(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】ドライエッチング方法、半導体デバイスの製造方法及びドライエッチングガス組成物
(51)【国際特許分類】
H01L 21/302 20060101AFI20241218BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
H01L21/302 201A
H01L21/302 301N
(21)【出願番号】P 2022507131
(86)(22)【出願日】2021-03-04
(86)【国際出願番号】 JP2021008547
(87)【国際公開番号】W WO2021182311
(87)【国際公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2020044078
(32)【優先日】2020-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】澤村 涼介
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 聖唯
(72)【発明者】
【氏名】大森 啓之
(72)【発明者】
【氏名】八尾 章史
【審査官】河合 俊英
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0275205(US,A1)
【文献】特開平10-303181(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0316946(US,A1)
【文献】韓国登録特許第10-0870914(KR,B1)
【文献】特開平4-199827(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/302
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン酸化物に、気体のフッ化水素及び気体の有機アミン化合物、気体の有機アミン化合物のフッ化水素塩、又は、気体のフッ化水素、気体の有機アミン化合物及び気体の有機アミン化合物のフッ化水素塩を反応させるシリコン酸化物のドライエッチング方法であって、
前記有機アミン化合物は、下記の一般式(1)に示される化合物の少なくとも2種を含む有機アミン混合物であることを特徴とするドライエッチング方法。
【化1】
(一般式(1)においてNは窒素原子である。R
1は、炭素数1~10の、環やヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基である。R
2、R
3は、水素原子又は炭素数1~10の、環やヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基である。但し、炭化水素基は、炭素数が3以上の場合にあっては、分岐鎖構造あるいは環状構造をとっていてもよい。炭化水素基のヘテロ原子は、窒素原子、酸素原子、硫黄原子又はリン原子である。更に、R
1とR
2が共に炭素数1以上の炭化水素基の場合、R
1とR
2が直接結合して環状構造をとっていてもよい。更に、R
1またはR
2が二重結合で直接結合して環状構造を取る場合に、R
3が存在せずに芳香環を形成してもよい。また、R
1、R
2及びR
3は、同じ炭化水素基であってもよく、異なる炭化水素基であってもよい。)
【請求項2】
前記有機アミン混合物が、少なくとも二級アミン及び三級アミンを含む請求項1に記載のドライエッチング方法。
【請求項3】
前記有機アミン混合物の組成割合は、前記二級アミンを前記三級アミン及び前記二級アミンの合計量に対して10体積ppm~10体積%含む請求項2に記載のドライエッチング方法。
【請求項4】
前記有機アミン混合物の組成割合は、前記二級アミンを前記三級アミン及び前記二級アミンの合計量に対して100体積ppm~5000体積ppm含む請求項3に記載のドライエッチング方法。
【請求項5】
前記二級アミンがジメチルアミン、ジエチルアミン、エチルイソプロピルアミン、エチルプロピルアミンのいずれか1種であり、前記三級アミンがトリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルエチルアミンのいずれか1種である請求項2~4のいずれか1項に記載のドライエッチング方法。
【請求項6】
前記二級アミンがジメチルアミンであり、前記三級アミンがトリメチルアミンである請求項5に記載のドライエッチング方法。
【請求項7】
シリコン酸化物に、気体のフッ化水素及び気体の有機アミン混合物、気体の有機アミン混合物のフッ化水素塩、又は、気体のフッ化水素、気体の有機アミン混合物及び気体の有機アミン混合物のフッ化水素塩を反応させる際、プラズマ状態を伴わずに反応させる請求項1~6のいずれか1項に記載のドライエッチング方法。
【請求項8】
前記反応させる際の前記シリコン酸化物の温度が、200℃以下であることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載のドライエッチング方法。
【請求項9】
前記反応は、
前記フッ化水素及び前記有機アミン混合物を含む処理ガス、前記有機アミン混合物のフッ化水素塩を含む処理ガス、又は、前記フッ化水素、前記有機アミン混合物及び前記有機アミン混合物のフッ化水素塩を含む処理ガスを、前記シリコン酸化物に接触させる工程からなることを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載のドライエッチング方法。
【請求項10】
前記処理ガスに含まれるフッ化水素と前記有機アミン混合物の比は、前記有機アミン混合物に含まれる有機アミン化合物の合計モル数をフッ化水素のモル数で除した値で、0.001以上100以下であることを特徴とする請求項9に記載のドライエッチング方法。
【請求項11】
前記反応は、
シリコン酸化物に前記有機アミン混合物を含む処理ガスを接触させる工程と、前記シリコン酸化物にフッ化水素を含む処理ガスを接触させる工程からなることを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載のドライエッチング方法。
【請求項12】
シリコン酸化物膜とシリコン窒化物膜の両方が露出した被処理基板に対して、シリコン酸化物膜を、選択的にエッチングする請求項1~11のいずれか1項に記載のドライエッチング方法。
【請求項13】
シリコン酸化物膜のシリコン窒化物膜に対する選択比は、2.5以上であることを特徴とする請求項12に記載のドライエッチング方法。
【請求項14】
前記有機アミン混合物が、さらにアンモニアを含む請求項1~13のいずれか1項に記載のドライエッチング方法。
【請求項15】
