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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】非水電解液
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20241218BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20241218BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/0568
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021524886
(86)(22)【出願日】2020-06-03
(86)【国際出願番号】 JP2020022013
(87)【国際公開番号】W WO2020246521
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2023-05-29
(31)【優先権主張番号】P 2019105459
(32)【優先日】2019-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】弁理士法人航栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 幹弘
(72)【発明者】
【氏名】森中 孝敬
(72)【発明者】
【氏名】河端 渉
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-134169(JP,A)
【文献】特開2005-353579(JP,A)
【文献】特開2016-157679(JP,A)
【文献】特開2008-181831(JP,A)
【文献】国際公開第2019/111983(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/117101(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0372161(US,A1)
【文献】国際公開第2017/154788(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/00-10/0587
H01M 10/36-10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池用の非水電解液であって、
非水有機溶媒、溶質、ケイ素化合物(A)、ホウ酸塩(B)及びイミド塩(C)を含み、
前記ケイ素化合物(A)が、下記一般式(1)で表される化合物であり、
前記ホウ酸塩(B)が、アルカリ金属カチオン及びアルカリ土類金属カチオンからなる群から選ばれる少なくとも1種のカチオンと、テトラフルオロホウ酸アニオン及びジフルオロオキサラトホウ酸アニオンからなる群から選ばれる少なくとも1種のアニオンとの対からなるホウ酸塩であり、
前記イミド塩(C)が、下記一般式(2)で表されるイミド塩である、
リチウムイオン二次電池用の非水電解液。
【化1】
[R~Rは、それぞれ独立して、不飽和結合及び芳香環のうち少なくとも1種を有する置換基であり、R~Rのうち、少なくとも1つは、芳香環を有する置換基である。]
【化2】
[Rf及びRfはそれぞれ独立に、フッ素原子又は炭素数1~4の直鎖状若しくは炭素数3~4の分岐鎖状のパーフルオロアルキル基を表し、Mはアルカリ金属カチオンを表す。]
【請求項2】
前記R~Rが、それぞれ独立して、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、及びアリールオキシ基からなる群より選ばれる基である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用の非水電解液。
【請求項3】
前記アルケニル基が、エテニル基及び2-プロペニル基から選ばれる基であり、
前記アルキニル基が、エチニル基であり、
前記アリール基が、フェニル基、2-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、4-フルオロフェニル基、4-tert-ブチルフェニル基、及び4-tert-アミルフェニル基から選ばれる基であり、
前記アルケニルオキシ基が、ビニロキシ基及び2-プロペニルオキシ基から選ばれる基であり、
前記アルキニルオキシ基が、プロパルギルオキシ基であり、
前記アリールオキシ基が、フェノキシ基、2-メチルフェノキシ基、4-メチルフェノキシ基、4-フルオロフェノキシ基、4-tert-ブチルフェノキシ基、及び4-tert-アミルフェノキシ基から選ばれる基である、請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用の非水電解液。
【請求項4】
前記R~Rのうち、少なくとも1つが、アルケニル基、アルキニル基、アルケニルオキシ基、及びアルキニルオキシ基からなる群より選ばれる基である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用の非水電解液。
【請求項5】
前記R~Rのうち2つが、それぞれ独立に、エテニル基又はエチニル基である、請求項1又は4に記載のリチウムイオン二次電池用の非水電解液。
【請求項6】
前記一般式(1)で表される化合物が、下記(1a)~(1e)からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1~5のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用の非水電解液。
【化3】
【請求項7】
前記一般式(1)で表される化合物が、前記(1a)、(1b)、(1c)、及び(1d)からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項6に記載のリチウムイオン二次電池用の非水電解液。
【請求項8】
前記ホウ酸塩(B)が、テトラフルオロホウ酸リチウム及びジフルオロオキサラトホウ酸リチウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1~7のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用の非水電解液。
【請求項9】
前記イミド塩(C)が、ビス(フルオロスルホニル)イミドリチウムである、請求項1~8のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用の非水電解液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解液に関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学デバイスである電池において、近年、情報関連機器、通信機器、すなわち、パソコン、ビデオカメラ、デジタルカメラ、携帯電話、スマートフォン等の小型、高エネルギー密度用途向けの蓄電システムや、電気自動車、ハイブリッド車、燃料電池車補助電源、電力貯蔵等の大型、パワー用途向けの蓄電システムが注目を集めている。その候補の一つがエネルギー密度や電圧が高く高容量が得られるリチウムイオン電池を始めとした非水電解液電池であり、現在、盛んに研究開発が行われている。
【0003】
非水電解液電池に用いられる非水電解液としては、環状カーボネートや、鎖状カーボネート、エステル等の溶媒に、溶質としてヘキサフルオロリン酸リチウム(以下「LiPF」とも記載する)や、ビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム(以下「LiFSI」とも記載する)、テトラフルオロホウ酸リチウム(以下「LiBF」とも記載する)等の含フッ素電解質を溶解した非水電解液が、高電圧及び高容量の電池を得るのに好適であることからよく利用されている。しかしながら、このような非水電解液を用いる非水電解液電池は、サイクル特性、出力特性を始めとする電池特性において必ずしも満足できるものではない。
【0004】
例えばリチウムイオン二次電池の場合、初充電時に負極にリチウムカチオンが挿入される際に、負極とリチウムカチオン、又は負極と電解液溶媒が反応し、負極表面上に酸化リチウムや炭酸リチウム、アルキル炭酸リチウムを主成分とする被膜を形成する。この電極表面上の皮膜はSolid Electrolyte Interface(SEI)と呼ばれ、更なる溶媒の還元分解を抑制し電池性能の劣化を抑える等、その性質が電池性能に大きな影響を与える。また、同様に正極表面上にも分解物による皮膜が形成され、これも溶媒の酸化分解を抑制し、電池内部でのガス発生を抑える等といった重要な役割を果たす事が知られている。
