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特許7606102非水電解液用容器、及び非水電解液の保存方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】非水電解液用容器、及び非水電解液の保存方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/06 20060101AFI20241218BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20241218BHJP
【FI】
C23C22/06
H01M10/0567
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021524884
(86)(22)【出願日】2020-06-03
(86)【国際出願番号】 JP2020022011
(87)【国際公開番号】W WO2020246519
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2023-05-29
(31)【優先権主張番号】P 2019105458
(32)【優先日】2019-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】弁理士法人航栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保 憲治
(72)【発明者】
【氏名】久永 一輝
(72)【発明者】
【氏名】池田 裕太
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-75692(JP,A)
【文献】特開2014-101136(JP,A)
【文献】特開2001-131765(JP,A)
【文献】国際公開第2012/042727(WO,A1)
【文献】特開2007-87704(JP,A)
【文献】特表2017-520100(JP,A)
【文献】特開2005-108531(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C22/00-22/86
C23G1/00-1/36
B65D85/00-85/90
H01M10/00-10/667
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
収容部を有する非水電解液用容器であって、
前記収容部がオーステナイト系ステンレス鋼製であり、
前記収容部における非水電解液との接液面に不動態層を有し、
当該不動態層表面において、鉄原子、クロム原子、ニッケル原子、及びモリブデン原子の総量に対するクロム原子の量が40質量%以上であり、
前記非水電解液が、下記一般式(2)で表される化合物及び下記一般式(3)で表される化合物を含む、非水電解液用容器。
【化1】
[一般式(2)中、Rは炭素数2~5の炭化水素基を表す。当該炭化水素基中の炭素原子-炭素原子結合間には、ヘテロ原子が含まれていてもよい。また、当該炭化水素基の任意の水素原子はハロゲン原子に置換されていても良い。]
【化2】
[一般式(3)中、X 及びX はそれぞれ独立にハロゲン原子を表す。M はアルカリ金属カチオン、アンモニウムイオン、又は有機カチオンを表す。]
【請求項2】
前記非水電解液が、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、2,2,2-トリフルオロエチルメチルカーボネート、2,2,2-トリフルオロエチルエチルカーボネート、2,2,2-トリフルオロエチルプロピルカーボネート、ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)カーボネート、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-1-プロピルメチルカーボネート、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-1-プロピルエチルカーボネート、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-1-プロピルプロピルカーボネート、ビス(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-1-プロピル)カーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ジフルオロエチレンカーボネート、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、2-フルオロプロピオン酸メチル、2-フルオロプロピオン酸エチル、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、フラン、テトラヒドロピラン、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、プロピオニトリル、ジメチルスルホキシド、スルホラン、γ-ブチロラクトン、及びγ-バレロラクトンからなる群から選ばれる少なくとも1種の非水有機溶媒を含む請求項1に記載の非水電解液用容器。
【請求項3】
前記オーステナイト系ステンレス鋼がSUS304である請求項1又は2に記載の非水電解液用容器。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の非水電解液用容器を用いる非水電解液の保存方法。
【請求項5】
非水電解液の保存温度が25℃以下である請求項に記載の非水電解液の保存方法。
【請求項6】
不活性雰囲気下で行う請求項又はに記載の非水電解液の保存方法。
【請求項7】
