易に行うことができる。補強板4を用いた補強により、木質梁1の梁せいに対する貫通孔21の孔径を大きくすることができ、木質梁1に貫通孔21等を形成するハードルも低くなる。結果、設備配管等の配置の自由度が向上し、建物の階高の低減や、天井裏のスペースの有効利用等が可能になる。
【0025】
また本実施形態では、補強板4として鋼板を用いることで、補強の目的や目標とする補強性能に応じた加工が容易となり、効率的な補強が可能になる。
【0026】
しかしながら、本発明が上記の実施形態に限定されることはない。例えば
図1(b)の例では梁材2の間に補強板4の厚さ分の隙間が生じ、木質梁1を見上げた際の意匠性で問題となる可能性がある。これに対し、
図1(b)と同様の断面である
図3(a)に示すように、木質梁1の両梁材2の対向面22に補強板4を収容するための凹部23を座彫りにより設けることで、梁材2の対向面22同士が凹部23を除く箇所で接し、補強板4を木質梁1の内部に収める構成とできる。これにより、木質梁1の意匠性が向上する。
【0027】
図3(a)の例では両梁材2の対向面22に凹部23を設けているが、
図3(b)に示すように、一方の梁材2(図の例では右側の梁材2)の対向面22のみに凹部23を設けても良い。
図3(b)の例では、さらに、両梁材2の対向面22の接触箇所でせん断力を伝達するせん断力伝達機構5(第1のせん断力伝達機構)が設けられる。これにより、梁材2の間でせん断力を伝達し、梁材2同士を一体化できる。
図3(a)の例においても同様のせん断力伝達機構5を設けることができるが、特に
図3(b)の場合、凹部23内の補強板4による補強効果を、凹部23を設けていない梁材2(図の例では左側の梁材2)側にも伝達することができ、好ましい。
【0028】
図3(b)のせん断力伝達機構5は、両梁材2の対向面22に跨るように設けたピンであるが、せん断力伝達機構5はこれに限ることはない。例えば
図4(a)に示すように、せん断力伝達機構5aとして、両梁材2の梁幅方向の貫通孔25に通したドリフトピンを用いることも可能である。この場合、鋼材であるドリフトピンが木質梁1の側面(梁材2の対向面22と反対側の側面)に露出して熱橋となるのを防止するために、ドリフトピンを若干短くし、各梁材2の貫通孔25の木質梁1の側面側の端部を木栓等で塞ぐことも望ましい。
【0029】
その他、
図4(b)に示すように、せん断力伝達機構5bとして、ビスを両梁材2に跨って打ち込むことも可能であり、
図4(c)のせん断力伝達機構5cに示すように、両面に突起を設けた鋼板を梁材2の間に配置し、鋼板の両面の突起を両梁材2に食い込ませることもできる。鋼板としては、メタルプレートコネクタの背面(突起を有しない面)同士を溶接等により接合したものを用いることができる。また
図4(d)のせん断力伝達機構5dに示すように、円筒状の鋼製部材である掘り込みジベルを用い、その軸方向の両端部を両梁材2にそれぞれ食い込ませてもよい。掘り込みジベルとしては、シアプレートやスプリットリングを用いることができる。その他、両梁材2の対向面22同士を接着剤(不図示)で接着するだけでも、せん断力の伝達は可能である。
【0030】
また本実施形態では、2本の梁材2を重ねて木質梁1を構成するが、3本以上の梁材2を同様に重ねて木質梁を構成してもよい。この場合、補強板4は、隣り合う全ての梁材2の対向面22の間に設けても良いし、一部の梁材2の対向面22の間にのみ設けても良い。後者の場合、補強板4の枚数は、補強板4同士の離隔等を考慮して決定できる。
【0031】
また補強板4は梁材2の間に挟んで配置できるので、前記した特許文献1のように、補強板4の形状や配置が限定されることもない。例えば
図1(a)と同様の側面である
図5(a)において示すように、補強板4をひし形に配置することもできる。
図1(a)や
図5(a)の例では補強板4が矩形板状であり、補強板4の加工が容易で耐力向上も見込めるという利点がある。一方、補強板4を
図5(b)に示すように円板状とすることもでき、前記の範囲R(
図2参照)を最小限の面積の鋼板で覆うことができる。ただし、矩形板状の補強板4に比べると、加工は若干難しい。
【0032】
また
図6(a)に示すように、補強板4をX字状の板材としてもよい。すなわち、