【0005】
サイクル特性や低温特性(0℃以下)などを始めとする電池特性を向上させるためには、イオン伝導性が高く、かつ、電子伝導性が低い安定なSEIを形成させることが重要であり、添加剤と称される化合物を電解液中に少量(通常は0.001質量%以上10質量%以下)加えることで、積極的に良好なSEIを形成させる試みが広くなされている。
【0006】
例えば、特許文献1では特定構造のケイ素化合物を含有する電解液が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】日本国特開2002-134169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、低温(0℃以下)での内部抵抗(単に「抵抗」とも言う。)の絶対値の低減や、サイクル試験後の電池容量の維持率などについて、さらなる性能の向上が求められている。
【0009】
本開示は、上記事情を鑑みてなされたもので、低温(0℃以下、例えば-20℃)での内部抵抗の絶対値の低減効果と、サイクル試験後の電池容量の向上効果とを、バランス良く発揮できる非水電解液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
【0011】
<1>
非水電解液であって、
非水有機溶媒、溶質、ケイ素化合物(A)、ホウ酸塩(B)及びイミド塩(C)を含み、
前記ケイ素化合物(A)が、下記一般式(1)で表される化合物であり、
前記ホウ酸塩(B)が、アルカリ金属カチオン及びアルカリ土類金属カチオンからなる群から選ばれる少なくとも1種のカチオンと、テトラフルオロホウ酸アニオン及びジフルオロオキサラトホウ酸アニオンからなる群から選ばれる少なくとも1種のアニオンとの対からなるホウ酸塩であり、
前記イミド塩(C)が、下記一般式(2)で表されるイミド塩である、
非水電解液。
【0012】
【化1】
【0013】
[R~Rは、それぞれ独立して、不飽和結合及び芳香環のうち少なくとも1種を有する置換基であり、R~Rのうち、少なくとも1つは、芳香環を有する置換基である。]
【0014】
【化2】
【0015】
[Rf及びRfはそれぞれ独立に、フッ素原子又は炭素数1~4の直鎖状若しくは炭素数3~4の分岐鎖状のパーフルオロアルキル基を表し、Mはアルカリ金属カチオンを表す。]
<2>
前記R~Rが、それぞれ独立して、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、及びアリールオキシ基からなる群より選ばれる基である、<1>に記載の非水電解液。
<3>
前記アルケニル基が、エテニル基及び2-プロペニル基から選ばれる基であり、
前記アルキニル基が、エチニル基であり、
前記アリール基が、フェニル基、2-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、4-フルオロフェニル基、4-tert-ブチルフェニル基、及び4-tert-アミルフェニル基から選ばれる基であり、
前記アルケニルオキシ基が、ビニロキシ基及び2-プロペニルオキシ基から選ばれる基であり、
前記アルキニルオキシ基が、プロパルギルオキシ基であり、
前記アリールオキシ基が、フェノキシ基、2-メチルフェノキシ基、4-メチルフェノキシ基、4-フルオロフェノキシ基、4-tert-ブチルフェノキシ基、及び4-tert-アミルフェノキシ基から選ばれる基である、<2>に記載の非水電解液。
<4>
前記R~Rのうち、少なくとも1つが、アルケニル基、アルキニル基、アルケニルオキシ基、及びアルキニルオキシ基からなる群より選ばれる基である、<1>に記載の非水電解液。
<5>
前記R~Rのうち2つが、それぞれ独立に、エテニル基又はエチニル基である、<1>又は<4>に記載の非水電解液。
<6>
前記一般式(1)で表される化合物が、下記(1a)~(1e)からなる群から選ばれる少なくとも1種である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の非水電解液。
【0016】
【化3】
【0017】
<7>
前記一般式(1)で表される化合物が、前記(1a)、(1b)、(1c)、及び(1d)からなる群から選ばれる少なくとも1種である、<6>に記載の非水電解液。
<8>
前記ホウ酸塩(B)が、テトラフルオロホウ酸リチウム及びジフルオロオキサラトホウ酸リチウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である、<1>~<7>のいずれか1つに記載の非水電解液。
<9>
前記イミド塩(C)が、ビス(フルオロスルホニル)イミドリチウムである、<1>~<8>のいずれか1つに記載の非水電解液。
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、低温(0℃以下、例えば-20℃)での内部抵抗の絶対値の低減効果と、サイクル試験後の電池容量の向上効果とを、バランス良く発揮できる非水電解液を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下の実施形態における各構成及びそれらの組み合わせは例であり、本開示の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換及びその他の変更が可能である。また、本開示は実施形態によって限定されることはない。
本明細書において、「~」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0020】
〔1.非水電解液〕
本開示の非水電解液は、
非水有機溶媒、溶質、ケイ素化合物(A)、ホウ酸塩(B)及びイミド塩(C)を含み、
前記ケイ素化合物(A)が、下記一般式(1)で表される化合物であり、
前記ホウ酸塩(B)が、アルカリ金属カチオン及びアルカリ土類金属カチオンからなる群から選ばれる少なくとも1種のカチオンと、テトラフルオロホウ酸アニオン及びジフルオロオキサラトホウ酸アニオンからなる群から選ばれる少なくとも1種との対からなるホウ酸塩であり、
前記イミド塩(C)が、下記一般式(2)で表されるイミド塩である、
非水電解液である。
【0021】
【化4】
【0022】
[R~Rは、それぞれ独立して、不飽和結合及び芳香環のうち少なくとも1種を有する置換基であり、R~Rのうち、少なくとも1つは、芳香環を有する置換基である。]
【0023】
【化5】
【0024】
[Rf及びRfはそれぞれ独立に、フッ素原子又は炭素数1~4の直鎖状若しくは炭素数3~4の分岐鎖状のパーフルオロアルキル基を表し、Mはアルカリ金属カチオンを表す。]
【0025】
以下、本開示の非水電解液に含まれる各成分について説明する。
【0026】
<ケイ素化合物(A)>
ケイ素化合物(A)について説明する。ケイ素化合物(A)を(A)成分とも呼ぶ。
ケイ素化合物(A)は、下記一般式(1)で表される化合物である。
【0027】
【化6】
【0028】
[R~Rは、それぞれ独立して、不飽和結合及び芳香環のうち少なくとも1種を有する置換基であり、R~Rのうち、少なくとも1つは、芳香環を有する置換基である。]
【0029】
上記R~Rが表す不飽和結合及び芳香環のうち少なくとも1種を有する置換基の炭素数は特に限定されないが、例えば、炭素数が2~25である置換基が挙げられ、好ましくは炭素数2~20であり、より好ましくは炭素数2~15である。
【0030】
上記R~Rは、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、及びアリールオキシ基から選ばれる基であることが好ましい。
【0031】
アルケニル基はエテニル基及び2-プロペニル基(アリル基)から選ばれる基が好ましく、アルキニル基はエチニル基が好ましい。また、アリール基はフェニル基、2-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、4-フルオロフェニル基、4-tert-ブチルフェニル基、及び4-tert-アミルフェニル基から選ばれる基であることが好ましい。
【0032】
アルケニルオキシ基はビニロキシ基及び2-プロペニルオキシ基(アリルオキシ基)から選ばれる基が好ましい。また、アルキニルオキシ基はプロパルギルオキシ基が好ましく、アリールオキシ基はフェノキシ基、2-メチルフェノキシ基、4-メチルフェノキシ基、4-フルオロフェノキシ基、4-tert-ブチルフェノキシ基、及び4-tert-アミルフェノキシ基から選ばれる基であることが好ましい。
