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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】熱伝導性組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/14 20060101AFI20241217BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20241217BHJP
   H01L 23/373 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
C09K5/14 E
H01L23/36 D
H01L23/36 M
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2024520808
(86)(22)【出願日】2024-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2024012455
【審査請求日】2024-04-23
(31)【優先権主張番号】P 2023053524
(32)【優先日】2023-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005061
【氏名又は名称】バンドー化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】細川 祐希
(72)【発明者】
【氏名】向 史博
(72)【発明者】
【氏名】荒 憲太郎
(72)【発明者】
【氏名】北爪 琢哉
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-176182(JP,A)
【文献】国際公開第2020/179115(WO,A1)
【文献】特開2022-037609(JP,A)
【文献】国際公開第2017/179318(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/149335(WO,A1)
【文献】特開2010-007039(JP,A)
【文献】特開2005-072220(JP,A)
【文献】国際公開第2020/196477(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/18
C08L 83/04
C08K 3/04
C08K 3/22
C08K 3/013
C08K 7/06
C08K 7/18
H01L 23/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーンと熱伝導性フィラーとを含有する樹脂組成物からなる、シート状の熱伝導性組成物であって、
前記樹脂組成物は、前記シリコーンとして、未架橋のシリコーンを50質量%以上含有し、
前記樹脂組成物は、前記熱伝導性フィラーとして、炭素繊維と鱗片状のグラファイト粉末と球状の酸化亜鉛粒子とを含有し、
50%圧縮変形させた際に、初期の圧縮荷重値が1.0N/mm以下であり、1分間経過後の圧縮荷重値の前記初期の圧縮荷重値に対する比率が0.5以下であり、
20%圧縮変形させた際の見かけの熱伝導率が、22.8W/mK以上である、
熱伝導性組成物。
【請求項2】
前記樹脂組成物は、前記シリコーンとして、未架橋のシリコーンのみを含有する、請求項1に記載の熱伝導性組成物。
【請求項3】
前記1分間経過後の圧縮荷重値は、0.4N/mm以下である、請求項1又は2に記載の熱伝導性組成物。
【請求項4】
前記未架橋のシリコーンは、ポリジメチルシロキサンである、請求項1又は2に記載の熱伝導性組成物。
【請求項5】
熱伝導性組成物における前記炭素繊維と前記鱗片状のグラファイト粉末と前記球状の酸化亜鉛粒子との合計含有量は、50体積%以上70体積%以下である、請求項1又は2に記載の熱伝導性組成物。
【請求項6】
熱伝導性組成物における前記炭素繊維の含有量は、30体積%以上45体積%以下である、請求項1又は2に記載の熱伝導性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性組成物に関する。
本出願は、2023年3月29日出願の日本出願第2023-053524号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
ICチップ等の発熱部材には、通常、熱伝導材(TIM:Thermal Interface Material)を介してヒートシンク等の放熱部材が取り付けられる。発熱部材で発生した熱は、上記熱伝導材を介して放熱部材に伝導される。
【0003】
上記熱伝導材として、例えば、樹脂マトリックス中に、熱伝導性フィラーとして、球状のアルミナと炭素繊維とが配合された熱伝導性シートが提案されている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2019/244890号
【文献】特開2014-31501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
熱伝導性シートは、熱伝導性に優れることが求められる部材であり、熱伝導性フィラーの配合量を多くすることで、熱伝導性を高めることができる。一方、熱伝導性シートは、熱伝導性フィラーの含有量を高めると、硬くなってしまう。
ICチップに使用される熱伝導性シートは、所定の圧縮荷重を掛けながらICチップに取り付けられる。また、熱伝導性シートをICチップに取り付ける際に掛ける圧縮荷重は、熱伝導性シートが硬くなるほど、大きくする必要がある。
【0006】
従って、熱伝導性が高く、硬い熱伝導性シートをICチップに取り付ける際には、比較的大きな圧縮荷重を掛ける必要がある。
一方、大きな圧縮荷重は、ICチップに大きな負荷を掛けることになる。そして、取り付け時に掛けた圧縮荷重がその後も維持されると、ICチップに継続して負荷が掛かってしまうことになる。ICチップに対して継続して大きな負荷が掛かることは、ICチップの故障の原因となり得る。
【0007】
また、熱伝導性シートは、複数のICチップ等の発熱部材を同時に覆うように取り付けられることがある。この場合、各発熱部材の形状は通常同一ではないので、熱伝導性シートは、発熱部材それぞれの異なる形状に応じて変形できることが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、このような状況のもと鋭意検討を重ね、熱伝導性に優れ、ICチップ等の発熱部材の形状に追従しやすく、かつ発熱部材に掛かる負荷が低減された熱伝導性組成物を完成した。
【0009】
