IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱電機株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-熱交換器及び冷凍サイクル装置 図1
  • 特許-熱交換器及び冷凍サイクル装置 図2
  • 特許-熱交換器及び冷凍サイクル装置 図3
  • 特許-熱交換器及び冷凍サイクル装置 図4
  • 特許-熱交換器及び冷凍サイクル装置 図5
  • 特許-熱交換器及び冷凍サイクル装置 図6
  • 特許-熱交換器及び冷凍サイクル装置 図7
  • 特許-熱交換器及び冷凍サイクル装置 図8
  • 特許-熱交換器及び冷凍サイクル装置 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-16
(45)【発行日】2024-12-24
(54)【発明の名称】熱交換器及び冷凍サイクル装置
(51)【国際特許分類】
   F28F 1/12 20060101AFI20241217BHJP
   F28F 1/20 20060101ALI20241217BHJP
   F28F 1/32 20060101ALI20241217BHJP
   F28F 21/08 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
F28F1/12 G
F28F1/20
F28F1/32 M
F28F21/08 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024549517
(86)(22)【出願日】2024-04-01
(86)【国際出願番号】 JP2024013436
【審査請求日】2024-08-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗木 宏徳
(72)【発明者】
【氏名】中村 伸
(72)【発明者】
【氏名】森田 敦
【審査官】大谷 光司
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-085290(JP,A)
【文献】特開2022-103471(JP,A)
【文献】国際公開第2019/026239(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/026243(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28F 1/12
F28F 1/20
F28F 1/32
F28F 21/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの伝熱管と、
フィンとを備え、
前記少なくとも1つの伝熱管の各々は、第1表面を有し、
前記フィンは、第2表面を有し、
前記第2表面における親水性は、前記第1表面における親水性よりも高くなっており、
前記少なくとも1つの伝熱管には、第1扁平管及び第2扁平管が含まれ、
前記第1扁平管及び前記第2扁平管は、第1方向に沿って間隔を空けて対向配置され、
前記第1扁平管及び前記第2扁平管の各々は、前記第1方向に垂直な第2方向に沿って延在しており、かつ前記第2方向に垂直な断面視において長手方向が前記第1方向及び前記第2方向に垂直な第3方向に沿っており、
前記フィンは、本体部と、第1突出部及び第2突出部とを有し、
前記本体部は、前記第1方向における端面である第1面及び第2面を有し、
前記本体部は、前記第2方向に沿って間隔を空けて並ぶ複数の第1屈曲部を有し、
前記第1面は、前記複数の第1屈曲部のうちの隣り合う2つの間において、前記第1扁平管に接触しており、
前記複数の第1屈曲部の各々は、前記第2面が前記第2扁平管に接触するように前記第1方向に屈曲しており、
前記第1突出部及び前記第2突出部の各々は、前記第3方向に沿って突出するように前記本体部の前記第3方向における両端に連なり、
前記第1突出部及び前記第2突出部の各々は、前記第2方向に沿って間隔を空けて並ぶ複数の第2屈曲部を有し、
前記第2屈曲部の各々は、前記複数の第1屈曲部の各々とは反対側へ前記第1方向に屈曲している、熱交換器。
【請求項2】
前記少なくとも1つの伝熱管の各々は、前記第1表面にある第1表層と、前記第1表層よりも前記第1表面から離れている芯部とを有し、
前記フィンは、前記第2表面にある第2表層とを有し、
前記第1表層における材料電位は、前記芯部における材料電位よりも低くなっており、
前記第2表層における材料電位は、前記芯部における材料電位よりも低く、かつ前記第1表層における材料電位と異なっている、請求項1に記載の熱交換器。
【請求項3】
