IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧

特許7606095環境推定システム、環境推定方法、プログラムおよびビジネス商品
<>
  • 特許-環境推定システム、環境推定方法、プログラムおよびビジネス商品 図1
  • 特許-環境推定システム、環境推定方法、プログラムおよびビジネス商品 図2
  • 特許-環境推定システム、環境推定方法、プログラムおよびビジネス商品 図3
  • 特許-環境推定システム、環境推定方法、プログラムおよびビジネス商品 図4
  • 特許-環境推定システム、環境推定方法、プログラムおよびビジネス商品 図5
  • 特許-環境推定システム、環境推定方法、プログラムおよびビジネス商品 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】環境推定システム、環境推定方法、プログラムおよびビジネス商品
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/892 20060101AFI20241218BHJP
   G01N 17/00 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
G01N21/892 B
G01N17/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021093171
(22)【出願日】2021-06-02
(65)【公開番号】P2022185468
(43)【公開日】2022-12-14
【審査請求日】2024-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】菅江 清信
(72)【発明者】
【氏名】笠原 健太郎
【審査官】比嘉 翔一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-136124(JP,A)
【文献】特開2001-108634(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N17/00-G01N19/10
G01N21/00-G01N21/958
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腐食環境の推定対象となる塗装鋼材の赤外線画像を取得する取得部と、
塗装鋼材の赤外線画像とその赤外線画像に対応する腐食環境に関する情報との関係を示す環境情報から、前記取得部が取得した赤外線画像に対応する腐食環境に関する情報を取得し、取得した前記腐食環境に関する情報を、前記推定対象となる塗装鋼材の腐食環境に関する情報として出力する推定部と、
を備え
前記環境情報は、予め取得された複数の塗装鋼材の赤外線画像および前記複数の塗装鋼材の各赤外線画像に紐付けられた腐食環境に関する情報を含み、
前記環境情報において、予め取得された前記複数の塗装鋼材の赤外線画像に、可視光画像、母材の材質、および塗装仕様のうちの少なくとも一つが関連情報として紐付けられており、
前記取得部は、腐食環境の推定対象となる塗装鋼材の可視光画像、母材の材質および塗装仕様のうち前記関連情報に対応する少なくとも一つを付加情報としてさらに取得し、
前記推定部は、前記環境情報に含まれる複数の赤外線画像の中から、前記取得部が取得した赤外線画像に類似しかつ前記付加情報に対応する赤外線画像を抽出し、抽出した前記赤外線画像に紐付けられた前記腐食環境に関する情報を、前記推定対象となる塗装鋼材の腐食環境に関する情報として出力する、環境推定システム。
【請求項2】
腐食環境の推定対象となる塗装鋼材の赤外線画像を取得する取得部と、
塗装鋼材の赤外線画像とその赤外線画像に対応する腐食環境に関する情報との関係を示す環境情報から、前記取得部が取得した赤外線画像に対応する腐食環境に関する情報を取得し、取得した前記腐食環境に関する情報を、前記推定対象となる塗装鋼材の腐食環境に関する情報として出力する推定部と、
を備え、
前記環境情報は、予め取得された複数の塗装鋼材の赤外線画像と、予め取得された前記複数の塗装鋼材の可視光画像、母材の材質および塗装仕様のうちの少なくとも一つを含む関連情報と、前記複数の塗装鋼材の腐食環境に関する情報との関係を機械学習することによって作成された予測モデルを含み、
前記取得部は、腐食環境の推定対象となる塗装鋼材の可視光画像、母材の材質および塗装仕様のうち前記関連情報に対応する少なくとも一つを付加情報としてさらに取得し、
前記推定部は、前記取得部が取得した赤外線画像および前記付加情報を前記予測モデルに適用することによって得られる腐食環境に関する情報を、前記推定対象となる塗装鋼材の腐食環境に関する情報として出力する、環境推定システム。
【請求項3】
前記複数の塗装鋼材の赤外線画像、前記関連情報および前記複数の塗装鋼材の腐食環境に関する情報の関係を機械学習することによって前記予測モデルを作成するモデル作成部をさらに備える、請求項に記載の環境推定システム。
【請求項4】
塗装鋼材の母材の材質および塗装仕様に応じて作成された、腐食環境と腐食時間と塗装鋼材の劣化度との関係を示す劣化情報と、前記推定部が出力した腐食環境に関する情報とを用いて、任意の母材の材質および塗装仕様の塗装鋼材の寿命を予測する予測部をさらに備える、請求項1からのいずれかに記載の環境推定システム。
【請求項5】
前記予測部は、母材の材質および/または塗装仕様が互いに異なる複数の塗装鋼材について前記寿命を予測し、予測した前記寿命が最も長い塗装鋼材の母材の材質および塗装仕様を出力する、請求項に記載の環境推定システム。
【請求項6】
コンピュータによって実行される方法であって、
(a)腐食環境の推定対象となる塗装鋼材の赤外線画像を取得するステップと、
(b)塗装鋼材の赤外線画像とその赤外線画像に対応する腐食環境に関する情報との関係を示す環境情報から、前記(a)のステップで取得した赤外線画像に対応する腐食環境に関する情報を取得し、取得した前記腐食環境に関する情報を、前記推定対象となる塗装鋼材の腐食環境に関する情報として出力するステップと、
