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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】カムクラッチ
(51)【国際特許分類】
   F16D 41/08 20060101AFI20241218BHJP
【FI】
F16D41/08 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023171347
(22)【出願日】2023-10-02
【審査請求日】2024-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003355
【氏名又は名称】株式会社椿本チエイン
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 信男
(74)【代理人】
【識別番号】100138254
【弁理士】
【氏名又は名称】澤井 容子
(72)【発明者】
【氏名】川島 丈嗣
【審査官】沖 大樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-156458(JP,A)
【文献】特開2018-013146(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 41/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同軸に相対回転可能に配置された内輪及び外輪と、前記内輪と前記外輪との間に配置された複数のカムと、前記カムを噛み合い方向に回転させるように付勢する第1付勢手段と、前記カムを強制的に回転させて動作モードを切り替え可能に構成された切り替え手段を備えたカムクラッチであって、
前記カムを前記第1付勢手段による付勢力と異なる大きさの付勢力で噛み合い解除方向に回転させるように付勢する第2付勢手段を備え、
前記切り替え手段は、前記第1付勢手段及び前記第2付勢手段のうち同一のカムに対する付勢力の大きい一方の付勢手段による付勢力を他方の付勢手段による付勢力より相対的に小さく変更させることが可能に構成されたカム姿勢変更部を有することを特徴とするカムクラッチ。
【請求項2】
すべてのカムの回転動作を連動させるカム連動部材を備えることを特徴とする請求項1に記載のカムクラッチ。
【請求項3】
前記カムは、互いに噛み合い方向の異なる第1カム及び第2カムを含み、
前記カム連動部材は、前記第1カム及び前記第2カムのうちの一方のカムが噛み合い方向に回転したとき、他方のカムを噛み合い解除方向に回転させるように構成されていることを特徴とする請求項2に記載のカムクラッチ。
【請求項4】
前記切り替え手段は、前記カム姿勢変更部が隣接するカム間に位置された状態で、前記内輪及び前記外輪の回転軸に沿った軸方向に移動可能に設けられ、
前記カム姿勢変更部は、前記切り替え手段の軸方向への移動により前記第1付勢手段の前記カムに対する付勢力が変更可能となるように構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のカムクラッチ。
【請求項5】
前記第1付勢手段の付勢力が、同一のカムに対する前記第2付勢手段の付勢力より小さく、
前記カム姿勢変更部は、前記第1付勢手段を前記第2付勢手段の付勢力より大きな付勢力で付勢可能な状態に変更させることが可能となるよう構成されている請求項4に記載のカムクラッチ。
【請求項6】
前記第1付勢手段の付勢力が、同一のカムに対する前記第2付勢手段の付勢力より大きく、
前記カム姿勢変更部は、前記第1付勢手段を前記第2付勢手段の付勢力より小さな付勢力で付勢可能な状態もしくは前記カムに対する付勢力を解除する状態に変更させることが可能となるよう構成されている請求項4に記載のカムクラッチ。
【請求項7】
前記第1付勢手段及び前記第2付勢手段の少なくとも一方が前記複数のカムの各々に共通のものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のカムクラッチ。
【請求項8】
前記切り替え手段は、前記第1カムに対する前記第1付勢手段及び前記第2付勢手段のうちの一方の付勢手段の付勢力を変更させる第1切り替え手段と、前記第2カムに対する前記第1付勢手段及び前記第2付勢手段のうちの一方の付勢手段の付勢力を変更させる第2切り替え手段を含むことを特徴とする請求項3に記載のカムクラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カムクラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
回転力の伝達と遮断を制御するクラッチのある種のものは、内輪及び外輪と、内輪と外輪との間に配置された係合子としての複数のカムと、カムを噛み合い方向に付勢する付勢手段を備えた構成とされており、例えば、カムを強制的に傾倒させることでクラッチの動作モードを変更可能となるよう構成された切り替え手段を備えた構成のものも知られている。
【0003】
例えば特許文献1または特許文献2には、係合子としての正転用スプラグ及び逆転用スプラグを、付勢手段によって噛み合い方向に付勢した状態で、内輪と外輪との間に配置し、切り替え手段を軸方向に移動させることで正転用スプラグ及び逆転用スプラグを噛み合い解除方向に傾倒させることが可能に構成されている。
これらの二方向クラッチにおいては、内輪または外輪に対するトルク入力により正転用スプラグ及び逆転用スプラグの一方が楔となって内輪及び外輪に食い込むことでトルク伝達を可能としている。一方、切り替え手段を軸方向に移動させて正転用スプラグ及び逆転をそれぞれ付勢手段による付勢力に抗って噛み合い解除方向に傾倒させることで、正逆両方向に空転させることが可能となっている。
また、一方向クラッチにおいても、切り替え手段を備えることで、正逆両方向に内輪及び外輪の相対回転を許容するフリーモードを実現することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平6-017851号公報
【文献】特開2008-121867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
而して、切り替え手段を備えたクラッチにおいては、トルク伝達時においては、内輪及び外輪から受けるトルクにより、スプラグは強固に支持された状態となっている。そのため、切り替え手段によってスプラグを周方向に押圧して噛み合い解除方向に傾倒させるために、極めて大きな力が必要となり、トルク伝達中において切り替え手段を操作することは、スプラグや切り替え手段の破損につながるおそれがある。