前記収容部に、前記一般式(2)で表される化合物及び前記一般式(3)で表される化合物を含む非水電解液を収容した請求項1又は2に記載の非水電解液用容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解液用容器、及び非水電解液の保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学デバイスである電池において、近年、情報関連機器、通信機器、すなわち、パソコン、ビデオカメラ、デジタルカメラ、携帯電話、スマートフォン等の小型、高エネルギー密度用途向けの蓄電システムや、電気自動車、ハイブリッド車、燃料電池車補助電源、電力貯蔵等の大型、パワー用途向けの蓄電システムが注目を集めている。その候補の一つがエネルギー密度や電圧が高く高容量が得られるリチウムイオン電池を始めとした非水電解液電池であり、現在、盛んに研究開発が行われている。
【0003】
非水電解液電池に用いられる非水電解液としては、環状カーボネートや、鎖状カーボネート、エステル等の溶媒に、溶質としてヘキサフルオロリン酸リチウム(以下「LiPF」とも記載する)や、ビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム(以下「LiFSI」とも記載する)、テトラフルオロホウ酸リチウム(以下「LiBF」とも記載する)等の含フッ素電解質を溶解した非水電解液が、高電圧及び高容量の電池を得るのに好適であることからよく利用されている。
【0004】
また、非水電解液には、非水電解液電池のサイクル特性、出力特性をはじめとする電池特性を向上させる目的で、添加剤と称される化合物を電解液中に少量(通常は0.001質量%以上10質量%以下)加える試みが広くなされており、添加剤としては、例えばジフルオロリン酸リチウム等のジハロリン酸塩が知られている。
【0005】
このような非水電解液の保管や輸送に用いる容器(以下、「非水電解液用容器」ともいう)として、密閉性、耐久性に優れるステンレス鋼製の容器が一般的に用いられている(例えば、特許文献1)。
ステンレス鋼は耐食性が高いため、例えば非水電解液が空気と接触し、非水電解液の腐食性が増した場合であっても、使用に支障を生じるような容器の腐食は起こりにくい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本国特開2015-74798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、電池の高性能化を図るうえで、非水電解液組成、特に非水電解液に用いる添加剤についての検討がさらに進められている。
本発明者らが、ジフルオロリン酸リチウム等のジハロリン酸塩を添加剤として含む非水電解液組成について検討していたところ、添加剤としてさらにエチレンスルフェート等のスルフェート化合物を併用することが好ましいことが分かってきた。しかし一方で、スルフェート化合物を用いた場合(特に、ジハロリン酸塩とスルフェート化合物を併用した場合)、非水電解液の保存容器として従来のステンレス鋼製の容器を用いると、意外なことに非水電解液へ鉄が多く溶出してしまい、容器の腐食が進行するだけでなく、非水電解液中に含みうる金属分の濃度規格を充足できない懸念が生じる上、この非水電解液を用いた非水電解液電池は短絡が発生しやすくなってしまうという新たな問題が生じることが分かった。
【0008】
本開示は、上記事情を鑑みてなされたものであり、非水電解液への鉄の溶出を抑制できる非水電解液用容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、かかる問題に鑑み、鋭意検討の結果、収容部がオーステナイト系ステンレス鋼製の容器の収容部における非水電解液との接液面に不動態層を形成させることにより、鉄の溶出を抑制できることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明者らは、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
【0011】
<1>
収容部を有する非水電解液用容器であって、
前記収容部がオーステナイト系ステンレス鋼製であり、
前記収容部における非水電解液との接液面に不動態層を有し、
当該不動態層表面において、鉄原子、クロム原子、ニッケル原子、及びモリブデン原子の総量に対するクロム原子の量が40質量%以上であり、
前記非水電解液が、下記一般式(2)で表される化合物含む、非水電解液用容器。
【0012】
【化1】
【0013】
[一般式(2)中、Rは炭素数2~5の炭化水素基を表す。当該炭化水素基中の炭素原子-炭素原子結合間には、ヘテロ原子が含まれていてもよい。また、当該炭化水素基の任意の水素原子はハロゲン原子に置換されていても良い。]
<2>
前記オーステナイト系ステンレス鋼がSUS304である<1>に記載の非水電解液用容器。
<3>
<1>又は<2>に記載の非水電解液用容器を用いる非水電解液の保存方法。
<4>
非水電解液の保存温度が25℃以下である<3>に記載の非水電解液の保存方法。
<5>
不活性雰囲気下で行う<3>又は<4>に記載の非水電解液の保存方法。
<6>
前記収容部に、前記一般式(2)で表される化合物含む非水電解液を収容した<1>又は<2>に記載の非水電解液用容器。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、非水電解液への鉄の溶出を抑制できる非水電解液用容器、及び上記非水電解液用容器を用いる非水電解液の保存方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下の実施形態における各構成及びそれらの組み合わせは例であり、本開示の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換及びその他の変更が可能である。また、本開示は実施形態によって限定されることはない。