を備え
前記環境情報は、予め取得された複数の塗装鋼材の赤外線画像および前記複数の塗装鋼材の各赤外線画像に紐付けられた腐食環境に関する情報を含み、
前記環境情報において、予め取得された前記複数の塗装鋼材の赤外線画像に、可視光画像、母材の材質、および塗装仕様のうちの少なくとも一つが関連情報として紐付けられており、
前記(a)のステップでは、腐食環境の推定対象となる塗装鋼材の可視光画像、母材の材質および塗装仕様のうち前記関連情報に対応する少なくとも一つを付加情報としてさらに取得し、
前記(b)のステップでは、前記環境情報に含まれる複数の赤外線画像の中から、前記(a)のステップで取得した赤外線画像に類似しかつ前記付加情報に対応する赤外線画像を抽出し、抽出した前記赤外線画像に紐付けられた前記腐食環境に関する情報を、前記推定対象となる塗装鋼材の腐食環境に関する情報として出力する、環境推定方法。
【請求項7】
コンピュータによって実行される方法であって、
(a)腐食環境の推定対象となる塗装鋼材の赤外線画像を取得するステップと、
(b)塗装鋼材の赤外線画像とその赤外線画像に対応する腐食環境に関する情報との関係を示す環境情報から、前記(a)のステップで取得した赤外線画像に対応する腐食環境に関する情報を取得し、取得した前記腐食環境に関する情報を、前記推定対象となる塗装鋼材の腐食環境に関する情報として出力するステップと、
を備え、
前記環境情報は、予め取得された複数の塗装鋼材の赤外線画像と、予め取得された前記複数の塗装鋼材の可視光画像、母材の材質および塗装仕様のうちの少なくとも一つを含む関連情報と、前記複数の塗装鋼材の腐食環境に関する情報との関係を機械学習することによって作成された予測モデルを含み、
前記(a)のステップでは、腐食環境の推定対象となる塗装鋼材の可視光画像、母材の材質および塗装仕様のうち前記関連情報に対応する少なくとも一つを付加情報としてさらに取得し、
前記(b)のステップでは、前記(a)のステップで取得した赤外線画像および前記付加情報を前記予測モデルに適用することによって得られる腐食環境に関する情報を、前記推定対象となる塗装鋼材の腐食環境に関する情報として出力する、環境推定方法。
【請求項8】
(c)前記複数の塗装鋼材の赤外線画像、前記関連情報および前記複数の塗装鋼材の腐食環境に関する情報の関係を機械学習することによって前記予測モデルを作成するステップをさらに備える、請求項に記載の環境推定方法。
【請求項9】
(d)塗装鋼材の母材の材質および塗装仕様に応じて作成された、腐食環境と腐食時間と塗装鋼材の劣化度との関係を示す劣化情報と、前記(b)のステップで出力された腐食環境に関する情報とを用いて、任意の母材の材質および塗装仕様の塗装鋼材の寿命を予測するステップをさらに備える、請求項からのいずれかに記載の環境推定方法。
【請求項10】
前記(d)のステップでは、母材の材質および/または塗装仕様が互いに異なる複数の塗装鋼材について前記寿命を予測し、予測した前記寿命が最も長い塗装鋼材の母材の材質および塗装仕様を出力する、請求項に記載の環境推定方法。
【請求項11】
請求項から10のいずれかに記載の環境推定方法をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装鋼材が曝されている腐食環境を推定するシステム、方法、プログラムおよび当該推定システムを利用したビジネス商品に関する。
【背景技術】
【0002】
建築構造物、土木構造物、および海洋構造物等の種々の構造物において、鋼材が用いられている。このような構造物を適切に管理するためには、鋼材が曝されている腐食環境を把握し、腐食環境に応じた対策を立てる必要がある。
【0003】
そこで、従来、鋼材が曝されている腐食環境を推定するための方法が提案されている。例えば、特許文献1には、耐候性鋼が暴露された腐食環境を判定するための判定システムが開示されている。
【0004】
特許文献1に開示された判定システムは、耐候性鋼データベース記憶手段と、保証対象耐候性鋼データ記憶手段と、判定手段とを備えている。耐候性鋼データベース記憶手段には、これまでに腐食画像(表面画像)が得られている耐候性鋼ごとに、腐食画像と、外観評点と、付随条件(材質、暴露期間)と、腐食環境(期間平均飛来塩分量)とを収納したデータベースが記憶されている。保証対象耐候性鋼データ記憶手段には、保証対象とする耐候性鋼について、腐食画像と、付随条件(材質、暴露期間)とが記録される。
【0005】
判定手段は、データベースに収納された耐候性鋼のうちで、保証対象とする耐候性鋼の腐食画像に類似した腐食画像を有する耐候性鋼を複数抽出する。また、判定手段は、抽出した複数の耐候性鋼の外観評点に基づいて、保証対象とする耐候性鋼の外観評点を判定する。さらに、判定手段は、抽出した複数の耐候性鋼の腐食環境(期間平均飛来塩分量)に基づいて、保証対象とする耐候性鋼の腐食環境(期間平均飛来塩分量)を判定する。
【0006】
このように、特許文献1に開示された判定システムでは、保証対象とする耐候性鋼の外観(腐食画像)と、予めデータベースに収納されている情報(これまでに得られた耐候性鋼の腐食画像および腐食環境等)とに基づいて、保証対象とする耐候性鋼が曝されている腐食環境が判定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2018-136124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、近年、防食塗装が施された鋼材(以下、塗装鋼材と記載する。)が構造物において好ましく利用されている。このような構造物においても、適切な管理を行うためには、塗装鋼材が曝されている腐食環境を把握する必要がある。
【0009】
しかしながら、塗装鋼材では、塗膜下で腐食が進行する場合がある。この場合、塗装鋼材の腐食状態を外観に基づいて適切に把握することは難しい。このため、特許文献1に開示された判定システムのように、対象となる鋼材が曝されている腐食環境を、その鋼材の外観に基づいて推定する方法では、腐食環境を適切に推定することは難しい。
【0010】
