(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】細胞培養システム
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20241218BHJP
【FI】
C12M1/00 C
(21)【出願番号】P 2020031324
(22)【出願日】2020-02-27
【審査請求日】2023-01-19
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000253019
【氏名又は名称】澁谷工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100156199
【氏名又は名称】神崎 真
(72)【発明者】
【氏名】菊知 篤宣
【審査官】平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-000194(JP,A)
【文献】国際公開第2019/139930(WO,A1)
【文献】特開2011-062144(JP,A)
【文献】特開2010-161950(JP,A)
【文献】特開2000-062913(JP,A)
【文献】特開平01-205214(JP,A)
【文献】特開平07-222476(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00- 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞または培養作業に用いる資材を搬送する自走式搬送手段と、上記細胞および資材を用いて培養作業を行う複数の処理ユニットと、上記自走式搬送手段の移動を指令する搬送指令手段と、上記処理ユニットの処理の実行を制御する制御手段とを備え、上記自走式搬送手段により上記細胞および資材を所要の処理ユニットに搬送するようにした細胞培養システムにおいて、
上記処理ユニットとして、継代・培地交換処理を行う処理ユニットと、細胞を培養させるインキュベータとを備え、
上記自走式搬送手段は、自走可能な複数の搬送車と、各搬送車の移動を制御するコントローラとから構成され、
上記搬送指令手段は加速および減速のパターンが異なる複数の走行パラメータを備え、上記コントローラに対し、予め設定された移動制御プログラムに従って、上記搬送車が指令された時刻に指令された目的位置へと移動するように、使用する走行パラメータと時間情報と位置情報とを指令し、
上記コントローラは、上記細胞を搬送する際には細胞用の走行パラメータを用い、上記資材を搬送する際には、上記細胞用よりも上記搬送車を速やかに移動させる資材用の走行パラメータを用いて、上記搬送指令手段から指令された時間情報と位置情報とに従って各搬送車の移動を制御し、
上記制御手段は、
上記インキュベータで培養された細胞の数に応じて上記継代・培地交換処理を行う処理ユニットの処理に要する時間が変動する場合は、
その後の予定を変更して上記移動制御プログラムを再設定し、上記搬送指令手段は再設定された移動制御プログラムに従って各搬送車の制御指令をコントローラに送信することを特徴とする細胞培養システム。
【請求項2】
上記搬送指令手段は上記走行パラメータとして、上記資材用よりも上記搬送車を速やかに移動させる回送用の走行パラメータを備え、上記細胞または資材を搬送せず搬送車を移動させる際に用いることを特徴とする請求項1に記載の細胞培養システム。
【請求項3】
上記細胞または資材を収容する収容ボックスを備えるとともに、上記収容ボックスを上記搬送車に支持させて搬送することを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の細胞培養システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞培養システムに関し、詳しくは細胞および培養作業に用いる資材を自走式搬送手段によって複数の処理ユニット間で搬送する細胞培養システムに関する。
【背景技術】
【0002】
今日、患者から採取した細胞を培養し、これを治療に用いる再生医療による治療方法が知られており、これに伴い効率的に細胞を培養するための培養作業を行う細胞培養システムが提案されている。
ここで、細胞の培養作業は様々な処理によって構成されているが、当該培養作業の全てを一つのアイソレータの内部で行うと、すべての処理が完了するまで他の細胞に対する培養作業を行うことができず、大量に細胞を培養することができないという問題がある。
そこで、上記培養作業の一部の処理を行うように構成された処理ユニットを複数設けるとともに、細胞を上記培養作業の処理順序に従って順次処理ユニットと処理ユニットとの間を搬送させるようにした培養システムが知られている(特許文献1)。
この特許文献1では、細胞を複数の自走式搬送手段によって搬送可能とし、各自走式搬送手段を搬送指令手段によって個別に制御することにより、各処理ユニットにおいて培養作業を分業して行いつつ、上記細胞を自動的に搬送するようにしている。
また特許文献1では、培養作業に使用するピペットや遠沈管、培養に用いる培養液といった資材についても、自走式搬送手段によって搬送させることにより、各処理ユニットへの供給を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで上記自走式搬送手段を用いて細胞を搬送させる際、振動や衝撃によって細胞にストレスを与えたり、培養液が培養容器からこぼれ出る恐れがあることから、自走式搬送手段による細胞の搬送の際には緩やかに移動させるよう制御する必要がある。
一方従来は、資材についても細胞と同じ制御で搬送させていたため、大量の資材を処理ユニットに供給する場合などの時間を要する処理の際には、搬送による時間のロスが問題となっていた。