【0006】
特に、正転方向及び逆転方向の両方向に駆動と空転が切り替え可能な二方向クラッチにおいては、トルクを内輪または外輪に負荷させてゆくと、スプラグと内輪及び外輪のそれぞれに弾性変形が生じ、結果として内輪と外輪に回転角度差(ワインドアップ)が生じ、負荷を除去するとワインドアップはゼロに戻ることになる。
正転用スプラグ及び逆転用スプラグの一方のスプラグが内輪及び外輪と噛み合うトルク伝達時にあっては、他方のスプラグは、外輪及び内輪と摺動しながら接触を続け、噛み合い待機の状態を維持している。このため、トルクが除荷されることで一方のスプラグが噛み合い解除方向に傾倒して空転状態に移行されることになるが、このとき、一方のスプラグの噛み合いが解除されるまでの間に、他方のスプラグが噛み合い方向に傾倒して外輪及び内輪に対し噛み合いを開始し、すべてのカムが同時に噛み合う「噛み込み」が生ずるおそれがある。
このように、上述の二方向クラッチにおいては、ワインドアップに伴う噛み込みが生ずることで、内輪または外輪の回転を止めてトルクを除去したとしても、すべてのスプラグが高い面圧をもって噛み合っているため、切り替え手段によってスプラグを周方向に押圧して噛み合い解除方向に傾倒させるためには、大きな力が必要となる、といった問題がある。
【0007】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、簡単な構造で、動作モードの切り替えを小さな力で容易に行うことが可能なカムクラッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、同軸に相対回転可能に配置された内輪及び外輪と、前記内輪と前記外輪との間に配置された複数のカムと、前記カムを噛み合い方向に回転させるように付勢する第1付勢手段と、前記カムを強制的に回転させて動作モードを切り替え可能に構成された切り替え手段を備えたカムクラッチであって、前記カムを前記第1付勢手段による付勢力と異なる大きさの付勢力で噛み合い解除方向に回転させるように付勢する第2付勢手段を備え、前記切り替え手段は、前記第1付勢手段及び前記第2付勢手段のうち同一のカムに対する付勢力の大きい一方の付勢手段による付勢力を他方の付勢手段による付勢力より相対的に小さく変更させることが可能に構成されたカム姿勢変更部を有する構成とすることにより、前記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0009】
本請求項1に係る発明によれば、カムを直接的に押圧して傾倒させるのではなく、同一のカムに対して作用させる第1付勢手段による噛み合い方向への付勢力と第2付勢手段による解除方向への付勢力の釣合状態を変更することで、ロックモードとフリーモードとの切り替えを行うことが可能である。このため、動作モードの切り替えに必要とされる力は、付勢手段を弾性的に変形させることが可能な程度の大きさでよく、簡単な構造で、動作モードの切り替えを小さな力で容易に行うことが可能である。また、動作モードの切り替えに際し内輪及び外輪の回転を停止させることなく、トルク伝達中であっても切り替え手段の操作を容易に行うことが可能となる。
【0010】
本請求項2に係る発明によれば、複数のカムの各々の回転動作にバラツキが生ずることがなく、安定した動作を実現することができる。
本請求項3に係る発明によれば、噛み合い方向の異なる第1カム及び第2カムの各々の回転動作を連動させることで、第1カム及び第2カムのうちのいずれか一方のカムの噛み方向への回転に伴って他方のカムを噛み合い解除方向に回転させることができるので、一方のカムが内輪及び外輪に対して噛み合っている時に、他方のカムは内輪または外輪から離間した状態を維持することができる。このため、噛み込みの発生を確実に防止することが可能となる。
【0011】
本請求項4乃至本請求項6に係る発明によれば、第1付勢手段による付勢力を変更することで、第2付勢手段による付勢力によってカムが噛み合い解除方向に回転して内輪または外輪から離間した状態とされるので、切り替え手段の操作をより小さな力で容易に行うことが可能となる。
【0012】
本請求項7に係る発明によれば、第1付勢手段及び第2付勢手段の少なくとも一方が複数のカムの各々に共通のものであることにより、部品点数を削減することが可能となると共にカムの挙動にバラツキが生ずることを回避することが可能となる。
【0013】
本請求項8に係る発明によれば、第1カムと第2カムのいずれか一方または両方を選択的に回転させることで、正転方向及び逆転方向の両方向にトルク伝達可能な両方向ロックモード、正転方向にのみトルク伝達可能な正転方向ロックモード、逆転方向にのみトルク伝達可能な逆転方向ロックモードおよび正転方向及び逆転方向の両方向に空転する両方向フリーモードの4つの動作モードの切り替えを行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1実施形態に係るカムクラッチの構成を示す分解斜視図である。
図2図1に示すカムクラッチを組み立てた状態における、回転軸心を含む平面で切った断面斜視図である。
図3】カム機構の構成を示す分解斜視図である。
図4図2に示すカムクラッチの構成の一部を省略して示す、軸方向一端側から見た平面図である。
図5】カムの構成を示す図であって、(a)軸方向一端側から見た平面図、(b)側面図である。
図6図1に示すカムクラッチの動作モードを両方向フリーモードから両方向ロックモードに切り替えた状態を示す側面図である。
図7図1に示すカムクラッチの動作モードが両方向フリーモードにある時の状態を概略的に示す図である。
図8A図1に示すカムクラッチの動作モードが両方向ロックモードにある時の状態を概略的に示す図である。
図8B図1に示す噛み合いクラッチの動作モードが両方向ロックモードにある時に、内輪を正転方向に回転させた時の状態を概略的に示す図である。
図9】本発明の第2実施形態に係るカムクラッチにおけるカム機構の構成を示す、回転軸心を含む平面で切った断面斜視図である。
図10A】本発明の第2実施形態に係るカムクラッチの構成の一部を省略して示す概略図であって、カムクラッチの動作モードが両方向ロックモードにある時の軸方向一端側から見た平面図である。
図10B】本発明の第2実施形態に係るカムクラッチの動作モードが両方向フリーモードにある時の状態を概略的に示す平面図である。
図11】本発明の第3実施形態に係るカムクラッチにおける第2付勢手段の構成を一部のカムと共に示す斜視図である。
図12A】本発明の第3実施形態に係るカムクラッチの構成の一部を省略して示す概略図であって、カムクラッチの動作モードが両方向フリーモードにある時の軸方向一端側から見た平面図である。