そこで、本発明は、塗装鋼材が曝されている腐食環境を推定する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記の知見に基づいてなされたものであり、下記の環境推定システム、環境推定方法、プログラムおよびビジネス商品を要旨とする。
【0012】
(1)腐食環境の推定対象となる塗装鋼材の赤外線画像を取得する取得部と、
塗装鋼材の赤外線画像とその赤外線画像に対応する腐食環境に関する情報との関係を示す環境情報から、前記取得部が取得した赤外線画像に対応する腐食環境に関する情報を取得し、取得した前記腐食環境に関する情報を、前記推定対象となる塗装鋼材の腐食環境に関する情報として出力する推定部と、
を備える、環境推定システム。
【0013】
(2)前記環境情報は、予め取得された複数の塗装鋼材の赤外線画像および前記複数の塗装鋼材の各赤外線画像に紐付けられた腐食環境に関する情報を含み、
前記推定部は、前記環境情報に含まれる複数の赤外線画像の中から、前記取得部が取得した赤外線画像に類似する赤外線画像を抽出し、抽出した前記赤外線画像に紐付けられた前記腐食環境に関する情報を、前記推定対象となる塗装鋼材の腐食環境に関する情報として出力する、上記(1)に記載の環境推定システム。
【0014】
(3)前記環境情報において、予め取得された前記複数の塗装鋼材の赤外線画像に、可視光画像、母材の材質、および塗装仕様のうちの少なくとも一つが関連情報として紐付けられており、
前記取得部は、腐食環境の推定対象となる塗装鋼材の可視光画像、母材の材質および塗装仕様のうち前記関連情報に対応する少なくとも一つを付加情報としてさらに取得し、
前記推定部は、前記環境情報に含まれる複数の赤外線画像の中から、前記取得部が取得した赤外線画像および前記付加情報に対応する赤外線画像を抽出し、抽出した前記赤外線画像に紐付けられた前記腐食環境に関する情報を、前記推定対象となる塗装鋼材の腐食環境に関する情報として出力する、上記(2)に記載の環境推定システム。
【0015】
(4)前記環境情報は、予め取得された複数の塗装鋼材の赤外線画像および前記複数の塗装鋼材の腐食環境に関する情報の関係を機械学習することによって作成された予測モデルを含み、
前記推定部は、前記取得部が取得した赤外線画像を前記予測モデルに適用することによって得られる腐食環境に関する情報を、前記推定対象となる塗装鋼材の腐食環境に関する情報として出力する、上記(1)に記載の環境推定システム。
【0016】
(5)前記複数の塗装鋼材の赤外線画像および前記複数の塗装鋼材の腐食環境に関する情報の関係を機械学習することによって前記予測モデルを作成するモデル作成部をさらに備える、上記(4)に記載の環境推定システム。
【0017】
(6)前記予測モデルは、予め取得された前記複数の塗装鋼材の赤外線画像と、予め取得された前記複数の塗装鋼材の可視光画像、母材の材質および塗装仕様のうちの少なくとも一つを含む関連情報と、前記腐食環境に関する情報との関係を機械学習することによって作成されたモデルであり、
前記取得部は、腐食環境の推定対象となる塗装鋼材の可視光画像、母材の材質および塗装仕様のうち前記関連情報に対応する少なくとも一つを付加情報としてさらに取得し、
前記推定部は、前記取得部が取得した赤外線画像および前記付加情報を前記予測モデルに適用することによって得られる腐食環境に関する情報を、前記推定対象となる塗装鋼材の腐食環境に関する情報として出力する、上記(4)に記載の環境推定システム。
【0018】
(7)塗装鋼材の母材の材質および塗装仕様に応じて作成された、腐食環境と腐食時間と塗装鋼材の劣化度との関係を示す劣化情報と、前記推定部が出力した腐食環境に関する情報とを用いて、任意の母材の材質および塗装仕様の塗装鋼材の寿命を予測する予測部をさらに備える、上記(1)から(6)のいずれかに記載の環境推定システム。
【0019】
(8)前記予測部は、母材の材質および/または塗装仕様が互いに異なる複数の塗装鋼材について前記寿命を予測し、予測した前記寿命が最も長い塗装鋼材の母材の材質および塗装仕様を出力する、上記(7)に記載の環境推定システム。
【0020】
(9)コンピュータによって実行される方法であって、
(a)腐食環境の推定対象となる塗装鋼材の赤外線画像を取得するステップと、
(b)塗装鋼材の赤外線画像とその赤外線画像に対応する腐食環境に関する情報との関係を示す環境情報から、前記(a)のステップで取得した赤外線画像に対応する腐食環境に関する情報を取得し、取得した前記腐食環境に関する情報を、前記推定対象となる塗装鋼材の腐食環境に関する情報として出力するステップと、
を備える、環境推定方法。
【0021】
(10)前記環境情報は、予め取得された複数の塗装鋼材の赤外線画像および前記複数の塗装鋼材の各赤外線画像に紐付けられた腐食環境に関する情報を含み、
前記(b)のステップでは、前記環境情報に含まれる複数の赤外線画像の中から、前記(a)のステップで取得した赤外線画像に類似する赤外線画像を抽出し、抽出した前記赤外線画像に紐付けられた前記腐食環境に関する情報を、前記推定対象となる塗装鋼材の腐食環境に関する情報として出力する、上記(9)に記載の環境推定方法。
【0022】
(11)前記環境情報において、予め取得された前記複数の塗装鋼材の赤外線画像に、可視光画像、母材の材質、および塗装仕様のうちの少なくとも一つが関連情報として紐付けられており、
前記(a)のステップでは、腐食環境の推定対象となる塗装鋼材の可視光画像、母材の材質および塗装仕様のうち前記関連情報に対応する少なくとも一つを付加情報としてさらに取得し、
前記(b)のステップでは、前記環境情報に含まれる複数の赤外線画像の中から、前記(a)のステップで取得した赤外線画像および前記付加情報に対応する赤外線画像を抽出し、抽出した前記赤外線画像に紐付けられた前記腐食環境に関する情報を、前記推定対象となる塗装鋼材の腐食環境に関する情報として出力する、上記(10)に記載の環境推定方法。
【0023】
(12)前記環境情報は、予め取得された複数の塗装鋼材の赤外線画像および前記複数の塗装鋼材の腐食環境に関する情報の関係を機械学習することによって作成された予測モデルを含み、