本明細書において、「~」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0016】
[非水電解液用容器]
本開示の非水電解液用容器(以下、単に「容器」ともいう)は、収容部がオーステナイト系ステンレス鋼からなる非水電解液用容器であって、前記収容部における非水電解液との接液面表面に不動態層を有する容器である。
【0017】
本開示の容器は、収容部における非水電解液との接液面表面に不動態層を有しており、当該不動態層表面において、鉄原子、クロム原子、ニッケル原子、及びモリブデン原子の総量に対するクロム原子の量が40質量%以上であり、好ましくは40~65質量%である。
一般的なオーステナイト系ステンレス鋼が有する不動態膜は、ステンレス鋼表面に自然に生成する薄い酸化皮膜であり、当該不動態膜表面において、鉄原子、クロム原子、ニッケル原子、及びモリブデン原子の総量に対するクロム原子の量は20質量%程度である。
すなわち、本開示の容器における不動態層は、一般的なオーステナイト系ステンレス鋼における不動態膜よりもクロムが富んだ層である。
不動態層表面における、鉄原子、クロム原子、ニッケル原子、及びモリブデン原子の総量に対するクロム原子の量は、例えばオージェ電子分光によって定量することができる。
【0018】
なお、収容部における非水電解液との接液面に不動態層を有しているとは、少なくとも、収容部に非水電解液を充填し静置したときに、非水電解液と実際に接している収容部の内側表面に不動態層が形成されていることを示す。不動態層は、収容部の内側表面全面に形成されていることが好ましい。
【0019】
上記不動態層の形成は、酸洗浄及び電解研磨の少なくともいずれか1つの方法を用いることによって行うことができる。
酸洗浄は、硝酸などの強酸化剤中にステンレス鋼を浸漬するなどしてステンレス鋼表面を酸化処理する方法である。
電解研磨とは、ステンレス鋼を陽極(プラス側)にして、対極となる陰極(マイナス側)との間に電解液を介して直流電流を流すことでステンレス鋼表面を電解研磨する方法である。
本開示の容器は、装置や操作が簡便であるため、酸洗浄により不動態層が形成されることが好ましい。
【0020】
本開示の容器は、収容部がオーステナイト系ステンレス鋼製であればよく、例えば収容部の外側(非水電解液と接する面とは反対側)にその他の材質からなる外周部が形成されていてもよい。
外周部を形成する材料としては特に限定はないが、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ナイロン等のポリアミド樹脂等が挙げられる。
【0021】
また、本開示の容器は、蓋を有していても有していなくてもよいが、密閉性を高め、容器保存中の非水電解液と空気中の酸素等との接触による非水電解液の劣化を防止する観点から、蓋を有することが好ましい。
蓋の材質としては特に限定はないが、オーステナイト系ステンレス鋼製であることが好ましく、蓋の内側(上記収容部側に配置される面)表面においても前述と同様の不動態層を形成していることがより好ましい。
【0022】
本開示の容器の収容部に用いるオーステナイト系のステンレス鋼としては、SUS304、SUS316、SUS316L等が挙げられる。なお、SUS304、SUS316、SUS316Lは、日本工業規格JIS G 4305に規定されている。
【0023】
ステンレス鋼の耐食性は、形成される不動態膜の性能によって異なる。オーステナイト系ステンレス鋼の場合、この不動態膜を形成する主な成分は、クロム(Cr)とモリブデン(Mo)であり、これらの濃度が高いほど、不動態膜がち密となり、耐食性が良好であるとされている。また、Mo濃度の不動態膜の耐食性を向上させる効果は、Cr濃度のおよそ3倍とされている。
SUS304、SUS316の両鋼種には成分に差があり、SUS304には約18%のCrが含まれているが、Moが添加されていない。これに対し、SUS316には約18%のCrに加え約2%のMoが添加されているため、一般的には、SUS304に比較してSUS316の方が耐食性の良い材料とされている。
【0024】
しかし、後述の一般式(2)で表されるスルフェート化合物と一般式(3)で表されるジハロリン酸塩を併用した非水電解液の保存においては、意外にもSUS316よりもSUS304からなる収容部を擁する容器の方が、非水電解液への鉄の溶出抑制効果が高く、好ましく用い得る。
【0025】
本開示の容器の形状は特に限定されず、ボトル型、筒型等の任意の形状とすることができる。
ボトル型の容器は、容器の水平方向の断面形状が、円形、3~8角形等の多角形等の任意の形状とすることができる。中でも、容器の強度や加工性の観点から、水平方向の断面形状が円形であることが好ましい。また、容器の垂直方向に断面積を連続的に変化させることもできる。例えば、容器の高さ方向の中心付近の断面積を両端近傍よりも小さくすることにより、容器本体(胴体)の一部を細くしたくびれ構造を形成したり、容器表面に凹凸を施して、容器を掴み易くした構造等とすることもできる。
【0026】
本開示の容器の容量は特に限定されないが、取扱い性の観点から、10~200,000cmが好ましく、20~30,000cmがより好ましく、50~1,000cmが更に好ましく、100~500cmが特に好ましい。容器の胴径は特に限定されないが、取扱い性の観点から、50~150mmが好ましく、60~100mmがより好ましい。
【0027】
〔非水電解液〕
本開示の非水電解液用容器を用いて保存する非水電解液としては、一般式(2)で表される化合物を含むこと以外は特に限定されるものではないが、溶質及び非水有機溶媒を含む非水電解液であり、一般に用いられる添加成分を任意の比率でさらに含有していても良い。
非水電解液としては、一般式(2)で表される化合物に加えて、添加剤として後述の一般式(3)で表される化合物を含む非水電解液である場合において、特に本開示の上記非水電解液用容器を用いる効果が発揮される。