本発明の一態様に係る熱伝導性組成物は、シリコーンと熱伝導性フィラーとを含有する樹脂組成物からなる、シート状の熱伝導性組成物であって、
50%圧縮変形させた際に、初期の圧縮荷重値が1.0N/mm以下であり、1分間経過後の圧縮荷重値の上記初期の圧縮荷重値に対する比率が0.5以下であり、
20%圧縮変形させた際の見かけの熱伝導率が、22.8W/mK以上である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様に係る熱伝導性組成物は、高い熱伝導率を有する。
上記熱伝導性組成物は、ICチップ等の発熱部材の形状に追従するように変形しやすい。
上記熱伝導性組成物は、ICチップ等の発熱部材に取り付けた際に、ICチップ等に掛かる負荷を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の実施形態に係るシート状の熱伝導性組成物を介してヒートシンクが取り付けられたICチップを模式的に示す断面図である。
図2図2Aは、本発明の実施形態に係るシート状の熱伝導性組成物の一例を模式的に示す斜視図である。図2Bは、図2AのA-A線断面における部分拡大図である。
図3図3は、本実施形態に係るシート状の熱伝導性組成物の製造で使用する押出機の先端部分及びTダイの断面概略図を示す。
図4図4A図4Dは、本発明の実施形態に係るシート状の熱伝導性組成物の製造方法の別の一例を説明する図である。
図5図5A図5Cは、実施例及び比較例における追従性の評価方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態の概要を列記して説明する。
(1)シリコーンと熱伝導性フィラーとを含有する樹脂組成物からなる、シート状の熱伝導性組成物であって、
50%圧縮変形させた際に、初期の圧縮荷重値が1.0N/mm以下であり、1分間経過後の圧縮荷重値の上記初期の圧縮荷重値に対する比率が0.5以下であり、
20%圧縮変形させた際の見かけの熱伝導率が、22.8W/mK以上である、熱伝導性組成物。
【0013】
このシート状の熱伝導性組成物は、高い熱伝導率を有しつつ、取り付け後、発熱部材に掛かる負荷を低減することができる。また、取り付け時に発熱部材の形状に追従しやすい。更には、取り付け後、発熱部材が熱により変形してもその変形に追従することができる。
【0014】
(2)上記(1)の熱伝導性組成物において、上記1分間経過後の圧縮荷重値は、0.4N/mm以下であることが好ましい。
この場合、取り付け後、ICチップに高い負荷が継続的に掛かることを回避することができる。
【0015】
(3)上記(1)又は(2)の熱伝導性組成物において、上記樹脂組成物は、シリコーンとしてポリジメチルシロキサンを含有する、ことが好ましい。
(4)上記(1)~(3)のいずれかの熱伝導性組成物において、上記樹脂組成物は、熱伝導性フィラーとして、異方性の熱伝導性フィラーと、非異方性の熱伝導性フィラーとを含有する、ことが好ましい。
(5)上記(1)~(4)のいずれかの熱伝導性組成物において、上記樹脂組成物は、熱伝導性フィラーとして、繊維状のフィラーと、鱗片状のフィラーと、球状のフィラーとを含有する、ことが好ましい。
【0016】
これらの樹脂組成物は、高い熱伝導率を有しつつ、ICチップに掛かる負荷を低減することができる熱伝導性シートを構成する樹脂組成物として適している。
【0017】
(6)上記(1)~(5)の熱伝導性組成物において、上記樹脂組成物は、熱伝導性フィラーとして、炭素繊維と鱗片状のグラファイト粉末と球状の酸化亜鉛粒子とを含有する、ことが好ましい。
熱伝導フィラーとして酸化亜鉛粒子を含有させた場合、アルミナ粒子を含有させた場合に比べて、シート状の熱伝導性組成物の熱伝導率を高めやすい。
熱伝導性フィラーとして炭素繊維と鱗片状のグラファイト粉末とを併用すると、炭素繊維及び鱗片状のグラファイト粉末の一方のみを含有させる場合に比べて、シート状の熱伝導性組成物の初期荷重を抑えつつ、熱伝導率を高めやすい。
【0018】
(7)上記(6)の熱伝導性組成物において、上記炭素繊維と上記鱗片状のグラファイト粉末と上記球状の酸化亜鉛粒子との合計含有量は、50体積%以上70体積%以下が好ましい。
(8)上記(6)又は(7)の熱伝導性組成物において、上記炭素繊維の含有量は、30体積%以上45体積%以下が好ましい。
これらの場合、50%圧縮変形させるに必要な圧縮荷重値を抑えつつ、良好な熱伝導性を確保するのに更に適している。
【0019】
以下、本発明の実施形態に係るシート状の熱伝導性組成物について詳細に説明する。本発明の実施形態は、下記の実施形態に限定されるものではない。
【0020】
本発明の実施形態において、「シート状の熱伝導性組成物」には、押出成型等で成形した後のブロック状物、及び、当該ブロック状物を適宜切断して得られる切断物(スライスしたシート状物を含む)のいずれもが含まれる。
ここでは、スライスしたシート状物を例にして、上記シート状の熱伝導性組成物の実施形態を説明する。
【0021】
本実施形態に係るシート状の熱伝導性組成物は、ICチップとヒートシンクとの間に設けられる部材である。上記熱伝導性組成物は、シリコーンと、熱伝導性フィラーとを含有する樹脂組成物からなる。ここで、シリコーンとは、シロキサン結合による主骨格を有する高分子化合物である。
図1は、本発明の実施形態に係るシート状の熱伝導性組成物を介してヒートシンクが取り付けられたICチップを模式的に示す断面図である。図2Aは、本発明の実施形態に係るシート状の熱伝導性組成物の一例を模式的に示す斜視図である。図2Bは、図2AのA-A線断面における部分拡大図である。
なお、本願図面に記載された図は、いずれも模式図であり、各部材の実寸法を正確に反映したものではない。
【0022】
シート状の熱伝導性組成物1(以下、熱伝導性シート1ともいう)は、図1に示されるように、ICチップ11とヒートシンク12との間に配置される。熱伝導性シート1は、一方の面をICチップ11に接触させ、他方の面をヒートシンク12に接触させて使用する。これにより、ヒートシンク12は熱伝導性シート1を介してICチップ11に取り付けられる。そのため、ICチップ11が発する熱はヒートシンク12によって筐体(図示せず)の外部へ放熱される。
【0023】
図1には、1個のICチップ11の上面に取り付ける熱伝導性シート1の使用態様が記載されている。一方、本発明の実施形態に係るシート状の熱伝導性組成物(熱伝導性シート)は、複数のICチップ等の発熱部材を同時に覆うように取り付けられる熱伝導性シートであってもよい。
【0024】
熱伝導性シート1は、厚さ方向(図2A及び図2Bにおける上下方向)に50%圧縮変形させた際に、初期の圧縮荷重値が1.0N/mm以下である。