【0033】
~Rのうち、少なくとも1つが、アルケニル基、アルキニル基、アルケニルオキシ基、及びアルキニルオキシ基からなる群より選ばれる基であることが好ましい。
また、R~Rのうち2つが、それぞれ独立に、エテニル基又はエチニル基であることが、耐久性向上効果が高い観点から好ましい。具体的には後述の化合物(1a)~(1e)が挙げられる。
【0034】
一般式(1)で表される化合物は、(1a)~(1e)からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、中でも(1a)、(1b)、(1c)、及び(1d)からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが内部抵抗の絶対値の低減効果の観点から特に好ましい。
【0035】
【化7】
【0036】
前記非水有機溶媒、前記溶質を含む非水電解液の総量に対し、ケイ素化合物(A)の好適濃度については、特に制限はないが、通常、下限は0.01質量%以上であり、好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上である。また、通常、上限は3.0質量%以下であり、好ましくは2.0質量%以下、さらに好ましくは1.0質量%以下である。
また、ケイ素化合物(A)は1種を単独で用いても良いし、複数種を組み合わせて使用しても良い。
【0037】
<ホウ酸塩(B)>
ホウ酸塩(B)について説明する。ホウ酸塩(B)を(B)成分とも呼ぶ。
ホウ酸塩(B)は、アルカリ金属カチオン及びアルカリ土類金属カチオンからなる群から選ばれる少なくとも1種のカチオンと、テトラフルオロホウ酸アニオン及びジフルオロオキサラトホウ酸アニオンからなる群から選ばれる少なくとも1種のアニオンとの対からなるホウ酸塩である。
ホウ酸塩(B)を構成するカチオンとしては、アルカリ金属カチオンが好ましく、その中でも、リチウムイオン、ナトリウムイオン、又はカリウムイオンがより好ましく、リチウムイオンが更に好ましい。
すなわち、ホウ酸塩(B)は、テトラフルオロホウ酸リチウム及びジフルオロオキサラトホウ酸リチウムからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、テトラフルオロホウ酸リチウムであることがより好ましい。
【0038】
前記非水有機溶媒、前記溶質を含む非水電解液の総量に対し、ホウ酸塩(B)の好適濃度については、特に制限はないが、通常、下限は0.01質量%以上であり、好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上である。また、通常、上限は9.0質量%以下であり、好ましくは6.0質量%以下、さらに好ましくは3.0質量%以下である。
また、ホウ酸塩(B)は1種を単独で用いても良いし、複数種を組み合わせて使用しても良い。
【0039】
<イミド塩(C)>
イミド塩(C)について説明する。イミド塩(C)を(C)成分とも呼ぶ。
イミド塩(C)は、下記一般式(2)で表されるイミド塩である。
【0040】
【化8】
【0041】
[Rf及びRfはそれぞれ独立に、フッ素原子又は炭素数1~4の直鎖状若しくは炭素数3~4の分岐鎖状のパーフルオロアルキル基を表し、Mはアルカリ金属カチオンを表す。]
【0042】
イミド塩(C)を構成するアルカリ金属カチオン(M)としては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、又はカリウムイオンがより好ましく、リチウムイオンが更に好ましい。
イミド塩(C)を構成するアニオンとしては、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドアニオン、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン、及び(トリフルオロメタンスルホニル)(フルオロスルホニル)イミドアニオンからなる群から選ばれる少なくとも1種のイミドアニオンであることが好ましい。
イミド塩(C)は、ビス(フルオロスルホニル)イミドリチウムであることが好ましい。
【0043】
前記非水有機溶媒、前記溶質を含む非水電解液の総量に対し、イミド塩(C)の好適濃度については、特に制限はないが、通常、下限は0.01質量%以上であり、好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上である。また、通常、上限は15質量%以下であり、好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。
また、イミド塩(C)は1種を単独で用いても良いし、複数種を組み合わせて使用しても良い。
【0044】
本開示の非水電解液中のケイ素化合物(A)の質量基準の含有量Wに対するホウ酸塩(B)の質量基準の含有量Wの比であるW/Wは、1.5以上3以下であることが好ましい。
また、本開示の非水電解液中のケイ素化合物(A)の質量基準の含有量Wに対するイミド塩(C)の質量基準の含有量Wの比であるW/Wは、1以上5以下であることが好ましい。
前記W/Wは、低温(0℃以下)での内部抵抗、かつ、サイクル試験後の電池容量の維持率の観点から、1.7以上3以下であることがより好ましく、2以上3以下であることが特に好ましい。
前記W/Wは、低温(0℃以下)での内部抵抗、かつ、サイクル試験後の電池容量の維持率の観点から、1.5以上5以下であることがより好ましく、2以上5以下であることが特に好ましい。
【0045】
<溶質>
本開示の非水電解液に含まれる溶質について説明する。
溶質はイオン性塩であることが好ましく、例えば、アルカリ金属イオン、及びアルカリ土類金属イオンからなる群から選ばれる少なくとも1種のカチオンと、ヘキサフルオロリン酸アニオン、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、フルオロスルホン酸アニオン、ビス(ジフルオロホスホル)イミドアニオン、(ジフルオロホスホル)(フルオロスルホニル)イミドアニオン、及び(ジフルオロホスホル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンからなる群から選ばれる少なくとも1種のアニオンの対からなるイオン性塩であることが好ましい。
【0046】
また、上記溶質であるイオン性塩のカチオンがリチウム、ナトリウム、カリウム、又はマグネシウムであり、アニオンがヘキサフルオロリン酸アニオン、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、ビス(ジフルオロホスホル)イミドアニオン、及び(ジフルオロホスホル)(フルオロスルホニル)イミドアニオンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが、非水有機溶媒に対する溶解度の高さや、その電気化学安定性の点から好ましい。
【0047】
溶質の好適濃度については、特に制限はないが、通常、下限は0.5mol/L以上であり、好ましくは0.7mol/L以上、さらに好ましくは0.9mol/L以上である。また、通常、上限は2.5mol/L以下であり、好ましくは2.2mol/L以下、さらに好ましくは2.0mol/L以下である。0.5mol/L以上とすることで、イオン伝導度が低下することによる非水電解液電池のサイクル特性、出力特性の低下を抑制でき、2.5mol/L以下とすることで、非水電解液の粘度が上昇することによるイオン伝導度の低下、非水電解液電池のサイクル特性、出力特性の低下を抑制できる。
また、溶質は1種を単独で用いても良いし、複数種を組み合わせて使用しても良い。
【0048】
<非水有機溶媒>
非水有機溶媒について説明する。