【0028】
<溶質について>
非水電解液に含まれる溶質はイオン性塩であることが好ましく、例えば、アルカリ金属イオン、及びアルカリ土類金属イオンからなる群から選ばれる少なくとも1種のカチオンと、ヘキサフルオロリン酸アニオン、テトラフルオロホウ酸アニオン、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、フルオロスルホン酸アニオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドアニオン、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン、(トリフルオロメタンスルホニル)(フルオロスルホニル)イミドアニオン、ビス(ジフルオロホスホル)イミドアニオン、(ジフルオロホスホル)(フルオロスルホニル)イミドアニオン、及び(ジフルオロホスホル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンからなる群から選ばれる少なくとも1種のアニオンの対からなるイオン性塩であることが好ましい。
【0029】
また、上記溶質であるイオン性塩のカチオンがリチウム、ナトリウム、カリウム、又はマグネシウムであり、アニオンがヘキサフルオロリン酸アニオン、テトラフルオロホウ酸アニオン、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン、ビス(ジフルオロホスホル)イミドアニオン、及び(ジフルオロホスホル)(フルオロスルホニル)イミドアニオンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが、非水有機溶媒に対する溶解度の高さや、その電気化学安定性の点から好ましい。
【0030】
これら溶質の好適濃度については、特に制限はないが、下限は0.5mol/L以上、好ましくは0.7mol/L以上、さらに好ましくは0.9mol/L以上であり、また、上限は2.5mol/L以下、好ましくは2.2mol/L以下、さらに好ましくは2.0mol/L以下の範囲である。0.5mol/L以上とすることで、イオン伝導度が低下することによる非水電解液電池のサイクル特性、出力特性の低下を抑制でき、2.5mol/L以下とすることで、非水電解液の粘度が上昇することによるイオン伝導度の低下、非水電解液電池のサイクル特性、出力特性の低下を抑制できる。また、これら溶質は単独で用いても良いし、複数を組み合わせて使用しても良い。
【0031】
<非水有機溶媒について>
非水電解液に用いる非水有機溶媒の種類は、特に限定されず、任意の非水有機溶媒を用いることができる。具体的には、エチルメチルカーボネート(以降「EMC」とも記載する)、ジメチルカーボネート(以降「DMC」とも記載する)、ジエチルカーボネート(以降「DEC」とも記載する)、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、2,2,2-トリフルオロエチルメチルカーボネート、2,2,2-トリフルオロエチルエチルカーボネート、2,2,2-トリフルオロエチルプロピルカーボネート、ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)カーボネート、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-1-プロピルメチルカーボネート、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-1-プロピルエチルカーボネート、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-1-プロピルプロピルカーボネート、ビス(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-1-プロピル)カーボネート、エチレンカーボネート(以降「EC」とも記載する)、プロピレンカーボネート(以降「PC」とも記載する)、ブチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート(以降「FEC」とも記載する)、ジフルオロエチレンカーボネート、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、2-フルオロプロピオン酸メチル、2-フルオロプロピオン酸エチル、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、フラン、テトラヒドロピラン、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、プロピオニトリル、ジメチルスルホキシド、スルホラン、γ-ブチロラクトン、及びγ-バレロラクトンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0032】
また、上記非水有機溶媒は、環状カーボネート及び鎖状カーボネートからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むものであると、高温でのサイクル特性に優れる点で好ましい。また、上記非水有機溶媒が、エステルを含むものであると、低温での入出力特性に優れる点で好ましい。
上記環状カーボネートの具体例としてEC、PC、ブチレンカーボネート、及びFEC等が挙げられ、中でもEC、PC、及びFECからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