前記(b)のステップでは、前記(a)のステップで取得した赤外線画像を前記予測モデルに適用することによって得られる腐食環境に関する情報を、前記推定対象となる塗装鋼材の腐食環境に関する情報として出力する、上記(9)に記載の環境推定方法。
【0024】
(13)(c)前記複数の塗装鋼材の赤外線画像および前記複数の塗装鋼材の腐食環境に関する情報の関係を機械学習することによって前記予測モデルを作成するステップをさらに備える、上記(12)に記載の環境推定方法。
【0025】
(14)前記予測モデルは、予め取得された前記複数の塗装鋼材の赤外線画像と、予め取得された前記複数の塗装鋼材の可視光画像、母材の材質および塗装仕様のうちの少なくとも一つを含む関連情報と、前記腐食環境に関する情報との関係を機械学習することによって作成されたモデルであり、
前記(a)のステップでは、腐食環境の推定対象となる塗装鋼材の可視光画像、母材の材質および塗装仕様のうち前記関連情報に対応する少なくとも一つを付加情報としてさらに取得し、
前記(b)のステップでは、前記(a)のステップで取得した赤外線画像および前記付加情報を前記予測モデルに適用することによって得られる腐食環境に関する情報を、前記推定対象となる塗装鋼材の腐食環境に関する情報として出力する、上記(12)に記載の環境推定方法。
【0026】
(15)(d)塗装鋼材の母材の材質および塗装仕様に応じて作成された、腐食環境と腐食時間と塗装鋼材の劣化度との関係を示す劣化情報と、前記(b)のステップで出力された腐食環境に関する情報とを用いて、任意の母材の材質および塗装仕様の塗装鋼材の寿命を予測するステップをさらに備える、上記(9)から(14)のいずれかに記載の環境推定方法。
【0027】
(16)前記(d)のステップでは、母材の材質および/または塗装仕様が互いに異なる複数の塗装鋼材について前記寿命を予測し、予測した前記寿命が最も長い塗装鋼材の母材の材質および塗装仕様を出力する、上記(15)に記載の環境推定方法。
【0028】
(17)上記(9)から(16)のいずれかに記載の環境推定方法をコンピュータに実行させるプログラム。
【0029】
(18)上記(1)から(8)のいずれかに記載の環境推定システムを用いた環境推定による耐食鋼の販売、あるいは構造物の維持保全サービスまたは保証サービスを特徴とするビジネス商品。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、塗装鋼材が曝されている腐食環境を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は、本発明の第1の実施形態に係る環境推定システムの概略構成を示すブロック図である。
図2図2は、本発明の第1の実施形態に係る環境推定システムの構成を具体的に示すブロック図である。
図3図3は、本発明の第1の実施形態に係る環境推定システムの動作を示すフロー図である。
図4図4は、本発明の第2の実施形態に係る環境推定システムの構成を示すブロック図である。
図5図5は、本発明の第2の実施形態に係る環境推定システムの動作を示すフロー図である。
図6図6は、本発明の実施の形態に係る環境推定システムを実現するコンピュータの一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
(第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態に係る環境推定システム、環境推定方法、およびプログラムについて図面を用いて説明する。
【0033】
[システム構成]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る環境推定システムの概略構成を示すブロック図である。図1に示すように、本実施形態に係る環境推定システム10は、取得部12と推定部14とを備えている。
【0034】
取得部12は、腐食環境の推定対象となる塗装鋼材の赤外線画像を取得する。本実施形態では、例えば、図示しない赤外線カメラによって、構造物において使用されている塗装鋼材の表面の塗装劣化部の赤外線画像を撮像し、撮像した赤外線画像を2次元ロックインアンプを用いて画像処理する。取得部12は、このようにして得られた画像処理後の赤外線画像を、塗装鋼材の赤外線画像として取得する。
【0035】
推定部14は、塗装鋼材の赤外線画像とその赤外線画像に対応する腐食環境に関する情報との関係を示す環境情報から、取得部12が取得した赤外線画像に対応する腐食環境に関する情報を取得する。本実施形態では、環境情報には、例えば、予め取得された複数の塗装鋼材の赤外線画像と、各赤外線画像に紐付けられた腐食環境に関する情報とが含まれる。環境情報は、例えば、母材および塗装仕様が異なる複数の塗装鋼材について種々の腐食試験(実環境での暴露試験、腐食進展試験等)を行うことによって予め作成される。なお、環境情報は、環境推定システム10の外部から推定部14に与えられてもよく、環境推定システム10に記憶部(例えば、後述の図2参照)を設け、その記憶部に予め記憶させてもよい。
【0036】
環境情報に含まれる赤外線画像は、例えば、腐食試験が行われた試験片(塗装鋼材)の表面の塗装劣化部を赤外線カメラによって撮像し、撮像した画像を2次元ロックインアンプを用いて画像処理することによって得られる画像である。また、環境情報に含まれる腐食環境に関する情報とは、例えば、試験片が曝されている環境を示す情報である。腐食環境に関する情報には、腐食環境の温度、湿度、塩化物イオン濃度および紫外線強度、ならびに腐食試験時の試験片の濡れ時間および乾湿繰り返し時間等が含まれる。
【0037】
推定部14は、上記環境情報から、取得部12が取得した赤外線画像に対応する腐食環境に関する情報を取得し、取得した腐食環境に関する情報を、推定対象となる塗装鋼材の腐食環境に関する情報として出力する。
【0038】
