(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】黒色ジルコニア複合焼結体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/488 20060101AFI20241217BHJP
C04B 35/645 20060101ALI20241217BHJP
A61C 13/083 20060101ALI20241217BHJP
A61C 5/70 20170101ALI20241217BHJP
【FI】
C04B35/488
C04B35/645 500
A61C13/083
A61C5/70
(21)【出願番号】P 2024524946
(86)(22)【出願日】2023-06-01
(86)【国際出願番号】 JP2023020507
(87)【国際公開番号】W WO2023234396
(87)【国際公開日】2023-12-07
【審査請求日】2024-04-17
(31)【優先権主張番号】P 2022089666
(32)【優先日】2022-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】301069384
【氏名又は名称】クラレノリタケデンタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 承央
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 貴広
(72)【発明者】
【氏名】加藤 新一郎
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-127294(JP,A)
【文献】特開2001-354480(JP,A)
【文献】特表2018-505829(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112500159(CN,A)
【文献】特表2019-508349(JP,A)
【文献】国際公開第2023/234397(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/48 - 35/488
C04B 35/645
A61C 13/083
A61C 5/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ZrO
2と、HfO
2と、ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤と、Nb
2O
5及び/又はTa
2O
5とを含み、
ZrO
2、HfO
2、前記安定化剤、Nb
2O
5、及びTa
2O
5の合計100mol%において、
ZrO
2及びHfO
2の合計含有率が、78~97.5mol%であり、
前記安定化剤の含有率が1~12mol%であり、
Nb
2O
5及びTa
2O
5の合計含有率が1~9mol%であり、
さらにキャッピング剤由来の元素又はイオンを含み、
前記安定化剤が、Y
2O
3を含み、
前記キャッピング剤由来の元素又はイオンが、Cu、Ag、Li、Na、K、Rb、Cs、Fr、At、I、Br、Cl、及びFからなる群より選択される少なくとも1つの元素又はそのイオンを含み、
前記キャッピング剤由来の元素又はイオンの含有率が、ZrO
2、HfO
2、前記安定化剤、Nb
2O
5、及びTa
2O
5の合計100mol%に対して、0mol%超5mol%以下であり、
直径15mm、厚さ1.2mmの試料を用いてL*a*b*表色系の白背景で測色したa*、b*から算出される彩度C*が10以下である、
黒色ジルコニア複合焼結体。
【請求項2】
前記キャッピング剤由来の元素又はイオンの含有率が、ZrO
2、HfO
2、前記安定化剤、Nb
2O
5、及びTa
2O
5の合計100mol%に対して、0.05mol%以上5mol%以下である、請求項1に記載の黒色ジルコニア複合焼結体。
【請求項3】
直径15mm、厚さ1.2mmの試料を用いてL*a*b*表色系の白背景で測色したa*、b*から算出される彩度C*が8以下である、請求項1又は2に記載の黒色ジルコニア複合焼結体。
【請求項4】
直径15mm、厚さ1.2mmの試料を用いてL*a*b*表色系の白背景で測色した値が、L*≦60、|a*|≦3、かつ|b*|≦3である、請求項1又は2に記載の黒色ジルコニア複合焼結体。
【請求項5】
前記キャッピング剤由来の元素又はイオンが、Cu、Ag、Li、Na、K、Rb、Cs、Fr、I、Br、Cl、及びFからなる群より選択される少なくとも1つの元素又はそのイオンを含む、請求項1
又は2に記載の黒色ジルコニア複合焼結体。
【請求項6】
前記安定化剤の含有率をAmol%とし、Nb
2O
5及びTa
2O
5の合計含有率をBmol%とするとき、
A/Bが0.9以上3以下である、請求項1
又は2に記載の黒色ジルコニア複合焼結体。
【請求項7】
さらにジルコニア強化剤を含み、前記ジルコニア強化剤の含有率が、ZrO
2と、HfO
2と、前記安定化剤と、Nb
2O
5及びTa
2O
5との合計100質量%に対して、0質量%超5.0質量%以下である、請求項1
又は2に記載の黒色ジルコニア複合焼結体。
【請求項8】
前記ジルコニア強化剤が、TiO
2及び/又はAl
2O
3を含む、請求項7に記載の黒色ジルコニア複合焼結体。
【請求項9】
前記ジルコニア強化剤がTiO
2を含み、TiO
2の含有率が0.6~3.7質量%である、請求項8に記載の黒色ジルコニア複合焼結体。
【請求項10】
ZrO
2と、HfO
2と、ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤と、Nb
2O
5及び/又はTa
2O
5とを含み、
ZrO
2、HfO
2、前記安定化剤、Nb
2O
5、及びTa
2O
5の合計100mol%において、
ZrO
2及びHfO
2の合計含有率が、78~97.5mol%であり、
前記安定化剤の含有率が、1~12mol%であり、
Nb
2O
5及びTa
2O
5の合計含有率が、1~9mol%であり、
さらにキャッピング剤を含む、原料組成物を用いて成形体を作製する工程と、
前記成形体を焼結する工程とを含み、
前記成形体を焼結する工程において、還元焼成する工程を含み、
前記安定化剤が、Y
2O
3を含み、
前記キャッピング剤由来の元素又はイオンが、Cu、Ag、Li、Na、K、Rb、Cs、Fr、At、I、Br、Cl、及びFからなる群より選択される少なくとも1つの元素又はそのイオンを含み、
前記キャッピング剤由来の元素又はイオンの含有率が、ZrO
2、HfO
2、前記安定化剤、Nb
2O
5、及びTa
2O
5の合計100mol%に対して、0mol%超5mol%以下であり、
得られる黒色ジルコニア複合焼結体において、直径15mm、厚さ1.2mmの試料を用いてL*a*b*表色系の白背景で測色したa*、b*から算出される彩度C*が10以下である、
請求項1
又は2に記載の黒色ジルコニア複合焼結体の製造方法。
【請求項11】
前記原料組成物に含まれる前記キャッピング剤が、1価のイオンとなりえる化合物であり、
前記原料組成物の各原料を、水を含む溶媒中で湿式混合して原料組成物を得る工程をさらに含む、
請求項10に記載の黒色ジルコニア複合焼結体の製造方法。
【請求項12】
前記原料組成物において、前記安定化剤が、ZrO
2及びHfO
2に対して固溶していない安定化剤を含む、請求項
10に記載の黒色ジルコニア複合焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒色ジルコニア複合焼結体及びその製造方法に関する。より詳細には、本発明は、強度に優れ、かつ、焼結体の状態で加工性に優れる黒色ジルコニア複合焼結体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
5G等の通信技術の革新によって、通信に用いられる電波が高周波数帯にシフトしてきている。5G対応スマートフォンの裏板には、主に金属が使用されているが、高周波数帯の電波の送受信機に対して、金属は不適切であるため、プラスチック、ガラス、セラミックスが使用される。
【0003】
その中でも、黒色は高級感を与える等、意匠性が高いため、黒色セラミックスが使用されることがあった。
また、意匠性の高いセラミックスとして、ジルコニアを採用したいというニーズがあった。しかしながら、ジルコニアは、焼結体の状態では難加工性の材料である。そのため、ジルコニア焼結体をスマートフォンの部分的な材料として使用すると、焼結体の難加工性に起因して、加工のコストが高額となってしまっていた。
【0004】
このような状況下、スマートフォンの筐体色として黒色は必須であるため、ジルコニアを含有しつつ、主成分としないことで、黒色系快削性セラミックスが開発されていた(例えば、特許文献1)。
【0005】
一方、意匠性に優れる点から、加工性には著しく劣るものの、黒色ジルコニア焼結体も開発されていた(例えば、特許文献2、3)。
【0006】
また、ジルコニア焼結体について、黒色ではなく、歯科分野ではあるものの、加工性が改良された加工性ジルコニア焼結体も開発されていた(例えば、特許文献4)。例えば、特許文献4には、79.8~92mol%のZrO2及び4.5~10.2mol%のY2O3と、3.5~7.5mol%のNb2O5又は5.5~10.0mol%のTa2O5と、を含む正方晶ジルコニア複合粉末と、前記ジルコニア複合粉末に対する質量比が0質量%超2.5質量%以下であるTiO2ナノ粉末とを含むように形成された焼結体である加工性ジルコニア及びその製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2001-354480号公報
【文献】特開2006-342036号公報
【文献】特開2017-77976号公報
【文献】特開2015-127294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1では、ジルコニアは、還元焼成による黒色顔料として使用されている。しかしながら、ジルコニアの含有率が高くなると、快削性が低下するため、ジルコニアの配合割合は低いものであった。
【0009】
特許文献2では、黒色に深みがあるジルコニア焼結体が提案されている。また、特許文献3では、ジルコニア焼結体を得る際の焼結によって、色調が変化するという問題に対応した黒色ジルコニア焼結体も提案されている。
【0010】
しかしながら、特許文献2及び3は、いずれも加工性に劣るという課題を解決できていなかった。
【0011】
また、特許文献4に開示されたジルコニア焼結体は、焼結状態でも機械加工可能である。しかしながら、加工性に優れるとは言い難く、加工体を切り出す加工時間が長くなってしまい、加工性には依然として改善の余地があり、黒色ではなく、透光性に優れるため、色調も全く異なるものであった。
さらに、特許文献4に開示されたジルコニア焼結体では、機械加工可能であるものの、1つの加工用工具を用いた連続的な加工によって得られる加工体の個数が少なく、加工用工具の消耗が早いため、加工用工具を交換する頻度が上がり、工具の交換時間が増え、生産性及び経済性が低下するという問題があった。
【0012】
以上のように、特許文献4でもジルコニア焼結体は加工可能であるという程度に留まり、ジルコニア焼結体は加工が非常に困難であるというジルコニアの焼結状態に起因する特有の問題が存在するため、焼結体の状態で加工性に優れるジルコニア焼結体の提供は依然として困難であり、焼結体の状態で加工性に優れ、かつ黒色を呈するジルコニア焼結体は得られていなかった。
【0013】
