(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】硫化ビスマス粒子及びその製造方法並びにその用途
(51)【国際特許分類】
C01G 29/00 20060101AFI20241218BHJP
C09D 5/33 20060101ALI20241218BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20241218BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
C01G29/00
C09D5/33
C09D7/61
C09D201/00
(21)【出願番号】P 2021551363
(86)(22)【出願日】2020-09-30
(86)【国際出願番号】 JP2020037115
(87)【国際公開番号】W WO2021070700
(87)【国際公開日】2021-04-15
【審査請求日】2023-07-11
(31)【優先権主張番号】P 2019186045
(32)【優先日】2019-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000354
【氏名又は名称】石原産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】實藤 憲彦
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107098387(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第1974406(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104226335(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 29/00
C09D 5/33
C09D 7/61
C09D 201/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
L
*a
*b
*表色系における粉体のL
*値が22.0以下である硫化ビスマス粒子。
【請求項2】
波長1200nmの反射率が30.0%以上である請求項1に記載の硫化ビスマス粒子。
【請求項3】
波長750nmの反射率が15.0%以下である請求項1又は2に記載の硫化ビスマス粒子。
【請求項4】
波長1550nmの反射率が50.0%以上である請求項1乃至3のいずれか一項に記載の硫化ビスマス粒子。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の硫化ビスマス粒子を含む、赤外線反射材料。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の硫化ビスマス粒子を含む、LiDAR用のレーザー反射材料。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の硫化ビスマス粒子と溶媒を含む、溶媒組成物。
【請求項8】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の硫化ビスマス粒子と樹脂を含む、樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の硫化ビスマス粒子と塗料用樹脂を含む、塗料組成物。
【請求項10】
請求項9に記載の塗料組成物を含む、塗膜。
【請求項11】
ビスマス原子のモル数に対する硫黄原子のモル数の比率(S/Biモル比)が3.5以上20以下となるようにビスマス化合物と硫黄化合物とを水性分散媒中で混合し、次いで、
30℃以上120℃以下で加熱する工程を含む、硫化ビスマス粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化ビスマス粒子及びその製造方法並びにその用途、特に該硫化ビスマスを含む赤外線反射材料、LiDAR用のレーザー反射材料、溶媒組成物、樹脂組成物、塗料組成物、塗料組成物を含む塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の多くの黒色顔料には、クロム酸化物が使用されているが、その製造時にクロムの一部が3価から6価に変化して6価クロムを含む顔料となるおそれがある。6価クロムを含む顔料は特定化学物質に指定されており、人体や環境に対する安全性の面で懸念がある。
【0003】
このため、特定化学物質に指定されていない硫化ビスマスを黒色顔料として使用することが検討されている。例えば、特許文献1には、液晶ディスプレイ用光吸収材や遮光膜に用いる塗料の黒色顔料として、硫化ビスマス粒子を使用することが記載されている。この硫化ビスマス粒子は、硝酸ビスマス五水和物と水酸化ナトリウムとを溶解した水溶液に、ビスマス原子に対して3.3倍のモル数のチオ硫酸ナトリウムを溶解した水溶液を加え、撹拌しながら加熱して得られる。
【0004】
また、非特許文献1には、硝酸ビスマスとビスマス原子に対して1.5倍のモル数のチオ尿素とを溶解した水溶液に、硝酸を添加し、180℃の温度で水熱合成することで、黒色の硫化ビスマス粒子が合成できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Materials Letters Vol.63(2009年),pp.1496-1498
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の方法で製造した硫化ビスマス粒子は、黒色ではあるものの黒色度が十分ではなく、所望の黒色度を有するものではない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、高い黒色度を有する硫化ビスマス粒子を得るために鋭意研究した結果、ビスマス化合物と硫黄化合物との反応において、それらの化合物の配合比が、硫化ビスマス粒子の黒色度に影響を与え、従来よりも黒色度の高い硫化ビスマス粒子が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