前記フィン及び前記少なくとも1つの伝熱管は、アルミニウム合金で形成されている、請求項2に記載の熱交換器。
【請求項4】
前記第1表層における亜鉛濃度は、前記芯部における亜鉛濃度よりも高くなっており、
前記第2表層における亜鉛濃度は、前記芯部における亜鉛濃度よりも高く、かつ前記第1表層における亜鉛濃度と異なっている、請求項3に記載の熱交換器。
【請求項5】
前記第2表層における亜鉛濃度は、前記第1表層における亜鉛濃度よりも高くなっている、請求項4に記載の熱交換器。
【請求項6】
前記第1表層における亜鉛濃度と前記芯部における亜鉛濃度との差は、0.5質量パーセント以上であり、
前記第2表層における亜鉛濃度と前記第1表層における亜鉛濃度との差は、0.5質量パーセント以上であり、
前記第2表層における亜鉛濃度は、10質量パーセント以下である、請求項5に記載の熱交換器。
【請求項7】
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の熱交換器を備える、冷凍サイクル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱交換器及び冷凍サイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2023-100145号公報(特許文献1)には、熱交換器が記載されている。特許文献1に記載の熱交換器は、伝熱管としての扁平管を有している。扁平管は、表面に犠牲陽極層を有している。犠牲陽極層は、亜鉛で形成されている。犠牲陽極層上には、犠牲陽極層をなす金属材料の酸化物の膜が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2023-100145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の熱交換器は、伝熱管(扁平管)の表面に付着した水の排出性に改善の余地がある。本開示は、伝熱管の表面に付着した水の排出性が改善された熱交換器を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の熱交換器は、少なくとも1つの伝熱管と、フィンとを備えている。少なくとも1つの伝熱管の各々は、第1表面を有する。フィンは、第2表面を有する。第2表面における親水性は、第1表面における親水性よりも高くなっている。
【発明の効果】
【0006】
本開示の熱交換器によると、伝熱管の表面に付着した水の排出性を高めることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】熱交換器100の平面図である。
図2図1中のII-IIにおける断面図である。
図3】熱交換器100の第1側面図である。
図4図3とは反対側から見た熱交換器100の第2側面図である。
図5】伝熱管10の断面図である。
図6】表面10cの近傍における伝熱管10の拡大断面図である。
図7】表面20aの近傍におけるフィン20の拡大断面図である。
図8】アルミニウム合金の表面における親水性を説明するモデル図である。
図9】冷凍サイクル装置200の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示の実施形態の詳細を、図面を参照しながら説明する。以下の図面では、同一又は相当する部分に同一の参照符号を付し、重複する説明は繰り返さないものとする。
【0009】
実施の形態1.
実施の形態1に係る熱交換器を説明する。実施の形態1に係る熱交換器を、熱交換器100とする。
【0010】
(熱交換器100の構成)
図1は、熱交換器100の平面図である。図2は、図1中のII-IIにおける断面図である。図3は、熱交換器100の第1側面図である。図4は、図3とは反対側から見た熱交換器100の第2側面図である。図5は、伝熱管10の断面図である。図1図2図3図4及び図5に示されているように、熱交換器100は、複数の伝熱管10と、複数のフィン20とを有している。熱交換器100は、例えば、冷却器として用いられる熱交換器である。熱交換器100は、例えば、空気調和機に用いられる熱交換器である。但し、熱交換器100は、冷蔵庫、冷凍庫、自動販売機、冷凍装置又は給湯器等の冷熱機器に用いられる熱交換器であってもよい。
【0011】
複数の伝熱管10は、第1方向DR1に沿って、間隔を空けて並んでいる。伝熱管10は、第2方向DR2に沿って延在している。第2方向DR2は、第1方向DR1に垂直な方向である。伝熱管10の内部には、複数の冷媒流路11が形成されている。冷媒流路11は、伝熱管10の内部において、第2方向DR2に沿って延在している。第2方向DR2に垂直な断面視において、冷媒流路11の形状は、例えば矩形状である。