本開示の非水電解液に用いる非水有機溶媒の種類は、特に限定されず、任意の非水有機溶媒を用いることができる。具体的には、エチルメチルカーボネート(以降「EMC」とも記載する)、ジメチルカーボネート(以降「DMC」とも記載する)、ジエチルカーボネート(以降「DEC」とも記載する)、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、2,2,2-トリフルオロエチルメチルカーボネート、2,2,2-トリフルオロエチルエチルカーボネート、2,2,2-トリフルオロエチルプロピルカーボネート、ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)カーボネート、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-1-プロピルメチルカーボネート、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-1-プロピルエチルカーボネート、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-1-プロピルプロピルカーボネート、ビス(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-1-プロピル)カーボネート、エチレンカーボネート(以降「EC」とも記載する)、プロピレンカーボネート(以降「PC」とも記載する)、ブチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート(以降「FEC」とも記載する)、ジフルオロエチレンカーボネート、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、2-フルオロプロピオン酸メチル、2-フルオロプロピオン酸エチル、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、フラン、テトラヒドロピラン、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、プロピオニトリル、ジメチルスルホキシド、スルホラン、γ-ブチロラクトン、及びγ-バレロラクトンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0049】
また、上記非水有機溶媒は、環状カーボネート及び鎖状カーボネートからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むものであると、高温でのサイクル特性に優れる点で好ましい。また、上記非水有機溶媒が、エステルを含むものであると、低温での入出力特性に優れる点で好ましい。
上記環状カーボネートの具体例としてEC、PC、ブチレンカーボネート、及びFEC等が挙げられ、中でもEC、PC、及びFECからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
上記鎖状カーボネートの具体例としてEMC、DMC、DEC、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、2,2,2-トリフルオロエチルメチルカーボネート、2,2,2-トリフルオロエチルエチルカーボネート、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-1-プロピルメチルカーボネート、及び1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-1-プロピルエチルカーボネート等が挙げられ、中でもEMC、DMC、DEC、及びメチルプロピルカーボネートからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
また、上記エステルの具体例として、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、2-フルオロプロピオン酸メチル、及び2-フルオロプロピオン酸エチル等が挙げられる。
【0050】
本開示の非水電解液は、ポリマーを含む事もできる。ポリマーには、一般にポリマー固体電解質と呼ばれるものも含まれる。ポリマー固体電解質には、可塑剤として非水有機溶媒を含有するものも含まれる。
【0051】
ポリマーは、上記(A)~(C)成分、溶質及び後述のその他添加剤を溶解できる非プロトン性のポリマーであれば特に限定されるものではない。例えば、ポリエチレンオキシドを主鎖又は側鎖に持つポリマー、ポリビニリデンフロライドのホモポリマー又はコポリマー、メタクリル酸エステルポリマー、ポリアクリロニトリルなどが挙げられる。これらのポリマーに可塑剤を加える場合は、上記の非水有機溶媒のうち非プロトン性非水有機溶媒が好ましい。
【0052】
<その他の添加剤について>
本開示の要旨を損なわない限りにおいて、本開示の非水電解液には、一般に用いられる添加剤を任意の比率でさらに添加しても良い。
【0053】
本開示の非水電解液は、下記一般式(3)~(5)で表される化合物のいずれか少なくとも1種を含むものであっても良い。
【0054】
【化9】
【0055】
[一般式(3)中、X及びXはそれぞれ独立にハロゲン原子を表す。Aはアルカリ金属カチオン、アンモニウムイオン又は有機カチオンを表す。]
【0056】
一般式(3)中、X及びXはそれぞれ独立にハロゲン原子を表す。X及びXが表すハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、フッ素原子であることが好ましい。
及びXは同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましく、いずれもフッ素原子であることが好ましい。
【0057】
一般式(3)中、Aはアルカリ金属カチオン、アンモニウムイオン又は有機カチオンを表す。
が表すアルカリ金属カチオンとしては、リチウムカチオン、ナトリウムカチオン、カリウムカチオン等が挙げられる。
はアルカリ金属カチオンであることが好ましく、リチウムカチオンであることがより好ましい。
【0058】
【化10】
【0059】
[一般式(4)中、Rは炭素数2~6の炭化水素基を表す。当該炭化水素基中の炭素原子-炭素原子結合間には、ヘテロ原子が含まれていてもよい。また、当該炭化水素基の任意の水素原子はハロゲン原子に置換されていても良い。]
【0060】
一般式(4)中、Rは炭素数2~6の炭化水素基を表す。Rが表す炭化水素基としては、直鎖又は分岐状のアルキレン基、アルケニレン基やアルキニレン基等が挙げられる。
がアルキレン基を表す場合のアルキレン基としては具体的には、エチレン基、n-プロピレン基、i-プロピレン基、n-ブチレン基、s-ブチレン基、t-ブチレン基、n-ペンチレン基、-CHCH(C)-基、n-ヘキシレン基等が挙げられる。
がアルケニレン基を表す場合のアルケニレン基としては具体的には、エテニレン基、プロペニレン基等が挙げられる。Rがアルキニレン基を表す場合のアルキニレン基としては具体的には、プロピニレン基等が挙げられる。
【0061】
が表す炭化水素基は、炭素原子-炭素原子結合間にヘテロ原子が含まれていてもよい。ヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子、硫黄原子等が挙げられる。
【0062】
が表す炭化水素基は、任意の水素原子がハロゲン原子に置換されていても良い。任意の水素原子がフッ素原子に置換された炭化水素基としては、テトラフルオロエチレン基、1,2-ジフルオロエチレン基、2,2-ジフルオロエチレン基、フルオロエチレン基、(トリフルオロメチル)エチレン基等が挙げられる。
【0063】
は、無置換の炭素数3~4のアルキレン基が好ましく、プロピレン基がより好ましい。
【0064】
【化11】
【0065】
[一般式(5)中、Rは炭素数2~5の炭化水素基を表す。当該炭化水素基中の炭素原子-炭素原子結合間には、ヘテロ原子が含まれていてもよい。また、当該炭化水素基の任意の水素原子はハロゲン原子に置換されていても良い。]
【0066】
一般式(5)中、Rは炭素数2~5の炭化水素基を表す。Rが表す炭化水素基としては、直鎖又は分岐状のアルキレン基、アルケニレン基やアルキニレン基等が挙げられる。
がアルキレン基を表す場合のアルキレン基としては具体的には、エチレン基、n-プロピレン基、i-プロピレン基、n-ブチレン基、s-ブチレン基、t-ブチレン基、n-ペンチレン基、-CHCH(C)-基等が挙げられる。
がアルケニレン基を表す場合のアルケニレン基としては具体的には、エテニレン基、プロペニレン基等が挙げられる。
がアルキニレン基を表す場合のアルキニレン基としては具体的には、エチニレン基、プロピニレン基等が挙げられる。
【0067】
が表す炭化水素基は、炭素原子-炭素原子結合間にヘテロ原子が含まれていてもよい。ヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子、硫黄原子等が挙げられる。
【0068】
が表す炭化水素基は、任意の水素原子がハロゲン原子に置換されていても良い。任意の水素原子がフッ素原子に置換された炭化水素基としては、テトラフルオロエチレン基、1,2-ジフルオロエチレン基、2,2-ジフルオロエチレン基、フルオロエチレン基、(トリフルオロメチル)エチレン基等が挙げられる。
【0069】
