(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】環境調整システム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/01 20060101AFI20241218BHJP
A61B 5/16 20060101ALI20241218BHJP
G06N 20/00 20190101ALI20241218BHJP
F24F 11/63 20180101ALI20241218BHJP
【FI】
A61B5/01 250
A61B5/16 130
G06N20/00 130
F24F11/63
(21)【出願番号】P 2020088163
(22)【出願日】2020-05-20
【審査請求日】2023-01-13
(31)【優先権主張番号】P 2019126815
(32)【優先日】2019-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019126816
(32)【優先日】2019-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】西川 祐希
(72)【発明者】
【氏名】橋本 哲
(72)【発明者】
【氏名】堀 翔太
(72)【発明者】
【氏名】内山 彰
(72)【発明者】
【氏名】東野 輝夫
【審査官】永田 浩司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/102868(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/100664(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/01
A61B 5/16
G06N 20/00
F24F 11/63
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
学習モデルを用いて、就寝者の睡眠の質を推定する推定装置(50)と、
環境調整装置(60)と、
を備え、
前記学習モデルは、前記就寝者の前記睡眠の質を学習する学習装置(30)の学習の結果に基づき生成され、
前記学習装置は、
前記就寝者の深部体温に関する特徴量、又は、前記就寝者の皮膚温度に関する特徴量、を状態変数として取得する取得部(31)と、
前記状態変数、および、前記睡眠の質を関連付けて学習する学習部(32)と、
前記学習部(32)の学習の結果に基づき、前記深部体温に関する特徴量、又は、前記皮膚温度に関する特徴量を入力として、前記就寝者の前記睡眠の質を推定する、前記学習モデルを生成する生成部と、
を有し、
前記深部体温に関する特徴量は、少なくとも前記就寝者が入眠するときの第1深部体温に基づいて決められ、
前記皮膚温度に関する特徴量は、少なくとも前記就寝者が入眠するときの第1皮膚温度に基づいて決められ、
前記環境調整装置は、前記就寝者の周囲の環境を調整するアクチュエータ(63)と、前記アクチュエータ(63)の動作を制御する制御部(61)と、を有し、
前記制御部(61)は、前記推定装置(50)が推定した前記就寝者の前記睡眠の質に基づいて、前記アクチュエータ(63)の動作を制御し、
前記睡眠の質が低下すると予測された場合には、前記睡眠の質が向上するように、前記就寝者の周囲の温度を低下させる、または、前記就寝者の周囲の気流を強める環境調整を行う、
環境調整システム(3)。
【請求項2】
前記深部体温に関する特徴量は、さらに、前記第1深部体温よりも前に取得された第2深部体温に基づいて決められ、
前記皮膚温度に関する特徴量は、さらに、前記第1皮膚温度よりも前に取得された第2皮膚温度に基づいて決められる、
請求項1に記載の環境調整システム(3)。
【請求項3】
前記取得部(31)は、さらに、前記就寝者の平常時の前記深部体温に関する特徴量、又は、前記就寝者の平常時の前記皮膚温度に関する特徴量を取得する、
請求項1または2に記載の環境調整システム(3)。
【請求項4】
前記取得部(31)は、前記就寝者の入眠するときの周囲温度、前記就寝者の指尖血流量、又は、前記就寝者のRGB画像を状態変数として取得する、
請求項1から3のいずれかに記載の環境調整システム(3)。
【請求項5】
前記学習部が学習する前記睡眠の質は、前記就寝者が入床してから入眠するまでの時間、前記就寝者の深睡眠率、前記就寝者の中途覚醒の回数、前記就寝者の中途覚醒の時間、前記就寝者に対して実施される睡眠の質に関するアンケート、前記就寝者に対して実施される日中のパフォーマンスに関するアンケート、前記就寝者のホルモンの分泌量、及び、前記就寝者のホルモンの濃度、の少なくともいずれか一つに基づいて決められる、
請求項1から4のいずれかに記載の環境調整システム(3)。
【請求項6】
前記深部体温に関する特徴量は、所定期間における前記就寝者の前記深部体温の変化量、最大値、最小値、最頻値、平均値、最大値と最小値との差、最大または最小の傾き、平均の傾き、及び、変化に関する指標、の少なくともいずれか一つに基づいて決められる、
請求項1から5のいずれかに記載の環境調整システム(3)。
【請求項7】
前記皮膚温度に関する特徴量は、所定期間における前記就寝者の前記皮膚温度の変化量、最大値、最小値、最頻値、平均値、最大値と最小値との差、最大または最小の傾き、平均の傾き、及び、変化に関する指標、の少なくともいずれか一つに基づいて決められる、
請求項1から6のいずれかに記載の環境調整システム(3)。
【請求項8】
前記取得部(31)は、さらに、前記状態変数として前記就寝者が入眠するときの前記就寝者の周囲の湿度、照度、色度、香り、気流のいずれかを取得する、
請求項1から7のいずれかに記載の環境調整システム(3)。
【請求項9】
前記学習部(32)は、複数の教師データを用いて学習し、
前記教師データは、前記状態変数および前記睡眠の質を含む、
請求項1から8のいずれかに記載の環境調整システム(3)。
【請求項10】
深部体温特徴量推定部(53)をさらに備え、
前記深部体温特徴量推定部は、前記就寝者の皮膚温度に関する特徴量から前記就寝者の深部体温に関する特徴量を推定する、
請求項1に記載の環境調整システム(3)。
【請求項11】
前記深部体温特徴量推定部(53)は、
前記就寝者の前記皮膚温度に関する特徴量と関連付けて前記就寝者の前記深部体温に関する特徴量を学習した学習モデルの学習結果に基づき、前記就寝者の前記皮膚温度に関する特徴量を入力として、前記就寝者の前記深部体温に関する特徴量を推定し、
前記就寝者の前記皮膚温度に関する特徴量は、少なくとも前記就寝者が入眠するときの第1皮膚温度に基づいて決められ、
前記就寝者の前記深部体温に関する特徴量は、少なくとも前記就寝者が入眠するときの第1深部体温に基づいて決められる、
請求項10に記載の環境調整システム(3)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
学習装置、推定装置、及び、環境調整システムに関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1(〈論文〉睡眠前の体温変動が入眠に及ぼす影響(一般))には、深部体温が睡眠に影響を及ぼすことが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