このような問題に鑑み、本発明では細胞および資材を適切に搬送することが可能な細胞培養システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち請求項1の発明にかかる細胞培養システムは、細胞または培養作業に用いる資材を搬送する自走式搬送手段と、上記細胞および資材を用いて培養作業を行う複数の処理ユニットと、上記自走式搬送手段の移動を指令する搬送指令手段と、上記処理ユニットの処理の実行を制御する制御手段とを備え、上記自走式搬送手段により上記細胞および資材を所要の処理ユニットに搬送するようにした細胞培養システムにおいて、
上記処理ユニットとして、継代・培地交換処理を行う処理ユニットと、細胞を培養させるインキュベータとを備え、
上記自走式搬送手段は、自走可能な複数の搬送車と、各搬送車の移動を制御するコントローラとから構成され、
上記搬送指令手段は加速および減速のパターンが異なる複数の走行パラメータを備え、上記コントローラに対し、予め設定された移動制御プログラムに従って、上記搬送車が指令された時刻に指令された目的位置へと移動するように、使用する走行パラメータと時間情報と位置情報とを指令し、
上記コントローラは、上記細胞を搬送する際には細胞用の走行パラメータを用い、上記資材を搬送する際には、上記細胞用よりも上記搬送車を速やかに移動させる資材用の走行パラメータを用いて、上記搬送指令手段から指令された時間情報と位置情報とに従って各搬送車の移動を制御し、
上記制御手段は、上記インキュベータで培養された細胞の数に応じて上記継代・培地交換処理を行う処理ユニットの処理に要する時間が変動する場合は、その後の予定を変更して上記移動制御プログラムを再設定し、上記搬送指令手段は再設定された移動制御プログラムに従って各搬送車の制御指令をコントローラに送信することを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
上記発明によれば、細胞については細胞用の走行パラメータを用いて自走式搬送手段を制御するため、搬送中の細胞にストレスを与えないようにすることができ、また、培養容器から培養液がこぼれ出ることを防止することができる。
これに対し資材については資材用の走行パラメータを用いて自走式搬送手段を制御するため、資材については速やかに搬送することが可能となり、資材の供給に伴う時間のロスを低減させ、効率的に培養作業を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施例にかかる細胞培養システムの構成図
【
図2】制御手段と各処理ユニットや自走式搬送手段との関係を示す制御構成図
【
図3】第2実施例にかかる細胞培養システムの構成図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下図示実施例について説明すると、
図1は細胞の培養を行う細胞培養システム1を示し、患者から採取した細胞に対して、複数の処理からなる一連の培養作業を行って細胞の培養を行うものとなっている。また、当該細胞培養システム1は、
図2に示すように全体をコンピュータやPLCからなる制御手段Cで監視し制御するようになっている。
上記培養作業としては、培養すべき細胞を処理に適した状態に準備する細胞準備処理、培養に必要な器具や培養容器、培養液等を準備する資材準備処理、細胞を所要の培養容器に播種する播種処理、培養容器中の細胞を培養させる培養処理、培養中の細胞に対して継代や培地交換を行う継代・培地交換処理、培養後の細胞を回収する細胞回収処理、培養作業に使用した資材を回収する資材回収処理等がある。
なお、上記培養作業を構成する処理は一例にすぎず、その他の処理として、細胞の人為的な増殖(培養)・分化、細胞の株化、細胞の活性化等を目的とした薬剤処理、生物学的特性改変処理、非細胞成分との組み合わせまたは遺伝子工学的改変等を施す処理も考えられ、本発明にかかる細胞培養システム1は以下の実施例に記載した処理のみに限定されないものとなっている。
【0009】
上記細胞培養システム1を構成する施設には、上記細胞準備処理や資材準備処理を行うための準備作業室2と、無菌環境下で自動的に上記播種処理、培養処理、継代・培地交換処理を行うための無菌作業室3と、上記細胞回収処理や資材回収処理を行うための回収作業室4とが設けられている。
これら準備作業室2、無菌作業室3、回収作業室4は、内部が定期的に除染されるとともに、細胞培養システム1を構成する施設の外部よりも陽圧に維持されて、所要の空気清浄度に設定されたクリーンルームとなっている。また上記無菌作業室3は、上記準備作業室2および上記回収作業室4よりも陽圧に維持され、さらに空気清浄度が高く設定されている。
【0010】
上記準備作業室2には、処理ユニットUとして上記細胞準備処理を行うための細胞供給ユニット5と、上記資材準備処理を行うための資材供給ユニット6とが設けられている。
これら細胞供給ユニット5および資材供給ユニット6には、従来公知のアイソレータを用いることができ、内部が図示しない除染手段によって除染することが可能となっており、図示しない無菌エア供給手段によって内部を陽圧に維持することによって無菌状態に維持されるようになっている。
また細胞供給ユニット5および資材供給ユニット6の側面には、作業者が装着可能なグローブが設けられるとともに、図示しないパスボックスが設けられている。
細胞供給ユニット5および資材供給ユニット6に細胞や上記資材を外部より搬入する際には、このパスボックスの内部で外面を除染してから、細胞供給ユニット5および資材供給ユニット6の内部空間に移載するようになっている。
【0011】