以上のように、本実施形態に係る環境推定システム10は、推定対象となる塗装鋼材の赤外線画像と、予め作成された環境情報とから、推定対象となる塗装鋼材が曝されている腐食環境を推定することができる。特に、本実施形態では、赤外線画像が用いられるので、塗膜下の腐食(母材と塗膜との間に生じた錆)の状態も考慮して腐食環境を推定することができる。このため、本実施形態に係る環境推定システム10によれば、塗装鋼材の外観に基づいて腐食環境を推定する場合に比べて、塗装鋼材の腐食環境を適切に推定することができる。
【0039】
次に、環境推定システム10の具体的な構成について説明する。図2は、本発明の一実施形態に係る環境推定システム10の構成を具体的に示すブロック図である。
【0040】
図2に示すように、環境推定システム10は、上述の取得部12および推定部14に加えてさらに、記憶部16および予測部18を備えている。記憶部16には、環境情報が記憶されている。環境情報は、上述したように、塗装鋼材の赤外線画像とその赤外線画像に対応する腐食環境に関する情報との関係を示す情報である。また、記憶部16には、塗装鋼材の母材の材質および塗装仕様に応じて作成された、腐食環境と腐食時間(塗装鋼材が腐食環境に暴露されている時間)と塗装鋼材の劣化度との関係を示す劣化情報が記憶されている。本実施形態では、劣化情報は、例えば、腐食時間と劣化度との関係を示す関数(ゴンペルツ関数等)である。具体的には、劣化情報は、例えば、腐食試験によって得られた種々のデータに基づいて、塗装鋼材の劣化度を説明変数とし、塗装鋼材の母材の材質、塗装仕様、腐食環境に関する情報(温度、湿度等)および腐食時間を目的変数として予め作成された関数である。
【0041】
取得部12は、上述したように、腐食環境の推定対象となる塗装鋼材の赤外線画像を取得する。推定部14は、記憶部16に記憶された環境情報から、取得部12が取得した赤外線画像に対応する腐食環境に関する情報を取得する。
【0042】
具体的には、推定部14は、まず、環境情報に含まれる複数の赤外線画像の中から、取得部12が取得した赤外線画像に類似する赤外線画像を抽出する。本実施形態では、推定部14は、例えば、サポートベクターマシン(SVM)等の公知のアルゴリズムを利用して、取得部12が取得した赤外線画像と、環境情報に含まれる複数の赤外線画像との類似度を評価する。
【0043】
本実施形態では、推定部14は、例えば、環境情報に含まれる複数の赤外線画像の中から、取得部12が取得した赤外線画像に最も類似する赤外線画像を抽出する。なお、推定部14は、環境情報に含まれる複数の赤外線画像の中から、取得部12が取得した赤外線画像に対する類似度が予め設定された類似度の条件を満たす1または複数の赤外線画像を抽出してもよい。
【0044】
推定部14は、上記のようにして赤外線画像を抽出した後、抽出した赤外線画像に紐付けられた腐食環境に関する情報を、推定対象となる塗装鋼材の腐食環境に関する情報として出力する。
【0045】
予測部18は、記憶部16に記憶された劣化情報と、推定部14が出力した腐食環境に関する情報とを用いて、任意の母材の材質および塗装仕様の塗装鋼材の寿命を予測する。本実施形態では、例えば、環境推定システム10のユーザによって、塗装鋼材の母材の材質および塗装仕様が入力される。予測部18は、ユーザによって入力された母材の材質および塗装仕様に基づいて、推定部14が推定した腐食環境における塗装鋼材の寿命を予測する。
【0046】
また、本実施形態では、予測部18は、記憶部16に予め記憶された、母材の材質および/または塗装仕様が互いに異なる複数の塗装鋼材について、推定部14が推定した腐食環境における寿命を予測する。そして、予測部18は、予測した寿命が最も長い塗装鋼材の母材の材質および塗装仕様を出力する。なお、予測部18は、複数の塗装鋼材のうち、予測した寿命が長い側から順に抽出した複数の塗装鋼材の母材の材質および塗装仕様を出力してもよい。
【0047】
以上のように、本実施形態に係る環境推定システム10では、予測部18は、ユーザによって入力された母材の材質および塗装仕様に基づいて、塗装鋼材の寿命を予測する。したがって、環境推定システム10のユーザは、予測部18により予測された寿命に基づいて、構造部材において現在使用されている塗装鋼材の余寿命を把握することができる。
【0048】
また、予測部18は、複数の塗装鋼材について、推定部14が推定した腐食環境における寿命を予測するとともに、予測した寿命が最も長い塗装鋼材の母材の材質および塗装仕様を出力する。これにより、環境推定システム10のユーザは、構造部材が曝されている腐食環境に適した塗装鋼材を容易に把握することができる。
【0049】
[システム動作]
次に、本実施形態に係る環境推定システム10の動作について説明する。図3は、本実施形態に係る環境推定システム10の動作を示すフロー図である。なお、本発明の第1の実施形態に係る環境推定方法は、環境推定システム10を動作させることによって実施される。
【0050】
本実施形態では、まず、取得部12が、上述したように、腐食環境の推定対象となる塗装鋼材の赤外線画像を取得する(ステップS1)。次に、推定部14が、記憶部16に記憶されている環境情報から、取得部12が取得した赤外線画像に対応する腐食環境に関する情報を取得し、取得した腐食環境に関する情報を、推定対象となる塗装鋼材の腐食環境に関する情報として出力する(ステップS2)。
【0051】
次に、予測部18が、上述したように、任意の母材の材質および塗装仕様の塗装鋼材について、推定部14が推定した腐食環境における寿命を予測する(ステップS3)。本実施形態では、予測部18は、ユーザによって入力された母材の材質および塗装仕様に基づいて、塗装鋼材の寿命を予測する。また、予測部18は、記憶部16に予め記憶された複数種の塗装鋼材について、推定部14が推定した腐食環境における寿命を予測する。
【0052】
最後に、予測部18は、ステップS3において寿命を予測した複数種の塗装鋼材のうち、予測寿命が最も長い塗装鋼材の母材の材質および塗装仕様を出力する(ステップS4)。本実施形態では、塗装鋼材の赤外線画像が環境推定システム10に入力されるごとに、ステップS1~ステップS4の処理が実行される。
【0053】
[プログラム]