深部体温が睡眠に影響を及ぼすことを踏まえて、就寝者の睡眠の状態を精度良く推定する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
第1観点の学習装置は、就寝者の睡眠の質を学習する。学習装置は、取得部と、学習部と、生成部と、を備える。取得部は、状態変数を取得する。状態変数は、就寝者の深部体温に関する特徴量又は、就寝者の皮膚温度に関する特徴量、である。深部体温に関する特徴量は、少なくとも就寝者が入眠するときの第1深部体温に基づいて決められる。皮膚温度に関する特徴量は、少なくとも就寝者が入眠するときの第1皮膚温度に基づいて決められる。学習部は、状態変数、および、睡眠の質、を関連付けて学習する。生成部は、学習部の学習の結果に基づき学習モデルを生成する。学習モデルは、少なくとも深部体温に関する特徴量、又は、就寝者の皮膚温度に関する特徴量を入力として、睡眠の質を出力する。
【0005】
これによって、学習装置は、深部体温を用いて就寝者の睡眠の状態としての睡眠の質を精度良く推定することが可能な学習モデルを生成する。
【0006】
第2観点の学習装置は、第1観点の学習装置であって、深部体温に関する特徴量は、さらに、第1深部体温よりも前に取得された第2深部体温に基づいて決められる。皮膚温度に関する特徴量は、さらに、第1皮膚温度よりも前に取得された第2皮膚温度に基づいて決められる。
【0007】
これによって、より精度の良い学習の結果を得ることができる。
【0008】
第3観点の学習装置は、第1観点又は第2観点の学習装置であって、取得部は、さらに、就寝者の平常時の深部体温に関する特徴量、又は、就寝者の平常時の皮膚温度に関する特徴量を取得する。
【0009】
これによって、より精度の良い学習の結果を得ることができる。
【0010】
第4観点の学習装置は、第1観点から第3観点のいずれかの学習装置であって、取得部は、就寝者の入眠するときの周囲温度、就寝者の指尖血流量、又は、就寝者のRGB画像を状態変数として取得する。
【0011】
これによって、より精度の良い学習の結果を得ることができる。
【0012】
第5観点の学習装置は、第1観点から第4観点のいずれかの学習装置であって、睡眠の質は、就寝者が入床してから入眠するまでの時間、就寝者の深睡眠率、就寝者の中途覚醒の回数、就寝者の中途覚醒の時間、就寝者に対して実施される睡眠の質に関するアンケート、就寝者に対して実施される日中のパフォーマンスに関するアンケート、就寝者のホルモンの分泌量、及び、就寝者のホルモンの濃度、の少なくともいずれか一つに基づいて決められる。
【0013】
第6観点の学習装置は、第1観点から第5観点のいずれかの学習装置であって、深部体温に関する特徴量は、所定期間における就寝者の深部体温の変化量、最大値、最小値、最頻値、平均値、最大値と最小値との差、最大または最小の傾き、平均の傾き、及び、変化に関する指標、の少なくともいずれか一つに基づいて決められる。
【0014】
第7観点の学習装置は、第1観点から第6観点のいずれかの学習装置であって、皮膚温度に関する特徴量は、所定期間における就寝者の皮膚温度の変化量、最大値、最小値、最頻値、平均値、最大値と最小値との差、最大または最小の傾き、平均の傾き、及び、変化に関する指標、の少なくともいずれか一つに基づいて決められる。
【0015】
第8観点の学習装置は、第1観点から第7観点のいずれかの学習装置であって、取得部は、さらに、状態変数として就寝者が入眠するときの就寝者の周囲の湿度、照度、色度、香り、気流のいずれかを取得する。
【0016】
これによって、より精度の良い学習の結果を得ることができる。
【0017】
第9観点の学習装置は、第1観点から第8観点のいずれかの学習装置であって、学習部は、複数の教師データを用いて学習する。教師データは、状態変数および睡眠の質を含む。
【0018】
第10観点の推定装置は、第1観点から第9観点のいずれかの学習装置の学習の結果に基づき生成された学習モデルを用いて、睡眠の質を推定する。
【0019】
これによって、推定装置において精度の良い睡眠の質を推定することが可能である。
【0020】
第11観点の推定装置は、第10観点の推定装置であって、深部体温特徴量推定部をさらに備える。深部体温特徴量推定部は、皮膚温度に関する特徴量から就寝者の深部体温に関する特徴量を推定する。
【0021】
これによって、推定装置は、深部体温を測定することによる就寝者の負担を軽減することが可能である。
【0022】
第12観点の推定装置は、第10観点の推定装置であって、深部体温特徴量推定部は、就寝者の皮膚温度に関する特徴量と関連付けて就寝者の深部体温に関する特徴量を学習した学習モデルの学習結果に基づき、就寝者の前記皮膚温度に関する特徴量を入力として、就寝者の深部体温に関する特徴量を推定する。就寝者の前記皮膚温度に関する特徴量は、少なくとも就寝者が入眠するときの第1皮膚温度に基づいて決められる。就寝者の深部体温に関する特徴量は、少なくとも就寝者が入眠するときの第1深部体温に基づいて決められる。
【0023】
第13観点の環境調整システムは、第10観点から第12観点のいずれかの推定装置と、環境調整装置と、を備える。環境調整装置は、アクチュエータと、制御部と、を有す。アクチュエータは、就寝者の周囲の環境を調整する。制御部は、推定装置が推定した就寝者の睡眠の質に基づいて、アクチュエータの動作を制御する
これによって、環境調整システムは、就寝者の周囲の環境を調整し、就寝者の睡眠の質を向上させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】学習システムと推定システムの一例を示す図である。
【
図3】推定システム及び環境調整システム3の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<第1実施形態>
(1)概要
図1は、第1実施形態に係る学習システム1、推定システム2、及び環境調整システム3の一例を示す図である。学習システム1は、各種データを取得し、取得したデータに基づいて学習し、学習した結果に基づいて学習済みの学習モデルを生成する。推定システム2は、各種データを取得し、学習システム1において生成された学習済みの学習モデルを用いて就寝者の睡眠の質を推定する。環境調整システム3は、推定システム2が推定した就寝者の睡眠の質に基づいて、就寝者の周囲の環境を調整する。
以下、学習システム1、推定システム2、及び環境調整システム3の詳細について説明する。
【0026】
(2)学習システム1
図2は、第1実施形態に係る学習システム1の一例を示す模式図である。学習システム1は、主に、データ取得装置10、教師データ生成装置20、及び、学習装置30を有している。各装置は、インターネット等のネットワークを介して通信可能である。
【0027】
(2―1)データ取得装置10
