(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】シーラント材組成物およびそれを用いたタイヤ
(51)【国際特許分類】
C09K 3/10 20060101AFI20241218BHJP
B60C 19/12 20060101ALN20241218BHJP
【FI】
C09K3/10 A
C09K3/10 Z
C09K3/10 K
B60C19/12 A
(21)【出願番号】P 2021110041
(22)【出願日】2021-07-01
【審査請求日】2023-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】唐澤 悠一郎
(72)【発明者】
【氏名】齋木 丈章
(72)【発明者】
【氏名】岡松 隆裕
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特許第2854981(JP,B2)
【文献】特開昭60-115647(JP,A)
【文献】特開昭59-015442(JP,A)
【文献】特開昭57-042753(JP,A)
【文献】特開昭57-190069(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/10-3/12
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ内表面にシーラント層を備えた空気入りタイヤの前記シーラント層を構成するシーラント材組成物であって、
ゴム成分、粘着付与剤、可塑剤および架橋成分を含み、
鉄鋼材に対する粘着力が12N以上であ
り、
前記ゴム成分が、天然ゴム、合成イソプレンゴム、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム、ブタジエンゴムまたはこれらのブレンドであり、
前記架橋成分が加硫促進剤を含み、前記加硫促進剤が、チアゾール系加硫促進剤、スルフェンアミド系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤およびチウラム系加硫促進剤から選択された1種以上である
ことを特徴とするシーラント材組成物。
【請求項2】
30℃での複素粘度が、1000Pa・s以上であることを特徴とする請求項1に記載のシーラント材組成物。
【請求項3】
前記粘着付与剤が、炭化水素樹脂であることを特徴とする請求項
1または2に記載のシーラント材組成物。
【請求項4】
前記粘着付与剤の配合量が、前記ゴム成分100質量部に対し30質量部未満であることを特徴とする請求項1~
3のいずれかに記載のシーラント材組成物。
【請求項5】
前記可塑剤が、オイルまたは液状ゴムであることを特徴とする請求項1~
4のいずれかに記載のシーラント材組成物。
【請求項6】
前記可塑剤の配合量が、前記ゴム成分100質量部に対し20~150質量部であることを特徴とする請求項1~
5のいずれかに記載のシーラント材組成物。
【請求項7】
前記架橋成分が、硫黄および加硫促進剤を含むことを特徴とする請求項1~
6のいずれかに記載のシーラント材組成物。
【請求項8】
前記硫黄の配合量が、前記ゴム成分100質量部に対し、0.1~10質量部であることを特徴とする請求項
7に記載のシーラント材組成物。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれかに記載のシーラント材組成物を使用したタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シーラント材組成物およびそれを用いたタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤにおいて、トレッド部におけるインナーライナー層のタイヤ径方向内側にシーラント層を設けた空気入りタイヤが知られている。このような空気入りタイヤでは、釘等の異物がトレッド部に突き刺さった際に、その貫通孔にシーラント材が流入することによりシール性を発揮し、空気圧の減少を抑制し、走行を維持することが可能になる。
【0003】
前記シール性の向上は、一般的にゴム成分としてブチルゴムを用い、可塑剤を多量に配合してシーラント材の粘性を下げ、シーラント材が貫通孔内に流入し易くすることにより達成できることが知られている。例えば下記特許文献には、タイヤ内表面にシーラント層を備えた空気入りタイヤの前記シーラント層を構成するシーラント材組成物であって、ハロゲン化ブチルゴム100質量部に対して、架橋助剤1質量部~40質量部、分子量が10000~60000である液状イソブチレン‐イソプレン共重合体50質量部~400質量部、有機過酸化物1質量部~40質量部が配合されたことを特徴とするシーラント材組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、釘等の異物がトレッド部に突き刺さった際に形成された貫通孔に対するシール性を、従来技術よりも十分に向上させ得るシーラント材組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、ゴム成分、粘着付与剤、可塑剤および架橋成分を含み、鉄鋼材に対する粘着力を特定値以上に設定したシーラント材組成物が、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成することができた。
【0007】
本発明は、タイヤ内表面にシーラント層を備えた空気入りタイヤの前記シーラント層を構成するシーラント材組成物であって、ゴム成分、粘着付与剤、可塑剤および架橋成分を含み、鉄鋼材に対する粘着力が12N以上であることを特徴とするシーラント材組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のシーラント材組成物は、ゴム成分、粘着付与剤、可塑剤および架橋成分を含み、鉄鋼材に対する粘着力が12N以上であることを特徴としている。上記構成によれば、例えばシーラント材組成物の粘度が高い場合でも、釘等の異物がトレッド部に突き刺さった際に形成された貫通孔に対するシール性を、従来技術よりも十分に向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