シリコン酸化物膜を有する半導体基板に対して、請求項1~14のいずれか1項に記載のドライエッチング方法を適用して、シリコン酸化物膜をエッチングする工程を含むことを特徴とする半導体デバイスの製造方法。
【請求項16】
フッ化水素と有機アミン混合物とを含むドライエッチングガス組成物であって、
前記有機アミン混合物は、下記の一般式(1)に示される化合物の少なくとも2種を含む有機アミン混合物であることを特徴とするドライエッチングガス組成物。
【化2】
(一般式(1)においてNは窒素原子である。R
1は、炭素数1~10の、環やヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基である。R
2、R
3は、水素原子又は炭素数1~10の、環やヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基である。但し、炭化水素基は、炭素数が3以上の場合にあっては、分岐鎖構造あるいは環状構造をとっていてもよい。炭化水素基のヘテロ原子は、窒素原子、酸素原子、硫黄原子又はリン原子である。更に、R
1とR
2が共に炭素数1以上の炭化水素基の場合、R
1とR
2が直接結合して環状構造をとっていてもよい。更に、R
1またはR
2が二重結合で直接結合して環状構造を取る場合に、R
3が存在せずに芳香環を形成してもよい。また、R
1、R
2及びR
3は、同じ炭化水素基であってもよく、異なる炭化水素基であってもよい。)
【請求項17】
前記有機アミン混合物が、少なくとも二級アミン及び三級アミンを含む請求項16に記載のドライエッチングガス組成物。
【請求項18】
前記有機アミン混合物は、前記二級アミンを前記三級アミン及び前記二級アミンの合計量に対して10体積ppm~10体積%含むことを特徴とする請求項17に記載のドライエッチングガス組成物。
【請求項19】
前記二級アミンがジメチルアミン、ジエチルアミン、エチルイソプロピルアミン、エチルプロピルアミンのいずれか1種であり、前記三級アミンがトリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルエチルアミンのいずれか1種である請求項17又は18に記載のドライエッチングガス組成物。
【請求項20】
前記二級アミンがジメチルアミンであり、前記三級アミンがトリメチルアミンである請求項19に記載のドライエッチングガス組成物。
【請求項21】
前記有機アミン混合物が、さらにアンモニアを含む請求項16~20のいずれか1項に記載のドライエッチングガス組成物。
【請求項22】
前記ドライエッチングガス組成物は、さらに不活性ガスを含み、前記不活性ガスは、N
2、He、Ne、Ar、Kr及びXeからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項16~21のいずれか1項に記載のドライエッチングガス組成物。
【請求項23】
フッ化水素と有機アミン混合物とを含む、ドライエッチングのための組成物であって、
前記有機アミン混合物は、下記一般式(1)に示される化合物の少なくとも2種を含む有機アミン混合物であることを特徴とする、ドライエッチングのための組成物。
【化3】
(一般式(1)においてNは窒素原子である。R
1は、炭素数1~10の、環やヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基である。R
2、R
3は、水素原子又は炭素数1~10の、環やヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基である。但し、炭化水素基は、炭素数が3以上の場合にあっては、分岐鎖構造あるいは環状構造をとっていてもよい。炭化水素基のヘテロ原子は、窒素原子、酸素原子、硫黄原子又はリン原子である。更に、R
1とR
2が共に炭素数1以上の炭化水素基の場合、R
1とR
2が直接結合して環状構造をとっていてもよい。更に、R
1またはR
2が二重結合で直接結合して環状構造を取る場合に、R
3が存在せずに芳香環を形成してもよい。また、R
1、R
2及びR
3は、同じ炭化水素基であってもよく、異なる炭化水素基であってもよい。)
【請求項24】
請求項1~14のいずれか1項に記載のドライエッチング方法に使用するための有機アミン混合物であって、下記の一般式(1)に示される化合物の少なくとも2種を含むことを特徴とする有機アミン混合物。
【化4】
(一般式(1)においてNは窒素原子である。R
1は、炭素数1~10の、環やヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基である。R
2、R
3は、水素原子又は炭素数1~10の、環やヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基である。但し、炭化水素基は、炭素数が3以上の場合にあっては、分岐鎖構造あるいは環状構造をとっていてもよい。炭化水素基のヘテロ原子は、窒素原子、酸素原子、硫黄原子又はリン原子である。更に、R
1とR
2が共に炭素数1以上の炭化水素基の場合、R
1とR
2が直接結合して環状構造をとっていてもよい。更に、R
1またはR
2が二重結合で直接結合して環状構造を取る場合に、R
3が存在せずに芳香環を形成してもよい。また、R
1、R
2及びR
3は、同じ炭化水素基であってもよく、異なる炭化水素基であってもよい。)
【請求項25】
前記有機アミン混合物が、少なくとも二級アミン及び三級アミンを含む請求項24に記載の有機アミン混合物。
【請求項26】
前記有機アミン混合物は、前記二級アミンを前記三級アミン及び前記二級アミンの合計量に対して10体積ppm~10体積%含む請求項25に記載の有機アミン混合物。
【請求項27】
前記二級アミンがジメチルアミン、ジエチルアミン、エチルイソプロピルアミン、エチルプロピルアミンのいずれか1種であり、前記三級アミンがトリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルエチルアミンのいずれか1種である請求項25又は26に記載の有機アミン混合物。
【請求項28】
前記二級アミンがジメチルアミンであり、前記三級アミンがトリメチルアミンである請求項27に記載の有機アミン混合物。
【請求項29】
前記有機アミン混合物が、さらにアンモニアを含む請求項24~28のいずれか1項に記載の有機アミン混合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シリコン酸化物をドライエッチングするドライエッチング方法、該ドライエッチング方法を用いた半導体デバイスの製造方法及びドライエッチングガス組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造プロセスにおいて、CVD系酸化膜や熱酸化膜、自然酸化膜として半導体ウェハの表面に存在するシリコン酸化膜をエッチングする工程がある。このようなシリコン酸化膜のエッチング方法として、薬液を用いるウェットエッチングや、反応性ガスプラズマを利用したプラズマエッチングが行われている。
