IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 横浜ゴム株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-加硫用モールドのクリーニング方法 図1
  • 特許-加硫用モールドのクリーニング方法 図2
  • 特許-加硫用モールドのクリーニング方法 図3
  • 特許-加硫用モールドのクリーニング方法 図4
  • 特許-加硫用モールドのクリーニング方法 図5
  • 特許-加硫用モールドのクリーニング方法 図6
  • 特許-加硫用モールドのクリーニング方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】加硫用モールドのクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/72 20060101AFI20241218BHJP
   B29C 35/02 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
B29C33/72
B29C35/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020153808
(22)【出願日】2020-09-14
(65)【公開番号】P2022047816
(43)【公開日】2022-03-25
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 恵美
【審査官】田村 佳孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-119760(JP,A)
【文献】特開2016-002705(JP,A)
【文献】特開2008-149603(JP,A)
【文献】国際公開第2018/142383(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0094185(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/72
B29C 35/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形面の素地表面が離型剤層により被覆されている加硫用モールドの前記離型剤層の表面に未加硫ゴムを加硫した際に付着した汚れ除去するクリーニング方法において、
前記汚れが前記未加硫ゴムを形成しているゴム組成物の成分であり、
前記離型剤層を削ることにより、前記素地表面を削ることなく前記離型剤層の表層とともに前記汚れを除去して、前記離型剤層を残存させて前記離型剤層の新たな面を露出させることを特徴とする加硫用モールドのクリーニング方法。
【請求項2】
前記離型剤層を削る際の削り厚さを、クリーニングを開始する前に決定しておく請求項1に記載の加硫用モールドのクリーニング方法。
【請求項3】
前記離型剤層を削る際の削り厚さを、前記表層を除去しながら把握する前記汚れの残存状態に基づいて決定する請求項1に記載の加硫用モールドのクリーニング方法。
【請求項4】
前記離型剤層を当初厚さ50μm以上で形成しておく請求項1~3のいずれかに記載の加硫用モールドのクリーニング方法。
【請求項5】
前記加硫用モールドがタイヤ加硫用モールドであり、前記成形面のうち、タイヤ溝形成部をクリーニング対象領域から除外する請求項1~4のいずれかに記載の加硫用モールドのクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加硫用モールドのクリーニング方法に関し、さらに詳しくは、加硫用モールドの成形面の離型性を確保しながら付着した汚れを除去して、クリーニングに要する時間およびコストを削減できる加硫用モールドのクリーニング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤなどのゴム製品を製造する際には、未加硫ゴム部材を加硫するために加硫用モールドが使用される。タイヤ製造においては、タイヤ加硫用モールドの中に設置されたグリーンタイヤの内部でタイヤ加硫用ブラダを膨張させて、グリーンタイヤを加圧しつつ加熱して加硫する。このモールドの成形面には加硫を繰り返すことで不要な汚れが付着し、汚れが多くなると加硫されたタイヤの外観品質に影響が生じる。そのため、加硫用モールドは例えば、所定期間または所定回数使用されると成形面の汚れを除去するクリーニングが行われる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
モールドの成形面は、加硫されたタイヤの外面との密着を防止するために、離型剤層により被覆されることがある。このようなモールドをクリーニングする際には、成形面(離型剤層の表面)に付着した汚れを除去した後、離型処理を施して成形面を新たな離型剤層によって被覆して離型性を確保する。このクリーニング方法では、成形面の汚れの除去工程と、その後の離型処理工程を行うため、多大な時間およびコストを要する。