(ゴム成分)
本発明で使用されるゴム成分は、例えば、天然ゴム(NR)、合成イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体ゴム(NBR)、エチレン-プロピレン-ジエンターポリマー(EPDM)等のジエン系ゴムや、ブチルゴム等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
中でも、本発明の効果向上の観点から、ゴム成分はNR、IR、SBR、BRまたはこれらのブレンドであることが好ましい。
【0010】
(粘着付与剤)
本発明で使用される粘着付与剤としては、例えば炭化水素樹脂が挙げられる。
炭化水素樹脂としては、原油を蒸留、分解、改質などの処理をして得られた成分を重合して製造される芳香族系炭化水素樹脂あるいは飽和または不飽和脂肪族系炭化水素樹脂等の石油系樹脂が挙げられる。石油系樹脂としては、例えばC5系石油樹脂(イソプレン、1,3-ペンタジエン、シクロペンタジエン、メチルブテン、ペンテンなどの留分を重合した脂肪族系石油樹脂)、C9系石油樹脂(α-メチルスチレン、o-ビニルトルエン、m-ビニルトルエン、p-ビニルトルエンなどの留分を重合した芳香族系石油樹脂)、C5C9共重合石油樹脂などが例示される。
【0011】
また、粘着付与剤のガラス転移温度(Tg)は、0℃よりも高いことが好ましい。このようにTgを規定することにより、流れ性が向上する。本発明で言うガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量測定(DSC)により20℃/分の昇温速度条件によりサーモグラムを測定し、転移域の中点の温度を指すものとする。
さらに好ましい前記Tgは、30℃以上90℃以下である。
また、粘着付与剤の数平均分子量は、400~2000であることが好ましい。この範囲の数平均分子量を有することにより、粘着力が向上する。
【0012】
(可塑剤)
本発明で使用される可塑剤としては、例えば、カルボン酸エステル可塑剤、リン酸エステル可塑剤、スルホン酸エステル可塑剤、オイル、液状ゴム等が挙げられる。
カルボン酸エステル可塑剤としては、公知のフタル酸エステル、イソフタル酸エステル、テトラヒドロフタル酸エステル、アジピン酸エステル、マレイン酸エステル、フマル酸エステル、トリメリット酸エステル、リノール酸エステル、オレイン酸エステル、ステアリン酸エステル、リシノール酸エステル等がある。
リン酸エステル可塑剤としては、公知のトリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ-(2-エチルヘキシル)ホスフェート、2-エチルヘキシルジフェニルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、イソデシルジフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリトリルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(クロロエチル)ホスフェート、ジフェニルモノ-o-キセニルホスフェート等がある。
スルホン酸エステル可塑剤としては、公知のベンゼンスルホンブチルアミド、トルエン
スルホンアミド、N-エチル-トルエンスルホンアミド、N-シクロヘキシル-p-トルエンスルホンアミド等がある。
オイルとしては、公知のパラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル等の鉱物油系オイルが挙げられる。
液状ゴムとしては、液状ポリイソプレン、液状ポリブタジエンおよび液状ポリスチレンブタジエン等が挙げられ、その重量平均分子量は1000~100000が好ましく、1500~75000がさらに好ましい。なお、本発明で言う平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で分析されるポリスチレン換算の数または重量平均分子量を意味する。なお本発明で使用される液状ゴムは、23℃で液体である。したがって、この温度では固体である前記のゴム成分とは区別される。
上記の中でも、本発明の効果向上の観点から、可塑剤としてはオイルまたは液状ゴムが好ましい。
【0013】
(架橋成分)
本発明で使用される架橋成分としては、例えばシール性を向上させる成分として硫黄、加硫促進剤等が挙げられる。
本発明で使用される加硫促進剤としては、例えば、公知のグアジニン系、チアゾール系、スルフェンアミド系、チオウレア系、ジチオカルバミン酸塩系、キサントゲン酸塩系、チウラム系の加硫促進剤等が挙げられ、中でもチアゾール系加硫促進剤、スルフェンアミド系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤およびチウラム系加硫促進剤から選択された1種以上が好ましい。
【0014】
(シーラント材組成物の配合割合)
本発明のシーラント材組成物は、好適な形態において、ゴム成分100質量部に対し、粘着付与剤を30質量部未満、可塑剤を20~150質量部、硫黄を0.1~10質量部、加硫促進剤を0.1~10質量部配合してなる。
ゴム成分100質量部に対し、粘着付与剤の前記配合量が30質量部未満であることにより、本発明の効果が高まるとともに、シーラント材組成物の粘度温度依存性および保管性が良好となる。粘着付与剤の前記配合量は、1~29質量部が好ましく、10~29質量部がさらに好ましい。なお、上記とは別の形態において、釘等と粘着付与剤との粘着力の向上の観点から、粘着付与剤はゴム成分100質量部に対し90質量部を超えて配合することもできる。この形態において、粘着付与剤の前記配合量は、90質量部超150質量部以下が好ましい。