図12B】本発明の第3実施形態に係るカムクラッチの動作モードが両方向ロックモードにある時の噛み合い待機状態を概略的に示す平面図である。
図13】本発明の第4実施形態に係るカムクラッチの構成を、一部を破断した状態で示す斜視図である。
図14A図13に示すカムクラッチの動作モードが両方向フリーモードにある時の状態を示す側面図である。
図14B図13に示すカムクラッチの動作モードが両方向フリーモードにある時の状態を概略的に示す平面図である。
図15A図13に示すカムクラッチの動作モードが正転方向ロックモードにある時の状態を示す側面図である。
図15B図13に示すカムクラッチの動作モードが正転方向ロックモードにある時の噛み合い待機状態を概略的に示す平面図である。
図16A図13に示すカムクラッチの動作モードが逆転方向ロックモードにある時の状態を示す側面図である。
図16B図13に示すカムクラッチの動作モードが逆転方向ロックモードにある時の噛み合い待機状態を概略的に示す平面図である。
図17A図13に示すカムクラッチの動作モードが両方向ロックモードにある時の状態を示す側面図である。
図17B図13に示すカムクラッチの動作モードが両方向ロックモードにある時の噛み合い待機状態を概略的に示す図である。
図18】本発明の第5実施形態に係るカムクラッチの構成を、一部を破断した状態で示す斜視図である。
図19A図18に示すカムクラッチの動作モードが外輪と第1内輪との間で両方向にトルク伝達なロックモードにある時の状態を示す、回転軸心を含む平面で切った断面の一部を示す図である。
図19B図18に示すカムクラッチの動作モードが両方向フリーモードにある時の状態を示す、回転軸心を含む平面で切った断面の一部を示す図である。
図19C図18に示すカムクラッチの動作モードが外輪と第2内輪との間で両方向にトルク伝達可能なロックモードにある時の状態を示す、回転軸心を含む平面で切った断面の一部を示す図である。
図20】本発明に係るカムクラッチのさらに他の構成例を概略的に示す図であって、軸方向一端側から見た平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第1実施形態]
図1に示すように、本発明の第1実施形態に係るカムクラッチ100は、内輪110及び外輪120と、内輪110と外輪120との間でトルクの伝達及び遮断を行うカム機構130と、カムクラッチ100の動作モードを切り替え可能に構成された切り替え手段170を備える。
図2に示すように、カムクラッチ100を組み立てた状態において、内輪110及び外輪120は、同一の回転軸上に相対回転可能に配置され、内輪110と外輪120との間にカム機構130が配置される。
【0016】
カム機構130は、図3に示すように、複数のカム136と、複数のカム136の各々を保持するケージリング140と、複数のカム136の各々を噛み合い方向に回転させるように付勢する第1付勢手段150と、複数のカム136の各々を第1付勢手段150による付勢力と異なる大きさの付勢力で噛み合い解除方向に回転させるように付勢する第2付勢手段155を備える。
【0017】
複数のカム136は、図4に示すように、内輪110及び外輪120に対する噛み合い方向が互いに異なる第1カム136a及び第2カム136bを含み、本実施形態においては、隣接する第1カム136a及び第2カム136bがカム対135をなし同一円周上において周方向に所定間間隔で複数対配置されている。カム機構130において第1カム136a及び第2カム136bの配列は、特に限定されるものではないが、第1カム136a及び第2カム136bが交互に並ぶよう配列されることで、第1カム136a及び第2カム136bを共通の切り替え手段によって同時に回転させることが可能となり、カムクラッチ100の構造の煩雑化や大型化を回避することが可能である。また、第1カム136a及び第2カム136bは同一円周上に交互に並んでいる必要はなく、第1カム136a及び第2カム136bの数は、同じであっても、異なっていてもよい。
【0018】
第1カム136aは、内輪110を正転方向(図4において時計方向)に回転させた時もしくは外輪120を逆転方向(図4において反時計方向)に回転させた時に内輪110及び外輪120と摩擦係合し、内輪110を逆転方向に回転させた時もしくは外輪120を正転方向に回転させた時に内輪110から離脱して非接触となる方向に傾倒するように構成されている。
従って、第2カム136bは、内輪110を逆転方向に回転させた時もしくは外輪120を正転方向に回転させた時に内輪110及び外輪120と摩擦係合し、内輪110を正転方向に回転させた時もしくは外輪120を逆転方向に回転させた時に内輪110から離脱して非接触となる方向に傾倒するように構成されたものとなる。
【0019】
本実施形態においては、第1カム136a及び第2カム136bは、例えば互いに同一の外形形状を有するものであって、第1カム136aを表裏反転させたものを第2カム136bとして用いている。以下においては、第1カム136a及び第2カム136bを特に区別して言及する場合を除いて、単にカム136と表現することもある。なお、第1カム136a及び第2カム136bは互いに異なる外形形状を有するものであってもよいが、互いに同一の外形形状を有するものであることにより、部品点数の削減を図ることが可能である。
【0020】
本実施形態におけるカム136は、図5(a)、(b)に示すように、回転中心に対し垂直な平面に沿って延びる両端面の各々に軸方向外方に突出するよう設けられた回動軸部137を有する。
カム136の内輪110に対する接触点に対し噛み合い解除方向側(図5(a)において時計方向側)において内輪側係合面に連続する側面部分には、切欠き部139aが形成されている。また、前記接触点に対し噛み合い方向側(図5(a)において反時計方向側)において内輪側係合面に連続する側面部分には、後述する第2付勢手段155を構成するねじりバネの連結部156bが係合可能に構成された段部139bが形成されている。
【0021】
ケージリング140は、図3に示すように、一対の円環板状部材141と、円環板状部材141の各々を軸方向に所定間隔を空けて連結するロッド状のスペーサ部材145とにより構成されている。
各々の円環板状部材141には、カム136の回動軸部137を回転可能に保持する保持孔142及び切り替え手段170におけるカム姿勢変更部171が挿通される挿通孔143が形成されている。
スペーサ部材145は、複数のカム対135の各々における第1カム136aと第2カム136bとの間に位置されるよう同一円周上において周方向に所定間隔で並ぶよう配置されている。
【0022】