ICチップ11に熱伝導性シート1を取り付ける場合、所定の荷重を掛けて熱伝導性シート1をICチップ11に圧着させる。このとき、熱伝導性シート1の柔軟性が不十分な場合には、熱伝導性シート1とICチップ11とが密着せず、両者の界面に隙間が生じてしまうことがある。また、1枚の熱伝導性シート1を複数の発熱部材を同時に覆うように取り付ける場合には、全ての発熱部材の形状に追従できず、いずれかの発熱部材との間に隙間が生じてしまうことがある。
【0025】
一方、熱伝導性シート1を取り付ける際の荷重を大きくすれば、熱伝導性シート1とICチップ11とが密着し、隙間が生じにくくなるが、その場合、ICチップ11が破損するおそれがある。
これに対して、初期の圧縮荷重値が1.0N/mm以下の熱伝導性シート1であれば、ICチップごとに定められている圧縮荷重の許容値の範囲内でICチップ等に適切に取り付けることができる場合が多い。また、初期の圧縮荷重値が1.0N/mm以下の熱伝導性シート1は、複数の発熱部材を同時に覆うように取り付ける場合に、それぞれの発熱部材の形状に追従しやすい。
【0026】
上記初期の圧縮荷重値は、0.7N/mm以下であることが好ましい。ICチップに負荷を掛けずに、熱伝導性シートをICチップに密着させるのにより適している。
熱伝導性シート1において、上記初期の圧縮荷重値は、通常、0.1N/mm以上であるが、0.1N/mmより小さくてもよい。
【0027】
熱伝導性シート1は、厚さ方向に50%圧縮変形させて1分間経過した後の圧縮荷重値(以下、1分後圧縮荷重値という)の上記初期の圧縮荷重値に対する比率が0.5以下である。
この場合、熱伝導性シート1は、ICチップ11の形状に応じて変形しやすい。そのため、ICチップ11に取り付ける際にICチップ11の形状に追従することができる。特に、複数の発熱部材を同時に覆うように取り付けるのに適している。また、ICチップ11が熱によって変形した場合には、その変形に追従して変形しやすい。
また、ICチップに高い負荷が掛かり続けることを回避することができる。
【0028】
熱伝導性シート1の上記1分後圧縮荷重値は、0.4N/mm以下であることが好ましい。
この場合、熱伝導性シート1は、ICチップ11に所定の荷重を掛けて取り付けられた後、荷重が充分に解放される。そのため、ICチップ11に長期間に亘って大きな荷重が掛かり続けることを回避できる。
【0029】
上記1分間経過後の圧縮荷重値は、0.2N/mm以下であることがより好ましく、0.15N/mm以下であることが特に好ましい。
上記1分間経過後の圧縮荷重値の下限は限定されず、熱伝導性組成物の形状が、シート状に維持される値であればよい。
【0030】
熱伝導性シート1を厚さ方向に50%の圧縮変形させた際の初期の圧縮荷重値の計測は、測定器として万能試験機(例えば、Instron5969(Instron社製))を使用し、圧縮速度:5mm/minで熱伝導性シート1を厚さ方向に「測定前厚さ×0.5」の厚さまで圧縮し、その時の荷重値を測定する。更に、得られた測定値に基づいて、単位面積(mm)当たりの圧縮荷重値を算出する。
また、1分間経過した後の圧縮荷重値の計測は、初期の圧縮荷重値を計測した状態(厚さ方向の50%圧縮変形した状態)で、1分間放置した時の荷重値を測定する。更に、得られた測定値に基づいて、単位面積(mm)当たりの圧縮荷重値を算出する。
【0031】
熱伝導性シート1は、厚さ方向に20%圧縮変形させた際の見かけの熱伝導率が、22.8W/mK以上である。
上記見かけの熱伝導率が22.8W/mK以上未満では、熱伝導性が不十分である。
熱伝導性シート1における、上述の見かけの熱伝導率は、26.6W/mK以上が好ましい。
【0032】
熱伝導性シート1における、上述の見かけの熱伝導率は、シートを「測定前厚さ×0.8」の厚みまで圧縮(20%圧縮)した状態で測定した熱抵抗値(Kcm/W)と、測定時の熱伝導性シートの厚さ(cm)から下記の計算式(1)に基づいて算出することができる。
【0033】
見かけの熱伝導率(W/mK)=測定時の熱伝導性シートの厚さ(cm)÷20%圧縮変形させた際の熱抵抗値(Kcm/W)×100・・・(1)
【0034】
20%圧縮変形させた際の熱抵抗値は、熱伝導性シート1を20%圧縮変形させた状態で熱伝導率測定装置(例えば、TIMtester1400(AnalysisTech社製))を使用して測定する。
【0035】
熱伝導性シート1の厚さは特に限定されないが、例えば、0.05mm以上3.0mm以下である。この場合、熱伝導性シート1は、ICチップ11とヒートシンク12との間で熱を効率良く伝達する部材として好適に使用することができる。
熱伝導性シート1の厚さは、0.05mm以上2.5mm以下が好ましい。ICチップ11やヒートシンク12の形状に対する追従性を確保しつつ、より優れた放熱性能を確保することができる。一方、熱伝導性シート1の厚さが0.05mm未満ではICチップ11やヒートシンク12の形状に追従しきれないことがある。また、上記厚さが2.5mmを超えるとシート自体の熱抵抗によって放熱性に劣ることがある。
【0036】
熱伝導性シート1の平面視形状は、例えば、矩形である。
この場合、熱伝導性シート1の縦寸法及び横寸法は、ICチップ11等の熱伝導性シート1を取り付ける部材の寸法を考慮して決定すればよく、例えば、縦寸法及び横寸法ともにそれぞれ独立して10mm以上120mm以下である。
熱伝導性シート1の平面視形状は、矩形に限定されず、円形や楕円形など、矩形以外の形状であってもよい。円形の場合は、例えば直径が10mm以上120mm以下である。楕円形の場合は、例えば長径又は短径が10mm以上120mm以下である。
【0037】
熱伝導性シート1は、図2Bに示すように、マトリックス成分2と、熱伝導性フィラー4とを含有する。
熱伝導性シート1では、熱伝導性フィラー以外の成分をまとめてマトリックス成分と称する。
熱伝導性シート1は、ほぼ厚さ方向にウェルドラインが形成されることもある。
【0038】
マトリックス成分2は、シリコーンを含有する。そのため、熱伝導性シート1は耐熱性に優れる。
本実施形態において、上記シリコーンは、シリコーンの架橋物(以下、架橋シリコーンともいう)を含んでいてもよいが、良好な柔軟性を確保しやすい観点から未架橋のシリコーンを主成分とすることが好ましい。
ここで、未架橋のシリコーンを主成分とするとは、シリコーン全体に占める未架橋のシリコーンの割合が50質量%以上であることを意味する。
上記シリコーンは、未架橋のシリコーンのみで構成されていてもよい。
未架橋のシリコーンを主成分とすることで、ICチップ等に取り付けた後の荷重が解放されやすくなる。
【0039】
未架橋のシリコーンとしては、側鎖が全てメチル基で不飽和基を含まないシリコーンであるポリジメチルシロキサンが好ましい。