本発明は、焼結体の状態で機械加工性に優れ、かつ黒色を呈するジルコニア複合焼結体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ZrO2と、HfO2と、ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤と、Nb2O5及び/又はTa2O5とを所定の割合で含む黒色ジルコニア複合焼結体において、さらにキャッピング元素又はイオンを含むことによって、課題を解決できることを見出し、この知見に基づいてさらに研究を進め、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
[1]ZrO2と、HfO2と、ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤と、Nb2O5及び/又はTa2O5とを含み、
ZrO2、HfO2、前記安定化剤、Nb2O5、及びTa2O5の合計100mol%において、
ZrO2及びHfO2の合計含有率が、78~97.5mol%であり、
前記安定化剤の含有率が1~12mol%であり、
Nb2O5及びTa2O5の合計含有率が1~9mol%であり、
さらにキャッピング剤由来の元素又はイオンを含む、黒色ジルコニア複合焼結体。
[2]前記キャッピング剤由来の元素又はイオンの含有率が、ZrO2、HfO2、前記安定化剤、Nb2O5、及びTa2O5の合計100mol%に対して、0mol%超5mol%以下である、[1]に記載の黒色ジルコニア複合焼結体。
[3]直径15mm、厚さ1.2mmの試料を用いてL*a*b*表色系の白背景で測色したa*、b*から算出される彩度C*が10以下である、[1]又は[2]に記載の黒色ジルコニア複合焼結体。
[4]直径15mm、厚さ1.2mmの試料を用いてL*a*b*表色系の白背景で測色した値が、L*≦60、|a*|≦3、かつ|b*|≦3である、[1]又は[2]に記載の黒色ジルコニア複合焼結体。
[5]前記キャッピング剤由来の元素又はイオンが、Cu、Ag、Li、Na、K、Rb、Cs、Fr、At、I、Br、Cl、及びFからなる群より選択される少なくとも1つの元素又はそのイオンを含む、[1]~[4]のいずれかに記載の黒色ジルコニア複合焼結体。
[6]前記安定化剤の含有率をAmol%とし、Nb2O5及びTa2O5の合計含有率をBmol%とするとき、
A/Bが0.9以上3以下である、[1]~[5]のいずれかに記載の黒色ジルコニア複合焼結体。
[7]前記安定化剤が、Y2O3及び/又はCeO2を含む、[1]~[6]のいずれかに記載の黒色ジルコニア複合焼結体。
[8]さらにジルコニア強化剤を含み、前記ジルコニア強化剤の含有率が、ZrO2と、HfO2と、前記安定化剤と、Nb2O5及びTa2O5との合計100質量%に対して、0質量%超5.0質量%以下である、[1]~[7]のいずれかに記載の黒色ジルコニア複合焼結体。
[9]前記ジルコニア強化剤が、TiO2及び/又はAl2O3を含む、[8]に記載の黒色ジルコニア複合焼結体。
[10]前記ジルコニア強化剤がTiO2を含み、TiO2の含有率が0.6~3.7質量%である、[9]に記載の黒色ジルコニア複合焼結体。
[11]ZrO2と、HfO2と、ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤と、Nb2O5及び/又はTa2O5とを含み、
ZrO2、HfO2、前記安定化剤、Nb2O5、及びTa2O5の合計100mol%において、
ZrO2及びHfO2の合計含有率が、78~97.5mol%であり、
前記安定化剤の含有率が、1~12mol%であり、
Nb2O5及びTa2O5の合計含有率が、1~9mol%であり、
さらにキャッピング剤を含む、原料組成物を用いて成形体を作製する工程と、
前記成形体を焼結する工程とを含む、
[1]~[10]のいずれかに記載の黒色ジルコニア複合焼結体の製造方法。
[12]前記成形体を焼結する工程において、還元焼成する工程を含む、
[11]に記載の黒色ジルコニア複合焼結体の製造方法。
[13]前記原料組成物に含まれる前記キャッピング剤が、1価のイオンとなりえる化合物であり、
前記原料組成物の各原料を、水を含む溶媒中で湿式混合して原料組成物を得る工程をさらに含む、
[11]又は[12]に記載の黒色ジルコニア複合焼結体の製造方法。
[14]前記原料組成物において、前記安定化剤が、ZrO2及びHfO2に対して固溶していない安定化剤を含む、[11]~[13]のいずれかに記載の黒色ジルコニア複合焼結体の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、焼結体の状態で機械加工性に優れ、かつ黒色を呈するジルコニア複合焼結体を提供できる。
また、本発明によれば、焼結体の状態で機械加工することができ、機械加工による加工時間が短く、かつ、加工用工具の消耗を抑制でき、1つの加工用工具を用いた連続的な加工(以下、単に「連続加工」とも称する)によって削り出すことができる加工体の個数が多く、生産性及び経済性に優れる黒色ジルコニア複合焼結体を提供できる。
さらに、本発明によれば、強度にも優れ、意匠性に優れる黒色ジルコニア複合焼結体を提供できる。
また、本発明によれば、黒色ジルコニア複合焼結体の製造方法における加圧焼成が不要である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の黒色ジルコニア複合焼結体に係る推定される構造を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本発明のキャッピング剤由来の元素又はイオンに係る推定される作用機構を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の黒色ジルコニア複合焼結体は、ZrO2と、HfO2と、ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤(以下、単に「安定化剤」とも称する)と、Nb2O5及び/又はTa2O5とを含み、
ZrO2、HfO2、前記安定化剤、Nb2O5、及びTa2O5の合計100mol%において、
ZrO2及びHfO2の合計含有率が、78~97.5mol%であり、
前記安定化剤の含有率が1~12mol%であり、
Nb2O5及びTa2O5の合計含有率が1~9mol%であり、
さらにキャッピング剤由来の元素又はイオンを含む。
【0019】
本発明の黒色ジルコニア複合焼結体は、ZrO2粒子(粉末)が完全に焼結している状態(焼結状態)であるものを意味する。なお、本明細書において、数値範囲(各成分の含有率、各成分から算出される比率、値及び各物性等)の上限値及び下限値は適宜組み合わせ可能である。
本明細書において、機械加工は、切削加工及び研削加工を含む。
また、機械加工は、湿式加工、乾式加工のどちらでも良く、特に限定されない。
【0020】
本明細書において、キャッピング剤由来の元素又はイオン(以下、「キャッピング元素又はイオン」とも称する。)は、ジルコニア系複合酸化物から構成される黒色ジルコニア複合焼結体において、ジルコニア系複合酸化物の結合手の末端をキャッピングして、結晶界面(以下、「粒界」とも称する)の強度(以下、「粒界強度」とも称する)を弱める元素又はイオンをいう。
キャッピング剤は、結晶粒界の一部をキャッピングすることができる。
「キャッピング」とは、対象となる元素又はイオン(キャッピング元素又はイオン)が、ジルコニア系複合酸化物の結合手と、前記金属元素の代わりに結合し、結晶粒界に存在することをいう。
キャッピング元素又はイオンが、+1価のカチオン又は-1価のアニオンの形態で粒界に存在することによって、キャッピングしたカチオン同士又はアニオン同士が静電反発し、粒界強度を弱めることが推定される。
【0021】
本明細書において、黒色ジルコニア複合焼結体における各成分の含有率は、原料の仕込み量から算出できる。
また、黒色ジルコニア複合焼結体における、ZrO2、HfO2、安定化剤、Nb2O5及びTa2O5の各成分の含有率は、例えば、誘導結合プラズマ(ICP;Inductively Coupled Plasma)発光分光分析、蛍光X線分析等によって測定することもできる。
キャッピング剤由来の元素又はイオンの含有率(mol%)は、ZrO2、HfO2、前記安定化剤、Nb2O5、及びTa2O5の合計100mol%に対する外部添加率である。そのため、黒色ジルコニア複合焼結体における、キャッピング剤由来の元素又はイオンの含有率は、添加する際の原料の仕込み量(質量)をmol%に換算して算出できる。
また、ジルコニア強化剤の含有率(質量%)は、ZrO2、HfO2、前記安定化剤、Nb2O5、及びTa2O5の合計100質量%に対する外部添加率である。そのため、黒色ジルコニア複合焼結体における、ジルコニア強化剤の含有率は、添加する際の原料の仕込み量(質量)から算出できる。
【0022】
本発明の黒色ジルコニア複合焼結体が、好適な強度を有し、かつ高い機械加工性を有するため、焼結体の状態で機械加工できる理由は定かではないが、以下のように推測される。
ZrO
2と、HfO
2と、ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤と、Nb
2O
5及び/又はTa
2O
5とが含まれる黒色ジルコニア複合焼結体において、結晶粒界にキャッピング元素又はイオンが存在することにより、キャッピング元素又はイオンが+1価のカチオン又は-1価のアニオンの形態で粒界強度を低下させて粒子同士を剥離しやすい方向に作用し、削りやすくなり、機械加工性が向上していると推測される。
本発明の黒色ジルコニア複合焼結体は、ZrO
2と、HfO
2と、ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤とNb
2O
5及び/又はTa
2O
5とを含むジルコニア粒子1と、キャッピング元素又はイオンを含む剥離成分2と、さらに必要に応じてZrO
2と、HfO
2と、Nb
2O
5及び/又はTa
2O
5と、ジルコニア強化剤由来の金属元素(例えば、Ti等)とを含む接着性成分3と、を含む構造を備えるものと推測される。
ZrO
2と、HfO
2と、Nb
2O
5及び/又はTa
2O
5とは、それぞれの一部が、ジルコニア粒子1と、接着性成分3との両方に存在する。
さらに、本発明のジルコニア複合焼結体には、剥離成分2が存在しない粒界4も存在し、キャッピング元素又はイオンを含む剥離成分2が粒界に適度に存在するため、強度低下を最小限に留めながら、粒界強度を適切に低下できると推測される。
図1に、ジルコニア強化剤を含む実施形態に係るジルコニア複合焼結体において推定される構造の模式図を示す。ジルコニア強化剤を含むジルコニア複合焼結体に係る接着性成分3が存在した場合にも、剥離成分2によって得られる粒界強度を低下させる作用を抑制させることがなく、強度を高めることができる。
【0023】
キャッピング元素又はイオンは、黒色ジルコニア複合焼結体の粒界において、+1価のカチオン又は-1価のアニオンとなって、ジルコニア系複合酸化物が有する結合手と結合する。この結合によって、カチオン同士又はアニオン同士が静電反発し、黒色ジルコニア複合焼結体を構成する粒子として強度の性質を維持しつつ、粒界強度を弱めることができ、機械加工性を改善する方向に作用する。
例えば、
図2(a)に示すように、+1価のカチオンが、ジルコニア系複合酸化物に含まれる金属元素(例えば、Zr、Hf、Y、Nb、又はTa)に結合した酸素原子のもう一方の結合手と、前記金属元素の代わりに結合する形態が考えられる。
図2(a)において、M
+は+1価のカチオンを表す。
また、
図2(b)に示すように、-1価のアニオンが、ジルコニア系複合酸化物に含まれる金属元素(例えば、Zr、Hf、Y、Nb、又はTa)に結合したOH