データ取得装置10は、例えば、就寝者の周囲の温度のデータを取得する第1取得装置11と、就寝者の皮膚温度のデータを取得する第2取得装置12と、就寝者の深部体温のデータを取得する第3取得装置13と、就寝者の睡眠の質のデータを取得する第4取得装置14と、を含む。なお、第1実施形態において、第1取得装置11、第2取得装置12、及び第3取得装置13は、それぞれ就寝者が就床する30分前から就寝者が覚醒するまで常時データの取得を行うが、データは所定の時間間隔において取得されてもよいし、任意のタイミングにおいて取得されてもよい。また、第4取得装置14は、第1実施形態においては就寝者が覚醒した後においてデータの取得を行う。第1取得装置11、第2取得装置12、第3取得装置13、及び第4取得装置14において取得されたデータには、それぞれデータを取得した時間の情報が紐付けられている。
【0028】
第1取得装置11、第2取得装置12、第3取得装置13、及び第4取得装置14において取得されたデータは、それぞれネットワークを介して教師データ生成装置20に送信される。なお、第1取得装置11、第2取得装置12、第3取得装置13、及び第4取得装置14は、取得したデータのうち教師データ生成装置20の要求に応じた一部のデータのみを教師データ生成装置20に送信してもよい。
【0029】
(2-1-1)第1取得装置11
第1取得装置11は、温度センサ、サーモグラフィ等の装置、又は、それらを含む装置である。例えば、第1取得装置11は、温度センサを含む空気調和装置であってもよい。第1取得装置11は特に限定されるものではないが、少なくとも、就寝者の周囲の温度のデータを取得することが可能な装置である。
【0030】
(2-1-2)第2取得装置12
第2取得装置12は、皮膚温度センサ等の装置、又は、皮膚温度センサ等を含む装置である。例えば、第2取得装置12は、皮膚温度センサを含むウエアラブルセンサであってもよい。第2取得装置12は特に限定されるものではないが、少なくとも、就寝者の皮膚温度のデータを取得することが可能な装置である。
【0031】
(2-1-3)第3取得装置13
第3取得装置13は、深部体温センサ等の装置、又は、深部体温センサ等を含む装置である。例えば、第3取得装置13は、鼓膜温度計であってもよい。第3取得装置13は特に限定されるものではないが、少なくとも、就寝者の深部体温のデータを取得することが可能な装置である。
【0032】
(2-1-4)第4取得装置14
第4取得装置14は、就寝者の睡眠の質を取得するための装置である。第1実施形態において、睡眠の質は、就寝者に対して実施される睡眠の質や日中のパフォーマンスに関するアンケートに基づいて決められる。睡眠の質や日中のパフォーマンスに関するアンケートは、例えば、OSA睡眠調査票MA版(OSA sleep inventory MA version)である。第4取得装置14は、例えば、モバイル端末等であってもよい。第4取得装置14としてのモバイル端末は、例えば、就寝者が覚醒後にモバイル端末を介してOSA睡眠調査票MA版を行うことによって、睡眠に関するデータを取得する。なお、第4取得装置14は、モバイル端末に限定されるものではなく、就寝者がOSA睡眠調査票MA版を行った結果等を取得することが可能な装置であればよい。
【0033】
(2-2)教師データ生成装置20
教師データ生成装置20は、CPU(Central Processing Unit)、メモリ、ストレージ、入出力インターフェース、通信インターフェース、入力装置、表示装置、および、データバス等の周知のハードウェア構成を備え、周知のオペレーションシステム等がインストールされ、さらに、サーバの機能を有したコンピュータでであってもよい。また、必要に応じてGPU(Graphics Processing Unit)を設けるようにしてもよい。あるいは、1つまたは複数のコンピュータを用いて提供される仮想化された仮想サーバであってもよい。なお、本開示における教師データ生成装置20は、大容量のメモリを有していることが好ましい。
【0034】
教師データ生成装置20は、データ取得部21と、特徴量抽出部22と、教師データ生成部23と、取得データ記憶部24と、教師データ記憶部25と、を有している。
【0035】
(2-2-1)データ取得部21
データ取得部21は、データ取得装置10において取得された各種データを、ネットワークを介して受信することによって取得する処理を行う。データ取得部21が取得した各種データは、それぞれ取得データ記憶部24に記憶される。なお、取得データ記憶部24に記憶された各種データには、データ取得装置10においてそれぞれのデータが取得された時間の情報が紐付けられている。
【0036】
第1実施形態において、データ取得部21は、第1取得装置11から第1周囲温度及び第2周囲温度のデータ、第2取得装置12から第1皮膚温度及び第2皮膚温度のデータ、第3取得装置13から第1深部体温及び第2深部体温のデータ、第4取得装置14から睡眠の質のデータを取得する。以下にそれぞれのデータについて説明する。なお、以下の説明において、就寝者が入眠するときとは、センサ等を用いて就寝者が入眠したことを測定し、就寝者が入眠したタイミングにおいて取得することが好ましいが、これに限られない。就寝者が入眠するときとは、少なくとも就寝者が就床した後のタイミングであって、例えば、就寝者が就床してから所定の時間が経過した後のタイミングであってもよい。第1実施形態において就寝者が入眠したときとは、就寝者が入床してから30分が経過した後であるが、これに限定されるものではない。
【0037】
(2-2-1-1)第1周囲温度及び第2周囲温度のデータ
第1周囲温度は、就寝者が入眠するときの就寝者の周囲の温度である。第2周囲温度は、第1周囲温度よりも前のタイミングに取得された就寝者の周囲の温度である。第2周囲温度のデータは、少なくとも、就寝者が就床する前のタイミングにおいて取得される。例えば、第2周囲温度のデータは、就寝者が就床する任意の時間前に取得されたデータであってもよい。第1実施形態においては、第2周囲温度のデータは、就寝者が就床する30分前の就寝者の周囲の温度のデータであるがこれに限定されるものではない。
【0038】
(2-2-1-2)第1皮膚温度及び第2皮膚温度のデータ
第1皮膚温度は、就寝者が入眠するときの皮膚温度である。
【0039】
第2皮膚温度は、第1皮膚温度よりも前のタイミングに取得された就寝者の皮膚温度である。第2皮膚温度のデータは、就寝者が就床する前のタイミングにおいて取得されることが好ましい。例えば、第2皮膚温度のデータは、就寝者が就床する任意の時間前に取得されたデータであることが好ましい。第1実施形態において第2皮膚温度のデータは、就寝者が就床する30分前の就寝者の皮膚温度のデータであるがこれに限定されるものではない。
【0040】
(2-2-1-3)第1深部体温及び第2深部体温のデータ
第1深部体温は、就寝者が入眠するときの深部体温である。第2深部体温は、第1深部体温よりも前のタイミングに取得された就寝者の深部体温である。第2深部体温のデータは、就寝者が就床する前のタイミングにおいて取得されることが好ましい。例えば、第2深部体温のデータは、就寝者が就床する任意の時間前に取得されたデータであることが好ましい。第1実施形態において第2深部体温のデータは、就寝者が就床する30分前の就寝者の深部体温のデータであるがこれに限定されるものではない。
【0041】
(2-2-1-4)睡眠の質のデータ