ゴム成分100質量部に対し、可塑剤の前記配合量が20質量部以上であることにより、シール性がさらに向上する。一方、可塑剤の前記配合量が150質量部以下であることにより、鉄鋼材に対する粘着力が増大する。可塑剤の前記配合量は、30~90質量部がさらに好ましい。
また、硫黄または加硫促進剤の前記配合量が0.1~10質量部の範囲であることにより、シール性が向上する。本発明におけるシーラント材組成物は、架橋成分として硫黄を配合する場合、動的架橋することも可能である。
【0015】
(その他成分)
本発明におけるシーラント材組成物には、前記した成分以外の、加硫又は架橋剤;加硫又は架橋促進剤;酸化亜鉛;老化防止剤;カーボンブラック等の各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練して組成物とすることができ、これらの添加剤の配合量も、本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0016】
本発明におけるシーラント材組成物は、30℃での複素粘度が、1000Pa・s以上であることが好ましい。30℃での複素粘度が、1000Pa・s以上であることにより、シーラント材組成物が過度に流動せず、優れた流れ性を示し、シール性の劣化を防止できる。30℃での複素粘度は、3000~15000Pa・sが好ましく、5000~10000Pa・sがさらに好ましい。
なお複素粘度は、ASTM D4440に記載の方法により測定できる。
【0017】
本発明におけるシーラント材組成物は、鉄鋼材に対する粘着力が12N以上であることが必要である。鉄鋼材に対する粘着力が12N以上であることにより、例えばシーラント材組成物の複素粘度が上記のように高い場合でも、釘等の異物がトレッド部に突き刺さった際に形成された貫通孔に対するシール性を、従来技術よりも十分に向上させることができる。一方、該粘着力が12N未満では、シール性を十分に発現することができない。
なお本発明で言う、シーラント材組成物の鉄鋼材に対する粘着力とは、加硫後のシーラント材組成物の、鉄鋼材に対する粘着力を意味する。
前記鉄鋼材に対する粘着力は、12~25Nが好ましく、15~20Nがさらに好ましい。
該粘着力は、株式会社東洋精機製作所製ピクマタックテスタにより測定できる。測定条件は以下の通りである。
接触子圧着力:4.9N
圧着時間:10秒
圧着速度:50cm/min
剥離速度:125cm/min
他着側:鉄鋼材(炭素濃度は通常範囲であることができ、例えば0.0218~2.14%である)
【0018】
本発明のシーラント材組成物は、空気入りタイヤにおいて、トレッド部におけるインナーライナー層のタイヤ径方向内側にシーラント層として設けることができる。該シーラント層は、本発明のシーラント材組成物からなるシーラント材を加硫し、シート状に成型し、これをタイヤ内表面の全周に亘って貼付することで形成することができる。これとは別にシーラント層は、該シーラント材を加硫し、紐状または帯状に成型し、タイヤ内表面に螺旋状に貼付することでも形成できる。該シーラント層は、釘等の異物がトレッド部に突き刺さった際に、その貫通孔にシーラント層を構成するシーラント材が流入することにより、空気圧の減少を抑制し、走行を維持することを可能にするものである。シーラント層は、例えば0.5mm~5.0mmの厚さを有する。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。なお、下記例中、「部」とあるのは「質量部」を意味する。
【0020】
実施例1~5および比較例1
表1に示す配合(質量部)において、1.7リットルの密閉式バンバリーミキサーで40分間混練し、シーラント材組成物を得た。次に得られたシーラント材組成物を所定の金型中で180℃、10分間プレス加硫して厚さ3mmのシーラント材を得た。
【0021】
上記で得られたシーラント材組成物の粘着力を、上記記載の方法で測定した。
また、上記で得られたシーラント材組成物の30℃での複素粘度を、上記記載の方法で測定した。
【0022】
タイヤサイズ215/55R17であり、トレッド部と一対のサイドウォール部と一対のビード部とを備え、トレッド部におけるインナーライナー層のタイヤ径方向内側にシーラントからなるシーラント層を有する空気入りタイヤにおいて、シーラント層として上記シーラント材を貼り付け、試験タイヤを製作した。得られた試験タイヤについて、下記物性を測定した。
【0023】
シール性:
試験タイヤをリムサイズ17×7Jのホイールに組み付けて、初期空気圧を250kPaとし、直径4mmの釘をトレッド部に打ち、抜いてから1時間放置した後、空気圧を測定した。評価結果は、放置後の空気圧が230kPa以上かつ250kPa以下である場合を「〇」で示し、放置後の空気圧が200kPa以上かつ230kPa未満である場合を「△」で示し、放置後の空気圧が200kPa未満である場合を「×」で示した。
【0024】
結果を表1に示す。
【0025】
【0026】
*1:NR(SIR20)
*2:SBR(日本ゼオン株式会社製Nipol 1502)
*3:粘着付与剤(ENEOS株式会社製T-REZ RC115、C5石油樹脂)
*4:可塑剤(出光興産株式会社社製ダイアナプロセスオイルNP250(ナフテン系プロセスオイル))
*5:硫黄(鶴見化学工業株式会社製金華印油入微粉硫黄)
*6:加硫促進剤DM-PO(三新化学工業株式会社製サンセラーDM-PO)
【0027】
表1の結果から、各実施例のシーラント材組成物は、ゴム成分、粘着付与剤、可塑剤および架橋成分を含み、鉄鋼材に対する粘着力が12N以上であるので、優れたシール性を示した。
これに対し、比較例1は鉄鋼材に対する粘着力が9.4Nであり、本発明で規定する下限未満であるので、シール性が悪化した。