2+と結合する形態が考えられる。
さらに、
図2(c)に示すように、-1価のアニオンが、ジルコニア系複合酸化物に含まれ、他の金属元素と結合している金属元素(例えば、Zr、Hf、Y、Nb、又はTa)由来のカチオンに結合する形態が考えられる。
図2(b)及び(c)において、X
-は-1価のアニオンを表す。
図2では、(a)~(c)において、粒界における荷電サイトと、吸着サイトとの相互作用が模式的に示されている。
【0024】
また、Nb2O5及び/又はTa2O5は、黒色ジルコニア複合焼結体において、微細構造を粗大化し、硬度を低下させる方向に作用するため、キャッピング元素又はイオンと、Nb2O5及び/又はTa2O5とが一体となって、機械加工性を改善する方向に作用する。よって、キャッピング元素又はイオンと、Nb2O5及び/又はTa2O5とが一体となって作用し、好適な強度を有しつつ、優れた快削性を付与できるため、機械加工による加工時間を短くできることに加えて、加工用工具の消耗を抑制でき、1つの加工用工具を用いた連続的な加工によって得られる加工体の個数を増加させることができ、ジルコニアの焼結体の連続加工における特有の問題も解決できるものと推測される。
【0025】
本発明の黒色ジルコニア複合焼結体において、キャッピング元素又はイオンは、上記のように快削性付与剤として作用し、さらに強度を大きく損なうことがないものである。
【0026】
本発明の黒色ジルコニア複合焼結体に含まれるキャッピング元素又はイオンの含有率としては、0mol%超5mol%以下であることが好ましく、機械加工性により優れ、1つの加工用工具で連続して加工できる加工体の個数をより増加できる点から、0.05mol%以上3mol%以下であることがより好ましく、0.06mol%以上2.5mol%以下であることがさらに好ましく、0.07mol%以上1.0mol%以下であることが特に好ましく、0.08mol%以上0.34mol%以下であることが最も好ましい。
また、本発明の黒色ジルコニア複合焼結体に含まれるキャッピング元素又はイオンが、第17族元素又はイオンである場合、機械加工性により優れ、1つの加工用工具で連続して加工できる加工体の個数をより増加できる点から、0.2mol%以上5mol%以下であることがより好ましく、0.3mol%以上4mol%以下であることがさらに好ましく、0.4mol%以上3.5mol%以下であることが特に好ましく、0.5mol%以上3.0mol%以下であることが最も好ましい。
【0027】
キャッピング元素又はイオンとしては、上記したように、粒界における荷電サイトと、吸着サイトとの適切な相互作用を示す点から、+1価のカチオン又は-1価のアニオンとなり、粒界に存在することが重要である。
【0028】
キャッピング元素又はイオンとしては、周期表の第2~第7周期に属し、第一イオン化エネルギーが、同一周期の第18族元素より小さい元素又はそのイオン、電子親和力が高い元素又はそのイオン、硝酸イオン、次亜塩素酸イオン、亜塩素酸イオン、塩素酸イオン、過塩素酸イオン、臭素酸イオン、過マンガン酸イオン、メタホウ酸イオン、シアン化物イオンが好ましい。
ある好適な実施形態としては、前記キャッピング剤由来の元素又はそのイオンが、周期表の第2~第7周期に属し、第一イオン化エネルギーが、同一周期の第18族元素より小さい元素又はそのイオン、及び/又は電子親和力が高い元素又はそのイオンである黒色ジルコニア複合焼結体が挙げられる。
【0029】
前記周期表の第2~第7周期に属し、第一イオン化エネルギーが、同一周期の第18族元素より小さい元素としては、+1価のカチオンがより得られやすく、機械加工性により優れる点から、Cu、Ag、Li、Na、K、Rb、Cs、Fr等が好適に挙げられる。
【0030】
電子親和力が高い元素としては、-1価のアニオンがより得られやすく、機械加工性により優れる点から、第17族元素が好ましい。第17族元素としては、At、I、Br、Cl、及びFが好ましい。
【0031】
第一イオン化エネルギーは、中性状態の原子から1つの電子を除去してイオン化するために必要なエネルギーである。第一イオン化エネルギーは、「シュライバー・アトキンス 無機化学(上) 第4版 第I部 基礎 1.原子構造」に記載された第一イオン化エネルギーと同様とすることができる。第一イオン化エネルギーは、「シュライバー・アトキンス無機化学(上)第4版 付録2」に記載された第一イオン化エネルギーの単位「eV」より、1eV=96.485KJ/molとして「KJ/mol」単位に換算できる。第一イオン化エネルギーは、光電子収量分光(PYS)法によって求めることもできる。
電子親和力(EA)は、中性状態の原子に電子を1つ取り入れる際に放出されるエネルギーである。電子親和力は、イオン化ポテンシャルからエネルギーギャップの差分により測定することができる。イオン化ポテンシャルとは、化合物の分子の軌道のうち最もエネルギーの高い占有軌道と真空準位のエネルギー差と定義され、紫外光電子分光法を用いてその値が測定される。
第一イオン化エネルギー及び電子親和力としては、NIST Chemistry WebBook(https://webbook.nist.gov/chemistry/)に蓄積されているデータ(Ion energetics properties から、Ionization Energy又はElectron Affinityを選択する)を利用してもよい。
第一イオン化エネルギー及び電子親和力は、+1価のカチオン又は-1価のアニオンへのなりやすさを、他の比較対象の元素と元素同士を比較できれば足りるため、測定方法は、上記したものを適宜利用できる。
【0032】
キャッピング元素としては、具体的には、Cu、Ag、Li、Na、K、Rb、Cs、Fr、At、I、Br、Cl、及びFが挙げられ、機械加工性をより向上できる点から、Cu、Ag、Li、Na、K、Rb、Cs、Fr、I、Br、Cl、及びFが好ましい。
ある好適な実施形態においては、キャッピング剤由来の元素が、Cu、Ag、Li、Na、K、Rb、Cs、Fr、At、I、Br、Cl、及びFからなる群より選択される少なくとも1つの元素を含み、前記元素のイオンが、Cu、Ag、Li、Na、K、Rb、Cs、Fr、I、Br、Cl、及びFからなる群より選択される少なくとも1つの+1価のカチオン又は-1価のアニオンである、黒色ジルコニア複合焼結体が挙げられる。
他の好適な実施形態においては、キャッピング剤由来の元素又はイオンが、Ag、Li、Na、K、Rb、Cs、Fr、At、I、Br、Cl、及びFからなる群より選択される少なくとも1つの元素又はそのイオンを含む、黒色ジルコニア複合焼結体が挙げられる。
キャッピング元素又はイオンは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0033】
本発明の黒色ジルコニア複合焼結体において、ZrO2及びHfO2の合計含有率は、ZrO2、HfO2、前記安定化剤、Nb2O5、及びTa2O5の合計100mol%において、78~97.5mol%であり、強度により優れる点から、79mol%以上96mol%以下であることが好ましく、80mol%以上94mol%以下であることがより好ましく、81mol%以上93mol%以下であることがさらに好ましい。
本発明の黒色ジルコニア複合焼結体は、上記のように、Nb2O5及びTa2O5が、微細構造を粗大化し、硬度を低下させる方向に作用し、キャッピング元素又はイオンと、一体となって作用し、優れた快削性を付与できるため、ZrO2及びHfO2の合計含有率が78~97.5mol%と高いにもかかわらず、焼結体の状態で機械加工性に優れる。
【0034】
ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤としては、例えば、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化イットリウム(Y2O3)、酸化セリウム(CeO2)、酸化スカンジウム(Sc2O3)、酸化ランタン(La2O3)、酸化エルビウム(Er2O3)、酸化プラセオジム(Pr2O3、Pr6O11)、酸化サマリウム(Sm2O3)、酸化ユウロピウム(Eu2O3)酸化ツリウム(Tm2O3)、酸化ガリウム(Ga2O3)、酸化インジウム(In2O3)及び酸化イッテルビウム(Yb2O3)等の酸化物が挙げられ、本発明の効果がより優れ、特に審美性に優れる点から、Y2O3(イットリア)及び/又はCeO2が好ましい。前記安定化剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0035】
上記したように、キャッピング元素又はイオンと、Nb2O5及び/又はTa2O5とが一体となって作用するため、前記安定化剤の効果を損なうことがないため、前記安定化剤は、特に限定されず、本発明の効果を奏する。
【0036】
本発明の黒色ジルコニア複合焼結体において、ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤の含有率は、ZrO2、HfO2、前記安定化剤、Nb2O5、及びTa2O5の合計100mol%において、1~12mol%であり、十分な機械加工性が得られやすい点から、2mol%以上10mol%以下であることが好ましく、強度により優れる点から、3mol%以上8mol%以下であることがより好ましく、3.5mol%以上7.5mol%以下であることがさらに好ましい。
ある好適な実施形態としては、ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤が、Y2O3及び/又はCeO2を含み、Y2O3、及びCeO2の合計含有率が、2mol%以上10mol%以下である、黒色ジルコニア複合焼結体が挙げられる。
他のある好適な実施形態としては、ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤が、Y2O3を含み、Y2O3の含有率が、2mol%以上10mol%以下である、黒色ジルコニア複合焼結体が挙げられる。
前記したいずれの実施形態においても、Y2O3、及びCeO2の含有率は、本明細書の記載の範囲内であれば適宜変更でき、例えば、強度により優れる点から、Y2O3、及びCeO2の合計含有率が、2.5mol%以上10mol%以下であってもよく、3mol%以上9mol%以下であってもよい。
【0037】
本発明の黒色ジルコニア複合焼結体において、Nb2O5及びTa2O5の合計含有率は、ZrO2、HfO2、前記安定化剤、Nb2O5、及びTa2O5の合計100mol%において、1~9mol%であり、1.5mol%以上8.5mol%以下であることが好ましく、キャッピング元素又はイオンと一体的に作用し、より優れた機械加工性を有する点から、2.5mol%以上8mol%以下であることがより好ましく、3mol%以上7mol%以下であることがさらに好ましい。Nb2O5及びTa2O5の合計含有率が、1mol%未満である場合、十分な機械加工性が得られにくい。また、Nb2O5及びTa2O5の合計含有率が、9mol%を超える場合、得られる黒色ジルコニア複合焼結体に欠け等が発生し、十分な物性が得られにくい。
【0038】
Nb2O5及びTa2O5は、上記のように、微細構造を粗大化し、硬度を低下させる方向に作用し、キャッピング元素又はイオンと、一体となって作用し優れた快削性を付与できることに加えて、黒色ジルコニア複合焼結体に添加される他の成分(例えば、TiO2、Al2O3)との相互作用及びHIPの適用によって焼結密度を最大化して、より優れた意匠性を有する黒色ジルコニア複合焼結体が得られやすい。
【0039】