睡眠の質は、上述したようにOSA睡眠調査票MA版に基づいて決められる。睡眠の質のデータは、就寝者が起床後にOSA睡眠調査票MA版を実施した後のタイミングにおいて取得される。
【0042】
(2-2-2)特徴量抽出部22
特徴量抽出部22は、取得データ記憶部24に記憶された、第1皮膚温度及び第2皮膚温度のデータ、及び、第1深部体温及び第2深部体温のデータから、それぞれ皮膚温度特徴量及び深部体温特徴量を抽出する処理を行う。特徴量抽出部22において抽出された皮膚温度特徴量及び深部体温特徴量は、取得データ記憶部24に記憶される。以下に皮膚温度特徴量及び深部体温特徴量について説明する。
【0043】
(2-2-2―1)皮膚温度特徴量
皮膚温度特徴量は、就寝者の皮膚温度に関する特徴量であって、第1皮膚温度及び第2皮膚温度のデータから抽出される。具体的に、皮膚温度特徴量は、第1皮膚温度及び第2皮膚温度の変化値、最大値、最小値、最頻値、平均値、最大値と最小値との差、最大または最小の傾き、平均の傾き、及び、変化に関する指標、のいずれかに基づいて決められた特徴量である。変化に関する指標とは、例えば、皮膚温度と相関する深部体温の傾きといった、変化傾向を示す指標である。なお、第1皮膚温度及び第2皮膚温度のデータから皮膚温度特徴量を抽出する手法は特に限定されないが、フィルタ法、ラッパー法、組み込み法、等を用いて特徴選択を行い、有用な特徴量を選択することが好ましい。また、交互作用特徴量を用いてもよい。
【0044】
(2-2-2―2)深部体温特徴量
深部体温特徴量は、就寝者の深部体温に関する特徴量であって、第1深部体温及び第2深部体温のデータから抽出される。具体的に、深部体温特徴量は、第1深部体温及び第2深部体温の変化値、最大値、最小値、最頻値、平均値、最大値と最小値との差、最大または最小の傾き、平均の傾き、及び、変化に関する指標、のいずれかに基づいて決められた特徴量である。変化に関する指標とは、例えば、深部体温と相関する皮膚温度の傾きといった、変化傾向を示す指標である。第1深部体温及び第2深部体温のデータから深部体温特徴量を抽出する手法は特に限定されないが、フィルタ法、ラッパー法、組み込み法、等を用いて特徴選択を行い、有用な特徴量を選択することが好ましい。また、交互作用特徴量を用いてもよい。
【0045】
(2-2-3)教師データ生成部23
教師データ生成部23は、取得データ記憶部24から状態変数及び正解データを抽出し教師データ(教師データセット)を生成する。教師データは、学習装置30が睡眠の質を学習するためのデータセットである。第1実施形態においては、教師データとして、第1周囲温度、第2周囲温度、皮膚温度特徴量、深部体温特徴量、及び睡眠の質のデータを用いる。
【0046】
具体的に、教師データ生成部23は、まず、取得データ記憶部24から第1周囲温度、第2周囲温度、皮膚温度特徴量、深部体温特徴量、及び睡眠の質、のデータを抽出する。このとき、教師データ生成部23はそれぞれのデータに紐付けられた時間の情報に基づいて、データの抽出を行う。次に、教師データ生成部23は、第1周囲温度、第2周囲温度、皮膚温度特徴量、及び深部体温特徴量、を状態変数とし、睡眠の質のデータを正解データとして教師データを生成する。教師データ生成部23が生成した教師データは、教師データ記憶部35に記憶される。
【0047】
(2-3)学習装置30
学習装置30は、図示しないCPU(Central Processing Unit)、メモリ、ストレージ、入出力インターフェース、通信インターフェース、入力装置、表示装置、および、データバス等の周知のハードウェア構成を備え、周知のオペレーションシステム等がインストールされ、さらに、サーバの機能を有した高性能なコンピュータである。また、必要に応じてGPU(Graphics Processing Unit)を設けるようにしてもよい。あるいは、1つまたは複数のコンピュータを用いて提供される仮想化された仮想サーバであってもよい。
【0048】
学習装置30は、教師データ取得部31と、学習部32と、学習モデル生成部33と、を備える。
【0049】
(2-3-1)教師データ取得部31
教師データ取得部31は、ネットワークを介して教師データ生成装置20から複数の教師データを取得する。なお、教師データ取得部31において取得された教師データは、それぞれメモリ等に記憶される。
【0050】
(2-3-2)学習部32
学習部32には、あらかじめ学習モデルが設けられている。学習部32は、教師データ取得部31が取得した複数の教師データに基づいて学習モデルに学習(例えば、教師あり学習)を行わせる。学習モデルの行う学習の手法は特に限定されないが、重回帰分析、ランダムフォレスト等を用いることが好ましい。
【0051】
第1実施形態における学習モデルは、後述する推定システム2(
図3)において入力される入力データから睡眠の質の推定値を出力することを目的として、学習を行う。
【0052】
(2-3-3)学習モデル生成部33
学習モデル生成部33は、学習部32における学習が進み、学習モデルの推定精度が向上した段階で学習モデルを学習済みの学習モデルとして出力することによって、推定装置50において利用される学習モデルを生成する。学習モデル生成部33から出力された学習モデルは、推定システム2において入力される入力データから睡眠の質の推定値を所定の精度以上で出力することが可能である。
【0053】
学習モデル生成部33において生成された学習モデルは、ネットワークを介して後述する推定装置50に配信される。あるいは、学習モデル生成部33において生成された学習モデルは、記憶媒体を介して推定装置50に配布される。
【0054】
(3)学習システム1の特徴
(3-1)
第1実施形態の学習システム1に含まれる学習装置30は、就寝者の睡眠の質を学習する学習装置30である。学習装置30は、取得部としての教師データ取得部31と、学習部32と、生成部としての学習モデル生成部33と、を備える。教師データ取得部31は、第1周囲温度と、第2周囲温度と、深部体温に関する特徴量と、皮膚温度に関する特徴量と、を状態変数として取得する。第1周囲温度は、就寝者が入眠するときの就寝者の周囲の温度である。第2周囲温度は、第1周囲温度よりも前に取得された就寝者の周囲の温度である。深部体温に関する特徴量は、少なくとも就寝者が入眠するときの第1深部体温に基づいて決められる。皮膚温度に関する特徴量は、少なくとも就寝者が入眠するときの第1皮膚温度に基づいて決められる。学習部32は、状態変数、および、睡眠の質、を関連付けて学習する。学習モデル生成部33は、学習部32の学習の結果に基づき学習モデルを生成する。学習モデルは、第1周囲温度、第2周囲温度、深部体温、及び、皮膚温度に関する特徴量を入力として、睡眠の質を推定する。
【0055】
従来、非特許文献1のように睡眠前の体温変動が入眠に及ぼす影響について研究が行われている。例えば、非特許文献1には、深部体温が低下する時間帯に大きな眠気が生じること、特に、急激な深部体温低下の出現時刻が睡眠の品質に大きく影響することが報告されている。
【0056】