【0003】
しかしながら、ウェットエッチングにおいては、エッチング対象でない部材に、薬液による悪影響が生じやすいという問題があった。また、プラズマエッチングでは、プラズマに起因する電気的ダメージをウェハに与えてしまうという問題があった。
【0004】
これらの問題に対して、プラズマを用いずにドライエッチングする方法が試みられている。例えば、フッ化水素ガスに対して、特許文献1では気体の水を、特許文献2では気体のメタノールを、特許文献3では気体の酢酸を、特許文献4では気体のイソプロピルアルコールを、それぞれ添加して、プラズマを用いずにSiO2をドライエッチングする方法が開示されている。
【0005】
また、SiO2を高速にエッチングするために、フッ化水素ガスとアンモニアガスを含む混合ガスを用いる方法が検討されている。例えば、特許文献5には、基板上のシリコン酸化膜の表面にHFガス及びNH3ガスを含む混合ガスを供給し、シリコン酸化膜と混合ガスとを化学反応させ、シリコン酸化膜をケイフッ化アンモニウム(AFS)に変質させ、この反応生成物層を基板のシリコン層上に生成させるAFS層生成工程(Chemical Oxide Removal;COR処理)と、混合ガスの供給を行わずにAFS層を加熱して昇華又は熱分解させる加熱工程(Post Heat Treatment;PHT処理)の2段階でエッチングする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平6-181188号公報
【文献】特開平8-81788号公報
【文献】特表平9-509531号公報
【文献】特表2001-503571号公報
【文献】特開2007-180418号公報(特許第4890025号公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1~4に記載の方法では、SiO2のエッチング速度が十分でない、などの問題点があった。
【0008】
特許文献5に記載の方法では、仮にCOR処理のみを行った場合、シリコン酸化膜の表面にAFS層が残渣として残るという問題点があった。また、COR処理において厚いAFS層が形成された場合には、PHT処理でAFS層を完全に除去するために、200℃を超える温度に加熱する必要があり、シリコン酸化膜以外の部材へのダメージも懸念されていた。
【0009】
更に、COR処理に比べてPHT処理の際の処理温度を高くする必要があるため、工程を切り替えるたびにチャンバーを加熱冷却する必要や、工程ごとにチャンバーを分ける必要があるという問題があり、生産性が低下する要因となっていた。
【0010】
本開示は、上記課題に鑑み、残渣を発生させずに200℃以下の低温でも、十分な速度で、シリコン酸化物をエッチングすることのできるドライエッチング方法、該ドライエッチング方法を用いた半導体デバイスの製造方法及びドライエッチングガス組成物等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討の結果、NH3に代わる塩基として有機アミン化合物を用いても、シリコン酸化物がHFと有機アミン化合物と反応すること、その反応生成物の昇華温度が、ケイフッ化アンモニウムに比べて大幅に低下するため、低温で反応生成物を除去できること、及び、少なくとも2種類の有機アミン化合物を用いることによりシリコン酸化物のエッチング速度がさらに増大することを見出し、本開示を完成させるに至った。
【0012】
具体的には、本開示のドライエッチング方法は、シリコン酸化物に、気体のフッ化水素及び気体の有機アミン化合物、気体の有機アミン化合物のフッ化水素塩、又は、気体のフッ化水素、気体の有機アミン化合物及び気体の有機アミン化合物のフッ化水素塩を反応させるシリコン酸化物のドライエッチング方法であって、
上記有機アミン化合物は、下記の一般式(1)に示される化合物の少なくとも2種を含む有機アミン混合物であることを特徴とする。
【化1】
(一般式(1)においてNは窒素原子である。R
1は、炭素数1~10の、環やヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基である。R
2、R
3は、水素原子又は炭素数1~10の、環やヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基である。但し、炭化水素基は、炭素数が3以上の場合にあっては、分岐鎖構造あるいは環状構造をとっていてもよい。炭化水素基のヘテロ原子は、窒素原子、酸素原子、硫黄原子又はリン原子である。更に、R
1とR
2が共に炭素数1以上の炭化水素基の場合、R
1とR
2が直接結合して環状構造をとっていてもよい。更に、R
1またはR
2が二重結合で直接結合して環状構造を取る場合に、R
3が存在せずに芳香環を形成してもよい。また、R
1、R
2及びR
3は、同じ炭化水素基であってもよく、異なる炭化水素基であってもよい。)
【0013】
本開示のドライエッチング方法では、シリコン酸化物に、上記した有機アミン混合物を反応させることができ、従来の場合より早い速度でシリコン酸化物のドライエッチングを行うことができる。
【0014】
本開示のドライエッチング方法では、上記有機アミン混合物が、少なくとも二級アミン及び三級アミンを含むことが望ましく、その組成割合は、上記二級アミンを上記三級アミン及び上記二級アミンの合計量に対して10体積ppm~10体積%含むことが好ましい。
ことが好ましい。
【0015】
本開示のドライエッチング方法において、上記有機アミン混合物が、少なくとも二級アミン及び三級アミンを含み、その組成割合が、上記二級アミンを上記三級アミン及び上記二級アミンの合計量に対して10体積ppm~10体積%含むと、より早い速度でシリコン酸化物のドライエッチングを行うことができる。
【0016】
本開示のドライエッチング方法において、上記二級アミンがジメチルアミン、ジエチルアミン、エチルイソプロピルアミン、エチルプロピルアミンのいずれか1種であり、上記三級アミンがトリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルエチルアミンのいずれか1種であることが好ましく、上記二級アミンがジメチルアミンであり、上記三級アミンがトリメチルアミンであることがより好ましい。
【0017】
本開示のドライエッチング方法においては、シリコン酸化物に、気体のフッ化水素及び気体の有機アミン混合物、気体の有機アミン混合物のフッ化水素塩、又は、気体のフッ化水素、気体の有機アミン混合物及び気体の有機アミン混合物のフッ化水素塩を反応させる際、プラズマ状態を伴わずに反応させることが好ましい。