前記したZrO2、HfO2、安定化剤、Nb2O5及びTa2O5の各成分の含有率は、ZrO2、HfO2、安定化剤、Nb2O5及びTa2O5の合計100mol%における割合であり、ZrO2、HfO2、安定化剤、Nb2O5及びTa2O5の合計は100mol%を超えない。例えば、原料組成物がNb2O5を含み、Ta2O5を含まない場合、ZrO2、HfO2、安定化剤、及びNb2O5の各成分の含有量は、ZrO2、HfO2、安定化剤、及びNb2O5の合計100mol%に対する含有割合を意味する。
【0040】
また、安定化剤の含有率をAmol%とし、Nb2O5及びTa2O5の合計含有率をBmol%とするとき、A/Bの比率は、機械加工性の点から、0.9以上3以下であることが好ましく、0.95以上2以下であることがより好ましく、キャッピング元素又はイオンとNb2O5及び/又はTa2O5とが一体となって作用する効果が高まり、より優れた快削性を付与でき、加工用工具の消耗を抑制でき、1つの加工用工具を用いた連続的な加工によって得られる加工体の個数をより増加させることができる点から、1以上1.6以下であることがさらに好ましい。
【0041】
本発明のある好適な実施形態としては、ZrO2と、HfO2と、ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤と、Nb2O5及び/又はTa2O5とを含み、
ZrO2、HfO2、前記安定化剤、Nb2O5、及びTa2O5の合計100mol%において、
ZrO2及びHfO2の合計含有率が、78~97.5mol%であり、
前記安定化剤の含有率が1~12mol%であり、
Nb2O5及びTa2O5の合計含有率が1~9mol%であり、
さらにキャッピング元素又はイオンを含み、
前記安定化剤が、Y2O3及び/又はCeO2を含み、
前記キャッピング元素又はイオンの含有率が、ZrO2、HfO2、前記安定化剤、Nb2O5、及びTa2O5の合計100mol%に対して、0mol%超3mol%以下であり、
前記安定化剤の含有率をAmol%とし、Nb2O5及びTa2O5の合計含有率をBmol%とするとき、A/Bが0.9以上3以下である、黒色ジルコニア複合焼結体が挙げられる。
【0042】
本発明のある実施形態としては、ZrO2と、HfO2と、ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤と、Nb2O5及び/又はTa2O5と、キャッピング元素又はイオンに加えて、さらにジルコニア強化剤を含む、黒色ジルコニア複合焼結体が挙げられる。
ジルコニア強化剤は、ZrO2と、HfO2と、ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤と、Nb2O5及び/又はTa2O5とが含まれる黒色ジルコニア複合焼結体において、キャッピング元素又はイオンと一体的に作用し、焼結体における強度を向上させることができる。
【0043】
ジルコニア強化剤を含む黒色ジルコニア複合焼結体においても、前記したように、ZrO2及びHfO2の合計含有率、安定化剤の種類及び含有率、Nb2O5及びTa2O5の合計含有率、キャッピング元素又はイオンの種類及び含有率、A/Bの比率を適宜変更できる。
【0044】
ジルコニア強化剤を含む黒色ジルコニア複合焼結体において、ジルコニア強化剤の含有率は、黒色への影響を抑える点から、ZrO2と、HfO2と、ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤と、Nb2O5及びTa2O5との合計100質量%に対して、0質量%超5.0質量%以下であることが好ましく、キャッピング元素又はイオンと組み合わせた際に一体となって作用し、機械加工性に優れ、かつ強度により優れる点から、0.01質量%以上4.5質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上4.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0045】
ジルコニア強化剤としては、TiO2、Al2O3などが挙げられる。前記ジルコニア強化剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0046】
ある好適な実施形態としては、ジルコニア強化剤がTiO2を含み、TiO2の含有率が0.6~3.7質量%である、黒色ジルコニア複合焼結体が挙げられる。
【0047】
ある好適な実施形態としては、ZrO2と、HfO2と、ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤と、Nb2O5及び/又はTa2O5とを含み、
ZrO2、HfO2、前記安定化剤、Nb2O5、及びTa2O5の合計100mol%において、
ZrO2及びHfO2の合計含有率が、78~97.5mol%であり、
前記安定化剤の含有率が1~12mol%であり、
Nb2O5及びTa2O5の合計含有率が1~9mol%であり、
さらにキャッピング元素又はイオンを含み、
前記安定化剤が、Y2O3及び/又はCeO2を含み、
前記ジルコニア強化剤がTiO2を含み、TiO2の含有率が0.6~3.7質量%であり、
前記キャッピング元素又はイオンの含有率が、ZrO2、HfO2、前記安定化剤、Nb2O5、及びTa2O5の合計100mol%に対して、0mol%超3mol%以下であり、
前記安定化剤の含有率をAmol%とし、Nb2O5及びTa2O5の合計含有率をBmol%とするとき、A/Bが0.9以上3以下である、黒色ジルコニア複合焼結体が挙げられる。
【0048】
本発明の黒色ジルコニア複合焼結体の平均結晶粒径は、0.5~5.0μmであることが好ましく、機械加工性、強度により優れる点から、0.5~4.5μmであることがより好ましく、1.0~4.0μmであることがさらに好ましい。平均結晶粒径の測定方法は、後記する実施例に記載のとおりである。
平均結晶粒径は、実施例に記載の方法において、1視野分のSEM写真像に含まれる粒子の数が、50個又は100個程度となるように、粒子の数を調整して測定することができる。
【0049】
黒色ジルコニア複合焼結体の密度は、高密度ほど内部の空隙が少なく、強度が向上する点から、5.5g/cm3以上であることが好ましく、5.7g/cm3以上であることがより好ましく、5.9g/cm3以上であることがさらに好ましい。
黒色ジルコニア複合焼結体は、実質的には空隙が含有されていないことが特に好ましい。
複合焼結体の密度は、(複合焼結体の質量)/(複合焼結体の体積)にて算出できる。
【0050】
本発明の他の実施形態としては、ZrO2と、HfO2と、ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤と、Nb2O5及び/又はTa2O5とを含み、
ZrO2、HfO2、前記安定化剤、Nb2O5、及びTa2O5の合計100mol%において、
ZrO2及びHfO2の合計含有率が、78~97.5mol%であり、
前記安定化剤の含有率が、1~12mol%であり、
Nb2O5及びTa2O5の合計含有率が、1~9mol%であり、
さらにキャッピング剤を含む、原料組成物を用いて成形体を作製する工程と、
前記成形体を焼結する工程とを含む、黒色ジルコニア複合焼結体の製造方法が挙げられる。
【0051】
黒色ジルコニア複合焼結体の製造に用いる原料組成物は、ZrO2と、HfO2と、ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤と、Nb2O5及び/又はTa2O5と、キャッピング剤とを含む。黒色ジルコニア複合焼結体の原料組成物は、乾燥した状態であってもよく、液体を含む状態又は液体に含まれる状態であってもよい。原料組成物は、例えば、粉末、顆粒又は造粒物、ペースト、スラリー等の形態であってもよい。
【0052】
得られる黒色ジルコニア複合焼結体がキャッピング元素又はイオンを含むように、原料組成物は、キャッピング剤を含む。キャッピング剤としては、水を含む溶媒中で1価のイオン(+1価のカチオン又は-1価のアニオン)となりえる化合物であれば特に限定されず、例えば、キャッピング剤由来の元素又はイオンを含む水酸化物、塩、ハロゲン化物(フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物)、シアン化物等が挙げられる。キャッピング剤は、それぞれ1種単独で使用してもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0053】
キャッピング元素又はイオンを含む水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化フランシウム等が挙げられる。
キャッピング元素又はイオンを含む塩としては、例えば、炭酸塩、炭酸水素塩、硝酸塩、次亜塩素酸塩、亜塩素酸塩、塩素酸塩、過塩素酸塩、臭素酸塩、過マンガン酸塩、メタホウ酸塩、硫化物塩、シアン化塩が挙げられる。
【0054】
キャッピング元素又はイオンを含む炭酸塩としては、例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸フランシウム、炭酸セシウム等が挙げられる。
キャッピング元素又はイオンを含む炭酸水素塩としては、例えば、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ルビジウム、炭酸水素フランシウム、炭酸水素セシウム等が挙げられる。
キャッピング元素又はイオンを含む硝酸塩としては、例えば、硝酸カルシウム、硝酸ストロンチウム、硝酸鉄(II)、硝酸鉄(III)、硝酸コバルト(II)、硝酸マグネシウム、硝酸ガリウム、硝酸イットリウム(III)、硝酸ランタン(III)、硝酸プラセオジム、硝酸ネオジム(III)、硝酸マンガン(II)、硝酸ユウロピウム、硝酸銅(II)、硝酸トリウム、硝酸アルミニウム、硝酸ニッケル(II)、硝酸クロム(III)、硝酸チタン(IV)、硝酸ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム(IV)水和物(ZrO(NO3)2・xH2O)、硝酸セリウム(III)、硝酸スズ、硝酸ビスマス(III)、硝酸スカンジウム(III)、硝酸インジウム(III)、硝酸ハフニウム(IV)等が挙げられる。
キャッピング元素又はイオンを含む次亜塩素酸塩としては、例えば、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム等が挙げられる。
キャッピング元素又はイオンを含む亜塩素酸塩としては、例えば、亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウム、亜塩素酸リチウム、亜塩素酸カルシウム、亜塩素酸マグネシウム、亜塩素酸バリウム、亜塩素酸銅(II)、亜塩素酸銅(III)、亜塩素酸銀、亜塩素酸ニッケル等が挙げられる。
キャッピング元素又はイオンを含む塩素酸塩としては、例えば、塩素酸カルシウム、塩素酸バリウム、塩素酸コバルト、塩素酸ニッケル、塩素酸マグネシウム、塩素酸亜鉛、塩素酸銅等が挙げられる。
キャッピング元素又はイオンを含む過塩素酸塩としては、例えば、過塩素酸鉄(III)、過塩素酸バリウム、過塩素酸カルシウム、過塩素酸コバルト、過塩素酸ニッケル、過塩素酸マグネシウム、過塩素酸ベリリウム、過塩素酸アルミニウム、過塩素酸セリウム等が挙げられる。
キャッピング元素又はイオンを含む臭素酸塩しては、例えば、臭素酸ネオジム、臭素酸ランタン、臭素酸プラセオジム等が挙げられる。
キャッピング元素又はイオンを含む過マンガン酸塩としては、例えば、過マンガン酸カルシウム(VII)、過マンガン酸カリウム(VII)、過マンガン酸ナトリウム(VII)等が挙げられる。