は、無置換の炭素数2~3のアルキレン基が好ましく、エチレン基がより好ましい。
【0070】
上記一般式(3)~(5)で表される化合物以外の“その他の添加剤”の具体例としては、シクロヘキシルベンゼン、シクロヘキシルフルオロベンゼン、フルオロベンゼン(以降、FBと記載する場合がある)、ビフェニル、ジフルオロアニソール、tert-ブチルベンゼン、tert-アミルベンゼン、2-フルオロトルエン、2-フルオロビフェニル、ビニレンカーボネート、ジメチルビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、メチルプロパルギルカーボネート、エチルプロパルギルカーボネート、ジプロパルギルカーボネート、無水マレイン酸、無水コハク酸、メチレンメタンジスルホネート、ジメチレンメタンジスルホネート、トリメチレンメタンジスルホネート、メタンスルホン酸メチル、ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム(以降、LDFBOPと記載する場合がある)、ジフルオロビス(オキサラト)リン酸ナトリウム、ジフルオロビス(オキサラト)リン酸カリウム、ビス(オキサラトホウ酸リチウム、ビス(オキサラトホウ酸ナトリウム、ビス(オキサラトホウ酸カリウム、テトラフルオロオキサラトリン酸リチウム(以降、LTFOPと記載する場合がある)、テトラフルオロオキサラトリン酸ナトリウム、テトラフルオロオキサラトリン酸カリウム、トリス(オキサラト)リン酸リチウム、トリス(オキサラト)リン酸ナトリウム、トリス(オキサラト)リン酸カリウム、エチルフルオロリン酸リチウム(以降、LEFPと記載する場合がある)、プロピルフルオロリン酸リチウム、フルオロリン酸リチウム、エテンスルホニルフルオリド(以降、ESFと記載する場合がある)、トリフルオロメタンスルホニルフルオリド(以降、TSFと記載する場合がある)、メタンスルホニルフルオリド(以降、MSFと記載する場合がある)、ジフルオロリン酸フェニル(以降、PDFPと記載する場合がある)等の過充電防止効果、負極皮膜形成効果や正極保護効果を有する化合物が挙げられる。
【0071】
当該その他の添加剤の非水電解液中の含有量は、特に限定されないが、非水電解液の総量に対して、0.01質量%以上、8.00質量%以下が好ましい。
【0072】
また、シュウ酸基を有するホウ素錯体のリチウム塩、シュウ酸基を有するリン錯体のリチウム塩、O=S-F結合を有する化合物、及びO=P-F結合を有する化合物のうち1種以上の化合物を含むことも好ましい態様として挙げられる。上記化合物を含むと、更なる高温における長期サイクル後の容量維持率を向上、高温貯蔵後の低温における抵抗増加抑制を達成できるだけでなく、更にはNi含有電極を用いた際に該電極から電解液へのNi成分の溶出を低減できる観点から好ましい。
上記シュウ酸基を有するリン錯体のリチウム塩が、テトラフルオロオキサラトリン酸リチウム、及びジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムからなる群から選ばれる少なくとも1種であると、更なる高温における長期サイクル後の容量維持率を向上、高温貯蔵後の低温における抵抗増加抑制に加えて、正極からのNi成分の溶出抑制効果が特に優れているため、より好ましい。
上記O=S-F結合を有する化合物としては、例えば、フルオロスルホン酸リチウム、フルオロ硫酸プロピル、フルオロ硫酸フェニル、フルオロ硫酸-4-フルオロフェニル、フルオロ硫酸-4-tertブチルフェニル、フルオロ硫酸-4-tertアミルフェニル、エテンスルホニルフルオリド、トリフルオロメタンスルホニルフルオリド、メタンスルホニルフルオリド、フッ化ベンゼンスルホニル、フッ化-4-フルオロフェニルスルホニル、フッ化-4-tertブチルフェニルスルホニル、フッ化-4-tertアミルフェニルスルホニル、フッ化-2-メチルフェニルスルホニル等が挙げられる。
上記O=P-F結合を有する化合物としては、例えば、エチルフルオロリン酸リチウム、ビス(ジフルオロホスホル)イミドリチウム、ジフルオロリン酸フェニルが挙げられる。
【0073】
更には、ポリマー電池と呼ばれる非水電解液電池に使用される場合のように非水電解液をゲル化剤や架橋ポリマーにより擬固体化して使用することも可能である。
【0074】
本開示の非水電解液は、下記一般式(6)で表される化合物を含んでいても、含まなくても良い。本開示の非水電解液の一つの態様として、前述の一般式(1)で表される化合物の量を100質量%としたとき、下記一般式(6)で表される化合物の含有量が0.05質量%未満である態様が挙げられる。また、本開示の非水電解液は、下記一般式(6)で表される化合物を含まないものであっても良い。
【0075】
【化12】
【0076】
[一般式(6)中、R~Rは、それぞれ独立して、不飽和結合及び芳香環のうち少なくとも1種を有する置換基である。]
【0077】
上記R~Rは、それぞれ独立して、不飽和結合及び芳香環のうち少なくとも1種を有する置換基であり、それらの具体例としては、前述のR~Rの説明で記載されたものが挙げられる。
【0078】
<非水電解液の調製方法>
本開示の非水電解液の調製方法は特に限定されない。例えば、ケイ素化合物(A)、ホウ酸塩(B)、イミド塩(C)及び溶質を、非水有機溶媒に溶解することで調製できる。
溶質を非水有機溶媒に溶解する操作において、非水有機溶媒の液温が40℃を超えないようにすることが、非水有機溶媒及び溶質の劣化防止の観点から有効である。液温を40℃以下とすることによって、溶質が溶解する際に、当該溶質が系内の水分と反応、分解することによるフッ化水素(HF)などの遊離酸の生成を抑制でき、結果として非水有機溶媒の分解も抑制することが可能となるためである。また、溶質を少量ずつ加えて溶解、調合することも、HFなどの遊離酸の生成を抑制する観点から有効である。
非水有機溶媒に溶質を溶解する際は、当該非水有機溶媒を冷却しながら行っても良く、液温は特に限定されないが、-20~40℃が好ましく、0~40℃がより好ましい。
【0079】
また、ケイ素化合物(A)、ホウ酸塩(B)、イミド塩(C)やその他添加剤を添加するときは、非水電解液の液温を、-10℃以上、40℃以下に制御することが好ましい。液温の上限は、30℃以下であることがより好ましく、20℃以下であることが特に好ましい。
【0080】
本開示の非水電解液は、非水電解液電池(好ましくは二次電池)に好ましく用いることができる。
【0081】
〔2.非水電解液電池〕
非水電解液電池は、少なくとも、(a)上記の本開示の非水電解液と、(b)正極と、(c)リチウム金属を含む負極材料、リチウム、ナトリウム、カリウム、又はマグネシウムの吸蔵放出が可能な負極材料からなる群から選ばれる少なくとも1種を有する負極とを含む。さらには、(d)セパレータや外装体等を含むことが好ましい。
【0082】
<(b)正極>
(b)正極は、少なくとも1種の酸化物及び/又はポリアニオン化合物を正極活物質として含むことが好ましい。
【0083】
[正極活物質]
非水電解液中のカチオンがリチウム主体となるリチウムイオン二次電池の場合、(b)正極を構成する正極活物質は、充放電が可能な種々の材料であれば特に限定されるものでないが、例えば、(b1)ニッケル、マンガン、コバルトの少なくとも1種以上の金属を含有し、かつ層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、(b2)スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物、(b3)リチウム含有オリビン型リン酸塩、及び(b4)層状岩塩型構造を有するリチウム過剰層状遷移金属酸化物から少なくとも1種を含有するものが挙げられる。
【0084】
((b1)リチウム遷移金属複合酸化物)
正極活物質の一例である(b1)ニッケル、マンガン、コバルトの少なくとも1種以上の金属を含有し、かつ層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物としては、例えば、リチウム・コバルト複合酸化物、リチウム・ニッケル複合酸化物、リチウム・ニッケル・コバルト複合酸化物、リチウム・ニッケル・コバルト・アルミニウム複合酸化物、リチウム・コバルト・マンガン複合酸化物、リチウム・ニッケル・マンガン複合酸化物、リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物等が挙げられる。また、これらリチウム遷移金属複合酸化物の主体となる遷移金属原子の一部を、Al、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr、Si、B、Ba、Y、Sn等の他の元素で置換したものを用いても良い。