上記細胞供給ユニット5は一つの側面が上記準備作業室2と無菌作業室3とを区画する壁面WAに当接しており、当該細胞供給ユニット5の側面には接続口5aが形成されるとともに、当該接続口5aは図示しないシャッタによって開閉可能となっている。
そして、この細胞供給ユニット5の外側面には、上記接続口5aの周囲を囲繞する円筒部材からなる接続手段7が設けられ、当該接続手段7は上記壁面WAに開口した窓部から上記無菌作業室3内に位置させることが可能となっており、後に詳述するように細胞収容ボックスBaが上記無菌作業室3内から当該接続手段7を介して細胞供給ユニット5に接続できるようになっている。
これにより、細胞供給ユニット5と細胞収容ボックスBaとの間で無菌状態を維持したまま細胞のやり取りを行うことが可能となっている。
これと同様、上記資材供給ユニット6の一つの側面も上記壁面WAに当接しており、当該資材供給ユニット6の側面には接続口6aが形成されるとともに、当該接続口6aも図示しないシャッタによって開閉可能となっている。
そして、この資材供給ユニット6の外側面にも、接続口6aの周囲を囲繞する円筒部材からなる接続手段7が設けられ、当該接続手段7は上記壁面WAに開口した窓部から上記無菌作業室3内に位置させることが可能となっており、後に詳述するように資材収容ボックスBbが上記無菌作業室3内から当該接続手段7を介して資材供給ユニット6に接続できるようになっている。
これにより、資材供給ユニット6と資材収容ボックスBbとの間で無菌状態を維持したまま資材のやり取りを行うことが可能となっている。
【0012】
上記細胞収容ボックスBaや資材収容ボックスBbは開閉扉BDによって密閉可能な容器となっており、この第1実施例では上記細胞収容ボックスBaおよび資材収容ボックスBbとして同じ構成の収容ボックスBを使用するようになっている。
また、上記無菌作業室3には、これら収容ボックスBからなる細胞を収容する細胞収容ボックスBaおよび資材を収容する資材収容ボックスBbがそれぞれ複数台ずつ配置されており、これらは
図2の制御構成図で示すように、制御手段Cによって制御される自走式搬送手段11によって自動的に移動可能となっている。
このような細胞収容ボックスBaおよび資材収容ボックスBbは、これらが備える開閉扉BDの大きさが上記接続手段7を構成する円筒部材の内径より小さく、開閉扉BDの周囲に上記接続手段7の円筒部材が当接するように構成されている。
そして上記自走式搬送手段11が細胞収容ボックスBaおよび資材収容ボックスBbを移動させて、これら細胞収容ボックスBa、資材収容ボックスBbの開閉扉BDの周囲面を上記円筒部材に当接させることでこれらが接続状態となる。
この状態で上記細胞供給ユニット5や資材供給ユニット6の接続口5a、6aのシャッタを開放させるとともに、上記各収容ボックスB細胞収容ボックスBaや資材収容ボックスBbの開閉扉BDを開放させることで、各処理ユニットUと収容ボックスBの内部空間を連通させることが可能となる。
【0013】
上記無菌作業室3には、上記処理ユニットUとして播種処理を行う第1処理ユニット8と、上記継代・培地交換処理を行う第2処理ユニット9と、上記培養処理を行うインキュベータ10とが設けられている。
まず上記第1、第2処理ユニット8、9は、それぞれ内部が無菌状態に維持されたアイソレータと、当該アイソレータの内部に設けられたロボットなどの処理手段とによって構成されている。
上記アイソレータは内部を図示しない除染手段によって除染することが可能であり、図示しない無菌エア供給手段によって内部を陽圧に維持することによって無菌状態に維持することができるようになっている。
そして第1、2処理ユニット8、9には、上記細胞収容ボックスBaを接続するための細胞用接続口8a、9aと、上記資材収容ボックスBbを接続するための資材用接続口8b、9bとが形成されており、それぞれ図示しないシャッタによって開閉可能とされ、さらに上記細胞供給ユニット5および資材供給ユニット6の接続口5a、6aと同様に、各接続口8a、8b、9a、9bを囲繞する円筒部材からなる接続手段7が設けられている。
そして、上記細胞用接続口8a、9aには、上記細胞供給ユニット5の接続口5aと同様に上記接続手段7を介して細胞収容ボックスBaが接続可能となっており、また資材用接続口8b、9bには、上記資材供給ユニット6の接続口6aと同様に上記接続手段7を介して資材収容ボックスBbが接続可能となっている。
【0014】
上記第1、第2処理ユニット8、9の内部に設けられる処理手段としては、上記ロボットの他、ロボットに細胞や資材を受け渡す搬送手段や、培養容器に培養液を分注する分注手段や、細胞を含んだ細胞懸濁液を遠心分離する遠心分離手段等があり、そのほかにも必要な処理に応じて適当な手段を設けることができる。
特に上記搬送手段は、例えば上記細胞用接続口8a、9aや資材用接続口8b、9bに接続された細胞収容ボックスBaや資材収容ボックスBbとの間で、細胞や資材の出し入れも行うようになっている。
そしてこれらの処理の実行は、制御手段Cによって制御されるようになっており、あらかじめ設定されたプログラムに従って、細胞の培養作業に必要な動作を自動的に行うように構成されている。
【0015】
上記インキュベータ10は細胞を収容した培養容器を内部に収納し、図示しない環境維持手段によって内部環境を所定の温度、湿度に調節して、細胞の培養に適した環境に維持するようになっている。
インキュベータ10についても、上記第1、第2処理ユニット8、9の細胞用接続口8a、9aと同様の細胞用接続口10aが設けられ、当該細胞用接続口10aは図示しないシャッタによって開閉可能であるとともに、上述した接続手段7を介して上記細胞収容ボックスBaを接続可能となっている。