上記シリコーンは、上記ポリジメチルシロキサンを50質量%以上含有することが好ましく、70質量%以上含有することがより好ましく、80質量%以上含有することが更に好ましく、90質量%以上含有することが特に好ましい。
上記ポリジメチルシロキサンは、反応性が乏しく、安定性に優れたポリマーである。そのため、シリコーン中の上記ポリジメチルシロキサンが占める割合を高めることによって、熱伝導性シート1の柔軟性を向上させることができる。
【0040】
上記ポリジメチルシロキサンは、オイルであってもよいし、ミラブルタイプであってもよいが、ミラブルタイプのポリジメチルシロキサンが好ましい。後述の方法によって熱伝導性シート1を製造する際の成形性が良好だからである。
【0041】
上記ポリジメチルシロキサンの分子量は、質量平均分子量MWとして、6万以上70万以下であることが好ましい。
上記ポリジメチルシロキサンの質量平均分子量MWが6万未満では、熱伝導性シート1からポリジメチルシロキサンがブリードしやすくなる。一方、ポリジメチルシロキサンの質量平均分子量MWが70万を超えると、熱伝導性シート1を製造する際の成形性や加工性に劣る傾向にある。
【0042】
本開示の発明において、ポリジメチルシロキサンの質量平均分子量MWは、JIS-K7252-1:2008年「プラスチック-サイズ排除クロマトグラフィーによる高分子の平均分子量及び分子量分布の求め方-第1部:通則」に準拠し、ポリスチレンを標準物質とするゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定した質量平均分子量である。
【0043】
上記ポリジメチルシロキサンの動粘度は、ウッベローデ粘度計で測定した25℃の動粘度で、10000cps以上100000cps以下が好ましい。
上記動粘度が10000cps未満では、ポリジメチルシロキサンが熱伝導性シート1からブリードし易くなる。一方、上記動粘度が100000cpsを超えると、熱伝導性シート1の硬度が高くなり、ICチップとヒートシンクとの間に配置した際に、ICチップやヒートシンクとの接触面に対する密着性や追従性に劣る場合がある。
【0044】
上記シリコーンが架橋シリコーンを含有する場合、当該架橋シリコーンは、過酸化物架橋されたものであってもよいし、付加反応型の架橋により架橋されたものであってもよいが、過酸化物架橋されたものが好ましい。過酸化物架橋によって架橋された架橋シリコーンの方が耐熱性に優れるからである。
上記架橋シリコーンとしては、例えば、側鎖(末端も含む)の一部にビニル基等の架橋性官能基を有するシリコーンを架橋させたものが挙げられる。
【0045】
上記シリコーンは、ビニル基等の架橋性官能基を有するシリコーンが、未架橋の状態で含まれていてもよい。
【0046】
マトリックス成分2は、熱伝導性シート1の要求特性を損なわない範囲で、他のエラストマー成分等を含有していてもよい。
【0047】
マトリックス成分2は、難燃剤、補強剤、充填剤、軟化剤、可塑剤、老化防止剤、粘着付与剤、帯電防止剤、練り込み接着剤、カップリング剤等の一般的な添加剤を含有していてもよい。
上記難燃剤としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、白金系化合物、トリアゾール系化合物、べんがら、黒鉄などの酸化鉄等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
上記水酸化マグネシウムは、熱伝動性フィラーとしても機能することができる。
【0048】
マトリックス成分2は、添加剤として、シランカップリング剤等のカップリング剤を含有することが好ましい。特に、熱伝導性フィラーとして、酸化亜鉛粒子を含有する場合は、シランカップリング剤を含有することが好ましい。
酸化亜鉛粒子とシランカップリング剤とを組み合わせて使用することで、熱伝導性シート1の柔軟性を高めることができる。
【0049】
上記シランカップリング剤としては、例えば、メチルトリメトキシラン、エチルトリメトキシラン、プロピルトリメトキシラン、ブチルトリメトキシラン、ペンチルトリメトキシラン、ヘキシルトリメトキシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリエトキシシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシシラン, 3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらは、一種類のみを用いても良いし、二種類以上を併用してもよい。
【0050】
熱伝導性シート1は、熱伝導性フィラー4を含有する。
熱伝導性フィラー4としては、異方性の熱伝導性フィラー(以下、異方性フィラーともいう)と、非異方性の熱伝導性フィラー(以下、非異方性フィラーともいう)とを含有することが好ましい。
この場合、高い熱伝導性を確保と、柔軟性の確保とを両立しやすく、製造時の成形性も良好である。
一方、熱伝導性シート1が異方性フィラーのみを含有する場合は、圧縮荷重値を低くしにくい。更に、製造過程で、成形物にクラックが発生しやすくなる。また、熱伝導性シート1が非異方性フィラーのみを含有する場合は、熱伝導性シート1の熱伝導性を高めにくい。
【0051】
熱伝導性フィラーにおいて、異方性フィラーとは、アスペクト比が2.0以上のフィラーをいい、非異方性フィラーとは、アスペクト比が2.0未満のフィラーをいう。
上記熱伝導性フィラーのアスペクト比とは、フィラーの短径に対するフィラーの長径の比、及び、フィラーの厚みに対するフィラーの長径の比のうち、大きい方の値をいう。
上述の長径、短径、厚みは、それぞれフィラーの外接直方体の縦、横、高さに相当する。
【0052】
上記異方性フィラーには、繊維状のフィラー、鱗片状のフィラー、板状のフィラー、薄片状のフィラー等が含まれる。
上記異方性フィラーのアスペクト比は5.0以上が好ましい。
上記非異方性フィラーには、球状のフィラーや、不定形のフィラー等が含まれる。
【0053】
熱伝導性シート1は、熱伝導性フィラーとして、繊維状のフィラーと、鱗片状のフィラーと、球状のフィラーとを含有することが好ましい。
この場合、熱伝導性シート1は、上述した所定の圧縮荷重特性と、熱抵抗値とを満足しやすくなる。
【0054】
このとき、繊維状のフィラーの含有量は、鱗片状のフィラーの含有量、及び球状のフィラーの含有量のそれぞれよりも多いことが好ましい。
この場合、更に、熱伝導性を高めつつ、圧縮荷重値を抑えやすい。
これに対して、鱗片状のフィラーが繊維状のフィラーよりも多い場合は圧縮荷重値を抑えにくい。球状のフィラーが繊維状のフィラーよりも多い場合は、熱伝導性を高めにくい。