【0085】
リチウム・コバルト複合酸化物、リチウム・ニッケル複合酸化物の具体例としては、LiCoO、LiNiOやMg、Zr、Al、Ti等の異種元素を添加したコバルト酸リチウム(LiCo0.98Mg0.01Zr0.01、LiCo0.98Mg0.01Al0.01、LiCo0.975Mg0.01Zr0.005Al0.01等)、WO2014/034043号公報に記載の表面に希土類の化合物を固着させたコバルト酸リチウム等を用いても良い。また、特開2002-151077号公報等に記載されているように、LiCoO粒子粉末の粒子表面の一部に酸化アルミニウムが被覆したものを用いても良い。
【0086】
リチウム・ニッケル・コバルト複合酸化物、リチウム・ニッケル・コバルト・アルミニウム複合酸化物については、一般式[11]で示される。
LiNi1-b-cCo11 [11]
式[11]中、M11はAl、Fe、Mg、Zr、Ti、Bからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素であり、aは0.9≦a≦1.2であり、b、cは、0.1≦b≦0.3、0≦c≦0.1の条件を満たす。
これらは、例えば、特開2009-137834号公報等に記載される製造方法等に準じて調製することができる。具体的には、LiNi0.8Co0.2、LiNi0.85Co0.10Al0.05、LiNi0.87Co0.10Al0.03、LiNi0.6Co0.3Al0.1等が挙げられる。
【0087】
リチウム・コバルト・マンガン複合酸化物、リチウム・ニッケル・マンガン複合酸化物の具体例としては、LiNi0.5Mn0.5、LiCo0.5Mn0.5等が挙げられる。
【0088】
リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物としては、一般式[12]で示されるリチウム含有複合酸化物が挙げられる。
LiNiMnCo12 [12]
式[12]中、M12はAl、Fe、Mg、Zr、Ti、B、Snからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素であり、dは0.9≦d≦1.2であり、e、f、g及びhは、e+f+g+h=1、0≦e≦0.7、0≦f≦0.5、0≦g≦0.5、及びh≧0の条件を満たす。
リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物は、構造安定性を高め、リチウム二次電池における高温での安全性を向上させるためにマンガンを一般式[12]に示す範囲で含有するものが好ましく、特にリチウムイオン二次電池の高率特性を高めるためにコバルトを一般式[12]に示す範囲でさらに含有するものがより好ましい。
具体的には、例えば4.3V以上に充放電領域を有する、Li[Ni1/3Mn1/3Co1/3]O、Li[Ni0.45Mn0.35Co0.2]O、Li[Ni0.5Mn0.3Co0.2]O、Li[Ni0.6Mn0.2Co0.2]O、Li[Ni0.49Mn0.3Co0.2Zr0.01]O、Li[Ni0.49Mn0.3Co0.2Mg0.01]O等が挙げられる。
【0089】
((b2)スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物)
正極活物質の一例である(b2)スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物としては、例えば、一般式[13]で示されるスピネル型リチウムマンガン複合酸化物が挙げられる。
Li(Mn2-k13 )O [13]
式[13]中、M13はNi、Co、Fe、Mg、Cr、Cu、Al及びTiからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属元素であり、jは1.05≦j≦1.15であり、kは0≦k≦0.20である。
具体的には、例えば、LiMnO、LiMn、LiMn1.95Al0.05、LiMn1.9Al0.1、LiMn1.9Ni0.1、LiMn1.5Ni0.5等が挙げられる。
【0090】
((b3)リチウム含有オリビン型リン酸塩)
正極活物質の一例である(b3)リチウム含有オリビン型リン酸塩としては、例えば一般式[14]で示されるものが挙げられる。
LiFe1-n14 PO [14]
式[14]中、M14はCo、Ni、Mn、Cu、Zn、Nb、Mg、Al、Ti、W、Zr及びCdから選ばれる少なくとも1つであり、nは、0≦n≦1である。
具体的には、例えば、LiFePO、LiCoPO、LiNiPO、LiMnPO等が挙げられ、中でもLiFePO及び/又はLiMnPOが好ましい。
【0091】
((b4)リチウム過剰層状遷移金属酸化物)
正極活物質の一例である(b4)層状岩塩型構造を有するリチウム過剰層状遷移金属酸化物としては、例えば一般式[15]で示されるものが挙げられる。
xLiM15・(1-x)Li16 [15]
式[15]中、xは、0<x<1を満たす数であり、M15は、平均酸化数が3である少なくとも1種以上の金属元素であり、M16は、平均酸化数が4である少なくとも1種の金属元素である。式[15]中、M15は、好ましくは3価のMn、Ni、Co、Fe、V、Crから選ばれてなる1種の金属元素であるが、2価と4価の等量の金属で平均酸化数を3価にしてもよい。
また、式[15]中、M16は、好ましくはMn、Zr、Tiから選ばれてなる1種以上の金属元素である。具体的には、0.5[LiNi0.5Mn0.5]・0.5[LiMnO]、0.5[LiNi1/3Co1/3Mn1/3]・0.5[LiMnO]、0.5[LiNi0.375Co0.25Mn0.375]・0.5[LiMnO]、0.5[LiNi0.375Co0.125Fe0.125Mn0.375]・0.5[LiMnO]、0.45[LiNi0.375Co0.25Mn0.375]・0.10[LiTiO]・0.45[LiMnO]等が挙げられる。
この一般式[15]で表される正極活物質は、4.4V(Li基準)以上の高電圧充電で高容量を発現することが知られている(例えば、米国特許7,135,252)。
これら正極活物質は、例えば特開2008-270201号公報、WO2013/118661号公報、特開2013-030284号公報等に記載される製造方法等に準じて調製することができる。
【0092】
正極活物質としては、上記(b1)~(b4)から選ばれる少なくとも1つを主成分として含有すればよいが、それ以外に含まれるものとしては、例えばFeS、TiS、TiO、V、MoO、MoS等の遷移元素カルコゲナイド、あるいはポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリアニリン、及びポリピロール等の導電性高分子、活性炭、ラジカルを発生するポリマー、カーボン材料等が挙げられる。
【0093】
[正極集電体]
(b)正極は、正極集電体を有する。正極集電体としては、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、チタン又はこれらの合金等を用いることができる。
【0094】
[正極活物質層]
(b)正極は、例えば正極集電体の少なくとも一方の面に正極活物質層が形成される。正極活物質層は、例えば、前述の正極活物質と、結着剤と、必要に応じて導電剤とにより構成される。
結着剤としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
導電剤としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、炭素繊維、黒鉛(粒状黒鉛や燐片状黒鉛)、フッ素化黒鉛等の炭素材料を用いることができる。正極においては、結晶性の低いアセチレンブラックやケッチェンブラックを用いることが好ましい。
【0095】
<(c)負極>
負極材料としては、特に限定されないが、リチウム電池及びリチウムイオン電池の場合、リチウム金属、リチウム金属と他の金属との合金や金属間化合物、種々の炭素材料(人造黒鉛、天然黒鉛など)、金属酸化物、金属窒化物、スズ(単体)、スズ化合物、ケイ素(単体)、ケイ素化合物、活性炭、導電性ポリマー等が用いられる。
【0096】