図7に示すように、鉛直荷重等に対して木質梁100の貫通孔101の周辺に生じる応力は、木質梁100の梁軸方向の側面において、貫通孔101の中心Cから梁軸方向Hに対しておよそ45°傾斜した方向aの位置で大きくなり、当該位置を起点に木質梁100に梁軸方向の亀裂(割裂)102が生じる可能性が高いことが知られている(「円形孔を有する集成材梁の耐力に関する研究」岡本他、日本建築学会構造系論文集、第85巻、第775号、1199-1208、2020年9月)。
【0033】
図6(a)に示すX字状の補強板4は、貫通孔21の中心Cから梁軸方向Hに対しておよそ45°傾斜した4方向a1~a4に沿った位置を覆うように配置されることで、亀裂が発生、進行しやすい部位を補強することができ、耐力向上が見込める。なお、
図1(a)の補強板4や
図5(a)、(b)の補強板4も上記位置を覆うように配置されるが、X字状の補強板4は、上記位置をより広く覆うように配置される点で好ましい。
【0034】
図6(b)に示すように、補強板4の上端部を木質梁1の上面から突出させ、木質梁1の上面のコンクリートスラブ3に埋設させてもよい。これにより、補強板4がシアコネクタの役割を果たし、木質梁1とコンクリートスラブ3の一体化を図ることができる。なお、補強板4の上端部を木質梁1の上面から突出させてシアコネクタとして用いる構成は、補強板4の形状や配置に関わらず適用できる。
【0035】
また
図6(a)の補強板4はX字状の1枚の鋼板であるが、
図2と同様の分解図である
図8に示すように、梁材2の対向面22の間に、2枚の平行四辺形状の補強板4を挟み込み、これら2枚の補強板4を、
図6(a)と同様のX字状となるように重ね合わせてもよい。各補強板4は、両梁材2の対向面22に設けた凹部23にそれぞれ収容される。2枚の補強板4を用いることで重量は増えるものの、X字状の補強板4と比べ、補強板4の加工が容易になる。また、両梁材2を個別の鋼板で補強できる点も好ましい。
【0036】
その他、
図1(b)と同様の断面である
図9に示すように、木質梁1を構成する両梁材2の対向面22のそれぞれの凹部23に配置した補強板4を、ドリルねじ42で梁材2に固定してもよい。この場合、凹部23の深さは、ドリルねじ42の頭部が対向面22の位置から突出しないように決定され、補強板4の間には隙間が設けられる。
【0037】
また
図10(a)に示すように、補強板4と梁材2の間でせん断力を伝達するせん断力伝達機構7(第2のせん断力伝達機構)を設けても良い。これにより梁材2と補強板4の間でせん断力を伝達し、梁材2と補強板4を一体化できる。
図10(a)のせん断力伝達機構7は、
図4(d)のせん断力伝達機構5と同様、シアプレートやスプリットリングなどの掘り込みジベルであり、補強板4の両面に接合され、円筒状の壁部が梁材2内に貫入される。
【0038】
図10(b)に示すように、掘り込みジベルの内側を通って両梁材2と補強板4を梁幅方向に貫通するボルト71を設けてもよく、掘り込みジベルに加わるせん断力を、ボルト71を介して梁材2の梁幅方向の広範囲に伝達できる。ボルト71の両端部にはナット72が締め込まれる。ボルト71の端部とナット72は、
図10(b)に示すように梁材2から突出させて図示しない被覆材で覆ってもよいし、梁材2の対向面22と反対側の側面(木質梁1の側面)に形成した凹部に収容し、凹部を木製の穴埋め材で埋めてもよい。これにより木質梁1の側面を平滑化できる。
【0039】
また
図10(c)に示すように、せん断力伝達機構7aとしてドリフトピンを用いることもできる。ドリフトピンは、梁材2に形成された梁幅方向の貫通孔25に通され、両梁材2と補強板4を梁幅方向に貫通する。前記と同様、ドリフトピンが木質梁1の側面に露出して熱橋となるのを防止するために、ドリフトピンを若干短くし、貫通孔25の木質梁1の側面側の端部を木栓等で塞ぐことも望ましい。また
図10(b)のボルト71を単独でせん断力伝達機構として用いることもできる。
【0040】
その他、
図4(c)と同様、両面に突起を設けた鋼板を補強板4として用い、突起が両梁材2に食い込むことで、補強板4と梁材2の間でせん断力を伝達してもよい。また、補強板4と梁材2とをエポキシ樹脂などの接着剤(不図示)で接着するだけでも、せん断力の伝達は可能である。
【0041】
また
図11(a)に示すように、両梁材2の貫通孔21の周方向に沿って筒状の補強管8を設け、補強板4を、補強管8の外面に取り付けてもよい。補強管8は例えば鋼管であり、貫通孔21の内面に沿って配置され、当該内面と接着剤により接着される。補強板4は補強管8の外面に溶接等により接合して一体化される。補強管8は、貫通孔21の孔壁を補強し、
図7で説明した亀裂の発生や進行を抑制する。