【0055】
熱伝導性シート1は、熱伝導性フィラーとして、炭素繊維4Cと、鱗片状のグラファイト粉末4Gと、球状の酸化亜鉛粒子4Zとを含有するものが好ましい。
このとき、熱伝導性シート1は、炭素繊維4C及びグラファイト粉末4Gが熱伝導性シート1のほぼ厚さ方向に配向しており、酸化亜鉛粒子4Zが熱伝導性シート1全体に分散していることが好ましい。このような構成の熱伝導性シート1は、シート状の熱伝導性組成物の初期荷重を抑えつつ、熱伝導率を高めるのに特に適している。
【0056】
炭素繊維4Cの繊維長は、20μm以上が好ましい。上記繊維長が20μm未満では、熱伝導パスが形成しにくく、熱伝導性シート1の熱伝導性に劣る場合がある。
一方、炭素繊維4Cの繊維長の好ましい上限は、炭素繊維の熱伝導性シートへの充填し易さの観点から500μmである。
炭素繊維4Cの繊維長は、50μm以上300μm以下がより好ましい。
【0057】
炭素繊維4Cの繊維径は、5μm以上が好ましい。上記繊維径が5μm未満では、熱伝導パスが形成されにくく、熱伝導性シート1の熱伝導性に劣る場合がある。
炭素繊維4Cの繊維径の好ましい上限は、熱伝導性シート1を作製する際の加工性の観点から20μmである。
【0058】
炭素繊維等の繊維状のフィラーの繊維長とは、繊維状のフィラーの顕微鏡画像を用いて求めた繊維方向の長さの算術平均値をいう。繊維状のフィラーの繊維径とは、繊維状のフィラーの顕微鏡画像を用いて求めた径方向の寸法の算術平均値をいう。
上記繊維長、及び上記繊維径は、繊維状のフィラーの顕微鏡画像を取得した後、その画像から無作為に20本の繊維状のフィラーを選択し、選択した繊維状のフィラーの繊維方向の長さ及び径方向の寸法を測定し、その測定結果に基づいて求められる。
【0059】
炭素繊維4Cとしては、1種類の炭素繊維を用いてもよいし、2種類以上の炭素繊維を用いてもよい。
炭素繊維4Cとしては、熱伝導率が異なる炭素繊維を併用してもよい。熱伝導率が高い炭素繊維を用いた場合、熱伝導率は高まるが、50%圧縮変形させるのに必要な初期の圧縮荷重値も高くなる傾向がある。そのため、熱伝導率が異なる炭素繊維を併用することで、熱伝導性シート1の熱伝導率と、初期の圧縮荷重値とを調整しやすくなる。
【0060】
グラファイト粉末4Gの形状は、鱗片状が好ましい。この場合、熱伝導性シート1の厚さ方向に配向させ、厚さ方向の熱伝導性を高めるのに適している。
グラファイト粉末4Gとして、鱗片状以外のグラファイト粉末を含有してもよい。鱗片状のグラファイト粉末と、鱗片状以外のグラファイト粉末とを併用してもよい。
【0061】
鱗片状のグラファイト粉末4Gの粒径は、5μm以上50μm以下が好ましい。鱗片状のグラファイト粉末4Gの粒径が5μm未満では、熱伝導性シート1内に熱伝導パスが形成されにくい。一方、鱗片状のグラファイト粉末4Gの粒径が50μmを超えると、緻密に充填することが難しい。
鱗片状のグラファイト粉末4Gの粒径は、10μm以上30μm以下が好ましい。
【0062】
鱗片状のグラファイト粉末等の鱗片状のフィラーの粒径とは、鱗片状のフィラーの粒径測定用の顕微鏡画像を用いて求めた板面方向の最大長さのD50(50%メジアン径)をいう。
上記粒径は、鱗片状のフィラーの粒径測定用の顕微鏡画像を取得した後、その画像から無作為に20個の鱗片状のフィラーを選択し、選択した鱗片状のフィラーの板面方向の最大長さを測定し、その測定結果に基づいて求められる。
【0063】
酸化亜鉛粒子4Zの形状は、球状が好ましい。
この場合、他の形状に比べて熱伝導性シート1に酸化亜鉛粒子4Zを充填し易く、また、酸化亜鉛粒子4Zが製造装置の構成部材にダメージを与えにくいためである。
【0064】
酸化亜鉛粒子4Zの粒径は、0.1μm以上10μm以下が好ましい。酸化亜鉛粒子4Zの粒径が0.1μm未満では、熱伝導パスが形成されにくい。一方、酸化亜鉛粒子4Zの粒径が10μmを超えると、炭素繊維4C、鱗片状のグラファイト粉末4Gの配向を阻害しやすくなる。また、酸化亜鉛粒子4Zが製造装置の鋼製部材にダメージを与えやすくなる。
【0065】
本発明の実施形態において、繊維状のフィラー及び鱗片状のフィラー以外の熱伝導性フィラーの粒径とは、レーザ回折・散乱法を用いて測定したメジアン径(d50)の値をいう。
【0066】
熱伝導性フィラー4として、炭素繊維4Cと鱗片状のグラファイト粉末4Gと球状の酸化亜鉛粒子4Zを含有する場合、熱伝導性シート1における熱伝導性フィラー4の好ましい含有量は、炭素繊維4Cと鱗片状のグラファイト粉末4Gと球状の酸化亜鉛粒子4Zとの合計含有量が、50体積%以上70体積%以下である。
炭素繊維4Cと鱗片状のグラファイト粉末4Gと球状の酸化亜鉛粒子4Zとの合計含有量が50体積%未満では、充分な熱伝導性を確保できないことがある。一方、上記合計含有量が70体積%を超えると、熱伝導性シート1が硬くなりすぎて、ICチップに取り付ける際に、許容される圧縮荷重値では適切に取り付けることができないことがある。また、熱伝導性シート1の製造工程の一工程であるスライス加工において、成形中のシートにクラックが発生し、シート形状を維持できないことがある。
熱伝導性シート1において、炭素繊維4Cと鱗片状のグラファイト粉末4Gと球状の酸化亜鉛粒子4Zとの合計含有量は、55体積%以上70体積%以下が好ましい。良好な熱伝導性と適切な硬さを両立するのにより適している。
【0067】
熱伝導性シート1中の炭素繊維4Cの含有量は、30体積%以上45体積%以下が好ましい。熱伝導性シート1の良好な熱伝導性を確保するのに適している。
熱伝導性シート1中の炭素繊維4Cの含有量は、30体積%以上45体積%以下の場合、更に、グラファイト粉末4Gの含有量が5体積%以上10体積%以下であることが好ましい。
3種類の熱伝性フィラーの合計含有量を50体積%以上70体積%以下にしつつ、炭素繊維4C及び鱗片状のグラファイト粉末4Gの含有量を上記範囲にすることにより、良好な熱伝導性を維持したまま、初期の圧縮荷重値に対する、1分後の圧縮荷重値の比を小さくするのに適している。
【0068】
熱伝導性シート1中の鱗片状のグラファイト粉末4Gと球状の酸化亜鉛粒子4Zとの合計含有量は、20体積%以上30体積%以下が好ましい。
この場合、良好な熱伝導性を維持したまま、50%圧縮変形させるに必要な圧縮荷重値を低くするのにより適している。
より好ましくは、25体積%以上30体積%以下である。
【0069】
熱伝導性シート1において、熱伝導性フィラー4の特に好適な構成の一例は、例えば、
炭素繊維4Cと鱗片状のグラファイト粉末4Gと球状の酸化亜鉛粒子4Zを含有し、
炭素繊維4Cと鱗片状のグラファイト粉末4Gと球状の酸化亜鉛粒子4Zとの合計含有量が、50体積%以上70体積%以下であり、