【0018】
プラズマ状態を伴うエッチングとは、反応装置の内部に、例えば、0.1~10Torr程度のハロゲン系ガス等を入れ,外側のコイルあるいは対向電極に高周波電力を与えて反応装置中に低温のガスプラズマを発生させ、その中にできるハロゲン系の活性化学種によりシリコン酸化物等のエッチングを行うことをいう。
【0019】
本開示のドライエッチング方法においては、上記した有機アミン混合物を、プラズマ状態を伴わずに反応させることができ、上記したガスプラズマを発生させることなく、従来の場合より早い速度でシリコン酸化物のドライエッチングを行うことができる。
【0020】
本開示の半導体デバイスの製造方法は、シリコン酸化物膜を有する半導体基板に対して、上述のドライエッチング方法を適用して、シリコン酸化物膜をエッチングする工程を含むことを特徴とする。
【0021】
本開示の半導体デバイスの製造方法によれば、シリコン酸化物膜を有する半導体基板に対して、上述のドライエッチング方法を適用して、シリコン酸化物膜をエッチングする工程を含むので、半導体基板上のシリコン酸化物膜のエッチングを早い速度で行うことができ、目的の半導体デバイスを迅速に製造することができる。
【0022】
本開示のドライエッチングガス組成物は、フッ化水素と有機アミン混合物とを含むドライエッチングガス組成物であって、上記有機アミン混合物は、上記一般式(1)に示される化合物の少なくとも2種を含む有機アミン混合物であることを特徴とする。
【0023】
本開示のドライエッチングガス組成物がフッ化水素と上述の有機アミン混合物とを含むので、従来の場合より早い速度でシリコン酸化物のドライエッチングを行うことができる。
【0024】
本開示の有機アミン混合物は、上述のドライエッチング方法に使用するための有機アミン混合物であって、上記一般式(1)に示される化合物の少なくとも2種を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本開示のドライエッチング方法により、残渣を発生させずに200℃以下の低温でも、従来に比べてより早い速度で、シリコン酸化物をエッチングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、本開示の実施形態に係るドライエッチング方法に用いるエッチング装置の一例である反応装置の概略図である。
【
図2】
図2は、実施例1~3、並びに、比較例1及び2におけるアミン2としてジメチルアミンを使用したときのアミン2の濃度(アミン2/(アミン1+アミン2)(体積ppm))とエッチング量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本開示について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は本開示の実施形態の一例であり、これらの具体的内容に限定はされない。その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0028】
本開示のドライエッチング方法は、シリコン酸化物に、気体のフッ化水素及び気体の有機アミン化合物、気体の有機アミン化合物のフッ化水素塩、又は、気体のフッ化水素、気体の有機アミン化合物及び気体の有機アミン化合物のフッ化水素塩を反応させるシリコン酸化物のドライエッチング方法であって、
上記有機アミン化合物は、下記の一般式(1)に示される化合物の少なくとも2種を含む有機アミン混合物であることを特徴とする。
【化2】
(一般式(1)においてNは窒素原子である。R
1は、炭素数1~10の、環やヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基である。R
2、R
3は、水素原子又は炭素数1~10の、環やヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基である。但し、炭化水素基は、炭素数が3以上の場合にあっては、分岐鎖構造あるいは環状構造をとっていてもよい。炭化水素基のヘテロ原子は、窒素原子、酸素原子、硫黄原子又はリン原子である。更に、R
1とR
2が共に炭素数1以上の炭化水素基の場合、R
1とR
2が直接結合して環状構造をとっていてもよい。更に、R
1またはR
2が二重結合で直接結合して環状構造を取る場合に、R
3が存在せずに芳香環を形成してもよい。また、R
1、R
2及びR
3は、同じ炭化水素基であってもよく、異なる炭化水素基であってもよい。)
【0029】
[第1の実施形態]
第1の実施形態においては、気体のフッ化水素及び上記一般式(1)に示される化合物の少なくとも2種を含む有機アミン混合物を、エッチング装置に供給し、シリコン酸化物に接触させることで、シリコン酸化物をドライエッチングする。すなわち、上記フッ化水素及び上記有機アミン混合物を含む処理ガス、上記有機アミン混合物のフッ化水素塩を含む処理ガス、又は、上記フッ化水素、上記有機アミン混合物及び上記機アミン混合物のフッ化水素塩を含む処理ガスを、シリコン酸化物に接触させシリコン酸化物をドライエッチングする。
【0030】
シリコン酸化物に、フッ化水素と上記一般式(1)に示される化合物の少なくとも2種を含む有機アミン混合物とを含む処理ガスを接触させると、シリコン酸化物がフッ化水素と上記有機アミン混合物と化学反応を起こし、ヘキサフルオロケイ酸の有機アミン塩などの反応生成物に変化する。この反応生成物が、生成すると同時に昇華して気体になるか、熱分解して気体になることで、シリコン酸化物が除去される。なお本開示では、昇華とは、固体が熱分解せずに気体になることを指すだけでなく、固体が熱分解して気体の成分になることも含む場合も指す。
【0031】
本開示のドライエッチング方法では、処理ガスとして、フッ化水素ガスと上記有機アミン混合物を別々に供給して、エッチング装置内で混合してもよいし、事前にフッ化水素と有機アミン混合物とを反応させて得られた複数の有機アミンのフッ化水素塩をガスとしてエッチング装置内に供給してもよい。フッ化水素ガスと上記有機アミン混合物を別々に供給して、エッチング装置内で混合した場合にも、エッチング装置内で少なくとも一部に複数の有機アミンのフッ化水素塩が生成する。従って、エッチング装置内では、気体のフッ化水素と気体の有機アミン混合物と上記有機アミン混合物のフッ化水素塩の3つの成分が共存して、シリコン酸化物と接触してもよく、有機アミン混合物のフッ化水素塩のみがシリコン酸化物と接触してもよく、気体のフッ化水素と有機アミン混合物のみがシリコン酸化物と接触してもよい。
結果的には、いずれの場合においても、シリコン酸化物との反応により、ヘキサフルオロケイ酸の有機アミン塩が生成することに変わりはない。