【0012】
伝熱管10は、第1面10aと、第2面10bとを有している。第2面10bは、第1面10aの反対面である。第1面10a及び第2面10bは、第1方向DR1における両端面をなしている。隣り合う2つの伝熱管10の一方の第1面10aは、隣り合う2つの伝熱管10の他方の第2面10bと間隔を空けて対向配置されている。第2方向DR2に垂直な断面視において、伝熱管10の長手方向は、第3方向DR3に沿っている。第3方向DR3は、第1方向DR1及び第2方向DR2に垂直な方向である。このことを別の観点から言えば、伝熱管10は、第2方向DR2に垂直な断面視において、第3方向DR3に沿って延在している平坦部を有していることになる。伝熱管10は、第2方向DR2に垂直な断面視において、例えば、長手方向が第3方向DR3に沿う長円形状である。
【0013】
隣り合う2つの伝熱管10の間の間隔は、例えば、1mm以上3mm以下である。伝熱管10は、例えば、押し出し成形を行うことにより形成されている。但し、伝熱管10の形成方法は、これに限られるものではない。伝熱管10は、例えば、矩形平板状の板材を折り曲げてロール成形してもよい。
【0014】
フィン20は、第1方向DR1に沿って、間隔を空けて並んでいる。隣り合う2つの伝熱管10の一方を伝熱管10Aと呼ぶことがあり、隣り合う2つの伝熱管10の他方を伝熱管10Bと呼ぶことがある。フィン20は、本体部21と、突出部22及び突出部23とを有している。フィン20は、例えば、矩形平板状の板材を折り曲げることにより形成されている。但し、フィン20の形成方法は、これに限られるものではない。
【0015】
本体部21は、第1面21aと、第2面21bとを有している。第2面21bは、第1面21aの反対面である。第1面21a及び第2面21bは、第1方向DR1における本体部21の両端面をなしている。本体部21は、屈曲部24aと、ベース部25aとを有している。屈曲部24aの数及びベース部25aの数は、例えば複数である。但し、屈曲部24aの数及びベース部25aの数は、単数であってもよい。本体部21及び伝熱管10は、第1方向DR1において交互に配置されている。
【0016】
複数の屈曲部24aは、第2方向DR2に沿って、間隔を空けて並んでいる。ベース部25aは、隣り合う2つの屈曲部24aの間に配置されており、隣り合う2つの屈曲部24aの双方に連なっている。屈曲部24aの底部及びベース部25aは、平坦である。第1面21aは、複数のベース部25aの各々において、伝熱管10B(より具体的には、伝熱管10Bの第1面10a)にろう材を介在させて接触している。
【0017】
本体部21は、複数の屈曲部24aの各々において、屈曲部24aの底部にある第2面21bが伝熱管10A(より具体的には、伝熱管10Aの第2面10b)にろう材を介在させて接触するように第1方向DR1に屈曲している。このことを別の観点から言えば、本体部21は、第3方向DR3に沿って見た側面視において、伝熱管10Aと伝熱管10Bとの間で蛇行しながら、第2方向DR2に延在していることになる。
【0018】
突出部22及び突出部23は、それぞれ、第3方向DR3に沿って伝熱管10A及び伝熱管10Bから突出するように、第3方向DR3における本体部21の両端に連なっている。突出部22及び突出部23の各々は、屈曲部24bと、ベース部25bとを有している。屈曲部24bの数及びベース部25bの数は、例えば複数である。但し、屈曲部24bの数及びベース部25bの数は、単数であってもよい。
【0019】
複数の屈曲部24bは、第2方向DR2に沿って、間隔を空けて並んでいる。ベース部25bは、隣り合う2つの屈曲部24bに配置されており、隣り合う2つの屈曲部24bの双方に連なっている。屈曲部24bの底部及びベース部25bは、平坦である。ベース部25bは、第3方向DR3において、ベース部25aと連なっている。このことを別の観点から言えば、第3方向DR3に沿って見た側面視において、屈曲部24bの第2方向DR2における位置は、屈曲部24aの第2方向DR2における位置と重なっている。
【0020】
突出部22及び突出部23の各々は、屈曲部24bにおいて第1方向DR1に屈曲している。このことを別の観点から言えば、突出部22及び突出部23の各々は、第3方向DR3に沿って見た側面視において、伝熱管10Aと伝熱管10Bとの間で蛇行しながら、第2方向DR2に延在していることになる。但し、屈曲部24bの屈曲する方向(図3中の左方向)は、屈曲部24aの屈曲する方向(図3中の右方向)と逆である。
【0021】