炭素繊維4Cの含有量が、30体積%以上40体積%以下であり、
鱗片状のグラファイト粉末4Gの含有量が5体積%以上10体積%以下であり、
鱗片状のグラファイト粉末4Gと球状の酸化亜鉛粒子4Zとの合計含有量は、25体積%以上30体積%以下である。
【0070】
次に、熱伝導性シート1を製造する方法について説明する。
熱伝導性シート1は、例えば、下記(a)~(c)の工程を行う第1の製造方法により製造することができる。
(a)未架橋のシリコーンと、炭素繊維と、グラファイト粉末と、酸化亜鉛粒子と、難燃剤やカップリング剤等の任意成分とを含有するシリコーン系組成物を調製する工程、
(b)調製したシリコーン系組成物を成形する工程、及び、
(c)成形されたシリコーン系組成物をシート状にスライス加工する工程。
【0071】
まず、シリコーン系組成物を調製する工程(a)を行う。
ここでは、例えば、未架橋のシリコーン、熱伝導性フィラー(炭素繊維、グラファイト粉末、及び酸化亜鉛粒子)、更には、必要に応じて添加する各種添加剤を2本ロールで練り込む等によってシリコーン系組成物を調製する。
このとき、成分の一部又は全部はコンパウンドにして供給してもよい。
【0072】
次に、調製したシリコーン系組成物を成形する工程(b)と、成形物をシート状にスライス加工する工程(c)とを行う。
上記シリコーン系組成物の成形は、例えば、押出機を用いて行えばよい。
図3は、本発明の実施形態に係る熱伝導性シート1の製造で使用する押出機の先端部分及びTダイの断面概略図を示す。
押出機30に投入された上記シリコーン系組成物は、スクリュー34によって撹拌・混練され、流路31に沿ってTダイの第1ギャップ32に導入される。
【0073】
押出機30で攪拌・混錬されたシリコーン系組成物は、まず、第1ギャップ32によって上下方向(厚さ方向)にしぼり込まれて薄い帯状となる。
このとき、シリコーン系組成物中に混合されている異方性の熱伝導性フィラーがシリコーン系組成物の流れ方向(押出方向)に配向する。従って、第1ギャップ32を通過して成形された厚さの薄い樹脂シート40は、異方性の熱伝導性フィラーが樹脂シート40の面方向に配向している。
本実施形態では、例えば炭素繊維や鱗片状のグラファイト粉末などが異方性の熱伝導性フィラーに相当する。
【0074】
熱伝導性フィラーが配向した厚さの薄い樹脂シート40が第1ギャップ32を完全に通過すると、押出方向に限定されていたシートの流れ方向が解放されて、当該流れ方向が押出方向に対してほぼ垂直な方向に変化する。
シートの流れ方向が押出方向に対してほぼ垂直となる方向に変化した樹脂シート40は、第1ギャップ32を完全に通過した後、更に第2ギャップ33に向かって押し出される。その結果、第2ギャップ33内には、押出方向に対してほぼ垂直となった樹脂シート40が折り畳まれるように積層される。その際に異方性の熱伝導性フィラー(炭素繊維及び鱗片状のグラファイト粉末)の多くは樹脂シート40の面方向に配向しているので、第2ギャップ33内で積層された状態の樹脂シート40における異方性の熱伝導性フィラーは、厚さ方向(図3中、上下方向)に沿って配向させられる。
【0075】
このように、工程(b)では、シリコーン系組成物を押出成形し、押出方向に異方性の熱伝導性フィラーが配向した樹脂シート40を成形した後、この樹脂シート40を折り畳みながら積層させ、ブロックを作製する。
【0076】
その後、工程(c)に進み、厚さの薄い樹脂シート40が積層されたブロックを厚さ方向に垂直な方向にスライス加工する。その結果、所定の厚さを有し、異方性の熱伝導性フィラーが厚さ方向にほぼ配向した熱伝導性シート1を得ることができる。
なお、工程(b)で作製した樹脂シート40のブロック自体も本発明の実施形態に係るシート状の熱伝導性シートとして用いることができる。
【0077】
上記Tダイにおいて、第1ギャップ32及び第2ギャップ33の奥行(即ち、図3において紙面に垂直な方向における第1ギャップ32及び第2ギャップ33の寸法)は、Tダイの全体にわたってほぼ同一である。また、上記第1ギャップ及び上記第2ギャップの奥行の寸法は特に限定されず、製造される熱伝導性シート1の製品幅に応じて種々の設計変更が可能である。
【0078】
熱伝導性シート1の製造方法は、上述した第1の製造方法に限定されず、例えば、下記(d)~(f)の工程を行う第2の製造方法であってもよい。
図4A図4Dは、第2の製造方法を説明する図である。
【0079】
(d)未架橋のシリコーンと、炭素繊維と、グラファイト粉末と、酸化亜鉛粒子と、難燃剤やカップリング剤等の任意成分とを含有するシリコーン系組成物を調製する工程、
(e)調製したシリコーン系組成物を成形する工程、及び、
(f)成形されたシリコーン系組成物をシート状にスライス加工する工程。
【0080】
まず、シリコーン系組成物を調製する工程(d)を行う。
ここでは、例えば、未架橋のシリコーン、熱伝導性フィラー(炭素繊維、グラファイト粉末、及び酸化亜鉛粒子)、更には、必要に応じて添加する各種添加剤を2本ロール51で混錬する。その後、シート出しを行い、樹脂シート50を作製する(図4A参照)。
このとき、成分の一部又は全部はコンパウンドにして供給してもよい。
【0081】
次に、シリコーン系組成物を成形する工程(e)を行う。
この工程(e)では、シリコーン系組成物からなる樹脂シート50を折り畳みながら、樹脂シート50同士が密着するように積層する(図4A参照)。例えば、周期的な往復運動を繰り返すテーブル53上に樹脂シート50を連続的に供給することにより、樹脂シート50が折り畳まれながら積層された積層体を得ることができる。
このとき、異方性の熱伝導性フィラーは、樹脂シート50の面方向に配向している。
【0082】
その後、樹脂シート50の折り返し部分をカッター54を用いて切断し、除去する(図4B参照)。
その結果、互いに繋がっていない複数枚の樹脂シート50の積層体55が得られる。
【0083】
次に、得られた積層体55を樹脂シート50の面方向に垂直な方向にカッター57を用いてスライス加工する工程(f)を行う(図4C参照)。これにより、熱伝導性シート1を得ることができる(図4D参照)。
このような工程を経ることによっても、熱伝導性シート1を製造することができる。
【実施例
【0084】
以下、実施例によって本発明の実施形態を更に具体的に説明するが、本発明の実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。
【0085】
実施例及び比較例で使用した原材料は、以下の通りである。
(マトリックス成分)
・シリコーンA:質量平均分子量14万のポリジメチルシロキサン
・シリコーンB:ビニル基含有コンパウンド(ダウ・東レ株式会社製、MR-53)