本発明の第1の実施形態に係るプログラムは、コンピュータに、上述のステップS1~S4の処理を実行させるプログラムであればよい。このプログラムをコンピュータにインストールし、実行することによって、本実施形態に係る環境推定システムと環境推定方法とを実現することができる。この場合、コンピュータのプロセッサは、取得部12、推定部14および予測部18として機能し、処理を行なう。
【0054】
また、本実施形態では、記憶部16は、コンピュータに備えられたハードディスク等の記憶装置に、これを構成するデータファイルを格納することによって、又はこのデータファイルが格納された記録媒体をコンピュータと接続された読取装置に搭載することによって実現されている。
【0055】
また、本実施形態に係るプログラムは、複数のコンピュータによって構築されたコンピュータシステムによって実行されてもよい。この場合、各コンピュータがそれぞれ、取得部12、推定部14および予測部18として機能してもよい。
【0056】
(変形例)
上述の実施形態では、環境情報には、予め取得された複数の塗装鋼材の赤外線画像と、各赤外線画像に紐付けられた腐食環境に関する情報とが含まれる場合について説明したが、環境情報の構成は上述の例に限定されない。例えば、環境情報において、予め取得された各塗装鋼材の赤外線画像に、その塗装鋼材を撮像して得られた可視光画像(可視光カメラによって撮像される塗装鋼材の外観写真)、その塗装鋼材の母材の材質、およびその塗装鋼材の塗装仕様のうちの少なくとも一つが関連情報としてさらに紐付けられていてもよい。
【0057】
環境情報が上記のように構成される場合、取得部12が、推定対象となる塗装鋼材の赤外線画像に加えてさらに、推定対象となる塗装鋼材の可視光画像、母材の材質および塗装仕様のうち上記関連情報に対応する少なくとも一つを付加情報として取得してもよい。そして、推定部14が、環境情報に含まれる複数の赤外線画像の中から、取得部12が取得した赤外線画像および上記付加情報に対応する赤外線画像を抽出し、抽出した赤外線画像に紐付けられた腐食環境に関する情報を、推定対象となる塗装鋼材の腐食環境に関する情報として出力してもよい。
【0058】
より具体的には、例えば、環境情報において、予め取得された各塗装鋼材の赤外線画像に、その塗装鋼材を撮像して得られた可視光画像が関連情報として紐付けられている場合、推定部14は、まず、上述の実施形態と同様に、環境情報に含まれる複数の赤外線画像の中から、取得部12が取得した赤外線画像に最も類似する赤外線画像を抽出する(ステップA)。
【0059】
次に、推定部14は、抽出した赤外線画像に関連情報として紐付けられた可視光画像と取得部12が付加情報として取得した可視光画像との類似度を算出し、算出した類似度が予め設定された類似度の条件を満たしているか否かを判別する(ステップB)。なお、推定部14は、例えば、サポートベクターマシン(SVM)等の公知のアルゴリズムを利用して、可視光画像の類似度を算出することができる。
【0060】
算出した類似度が予め設定された類似度の条件を満たしていない場合、推定部14は、環境情報に含まれる複数の赤外線画像のうち既に抽出した赤外線画像以外の複数の赤外線画像の中から、取得部12が取得した赤外線画像に最も類似する赤外線画像を抽出する(ステップC)。推定部14は、抽出した赤外線画像に紐付けられた可視光画像と取得部12が取得した可視光画像との類似度が予め設定された類似度の条件を満たすまで、上記ステップBおよびCの処理を繰り返す。
【0061】
推定部14は、抽出した赤外線画像に紐付けられた可視光画像と取得部12が取得した可視光画像との類似度が予め設定された類似度の条件を満たしている場合、抽出した赤外線画像に紐付けられた腐食環境に関する情報を、推定対象となる塗装鋼材の腐食環境に関する情報として出力する(ステップD)。
【0062】
以上のように、本実施形態では、赤外線画像だけでなく、可視光画像の類似度も考慮して、推定対象となる塗装鋼材が曝されている腐食環境を推定することができる。これにより、塗装鋼材の腐食環境をより精度よく推定することができる。
【0063】
なお、環境情報において、予め取得された各塗装鋼材の赤外線画像に、その塗装鋼材の母材の材質および/またはその塗装鋼材の塗装仕様が関連情報として紐付けられている場合、推定部14は、例えば、環境情報に含まれる複数の赤外線画像のうち、取得部12が付加情報として取得した母材の材質および/または塗装仕様が紐付けられた赤外線画像の中から、取得部12が取得した赤外線画像に類似する赤外線画像を抽出する。この場合、塗装鋼材の母材の材質および/または塗装仕様を考慮して、推定対象となる塗装鋼材が曝されている腐食環境を推定することができるので、塗装鋼材の腐食環境をより精度よく推定することができる。
【0064】
(第2の実施形態)
以下、本発明の第2の実施形態に係る環境推定システム、環境推定方法、およびプログラムについて図面を用いて説明する。なお、以下においては、上述の第1の実施の形態と異なる部分について主に説明する。
【0065】
[システム構成]
図4は、本発明の第2の実施形態に係る環境推定システムの構成を示すブロック図である。図1に示すように、本実施形態に係る環境推定システム10aは、取得部12、推定部14、記憶部16、予測部18およびモデル作成部20を備えている。
【0066】
記憶部16には、上述の環境推定システム10と同様に、環境情報として、予め取得された複数の塗装鋼材の赤外線画像と、各赤外線画像に紐付けられた腐食環境に関する情報とが記憶されている。さらに、本実施形態では、記憶部16には、環境情報として、予め取得された上記複数の塗装鋼材の赤外線画像と、各塗装鋼材の上記腐食環境に関する情報との関係を機械学習することによって作成された予測モデルが記憶されている。また、上述の環境推定システム10と同様に、記憶部16には、腐食環境と腐食時間と塗装鋼材の劣化度との関係を示す劣化情報が記憶されている。
【0067】
本実施形態では、モデル作成部20によって予測モデルが作成される。具体的には、モデル作成部20は、例えば、複数の塗装鋼材の赤外線画像および複数の塗装鋼材の腐食環境に関する情報を訓練データとして用いて、複数の塗装鋼材の赤外線画像と複数の塗装鋼材の腐食環境に関する情報との関係を機械学習することによって予測モデルを作成する。