本実施形態においては、第1付勢手段150は、板バネにより構成され、各々のカム136に対応して設けられている。具体的には、図5(a)にも示すように、第1付勢手段150は、カム136の切欠き部139aにおいて屈曲部が軸方向他端側に位置される姿勢で配置され、屈曲部に連続する一方の片状部が固定片としてカム136に固定されている。屈曲部に連続する他方の片状部は、可動片として構成され、切り替え手段170におけるカム姿勢変更部171に当接されるようになっている。
【0023】
また、第2付勢手段155は、ねじりバネにより構成され、各々のカム136に対応して設けられている。具体的には、ねじりバネは、図5(b)にも示すように、2つのコイル状の巻回部156aと、軸方向に直線状に延びるよう構成され各々の巻回部156aの一端同士を連結する連結部156bを有し、カム136の軸方向一端側及び他端側において巻回部156aが回動軸部137に外嵌装着されると共に連結部156bがカム136の段部139bに係合されて取り付けられている。各々の巻回部156aの他端は、図4に示すように、ケージリング140における円環板状部材141に形成された第2付勢手段支持部144に支持されている。このような構成であることにより、カム136が浮き上がった際に、内輪110との接触を回避することが可能となっている。
【0024】
切り替え手段170は、第1固定位置と、第1固定位置より軸方向一端側の第2固定位置との間で軸方向に移動可能に設けられている。
切り替え手段170は、図1及び図2に示すように、内輪110及び外輪120の間に配置され軸方向に延びるよう形成された複数の柱状のカム姿勢変更部171と、各々のカム姿勢変更部171の両端面の各々に固定された一対の円環板状の固定部材175とにより構成され、カム姿勢変更部171が隣接するカム対135間に位置されるようケージリング140の挿通孔143に対し軸方向に移動可能に挿通された状態で、配置されている。
【0025】
カム姿勢変更部171は、軸方向において断面形状が変化するよう構成されることで、第1付勢手段150及び第2付勢手段155のうち同一のカム136に対する付勢力の大きい一方の付勢手段による付勢力が他方の付勢手段による付勢力より相対的に小さくなるよう変更させることが可能に構成されている。
【0026】
本実施形態においては、カム姿勢変更部171は、切り替え手段170の軸方向への移動により第1付勢手段150のカム136に対する付勢力が変更可能に構成されている。具体的には、切り替え手段170を第1固定位置から軸方向一端側の第2固定位置に軸方向に移動させることで、第1付勢手段150を第2付勢手段155の付勢力より大きな付勢力で付勢可能な状態に変更させること、換言すれば、第2付勢手段155の付勢力を第1付勢手段150の付勢力より小さくなるよう変更させることが可能となるよう構成されている。
カム姿勢変更部171の構成について具体的に説明すると、カム姿勢変更部171は、図1及び図2に示すように、角柱状の付勢力付与部172と、付勢力付与部172の一端に連続する付勢力変更部173と、付勢力変更部173の一端に連続し付勢力付与部172より径方向寸法の小さい角柱状の付勢力開放部174を有する。付勢力変更部173は径方向内方側の面が軸方向一端側に向かうに従って径方向外方に傾斜して延びるよう形成されている。
【0027】
本実施形態に係るカムクラッチ100は、カム対135における第1カム136a及び第2カム136bのうちの一方のカムの回転を他方のカムに伝達して第1カム136a及び第2カム136bを連動して回転させるカム連動部材160を備える。
カム連動部材160は、図3にも示すように、ケージリング140における円環板状部材141と同一の外径寸法を有する円環状の基体部161を備え、基体部161の一方の端面に、周方向に延びるよう構成され軸方向に突出する爪部162が周方向に所定間間隔で形成されている。
カム連動部材160は、図4に示すように、爪部162が隣接するカム対135間に位置されるようにスペーサ部材145に対し外嵌されることで径方向への移動が規制された状態で、カム136の一端側及び他端側において基体部161の他方の端面がケージリング140における円環板状部材141の内面に対接されている。
【0028】
上記のカムクラッチ100においては、図6において破線で示すように、切り替え手段170が第1固定位置にある時には、図7に示すように、第1付勢手段150の可動片はカム姿勢変更部171の付勢力変更部173に接触し、第1付勢手段150の付勢力が第2付勢手段155の付勢力より小さい状態、もしくは、第1付勢手段150の付勢力が解除された状態となっている。このため、第1カム136a及び第2カム136bはいずれも、噛み合い解除方向に回転するよう付勢されることとなり、第1カム136a及び第2カム136bはいずれも、内輪110の外周面から離間した非接触状態となっている。従って、カムクラッチ100の動作モードは、正逆両方向において内輪110及び外輪120の相対的な回転動作を許容する両方向フリーモードとされる。
【0029】
図6において実線で示すように、切り替え手段170を第1固定位置から軸方向一端側の第2固定位置に移動させると、図8Aに示すように、カム姿勢変更部171が第1付勢手段150を圧縮方向に押圧する。これにより、第1付勢手段150の付勢力が第2付勢手段155の付勢力より大きくなって第1カム136a及び第2カム136bが噛み合い方向に回転するよう付勢される。このため、第1カム136a及び第2カム136bが内輪110及び外輪120に滑り接触し、第1カム136a及び第2カム136bのいずれか一方が直ちに内輪110及び外輪120に係合可能な噛み合い待機状態となる。従って、カムクラッチ100の動作モードは、正逆両方向において内輪110及び外輪120の相対的な回転動作を禁止する両方向ロックモードに切り替えられる。
【0030】
例えば、図8Bに示すように、内輪110を正転方向(図8Bにおいて時計方向)に回転させた時には、第1カム136aが内輪110及び外輪120と摩擦係合するよう噛み合い方向に回転する。第1カム136aが回転することでカム連動部材160の爪部162を周方向に押圧してカム連動部材160を回転させる。これにより、カム連動部材160の爪部162が第2カム136bを噛み合い解除方向に回転するよう押圧する。外輪120を逆転方向(図8において反時計方向)に回転させた時にも同様である。
一方、内輪110を逆転方向に回転させた時もしくは外輪120を正転方向に回転させた時には、第2カム136bが内輪110及び外輪120と摩擦係合するよう噛み合い方向に回転し、これに伴って、第1カム136aがカム連動部材160の作用により噛み合い解除方向に回転する。
【0031】