熱交換器100が蒸発器として動作している際、第3方向DR3に沿って隣り合う2つの伝熱管10の間に送風機からの空気が流れる。また、この際、室外機の上流側から供給される気液2相の冷媒が冷媒流路11を流れる。この冷媒は、上記の空気との間で熱交換を行うことにより低温低圧のガス冷媒となり、圧縮機に吸入される。この熱交換に伴い、伝熱管10の表面には、上記の空気との温度差に起因して結露が発生することがある。
【0022】
伝熱管10は、表面10cを有している。なお、第1面10a及び第2面10bは、表面10cの一部をなしている。図6は、表面10cの近傍における伝熱管10の拡大断面図である。図6に示されているように、伝熱管10は、表層12と、芯部13とを有している。表層12は、表面10cに形成されている。芯部13は、表層12の内側、すなわち表層12よりも表面10cから離れた位置にある。
【0023】
フィン20は、表面20aを有している。なお、第1面21a及び第2面21bは、表面20aの一部をなしている。図7は、表面20aの近傍におけるフィン20の拡大断面図である。図7に示されているように、フィン20は、表層26と、芯部27とを有している。表層26は、表面20aに形成されている。芯部27は、表層26の内側、すなわち表層26よりも表面20aから離れた位置にある。
【0024】
表層12における材料電位は、芯部13における材料電位よりも低くなっている。表層26における材料電位は、芯部13における材料電位よりも低くなっており、表層12における材料電位と異なる。表層26における材料電位は、例えば、表層12における材料電位よりも低くなっている。
【0025】
伝熱管10に用いられる材料は、例えばアルミニウム合金である。伝熱管10に用いられるアルミニウム合金の具体例としては、JIS規格に規定されているA1000番台のアルミニウム合金、A3000番台のアルミニウム合金が挙げられる。表層12におけるアルミニウム合金中の亜鉛濃度は、芯部13におけるアルミニウム合金中の亜鉛濃度よりも高くなっている。アルミニウム合金の材料電位は、亜鉛濃度が高くなるほど低くなる。そのため、伝熱管10では、このようなアルミニウム合金中の亜鉛濃度の違いに起因し、表層12における材料電位が芯部13における材料電位よりも低くなる。表層12におけるアルミニウム合金中の亜鉛濃度と芯部13におけるアルミニウム合金中の亜鉛濃度との差は、好ましくは、0.5質量パーセント以上である。なお、芯部13は、亜鉛を含んでいてなくてもよい。すなわち、芯部13におけるアルミニウム合金中の亜鉛濃度は、0質量パーセントであってもよい。
【0026】
表層12は、例えば、亜鉛溶射法、亜鉛置換フラックスを塗布する方法により形成される。亜鉛溶射法では、アルミニウム合金の表面に対して金属亜鉛を溶射し、高温処理を行って亜鉛成分をアルミニウム合金の表面から拡散させることで、亜鉛を含むアルミニウム合金で表層12が形成されることになる。亜鉛置換フラックスを塗布する方法では、亜鉛置換フラックスを用いたノコロックろう付けを行うことで亜鉛がアルミニウム合金の表面から拡散し、亜鉛を含むアルミニウム合金で表層12が形成される。また、これらの方法以外に、亜鉛を含むアルミニウム合金(例えば、JIS規格に規定されているA7000番台のアルミニウム合金)の他のアルミニウム合金の板に貼り合わせて合金化したクラッド材を用いて伝熱管10を形成することによっても、亜鉛を含むアルミニウム合金で表層12を形成することが可能である。
【0027】
フィン20に用いられる材料は、例えばアルミニウム合金である。フィン20に用いられるアルミニウム合金の具体例としては、JIS規格に規定されているA1000番台やA3000番台のアルミニウム合金に亜鉛を添加したものが挙げられる。表層26におけるアルミニウム合金中の亜鉛濃度は、芯部13におけるアルミニウム合金中の亜鉛濃度よりも高く、かつ表層12におけるアルミニウム合金中の亜鉛濃度と異なっている。表層26におけるアルミニウム合金中の亜鉛濃度は、好ましくは、表層12におけるアルミニウム合金中の亜鉛濃度よりも高い。そのため、表層26における材料電位は、芯部13における材料電位よりも低く、かつ表層12における材料電位と異なっている(表層12における材料電位よりも低くなる)。表層26におけるアルミニウム合金中の亜鉛濃度と芯部13におけるアルミニウム合金中の亜鉛濃度との差は、好ましくは、0.5質量パーセント以上である。表層26におけるアルミニウム合金中の亜鉛濃度は、10質量パーセント以下であることが好ましい。その結果、表層12におけるアルミニウム合金中の亜鉛濃度及び芯部13におけるアルミニウム合金中の亜鉛濃度も、好ましくは10質量パーセント以下である。フィン20では、表層26におけるアルミニウム合金中の亜鉛濃度(材料電位)が、芯部27におけるアルミニウム合金中の亜鉛濃度(材料電位)と異なっていなくてもよい。表層26における材料電位が表層12における材料電位よりも低い(つまり、表層26におけるアルミニウム合金中の亜鉛濃度が表層12におけるアルミニウム合金中の亜鉛濃度よりも高い)場合、酸化物は、表面10cよりも表面20aにおいて形成されやすくなる。その結果、表面20cにおける親水性が表面10cにおける親水性よりも高くなり、この親水性の差に起因して表面10cに付着した水が表面20aへ向かって移動しようとする駆動力が発生するため、熱交換器100の排水性が向上する。