即ち、本発明は、以下の通りである。
[1] L*a*b*表色系における粉体のL*値が22.0以下である硫化ビスマス粒子。
[2] 波長1200nmの反射率が30.0%以上である[1]に記載の硫化ビスマス粒子。
[3] 波長750nmの反射率が15.0%以下である[1]又は[2]に記載の硫化ビスマス粒子。
[4] 波長1550nmの反射率が50.0%以上である[1]乃至[3]のいずれか一項に記載の硫化ビスマス粒子。
[5] [1]乃至[4]のいずれか一項に記載の硫化ビスマス粒子を含む、赤外線反射材料。
[6] [1]乃至[4]のいずれか一項に記載の硫化ビスマス粒子を含む、LiDAR用のレーザー反射材料。
[7] [1]乃至[4]のいずれか一項に記載の硫化ビスマス粒子と溶媒を含む、溶媒組成物。
[8] [1]乃至[4]のいずれか一項に記載の硫化ビスマス粒子と樹脂を含む、樹脂組成物。
[9] [1]乃至[4]のいずれか一項に記載の硫化ビスマス粒子と塗料用樹脂を含む、塗料組成物。
[10] [9]に記載の塗料組成物を含む、塗膜。
[11] ビスマス原子のモル数に対する硫黄原子のモル数の比率(S/Biモル比)が3.5以上20以下となるようにビスマス化合物と硫黄化合物とを水性分散媒中で混合し、次いで、加熱する工程を含む、硫化ビスマス粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の硫化ビスマス粒子は、L*a*b*表色系におけるL*値が22.0以下の高い黒色度を有する。
本発明によれば、その他にも例えば、以下の効果を奏することもできる。
本発明の硫化ビスマス粒子は、波長1200nmの反射率が30.0%以上の高い赤外線反射率を有することができる。
また、本発明の硫化ビスマス粒子は、特定量のビスマス化合物と硫黄化合物とを水性分散媒中で混合し、次いで、加熱して、簡便に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施例1の硫化ビスマス粒子の粉体の反射率スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の硫化ビスマス粒子は、化学式Bi(III)2S3等で表されるビスマスと硫黄との化合物であって、L*a*b*表色系における粉体のL*値が22.0以下であり、20.0以下であることが好ましく、15.0以下がより好ましく、10.0以下が更に好ましい。前記のようなL*値であれば、硫化ビスマス粒子の黒色度は十分高いといえる。ここでいうL*値とは、CIE 1976 Lab(L*a*b*表色系)の明度を表す指数であり、その値が小さいほど明度は低くなることから、黒色顔料に関して、L*値が小さいほど黒色度(黒さを表す指標)が高くなる。L*値は、測色色差計等により測定でき、例えば、X-rite製のRM-200QCポータブル色差計(商品名)を用いることができる。
尚、「CIE 1976 Lab(L*a*b*表色系)」とは、CIE(国際照明委員会)が1976年に推奨した色空間のことであり、CIELABと略記されることもある。
【0013】
また、本発明の硫化ビスマス粒子は、L*a*b*表色系における粉体のa*値が-2.0以上5.0以下であることが好ましく、粉体のb*値が-3.0以上8.0以下であることが好ましい。このような範囲であれば、本発明の硫化ビスマス粒子は、赤味、緑味、黄味、青味を抑えた黒色とすることができる。ここでいう、a*値、b*値とは、L*a*b*表色系の色相彩度を表す指数であり、a*値は正側に大きくなるほど赤味が強く負側に大きくなるほど緑味が強いことを示し、b*値は正側に大きくなるほど黄味が強く負側に大きくなるほど青味が強いことを示す。前記a*値、b*値については、L*値と同様に測定することができる。
【0014】
本発明の硫化ビスマス粒子は、上記のL*値でありながら、波長1200nmの反射率が30.0%以上であることが好ましい。前記の反射率であれば、赤外線に対する反射率は十分高いといえる。また前記反射率は、35.0%以上がより好ましく、40.0%以上が更に好ましい。ここでいう赤外線とは、波長が780nmから2500nmである電磁波のことをいう。
【0015】
ここでいう反射率とは、物体に照射する光の放射束に対してはね返った光の放射束の割合である。反射率は分光光度計により測定でき、例えば日本分光(株)製の紫外可視近赤外分光光度計V-770(商品名)を用いることができる。
【0016】
また、本発明の硫化ビスマス粒子は、粉体の反射率が波長1550nmで、50.0%以上であることが好ましく、更に好ましくは60.0%以上であり、最も好ましくは70.0%以上である。前記の反射率であれば、波長1550nmを用いるLaser Imaging Detection and Ranging(LiDAR)用のレーザー反射材料としても好適に用いることもできる。
【0017】
また、本発明の硫化ビスマス粒子は、波長750nmの粉体の反射率が15.0%以下であることが好ましく、更に好ましくは13.0%以下であり、最も好ましくは11.0%以下である。このような範囲であれば、可視光を十分に吸収することができ、粉体の黒色度が高くなる。ここでいう、可視光とは波長が380nmから780nmの電磁波のことをいう。
【0018】