上記鎖状カーボネートの具体例としてEMC、DMC、DEC、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、2,2,2-トリフルオロエチルメチルカーボネート、2,2,2-トリフルオロエチルエチルカーボネート、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-1-プロピルメチルカーボネート、及び1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-1-プロピルエチルカーボネート等が挙げられ、中でもEMC、DMC、DEC、及びメチルプロピルカーボネートからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
また、上記エステルの具体例として、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、2-フルオロプロピオン酸メチル、及び2-フルオロプロピオン酸エチル等が挙げられる。
【0033】
非水電解液は、ポリマーを含む事もできる。ポリマーには、一般にポリマー固体電解質と呼ばれるものも含まれる。ポリマー固体電解質には、可塑剤として非水有機溶媒を含有するものも含まれる。
【0034】
ポリマーは、上記溶質及び後述の添加剤を溶解できる非プロトン性のポリマーであれば特に限定されるものではない。例えば、ポリエチレンオキシドを主鎖又は側鎖に持つポリマー、ポリビニリデンフロライドのホモポリマー又はコポリマー、メタクリル酸エステルポリマー、ポリアクリロニトリルなどが挙げられる。これらのポリマーに可塑剤を加える場合は、上記の非水有機溶媒のうち非プロトン性非水有機溶媒が好ましい。
【0035】
<添加剤について>
高温における長期サイクル後の容量維持率の向上、高温貯蔵後の低温における抵抗増加抑制の観点から、非水電解液は下記一般式(2)で表される化合物を含む。
【0036】
【化3】
【0037】
[一般式(2)中、Rは炭素数2~5の炭化水素基を表す。当該炭化水素基中の炭素原子-炭素原子結合間には、ヘテロ原子が含まれていてもよい。また、当該炭化水素基の任意の水素原子はハロゲン原子に置換されていても良い。]
【0038】
一般式(2)中、Rは炭素数2~5の炭化水素基を表す。Rが表す炭化水素基としては、直鎖又は分岐状のアルキレン基、アルケニレン基やアルキニレン基等が挙げられる。
がアルキレン基を表す場合のアルキレン基としては具体的には、エチレン基、n-プロピレン基、i-プロピレン基、n-ブチレン基、s-ブチレン基、t-ブチレン基、n-ペンチレン基、-CHCH(C)-基等が挙げられる。
がアルケニレン基を表す場合のアルケニレン基としては具体的には、エテニレン基、プロペニレン基等が挙げられる。
がアルキニレン基を表す場合のアルキニレン基としては具体的には、エチニレン基、プロピニレン基等が挙げられる。
【0039】
が表す炭化水素基は、炭素原子-炭素原子結合間にヘテロ原子が含まれていてもよい。ヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子、硫黄原子等が挙げられる。
【0040】
が表す炭化水素基は、任意の水素原子がハロゲン原子に置換されていても良い。任意の水素原子がフッ素原子に置換された炭化水素基としては、テトラフルオロエチレン基、1,2-ジフルオロエチレン基、2,2-ジフルオロエチレン基、フルオロエチレン基、(トリフルオロメチル)エチレン基等が挙げられる。
【0041】
は、無置換の炭素数2~3のアルキレン基が好ましく、エチレン基がより好ましい。
【0042】
一般式(2)で表される化合物の非水電解液中の含有量は、非水電解液の総量に対して、0.01質量%以上、8.00質量%以下が好ましく、0.05質量%以上、3.00質量%以下がより好ましく、0.1質量%以上、2.50質量%以下が更に好ましい。
【0043】
非水電解液には、一般に用いられる添加成分を任意の比率でさらに添加しても良い。
【0044】
非水電解液は、一般式(2)で表される化合物に加えて、下記一般式(3)~(6)で表される化合物のいずれかを含むことが、高温における長期サイクル後の容量維持率の向上、高温貯蔵後の低温における抵抗増加抑制の観点から好ましい。
【0045】
【化4】
【0046】
[一般式(3)中、X及びXはそれぞれ独立にハロゲン原子を表す。M はアルカリ金属カチオン、アンモニウムイオン、又は有機カチオンを表す。]
【0047】
一般式(3)中、X及びXは、ハロゲン原子を表す。X及びXが表すハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、フッ素原子であることが好ましい。
及びXは同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましく、いずれもフッ素原子であることが好ましい。
【0048】
一般式(3)中、M はアルカリ金属カチオン、アンモニウムイオン、又は有機カチオンを表す。
が表すアルカリ金属カチオンとしては、リチウムカチオン、ナトリウムカチオン、カリウムカチオン等が挙げられる。
はアルカリ金属カチオンであることが好ましく、リチウムカチオンであることがより好ましい。
【0049】
【化5】
【0050】
[一般式(4)中、Rは炭素数2~6の炭化水素基を表す。当該炭化水素基中の炭素原子-炭素原子結合間には、ヘテロ原子が含まれていてもよい。また、当該炭化水素基の任意の水素原子はハロゲン原子に置換されていても良い。]
【0051】
一般式(4)中、Rは炭素数2~6の炭化水素基を表す。Rが表す炭化水素基としては、直鎖又は分岐状のアルキレン基、アルケニレン基やアルキニレン基等が挙げられる。
がアルキレン基を表す場合のアルキレン基としては具体的には、エチレン基、n-プロピレン基、i-プロピレン基、n-ブチレン基、s-ブチレン基、t-ブチレン基、n-ペンチレン基、-CHCH(C)-基、n-ヘキシレン基等が挙げられる。