炭素材料とは、例えば、易黒鉛化炭素や、(002)面の面間隔が0.37nm以上の難黒鉛化炭素(ハードカーボン)や、(002)面の面間隔が0.34nm以下の黒鉛などである。より具体的には、熱分解性炭素、コークス類、ガラス状炭素繊維、有機高分子化合物焼成体、活性炭あるいはカーボンブラック類などがある。このうち、コークス類にはピッチコークス、ニードルコークスあるいは石油コークスなどが含まれる。有機高分子化合物焼成体とは、フェノール樹脂やフラン樹脂などを適当な温度で焼成して炭素化したものをいう。炭素材料は、リチウムの吸蔵及び放出に伴う結晶構造の変化が非常に少ないため、高いエネルギー密度が得られると共に優れたサイクル特性が得られるので好ましい。なお、炭素材料の形状は、繊維状、球状、粒状あるいは鱗片状のいずれでもよい。また、非晶質炭素や非晶質炭素を表面に被覆した黒鉛材料は、材料表面と非水電解液との反応性が低くなるため、より好ましい。
【0097】
(c)負極は、少なくとも1種の負極活物質を含むことが好ましい。
【0098】
[負極活物質]
非水電解液中のカチオンがリチウム主体となるリチウムイオン二次電池の場合、(c)負極を構成する負極活物質としては、リチウムイオンのド-プ・脱ド-プが可能なものであり、例えば(c1)X線回折における格子面(002)面のd値が0.340nm以下の炭素材料、(c2)X線回折における格子面(002)面のd値が0.340nmを超える炭素材料、(c3)Si、Sn、Alから選ばれる1種以上の金属の酸化物、(c4)Si、Sn、Alから選ばれる1種以上の金属若しくはこれら金属を含む合金又はこれら金属若しくは合金とリチウムとの合金、及び(c5)リチウムチタン酸化物から選ばれる少なくとも1種を含有するものが挙げられる。これら負極活物質は、1種を単独で用いることができ、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0099】
((c1)X線回折における格子面(002)面のd値が0.340nm以下の炭素材料)
負極活物質の一例である(c1)X線回折における格子面(002)面のd値が0.340nm以下の炭素材料としては、例えば熱分解炭素類、コークス類(例えばピッチコークス、ニードルコークス、石油コークス等)、グラファイト類、有機高分子化合物焼成体(例えばフェノール樹脂、フラン樹脂等を適当な温度で焼成し炭素化したもの)、炭素繊維、活性炭等が挙げられ、これらは黒鉛化したものでもよい。当該炭素材料は、X線回折法で測定した(002)面の面間隔(d002)が0.340nm以下のものであり、中でも、その真密度が1.70g/cm以上である黒鉛又はそれに近い性質を有する高結晶性炭素材料が好ましい。
【0100】
((c2)X線回折における格子面(002)面のd値が0.340nmを超える炭素材料)
負極活物質の一例である(c2)X線回折における格子面(002)面のd値が0.340nmを超える炭素材料としては、非晶質炭素が挙げられ、これは、2000℃以上の高温で熱処理してもほとんど積層秩序が変化しない炭素材料である。例えば難黒鉛化炭素(ハードカーボン)、1500℃以下で焼成したメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、メソペーズビッチカーボンファイバー(MCF)等が例示される。株式会社クレハ製のカーボトロン(登録商標)P等は、その代表的な事例である。
【0101】
((c3)Si、Sn、Alから選ばれる1種以上の金属の酸化物)
負極活物質の一例である(c3)Si、Sn、Alから選ばれる1種以上の金属の酸化物としては、リチウムイオンのドープ・脱ドープが可能な、例えば酸化シリコン、酸化スズ等が挙げられる。
Siの超微粒子がSiO中に分散した構造を持つSiO等がある。この材料を負極活物質として用いると、Liと反応するSiが超微粒子であるために充放電がスムーズに行われる一方で、上記構造を有するSiO粒子自体は表面積が小さいため、負極活物質層を形成するための組成物(ペースト)とした際の塗料性や負極合剤層の集電体に対する接着性も良好である。
なお、SiOは充放電に伴う体積変化が大きいため、SiOと上述負極活物質(c1)の黒鉛とを特定比率で負極活物質に併用することで高容量化と良好な充放電サイクル特性とを両立することができる。
【0102】
((c4)Si、Sn、Alから選ばれる1種以上の金属若しくはこれら金属を含む合金又はこれら金属若しくは合金とリチウムとの合金)
負極活物質の一例である(c4)Si、Sn、Alから選ばれる1種以上の金属若しくはこれら金属を含む合金又はこれら金属若しくは合金とリチウムとの合金としては、例えばシリコン、スズ、アルミニウム等の金属、シリコン合金、スズ合金、アルミニウム合金等が挙げられ、これらの金属や合金が、充放電に伴いリチウムと合金化した材料も使用できる。
これらの好ましい具体例としては、WO2004/100293号や特開2008-016424号等に記載される、例えばケイ素(Si)、スズ(Sn)等の金属単体(例えば粉末状のもの)、該金属合金、該金属を含有する化合物、該金属にスズ(Sn)とコバルト(Co)とを含む合金等が挙げられる。当該金属を電極に使用した場合、高い充電容量を発現することができ、かつ、充放電に伴う体積の膨張・収縮が比較的少ないことから好ましい。また、これらの金属は、これをリチウムイオン二次電池の負極に用いた場合に、充電時にLiと合金化するため、高い充電容量を発現することが知られており、この点でも好ましい。
さらに、例えばWO2004/042851号、WO2007/083155号等に記載される、サブミクロン直径のシリコンのピラーから形成された負極活物質、シリコンで構成される繊維からなる負極活物質等を用いてもよい。
【0103】
((c5)リチウムチタン酸化物)
負極活物質の一例である(c5)リチウムチタン酸化物としては、例えば、スピネル構造を有するチタン酸リチウム、ラムスデライト構造を有するチタン酸リチウム等を挙げることができる。
スピネル構造を有するチタン酸リチウムとしては、例えば、Li4+αTi12(αは充放電反応により0≦α≦3の範囲内で変化する)を挙げることができる。また、ラムスデライト構造を有するチタン酸リチウムとしては、例えば、Li2+βTi(βは充放電反応により0≦β≦3の範囲内で変化する)を挙げることができる。これら負極活物質は、例えば特開2007-018883号公報、特開2009-176752号公報等に記載される製造方法等に準じて調製することができる。
例えば、非水電解液中のカチオンがナトリウム主体となるナトリウムイオン二次電池の場合、負極活物質としてハードカーボンやTiO、V、MoO等の酸化物等が用いられる。例えば、非水電解液中のカチオンがナトリウム主体となるナトリウムイオン二次電池の場合、正極活物質としてNaFeO、NaCrO、NaNiO、NaMnO、NaCoO等のナトリウム含有遷移金属複合酸化物、それらのナトリウム含有遷移金属複合酸化物のFe、Cr、Ni、Mn、Co等の遷移金属が複数混合したもの、それらのナトリウム含有遷移金属複合酸化物の遷移金属の一部が他の遷移金属以外の金属に置換されたもの、NaFeP、NaCo(PO等の遷移金属のリン酸化合物、TiS、FeS等の硫化物、あるいはポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリアニリン、及びポリピロール等の導電性高分子、活性炭、ラジカルを発生するポリマー、カーボン材料等が使用される。
【0104】
[負極集電体]
(c)負極は、負極集電体を有する。負極集電体としては、例えば、銅、ステンレス鋼、ニッケル、チタン又はこれらの合金等を用いることができる。
【0105】
[負極活物質層]
(c)負極は、例えば負極集電体の少なくとも一方の面に負極活物質層が形成される。負極活物質層は、例えば、前述の負極活物質と、結着剤と、必要に応じて導電剤とにより構成される。
結着剤としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
導電剤としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、炭素繊維、黒鉛(粒状黒鉛や燐片状黒鉛)、フッ素化黒鉛等の炭素材料を用いることができる。
【0106】
<電極((b)正極及び(c)負極)の製造方法>
電極は、例えば、活物質と、結着剤と、必要に応じて導電剤とを所定の配合量でN-メチル-2-ピロリドン(NMP)や水等の溶媒中に分散混練し、得られたペーストを集電体に塗布、乾燥して活物質層を形成することで得ることができる。得られた電極は、ロールプレス等の方法により圧縮して、適当な密度の電極に調節することが好ましい。
【0107】
<(d)セパレータ>
上記の非水電解液電池は、(d)セパレータを備えることができる。(b)正極と(c)負極の接触を防ぐためのセパレータとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィンや、セルロース、紙、又はガラス繊維等で作られた不織布や多孔質シートが使用される。これらのフィルムは、非水電解液がしみ込んでイオンが透過し易いように、微多孔化されているものが好ましい。