本発明の硫化ビスマス粒子のBET比表面積値(窒素吸着による)は0.1~70m2/g(0.1m2/g以上70m2/g以下)が好ましく、1~40m2/g(1m2/g以上40m2/g以下)が更に好ましい。更により好ましくは、1.4~37m2/g(1.4m2/g以上37m2/g以下)である。このBET比表面積値から、下記式1により球状とみなした平均粒子径を算出することができる。このBET比表面積値から算出される平均粒子径は0.013~8.8μm(0.013μm以上8.8μm以下)が好ましく、0.02~0.88μm(0.02μm以上0.88μm以下)が更に好ましい。更により好ましくは、0.023~0.63μm(0.023μm以上0.63μm以下)である。
式1:L=6/(ρ・S)
ここで、Lは平均粒子径(μm)、ρは硫化ビスマスの密度(6.78g/cm3)、Sは試料のBET比表面積値(m2/g)である。
【0019】
本発明の硫化ビスマス粒子は、粉体pHを調整してもよい。ここでいう粉体pHとは、粉体を純水中で撹拌した後の水溶液のpHのことを言う。水溶液のpHは、pHメーターにより測定でき、例えば(株)堀場製作所製のpHメーターD73(商品名)を用いることができる。粉体pHの調整方法としては、例えば酸やアルカリによるリーチング(浸出)処理等が挙げられる。
【0020】
本発明は、ビスマス原子のモル数に対する硫黄原子のモル数の比率(S/Biモル比) が3.5以上20以下となるようにビスマス化合物と硫黄化合物とを水性分散媒中で混合し、次いで、加熱する工程を含む、硫化ビスマス粒子の製造方法である。また、ビスマス原子のモル数に対する硫黄原子のモル数の比率(S/Biモル比)が3.5以上20以下となるようにビスマス化合物と硫黄化合物とを水性分散媒中で混合し、次いで、加熱する工程を含む方法で製造された硫化ビスマス粒子も本発明を実施するための形態の一つである。加熱温度は、30℃以上145℃以下とするのが好ましい。
【0021】
硫黄化合物には、例えば、チオシアン酸カリウム、チオシアン酸ナトリウムのようなチオシアン酸塩や、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム、チオ硫酸アンモニウムのようなチオ硫酸塩や、チオ尿素のような有機硫黄化合物が使用でき、前記硫黄化合物は、無水物でも水和物でもよく、どちらを用いてもよい。また、前記硫黄化合物は粉体の形態のものに限らず、粉体を各種溶媒(水、ギ酸、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール等)に混合させた混合液を用いることもできる。混合液は、粉体が溶媒中に残存している形態でもよいし、粉体が溶媒中に溶けている形態でもよい。また、公知の酸や塩基を加えて、溶媒中に残存している粉体を溶かしてもよい。
【0022】
ビスマス化合物としては、例えば硫酸ビスマス、硝酸ビスマス、硝酸ビスマス五水和物、次硝酸ビスマス、水酸化ビスマス、酸化ビスマス、塩化ビスマス、臭化ビスマス、ヨウ化ビスマス、オキシ塩化ビスマス、次炭酸ビスマス、塩基性炭酸ビスマス等が使用できる。前記ビスマス化合物は粉体の形態のものに限らず、粉体を各種溶媒(水、ギ酸、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール等)に混合させた混合液を用いることもできる。
【0023】
また、上記ビスマス化合物は公知の方法で製造してもよい。例えば、水酸化ビスマスであれば以下のようにして製造できる。硝酸ビスマス五水和物と硝酸とを混合し、それを加熱する。そこに水酸化ナトリウムを加え、熟成することで、水酸化ビスマスを含む混合液を得る。得られた混合液を固液分離し、固形分(水酸化ビスマス)を洗浄する。
【0024】
上記の水性分散媒とは、水を主成分とするもの、即ち、水の含有量が50質量%以上のものである。水性分散媒中の水の含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%である。水以外の成分としては、水に溶解する各種の有機溶媒(メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン等)が挙げられ、特にエタノールを含むことが好ましい。水性分散媒中のエタノールの含有量は、好ましくは10質量%以下である。有機溶媒を含むことで、より黒色度の高い硫化ビスマスを製造することができる。
【0025】
上記の原料の混合は、どのような順序で行ってもよい。即ち、ビスマス化合物と水性分散媒とを予め混合しておき、ここに硫黄化合物を添加してもよいし、硫黄化合物と水性分散媒とを予め混合しておき、ここにビスマス化合物を添加してもよい。あるいは、すべての原料を一度に水性分散媒に添加し、混合してもよい。
【0026】
上記の原料混合工程において、硫黄化合物とビスマス化合物は、S/Biモル比が3.5以上20以下となるように混合する。このような範囲にすることで、より黒色度の高い硫化ビスマス粒子を製造できる。前記S/Biモル比は、5以上12.5以下が好ましく、7.5以上10以下が更に好ましい。前記S/Biモル比は、硫黄化合物中の硫黄原子のモル数を、ビスマス化合物中のビスマス原子のモル数で除することで算出できる。
【0027】
また、上記の原料混合工程において、必要に応じて、分散剤、乳化剤、増粘剤、消泡剤、表面調整剤、沈降防止剤等の添加剤を含ませることができる。
【0028】
上記の混合工程により得られた混合液は、使用する原料によりpHを適宜調整するのが好ましい。例えば、原料として水酸化ビスマスとチオ硫酸ナトリウムと水とを使用する場合であれば、混合工程後に得られる混合液のpHは5以下に調整するのが好ましい。より好ましくはpHを4以下に調整し、更に好ましくはpHを3以下に調整する。pH調整剤としては特に限定されず、硫酸、硝酸、塩酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等といった、公知のものを使用できる。尚、ここで用いられる硫酸は、前記の硫黄化合物には含まれない。
【0029】
上記原料の混合には、スターラー、ミキサー、ホモジナイザー、撹拌機等の公知の混合機を用いることができる。
【0030】