具体的には、人間は眠くなると、深部体温を末端部分に熱移動させて、手の平、足の裏、顔に存在するAVA(動静脈吻合)と呼ばれる体温調整用の血管を拡張させることで、熱放出を行う。それによって、深部体温を下げて、睡眠時の脳や身体の休息効率を上げることができる。日中に運動したり入浴したりして体温を上げることで就寝時に深部体温が下がりやすくなるが、日中に深部体温が上がらなかったり、寝室が暑かったりすると、深部体温が下がらず、深い睡眠が取れないため、質の悪い睡眠となってしまう。深い睡眠は、入眠後最初の三時間に多く表れ、それ以降は少なくなるという特徴がある。睡眠時における快適性を、眠りが深く質のよい睡眠であると言い換えると、それには深部体温の推移が影響していることが分かった。上記をまとめると、理想的な睡眠における、深部体温、皮膚温度、睡眠深度の関係は図 5 のようになることが分かった。他にも、加齢によって、入眠時間が長く、深睡眠割合が低くなり、睡眠時間の合計も短くなることが分かった。
【0057】
第1実施形態の学習装置30は、状態変数として就寝者の深部体温に関する特徴量を取得し、学習を行うことで就寝者の睡眠の状態としての睡眠の質をより精度良く推定することが可能な学習モデルを生成することが可能である。
【0058】
(3-2)
学習装置30が取得する第2特徴量は、少なくとも、第1皮膚温度と、第2皮膚温度と、に基づいて決められる。第1皮膚温度は、就寝者が入眠するときの皮膚温度である。第2皮膚温度は、第1皮膚温度よりも前に取得された就寝者の皮膚温度である。
【0059】
本実施形態において、学習装置30は、第1皮膚温度として就寝者が就床してから30分が経過した後の就寝者の皮膚温度のデータと、第2皮膚温度として就寝者が就床する30分前の就寝者の皮膚温度のデータと、を取得している。また、本実施形態の学習装置30は、第1皮膚温度と同一の時刻に第1深部体温を取得し、第2皮膚温度と同一の時刻に第2深部体温を取得している。
【0060】
これによって、学習装置30は、より精度の高い深部体温特徴量を出力する学習モデルを生成することが可能である。
【0061】
(3-3)
学習装置30は、複数の教師データを用いて学習する。教師データは、睡眠の質のデータ、第1周囲温度のデータ、第2周囲温度のデータ、深部体温に関する特徴量としての深部体温特徴量、及び、皮膚温度に関する特徴量としての皮膚温度特徴量、を含む。
【0062】
本実施形態において睡眠の質は、就寝者が入床してから入眠するまでの時間、深睡眠率、中途覚醒の回数、中途覚醒の時間、及び、OSA睡眠調査票MA版(OSAsleep inventory MA version)の少なくともいずれか一つに基づいて決められる。
【0063】
また、深部体温特徴量は、所定期間における就寝者の深部体温の変化量、最大値、最小値、最頻値、平均値、最大値と最小値との差、最大または最小の傾き、及び、平均の傾き、の少なくともいずれか一つに基づいて決められる。
【0064】
さらに、皮膚温度特徴量は、所定期間における就寝者の皮膚温度の変化量、最大値、最小値、最頻値、平均値、最大値と最小値との差、最大または最小の傾き、及び、平均の傾き、の少なくともいずれか一つに基づいて決められる。
【0065】
これによって、本実施形態の学習装置30は、精度の良い睡眠の質を出力する学習モデルを生成することが可能である。
【0066】
(4)変形例
(4-1)変形例1
第1実施形態において、睡眠の質は、OSA睡眠調査票MA版に基づいて決定されるが、睡眠の質はこれ以外の方法に基づいて決定されてもよい。また、第4取得装置14は、モバイル端末以外の装置であってもよい。
【0067】
例えば、睡眠の質は、就寝者が就寝中の心拍数、体動、深睡眠時間の割合、就寝者が入床してから入眠するまでの時間、就寝者のホルモンの分泌量、就寝者のホルモンの濃度、又は、就寝者に対して実施される睡眠の質や日中のパフォーマンスに関する任意のアンケート等から決定されてもよい。睡眠の質のデータは、特に限定されるものではなく、第4取得装置14は、少なくとも睡眠の質のデータを取得することが可能なものであれば特に限定されるものではない。
【0068】
(4-2)変形例2
データ取得装置10は、上記に示したデータ以外のデータを取得してもよい。例えば、データ取得装置10は、環境データ、対象データ、又は睡眠データを取得してもよい。具体的には、環境データは、就寝者の周囲の湿度、照度、色度、香り、又は気流等のデータである。対象データは、就寝者の指尖血流量、就寝者の指尖血流量を推定するためのRGB画像、心拍数、心拍変動、呼吸数、ガルバニック皮膚反応、着衣量・布団の種類、日中の活動状況、枕の温度等のデータである。睡眠データは、就寝者の体動、睡眠状態、又は入眠までの時間等のデータである。なお、これらのデータは、データ取得装置10に含まれる第1取得装置11、第2取得装置12、第3取得装置13、及び第4取得装置14、あるいはこれら以外の装置において取得されてもよい。学習装置30は、それらの装置において取得したデータを教師データとして利用することが可能である。
【0069】
学習装置30は、状態変数として上述したデータを用いることによって、より精度の良い深部体温特徴量を推定する学習モデルを生成することが可能である。
【0070】
(4-3)変形例3
第1実施形態において、第1周囲温度、及び第2周囲温度は、同一の装置(第1取得装置11)において取得されるが、第1周囲温度、及び第2周囲温度は、異なる装置において取得されてもよい。
【0071】
また、第1取得装置11等は、第1周囲温度、及び第2周囲温度に加えて、第3周囲温度として所定のタイミングにおいて就寝者の周囲の温度のデータを取得してもよい。
【0072】
(4-4)変形例4
第1実施形態においては教師データ生成装置20が皮膚温度特徴量、及び深部体温特徴量を抽出しているが、皮膚温度特徴量、及び深部体温特徴量は、学習装置30において抽出されてもよい。あるいは、皮膚温度特徴量は第2取得装置12において抽出されてもよいし、深部体温特徴量は第3取得装置13において抽出されてもよい。各データから特徴量を抽出する処理は、いずれの装置において行われてもよい。
【0073】
(4-5)変形例5
第1実施形態において、学習システム1は皮膚温度特徴量、及び深部体温特徴量を抽出し学習を行っているが、学習システム1はディープラーニングを用いて学習を行ってもよい。言い換えると、学習部32は皮膚温度、深部体温、第1周囲温度、及び第2周囲温度、から自動的に適切な特徴量を抽出し、学習を行ってもよい。なお、このとき、皮膚温度及び深部体温は、就寝者が入眠するときのみにおいて取得されてもよい。
【0074】
(4-6)変形例6
第1実施形態において、教師データは就寝者に関連する教師データセットである。ここで、学習部32が学習に用いる複数の教師データはそれぞれ異なる対象(就寝者)に関連する教師データセットであってもよい。
【0075】
一方で、第1実施形態の学習部32が学習に用いる複数の教師データは、特定の就寝者に関連する教師データセットであってもよい。このとき、データ取得装置10は、特定の就寝者の個人の情報を取得する個人情報取得装置を有していてもよい。個人情報取得装置は、例えば、モバイル端末であって、特定の就寝者の個人の情報が入力される。個人の情報とは、例えば、特定の就寝者の平常時皮膚温度、平常時深部体温、年齢、性別、身長、体重、同年代の平均的な平常時の皮膚温度、等の情報である。
【0076】
これによって、学習装置30は、特定の就寝者により精度の高い深部体温特徴量を推定する学習モデルを生成することに寄与することが可能である。