ポリオレフィンセパレ-タとしては、例えば多孔性ポリオレフィンフィルム等の微多孔性高分子フィルムといった正極と負極とを電気的に絶縁し、かつリチウムイオンが透過可能な膜が挙げられる。多孔性ポリオレフィンフィルムの具体例としては、例えば多孔性ポリエチレンフィルム単独、又は多孔性ポリエチレンフィルムと多孔性ポリプロピレンフィルムとを重ね合わせて複層フィルムとして用いてもよい。また、多孔性のポリエチレンフィルムとポリプロピレンフィルムとを複合化したフィルム等が挙げられる。
【0108】
<外装体>
非水電解液電池を構成するにあたり、非水電解液電池の外装体としては、例えばコイン型、円筒型、角型等の金属缶や、ラミネート外装体を用いることができる。金属缶材料としては、例えばニッケルメッキを施した鉄鋼板、ステンレス鋼板、ニッケルメッキを施したステンレス鋼板、アルミニウム又はその合金、ニッケル、チタン等が挙げられる。
ラミネート外装体としては、例えば、アルミニウムラミネートフィルム、SUS製ラミネートフィルム、シリカをコーティングしたポリプロピレン、ポリエチレン等のラミネートフィルム等を用いることができる。
【0109】
本実施形態にかかる非水電解液電池の構成は、特に制限されるものではないが、例えば、正極及び負極が対向配置された電極素子と、非水電解液とが、外装体に内包されている構成とすることができる。非水電解液電池の形状は、特に限定されるものではないが、以上の各要素からコイン状、円筒状、角形、又はアルミラミネートシート型等の形状の電気化学デバイスが組み立てられる。
【実施例
【0110】
以下、実施例により、本開示をさらに詳細に説明するが、本開示はこれらの記載に何ら制限を受けるものではない。
【0111】
(非水電解液No.1-1の調製)
非水有機溶媒としてエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートの体積比2.5:4:3.5の混合溶媒を用い、当該溶媒中に溶質としてLiPFを1.0mol/Lの濃度となるよう添加した。
次いで、(A)成分として式(1b)で表される化合物、(B)成分としてテトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、(C)成分としてビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム(LiFSI)を、それぞれ非水電解液の総量に対して、(A)成分が0.2質量%、(B)成分が0.4質量%、(C)成分が0.6質量%の濃度となるように溶解した。上記の調製において、液温を20~30℃の範囲に維持しながら行った。非水電解液の調製条件を表1に示す。以降、全ての表中「-」は未添加を表す。
【0112】
(非水電解液No.1-2の調製)
(A)成分として、式(1b)で表される化合物の代わりに、式(1c)で表される化合物を用い、(A)~(C)成分の濃度をそれぞれ表1に記載の通りに変更したこと以外は、非水電解液No.1-1と同様に、No.1-2を調製した。非水電解液の調製条件を表1に示す。
【0113】
(比較非水電解液No.1-1~1-2の調製)
(C)成分であるビス(フルオロスルホニル)イミドリチウムを、表1のように添加せず、(B)成分の濃度を表1に記載の通りに変更したこと以外は、非水電解液No.1-1と同様に、比較非水電解液No.1-1~1-2を調製した。非水電解液の調製条件を表1に示す。
【0114】
(比較非水電解液No.1-3の調製)
(B)成分であるテトラフルオロホウ酸リチウム及び(C)成分であるビス(フルオロスルホニル)イミドリチウムを、表1のように添加しなかったこと以外は、非水電解液No.1-1と同様に、比較非水電解液No.1-3を調製した。非水電解液の調製条件を表1に示す。
【0115】
(比較非水電解液No.1-4の調製)
(A)成分として、式(1b)で表される化合物の代わりに、式(1c)で表される化合物を0.3質量%用いたこと以外は、比較非水電解液No.1-3と同様に、比較電解液No.1-4を調製した。非水電解液の調製条件を表1に示す。
【0116】
参考までに、(A)成分の質量基準の含有量Wに対する(B)成分の質量基準の含有量Wの比であるW/W、及び(A)成分の質量基準の含有量Wに対する(C)成分の質量基準の含有量Wの比であるW/Wを表1に示した。
【0117】
【表1】
【0118】
(非水電解液電池の作製)
上記非水電解液を用いてLiNi0.6Co0.2Mn0.2を正極材料、黒鉛を負極材料として非水電解液電池(試験用セル)を作製した。
LiNi0.6Co0.2Mn0.2粉末90質量%にバインダーとして5質量%のポリフッ化ビニリデン(以降「PVDF」と記載する)、導電材としてアセチレンブラックを5質量%混合し、さらにN-メチルピロリドン(以降「NMP」と記載する)を添加し、ペースト状にした。このペーストをアルミニウム箔上に塗布して、乾燥させることにより、試験用正極体とした。
また、黒鉛粉末90質量%に、バインダーとして10質量%のPVDFを混合し、さらにNMPを添加し、スラリー状にした。このスラリーを銅箔上に塗布して、120℃で12時間乾燥させることにより、試験用負極体とした。
そして、ポリエチレン製セパレータに非水電解液を浸み込ませてアルミラミネート外装の50mAhセルを組み立てた。
【0119】
〔初期充放電後 直流抵抗値測定試験(低温での抵抗値評価)〕
まず、作製したセルを用いて、25℃の環境温度で、以下の条件で初期充放電を実施した。すなわち、充電上限電圧4.3V、0.1Cレート(5mA)で定電流定電圧充電し、放電終止電圧3.0Vまで0.2Cレート(10mA)定電流で放電を行い、その後、充電上限電圧4.3V、0.2Cレート(10mA)で定電流定電圧充電し、放電終止電圧3.0Vまで0.2Cレート(10mA)定電流で放電を行う充放電サイクルを3回繰り返した。
初期充放電を完了させた電池を充放電装置と25℃恒温槽から取り出し、次に電気化学測定装置(エレクトロフィールド社製、自動電池評価装置)に接続したうえで-20℃の恒温槽に入れた。その状態で1時間静置させた後に、IV測定を行って直流抵抗の絶対値を求めた。
表2に示すように、各非水電解液について、使用した(A)成分の種類ごとに分けて対比することとし、それぞれ(B)成分及び(C)成分を添加しなかった非水電解液(比較非水電解液No.1-3~1-4)を基準とし、各実験例の直流抵抗の絶対値を、当該基準の直流抵抗の絶対値を100とした時の相対値で表した。
【0120】
〔400サイクル後 容量測定試験(サイクル特性評価)〕
上述の-20℃での直流抵抗値測定試験が完了した非水電解液電池を、電気化学測定装置と-20℃恒温槽から取り出し、充放電装置に接続したうえで50℃の恒温槽にいれた。その状態で2時間静置させた後に、充電レート2Cにて4.3Vまで充電を行った。4.3Vに到達後はその電圧を1時間維持した後、放電レート2Cにて3.0Vまで放電を行った。この50℃の環境下での2Cでの充放電を400サイクル繰り返した。そして400サイクル後の放電容量で電池の劣化の具合を評価した。
表2に示すように、各非水電解液について、使用した(A)成分の種類ごとに分けて対比することとし、それぞれ(B)成分及び(C)成分を添加しなかった非水電解液(比較非水電解液No.1-3~1-4)を基準とし、各実験例の400サイクル後の容量の値は、当該基準の容量の値を100とした時の相対値で表した。
【0121】
【表2】
【0122】
表2に示す評価結果から、本開示の非水電解液を用いた非水電解液電池は、比較例に対して、低温での内部抵抗の絶対値の低減効果と、サイクル試験後の電池容量の向上効果とを、バランス良く発揮できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本開示によれば、低温(0℃以下、例えば-20℃)での内部抵抗の絶対値の低減効果と、サイクル試験後の電池容量の向上効果とを、バランス良く発揮できる非水電解液を提供することができる。
【0124】
本開示を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本開示の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本出願は、2019年6月5日出願の日本特許出願(特願2019-105459)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。