上記混合工程により得られた混合液を加熱することで、硫化ビスマス粒子を製造できる。前記加熱温度は、30℃以上が好ましく、より好ましくは30℃以上145℃以下であり、このような温度で加熱することで、より黒色度の高い硫化ビスマスを製造できる。前記加熱温度は、40℃以上120℃以下がより好ましく、50℃以上90℃以下が更に好ましい。
【0031】
上記温度での加熱時間は任意に設定できるが、0.5~10時間(0.5時間以上10時間以下)が好ましい。
【0032】
上記加熱工程後、必要に応じて、混合液を蒸発乾固したり、前記混合液を固液分離したりしてもよい。固液分離には公知のろ過方法を用いることができ、例えば、通常、工業的に用いられるロータリープレス、フィルタープレス等の加圧ろ過によるろ過装置や、ヌッチェ、ムーアフィルター等の真空ろ過装置等を用いることができる。また、遠心分離等も用いることができる。その際に、必要に応じて純水等で洗浄を行ってもよい。
【0033】
また、上記固液分離によって得た固形分を、乾燥する工程を含んでもよい。乾燥工程を含む場合、乾燥温度と乾燥時間は任意に設定できる。例えば、乾燥温度は30℃以上120℃以下が好ましく、乾燥時間は0.5~10時間(0.5時間以上10時間以下)が好ましい。乾燥工程では、例えば、乾燥機、オーブン、電気炉等の加熱機器を用いることができる。
【0034】
上記の方法で製造した硫化ビスマス粒子は、公知の粉砕機や分級機等を用いて、適宜粒度調整を行なってもよい。
【0035】
上記のような方法で製造した硫化ビスマス粒子は、X線回折法等により、それが硫化ビスマスであることを確認できる。例えば、(株)Rigaku製のX線回折装置Ultima IV(商品名)を用いて測定したスペクトルに基づいて同定することができる。
【0036】
本発明の硫化ビスマス粒子は、粒子表面を、各種の無機化合物や有機化合物で被覆してもよい。無機化合物としては、例えばケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、スズ、アンチモン等の金属酸化物及び/又は金属含水酸化物等が挙げられる。また、有機化合物としては、有機ケイ素化合物、有機金属化合物、ポリオール系、アミン系、カルボン酸系等の有機化合物(具体的には、トリメチロールメタン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、ステアリン酸、オレイン酸やそれらの塩等)が挙げられる。硫化ビスマスの粒子表面を、上記の無機化合物で被覆した後、更に上記の有機化合物で被覆してもよい。無機化合物や有機化合物の被覆量は適宜設定することができる。
【0037】
硫化ビスマス粒子の粒子表面に無機化合物や有機化合物を被覆する方法としては、二酸化チタン顔料等の従来の表面処理方法を用いることができる。具体的には、硫化ビスマス粒子のスラリーに無機化合物や有機化合物を添加し被覆するのが好ましく、スラリー中で無機化合物や有機化合物を中和し、析出させて被覆するのがより好ましい。また、硫化ビスマス粒子の粉末に、無機化合物や有機化合物を添加し混合して被覆させてもよい。
【0038】
本発明の硫化ビスマスは、酸やアルカリを用いてリーチング処理を施してもよい。リーチングに用いる酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸等の無機酸等が挙げられ、アルカリとしては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
【0039】
本発明の硫化ビスマス粒子は、それが有する顔料特性を利用して黒色顔料として用いることができる。また、それが有する赤外線を反射する特性も併せて、赤外線反射材料として用いることができる。赤外線反射材料として用いる場合、本発明の硫化ビスマス粒子とそれ以外の着色剤や赤外線反射剤を併用してもよい。
【0040】
また、本発明の硫化ビスマス粒子は、Laser Imaging Detection and Ranging(LiDAR)用のレーザー反射材料としても好適に用いることもできる。LiDARには、例えば、波長1550nmのレーザーが使用でき、
図1に示すような、本発明の硫化ビスマス粒子の波長1550nmにおける反射率であれば、LiDAR用のレーザー反射材料として十分使用できる。
【0041】
本発明の硫化ビスマス粒子及びこれを含む赤外線反射材料は、溶媒と混合して、分散体又は懸濁液(これらを総称して溶媒組成物という。)とすることができる。分散体又は懸濁液に用いられる溶媒としては、例えば、水溶媒や、アルコール(メタノール、ブタノール、エチレングリコール等)、エステル(酢酸エチル等)、エーテル、ケトン(アセトン、メチルエチルケトン等)、芳香族炭化水素(トルエン、キシレン、ミネラルスピリット等)、脂肪族炭化水素等の非水溶媒、又はこれらの混合溶媒が挙げられる。分散体又は懸濁液には、必要に応じて、分散剤、乳化剤、不凍剤、pH調整剤、増粘剤、消泡剤等の添加剤を含ませてもよい。このような溶媒組成物の硫化ビスマスの濃度は適宜設定することができる。
【0042】
上記の分散体又は懸濁液を作製するときの混合工程には、公知の混合機を用いることができる。また、前記の混合の際に、必要に応じて脱泡してもよい。混合機としては、例えば、通常工業的に用いられる2軸ミキサー、3本ロール、サンドミル等が挙げられ、ラボスケールであれば、ホモジナイザーやペイントシェーカー等を用いることができる。その際に、必要に応じて、ガラス、アルミナ、ジルコニア、珪酸ジルコニウム等を成分とする粉砕メディアを用いてもよい。
【0043】
本発明の硫化ビスマス粒子及びこれを含む赤外線反射材料は、樹脂と混合して樹脂組成物とすることができる。前記の樹脂組成物に用いられる樹脂としては、例えば以下のものが挙げられるが、特に限定はない。
【0044】
熱可塑性樹脂としては、