【0077】
(5)推定システム2
図3は、第1実施形態に係る推定システム2及び環境調整システム3の一例を示す模式図である。推定システム2は、入力データ取得装置40、及び推定装置50等の装置を有している。各装置は、インターネット等の所定のネットワークを介して通信可能である。
【0078】
(5―1)入力データ取得装置40
入力データ取得装置40は、就寝者の周囲の温度のデータを取得する第5取得装置41と、就寝者の皮膚温度のデータを取得する第6取得装置42と、就寝者の深部体温のデータを取得する第7取得装置43と、を含む。第5取得装置41、第6取得装置42、及び第7取得装置43は、それぞれ所定のデータを取得する。
【0079】
なお、第1実施形態において、第5取得装置41、第6取得装置42、及び第7取得装置43は、それぞれ就寝者が就床する30分前から常時データの取得を行うが、データは所定の時間間隔において取得されてもよいし、任意のタイミングにおいて取得されてもよい。第5取得装置41、第6取得装置42、及び第7取得装置43において取得されたデータには、それぞれデータを取得した時間の情報が紐付けられている。
【0080】
第5取得装置41、第6取得装置42、及び第7取得装置43において取得されたデータは、ネットワークを介して推定装置50に送信される。なお、第5取得装置41、第6取得装置42、及び第7取得装置43は、取得したデータのうち推定装置50の要求に応じた一部のデータのみを推定装置50に送信してもよい。
【0081】
以下において、第5取得装置41、第6取得装置42、及び第7取得装置43と、第5取得装置41、第6取得装置42、及び第7取得装置43が取得するそれぞれのデータと、について説明する。なお、以下の説明において、就寝者が入眠するときは、センサ等を用いて就寝者が入眠したことを測定し、就寝者が入眠したタイミングにおいて取得することが好ましいが、これに限られない。就寝者が入眠するときとは、少なくとも就寝者が就床した後のタイミングであって、例えば、就寝者が就床してから任意の時間が経過した後のタイミングであってもよい。第1実施形態においては、第2周囲温度のデータは、就寝者が就床する30分前の就寝者の周囲の温度のデータであるがこれに限定されるものではない。
【0082】
(5-1-1)第5取得装置41
第5取得装置41は、温度センサ、サーモグラフィ等の装置、又は、それらを含む装置である。例えば、第5取得装置41は、温度センサを含む空気調和装置等であってもよい。第5取得装置41は特に限定されるものではないが、少なくとも、就寝者の周囲の温度のデータを取得することが可能な装置である。
【0083】
第1実施形態において、第5取得装置41は、少なくとも第3周囲温度、及び第4周囲温度を取得する。
【0084】
第3周囲温度は、就寝者が入眠するときの周囲の温度のデータである。第4周囲温度は、第3周囲温度よりも前に取得された就寝者の周囲の温度のデータである。第4周囲温度は、少なくとも、就寝者が就床する前において取得される。例えば、第4周囲温度は、就寝者が就床する任意の時間前に取得されたデータを用いてもよい。第1実施形態においては、第4周囲温度のデータは、就寝者が就床する30分前の就寝者の周囲の温度のデータであるがこれに限定されるものではない。
【0085】
(5-1-2)第6取得装置42
第6取得装置42は、皮膚温度センサ等の装置、又は、それらを含む装置である。例えば、第6取得装置42は、皮膚温度センサ等を含むウエアラブルセンサ等であってもよい。第6取得装置42は特に限定されるものではないが、少なくとも、就寝者の第3皮膚温度及び第4皮膚温度のデータを取得することが可能な装置である。
【0086】
第3皮膚温度は、就寝者が入眠するときの皮膚温度である。第4皮膚温度は、第3皮膚温度よりも前の時間に取得された就寝者の皮膚温度である。第4皮膚温度のデータは、就寝者が就床する前において取得されることが好ましい。例えば、第4皮膚温度のデータは、就寝者が就床する任意の時間前に取得されたデータであることが好ましい。第1実施形態において第4皮膚温度のデータは、就寝者が就床する30分前の就寝者の皮膚温度のデータであるがこれに限定されるものではない。
【0087】
(5-1-3)第7取得装置43
第7取得装置43は、深部体温センサ等の装置、又は、それらを含む装置である。例えば、第7取得装置43は、鼓膜温度計等であってもよい。第7取得装置43は特に限定されるものではないが、少なくとも、就寝者の第3深部体温及び第4深部体温のデータを取得することが可能な装置である。
【0088】
第3深部体温は、就寝者が入眠するときの深部体温である。第4深部体温は、第3深部体温よりも前のタイミングに取得された就寝者の深部体温である。第4深部体温のデータは、就寝者が就床する前のタイミングにおいて取得されることが好ましい。例えば、第4深部体温のデータは、就寝者が就床する任意の時間前に取得されたデータであることが好ましい。第1実施形態において第4深部体温のデータは、就寝者が就床する30分前の就寝者の深部体温のデータであるがこれに限定されるものではない。
【0089】
(5―2)推定装置50
推定装置50は、CPU(Central Processing Unit)、メモリ、ストレージ、入出力インターフェース、通信インターフェース、入力装置、表示装置、および、データバス等の周知のハードウェア構成を備え、周知のオペレーションシステム等がインストールされ、さらに、サーバの機能を有した高性能なコンピュータである。また、必要に応じてGPU(Graphics Processing Unit)を設けるようにしてもよい。あるいは、1つまたは複数のコンピュータを用いて提供される仮想化された仮想サーバであってもよい。
【0090】
推定装置50のメモリ等の記憶部には、あらかじめ学習システム1が生成した学習済みの学習モデルと、この学習モデルを実行するための各種プログラムが記憶されている。
【0091】
推定装置50は、入力データ取得部51と、特徴量抽出部52と、推定部53と、出力部54と、を備える。
【0092】
(5―2-1)入力データ取得部51
入力データ取得部51は、第5取得装置41において取得された第3周囲温度及び第4周囲温度のデータと、第6取得装置42において取得された第3皮膚温度及び第4皮膚温度のデータと、第7取得装置43において取得された第3深部体温及び第4深部体温とのデータを、ネットワークを介して受信することによって取得する。なお、入力データ取得部51において取得されたデータは、それぞれメモリ等に記憶される。
【0093】
(5―2-2)特徴量抽出部52
特徴量抽出部52は、入力データ取得部51が取得した第3皮膚温度及び第4皮膚温度のデータから皮膚温度特徴量を抽出する。また、特徴量抽出部52は、入力データ取得部51が取得した第3深部体温及び第4深部体温のデータから深部体温特徴量を抽出する。皮膚温度特徴量及び深部体温特徴量は、学習システムの特徴量抽出部22が抽出する皮膚温度特徴量及び深部体温特徴量と概ね同一の特徴量であるため説明を省略する。
【0094】
(5―2-3)推定部53