【0032】
処理ガスに含まれるフッ化水素と有機アミン混合物の混合比は、有機アミン混合物に含まれる有機アミン化合物の合計モル数をフッ化水素のモル数で除した値で、0.001以上100以下が好ましく、0.01以上10以下がより好ましく、0.1以上5以下が特に好ましい。
【0033】
本開示のドライエッチング方法では、上記有機アミン化合物として、上記一般式(1)に示される化合物の少なくとも2種を含む有機アミン混合物を使用することができる。
【0034】
一般式(1)に示す化合物において、R1としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられ、これらの有機基を構成する一部の水素がフッ素、塩素等のハロゲンにより置換されていてもよい。R2及びR3としては、例えば、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられ、これらの有機基を構成する一部又は全部の水素がフッ素、塩素等のハロゲンにより置換されていてもよい。上記一般式(1)に示される有機アミンは、五員環構造又は六員環構造を有する複素環式アミンであってもよい。
【0035】
上記有機アミン混合物に含まれる化合物の具体例としては、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、ジメチルエチルアミン、ジエチルメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノノルマルプロピルアミン、エチルプロピルアミン、ジノルマルプロピルアミン、モノイソプロピルアミン、エチルイソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、モノブチルアミン、ジブチルアミン、モノターシャリーブチルアミン、ジターシャリーブチルアミン、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、ピリジン、ピラジンなどが挙げられる。また、他の具体例として、上記化合物のC-H結合の一部、もしくは全部をC-F結合とした化合物(トリフルオロメチルアミン、1,1,1-トリフルオロジメチルアミン、パーフルオロジメチルアミン、2,2,2-トリフルオロエチルアミン、パーフルオロエチルアミン、ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)アミン、パーフルオロジエチルアミン、3-フルオロピリジン)などが挙げられる。
【0036】
これらの化合物は、共役酸のpKaがHF(フッ化水素)の3.2以上であり、フッ化水素と塩を形成することが可能である上に、20~100℃の温度範囲で一定の蒸気圧を有し、更にはこの温度範囲で分解せず、ガスとして供給することが可能である点で好ましく、これらの化合物の少なくとも2種を混合することにより、本開示の有機アミン混合物とすることができる。
【0037】
特に、入手が容易であるという点などから、上記化合物としては、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエチルアミン、モノプロピルアミン、エチルプロピルアミン、イソプロピルアミン、エチルイソプロピルアミン、1,1,1-トリフルオロジメチルアミン、2,2,2-トリフルオロエチルアミン、ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)アミンが好ましく、これらの化合物の少なくとも2種を混合することにより、本開示の有機アミン混合物とすることが好ましい。
【0038】
また、シリコン酸化物のエッチング速度が速い点で、上記有機アミン化合物としては、二級アミン及び三級アミンが好ましい。二級アミンの具体例としては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、エチルイソプロピルアミン、エチルプロピルアミン、ジノルマルプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、ジターシャリーブチルアミンが挙げられる。三級アミンの具体例としては、トリメチルアミン、ジメチルエチルアミン、ジエチルメチルアミン、トリエチルアミンが挙げられる。
【0039】
本開示の有機アミン混合物は、特に限定されず、上記した一般式(1)に示される有機アミンを2種含んでいてもよく、3種やそれ以上含んでいてもよく、具体的な有機アミン混合物を構成する有機アミンの組み合わせとしては、トリメチルアミンとジメチルアミン、トリメチルアミンとモノメチルアミン、トリメチルアミンとジメチルエチルアミン、トリメチルアミンとジメチルアミンとモノメチルアミンとジメチルエチルアミン、トリエチルアミンとエチルイソプロピルアミン、トリエチルアミンとジエチルアミン、等が挙げられる。
なお、有機アミン混合物には、さらにアンモニアを含んでもよい。
【0040】
上記有機アミン混合物の組成割合は、上記二級アミンを上記三級アミン及び上記二級アミンの合計量に対して10体積ppm~10体積%含むことが好ましく、上記二級アミンを上記三級アミン及び上記二級アミンの合計量に対して100体積ppm~5000体積ppm含むことがさらに好ましい。
【0041】
本開示のドライエッチング方法においては、上記二級アミンがジメチルアミン、ジエチルアミン、エチルイソプロピルアミン、エチルプロピルアミンのいずれか1種であり、上記三級アミンがトリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルエチルアミンのいずれか1種であることが好ましく、上記二級アミンがジメチルアミンであり、上記三級アミンがトリメチルアミンであることがさらに好ましい。
この場合、有機アミン混合物は、ジメチルアミンをトリメチルアミン及びジメチルアミンの合計量に対して10体積ppm~10体積%含むものであることがより好ましく、ジメチルアミンをトリメチルアミン及びジメチルアミンの合計量に対して100体積ppm~5000体積ppm含むものであることがさらに好ましい。
【0042】
本開示のドライエッチングガス組成物は、フッ化水素と有機アミン混合物とを含むドライエッチングガス組成物であって、上記有機アミン混合物は、下記の一般式(1)に示される化合物の少なくとも2種を含む有機アミン混合物であることを特徴とする。
【化3】
(一般式(1)においてNは窒素原子である。R
1は、炭素数1~10の、環やヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基である。R
2、R