(1)汎用プラスチック樹脂(例えば、(a)ポリオレフィン樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、(b)ポリ塩化ビニル樹脂、(c)アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、(d)ポリスチレン樹脂、(e)メタクリル樹脂、(f)ポリ塩化ビニリデン樹脂等)、
(2)エンジニアリングプラスチック樹脂(例えば、(a)ポリカーボネート樹脂、(b)ポリエチレンテレフタレート樹脂、(c)ポリアミド樹脂、(d)ポリアセタール樹脂、(e)変性ポリフェニレンエーテル、(f)フッ素樹脂等)、
(3)スーパーエンジニアリングプラスチック樹脂(例えば、(a)ポリフェニレンスルファイド樹脂(PP)、(b)ポリスルホン樹脂(PSF)、(c)ポリエーテルスルフォン樹脂(PES)、(d)非晶ポリアリレート樹脂(PAR)、(e)液晶ポリマー(LCP)、(f)ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、(g)ポリアミドイミド樹脂(PAI)、(h)ポリエーテルイミド樹脂(PEI)等)等
が例示される。
【0045】
熱硬化性樹脂としては、(a)エポキシ樹脂、(b)フェノール樹脂、(c)不飽和ポリエステル樹脂、(d)ポリウレタン樹脂、(e)メラミン樹脂、(f)シリコーン樹脂等が例示される。
【0046】
熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系、オレフィン/アルケン系、塩化ビニル系、ウレタン系、アミド系等が例示される。
【0047】
また、上記の樹脂組成物には、必要に応じて、分散剤、乳化剤、難燃剤、不凍剤、pH調整剤、増粘材、消泡剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等の種々の添加剤を含ませることができる。このような樹脂組成物の硫化ビスマスの濃度は適宜設定することができ、高濃度のマスターバッチとすることもできる。
【0048】
上記の樹脂組成物との混合工程には、上記の分散体又は懸濁液の作製時における混合工程と同様の方法を用いることができる。
【0049】
本発明の硫化ビスマス粒子及びこれを含む赤外線反射材料は、塗料用樹脂と混合し、塗料組成物とすることができる。塗料用樹脂としては、塗料用途で一般に用いられるものであれば特に限定されず、例えば、フェノール樹脂、アルキド樹脂、アクリルアルキド樹脂、アクリル樹脂、アクリルエマルション樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルウレタン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリルウレタン樹脂、エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、フッ素樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、アクリル-スチレン共重合体、アミノ樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂等の各種塗料用樹脂を用いることができる。
【0050】
上記の塗料組成物は、必要に応じて、各種添加剤、溶媒等を含むことができる。添加剤としては各種の一般に用いられる分散剤、乳化剤、不凍剤、pH調整剤、増粘剤、消泡剤等が挙げられる。溶媒としては、水溶媒や、アルコール(メタノール、ブタノール、エチレングリコール等)、エステル(酢酸エチル等)、エーテル、ケトン(アセトン、メチルエチルケトン等)、芳香族炭化水素(トルエン、キシレン、ミネラルスピリット等)、脂肪族炭化水素等の非水溶媒、又はこれらの混合溶媒が挙げられる。このような塗料組成物の硫化ビスマスの濃度は適宜設定することができる。
【0051】
上記の樹脂との混合工程には、上記の分散体又は懸濁液の作製時における混合工程と同様の方法を用いることができる。
【0052】
上記の分散体又は懸濁液や上記の塗料組成物を基材に塗布して硬化させることで塗膜とすることができる。また、この塗膜は黒色塗膜として、あるいは、赤外線の遮蔽塗膜として、更には遮熱塗膜として用いることもできる。
【0053】
上記の分散体又は懸濁液や上記の塗料組成物を塗布する方法としては、スピンコート、スプレー塗装、ローラーコート、ディップコート、フローコート、ナイフコート、静電塗装、バーコート、ダイコート、ハケ塗り、液滴を滴下する方法等の一般的な方法を制限なく用いることができる。分散体又は懸濁液や塗料組成物の塗布に用いる器具は、スプレーガン、ローラー、刷毛、バーコーター、ドクターブレード等の公知の器具から適宜選択できる。塗布後に乾燥させて硬化させると、塗膜を得ることができる。また、乾燥後に焼付を行ってもよい。焼付条件は適宜設定が可能であるが、例えば酸化雰囲気中において、40℃以上200℃以下の温度範囲で1~120分間程度の焼付時間とすることができる。この設定条件とすることで、コイルコーティングラインの乾燥炉にて十分な焼付が可能となる。
【0054】
また、分散体又は懸濁液や塗料組成物を塗布する基材としては、セラミックス製品、ガラス製品、金属製品、プラスチック製品、紙製品等が挙げられる。
【0055】
上記の塗膜は、本発明の硫化ビスマスが有する黒色顔料の特性を有することができる。例えば、L*a*b*表色系における塗膜のL*値を10.0以下とすることができ、好ましくは7.0以下とすることができる。
【0056】
上記の塗膜のL*値を測定する場合、例えば、顔料質量濃度(PWC)が29.60%の塗料組成物を調整し、これを番線番号60のバーコーターを用いて、乾燥塗膜の膜厚が67μmとなるように白黒チャート紙に塗布し、塗膜を形成する。白黒チャート紙の白地上に形成された塗膜について、色差計を用いて、L*値、a*値、b*値を測定する。色差計としては、例えばX-rite製の商品名RM-200QC等を用いることができる。
【0057】