推定部53は、入力データ取得部51において取得された第3周囲温度及び第4周囲温度のデータと、特徴量抽出部22において抽出された皮膚温度特徴量及び深部体温特徴量と、を入力データとして、睡眠の質の推定を行う。睡眠の質の推定は、例えば、就寝者の睡眠の質を3段階(良い・普通・悪い、等)に分類することである。推定とは、例えば、教師あり学習である。推定の手法は特に限定されないが、重回帰分析、ランダムフォレスト等を用いることが好ましい。例えば、これらの手法を用いて推定した実験の結果、入力データに応じた正答率は0.762、0.930、又は、0.803であって、高い精度で睡眠の質の推定を行うことが可能であった。
【0095】
(5―2-4)出力部54
出力部54は、推定部53において推定された睡眠の質の推定値を出力する。具体的に、出力部54は、出力として他の装置に対して睡眠の質の推定値を送信する、あるいはディスプレイ等に表示する。
【0096】
(6)推定システム2の特徴
第1実施形態における推定システム2に含まれる推定装置50は、学習装置30の学習の結果に基づき生成された学習済みの学習モデルを用いて、就寝者の睡眠の質を推定する。
【0097】
これによって、第1実施形態の推定システム2は、学習システム1において生成された学習モデルを用いて就寝者の睡眠の質を精度良く推定することが可能である。
【0098】
(7)変形例
(7-1)変形例1
入力データ取得部51は、上記に示したデータ以外の入力データを取得してもよい。例えば、入力データ取得部51は、環境データ、対象データ、又は睡眠データ等を取得してもよい。入力データ取得部51は、学習モデルの仕様に応じた入力データを取得する。
【0099】
(7-2)変形例2
第1実施形態においては推定装置50が皮膚温度特徴量を抽出しているが、皮膚温度特徴量は、第6取得装置42において抽出されてもよい。あるいは、皮膚温度特徴量は第6取得装置42以外の他の装置において抽出されてもよい。
【0100】
(7-3)変形例3
第1実施形態において、推定システム2は皮膚温度特徴量を抽出し学習を行っているが、推定システム2はディープラーニングを用いて学習を行ってもよい。言い換えると、推定部53は、第3周囲温度、第4周囲温度、第3皮膚温度、及び第4皮膚温度から自動的に適切な特徴量を抽出し学習を行ってもよい。
【0101】
(8)環境調整システム3
環境調整システム3は、推定システム2が推定した就寝者の睡眠の質に基づいて、就寝者の周囲の環境を調整するシステムである。環境調整システム3は、第1実施形態の推定装置50と、環境調整装置60と、を含む。以下、環境調整装置60の一例について説明する。
【0102】
(8-1)環境調整装置60
環境調整装置60は、就寝者の周囲の環境を調整する装置であって、例えば空気調和装置である。環境調整装置60は、主に、取得部61と、制御部62と、アクチュエータ63と、を備える。
【0103】
(8-1-1)取得部61
取得部61は、インターネット等のネットワークを介して推定装置50から睡眠の質の推定値を取得する。また、取得部61は、ネットワークを介して入力データ取得装置40から各種データを取得する。取得部61は、推定装置50及び入力データ取得装置40から取得した情報を後述する制御部62の記憶装置に記憶する。
【0104】
(8-1-2)制御部62
制御部62は、コンピュータにより実現されるものであって、図示しない制御演算装置と記憶装置とを備える。制御演算装置には、CPU又はGPUといったプロセッサを使用できる。制御演算装置は、記憶装置に記憶されているプログラムを読み出し、このプログラムに従って所定の演算処理等を行う。さらに、制御演算装置は、プログラムに従って、演算結果を記憶装置に書き込んだり、記憶装置に記憶されている情報を読み出したりすることができる。
【0105】
具体的に、第1実施形態の制御部62の記憶装置には、取得部61が取得した情報が記憶されている。また、記憶装置には、取得部61が睡眠の質の推定値を取得する前の所定期間における制御指示が記憶されている。制御指示とは、後述するアクチュエータ63の動作を制御するための指示信号である。
【0106】
制御部62の制御演算装置は、記憶装置に記憶された情報と、制御指示と、に基づいて演算を行い、睡眠の質を向上させるための制御指示をアクチュエータ63に対して送る。
【0107】
(8-1-3)アクチュエータ63
アクチュエータ63は、制御部62の制御演算装置からの制御指示を受け取り動作する。アクチュエータ63は、例えば、空気調和装置の圧縮機、膨張弁、ファン、フラップ等である。
【0108】
(9)特徴
第1実施形態における環境調整システム3は、推定装置50と、環境調整装置60と、を備える。環境調整装置60は、アクチュエータ63と、制御部62と、を有す。アクチュエータ63は、就寝者の周囲の環境を調整する。制御部62は、推定装置50が推定した就寝者の睡眠の質に基づいて、アクチュエータの動作を制御する。
【0109】
環境調整システム3は、非特許文献1に記載されているように深部体温が低下する時に大きな眠気が生じるという人間の特性を用いて、例えば、睡眠の質が低下すると予測された場合には、睡眠の質が向上(深部体温が低下)するように就寝者の周囲の温度を低下(例:1度下げる)させる。または、環境調整システム3は、就寝者の周囲の気流を強める環境調整を行う。これによって、環境調整システム3は、就寝者の睡眠の質を向上させることに寄与する。
【0110】
(10)変形例
第1実施形態において、取得部61は入力データ取得装置40から各種データを取得するが、取得部61は環境調整システム3に適宜取り付けられたセンサから各種データを取得してもよい。
【0111】
また、環境調整システム3及び推定システム2は、同一の筐体に格納されていてもよい。そのため、取得部61はネットワークを介さずにそれぞれの情報を取得してもよい。
【0112】
<第2実施形態>
以下、本願発明の第2実施形態に係る学習システム1、及び推定システム2の詳細について、第1実施形態の各システムと異なる点について説明する。
【0113】
(11)第2実施形態の学習システム1
(11-1)データ取得装置10
第2実施形態の学習システム1におけるデータ取得装置10は、第1実施形態のデータ取得装置10と概ね同一である。
【0114】
(11-2)教師データ生成装置20
第2実施形態の学習システム1において、教師データ生成装置20は、学習装置30が就寝者の深部体温特徴量を学習するための教師データを生成する。ここで、便宜的に、第1実施形態において説明した就寝者の睡眠の質を学習するために生成される教師データを第1教師データ、深部体温特徴量を学習するための教師データを第2教師データとする。
【0115】
教師データ生成装置20の教師データ生成部23は、まず、取得データ記憶部24から第1周囲温度、第2周囲温度、皮膚温度特徴量、及び、深部体温特徴量のデータを抽出する。次に教師データ生成部23は、第1周囲温度、第2周囲温度、皮膚温度特徴量、を状態変数とし、深部体温特徴量のデータを正解データとして第2教師データを生成する。教師データ生成部23が生成した第2教師データは、教師データ記憶部35に記憶される。
【0116】
なお、第2実施形態の教師データ生成部23は、第1実施形態と同様に第1教師データも生成する。
【0117】
(11-3)学習装置30