以上のように、上記のカムクラッチ100によれば、カム136を直接的に押圧して回転させるのではなく、同一のカム136に対して作用させる第1付勢手段150による噛み合い方向への付勢力と第2付勢手段155による噛み合い解除方向への付勢力の釣合状態を変更することで、動作モードを両方向フリーモードと両方向ロックモードとの間で切り替えを行うことが可能である。このため、動作モードの切り替えに必要とされる力は、第1付勢手段150を弾性的に変形させることが可能な程度の大きさでよく、簡単な構造で、動作モードの切り替えを小さな力で容易に行うことが可能である。また、動作モードの切り替えに際し内輪110及び外輪120の回転を停止させることなく、トルク伝達中であっても切り替え手段170の操作を容易に行うことが可能である。
特に、両方向ロックモードから両方向フリーモードへの切り替えに際しては、第1付勢手段150による付勢力を小さく変更することで、第2付勢手段155による付勢力によってカム136が噛み合い解除方向に回転して内輪110または外輪120から離間した状態となるので、切り替え手段170の操作をより小さな力で容易に行うことが可能である。
【0032】
また、第1カム136a及び第2カム136bのうちのいずれか一方のカムの噛み合い方向への回転に伴って他方のカムがカム連動部材160の作用によって噛み合い解除方向に回転させることができるので、一方のカムが内輪110及び外輪120に対して噛み合っている時に、他方のカムは内輪110または外輪120から離間した状態を維持することができる。このため、噛み込みの発生を確実に防止することが可能となる。
【0033】
上記の第1実施形態に係るカムクラッチ100においては、第1付勢手段150及び第2付勢手段155を複数のカム136の各々に対応して設けた構成について説明したが、第1付勢手段150は、第1カム136a及び第2カム136bを噛み合い方向に回転させるよう付勢可能な弾性体であればよく、また、第2付勢手段155は、第1カム136a及び第2カム136bを噛み合い解除方向に回転させるよう付勢可能な弾性体であればよい。例えば、第1付勢手段150及び第2付勢手段155のうちの少なくとも一方の付勢手段を第1カム136a及び第2カム136bに共通のものにより構成してもよい。
【0034】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態に係るカムクラッチは、第1実施形態に係るカムクラッチ100において第1付勢手段150として板バネに代えて第1カム136a及び第2カム136bに共通のガータースプリングを用いたことの他は、第1実施形態に係るカムクラッチ100と同様の構成を有する。
【0035】
図9に示すように、第1付勢手段150としてのガータースプリングは、第1カム136a及び第2カム136bの各々の外輪側係合面において周方向に延びるよう形成された装着溝138に装着されている。
【0036】
本実施形態における切り替え手段170のカム姿勢変更部171は、付勢力変更部173の径方向外方側の面が一端側に向かうに従って径方向内方に傾斜して延びるよう形成されている(図10B参照)。
【0037】
第2実施形態に係るカムクラッチにおいては、例えば、切り替え手段170が第1固定位置にある時には、図10Aに示すように、第1付勢手段150はカム姿勢変更部171の付勢力開放部174の径方向外方側の面に接触し、第1付勢手段150の付勢力が第2付勢手段155の付勢力より大きい状態となっている。このため、第1カム136a及び第2カム136bはいずれも、噛み合い方向に回転するよう付勢されることとなり、第1カム136a及び第2カム136bはいずれも、内輪110及び外輪120に滑り接触し、第1カム136a及び第2カム136bのいずれか一方が直ちに内輪110及び外輪120に係合可能な噛み合い待機状態となっている。従って、カムクラッチの動作モードは、正逆両方向において内輪110及び外輪120の相対的な回転動作を禁止する両方向ロックモードとされる。
【0038】
切り替え手段170を第1固定位置から軸方向一端側の第2固定位置に移動させると、図10Bに示すように、カム姿勢変更部171が第1付勢手段150を拡径方向に押圧する。これにより、第1付勢手段150の付勢力が第2付勢手段155の付勢力より小さい状態、もしくは、第1付勢手段150の付勢力が解除された状態となり、第1カム136a及び第2カム136bはいずれも噛み合い解除方向に回転するよう付勢された状態となる。このため、第1カム136a及び第2カム136bが内輪110の外周面から離間した非接触状態となり、従って、カムクラッチ100の動作モードが、正逆両方向において内輪110及び外輪120の相対的な回転動作を許容する両方向フリーモードに切り替えられる。
【0039】
[第3実施形態]
本発明の第3実施形態に係るカムクラッチは、第1実施形態に係るカムクラッチ100において第2付勢手段155としてねじりバネに代えて第1カム136a及び第2カム136bに共通のリボン状板バネを用いたことの他は、第1実施形態に係るカムクラッチ100と同様の構成を有する。
【0040】
図11に示すように、第2付勢手段155としてのリボン状板バネは、周方向に互いに平行に延在する一対の円環部157と、円環部157を所定間隔で軸方向に連結する複数の連結部158とからなり、連結部158がカム対135を構成する第1カム136aと第2カム136bとの間に位置されるよう、配置される。
連結部158は、径方向外方に向けて凸となるよう形成され第1カム136aを噛み合い解除方向に回転させるよう付勢する第1板バネ部159aと、径方向外方に向けて凸となるよう形成され第2カム136bを噛み合い解除方向に回転させるよう付勢する第2板バネ部159bを有する。
【0041】
第3実施形態に係るカムクラッチにおいては、例えば、切り替え手段170が第1固定位置にある時には、図12Aに示すように、第1付勢手段150の可動片はカム姿勢変更部171の付勢力変更部173に接触し、第1付勢手段150の付勢力が第2付勢手段155の付勢力より小さい状態、もしくは、第1付勢手段150の付勢力が解除された状態となっている。このため、第1カム136a及び第2カム136bはいずれも、噛み合い解除方向に回転するよう付勢されることとなり、第1カム136a及び第2カム136bはいずれも、内輪110の外周面から離間した非接触状態となっている。従って、カムクラッチ100の動作モードは、正逆両方向において内輪110及び外輪120の相対的な回転動作を許容する両方向フリーモードとされる。
【0042】