キャッピング元素又はイオンを含むメタホウ酸塩としては、例えば、メタホウ酸ナトリウム、メタホウ酸バリウム等が挙げられる。
キャッピング元素又はイオンを含む硫化物塩としては、例えば、硫化銅(I)等が挙げられる。
キャッピング元素又はイオンを含むシアン化塩としては、例えば、シアン化バリウム、シアン化ナトリウム、シアン化カリウム、シアン化カルシウム等が挙げられる。
【0055】
キャッピング元素又はイオンを含むフッ化物としては、例えば、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化ルビジウム、フッ化セシウム、フッ化フランシウム、フッ化ベリリウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム、フッ化スカンジウム(III)、フッ化イットリウム(III)、フッ化ランタン(III)、フッ化セリウム(III)、フッ化ネオジム(III)、フッ化チタン(III)、フッ化チタン(IV)、フッ化ジルコニウム(IV)、フッ化ハフニウム(IV)、フッ化タンタル(V)、フッ化マンガン(II)、フッ化マンガン(III)、フッ化鉄(II)、フッ化鉄(III)、フッ化銅(II)、フッ化亜鉛(II)、フッ化アルミニウム、フッ化クロム(III)、フッ化ビスマス(III)、フッ化インジウム(III)、フッ化スズ(II)等が挙げられる。
【0056】
キャッピング元素又はイオンを含む塩化物としては、例えば、オキシ塩化ジルコニウム、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化ルビジウム、塩化セシウム、塩化フランシウム、塩化ベリリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ストロンチウム、塩化バリウム、塩化スカンジウム(III)、塩化イットリウム(III)、塩化ランタン(III)、塩化セリウム(III)、塩化プラセオジム、塩化ネオジム(III)、塩化サマリウム、塩化ユウロピウム、塩化チタン(III)、塩化チタン(IV)、塩化ジルコニウム(IV)、塩化ハフニウム(IV)、塩化タンタル(V)、塩化マンガン、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、塩化コバルト(II)、塩化ニッケル(II)、塩化銅(I)、塩化銅(II)、塩化亜鉛(II)、塩化アルミニウム、塩化ガリウム、塩化ビスマス(III)、塩化インジウム(I)、塩化インジウム(III)、塩化スズ(II)等が挙げられる。
【0057】
キャッピング元素又はイオンを含む臭化物としては、例えば、臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化ルビジウム、臭化セシウム、臭化フランシウム、臭化ベリリウム、臭化マグネシウム、臭化カルシウム、臭化ストロンチウム、臭化バリウム、臭化スカンジウム(III)、臭化イットリウム(III)、臭化セリウム(III)、臭化ネオジム(III)、臭化チタン(IV)、臭化ジルコニウム(IV)、臭化タンタル(V)、臭化マンガン(II)、臭化鉄(II)、臭化鉄(III)、臭化コバルト(II)、臭化ニッケル(II)、臭化銅(I)、臭化銅(II)、臭化亜鉛(II)、臭化クロム(III)、臭化ビスマス(III)、臭化バナジウム(III)、臭化インジウム(III)、臭化スズ等が挙げられる。
【0058】
キャッピング元素又はイオンを含むヨウ化物としては、例えば、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ルビジウム、ヨウ化セシウム、ヨウ化フランシウム、ヨウ化ベリリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化ストロンチウム、ヨウ化バリウム、ヨウ化スカンジウム(III)、ヨウ化イットリウム(III)、ヨウ化ランタン(III)、ヨウ化セリウム(III)、ヨウ化ネオジム(III)、ヨウ化チタン(IV)、ヨウ化ジルコニウム(IV)、ヨウ化ハフニウム(IV)、ヨウ化タンタル(V)、ヨウ化マンガン(II)、ヨウ化鉄(II)、ヨウ化鉄(III)、ヨウ化コバルト(II)、ヨウ化ニッケル(II)、ヨウ化銅(I)、ヨウ化亜鉛(II)、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化クロム(III)、ヨウ化バナジウム(II)、ヨウ化ビスマス(III)、ヨウ化インジウム(III)、ヨウ化スズ(II)、ヨウ化スズ(IV)等のヨウ化物が挙げられる。
【0059】
ZrO2と、HfO2については、市販のジルコニア粉末を使用することできる。市販品としては、例えば、ジルコニア粉末(商品名「Zpex(登録商標)」(Y2O3の含有率:3mol%)、「Zpex(登録商標)4」(Y2O3の含有率:4mol%)、「Zpex(登録商標)4 Smile(登録商標)」(Y2O3の含有率:5.5mol%)、「TZ-3Y」(Y2O3の含有率:3mol%)、「TZ-3YS」(Y2O3の含有率:3mol%)、「TZ-4YS」(Y2O3の含有率:4mol%)、「TZ-6Y」(Y2O3の含有率:6mol%)、「TZ-6YS」(Y2O3の含有率:6mol%)、「TZ-8YS」(Y2O3の含有率:8mol%)、「TZ-10YS」(Y2O3の含有率:10mol%)、「TZ-3Y-E」(Y2O3の含有率:3mol%)、「TZ-3YS-E」(Y2O3の含有率:3mol%)、「TZ-3YB-E」(Y2O3の含有率:3mol%)、「TZ-3YSB-E」(Y2O3の含有率:3mol%)、「TZ-3YB」(Y2O3の含有率:3mol%)、「TZ-3YSB」(Y2O3の含有率:3mol%)、「TZ-3Y20AB」(Y2O3の含有率:3mol%)、「TZ-8YSB」(Y2O3の含有率:8mol%)、「TZ-0」(Y2O3の含有率:0mol%);以上、東ソー株式会社製)等が挙げられる。前記市販のジルコニア粉末には、HfO2も含まれている。市販品としては、Y2O3も含まれているものを使用することもできる。ジルコニア粉末としては、本発明の原料組成物には、前記市販品のTZシリーズ(商品名の一部に「TZ」を含む)のように、Y2O3を均一に分散固溶させたジルコニア粉末を使用することもできる。
【0060】
ジルコニア粉末の製造方法に特に制限はなく、例えば、粗粒子を粉砕して微粉化するブレークダウンプロセス、原子又はイオンから核形成及び成長過程により合成するビルディングアッププロセスなどの公知の方法を採用することができる。
【0061】
前記原料組成物におけるジルコニア粉末の種類は特に限定されず、ジルコニア粉末が、ZrO2と、HfO2とを含み、安定化剤を含まない場合又は必要に応じて安定化剤の含有率を増加させる場合、別途安定化剤の粒子を添加できる。安定化剤の粒子は、黒色ジルコニア複合焼結体に含まれる安定化剤の含有率が前記した所定の範囲に調整できればよく、特に限定されない。
安定化剤の粒子は、例えば、市販品を用いてもよく、市販品の粉末を公知の粉砕混合装置(ボールミル等)で粉砕してから使用してもよい。
【0062】
前記安定化剤は、ZrO2及びHfO2に対して固溶していない安定化剤、ZrO2及びHfO2に対して固溶している安定化剤のいずれも用いることができる。
ある好適な実施形態においては、前記原料組成物において、目的とする黒色ジルコニア複合焼結体が容易に得られる一因となる点から、安定化剤(好適には、Y2O3)が、ZrO2及びHfO2に対して固溶していない安定化剤を含む黒色ジルコニア複合焼結体の製造方法が挙げられる。安定化剤がジルコニアに固溶されていないものを含むことは、例えば、X線回折(XRD;X-Ray Diffraction)パターンによって確認できる。
【0063】
原料組成物又は成形体のXRDパターンにおいて、安定化剤に由来するピークが確認された場合には、原料組成物又は成形体中においてZrO2及びHfO2に固溶されていない安定化剤が存在していることになる。
安定化剤の全量がZrO2及びHfO2に固溶している場合には、基本的に、XRDパターンにおいて安定化剤に由来するピークは確認されない。ただし、安定化剤の結晶状態等の条件によっては、XRDパターンに安定化剤のピークが存在していない場合であっても、安定化剤がZrO2及びHfO2に固溶されていないこともあり得る。
【0064】
安定化剤が、ZrO2及びHfO2に対して固溶していない安定化剤を含む場合について、安定化剤がイットリアを例として、以下に説明する。
【0065】
本発明の原料組成物又は成形体において、ZrO2及びHfO2に固溶されていないイットリア(以下において「未固溶イットリア」ということがある)の存在率fyは、以下の数式(1)に基づいて算出することができる。
fy=I29/(I28+I29+I30)×100
(式中、fyは未固溶イットリアの割合(%)を表し、XRD測定において、I28は単斜晶系のメインピークが現れる2θ=28°付近のピークの面積強度を表し、I29はイットリアのメインピークが現れる2θ=29°付近のピークの面積強度を表し、I30は正方晶系又は立方晶系のメインピークが現れる2θ=30°付近のピークの面積強度を表す。)
【0066】
また、イットリア以外の安定化剤を併せて用いる場合、I29の代わりに他の安定化剤のピークを代入することによって、イットリア以外の安定化剤の未固溶存在率の算出にも適用することができる。
【0067】
未固溶イットリアの存在率fyは、目的とする黒色ジルコニア複合焼結体が容易に得られやすいなどの観点から、0%より大きいことが好ましく、1%以上であることがより好ましく、2%以上であることがさらに好ましく、3%以上であることが特に好ましい。未固溶イットリアの存在率fyの上限は、例えば25%以下であってもよいが、好適には原料組成物又は成形体におけるイットリアの含有率に依存する。
【0068】
例えば、本発明の原料組成物又は成形体におけるイットリアの含有率が3mol%以上8mol%以下である場合、以下のとおりである。
イットリアの含有率が3mol%以上4.5mol%未満であるとき、fyは15%以下とすることができる。イットリアの含有率が4.5mol%以上5.8mol%未満であるとき、fyは20%以下とすることができる。イットリアの含有率が5.8mol%以上8mol%以下であるとき、fyは25%以下とすることができる。
【0069】
例えば、イットリアの含有率が3mol%以上4.5mol%未満であるとき、fyは2%以上であることが好ましく、3%以上であることがより好ましく、4%以上であることがさらに好ましく、5%以上であることが特に好ましい。
イットリアの含有率が4.5mol%以上5.8mol%未満であるとき、fyは3%以上であることが好ましく、4%以上であることがより好ましく、5%以上であることがさらに好ましく、6%以上であることがよりさらに好ましく、7%以上であることが特に好ましい。
イットリアの含有率が5.8mol%以上8mol%以下であるとき、fyは4%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましく、6%以上であることがさらに好ましく、7%以上であることがよりさらに好ましく、8%以上であることが特に好ましい。
【0070】
本発明の原料組成物又は成形体においては、該安定化剤の全部がZrO2及びHfO2に固溶されていなくてもよい。なお、本発明において、安定化剤が固溶するとは、例えば、安定化剤に含まれる元素(原子)がZrO2及びHfO2に固溶することをいう。
【0071】