3は、水素原子又は炭素数1~10の、環やヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基である。但し、炭化水素基は、炭素数が3以上の場合にあっては、分岐鎖構造あるいは環状構造をとっていてもよい。炭化水素基のヘテロ原子は、窒素原子、酸素原子、硫黄原子又はリン原子である。更に、R
1とR
2が共に炭素数1以上の炭化水素基の場合、R
1とR
2が直接結合して環状構造をとっていてもよい。更に、R
1またはR
2が二重結合で直接結合して環状構造を取る場合に、R
3が存在せずに芳香環を形成してもよい。また、R
1、R
2及びR
3は、同じ炭化水素基であってもよく、異なる炭化水素基であってもよい。)
【0043】
また、本開示のドライエッチングガス組成物において、有機アミン混合物は、少なくとも二級アミン及び三級アミンを含むことが好ましく、二級アミンがジメチルアミン、ジエチルアミン、エチルイソプロピルアミン、エチルプロピルアミンのいずれか1種であり、三級アミンがトリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルエチルアミンのいずれか1種であることがより好ましく、上記二級アミンがジメチルアミンであり、上記三級アミンがトリメチルアミンであることがさらに好ましい。
本開示のドライエッチングガス組成物は、実質的にフッ化水素と上記有機アミン混合物のみであってもよい。また、上記ドライエッチングガス組成物中に不活性ガスを含んでもよいし、含まなくてもよい。
【0044】
また。ドライエッチングガス組成物を構成する有機アミン混合物の組成割合は、上記二級アミンを上記三級アミン及び上記二級アミンの合計量に対して10体積ppm~10体積%含むことが好ましく、上記二級アミンを上記三級アミン及び上記二級アミンの合計量に対して100体積ppm~5000体積ppmの割合で含むことがさらに好ましい。
【0045】
不活性ガスとしては、N2、He、Ne、Ar、Kr及びXeからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、Ar、N2がより好ましい。ドライエッチングガス組成物に含まれる不活性ガスの割合は、不活性ガスのモル数をフッ化水素のモル数で除した値で、0以上100以下が好ましく、10以下がより好ましく、5以下が特に好ましい。
【0046】
ドライエッチングガス組成物とシリコン酸化物との接触温度(シリコン酸化物の温度)は、シリコン酸化物とフッ化水素と有機アミン混合物との反応生成物が、昇華又は熱分解する温度以上であればよい。但し、生産性や被処理基板へのダメージを考えると、接触温度は、200℃以下であることが好ましく、150℃以下であることがより好ましく、120℃以下であることが特に好ましい。また、例えば、接触温度は20℃以上であることが好ましく、50℃以上であることがより好ましく、80℃以上であることが特に好ましい。
【0047】
ドライエッチングガス組成物とシリコン酸化物との接触する際の圧力は特に限定されないが、0.1Pa以上100kPa以下が好ましく、0.5Pa以上50kPa以下がより好ましく、1Pa以上10kPa以下が特に好ましい。
【0048】
なお、ドライエッチングガス組成物とシリコン酸化物との接触中に、温度と圧力が一定である必要はなく、一定時間ごとに温度と圧力を変化させてもよい。例えば、一定時間ごとに、温度を高くしたり圧力を下げたりする時間帯を設けて、反応生成物の昇華を促進してもよい。
【0049】
また、特許文献5に記載のように、ドライエッチングガス組成物とシリコン酸化物とを接触させるCOR工程と、ドライエッチングガス組成物の供給を行わずに反応生成物を昇華させるPHT工程を行ってもよい。但し、本実施形態においてPHT工程は200℃以下であってもよい。
【0050】
本開示の半導体デバイスの製造方法は、シリコン酸化物膜を有する半導体基板に対して、上述のドライエッチング方法を適用して、シリコン酸化物膜をエッチングする工程を含むことを特徴とする。
半導体基板は、通常はシリコン基板であり、半導体基板上には、シリコン酸化物膜以外に、シリコン膜、シリコン窒化物膜、金属膜などが露出していてもよい。
【0051】
特に、シリコン酸化物膜とシリコン窒化物膜の両方が露出した被処理基板に対して本実施形態のドライエッチング方法を用いることで、シリコン酸化物膜を、シリコン窒化物膜に対して選択的にエッチングすることができる。(シリコン酸化物/シリコン窒化物)エッチング選択比は、2.5以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、8以上であることがより好ましく、10以上であることが特に好ましい。(シリコン酸化物/シリコン窒化物)エッチング選択比とは、シリコン酸化物膜のエッチング速度をシリコン窒化物膜のエッチング速度で除した値をいう。また、エッチング速度とは、エッチング前後の膜の厚さの変化を、エッチングに要した時間で除した値をいう。従って、(シリコン酸化物/シリコン窒化物)エッチング選択比が高いほど、シリコン窒化物に比べてシリコン酸化物をエッチングする割合が高くなる。
【0052】
半導体基板上に半導体デバイスを形成する場合に、SiO2がSiNに隣接する構造からSiO2のみを選択的にドライエッチングする工程に、本開示のドライエッチング方法を適用することができる。このような構造としては、SiO2膜をSiN膜が覆う構造や、SiO2膜とSiN膜が順に積層した構造などがある。例えば、3次元メモリの製造プロセスにおいて、半導体基板に、SiO2とSiNの積層膜を形成し、この積層膜に貫通孔を形成し、貫通孔から積層膜にエッチングガスを供給して本開示のドライエッチング方法を適用して、SiNを残しながらSiO2を選択的にエッチングすることで、多数のSiN層が間隙を有しつつ平行に並んだ構造の半導体デバイスを製造することができる。
【0053】
本開示の半導体デバイスの製造方法は、上記した半導体デバイスの製造方法のみに適用されるものではなく、基板上に形成されたシリコン酸化物膜のエッチングを伴う他の半導体デバイスの製造方法にも適用することができる。
【0054】
[第2の実施形態]
本開示のドライエッチング方法の第2の実施形態は、有機アミン混合物を含む処理ガスと、フッ化水素を含む処理ガスを、分けてエッチング装置に供給してエッチングする方法である。すなわち、第2の実施形態では、シリコン酸化物に有機アミン混合物を含む処理ガスをエッチング装置に供給する工程の後に、フッ化水素を含む処理ガスをエッチング装置に供給する工程を行う。上記した2つの工程の間に、真空引き工程を行ってもよい。
【0055】