切り替え手段170を第1固定位置から軸方向一端側の第2固定位置に移動させると、図12Bに示すように、カム姿勢変更部171が第1付勢手段150を圧縮方向に押圧する。これにより、第1付勢手段150の付勢力が第2付勢手段155の付勢力より大きく、すなわち第2付勢手段155の付勢力が第1付勢手段150の付勢力に対し相対的に小さくなって第1カム136a及び第2カム136bが噛み合い方向に回転するよう付勢される。このため、第1カム136a及び第2カム136bが内輪110及び外輪120に滑り接触し、第1カム136a及び第2カム136bのいずれか一方が直ちに内輪110及び外輪120に係合可能な噛み合い待機状態となる。従って、カムクラッチ100の動作モードは、正逆両方向において内輪110及び外輪120の相対的な回転動作を禁止する両方向ロックモードに切り替えられる。
【0043】
上記の第2実施形態及び第3実施形態においては、第1付勢手段150及び第2付勢手段155のうちのいずれか一方が複数のカム136の各々に共通の付勢手段により構成したものについて説明したが、第1付勢手段及び第2付勢手段の両方を複数のカム136の各々に共通の付勢手段により構成してもよい。第1付勢手段及び第2付勢手段の少なくとも一方が複数のカム136の各々に共通のものであることにより、部品点数を削減することが可能となると共にカム136の挙動にバラツキが生ずることを回避することが可能となる。
【0044】
以上においては、本発明を二方向クラッチに適用した場合について説明したが、本発明は、動作モードが、正逆いずれか一方向において内輪及び外輪の相対的な回転動作を禁止する正転方向ロックモード及び/または逆転方向ロックモードを含む4つの動作モードの間で、切り替え可能とされたセレクタブルクラッチに適用してもよい。
【0045】
[第4実施形態]
本発明の第4実施形態に係るカムクラッチは、図13に示すように、第1カム136aに対する第1付勢手段150及び第2付勢手段155のうちの一方の付勢手段の付勢力を変更させる第1切り替え手段170aと、第2カム136bに対する第1付勢手段150及び第2付勢手段155のうちの一方の付勢手段の付勢力を変更させる第2切り替え手段170bを有することの他は、第1実施形態に係るカムクラッチ100と同様の構成を有する。
【0046】
第1切り替え手段170a及び第2切り替え手段170bは、第1固定位置と、第1固定位置より軸方向一端側の第2固定位置との間で、互いに独立して軸方向に移動可能に設けられている。
【0047】
第1切り替え手段170aは、内輪110及び外輪120の間に配置され軸方向に延びるよう形成された複数の柱状の第1カム姿勢変更部171aと、各々の第1カム姿勢変更部171aの両端面の各々に固定された一対の略円環板状の第1固定部材175aとにより構成されている。
第1固定部材175aは、円環板部176aと、円環板部176aの内周縁から径方向内方に突出するよう形成された複数の内方突出片部176bを有する。内方突出片部176bは、周方向に所定間隔で並ぶよう形成されており、各内方突出片部176bに第1カム姿勢変更部171aが同一円周上に並ぶよう固定されている。
第1カム姿勢変更部171aは、上記第1実施形態に係るカムクラッチ100におけるカム姿勢変更部171と同様の構成を有する。すなわち、本実施形態においては、第1カム姿勢変更部171aは、第1切り替え手段170aの軸方向への移動により第1付勢手段150を第2付勢手段155の付勢力より大きな付勢力で第1カム136aを付勢可能な状態に変更、換言すれば、第2付勢手段155の付勢力を第1付勢手段150の付勢力より小さくなるよう変更させることが可能となるよう構成される。第1カム姿勢変更部171aは、隣接するカム対135間に位置されるようケージリング140の挿通孔143に対し軸方向に移動可能に挿通された状態で、配置されている。
【0048】
第2切り替え手段170bは、内輪110及び外輪120の間に配置され軸方向に延びるよう形成された複数の柱状の第2カム姿勢変更部171bと、各々の第2カム姿勢変更部171bの両端面の各々に固定された一対の略円環板状の第2固定部材175bとにより構成されている。
第2固定部材175bは、第1固定部材175aの径方向内方側に組み込み可能な外径寸法を有する円環板部177aと、第1固定部材175aの内方突出片部176b間に隙間を介して組み込み可能となうように円環板部177aの外周縁から径方向外方に突出するよう形成された複数の外方突出片部177bを有する。外方突出片部177bは、周方向に所定間隔で並ぶよう形成され、各外方突出片部177bに第2カム姿勢変更部171bが第1カム姿勢変更部171aと同一円周上に並ぶよう固定されている。
本実施形態においては、第2カム姿勢変更部171bは、第1カム姿勢変更部171aと同様に、第2切り替え手段170bの軸方向への移動により第1付勢手段150を第2付勢手段155の付勢力より大きな付勢力で第2カム136bを付勢可能な状態に変更、換言すれば、第2付勢手段155の付勢力を第1付勢手段150の付勢力より小さくなるよう変更させることが可能となるよう構成される。第2カム姿勢変更部171bは、隣接するカム対135間に位置されるようケージリング140の挿通孔143に対し軸方向に移動可能に挿通された状態で、配置されている。
【0049】
第4実施形態に係るカムクラッチにおいては、図14Aに示すように、第1切り替え手段170a及び第2切り替え手段170bが共に第1固定位置にある時には、図14Bに示すように、第1カム136aに対する第1付勢手段150の可動片及び第2カム136bに対する第1付勢手段150の可動片はそれぞれ第1カム姿勢変更部171aの付勢力変更部173及び第2カム姿勢変更部171bの付勢力変更部173に接触し、第1付勢手段150の付勢力が第2付勢手段155の付勢力より小さい状態、もしくは、第1付勢手段150の付勢力が解除された状態となっている。このため、第1カム136a及び第2カム136bはいずれも、噛み合い解除方向に回転するよう付勢されることとなり、第1カム136a及び第2カム136bはいずれも、内輪110の外周面から離間した非接触状態となっている。従って、カムクラッチの動作モードは、正逆両方向において内輪110及び外輪120の相対的な回転動作を許容する両方向フリーモードとされる。
【0050】
図15Aに示すように、第1切り替え手段170aのみを第1固定位置から軸方向一端側の第2固定位置に移動させると、図15Bに示すように、第1カム姿勢変更部171aが第1カム136aに対する第1付勢手段150を圧縮方向に押圧する。これにより、第1付勢手段150の付勢力が第2付勢手段155の付勢力より大きく、すなわち第2付勢手段155の付勢力が第1付勢手段150の付勢力に対し相対的に小さくなって第1カム136aが噛み合い方向に回転するよう付勢される。このため、第1カム136aが内輪110及び外輪120に滑り接触し、内輪110を正転方向(図15Bにおいて時計方向)に回転させた時もしくは外輪120を逆転方向(図15Bにおいて反時計方向)に回転させた時に第1カム136aが直ちに内輪110及び外輪120に係合可能な噛み合い待機状態となる。従って、カムクラッチの動作モードは、正転方向において内輪110及び外輪120の相対的な回転動作を禁止する正転方向ロックモードに切り替えられる。