またインキュベータ10の内部には図示しない搬送手段が設けられており、搬送手段は細胞収容ボックスBaとの間で培養容器の出し入れを行い、培養容器をインキュベータ10内の所要の収納位置に移動させたり、培養の終了した培養容器を細胞収容ボックスBaに移載するようになっている。
【0016】
上記回収作業室4には、処理ユニットUとして細胞回収処理を行うための細胞回収ユニット14と、上記資材回収処理を行うための資材回収ユニット15とが設けられている。
これら細胞回収ユニット14および資材回収ユニット15は、上記資材供給ユニット6や細胞供給ユニット5と同様、従来公知のアイソレータとなっており、内部は除染可能で無菌状態に維持されるとともに、その側面には作業者が装着可能なグローブが設けられている。
上記細胞回収ユニット14の一つの側面は上記回収作業室4と無菌作業室3とを区画する壁面WBに当接しており、当該細胞回収ユニット14の側面には接続口14aが形成されるとともに、当該接続口14aは図示しないシャッタによって開閉可能となっている。
そしてこの細胞回収ユニット14の接続口14aについても、上記細胞供給ユニット5の接続口5aと同様に接続手段7を介して細胞収容ボックスBaが接続可能となっており、当該細胞回収ユニット14と上記細胞収容ボックスBaとの間で無菌状態を維持したまま細胞のやり取りを行うことが可能となっている。
これと同様、上記資材回収ユニット15の一つの側面も上記壁面WBに当接しており、当該資材回収ユニット15の側面には接続口15aが形成されるとともに、当該接続口15aは図示しないシャッタによって開閉可能となっている。
そして、この資材回収ユニット15の接続口15aについても、上記資材供給ユニット6の接続口6aと同様に接続手段7を介して資材収容ボックスBbが接続可能となっており、当該資材回収ユニット15と上記資材収容ボックスBbとの間で無菌状態を維持したまま資材のやり取りを行うことが可能となっている。
【0017】
次に、上記自走式搬送手段11について説明すると、上記自走式搬送手段11は複数台の搬送車11aと各搬送車11aの移動を制御するコントローラ11bから構成され、各細胞収容ボックスBaおよび資材収容ボックスBbは、それぞれ上記無菌作業室3内に自走可能に設けられた搬送車11aに支持された状態で移動するようになっている。
図2に示すように、すべての搬送車11aは無線により共通のコントローラ11bによって制御され、またコントローラ11bは制御手段Cに設けられた搬送指令手段Caによって移動を指示されるようになっている。
上記搬送指令手段Caは、上記無菌作業室3の内部に位置する全ての搬送車11aの位置を把握し、また各搬送車11aが細胞収容ボックスBaを移動させる細胞用として使用されているのか、もしくは資材収容ボックスBbを移動させる資材用として使用されているのかを認識している。
そして搬送指令手段Caは、予め設定されたプログラムに従って順次各搬送車11aの制御指令を上記コントローラ11bに送信し、上記コントローラ11bは指令に基づいて各搬送車11aの移動を制御するようになっている。
上記コントローラ11bは上記搬送指令手段Caからの制御指令を受け取ると、各搬送車11aを予め設定されている加速度、減速度(負の加速度)および搬送速度からなる走行パラメータに基づいて移動させるようになっている。
なお、本実施例においては、このような自走式搬送手段11をとして自律移動可能なAIV(Autonomous Intelligent Vehicle)を採用している。
【0018】
また上記無菌作業室3には、上記搬送車11aを充電するための充電ステーション12と、細胞収容ボックスBaおよび資材収容ボックスBbとしての収容ボックスBの内部を除染するための除染ステーション13とが設けられている。
上記充電ステーション12は、複数の搬送車11aに対して無線による給電を行う構成を有しており、上記搬送指令手段Caは各搬送車11aの充電状況を認識しながら、適当なタイミングで搬送車11aを充電ステーション12へと移動させ、充電させることが可能となっている。
上記除染ステーション13としては、上記各処理ユニットUと同様に接続手段7を介して上記複数の収容ボックスBを接続可能な構成を有し、各収容ボックスBの内部に過酸化水素蒸気等の除染媒体を供給し、内部空間の除染を行うようになっている。
【0019】
ここで、上記自走式搬送手段11によって細胞や資材を搬送する場合、搬送される細胞や資材には搬送車11aの走行に伴う振動や、加減速による慣性力が作用することとなる。
特に細胞については、振動や加減速によるショックが細胞にストレスを与える場合があり、また細胞を収容した培養容器は密封されていないため、振動や加減速によって培養容器から培養液がこぼれ出る恐れがある。
このため、細胞を収容した培養容器を搬送する際には、上記振動や加減速によるストレスや、培養液のこぼれ出しを防止するため、加速度、減速度を低くかつ搬送速度を低速に抑えて緩やかに移動させるよう制御する必要がある。
これに対し、培養作業に使用する資材については、各処理ユニットUに接続した際に搬送手段による出し入れが可能な程度に整列した状態が維持されるのであれば、資材を破損させない程度に加速度、減速度を高く、かつ細胞を収容した容器を搬送する際よりも高速に移動させるよう制御することが可能である。
【0020】
そこで本実施例では、上記自走式搬送手段11によって細胞や資材を搬送する際、細胞については細胞用の走行パラメータを用いて移動を制御し、資材については資材用の走行パラメータを用いて移動を制御するようになっている。
上記走行パラメータとしては、例えば搬送車11aを走行させる際の所定速度まで加速する加速度、また所定速度まで減速する減速度および搬送速度を設定することが可能であり、これらを変更することで搬送車11aの移動中の振動や慣性力をコントロールすることができる。