【0028】
伝熱管10とフィン20とのろう付けに用いられるろう材には、例えば、アルミニウム合金が用いられる。但し、ろう材に用いられるアルミニウム合金の融点は、伝熱管10に用いられるアルミニウム合金の融点及びフィン20に用いられるアルミニウム合金の融点よりも低い。なお、ろう材に用いられるアルミニウム合金の具体例としては、JIS規格に規定されているA4000番台のアルミニウム合金等のアルミニウム-シリコン合金が挙げられる。
【0029】
(熱交換器100の効果)
以下に、熱交換器100の効果を説明する。
【0030】
アルミニウムは、本来活性な金属である。しかしながら、アルミニウムは、空気中の酸素と反応して直ちに表面に保護性のある酸化膜が形成されるため、乾燥した室温の空気中では安定であり、耐食性の高い金属とされている。他方で、空気中に塩分が含まれている場合(例えば、海塩粒子中の塩分等)、当該塩分により表面の酸化膜が局所的に破壊されてピットが形成される(孔食が発生する)。一旦孔食が発生すると、酸化膜の内部にあった活性なアルミニウムが侵食され、その腐食進行の制御や把握が困難となる。そのため、伝熱管をアルミニウム合金で形成する場合、伝熱管の表面に防錆処理が必要となる。
【0031】
熱交換器100では、表層12における材料電位が芯部13における材料電位よりも低くなっている。つまり、表層12が芯部13に対して、犠牲陽極層として機能することになる。その結果、伝熱管10では、腐食形態が、孔食で芯部13に向かって腐食が局所的に進行する形態から表層12が全面にわたって腐食される形態に変化する。このように、熱交換器100では、表層12における材料電位が芯部13における材料電位よりも低くなっている(すなわち、表層12におけるアルミニウム合金中の亜鉛濃度が芯部13におけるアルミニウム合金中の亜鉛濃度よりも高くなっている)ことにより、伝熱管10の腐食が抑制されることになる。
【0032】
図8は、アルミニウム合金の表面における親水性を説明するモデル図である。図8に示されているように、アルミニウム合金の表面には、アルミニウム酸化物により酸化膜が形成される。酸化膜は、ヒドロキシル基(OH基)を含んでいる。図示されていないが、酸化膜は、エーテル結合(O結合)も含んでいる。これらの官能基には、極性を有する水分子の水素原子や酸素原子が引き寄せられて水素結合を形成する。このようにして、アルミニウム合金の表面に形成される酸化膜は、親水機能を発揮することになる。酸化膜の親水機能は、ヒドロキシル基やエーテル結合が多いほど高くなるため、アルミニウム合金の表面に多くの酸化物が存在するほど高くなる。
【0033】
表層26における材料電位が表層12における材料電位よりも低い(つまり、表層26におけるアルミニウム合金中の亜鉛濃度が表層12におけるアルミニウム合金中の亜鉛濃度よりも高い)場合、酸化物は、表面10cよりも表面20aにおいて形成されやすくなる。そのため、この場合には、空気調和機の運転等による時間経過に伴って表面10cよりも表面20aにおいて酸化物の生成が促進されることで、表面20aにおける親水性が表面10cにおける親水性よりも高くなり、親水性の差に起因して表面10cに付着した水が表面20aへ向かって移動しようとする駆動力が発生する。より具体的には、表面10cには、フィン20との間の微細な隙間に結露水が溜まることがある。このような結露水は、上記のような駆動力によりフィン20側へと移動し、送風機により熱交換器100の外部に排出される。このように、熱交換器100によると、伝熱管10の腐食を抑制しつつ熱交換器100の排水性を高めることができる。なお、熱交換器100の排水性が高められると、通風抵抗の増大や着霜による性能低下が抑制できる。
【0034】
表層12を犠牲陽極層とする伝熱管10の耐食性は、表層12におけるアルミニウム合金中の亜鉛濃度と芯部13におけるアルミニウム合金中の亜鉛濃度との差により決定される。表層12におけるアルミニウム合金中の亜鉛濃度と芯部13におけるアルミニウム合金中の亜鉛濃度との差が0.5質量パーセント以上である場合には、表層12が犠牲陽極層として十分に機能し、芯部13の腐食を十分に抑制できる。また、表層26におけるアルミニウム合金中の亜鉛濃度と表層12におけるアルミニウム合金中の亜鉛濃度との差が大きくなるほど表面10cに付着した水が表面20aに向かおうとする駆動力が大きくなるため、表層26におけるアルミニウム合金中の亜鉛濃度と表層12におけるアルミニウム合金中の亜鉛濃度との差を0.5質量パーセント以上とすることにより、熱交換器100の排水性を十分に確保することができる。