【0051】
一方、図16Aに示すように、第2切り替え手段170bのみを第1固定位置から軸方向一端側の第2固定位置に移動させると、図16Bに示すように、第2カム姿勢変更部171bが第2カム136bに対する第1付勢手段150を圧縮方向に押圧する。これにより、第1付勢手段150の付勢力が第2付勢手段155の付勢力より大きく、すなわち第2付勢手段155の付勢力が第1付勢手段150の付勢力に対し相対的に小さくなって第2カム136bが噛み合い方向に回転するよう付勢される。このため、第2カム136bが内輪110及び外輪120に滑り接触し、内輪110を逆転方向(図16Bにおいて反時計方向)に回転させた時もしくは外輪120を正転方向(図16Bにおいて時計方向)に回転させた時に第2カム136bが直ちに内輪110及び外輪120に係合可能な噛み合い待機状態となる。従って、カムクラッチの動作モードは、逆転方向において内輪110及び外輪120の相対的な回転動作を禁止する逆転方向ロックモードに切り替えられる。
【0052】
また、図17Aに示すように、第1切り替え手段170a及び第2切り替え手段170bを共に第1固定位置から軸方向一端側の第2固定位置に移動させると、図17Bに示すように、第1付勢手段150の付勢力が第2付勢手段155の付勢力より大きく、すなわち第2付勢手段155の付勢力が第1付勢手段150の付勢力に対し相対的に小さくなって第1カム136a及び第2カム136bが噛み合い方向に回転するよう付勢される。このため、第1カム136a及び第2カム136bが内輪110及び外輪120に滑り接触し、第1カム136a及び第2カム136bのいずれか一方が直ちに内輪110及び外輪120に係合可能な噛み合い待機状態となる。従って、カムクラッチの動作モードは、正逆両方向において内輪110及び外輪120の相対的な回転動作を禁止する両方向ロックモードに切り替えられる。
【0053】
以上のように、上記のカムクラッチによれば、第1カム136aと第2カム136bのいずれか一方または両方を選択的に回転させることで、正転方向及び逆転方向の両方向にトルク伝達可能な両方向ロックモード、正転方向にのみトルク伝達可能な正転方向ロックモード、逆転方向にのみトルク伝達可能な逆転方向ロックモードおよび正転方向及び逆転方向の両方向に空転する両方向フリーモードの4つの動作モードの切り替えを行うことが可能である。
【0054】
[第5実施形態]
本発明の第5実施形態に係るカムクラッチは、図18に示すように、第1カム機構131a及び第2カム機構131bを備え、第1カム機構131aによって内輪及び外輪との間でトルク伝達を行う両方向ロックモード、第2カム機構131bによって内輪及び外輪との間でトルク伝達を行う両方向ロックモード及び正逆両方向においてトルク伝達を遮断する両方向フリーモードとの間で、動作モードが切り替え可能に構成されている。
【0055】
本実施形態のカムクラッチにおいては、互いに同一の構成を有する第1内輪110a及び第2内輪110bが軸方向に並設され、外輪120が第1内輪110a及び第2内輪110bと同軸に相対回転可能に配置されている。第1カム機構131aは、第1内輪110aと外輪120との間に配置され、第2カム機構131bが第2内輪110bと外輪120との間に配置されている。
図示してはいないが、互いに同一の構成を有する第1外輪及び第2外輪を軸方向に並設すると共に内輪を第1外輪及び第2外輪と同軸に相対回転可能に配置し、第1カム機構及び第2カム機構をそれぞれ内輪と第1外輪との間及び内輪と第2外輪との間に配置した構成としてもよい。
【0056】
第1カム機構131a及び第2カム機構131bは、第1実施形態に係るカムクラッチ100におけるカム機構130と同一の構成を有し、図19Aに示すように、第1カム機構131a及び第2カム機構131bは、第1付勢手段150としての板バネが軸方向外方側に向かって凸となる姿勢で、配置されている。
【0057】
本実施形態における切り替え手段170のカム姿勢変更部171は、一端側付勢力付与部172aと、一端側付勢力付与部172aの軸方向他端に連続する第1付勢力変更部173aと、第1付勢力変更部173aの軸方向他端に連続する付勢力開放部174と、付勢力開放部174の軸方向他端に連続する第2付勢力変更部173bと、第2付勢力変更部173bの軸方向他端に連続する他端側付勢力付与部172bを有する。一端側付勢力付与部172a及び他端側付勢力付与部172bは、角柱状であって、互いに同一の径方向寸法を有する。付勢力開放部174は、角柱状であって、一端側付勢力付与部172a及び他端側付勢力付与部172bより径方向寸法が小さく構成されている。第1付勢力変更部173aは、径方向内方側の面が軸方向他端側に向かって径方向外方に傾斜して延びるよう構成されている。第2付勢力変更部173bは、径方向内方側の面が軸方向他端側に向かって径方向内方に傾斜して延びるよう構成されている。図19Aにおける符号178は、カム姿勢変更部171を軸方向一端側の固定部材175に固定するための円柱状の延設部である。
【0058】
第5実施形態に係るカムクラッチにおいては、例えば、切り替え手段170が第1固定位置にある時には、図19Aに示すように、第1カム機構131aにおける第1付勢手段150がカム姿勢変更部171の一端側付勢力付与部172aの外面に接触しており、第1付勢手段150の付勢力が第2付勢手段155の付勢力より大きい状態となっている。このため、第1カム機構131aにおける第1カム136a及び第2カム136bはいずれも、噛み合い方向に回転するよう付勢されることとなり、第1カム136a及び第2カム136bはいずれも、第1内輪110a及び外輪120に滑り接触し、第1カム136a及び第2カム136bのいずれか一方が直ちに第1内輪110a及び外輪120に係合可能な噛み合い待機状態となっている。
一方、第2カム機構131bにおける第1付勢手段150は、カム姿勢変更部171に接触しておらず、第1付勢手段150の付勢力が解除された状態となっている。このため、第2カム機構131bにおける第1カム136a及び第2カム136bはいずれも噛み合い解除方向に回転するよう付勢され、第1カム136a及び第2カム136bが第2内輪110bの外周面から離間した非接触状態となっている。
従って、カムクラッチの動作モードは、正逆両方向において第1内輪110a及び外輪120の相対的な回転動作を禁止する両方向ロックモードとされる。
【0059】