具体的には、上記細胞を収容した培養容器を収容した収容ボックスB(細胞収容ボックスBa)を支持する搬送車11aに対しては、上記細胞用の走行パラメータに基づく制御を行い、細胞へのストレスや培養液のこぼれ出しが生じない程度に緩やかな加速度、減速度および搬送速度が設定される。
一方、上記資材を収容した収容ボックスB(資材収容ボックスBb)を支持する搬送車11aに対しては、上記資材用の走行パラメータに基づく制御を行い、振動や慣性力により資材が転倒せず、また整列した状態が損なわれない程度に、上記細胞用の走行パラメータによる加速度、減速度より高くかつ高速な加速度、減速度および搬送速度を設定し、上記細胞用の走行パラメータを用いるより上記搬送車11を速やかに移動させる。
そして上記細胞用の走行パラメータおよび資材用の走行パラメータの具体的な値については、実際に細胞収容ボックスBaや資材収容ボックスBbに細胞を収容した培養容器や資材を収容した状態で搬送車11aを移動させて、最適な加速度、減速度および搬送速度を選定すればよい。
【0021】
ここで、上記細胞収容ボックスBaが空の場合は、上記搬送車11aを細胞用の走行パラメータを用いて走行させる必要性はなく、資材用の走行パラメータに基づく制御を行うことで、細胞収容ボックスBaの移動をさらに効率的に行うことができる。
それに加え本実施例では、上記細胞収容ボックスBaだけでなく資材収容ボックスBbも空となった場合のために、上記細胞用の走行パラメータや資材用の走行パラメータとは別に、資材用の走行パラメータよりもさらに加速度、減速度を高く、かつ搬送速度を高速に設定した回送用の走行パラメータを設定することで、上記資材用の走行パラメータを用いるより上記搬送車11を速やかに移動させてより一層の効率化を図っている。
また、これら加速度、減速度(負の加速度)および搬送速度の値に基づく加速および減速の異なるパターンからなる複数の走行パラメータを、制御手段Cの搬送指令手段Caにおける記憶領域に保存して備えておき、必要時に読み出すようにしている。
【0022】
上記細胞用、資材用および回送用の加速および減速の異なるパターンからなる複数の走行パラメータは、予め搬送指令手段Caから上記コントローラ11bへと個々の搬送車11aごとに送信されるようになっている。
上記搬送指令手段Caから制御指令が送信されると、コントローラ11bは該当する搬送車11aを設定されている走行パラメータを用いて、指令された時刻に指令された目的位置へと移動させるよう、指令された時間情報と位置情報に従って移動制御するようになっている。
そして、使用する走行パラメータは搬送指令手段Caの制御指令に応じて切換可能となっており、用途に応じて搬送車11aを緩やかにもしくは速やかにまたはより速やかに走行させるようになっている。
なお、搬送指令手段Caからコントローラ11bに送信する時間情報と位置情報からなる制御指令に、その都度今回使用する走行パラメータの情報を含めるようにしてもよい。また、走行パラメータとしては、本実施例では加速度、減速度と搬送速度を組み合わせて構成しているが、加速度、減速度からなるものであってもよく、搬送速度については時間情報や位置情報と合わせてその都度指令するようにしてもよい。
【0023】
以下、上記構成を有する細胞培養システム1を用いた上記培養作業の手順について説明する。
図1は培養作業中の状態を示しており、各処理ユニットUにそれぞれ収容ボックスBが接続されている状態を示しているが、作業開始時には細胞収容ボックスBaおよび資材収容ボックスBbは各処理ユニットUより離脱している。
また、すべての収容ボックスBについては、あらかじめ除染ステーション13において内部空間が除染され、また各搬送車11aは充電ステーション12において充電が完了している。
また、制御手段Cには、予め今回の培養作業のための各処理ユニットUの動作制御プログラム、およびそれに伴う搬送車11aの移動制御プログラムが設定されている。
【0024】
細胞培養システム1において培養作業を開始すると、上記制御手段Cに設定されている移動制御プログラムに従って搬送指令手段Caは、プログラムで指定された搬送車11aを上記準備作業室2と無菌作業室3との間の壁面WAにおける細胞供給ユニット5の接続口5aの位置まで移動させる。これにより当該搬送車11aに支持されている細胞収容ボックスBaが、接続手段7を介して上記接続口5aに接続される。
これと同様、上記移動制御プログラムに従って搬送指令手段Caは、プログラムで指定された搬送車11aを上記壁面WAにおける資材供給ユニット6の接続口6aの位置まで移動させる。これにより当該搬送車11aに支持されている資材収容ボックスBbが、接続手段7を介して上記接続口6aに接続される。
この際の各搬送車11aの移動においては、上記細胞収容ボックスBaと資材収容ボックスBbは何れも何も収容していない空の状態であることから、搬送指令手段Caは上記回送用の走行パラメータを用いて各搬送車11aを最も高速かつ速やかに移動させている。
【0025】
一方準備作業室2では、外部より培養すべき細胞が搬入されると、作業者は図示しないパスボックスを介して当該細胞を細胞供給ユニット5内に移動させる。
続いて作業者は細胞供給ユニット5を用いて、所要の容器に収容された細胞を上記第1処理ユニット8で処理可能な懸濁液の状態で遠沈管に収容させる作業を行う。
この作業が終了すると、作業者は上記接続口5aを介して細胞供給ユニット5に接続された細胞収容ボックスBa内に細胞を収容した遠沈管を移載し、その後接続口5aのシャッタおよび細胞収容ボックスBaの開閉扉BDを閉鎖させる。
制御手段Cは、シャッタや開閉扉BDの閉鎖もしくは作業者による作業終了の通知を受けると、当該細胞収容ボックスBaを支持している搬送車11aを第1処理ユニット8の細胞用接続口8aの位置へと移動させる。