【0035】
他方で、表層12におけるアルミニウム合金中の亜鉛濃度が10質量パーセント以上になると、犠牲陽極層(表層12)の消失速度が速くなり過ぎる。そのため、表層26におけるアルミニウム合金中の亜鉛濃度を10質量パーセント以下とすることにより表層12におけるアルミニウム合金中の亜鉛濃度が10質量パーセントよりも小さくなり、犠牲陽極層(表層12)の短期での自己腐食による消失を抑制することができる。
【0036】
熱交換器100では、突出部22及び突出部23の各々が、複数の屈曲部24bを有している。そのため、熱交換器100では、突出部22及び突出部23の剛性が高められているとともに、突出部22及び突出部23の伝熱面積が増加している。なお、突出部22及び突出部23の剛性が高められることにより、外力を受けた際に突出部22及び突出部23が変形しがたくなる。また、ベース部25a及びベース部25bが互いに接続されていることにより、突出部22及び突出部23と本体部21とが強固に接続され、フィン20の剛性が高められている。
【0037】
熱交換器100では、伝熱管10が平坦部を有しているとともに、屈曲部24aの底部及びベース部25aが平坦であることにより、製造時に治具を配置しやすくなり、熱交換器100の製造性を高めることができる。熱交換器100では、第3方向DR3において対向する突出部22と突出部23との間に1つの伝熱管10のみが配置されるため、当該1つの伝熱管に隣り合う他の伝熱管10が第3方向DR3に移動しても、当該他の伝熱管10は、突出部22及び突出部23に接触しない。そのため、熱交換器100では、突出部22と突出部23との間にある1つの伝熱管10に隣り合う他の伝熱管10との接触により突出部22及び突出部23が変形してしまうことが抑制される。また、熱交換器100では、上記のようなフィン20の構造により、隣り合う伝熱管10の間の間隔を狭めることができる。
【0038】
(冷凍サイクル装置200の構成)
以下に、熱交換器100を用いる冷凍サイクル装置200の構成を説明する。
【0039】
図9は、冷凍サイクル装置200の模式図である。図9に示されているように、冷凍サイクル装置200は、圧縮機210、凝縮器220、絞り装置230及び蒸発器240で構成される冷媒回路を有している。冷媒回路を流れる冷媒に充填される冷媒は、任意の冷媒であればよい。
【0040】
圧縮機210は、冷媒を圧縮する。圧縮機210は、ロータリ圧縮機、スクロール圧縮機、スクリュー圧縮機又は往復圧縮機等である。凝縮器220は、冷媒と空気との間で熱交換を行う。凝縮器220は、例えば室外熱交換器である。絞り装置230は、冷媒を膨張させて減圧する。絞り装置230は、例えば電導膨張弁、機械式膨張弁又はキャピラリーチューブ等である。蒸発器240は、冷媒と空気との間で熱交換を行う。蒸発器240は、例えば室外熱交換器である。冷凍サイクル装置200は、さらに送風機251及び送風機252を有している。送風機251及び送風機251は、それぞれ凝縮器220及び蒸発器240へと送風する。蒸発器240には、例えば熱交換器100が用いられる。
【0041】
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。この出願の範囲は上記の説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0042】
10,10A,10B 伝熱管、10a 第1面、10b 第2面、10c 表面、11 流路、12 表層、13 芯部、20 フィン、20a 表面、21 本体部、21a 第1面、21b 第2面、22,23 突出部、24a,24b 屈曲部、25a,25b ベース部、26 表層、27 芯部、100 熱交換器、200 冷凍サイクル装置、210 圧縮機、220 凝縮器、230 絞り装置、240 蒸発器、251,252 送風機、DR1 第1方向、DR2 第2方向、DR3 第3方向。
【要約】
熱交換器(100)は、少なくとも1つの伝熱管(10)と、フィン(20)とを備えている。少なくとも1つの伝熱管の各々は、第1表面(10c)を有する。フィンは、第2表面(20a)を有する。第2表面における親水性は、第1表面における親水性よりも高くなっている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9