学習装置30は、教師データ取得部31が取得した複数の教師データに基づいて学習モデルに学習を行わせる。ここで、便宜的に、第1教師データを用いて就寝者の睡眠の質を学習する学習モデルを第1学習モデル、第2教師データを用いて深部体温特徴量を学習する学習モデルを第2学習モデルとする。なお、第1学習モデルは、第1実施形態において説明した学習モデルである。
【0118】
学習装置30は、教師データ生成装置20において取得された複数の第2教師データを用いて、推定システム2において入力される入力データから深部体温特徴量の推定値を出力することを目的として、学習を行う。
【0119】
学習モデル生成部33は、学習部32における学習が進み、学習モデルの推定精度が向上した段階で第2学習モデルを学習済みの第2学習モデルとして出力することによって、推定装置50において利用される第2学習モデルを生成する。学習モデル生成部33から出力された第2学習モデルは、推定システム2において入力される入力データから深部体温特徴量の推定値を所定の精度以上で出力することが可能である。
【0120】
なお、第2実施形態の学習装置30は、第1実施形態と同様に第1教師データを用いて就寝者の睡眠の質を学習する学習モデルを第1学習モデルも生成する。
【0121】
(12)第2実施形態の学習システム1の特徴
第2実施形態の学習システム1に含まれる学習装置30は、就寝者の睡眠の質を学習する学習装置30である。学習装置30は、取得部としての教師データ取得部31と、学習部32と、生成部としての学習モデル生成部33と、を備える。教師データ取得部31は、第1周囲温度と、第2周囲温度と、深部体温に関する特徴量と、皮膚温度に関する特徴量と、を状態変数として取得する。第1周囲温度は、就寝者が入眠するときの就寝者の周囲の温度である。第2周囲温度は、第1周囲温度よりも前に取得された就寝者の周囲の温度である。深部体温に関する特徴量は、少なくとも就寝者が入眠するときの第1深部体温に基づいて決められる。皮膚温度に関する特徴量は、少なくとも就寝者が入眠するときの第1皮膚温度に基づいて決められる。学習部32は、状態変数、および、睡眠の質、を関連付けて学習する。学習モデル生成部33は、学習部32の学習の結果に基づき学習モデルを生成する。学習モデルは、第1周囲温度、第2周囲温度、及び、皮膚温度に関する特徴量を入力として、睡眠の質を推定する。
【0122】
就寝者の深部体温は、睡眠の質に大きな影響を及ぼす。しかし、深部体温の測定を行うには直腸温度計や鼓膜温度計等の装置を装着しなければならず、それらの装置は皮膚温度の測定を行う場合よりも就寝者に与える負担が大きい。
【0123】
第2実施形態に示す学習装置30は、あらかじめ就寝者の深部体温に関する特徴量を算出するための情報を取得し、学習することで、深部体温に関する情報である第1特徴量を出力する学習モデルを生成する。これによって、深部体温に関する情報を取得することに伴う就寝者の負担を軽減することが可能である。
【0124】
(13)変形例
第2実施形態において、第1教師データ及び第2教師データは、同一の教師データ生成装置20において生成されているが、これに限られない。第1教師データ及び第2教師データは、それぞれ異なるハードウェアにおいて生成されてもよい。
【0125】
また、第1学習モデル及び第2学習モデルは、同一の学習装置30において学習しているが、これに限られない。第1学習モデル及び第2学習モデルは、それぞれ異なるハードウェアにおいて学習してもよい。
【0126】
(14)推定システム2
(14-1)入力データ取得装置40
第2実施形態の入力データ取得装置40は、第1実施形態における第5取得装置41と、第6取得装置42とを含む。言い換えると、第2実施形態の入力データ取得装置40は、第7取得装置43を含まない。第5取得装置41及び第6取得装置42は、第1実施形態と概ね同一のデータを取得する。
【0127】
(14-2)推定装置50
第2実施形態の推定装置50には、あらかじめ学習システム1が生成した学習済みの第1学習モデル及び第2学習モデルと、各学習モデルを実行するための各種プログラムが記憶されている。
【0128】
推定部53は、入力データ取得部51において取得された第3周囲温度及び第4周囲温度のデータと、特徴量抽出部22において抽出された皮膚温度特徴量と、を入力データとして、第2学習モデルを用いて深部体温特徴量の推定を行う。推定部53は、深部体温特徴量として、例えば、深部体温特徴量として、入眠前30分~16分前の1分毎の鼓膜温度平均値と、15分前~入眠時の1分毎の鼓膜温度平均値を比較したとき、0.2℃以上上昇、横ばい(0.2℃下降~0.2℃上昇の間)、0.2℃以上下降のいずれになるかを推定することが可能である。推定とは、例えば、教師あり学習である。ここで、サンプル数にばらつきがある場合には、アンダーサンプリングやオーバーサンプリング等の手法を行うことが可能である。以下に示す表(1)は、推定部53を用いて深部体温特徴量を推定した実験における正答率を示している。これによって、深部体温特徴量を推定するための実験条件の組み合わせを比較した。
【0129】
【0130】
第2実施形態の推定装置50は、推定部53が推定した深部体温特徴量を用いて睡眠の質の推定を行う。具体的には、推定部53は、入力データ取得部51において取得された第3周囲温度及び第4周囲温度のデータと、特徴量抽出部22において抽出された皮膚温度特徴量と、推定部53において推定された深部体温特徴量と、を入力データとして、第1学習モデルを用いて睡眠の質の推定を行う。出力部54は、第1学習モデルを用いて推定された睡眠の質の推定値を出力する。
【0131】
(15)特徴
第2実施形態における推定システム2に含まれる推定装置50は、学習装置30の学習の結果に基づき生成された学習済みの学習モデルを用いて、就寝者の睡眠の質を推定する。
【0132】
また、推定システム2は、深部体温特徴量推定部としての推定部53をさらに備える。推定部53は、第1周囲温度と、第2周囲温度と、皮膚温度に関する特徴量と、から就寝者の深部体温に関する特徴量を推定する。
【0133】
これによって、推定装置50は、就寝者の睡眠の質を精度良く推定することが可能であり、また、深部体温に関する情報を取得するために直腸温度計や鼓膜温度計等の装置を装着することに伴う就寝者の負担を軽減することができる。
【0134】
(16)変形例
第2実施形態において、深部体温特徴量の推定と睡眠の質の推定とは、同一の推定装置50において行われているが、これに限られない。深部体温特徴量の推定と睡眠の質の推定とは、それぞれ異なるハードウェアにおいて行われてもよい。
【0135】
以上、本開示の実施形態を説明したが、特許請求の範囲に記載された本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【符号の説明】
【0136】
3 環境調整システム
30 学習装置
31 取得部
32 学習部
50 推定装置
53 深部体温特徴量推定部
62 制御部
63 アクチュエータ
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0137】
【文献】〈論文〉睡眠前の体温変動が入眠に及ぼす影響(一般)小田史郎http://id.nii.ac.jp/1136/00002386/