この際、搬送指令手段Caは走行パラメータを回送用から細胞用に切り換え、当該細胞を収容した容器(遠沈管)を収容している細胞収容ボックスBaを支持する搬送車11aを上記細胞用の走行パラメータに基づいて移動させる。これにより細胞収容ボックスBaに収容されている細胞は、搬送車11aの緩やかな移動によりストレスを受けることがないようになっている。
【0026】
一方準備作業室2では、外部より培養作業に用いる資材が搬入され、例えば培養容器やピペット等が複数個ずつ梱包された状態で搬入される。
作業者は図示しないパスボックスを介して当該資材を資材供給ユニット6内に移動させ、当該資材供給ユニット6の内部で包装を開封して資材を取り出すとともに、上記第1処理ユニット8や第2処理ユニット9で行う処理で必要とされる数ごとに培養容器やピペットを仕分けする。
その後作業者は、第1処理ユニット8で使用する資材を上記接続口6aを介して資材供給ユニット6に接続された資材収容ボックスBbへと移載し、その際、各資材を資材収容ボックスBbの所定の位置に載置して、第1処理ユニット8において搬送手段が各資材を保持できるようにする。
資材収容ボックスBbへの資材の移載が完了すると、制御手段Cは当該資材収容ボックスBbを支持している搬送車11aを上記第1処理ユニット8の資材用接続口8bの位置へと移動させる。
この際、搬送指令手段Caは走行パラメータを回送用から資材用に切り換え、当該資材を収容している資材収容ボックスBbを支持する搬送車11aを上記資材用の走行パラメータに基づいて移動させる。これにより資材収容ボックスBbの内部において資材が転倒せず、また整理された資材が移動しない程度に、上記細胞を収容している細胞収容ボックスBaを支持する搬送車11aよりは速やかに移動するようになっている。
【0027】
次に、細胞収容ボックスBaが第1処理ユニット8の細胞用接続口8aに接続手段7を介して接続されると、図示しないシャッタおよび開閉扉BDが開放されて細胞収容ボックスBa内の細胞を収容した遠沈管が第1処理ユニット8へと搬入される。
これと同様、資材収容ボックスBbが第1処理ユニット8の資材用接続口8bに接続手段7を介して接続されると、図示しないシャッタおよび開閉扉BDが開放されて資材収容ボックスBb内の資材が第1処理ユニット8へと搬入される。
このようにして第1処理ユニット8に遠沈管や培養容器等が搬入されると、第1処理ユニット8では、制御手段Cによって制御されたロボットや搬送手段が、供給された細胞および資材を用いて自動的に細胞を培養容器に播種する処理を行う。
なお、資材収容ボックスBbによる資材の搬送作業は、別の資材収容ボックスBbを支持した搬送車11aにより、第1処理ユニット8に続いて第2処理ユニット9にも行う。
【0028】
この播種処理が終了すると細胞が播種された培養容器は、搬送手段によって第1処理ユニット8から細胞収容ボックスBaに移載され、また使用済みの資材は第1処理ユニット8から資材収容ボックスBbに移載される。
細胞収容ボックスBaおよび資材収容ボックスBbの開閉扉BDがそれぞれ閉鎖されると、制御手段Cは播種作業が完了したことを認識し、当該細胞が播種された培養容器を収容している細胞収容ボックスBaを支持する搬送車11aを、第1処理ユニット8から上記インキュベータ10の接続口10aの位置へと移動させる。
このとき、搬送指令手段Caは搬送車11aを細胞用の走行パラメータに基づいて移動させ、これにより細胞収容ボックスBaに収容されている細胞を収容した培養容器は緩やかに搬送され、細胞が受けるストレスは軽減され、培養容器から培養液がこぼれ出ることも防止されることとなる。
【0029】
上記第1処理ユニット8より離脱した細胞収容ボックスBaは、その後上記インキュベータ10に移動し、接続手段7を介して接続口10aに接続される。その後、シャッタおよび開閉扉BDが開放されて細胞収容ボックスBa内の細胞を収容した培養容器がインキュベータ10の内部へと搬入される。
インキュベータ10では培養容器内で細胞の培養が開始されるが、インキュベータ10での細胞の培養には所要の時間が必要となる。そこで培養容器がインキュベータ10へと移載されると、空になった細胞収容ボックスBaはインキュベータ10より離脱されるようになっている。
すなわち、制御手段Cは細胞収容ボックスBaの開閉扉BDが閉鎖されることで、搬送指令手段Caにより搬送車11aをインキュベータ10から移動させるが、搬送指令手段Caは走行パラメータを細胞用から回送用に切り換え、当該空の細胞収容ボックスBaを支持する搬送車11aを上記回送用の走行パラメータに基づいて移動させる。
搬送車11aは資材用の走行パラメータよりも高速に移動され、当該細胞収容ボックスBaは、上記除染ステーション13に移動して内部の除染が行われ、その後搬送車11aは必要に応じて充電ステーション12に移動して充電が行われ、待機状態となる。
【0030】
一方、第1処理ユニット8において使用した使用済みの資材が資材収容ボックスBbに収容されて開閉扉BDが閉鎖されると、搬送指令手段Caは当該資材収容ボックスBbを支持している搬送車11aを、上記回収作業室4の資材回収ユニット15の接続口15aの位置へと移動する。その後、資材回収ユニット15の接続口15aに接続手段7を介して資材収容ボックスBbが接続される。
このとき、コントローラ11bは当該搬送車11aに対して、引き続き設定されている資材用の走行パラメータに基づいて移動を制御しており、これにより搬送車11aは細胞用の走行パラメータに基づく移動よりも速やかに移動することが可能となっている。
資材回収ユニット15では、作業者が資材収容ボックスBbの開閉扉BDを開放すると、当該資材収容ボックスBb内の使用済みの資材を資材回収ユニット15の内部へと移載させ、所要の手順に従ってこれらの廃棄処理を行う。