【0068】
取得部12は、上述の環境推定システム10と同様に、腐食環境の推定対象となる塗装鋼材の赤外線画像を取得する。推定部14は、取得部12が取得した赤外線画像を記憶部16に記憶されている予測モデルに適用することによって、当該赤外線画像に対応する腐食環境に関する情報を取得する。推定部14は、取得した腐食環境に関する情報を、推定対象となる塗装鋼材の腐食環境に関する情報として出力する。
【0069】
予測部18は、上述の環境推定システム10と同様に、任意の母材の材質および塗装仕様の塗装鋼材について、記憶部16に記憶された劣化情報を用いて、推定部14が推定した腐食環境における寿命を予測する。具体的には、予測部18は、ユーザによって入力された母材の材質および塗装仕様に基づいて、推定部14が推定した腐食環境における塗装鋼材の寿命を予測する。また、予測部18は、記憶部16に予め記憶された、母材の材質および/または塗装仕様が互いに異なる複数の塗装鋼材について、推定部14が推定した腐食環境における寿命を予測する。そして、予測部18は、予測した寿命が最も長い塗装鋼材の母材の材質および塗装仕様を出力する。
【0070】
以上のように、本実施形態に係る環境推定システム10aでは、予め取得された複数の塗装鋼材の赤外線画像と各塗装鋼材の腐食環境に関する情報との関係を機械学習することによって作成された予測モデルを用いて、推定対象となる塗装鋼材の腐食環境を推定することができる。この場合、腐食試験によって予め取得された複数の塗装鋼材の赤外線画像のなかに、推定対象となる塗装鋼材の赤外線画像に対応する赤外線画像が存在しない場合でも、上記予測モデルを用いることによって、推定対象となる塗装鋼材の腐食環境を適切に推定することができる。
【0071】
[システム動作]
次に、本実施形態に係る環境推定システム10aの動作について説明する。図5は、本実施形態に係る環境推定システム10aの動作を示すフロー図である。なお、本発明の第2の実施形態に係る環境推定方法は、環境推定システム10aを動作させることによって実施される。
【0072】
本実施形態では、まず、モデル作成部20によって予測モデルが作成される(ステップS11)。次に、取得部12が、上述したように、腐食環境の推定対象となる塗装鋼材の赤外線画像を取得する(ステップS12)。なお、ステップS11の処理は、ステップS12の処理の前に実行されてもよく、ステップS12の処理の後に実行されてもよい。
【0073】
次に、推定部14が、上述したように、記憶部16に記憶されている予測モデルを用いて、取得部12が取得した赤外線画像に対応する腐食環境に関する情報を取得し、取得した腐食環境に関する情報を、推定対象となる塗装鋼材の腐食環境に関する情報として出力する(ステップS13)。
【0074】
次に、予測部18が、上述したように、任意の母材の材質および塗装仕様の塗装鋼材について、推定部14が推定した腐食環境における寿命を予測する(ステップS14)。具体的には、予測部18は、ユーザによって入力された母材の材質および塗装仕様に基づいて、塗装鋼材の寿命を予測する。また、予測部18は、記憶部16に予め記憶された複数種の塗装鋼材について、推定部14が推定した腐食環境における寿命を予測する。
【0075】
最後に、予測部18は、ステップS14において寿命を予測した複数種の塗装鋼材のうち、予測寿命が最も長い塗装鋼材の母材の材質および塗装仕様を出力する(ステップS15)。本実施形態では、塗装鋼材の赤外線画像が環境推定システム10aに入力されるごとに、ステップS12~ステップS15の処理が実行される。
【0076】
[プログラム]
本発明の第2の実施形態に係るプログラムは、コンピュータに、上述のステップS11~S15の処理を実行させるプログラムであればよい。このプログラムをコンピュータにインストールし、実行することによって、本実施形態に係る環境推定システムと環境推定方法とを実現することができる。この場合、コンピュータのプロセッサは、取得部12、推定部14、予測部18およびモデル作成部20として機能し、処理を行なう。
【0077】
また、本実施形態では、記憶部16は、コンピュータに備えられたハードディスク等の記憶装置に、これを構成するデータファイルを格納することによって、又はこのデータファイルが格納された記録媒体をコンピュータと接続された読取装置に搭載することによって実現されている。
【0078】
また、本実施形態に係るプログラムは、複数のコンピュータによって構築されたコンピュータシステムによって実行されてもよい。この場合、各コンピュータがそれぞれ、取得部12、推定部14、予測部18およびモデル作成部20として機能してもよい。
【0079】
(変形例)
上述の実施形態では、予め取得された複数の塗装鋼材の赤外線画像と、各塗装鋼材の上記腐食環境に関する情報との関係を機械学習することによって作成された予測モデルを用いる場合について説明したが、利用される予測モデルは上述の例に限定されない。例えば、予め取得された複数の塗装鋼材の赤外線画像と、予め取得された可視光画像、母材の材質および塗装仕様のうちの少なくとも一つを含む関連情報と、腐食環境に関する情報との関係を機械学習することによって作成された予測モデルを利用してもよい。本実施形態では、例えば、複数の塗装鋼材の赤外線画像と、可視光画像、母材の材質および塗装仕様のうちの少なくとも一つを含む関連情報と、複数の塗装鋼材の腐食環境に関する情報とを訓練データとして用いて、モデル作成部20が、複数の塗装鋼材の赤外線画像と、関連情報と、腐食環境に関する情報との関係を機械学習することによって上記予測モデルを作成することができる。
【0080】