がアルケニレン基を表す場合のアルケニレン基としては具体的には、エテニレン基、プロペニレン基等が挙げられる。
がアルキニレン基を表す場合のアルキニレン基としては具体的には、プロピニレン基等が挙げられる。
【0052】
が表す炭化水素基は、炭素原子-炭素原子結合間にヘテロ原子が含まれていてもよい。ヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子、硫黄原子等が挙げられる。
【0053】
が表す炭化水素基は、任意の水素原子がハロゲン原子に置換されていても良い。任意の水素原子がフッ素原子に置換された炭化水素基としては、テトラフルオロエチレン基、1,2-ジフルオロエチレン基、2,2-ジフルオロエチレン基、フルオロエチレン基、(トリフルオロメチル)エチレン基等が挙げられる。
【0054】
は、無置換の炭素数3~4のアルキレン基が好ましく、プロピレン基がより好ましい。
【0055】
【化6】
【0056】
[一般式(5)及び(6)中、Rは、それぞれ独立して、不飽和結合及び芳香環のうち少なくとも1種を有する置換基である。]
【0057】
上記Rが、アルケニル基、アリル基、アルキニル基、アリール基、アルケニルオキシ基、アリルオキシ基、アルキニルオキシ基、及びアリールオキシ基から選ばれる基であることが好ましい。
【0058】
アルケニル基はエテニル基が好ましく、アリル基は2-プロペニル基が好ましく、アルキニル基はエチニル基が好ましい。また、アリール基はフェニル基、2-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、4-フルオロフェニル基、4-tert-ブチルフェニル基、4-tert-アミルフェニル基が好ましい。
【0059】
アルケニルオキシ基はビニロキシ基が好ましく、アリルオキシ基は2-プロペニルオキシ基が好ましい。また、アルキニルオキシ基はプロパルギルオキシ基が好ましく、アリールオキシ基はフェノキシ基、2-メチルフェノキシ基、4-メチルフェノキシ基、4-フルオロフェノキシ基、4-tert-ブチルフェノキシ基、4-tert-アミルフェノキシ基が好ましい。
【0060】
また、上記一般式(5)及び(6)における3つのRのうち、少なくとも2つがエテニル基、エチニル基、又はその両方であることが、耐久性向上効果が高い観点から好ましい。
【0061】
上記一般式(2)~(6)で表される化合物以外の添加剤の具体例としては、シクロヘキシルベンゼン、シクロヘキシルフルオロベンゼン、フルオロベンゼン(以降、FBと記載する場合がある)、ビフェニル、ジフルオロアニソール、tert-ブチルベンゼン、tert-アミルベンゼン、2-フルオロトルエン、2-フルオロビフェニル、ビニレンカーボネート、ジメチルビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、メチルプロパルギルカーボネート、エチルプロパルギルカーボネート、ジプロパルギルカーボネート、無水マレイン酸、無水コハク酸、メチレンメタンジスルホネート、ジメチレンメタンジスルホネート、トリメチレンメタンジスルホネート、メタンスルホン酸メチル、テトラフルオロホウ酸リチウム、ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム(以降、LDFBOPと記載する場合がある)、ジフルオロビス(オキサラト)リン酸ナトリウム、ジフルオロビス(オキサラト)リン酸カリウム、ジフルオロオキサラトホウ酸リチウム(以降、LDFOBと記載する場合がある)、ジフルオロオキサラトホウ酸ナトリウム、ジフルオロオキサラトホウ酸カリウム、ビス(オキサラトホウ酸リチウム、ビス(オキサラトホウ酸ナトリウム、ビス(オキサラトホウ酸カリウム、テトラフルオロオキサラトリン酸リチウム(以降、LTFOPと記載する場合がある)、テトラフルオロオキサラトリン酸ナトリウム、テトラフルオロオキサラトリン酸カリウム、トリス(オキサラト)リン酸リチウム、トリス(オキサラト)リン酸ナトリウム、トリス(オキサラト)リン酸カリウム、エチルフルオロリン酸リチウム(以降、LEFPと記載する場合がある)、プロピルフルオロリン酸リチウム、フルオロリン酸リチウム、エテンスルホニルフルオリド(以降、ESFと記載する場合がある)、トリフルオロメタンスルホニルフルオリド(以降、TSFと記載する場合がある)、メタンスルホニルフルオリド(以降、MSFと記載する場合がある)、ジフルオロリン酸フェニル(以降、PDFPと記載する場合がある)等の過充電防止効果、負極皮膜形成効果や正極保護効果を有する化合物が挙げられる。
【0062】
一般式(2)で表される化合物以外のその他の添加剤の非水電解液中の含有量は、非水電解液の総量に対して、0.01質量%以上、8.00質量%以下が好ましく、0.05質量%以上、3.00質量%以下がより好ましく、0.1質量%以上、2.50質量%以下が更に好ましい。
【0063】
非水電解液は、一般式(2)で表される化合物に加えて上記一般式(3)~(6)で表される化合物のいずれかを含むことが、高温における長期サイクル後の容量維持率の向上、高温貯蔵後の低温における抵抗増加抑制の観点から好ましく、一般式(2)で表される化合物と一般式(3)で表される化合物の両方を含むことがさらに好ましい。
本開示の容器は、この、電池特性向上において有用である一般式(2)で表される化合物と一般式(3)で表される化合物の両方を含む非水電解液の保存において、鉄の溶出抑制の効果を特に発揮することができる。
【0064】
また、シュウ酸基を有するホウ素錯体のリチウム塩、シュウ酸基を有するリン錯体のリチウム塩、O=S-F結合を有する化合物、及びO=P-F結合を有する化合物のうち1種以上の化合物を含むことも好ましい態様として挙げられる。上記化合物を含むと、高温における長期サイクル後の容量維持率の向上、高温貯蔵後の低温における抵抗増加抑制を達成できるだけでなく、更にはNi含有電極を用いた際に該電極から電解液へのNi成分の溶出を低減できる観点から好ましい。