また、上記の塗膜は、本発明の硫化ビスマス粒子が有する赤外線反射特性を有することができる。例えば、波長780~2500nmにおける塗膜の日射反射率を20.0%以上とすることができ、好ましくは30.0%以上とすることができる。更にこのような塗膜は、日射反射率がある程度確保されていることから、一般の黒色顔料に比べ、塗膜表面の温度上昇を抑制することもできる。
【0058】
波長780~2500nmにおける塗膜の日射反射率を測定する場合、例えば、顔料質量濃度(PWC)が29.60%の塗料組成物を調製し、これを番線番号60のバーコーターを用いて、乾燥塗膜の膜厚が67μmとなるように白黒チャート紙に塗布し、塗膜を形成する。白黒チャート紙の白地上に形成された塗膜について、分光光度計を用いて、波長780~2500nmにおける反射率を測定し、JIS K 5602に記載の方法を用いて、波長780~2500nmにおける日射反射率を算出できる。分光光度計としては、例えば日本分光(株)製の紫外可視近赤外分光光度計V-770(商品名)等を用いることができる。
【0059】
また、塗膜の表面温度を測定する場合、例えば、顔料質量濃度(PWC)が29.60%の塗料組成物を調製し、これを番線番号60のバーコーターを用いて、乾燥塗膜の膜厚が67μmとなるように白黒チャート紙に塗布し、塗膜を形成する。白黒チャート紙の白地上に形成された塗膜について、塗膜の上方から赤外線を照射し、照射後の塗膜表面の温度を測定する。赤外線照射には、例えば、岩崎電機(株)製のアイR形赤外電球(商品名)等を用いることができる。
【0060】
更に、上記の塗膜について、耐候性を評価したところ、一般的な黒色顔料を用いた塗膜に比べ、優れた耐候性を示した。
【0061】
上記の耐候性は、曝露試験前後の塗膜の色差が所定の値になるまでに要する時間で評価でき、要する時間が長いほど、耐候性が優れる。ここでいう曝露試験は、その方法については特に限定されず、屋外曝露試験や、促進耐候性試験用の機器を用いた曝露試験を用いることができる。促進耐候性試験用の機器としては、例えば、サンシャインカーボンアーク灯式耐候性試験機(サンシャインウェザーメーター)、デューサイクル耐候性試験機、紫外線カーボンアーク灯式耐候性試験機、キセノンアークランプ式耐候性試験機等が挙げられる。
【0062】
塗膜の色差を算出する場合、例えば、顔料質量濃度(PWC)が29.60%の塗料組成物を調製し、これを番線番号60のバーコーターを用いて、乾燥塗膜の膜厚が67μmとなるようにプライマー(リン酸亜鉛)処理済鋼板上に塗布し、塗膜を形成し試験片を作製する。試験片を、サンシャインウェザーメーターを用いて曝露試験を行い、曝露試験後の塗膜について、測色計を用いて、L*値、a*値、b*値を測定し、JIS K 5600に記載の方法で色差を算出した。サンシャインウェザーメーターとしては、例えば、スガ試験機(株)製のS80(商品名)を用いることができ、測色計としては、例えば、日本電色工業(株)製の分光色彩計SD5000(商品名)等を用いることができる。
【実施例】
【0063】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0064】
<L*a*b*表色系における粉体のL*値、a*値、b*値の測定方法>
試料をメノウ乳鉢で十分に粉砕した後、20mmφのアルミリングに試料を入れ、30MPaの加重をかけ、プレス成型し、X-rite製の商品名RM-200QCポータブル色差計を用いて測定する。
【0065】
<粉体の反射率の測定>
試料をメノウ乳鉢で十分に粉砕した後、測定用のセル(日本分光(株)製 粉末セルPSH-002)に試料を入れ、測定用試料とした。測定用試料を、積分球ユニット(日本分光(株)製 ISN-923型)に取り付け、波長300~2500nmにおける反射率を日本分光(株)製の紫外可視近赤外分光光度計商品名V-770を用いて測定する。
【0066】
<粉体pHの測定>
試料1.0gを200mLビーカーに秤取り、そこに純水100mLを入れ、超音波分散を5分間実施した。その後、pH計((株)堀場製作所製 pHメーターD73(商品名))を用いて、水溶液のpHを測定した。
【0067】
<粉末X線回折スペクトルの測定>
試料をメノウ乳鉢で十分に粉砕した後、測定用セルに試料を入れ、(株)Rigaku製の試料水平型多目的X線回折装置 Ultima IV(商品名)を用いて測定する。得られたスペクトルを、化学情報協会提供のICSD(無機結晶構造データベース)を用いて照合し、試料を同定した。スペクトルは、以下の測定条件にて採取する。
(1)光学系
(ア)発散スリット 1°
(イ)散乱スリット 1°
(ウ)受光スリット 0.15mm
(エ)モノクロ受光スリット 0.8mm
(2)X線
(ア)波長 CuKα線 1.541Å
(イ)管球の電流 50mA
(ウ)管球の電圧 50kV
(3)測定範囲 5~70deg.
(4)走査方法
(ア)スキャン速度 5°/分
(イ)ステップ幅 0.02deg.
【0068】
<水酸化ビスマスの作製>
純水277.6g中に60%硝酸(ナカライテスク(株)製)116.8gを加えて、更にその中に硝酸ビスマス五水和物(関東化学(株)製)146.1gを加えて、混合した。この混合液に1459.5gの純水を加え、硝酸ビスマス混合液を調製した。70℃に加熱した純水4L中に、前記硝酸ビスマス混合液と3規定の水酸化ナトリウム水溶液を、pHを6.5~7.5に保ちながら添加し、その後10分間熟成させ、水酸化ビスマスを含む混合液を得、吸引濾過にて固液分離を行い、純水にて洗浄し、水酸化ビスマスを回収した。
【0069】
<硫化ビスマスの作製>
(実施例1)