それ故、クリーニングに要する時間およびコストを削減して、汚れを除去するとともに成形面の離型性を確保するには、さらなる工夫が必要になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-149603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、加硫用モールドの成形面の離型性を確保しながら付着した汚れを除去して、クリーニングに要する時間およびコストを削減できる加硫用モールドのクリーニング方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明の加硫用モールドのクリーニング方法は、成形面の素地表面が離型剤層により被覆されている加硫用モールドの前記離型剤層の表面に未加硫ゴムを加硫した際に付着した汚れ除去するクリーニング方法において、前記汚れが前記未加硫ゴムを形成しているゴム組成物の成分であり、前記離型剤層を削ることにより、前記素地表面を削ることなく前記離型剤層の表層とともに前記汚れを除去して、前記離型剤層を残存させて前記離型剤層の新たな面を露出させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、モールドの成形面を被覆している離型剤層に付着した汚れを、離型剤層の表層を除去することにより、この表層とともに除去する。そして、この表層を除去した後に離型剤層を残存させる。そのため、成形面の表面は汚れが除去された状態になるとともに離型剤層で被覆された状態が維持されるので、離型性が確保される。これに伴い、既存の離型剤層を利用してモールドを繰り返し使用できるので、クリーニングに要する時間およびコストを削減することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】タイヤ加硫用モールドを正面視で例示する説明図である。
図2図1のタイヤ加硫用モールドを平面視で例示する説明図である。
図3図2の成形面の一部を縦断面視で拡大して例示する説明図である。
図4】タイヤ加硫用モールドのクリーニング装置を平面視で例示する説明図である。
図5図4のノズルを成形面に沿って移動させながら成形面をクリーニングしている状態を正面視で例示する説明図である。
図6図4のノズルを成形面に沿って移動させながら成形面をクリーニングしている状態を側面視で例示する説明図である。
図7図3の汚れが除去された状態の成形面を例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の加硫用モールドのクリーニング方法を、図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0010】
図1図3に例示する加硫用モールド10(以下、モールド10という)は、一方面がタイヤの表面形状を型付けする成形面13になっている。このモールド10は空気入りタイヤを加硫するためのセクタモールドであるが、タイヤサイド部を加硫するサイドモールドであってもよい。また、空気入りタイヤに限らず、他の種類のタイヤを加硫するモールドであっても、タイヤ以外のゴム製品を加硫するためのモールドでもよい。
【0011】
成形面13にはタイヤ溝を形成するためのタイヤ溝形成部14が突出している。図中の一点鎖線CLは、モールド10の幅方向中心位置を示している。また、図中の矢印Wはタイヤ幅方向、矢印Rはタイヤ半径方向、矢印Cはタイヤ周方向を示している。
【0012】
本発明の洗浄対象になるモールド10の成形面13は離型剤層12により被覆されている。モールド10の素地は金属によって形成されているので、素地表面11は金属である。モールド10の成形面13以外の領域は離型剤層12によって被覆されていないため、素地表面11がそのまま露出している。
【0013】
離型剤層12を形成する離型剤は、モールド10の素地表面11と加硫したタイヤとの密着を防止してタイヤを円滑にモールド10から剥離させる機能を有している。離型剤層12は、フッ素樹脂やシリコーンなどの公知の離型剤により形成される。離型剤層12の厚さは、加硫するタイヤのサイズなどによって異なるが、例えば一般的に10μm~200μm程度である。
【0014】
この実施形態では、離型剤層12の厚さは一般的な厚さと同等以上であり、例えば100μm以上になっている。離型剤層12の厚さの上限は例えば500μmである。
【0015】
グリーンタイヤを加硫してタイヤを製造するために、モールド10を繰り返し使用すると、成形面13(離型剤層12)の表面には徐々に汚れXが付着して付着量が増加する。汚れXはグリーンタイヤを形成しているゴム組成物(ゴム組成物の成分)である。この汚れXの付着量が多くなると、加硫したタイヤにモールド10がより強く密着してタイヤからモールド10を剥離させ難くなる。また、加硫されたタイヤの内面に汚れXに起因する凹凸が形成される。図中では斜線部分が汚れXを示していて、離型剤層12および汚れXは、誇張されて厚く記載されている。
【0016】
本願発明者が汚れXが付着した多数のモールド10を分析した結果、同じ使用条件であれば、使用回数に応じて汚れXの量(堆積量)は増大し、離型剤層12は大幅に減耗することはなく厚さはほとんど変わらないことが判明した。また、使用条件が同じであれば、離型剤層12の厚さが異なっていても、汚れXの堆積具合は実質的に同じであることが判明した。
【0017】
そこで本発明では、例えばモールド10が所定期間、または、所定回数、使用された後に、モールド10の成形面13をクリーニングする。そしてクリーニングの際に、離型剤層12を削ることにより、離型剤層12の表層12aとともに表層12aに付着している汚れXを除去する。そして、離型剤層12を残存させて離型剤層12の新たな面を新たな表層12bとして露出させる。図では汚れXが散在(点在)しているが、汚れXの付着具合は様々であり、広い範囲に薄膜状に付着することもある。
【0018】
このモールド10をクリーニングする手順の一例は下記のとおりである。
【0019】