そして資材収容ボックスBbが空になると、搬送指示手段Caは、当該空の資材収容ボックスBbを支持している搬送車11aを、上記除染ステーション13へと移動させるが、この際、走行パラメータを回送用に切り換え、それまでの資材用より速やかに移動させる。除染ステーション13では、当該空の資材収容ボックスBbの内部の除染が行われる。
除染が終了すると搬送指示手段Caは、必要に応じて充電ステーション12に当該搬送車11aを移動させて充電を行い、当該搬送車11aは待機状態となる。
【0031】
上記インキュベータ10において細胞が所定時間にわたって培養されると、当該細胞には、複数の培養容器に分ける継代処理や、培養容器中の培養液を交換する培地交換処理が行われる。
ここでは継代処理について説明すると、インキュベータ10に細胞を収容した培養容器を収納してから所定時間が経過すると、制御手段Cは空の収容ボックスBを支持している指定された搬送車11aをインキュベータ10まで移動させる。この際、搬送指示手段Caは、回送用の走行パラメータに基づいて移動を制御するようコントローラCbに制御指令を送信する。
上記空の収容ボックスBは細胞収容ボックスBaとしてインキュベータ10の接続口10aに接続され、培養された細胞を収容している培養容器が当該細胞収容ボックスBaに収容されて開閉扉BDが閉鎖されると、搬送指令手段Caは当該細胞収容ボックスBaを支持している搬送車11aを、回送用から細胞用に走行パラメータを切り換えて、第2処理ユニット9の細胞用接続口9aの位置へと移動させる。
【0032】
このようにして細胞収容ボックスBaが第2処理ユニット9の細胞用接続口9aに接続されると、制御手段Cは第2処理ユニット9の搬送手段やロボット等の動作を制御し、最初に培養容器内の細胞の数を計測する。
制御手段Cは、計測した細胞の数に応じて継代する培養容器の個数を自動的に判断し、上記ロボット等を制御して当該個数の培養容器に対して細胞の継代作業を行う。
【0033】
この継代作業が終了すると、継代により細胞が播種された培養容器は、第2処理ユニット9から細胞収容ボックスBaに移載され、また使用済みの資材は第2処理ユニット9から資材収容ボックスBbに移載される。
上記第1処理ユニット8における播種作業の場合と同様にして、継代作業が終了すると、制御手段Cは細胞が播種された培養容器を収容している細胞収容ボックスBaを支持している搬送車11aを、細胞用の走行パラメータに基づく移動制御により上記インキュベータ10の接続口10aの位置へと移動させ、上述した手順と同様に接続手段7を介して細胞収容ボックスBaを接続させて、培養容器をインキュベータ10に移載させて所定時間にわたり培養を行う。
【0034】
上記第2処理ユニット9での継代処理が終了すると、継代処理に使用した使用済みの資材は、第1処理ユニット8における使用済み資材と同様にして、第2処理ユニット9から資材収容ボックスBbに移載され、資材用の走行パラメータに基づく搬送車11aの移動により上記資材回収ユニット15へと搬送されて回収処理される。
最後に、インキュベータ10において所定の培養時間が経過した培養済みの全ての培養容器は、上記細胞回収ユニット14に搬送されて回収処理される。この際の培養容器の搬送は、先に行ったインキュベータ10から第2処理ユニット9への搬送と同様に、細胞用の走行パラメータに基づく搬送車11aの移動により行われる。
培養後の培養容器を収容した細胞収容ボックスBaが細胞回収ユニット14に移動されると、接続口14aに細胞収容ボックスBaが接続され、作業者が細胞収容ボックスBaから培養容器を取り出して回収処理を行った後、回収作業室4の外部へ搬出する。
【0035】
上記構成を有する細胞培養システム1の場合、例えば第2処理ユニット9での継代処理では、培養された細胞の数に応じて継代する培養容器の数が変動するため、処理に要する時間が変動することとなる。
各収容ボックスBを搬送する搬送車11aは、各処理ユニットU間の搬送経路毎に専用で準備することもできるが、そうすると多数の搬送車11aを準備しなければならず不経済なため、本実施例では、最小限の台数の搬送車11aとして搬送を終えた搬送車11aを別の搬送経路で使用するようにして、搬送車11aをやり繰りするように制御手段Cにてプログラムを設定している。
特に、搬送車11aは走行パラメータを切り換えることで、細胞搬送用にも、資材搬送用にも使用することができるので、状況に応じて使い分けることで搬送車11aの必要台数を削減することができる。
そして、上記第2処理ユニット9における継代作業のように、処理に要する時間が変動する場合は、その後の予定を変更して制御手段Cにおいて改めてプログラムを再設定するようにしている。
また、自走式搬送手段11を使用して搬送を自動化することで、無菌作業室3の無人化を図ることが可能であり、作業に従事する作業者の削減のみならず、環境の無菌性や清浄性の維持が可能となる。
さらに自走式搬送手段としてAIVを採用しているので、無菌作業室3に搬送車11aの移動経路を設定する必要がなく、無菌作業室3内におけるガイドの敷設やセンサの設置が不要であり、本発明にかかる構成を既存の施設に設置することも容易である。
【0036】
図3は第2実施例にかかる細胞培養システム1の構成図を示したものとなっている。以下の説明では、上記第1実施例と異なる構成について説明するものとして、それ以外の説明は第1実施例と共通するものとして省略する。
第2実施例では、収容ボックスBとして上記細胞を収容する細胞収容ボックスBaと、資材を収容する資材収容ボックスBbとは異なる構成を有しており、具体的には細胞収容ボックスBaはそれ自体がインキュベータとしての機能を有したものとなっている。