【0042】
補強管8の軸方向の両端部は梁材2の木質材に巻き込まれ、当該木質材を火災時の燃え代とできる。なお、木質梁1の側面に耐火被覆等が施される場合もあり、その場合は、補強管8の両端部が木質梁1の側面に露出し、
図11(a)のように木質材で覆われない構成としてもよい。
【0043】
また
図11(b)に示すように、補強管8の内側に別途の耐火被覆9を施してもよい。耐火被覆9は、補強管8の内面に沿って配置される筒状の部材であり、難燃剤を含浸した木質材等により形成される。これに対し、難燃性を有しない木管を補強管8の内側に配置してもよい。この場合、木管は火災の燃え代として考慮する。
【0044】
図11(a)、(b)の補強管8は貫通孔21の内面に沿って配置されるが、
図11(c)に示すように、補強管8を、貫通孔21の内面から梁材2の内部にセットバックさせて配置してもよい。各梁材2には、補強管8を挿入するための溝26が設けられる。補強管8が各梁材2の溝26に挿入されることで、梁材2同士の位置ずれを抑制できる。なお、補強管8は円筒状に限らない。例えば、補強管8の断面は矩形状であってもよく、
図5(a)と同様にひし型に配置されていてもよい。
【0045】
また本実施形態では補強板4を鋼製の部材としたが、補強板4は木製の部材とすることもでき、木質材を多用した、環境面や意匠面に優れた軽量の架構を提供できる。また補強板4と梁材2とが同種の部材となり親和性がよく、同一工場で補強板4と梁材2の加工ができるので、施工性も向上する。補強板4としては、合板、LVL(A種構造用LVL、B種構造用LVL)、CLT、OSB(Oriented Strand Board)、LSL(Laminated Strand Lumber)などを用いることができる。特に、B種構造用LVLは、繊維直交方向単板(直交単板)が補強に寄与し、好適である。ただし、補強板4の上端部をシアコネクタとして用いる
図6(b)の例では、補強板4は鋼板とされる。
【0046】
補強板4を木製の部材とする場合、補強板4に用いる木質材のせん断強度と曲げ強度は、梁材2に用いる木質材よりも高いことが望ましい。これにより、補強板4の厚みを抑えつつ効果的に補強を行うことができる。せん断強度や曲げ強度が梁材2に用いる木質材以下である場合でも、適切な補強効果が得られるように板材の厚さや形状を調整すれば補強板4として使用可能である。
図11(a)~(c)の例では、補強管8も木製の管状部材とすることで、木製の補強板4と補強管8とを接着剤やビス等で接合できる。
【0047】
木製の補強板4を用いる場合は、
図2と同様の分解図である
図12(a)に示すように、補強板4の形状を梁材2の対向面22に対応するものとし、対向面22の全面に補強板4を配置してもよい。この場合、木質梁1を見上げた際の意匠性が向上する。補強板4と両梁材2とは接着剤(不図示)により接着固定されるが、梁材2と補強板4との間でせん断力を伝達するために、
図10(a)の掘り込みジベルや
図10(c)のドリフトピンのようなせん断力伝達機構7を設けることもできる。ドリフトピンに代えて木栓を用いてもよく、木質梁1の重量を削減し、且つ木質梁1の側面の意匠性も維持できる。
【0048】
また、
図12(b)に示すように、上記した木製の補強板4を、各梁材2の対向面22と反対側の側面にさらに設けてもよく、
図12(c)に示すように、上記した木製の補強板4を、梁材2の梁軸方向の両側面に設けて木質梁としてもよい。なお、
図12(a)~(c)の形態は、補強板4を鋼板とする場合にも適用可能である。
【0049】
以上、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0050】
1、100:木質梁
2:梁材
3:コンクリートスラブ
4:補強板
5、5a~5d、7、7a:せん断力伝達機構
8:補強管
9:耐火被覆
10:補強構造
21、25、101:貫通孔
22:対向面
23:凹部
41:孔
102:亀裂
【要約】
【課題】貫通孔を有する木質梁を簡易な構成で補強できる補強構造等を提供する。
【解決手段】木質梁1は、梁材2の梁軸方向の側面である対向面22同士が対向するように複数の梁材2を梁幅方向に重ねたものである。補強構造10は、木質梁1の梁材2を補強板4によって補強するものである。梁材2は、梁幅方向に貫通する貫通孔21を有し、複数の梁材2の対向面22の間に、貫通孔21と対応する箇所に孔41を有する補強板4が配置される。
【選択図】
図1