・過酸化物:(ダウ・東レ株式会社製、RC-4 50P FD)の混合物
・シランカップリング剤:オクチルトリメトキシシラン
【0086】
(熱伝導性フィラー)
・炭素繊維A:三菱ケミカル株式会社製、K223HM(繊維状、繊維長:200μm/繊維径:11μm)
・炭素繊維B:三菱ケミカル株式会社製、K23EHM(繊維状、繊維長:200μm/繊維径:11μm)
・炭素繊維C:三菱ケミカル株式会社製、K223HM(繊維状、繊維長:50μm/繊維径:11μm)
・グラファイト粉末:日本黒鉛工業株式会社製、CPB(鱗片状、粒径:22μm)
・酸化亜鉛粒子:堺化学株式会社製、酸化亜鉛1種(球状、粒径:0.8μm)
・アルミナ粒子A:デンカ株式会社製、DAW-03(球状、粒径:5μm)
・アルミナ粒子B:デンカ株式会社製、ASFP-09S(球状、粒径:1μm)
・アルミナ粒子C:DIC株式会社製、AP10(鱗片状、粒径:10μm)
・水酸化マグネシウム:神島化学工業株式会社製、EP-1A(球状、粒径:2μm)
【0087】
(実施例1)
本実施例では、第2の製造方法によって熱伝導性シート1を製造した。
シリコーンA(質量平均分子量14万のポリジメチルシロキサン)100質量部、炭素繊維A117質量部、炭素繊維B60質量部、グラファイト粉末60質量部、酸化亜鉛粒子304質量部、及びシランカップリング剤3.8質量部を2本ロール51で練り込んだ後、シート出しすることで、厚さ約1.0~1.2mmのシリコーン系組成物からなる樹脂シート50を作製した。
本実施例において、樹脂シート50全体に対する炭素繊維Aの体積分率は20体積%、炭素繊維Bの体積分率は10体積%、グラファイト粉末の体積分率は10体積%、酸化亜鉛粒子の体積分率は20体積%であり、熱伝導性フィラーの体積分率の合計は60体積%である。
【0088】
次に、作製した樹脂シート50を折り畳みながら、シート同士が密着するように積層する(図4A参照)。このとき、炭素繊維A及びBとグラファイト粉末は、積層した樹脂シート50の面方向に配向している。
【0089】
次に、得られた積層体における、樹脂シート50の折り返し部分をカッター54で切断除去する。これにより、互いに繋がっていない複数枚の樹脂シート50の積層体55となる(図4B参照)。
その後、積層体55を樹脂シート50の面方向に垂直な方向にスライスして(図4C参照)、炭素繊維とグラファイト粉末とが厚さ方向に配向した厚さ2mmの熱伝導性シー1を完成した(図4D参照)。
【0090】
(実施例2)
下記の方法で厚さ約1.0~1.2mmのシリコーン系組成物からなる樹脂シート50を作製した以外は、実施例1と同様にして熱伝導性シートを完成した。
シリコーンA100質量部、炭素繊維A118質量部、炭素繊維B60質量部、グラファイト粉末60質量部、酸化亜鉛粒子305質量部、シランカップリング剤4.0質量部、及び水酸化マグネシウム16質量部を2本ロール51で練り込んだ後、シート出しすることで、厚さ約1.0~1.2mmのシリコーン系組成物からなる樹脂シート50を作製した。
本実施例において、樹脂シート50全体に対する炭素繊維Aの体積分率は20体積%、炭素繊維Bの体積分率は10体積%、グラファイト粉末の体積分率は10体積%、酸化亜鉛粒子の体積分率は20体積%、水酸化マグネシウムの体積分率は2.5体積%であり、熱伝導性フィラーの体積分率の合計は62.5体積%である。
【0091】
(実施例3)
下記の方法で厚さ約1.0~1.2mmのシリコーン系組成物からなる樹脂シート50を作製した以外は、実施例1と同様にして熱伝導性シートを完成した。
シリコーンA100質量部、炭素繊維A202質量部、炭素繊維B67質量部、グラファイト粉末34質量部、酸化亜鉛粒子348質量部、及びシランカップリング剤4.5質量部、を2本ロールで練り込み、厚さ約1.0~1.2mmの樹脂シート50を作製した。
本実施例において、樹脂シート50全体に対する炭素繊維Aの体積分率は30体積%、炭素繊維Bの体積分率は10体積%、グラファイト粉末の体積分率は5体積%、酸化亜鉛粒子の体積分率は20体積%であり、熱伝導性フィラーの体積分率の合計は65体積%である。
【0092】
(実施例4)
下記の方法で厚さ約1.0~1.2mmのシリコーン系組成物からなる樹脂シート50を作製した以外は、実施例1と同様にして熱伝導性シートを完成した。
シリコーンA100質量部、炭素繊維A232質量部、炭素繊維B34質量部、グラファイト粉末66質量部、酸化亜鉛粒子257質量部、及びシランカップリング剤3.5質量部、を2本ロールで練り込み、厚さ約1.0~1.2mmの樹脂シート50を作製した。
本実施例において、樹脂シート50全体に対する炭素繊維Aの体積分率は35体積%、炭素繊維Bの体積分率は5体積%、グラファイト粉末の体積分率は10体積%、酸化亜鉛粒子の体積分率は15体積%であり、熱伝導性フィラーの体積分率の合計は65体積%である。
【0093】
(実施例5)
下記の方法で厚さ約1.0~1.2mmのシリコーン系組成物からなる樹脂シート50を作製した以外は、実施例1と同様にして熱伝導性シートを完成した。
シリコーンA100質量部、炭素繊維A90質量部、炭素繊維B60質量部、グラファイト粉末60質量部、酸化亜鉛粒子380質量部、及びシランカップリング剤4.5質量部、を2本ロールで練り込み、厚さ約1.0~1.2mmの樹脂シート50を作製した。
本実施例において、樹脂シート50全体に対する炭素繊維Aの体積分率は15体積%、炭素繊維Bの体積分率は10体積%、グラファイト粉末の体積分率は10体積%、酸化亜鉛粒子の体積分率は25体積%であり、熱伝導性フィラーの体積分率の合計は60体積%である。
【0094】
(実施例6)
下記の方法で厚さ約1.0~1.2mmのシリコーン系組成物からなる樹脂シート50を作製した以外は、実施例1と同様にして熱伝導性シートを完成した。
シリコーンA100質量部、炭素繊維A137質量部、炭素繊維B45質量部、酸化亜鉛粒子142質量部、及びシランカップリング剤2.0質量部、を2本ロールで練り込み、厚さ約1.0~1.2mmの樹脂シート50を作製した。
本実施例において、樹脂シート50全体に対する炭素繊維Aの体積分率は37.5体積%、炭素繊維Bの体積分率は12.5体積%、酸化亜鉛粒子の体積分率は15体積%であり、熱伝導性フィラーの体積分率の合計は65体積%である。
【0095】
(実施例7)
下記の方法で厚さ約1.0~1.2mmのシリコーン系組成物からなる樹脂シート50を作製した以外は、実施例1と同様にして熱伝導性シートを完成した。
シリコーンA100質量部、炭素繊維A355質量部、グラファイト粉末40質量部、酸化亜鉛粒子410質量部、及びシランカップリング剤5.0質量部、を2本ロール51で練り込んだ後、シート出しすることで、厚さ約1.0~1.2mmのシリコーン系組成物からなる樹脂シート50を作製した。