上記有機アミン混合物としては、第1の実施形態で示した一般式(1)に示される化合物の少なくとも2種を含む有機アミン混合物を使用することができる。一般式(1)に示される化合物の少なくとも2種を含む有機アミン混合物については、第1の実施形態で説明したので、ここでは、詳しい説明は省略する。有機アミン混合物のなかでは、二級アミン及び三級アミンを含む有機アミン混合物が好ましく、二級アミンがジメチルアミン、ジエチルアミン、エチルイソプロピルアミン、エチルプロピルアミンのいずれか1種であり、三級アミンがトリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルエチルアミンのいずれか1種であることがより好ましく、トリメチルアミンとジメチルアミンとを含む有機アミン混合物が特に好ましい。この有機アミン混合物を使用することにより、従来の場合より早い速度でシリコン酸化物のドライエッチングを行うことができる。
【0056】
第2の実施形態では、最初に有機アミン混合物をエッチング装置内に導入し、シリコン酸化物と気体の有機アミン混合物を接触させると、シリコン酸化物の表面に有機アミン混合物を構成する少なくとも2種類の有機アミン化合物が吸着すると考えられる。その後に気体のフッ化水素をエッチング装置内に導入し、有機アミン混合物を構成する有機アミン化合物が吸着したシリコン酸化物にフッ化水素が接触すると、吸着した有機アミン混合物を構成する少なくとも2種類の有機アミン化合物がヘキサフルオロケイ酸の有機アミン塩などの反応生成物に変化すると考えられる。従って、最終的には生成する反応生成物は、第1実施形態の場合と同様のヘキサフルオロケイ酸の有機アミン塩であり、上記化合物は、生成すると同時に昇華して気体になるか、熱分解して気体になる。
【0057】
エッチング装置内に導入する最初のガスは、実質的に有機アミン混合物のみからなるものであってもよく、2番目に導入するガスは、フッ化水素のみからなっていてもよい。また、有機アミン混合物やフッ化水素中には不活性ガスを含んでもよいし、含まなくてもよい。不活性ガスとしては、N2、He、Ne、Ar、Kr及びXeからなる群より選ばれる少なくとも1種を使用することができる。処理ガスに含まれる不活性ガスの割合は、不活性ガスのモル数をフッ化水素のモル数で除した値で、0以上100以下が好ましく、10以下がより好ましく、5以下が特に好ましい。
【0058】
シリコン酸化物にそれぞれの処理ガスを供給する工程において、有機アミン混合物とシリコン酸化物との接触温度は200℃以下であることが好ましく、150℃以下であることがより好ましく、120℃以下であることが特に好ましい。また、フッ化水素とシリコン酸化物との接触温度は、200℃以下であることが好ましく、150℃以下であることがより好ましく、120℃以下であることが特に好ましい。また、例えば、それぞれの接触温度は20℃以上であることが好ましく、50℃以上であることがより好ましく、80℃以上であることが特に好ましい。有機アミン混合物とシリコン酸化物との接触温度と、フッ化水素とシリコン酸化物との接触温度は、同じであっても、異なっていてもよい。
【0059】
有機アミン混合物とシリコン酸化物との接触の際の圧力、フッ化水素とシリコン酸化物との接触の際の圧力は、0.1Pa以上100kPa以下が好ましく、0.5Pa以上50kPa以下がより好ましく、1Pa以上10kPa以下が特に好ましい。
【0060】
エッチングの対象となるシリコン酸化物の態様も第1の実施形態と同様であることが好ましく、第2の実施形態に係るドライエッチング方法により、シリコン酸化物膜を、シリコン窒化物膜に対して選択的にエッチングすることができる。シリコン酸化物/シリコン窒化物エッチング選択比は、2.5以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、10以上であることが特に好ましい。
【0061】
なお、本開示のドライエッチング方法において、フッ化水素ガスを含む処理ガスを供給する工程の後に、有機アミン混合物を供給する工程を行ってもよい。さらには、フッ化水素ガスを含む処理ガスを供給する工程と、有機アミン混合物を供給する工程を、交互に繰り返してもよい。
【0062】
[エッチング装置]
本実施形態のドライエッチング方法では、酸化シリコン膜を有する被処理基板を載置する載置部を有する処理容器と、上記処理容器にフッ化水素を含む処理ガスを供給するためのフッ化水素ガス供給部と、上記処理容器に有機アミン混合物を含むドライエッチングガス組成物を供給するための有機アミン混合物供給部と、上記処理容器内を減圧するための真空排気部と、上記載置部を加熱するための加熱部と、を備えたエッチング装置を使用することによりドライエッチングを実施することができる。なお、エッチング装置には、必要に応じて、上記処理容器に不活性ガスを供給するための不活性ガス供給部をさらに備えてもよい。
【0063】
図1は、本開示の実施形態に係るドライエッチング方法に用いるエッチング装置の一例である反応装置1の概略図である。
反応装置1を構成するチャンバー(処理容器)2内には、ヒーター(加熱部)8により加熱されるステージ(載置部)3が設置されている。また、チャンバー2の周囲にもヒーター(図示せず)が設置されており、チャンバー壁を加熱できるようになっている。チャンバー2上部に設置されたフッ化水素ガス供給部5a及び有機アミン混合物供給部5bから処理ガスを導入し、ステージ3上に設置した試料(被処理基板)4に対しドライエッチングガス組成物を接触させる。チャンバー2内のガスはガス排出ライン6を経由して排出される。チャンバー2は、不活性ガス供給部5cを備えており、必要により不活性ガスを供給してもよい。また、ガス排出ラインには図示しない真空排気ポンプ(真空排気部)が接続され、チャンバー2内を減圧環境にすることができ、さらにチャンバー2には圧力計7が設置されている。なお、フッ化水素ガス供給部5a及び有機アミン混合物供給部5bに代えて、有機アミン混合物のフッ化水素塩ガス供給部を設けてもよい。
【0064】
本実施形態における試料4(シリコン酸化物膜を有する被処理基板)からシリコン酸化物を除去する場合の操作についても簡単に説明する。
ヒーター8によりステージ3の温度を所定値にまで加熱した後、フッ化水素ガス供給部5a及び有機アミン混合物供給部5bから第1の実施形態又は第2の実施形態に基づいた条件で、チャンバー2内に処理ガスを導入し、試料4と処理ガスとを接触させる。この際に、反応生成物は、反応して生成すると同時に昇華し、ガス排出ライン6を通じてチャンバー2から除去される。
【0065】
さらに反応装置1は制御部を備えている。この制御部は、例えばコンピュータからなり、プログラム、メモリ、CPUを備えている。プログラムは、第1の実施形態又は第2の実施形態における一連の動作を実施するようにステップ群が組み込まれており、プログラムに従って、試料4の温度の調整、各ガス供給部のバルブの開閉、各ガスの流量の調整、チャンバー2内の圧力の調整などを行う。このプログラムは、コンピュータ記憶媒体、例えばコンパクトディスク、ハードディスク、光磁気ディスク、メモリーカード等に収納され制御部にインストールされる。