本発明の原料組成物に添加するNb2O5及び/又はTa2O5は、黒色ジルコニア複合焼結体に含まれるNb2O5及び/又はTa2O5の含有率が前記した所定の範囲に調整できればよく、特に限定されない。Nb2O5及び/又はTa2O5は、特に限定されず、例えば、市販品を用いてもよく、市販品の粉末を公知の粉砕混合装置(ボールミル等)で粉砕してから使用してもよい。
【0072】
原料組成物を作製する工程としては、例えば、前記原料組成物の各原料(ZrO2と、HfO2と、安定化剤と、Nb2O5及び/又はTa2O5と、キャッピング剤(例えば、水を含む溶媒中で1価のイオンとなりえる化合物)と、さらに必要に応じてジルコニア強化剤と)を、水を含む溶媒中で湿式混合して原料組成物を得る方法等が挙げられる。
【0073】
前記各原料を、水を含む溶媒中で湿式混合する方法は、特に限定されず、例えば、各原料を公知の粉砕混合装置(ボールミル等)で湿式粉砕混合してスラリーを形成し、その後、スラリーを乾燥させて造粒し、顆粒状の原料組成物を作製してもよい。
【0074】
湿式混合工程において、バインダー、可塑剤、分散剤、乳化剤、消泡剤、pH調整剤、潤滑剤などの添加剤をさらに含んでいてもよい。添加剤は、それぞれ1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0075】
前記バインダーは、ZrO2と、HfO2と、Y2O3と、Nb2O5及び/又はTa2O5と、キャッピング剤との混合物からなる一次粉末を水に添加してスラリーとした後に、粉砕した該スラリーに後から添加してもよい。
【0076】
前記バインダーは、特に限定されず、公知のものを使用することができる。バインダーとしては、例えば、ポリビニルアルコール系バインダー、アクリル系バインダー、ワックス系バインダー(パラフィンワックス等)、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルブチラール、ポリメタクリル酸メチル、エチルセルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、アタクチックポリプロピレン、メタクリル樹脂等が挙げられる。
【0077】
可塑剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジブチルフタル酸等が挙げられる。
【0078】
分散剤としては、例えば、ポリカルボン酸アンモニウム(クエン酸三アンモニウム等)、ポリアクリル酸アンモニウム、アクリル共重合体樹脂、アクリル酸エステル共重合体、ポリアクリル酸、ベントナイト、カルボキシメチルセルロース、アニオン系界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル等のポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル等)、非イオン系界面活性剤、オレイングリセリド、アミン塩型界面活性剤、オリゴ糖アルコール、ステアリン酸などが挙げられる。
【0079】
乳化剤としては、例えば、アルキルエーテル、フェニルエーテル、ソルビタン誘導体などが挙げられる。
【0080】
消泡剤としては、例えば、アルコール、ポリエーテル、シリコーン、ワックスなどが挙げられる。
【0081】
pH調整剤としては、例えば、アンモニア、アンモニウム塩(水酸化テトラメチルアンモニウム等の水酸化アンモニウムを含む)などが挙げられる。
【0082】
潤滑剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ワックスなどが挙げられる。
【0083】
湿式混合に用いる溶媒としては、水を含む限り特に限定されず、有機溶媒を使用し、水と有機溶媒の混合溶媒を使用してもよく、水のみを使用してよい。
有機溶媒としては、例えば、アセトン、エチルメチルケトンなどのケトン溶媒;エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、1,2-ペンタジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-オクタンジオールなどのアルコール溶媒などが挙げられる。
【0084】
本発明において用いられる黒色ジルコニア複合焼結体の原料組成物は、本発明の効果を奏する限り、ZrO2、Y2O3、Nb2O5、Ta2O5、キャッピング剤、さらに必要に応じてジルコニア強化剤以外の他の成分を含有してもよい。該他の成分としては、例えば、着色剤(顔料、及び複合顔料)、蛍光剤、SiO2等が挙げられる。他の成分は、それぞれ1種単独で使用してもよく、2種以上を混合してもよい。
【0085】
前記顔料としては、例えば、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Y、Zr、Sn、Sb、Bi、Ce、Pr、Sm、Eu、Gd、Tb及びErからなる群から選択される少なくとも1つの元素の酸化物(具体的には、NiO、Cr2O3等)が挙げられ、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Y、Zr、Sn、Sb、Bi、Ce、Pr、Sm、Eu、Gd、及びTbからなる群から選択される少なくとも1つの元素の酸化物が好ましく、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Y、Zr、Sn、Sb、Bi、Ce、Sm、Eu、Gd、及びTbからなる群から選択される少なくとも1つの元素の酸化物がより好ましい。ただし、顔料から、Y2O3及びCeO2を除いてもよい。
【0086】
前記複合顔料としては、例えば、(Zr,V)O2、Fe(Fe,Cr)2O4、(Ni,Co,Fe)(Fe,Cr)2O4・ZrSiO4、(Co,Zn)Al2O4等が挙げられる。
【0087】
前記蛍光剤としては、例えば、Y2SiO5:Ce、Y2SiO5:Tb、(Y,Gd,Eu)BO3、Y2O3:Eu、YAG:Ce、ZnGa2O4:Zn、BaMgAl10O17:Eu等が挙げられる。
【0088】
次に、得られた原料組成物を成形して、成形体を作製する。成形方法は、特に限定されず、公知の方法(例えば、プレス成形等)を使用することができる。
【0089】
原料組成物をプレス成形する工程を有する方法によりジルコニア成形体を製造する場合において、プレス成形の具体的な方法に特に制限はなく、公知のプレス成形機を用いて行うことができる。プレス成形の具体的な方法としては、例えば、一軸プレスなどが挙げられる。
【0090】
プレス圧は、目的とする成形体のサイズ、開気孔率、2軸曲げ強さ、原料粉末の粒子径により適宜最適な値が設定され、通常は5MPa以上1000MPa以下である。前記製造方法における成形時のプレス圧を高くすることによって、得られる成形体の気孔がより埋まり、開気孔率を低く設定でき、成形体の密度を上げることができる。また、得られるジルコニア成形体の密度を上げるため、一軸プレスした後に冷間等方圧加圧(CIP)処理をさらに施してもよい。
【0091】
次に、得られた成形体を焼結する。
「成形体」とは、半焼結状態(仮焼状態)、焼結状態のいずれにも至っていないものを意味する。すなわち、成形体は、成形により成形体とした後に未焼成である点で、仮焼体及び焼結体とは区別される。
黒色ジルコニア複合焼結体を得るための焼結温度(最高焼結温度)は、例えば、1300℃以上が好ましく、1350℃以上がより好ましく、1400℃以上がさらに好ましく、1450℃以上がよりさらに好ましく、1500℃以上が特に好ましい。また、該焼結温度は、例えば、1680℃以下が好ましく、1650℃以下がより好ましく、1600℃以下がさらに好ましい。本発明の黒色ジルコニア複合焼結体の製造方法としては、成形体を最高焼結温度1400~1680℃で焼成することが好ましい。前記最高焼結温度は、大気中での温度であることが好ましい。
【0092】
最高焼結温度における保持時間(係留時間)は、温度にもよるが、30時間以下が好ましく、20時間以下がより好ましく、10時間以下がさらに好ましく、5時間以下がよりさらに好ましく、3時間以下が特に好ましく、2時間以下が最も好ましい。さらに、該保持時間は25分以下、20分以下、又は15分以下とすることもできる。また、該保持時間は1分以上が好ましく、5分以上がより好ましく、10分以上がさらに好ましい。本発明の製造方法によれば、安定化剤の含有率に応じて、曲げ強さ、及び機械加工性において優れる黒色ジルコニア複合焼結体を作製できる。また、本発明の効果を得られる限り、焼結時間を短縮してもよい。焼結時間を短縮することにより、生産効率を高めるとともに、エネルギーコストを低減させることができる。
【0093】
本発明の黒色ジルコニア複合焼結体の製造方法において、前記成形体を焼結する際、昇温速度は特に限定されず、0.1℃/分以上であることが好ましく、0.2℃/分以上であることがより好ましく、0.5℃/分以上であることがさらに好ましい。また、昇温速度は、50℃/分以下であることが好ましく、30℃/分以下であることがより好ましく、20℃/分以下であることがさらに好ましい。昇温速度が上記下限以上であることにより生産性が向上する。
【0094】
前記成形体を焼結する工程には、一般的なジルコニア用焼成炉を使用することができる。ジルコニア用焼成炉としては、市販品を用いてもよい。市販品としては、ノリタケ カタナ(登録商標) F-1、F-1N、F-2(以上、SK メディカル電子株式会社)等が挙げられる。
【0095】
黒色ジルコニア複合焼結体の製造方法において、黒色顔料を添加した成形体を焼結することで、黒色ジルコニア複合焼結体を得ることもできる。
黒色顔料としては、例えば、黒色有機顔料、混色有機顔料、無機顔料等が挙げられる。
黒色有機顔料としては、例えば、カーボンブラック、ペリレンブラックアニリンブラック、ベンゾフラノン系顔料などが挙げられる。これらは、樹脂で被覆されていてもよい。
混色有機顔料としては、例えば、赤、青、緑、紫、黄色、マゼンダ及び/又はシアン等の2種以上の顔料を混合して疑似黒色化したものが挙げられる。
黒色無機顔料としては、例えば、グラファイト;チタン、銅、鉄、マンガン、コバルト、クロム、ニッケル、亜鉛、カルシウム、銀等の金属の微粒子;金属酸化物;金属複合酸化物;金属硫化物;金属窒化物;金属酸窒化物;金属炭化物などが挙げられる。
ただし、黒色顔料として、チタンを含む顔料を使用する場合、チタンとしての合計含有率が、ジルコニア強化剤のTiO2の含有率の上限値である5.0質量%を超えないことが好ましい。
【0096】
また、成形体に黒色顔料を添加する方法に加えて、又は成形体に黒色顔料を添加する方法に代えて、前記した最高焼結温度における焼結以外に、成形体を還元焼成することが好ましい。
ある好適な実施形態としては、成形体を焼結する工程は、前記した最高焼結温度における焼結以外に、還元焼成する工程を含む、黒色ジルコニア複合焼結体の製造方法が挙げられる。
【0097】
還元焼成する工程としては、還元雰囲気下にて行う焼結であれば、特に限定されないが、例えば、還元雰囲気にて、熱間静水圧プレス(Hot Isostatic Pressing;HIP)処理する工程が挙げられる。還元雰囲気下にて行うHIP処理によって、酸素欠陥により黒変が生じ、黒色ジルコニア複合焼結体を得ることができる。また、HIP処理によって、黒色ジルコニア複合焼結体の強度をさらに向上させることができる。
【0098】
以下において、前記した最高焼結温度における焼結によって得られる焼結体を「一次焼結体」と称し、HIP処理後の焼結体を「HIP処理焼結体」と称する。
【0099】
HIP処理は、公知の熱間静水圧プレス(HIP)装置を用いて行うことができる。
【0100】