本実施例において、樹脂シート50全体に対する炭素繊維Aの体積分率は45体積%、グラファイト粉末の体積分率は5体積%、酸化亜鉛粒子の体積分率は20体積%であり、熱伝導性フィラーの体積分率の合計は70体積%である。
【0096】
(比較例1)
下記の方法で厚さ約1.0~1.2mmのシリコーン系組成物からなる樹脂シート50を作製した以外は、実施例1と同様にして熱伝導性シートを完成した。
シリコーンA100質量部、炭素繊維A135質量部、炭素繊維B45質量部、酸化亜鉛粒子185質量部、及びシランカップリング剤2.0質量部、を2本ロールで練り込み、厚さ約1.0~1.2mmの樹脂シート50を作製した。
本実施例において、樹脂シート50全体に対する炭素繊維Aの体積分率は37.5体積%、炭素繊維Bの体積分率は12.5体積%、酸化亜鉛粒子の体積分率は20体積%であり、熱伝導性フィラーの体積分率の合計は70体積%である。
【0097】
(比較例2)
下記の方法で厚さ約1.0~1.2mmのシリコーン系組成物からなる樹脂シート50を作製した以外は、実施例1と同様にして熱伝導性シートを完成した。
シリコーンA100質量部、炭素繊維A335質量部、グラファイト粉末25質量部、アルミナ粒子A320質量部、アルミナ粒子B105質量部、及びシランカップリング剤2.5質量部、を2本ロールで練り込み、厚さ約1.0~1.2mmの樹脂シート50を作製した。
本実施例において、樹脂シート50全体に対する炭素繊維Aの体積分率は40体積%、グラファイト粉末の体積分率は3体積%、アルミナ粒子Aの体積分率は22.5体積%、アルミナ粒子Bの体積分率は7.5体積%であり、熱伝導性フィラーの体積分率の合計は73体積%である。
【0098】
(比較例3)
下記の方法で厚さ約1.0~1.2mmのシリコーン系組成物からなる樹脂シート50を作製した以外は、実施例1と同様にして熱伝導性シートを完成した。
シリコーンA110質量部、グラファイト粉末87質量部、アルミナ粒子B190質量部、及びシランカップリング剤2.0質量部、を2本ロールで練り込み、厚さ約1.0~1.2mmの樹脂シート50を作製した。
本実施例において、樹脂シート50全体に対するグラファイト粉末の体積分率は27体積%、アルミナ粒子Bの体積分率は36体積%であり、熱伝導性フィラーの体積分率の合計は63体積%である。
【0099】
(比較例4)
下記の方法で厚さ約1.0~1.2mmのシリコーン系組成物からなる樹脂シート50を作製した以外は、実施例1と同様にして熱伝導性シートを完成した。
シリコーンA100質量部、シリコーンB1.6重量部、過酸化物0.7重量部、炭素繊維C180質量部、及びアルミナ粒子C80質量部、を2本ロールで練り込み、厚さ約1.0~1.2mmの樹脂シート50を作製した。
本実施例において、樹脂シート50全体に対する炭素繊維Cの体積分率は40体積%、アルミナ粒子Cの体積分率は10体積%であり、熱伝導性フィラーの体積分率の合計は50体積%である。
【0100】
[評価試験]
(1)50%圧縮時の荷重値
実施例及び比較例で作製した熱伝導性シートを更に裁断し、直径12mm、厚さ2mmの円板状の評価サンプルを作製した。
測定器として、Instron5969(Instron社製)を使用し、圧縮速度:5mm/minでシートを「測定前厚さ×0.5」の厚さまで圧縮(50%圧縮)し、その時の荷重値(N/113mm)を初期荷重値として測定した。更に、圧縮した状態のまま維持し、1分間経過後の荷重値(N/113mm)を測定した。結果を表1に示した。
また、初期荷重値に対する1分後荷重値の比を算出した。結果を表1に示した。
【0101】
(2)20%圧縮時の熱抵抗値
実施例及び比較例で作製した熱伝導性シートを更に裁断し、直径33mm、厚さ2mmの評価サンプルを作製した。
測定器として、TIMtester1400(AnalysisTech社製)を使用し、シートを「測定前厚さ×0.8」の厚みまで圧縮(20%圧縮)し、その状態で熱抵抗を測定した。測定時のサンプル温度は25℃とした。結果を表1に示した。
【0102】
(3)追従性
図5A図5Cは、追従性の評価方法を説明する図である。
実施例及び比較例で作製した熱伝導性シートを更に裁断し、縦40mm、横40mm、厚さ2mmの評価サンプル71を作製した。この評価サンプル71の追従性を下記の方法で評価した。結果を表1に示した。
評価サンプル71を下側ガラス板72上に載置する。評価サンプル71の上面の中央部に、縦10mm、横10mm、厚さ1mmのアルミニウム板75を載置する。更に、アルミニウム板75の上に上側ガラス板73を載置する(図5A参照)。この状態で上側ガラス板73に下方向への荷重を加えて、下側ガラス板72上面と上側ガラス板73の下面との隙間が2mmになるまで、上側ガラス板73を5mm/minの速度で移動させる。これによって、アルミニウム板75が評価サンプル71に押し込まれる(図5B及び図5C参照)。その結果、アルミニウム板75の外縁に沿って、窪み77が生じる。
この状態で、アルミニウム板75の外縁に生じた窪み77について、マイクロスコープを用いて、開口の幅寸法W(図5C参照)をアルミニウム板75の各辺で測定する。測定値に基づいて下記の基準で追従性を評価する。図5Cは、図5Bの領域A付近の拡大図である。
〇:開口の幅寸法の最大値が1000μm未満であった。
×:開口の幅寸法の最大値が1000μm以上であった。
【0103】
【表1】
【0104】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。本発明の権利範囲は、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0105】
1 熱伝導性シート(シート状の熱伝導性組成物)
2 マトリックス成分
4 熱伝導性フィラー
4C 炭素繊維
4G グラファイト粉末
4Z 酸化亜鉛粉末
11 ICチップ
12 ヒートシンク
30 押出機
31 流路
32 第1ギャップ
33 第2ギャップ
34 スクリュー
40、50 樹脂シート
51、52
53 テーブル
54、57 カッター
55 積層体
71 評価サンプル
72 下側ガラス板
73 上側ガラス板
75 アルミニウム板
77 窪み
【要約】
シリコーンと熱伝導性フィラーとを含有する樹脂組成物からなる、シート状の熱伝導性組成物であって、50%圧縮変形させた際に、初期の圧縮荷重値が1.0N/mm以下であり、1分間経過後の圧縮荷重値の前記初期の圧縮荷重値に対する比率が0.5以下であり、20%圧縮変形させた際の見かけの熱伝導率が、22.8W/mK以上である、熱伝導性組成物。
図1
図2
図3
図4
図5