【0066】
[本実施形態の効果]
上記した第1の実施形態に係るドライエッチング方法又は第2の実施形態に係るドライエッチング方法を用いることにより、200℃以下の低温でも、プラズマを用いずにシリコン酸化物をより高速でエッチングすることが可能である。
【0067】
第1の実施形態に係るドライエッチング方法又は第2の実施形態に係るドライエッチング方法においては、200℃以下の低温でも、反応生成物層の形成に由来する残渣をシリコン酸化物表面に残さずにエッチングすることができるため、反応生成物を昇華させるためのPHT処理を行わずに、一つの工程でシリコン酸化物をエッチングすることも可能である。その結果、COR処理とPHT処理を切り替えてエッチングを行うサイクルエッチングよりも効率的にシリコン酸化物をエッチングすることができる。
【0068】
第1の実施形態に係るドライエッチング方法又は第2の実施形態に係るドライエッチング方法では、基板を、200℃を超える高温に加熱しない場合でも、本方法を用いることによりシリコン酸化物をエッチングすることができるため、耐熱性の低い材料を使用した基板に対して好適に適用することができる。
【0069】
第1の実施形態に係るドライエッチング方法又は第2の実施形態に係るドライエッチング方法では、多結晶シリコンに対して選択的にシリコン酸化物をエッチングすることができる。本実施形態のドライエッチング方法では、有機アミン混合物を使用することで、アンモニアを用いる従来の方法よりも高いシリコン酸化物/シリコン窒化物エッチング選択比にて、シリコン酸化物をエッチングすることができる。また、本実施形態のドライエッチング方法では、水やアルコールを添加する場合や1種類の有機アミンを用いる場合と比べると、シリコン酸化物をより高速でエッチングすることができる。
【実施例】
【0070】
以下に本開示の実施例を比較例とともに挙げるが、本開示は以下の実施例に制限されるものではない。
【0071】
下記する実施例1~4と比較例1~3では、
図1に示す反応装置と略同様の反応装置を使用し、ドライエッチングを行った。また、反応装置内に被処理基板として酸化シリコン膜が形成されたシリコンウェハを載置し、酸化シリコンのエッチング量を測定した。
【0072】
[実施例1~4、比較例1~3]
まず、チャンバー内のステージ上に被処理基板を載置し、チャンバー内を真空引きしたのち、ステージの温度を下記の表1に示す1回目処理の温度にした。その後、1回目の処理として、チャンバー内に表1に示す有機アミン混合物等の処理ガスを30Torrの圧力となるように供給して30秒間保持した。その後、チャンバー内を1Torrになるまで真空引きし、続いて2回目の処理としてフッ化水素(HF)ガスを30Torrの圧力となるように供給して30秒間保持した。その後、チャンバー内を10Paまで真空引きし、不活性ガスで置換した後にシリコンウェハを取り出し、光干渉式膜厚計(FILMETRICS社製F20)で、それぞれ酸化シリコン膜の膜厚を測定し、エッチング前に測定した酸化シリコン膜の厚さと比較することによりエッチング量を計算した。
【0073】
下記の表1には、1回目の処理における有機アミン混合物等の処理ガスの種類(アミン1及びアミン2)、アミン2濃度(アミン1及びアミン2の合計量に対するアミン2の含有割合(体積ppm))、1回目の処理の際のシリコンウェハの温度、2回目の処理における処理ガス(HF)、2回目の処理の際のシリコンウェハの温度、これらの処理によりエッチングされた酸化シリコン膜のエッチング量を示している。
なお、実施例1~4では、表1に示すように、アミン1及びアミン2の合計量に対するアミン2の含有割合(体積ppm)を変えているが、その他の条件は、上述した同じ条件で行っている。
一方、比較例1では、表1に示すように、有機アミン混合物ではなく、ジメチルアミンのみとHFとを、また、比較例2では、トリメチルアミンのみとHFとを、さらに、比較例3ではアンモニアのみとHFとを、それぞれ上述の条件でチャンバーに導入してドライエッチングを行っている。
【0074】
【0075】
表1の実施例1~3、並びに、比較例1及び2との比較の結果より明らかなように、2種類の有機アミン化合物としてジメチルアミンとトリメチルアミンとを用いることにより、ジメチルアミンのみ(1,000,000体積ppm=100体積%)、トリメチルアミンのみを用いた場合と比較して、エッチング量が大きく増大している。
図2は、上記した実施例1~3、並びに、比較例1及び2におけるアミン2としてジメチルアミンを使用したときのアミン2の濃度(アミン2/(アミン1+アミン2)(体積ppm))とエッチング量との関係を示すグラフであるが、ジメチルアミンの濃度が100体積%(1,000,000体積ppm)及びジメチルアミンの濃度が0体積ppmと比較して、エッチング量が大きく増大していることが分かる。
【0076】
また、上記の実施例を参照すれば、実施例4に示す2種類の有機アミン化合物(ジエチルアミン+トリエチルアミン)を用いた場合も、上記有機アミンを単独で用いた場合と比較してエッチング量が増大しているものと推定される。
このことにより、1種類の有機アミン化合物であってもエッチングは進行するものの、2種類の有機アミン化合物を用いる(二級アミン+三級アミン)ことによりエッチング効果が更に向上することが確認できた。
【0077】
具体的には、ジメチルアミン含有割合が38体積ppm、670体積ppm、9500体積ppmのトリメチルアミンとジメチルアミンの混合ガスを用いた実施例1~3においては、酸化シリコン膜のエッチング量は約140~180nmであり、ジメチルアミンガスのみを用いた比較例1及びジメチルアミン/(ジメチルアミン+トリメチルアミン)=0体積ppmの比較例2と比較してエッチング量が大きく増大した。
【0078】
また、ジエチルアミン含有量が180ppmのトリエチルアミンを用いた実施例4においては酸化シリコン膜のエッチング量は123nmとなった。
【0079】
また、
図2を全体としてみると、ジメチルアミンの含有割合が10体積ppm~10体積%(100,000ppm)の範囲で、ジメチルアミンのみ及びトリメチルアミンのみと比較してエッチング量が増大する傾向がみられ、特にジメチルアミンの含有割合が約100体積ppm~約5000体積ppmでは、エッチング量が約160nm以上となっており、この範囲でエッチング速度が大きく増大していることが分かる。
【符号の説明】
【0080】
1 反応装置(エッチング装置)
2 チャンバー(処理容器)
3 ステージ(載置部)
4 試料(被処理基板)
5a フッ化水素ガス供給部
5b 有機アミン混合物供給部
5c 不活性ガス供給部
6 ガス排出ライン
7 圧力計
8 ヒーター(加熱部)