HIP処理の温度は、特に限定されないが、強度が高い緻密な黒色ジルコニア複合焼結体を得ることができることなどから、HIP温度は、1200℃以上であることが好ましく、1300℃以上であることがより好ましく、1400℃以上であることがさらに好ましい。また、HIP温度は、1700℃以下であることが好ましく、1650℃以下であることがより好ましく、1600℃以下であることがさらに好ましい。
【0101】
本発明の黒色ジルコニア複合焼結体の製造方法において、前記一次焼結体をHIP処理する際、HIP圧力は特に限定されず、強度が高い緻密な焼結体を得ることができることなどから、HIP圧力は、100MPa以上であることが好ましく、125MPa以上であることがより好ましく、130MPa以上であることがさらに好ましい。また、HIP圧力の上限は特に限定されないが、例えば、400MPa以下、300MPa以下、さらには200MPa以下とすることができる。
【0102】
本発明の黒色ジルコニア複合焼結体の製造方法において、前記一次焼結体をHIP処理する際、昇温速度は特に限定されず、0.1℃/分以上であることが好ましく、0.2℃/分以上であることがより好ましく、0.5℃/分以上であることがさらに好ましい。また、昇温速度は、50℃/分以下であることが好ましく、30℃/分以下であることがより好ましく、20℃/分以下であることがさらに好ましい。昇温速度が上記下限以上であることにより生産性が向上する。
【0103】
本発明の黒色ジルコニア複合焼結体の製造方法において、前記一次焼結体をHIP処理する際、HIP時間は特に限定されず、強度が高い緻密な黒色ジルコニア複合焼結体を得ることができることなどから、HIP処理の時間は、5分以上であることが好ましく、10分以上であることがより好ましく、30分以上であることがさらに好ましい。また、HIP処理の時間は、10時間以下であることが好ましく、6時間以下であることがより好ましく、3時間以下であることがさらに好ましい。
【0104】
本発明の黒色ジルコニア複合焼結体の製造方法において、前記一次焼結体を還元雰囲気下、HIP処理する際、圧力媒体は特に限定されず、ジルコニアへの影響が低い観点から、圧力媒体は、不活性ガス(例えば窒素、アルゴン等)からなる群から選ばれる少なくとも1種を選択できる。
【0105】
還元焼成する工程においては、還元雰囲気での焼成の効率を高め、複合焼結体のL*値がより低くなり、より深い色の黒色ジルコニア複合焼結体が得られる点から、炭素の存在下で、還元焼成することが好ましい。
還元焼成する工程に用いる炭素としては、特に限定されず、例えば、リファサーモ(共通熱履歴センサー、成分に少量の有機成分(有機結合剤(PVA・PEG系))を含む)等が挙げられる。
【0106】
本発明の黒色ジルコニア複合焼結体は、本発明の効果を奏する限り、特に限定されず、一次焼結体であってもよく、HIP処理焼結体であってもよい。
【0107】
本発明の黒色ジルコニア複合焼結体は、焼結体であるにもかかわらず、機械加工性に優れるため、半焼結状態の仮焼体のミルブランクの状態で機械加工したのち、焼結させて焼結体とする必要がない。
一方、黒色ジルコニア複合焼結体の製造方法としては、前記原料組成物を用いて得られる成形体を仮焼して半焼結状態の仮焼体として製造し、未加工の仮焼体を機械加工してから、焼結体とする製造方法としてもよい。
【0108】
ある他の実施形態としては、前記原料組成物を用いて成形体を作製する工程と、得られた成形体を仮焼して、ジルコニア仮焼体を得る工程(仮焼工程)と、ジルコニア仮焼体を焼結する工程とを含む、
黒色ジルコニア複合焼結体の製造方法が挙げられる。
【0109】
仮焼工程における焼成温度(仮焼温度)は、ブロック化を確実にするため、例えば、800℃以上が好ましく、900℃以上がより好ましく、950℃以上がさらに好ましい。
また、仮焼温度は、例えば、1200℃以下が好ましく、1150℃以下がより好ましく、1100℃以下がさらに好ましい。仮焼温度としては、例えば、800℃~1200℃であることが好ましい。このような仮焼温度であれば、仮焼工程において安定化剤の固溶は大きく進行しないと考えられる。
【0110】
本発明のジルコニア仮焼体は、ZrO2粒子同士がネッキング(固着)しており、ZrO2粒子(粉末)が完全には焼結していない状態(半焼結状態)であるものを意味する。
【0111】
ジルコニア仮焼体の密度は2.7g/cm3以上が好ましい。また、ジルコニア仮焼体の密度は4.0g/cm3以下が好ましく、3.8g/cm3以下がより好ましく、3.6g/cm3以下がさらに好ましい。この密度範囲にある場合、加工を容易に行うことができる。仮焼体の密度は、例えば、(仮焼体の質量)/(仮焼体の体積)として算出することができる。
【0112】
また、ジルコニア仮焼体の3点曲げ強さは、15~70MPaが好ましく、18~60MPaがより好ましく、20~50MPaがさらに好ましい。
前記曲げ強さは、厚み5mm×幅10mm×長さ50mmの試験片を用い、試験片のサイズ以外はISO 6872:2015に準拠して測定することができる。該試験片の面及びC面(試験片の角を45°の角度で面取りした面)は、600番のサンドペーパーで長手方向に面仕上げする。該試験片は、最も広い面が鉛直方向(荷重方向)を向くように配置する。曲げ試験測定において、スパンは30mm、クロスヘッドスピードは1.0mm/分とする。
【0113】
ジルコニア仮焼体を焼結する工程は、前記した成形体を焼結する工程と同様の方法及び条件(温度、圧力等)で行うことができる。そのため、ジルコニア仮焼体を用いる製造方法の実施形態においては、「成形体」を「仮焼体」に読み替えることもできる。
【0114】
本発明の黒色ジルコニア複合焼結体は強度に優れる。本発明の黒色ジルコニア複合焼結体の2軸曲げ強さは、300MPa以上であることが好ましく、350MPa以上であることがより好ましく、400MPa以上であることがさらに好ましく、450MPa以上であることがよりさらに好ましく、500MPa以上であることが特に好ましい。本発明の黒色ジルコニア複合焼結体がこのような2軸曲げ強さを有することで、例えば破損などを抑制することができる。当該2軸曲げ強さの上限に特に制限はないが、当該2軸曲げ強さは、例えば、1200MPa以下、さらには1000MPa以下とすることができる。なお、黒色ジルコニア複合焼結体の2軸曲げ強さは、ISO 6872:2015に準拠して測定できる。
【0115】
本発明の黒色ジルコニア複合焼結体は意匠性に優れる点から、所望の色調を有していることが好ましい。色調は、L*、|a*|及び|b*|で評価できる。
L*、|a*|及び|b*|は、直径15mm、厚さ1.2mmの測定試料における、L*a*b*表色系(JIS Z 8781-4:2013 測色-第4部:CIE 1976 L*a*b*色空間)によるL*、a*、b*を、後、例えばコニカミノルタ株式会社製の分光測色計「CM-3610A」を用いて、D65光源、測定モードSCI、測定径/照明径=φ8mm/φ11mmの条件で測定して算出できる。
【0116】
色調に関して、具体的には、本発明の黒色ジルコニア複合焼結体は、直径15mm、厚さ1.2mmの試料において、試料の背景(下敷き)を白色にして(試料に対して色調の測定装置と反対側を白色にして)、L*が60以下であることが好ましく、55以下であることがより好ましく、50以下であることがさらに好ましい。
また、前記試料及び測定条件において、|a*|が3以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましく、1以下であることがさらに好ましい。
さらに、前記試料及び測定条件において、|b*|が3以下であることが好ましく、2.5以下であることがより好ましく、2以下であることがさらに好ましい。
ある好適な実施形態としては、前記試料及び測定条件において、L*が60以下であり、|a*|が3以下であり、かつ|b*|が3以下である、黒色ジルコニア複合焼結体が挙げられる。
他のある好適な実施形態としては、前記試料及び測定条件において、L*が50以下であり、|a*|が1以下であり、かつ|b*|が2以下である、黒色ジルコニア複合焼結体が挙げられる。
前記L*、|a*|、及び|b*|が上記範囲内であることにより、意匠性に優れる黒色ジルコニア複合焼結体が得られる。
【0117】
ある好適な実施形態としては、より優れた意匠性が得られやすい点から、直径15mm、厚さ1.2mmの試料を用いてL*a*b*表色系の白背景で測色した値が、L*≦60、|a*|≦3、かつ|b*|≦3である、黒色ジルコニア複合焼結体が挙げられる。
【0118】
本発明の黒色ジルコニア複合焼結体は意匠性に優れる点から、色調として、直径15mm、厚さ1.2mmの試料を用いてL*a*b*表色系の白背景で測色したa*、b*から算出される彩度C*が10以下であることが好ましく、8以下であることがより好ましく、6以下であることがさらに好ましい。
C*は、前記した方法で得られたa*、及びb*の平均値により、彩度C*=((a*)2+(b*)2)1/2を算出できる。
【0119】
本発明の黒色ジルコニア複合焼結体の熱膨張係数(CTE)は、8×10-6/℃~13×10-6/℃であることが好ましく、8.5×10-6/℃~12×10-6/℃であることがより好ましく、9×10-6/℃~11×10-6/℃であることがさらに好ましい。
本発明の黒色ジルコニア複合焼結体は、熱膨張係数(CTE)が前記範囲であるため、金属材料との組み合わせに好適に利用できる。
熱膨張係数(CTE)の測定は、ISO 6872:2015に準拠して解析温度範囲を、25℃~500℃として、例えば、昇温速度5℃/分で測定することができる。
【0120】
また、本発明の黒色ジルコニア複合焼結体は、特に異形状ないし複雑形状と強度を必要とするジルコニア部材に好適に用いられる。
既存の製造方法(射出成形、CIP、鋳込み成形、又は3Dプリンティング等)のみで製造した焼結体に比べて、本発明の黒色ジルコニア複合焼結体は、焼結体をそのまま加工可能である。そのため、例えば、短時間で所望のジルコニア部材が得られる場合は経済的であり、従来の製造方法で製造し難い複雑形状部品の場合は複数の部材を機械的嵌合で得ていく必要が無くなるため高い強度を維持したジルコニア部材を得ることが可能である。さらに、焼結体をそのまま加工可能であることから、寸法精度が必要な場合は焼結工程が不要となり、不均一な焼成収縮が無くなるためジルコニア部材が高い精度で得られる。また、機械加工は、例えば市販の機械加工装置を用いて行うことができる。
【0121】
本発明の黒色ジルコニア複合焼結体の用途としては、具体的には、宝飾用途(ブローチ、ネクタイピン、ハンドバッグ金具、腕輪など)、航空機、自動車等のモビリティのエンジン部材及び内装部材、表示パネルの枠材、建築用部材、携帯機器部材、高級日用部材、時計部材(時計バンド、ベゼル、文字盤、時計ケース等)、携帯電子機器(例えば、スマートフォン)の筐体、ライターケース、化粧品ケース、携帯電話ケース、イヤホンハウジングなどの外装部材、電化製品部材、家庭用品部材、各種製品のロゴマーク、玩具類の部品を製造する方法としても用いることができる。
また、本ジルコニア部材と異種材料とを嵌合して複合部材として用いてもよい。
【0122】
本発明は、本発明の効果を奏する限り、本発明の技術的思想の範囲内において、上記の構成の全部又は一部を種々組み合わせた実施形態を含む。
【実施例】
【0123】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で多くの変形が当分野において通常の知識を有する者により可能である。なお、下記実施例及び比較例において、平均粒子径とは平均一次粒子径であり、レーザー回折散乱法により求めることができる。具体的にはレーザー回折式粒子径分布測定装置(SALD-2300:株式会社島津製作所製)により0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を分散媒に用いて体積基準で測定することができる。