図4に例示するように、この実施形態で使用するクリーニング装置1は、自在に動くアーム3と、アーム3の先端部に保持された処理ヘッド2と、処理ヘッド2に設置されたノズル2aと、パイプやケーブルを介して処理ヘッド2に接続された処理媒体供給源7と、ブース5と、アーム3の動きや処理媒体供給源7からの処理媒体Mの供給量を制御する制御部8とを備えている。また、ノズル2aの先端から対向面(離型剤層12)までの距離を検知する距離センサ6も備わっている。アーム3の後端部はベース4に回転自在に接続されている。
【0020】
処理媒体Mを砂にして、サンドブラストクリーニングを行う場合は、処理媒体供給源7には砂が貯留されてパイプを介して処理ヘッド2(ノズル2a)に圧送される。処理媒体Mをプラズマにして、プラズマクリーニングを行う場合は、処理媒体供給源7にはプラズマを発生させるガスが貯留されてパイプを介して処理ヘッド2(ノズル2a)に圧送される。処理媒体Mをレーザ光にして、レーザ光クリーニングを行う場合は、処理媒体供給源7はレーザ光発振器であり、レーザ光が光ファイバーケーブルを介して処理ヘッド2(ノズル2a)に送られる。
【0021】
モールド10はブース5の内部に設置されていて、成形面13以外の範囲は処理媒体Mを遮断する保護材9によって被覆されている。処理ヘッド2およびノズル2aは、ブース5の内部で所望に位置に移動しつつ、成形面13の全範囲を網羅するように処理媒体Mが離型剤層12の表面に対して供給(噴射や照射)される。モールド10を静止した状態に維持して処理媒体Mが供給されることに限定されず、モールド10を移動させながら処理媒体Mが供給されるようにすることもできる。
【0022】
図5図6に例示するように、アーム3は、成形面13の外形データに基づいて成形面13に沿って移動制御することも、手動で移動させることもできる。この実施形態では、保護材9によって被覆されている範囲は、供給される処理媒体Mが遮断されるので処理媒体Mから保護される。
【0023】
処理媒体Mが離型剤層12の表面に適切な洗浄時間、供給された状態(噴射、照射された状態)にすることで、図7に例示するように、離型剤層12の表層12a薄層を除去する。尚、クリーニングの種類は、サンドブラストクリーニング、プラズマクリーニング、レーザ光クリーニングに限定されず、例えば、アーム3の先端部にブラシやヤスリなどの研磨具を取り付けて、研磨具によって表層12aを除去することもできる。除去する表層12aの厚さは、クリーニングの種類などによっても異なるが、例えば20μ~50μm程度である。
【0024】
これにより、離型剤層12に付着している汚れXを表層12aとともに除去する。これに伴い、表層12aを除去した後の離型剤層12の面を新たな表層12bとして露出させてクリーニングが完了する。保護材9はモールド10から取り外す。
【0025】
クリーニングか完了したモールド10の成形面13には離型剤層12が残存している。即ち、成形面13の表面が離型剤層12により被覆されているので離型性が確保されている。クリーニングされたモールド10は、既存の離型剤層12を利用して、再度、グリーンタイヤの加硫に使用することができる。このように成形面13の離型性を確保しながら付着した汚れXを除去するので、クリーニングに要する時間およびコストを削減することが可能になる。
【0026】
上述したように、離型剤層12の当初厚さを一般的な厚さよりも大きく、或いは、50μm以上より好ましくは80μm超にしておくと、適切な洗浄時間の範囲が広くなるので好ましい。これにより、既存の離型剤層12を利用できる回数を増やすことも可能になる。上述したように、剥離剤層12を厚くしても汚れXの付着量が増大することはない。
【0027】
離型剤層12を削る際の削り厚さは、例えば、クリーニングを開始する前に決定しておく。具体的には、モールド10の使用時間と離型剤層12に付着する汚れXの堆積量との関係を予め把握する。そして、モールド10をクリーニングする時点で、汚れXの堆積量(堆積厚さ)を予測して、汚れXの表面から堆積厚さを超えた所定の深さ位置までを削り厚さに決定して表層12aを除去する。離型剤層12をXRF分析(蛍光X線分析)して汚れXの成分の検出率に基づいて、汚れXの堆積量(体積厚さ)を予測することもできる。そして、例えば、削り厚さを距離センサ6によって検知しながら、決定した削り厚さに到達するまでクリーニングを行って表層12aを除去する。
【0028】
離型剤層12を削る際の削り厚さは、表層12aを除去しながら把握する離型剤層12での汚れXの残存状態に基づいて決定することもできる。汚れXが離型剤層12の表面に残存しているか否かは、様々な指標に基づいて判断することができる。この指標としては、離型剤層12の色、凹凸具合(表面粗さ)、粘着力の違い、離型剤層12をXRF分析(蛍光X線分析)した結果などを例示できる。
【0029】
そこで、使用する指標に対して、汚れXが実質的に存在していない場合の目標値を設定する。そして、少なくともいずれか1つの指標を検知しつつクリーニングを行って、検知した指標が目標値に到達までクリーニングを行って表層12aを除去する。
【0030】
成形面13のうち、タイヤ溝形成部14は形状が細かくて複雑な場合がある。このような場合は、離型剤層12の表層12aを除去することが難しい。そこで、タイヤ溝形成部14をクリーニング対象領域から除外することもできる。即ち、成形面13のうち、平坦面や緩やかな曲面などの単純形状をクリーニング対象領域にしてクリーニングを行うこともできる。
【符号の説明】
【0031】
1 クリーニング装置
2 処理ヘッド
2a ノズル
3 アーム
4 ベース
5 ブース
6 距離センサ
7 処理媒体供給源
8 制御部
9 保護材
10 加硫用モールド
11 素地表面
12 離型剤層
12a 表層
12b 新たな表層
13 成形面
14 タイヤ溝形成部
M 処理媒体
X 汚れ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7