上記シュウ酸基を有するホウ素錯体のリチウム塩が、ジフルオロオキサラトホウ酸リチウムであり、シュウ酸基を有するリン錯体のリチウム塩が、テトラフルオロオキサラトリン酸リチウム、及びジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムからなる群から選ばれる少なくとも1種であると、高温における長期サイクル後の容量維持率の向上、高温貯蔵後の低温における抵抗増加抑制に加えて、正極からのNi成分の溶出抑制効果が特に優れているため、より好ましい。
上記O=S-F結合を有する化合物としては、例えば、フルオロスルホン酸リチウム、ビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム、(トリフルオロメタンスルホニル)(フルオロスルホニル)イミドリチウム、フルオロ硫酸プロピル、フルオロ硫酸フェニル、フルオロ硫酸-4-フルオロフェニル、フルオロ硫酸-4-tertブチルフェニル、フルオロ硫酸-4-tertアミルフェニル、エテンスルホニルフルオリド、トリフルオロメタンスルホニルフルオリド、メタンスルホニルフルオリド、フッ化ベンゼンスルホニル、フッ化-4-フルオロフェニルスルホニル、フッ化-4-tertブチルフェニルスルホニル、フッ化-4-tertアミルフェニルスルホニル、フッ化-2-メチルフェニルスルホニル等が挙げられ、中でも、フルオロスルホン酸リチウム、ビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム、(トリフルオロメタンスルホニル)(フルオロスルホニル)イミドリチウムからなる群から選ばれる少なくとも1種であると、高温における長期サイクル後の容量維持率の向上、高温貯蔵後の低温における抵抗増加抑制に加えて、正極からのNi成分の溶出を抑制できるため特に好ましい。
上記O=P-F結合を有する化合物としては、例えば、ジフルオロリン酸リチウム等の上記一般式(3)で表される化合物、エチルフルオロリン酸リチウム、ビス(ジフルオロホスホル)イミドリチウム、ジフルオロリン酸フェニルが挙げられ、中でも、ジフルオロリン酸リチウム、エチルフルオロリン酸リチウム、ビス(ジフルオロホスホル)イミドリチウムからなる群から選ばれる少なくとも1種であると、高温における長期サイクル後の容量維持率の向上、高温貯蔵後の低温における抵抗増加抑制、及び正極からのNi成分の溶出抑制効果をある程度有しつつ、上述のシュウ酸基を有するホウ素錯体のリチウム塩、シュウ酸基を有するリン錯体のリチウム塩、O=S-F結合を有する化合物に比べて特に生産性が高く、製造コストが安い点から好ましい。
上述のその他添加剤の中には、前記溶質と重複するものがあるが、添加剤として用いる場合は、前述の溶質濃度よりも低濃度で添加する。
【0065】
更には、ポリマー電池と呼ばれる非水電解液電池に使用される場合のように非水電解液をゲル化剤や架橋ポリマーにより擬固体化して使用することも可能である。
【0066】
本開示の非水電解液用容器は、収容部に、前記一般式(2)で表される化合物含む非水電解液を収容した非水電解液用容器であることが好ましい。
【0067】
[非水電解液の保存方法]
本開示は、上記非水電解液用容器を用いる非水電解液の保存方法にも関する。非水電解液は、上記非水電解液用容器の収容部に充填して保存される。
【0068】
容器中に非水電解液を充填する場合、その充填率は、容器の容量の20~98%が好ましく、30~97%がより好ましく、50~95%が更に好ましい。充填率が20%より少ないと、非水電解液中の低沸点溶媒が揮発しやすく、高沸点溶媒の濃度が高まるため、容器の開口部に固形物が析出しやすくなるため、密閉性が低下するおそれがある。一方、充填率が98%を超えると、蓋が非水電解液と接触しやすくなったり、容器内の内圧が上昇して、密閉性が低下するおそれがある。従って、上記の充填率の範囲が好ましい。また、充填される非水電解液の上面が、注液口より好ましくは1cm以上、より好ましくは2cm以上、更に好ましくは3cm以上低くなるように充填すること好ましい。
【0069】
上記非水電解液用容器を用いて非水電解液を保存する場合の保存温度としては、非水電解液の液温を25℃以下とすることが非水電解液への鉄の溶出抑制の観点から好ましく、5℃以下がより好ましく、-5℃以下がさらに好ましい。
【0070】
また、非水電解液用容器中の非水電解液は、空気中の酸素等による劣化防止の観点から、不活性雰囲気下で保存することが好ましい。すなわち、非水電解液用容器の収容部において、非水電解液が充填されていない気相領域がある場合、当該領域が不活性ガスで置換されていることが好ましい。
具体的には、当該気相領域における酸素濃度が0.3体積%以下であることが好ましく、0.1体積%以下であることがより好ましい。
【0071】
本開示の保存方法を用いると、容器保存中の非水電解液への鉄の溶出が抑制されるため、容器の腐食を抑制できるうえ、この非水電解液を非水電解液電池に用いた場合、短絡の発生を抑制することが可能となる。
また、本開示の保存方法にて保存された非水電解液は、鉄の溶出による劣化を受けにくいため、電池性能への影響も生じにくい。そのため、高温における長期サイクル後の容量維持率の向上、高温貯蔵後の低温における抵抗増加抑制といった保存前の非水電解液が有する性能が維持され、非水電解液電池に好ましく用いることができる。
なお、添加剤として上述の一般式(2)で表される化合物、及び一般式(3)で表される化合物を含む非水電解液である場合において、特に本開示の保存方法を用いる効果が発揮される。
【実施例
【0072】
以下、実施例により、本開示をさらに詳細に説明するが、本開示はこれらの記載に何ら制限を受けるものではない。
【0073】
〔非水電解液の調製〕
<非水電解液1の調製>