【0124】
[実施例1~17及び比較例1~4]
各実施例及び比較例の測定サンプルは、顆粒状の原料組成物の作製、成形体の作製、焼結体の作製(一次焼結体の作製、及びHIP処理)の工程を経て作製した。
【0125】
[顆粒状の原料組成物の作製]
各実施例及び比較例の顆粒状の原料組成物を作製するため、市販のZrO2粉末、Y2O3粉末、Nb2O5粉末、Ta2O5粉末、及びキャッピング剤、さらに必要に応じてジルコニア強化剤粉末(TiO2粉末及び/又はAl2O3粉末)を表1及び表2に記載の組成になるように混合し、水を添加してスラリーを作製し、平均粒子径0.13μm以下になるまでボールミルで湿式粉砕混合した。粉砕後のスラリーにバインダーを添加した後、スプレードライヤで乾燥させて、顆粒状の原料組成物(以下、単に「原料組成物」とも称する)を作製し、後述の成形体の製造に用いた。前記平均粒子径は、レーザー回折式粒子径分布測定装置(SALD-2300:株式会社島津製作所製)により0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を分散媒に用いて体積基準で測定した値である。
なお、実施例17においては、TZ-3Y(Y2O3の含有率:3mol%):TZ-6Y(Y2O3の含有率:6mol%)=18.7:81.3で混合し、各成分の割合が表1に記載の配合割合になるように調整した。
【0126】
[成形体の作製]
各実施例及び比較例について、強度評価用と加工性評価用の焼結体サンプルが得られるように、ペレット形状の成形体と、ブロック形状の成形体とを以下の通り作製した。
ペレット形状の成形体では、直径19mmの円柱状金型を使用し、焼結後の黒色ジルコニア複合焼結体の厚さが1.2mmとなるように前記原料組成物を金型に入れた。
次に、原料組成物を一軸プレス成形機によって、面圧200MPaでプレス成形して、ペレット形状の成形体を作製した。
【0127】
また、ブロック形状の成形体では、内寸19mm×18mmの金型に、焼結後の黒色ジルコニア複合焼結体の高さが14.5mmとなるように前記原料組成物を入れた。
次に、原料組成物を一軸プレス成形機によって、面圧200MPaでプレス成形して、ブロック形状の成形体を作製した。
【0128】
[一次焼結体の作製]
得られたペレット形状及びブロック形状の成形体について、SKメディカル電子株式会社製の焼成炉「ノリタケ カタナ(登録商標)F-1」を用いて、大気中で表1及び表2に記載の焼成温度にて2時間係留することにより、ペレット形状及びブロック形状のジルコニア焼結体(一次焼結体)の試料を得た。
【0129】
[黒色ジルコニア複合焼結体(HIP処理焼結体)の作製]
得られたペレット形状及びブロック形状のジルコニア焼結体(一次焼結体)について、株式会社神戸製鋼所HIP装置「O2-Dr.HIP」を用いて、圧力媒体としてアルゴンガスを使用し、150MPaで表1及び表2に記載のHIP温度、及びリファサーモの有無の条件にて2時間係留することにより、ペレット形状及びブロック形状の黒色ジルコニア複合焼結体(HIP処理焼結体)の試料を得た。得られた試料のサイズについて、ペレット形状は直径15mm×厚さ1.2mmであり、ブロック形状は幅15.7mm×長さ16.5mm×高さ14.5mmであった。
【0130】
なお、表1及び表2における焼結体の各成分の含有率は、原料の仕込み量から算出した値である。
表1及び表2におけるキャッピング元素又はイオンの含有率(mol%)は、ZrO2、HfO2、前記安定化剤、Nb2O5、及びTa2O5の合計100mol%に対する外部添加率である。
表1及び表2におけるZrO2、HfO2、前記安定化剤、Nb2O5、及びTa2O5のそれぞれの含有率(mol%)は、ZrO2、HfO2、前記安定化剤、Nb2O5、及びTa2O5の合計100mol%における各成分の含有率である。ZrO2及びHfO2についてのみ、ZrO2及びHfO2の合計含有率として示す。
表1及び表2におけるTiO2及びAl2O3の含有率(質量%)は、ZrO2、HfO2、前記安定化剤、Nb2O5、及びTa2O5の合計100質量%に対する外部添加率である。
表1及び表2におけるA/Bは、Y2O3の含有率をAmol%とし、Nb2O5及びTa2O5の合計含有率をBmol%としたときのBに対するAの比率を表す。
【0131】
[黒色ジルコニア複合焼結体の色調評価]
各実施例及び比較例のペレット形状の黒色ジルコニア複合焼結体(HIP処理焼結体)の試料(直径約15mm×厚さ1.2mm)をそのまま用いて、色調を以下の方法により評価した(n=3)。
コニカミノルタ株式会社製の分光測色計「CM-3610A」を用いて、D65光源、測定モードSCI、測定径/照明径=φ8mm/φ11mm、試料の背景(下敷き)を白色にして(試料に対して測定装置と反対側を白色にして)、L*a*b*表色系(JIS Z 8781-4:2013 測色-第4部:CIE 1976 L*a*b*色空間)によるL*、a*、b*を測定した。
測定の際に背景(下敷き)とする白色は、JIS K 5600-4-1:1999に記載される塗料に関する測定に使用する隠ぺい率試験紙を使用した。
各試料でのL*の平均値、a*の平均値、b*の平均値を結果として表1及び表2に示す。
【0132】
[黒色ジルコニア複合焼結体の強度評価]
各実施例及び比較例のペレット形状の黒色ジルコニア複合焼結体(HIP処理焼結体)の試料をそのまま用いて、2軸曲げ強さを、万能試験機「AGS-X」(株式会社島津製作所製)を用いて、クロスヘッドスピードを1.0mm/minに設定して、ISO6872:2015に従って測定した(n=5)。平均値を測定結果として表1及び表2に示す。強度としては、300MPa以上を合格とした。
【0133】
[焼結体中の平均結晶粒径の測定方法]
各実施例及び比較例のペレット形状の黒色ジルコニア複合焼結体(HIP処理焼結体)において、走査電子顕微鏡(商品名「VE-9800」、株式会社キーエンス製)にて表面の撮像を得た。得られた像に各結晶粒子の粒界を記載した後、画像解析にて平均結晶粒径を算出した。
平均結晶粒径の計測には画像解析ソフトウェア(商品名「Image-Pro Plus」、伯東株式会社製)を用い、取り込んだSEM像を二値化して、粒界が鮮明となるように輝度範囲を調節し、視野(領域)から粒子を認識させた。Image-Pro Plusで得られる結晶粒径とは、結晶粒子の外形線から求まる重心を通る外形線同士を結んだ線分の長さを、重心を中心として2度刻みに測定して平均化したものであり、各実施例及び比較例のSEM写真像(3視野)において、画像端にかかっていない粒子全ての結晶粒径の平均値を、焼結体中の平均結晶粒径(個数基準)とした。
「画像端にかかっていない粒子」とは、SEM写真像の画面内に、外形線が入りきらない粒子(上下左右の境界線上で外形線が途切れる粒子)を除いた粒子を意味する。画像端にかかっていない粒子全ての結晶粒径は、Image-Pro Plusにおいて、すべての境界線上の粒子を除外するオプションで選択した。
【0134】
実施例3の黒色ジルコニア複合焼結体における結晶粒子の平均結晶粒径は2.7μmであり、実施例8の黒色ジルコニア複合焼結体における結晶粒子の平均結晶粒径は2.2μmであった。
【0135】
[黒色ジルコニア複合焼結体の加工性評価]
各実施例及び比較例のブロック形状の黒色ジルコニア複合焼結体(HIP処理焼結体)の試料について、幅約15.7mm×高さ14.5mmの面に金属製の治具を接着した試料を30個用意し、CERECシステム「MC-XL」(Dentsply Sirona社製)を用いて一般的な前歯の歯冠形状に加工した。なお、本発明は歯科用途を特に意図したものではないが、焼結体の加工性の程度を評価する方法としては、加工時間、及び加工個数のいずれにも適切であることから、加工試験は歯科用の加工機を用い、前歯形状に行った。
加工プログラムはソフトウェア「inLab(登録商標)CAM virsion 20.0.1.203841」を用い、Manufacture:IVOCLAR VIVADENT、Material name:IPS e.max CAD、Production Method:Grinding、Block size:C16を選択し、加工用工具はStep Bur 12、Cylinder Pointed Bur 12Sを用いた。
【0136】
[加工時間]
表1及び表2に示した加工時間は、新品の加工用工具を用い、上記の[黒色ジルコニア複合焼結体の加工性評価]に記載の条件で試料の加工を開始し、1つ目の試料1個を加工完了するまでに要した時間である。120分以上の時間をかけても、1つの試料も加工できなかった場合を「×」とした。
また、加工時の負荷等によってエラーが起き、CERECシステム「MC-XL」が加工途中で停止した場合は、新品の加工用工具に付け換え、加工を再開した。試料1個を加工完了するまで、この操作を繰り返し、要した時間を加工時間とした。
【0137】
[加工個数]
表1及び表2に示した加工個数とは、新品の1組の加工用工具を用い、上記の[黒色ジルコニア複合焼結体の加工性評価]に記載の条件で試料の加工を開始し、加工用工具を一度も交換せずに前歯の歯冠形状に加工できた試料数である。試験に使用する試料は最大30個とし、30個まで1つの加工用工具で加工が完了できた場合は、追加の加工試験は行わず、一律に「30個以上」とした。
また、1個目の試料の加工を完了する前に、加工時の負荷等によってエラーが起き、MC-XLが加工途中で停止した場合は新品の加工用工具に付け換え、加工を再開する。試料1個を加工完了するまで、この操作を繰り返し、使用した加工用工具の数の逆数を加工個数とした。例えば、表2の比較例2の「0.2個」は、5個の加工用工具を使用して、1個の前歯の歯冠形状に加工された試料が得られたことを意味する。結果を下記表1及び表2に示す。
【0138】
【0139】
【0140】
上記結果から、本発明の黒色ジルコニア複合焼結体は、焼結体の状態であるにもかかわらず、機械加工性に優れることが確認できた。また、本発明の黒色ジルコニア複合焼結体は、好適な強度を有することが確認できた。また、実施例1~17では、加工用工具の消耗を抑制でき、1つの加工用工具で連続して加工できる加工体の個数を従来技術に比べて増加させることができた。
一方、Nb2O5、及びTa2O5を含まない比較例1では、機械加工することができなかった。
キャッピング元素又はイオンを含まない比較例2では、加工時間の短縮が十分ではなく、加工の個数も非常に少なかった。
キャッピング元素に含まれない金属元素である2価の金属元素を含む比較例3では、加工時間の短縮が十分ではなかった。
キャッピング元素に含まれない金属元素である3価の金属元素を含む比較例4では、加工時間の短縮が十分ではなかった。
【0141】
また、TiO
2は、特許文献4では、添加量を増加すると、添加量に比例して強度が低下することが示されているが(特許文献4の
図7)、本発明の黒色ジルコニア複合焼結体において、Nb
2O
5及び/又はTa
2O
5が成分として含まれる場合に、さらにキャッピング元素又はイオンを含むことによってTiO
2は一体的に作用し、黒色ジルコニア複合焼結体の強度を向上できることが実施例4と実施例5との対比から確認された。
【産業上の利用可能性】
【0142】
本発明の黒色ジルコニア複合焼結体は、機械加工性に優れ、かつ意匠性に優れる黒色を呈する。
【符号の説明】
【0143】
1 ジルコニア粒子
2 剥離成分
3 接着性成分
4 剥離成分が存在しない粒界