上記で得た水酸化ビスマスは、濃度が0.08mol/Lになるよう純水を加え、3.45Lのスラリーとした。また、チオ硫酸ナトリウム(ナカライテスク(株)製)に、濃度が0.68mol/Lとなるよう純水を加え、1.98Lのチオ硫酸ナトリウム混合液を調製した。次に、水酸化ビスマススラリーにチオ硫酸ナトリウム混合液を加えた。この配合量におけるS/Biモル比は10である。そこに、濃度30%に希釈した硝酸を150g添加した。硝酸添加後の混合液のpHは1.8であった。得られた混合液を、70℃に昇温し、2時間撹拌して、混合液中に黒色沈殿を得た。吸引濾過にて黒色沈殿を回収し、純水にて洗浄し、100℃、3時間の条件で乾燥させ、実施例1の試料1を得た。得られた試料1について、a*値及びb*値を測定したところ、それぞれa*=0.1、b*=-0.4であった。また、粉体pHを測定したところ、3.2であった。
【0070】
(実施例2)
実施例1において、S/Biモル比を5に変更したこと以外は実施例1と同様にして、試料2を得た。試料2について、a*値及びb*値を測定したところ、それぞれa*=0.1、b*=1.2であった。
【0071】
(実施例3)
実施例1において、S/Biモル比を7.5に変更したこと以外は実施例1と同様にして、試料3を得た。試料3について、a*値及びb*値を測定したところ、それぞれa*=0.2、b*=-1.0であった。
【0072】
(実施例4)
実施例1において、S/Biモル比を15に変更したこと以外は実施例1と同様にして、試料4を得た。試料4について、a*値及びb*値を測定したところ、それぞれa*=0.0、b*=2.9であった。
【0073】
(実施例5)
実施例1において、加熱温度を30℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして、試料5を得た。試料5について、a*値及びb*値を測定したところ、それぞれa*=1.8、b*=4.2であった。
【0074】
(実施例6)
実施例1において、加熱温度を90℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、試料6を得た。試料6について、a*値及びb*値を測定したところ、それぞれa*=0.2、b*=0.2であった。
【0075】
(実施例7)
実施例1において、加熱温度を120℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、試料7を得た。試料7について、a*値及びb*値を測定したところ、それぞれa*=-0.1、b*=0.8であった。
【0076】
(実施例8)
実施例1において、水酸化ビスマスを硝酸ビスマス五水和物(関東化学(株)製)に変更した点と、原料混合工程後に加えるpH調整剤を水酸化ナトリウムに変更した点以外は、実施例1と同様にして、試料8を得た。水酸化ナトリウム添加後の水溶液のpHは4.9であった。得られた試料8について、a*値及びb*値を測定したところ、それぞれa*=-0.3、b*=1.5であった。
【0077】
(実施例9)
実施例1と同様にして得た黒色沈殿を純水にて洗浄後、乾燥させずに、黒色沈殿の濃度が50g/Lになるよう純水を加え、撹拌し、スラリーとした。そのスラリーをビーカーに移し、70℃になるまで昇温し、よく撹拌しながら、黒色沈殿に対してAl2O3換算で2.0質量%のアルミン酸ナトリウムを20分間かけて添加した。添加後、20質量%硫酸を用いてスラリーのpHを7.0とした。その後、1時間撹拌した。得られたスラリーは、濾過、洗浄し、100℃、3時間の条件で乾燥させ、実施例9の試料9を得た。
【0078】
(実施例10)
実施例1と同様にして得た黒色沈殿を純水にて洗浄後、乾燥せずに、黒色沈殿の濃度が50g/Lになるよう純水を加え、撹拌し、スラリーとした。このスラリーをビーカーに移し、3規定の水酸化ナトリウム水溶液を添加し、スラリーのpHを6.5~7.5に調整した。その後、70℃になるまで昇温し、温度を保持しながら2時間撹拌した。得られたスラリーは、濾過、洗浄し、100℃、3時間の条件で乾燥させ、実施例10の試料10を得た。試料10の粉体pHを測定したところ3.9であった。
【0079】
(比較例1)
特開平5-264984号公報の実施例1に準じて行った。硝酸ビスマス五水和物3.33gと、水酸化ナトリウム0.72gとを純水34.3mlに混合した。また、チオ硫酸ナトリウム五水和物2.70gを純水27.7mlに混合した。前者の混合液に後者の混合液を加え、撹拌しながら95℃にて20時間加熱し、混合液中に沈殿物を得た。吸引濾過にて沈殿を回収し、純水にて洗浄し、100℃、3時間の条件で乾燥させ、比較例1の試料11を得た。S/Biモル比は3.3であった。
【0080】
試料1~8、11の生成物、粉体のL
*値及び粉体の反射率を表1に示す。また、試料1の粉体の反射率スペクトルを
図1に示す。
【0081】
【0082】
試料1~8はXRDスペクトルより、Bi2S3であることを確認した。また、試料11については、ピークがブロードであり、同定できなかった。
【0083】
表1から、S/Biモル比が3.5~20で製造した試料(試料1~7)について、粉体のL*値が22.0以下であり、十分な黒色度を有していることが分かる。一方で、S/Biモル比が上記範囲を外れると、L*値が22.0より大きくなり、十分な黒色度を有さないことが分かる。
【0084】
また、原料であるビスマス源を硝酸ビスマスに変化させた試料(試料8)についても、粉体のL*値が22.0以下であり、十分な黒色度を有することが分かる。
【0085】
更には、試料1~8は、いずれも十分な黒色度を有しながらも、波長1200nmにおける反射率が30.0%以上であり、高い赤外線反射特性を有することが分かる。また、波長1550nmにおける反射率が50.0%以上であり、高い赤外線反射特性を有することが分かる。また、波長750nmにおける反射率が15.0%以下であり、低い可視光反射率を有することが分かる。
【0086】
<塗膜の物性評価>
黒色赤外線反射特性が十分に発現した試料1、試料9、又は試料10を使用して、下記のように塗料組成物及び塗膜を作製し、そのL*値と波長780~2500nmにおける日射反射率を測定した。参考例として、市販のカーボンブラック(商品名MA―100:三菱ケミカル(株)製)を用いた。