上記予測モデルを利用する場合、取得部12は、推定対象となる塗装鋼材の赤外線画像に加えて、推定対象となる塗装鋼材の可視光画像、母材の材質および塗装仕様のうち上記関連情報に対応する少なくとも一つを付加情報として取得する。なお、これらの情報は、例えば、ユーザによって入力される。推定部14は、取得部12が取得した赤外線画像および上記付加情報を上記予測モデルに適用することによって得られる腐食環境に関する情報を、推定対象となる塗装鋼材の腐食環境に関する情報として出力する。より具体的には、可視光画像を訓練データとして用いて機械学習した予測モデルを用いる場合には、取得部12は付加情報として可視光画像を取得し、推定部14は取得部12が取得した赤外線画像および可視光画像を予測モデルに適用することによって腐食環境を推定する。同様に、母材の材質を訓練データとして用いて機械学習した予測モデルを用いる場合には、取得部12は付加情報として母材の材質を取得し、推定部14は取得部12が取得した赤外線画像および母材の材質を予測モデルに適用することによって腐食環境を推定する。塗装仕様を訓練データとして用いて機械学習した予測モデルを用いる場合には、取得部12は付加情報として塗装仕様を取得し、推定部14は取得部12が取得した赤外線画像および塗装仕様を予測モデルに適用することによって腐食環境を推定する。
【0081】
本変形例に係る環境推定システム10aでは、赤外線画像に加えて、可視光画像、母材の材質および塗装仕様のうちの少なくとも一つを考慮して、推定対象となる塗装鋼材の腐食環境を推定することができる。これにより、腐食環境をより精度よく推定することが可能になる。
【0082】
[物理構成]
図6は、本発明の実施形態に係る環境推定システム10,10aを実現するコンピュータの一例を示すブロック図である。コンピュータ110は、本発明の実施形態に係るプログラムを実行することによって、環境推定システム10,10aを実現する。
【0083】
図6に示すように、コンピュータ110は、CPU111と、メインメモリ112と、記憶装置113と、入力インターフェイス114と、表示コントローラ115と、データリーダ/ライタ116と、通信インターフェイス117とを備える。これらの各部は、バス121を介して、互いにデータ通信可能に接続される。なお、コンピュータ110は、CPU111に加えて、又はCPU111に代えて、GPU(Graphics Processing Unit)、又はFPGA(Field-Programmable Gate Array)を備えていてもよい。
【0084】
CPU111は、記憶装置113に格納された、本実施の形態におけるプログラム(コード)をメインメモリ112に展開し、これらを所定順序で実行することにより、各種の演算を実施する。メインメモリ112は、典型的には、DRAM(Dynamic Random Access Memory)等の揮発性の記憶装置である。また、本実施の形態におけるプログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体120に格納された状態で提供される。なお、本実施の形態におけるプログラムは、通信インターフェイス117を介して接続されたインターネット上で流通するものであってもよい。
【0085】
また、記憶装置113の具体例としては、ハードディスクドライブの他、フラッシュメモリ等の半導体記憶装置が挙げられる。入力インターフェイス114は、CPU111と、キーボードおよびマウスといった入力機器118との間のデータ伝送を仲介する。表示コントローラ115は、ディスプレイ装置119と接続され、ディスプレイ装置119での表示を制御する。
【0086】
データリーダ/ライタ116は、CPU111と記録媒体120との間のデータ伝送を仲介し、記録媒体120からのプログラムの読み出し、およびコンピュータ110における処理結果の記録媒体120への書き込みを実行する。通信インターフェイス117は、CPU111と、他のコンピュータとの間のデータ伝送を仲介する。
【0087】
また、記録媒体120の具体例としては、CF(Compact Flash(登録商標))およびSD(Secure Digital)等の汎用的な半導体記憶デバイス、フレキシブルディスク(Flexible Disk)等の磁気記録媒体、又はCD-ROM(Compact Disk Read Only Memory)などの光学記録媒体が挙げられる。
【0088】
なお、本実施形態に係る環境推定システム10,10aは、プログラムがインストールされたコンピュータではなく、各部に対応したハードウェアを用いることによって実現されてもよい、また、環境推定システム10,10aは、一部がプログラムで実現され、残りの部分がハードウェアで実現されていてもよい。
【0089】
[ビジネス商品]
本発明の実施の形態に係るビジネス商品は、上述の環境推定システム10,10aを用いた環境推定による耐食鋼(塗装鋼材またはその母材)の販売、あるいは構造物の維持保全サービスまたは保証サービスを特徴とする。具体的には、本発明に係るビジネス商品の一実施形態では、例えば、上述の環境推定システム10,10aを用いて、構造物において使用されている塗装鋼材の腐食環境を推定し、推定した腐食環境に適した塗装鋼材またはその母材を顧客に販売する。また、本発明に係るビジネス商品の他の実施形態では、例えば、上述の環境推定システム10,10aを用いて、構造物において使用されている種々の塗装鋼材の腐食環境を推定し、推定した腐食環境に基づいて、構造物の各塗装鋼材の維持保全サービス(補修、修繕等)を行う。また、本発明に係るビジネス商品のさらに他の実施形態では、例えば、構造物において交換または新たに使用される塗装鋼材またはその母材を販売するに際して、構造物において現在使用されている塗装鋼材の腐食環境を上述の環境推定システム10,10aを用いて推定し、推定した腐食環境に基づいて、保証サービスを付加する。より具体的には、例えば、上述の環境推定システム10,10aを用いて、塗装鋼材の腐食環境を推定するとともにその腐食環境における塗装鋼材の寿命を予測し、予測した寿命に基づいて保証期間を決定し、顧客に対して、決定した保証期間における品質を保証して塗装鋼材または母材を販売する。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明によれば、塗装鋼材が曝されている腐食環境を推定することができる。
【符号の説明】
【0091】
10,10a 環境推定システム
12 取得部
14 推定部
16 記憶部
18 予測部
20 モデル作成部

図1
図2
図3
図4
図5
図6