切り替え手段170を第1固定位置から軸方向一端側の第2固定位置に移動させると、図19Bに示すように、第1カム機構131a及び第2カム機構131bにおけるすべての第1付勢手段150が、カム姿勢変更部171に非接触となり、第1付勢手段150の付勢力が解除された状態となる。このため、第1カム機構131a及び第2カム機構131bの各々における第1カム136a及び第2カム136bはいずれも噛み合い解除方向に回転するよう付勢され、第1カム136a及び第2カム136bが第1内輪110a及び第2内輪110bの外周面から離間した非接触状態となる。
従って、カムクラッチの動作モードが、正逆両方向において第1内輪110aと外輪120との間の相対的な回転動作及び第2内輪110bと外輪120との間の相対的な回転動作を許容する両方向フリーモードに切り替えられる。
【0060】
切り替え手段170を第1固定位置から第2固定位置よりさらに軸方向一端側の第3固定位置に移動させると、図19Cに示すように、第1カム機構131aにおける第1付勢手段150は、カム姿勢変更部171に非接触となり、第1付勢手段150の付勢力が解除された状態となる。このため、第1カム機構131aにおける第1カム136a及び第2カム136bはいずれも噛み合い解除方向に回転するよう付勢され、第1カム136a及び第2カム136bが第1内輪110aの外周面から離間した非接触状態となる。
一方、第2カム機構131bにおける第1付勢手段150がカム姿勢変更部171の他端側付勢力付与部172bの外面に接触し、第1付勢手段150の付勢力が第2付勢手段155の付勢力より大きい状態、すなわち第2付勢手段155の付勢力が第1付勢手段150の付勢力に対し相対的に小さくなる状態となる。このため、第2カム機構131bにおける第1カム136a及び第2カム136bはいずれも、噛み合い方向に回転するよう付勢されることとなり、第1カム136a及び第2カム136bはいずれも、第2内輪110b及び外輪120に滑り接触し、第1カム136a及び第2カム136bのいずれか一方が直ちに第2内輪110b及び外輪120に係合可能な噛み合い待機状態となる。
従って、カムクラッチの動作モードは、正逆両方向において第2内輪110b及び外輪120の相対的な回転動作を禁止する両方向ロックモードに切り替えられる。
【0061】
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行なうことが可能である。
例えば、上記各実施形態に係るカムクラッチにおいては、噛み合い方向の異なる第1カム及び第2カムの2種のカムを備えた構成について説明したが、図20に示すように、1種のカム136のみを備えた構成であってもよい。このカムクラッチにおいては、例えば、切り替え手段170が第1固定位置にある時に、第1付勢手段150の付勢力が第2付勢手段155の付勢力より小さい状態、もしくは、第1付勢手段150の付勢力が解除された状態となっており、カム136が内輪110の外周面から離間した非接触状態となっている。切り替え手段170を第1固定位置から軸方向一端側の第2固定位置に移動させると、第1付勢手段150の付勢力が第2付勢手段155の付勢力より大きく、換言すれば第2付勢手段155の付勢力が第1付勢手段150の付勢力に対し相対的に小さくなる。このため、カム136が直ちに内輪110及び外輪120に係合可能な噛み合い待機状態となる。このように、本発明を一方向クラッチに適用することで、両方向フリーモードを実現可能なセレクタブルクラッチとして機能させることが可能である。
図示した実施例においては、連動部材を備えていない構成とされているが、すべてのカムの回転動作を連動させる連動部材を備えた構成としてもよく、このような構成によれば、複数のカムの各々の回転動作にバラツキが生ずることがなく、安定した動作を実現することが可能となる。
【符号の説明】
【0062】
100 ・・・ カムクラッチ
110 ・・・ 内輪
110a ・・・ 第1内輪
110b ・・・ 第2内輪
120 ・・・ 外輪
130 ・・・ カム機構
131a ・・・ 第1カム機構
131b ・・・ 第2カム機構
135 ・・・ カム対
136 ・・・ カム
136a ・・・ 第1カム
136b ・・・ 第2カム
137 ・・・ 回動軸部
138 ・・・ 装着溝
139a ・・・ 切欠き部
139b ・・・ 段部
140 ・・・ ケージリング
141 ・・・ 円環板状部材
142 ・・・ 保持孔
143 ・・・ 挿通孔
144 ・・・ 第2付勢手段支持部
145 ・・・ スペーサ部材
150 ・・・ 第1付勢手段
155 ・・・ 第2付勢手段
156a ・・・ 巻回部
156b ・・・ 連結部
157 ・・・ 円環部
158 ・・・ 連結部
159a ・・・ 第1板バネ部
159b ・・・ 第2板バネ部
160 ・・・ カム連動部材
161 ・・・ 基体部
162 ・・・ 爪部
170 ・・・ 切り替え手段
170a ・・・ 第1切り替え手段
170b ・・・ 第2切り替え手段
171 ・・・ カム姿勢変更部
171a ・・・ 第1カム姿勢変更部
171b ・・・ 第2カム姿勢変更部
172 ・・・ 付勢力付与部
172a ・・・ 一端側付勢力付与部
172b ・・・ 他端側付勢力付与部
173 ・・・ 付勢力変更部
173a ・・・ 第1付勢力変更部
173b ・・・ 第2付勢力変更部
174 ・・・ 付勢力開放部
175 ・・・ 固定部材
175a ・・・ 第1固定部材
175b ・・・ 第2固定部材
176a ・・・ 円環板部
176b ・・・ 内方突出片部
177a ・・・ 円環板部
177b ・・・ 外方突出片部
178 ・・・ 延設部

【要約】
【課題】簡単な構造で、動作モードの切り替えを小さな力で容易に行うことが可能なカムクラッチを提供すること。
【解決手段】同軸に相対回転可能に配置された内輪110及び外輪120の間に配置された複数のカム136を噛み合い方向に回転させるように付勢する第1付勢手段150と第1付勢手段150による付勢力と異なる大きさの付勢力で噛み合い解除方向に回転させるように付勢する第2付勢手段155を備え、切り替え手段170によって、第1付勢手段150及び第2付勢手段155のうち同一のカムに対する付勢力の大きい一方の付勢手段による付勢力を他方の付勢手段による付勢力より相対的に小さく変更することで、動作モードが切り替え可能に構成される。
【選択図】図4

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10A
図10B
図11
図12A
図12B
図13
図14A
図14B
図15A
図15B
図16A
図16B
図17A
図17B
図18
図19A
図19B
図19C
図20