また本実施例の無菌作業室3には、第1実施例におけるインキュベータ10に代えて、培養ステーション21が設けられている。
この培養ステーション21では、インキュベータとして構成された細胞収容ボックスBaが接続されることで、培養に必要な電力やガス等の供給が行われるようになっている。
つまり本実施例の培養ステーション21では、細胞収容ボックスBaの開閉扉BDは閉鎖したままの状態で細胞収容ボックスBaが所定時間静置されることにより、当該細胞収容ボックスBaの内部で細胞が培養されるようになっている。
【0037】
このように構成される第2実施例においては、上記培養ステーション21に細胞収容ボックスBaを移動させて接続することで培養が行われるものであるが、収容ボックスBは細胞用として専用となり、それを支持する搬送車11aも細胞用として専用となって、培養中は培養ステーション21から移動させることはできなくなる。
そのため、必要となる搬送車11aの台数は、第1実施例の場合よりも多くなるが、走行パラメータを切り換えて細胞用と資材用で転用することはないので、プログラムや制御は簡単になる。
なお、培養ステーション21で搬送車11aから細胞収容ボックスBaを離脱させて、搬送車11aを別の処理の搬送に利用することも可能で、この場合には、除染ステーション13に空きの細胞収容ボックスBaや資材収容ボックスBbをストックしておき、何も支持をしていない搬送車11aに支持させるようにする。
【0038】
次に、第3実施例にかかる細胞培養システム1について説明する。以下の説明では、上記第1実施例と異なる構成について説明するものとして、それ以外の説明は第1実施例と共通するものとして省略する。
この第3実施例では、第1実施例と同様に、収容ボックスBとして上記細胞を収容する細胞収容ボックスBaと、資材を収容する資材収容ボックスBbは同一の構成を有しており、具体的には、HEPAフィルタのような清浄化フィルタを介して外気が流入可能に構成された収容ボックスBを使用するようになっている。
この収容ボックスBを用いた場合は、細胞収容ボックスBaとして細胞を収容した培養容器を収容すると、細胞収容ボックスBaごとインキュベータ10に収納させて細胞を培養することが可能となるものであり、搬送車11aが細胞収容ボックスBaを支持してインキュベータ10に移動させると、インキュベータ10に備えられた搬送手段で細胞収容ボックスBaごと細胞を収容した培養容器をインキュベータ10の内部に搬入するようになっている。
この実施例では、細胞収容ボックスBaをインキュベータ10に搬入させた後、当該細胞収容ボックスBaを搬送してきた搬送車11aは、除染ステーション13にストックされた別の細胞収容ボックスBaまたは資材収容ボックスBbを支持して、他の処理ユニットUに対する搬送作業を行うようにしている。
なお、本第3実施例では収容ボックスBは細胞用と資材用で共用しているが、細胞用にのみ清浄化フィルタを設けて第2実施例のように専用化することもできる。
【0039】
さらに、第4実施例にかかる細胞培養システム1について説明する。以下の説明では、上記第1~3実施例と異なる構成について説明するものとして、それ以外の説明は第1~3実施例と共通するものとして省略する。
この第4実施例は、処理ユニットUに細胞と資材とを同時に供給するための搬送について想定したものであって、細胞と資材とを収容可能な共通の収容ボックスBを使用し、一つの収容ボックスBに細胞と資材を収容して同時に搬送するようにしている。
すなわち、上記搬送車11aを細胞供給ユニット5および資材供給ユニット6に順次移動させて収容ボックスBを接続させ、細胞(細胞懸濁液を収容した遠沈管)と各種資材をそれぞれ収容ボックスBに収容させる。
その後、上記搬送車11aを第1処理ユニット8の細胞用接続口8aおよび資材用接続口8bに順次移動させて収容ボックスBを接続させ、収容している細胞と資材を順次第1処理ユニット8に搬入させる。
この際、上記搬送車11aは、収容ボックスBに資材のみを収容しているときは資材用のパラメータに基づく制御により移動させ、細胞と資材または細胞のみを収容しているときは、細胞用のパラメータに基づく制御により移動させるようにしている。
この第4実施例のように細胞用と資材用で共通の収容ボックスBを用いる場合にあっては、細胞供給ユニット5および資材供給ユニット6を共通の処理ユニットUとし、さらに第1処理ユニット8および第2処理ユニット9において、細胞用接続口8a、9aと資材用接続口8b、9bとを、共通の接続口として、各処理ユニットUにおいて共通の接続口で細胞と資材を出し入れすることも可能である。
【0040】
なお、上記実施例では無菌作業室3に処理ユニットUとして第1、第2処理ユニット8、9を設けて、上述したような培養作業を行っているが、さらに多くの処理ユニットUを設けて、培養作業をさらに細分化して分業化することも可能であり、例えば遺伝子操作等の作業を行うための処理ユニットUを設けてもよい。
具体的には、例えば第2処理ユニット9を複数台設けて、上記継代処理や培地交換処理を複数台の第2処理ユニット9で並行して処理するようにしてもよく、さらにその他の処理を行うように構成された第3、第4の処理ユニットUを設けてもよい。
【符号の説明】
【0041】
1 細胞培養システム 2 準備作業室
3 無菌作業室 4 回収作業室
5 細胞供給ユニット 6 資材供給ユニット
7 接続手段 8 第1処理ユニット
9 第2処理ユニット 8a、9a 細胞用接続口
8b、9b 資材用接続口 10 インキュベータ
11 自走式搬送手段 11a 搬送車
11b コントローラ 14 細胞回収ユニット
15 資材回収ユニット U 処理ユニット
B 収容ボックス Ba 細胞収容ボックス
Bb 資材収容ボックス C 制御手段
Ca 搬送指令手段