非水有機溶媒としてエチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)の混合溶媒を用い、当該溶媒中に溶質であるLiPF及び、表1に示す各添加剤を溶解し、表1に示す組成の非水電解液1を調製した。上記の調製は、液温を20~30℃の範囲に維持しながら行った。
【0074】
<非水電解液2の調製>
エチレンスルフェートを添加しなかった以外は非水電解液1の調製と同様にして、下記表1に示す組成の非水電解液2を調製した。
【0075】
<非水電解液3の調製>
ジフルオロリン酸リチウムを添加しなかった以外は非水電解液1の調製と同様にして、下記表1に示す組成の非水電解液3を調製した。
【0076】
なお、下記表1において、非水有機溶媒の数値はECとEMCとDMCの体積比を表し、溶質の数値は非水電解液全量中の溶質の量(mol/L)を表し、添加剤の数値は、非水電解液全量に対して含まれる各添加剤成分の濃度(質量%)を表す。
【0077】
【表1】
【0078】
〔評価〕
本開示の容器を用いて非水電解液を保存することによる、非水電解液及び容器への影響を評価した。評価は、上記非水電解液に、オーステナイト系ステンレス鋼であるSUS304、又はSUS316L製のテストピースを浸漬したまま保存し、保存前後における非水電解液中の鉄原子濃度の変化を測定することで行った。
【0079】
〔テストピースの作製〕
テストピースとして、オーステナイト系ステンレス鋼であるSUS304、又はSUS316L製の試験片(サイズは、いずれも20mm×15mm×3mm)を使用した。
SUS304製試験片に後述の不動態化処理を施さなかったものを、テストピース1とした。さらに、テストピース1を30%硝酸に50℃にて1時間浸漬させ不動態化処理を行った試験片をテストピース2とした。
SUS316L製試験片についても同様に後述の不動態化処理を施さなかったものを、テストピース3とした。さらに、テストピース3を30%硝酸に50℃にて1時間浸漬させ不動態化処理を行った試験片をテストピース4とした。
テストピース1~4は、非水電解液への浸漬試験前にアセトンで洗浄し、さらに超純水(メルク製MILLIPORE Milli-Q Integral 15にて採水)にて洗浄後、60℃12時間乾燥させた。
テストピース1~4の不動態層表面における、鉄原子、クロム原子、ニッケル原子、及びモリブデン原子の総量に対するクロム原子の量をオージェ電子分光で測定した。
【0080】
<試験例1>
20mLのフッ素樹脂製ボトル(株式会社サンプラテック製、PFA広口ボトル(中栓なし))内に上記非水電解液1を25g充填し、作製したテストピース2を浸漬させ保存した。保存は45℃で16日間、27日間及び1年間行った。45℃での保存は、上記ボトルを恒温槽に入れて、環境温度を制御することにより実施した。なお、45℃という保存温度は、好適な保存温度である「25℃以下」から外れた条件であるが、これは、腐食促進試験(加速試験)のために便宜上設定したものである。
【0081】
各保存期間終了後、非水電解液1に含まれる鉄原子量を、ICP発光分光分析装置(Agilent 5110 ICP-OES)を用いて測定した。
【0082】
<試験例2~4>
用いるテストピースをそれぞれ表2に示すものに変更した以外は試験例1と同様にして、試験例2~4を実施した。
【0083】
<試験例5~8>
用いる非水電解液を非水電解液2に変更した以外は、それぞれ試験例1~4と同様にして、試験例5~8を実施した。
【0084】
<試験例9~12>
用いる非水電解液を非水電解液3に変更した以外は、それぞれ試験例1~4と同様にして、試験例9~12を実施した。
【0085】
結果を表2に示す。なお、容器保存前の非水電解液1~3中の鉄原子濃度について同様に測定した結果についても表2に示す。
【0086】
【表2】
【0087】
表2に示す評価結果から、酸洗浄を施し非水電解液との接液面を不動態化処理した本開示の実施例の非水電解液用容器は、酸洗浄を施していない比較例の容器と比べて格段に非水電解液への鉄の溶出を抑制できることが確認された。
また、SUS316LとSUS304とを比較すると、SUS304では、27日間保存後及び1年間保存後においても鉄の溶出抑制効果が高く、より有用な材質であることが分かった。
また、参考例である試験例5及び7の結果から、一般式(3)で表される化合物であるジフルオロリン酸リチウムを含み、一般式(2)で表される化合物であるエチレンスルフェートを含まない非水電解液2の保存においても、本開示の容器は鉄の溶出を抑制できることが分かった。但し、一般式(2)で表される化合物と一般式(3)で表される化合物の両方を含む非水電解液1、及び一般式(2)で表される化合物を含み、一般式(3)で表される化合物を含まない非水電解液3の保存と比して、酸洗浄の有無による非水電解液への鉄の溶出量の差は大きくはなかった。
このことから、本開示の容器は一般式(3)で表される化合物を含む非水電解液の保存に好ましく用いられるが、一般式(2)で表される化合物を含む非水電解液の保存、特に非水電解液1のような一般式(2)で表される化合物と一般式(3)で表される化合物の両方を含む非水電解液の保存において、鉄溶出抑制効果が高いことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本開示によれば、非水電解液への鉄の溶出を抑制できる非水電解液用容器、及び上記非水電解液用容器を用いる非水電解液の保存方法を提供することができる。
【0089】
本開示を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本開示の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本出願は、2019年6月5日出願の日本特許出願(特願2019-105458)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。