【0087】
<塗料組成物の作製>
試料1、試料9、又は試料10を用いて、顔料質量濃度(PWC)29.60%にて塗料組成物をそれぞれ作製した。具体的には各原料を表2に従い、100mlのマヨネーズ瓶に入れ、撹拌機(商品名SM-101:(株)アズワン製)を用いて撹拌し、ミルベースを調製した。次に、前記のミルベースにアルキド樹脂(アルキディア(登録商標)J-524-IM-60:DIC(株)製)15.6gを加え、撹拌機(商品名SM-101:(株)アズワン製)で撹拌して、塗料組成物を得た。
【0088】
【0089】
<カーボンブラックを用いた塗料組成物の作製(参考例)>
市販のカーボンブラック(商品名MA―100:三菱ケミカル(株)製)を用いて、顔料体積濃度(PVC)5.8%にて塗料組成物を作製した。具体的には、各原料を表3に従い、100mlのマヨネーズ瓶に入れ、ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)を用いて分散し、ミルベースを調製した。次に、前記のミルベースにアルキド樹脂(アルキディア(登録商標)J-524-IM-60:DIC(株)製)20.0gを加え、ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)で分散して、塗料組成物を得た。
【0090】
【0091】
<塗膜の作製>
試料1、試料9、試料10、又は市販のカーボンブラックの塗料組成物について、番線番号60のバーコーターを用いて、それぞれ、隠ぺい率試験紙(JIS合格品:モトフジ製)に塗布した。これを30分間静置させた後、乾燥機(商品名DRM-620DA:アドバンテック製)を用いて110℃で40分間乾燥して、乾燥塗膜の膜厚が67μmの塗膜を作製した。
【0092】
<塗膜のL*値の測定>
上記の塗膜について、ポータブル色差計(商品名RM-200QC:X-rite製)を用いて、L*a*b*表色系におけるL*値(白地上でのL*値)を測定した。
【0093】
<塗膜の日射反射率の測定>
上記の塗膜について、積分球ユニット(日本分光(株)製 商品名ISN-923型)に取り付け、日本分光(株)製の紫外可視近赤外分光光度計V-770(商品名)を用いて、波長780~2500nmにおける反射率(白地上の反射率)を測定した。測定したデータをJIS K 5602に記載の重価係数を用いて計算し、波長780~2500nmにおける塗膜の日射反射率を算出した。
【0094】
試料1を用いた塗膜のL*値は6.6であり、波長780~2500nmにおける塗膜の日射反射率は38.4%であった。
【0095】
試料9を用いた塗膜のL*値は5.9であり、波長780~2500nmにおける塗膜の日射反射率は38.9%であった。
【0096】
試料10を用いた塗膜のL*値は5.0であり、波長780~2500nmにおける塗膜の日射反射率は38.7%であった。
【0097】
試料1、試料9、又は試料10を用いたそれぞれの塗膜は、L*値が10.0以下となっており、黒色塗膜に一般に求められる黒色度を有していることが分かる。
【0098】
また、試料1、試料9、又は試料10を用いたそれぞれの塗膜は、日射反射率が20.0%以上となっており、赤外線反射塗膜に一般に求められる赤外線反射特性を有していることが分かる。
【0099】
市販のカーボンブラックを用いた塗膜は、日射反射率が3.97%であり、本発明の硫化ビスマス粒子を用いた塗膜よりも小さく、また赤外線反射塗膜に一般に求められる赤外線反射特性を有していないことが分かる。
【0100】
<塗膜温度の評価>
試料1、市販のカーボンブラックを用いて、上記のように塗料組成物及び塗膜を作製し、赤外線照射後の塗膜表面温度を測定した。
【0101】
<塗膜表面温度の測定>
上記の塗膜について、75mm角に切り出し、塗膜表面から上部方向に400mmの位置から赤外線ランプ(岩崎電機(株)製アイR形赤外線電球(商品名) 250W)を20分間照射し、塗膜表面温度を測定した。
【0102】
試料1を用いた塗膜の赤外線照射後の表面温度は、59℃であった。
【0103】
市販のカーボンブラックを用いた塗膜の赤外線照射後の表面温度は、78℃であり、本発明の硫化ビスマスを用いた塗膜の表面温度は低いことが分かる。
【0104】
<塗膜の耐候性評価>
試料1又は市販のカーボンブラックを用いて、上記のように塗料組成物及び塗膜を作製し、塗膜の耐候性を評価した。曝露試験前後の塗膜の色差が5以上となるまでの時間を測定した。
【0105】
<曝露試験用の試験片の作製>
試料1又は市販のカーボンブラックの塗料組成物をそれぞれ乾燥膜厚が約67μmになるようにバーコーターを用いて、プライマー(リン酸亜鉛)処理済鋼板上に塗布し、110℃で40分間焼きつけ試験片を作製した。
【0106】
<曝露試験前後の塗膜の色差の算出>
上記の試験片について、サンシャインウェザーメーター(スガ試験機(株)、商品名S80)を用い、光照射しながら、一定の間隔で水噴射して促進曝露した。一定間隔毎に測色計(日本電色工業(株)製 分光色彩計 商品名SD5000)を用いて測色を行い、色差をJIS K 5600に準じた方法で算出した。
【0107】
試料1を用いた塗膜は、曝露試験前後の色差が5以上となるのに600時間要し、耐候性がよいことが分かる。
【0108】
市販のカーボンブラックを用いた塗膜は、曝露試験前後の色差が5以上となるのに180時間要した。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明の硫化ビスマス粒子は、L*a*b*表色系におけるL*値が22.0以下の高い黒色度を有することから、黒色顔料として有用である。しかも、本発明の硫化ビスマス粒子は、波長1200nmの反射率が30.0%以上の高い赤外線反射率を有することから、赤外線反射材料として有用である。